(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶接トーチへ送給される消耗電極と被溶接物との間に短絡状態およびアーク状態を繰り返し発生させながら、ロボットに保持された前記溶接トーチを溶接線に沿って移動させる移動工程と、
前記消耗電極と前記被溶接物との間が前記短絡状態および前記アーク状態のいずれであるかを検出する検出工程と、
前記検出工程によって前記アーク状態が検出されてから前記アーク状態の継続期間が、第1の期間または前記第1の期間より長い第2の期間を経過したか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程によって前記継続期間が前記第1の期間を経過したと判定された場合に、前記溶接トーチを減速させるとともに、前記判定工程によって前記継続期間が前記第2の期間を経過したと判定された場合に、前記溶接トーチを停止させるように前記ロボットへ指示する指示工程と
を含むことを特徴とするアーク溶接方法。
溶接トーチへ送給される消耗電極と被溶接物との間に短絡状態およびアーク状態を繰り返し発生させながら、ロボットに保持された前記溶接トーチを溶接線に沿って移動させる移動工程と、
前記消耗電極と前記被溶接物との間が前記短絡状態および前記アーク状態のいずれであるかを検出する検出工程と、
前記検出工程によって前記アーク状態が検出されてから前記アーク状態の継続期間が、第1の期間または前記第1の期間より長い第2の期間を経過したか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程によって前記継続期間が前記第1の期間を経過したと判定された場合に、前記溶接トーチを減速させるとともに、前記判定工程によって前記継続期間が前記第2の期間を経過したと判定された場合に、前記溶接トーチを停止させるように前記ロボットへ指示する指示工程と
を含む溶接品の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係るアーク溶接方法の概要を示す模式図である。
【
図2】
図2は、アーク溶接システムの全体構成を示す図である。
【
図3】
図3は、アーク溶接システムのブロック図である。
【
図4A】
図4Aは、アーク溶接の実行における動作タイムチャートの例(その1)である。
【
図4B】
図4Bは、アーク溶接の実行における動作タイムチャートの例(その2)である。
【
図5】
図5は、アーク溶接システムが実行する処理手順を示すフローチャートである。
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するアーク溶接システム、アーク溶接方法および溶接品の製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
まず、実施形態に係るアーク溶接方法の概要について、
図1を用いて説明する。
図1は、実施形態に係るアーク溶接方法の概要を示す模式図である。なお、
図1では、説明をわかりやすくするために、所定の期間である「第1の期間P1」および「第2の期間P2」における溶接トーチの移動距離を実際よりも誇張して示している。
【0011】
図1に示すように、実施形態に係るアーク溶接方法では、消耗電極が送給される溶接トーチを、たとえばロボットなどによって構成される移動部(不図示)によって移動させる。具体的に、移動部は、溶接トーチの先端方向(たとえば矢印201)に送給された消耗電極の先端が溶接線に沿うように溶接トーチを移動させる。
【0012】
また、移動部が溶接トーチを移動させる間、消耗電極と被溶接物(不図示)との間には電力が供給される。かかる電力の供給は、消耗電極と被溶接物との間に「短絡状態」と「アーク状態」とを繰り返し発生させるように、消耗電極の送給とあわせて制御される。
【0013】
ここで、「短絡状態」とは、消耗電極の先端が被溶接物へ近接または接触し、消耗電極と被溶接物とが導通する状態、言い換えれば消耗電極から被溶接物へ溶滴が移行する状態を指す。また、これに対し、「アーク状態」とは、消耗電極と被溶接物との間にアークが存在する状態、言い換えれば消耗電極の先端に溶滴が形成され成長する状態を指す。
【0014】
かかる「短絡状態」と「アーク状態」とを繰り返し発生させながら、上述のように移動部が溶接トーチを移動させることによってアーク溶接が行われ、被溶接物には溶接線に沿ってビードが形成される。
【0015】
ところで、消耗電極は、たとえばライナーへの詰りや送給装置の不具合などによって、アーク溶接を行ううえで適正な量が送給されない場合がある。この場合、消耗電極と被溶接物との間でアーク状態が長く継続してしまい、正常なビードが形成されないなどの溶接状態の異常が生じる。
【0016】
そこで、実施形態に係るアーク溶接方法では、溶接電流や溶接電圧に基づいて消耗電極と被溶接物との間が短絡状態またはアーク状態のいずれであるかを検出することとした。そして、検出されたアーク状態の継続期間に基づいて溶接トーチの移動速度を調節することで、溶接状態の異常によってビードに間欠部などの溶接不良が生じる事態を回避することとした。
【0017】
より具体的に実施形態に係るアーク溶接方法について説明する。
図1に示すように、実施形態に係るアーク溶接方法ではまず、上述のように消耗電極と被溶接物との間に短絡状態およびアーク状態を繰り返し発生させながら溶接線に沿って溶接トーチを移動させることによってアーク溶接を行い、被溶接物には溶接線に沿ってビードが形成される(
図1のステップS1参照)。
【0018】
かかるアーク溶接の過程においては、実施形態に係るアーク溶接方法では、消耗電極と被溶接物との間が短絡状態またはアーク状態のいずれであるかが逐次検出される。
【0019】
ここで、消耗電極と被溶接物との間がアーク状態であることが検出されたものとする(
図1のステップS2参照)。かかる場合、実施形態に係るアーク溶接方法では、アーク状態が検出されてから所定の期間である第1の期間P1が経過すると、溶接状態の異常を推定して溶接トーチを減速させる(
図1のステップS3参照)。
【0020】
すなわち、実施形態に係るアーク溶接方法では、アーク状態が第1の期間P1を経ることによって、消耗電極の送給不良などが生じているものと仮にみなして、溶接トーチの移動を制限させる。
【0021】
そして、実施形態に係るアーク溶接方法では、アーク状態が検出されてから、第1の期間P1よりも長い第2の期間P2がさらに経過しても消耗電極と被溶接物との間が引き続きアーク状態にあるならば、溶接状態の異常を確定して溶接トーチの移動を停止させる(
図1のステップS4参照)。
【0022】
すなわち、実施形態に係るアーク溶接方法では、アーク状態が第2の期間P2を経ることによって、消耗電極の送給不良などが生じていることを確定し、溶接トーチの移動を停止させる。
【0023】
また、実施形態に係るアーク溶接方法では、第2の期間P2の期間中に短絡状態が検出された場合には、溶接状態が正常に復帰したものとして溶接トーチの減速状態の解除を行う。これら実施形態に係るアーク溶接方法において実行される手順の詳細については、
図4Aおよび
図4Bを用いて後述する。
【0024】
このように、実施形態に係るアーク溶接方法では、溶接電流や溶接電圧に基づいて消耗電極と被溶接物との間が短絡状態またはアーク状態のいずれであるかを検出することとした。そして、検出されたアーク状態の継続期間に基づいて溶接トーチの移動速度を調節することで、溶接状態の異常によってビードに間欠部などの溶接不良が生じる事態を回避することとした。
【0025】
したがって、実施形態に係るアーク溶接方法によれば、ビードに間欠部が生じるいわゆる「ビードとび」や正常にビードが形成されないといった事態を回避して溶接品質をより向上させることができる。
【0026】
なお、上述した説明では、第1の期間P1の経過後に溶接トーチを減速させることとしたが、これに限らず、第1の期間P1の経過後から第2の期間P2の経過前までの溶接トーチの移動は、減速および停止を適宜組み合わせたものであってもよい。
【0027】
次に、実施形態に係るアーク溶接システムの全体構成について、
図2を用いて説明する。
図2は、アーク溶接システムの全体構成を示す図である。
【0028】
図2に示すように、実施形態に係るアーク溶接システム1は、ロボット10と、ロボット10を動作させてポジショナP上のワークWを溶接するアーク溶接装置20を備える。ポジショナPはロボット10がワークWを溶接し易いように、ワークWの位置や姿勢を変化させる不図示のアクチュエータを備える。また、アーク溶接装置20とポジショナPとは、電力供給線(以下「ケーブル」という)42によって繋がれている。
【0029】
アーク溶接装置20は、
図2に示すように、制御装置30と電源装置40とを備える。制御装置30は、ロボット10およびポジショナPを制御してポジショナP上のワークWをアーク溶接する。また、制御装置30には、操作装置60と、報知部70とが接続される。
【0030】
ロボット10は、
図2に示すように、ベース部11を介して床面などに固定される。ロボット10は、複数のロボットアーム12を有しており、各ロボットアーム12は、関節部13を介して他のロボットアーム12と接続される。
【0031】
また、関節部13を介して相互に接続されたロボットアーム12のうち、ベース部11に最も近いロボットアーム12の基端はベース部11に固定され、ベース部11から最も遠いロボットアーム12の先端には溶接機器15が取り付けられる。各々の関節部13は、不図示のサーボモータなどにより駆動され、溶接機器15の位置や姿勢を様々に変更させる。
【0032】
送給部14は、ロボットアーム12の所定位置に配置され、溶接ワイヤ缶18に格納された溶接ワイヤ18aを、トーチケーブル17を介して溶接機器15へ送り出す。なお、トーチケーブル17は、コンジットケーブル17aを内包しており、コンジットケーブル17a内を通して消耗電極である溶接ワイヤ18aが溶接機器15へ送り出される。
【0033】
また、送給部14は、ガスボンベ19から供給されたシールドガスを、トーチケーブル17を介して溶接機器15へ供給する。なお、トーチケーブル17は、ガス供給ホース17bを内包しており、ガスボンベ19から供給されたシールドガスが、ガス供給ホース17b内を通して溶接機器15へ供給される。
【0034】
また、送給部14には、溶接ワイヤ18aの溶接機器15への送給速度を検出する送給速度検出器が設けられており、かかる送給速度の情報は電源装置40へ出力される。そして、制御装置30は、電源装置40を介して送給部14による溶接ワイヤ18aの供給速度も制御する。
【0035】
溶接機器15は、溶接トーチ15aとコンタクトチップ15bとを備える。溶接トーチ15aは、中空部位にトーチケーブル17が挿入された中空構造を有し、最先端部にはコンタクトチップ15bが取り付けられる。
【0036】
コンタクトチップ15bは貫通孔を有し、溶接ワイヤ18aは、かかる貫通孔を貫通してコンタクトチップ15bの先端から送り出される。また、コンタクトチップ15bには、ケーブル17cが接続され、電源装置40からアーク溶接のための溶接電力が供給される。
【0037】
また、溶接トーチ15a内には、ガス供給ホース17bからシールドガスが供給される。このように供給されたシールドガスは溶接トーチ15aの先端から吐出され、溶接ワイヤ18aの先端から発生するアークを雰囲気から遮蔽する。
【0038】
なお、溶接ワイヤ18aの送給は、ワークWへの方向(正送)への一方向(いわゆるプッシュ式)に限らず、正送と、正送とは逆方向へ送給する逆送とを交互に切り替えつつ行う(いわゆるプッシュ・プル式)こととしてもよい。このようにすることで、溶接ワイヤ18aの、たとえばトーチケーブル17やコンジットケーブル17a内での詰りが自己的に解消されやすくなる。したがって、溶接ワイヤ18aの送給を良好に行うことができる。
【0039】
操作装置60は、たとえば、アーク溶接の作業内容を作業者がプログラムする場合やアーク溶接の状態を作業者が監視する場合などに用いられる。
【0040】
操作装置60は、通信ネットワーク61を介して制御装置30へ溶接設定情報を送信する。通信ネットワーク61としては、有線LAN(Local Area Network)や、無線LANといった一般的なネットワークを用いることができる。なお、溶接設定情報が操作装置60から制御装置30に送信されるのではなく、制御装置30が操作装置60からの情報に基づいて溶接設定情報を生成することとしてもよい。
【0041】
報知部70は、制御装置30に接続され、
図4Aを用いて後述する溶接異常にともないロボット10が停止したことを含む旨を作業者に報知する。報知部70は、たとえばディスプレイやスピーカ等で構成され、警告を示す表示や音等を出力することにより警告情報を報知する。
【0042】
なお、
図2には、制御装置30と別体に設けられた報知部70を例示しているが、これに限らず、報知部70は、たとえば操作装置60などのアーク溶接システム1が含む各種装置と一体に設けられることとしてもよい。
【0043】
制御装置30は、操作装置60から取得した溶接設定情報に基づき、制御ケーブル34,35を介してロボット10や電源装置40を制御して、ワークWに対するアーク溶接を行う。溶接設定情報には、ロボット制御情報や電源制御情報が含まれる。
【0044】
具体的には、制御装置30は、溶接設定情報のうちロボット制御情報に従って、ロボット10を制御し、先端のロボットアーム12に取り付けられた溶接機器15の位置や姿勢を変化させる。ロボット制御情報には、溶接線の情報や溶接速度の情報、ポジショナPの動作情報、溶接ワイヤ18aの送給速度の情報などが含まれる。
【0045】
ここで、溶接線の情報は、たとえば溶接機器15の軌道を示す情報である。すなわち、溶接線の情報は、溶接機器15の位置の変化や溶接機器15のワークWに対する姿勢の変化を示す情報であり、移動位置の座標情報や姿勢情報としてロボット10へ入力される。溶接速度の情報は、たとえば溶接機器15によるアーク溶接の速度(単位時間当たりの溶接機器15の移動量)を示す情報であり、溶接速度指令値としてロボット10へ出力される。
【0046】
また、制御装置30は、溶接設定情報のうち電源制御情報に従って電源装置40を制御する。具体的には、制御装置30は、送給部14によって溶接ワイヤ18aを供給させつつ、電源制御情報に基づいて電源装置40に溶接機器15への溶接電力の供給を行わせて、溶接機器15にアーク溶接を実行させる。電源制御情報には、溶接電圧指令値、溶接電流指令値、溶接開始指令、溶接停止指令などが含まれる。
【0047】
また、電源装置40は、電流・電圧検出部41(後述)を有しており、溶接ワイヤ18aとワークWとの間の溶接電流および溶接電圧を検出する。そして、制御装置30は、かかる検出情報に基づいてアーク溶接の実行中におけるロボット10の動作を制御する。この点の詳細については、
図3以降を用いて後述する。
【0048】
このように、制御装置30は、溶接機器15の位置や姿勢を変化させつつ、溶接ワイヤ18aを送給部14から溶接機器15へ送給させるとともに、溶接電力を電源装置40からコンタクトチップ15bへ供給させる。
【0049】
これにより、実施形態に係るアーク溶接システム1は、溶接ワイヤ18aの先端からアークを発生させ、短絡状態およびアーク状態を繰り返しつつ溶接線に沿ってワークWを溶接する。
【0050】
次に、実施形態に係るアーク溶接システム1の内部構成について、
図3を用いて説明する。
図3は、アーク溶接システムのブロック図である。なお、
図3では、実施形態に係るアーク溶接システム1の説明に必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。また、
図3を用いた説明では、主として制御装置30の内部構成について説明することとし、既に
図2で示した各種装置については説明を簡略化する場合がある。
【0051】
図3に示すように、制御装置30は、溶接制御部31と、記憶部32と、ロボット制御部33とを備える。溶接制御部31は、取得部31aと、状態検出部31bと、期間判定部31cと、指示部31dとをさらに備える。取得部31aは、電流・電圧検出部41から溶接ワイヤ18a(
図2参照)とワークW(
図2参照)との間の溶接電流値や溶接電圧値の情報を受け取って状態検出部31bへ送る。
【0052】
状態検出部31bは、溶接電流や溶接電圧の値を閾値情報32aと比較して、消耗電極とワークWとの間が短絡状態およびアーク状態のいずれであるかを検出する。ここで、閾値情報32aは、溶接電流値(以下、「閾値電流Ith」という)や溶接電圧値の閾値(以下、「閾値電圧Vth」という)を含む情報であり、あらかじめ記憶部32に登録される。
【0053】
たとえば、状態検出部31bは、溶接電流の値が閾値電流Ithより大きい、または、溶接電圧の値が閾値電圧Vth以下の場合に短絡状態を検出する。一方、状態検出部31bは、溶接電流の値が閾値電流Ith以下、または、溶接電圧の値が閾値電圧Vthより大きい場合にアーク状態を検出する。そして、状態検出部31bは、かかる検出結果を期間判定部31cへ送る。
【0054】
また、状態検出部31bは、一定期間における溶接電流の平均値(以下、「平均電流値」という)や溶接電圧の積算値(以下、「電圧積算値」という)を閾値情報32aと比較して、消耗電極とワークWとの間が「短絡状態を含む状態」およびアーク状態のいずれであるかを検出することとしてもよい。ここで、短絡状態を含む状態とは、短絡状態とアーク状態が繰り返し発生してアーク溶接が行われている状態のことを指す。
【0055】
具体的には、状態検出部31bは、平均電流値が閾値電流Ithより大きい、または、電圧積算値が閾値電圧Vth以下の場合に短絡状態を含む状態を検出する。一方、状態検出部31bは、平均電流値が閾値電流Ith以下、または、電圧積算値が閾値電圧Vthより大きい場合にアーク状態を検出する。
【0056】
期間判定部31cは、期間情報32bに基づき、状態検出部31bから受け取った検出結果からアークの発生状態の期間に関する判定を行い、ロボット移動許可信号や溶接異常検出信号を生成して指示部31dへ送る。
【0057】
具体的には、期間判定部31cは、状態検出部31bによって短絡状態や短絡状態を含む状態が検出された場合、ロボット移動許可信号を生成して指示部31dへ送る。また、期間判定部31cは、状態検出部31bによってアーク状態が検出された場合、期間情報32bに基づいてかかるアーク状態の期間を判定してロボット移動許可信号の生成を停止したり、溶接異常検出信号を生成したりする。この点の詳細については
図4Aおよび
図4Bを用いて後述する。
【0058】
ここで、期間情報32bは、状態検出部31bによってアーク状態が検出されてから、ロボット移動許可信号の生成の停止までの時間や溶接異常検出信号の生成までの時間を含む情報であり、あらかじめ記憶部32に登録される。
【0059】
指示部31dは、期間判定部31cからの情報に基づき、電源装置40や報知部70といった各種装置を動作させる動作信号を生成して各種装置へ向け出力したり、ロボット制御部33にロボット10の動作を指示したりする。
【0060】
ロボット制御部33は、実行部33aを有し、ロボット10に所定の動作を実行させる。具体的には、ロボット制御部33は、指示部31dからの指示に基づいてロボット10(
図2参照)を、たとえば減速させたり停止させたりする。
【0061】
記憶部32は、ハードディスクドライブや不揮発性メモリといった記憶デバイスであり、閾値情報32aおよび期間情報32bを記憶する。なお、閾値情報32aおよび期間情報32bの内容については既に説明したため、ここでの記載を省略する。
【0062】
なお、
図3で制御装置30の内部に示した各構成要素は、制御装置30単体に配置されなくともよい。たとえば、溶接制御部31を含む制御装置とロボット制御部33を含む制御装置とは別体に設けられたり、制御対象となる各種装置のそれぞれに対応付けられた複数個の筐体で構成されたりしてもよい。
【0063】
次に、実施形態に係るアーク溶接システム1が、平均電流値に基づいて溶接状態の異常を確定し、ロボット10を停止させる場合を例にとって
図4Aを用いて説明する。
図4Aは、アーク溶接の実行における動作タイムチャートの例(その1)である。
【0064】
タイムチャートの縦軸はそれぞれ平均電流値、ロボット移動許可信号、溶接異常検出信号およびロボット動作を示しており、横軸はいずれも時間を示している。なお、
図4Aにおいて、時間経過や平均電流値の変化は一例を模式的に示したものであり、実測値と必ずしも対応していない。
【0065】
また、以下では、説明の便宜上、溶接ワイヤ18aとワークWとの間に供給される溶接電流および溶接電圧の波形が矩形波状である場合を主たる例に挙げて説明を行うが、波形の形状を限定するものではなく、たとえば台形波状や三角波状、正弦波状といった場合にも置換可能である。
【0066】
まず、時刻T0においては平均電流値が閾値電流Ithより大きく、時刻T1において平均電流値が閾値電流Ithより大きい値から閾値電流Ith以下へ変化したものとする。ここで、制御装置30は、平均電流値が閾値電流Ithより大きい場合、短絡状態を含む状態であることを、閾値電流Ith以下の場合には、アーク状態であることをそれぞれ判定する。なお、短絡状態を含む状態においては、短絡状態とアーク状態とが繰り返し発生してアーク溶接が行われる。
【0067】
制御装置30は、時刻T1から時刻T2において平均電流値が閾値電流Ith以下であっても、アーク溶接にともなう安定したアークが発生している(ロボット移動許可信号「ON」)ものとしてロボット10の移動を継続する(ロボット動作「ON」)。なお、
図4Aには、時刻T0から時刻T2までをロボット10の「移動期間」として、また時刻T1から時刻T2までを「第1の期間P1」として、それぞれ示している。
【0068】
そして、制御装置30は、平均電流値が閾値電流Ith以下となってから第1の期間P1が経過した場合、ロボット移動許可信号の生成を停止して(ロボット移動許可信号「OFF」)、ロボット10の動作、すなわち溶接機器15の移動を減速させる(ロボット動作「OFF」)。すなわち、制御装置30は、かかる第1の期間P1の経過によって溶接ワイヤ18aの詰りなどによる溶接状態の異常を推定し、溶接不良が生じないように溶接機器15の移動を減速させる。かかる減速は、平均電流値が閾値電流Ith以下となってから第2の期間P2が経過したことを示す時刻T3まで行われる。
【0069】
なお、時刻T2から時刻T3におけるロボット10の動作は、溶接機器15の減速に限らず、減速および停止を適宜組み合わせて行うものであってもよい。
図4Aには、時刻T2から時刻T3までをロボット10の「減速期間」として、時刻T1から時刻T3までを「第2の期間P2」として示している。
【0070】
また、時刻T2から時刻T3において、説明の便宜上、ロボット動作を「OFF」としているが、ロボット10は移動期間よりも小さい速度で移動する期間を含むものとする。
【0071】
そして、平均電流値が閾値電流Ith以下となってから第2の期間P2を経過した場合(時刻T3)、制御装置30は、溶接状態の異常が確定したものとして溶接異常検出信号を生成し(溶接異常検出信号「ON」)、ロボット10の動作を停止させる。
図4Aには、時刻T3以降の期間をロボット10の「停止期間」として示している。
【0072】
このように、実施形態に係るアーク溶接システム1では、溶接異常が検出された場合に、ロボット10の移動を停止させる。これにより、溶接ワイヤ18aの詰りなどによってアーク状態が長く続くことでビードとびや正常なビードが形成されないといった溶接不良を防ぐことができる。すなわち、溶接品質をより向上させることができる。
【0073】
また、制御装置30は、時刻T3におけるロボット10の動作の停止を報知部70(
図2参照)にて作業者などに報知することとしてもよい。このようにすることで、作業者はアーク溶接が異常状態となったことを容易に把握することができる。
【0074】
なお、上述したように第1の期間P1の経過によって一時的に溶接状態の異常を推定した場合であっても、かかる溶接状態が所定の期間内に正常な状態に復帰した場合には、ロボット10の移動を再開させることとしてもよい。
【0075】
この点につき、
図4Bを用いて説明する。
図4Bは、アーク溶接の実行における動作タイムチャートの例(その2)である。なお、
図4Bでは、説明をわかりやすくするために
図4Aで既に説明した時刻T0〜T3を同趣旨のものとして示した。
【0076】
図4Bに示すように、実施形態に係るアーク溶接システム1では、平均電流値が閾値電流Ith以下となってから第1の期間P1が経過した場合であっても、第2の期間P2の経過前(時刻T4)に平均電流値が閾値電流Ithより大きい値となったならば、制御装置30は、溶接状態が正常な状態に復帰したとしてロボット移動許可信号をOFFからONへ切り替える。
【0077】
また、これにともない、制御装置30は、ロボット動作をOFFからONに切り替えてロボット10の減速状態を解除し、ふたたび通常の移動速度による移動を再開させて、溶接機器15によるアーク溶接を継続する。また、この場合、制御装置30は、溶接異常検出信号についてはOFFの状態のままとする。
【0078】
このように、実施形態に係るアーク溶接システム1は、平均電流値が閾値電流Ith以下となってから第1の期間P1が経過した場合にロボット10を減速させ、第2の期間P2の経過前に溶接状態が正常な状態に復帰した場合には、かかる減速状態を解除する。
【0079】
これにより、実施形態に係るアーク溶接システム1では、一時的に溶接異常の状態になっても、ビードに間欠部が生じる事態を回避して溶接作業を継続することができる。したがって、実施形態に係るアーク溶接システム1によれば、作業員の手動介入などによる生産効率の低下を防止しつつ溶接品質をより向上させることができる。
【0080】
なお、
図4Aおよび
図4Bでは、アークの発生が平均電流値に基づいて検出される場合について説明したが、これに限らず、アークの発生の検出は一定期間の電圧積算値に基づいて行われることとしてもよい。
【0081】
この場合、制御装置30は、かかる一定期間の電圧積算値が閾値電圧Vthより大きければ溶接機器15がアーク状態であることを検出し、閾値電圧Vth以下であれば短絡状態を含む状態であることを検出する。
【0082】
また、これまでは、アーク信号の生成が、溶接電流の一定期間における平均値や溶接電圧の一定期間における積算値に基づいて判定される場合を例にとって説明した。しかしながら、アーク信号の生成は、溶接電流や溶接電圧の瞬間値(いわゆる「リアルタイムデータ」)に基づくこととしてもよい。
【0083】
このようにすることで、実際の溶接電流や溶接電圧の変化に対するロボット移動許可信号の生成や停止の追従性をより向上させることができる。したがって、平均電流値や電圧積算値が短時間で頻繁に変化する場合であっても、ロボット10の動作の停止や復帰を追従させて間欠部の無いビードを得ることができる。
【0084】
なお、平均電流値や電圧積算値を算出するための期間や第1の期間P1、第2の期間P2、ロボット10の移動速度などの設定方法としては、たとえば、あらかじめ実験等によって最適な値を定めておく方法が挙げられる。
【0085】
ところで、前述の第1の期間P1または第2の期間P2は、
図4Aおよび
図4Bに示した移動期間におけるロボット10すなわち溶接トーチ15aの移動速度に基づいて適宜定めることができる。具体的には、たとえば溶接トーチ15aの移動速度が大きいほど、第1の期間P1や第2の期間P2を短くする。
【0086】
このようにすることで、移動期間における溶接トーチ15aの移動速度に関わらず、第1の期間P1または第2の期間P2の経過後における溶接トーチ15aの移動距離を一定の範囲内に収めて、ビードに間欠部が生じる事態を回避することができる。
【0087】
次に、実施形態に係るアーク溶接システム1が実行する処理手順について
図5を用いて説明する。
図5は、実施形態に係るアーク溶接システムが実行する処理手順を示すフローチャートである。なお、
図5では、制御装置30が平均電流値に基づいて溶接機器15のアークの発生状態を判定する場合を例にとって説明する。
【0088】
図5に示すように、ロボット10が溶接トーチ15aを溶接線に沿って移動させつつワークWを溶接する(ステップS101)。そして、たとえば平均電流値などの溶接電流が閾値電流Ith以下となった場合(ステップS102,Yes)、制御装置30はかかる状態が第1の期間P1を経過したか否かを判定する(ステップS103)。
【0089】
ここで、平均電流値が閾値電流Ith以下の状態が第1の期間P1を経過した場合(ステップS103,Yes)、制御装置30はロボット10の動作(すなわち溶接トーチ15aの移動)を減速させる(ステップS104)。なお、制御装置30はロボット10(溶接トーチ15a)の動作を停止するまで減速させることとしてもよい。
【0090】
また、ステップS102の判定条件を満たさなかった(すなわち、平均電流値が閾値電流Ithより大きい)場合には(ステップS102,No)、ステップS101以降の処理を繰り返す。
【0091】
また、ステップS103の判定条件を満たさなかった(すなわち、平均電流値が閾値電流Ith以下の状態が第1の期間P1より長く継続しなかった)場合には(ステップS103,No)、ステップS101以降の処理を繰り返す。
【0092】
つづいて、制御装置30は平均電流値が閾値電流Ith以下である状態が、第1の期間P1より長い第2の期間P2を経過したか否かを判定する(ステップS105)。ここで、平均電流値が閾値電流Ith以下である状態が第2の期間P2を経過した場合(ステップS105,Yes)、制御装置30は溶接異常を判定する(ステップS106)。そして、制御装置30は、ロボット10の動作(すなわち溶接トーチ15aの移動)を停止させ(ステップS107)、処理を終了する。
【0093】
なお、ステップS105の判定条件を満たさなかった(すなわち、平均電流値が閾値電流Ith以下である状態が第2の期間P2より長く継続しなかった)場合には(ステップS105,No)、制御装置30は、溶接トーチ15a(ロボット10)の減速を解除して(ステップS108)、ステップS101以降の処理を繰り返す。
【0094】
上述してきたように、実施形態に係るアーク溶接システムは、送給部と、電源部(電源装置)と、溶接制御部と、ロボットと、ロボット制御部と、検出部(状態検出部)と、判定部(期間判定部)と、指示部とを備える。送給部は、溶接トーチへ消耗電極を送給する。
【0095】
電源部は、消耗電極(溶接ワイヤ)と被溶接物との間に電力を供給する。溶接制御部は、送給部と電源部との動作を制御して消耗電極と被溶接物(ワーク)との間に短絡状態およびアーク状態を繰り返し発生させる。
【0096】
ロボットは、溶接トーチを溶接線に沿って移動させる。ロボット制御部は、ロボットの動作を制御する。検出部は、消耗電極と被溶接物との間が短絡状態およびアーク状態のいずれであるかを検出する。判定部は、検出部によってアーク状態が検出されてから第1の期間または第1の期間より長い第2の期間が経過したか否かを判定する。
【0097】
指示部は、判定部によって第1の期間が経過したと判定された場合に、溶接トーチを減速させるとともに、判定部によって第2の期間が経過したと判定された場合に、溶接トーチを停止させるようにロボット制御部へ指示する。
【0098】
このように、実施形態に係るアーク溶接システムでは、溶接状態に応じて溶接トーチを減速させたり停止させたりする。したがって、実施形態に係るアーク溶接システムによれば、溶接ビードに間欠部が生じる事態を回避して溶接の品質をより向上することができる。
【0099】
なお、上述した実施形態では、ワークをポジショナに設置することとしたが、ワークの位置や姿勢を変化させる必要がなければ、ポジショナに代えてワークを載置させる載置台を使用することとしてもよい。この場合、電源装置からのケーブルは、ワークや載置台に接続してもよい。
【0100】
また、上述した実施形態では、電流・電圧検出部を電源装置に設けることとした。しかしながら、これに限らず、電流検出器および電圧検出器の一方または両方を制御装置に設けることとしてもよい。また、電源装置と制御装置とを別体として説明したが、電源装置と制御装置とを一体化してもよい。
【0101】
また、上述した実施形態では、1つのワークにつき1台のロボットの溶接機器で溶接作業を行う場合を例にとって説明したが、これに限らず、1つのワークにつき溶接機器を有する複数のロボットで溶接作業を行うこととしてもよい。この場合、複数のロボットのうち一部または全部で制御装置や電源装置を共有することとしても構わない。
【0102】
また、上述した実施形態では、平均電流値や電圧積算値を算出するための期間や第1の期間、第2の期間、ロボットの移動速度などの各種設定が、操作装置の操作により入力および変更可能となることとしてもよい。このようにすることで、たとえば、実機で溶接した結果物に基づいて各種設定を現場作業者により容易に変更することができる。なお、操作装置ではなく制御装置や電源装置の操作によって上述した各種設定を入力および変更可能としてもよい。
【0103】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。