(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287752
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】風車発電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20180226BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20180226BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
H02J3/38 160
H02J3/32
H02J7/00 B
H02J7/00 303B
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-213355(P2014-213355)
(22)【出願日】2014年10月20日
(65)【公開番号】特開2016-82768(P2016-82768A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】長田 悠人
(72)【発明者】
【氏名】神通川 亨
【審査官】
赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−036538(JP,A)
【文献】
特開2009−247188(JP,A)
【文献】
特開2014−138546(JP,A)
【文献】
特開2007−124780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00−5/00
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車発電装置と電力貯蔵装置とを有し、連系点への電力出力を一定に維持する風車発電システムにおいて、
前記風車発電装置の近傍に設けられた風速計と、
予め用意された風速と風車発電量との関係を示す曲線を使用して、前記風速計で計測された過去のある所定の期間の風速を、該所定の期間で発電可能な風車発電量へと変換し、該発電可能な風車発電量の平均値を算出する風車発電量平均値算出手段と、
前記発電可能な風車発電量の平均値を合成出力目標値として設定する合成出力目標値設定手段と、
を備えることを特徴とする風車発電システム。
【請求項2】
さらに、現時点の電力貯蔵装置の蓄電量と予め設定された蓄電量目標値との差分から前記電力貯蔵装置の蓄電量の補正量を作成する補正量作成手段と、
現時点の電力貯蔵装置の蓄電量と予め設定された蓄電量目標値との差分について現時点より未来のある所定の期間で割算したものに所定の補正係数を掛けて得られる蓄電量の補正量と、前記発電可能な風車発電量の平均値とを足し合わせることで設定すべき合成出力目標値を生成する合成出力目標値生成手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の風車発電システム。
【請求項3】
前記電力貯蔵装置の蓄電量保持手段として、蓄電池、高性能キャパシタ、又は、フライホイールの内のいずれかを使用することを特徴とする請求項1または2に記載の風車発電システム。
【請求項4】
風車発電装置と電力貯蔵装置とを有し、連系点への電力出力を一定に維持する風車発電システムにおける風車発電方法であって、
予め用意された風速と風車発電量との関係を示す曲線を使用して、前記風車発電装置の近傍に設けられた風速計で計測された過去のある所定の期間の風速を、該所定の期間で発電可能な風車発電量へと変換し、該発電可能な風車発電量の平均値を算出する過程、および、
前記発電可能な風車発電量の平均値を合成出力目標値として設定する過程、
を含むことを特徴とする風車発電方法。
【請求項5】
さらに、現時点の電力貯蔵装置の蓄電量と予め設定された蓄電量目標値との差分から前記電力貯蔵装置の蓄電量の補正量を作成する過程、および、
現時点の電力貯蔵装置の蓄電量と予め設定された蓄電量目標値との差分について現時点より未来のある所定の期間で割算したものに所定の補正係数を掛けて得られる蓄電量の補正量と、前記発電可能な風車発電量の平均値とを足し合わせることで設定すべき合成出力目標値を生成する過程、
を含むことを特徴とする請求項4に記載の風車発電方法。
【請求項6】
前記電力貯蔵装置の蓄電量保持手段に、蓄電池、高性能キャパシタ、又は、フライホイールの内のいずれかが使用されることを特徴とする請求項4または5に記載の風車発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車発電装置と電力貯蔵装置を有する風車発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
風車発電装置は風況により出力が変動する。連系する電力系統に対し風車発電装置の出力が変動したことによる影響を与えないようにするためには、電力貯蔵装置などを用いて出力を平滑化する必要がある。平滑化するための電力貯蔵装置を用いることで、風車発電装置と電力貯蔵装置との合成出力(システム出力)を一定にする技術が知られている。
【0003】
従来の合成出力を一定にする技術では、合成出力を一定とする目標値を設定するために、風車発電装置の発電量を予測することや、下記特許文献1に記載のような過去の風車発電量の実績値(平均)を用いて合成出力を一定とする目標値を設定している。しかし、風車発電装置の発電量を予測するのは非常に困難なことや、過去の風車発電量の実績値(平均)を用いるようにすると風車の発電量を制限している時には本来発電可能な発電量が分からないといった問題がある。
【0004】
図5は、従来例に係り、過去の風車発電量の実績値(平均)を用いて制御目標値に設定するときのイメージを示す図である。
図5において過去の期間aにおける風車発電量を基に将来の期間bにおける風車発電量制限値を引上げるように風車発電システムを制御した場合、本来発電可能な発電量が分からないばかりか、制限された風車発電量の平均値を本来発電可能な風車発電量が大きく上回っている場合には、風車発電量と制限された風車発電量の平均値との差を電力貯蔵装置の充電によって風車発電システムの出力を一定にする対応で制御するため、電力貯蔵装置としての蓄電池に余分な負荷が掛かりその蓄電池を損傷する危険がある。
【0005】
ところで下記に示す特許文献1には、現時点以前の制御期間内の風力発電電力の平均値を演算し、演算した風力発電電力の平均値を風力発電計画値として設定するものにおいて、現時点の蓄電池の充電率と充電率目標範囲を比較し、目標範囲内であれば、前記平均値を発電計画値とするが、目標範囲を上回る場合には、発電電力の平均値に1より大きい正の定数を乗じた値を発電計画値として設定し、目標範囲を下回る場合、発電電力の平均値に1より小さい正の定数を乗じた値を発電計画値として設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−36538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術は、過去の風車発電量の実績値(平均)を使用するため、風車に出力制限をかけている場合には本来発電可能な発電量より小さい値を発電計画値としてしまう。本来発電可能な発電量より小さい値が発電計画値となると、風車の出力制限が強くなる可能性や、電力貯蔵装置への負担が大きくなる可能性があるという課題がある。
【0008】
例えば
図5に示されるように、期間bにおける風車発電量制限値が期間aにおける風車発電量制限値よりも増加した場合、制限された風車発電量の平均値は、本来発電可能な風車発電量と大きく差が生じ、風車発電量と制限された風車発電量の平均値との差が電力貯蔵装置の充電に作用して風車発電システムの出力を一定にする対応をとるため電力貯蔵装置への負担が大きくなるという課題がある。
【0009】
そこで本発明の課題は、過去の風況から本来発電可能な風車発電量を計算しそれを制御目標値に使用することで、風車発電量の制限値が変化した際にも制御目標値のずれを防止することが可能な風車発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために本発明は、制御目標値の設定に過去の風車発電量の平均値を使用するのではなく、過去の風況から本来発電可能な風車発電量を計算しそれを制御目標値に使用することで、風車発電量の制限値が変化した際にも制御目標値がずれるのを防止するものである。
【0011】
より具体的に示せば請求項1記載の発明は、風車発電装置と電力貯蔵装置とを有し、連系点への電力出力を一定に維持する風車発電システムにおいて、過去のある所定の期間の風況から、該所定の期間で発電可能な風車発電量を計算し、該発電可能な風車発電量の平均値を算出する風車発電量平均値算出手段と、前記発電可能な風車発電量の平均値を合成出力目標値として設定する合成出力目標値設定手段、を備えることを特徴とする。
【0012】
また請求項2記載の発明は、上記において、さらに、現時点の電力貯蔵装置の蓄電量と予め設定された蓄電量目標値との差分から前記電力貯蔵装置の蓄電量の補正量を作成する補正量作成手段と、現時点の電力貯蔵装置の蓄電量と予め設定された蓄電量目標値との差分について現時点より未来のある所定の期間で割算したものに所定の補正係数を掛けて得られる蓄電量の補正量と、前記発電可能な風車発電量の平均値とを足し合わせることで設定すべき合成出力目標値を生成する合成出力目標値生成手段、を備えることを特徴とする。
【0013】
また請求項3記載の発明は、上記請求項1または2において、前記電力貯蔵装置の蓄電量保持手段として、蓄電池、高性能キャパシタ、又は、フライホイールの内のいずれかを使用することを特徴とする。
【0014】
また請求項4記載の発明は、風車発電装置と電力貯蔵装置とを有し、連系点への電力出力を一定に維持する風車発電システムにおける風車発電方法であって、過去のある所定の期間の風況から、該所定の期間で発電可能な風車発電量を計算し、該発電可能な風車発電量の平均値を算出する過程、および、前記発電可能な風車発電量の平均値を合成出力目標値として設定する過程、を含むことを特徴とする。
【0015】
また請求項5記載の発明は、上記において、さらに、現時点の電力貯蔵装置の蓄電量と予め設定された蓄電量目標値との差分から前記電力貯蔵装置の蓄電量の補正量を作成する過程、および、現時点の電力貯蔵装置の蓄電量と予め設定された蓄電量目標値との差分について現時点より未来のある所定の期間で割算したものに所定の補正係数を掛けて得られる蓄電量の補正量と、前記発電可能な風車発電量の平均値とを足し合わせることで設定すべき合成出力目標値を生成する過程、を含むことを特徴とする。
【0016】
また請求項6記載の発明は、上記請求項4または5において、前記電力貯蔵装置の蓄電量保持手段に、蓄電池、高性能キャパシタ、又は、フライホイールの内のいずれかが使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、制御目標値の設定に風況からの発電量計算値を用いることで、風車発電量の制限値が変化した際にも制御目標値がずれるのを防ぐことができるので、従来法のような制御目標値がずれてしまうという課題を克服することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る合成出力を安定化させる風車発電システムの構成を示す図である。
【
図2】
図1に示した合成出力目標値生成部の詳細構成を含んだ構成ブロックを示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係り、過去の風況から本来発電可能な風車発電量を計算し、その平均値を制御目標値に設定するときのイメージを示す図である。
【
図4】風速から風車発電量を計算するパワーカーブの例を示す図である。
【
図5】従来例に係り、過去の風車発電量の実績値(平均)を使用して制御目標値に設定するときのイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る合成出力を安定化させる風車発電システムの構成を示す図である。
図1において本発明の実施形態に係る合成出力を安定化させる風車発電システムは、基本的には、図示の風車発電装置WTと、電力貯蔵装置30と、それらを制御して系統への出力すなわち連系点電力である合成出力2を一定にするための電力安定化装置1とを備えて構成される。
【0020】
電力安定化装置1内の合成出力目標値生成部11は、風車発電装置WTの近傍に設けた風速計21で計測した過去のある所定の期間aの風速から
図4に示すパワーカーブ(この図自体は例えば日本電気技術者協会のホームページで公開されているように公知である)22を使用して風車発電量を求め、求めた風車発電量の平均値を算出する制御ブロック23を有する。
【0021】
また
図1において本発明の実施形態に係る合成出力を安定化させる風車発電システムは、合成出力目標値生成部11内の蓄電量補正量作成部25において、予め設定されている充電量目標値と現在の蓄電量との関係から、合成出力目標値を維持するために補正すべき蓄電量を作成して出力する。その具体的な構成については
図2で改めて説明する。
【0022】
さらに本発明の実施形態に係る合成出力を安定化させる風車発電システムは、現時点の風車発電量を不図示の電力計で計測し、計測した風車発電量と合成出力目標値生成部11の出力である合成出力目標値との差分を減算器27で求め、充放電指令値として双方向コンバータ31に印加する。
【0023】
電力貯蔵装置30における双方向コンバータ31は、蓄電池32に蓄えられた電力を放電し交流に変換して連系点の電力である合成出力2を一定にすべく連系点に電力を供給する。また必要に応じて風車発電装置WTで発電した交流を直流に変換して蓄電池32に充電を行うために印加する。なお図示していないが、電力貯蔵装置30は、蓄電池や双方向コンバータを制御するマイコン等からなる制御装置を有し、該制御装置は上述の充放電指令値を入力として双方向コンバータを制御して充放電量を制御するとともに蓄電池の現時点の蓄電量をアナログ/デジタル変換して現時点における蓄電量の入出力制御を行う。
【0024】
その一方、電力安定化装置1内には風車出力抑制値作成部26が設けられており、風車出力抑制値作成部26には、上記のようにして生成された合成出力目標値と現在の蓄電量が入力されるとともに、それらの入力を基に所定の演算を実行することにより風車出力抑制値を出力し、これを風車発電装置WTに印加する。なお、合成出力目標値と現在の蓄電量とから風車出力抑制値を出力し、風車発電装置WTの出力を抑制する技術自体は例えば特開2008−182859号公報等に記載されているので、ここではこれ以上の説明を省くことにする。
【0025】
そして当業者には良く知られているように、蓄電池の蓄電量および風速の変化に伴って発電量が変動する風車発電装置の出力状態を勘案して系統への出力すなわち合成出力(システム出力)2を一定に制御するようにしている。なお、電力貯蔵装置30は、図示例の双方向コンバータ31の外に、蓄電量保持手段としての蓄電池(例えば、鉛電池,リチウムイオン電池,レドックスフロー電池)32、電気二重層コンデンサ等の高性能キャパシタ、又は、フライホイール等を使用することができる。
【0026】
図2は、
図1に示した合成出力目標値生成部11の詳細構成を含んだ構成ブロックを示す図である。すなわち
図2において、破線によって二つに区切られる二点鎖線内が合成出力目標値生成部11の詳細構成を示すブロックである。
図2において、
図1で説明したのと部分的に重複するが、蓄電量補正量作成部25は、現在の蓄電量から予め設定されている蓄電量目標値を引き、出力を一定とする未来のある所定の期間bにおける時間で割ったものに或るゲインKを掛けることで蓄電量補正量(値)を求める。ゲインKが例えばK=1の時は、出力を一定とする未来のある所定の期間bを経過すると蓄電量が蓄電量目標値に一致するような補正量となる。
【0027】
図2に示す合成出力目標値生成部11は、上記のようにして算出した、過去のある所定の期間aにおける発電量の平均値(
図2の破線によって二つに区切られた二点鎖線内の上部に記載のブロック)23と蓄電量補正量作成部25(
図2の破線によって二つに区切られた二点鎖線内の下部に記載のブロック)により求められた蓄電量補正値とを加算器24で足し合わせることで合成出力目標値を得るようにしている。その場合、必要に応じて目標値内に収まるように上下限が規定されたリミッタで出力する値を調整する。このようにして設定される合成出力目標値により、風車発電量の出力制限を
図3に示すように変化させた場合であっても、従来法では必然的に起きてしまう
図5のような制御目標値のずれを防ぐことができる。
【0028】
図3は、本発明の実施形態に係り、過去の風況から本来発電可能な風車発電量を計算し、その平均値を制御目標値に設定するときのイメージを示す図であり、上述した風車発電量の出力制限内において、本来発電できる風車発電量の平均値に収束するように、
図1に示す電力貯蔵装置30における蓄電量を図では線が細く描かれている斜線部に示すように充放電させて、所定の制御目標値に制御する。
【0029】
このように従来法では制御目標値の設定に過去発電量の実績値(平均)を使用していたため、風車発電量の制限値が変化した際には、制御目標値がずれてしまっていた。しかし本発明によれば、制御目標値の設定に、風況からの発電量計算値を用いることで、風車発電量の制限値が変化した場合であっても制御目標値がずれることを防ぐことができる。
【0030】
図4は、風速から風車発電量を計算するパワーカーブ22の例を示す図である。上記したように、風車発電装置WTの近傍に設けた風速計21で計測した過去のある所定の期間aの風速を図示のパワーカーブ22により風車発電量へと変換して風車発電量を求める。さらに変換して求めた風車発電量を平均化してその平均値23を求める。そして求めた平均値23を風車発電量の合成出力目標値として仮設定する(
図1に示した蓄電量補正量作成部25の出力である蓄電量補正量が得られない場合に前記仮設定した値をそのまま利用することができる)。
【0031】
以上の合成出力目標値(制御目標値)の設定方法により、
図3に示されるように風車の出力制限を変化させることによる制御目標値のずれを防ぐことができるという格別の作用効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0032】
1 電力安定化装置
2 合成出力(連系点電力)
11 合成出力目標値生成部
21 風速計
22 パワーカーブ
23 平均値算出部
24 加算器
25 蓄電量補正量作成部
26 風車出力抑制値作成部
27 減算器
30 電力貯蔵装置
31 双方向コンバータ
32 蓄電池
WT 風車発電装置