【実施例】
【0032】
以下に本発明のトナー用ワックス組成物の製造例、およびその評価方法を示すことで、本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の実施例および比較例において、「%」は質量部を示す。
【0033】
〔脂肪酸エステルA1の製造〕
窒素導入管、撹拌羽、冷却管を取り付けた5L容の4つ口フラスコに、ペンタエリスリトール180g(1.32mol)、ステアリン酸1540g(5.54mol)を加え、窒素気流下、生成水を留去しながら、220℃で10時間反応した。酸価は6.7mgKOH/gであった。
トルエン、2−プロパノールおよび10%水酸化カリウム水溶液を用いて、粗生成物中の余剰の酸成分を取り除き、水洗を行ってpHを7に調整した。得られた精製物から加熱、および減圧条件下で溶媒を留去し、ろ過を経て、ペンタエリスリトールテトラステアレート(脂肪酸エステルA1)1400gを得た。
得られた脂肪酸エステルA1の酸価、水酸基価、外観、融点、結晶転移の有無、凝固点を下記により測定した。結果を表1に示す。
【0034】
〔測定方法〕
酸価:JOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠し、測定した。
水酸基価:JOCS(日本油化学会)2.3.6.2-1996に準拠し、測定した。
外観:脂肪酸エステルA1の約5gを110℃まで加熱して完全に融解し、直径5cmのアルミカップの型に流し込み、30℃、20分間の条件にて高温槽で保持して完全に固化させた。アルミカップの型からワックスを取り外して黒画用紙上に静置した。脂肪酸エステルA1の結晶状態を目視にて確認し、白色均一である場合に外観「○」、不均一な場合に外観「×」と表1に記載した。
融点、結晶転移の有無、凝固点:示差走査熱量分析計(DSC)として、セイコーインスツル株式会社製の「DSC−6200」を使用した。測定は、約10mgの脂肪酸エステルA1を試料ホルダーに入れ、レファレンス材料として空の試料ホルダーを用いて行い、150℃に昇温した後、10℃/minで150℃から30℃まで降温し、30℃から150℃まで昇温した。
図1に脂肪酸エステルA1の昇温時のDSCチャートを示す。
【0035】
図1に示すように、得られたDSCチャート上の昇温時において、吸熱量の最も大きなピークについて吸熱極大時の温度を融点とした(
図1では77.1℃)。
また、得られたDSCチャート上の昇温時において、(融点−15℃)〜(融点−7℃)の温度範囲内に吸熱ピークのピークトップが観察された場合に結晶転移が「有」と判定し、吸熱ピークが観察されない場合に結晶転移が「無」と判定した。
図1では、脂肪酸エステルA1の融点温度(77.1℃)を基準とした温度差が−15〜−7℃の範囲において吸熱ピークのピークトップが観察されたことから、脂肪酸エステルA1は結晶転移が「有」と判定した。なお、
図1では、このピークトップの温度を結晶転移温度と表記している。
さらに、得られたDSCチャート上の降温時において、放熱量の最も大きなピークについて放熱極大時の温度を凝固点とした。
【0036】
〔脂肪酸エステルA2、A3の製造〕
ペンタエリスリトールと表1に示す一価の直鎖飽和脂肪酸を用い、脂肪酸エステルA1の製造方法に準じて脂肪酸エステルA2、A3の製造を行った。
得られた脂肪酸エステルの酸価、水酸基価、外観、融点、結晶転移の有無、凝固点を脂肪酸エステルA1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
〔脂肪酸アミドB1の製造〕
窒素導入管、撹拌羽、冷却管を取り付けた500mL容の4つ口フラスコに、ステアリルアミン135g(0.5mol)、ステアリン酸133g(0.515mol)を加え、窒素気流下、生成水を留去しながら180℃で3時間反応した。酸価は3.0mgKOH/gであった。
トルエン、エタノールおよび10%水酸化カリウム水溶液を用いて、粗生成物中の余剰の酸成分を取り除き、水洗を行ってpHを7に調整した。得られた精製物から加熱、および減圧条件下で溶媒を留去し、ろ過を経て、ステアリン酸ステアリルアミド(脂肪酸アミドB1)230gを得た。
得られた脂肪酸アミドB1の酸価、アミン価を下記の方法により測定した。結果を表2に示す。
【0039】
〔測定方法〕
酸価:JOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠し、測定した。
アミン価:JSQI(医薬部外品原料規格)一般試験法3.2-2006に準拠し、測定した。
【0040】
〔脂肪酸アミドB2の製造〕
窒素導入管、撹拌羽、冷却管を取り付けた500mL容の4つ口フラスコに、パルミチルアミン120g(0.5mol)、パルミチン酸130g(0.505mol)を加え、窒素気流下、生成水を留去しながら180℃で6時間反応した。酸価は4.0mgKOH/gであった。反応後、生成物をろ過し、パルミチン酸パルミチルアミド(脂肪酸アミドB2)230gを得た。
得られた脂肪酸アミドB2の酸価、アミン価を脂肪酸アミドB1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0041】
〔脂肪酸アミドB3〜B6の製造〕
表2に示す一価の直鎖飽和脂肪酸と一価の直鎖飽和アミンを表2に記載の脂肪酸過剰率で用い、脂肪酸アミドB2と同様の反応条件で脂肪酸アミドB3〜B6の製造を行った。得られた脂肪酸アミドB3〜B6の酸価、アミン価を脂肪酸アミドB1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0042】
〔脂肪酸アミドB7〕
脂肪酸アミドB7として、エチレンビスステアリン酸アミド(日油株式会社製、アルフローH−50S)を使用した。また、脂肪酸アミドB7の酸価、アミン価を脂肪酸アミドB1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
〔トナー用ワックス組成物の製造および評価〕
(実施例1)
撹拌羽、窒素導入管を取り付けた500mL容のセパラブルフラスコに、脂肪酸エステルA1を291. 0g、脂肪酸アミドB1を9. 0g加え、窒素気流下、150℃で1時間撹拌した。その後、冷却、固化、粉砕を経て、トナー用ワックス組成物を得た。
得られたトナー用ワックス組成物の外観、融点、結晶転移の有無、凝固点を脂肪酸エステルA1と同様の方法で測定した。
【0045】
図2は実施例1のトナー用ワックス組成物の昇温時のDSCチャートである。
図2に示すように、得られたDSCチャート上の昇温時において、融点温度は76.0℃であり、実施例1のトナー用ワックス組成物の融点温度を基準とした温度差が−15〜−7℃の範囲において吸熱ピークのピークトップは観察されなかったことから、実施例1のトナー用ワックス組成物は結晶転移が「無」と判定した。
【0046】
さらに、脂肪酸エステルA1の凝固点を用い、脂肪酸アミドB1の添加による凝固点上昇度を下記式(1)により算出した。結果を表3に示す。
式(1) (実施例1の凝固点)−(脂肪酸エステルA1の凝固点)=(凝固点上昇度)
【0047】
(実施例2〜9、比較例1〜5)
表1に示す脂肪酸エステルおよび表2に示す脂肪酸アミドを用いて、実施例1と同様にしてトナー用ワックス組成物を得た。得られたトナー用ワックス組成物の外観、融点、結晶転移の有無、凝固点を実施例1と同様に測定し、凝固点上昇度を算出した。結果を表3および表4に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
〔トナー用ワックス組成物のDSC評価〕
表1と表3の対比から明らかなように、実施例1〜9のトナー用ワックス組成物は、特定の脂肪酸アミドを所定量添加したことにより、ワックス融解時に結晶転移が生じず均一な結晶となり、ワックスの外観も均一となった。また、凝固点が少なくとも4℃以上の上昇を示し、素早く固化するトナー用ワックス組成物であった。
【0051】
表4に示す比較例1および2では、脂肪酸エステルと脂肪酸アミドの質量比が97:3〜80:20を満たさないので、結晶転移に由来する吸熱ピークを有しており、光沢ムラを有する不均一な結晶状態となり、ワックスの外観においても不均一となった。また、凝固点の上昇が4℃未満であり、素早く凝固しないトナー用ワックス組成物であった。
【0052】
表4に示す比較例3および4では、脂肪酸アミドの総炭素数が32〜42を満たしていないので、不均一な外観となり、結晶転移を有していることから不均一な結晶状態であった。また、凝固点の上昇が小さく、素早く凝固しないトナー用ワックス組成物であった。
【0053】
表4の比較例5では、脂肪酸アミドが一価の直鎖飽和アミンを使用して製造されていないので、結晶転移を有しており、不均一な結晶状態となり、外観も不均一であった。また、凝固点の上昇効果もあまり得られなかった。