(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
屋外と屋内とを隔てる窓材であって、該窓材は透明基板上に誘電体層とAgを主成分とする金属層とが、第1誘電体層、第1金属層、第2誘電体層、第2金属層、第3誘電体層の順で積層された積層体を有する低放射膜が形成され、屋外と透明基板面で接する低放射透明基板を有し、該積層体は、
第1誘電体層の光学膜厚が60〜110nm、
第1金属層の物理膜厚が7.0〜9.5nm、
第2誘電体層の光学膜厚が190〜250nm、
第2金属層の物理膜厚が16.5〜19.5nm、
第3誘電体層の光学膜厚が50〜100nm、
該第1及び第2金属層の物理膜厚の合計値が23.5〜29nm、
該第1、第3、及び第5誘電体層の光学膜厚の合計値が330〜430nmの範囲内となるものであり、
該低放射透明基板の光学特性は、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した日射透過率が33%を超えず、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した透明基板面の可視光反射率が28%を超えず、
屋外と接する屋外面の反射色調が、無彩色を呈するか、又はCIE L*a*b*色度座標図において((a*)2+(b*)2)1/2で表される彩度が20以下の青色の反射色調を呈することを特徴とする低放射窓材。
前記低放射透明基板は、JIS Z8729(2004)に準拠して算出した透明基板面の反射色調が、CIE L*a*b*色度座標図において、a*≧b*、a*が−10〜0及びb*が−20〜0の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の低放射窓材。
屋外側から、前記低放射透明基板、中空層、及び透明基板がこの順で配置され、該低放射透明基板の透明基板面が屋外と接することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の低放射窓材。
屋外と屋内とを隔てる窓材であって、該窓材は透明基板上に誘電体層とAgを主成分とする金属層とが、第1誘電体層、第1金属層、第2誘電体層、第2金属層、第3誘電体層の順で積層された積層体を有する低放射膜が形成され、屋内と透明基板面で接する低放射透明基板を有し、該低放射透明基板と屋外との間に透明基板を有するものであり、該積層体は、
第1誘電体層の光学膜厚が60〜110nm、
第1金属層の物理膜厚が7.0〜9.5nm、
第2誘電体層の光学膜厚が190〜250nm、
第2金属層の物理膜厚が16.5〜19.5nm、
第3誘電体層の光学膜厚が50〜100nm、
該第1及び第2金属層の物理膜厚の合計値が23.5〜29nm、
該第1、第3、及び第5誘電体層の光学膜厚の合計値が330〜430nmの範囲内となるものであり、
該低放射透明基板の光学特性は、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した日射透過率が33%を超えず、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した膜面の可視光反射率が28%を超えず、
屋外と接する屋外面の反射色調が、無彩色を呈するか、又はCIE L*a*b*色度座標図において((a*)2+(b*)2)1/2で表される彩度が20以下の青色の反射色調を呈することを特徴とする低放射窓材。
屋外側から、透明基板、中空層、及び前記低放射透明基板がこの順で配置され、該低放射透明基板の膜面が該中空層と接することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の低放射窓材。
【背景技術】
【0002】
2枚のガラス基板の間に中空層を形成するように積層した複層ガラス等の窓材において、近年、冷暖房効率の向上を目的にガラス基板の中空層側に低放射性の積層膜を配設した、低放射ガラスを使用した窓材が普及しつつある。この低放射ガラスは、室内に可視光を取り入れ、窓ガラスに要求される採光性(透明性)を満たす一方で、前記の低放射膜が近赤外から赤外域の光を反射する遮熱性を有するため、太陽光による室内の温度上昇を抑制できる。また、室内から室外への熱の伝達を遮断するため、室内を保温、断熱する能力も高い。
【0003】
建築用の窓材として、適度な採光性と遮熱性を有する低放射ガラスを用いたものが提案されている。低放射ガラスの採光性と遮熱性は相反する傾向にあり、遮熱性を高めると採光性が低下してしまうため、所望の性能に応じて採光性を重要視したタイプと遮熱性を重要視したタイプの2種類が検討されている。低放射ガラスは通常複層ガラスとして用いられるが、該低放射ガラスの採光性や遮熱性を簡易に評価する場合、低放射ガラス単板で測定した際の可視光透過率を採光性、日射透過率を遮熱性の評価基準としてそれぞれ用いることが可能である。
【0004】
上記の採光性を重要視したタイプは、可視光透過率を70%以上としたものが多く、例えば本出願人は特許文献1において、Agを主成分とする金属層である第2層と第4層の幾何学厚さの総和が22〜29nm、第2層の幾何学厚さが第4層の幾何学厚さの0.3〜0.8倍であり、誘電体層である第1、3、5層の光学厚さの総和が220〜380nm、第3層の光学厚さが140〜200nm、第1層の光学厚さが第5層の光学厚さの0.4〜1.5倍として、近赤外域の反射率の向上がなされた窓用ガラス積層体を開示している。当該窓用ガラス積層体は、その実施例において可視光透過率が70%以上、日射透過率が33〜40%程度である。
【0005】
また、例えばオフィスビル等は日光や隣接建築物からの反射光が眩しいため、グレア感(眩しさ)の低減を目的として、可視光透過率を上記の70%より低く抑えた窓材への需要もあり、このような窓材としては前述した遮熱性を重要視したタイプの低放射ガラスが使用される。遮熱性を重要視したタイプとしては、可視光透過率は70%未満で、日射透過率が40%以下となるような低放射ガラスを複層ガラスに組み込み、該複層ガラスの日射熱取得率が0.40以下を示す複層ガラスが検討されている。
【0006】
例えば特許文献2には、透明板上に日射光をある程度吸収する吸収層を設け、その上層に前述したようなAgを主成分とする層と透明誘電体層とを含む積層膜を形成した日射遮蔽性透光板が開示されている。実施例において、当該日射遮蔽性透光板の単板での日射透過率は21〜35%以下であり、複層ガラスにした時の日射熱取得率は0.29〜0.40である。
【0007】
また、特許文献3には、透明ガラス板上の一方の板面に、該ガラス板側から順に、第1の誘電体膜、第1のAgを主成分とする膜、第2の誘電体膜、第2のAgを主成分とする膜及び第3の誘電体膜が積層形成されている日射遮蔽ガラスにおいて、第1及び第2のAgを主成分とする膜の膜厚の和が25〜35nmで、第1のAgを主成分とする膜の膜厚が第2のAgを主成分とする膜の膜厚の30%以上50%未満とする日射遮蔽ガラスが開示されている。実施例において、当該日射遮蔽ガラスの単板での日射透過率は27〜36%であり、複層ガラスにした時の日射熱取得率は0.31〜0.38である。
【0008】
オフィスビル等の高層ビルディング用の窓ガラスとしては斜め下から見た時の外観が赤色や紫色でなく、中性色又は青色となる外観が好まれる。例えば、特許文献4には、透明基体上に3層の透明誘電体層と2層のAg層とが前記透明誘電体層間に前記Ag層が介在するように交互に積層されてなる積層体であって、前記透明基体側から順に第1のAg層、第2のAg層としたとき、前記第1のAg層に対する前記第2のAg層の物理的膜厚の比が1.05以上、かつ前記積層体の可視光透過率が50%以下である積層体が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、建築用の窓材は省エネルギー化への要求が高まっており、優れた遮熱性を有する低放射ガラスが求められつつある。また、一方で建築用の窓材は、建物のデザイン性や美観にとって重要であり、特に高層ビルの窓ガラスは屋外の斜め下方から該窓材を人が見た時に、反射光のギラつきがなく反射色調が無彩色〜青色であるといった外観に及ぼす光学特性(以下、「外観品質」という)が良好である低放射ガラスへの要求は高い。
【0011】
低放射ガラスの遮熱性を向上させる為には一般的に低放射膜の金属層の厚みを増加させるが、一方で金属層の厚みが増加すると可視光反射率が高くなり、室内側への可視光透過率は低くなる。そのため、屋外から該低放射ガラスを見た時、反射光の反射色調の色味がより強く視認されることから外観品質が損なわれ易くなり、透明性も悪くなる。
【0012】
従って、本発明では、従来品にない外観品質を呈するとともに、透明性を損なうことなく、優れた遮熱性を有する窓材を得ることを目的とした。また、本発明は、日射が及ぼす外観品質が特に問題となるオフィスビル等のビルディング用として好まれる無彩色〜青色の反射色調を有する低放射窓材を得る事を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、低放射膜についての研究開発を鋭意進めたところ、Ag2層系の低放射膜を使用して従来品にない外観品質を呈するとともに、透明性を損なうことなく、優れた遮熱性を有する窓材を実現することができ、この窓材は、反射色調が無彩色〜青色であり、環境上好ましい窓材を提供できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の第1の形態は、屋外と屋内とを隔てる窓材であって、該窓材は透明基板上に誘電体層とAgを主成分とする金属層とが、第1誘電体層、第1金属層、第2誘電体層、第2金属層、第3誘電体層の順で積層された積層体を有する低放射膜が形成され、屋外と透明基板面で接する低放射透明基板を有し、該積層体は、
第1誘電体層の光学膜厚が60〜110nm、
第1金属層の物理膜厚が7.0〜9.5nm、
第2誘電体層の光学膜厚が190〜250nm、
第2金属層の物理膜厚が16.5〜19.5nm、
第3誘電体層の光学膜厚が50〜100nm、
該第1及び第2金属層の物理膜厚の合計値が23.5〜29nm、
該第1、第3、及び第5誘電体層の光学膜厚の合計値が330〜430nmの範囲内となるものであり、
該低放射透明基板の光学特性は、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した日射透過率が33%を超えず、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した透明基板面の可視光反射率が28%を超えず、
屋外と接する屋外面の反射色調が、無彩色を呈するか、又はCIE L*a*b*色度座標図において((a*)
2+(b*)
2)
1/2で表される彩度が20以下の青色の反射色調を呈することを特徴とする低放射窓材である。
【0015】
また、本発明の第2の形態は、屋外と屋内とを隔てる窓材であって、該窓材は透明基板上に誘電体層とAgを主成分とする金属層とが、第1誘電体層、第1金属層、第2誘電体層、第2金属層、第3誘電体層の順で積層された積層体を有する低放射膜が形成され、屋内と透明基板面で接する低放射透明基板を有し、該低放射透明基板と屋外との間に透明基板を有するものであり、該積層体は、
第1誘電体層の光学膜厚が60〜110nm、
第1金属層の物理膜厚が7.0〜9.5nm、
第2誘電体層の光学膜厚が190〜250nm、
第2金属層の物理膜厚が16.5〜19.5nm、
第3誘電体層の光学膜厚が50〜100nm、
該第1及び第2金属層の物理膜厚の合計値が23.5〜29nm、
該第1、第3、及び第5誘電体層の光学膜厚の合計値が330〜430nmの範囲内となるものであり、
該低放射透明基板の光学特性は、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した日射透過率が33%を超えず、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した膜面の可視光反射率が28%を超えず、
屋外と接する屋外面の反射色調が、無彩色を呈するか、又はCIE L*a*b*色度座標図において((a*)
2+(b*)
2)
1/2で表される彩度が20以下の青色の反射色調を呈することを特徴とする低放射窓材である。
【0016】
本発明は、低放射透明基板についてJIS R3106(1998)に準拠して算出した日射透過率が33%を超えないことを目的とした。前述したように、透明基板としてガラス板を用いた場合、該ガラス板は複層ガラスとして使用されることがあるが、通常、複層ガラスの遮熱性は日射熱取得率で評価される。しかし、複層ガラスの日射熱取得率は、ガラス板や中空層の厚み、中空層のガスの種類によって変化するため、ガラス板単板でも評価可能な遮熱性を表す数値として日射透過率を用いた。また、日射透過率を用いる場合、ガラス板以外の透明基板であっても評価可能である。ガラス板単板の日射透過率33%以下は、おおむね複層ガラスの日射熱取得率0.35以下に相当する。
【0017】
本発明においては、低放射透明基板の各光学・熱特性を自記分光光度計(日立製作所製、U−4000)及びフーリエ変換赤外反射分光光度計(パーキンエルマー製、Paragon1000)を用いて測定した。また、後述する反射色調についても、同様に自記分光光度計(日立製作所製、U−4000)を用いて測定を行った。
【0018】
本発明について、外観に及ぼす光学特性を言う「外観品質」とは、視認可能な反射光の色調とギラ付きの有無を指し、「外観品質が良好」とは、屋外から見た時に上記の反射光の色調が、目的とする無彩色〜青色の範囲内であり、かつ該反射光にギラつきが生じない事を指すものとする。
【0019】
また、「無彩色」とは、屋外から見た時の反射色調が視認可能な赤、緑、黄、青等の色味を呈さない色調を指すものとする。また、CIE L*a*b*色度座標図において((a*)
2+(b*)
2)
1/2で表される彩度は0に近い程上記の無彩色に近く、値が高くなるに従って色味が強い色を呈するようになる。建築用の窓ガラスとして用いる場合、色味が過度に強いと建物のデザイン性や美観を損なったり、視覚的な刺激が強くなったりすることがあり、色味の強い反射色調は避けられる傾向にある。従って、本発明では彩度を20以下とした。
【0020】
また、本発明はJIS R3106(1998)に準拠して算出した透明基板面、又は膜面の可視光反射率が28%を超えないことを目的とした。前述したように可視光の反射率が高いとギラつきにより外観品質を損ない易くなる為、可視光反射率は出来るだけ低くする事が好ましい。本発明の場合、該可視光反射率が28%を超えるとギラつきが強く視認される傾向にあることがわかった。
【0021】
また、本発明の第1の形態は、屋外側から見た時の反射色調を無彩色〜青色とするために、JIS Z8729(2004)に準拠して算出した透明基板面の反射色調を、CIE L*a*b*色度座標図において、a*≧b*、a*が−10〜0及びb*が−20〜0の範囲内とするのが好ましい。上記の反射色調は0に近い程無彩色に近く、a*の値がマイナスに大きい程緑色の反射色調が、b*の値がマイナス方向に大きい程青色の反射色調がそれぞれ強く視認されるようになる。
【0022】
また、本発明の第2の形態は、屋外側から見た時の反射色調を無彩色〜青色とするために、JIS Z8729(2004)に準拠して算出した膜面の反射色調が、CIE L*a*b*色度座標図において、a*が−5〜5及びb*が−10〜5の範囲内とすることが好ましい。当該第2の形態は該低放射透明基板と屋外との間に透明基板が介在するため、膜面の反射色調を直接測定した値と、窓材とした際に値とでは差異が生じる。単板における膜面の反射色調を上記の範囲内とすると、屋外から見た時の反射色調を無彩色〜青色とすることが可能である。
【0023】
前記金属層はAgを主成分とする層であり、Ag膜、又はAgを主成分とするAg合金膜であり、Ag合金としては、パラジウム、金、白金、ニッケル、銅などの金属をそれぞれ5質量%以下の範囲内で含んでいてもよい。ここで、「主成分」はAgを90質量%以上含むものを指す。
【0024】
前記誘電体層は低放射膜の反射色調を調整し、特に金属層の上層の誘電体層は、該金属層の保護層の役割を果たす層であり、Zn、Sn、Al、Ti、Si、及びInからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属を含む酸化物、窒化物、又は酸窒化物の透明な薄膜を用いる。
【0025】
前記金属層の物理膜厚は、以下の手順により見積もられた各層の成膜速度を、低放射膜を形成時に設定した基材搬送速度で除算することにより求めることが可能である。上記の各層の成膜速度(nm・mm/min)は、各層の単層膜を成膜した時の単層膜の厚さ(nm)と基材の搬送速度(mm/min)の積を算出することにより求められる。該単層膜の厚さは、成膜前にガラス基材上に油性ペンなどのマーキングを施し、成膜後にこれを除去し、単層膜が形成された箇所と、マーキングを除去した膜が形成されていない箇所との段差を、触針式段差計(Veeco社製、Dektak 150)を用いて測定した。
【0026】
また、誘電体層の光学膜厚は、低放射膜作製時と同様の成膜条件で作製した単層膜の波長550nmにおける屈折率と膜厚との積から算出した値である。本発明における該屈折率は、単層膜の透過率と反射率とを前述した分光光度計(U−4000、日立製作所製)で測定し、得られた値から光学シミュレーション(Reflectance−transmittance法)によって算出した。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、無彩色〜青色の反射色調を有し、従来品にない好ましい外観品質を呈するとともに、透明性を損なうことなく、優れた遮熱性を有する建築用の低放射窓材を得ることが可能となった。
【0028】
よって、建物のデザイン性や美観にとって重要である低放射窓材としての選択肢を広げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
1.第1の実施形態
本発明の第1の形態は、屋外と屋内とを隔てる窓材であって、該窓材は透明基板上に誘電体層とAgを主成分とする金属層とが、第1誘電体層、第1金属層、第2誘電体層、第2金属層、第3誘電体層の順で積層された積層体を有する低放射膜が形成され、屋外と透明基板面で接する低放射透明基板を有し、該積層体は、
第1誘電体層の光学膜厚が60〜110nm、
第1金属層の物理膜厚が7.0〜9.5nm、
第2誘電体層の光学膜厚が190〜250nm、
第2金属層の物理膜厚が16.5〜19.5nm、
第3誘電体層の光学膜厚が50〜100nm、
該第1及び第2金属層の物理膜厚の合計値が23.5〜29nm、
該第1、第3、及び第5誘電体層の光学膜厚の合計値が330〜430nmの範囲内となるものであり、
該低放射透明基板の光学特性は、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した日射透過率が33%を超えず、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した透明基板面の可視光反射率が28%を超えず、
屋外と接する屋外面の反射色調が、無彩色を呈するか、又はCIE L*a*b*色度座標図において((a*)
2+(b*)
2)
1/2で表される彩度が20以下の青色の反射色調を呈することを特徴とする低放射窓材である。
【0031】
本発明は、前述したようにJIS R3106(1998)に準拠して算出した日射透過率が33%を超えない低放射透明基板を有する。また、本発明は透明基板の厚みが3mmのとき、JIS R3106(1998)に準拠して算出した可視光透過率が70%未満となる。通常、日射透過率が低くなる程遮熱性が高くなるが、それに伴って可視光透過率も低下する。窓ガラス等の窓材に使用する際、遮熱性と適度な採光性とを両立させるために、好ましくは日射透過率を25〜29%としてもよい。また、可視光透過率を50〜65%とするのが好ましく、より好ましくは55〜65%としてもよい。
【0032】
また、本発明はJIS R3106(1998)に準拠して算出した透明基板面の可視光反射率が28%を超えない低放射透明基板である。可視光反射率が高くなるとギラつきにより外観品質を損ない易くなる為、可視光反射率は出来るだけ低くする事が好ましい。
【0033】
また、本発明は屋外と接する屋外面が無彩色〜青色の反射色調を呈するものであり、該反射色調は((a*)
2+(b*)
2)
1/2で表される彩度が20以下となる。該彩度が20を超えると反射色調の色味が強くなり、建物のデザイン性や美観を損なうことがある。また、当該実施形態は特に青色の反射色調を得るのに好適であり、好ましくは彩度が10以上、20以下としてもよい。
【0034】
本発明はJIS Z8729(2004)に準拠して算出した透明基板面の反射色調が、CIE L*a*b*色度座標図において、a*≧b*、a*が−10〜0及びb*が−20〜0の範囲内であるのが好ましい。この時、外観品質を損なうとされる反射色調としては赤色や黄色が挙げられる。反射色調の赤味が強くなる場合はa*が5以上、反射色調の黄味が強くなる場合はb*が5以上である。a*及びb*が共に0付近の場合は無彩色に近いが、特にa*は、a*が2付近で薄く赤味を呈するようになり、外観品質を損ないやすい。また、a*が−10未満になると反射色調の緑味を強く呈するようになり、一方でb*が−20未満になると青味を強く呈するようになる。より良好な外観品質を得るために、好ましくはa*>b*、及びb*が−18〜−2の範囲内としてもよい。
【0035】
通常、低放射膜はキズ等の物理的な損傷を防ぐ為に、該低放射膜を屋外に直接曝露しないように配置される。本発明のようにAgを主成分とする層を有する低放射膜を用いる場合、Agは大気中の水分や塩素等を起因とする欠陥を生じ易い事から、該低放射膜が大気と接触しないように施工したり、保護層等でコーティングするのが望ましい。例えば、
図1の(a)に示したような低放射透明基板を単板での使用、
図1の(b)に示したような複層ガラス、又は合わせガラス等が挙げられる。
【0036】
低放射透明基板1は屋外側に配置され、該低放射透明基板1の透明基板面が屋外と接する。当該実施形態の場合、反射色調の調整が行い易い。また、
図1(b)のように複層ガラスに組み込む場合は、入射光が中空層4まで入射しないため、より遮熱効果を高めることが可能である。
【0037】
本発明は、屋外側から、前記低放射透明基板、中空層、及び透明基板がこの順で配置され、該低放射透明基板の透明基板面が屋外と接することが好ましい。
【0038】
透明基板は熱、光、キズ等への耐久性が良好な材質であれば特に限定されるものではない。特にガラス基板を用いるのが好適であるが、その他透明樹脂板等を使用してもよい。
【0039】
前記ガラス基板は特に限定されるものではないが、例えば、通常使用されているフロ−ト板ガラス、又はロ−ルアウト法で製造されたソーダ石灰ガラス等無機質の透明なガラス板を使用できる。当該ガラス基板には、無アルカリガラス、高透過ガラス等が挙げられる。また、ガラス基板の形状を特に限定するものではなく、平板ガラス、曲げ板ガラス、風冷強化ガラス、及び化学強化ガラス等の各種強化ガラス、網入りガラスも使用できる。また、ホウケイ酸塩ガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス、低膨張結晶化ガラス、ゼロ膨張結晶化ガラス等の各種ガラス基材を用いることが可能である。
【0040】
上記のガラス基板の他に挙げられる透明基板としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂等が挙げられる。
【0041】
透明基板の厚みは特に限定するものではないが、一般的に建築用ガラスとして使用される3〜19mmとしてもよい。また、可視光透過率や日射透過率は基板の厚みの影響を受けることがあり、該基板が厚くなる程透過率が低下する傾向にある。例えば、上記の建築用ガラスとして使用される3mmのガラス基板と6mmのガラス基板とを比較すると、3mmのガラス基板の方が可視光透過率が0.5〜1.5%程度高くなる。
【0042】
本発明の低放射膜は、透明基板と前記積層体との間に、基板との密着性を向上させることを目的とした膜や層等を含んでもよい。また、該積層体を保護する事と目的として、該積層体上に耐湿性や耐摩耗性、耐候性等を向上させる膜や層を含んでもよい。
【0043】
前記誘電体層は低放射膜の反射色調などを調整する層であり、Zn、Sn、Al、Ti、Si、及びInからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属を含む酸化物、窒化物、又は酸窒化物の透明な薄膜が好適に用いられる。該誘電体層は上記の反射色調を調整する以外にも、透明基材と金属層との密着性の向上、低放射膜の化学的耐久性の向上、等を目的として、ZnO、SnO
2、ZnSnO
3、Si
3N
4及びTiO
2を用いるのが好ましい。ZnO、SnO
2、ZnSnO
3及びTiO
2はそれぞれ酸化物膜でも、任意の第三成分を含有する合金酸化物膜であってもよい。また、Si
3N
4は窒化物膜でも、任意の第三成分を含有する合金窒化物膜であってもよい。
【0044】
前記第1誘電体層は透明基板と第1金属層との密着性を向上させ、第2誘電体層、及び第3誘電体層と相互に作用し合い反射色調や日射透過率を調整する層で、光学膜厚は60〜110nmである。60nm未満では透明基板面の可視光反射率が高くなる傾向にあり、また、110nmを超えると透明基板面の反射色調が赤味を帯びやすくなったり、目的とする色調の範囲から外れたりすることがある。下限値について好ましくは70nm以上、より好ましくは75nm以上としてもよい。また、上限値について好ましくは100nm以下、より好ましくは90nm以下としてもよい。
【0045】
前記第2誘電体層は、反射色調及び日射透過率に大きく影響を及ぼす層であり、光学膜厚は190〜250nmである。190nm未満では透明基板面の反射色調が無色〜青色ではなくなる、又は赤味を帯び易くなり、また、250nmを超えると透明基板面の可視光反射率が高くなる。下限値について好ましくは200nm以上、より好ましくは205nm以上としてもよい。また、上限値について好ましくは240nm以下、より好ましくは230nm以下としてもよい。
【0046】
前記第3誘電体層は、第1誘電体層及び第2誘電体層と相互に作用し合い反射色調や日射透過率を調整する層であり、光学膜厚は50〜100nmである。50nm未満では透明基板面の可視光反射率が高くなり、また、100nmを超えると透明基板面の反射色調が目的とする範囲から外れる、又は赤味を帯び易くなる。また、好ましくは60nm以上、75nm以下としてもよい。
【0047】
また、上記の各誘電体層は、総厚みが前述した範囲内になるのであれば、複数の誘電体膜が積層した積層膜であってもよい。特に前記第3誘電体層は外気に最も近い層であることから、光学特性を損なわない範囲で複数の膜を使用し、耐湿性や耐久性を向上させてもよい。
【0048】
すなわち、前記第3誘電体層は、誘電体膜を2以上積層したものであり、該誘電体膜の光学膜厚の合計値が50〜100nmであることが好ましい。この時、最上層に用いる誘電体膜としては、SnO
2、TiO
2、Si
3N
4等が耐湿性に優れているため好適である。
【0049】
また、本発明の低放射膜において、前記第1、第2、及び第3誘電体層の厚みの合計値は、330〜430nmの範囲内となる。該第1、第2、及び第3誘電体層は相互に作用し合い反射色調や日射透過率を調整しているため、該誘電体層の厚みの合計値の変化に対する挙動は複雑となる。330nm未満、又は430nmを超えると、透明基板面の可視光反射率が高くなる、又は反射色調が無色〜青色の範囲から外れる。また、好ましくは340nm以上、420nm以下としてもよい。
【0050】
前記金属層は、Agを主成分とする層であり、Ag膜、又はAgを主成分とするAg合金膜であり、Ag合金としては、パラジウム、金、白金、ニッケル、銅などの金属をそれぞれ5質量%以下の範囲内で含んでいてもよい。ここで、「主成分」はAgを90質量%以上含むものを指す。
【0051】
本発明は、第1金属層と第2金属層の物理膜厚の合計値が23.5〜29nmの低放射膜を用いる。23.5nm未満だと遮熱性が不十分になることがある。また、一般的に金属層は厚みが増加すると遮熱性が向上するが、それに伴って可視光の反射率が高くなり、可視光の透過率が低くなる。そのため透過色調や反射色調の色味がより強く視認されることから、外観上の色調の調整が厳密になり易い傾向にある。本発明では金属層の合計厚みを特許文献1に示される従来の窓用ガラス積層体程度の下限を22nm以上とし、上限を29nm以下としても日射透過率が33%を超えず、好ましい反射色調が得られた。第1金属層と第2金属層の物理膜厚の合計値は、好ましくは下限値を24nm以上、上限値を29nm未満としてもよい。
【0052】
本発明は、前記第1金属層の物理膜厚が7.0〜9.5nm、前記第2金属層の物理膜厚が16.5〜19.5nmである。第1金属層の物理膜厚が7nm未満の場合、反射色調が赤色を呈しやすくなり、9.5nmを超える場合は、反射色調が緑味を帯びたり、反射色調の彩度が過度に高くなったり色味が強くなり易くなる。また、第2金属層の物理膜厚が16.5nm未満の場合は、遮熱性が不十分となる傾向があり、19.5nmを超える場合は、遮熱性に優れるものの、可視光透過率が低くなり、また、可視光反射率が高くなる傾向がある。
【0053】
また、上記の第1金属層及び第2金属層は、その製造過程で該金属層のAgが劣化するのを防ぐことを目的として、それぞれの層上に犠牲層を形成するのが好ましい。該犠牲層は、第2誘電体層及び第3誘電体層を酸化ガスや窒化ガス等の反応性ガスが存在する雰囲気下で形成する場合、該反応性ガスからAgを保護することが可能である。該犠牲層としては、Zn、Sn、Ti、Al、NiCr、Cr、Zn合金、及びSn合金等が好ましい。また、該犠牲層は第2誘電体層及び第3誘電体層を形成する際、反応性ガスによって酸化や窒化され透明となるものを用いると、可視光透過率を必要以上に損なわずに済むため好適である。該犠牲層は成膜中に下層の金属層が劣化や変性するのを防止できればよいので、物理膜厚は1nm以上、好ましくは2nm以上とするのがよい。また、4nmを超える場合は反応性ガスによる酸化や窒化が不十分となり易い。
【0054】
2.第2の実施形態
本発明の第2の形態は、屋外と屋内とを隔てる窓材であって、該窓材は透明基板上に誘電体層とAgを主成分とする金属層とが、第1誘電体層、第1金属層、第2誘電体層、第2金属層、第3誘電体層の順で積層された積層体を有する低放射膜が形成され、屋内と透明基板面で接する低放射透明基板を有し、該低放射透明基板と屋外との間に透明基板を有するものであり、該積層体は、
第1誘電体層の光学膜厚が60〜110nm、
第1金属層の物理膜厚が7.0〜9.5nm、
第2誘電体層の光学膜厚が190〜250nm、
第2金属層の物理膜厚が16.5〜19.5nm、
第3誘電体層の光学膜厚が50〜100nm、
該第1及び第2金属層の物理膜厚の合計値が23.5〜29nm、
該第1、第3、及び第5誘電体層の光学膜厚の合計値が330〜430nmの範囲内となるものであり、
該低放射透明基板の光学特性は、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した日射透過率が33%を超えず、
JIS R3106(1998)に準拠して算出した膜面の可視光反射率が28%を超えず、
屋外と接する屋外面の反射色調が、無彩色を呈するか、又はCIE L*a*b*色度座標図において((a*)
2+(b*)
2)
1/2で表される彩度が20以下の青色の反射色調を呈することを特徴とする低放射窓材である。
【0055】
第2の実施形態については、前述した第1の実施形態と異なる点について以下記載する。
【0056】
第2の実施形態は低放射膜の膜面が屋外に対向する。一方で、前述したように低放射膜を屋外の大気と接触させると低放射膜を損傷する可能性が高いため、当該実施形態では、屋外と該低放射膜との間に透明基板を介在させる。
【0057】
また、本発明はJIS R3106(1998)に準拠して算出した膜面の可視光反射率が28%を超えない低放射透明基板である。可視光反射率が高くなるとギラつきにより外観品質を損ない易くなる為、可視光反射率は出来るだけ低くする事が好ましい。
【0058】
また、本発明は屋外と接する屋外面が無彩色〜青色の反射色調を呈するものである。当該実施形態は特に無彩色、又は無彩色が僅かに青味を帯びた色の反射色調を得るのに好適であり、好ましくは膜面の反射色調の彩度が10以下としてもよい。
【0059】
例えば
図2のように複層ガラスとして実施する場合、低放射透明基板1は屋内側に配置され、該低放射透明基板1の低放射膜2が中空層4と接する。膜面の反射光は中空層4及び透明基板3を透過するため、該膜面を直接測定した時の反射色調と、屋外で実際に測定される反射色調とは異なった反射色調となる。膜面側からの反射色調が、CIE L*a*b*色度座標図において、a*が−5〜5及びb*が−10〜5の範囲内であるとき、外観品質が良好となる。好ましくはa*が−5〜2及びb*が−7〜5としてもよい。
【0060】
すなわち本発明は、屋外側から、透明基板、中空層、及び前記低放射透明基板がこの順で配置され、該低放射透明基板の膜面が該中空層と接することが好ましい。
【0061】
また、低放射透明基板は、JIS Z8729(2004)に準拠して算出した透明基板面の反射色調が、CIE L*a*b*色度座標図において、a*≧b*、a*が−10〜0及びb*が−20〜0の範囲内、及び膜面の反射色調が、a*が−5〜5及びb*が−10〜5の範囲内であると、前記第1の実施形態でも第2の実施形態でも使用可能な為好ましい。
【0062】
3.低放射透明基板の製造方法
本発明の低放射透明基板はスパッタリング法、電子ビーム蒸着法やイオンプレーティング法等で形成されることが好ましいが、生産性、均一性を確保しやすいという点でスパッタリング法が適している。
【0063】
スパッタリング法による低放射膜の形成は、各層の材料となるスパッタリングターゲットが設置された装置内を、透明基板を搬送させながら行う。この時、装置内に設けられている膜形成を行う真空チャンバー内にはスパッタリング時に用いるガスが導入されており、ターゲットに負の電位を印加することにより装置内にプラズマを発生させてスパッタリングを行う。
【0064】
また、所望の膜厚を得る方法はスパッタリング装置の形式によって異なるため特に限定しないが、ターゲットへの投入電力や導入ガス条件の調整により、成膜速度を変化させることで膜厚を制御する方法や、基板の搬送速度を調整することで膜厚を制御する方法などが広く用いられている。
【0065】
前記誘電体層を形成する場合、使用するターゲットはセラミックターゲット、金属ターゲット、どちらを用いても構わない。いずれにおいても使用するガス条件は特に限定するものでなく、Arガス、O
2ガス、及びN
2ガスから目的とする膜に従ってガス種、混合比を適宜決めれば良い。また、真空チャンバーに導入するガスとして、Arガス、O
2ガス、N
2ガス以外の任意の第3成分を含んでも良い。
【0066】
Agを主成分とする金属層を形成する場合、使用するターゲットにはAgターゲット又はAg合金ターゲットを用いる。この時導入するガスにはArガスを用いるのが好ましいが、Ag膜の光学特性を損なわない程度であれば異なる種類のガスを混合してもよい。
【0067】
プラズマ発生源には直流電源、交流電源、及び交流と直流を重畳した電源等、いずれも用いられるが、誘電体の層を形成する際に異常放電が生じやすい場合は、交流電源又は直流電源にパルスを印加した電源を用いるのが好ましい。
【0068】
また本発明は、
図1の(a)に示したように低放射透明基板を単板で使用してもよいが、
図1の(b)、及び
図2に示したように複層ガラスとして使用すると低放射膜を保護することが可能であるため好ましい。複層ガラスとして用いる場合、低放射透明基板1の低放射膜2が形成された面を他の透明基板3と中空層4を形成するように所定間隔を隔て対向させ、周辺部をスペーサー5やシール材6で封止する。該中空層4はAr、He、Ne、Kr、Xe等の不活性ガス、乾燥空気、N
2等が封入されるものであり、通常は乾燥空気を用いるが、より断熱性能や遮音性能を向上させることを目的としてArガスやNeガスなどを用いてもよい。
【0069】
前記スペーサー4は内部に乾燥剤を有し、少なくとも2枚のガラス基材間にブチルゴムやシリコーン等のシール材6を介して固定されるものであり、軽量なアルミ材や樹脂材が用いられる。当該スペーサー4、低放射透明基板1、及び透明基板3で囲まれた部分が中空層4であり、該中空層4の厚みや封入する気体の種類によって、複層ガラスの断熱性を変化させることが可能である。
【実施例】
【0070】
1.低放射膜の作製
以下に本発明の実施例及び比較例を示す。実施例1〜7、比較例1〜12の各誘電体層及び各金属層の膜厚を表1に記載した。実施例及び比較例は、いずれも厚み3mmのソーダライムガラス上に、マグネトロンスパッタリング装置を用いて成膜を行った。各層はガラス基板の搬送速度を調整する事により所望の膜厚を得た。また、上記の搬送速度は予め単層膜を形成し、膜の種類ごとに算出した速度を使用した。なお、いずれの実施例及び比較例においても第1金属層及び第2金属層の上に犠牲層を形成し(表1に記載せず)、基板及び膜は非加熱とし、成膜時にスパッタリングに由来して基板温度が上昇する場合を除いて、特に基板及び膜の加熱は行わなかった。
【0071】
実施例1〜7、及び比較例1〜12
まず、ガラス基板を基材ホルダーに保持させ、各真空チャンバー内に所望のターゲットを設置した。該ターゲットは裏側にマグネットが配置されている。次に、真空チャンバー内を真空ポンプによって排気した。
【0072】
次に、第1の誘電体層をガラス基板上に成膜した。ターゲットにはAlが2wt%添加されたZn(以下ZnAlと記載することもある)ターゲットを用い、ZnAlターゲットへ電源ケーブルを通じでDC電源より1000Wの電力を投入した。この時、真空ポンプを連続的に稼動させながら、真空チャンバー内に酸素ガスを60sccmで導入し、圧力を0.3Paになるよう調節した。以上よりZnAlO膜を得た。
【0073】
次に、ZnAlO膜の上に第1金属層としてAg膜を成膜した。ターゲットにAgターゲット、真空チャンバー内の雰囲気ガスはアルゴンガスを45sccmで導入し、圧力は0.5Paに調節した。また、DC電源より投入する電力は360Wとした。以上よりAg膜を得た。
【0074】
次に、Ag膜の上に第1犠牲層を成膜した。ターゲットにAlが4wt%添加されたZnAlターゲット、真空チャンバー内の雰囲気ガスはアルゴンガスを100sccmで導入し、圧力は0.7Paに調節した。また、DC電源より投入する電力は120Wとした。以上より物理膜厚が2nmのZnAl膜を得た。
【0075】
次に、犠牲層の上に第2誘電体層としてZnAlO膜を成膜した。所望の膜厚を得る為に搬送速度を調整した他は、成膜条件を第1誘電体層と同様とした。
【0076】
次に、ZnAlO膜の上に第2金属層としてAg膜を成膜した。所望の膜厚を得る為に搬送速度を調整した他は、成膜状件を第1金属層と同様とした。
【0077】
次に、Ag膜の上に第2犠牲層としてZnAl膜を成膜した。ZnAl膜の物理膜厚が2.5nmになるように成膜し、その他の成膜条件は第1犠牲層と同様とした。
【0078】
次に、犠牲層の上に第3誘電体層としてZnAlO膜を成膜した。所望の膜厚を得る為に搬送速度を調整した他は、成膜条件を第1誘電体層と同様とした。以上により、ガラス基板上に低放射膜を形成し低放射透明基板を得た。
【0079】
次に、同じく第3誘電体層としてZnAlO膜の上に、SnO
2膜を成膜した。ターゲットにはSnターゲットを用い、Snターゲットへ電源ケーブルを通じでDC電源より1000Wの電力を投入した。この時、真空ポンプを連続的に稼動させながら、真空チャンバー内に酸素ガスを60sccmで導入し、圧力を0.3Paになるよう調節した。以上よりSnO
2膜を得た。
【0080】
【表1】
【0081】
2.低放射透明基板について光学特性の評価
上記の実施例及び比較例で得られた低放射透明基板の光学特性を、自記分光光度計(日立製作所製、U−4000)を用いて測定した。可視光透過率、可視光反射率、及び日射透過率をJIS R3106(1998)に準拠して算出した。また、低放射透明基板の膜面及びガラス板面の反射色調をJIS Z8729(2004)に準拠して算出した。得られた結果について表2、
図3及び
図4に示した。
【0082】
【表2】
【0083】
表2、
図3及び
図4より、実施例1〜実施例7は日射透過率が26.2〜28.7%、ガラス面の可視光反射率が22.0〜27.4%の範囲内であり、ガラス面から見た時、ギラつきの生じない低放射透明基板であることがわかった。また、膜面の可視光反射率が21.3〜26.5%の範囲内となり、膜面から見た時、ギラつきの生じない低放射透明基板であることがわかった。また、実施例1〜7は可視光透過率が55.8〜60.6%の範囲内であり、従来の高遮熱タイプの低放射ガラスと同程度の可視光透過率を示していた。
【0084】
また、実施例1〜7はガラス面の反射色調がいずれも青色であり、a*は−7.7〜−3.1、b*は−19.2〜−8.9の範囲内であり、彩度は11.8〜19.6の範囲内となった。また、膜面の反射色調は、a*が−3.7〜1.2、b*が−8.1〜3.3の範囲内となり、膜面の反射色調は無彩色に近いものだった。
【0085】
比較例1〜10は、いずれもガラス面の反射色調が赤色や黄色、緑色、色味の強い青色を呈しており、本発明としては適さないものであった。また、比較例11は日射透過率が高く、遮熱性が要求特性を満たさないものであった。また、比較例1、4、5、8、12はガラス面の可視光反射率が28%を超え、ギラつきを生じるものであった。また、比較例4、5、8、12は膜面の可視光反射率が28%を超え、膜面の反射においてもギラつきを生じるものであった。
【0086】
3.複層ガラスについて光学特性の評価
実施例1の低放射透明基板と、厚み3mmのソーダライムガラス板とを用いて複層ガラスを作成し、該複層ガラスの屋外面側から可視光の反射色調を測定した。作成した複層ガラスは屋外側に低放射透明基板を設置し、中空層を6mmとし、低放射膜が該中空層と接するようにした。測定は前述した低放射透明基板を単板で測定した際と同様の方法で行った。
【0087】
実施例1の低放射透明基板を複層ガラスとした時、日射透過率は24.5%、可視光透過率は53.8%となった。また、屋外面側の可視光反射色調はa*が−6.1、b*が−12.9、彩度が14.3となり、目的とする青色を呈するものであった。
【0088】
次に、実施例1の低放射透明基板と、厚み3mmのソーダライムガラス板とを用いて複層ガラスを作成し、該複層ガラスの屋外面側から可視光の反射色調を測定した。作成した複層ガラスは屋内側に低放射透明基板を設置し、中空層を6mmとし、低放射膜が該中空層と接するようにした。測定は前述した低放射透明基板を単板で測定した際と同様の方法で行った。
【0089】
実施例1の日射透過率は24.5%、可視光透過率は53.8%となった。また、屋外面側の可視光反射色調はa*が−1.5、b*が−3.3、彩度が3.6となり、無彩色に近い青色を呈するものであった。