特許第6287573号(P6287573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287573
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】水中航走体の浮上位置選定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B63G 8/14 20060101AFI20180226BHJP
   B63G 8/39 20060101ALI20180226BHJP
   G01S 15/89 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   B63G8/14
   B63G8/39
   G01S15/89 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-104363(P2014-104363)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-217882(P2015-217882A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100087527
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100106921
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 裕之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊太郎
【審査官】 結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−95293(JP,A)
【文献】 特開2004−12237(JP,A)
【文献】 特開平2−13877(JP,A)
【文献】 特開平8−304436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63G 8/14
B63G 8/39
G01S 15/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中航走体に設けたソーナーにより、水中航走体の浮上予定位置の水面と、該浮上予定位置の周辺領域の水面をスキャンし、
浮上位置制御器による浮上位置選定処理として、
前記スキャンによる前記浮上予定位置の水面、及び、前記周辺領域の水面の検出結果を、水中航走体の位置及び姿勢の情報を基に、前記浮上予定位置の水面深度、及び、前記周辺領域の水面深度に変換し、
次に、前記浮上予定位置の水面深度、及び、前記周辺領域の水面深度について、時間平均処理と平面空間平均処理を行い、
次いで、前記周辺領域の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した或る閾値よりも大となるという条件、前記浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した別の或る閾値よりも大となるという条件、及び、前記浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果から、前記周辺領域の水面深度の平均処理の結果を引いた値が、予め設定した更に別の或る閾値よりも大となるという条件のいずれも満たさない場合に、前記浮上予定位置を、水中航走体の実際の浮上位置として選定すること
を特徴とする水中航走体の浮上位置選定方法。
【請求項2】
浮上予定位置設定記憶部に、複数の浮上予定位置を、その優先順位と共に予め設定しておき、
浮上位置制御器は、前記浮上予定位置設定記憶部に設定されている優先順位が第1位の浮上予定位置について、浮上位置選定処理を行って、周辺領域の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した或る閾値よりも大となるという条件、浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した別の或る閾値よりも大となるという条件、又は、前記浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果から、前記周辺領域の水面深度の平均処理の結果を引いた値が、予め設定した更に別の或る閾値よりも大となるという条件のいずれかが満たされると、該所定優先順位の浮上予定位置は、水中航走体の実際の浮上位置として不適格であると判断し、
その後、前記浮上予定位置設定記憶部に設定されている優先順位に従って順次下位の浮上予定位置を呼び出して、浮上位置選定処理を行うようにする
請求項1記載の水中航走体の浮上位置選定方法。
【請求項3】
水面をスキャンするためのソーナーを有する水中航走体に、浮上位置制御器を備え、
前記浮上位置制御器は、
前記ソーナーのスキャンによる前記水中航走体の浮上予定位置の水面、及び、該浮上予定位置の周辺領域の水面の検出結果を、水中航走体の位置及び姿勢の情報を基に、前記浮上予定位置の水面深度、及び、前記周辺領域の水面深度に変換する機能と、
前記浮上予定位置の水面深度、及び、前記周辺領域の水面深度について、時間平均処理と平面空間平均処理を行う機能と、
前記周辺領域の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した或る閾値よりも大となるという条件、前記浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した別の或る閾値よりも大となるという条件、及び、前記浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果から、前記周辺領域の水面深度の平均処理の結果を引いた値が、予め設定した更に別の或る閾値よりも大となるという条件のいずれも満たさない場合に、前記浮上予定位置を、水中航走体の実際の浮上位置として選定する機能を備えるものとした構成を有すること
を特徴とする水中航走体の浮上位置選定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律航走する水中航走体に、浮上に好適な浮上位置を選定させるために用いる水中航走体の浮上位置選定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海や湖沼における比較的深い領域や広範な領域の水中調査等の作業を行うための装置として、いわゆるUUV(Unmanned Underwater Vehicle)あるいはAUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれる自律航走型の無人の水中航走体(自律型水中ロボット)が利用されるようになってきている。
【0003】
前記自律航走型の水中航走体には、大別して、調査目標地点もしくはその地点を基準とした狭い範囲に留まって周囲の状況を調査するようにしてあるホバリング型の水中航走体と、水中を所定の航走速度で移動(航走)しながら周囲の状況を調査するようにしてあるクルージング型(巡航型)の水中航走体がある。
【0004】
これらの水中航走体は、通常、支援船(母船)より水面に投入された状態から自律航走による潜航を開始して、水中航走を行うようにしてあり、予め設定されている所定の目的を達成するか、又は、或る時間経過すると、水面へ浮上するようにしてある。
【0005】
前記のように水中航走体を水面へ浮上させるときには、万一、浮上予定位置に船等の浮遊物が存在していると、浮上する水中航走体が、該浮遊物に接触する虞が生じる。
【0006】
そのために、前記水中航走体については、浮上前に、浮上予定位置に浮遊物が存在するか否かを検知して、該浮上予定位置が浮上に適していることを確認させる必要がある。
【0007】
ところで、水中航走体は、通常、水中航走時に障害物との接触を避けるために、水中の障害物を検出するためのソーナーが装備されている。
【0008】
前記ソーナーによる障害物の検出原理は、ビーム状に収束させた指向性を有する探査波(超音波)を発信し、その反射波の有無を基に該探査波を発信した方向における或る検知距離内の障害物の有無を調査するようにしてある。更に、前記調査により障害物の存在が検出された場合は、その時点で前記探査波を発信していた方位(方向)から該障害物が存在する方位を検出すると共に、前記探査波の発信から反射波の受信までの経過時間を基に、該障害物までの距離を求め、これにより、前記ソーナーを備えた水中航走体に対する相対位置として、該障害物の位置の検出を行うようにしてある。
【0009】
しかし、前記ソーナーでは、水中から水面に向けて探査波を発信すると、該探査波が水面で反射されるために、前記した通常のソーナーによる障害物の検出原理では、水面自体が障害物として検出されてしまう。更に、この障害物として検出される水面には、波による凹凸(水面深度の変化)が存在しているために、水面に浮遊物が存在しているとしても、前記ソーナーでは、該浮遊物による反射波を、前記水面からの反射波より分離して特定することが難しいため、該浮遊物を直接検出することは困難である。
【0010】
そのために、従来、水中航走体を水面に浮上させるときには、水中航走体の位置を音響通信や音響測位によって検知した水上の支援船が、レーダーやレーザーレーダー(ライダー)等によって水中航走体の浮上予定位置にて水中航走体の浮上に障害となり得る浮遊物の有無を確認するようにしている。その結果、前記浮上予定位置に前記浮遊物が検出されない場合は、前記支援船より水中航走体に、該浮上予定位置に浮上するよう指示を与えるようにしてある。一方、前記浮上予定位置に前記浮遊物の存在が検出された場合は、前記支援船より水中航走体に、浮上中断や浮上位置変更を指示するようにしている。
【0011】
なお、ソーナーを用いて浮遊物である水上艦の検出を行うことができるようにするための手法としては、以下のような手法が従来提案されている。
【0012】
これは、ソーナーにより探査波(音信号)を発信すると共に、その反射波(反射信号)を受信して、この受信信号に基づいて2次元画像データを生成すると、水上艦は、反射波による画像が形成され、その背後には前記探査波が到達せずに反射波のないシャドウ領域が形成されるという原理を利用するものである。よって、かかる手法では、前記2次元画像データに水面の反射波による像が形成されるとしても、該2次元画像データにおける反射波のレベルが低い領域を前記シャドウ領域として検出することにより、該検出されるシャドウ領域の手前側には水上艦が存在するものとして、該水上艦の位置の検出を行うことができるとされている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−256162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
水中航走体の浮上予定位置について、浮遊物の有無を支援船により確認し、その結果を基に、該支援船より水中航走体に前記所定の指示を行わせるようにしてある従来の手法は、水中航走体の浮上位置を選定するのに有効である。
【0015】
しかし、自律航走する水中航走体の運用時には、該水中航走体の浮上予定位置の近傍に支援船が必ず存在するとは限られず、又、支援船から水中航走体に指令を送ることができない事態や、支援船から水中航走体の位置を計測できない事態が生じることも考えられる。
【0016】
そのために、水中航走体の浮上予定位置についての浮遊物の有無の検出、及び、その結果に基づく浮上位置の選定は、水中航走体で自律的に行わせることが望ましいが、そのような手法は従来提案されていない。
【0017】
なお、前記特許文献1に示された手法は、その検出原理上、検出対象となる浮遊物は、ソーナーによる探査時に、背後に前記シャドウ領域という探査波が到達しない領域が確実に且つ或る程度広い範囲に形成されるような喫水とサイズを有している必要がある。
【0018】
したがって、前記特許文献1に示された手法は、波による水面深度の変化よりも大きな喫水を常時に有する水上艦のような比較的大型の艦船の検出には有効であるとしても、波による水面深度の変化との差があまりないような喫水の小さい小型の船舶や浮体等の浮遊物の検出は困難である。
【0019】
しかし、前記水中航走体は、全長が数メートルから十数メートル程度であるために、該水中航走体の浮上時には、前記のような喫水の小さい小型の船舶や浮体等の浮遊物も障害となり得るため、これらの浮遊物の検出も望まれる。
【0020】
そこで、本発明は、自律航走する水中航走体を浮上させるときに、浮上予定位置について浮遊物の有無を予め調査して、浮遊物の検出されない浮上予定位置を実際の浮上位置として選定できるようにするための水中航走体の浮上位置選定方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、前記課題を解決するために、請求項1に対応して、水中航走体に設けたソーナーにより、水中航走体の浮上予定位置の水面と、該浮上予定位置の周辺領域の水面をスキャンし、浮上位置制御器による浮上位置選定処理として、前記スキャンによる前記浮上予定位置の水面、及び、前記周辺領域の水面の検出結果を、水中航走体の位置及び姿勢の情報を基に、前記浮上予定位置の水面深度、及び、前記周辺領域の水面深度に変換し、次に、前記浮上予定位置の水面深度、及び、前記周辺領域の水面深度について、時間平均処理と平面空間平均処理を行い、次いで、前記周辺領域の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した或る閾値よりも大となるという条件、前記浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した別の或る閾値よりも大となるという条件、及び、前記浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果から、前記周辺領域の水面深度の平均処理の結果を引いた値が、予め設定した更に別の或る閾値よりも大となるという条件のいずれも満たさない場合に、前記浮上予定位置を、水中航走体の実際の浮上位置として選定する水中航走体の浮上位置選定方法とする。
【0022】
又、請求項2に対応して、前記請求項1に対応する構成において、浮上予定位置設定記憶部に、複数の浮上予定位置を、その優先順位と共に予め設定しておき、浮上位置制御器は、前記浮上予定位置設定記憶部に設定されている優先順位が第1位の浮上予定位置について、浮上位置選定処理を行って、周辺領域の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した或る閾値よりも大となるという条件、浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した別の或る閾値よりも大となるという条件、又は、前記浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果から、前記周辺領域の水面深度の平均処理の結果を引いた値が、予め設定した更に別の或る閾値よりも大となるという条件のいずれかが満たされると、該所定優先順位の浮上予定位置は、水中航走体の実際の浮上位置として不適格であると判断し、その後、前記浮上予定位置設定記憶部に設定されている優先順位に従って順次下位の浮上予定位置を呼び出して、浮上位置選定処理を行うようにする。
【0023】
更に、請求項3に対応して、水面をスキャンするためのソーナーを有する水中航走体に、浮上位置制御器を備え、前記浮上位置制御器は、前記ソーナーのスキャンによる前記水中航走体の浮上予定位置の水面、及び、該浮上予定位置の周辺領域の水面の検出結果を、水中航走体の位置及び姿勢の情報を基に、前記浮上予定位置の水面深度、及び、前記周辺領域の水面深度に変換する機能と、前記浮上予定位置の水面深度、及び、前記周辺領域の水面深度について、時間平均処理と平面空間平均処理を行う機能と、前記周辺領域の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した或る閾値よりも大となるという条件、前記浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果が、予め深度のプラス側に設定した別の或る閾値よりも大となるという条件、及び、前記浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果から、前記周辺領域の水面深度の平均処理の結果を引いた値が、予め設定した更に別の或る閾値よりも大となるという条件のいずれも満たさない場合に、前記浮上予定位置を、水中航走体の実際の浮上位置として選定する機能を備えるものとした構成を有する水中航走体の浮上位置選定装置とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)請求項1に示した構成を有する水中航走体の浮上位置選定方法では、水中航走体を浮上させるときに、浮上予定位置について浮遊物の有無を予め調査して、浮遊物の検出されない浮上予定位置を水中航走体の実際の浮上位置として選定することができる。
(2)したがって、水中航走体は、浮遊物と接触する虞が生じない好適な浮上位置を自律的に選択して、水面への浮上を実施することができる。
(3)請求項3に示した構成を有する水中航走体の浮上位置選定装置では、前記(1)(2)と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の水中航走体の浮上位置選定方法及び装置の実施の一形態を示すもので、(a)は概略側面図、(b)は水面上方から見た図である。
図2図1の装置の浮上位置判定器における浮上位置選定処理の手順を示すフロー図である。
図3】本発明の実施の他の形態として、浮上位置選定処理の別の処理手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0027】
図1(a)(b)及び図2は本発明の水中航走体の浮上位置選定方法及び装置の実施の一形態を示すものである。
【0028】
ここで、先ず、本発明を適用する水中航走体の一例として、クルージング型の水中航走体1の構成について概説する。
【0029】
前記水中航走体1は、図1(a)(b)に示すように、略円柱形状の機体(胴体)2の後端部に、推進用のメインスラスタ3が設けられている。又、前記機体2の後部には、垂直舵(ラダー)4及び水平舵(エレベータ)5が設けられている。
【0030】
前記機体2の内部には、図示しないが、電池の如き動力源と、該動力源より電力等の供給を受けて前記メインスラスタ3を駆動する電動モータ等の動力装置と、前記動力源より電力等の供給を受けて前記垂直舵4及び水平舵5を作動させる操舵装置と、水中航走体1自体のロール、ピッチ及びヨーの姿勢を検出することができるようにしてある慣性航法装置(Inertial Navigation System)と、水深計及び高度計を備えた構成としてある。
【0031】
更に、前記水中航走体1には、図1(a)に示すように、前記図示しない慣性航法装置、水深計及び高度計からの入力に応じて、前記図示しない動力装置と操舵装置に指令を与える航走制御装置6を備える。
【0032】
これにより、前記水中航走体1では、前記航走制御装置6からの指令に基づいて、前記動力装置により前記メインスラスタ3を駆動して推力を発生させ、前記操舵装置により前記各舵4及び5を適宜作動させることにより、水中航走体1を航走させると共に、航走速力、航走方位、深度を自在に変更できるようにしてある。
【0033】
又、前記水中航走体1は、図1(a)(b)に示すように、機体2の前部に、進行方向前方に存在する障害物を検出するためのソーナー7を設けた構成としてある。なお、前記水中航走体1では、航走時は常に、前記ソーナー7により、ビーム状に収束させた指向性を有する探査波を比較的短い時間で左右前方にスキャン(走査)させて、検知距離内の障害物の有無を調査するようにしてあるものとする。
【0034】
以上の構成としてある水中航走体1に適用する本発明の水中航走体の浮上位置選定装置8(以下、単に本発明の浮上位置選定装置8と云う)は、図1(a)に示すように、浮上位置制御器9と、浮上予定位置設定記憶部10とを備えた構成としてある。
【0035】
前記浮上予定位置設定記憶部10は、予め、水中航走体1を水面に浮上させるための浮上予定位置11について、複数の候補の位置情報(緯度、経度)を記憶させることができるようにしてあると共に、該各浮上予定位置11の各候補について予め設定される優先順位を、併せて記憶させることができるようにしてある。
【0036】
以下、前記浮上位置制御器9の機能の説明に則して、本発明の水中航走体の浮上位置選定方法について説明する。
【0037】
水中を航走している状態の前記水中航走体1を水面に浮上させる場合は、前記本発明の浮上位置選定装置8では、前記浮上位置制御器9により、前記浮上予定位置設定記憶部10に予め記憶させてある優先順位が第1位の浮上予定位置11の位置情報を呼び出して、前記航走制御装置6に目標地点の位置情報として与える。これにより、前記水中航走体1は、前記航走制御装置6により制御されて、前記所定優先順位の浮上予定位置11に向けて航走するようになる。
【0038】
前記のようにして所定優先順位の浮上予定位置11に向けて航走する水中航走体1が、水面にある程度近づいて、該水中航走体1から水面までの距離(水中航走体1のピッチ角方向の距離)が、前記ソーナー7の検知距離よりも短くなると、該ソーナー7では、前記探査波による水面のスキャンが行われるようになるため、該水面が障害物として検出されるようになる。よって、前記ソーナー7は、前記障害物として検出される水面までの距離を順次出力するようになる。
【0039】
次いで、前記浮上位置制御器9は、前記航走制御装置6より得る水中航走体1の自機の位置情報(緯度、経度、深度)を基に、該水中航走体1が、前記所定優先順位の浮上予定位置11に対して前記ソーナー7の検知距離以内となる位置まで接近したことを検出すると、図2に示す浮上位置選定処理を開始するようにしてある。
【0040】
すなわち、図2に示す浮上位置選定処理では、先ず、前記浮上位置制御器9は、前記ソーナー7により、検知距離以内となった前記所定優先順位の浮上予定位置11の水面と、その周辺領域12(図1(b)にてハッチングを付した領域)の水面をスキャン(走査)させる(ステップS1)。この際、前記周辺領域12は、図1(b)に示すように、前記浮上予定位置11の周囲を、該浮上予定位置11と対応する前後幅及び左右幅で囲む範囲、すなわち、前記浮上予定位置11の8倍の面積の範囲に設定することが好ましい。なお、前記浮上予定位置11は、水中航走体1を浮上させるための領域であるため、水中航走体1の平面形状よりも大きな平面サイズを有することは当然であるが、図1(a)(b)では、図示する便宜上、水中航走体1は、浮上予定位置11及び周辺領域12の縮尺に比して拡大して記載してある。
【0041】
次に、前記浮上位置制御器9は、前記ソーナー7のスキャンによる前記所定優先順位の浮上予定位置11の水面、及び、前記周辺領域12の水面についての相対的な位置の検出結果を、前記航走制御装置6より得る水中航走体1の自機の位置情報(緯度、経度、深度)と、水中航走体1の姿勢(ロール、ピッチ、ヨー)の情報とを基にして、前記所定優先順位の浮上予定位置11の水面深度と、前記周辺領域12の水面深度に変換する(ステップS2)。
【0042】
次いで、前記浮上位置制御器9では、前記のようにして求められた前記所定優先順位の浮上予定位置11の水面深度と、前記周辺領域12の水面深度のそれぞれについて、時間平均処理を行うと共に、平面空間平均処理を行う(ステップS3)。
【0043】
これにより、前記所定優先順位の浮上予定位置11と、前記周辺領域12のそれぞれについて、水面に浮遊物がなければ、前記ステップS3による処理では、波による水面の上下変動分が平均されることになるため、各々の水面深度の平均処理の結果は、ほぼゼロとなる。
【0044】
これに対し、たとえば、図1(a)(b)に二点鎖線で示す如く、前記所定優先順位の浮上予定位置11の水面に浮遊物13が存在している場合は、前記ステップS2で求められる該浮上予定位置11の水面深度に、前記浮遊物13において水面の上下変動よりも大きな喫水で水面下に没している部分の値が含まれるようになる。したがって、この場合は、前記ステップS3による処理では、前記所定優先順位の浮上予定位置11の水面深度を平均処理した結果は、ゼロとはならず、深度がプラス側に偏るようになる。
【0045】
なお、図示してないが、前記浮上予定位置11に存在している浮遊物13が、前記周辺領域12の水面にもまたがるような大きな浮遊物である場合は、前記ステップS2で求められる該周辺領域12の水面深度に、前記浮遊物13の水面下に没している部分の値が含まれるようになる。このため、この場合は、前記ステップS3による処理では、前記周辺領域12の水面深度を平均処理した結果が、ゼロとはならず、深度がプラス側に偏るようになる。
【0046】
以上の点に鑑みて、前記浮上位置制御器9は、前記ステップS3の後はステップS4に進んで、以下の3つの条件A,B,Cのいずれかが満たされるか否かの判断をするようにしてある。
【0047】
先ず、条件Aは、前記ステップS3で求められる周辺領域12の水面深度の平均処理の結果が、予めプラス側の値となるように設定された或る閾値aよりも大となる、という条件である。したがって、この条件Aが満たされる場合は、前記所定優先順位の浮上予定位置11から周辺領域12の水面深度が明らかにプラス側に偏っているので、前記周辺領域12には、浮遊物13が存在すると推定される。
【0048】
次に、条件Bは、前記ステップS3で求められる前記所定優先順位の浮上予定位置11の水面深度の平均処理の結果が、予め、プラス側の値となるように設定された或る閾値bよりも大となる、という条件である。なお、この閾値bは、閾値b≧閾値aとしてある。したがって、この条件Bが満たされる場合は、前記所定優先順位の浮上予定位置11の水面深度が明らかにプラス側に偏っているので、該浮上予定位置11には、浮遊物13が存在すると推定される。
【0049】
更に、条件Cは、前記所定優先順位の浮上予定位置の水面深度の平均処理の結果から、周辺領域12の水面深度の平均処理の結果を引いた値が、閾値cよりも大となる、という条件である。なお、前記閾値cは、閾値c≧(周辺領域12の水面深度の分散)×2としてある。この条件Cが満たされる場合は、前記条件A,Bが満たされない場合であっても、前記所定優先順位の浮上予定位置11の水面深度が、前記周辺領域12の水面深度よりも明らかにプラス側に偏っている場合である。したがって、この条件Cが満たされる場合は、前記所定優先順位の浮上予定位置11に浮遊物が存在すると推定される。
【0050】
前記浮上位置制御器9は、前記ステップS4にて、前記条件A,B,Cのいずれか一つでも満たされた場合は、ステップS5に進み、前記所定優先順位の浮上予定位置11は、水中航走体1の実際の浮上位置とするには不適格であると判断するようにしてある。
【0051】
その後、前記浮上位置制御器9は、ステップS6へ進んで、前記浮上予定位置設定記憶部10に予め設定されている優先順位が次の浮上予定位置11を呼び出して、水中航走体1の航走制御装置6に与えるようにしてある。
【0052】
よって、この場合は、前記優先順位が次の浮上予定位置11に向けて、水中航走体1の移動(航走)が開始され、該水中航走体1が、前記所定優先順位の浮上予定位置11に対してソーナー7の検知距離以内に近づいた時点で、浮上位置制御器9では、前記と同様に、図2に示した浮上位置選定処理を開始させるようにしてある。
【0053】
この浮上位置選定処理によっても、前記ステップS4にて、条件A,B,Cのいずれかが満たされる場合は、前記浮上位置制御器9は、前記浮上予定位置設定記憶部10に予め設定されている優先順位に従って順次下位の浮上予定位置11を呼び出して、該所定優先順位の浮上予定位置11への移動と、該浮上予定位置11に対する図2に示した浮上位置選定処理を、順次繰り返して行うようにする。
【0054】
一方、前記図2の浮上位置選定処理のステップS4にて、前記条件A,B,Cのいずれもが満たされないと判断される場合は、その時点で選択されている所定優先順位の浮上予定位置11には、浮遊物は存在しないと推定される。そのため、前記浮上位置制御器9は、ステップS7へ進んで、該浮上予定位置11を実際の浮上位置に選定し、該浮上位置に浮上するよう水中航走体1の航走制御装置6に指令を与えるようにしてある。
【0055】
これにより、前記水中航走体1は、前記図2の浮上位置選定処理により該水中航走体1自身で自律的に選定された浮上位置において、浮遊物に接触する虞が防止された状態で水面に浮上するようになる。
【0056】
このように、本発明の水中航走体の浮上位置選定方法及び装置によれば、自律航走する水中航走体1を浮上させるときに、浮上予定位置11について浮遊物13の有無を予め調査して、浮遊物13の検出されない浮上予定位置11を実際の浮上位置として選定することができる。
【0057】
したがって、水中航走体1には、浮遊物13と接触する虞が生じない好適な浮上位置を自律的に選択して、水面への浮上を実施させることができるようになる。
【0058】
なお、前記浮上予定位置設定記憶部10に予め設定されていたすべての浮上予定位置11について、図2に示した浮上予定位置選定処理により、水中航走体1の実際の浮上位置とするには不適格であると判断された場合は、浮上位置制御器9は、航走制御装置6に、水中航走体1を一定深度で周回航走させた状態で、図示しない支援船からの指令を待つようにさせるようにすればよい。
【0059】
次に、図3は本発明の実施の他の形態として、浮上位置制御器9で実施させる図2に示した浮上位置選定処理の応用例として、荒天時の対応を考慮した浮上位置選定処理を示すものである。
【0060】
すなわち、荒天時には、水面における波の波高が高くなるために、前記浮上位置制御器9にて、図2のステップS2と同様に、ソーナー7のスキャンによる所定優先順位の浮上予定位置11の水面、及び、前記周辺領域12の水面についての相対的な位置の検出結果を、水面深度に変換すると、得られる水面深度の分散は、非荒天時(平穏時)に比して増大する。
【0061】
したがって、その後、図2のステップS3と同様に、浮上予定位置11及び周辺領域12のそれぞれ水面深度について時間平均処理及び平面空間平均処理を行うと、荒天時に得られる結果が、非荒天時(平穏時)に得られる結果と等しいとしても、水面深度が大きい部分をより多く含んでいることになる。
【0062】
そのため、図3に示す浮上位置選定処理では、図2に示したと同様の処理手順において、ステップS3の後に、ステップS8を設けて、以下の条件Dが満たされるか否かの判断を行うようにしてある。
【0063】
前記条件Dは、前記ステップS2で求められた前記周辺領域12の水面深度の分散が、予め設定してある或る閾値dより大きい、という条件である。なお、前記閾値dは、前記周辺領域12の水面が少し荒れた状態のときの水面深度の分散を基に、設定するようにすればよい。
【0064】
これにより、前記条件Dが満たされない場合は、荒天時ではないと判断できるため、図2に示したと同様のステップS4へ進むようにしてある。
【0065】
一方、前記ステップS8にて、前記条件Dが満たされる場合は、荒天時であると判断できるようになる。よって、この場合、前記浮上位置制御器9では、ステップS9へ進んで、ステップS4の条件A,B,Cでそれぞれ用いられる閾値a,b,cについて、それぞれより大きめの値に補正する処理を予め行い、その後、前記ステップS4に進むようにしてある。
【0066】
その他の処理は図2に示したものと同様である。
【0067】
以上の構成としてある本実施の形態によっても、図1(a)(b)及び図2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
なお、本発明は、前記実施の形態にのみ限定されるものではなく、浮上予定位置設定記憶部10が、予め、水中航走体1を水面に浮上させるための浮上予定位置11について、複数の候補の位置情報(緯度、経度)を、優先順位と併せて記憶させるようにしてあるものとしたが、浮上予定位置設定記憶部10は、最初(第1位)の浮上予定位置11の位置情報のみを設定して記憶させておき、図2及び図3のステップS5で該浮上予定位置11が実際の浮上位置として適格でないという判断が下される場合は、該不適格と判断された位置より、予め設定されている方向と距離分、平行移動させた位置を、次の浮上予定位置11として順次設定する機能を備えるようにしてもよい。
【0069】
水面を検出するためのソーナー7は、クルージング型の水中航走体1の機体前部に設けられる進行方向前方の障害物検出用のソーナー7を利用(兼用)することが、前記水中航走体1の装置点数を削減するという観点から考えると好適である。しかし、水中航走体1の機体上部に、機体上方の水面をスキャンするためのソーナー7を、前記障害物検出用のソーナー7とは別に設けるようにしてもよいことは勿論である。
【0070】
又、本発明の水中航走体の浮上位置選定方法は、クルージング型の水中航走体1のみならず、ホバリング型の水中航走体に適用してもよい。
【0071】
本発明の浮上位置選定装置8における浮上位置制御器9と浮上予定位置設定記憶部10は、水中航走体1の航走制御装置6を構成する電子計算機に機能として組み込むようにしてもよい。
【0072】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
1 水中航走体、7 ソーナー、8 浮上位置選定装置、9 浮上位置制御器、10 浮上予定位置設定記憶部、11 浮上予定位置、12 周辺領域
図1
図2
図3