(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287670
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ニーボルスター
(51)【国際特許分類】
B60R 21/045 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
B60R21/045 F
B60R21/045 H
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-157816(P2014-157816)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2016-34783(P2016-34783A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】玉田 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】船戸 隆文
【審査官】
飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−132303(JP,A)
【文献】
特開2005−161882(JP,A)
【文献】
特開2008−062879(JP,A)
【文献】
特開2009−257584(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0060462(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の膝からの荷重の入力によって変形し、前記膝への衝撃を吸収するブロー成形体からなるニーボルスターであって、
前記ブロー成形体は、前記荷重が入力される荷重入力面にパーティングラインが設けられるように形成され、且つ前記パーティングラインに沿って厚肉部が設けられ、
前記荷重入力面には前記荷重が最初に加わる初期打撃部が設けられ、
前記初期打撃部に隣接して薄壁が設けられ、
前記薄壁は、前記初期打撃部での前記ブロー成形体の両側面の厚さを合計した合計厚さよりも薄い、ニーボルスター。
【請求項2】
前記薄壁は、前記荷重の入力方向に略平行に設けられる、請求項1に記載のニーボルスター。
【請求項3】
前記初期打撃部は、平坦面である、請求項1又は請求項2に記載のニーボルスター。
【請求項4】
前記初期打撃部の周囲の領域は、前記初期打撃部に対して傾斜している、請求項1〜請求項3の何れか1つに記載のニーボルスター。
【請求項5】
前記ブロー成形体は、右側面及び左側面に横溝リブを有し、
前記横溝リブは、その側壁が前記荷重の入力方向に略平行になるように形成されており、
前記横溝リブの少なくとも1つは、前記荷重入力面に到達していない、請求項1〜請求項4の何れか1つに記載のニーボルスター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗員の膝からの荷重の入力によって変形し、前記膝への衝撃を吸収するニーボルスターに関する。
【背景技術】
【0002】
ニーボルスターは、車両の前部座席に座る乗員の膝の前方に配置され、車両が正面衝突した際にニーボルスターが塑性変形することによって乗員の膝を保護する機能を有する。特許文献1には、ブロー成形体からなるニーボルスターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2012/137892
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブロー成形体は、分割金型内に溶融パリソンを配置した状態で、分割金型のキャビティ内にエアーを吹き込むことによって形成可能である。ブロー成形体は、分割金型を用いて形成されるために、その外周にはパーティングラインが形成される。ニーボルスターに用いるブロー成形体では、膝からの荷重の入力が入力される荷重入力面にパーティングラインが配置される場合があり、この場合、ブロー成形体がパーティングラインで割れやすいという問題がある。
【0005】
このような問題に対する解決策としては、パーティングラインに沿って厚肉部を設けることによってパーティングラインでの割れを防ぐ方法が考えられる。しかし、このような方法を採用した場合、
図1(a)に示すように、厚肉による反力で初期荷重が上昇し、その後、厚肉部が座屈することによってブロー成形体が受けることができる荷重が急激に低下するという問題が生じることが分かった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ブロー成形体の割れの発生を抑制し且つ膝への衝撃を適切に吸収することができるニーボルスターを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、乗員の膝からの荷重の入力によって変形し、前記膝への衝撃を吸収するブロー成形体からなるニーボルスターであって、前記ブロー成形体は、前記荷重が入力される荷重入力面にパーティングラインが設けられるように形成され、且つ前記パーティングラインに沿って厚肉部が設けられ、前記荷重入力面には前記荷重が最初に加わる初期打撃部が設けられ、前記初期打撃部に隣接して薄壁が設けられ、前記薄壁は、前記初期打撃部での前記ブロー成形体の両側面の厚さを合計した合計厚さよりも薄い、ニーボルスターが提供される。
【0008】
本発明者らは、パーティングラインに厚肉部を設けることによって生じる初期荷重の上昇の問題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、膝からの荷重が最初に入力される初期打撃部に隣接して薄壁を設けることによって、
図1(b)に例示されるように、初期荷重の上昇及び座屈による荷重低下を抑制することができ、このために、膝への衝撃を適切に吸収することができることを見出し、本発明の完成に到った。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記薄壁は、前記荷重の入力方向に略平行に設けられる。
好ましくは、前記初期打撃部は、平坦面である。
好ましくは、前記初期打撃部の周囲の領域は、前記初期打撃部に対して傾斜している。
好ましくは、前記ブロー成形体は、右側面及び左側面に横溝リブを有し、前記横溝リブは、その側壁が前記荷重の入力方向に略平行になるように形成されており、前記横溝リブの少なくとも1つは、前記荷重入力面に到達していない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ニーボルスターの変形量と荷重との関係の一例を示すグラフである。
【
図2】本発明のニーボルスター1の取り付け例を示す。
【
図3】本発明の一実施形態のニーボルスター1の斜視図である。
【
図4】
図3のニーボルスター1の別の角度から見た斜視図である。
【
図8】(a)〜(b)は、それぞれ、
図3及び
図6中のA−A端面図、B−B端面図である。
【
図9】(a)〜(b)は、
図8(a)に対応した部位のブロー成形方法を示す。
【
図10】(a)〜(b)は、
図8(b)に対応した部位のブロー成形方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0012】
<ニーボルスター1の取り付け例>
まず、
図2を参照しながら、本実施形態のニーボルスター1の取り付け例について説明する。
図2は、
図3〜
図10に示すニーボルスター1を衝撃吸収体として自動車100に取り付けた状態を示す。
【0013】
図2に示す自動車100は、ドライバー101を含む乗員のための前部座席102を備える乗員車室103を有して構成しており、メータ104がハンドル105の側面に位置している。ハンドル105は、ステアリングコラム(図示せず)と接続しており、そのステアリングコラムを支持するステアリングサポートメンバが車体内壁面に支持されて車幅方向に設けられる。本実施形態のニーボルスター1は、ステアリングコラムの両側にステアリングコラムを挟んで運転席側に取り付けられる。但し、ステアリングコラムの両脇のスペースは、他の車両構成部材(メータ104、ナビ装置、空調機器等)の設置スペースとの関係で、縦長となるため、その縦長のスペースにおいてドライバー101の各々の膝3に隣接するようにニーボルスター1が取り付けられる。これにより、自動車100が衝撃を受けた場合に、ドライバー101の膝3が各々のニーボルスター1に接触し、ニーボルスター1により衝撃を吸収し、膝3に加わる衝撃を低減することにしている。なお、
図2には、運転席側のニーボルスター1を示したが、助手席側にも運転席側と同様に、助手席に乗員した乗員者の膝に隣接するように肘受け部材が取り付けられることになる。
【0014】
<ニーボルスター1の構成>
図3〜
図10を用いて、本発明の一実施形態のニーボルスター1について説明する。
ニーボルスター1は、乗員の膝3からの荷重Fの入力によって変形し、膝3への衝撃を吸収するブロー成形体9からなる。
【0015】
ブロー成形体9は、膝3に隣接し且つ荷重入力面となる前面9fと、それに対向する背面9rと、前面9fと背面9rを連結する上面9u、底面9b、右側面9m、及び左側面9lとで構成される。なお、本明細書においては、上下・左右・前後は、乗員からの視点で表記する。
【0016】
前面9fには、膝3からの荷重Fが最初に加わる初期打撃部5が設けられている。初期打撃部5は、平坦面になっており、これによって、ブロー成形体9が横倒れすることが抑制されている。また、初期打撃部5の周囲の領域は、初期打撃部5に対して傾斜していて、C面化又はR面化されている。初期打撃部5の近傍に、初期打撃部5の面に略平行な面が存在していると、その面と厚肉部19との相乗効果によって初期荷重の増大が顕著になってしまうが、本実施形態のように、初期打撃部5の周囲の領域を初期打撃部5に対して傾斜させることによって、初期荷重の増大を抑制することができる。
【0017】
ブロー成形体9は、
図6,
図9及び
図10に示すように、左右方向に開閉する分割金型11,12を用いたブロー成形で形成されるため、前面9f、上面9u、背面9r、及び底面9bに渡ってパーティングラインPLが形成される。
図6では、パーティングラインPLを強調して太線で表示している。また、パーティングラインPLに沿ってバリ15が形成される。バリ15は、ブロー成形体9を分割金型11,12から取り出した後に除去することができる。
【0018】
分割金型11,12は、
図9(a)に示すように、ピンチオフ部11a,12aの外側に圧縮部11b,12bを有しており、溶融パリソン13,14が圧縮部11b,12bによって挟まれるとその一部が分割金型11,12のキャビティ方向に移動して、
図9(b)に示すように厚肉部19が形成される。このため、厚肉部19は、パーティングラインPLに沿って形成される。厚肉部19とは、隣接した部分よりも肉厚が厚い部位であり、その厚さは、特に規定されないが、厚肉部19に隣接した部分の厚さの1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がさらに好ましい。厚肉部19の厚さの上限は、特に規定されないが、例えば、厚肉部19に隣接した部分の厚さの3倍以下が好ましく、2倍以下がさらに好ましい。厚肉部19が厚すぎると、初期荷重の増大が顕著になるからである。
【0019】
分割金型11,12は、
図10(a)に示すように、薄壁7が形成される部位に、ピンチオフ部11a,12aの内側に別の圧縮部11c,12cを有しており、
図10(b)に示すように、溶融パリソン13,14が圧縮部11c,12cによって挟まれることによって溶融パリソン13,14が圧縮されて薄壁7が形成される。また、この際に溶融パリソン13,14の一部が分割金型11,12のキャビティ方向に移動して厚肉部19が形成される。
【0020】
薄壁7は、初期打撃部5に隣接した位置に、荷重Fの入力方向に略平行に延びるように形成される。上述したように、パーティングラインPLに沿って厚肉部19を設けた結果、
図1(a)に示すように、初期荷重の増大とその後の座屈による荷重の減少が生じやすくなるが、本実施形態では、初期打撃部5に隣接して薄壁7を配置することによって、
図1(b)に示すように、初期荷重を抑制し且つ座屈の発生を抑制することが可能になっている。また、
図1(a)の波形では初期荷重が大きいために膝3がダメージを受けやすいが、
図1(b)の波形では、初期荷重が比較的低く、広い変形量の範囲に渡って荷重が略一定であるので、膝3に過度な衝撃が加わらず、膝3がダメージを受けることを抑制することが可能である。薄壁7は、初期打撃部5でのブロー成形体9の両側面の厚さを合計した合計厚さよりも薄くなるように構成される。薄壁7の厚さは、この合計厚さの80%以下が好ましく、50%以下がさらに好ましい。薄壁7の厚さの下限は、特に規定されないが、例えば、前記合計厚さの10%以上が好ましい。薄壁7がこれよりも薄いと成形が困難になるからであるからである。
【0021】
ブロー成形体9は、右側面9m及び左側面9lに横溝リブ9cを有する。横溝リブ9cは、右側面9mと左側面9lのそれぞれからパーティングラインPLに向かって(つまり中空部側へ)凹んでいる。また、膝3からの荷重Fに対する耐力を高めるために、横溝リブ9cは、その側壁が荷重Fの入力方向に略平行になるように形成されている。横溝リブ9cは、右側面9mと左側面9lにそれぞれ3本ずつ形成されており、上下2本の横溝リブ9cは、背面9rから前面9fまでの全体に渡って延びるように形成されているのに対し、中央の横溝リブ9cは、背面9rには到達しているが、前面9fには到達していない。このような構成により、初期打撃部5の近傍においてブロー成形体9が変形しやすくなり、初期荷重の増大がより一層抑制される。
【0022】
ブロー成形体9の背面9rには、ブロー成形体9を、取付対象物に取り付けるための取付凸部9gが設けられる。取付対象物は、ステアリングサポートメンバに溶接したり、それ以外の部分にネジ止めや溶接などの方法で固定したりすることができる。ブロー成形体9を取付対象物に取り付けるための別の構成として、例えば特許文献1に開示されているものが挙げられる。
【符号の説明】
【0023】
1:ニーボルスター
3:膝
5:初期打撃部
7:薄壁
9:ブロー成形体
19:厚肉部