特許第6287584号(P6287584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287584
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】MEMS光スキャナ
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20180226BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   G02B26/10 104Z
   B81B3/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-109282(P2014-109282)
(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-225171(P2015-225171A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】野村 昭彦
【審査官】 佐藤 洋允
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−133242(JP,A)
【文献】 特開2010−049259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B26/10−26/12
G02B26/00−26/08
B81B1/00−7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射する反射面を有するミラーと、前記ミラーから延出すると共に、前記ミラーの回動軸線を挟むように対向して配置された第1のトーションバーと第2のトーションバーとからなるトーション部と、を有するMEMS光スキャナであって、
前記ミラーの裏面には、前記第1のトーションバーを通る中心軸線と、前記第2のトーションバーを通る中心軸線との間に、前記裏面から突出する補強部が設けられている、
MEMS光スキャナ。
【請求項2】
前記ミラーの裏面には、略均一な厚み延在する突起部が設けられ、前記補強部は、前記突起部の前記厚みを肉厚にすることにより形成されている、
請求項1記載のMEMS光スキャナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビーム等の光を反射させて光偏向を行うMEMS光スキャナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真式複写機、レーザビームプリンタ、バーコードリーダ等の光学機器の走査装置や、光ディスクのトラッキング制御装置の光偏向装置や、レーザ光をスキャニングして映像を投影する表示装置などには光偏向子が使用されている。
近年MEMS(Micro・Electro・Mechanical・System)と呼ばれ、シリコン基板上にフォトエッチング等のウエハプロセスに基づいてモノリシックに形成された電気的に制御可能なマイクロ・マシン(たとえばモータ、ギア、光変調素子等)を有するシステムを用いたMEMS光スキャナが作製されている。この技術を用いることにより、光偏向子の小型化、軽量化、低コスト化が期待されており研究開発が進められている。
MEMS光スキャナの一例として、ミラーと圧電素子等の微小振動を発生する小型の駆動源とから構成されているものがある。スキャナにおいて、振動源とミラーとは、トーションバーと呼ばれる弾性変形モードを有する弾性変形部を介し連結されている。
上記の構成では、振動源からの振動によって、弾性変形部すなわちトーションバーがねじれ振動を起こす。弾性変形部は固有の共振振動モードを有しているので、この共振周波数と等しい周波数の振動を振動源で発生させることにより、振動入力部を通して弾性変形部が上記共振周波数で共振し、ミラーを回転させる。従って、ミラーに光を照射すると反射光を走査することができる。
このようなMEMS光スキャナを画像描画装置に応用する場合、高解像度や大画面の要求を満たすために、より高い共振周波数やより大きい振れ角が必要とされるようになってきている。例えばWXGAの解像度を得るためには、30KHz程度の共振周波数が要求される。また大画面の要求から25〜40°の光学振れ角を求められている。
上記のように高速でかつ大きい振れ角でミラーを駆動させるためには、ミラーの大きさを小さくして重さを減らすことが有効になる。一方ミラーを軽くするために薄くすると、高速で駆動させた場合、ミラーの変形が起きてしまう。このミラーの変形は、特にミラーが大きく振れる画面端部で画像のボケやゆがみを起こしてしまい、画質の劣化を招く。
そこで、特開2011−27881号公報に開示されている光スキャナにあっては、ミラーに関して、基板部上に補強部を貼り付け、その補強部上に反射面が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−27881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来の光スキャナでは、ミラーの補強により変形を抑制することは可能であるが、ミラーの重量増加に伴い、光偏向特性に影響を与える共振周波数や振動感度などの特性の低下を招来するといった問題点がある。
【0005】
本発明は、ミラーの補強を図りつつ、光偏向特性への影響を可能な限り少なくするようにしたMEMS光スキャナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、光を反射する反射面を有するミラーと、前記ミラーから延出すると共に、前記ミラーの回動軸線を挟むように対向して配置された第1のトーションバーと第2のトーションバーとからなるトーション部と、を有するMEMS光スキャナであって、前記ミラーの裏面には、前記第1のトーションバーを通る中心軸線と、前記第2のトーションバーを通る中心軸線との間に、前記裏面から突出する補強部が設けられているMEMS光スキャナを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ミラーの補強を図りつつ、光偏向特性への影響を可能な限り少なくでき、駆動時のミラーの歪みを抑制することが可能になるので、大画面、高画質が求められる画像描画装置への応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係るMEMS光スキャナの一実施形態を示す平面図である。
図2】MEMS光スキャナの要部を示す平面図である。
図3】(a)は、図2のA−A線に沿う端面図、(b)は、図2のB−B線に沿う端面図である。
図4】ミラーの歪み状態を示す概略図である。
図5】様々な変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るMEMS光スキャナの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1に示されるように、MEMS光スキャナ1は、シリコン材料を半導体加工装置で加工したもので、例えばSOI(silicon on insulator)基板で作られている。ミラー11、トーション部12A,12B、アーム13a,13b,13c,13dなどの各パーツは数十μmの薄いシリコン層、たとえば50μmで形成されている。光スキャナ1の外周には、光スキャナ1の全体の形状を保持するためのフレーム101が形成されている。このフレーム101は例えば400umの厚さのシリコン基板に埋め込み酸化膜(図示せず)を介して固定されており、変形が生じないようになっている。
【0011】
光スキャナ1の中央には、略矩形の空間Sが形成され、この空間S内には円板状のミラー11が配置されている。このミラー11は、回動軸線Hを中心にして回動動作を行う。ミラー11の反射面11aにレーザ光(不図示)を照射すると、レーザ光がスキャンされる。フレーム101とミラー11は、4枚のアーム13a,13b,13c,13dと4本のトーションバー12a,12b,12c,12dを介して接続されている。
【0012】
4本のトーションバー12a,12b,12c,12dは、ミラー11と一体に形成されている。ミラー11の外周からは、トーション部12A,12Bがミラー11の径方向に延出する。一方のトーション部12Aは、回動軸線Hを挟むように対向して配置された第1のトーションバー12aと第2のトーションバー12bからなる。他方のトーション部12Bは、回動軸線Hを挟むように対向して配置された第1のトーションバー12bと第2のトーションバー12dからなる。
【0013】
トーション部12Aの第1のトーションバー12aは、ミラー11の外周からアーム13aの端部に形成された突起連結部13eに向かって、徐々に回動軸線Hに近づくように延在する。すなわち、第1のトーションバー12aは、回動軸線Hに対して傾斜するように延在している。また、トーション部12Aの第2のトーションバー12cは、ミラー11の外周からアーム13cの端部に形成された突起連結部13fに向かって、徐々に回動軸線Hに近づくように延在する。すなわち、第2のトーションバー12cは、回動軸線Hに対して傾斜するように延在している。
【0014】
同様に、他方のトーション部12Bの第1のトーションバー12bは、ミラー11の外周からアーム13bの端部に形成された突起連結部13gに向かって、徐々に回動軸線Hに近づくように延在する。すなわち、第1のトーションバー12bは、回動軸線Hに対して傾斜するように延在している。また、トーション部12Bの第2のトーションバー12dは、ミラー11の外周からアーム13dの端部に形成された突起連結部13hに向かって、徐々に回動軸線Hに近づくように延在する。すなわち、第2のトーションバー12dは、回動軸線Hに対して傾斜するように延在している。
【0015】
各トーションバー12a,12b,12c,12dは回動軸線Hから所定の距離だけ離間してミラー11の外周に接続しており、第1のトーションバー12aと第2のトーションバー12c並びに第1のトーションバー12bと第2のトーションバー12dとは、回動軸線Hに対して対称形をなす。アーム13a,13b,13c,13dは回動軸線Hに対して直交する方向に延在し、トーション部12A側において、アーム13aとアーム13cとは、一直線上で整列し、トーション部12B側において、アーム13bとアーム13dとも、一直線上で整列している。
【0016】
アーム13a,13b,13c,13dにはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で作られた圧電膜が形成されていている。圧電膜の上下には酸化物の電極が設けられ、更に金属の電極により配線がなされており、圧電膜に電界をかけたり、圧電膜に生じた電界を検出したりできる。例えば、図1において、回動軸線Hの右側に位置するアーム13c,13dの圧電膜の電極に交流電圧を入力信号として入力すると、圧電膜が伸縮し、それがアーム13c,13dに上下に反る運動を発生させ、その運動がトーションバー12c,12dからミラー11に伝わりミラー11が揺動する。ミラー11の動きはトーションバー12a,12bを通して回動軸線Hの左側に位置するアーム13a、13bを上下に反らせ、圧電膜に電界が発生し、電極に電圧信号が発生する。
【0017】
ミラー11の表面をなす反射面11aには、高反射率の金属薄膜が形成されている。金属材料としては、既知の高反射率を持つ金属が利用可能であるが、可視光領域で波長に対してフラットな反射率を有し、単体でも比較的高耐蝕性であるアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金が好ましい。
【0018】
一般的にミラー11の厚みを増加させれば剛性が高まり、ミラー11の変形は抑制される。しかし、ミラー11の厚みを増加させることは重量の増加を招き、駆動特性の低下につながる。補強として用いるリブを適用する場合も同様であり、強度を向上させるため大きなリブを設けることは、駆動特性や共振周波数の劣化を招く。このため、リブの形状や大きさを最適に設定する必要がある。また種々の検討よりミラー11が最も変形する部位は、トーションバー12a,12b,12c,12dのミラー11側の付け根近傍であることが見い出された。
【0019】
図2及び図3に示されるように、ミラー11の裏面11bには、トーション部12Aにおける第1のトーションバー12aを通る中心軸線L1と、第2のトーションバー12cを通る中心軸線L2との間に、裏面11bから突出する円環状の補強部20Aが立設されている。同様に、トーション部12Bにおける第1のトーションバー12bを通る中心軸線L1と、第2のトーションバー12dを通る中心軸線L2との間に、裏面11bから突出する円環状の補強部20Bが立設されている。
【0020】
また、ミラー11の裏面11bには、略均一な厚みで延在する円環状の突起部20が立設され、中心軸線L1と中心軸線L2との間の領域には、突起部20を部分的に肉厚にすることにより形成された補強部20A,20Bが設けられている。各補強部20A,20Bは、突起部20からミラー11の中心に向かって膨出している。
【0021】
リブ状をなす突起部20は、ミラー11や他の部位と同様、シリコンウエハーを加工することからなり、フォトリソグラフィーとエッチングにより形成される。突起部20の形状は略円筒形であり、補強部20A,20Bは、突起部20の壁厚の一部を他の部分より厚くすることで形成されている。突起部20の径はミラー11の径の80〜95%の範囲であれば良い。
【0022】
突起部20の壁厚は、25μm以上が好ましく、厚い部分すなわち補強部20A,20Bの壁厚は、突起部20の壁厚のプラス50μm以上であれば良く、100μm以上であればより好ましい。また突起部20の高さは150〜400μmの間であれば良い。そして、中心軸線L1と中心軸線L2との間の領域を大きく越えるとミラー11の歪みはさらに低減される傾向にあるが、代わりにアーム13a,13b,13c,13dが不要な変形をする共振モードが発生し、本来望んでいるミラー11が回転する共振モードに悪影響を与え、最悪はトーションバー12a,12b,12c,12dやアーム13a,13b,13c,13dが破損される可能性がある。そのため中心軸線L1と中心軸線L2との間の領域において、突起部20の壁厚のみを厚くすることが好ましい。
【0023】
[実施例1]
図3に示される本実施形態に係るMEMS光スキャナ1のミラー11の厚さは50μm、突起部20の高さは190μm、突起部20の壁厚の薄い部分で25μm、厚い部分すなわち補強部20A,20Bで125μmとした。
[比較例1]
比較例1としてリブ状の突起部を設けず、他のパラメーターを実施例と同一の構成にしている。
[比較例2]
比較例2として突起部20の壁厚を25μmで一定とし、他のパラメーターを実施例と同一の構成にしている。
【0024】
構造解析シミュレーションにより、ミラー11の歪み及び主共振の周波数を計算した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0025】
実施例1および比較例2においては、比較例1と比べ相対歪みが低下していることが分かり、リブ状の突起部20を設ける効果が確認できる。一方、共振周波数は突起部20を設けることにより大きく低下するが、トーションバー12a,12b,12c,12dの幅や長さを変えることにより調整が可能である。また実施例1は比較例2と比べても相対歪みが30%以上低下しているにもかかわらず、主共振の周波数の変化が小さく抑えられており、本発明の効果が確認できる。
【0026】
なお、前述した歪みの定義としては、図4に示されるように、ミラー11を共振状態で角度θで振った時に、ミラー11の変形によって生じる状態(符合A参照)と理想状態(符合B参照)との変位Rをいう。
【0027】
本発明は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、下記のような種々の変形が可能である。
【0028】
図5(a)に示されるように、ミラー11の裏面11bには、径方向で対向して位置する円弧状の一対の突起部30a,30bが設けられている。そして、中心軸線L1と中心軸線L2との間に位置する各補強部30A,30Bは、突起部30a,30bからミラー11の中心に向かって膨出している。
【0029】
図5(b)に示されるように、ミラー11の裏面11bには、円環状の突起部40が設けられている。そして、中心軸線L1と中心軸線L2との間に位置する各補強部40A,40Bは、突起部40からミラー11における径方向の外方に向かって膨出している。
【0030】
図5(c)に示されるように、ミラー11の裏面11bには、中心軸線L1と中心軸線L2との間に扇状の補強部50A,50Bのみが配置されている。
【0031】
図5(d)に示されるように、ミラー11の裏面11bには、中心軸線L1と中心軸線L2との間に直線状の補強部60A,60Bのみが配置されている。各補強部60A,60Bは、回動軸線Hに対して直交して延在している。
【0033】
アーム13a,13b,13c,13dに形成された圧電膜を使う場合、図1において回動軸線Hの右側の2枚を使う場合のほか、そのうち一枚だけ使う場合、あるいは3枚もしくは4枚使う場合(この場合、右側と左側は交流信号の位相を反転させる必要がある)もある。また、ピエゾ抵抗素子がトーションバー12a,12b,12c,12dのいずれかに組み込まれていてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…MEMS光スキャナ 11…ミラー 11a…反射面 11b…ミラーの裏面 12A,12B…トーション部 12a,12b…第1のトーションバー 12c,12d…第2のトーションバー 13a,13b,13c,13d…アーム 20…突起部 20A,20B…補強部 30A,30B…補強部 30a,30b…突起部 40…突起部 40A,40B…補強部 50A,50B…補強部 60A,60B…補強部 H…回動軸線 L1,L2…中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5