(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一時的な欠陥の多発やNOx浄化率の低い運転状態が継続すると、SCRに実際に吸着されているNH3実吸着量がNH3推定吸着量よりも多くなる場合がある。このような状態でNH3推定吸着量に基づいた尿素水噴射制御を実行すると、尿素水噴射量がSCRのNH3吸着能力に対して過大となり、余剰のNH3が放出されるいわゆるNH3スリップを引き起こす可能性がある。
【0005】
また、尿素水噴射量が過大になると、SCRで処理しきれなかった尿素水の一部が排気管やSCRに付着して、排気管腐食やSCRの性能劣化等を引き起こす可能性もある。
【0006】
本発明の目的は、NH3推定吸着量とNH3実吸着量との乖離を効果的に抑制することで、過剰な尿素水噴射によるNH3スリップを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明の排気浄化システムは、内燃機関の排気通路に設けられて尿素水から生成されるアンモニアを還元剤として排気中のNOxを浄化する選択的還元触媒と、前記選択的還元触媒よりも上流側の排気通路に尿素水を噴射する尿素水噴射手段と、前記選択的還元触媒に吸着されているアンモニアの推定吸着量を算出する推定吸着量算出手段と、前記推定吸着量に基づいて前記尿素水噴射手段の噴射制御を実行する噴射制御手段と、前記選択的還元触媒に吸着されているアンモニアの実吸着量と前記推定吸着量とに乖離が生じ得る所定条件が成立した場合に、前記噴射制御に用いられている前記推定吸着量を所定量増減した値に変更する推定吸着量変更手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記選択的還元触媒のNOx浄化率が前記推定吸着量の増減によって低下したか否かを判定する浄化率低下判定手段と、前記浄化率低下判定手段がNOx浄化率を低下していないと判定した場合に、前記推定吸着量変更手段によって変更された値を維持する推定吸着量維持手段とをさらに備えることが好ましい。
【0009】
また、前記浄化率低下判定手段がNOx浄化率を低下したと判定した場合に、前記推定吸着量変更手段によって変更された値を変更前の値に戻す推定吸着量補正手段をさらに備えることが好ましい。
【0010】
また、前記浄化率低下判定手段がNOx浄化率を低下したと判定した場合に、前記推定吸着量変更手段によって変更された値を現在のNOx浄化率に基づいて算出した推定吸着量に補正する推定吸着量補正手段をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の排気浄化システムによれば、NH3推定吸着量とNH3実吸着量との乖離を効果的に抑制することで、過剰な尿素水噴射によるNH3スリップを防止することことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る排気浄化システムを説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0014】
図1に示すように、ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)10の吸気マニホールド10aには吸気通路11が接続され、排気マニホールド10bには排気通路12が接続されている。この排気通路12には、排気上流側から順に、前段後処理装置30、後段後処理装置40等が設けられている。
【0015】
なお、
図1中において、符号20はエンジン回転数センサ、符号21はアクセル開度センサ、符号22はMAFセンサ、符号23は排気温度センサ、符号24はNOxセンサを示している。これら各種センサ20〜24のセンサ値は、電気的に接続された電子制御ユニット(以下、ECUという)50に送信される。
【0016】
前段後処理装置30は、触媒ケース30a内に上流側から順に酸化触媒(以下、DOC)31、DPF32を配置して構成されている。また、DOC31よりも上流側の排気通路12には、燃料噴射装置(燃料添加弁)33が設けられている。
【0017】
燃料噴射装置33は、ECU50から入力される指示信号に応じて、排気通路12内に未燃燃料(主にHC)を噴射する。なお、エンジン10の多段噴射によるポスト噴射を用いる場合は、この燃料噴射装置33を省略してもよい。
【0018】
DOC31は、例えば、コーディエライトハニカム構造体等のセラミック製担体表面に触媒成分を担持して形成されている。DOC31は、燃料噴射装置33又はポスト噴射によってHCが供給されると、これを酸化して排気温度を上昇させる。
【0019】
DPF32は、例えば、多孔質性の隔壁で区画された多数のセルを排気の流れ方向に沿って配置し、これらセルの上流側と下流側とを交互に目封止して形成されている。DPF32は、排気中のPMを隔壁の細孔や表面に捕集すると共に、PM堆積量が所定量に達すると、これを燃焼除去するいわゆる強制再生が実行される。強制再生は、燃料噴射装置33又はポスト噴射によってDOC31に未燃燃料(HC)を供給し、DPF32に流入する排気温度をPM燃焼温度まで昇温することで行われる。
【0020】
後段後処理装置40は、ケース40a内に収容されたSCR41を備えて構成されている。また、SCR41よりも上流側の排気通路12には、尿素水噴射装置60が設けられている。
【0021】
尿素水噴射装置60は、ECU50から入力される指示信号に応じて尿素添加弁61を開閉動作させることで、SCR41よりも上流側の排気通路12内に、尿素水タンク62内から尿素水ポンプ63によって圧送される尿素水を噴射する。噴射された尿素水は排気熱により加水分解されてNH3が生成され、下流側のSCR41に還元剤として供給される。
【0022】
SCR41は、例えば、ハニカム構造体等のセラミック製担体表面にゼオライト等を担持して形成されており、多孔質性の隔壁で区画された多数のセルを備えて構成されている。SCR41は、還元剤として供給されるNH3を吸着すると共に、吸着したNH3で通過する排気中からNOxを選択的に還元浄化する。
【0023】
ECU50は、エンジン10や燃料噴射装置33、尿素水噴射装置60等の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。
【0024】
また、ECU50は、推定吸着量算出部51と、尿素水噴射制御部52と、推定吸着量変更部53と、浄化率低下判定部54と、推定吸着量維持部55と、推定吸着量補正部56とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアであるECU50に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0025】
推定吸着量算出部51は、SCR41に現在吸着されているNH3量(以下、推定吸着量NH3
_ESTという)を算出する。より詳しくは、各種センサ20〜23で検出されるエンジン10の運転状態に基づいて、エンジン10から排出される排気中のNOx値(以下、SCR入口NOx値という)を算出する。さらに、SCR入口NOx値とNOxセンサ24で検出されるSCR出口NOx値とに基づいて、SCR41のNOx浄化率を算出すると共に、このNOx浄化率からSCR41によって消費されたNH3総消費量を算出する。そして、NH3総消費量をSCR41に供給されたNH3総供給量から減算することで、現在の推定吸着量NH3
_ESTを算出する。なお、推定吸着量NH3
_ESTの算出方法としては、他の公知の算出方法を用いることもできる。
【0026】
尿素水噴射制御部52は、推定吸着量算出部51によって算出された推定吸着量NH3
_ESTに基づいて、尿素水噴射装置60の尿素水噴射を制御する。より詳しくは、ECU50には、予め作成したSCR41の内部温度と、NH3目標吸着量との関係を示す温度吸着量マップ(
図2参照)が記憶されている。尿素水噴射制御部52は、この温度吸着量マップから、排気温度センサ23のセンサ値T
_SCRINに対応する目標吸着量NH3
_TAGと推定吸着量NH3
_ESTとの偏差ΔNH3を読み取ると共に、偏差ΔNH3に相当する尿素水量の噴射指示信号を尿素水噴射装置60に送信する。なお、
図2に示す温度吸着量マップは、SCR41の内部温度とNH3目標吸着量と、排気流量との関係を示す三次元マップを用いてもよい。
【0027】
推定吸着量変更部53は、推定吸着量NH3
_ESTとSCR41に実際に吸着されているNH3実吸着量とに乖離が生じ得る所定条件が成立した場合に、尿素水の噴射制御に用いられている推定吸着量NH3
_ESTを所定量αほど増加させる変更制御を実行する(以下、増加後の値を吸着量変更値NH3
_EST+αという)。このような変更制御が実行されると、温度吸着量マップ(
図2)から読み取られる偏差ΔNH3が小さくなり、尿素水噴射装置60の尿素水噴射量も減少する。
【0028】
なお、所定条件としては、例えば、DPF32の強制再生実施後、エンジン10の運転時間が所定の長時間を経過した場合、SCR41によるNOx浄化率の低下が所定時間継続した場合又は、一時的な欠陥が所定回数以上多発した場合等が該当する。また、変更制御に用いる所定量αとしては、予め設定した特定倍率(例えば、約0.1%)又はオフセット量(例えば、約0.1g)を増加させることが好ましい。
【0029】
浄化率低下判定部54は、推定吸着量NH3
_ESTの増加後にSCR41のNOx浄化率が低下したか否かを判定する。増加前後のSCR41のNOx浄化率は、NOxセンサ24で検出されるSCR出口NOx値をエンジン10の運転状態から算出したSCR入口NOx値で除算することで求めればよい。
【0030】
推定吸着量維持部55は、浄化率低下判定部54によってNOx浄化率が低下していないと判定された場合に、尿素水の噴射制御に用いられている変更後の吸着量変更値NH3
_EST+αを上述の所定条件が再度成立するまで維持させる維持制御を実行する。推定吸着量NH3
_ESTを増加させてもNOx浄化率が低下しないときは、増加後の吸着量変更値NH3
_EST+αが実際のNH3吸着量に近いと考えられる。このような場合に維持制御を実行することで、尿素水噴射量の最適化が図られ、NH3スリップを効果的に防止することが可能になる。
【0031】
推定吸着量補正部56は、浄化率低下判定部54によってNOx浄化率が低下したと判定された場合に、尿素水の噴射制御に用いられている変更後の吸着量変更値NH3
_EST+αを変更前の推定吸着量NH3
_ESTに戻す補正制御を実行する。推定吸着量NH3
_ESTの増加によってNOx浄化率が低下した場合は、増加前の推定吸着量NH3
_ESTが実際のNH3吸着量に近かったと考えられる。このような場合に増加前の値に戻す補正制御を実行することで、噴射水噴射量の最適化が図られ、NH3スリップを効果的に防止することが可能になる。なお、吸着量変更値NH3
_EST+αを現在のNOx浄化率から算出した新たな吸着量更新値NH3
_REVに補正するように構成してもよい。
【0032】
次に、
図3に基づいて、本実施形態の排気浄化システムによる制御フローを説明する。なお、
図3のフローは、尿素水噴射制御部52による噴射制御と並行して実行される。
【0033】
ステップ(以下、ステップを単にSと記載する)100では、SCR41に吸着されている推定吸着量NH3
_ESTが算出される。算出された推定吸着量NH3
_ESTは、尿素水噴射制御部52の噴射制御に用いられる。
【0034】
S110では、S100で算出した推定吸着量NH3
_ESTと、SCR41に実際に吸着されているNH3実吸着量とに乖離が生じ得る所定条件が成立したか否かが判定される。所定条件が成立した場合(Yes)、本制御はS120に進む。
【0035】
S120では、尿素水の噴射制御に用いられている推定吸着量NH3
_ESTを所定量αほど増加させて吸着量変更値NH3
_EST+αにする変更制御が実行される。
【0036】
S130では、変更制御によってSCR41のNOx浄化率が低下したか否かが判定される。NOx浄化率が低下した場合(Yes)は、変更前の推定吸着量NH3
_ESTが実際のNH3吸着量に近かったと考えられるため、本制御はS140に進み、吸着量変更値NH3
_EST+αをS110で算出した推定吸着量NH3
_ESTに戻す補正、又は、現在のNOx浄化率から算出される新たな吸着量更新値NH3
_REVに更新する補正が実行されてリターンされる。
【0037】
一方、上述のS130でNOx浄化率が低下していないと判定された場合(No)は、変更後の吸着量変更値NH3
_EST+αが実際のNH3吸着量に近いと考えられるため、本制御はS150に進み、噴射制御に用いられている吸着量変更値NH3
_EST+αを維持する制御が実行されてリターンされる。
【0038】
次に、本実施形態に係る排気浄化システムの作用効果を説明する。
【0039】
SCR41のNOx浄化率の低下が所定時間継続した場合や一時的な欠陥が多発すると、推定吸着量NH3
_ESTとNH3実吸着量とに乖離を生じさせる可能性がある。このような状態で尿素水噴射を継続すると、尿素水噴射量が過大となり、NH3スリップを引き起こす問題がある。
【0040】
本実施形態の排気浄化システムでは、推定吸着量NH3
_ESTとNH3実吸着量とに乖離を生じさせ得る所定条件が成立すると、尿素水の噴射制御に用いられる推定吸着量NH3
_ESTを所定量αほど増加させる変更制御が実行される。そして、NOx浄化率が低下しない場合は、変更後の吸着量変更値NH3
_EST+αを維持する一方、NOx浄化率が低下した場合は、変更前の推定吸着量NH3
_ESTに戻すことで、実際のNH3吸着量と乖離の少ない値を用いた噴射制御が実現されるように構成されている。したがって、本実施形態の排気浄化システムによれば、尿素水噴射量の最適化を図ることが可能となり、NH3スリップを効果的に防止することができる。また、尿素水の過剰噴射が抑止されるため、尿素水付着等によって引き起こされる排気管腐食やSCR41の性能劣化等を効果的に防止することもできる。
【0041】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0042】
例えば、推定吸着量変更部53は、推定吸着量NH3
_ESTを所定量α増加させるものとして説明したが、推定吸着量NH3
_ESTを所定量α減少させるように構成してもよい。また、エンジン10はディーゼルエンジンに限定されず、ガソリンエンジン等の他の内燃機関にも広く適用することが可能である。