特許第6287721号(P6287721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ車体株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6287721-固体高分子形燃料電池及びセパレータ 図000003
  • 特許6287721-固体高分子形燃料電池及びセパレータ 図000004
  • 特許6287721-固体高分子形燃料電池及びセパレータ 図000005
  • 特許6287721-固体高分子形燃料電池及びセパレータ 図000006
  • 特許6287721-固体高分子形燃料電池及びセパレータ 図000007
  • 特許6287721-固体高分子形燃料電池及びセパレータ 図000008
  • 特許6287721-固体高分子形燃料電池及びセパレータ 図000009
  • 特許6287721-固体高分子形燃料電池及びセパレータ 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287721
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池及びセパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0206 20160101AFI20180226BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20180226BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180226BHJP
【FI】
   H01M8/0206
   H01M8/0228
   H01M8/10 101
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-189148(P2014-189148)
(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-62725(P2016-62725A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2016年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】両角 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 孝俊
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/010491(WO,A1)
【文献】 特開2000−260441(JP,A)
【文献】 特開2006−156385(JP,A)
【文献】 特開2009−203502(JP,A)
【文献】 特開2001−076740(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/008838(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体が一対のセパレータにより挟持されてなるセルを複数積層することにより形成された固体高分子形燃料電池において、
前記セパレータの各々は金属材料よりなる基材を有し、
前記セパレータの各々における前記基材の表面には、同基材の酸化被膜よりも高硬度の導電性粒子を含む樹脂層が設けられ、
互いに隣接する前記セパレータの各々の間においては前記樹脂層同士が接触しており、
前記樹脂層を構成する樹脂膜の厚さは前記導電性粒子の最大凝集粒子径よりも小さくされている、
固体高分子形燃料電池。
【請求項2】
膜電極接合体が一対のセパレータにより挟持されてなるセルを複数積層することにより形成された固体高分子形燃料電池において、
前記セパレータの各々は金属材料よりなる基材を有し、
前記セパレータの一方における前記基材の表面には、同基材の酸化被膜よりも高硬度の導電性粒子を含む樹脂層が設けられ、
互いに隣接する前記セパレータの各々の間においては前記一方のセパレータの前記樹脂層と他方のセパレータの前記基材とが接触しており、
前記樹脂層を構成する樹脂膜の厚さは前記導電性粒子の最大凝集粒子径よりも小さくされている、
固体高分子形燃料電池。
【請求項3】
前記膜電極接合体と前記セパレータの各々との間には、炭素系材料により形成されたガス拡散層が介設されており、
前記基材の前記ガス拡散層に対向する面には、同基材の酸化被膜よりも高硬度の導電性粒子を含む第1層が設けられるとともに、前記第1層の表面には、炭素系材料を含む第2層が設けられ、
前記第2層と前記ガス拡散層とが接触している、
請求項1又は請求項2に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項4】
固体高分子形燃料電池に適用されるセパレータにおいて、
前記セパレータは金属材料よりなる基材を有し、
前記基材の少なくとも一方の最表面は、同基材の酸化被膜よりも高硬度の導電性粒子を含む樹脂層とされており、
前記樹脂層を構成する樹脂膜の厚さは前記導電性粒子の最大凝集粒子径よりも小さくされている、
セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体が一対のセパレータにより挟持されてなるセルを複数積層することにより形成された固体高分子形燃料電池及びセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、固体高分子形燃料電池(以下、単に燃料電池と略称する。)の構成が開示されている。特許文献1に記載の燃料電池においては、固体高分子膜よりなる電解質膜の両面に一対の電極触媒層が接合されており、電解質膜と一対の電極触媒層とによって膜電極接合体が形成されている。また、膜電極接合体を一対のセパレータによって挟持することによりセルが形成されており、セルを複数積層することにより燃料電池が構成される。
【0003】
特許文献1に記載の燃料電池のセパレータは、アルミニウムや鋼板によって形成された基板部と、窒化チタンからなり基板部を被覆するコート層とから形成されている。なお、基板部の表面にコート層を形成する際には、PVD(Physical Vapor Deposition)やCVD(Chemical Vapor Deposition)などの膜形成技術が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000―48833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の燃料電池の場合、互いに隣接するセパレータ間においては、窒化チタンよりなるコート層同士が接触することとなるため、接触抵抗を低減することができると考えられる。しかしながら、この場合、基板部(以下、基材と称する。)の表面にコート層を形成するためにPVDやCVDなどの膜形成技術を用いる必要がある。また、基材を構成するアルミニウムや鋼板の表面には接触抵抗の大きい酸化被膜が存在することから、前記コート層の形成に先立ち、基材の表面を酸洗することにより酸化被膜を除去する必要となる。そのため、セパレータの製造工程が難しいものとなっている。
【0006】
本発明の目的は、互いに隣接するセパレータ間における接触抵抗を容易に低減することができる固体高分子形燃料電池及びセパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための固体高分子形燃料電池は、膜電極接合体が一対のセパレータにより挟持されてなるセルを複数積層することにより形成される。前記セパレータの各々は金属材料よりなる基材を有し、前記セパレータの各々における前記基材の表面には、同基材の酸化被膜よりも高硬度の導電性粒子を含む樹脂層が設けられ、互いに隣接する前記セパレータの各々の間においては前記樹脂層同士が接触している。
【0008】
同構成によれば、複数のセルが積層されると、各セパレータに対して積層方向に沿った荷重が印加される。このとき、互いに接触するセパレータの各々の間においては、一方のセパレータの樹脂層に含まれる導電性粒子が基材の酸化被膜を貫通して同基材の母材に接触するとともに、他のセパレータの樹脂層に含まれる導電性粒子が基材の酸化被膜を貫通して同基材の母材に接触する。また、一方のセパレータの導電性粒子と他方のセパレータの導電性粒子とが接触する。このため、一方のセパレータにおける基材の母材、同セパレータの導電性粒子、他方のセパレータの導電性粒子、及び同セパレータにおける基材の母材によって、酸化被膜を経由しない導電経路が形成されることとなる。
【0009】
また、上記目的を達成するための固体高分子形燃料電池は、膜電極接合体が一対のセパレータにより挟持されてなるセルを複数積層することにより形成される。前記セパレータの各々は金属材料よりなる基材を有し、前記セパレータの一方における前記基材の表面には、同基材の酸化被膜よりも高硬度の導電性粒子を含む樹脂層が設けられ、互いに隣接する前記セパレータの各々の間においては前記一方のセパレータの前記樹脂層と他方のセパレータの前記基材とが接触している。
【0010】
同構成によれば、複数のセルが積層されると、各セパレータに対して積層方向に沿った荷重が印加される。このとき、互いに接触するセパレータの各々の間においては、一方のセパレータの樹脂層に含まれる導電性粒子が、基材の酸化被膜を貫通して同基材の母材に接触するとともに他のセパレータにおける基材の酸化被膜を貫通して同基材の母材に接触する。このため、一方のセパレータにおける基材の母材、同セパレータの導電性粒子、及び他方のセパレータにおける基材の母材によって、酸化被膜を経由しない導電経路が形成される。
【0011】
また、上記目的を達成するためのセパレータは、固体高分子形燃料電池に適用される。前記セパレータは金属材料よりなる基材を有し、前記基材の少なくとも一方の最表面は、同基材の酸化被膜よりも高硬度の導電性粒子を含む樹脂層とされている。
【0012】
同構成によれば、隣接するセルのセパレータ同士を互いに積層する際に、それらの樹脂層同士が接触するようにすれば、一方のセパレータの樹脂層に含まれる導電性粒子が基材の酸化被膜を貫通して同基材の母材に接触するとともに、他のセパレータの樹脂層に含まれる導電性粒子が基材の酸化被膜を貫通して同基材の母材に接触する。また、一方のセパレータの導電性粒子と他方のセパレータの導電性粒子とが接触する。このため、一方のセパレータにおける基材の母材、同セパレータの導電性粒子、他方のセパレータの導電性粒子、及び同セパレータにおける基材の母材によって、酸化被膜を経由しない導電経路が形成されることとなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、互いに隣接するセパレータ間における接触抵抗を容易に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態の燃料電池のセルを中心とした断面図。
図2】同実施形態の第1セパレータの斜視図。
図3】同実施形態の第2セパレータとガス拡散層との接触部について、第2セパレータとガス拡散層とを互いに離間して示す断面図。
図4】同実施形態の第1セパレータと第2セパレータとの接触部について、第1セパレータと第2セパレータとを互いに離間して示す断面図。
図5】同実施形態の第1セパレータとガス拡散層との接触部について、第1セパレータとガス拡散層とを互いに離間して示す断面図。
図6】第1比較例の第1セパレータと第2セパレータとの接触部について、第1セパレータと第2セパレータとを互いに離間して示す断面図。
図7】第2比較例の第2セパレータとガス拡散層との接触部について、第2セパレータとガス拡散層とを互いに離間して示す断面図。
図8】変形例の燃料電池の第1セパレータと第2セパレータとの接触部について、(a)は第1セパレータと第2セパレータとを互いに離間して示す断面図、(b)は第1セパレータと第2セパレータとが接触している状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1図7を参照して、固体高分子形燃料電池(以下、燃料電池と略称する。)及びセパレータの一実施形態について説明する。
燃料電池は、膜電極接合体11が一対のセパレータ20,30により挟持されてなるセル10を複数積層することにより形成されている。膜電極接合体11は、固体高分子膜よりなる電解質膜12が一対の電極触媒層13,14によって挟持されたものであり、所謂MEA(Membrane Electrode Assembly)と称される。なお、第1電極触媒層13が燃料極として機能し、第2電極触媒層14が空気極として機能する。
【0016】
膜電極接合体11と各セパレータ20,30との間には、炭素繊維により形成されたガス拡散層15,16が介設されている。なお、本実施形態のガス拡散層15,16はカーボンペーパーである。
【0017】
図1及び図2に示すように、第1セパレータ20の上面及び下面にはそれぞれ凹溝20a,20bが交互に延びている。下側の凹溝20bは、膜電極接合体11に対向しており、例えば水素ガスなどの燃料ガスが流通する流路とされている。また、上側の凹溝20aの裏面(同図の下面)がガス拡散層15に接触している。
【0018】
図1に示すように、第2セパレータ30の上面及び下面にはそれぞれ凹溝30a,30bが交互に延びている。上側の凹溝30aは、膜電極接合体11に対向しており、例えば空気などの酸化剤ガスが流通する流路とされている。また、下側の凹溝30bの裏面(同図の上面)がガス拡散層16に接触されている。
【0019】
第1セパレータ20の下側の凹溝20bの裏面(同図の上面)と第2セパレータ30の上側の凹溝30aの裏面(同図の下面)とが接触されており、第1セパレータ20の上側の凹溝20aと第2セパレータ30の下側の凹溝30bとによって閉断面の空間が形成されている。この閉断面の空間は、冷却水が流通する流路とされている。
【0020】
図3及び図4に示すように、各セパレータ20,30は金属材料よりなる基材21,31を有している。本実施形態の基材21,31はチタンによって形成されている。
図3に示すように、第2セパレータ30におけるガス拡散層16に接触する面においては、基材31の表面に第1層34が設けられており、同第1層34の表面に最表層としての第2層37が設けられている。従って、第2セパレータ30においては、第2層37がガス拡散層16に接触する。
【0021】
第1層34は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂よりなる樹脂膜35と、樹脂膜35を介して基材31に結合されるとともに基材31の酸化被膜33よりも高硬度の導電性粒子36とを有している。本実施形態の導電性粒子36は窒化チタンである。樹脂膜35の厚さは導電性粒子36の最大凝集粒子径よりも小さくされており、導電性粒子36は酸化被膜33を貫通して母材32に接触するとともに樹脂膜35の外側に突出している。ここで、凝集粒子とは、複数の導電性粒子36が溶剤や樹脂を介さずに互いに接触して塊状になったものであり、最大凝集粒子径とは、凝集粒子の径の最大値である。
【0022】
第2層37は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂よりなる樹脂膜38と、樹脂膜38を介して第1層34に結合された粉末状のグラファイト39とを有している。第2層37における内側のグラファイト39は導電性粒子36に接触している。
【0023】
ちなみに、本実施形態では、以下のようにして第1層34及び第2層37が形成される。すなわち、まずは、導電性粒子36、エポキシ樹脂、及び溶剤を含む塗料を基材31の表面に塗布する。この塗料は、例えばメチルエチルケトンとブチルジグリコール(ブチルカルビトール)とを含むものである。続いて、前記塗料の表面に対して、例えばグラファイト39とヘキサンなどの溶剤とを含む塗料を塗布する。続いて、上記の2種類の塗料が塗布された基材31の表面を加圧するとともに、塗料が硬化する温度まで加熱する。このことにより、導電性粒子36が基材31の酸化被膜33を貫通して母材32の表面に接触するとともに、エポキシ樹脂が硬化することにより前記樹脂膜35が形成される。そして、樹脂膜35により導電性粒子36と母材32とが接触した状態に固定される。また、このとき、エポキシ樹脂の一部がグラファイト39の間に流れ出て硬化することにより前記樹脂膜38が形成される。そして、樹脂膜38を介してグラファイト39が第1層34に結合される。
【0024】
一方、図4に示すように、第2セパレータ30における第1セパレータ20に接触する面においては、基材31の表面に第1層34のみが設けられており、基材31の最表面は第1層34とされている。従って、第2セパレータ30においては、第1層34が第1セパレータ20に接触する。
【0025】
図5に示すように、第1セパレータ20におけるガス拡散層15に接触する面においては、第2セパレータ30と同様にして、基材21の表面に第1層24が設けられており、同第1層24の表面に最表層としての第2層27が設けられている。従って、第1セパレータ20においては、第2層27がガス拡散層15に接触する。
【0026】
第1層24は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂よりなる樹脂膜25と、樹脂膜25を介して基材21に結合されるとともに基材21の酸化被膜23よりも高硬度の導電性粒子26とを有している。本実施形態の導電性粒子26は窒化チタンである。樹脂膜25の厚さは導電性粒子26の最大凝集粒子径よりも小さくされており、導電性粒子26は酸化被膜23を貫通して母材22に接触するとともに樹脂膜25の外側に突出している。ここで、凝集粒子とは、複数の導電性粒子26が溶剤や樹脂を介さずに互いに接触して塊状になったものであり、最大凝集粒子径とは、凝集粒子の径の最大値である。
【0027】
第2層27は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂よりなる樹脂膜28と、樹脂膜28を介して第1層24に結合された粉末状のグラファイト29とを有している。第2層27における内側のグラファイト29は導電性粒子26に接触している。
【0028】
第1セパレータ20における第1層24及び第2層27の形成方法は、第2セパレータ30の第1層34及び第2層37の形成方法と同様である。
一方、図4に示すように、第1セパレータ20の下側の凹溝20bの裏面、すなわち第2セパレータ30に接触する面においては、基材21の表面に第1層24のみが設けられており、基材21の最表面は第1層24とされている。従って、第1セパレータ20においては、第1層24が第2セパレータ30に接触する。
【0029】
次に、比較例との比較に基づいて本実施形態の作用について説明する。
まず、第1比較例における第1セパレータ120及び第2セパレータ130の構成について説明する。
【0030】
図6に示すように、第1セパレータ120における第2セパレータ130に接触する面においては、基材21の表面に第1層24及び第2層27が設けられている。第2セパレータ130における第1セパレータ120に接触する面においては、基材31の表面に第1層34及び第2層37が設けられている。従って、互いに隣接する第1セパレータ120及び第2セパレータ130の間においては、第2層27,37同士が接触している。
【0031】
次に、第2比較例における第2セパレータ230の構成について説明する。
図7に示すように、第2セパレータ230におけるガス拡散層16に接触する面においては、基材31の表面に第1層34のみが設けられている。従って、第2セパレータ230においては、第1層34がガス拡散層16に接触する。
【0032】
なお、第1層24,34及び第2層27,37の構成は先に説明した本実施形態のものと同一であるため、同一の符号を付すことにより重複する説明を省略する。
【0033】
【表1】
ここで、表1に示すように、第1セパレータ20,120と第2セパレータ30,130との接触抵抗及びセパレータ20,30,120,130,230とガス拡散層15,16との接触抵抗の成分を定義する。
【0034】
まず、本実施形態における第2セパレータ30とガス拡散層16との接触抵抗は、以下の式(1)で表すことができ、測定結果は、3.1(mΩ・cm2)であった。
r(A,B)+R(B)+r(B,C)+R(C)+r(C,D)・・・(1)
なお、第2層37内におけるグラファイト39同士の界面抵抗は無視できるほど小さいことから、上記式(1)では省略している。また、本実施形態における第1セパレータ20とガス拡散層15との接触抵抗も、同様にして以下の式(1)で表すことができる。
【0035】
次に、第2比較例における第2セパレータ230とガス拡散層16との接触抵抗は、以下の式(2)で表すことができ、測定結果は、7.7(mΩ・cm2)であった。
r(A,B)+R(B)+r(B,D)・・・(2)
上記式(1)と式(2)とを比較すると、本実施形態の接触抵抗に比べて第2比較例の接触抵抗が大きい理由は、r(B,D)が他の成分に比べて大きいためであるといえる。このことは、異質の材料同士の界面抵抗が同質の材料同士の界面抵抗よりも大きくなるとの一般的な傾向と合致する。
【0036】
次に、本実施形態における第1セパレータ20と第2セパレータ30との接触抵抗は、以下の式(3)で表すことができ、測定結果は、1.3(mΩ・cm2)であった。
{r(A,B)+R(B)}×2+r(B,B)・・・(3)
次に、第1比較例における第1セパレータ120と第2セパレータ130との接触抵抗は、以下の式(4)で表すことができ、測定結果は、7.1(mΩ・cm2)であった。
【0037】
{r(A,B)+R(B)+r(B,C)+R(C)}×2 +r(C,C)・・・(4)
上記式(3)と式(4)とを比較すると、本実施形態の接触抵抗に比べて第1比較例の接触抵抗が大きい理由としては、以下の3つが考えられる。
【0038】
・r(B,C)が大きい。
・R(C)が大きい。
・r(C,C)が大きい。
【0039】
ここで、グラファイト(C)の固有抵抗R(C)が十分に小さいことは周知である。また、グラファイト(C)の界面抵抗r(C,C)の測定結果は約1(mΩ・cm2)であった。これらのことから、導電性粒子(B)とグラファイト(C)との界面抵抗r(B,C)が第1比較例の接触抵抗を大きなものとする主要因であるといえる。
【0040】
以上のことから、本実施形態によれば、複数のセル10が積層されると、各セパレータ20,30に対して積層方向に沿った荷重が印加される。このとき、互いに隣接する第1セパレータ20及び第2セパレータ30の間においては、第1セパレータ20における基材21の母材22、第1セパレータ20の導電性粒子26、第2セパレータ30の導電性粒子36、及び第2セパレータ30における基材31の母材32によって、酸化被膜23,33を経由しない導電経路が形成されることとなる。また、上述したように、導電性粒子26,36とグラファイト29,39との界面が存在しない。従って、互いに隣接する第1セパレータ20及び第2セパレータ30の間における接触抵抗を容易に低減することができる。
【0041】
また、炭素繊維により形成されたガス拡散層15,16に対して、各セパレータ20,30の表面に設けられた第2層27,37のグラファイト29,39が接触することとなる。すなわち、ガス拡散層15,16と各セパレータ20,30との界面が同質の炭素系材料同士が接触する界面となるため、界面抵抗が低くなる。このため、ガス拡散層15,16と各セパレータ20,30との接触抵抗を低減することができる。
【0042】
以上説明した本実施形態に係る固体高分子形燃料電池及びセパレータによれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)互いに隣接する第1セパレータ20及び第2セパレータ30の間においては第1層24,34同士が接触している。
【0043】
こうした構成によれば、第1セパレータ20における基材21の母材22、第1セパレータ20の導電性粒子26、第2セパレータ30の導電性粒子36、及び第2セパレータ30における基材31の母材32によって、酸化被膜23,33を経由しない導電経路が形成されることとなる。従って、互いに隣接する第1セパレータ20及び第2セパレータ30の間における接触抵抗を容易に低減することができ、燃料電池の内部抵抗を低減することができる。
【0044】
また、第1セパレータ20における第2セパレータ30に接触する面、及び第2セパレータ30における第1セパレータ20に接触する面には第2層27,37が設けられていないため、その分の塗料、すなわち第2層27,37に要するグラファイト29,39などの使用量を低減することができる。
【0045】
(2)第1層24,34の樹脂膜25,35の厚さが導電性粒子26,36の最大凝集粒子径よりも小さくされているため、1つ凝集粒子が、第1セパレータ20の基材21の母材22と、第2セパレータ30の第1層34に含まれる導電性粒子36との双方に接触しやすくなる。従って、互いに隣接する第1セパレータ20及び第2セパレータ30の間における接触抵抗を効果的に低減することができる。
【0046】
(3)基材21,31のガス拡散層15,16に対向する面には、第1層24,34が設けられ、第1層24,34の表面には、グラファイト29,39を含む第2層27,37が設けられている。そして、第2層27,37とガス拡散層15,16とが接触している。
【0047】
こうした構成によれば、ガス拡散層15,16と各セパレータ20,30との界面が同質の炭素系材料同士が接触する界面となるため、界面抵抗が低くなる。このため、ガス拡散層15,16と各セパレータ20,30との接触抵抗を低減することができる。
【0048】
また、第1層24,34の表面が、柔らかいグラファイト29,39を含む第2層27,37によって覆われるため、ガス拡散層15,16が傷つきにくくなる。従って、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0049】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・ガス拡散層15,16を炭素繊維の織物であるカーボンクロスによって形成することもできる。
【0050】
・導電性粒子26,36を均一にする必要はない。
図8(a),(b)に示すように、第2セパレータ330の第1層34及び第2層37を省略し、互いに隣接する第1セパレータ20及び第2セパレータ330の間において、第1セパレータ20の第1層24と第2セパレータ330の基材31とが接触するようにしてもよい。
【0051】
複数のセル10が積層されると、各セパレータ20,330に対して積層方向に沿った荷重が印加される。このとき、互いに接触する第1セパレータ20及び第2セパレータ330の間においては、図8(b)に示すように、導電性粒子26が第2セパレータ330における基材31の酸化被膜33を貫通して同基材31の母材32に接触することとなる。このため、第1セパレータ20における基材21の母材22、導電性粒子26、第2セパレータ330における基材31の母材32によって、酸化被膜23,33を経由しない導電経路が形成される。従って、上記実施形態に準じた効果を奏することができる。
【0052】
・各セパレータの基材をステンレス鋼などの他の金属材料によって形成することもできる。
・導電性粒子をカーボンブラックなどの他の粒子に変更することもできる。
【符号の説明】
【0053】
10…セル、11…膜電極接合体、12…電解質膜、13…第1電極触媒層、14…第2電極触媒層、15,16…ガス拡散層、20…第1セパレータ、20a,20b…凹溝、21…基材、22…母材、23…酸化被膜、24…第1層、25…樹脂膜、26…導電性粒子、27…第2層、28…樹脂膜、29…グラファイト、30…第2セパレータ、31…基材、32…母材、33…酸化被膜、34…第1層、35…樹脂膜、36…導電性粒子、37…第2層、38…樹脂膜、39…グラファイト。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8