特許第6287564号(P6287564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6287564-トナー用ワックス組成物 図000006
  • 特許6287564-トナー用ワックス組成物 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287564
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】トナー用ワックス組成物
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
   G03G9/08 365
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-101193(P2014-101193)
(22)【出願日】2014年5月15日
(65)【公開番号】特開2015-219297(P2015-219297A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】上村 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗宏
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−288488(JP,A)
【文献】 特開2009−288403(JP,A)
【文献】 特開平07−098511(JP,A)
【文献】 特開2002−212142(JP,A)
【文献】 特開2006−188467(JP,A)
【文献】 特開2014−026257(JP,A)
【文献】 特開2004−354811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00 − 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンタエリスリトールと炭素数16〜24の一価の直鎖飽和脂肪酸とから得られる脂肪酸エステルと、炭素数16〜24の一価の直鎖飽和脂肪酸と炭素数16〜24の一価の直鎖飽和アミンとから得られ、総炭素数が32〜42である脂肪酸アミドとを含有し、前記脂肪酸エステルと前記脂肪酸アミドとの質量比が97:3〜80:20であるトナー用ワックス組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、レーザープリンタなどの電子写真法や静電記録法などで記録される静電荷像の現像に好適に用いられるトナー用ワックス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のプリンタ、ファクシミリ、およびこれらの機能を有する複写機に用いるトナーは、主成分となる熱可塑性樹脂の他に、着色剤(カーボンブラック、磁性粉、顔料など)、荷電制御剤、ワックスを含み、必要に応じて、流動性付加剤、クリーニング助剤、転写助剤を含む。
トナーは、定着工程において定着ロールによる加熱を受けて軟化し、且つ定着ロールによる圧力を受けることにより記録媒体表面に定着して画像が形成される。トナーに含まれるトナー用ワックスは、定着時に融解して液体となり、トナー表面に染み出して離型剤として働き、トナーが定着ロールに残存すること(フィルミング)を防止するとともに、熱可塑性樹脂の軟化を促進して定着性を向上させる機能を有する。
【0003】
トナーワックスとしては、ポリプロピレンワックスやポリエチレンワックスが知られており、これらのワックスを使用したトナーが一般に使用されている。しかし、近年の環境意識の高まりから、複写機などには消費電力を低減するために、低温定着に対応したトナーが求められており、ワックスについては低温で融解して機能する低融点ワックスが求められている。ポリプロピレンワックスやポリエチレンワックスは、軟化点が100〜150℃程度であり、低温で融解し難いことから、これらのワックスを使用したトナーは低温定着性に問題がある。
【0004】
トナーの低温定着性を改良する方法として、トナー樹脂との親和性が高い脂肪酸アミドワックスを使用する方法が挙げられる。
例えば、特許文献1には、離型剤としてエチレンビスステアリン酸アミドワックスを使用し、低温定着性や離型性に優れるポリエステル樹脂を用いたトナーが開示され、特許文献2には、高精製のステアリン酸ステアリルアミドワックスを用い、臭気や着色を防止することを目的としたトナーが開示されている。
これらの脂肪酸アミドワックスは、トナー樹脂に馴染み易く、低温定着性に優れる一方、トナー樹脂との組み合わせや添加量によっては、トナー樹脂を軟化しすぎるので、トナー保存時のブロッキングやホットオフセット等の問題を生じることがある。
【0005】
また、特許文献3には、ペンタエリスリトールと炭素数1〜30の脂肪酸とから得られる脂肪酸エステルワックスを用いたトナーが開示されている。これらの脂肪酸エステルワックスは、低融点であることから低温定着性に優れるとともに、耐ブロッキング性や耐オフセット性にも優れる。
しかし、これらの脂肪酸エステルワックスの中には、冷却条件によってはワックスが複数の結晶状態をとるものがある。具体的には、ワックスを徐冷して固めた場合には、エネルギー的に最も安定な結晶状態をとり白色となるが、急冷した場合には、上記の結晶状態に加え、準安定な結晶状態をとることによって透明となる部分があり、白色部分と透明部分が不均一に分布する状態となるものがある。
【0006】
電子写真方式における印刷では、上述のとおり、紙などの記録媒体に付着したトナーが定着ロールで加熱、加圧された後、定着ロールから離れ、冷却されることによって画像を形成する。それゆえ、装置の設計によっては画像表面上で冷却スピードが異なる部分を生じることがあるので、冷却条件によって複数の結晶状態をとるワックスを用いた場合、トナー表面に染み出たワックスの結晶状態が不均一となり、このワックスの外観の違いにより、画像に光沢ムラが生じることがある。
【0007】
また、電子写真方式の印刷では、従来よりも高速で印刷を可能とする高速印刷が求められている。高速印刷、特に高速で両面印刷を行う際には、トナーワックスが素早く融解するだけでなく、素早く凝固して画質のずれや紙同士の融着を防ぐことが求められる。特許文献3の脂肪酸エステルワックスの中には、いわゆる過冷却により融点よりも凝固点が大幅に低下するものがある。そのため、高速印刷の場合には、上記ワックスが素早く固化せず、画質のバラツキや紙詰まりなどの問題が生じる場合がある。
【0008】
このように、電子写真法や静電記録法などで使用されるトナー用ワックスにおいては、トナーに低温定着性を付与することができるとともに、急冷しても結晶状態が変化し難く、素早く固化することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−328043号公報
【特許文献2】特開2006−188467号公報
【特許文献3】特開平7−98511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、トナーに低温定着性を付与することができるとともに、光沢ムラが生じ難い高画質を得ることができ、高速印刷や両面印刷に対応することができるトナー用ワックス組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定構造の脂肪酸エステルと特定構造の脂肪酸アミドを特定の割合で配合することで、脂肪酸エステル単独の場合よりも凝固点が上昇し、且つ、均一な結晶を有するワックス組成物が得られることを見出した。そして、本ワックス組成物をトナー用ワックスとして使用した場合に、トナーに低温定着性を付与することができるとともに、光沢ムラが生じ難く,高速印刷時や両面印刷時においても優れた画質が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、ペンタエリスリトールと炭素数16〜24の一価の直鎖飽和脂肪酸とから得られる脂肪酸エステルと、炭素数16〜24の一価の直鎖飽和脂肪酸と炭素数16〜24の一価の直鎖飽和アミンとから得られ、総炭素数が32〜42である脂肪酸アミドとを含有し、前記脂肪酸エステルと前記脂肪酸アミドとの質量比が97:3〜80:20であるトナー用ワックス組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトナー用ワックス組成物は、融点が低く低温で融解し易いことから、トナーに低温定着性を付与することができる。また、脂肪酸エステル単独の場合よりも、均一な結晶状態をとり易いので、光沢ムラの生じ難い画質が得られるとともに、凝固点を上昇させることができるので、高速印刷時や両面印刷時において素早く均一に固化し、良好な画質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は実施例で用いた脂肪酸エステルA1の昇温時のDSCチャートである。
図2図2は実施例1のトナー用ワックス組成物の昇温時のDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明のトナー用ワックス組成物は、下記に示す脂肪酸エステルと脂肪酸アミドを含有する。
【0016】
〔脂肪酸エステル〕
本発明における脂肪酸エステルは、ペンタエリスリトールと炭素数16〜24の一価の直鎖飽和脂肪酸とから得られるエステルワックスである。
本発明におけるペンタエリスリトールは、通常、単品で使用することができ、例えば工業品として一般に市販されるものも使用することができる。なお、以下ではペンタエリスリトールをアルコールとも言う。
【0017】
本発明における一価の直鎖飽和脂肪酸は、炭素数が16〜24であり、好ましくは炭素数が16〜22である。一価の直鎖飽和脂肪酸の炭素数が16未満である場合には、得られる脂肪酸エステルの融解開始温度が低くなり、トナー保存時にブロッキングを引き起こすことがある。また炭素数が24を超える場合には、脂肪酸エステルの融解時においてトナー表面への染み出し性が劣り、定着ロールからの離型性が低下することがある。
一価の直鎖飽和脂肪酸の例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸などが挙げられる。これらの直鎖飽和脂肪酸を単独で使用しても良く、または複数を併せて使用しても良い。
【0018】
本発明における脂肪酸エステルの製造法としては、例えば、アルコールと脂肪酸とからの脱水縮合反応を利用する方法が挙げられる。反応の際には触媒を使用しても良く、触媒としては、酸性または塩基性触媒を使用することができ、例えば、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、チタン化合物、スズ化合物などが挙げられる。反応させる際には、脂肪酸とアルコールとを等モル比で、あるいは一方の成分を過剰に添加し反応させる。その後、再結晶法、蒸留法、溶剤抽出法、吸着処理法などにより高純度化させても良い。
【0019】
本発明における脂肪酸エステルは、トナーの保存安定性の点で、酸価は5mgKOH/g以下が好ましく、さらには1mgKOH/g以下が好ましく、特に0.5mgKOH/g以下が好ましい。また、水酸基価は10mgKOH/g以下が好ましく、さらには5mgKOH/g以下が好ましく、特に3mgKOH/g以下が好ましい。
なお、酸価はJOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠して測定することができ、水酸基価はJOCS(日本油化学会)2.3.6.2-1996に準拠して測定することができる。
【0020】
本発明における脂肪酸エスエステルの融点は60〜90℃が好ましく、さらに好ましくは65〜85℃である。脂肪酸エステルの融点は、示差走査熱量分析計(DSC)を用いて測定することができる。
【0021】
なお、本発明における脂肪酸エステルは、単独でまたは複数を併せて使用することができる。
【0022】
〔脂肪酸アミド〕
本発明における脂肪酸アミドは、一価の直鎖飽和脂肪酸と一価の直鎖飽和アミンとから得られる脂肪酸アミドである。
本発明における一価の直鎖飽和脂肪酸は、炭素数が16〜24であり、好ましくは炭素数が16〜18である。一価の直鎖飽和脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。一価の直鎖飽和脂肪酸の炭素数が16〜24を満たさない場合には、トナー用ワックス組成物として用いた際に、均一な結晶状態が得られないことがある。
【0023】
本発明における一価の直鎖飽和アミンは、炭素数が16〜24であり、好ましくは炭素数が16〜22である。一価の直鎖飽和アミンとしては、例えば、パルミチルアミン、ステアリルアミン、アラキジルアミン、ベヘニルアミンなどが挙げられる。一価の直鎖飽和アミンの炭素数が16〜24を満たさない場合には、トナー用ワックス組成物として用いた際に、均一な結晶状態が得られないことがある。
【0024】
上記一価の直鎖飽和脂肪酸と上記一価の直鎖飽和アミンとから得られる脂肪酸アミドは、総炭素数が32〜42であり、好ましくは総炭素数が34〜38であり、さらに好ましくは総炭素数が36である。脂肪酸アミドの総炭素数が32〜42を満たさない場合には、トナー用ワックス組成物として用いた際に、均一な結晶状態が得られないことがある。特に脂肪酸アミドの総炭素数が36である場合には、凝固点を上昇させる効果がより顕著なものとなる。
【0025】
本発明における脂肪酸アミドの製造法としては、例えば、一価の直鎖飽和脂肪酸と一価の直鎖飽和アミンとからの脱水縮合反応を利用する方法等が挙げられる。反応させる際には、一価の直鎖飽和脂肪酸と一価の直鎖飽和アミンとを等モル比で、あるいは一方の成分を過剰に添加し反応させる。例えば、直鎖飽和アミンに対する直鎖飽和脂肪酸の過剰率(直鎖飽和脂肪酸のモル/直鎖飽和アミンのモル)はモル比で0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1である。その後、再結晶法、蒸留法、溶剤抽出法、吸着処理法などにより高純度化させても良い。
【0026】
本発明における脂肪酸アミドは、トナーの保存安定性や帯電性の点で、酸価は15mgKOH/g以下が好ましく、さらには10mgKOH/g以下が好ましく、特に8mgKOH/g以下が好ましい。また、アミン価は15mgKOH/g以下が好ましく、さらには10mgKOH/g以下が好ましく、特に3mgKOH/g以下が好ましい。
なお、酸価はJOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠して測定することができ、アミン価はJSQI(医薬部外品原料規格)一般試験法3.2-2006に準拠して測定することができる。
【0027】
〔トナー用ワックス組成物〕
本発明のトナー用ワックス組成物は、上記脂肪酸エステルと上記脂肪酸アミドとを含有し、その質量比は97:3〜80:20であり、好ましくは97:3〜90:10である。脂肪酸アミドの質量比が3未満の場合には、トナー用ワックス組成物として用いた際に、均一な結晶状態が得られないことがある。また脂肪酸アミドの質量比が20を超える場合には、均一な結晶状態を得られないことがあり、また、トナー樹脂を軟化しすぎて、トナーのブロッキングやホットオフセット等の問題が生じることがある。
【0028】
本発明のトナー用ワックス組成物は公知の方法により製造することができる。例えば、脂肪酸エステルと脂肪酸アミドをそれぞれ製造した後に、規定の質量比となるように脂肪酸エステルと脂肪酸アミドを配合しても良いし、規定の質量比になるように原料アルコール、原料脂肪酸、原料アミンの量を調整して一括製造しても良い。脂肪酸エステルと脂肪酸アミドをそれぞれ製造した後に配合してトナー用ワックス組成物を製造する方法については、脂肪酸アミドの融点以上に加熱した上で、均一に混合した後に、冷却、粉砕等を行うことが品質のバラつき防止の観点から好ましい。
【0029】
本発明のトナー用ワックス組成物に含有される脂肪酸エステル単独では、固化時に複数の結晶状態をとるのでトナーの光沢ムラを発生させることがある。しかしながら、本発明のトナー用ワックス組成物では、光沢ムラが発生し難い。
トナーの光沢ムラは、トナー用ワックスの最安定な結晶状態と準安定な結晶状態という複数の結晶状態をとることによって起こる。複数の結晶状態をとった脂肪酸エステルの昇温条件下で測定したDSCチャートでは、融解に伴う吸熱ピークに加えて、その融点よりも低温側に準安定な結晶状態の結晶転移に伴う吸熱と発熱ピークが現れるので、結晶状態はDSCによる測定で判断することができる。
また、本発明のトナー用ワックス組成物によれば、脂肪酸エステル単独の場合よりも凝固点を上昇させることができる。本発明のトナー用ワックス組成物の凝固点は、好ましくは50〜75℃であり、さらに好ましくは55〜70℃である。
さらに、本発明のトナー用ワックス組成物は、脂肪酸エステル単独の場合と融点が概ね同じであるので、トナーに低温定着性を付与することができる。本発明のトナー用ワックス組成物の融点は、好ましくは60〜90℃であり、さらに好ましくは65〜85℃である。
【0030】
このように本発明のトナー用ワックス組成物は、融点が脂肪酸エステル単独のエステルワックスの融点と概ね同じであるので、トナーに低温定着性を付与することができる。また、本発明のトナー用ワックス組成物によれば、冷却条件によらず均一な結晶状態をとるので、光沢ムラが生じ難く、脂肪酸エステル単独の場合よりも凝固点を上昇させることがきるので、高速印刷時や両面印刷時において溶融後に素早く均一に固化することができる。したがって、本発明のトナー用ワックス組成物をトナー用ワックスとして使用した場合、低温定着化、高画質化、高速印刷化に適応したトナーを調製することができる。
【0031】
本発明のトナー用ワックス組成物は、ポリエステルやスチレンアクリル等のバインダー樹脂、着色剤、外添剤、荷電制御剤などとともに配合され、通常の製法によってトナーが製造される。トナー中における本発明のトナー用ワックス組成物の配合量は、バインダー樹脂100質量部に対して、通常、0.1〜40質量部である。
【実施例】
【0032】
以下に本発明のトナー用ワックス組成物の製造例、およびその評価方法を示すことで、本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の実施例および比較例において、「%」は質量部を示す。
【0033】
〔脂肪酸エステルA1の製造〕
窒素導入管、撹拌羽、冷却管を取り付けた5L容の4つ口フラスコに、ペンタエリスリトール180g(1.32mol)、ステアリン酸1540g(5.54mol)を加え、窒素気流下、生成水を留去しながら、220℃で10時間反応した。酸価は6.7mgKOH/gであった。
トルエン、2−プロパノールおよび10%水酸化カリウム水溶液を用いて、粗生成物中の余剰の酸成分を取り除き、水洗を行ってpHを7に調整した。得られた精製物から加熱、および減圧条件下で溶媒を留去し、ろ過を経て、ペンタエリスリトールテトラステアレート(脂肪酸エステルA1)1400gを得た。
得られた脂肪酸エステルA1の酸価、水酸基価、外観、融点、結晶転移の有無、凝固点を下記により測定した。結果を表1に示す。
【0034】
〔測定方法〕
酸価:JOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠し、測定した。
水酸基価:JOCS(日本油化学会)2.3.6.2-1996に準拠し、測定した。
外観:脂肪酸エステルA1の約5gを110℃まで加熱して完全に融解し、直径5cmのアルミカップの型に流し込み、30℃、20分間の条件にて高温槽で保持して完全に固化させた。アルミカップの型からワックスを取り外して黒画用紙上に静置した。脂肪酸エステルA1の結晶状態を目視にて確認し、白色均一である場合に外観「○」、不均一な場合に外観「×」と表1に記載した。
融点、結晶転移の有無、凝固点:示差走査熱量分析計(DSC)として、セイコーインスツル株式会社製の「DSC−6200」を使用した。測定は、約10mgの脂肪酸エステルA1を試料ホルダーに入れ、レファレンス材料として空の試料ホルダーを用いて行い、150℃に昇温した後、10℃/minで150℃から30℃まで降温し、30℃から150℃まで昇温した。図1に脂肪酸エステルA1の昇温時のDSCチャートを示す。
【0035】
図1に示すように、得られたDSCチャート上の昇温時において、吸熱量の最も大きなピークについて吸熱極大時の温度を融点とした(図1では77.1℃)。
また、得られたDSCチャート上の昇温時において、(融点−15℃)〜(融点−7℃)の温度範囲内に吸熱ピークのピークトップが観察された場合に結晶転移が「有」と判定し、吸熱ピークが観察されない場合に結晶転移が「無」と判定した。
図1では、脂肪酸エステルA1の融点温度(77.1℃)を基準とした温度差が−15〜−7℃の範囲において吸熱ピークのピークトップが観察されたことから、脂肪酸エステルA1は結晶転移が「有」と判定した。なお、図1では、このピークトップの温度を結晶転移温度と表記している。
さらに、得られたDSCチャート上の降温時において、放熱量の最も大きなピークについて放熱極大時の温度を凝固点とした。
【0036】
〔脂肪酸エステルA2、A3の製造〕
ペンタエリスリトールと表1に示す一価の直鎖飽和脂肪酸を用い、脂肪酸エステルA1の製造方法に準じて脂肪酸エステルA2、A3の製造を行った。
得られた脂肪酸エステルの酸価、水酸基価、外観、融点、結晶転移の有無、凝固点を脂肪酸エステルA1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
〔脂肪酸アミドB1の製造〕
窒素導入管、撹拌羽、冷却管を取り付けた500mL容の4つ口フラスコに、ステアリルアミン135g(0.5mol)、ステアリン酸133g(0.515mol)を加え、窒素気流下、生成水を留去しながら180℃で3時間反応した。酸価は3.0mgKOH/gであった。
トルエン、エタノールおよび10%水酸化カリウム水溶液を用いて、粗生成物中の余剰の酸成分を取り除き、水洗を行ってpHを7に調整した。得られた精製物から加熱、および減圧条件下で溶媒を留去し、ろ過を経て、ステアリン酸ステアリルアミド(脂肪酸アミドB1)230gを得た。
得られた脂肪酸アミドB1の酸価、アミン価を下記の方法により測定した。結果を表2に示す。
【0039】
〔測定方法〕
酸価:JOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠し、測定した。
アミン価:JSQI(医薬部外品原料規格)一般試験法3.2-2006に準拠し、測定した。
【0040】
〔脂肪酸アミドB2の製造〕
窒素導入管、撹拌羽、冷却管を取り付けた500mL容の4つ口フラスコに、パルミチルアミン120g(0.5mol)、パルミチン酸130g(0.505mol)を加え、窒素気流下、生成水を留去しながら180℃で6時間反応した。酸価は4.0mgKOH/gであった。反応後、生成物をろ過し、パルミチン酸パルミチルアミド(脂肪酸アミドB2)230gを得た。
得られた脂肪酸アミドB2の酸価、アミン価を脂肪酸アミドB1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0041】
〔脂肪酸アミドB3〜B6の製造〕
表2に示す一価の直鎖飽和脂肪酸と一価の直鎖飽和アミンを表2に記載の脂肪酸過剰率で用い、脂肪酸アミドB2と同様の反応条件で脂肪酸アミドB3〜B6の製造を行った。得られた脂肪酸アミドB3〜B6の酸価、アミン価を脂肪酸アミドB1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0042】
〔脂肪酸アミドB7〕
脂肪酸アミドB7として、エチレンビスステアリン酸アミド(日油株式会社製、アルフローH−50S)を使用した。また、脂肪酸アミドB7の酸価、アミン価を脂肪酸アミドB1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
〔トナー用ワックス組成物の製造および評価〕
(実施例1)
撹拌羽、窒素導入管を取り付けた500mL容のセパラブルフラスコに、脂肪酸エステルA1を291. 0g、脂肪酸アミドB1を9. 0g加え、窒素気流下、150℃で1時間撹拌した。その後、冷却、固化、粉砕を経て、トナー用ワックス組成物を得た。
得られたトナー用ワックス組成物の外観、融点、結晶転移の有無、凝固点を脂肪酸エステルA1と同様の方法で測定した。
【0045】
図2は実施例1のトナー用ワックス組成物の昇温時のDSCチャートである。図2に示すように、得られたDSCチャート上の昇温時において、融点温度は76.0℃であり、実施例1のトナー用ワックス組成物の融点温度を基準とした温度差が−15〜−7℃の範囲において吸熱ピークのピークトップは観察されなかったことから、実施例1のトナー用ワックス組成物は結晶転移が「無」と判定した。
【0046】
さらに、脂肪酸エステルA1の凝固点を用い、脂肪酸アミドB1の添加による凝固点上昇度を下記式(1)により算出した。結果を表3に示す。
式(1) (実施例1の凝固点)−(脂肪酸エステルA1の凝固点)=(凝固点上昇度)
【0047】
(実施例2〜9、比較例1〜5)
表1に示す脂肪酸エステルおよび表2に示す脂肪酸アミドを用いて、実施例1と同様にしてトナー用ワックス組成物を得た。得られたトナー用ワックス組成物の外観、融点、結晶転移の有無、凝固点を実施例1と同様に測定し、凝固点上昇度を算出した。結果を表3および表4に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
〔トナー用ワックス組成物のDSC評価〕
表1と表3の対比から明らかなように、実施例1〜9のトナー用ワックス組成物は、特定の脂肪酸アミドを所定量添加したことにより、ワックス融解時に結晶転移が生じず均一な結晶となり、ワックスの外観も均一となった。また、凝固点が少なくとも4℃以上の上昇を示し、素早く固化するトナー用ワックス組成物であった。
【0051】
表4に示す比較例1および2では、脂肪酸エステルと脂肪酸アミドの質量比が97:3〜80:20を満たさないので、結晶転移に由来する吸熱ピークを有しており、光沢ムラを有する不均一な結晶状態となり、ワックスの外観においても不均一となった。また、凝固点の上昇が4℃未満であり、素早く凝固しないトナー用ワックス組成物であった。
【0052】
表4に示す比較例3および4では、脂肪酸アミドの総炭素数が32〜42を満たしていないので、不均一な外観となり、結晶転移を有していることから不均一な結晶状態であった。また、凝固点の上昇が小さく、素早く凝固しないトナー用ワックス組成物であった。
【0053】
表4の比較例5では、脂肪酸アミドが一価の直鎖飽和アミンを使用して製造されていないので、結晶転移を有しており、不均一な結晶状態となり、外観も不均一であった。また、凝固点の上昇効果もあまり得られなかった。
図1
図2