特許第6287528号(P6287528)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セントラル硝子株式会社の特許一覧

特許6287528光学活性3,3−ジフルオロ乳酸誘導体の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287528
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】光学活性3,3−ジフルオロ乳酸誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/56 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
   C12P7/56
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-86030(P2014-86030)
(22)【出願日】2014年4月18日
(65)【公開番号】特開2015-204762(P2015-204762A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152593
【弁理士】
【氏名又は名称】楊井 清志
(72)【発明者】
【氏名】石井 祥子
(72)【発明者】
【氏名】西井 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】澤井 直己
(72)【発明者】
【氏名】石井 章央
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−020256(JP,A)
【文献】 Journal of Molecular Catalysis B:Enzymatic ,1998年,vol.4,p.67-76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/40−7/60
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]で表されるラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル
【化1】
に加水分解酵素を接触させ、不斉加水分解反応を行う工程を含む、
式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル
【化2】
と、
式[3a]又は式[3b]で表される光学活性体化合物(各々R体又はS体)
【化3】
【化4】
と、
式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸
【化5】
のうち、少なくとも1つの化合物を製造する方法。
(上記各式中、*は不斉炭素原子を示す。R1は置換基を有してもよい炭素数2〜11の直鎖又は分岐鎖のアシル基、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基を示す。)
【請求項2】
次の第1工程〜第3工程を含む、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸の製造方法。
(第1工程)
式[1]で表されるラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルに加水分解酵素を接触させ、不斉加水分解反応を行って、式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルならびに、式[3a]又は式[3b]で表される光学活性体化合物(各々R体又はS体)を含む反応混合物を得る工程。
(第2工程)
前記第1工程で得られた反応混合物を精製し、該反応混合物から、式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルを取り出す工程。
(第3工程)
前記第2工程で取り出した式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルを、酸性条件下で加水分解することにより、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得る工程。
(ここで、式[1]、式[2]、式[3a]、式[3b]、式[4]の意味は、請求項1と同じである。)
【請求項3】
次の第1工程、第4工程および第5工程を含む、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸の製造方法。
(第1工程)
式[1]で表されるラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルに加水分解酵素を接触させ、不斉加水分解反応を行って、式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルならびに、式[3a]又は式[3b]で表される光学活性体化合物(各々R体又はS体)を含む反応混合物を得る工程。
(第4工程)
前記第1工程で得られた反応混合物を精製し、該反応混合物から、式[3a]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸誘導体および式[3b]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸誘導体のうち、少なくとも一方を取り出す工程。
(第5工程)
前記第4工程で取り出した式[3a]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸誘導体および式[3b]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸誘導体のうちの一方を、酸性条件下で加水分解することにより、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得る工程。
(ここで、式[1]、式[2]、式[3a]、式[3b]、式[4]の意味は、請求項1と同じである。)
【請求項4】
が炭素数2〜7の無置換のアシル基で且つ、Rが炭素数1〜6の無置換のアルキル基である、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルが3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
加水分解酵素がリパーゼであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
リパーゼがRhizomucor miehei由来、又は、Thermomyces lanuginosa由来であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記不斉加水分解反応をリン酸緩衝液の存在下に行い、該リン酸緩衝液の原液の濃度が0.2mol/l(mol/dm)〜2mol/l(mol/dm)であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
不斉加水分解反応の温度が10℃〜60℃であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
不斉加水分解反応を、pHが5.0〜9.0の条件で行うことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の方法によって、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得た後、該光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を再結晶又は再沈殿のうち少なくとも1つの精製手段に付すことを特徴とする、光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体として重要な光学活性3,3−ジフルオロ乳酸誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性3,3−ジフルオロ乳酸やその誘導体は、種々の医農薬中間体として重要な化合物である。これまでに、本化合物の製造方法として、ジフルオロメチル基を有するフラノールを基質として、酵素による不斉加水分解反応を行い、光学活性体を得た後に酸化反応を行う方法(非特許文献1)や、ラセミ3,3−ジフルオロ乳酸と光学活性アミンからなるジアステレオマー塩の再結晶により光学分割する方法(非特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Tetrahedron Asymmetry,4,p.889−892(1993年)
【非特許文献2】CrystEngComm,8,p.320−326(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
種々の光学活性3,3−ジフルオロ乳酸誘導体を合成する上で、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸
【0005】
【化1】
【0006】
(*は不斉原子を現す。以下本明細書において同じ。)
は鍵化合物の1つであり、この化合物を製造することは重要である。
【0007】
しかし光学活性3,3−ジフルオロ乳酸の合成例は少なく、いずれも、実験室レベルでは優れた合成法であるが、大量規模での合成に際しては、なお課題の残るものであった。非特許文献1の方法は、ジフルオロメチル基を有するフラノールを原料に用いて酵素による加水分解反応を行うことにより、変換率47%の時点で共に98%ee以上という高い光学純度で未反応原料と生成物を得ることができ、高い収率で光学活性体が得られる方法ではあるが、原料のフラノールを合成する際に多数の工程を必要とし、酵素反応後も原料と生成物とを単離し、それぞれ酸化反応を行う必要があるため全体的に見れば煩雑であり、経済的な方法とは言えなかった。また、非特許文献2では、ラセミ3,3−ジフルオロ乳酸に対して光学活性アミンを作用させてジアステレオマー塩を形成させ再結晶を行うことにより光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を簡便に得ることができるが、医農薬中間体に求められる高い光学純度の3,3−ジフルオロ乳酸を得るためには再結晶を繰り返し行う必要があった。
【0008】
他方、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を製造するための方法として、その「加水分解を受ける直前の化学種」にあたる、「ラセミ又は光学純度の低い、式[5a]又は式[5b]で表される化合物」
【0009】
【化2】
【0010】
【化3】
【0011】
(式中、R1は置換基を有してもよい炭素数2〜11の直鎖又は分岐鎖のアシル基、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基を示す。)
を原料とし、これに加水分解酵素を接触させて、各々の化学種の光学異性体(R体、S体)の一方を選択的に加水分解させ、光学活性な目的物に誘導するという不斉加水分解反応が考えられる。
【0012】
【化4】
【0013】
しかしながら、本発明者らが、上記式[5a]の化合物を反応原料として加水分解反応を試みたところ、加水分解は進行するものの、酵素の立体選択性が低いことがわかった(後述の「比較例」を参照)。酵素の立体選択性が低いと、式[5a]の化合物を加水分解して生成する式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸は、低光学純度のものとなる。
【0014】
一方、この加水分解反応が進行するのに伴い、式[5a]で表される化合物のうち、酵素と反応しない方の光学異性体が、式[3a]の化合物として系内に残存する。この化合物を取り出して、さらなる加水分解に付せば、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸(上記、式[5a]の化合物の加水分解で得られるものとは、逆の光学異性を持つもの)に誘導できる。しかしながら、前記の通り、この反応における酵素の立体選択性が低いために、高光学純度の式[3a]の化合物を得ようとして反応を過剰に進行させると、式[3a]の化合物の収率が極端に低くなってしまう。すなわち、式[3a]の化合物を加水分解して式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得る方法によっては、実用的な収率で目的物を得ることは難しいという問題があった(これを「比較発明」と呼ぶことがある)。
【0015】
一方、[5b]の化合物については、加水分解後の未反応の原料と生成物とが抽出操作等による効率的な分離法が採用できないことから、目的物を単離する上で課題があった。
すなわち、酵素による不斉加水分解法によって効率的に光学活性を向上させ、効率的に単離することが可能な光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を製造する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、式[1]で表される「ラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル」を原料とし、この物質を酵素による不斉加水分解に付することによって、課題を解決できることを見出した。
【0017】
すなわち、発明者らは、式[1]で表されるラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、R1は置換基を有してもよい炭素数2〜11の直鎖又は分岐鎖のアシル基、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基を示す。)
を酵素による不斉加水分解に付すと、高立体選択的な不斉加水分解反応が起こり、式[3a]又は式[3b]で表される光学活性体化合物(各々R体又はS体)が、高い光学純度で得られることがわかった。
【0020】
【化6】
【0021】
【化7】
【0022】
これら式[3a]の化合物、式[3b]の化合物は、上記比較発明における式[4]の化合物に対応する生成物であるが、比較発明で生成する式[4]の化合物に比べて、本発明で生成する式[3a]の化合物又は式[3b]の化合物の光学純度は、有意に高いものとなる。
【0023】
得られた、式[3a]又は式[3b]で表される光学活性体化合物(各々R体又はS体)は、その後、酸を触媒とする加水分解に付することにより、光学純度を損なうことなく、目的物である式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸へと円滑に誘導することができることもわかった。
【0024】
一方、上記不斉加水分解に伴い、当該化合物のうち、酵素と反応しない方の光学異性体が式[2]
【0025】
【化8】
【0026】
(RとRの意味は上記と同じ。*は不斉炭素を表す。)
で表される、光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル(R体又はS体)として、系内に残存するという知見も得た。式[2]の化合物は、上記比較発明における生成物である式[3a]の物質に対応する。本発明においては、不斉加水分解反応に伴う、式[2]の化合物の光学純度の向上が、上記比較発明における式[3a]の化合物の光学純度の向上に比べて、有意に速く、収率の低下を生じるよりも早い時点で、式[2]の化合物の光学純度が上がるため、高い収率で該化合物が得られることが判明した。
【0027】
次に、こうして得られた式[2]の化合物を取り出し、これをあらためて加水分解(酸性条件下の加水分解)に付すことによって、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸に効率よく誘導できることがわかった。
【0028】
【化9】
【0029】
式[1]で表される化合物は、「エステル結合部位」を2つ有し、本発明の目的物質である式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸から見た場合、「前駆体のさらなる前駆体」にあたる。敢えてそのような化合物を原料として選択し、これを、酵素を用いた不斉加水分解に付することによって、未反応原料として残存する式[2]の化合物、式[3a]の化合物あるいは式[3b]の化合物を、光学純度、収率の両面からバランス良く得られる点が、本発明の大きな特徴である。
【0030】
なお、本発明者は、当該第1段階目の加水分解(不斉加水分解)に用いる酵素として、リパーゼが好ましいことも見出した。該不斉加水分解における、より好ましい反応条件も見出した。
【0031】
本発明においては、第1段階目の加水分解(不斉加水分解)によって、式[2]で表される3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル(R体又はS体)が、あらかじめ目標値として設定した任意の光学純度に達した時点で、加水分解反応を停止させることが、加水分解の反応条件の制御によって容易に達成できる点も重要である。このため第1段階目の加水分解(不斉加水分解)の終了後、式[2]で表される光学活性体化合物を、系内から効率的に取り出すことができ、[2]で表される光学活性体化合物と、式[3a]又は式[3b]で表される光学活性化合物を相互に分離できる。
【0032】
なお、上述の通り、式[2]で表される化合物の加水分解、式[3a]又は式[3b]で表される光学活性体化合物の加水分解を両方とも実施すれば、式[4]の化合物の両方の異性体を得ることができる。しかし、目的に応じ、一方の異性体のみを製造することもできる。
【0033】
さらに、このような式[2]で表される3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル(R体又はS体)又は、式[3a]又は式[3b]で表される光学活性体化合物(各々R体又はS体)に対して行う、酸を触媒とする加水分解は、反応変換率も高く、反応を通じ光学純度も損なわれないことから、特に好適であるという有用な知見を、発明者らは見出した。
【0034】
このように、本発明によって、重要な光学活性3,3−ジフルオロ乳酸やその誘導体を、酵素を用いた不斉加水分解反応を利用して効率よく製造でき、それによって、該化合物をより効率的に、大量規模で生産できることとなった。
【0035】
本発明のように、ラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルを酵素により立体選択的に加水分解する知見は、従来全く知られていなかった。
【0036】
本明細書において、以下の工程を各々、次のように呼ぶことがある。
【0037】
(1)式[1]で表されるラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルを酵素による不斉加水分解に付し、未反応原料として残存する式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルとして得、それと同時に、式[3a]又は式[3b]の光学活性体化合物(各々R体又はS体)を系内に生成させる工程;「第1工程」。
【0038】
(2)前記第1工程で得た反応混合物を精製し、式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ-2-アシル乳酸エステルを取り出す工程;「第2工程」。
【0039】
(3)前記第2工程で得た式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ-2-アシル乳酸エステルを酸による加水分解に付して、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得る工程;「第3工程」。
【0040】
(4)前記第1工程で得た反応混合物を精製し、式[3a]又は式[3b]の光学活性体化合物を取り出す工程;「第4工程」。
【0041】
(5)前記第4工程で得た式[3a]又は式[3b]の光学活性体化合物を酸による加水分解に付して、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得る工程;「第5工程」。
【0042】
本発明に関わる工程を、次にまとめる。
【0043】
【化10】
【0044】
[置換基について]
本発明の式[1]、式[2]、式[3a]、式[3b]の官能基R、Rについて説明する。本発明において、不斉加水分解反応の選択性において重要なのは、原料化合物が3,3−ジフルオロ乳酸という基本骨格を持つこと、Rが「置換基を有してもよい炭素数2〜11の直鎖又は分岐鎖のアシル基」であること、およびRが「置換基を有してもよい炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基」であることであって、その条件が満たされる限り、RおよびRは広範な種類の基を取ることができる。
【0045】
1は「置換基を有してもよい炭素数2〜11の直鎖又は分岐鎖のアシル基」であるが、原料の入手の容易さから、炭素数2〜7の無置換のアシル基が好ましい。具体的にはホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基が好ましいものとして挙げられる。中でも、アセチル基はコスト面で特に有利であり、本発明の反応も良好に進行することから、特に好ましい。なお、これらのアシル基はさらに、反応不活性な置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、例えば炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、トルイル基、ハロゲン基(−F,Cl,Br,I)、ハロゲン化アルキル基(−CF、−Cなど)などが挙げられる(ただし、R1の「主鎖」と「置換基」は同一種類のもの(例えばアルキル)を意味しない)。しかし、最終的には、目的物である式[4]の化合物を得るときにR1は脱離するので、コスト面から、置換基を持たないアシル基を用いた方が好ましい。
【0046】
は「置換基を有してもよい炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基」であるが、原料の入手の容易さから、炭素数1〜6の無置換のアルキル基が好ましい。具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基である。中でも、メチル基、エチル基はコスト面で有利であり、本発明の反応も良好に進行することから、特に好ましい。なお、これらのアルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基はさらに、反応不活性な置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、例えば炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、トルイル基、ハロゲン基(−F,Cl,Br,I)、ハロゲン化アルキル基(−CF、−Cなど)などが挙げられる(ただし、Rの「主鎖」と「置換基」は同一種類のもの(例えばアルキル)を意味しない)。「置換基を有するアルキル基」の例としては、ベンジル基(−CH−Ph:Phはフェニル基を表す)が挙げられる。しかし、最終的には、目的物である式[4]の化合物を得るときにRは脱離するので、コスト面から、置換基を持たない基を用いた方が好ましい。
【0047】
このように、本発明においては、Rが炭素数2〜7の無置換のアシル基で且つ、Rが炭素数1〜6の無置換のアルキル基であることは、特に好ましい態様である。
【0048】
このように、本発明者らは、酵素を使った不斉加水分解反応による光学活性3,3−ジフルオロ乳酸誘導体の優れた製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0049】
すなわち、本発明は、以下の[発明1]〜[発明11]に記載する発明を提供する。
【0050】
[発明1]
式[1]で表されるラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル
【0051】
【化11】
【0052】
に加水分解酵素を接触させ、不斉加水分解反応を行う工程を含む、
式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル
【0053】
【化12】
【0054】
と、
式[3a]又は式[3b]で表される光学活性体化合物(各々R体又はS体)
【0055】
【化13】
【0056】
【化14】
【0057】
と、
式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸
【0058】
【化15】
【0059】
のうち、少なくとも1つの化合物を製造する方法。
(上記各式中、*は不斉炭素原子を示す。R1は置換基を有してもよい炭素数2〜11の直鎖又は分岐鎖のアシル基、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基を示す。)
【0060】
[発明2]
次の第1工程〜第3工程を含む、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸の製造方法。
(第1工程)
式[1]で表されるラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルに加水分解酵素を接触させ、不斉加水分解反応を行って、式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルならびに、式[3a]又は式[3b]で表される光学活性体化合物(各々R体又はS体)を含む反応混合物を得る工程。
(第2工程)
前記第1工程で得られた反応混合物を精製し、該反応混合物から、式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルを取り出す工程。
(第3工程)
前記第2工程で取り出した式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルを、酸性条件下で加水分解することにより、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得る工程。
(ここで、式[1]、式[2]、式[3a]、式[3b]、式[4]の意味は、発明1と同じである。)
【0061】
[発明3]
次の第1工程、第4工程および第5工程を含む、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸の製造方法。
(第1工程)
式[1]で表されるラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルに加水分解酵素を接触させ、不斉加水分解反応を行って、式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルならびに、式[3a]又は式[3b]で表される光学活性体化合物(各々R体又はS体)を含む反応混合物を得る工程。
(第4工程)
前記第1工程で得られた反応混合物を精製し、該反応混合物から、式[3a]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸エステルおよび式[3b]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸のうち、少なくとも一方を取り出す工程。
(第5工程)
前記第4工程で取り出した式[3a]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸エステルおよび式[3b]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸のうちの一方を、酸性条件下で加水分解することにより、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得る工程。
(ここで、式[1]、式[2]、式[3a]、式[3b]、式[4]の意味は、発明1と同じである。)
【0062】
[発明4]
が炭素数2〜7の無置換のアシル基で且つ、Rが炭素数1〜6の無置換のアルキル基である、発明1乃至3のいずれかに記載の方法。
【0063】
[発明5]
3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルが3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチルであることを特徴とする発明1乃至3のいずれかに記載の方法。
【0064】
[発明6]
加水分解酵素がリパーゼであることを特徴とする発明1乃至5のいずれかに記載の方法。
【0065】
[発明7]
リパーゼがRhizomucor miehei由来、又は、Thermomyces lanuginosa由来であることを特徴とする発明6に記載の方法。
【0066】
[発明8]
前記不斉加水分解反応をリン酸緩衝液の存在下に行い、該リン酸緩衝液の原液の濃度が0.2mol/l(mol/dm)〜2mol/l(mol/dm)であることを特徴とする発明1乃至7のいずれかに記載の方法。
【0067】
[発明9]
不斉加水分解反応の温度が10℃〜60℃であることを特徴とする発明1乃至8のいずれかに記載の方法。
【0068】
[発明10]
不斉加水分解反応を、pHが5.0〜9.0の条件で行うことを特徴とする発明1乃至9のいずれかに記載の方法。
【0069】
[発明11]
発明1乃至発明10のいずれかに記載の方法によって、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得た後、該光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を再結晶又は再沈殿のうち少なくとも1つの精製手段に付すことを特徴とする、光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を製造する方法。
【発明の効果】
【0070】
医農薬中間体として重要な光学活性3,3−ジフルオロ乳酸やその誘導体を、酵素を用いた不斉加水分解反応を利用して効率よく製造できるという効果を奏する。それによって、該化合物をより効率的に、大量規模で生産できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下に本発明について詳細に説明する。まず、前述した「第1工程」〜「第5工程」の順に説明する。最後に[精製工程](第3工程又は第5工程で得た式[4]の化合物を精製する工程)についても説明する。
【0072】
(1)[第1工程について]
まず第1工程について説明する。第1工程は、式[1]で表されるラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルを酵素による不斉加水分解に付し、未反応原料として残存する、式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル(R体又はS体)を得、それと同時に式[3a]又は式[3b]の光学活性体化合物(各々R体又はS体)を系内に生成させる工程である。
【0073】
前述のように、この工程を実施する過程において、式[1]で表される化合物のうち、酵素と反応しない方の光学異性体が、式[2]の光学活性3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルとして、系内に残存し、光学純度が有意に向上する。それと同時に、式[3a]又は式[3b]の光学活性体化合物を得る。すなわち、第1工程は、本願各発明に共通する、最も特徴的な工程である。
【0074】
本発明で用いる式[1]で表される3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルは公知の化合物であり、従来技術を基に当業者が適宜調整してもよいし、市販されているものを用いてもよい。ここで「ラセミ又は光学純度の低い」とは、「ラセミ(eeが0%のもの:なおeeとは鏡像体過剰率を示す、enantiomeric excess)」又は、医農薬中間体として通常要求される光学純度である「eeが99%」を下回るものを広く指すものとする。そして、そのような広範なeeを示す3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルに対して、第1工程の反応を施せば、3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルのeeはさらに有意に向上する。本発明の第1工程の本質は、酵素を用いた不斉加水分解反応を通じて、光学活性を向上させるところにある。このため、原料化合物は式[1]のように「ラセミ」としての表記をし、生成物は式[2]、あるいは式[3a]、式[3b]のように「キラル化合物」としての表記をしているが、本発明は決して、「光学純度が0%の原料」を用いる態様に限定されるものではない。また、生成物である式[2]、あるいは式[3a]、式[3b]の化合物のeeも常に「99%以上」となることを求めるわけではなく、光学純度が、有意に高いことが満たされればよい。
【0075】
3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルは酵素反応によってエステル基が加水分解される場合とアシル基が加水分解される場合、又は両方が加水分解される場合があるが、いずれの部位が加水分解されてもよい。すなわち式[1]で表される3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステルのエステル基は酵素により加水分解されるものであればよく、当該エステル部位を構成するRとしては、メチル基、エチル基、ブチル基などの炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基が利用できる。
【0076】
同様に、アシル基(R1)は、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ベンゾイル基などの炭素数2〜11の直鎖又は分岐鎖のアシル基が利用できる。
【0077】
式[1]の化合物の中でR1がアセチル基、Rがエチル基である3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチルは、入手が特に容易であり、本発明の不斉加水分解反応の反応性、立体選択性も良好となるから、特に好ましいものの1つである。
【0078】
第1工程の反応は溶液中で好ましく実施することができる。溶液中の基質(式[1]で表される化合物を言う。)の濃度(反応開始時点の濃度)は酵素反応が円滑に進み、且つ反応後の反応液から基質又は生成物が容易に回収できる濃度であればよく、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは10〜50質量%である。また、酵素反応の進み具合により基質を反応液に追加することもできる(分解された基質は濃度から除外し、残存する基質の量を基準として、酵素の量が上記範囲となる様、基質を添加すればよい)。
【0079】
本発明に使用する酵素は市販されている幅広い範囲の加水分解酵素(リパーゼ、アシラーゼ、エステラーゼ、ペプチターゼ、プロテアーゼ)が利用できるが、立体選択性が高く、且つ基質濃度が高い場合でも反応が進む酵素がよく、好ましくはリパーゼである。リパーゼとしては、Rhizomucor miehei由来のリパーゼ、ならびにThermomyces lanuginosa由来のリパーゼが、高い反応性、立体選択性を示すから、特に好ましい。
【0080】
なお、本発明に使用できるこれらの酵素は市販されており、量産化の可能な規模で購入することもできる。
【0081】
第1工程の反応に使用する酵素の量は、特に限定されないが、反応が円滑に進行する量であればよく、好ましくは式[1]で表される基質に対して、0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜20質量%である。
【0082】
酵素はあまり多量に使用しても、コスト的に不利である。また、既に説明していたように、第一工程においては、式[2]の化合物が効率よく生成した時点で、効率よく反応を停止させることが、本発明の特に好ましい態様であるから、あまり多量の酵素を用いて急激な速度で反応を行うことは、必ずしも好ましくない。
【0083】
反応に使用する溶媒としては「水を含む溶媒」であれば殊更に限定されるものではないが、水(特に後述の通り、通常の生物の実験で使用される緩衝剤を溶解させた緩衝剤含有の水溶液(本明細書において緩衝液という。))が好ましく使用できる。また、水と共に、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、エタノール等のアルコール系有機溶媒(好ましくは炭素数1〜4のアルコール)を共溶媒として使用することもできる。
【0084】
第1工程の結果、生成する、式[3b]で表される光学活性体化合物ならびに、この化合物がさらに加水分解して生成する式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸はカルボン酸であることから、これらの生成は、反応液のpHを低下させる。特に基質濃度が高い場合には生成物のカルボン酸によりpHが大幅に低下し、酵素反応が阻害される場合があることから、pHを一定に保つことが好ましい。
【0085】
反応のpHは、酵素の安定に適したpHであればよく、好ましくは4.0〜10.0、より好ましくは5.0〜9.0であるが、酵素反応の結果、生じる光学活性体がアルカリ側のpHではラセミ化するため、好ましくはpH5.0〜7.0である。例えば、緩衝液を用いてpHを制御する方法や、pH自動制御装置を用いて水酸化ナトリウム等のアルカリを自動的に添加する方法が挙げられる。このうち、緩衝液を用いてpHを制御する方法は簡便であり、本発明の第1工程の反応を行う上では特に好ましい。
【0086】
多くの酵素は中性付近で活性を示すため、カコジル酸ナトリウム−塩酸緩衝液、マレイン酸ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、リン酸緩衝液、イミダゾール−塩酸緩衝液、2、4、6−トリメチルピリジン−塩酸緩衝液、トリエタノールアミン・塩酸−水酸化ナトリウム緩衝液、ベロナール−塩酸緩衝液、N−エチルモルフォリン−塩酸緩衝液、トリス緩衝液、グリシルグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液などpH5〜9で緩衝作用を有する緩衝液が採用できるが、酵素の安定に適した緩衝液であればよく、リン酸緩衝液は特に好ましいものの1つである。
【0087】
緩衝液の濃度は、0.01〜3mol/l(mol/dm)の範囲で使用できるが、好ましくは0.2〜2mol/l(mol/dm)である。なおここでいう「濃度」とは、リン酸根の濃度(下記化学種の濃度)を指す。
【0088】
【化16】
【0089】
不斉加水分解反応の温度は、酵素反応が円滑に進み、且つ基質により酵素が失活しない温度であればよく、好ましくは5〜70℃、より好ましくは10〜45℃である。一般に70℃以上の温度では酵素は変性するため70℃以上は不適であり、また、通常の微生物の生育温度は10〜45℃であるため、微生物由来の酵素の最適な温度域もこれに等しい。酵素の種類により最適な温度が予めわかっている場合は、上記以外の温度でも反応を実施することも可能である。
【0090】
反応の温度は、反応速度(変換率)と、得られる化学種の光学活性とが、バランスよく高くなる様に、当業者が上記範囲の中で、適宜設定することができる。
【0091】
反応を効率的に進めるには、反応液を撹拌しながら行うのがよく、モーターに連結された撹拌翼、マグネチックスターラー、振盪器、循環式カラムなどが利用できる。撹拌翼、マグネチックスターラー等を使用する場合は、撹拌回転数が50〜1000rpmで行うのが好ましい。
【0092】
前述のように、本発明の第1工程においては、反応を進めすぎると、式[2]で表される未反応生成物が過剰な加水分解を受ける場合があり、式[2]の収量は低下する。その結果、後述の「第3工程」(酸による加水分解)で得られる式[4]の目的物の収量も低下してしまう。
【0093】
他方、第1工程の反応を進めすぎると、式[3a]、式[3b]の化合物の光学純度が低下するという問題も生じる。光学純度の低い式[3a]、式[3b]の化合物を得ると、それらを後述の「第5工程」(酸による加水分解)に付すことによって得られる目的物質である式[4]の化合物の光学活性も低いものとなる。
【0094】
よって第1工程の加水分解反応は、適宜サンプリングを行い、反応混合物の組成をガスクロマトグラフィー等で測定し、式[2]の化合物の光学純度が目標の純度に達した時速やかに、又は式[3a]、式[3b]の光学純度が目標を下回らない時に、反応を止めることが好ましい。反応がモニタリングし易く、且つ工業的に採用できる反応時間としては、例えば、1時間〜3日間が採用できる。
【0095】
(2)[第2工程について]
次に第2工程について説明する。第2工程は、第1工程で得た反応混合物を精製し、酵素と反応しなかった方の立体異性体である、式[2]で表される光学活性3,3−ジフルオロ-2-アシル乳酸エステルを取り出す工程である。
【0096】
具体的方法は特に限定されるものではないが、例えば、蒸留や有機溶媒による抽出操作によって分離することができる。有機溶媒による抽出では、第1工程で得た反応混合物を有機溶媒(抽出溶媒)に接触させて、式[2]および式[3a]の光学活性体を有機層に回収し(式[3b]の化合物はカルボン酸であるため、水層中に残る)、次いで蒸留等慣用の手法によって式[2]および式[3a]の光学活性体を相互に分離する、という手段を挙げることができる。
【0097】
なお、この抽出操作を行うに際しては、水層中のpHを5以上とすると、式[3b]の化合物のカルボキシル基がアニオン(−COO)を形成し、有機層に抽出されにくいことから、一層好ましい。
【0098】
抽出溶媒は、水層と分離するものなら何でもよく、n−ヘプタン、n−ヘキサンのような脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエンのような芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素系、酢酸エチルのようなエステル系、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテルのようなエーテル系溶媒等が挙げられる。好ましくは、酢酸エチル、t−ブチルメチルエーテルである。
【0099】
抽出操作によって得た有機層はその後、蒸留等に付すことによって、式[2]の化合物および式[3a]の光学活性体とに分離することができる。本工程で重要なのは、式[2]の光学活性体化合物を式[3a]又は式[3b]の化合物から分離し、式[2]の化合物の存在量を有意に向上させることである。そうすることによって、次の第3工程おいて、目的とする式[4]の化合物の光学純度の低下を防止できる。なお、このような理由から、式[2]の化合物は必ずしも単離・精製まで行う必要はなく、抽出溶媒等の不純物が共存する状態で、次の第3工程に供してもよい。
【0100】
(3)[第3工程について]
次に第3工程について説明する。第3工程は、前記第2工程で得た、式[2]で表される化合物を酸性条件下で加水分解に付して、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得る工程である。
【0101】
この第3工程の反応として、酸を用いた加水分解を適用することで、既に式[2]の化合物において獲得されている高い光学純度を実質的に損なうことなく、加水分解を起こすことができることを、本発明者は見出した。これは、酵素を用いた不斉加水分解に比べると格段に安価である。加水分解に用いる酸性物質は、塩酸、硫酸、硝酸、塩素酸、過塩素酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸や、酢酸、クエン酸、ギ酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられるが、特に好ましくは、塩酸および硫酸、さらに好ましくは塩酸である。
【0102】
反応温度は反応が円滑に進行する温度であればよく、好ましくは25〜100℃である。反応後は濃縮することで目的物を単離できる。
なお、第3工程としては塩基を用いた加水分解も考えられるが、発明者らの検討によれば、反応を通じてラセミ化が徐々に起こって、式[4]の化合物の光学純度が低下するから、好ましくない。
【0103】
以上の操作によって、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を水溶性画分に得ることができ、第3工程により生じたアルコール類などの有機化合物については、抽出操作などにより除去することもできる。
【0104】
(4)[第4工程について]
第4工程について説明する。第4工程は、第1工程で得た反応混合物を精製し、式[3a]又は式[3b]の光学活性体化合物を取り出す工程である。具体的には、式[3a]又は式[3b]の光学活性体化合物を、さらなる加水分解を生じさせることなく、系内に残存した式[2]で表される化合物から分離する工程である。
【0105】
第4工程の分離・精製は、上記の目的に適う手段であれば、特に限定はされないが、式[3a]の化合物を回収する場合は、例えば、第1工程で得た反応混合物を抽出溶媒による抽出操作に付すことよって、式[2]と式[3a]の化合物を抽出溶媒中に回収し(カルボン酸である式[3b]の化合物を水層に残す)、次いで抽出溶媒中の式[2]の化合物と式[3a]の化合物を互いに分離し、式[3a]の化合物を取り出す、という方法を挙げることができる。
【0106】
抽出溶媒は、水層と分離するものなら何でもよく、n−ヘプタン、n−ヘキサンのような脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエンのような芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素系、酢酸エチルのようなエステル系、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテルのようなエーテル系溶媒等が挙げられる。好ましくは、酢酸エチル、t−ブチルメチルエーテルである。
【0107】
なお、この抽出操作を行うに際しては、水層中のpHは5以上とすると、式[3b]の化合物のカルボキシル基がアニオン(−COO)を形成し、有機層に抽出されにくいことから、一層好ましい。
【0108】
このようにして得た抽出液は、蒸留等の慣用の分離手段に付せば、式[2]の化合物と式[3a]の化合物とに分離できる。
【0109】
一方、第1工程の反応混合物から、式[3b]の化合物を回収する場合は、該反応混合物を、上述の通り、抽出溶媒による抽出操作に付し、式[2]の化合物と式[3a]の化合物を有機層に抽出した後、水層から式[3b]の化合物を分離・精製すればよい。具体的には該水層に塩酸等を加えて強酸性にすれば、[3b]の化合物のカルボキシル基がアニオン(−COO)状態から中性の基(−COOH)に戻り、有機溶媒による抽出が容易になるため、これを有機溶媒で抽出すれば、簡便に取り出すことができる。
【0110】
なお、第4工程で得られた式[3a]の化合物又は、式[3b]の化合物は、単体を完全に単離精製してから、続く第5工程に供してもよいが、抽出溶媒が共存する状態で第5工程に供しても問題ない。
【0111】
(5)[第5工程について]
次に第5工程について説明する。第5工程は、前記第4工程で得た式[3a]又は式[3b]の光学活性体化合物を酸性条件下でさらに加水分解に付して、式[4]で表される光学活性3,3−ジフルオロ乳酸を得る工程である。
【0112】
この第5工程の反応として、酸を用いた加水分解を適用すると、既に式[3a]又は式[3b]の化合物において獲得されている高い光学純度を実質的に損なうことなく、加水分解を起こすことができる。これは、酵素を用いた不斉加水分解に比べると格段に安価である。加水分解に用いる酸性物質は、塩酸、硫酸、硝酸、塩素酸、過塩素酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸や酢酸、クエン酸、ギ酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられるが、特に好ましくは、塩酸および硫酸、さらに好ましくは塩酸である。
【0113】
反応温度は反応が円滑に進行する温度であればよく、好ましくは25〜100℃である。反応後は濃縮することで目的物を単離できる。
【0114】
なお、第5工程としては塩基を用いた加水分解も考えられるが、発明者らの検討によれば、反応を通じてラセミ化が徐々に起こって、式[4]の化合物の光学純度が低下するから、好ましくない。
【0115】
(6)反応後の精製操作について
最後に、反応後の精製操作について説明する。
【0116】
第3工程および第5工程により得られた、式[4]で表される光学活性ジフルオロ乳酸は、その後再結晶や再沈殿等の操作により光学純度をさらに高めることが可能である。
【0117】
このうち、再沈殿を行う場合、使用する溶媒は、n−ヘプタン、n−ヘキサンのような脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエンのような芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素系、酢酸エチルのようなエステル系、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテルのようなエーテル系溶媒が挙げられるが、好ましくは酢酸エチル、ジイソプロピルエーテルである。これらの溶媒は単独又は組み合わせて用いることができる。例えば、光学活性3,3−ジフルオロ乳酸1gに対し、0.1ml(cm)〜50ml(cm)の溶媒を用いて加熱し、懸濁状態の液を形成し、その後冷却、ろ過することにより結晶を得ることができる。
【0118】
これらの再結晶や再沈殿操作は、上述の第1〜第5工程を経て、式[4]で表される光学活性ジフルオロ乳酸を得て、さらに光学純度を高めたい場合に、適宜実施すればよい。
【0119】
[本発明の特に好ましい態様について]
以下、本発明の特に好ましい態様を説明する。
【0120】
本発明の第1工程の原料として用いる、式[1]で表される「ラセミ又は光学純度の低い3,3−ジフルオロ−2−アシル乳酸エステル」としては、「ラセミ3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチル」が特に好ましいものの一つである。
【0121】
第1工程に用いる酵素として特に好ましいのは、リパーゼであり、中でもRhizomucor miehei由来、又は、Thermomyces lanuginosa由来のリパーゼが好ましい。不斉加水分解反応は、リン酸緩衝液の存在下に行い、該リン酸緩衝液の原液の濃度が0.2mol/l(mol/dm)〜2mol/l(mol/dm)であることが好ましい。該不斉加水分解反応の温度は10℃〜60℃であることが好ましく、pHが5.0〜9.0の条件で行うことが好ましい。
【0122】
前述の「ラセミ3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチル」を、Rhizomucor miehei由来、又は、Thermomyces lanuginosa由来のリパーゼを酵素として、不斉加水分解反応(第1工程)に付すと、不斉加水分解を受けない式[2]の化合物としては、「3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチルのS体」が生成する。これと同時に、不斉加水分解の反応生成物としては、式[3a]の化合物として「3,3−ジフルオロ乳酸エチルのS体」、式[3b]の化合物として、「3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸のR体」が、各々生成する。この反応系においては式[3b]の化合物にあたる「3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸のR体」がメジャーな生成物、式[3a]の化合物にあたる「3,3−ジフルオロ乳酸エチルのS体」がマイナーな生成物である。
【0123】
なお、この第1工程の反応において、式[4]で表される「3,3−ジフルオロ乳酸のS体」が僅かに生成するが、量はごく少ない。すでに述べたように、第1工程において式[4]で表される目的物の生成量を増やそうとして、不斉加水分解反応を継続し過ぎると、この化合物の光学純度が減少するばかりか、第1工程の主目的物である式[3a]の化合物、式[3b]の化合物、式[2]の化合物の、収率あるいは光学純度の低下を招くので、好ましくない。
【0124】
この系における第1工程で得られた反応混合物を、好ましくは水層のpHが5以上の状態で、抽出溶媒による抽出操作に付すと、有機層には、「3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチルのS体」(メジャー)と「3,3−ジフルオロ乳酸エチルのS体」(マイナー)が選択的に抽出される。一方、水層には、「3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸のR体」(メジャー)と「3,3−ジフルオロ乳酸のS体」(マイナー)が残る。
【0125】
この抽出操作で得られた有機層をさらに蒸留等の分離手段に付せば、メジャーな生成物である「3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチルのS体」を取り出すことができ、この場合、先の溶媒抽出操作と併せて、その分離操作全体が「第2工程」となる。
【0126】
「第2工程」で取り出した「3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチルのS体」をその後、「酸による加水分解(第3工程)」に付すと、実質的に光学純度を損なうことなく、式[4]で表される目的化合物として、「3,3−ジフルオロ乳酸のS体」を得ることができる。
【0127】
一方、前記抽出操作の結果、得られた水層には「3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸のR体」(メジャー)と「3,3−ジフルオロ乳酸のS体」(マイナー)が、カルボキシル基が主に「−COO」の状態になって溶存している。この水層に、塩酸などの強酸を加えると、両化合物の−COO基は、−COOHに戻り、有機溶媒に抽出しやすくなる。すなわち、「3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸のR体」を有機溶媒に抽出できる。続く慣用の精製手段(再結晶など)によって、その純度を高めることもできる(先の溶媒抽出操作と併せて、これら一連の操作が「第4工程」となる)。
【0128】
こうして取り出した「3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸のR体」を、酸性条件下の加水分解に付せば、実質的に光学純度を損なうことなく、式[4]で表される目的化合物として「3,3−ジフルオロ乳酸のR体」を得ることができる(第5工程)。なお、第4工程において、マイナーな生成物とはいえ「3,3−ジフルオロ乳酸のS体」が十分に除けない場合は、この物質の混在によって、第5工程によって生成する「3,3−ジフルオロ乳酸のR体」の光学純度(ee)を押し下げる結果となる。よって、可能な限り、マイナーな「3,3−ジフルオロ乳酸のS体」は精製によって除去してから、第5工程を実施した方がよい。但し、マイナーな「3,3−ジフルオロ乳酸のS体」を敢えて除去しないで、第5工程を実施してもよい(その場合、第5工程後の上述の「反応後の精製操作」によって、目的物の光学純度を高めることができる)。
【0129】
第3工程で得られた「3,3−ジフルオロ乳酸のS体」、第5工程で得られた「3,3−ジフルオロ乳酸のR体」は、「反応後の精製操作」すなわち、再結晶又は再沈殿のうち少なくとも1つの精製手段に付すことによって、各々、さらに光学純度を高めることができる。
【0130】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0131】
[実施例1〜2]
[酵素による不斉加水分解反応]
0.85mol/l(mol/dm)に調製したリン酸緩衝液(pH7.0)3ml(cm)に各市販酵素0.03gをそれぞれ溶解し、およそ300μl(mm)のラセミ3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチルをそれぞれ添加した。25℃で、攪拌しながら1日間反応を行った。後述の分析条件で分析した光学純度と生成量の結果を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
このように、ラセミ3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチルを原料とし、これに加水分解酵素を接触させ、不斉加水分解反応を行うと、加水分解を受けない異性体
【0134】
【化17】
【0135】
が有意に高い光学純度で残存することがわかった。これと共に、加水分解を受けた方の異性体が、
【0136】
【化18】
【0137】
の形で、やはり高い光学純度で系内に生成することがわかった。これらの化学種の高い光学純度は、後述の比較例1〜5に比較しても明らかである。
【0138】
一方、次の2つの化学種
【0139】
【化19】
【0140】
【化20】
【0141】
は、生成量としては、上記2つの化学種に比べて少ないが、これらも、光学純度が有意に高い状態で生成していることがわかる。
【0142】
[比較例1〜5](基質:ラセミ3,3−ジフルオロ乳酸エチル)
0.85mol/l(mol/dm)に調製したリン酸緩衝液(pH7.0)0.5ml(cm)に各市販酵素0.005gをそれぞれ溶解し、凡そ50μl(mm)のラセミ3,3、−ジフルオロ乳酸エチルをそれぞれ添加した。25℃で、攪拌しながら1日間反応を行った。後述の分析条件で分析した光学純度と生成量の結果を表2に示す。
【0143】
【表2】
【0144】
このように、ラセミ体の3,3−ジフルオロ乳酸エチルを原料基質として設定した「比較例1〜5」においても、加水分解反応は進行し、加水分解を受けない異性体が生成し、
【0145】
【化21】
【0146】
これと共に、加水分解を受けた方の異性体
【0147】
【化22】
【0148】
が生成することが確認された。しかし、その酵素の立体選択性は「実施例」に比べて低く、この反応では光学純度を効率よく高めるのは難しいことがわかった。
【0149】
[実施例3]
0.85mol/l(mol/dm)リン酸バッファー200ml(cm)に、ラセミ3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチル20g(101mmol)、Lipozyme(登録商標)RM IMを4g加え、25℃で反応した。88時間後、未反応原料である3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチルの光学純度が十分高くなったので、反応を停止した。反応後、MTBE(t−ブチルメチルエーテル)により抽出を行った。有機層には、3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチル37mmol(99.0%ee(S))と3,3−ジフルオロ乳酸エチル1.8mmol(84.2%ee(S))を回収した。水層には、3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸54mmol(78.7%ee(R))と3,3−ジフルオロ乳酸5.1mmol(0.4%ee(S))を回収した。
【0150】
次いで、上記水層に、濃塩酸13.5ml(cm)を加え、MTBEにより抽出を行った。その結果、3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸(R体)41mmol、3,3−ジフルオロ乳酸(S体)3.7mmolを回収した。これを濃縮し、濃塩酸0.3ml(cm)、水1.6g加え、65℃で1日間加水分解反応を行い、目的物である3,3−ジフルオロ乳酸を得た(76%ee(R))。
【0151】
このように、3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸(R体)を、濃塩酸を用いて加水分解することにより、実質的に光学純度を低下させることなく、目的物質に誘導できることが明らかとなった。
【0152】
なお、本実施例では、マイナーな3,3−ジフルオロ乳酸(S体)を敢えて分離することなく、「酸による加水分解」を実施しているので、最終生成物3,3−ジフルオロ乳酸(R体)の光学純度は中程度の高さとなっている。しかし、このレベルにまで光学純度が上がっていれば、目的物の光学純度は、その後の精製操作(実施例4を参照)によって、十分高めることができる。
【0153】
[実施例4]
3,3−ジフルオロ乳酸(78%ee(R))4.3gに酢酸エチル0.8ml(cm)を加え、35℃で10分間撹拌した。スラリー状態になった後、氷水中で冷却し、ろ過により結晶を回収した。得られた結晶は1.3g(95%ee(R))であった。
このように、78%eeの光学純度を持つ3,3−ジフルオロ乳酸を、酢酸エチルを用いた再沈殿という簡易な方法に付すだけで、光学純度をさらに著しく向上できることが明らかとなった。
【0154】
[分析条件]
3,3−ジフルオロ乳酸エステルの光学純度分析:3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチル、3,3−ジフルオロ乳酸エチルの光学純度はガスクロマトグラフィー法にて測定した。また、3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸、3,3−ジフルオロ乳酸はTMSジアゾメタンによりメチルエステル化した後、光学純度をガスクロマトグラフィー法にて測定した。
カラム:BGB(30m×0.25mm×0.25μm)(BGB Analytik AG製)
温度条件:50℃(5min)→5℃/min→150℃(5min)
注入口温度:230℃
検出器温度:230℃
[各エナンチオマーの保持時間]
3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸エチル:R体16.7min、S体16.3min
3,3−ジフルオロ乳酸エチル:R体19.7min、S体20.6min
3,3−ジフルオロ−2−アセチル乳酸:R体15.8min、S体15.0min
3,3−ジフルオロ乳酸:R体20.2min、S体21.6min
不斉加水分解反応で生成した光学活性3,3−ジフルオロ乳酸誘導体の生成量はベンゾトリフルオリドを内部標準物質として、19F−NMR分析により求めた。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明で対象とする光学活性ジフルオロ乳酸は、各種光学活性ジフルオロ乳酸に誘導でき、これらは医農薬中間体として利用できる。