特許第6287780号(P6287780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287780
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】走査型プローブ顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/32 20100101AFI20180226BHJP
   G01Q 30/14 20100101ALI20180226BHJP
【FI】
   G01Q60/32
   G01Q30/14
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-237278(P2014-237278)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-99262(P2016-99262A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】大田 昌弘
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−319024(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/073068(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/038659(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0278958(US,A1)
【文献】 Jeffrey L. Hutter、John Bechhoefer,“Calibration of atomic-force microscope tips”,Review of Scientific Instruments,米国,American Institute of Physics,1993年 7月,Vol.64,No.7,pp.1868-1873
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00 − 90/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が入れられた容器が配置され、当該液体中に試料が配置される試料台と、
前記液体中で前記試料表面と対向する位置に配置され、探針を自由端部に有するカンチレバーと、
前記カンチレバーの自由端部の変位を検出して、変位信号を出力するセンサと、
前記カンチレバーを励振させるために、前記カンチレバーに取り付けられた圧電素子と、
前記圧電素子に励振信号を出力するとともに、前記試料の表面情報を取得する制御部とを備える走査型プローブ顕微鏡であって、
前記センサからの変位信号に基づいて前記カンチレバーの熱振動スペクトルを計測するスペクトラムアナライザを備え、
前記制御部は、前記スペクトラムアナライザからの前記熱振動スペクトルに基づいて前記カンチレバーの共振周波数を算出し、当該共振周波数に基づいて調整された前記励振信号を前記圧電素子に出力することを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記制御部は、前記熱振動スペクトルに基づいて、前記励振信号の周波数と位相とを調整することを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記カンチレバー又は前記試料をXYZ方向に移動させるXYZ制御機構を備え、
前記制御部は、前記XYZ制御機構に制御信号を出力することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面と探針(プローブ)との相互作用に基づいて表面情報を取得する走査型プローブ顕微鏡に関し、特に試料の測定範囲の表面情報を取得する周波数変調方式原子間力顕微鏡(FM−AFM)に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡では、X方向やY方向にスキャナ(XYZ制御機構)等を用いて、試料に対してカンチレバーの自由端部に形成された探針を移動させるか、或いは、カンチレバーの自由端部に形成された探針に対して試料を移動させつつ、探針と試料表面との間に働く相互作用(探針の変位量や共振周波数の変化量)を検出していき、その検出されてくる情報に基づいて試料の測定範囲の表面形状(表面情報)を高分解能に作成している。
【0003】
走査型プローブ顕微鏡の中でも周波数変調方式原子間力顕微鏡は、圧電素子を用いてカンチレバーを共振周波数で振動させ、探針と試料表面との間に働く相互作用により共振周波数の変化量を計測する(例えば、特許文献1参照)。このような周波数変調方式原子間力顕微鏡は、液体(酸性液やアルカリ液等)中の試料(生物、有機分子、絶縁物等の非導電物質等)を光学顕微鏡より高い解像度で観察できる可能性があるとして注目されている。
【0004】
図2は、周波数変調方式原子間力顕微鏡の構成の一例を示す概略斜視図である。周波数変調方式原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)101は、カンチレバー21と圧電素子22とを有するカンチレバー支持部20と、レーザ光を出射する光源部30と、カンチレバー21の変位を測定する変位測定部(センサ)31と、試料Sと試料容器33とが載置される試料載置台32と、周波数変調方式原子間力顕微鏡101全体を制御する制御部141とを備える。
【0005】
ところで、周波数変調方式原子間力顕微鏡101では、圧電素子22に励振信号を出力することで、カンチレバー21を機械的共振周波数で振動させておく必要がある。このとき、真空中や大気中では励振効率(Q値)が高いため、「自励発振」と呼ばれる共振系を簡単に構成することができるが、液体L中では液体Lの粘性のためにQ値が低下し、カンチレバー21を機械的共振周波数で振動させることが困難となっている。
【0006】
ここで、下記特許文献1の図を転記して説明に供する。図3は、或るカンチレバー21の大気中での振動特性を示し、図4は、図3と同じカンチレバー21の液体L中での振動特性を示している。大気中では高いQ値を示すカンチレバー21であっても、液体L中ではQ値が極端に低下している。
また、図5は、周波数変調方式原子間力顕微鏡101によって液体L中の試料Sを測定した際に、変位測定部31で測定された変位の一例を示す図である。このような図5に示すグラフ性からは、カンチレバー21の機械的共振周波数を判別することはできなくなっている。
【0007】
よって、周波数変調方式原子間力顕微鏡101によって液体L中の試料Sを測定するためには、まず、測定者はカンチレバー21の熱振動スペクトルを計測するスペクトラムアナライザを別途準備し、カンチレバー21の励振を停止させ、スペクトラムアナライザで計測された熱振動スペクトルを用いてカンチレバー21の共振周波数を算出している。そして、その共振周波数近傍でカンチレバー21が励振するように、圧電素子22に出力する励振信号の周波数と位相とを調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−156959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、周波数変調方式原子間力顕微鏡101で液体L中の試料Sを測定する場合には、熱振動スペクトルを用いてカンチレバー21の共振周波数を算出して、励振信号の周波数と位相とを調整しているが、「スプリアス」と呼ばれる本来カンチレバー21が持つ共振周波数ではない周波数でカンチレバー21が励振されることがあった。つまり、「スプリアス」の影響で周波数が大きく変わることがあった。これにより、探針と試料Sとを接近させる(アプローチ)際に、探針と試料Sとが衝突してしまうことがあった。
【0010】
よって、周波数変調方式原子間力顕微鏡101で液体L中の試料Sを測定する場合には、アプローチの際はたびたび(例えば100個の測定点毎)、カンチレバー21の励振を停止させ、熱振動スペクトルを用いてカンチレバー21の共振周波数を計測して、その共振周波数近傍でカンチレバー21が励振するように、励振信号の周波数と位相とを調整するという手順を行っていた。しかしながら、この作業は、非常に手間がかかるという問題点があった。
そこで、本発明は、カンチレバーを振動させる圧電素子に出力する励振信号の周波数と位相とを自動的に設定することができる走査型プローブ顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明の走査型プローブ顕微鏡は、液体が入れられた容器が配置され、当該液体中に試料が配置される試料台と、前記液体中で前記試料表面と対向する位置に配置され、探針を自由端部に有するカンチレバーと、前記カンチレバーの自由端部の変位を検出して、変位信号を出力するセンサと、前記カンチレバーを励振させるために、前記カンチレバーに取り付けられた圧電素子と、前記圧電素子に励振信号を出力するとともに、前記試料の表面情報を取得する制御部とを備える走査型プローブ顕微鏡であって、前記センサからの変位信号に基づいて前記カンチレバーの熱振動スペクトルを計測するスペクトラムアナライザを備え、前記制御部は、前記スペクトラムアナライザからの前記熱振動スペクトルに基づいて前記カンチレバーの共振周波数を算出し、当該共振周波数に基づいて調整された前記励振信号を前記圧電素子に出力するようにしている。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の走査型プローブ顕微鏡によれば、スペクトラムアナライザを備えることにより、制御部が熱振動スペクトルを取得し、その熱振動スペクトルに基づいて圧電素子に励振信号を出力するので、測定者による調整の手間を減らすことができ、使いやすい走査型プローブ顕微鏡を実現することができる。
【0013】
(その他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、前記制御部は、前記熱振動スペクトルに基づいて、前記励振信号の周波数と位相とを調整するようにしてもよい。
【0014】
さらに、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、前記カンチレバー又は前記試料をXYZ方向に移動させるXYZ制御機構を備え、前記制御部は、前記XYZ制御機構に制御信号を出力するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態の周波数変調方式原子間力顕微鏡を示す概略構成図。
図2】周波数変調方式原子間力顕微鏡の概略構成の一例を示す斜視図。
図3】或るカンチレバーの大気中での振動特性を示す図。
図4図3と同じカンチレバーの液体中での振動特性を示す図。
図5】変位測定部で測定された変位の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態である周波数変調方式原子間力顕微鏡の構成を示す概略図である。なお、先に述べた周波数変調方式原子間力顕微鏡101と同様のものについては、同じ符号を付している。また、図において地面に水平な一方向をX方向とし、地面に水平でX方向と垂直な方向をY方向とし、X方向とY方向とに垂直な方向をZ方向とする。
周波数変調方式原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)1は、筐体10と、カンチレバー21と圧電素子22とを有するカンチレバー支持部20と、レーザ光を出射する光源部30と、カンチレバー21の変位を測定する変位測定部(センサ)31と、試料Sと試料容器33とが載置される試料載置台32と、スペクトラムアナライザ50と、周波数変調方式原子間力顕微鏡1全体を制御する制御部41とを備える。
【0018】
試料容器33は、円形状の透光性の底面と、底面の周囲を囲む円筒状の透光性の側壁と、底面の裏側に取り付けられた円板状の磁性体(図示せず)とを有する。これにより、測定者は、載置面32aに、液体Lを入れた試料容器33を載置して、試料容器33内の液体L中に試料Sを配置する。
【0019】
試料載置台32は、筐体10の下部に取り付けられており、例えば平面視で直径15mmの円形状である載置面32aと、載置面32aの下部に取り付けられたピエゾスキャナ(XYZ制御機構)32bとを備える。さらに、載置面32aの内部には磁石(図示せず)が設けられている。これにより、試料容器33を載置面32aの上面に載置すれば、試料容器33の磁性体(図示せず)と、載置面32aに設けられた磁石との吸引力によって、試料容器33を載置面32aに固定することができるようになっている。
【0020】
そして、載置面32aがピエゾスキャナ32bによって筐体10に対してX方向とY方向とZ方向とに移動可能となっている。これにより、測定者は、ピエゾスキャナ32bを用いて筐体10に対してX方向とY方向とZ方向とに載置面32aを移動させることで、測定前に試料S表面の初期位置を調整することができ、さらに測定中に試料S表面の測定点をX方向とY方向とZ方向とに走査することができるようになっている。
【0021】
カンチレバー21は、例えば長さ100μm、幅30μm、厚さ0.8μmの板状体であり、先端部の下面に下方に向かって突出する先鋭な探針21aが形成されている。カンチレバー21の先端部の上面が、光源部30からのレーザ光が照射されるための照射面となる。そして、カンチレバー支持部20は、筐体10の上部に取り付けられており、カンチレバー21の他端部が、カンチレバー支持部20の下端面に圧電素子22を介して固定されている。これにより、カンチレバー21の先端部の探針21aが圧電素子22によってZ方向や−Z方向に励振するようになっている。
【0022】
光源部30は、筐体10の右上部に取り付けられており、レーザ光を出射するレーザ素子30aを備える。レーザ素子30aから出射されるレーザ光は、図において略左下方に向かって出射される。また、変位測定部31は、筐体10の左上部に取り付けられており、カンチレバー21の背面で反射されたレーザ光を検出するフォトダイオード(検出器)31aを備える。このとき、カンチレバー21の背面からの反射光(レーザ光)の反射方向がカンチレバー21のたわみ(変位)によって変化することになる。すなわち、光てこ式光学検出装置を利用してカンチレバー21の共振周波数の変化量が検出されるようになっている。
【0023】
スペクトラムアナライザ50は、フォトダイオード31aからの変位信号に基づいてカンチレバー21の熱振動スペクトルを計測して、その熱振動スペクトルを制御部41に出力する。
【0024】
制御部41は、フォトダイオード31aからの変位信号に基づいて試料Sの表面情報を作成する試料表面情報作成部41aと、励振信号の周波数と位相とを自動的に所定のタイミング(例えば100個の測定点毎)で調整する励振信号調整部40と、ピエゾスキャナ32bにXY制御信号を出力するXY制御機構制御部41dと、ピエゾスキャナ32bにZ制御信号を出力するZ制御機構制御部41eとを有する。
【0025】
XY制御機構制御部41dは、入力装置等を用いて入力された試料Sの測定範囲(XY範囲)に基づいて、試料S表面の各測定点を測定するように、載置面32aをX方向やY方向に移動させるXY制御信号をピエゾスキャナ32bに出力する制御を行う。また、Z制御機構制御部41eは、フォトダイオード31aからの変位信号に基づいて、カンチレバー21と試料S表面との間に働く引力が一定となるように、載置面32aをZ方向に移動させるZ制御信号をピエゾスキャナ32bに出力する制御を行う。
【0026】
励振信号調整部40は、共振周波数算出部41bと圧電素子制御部41cとを有する。共振周波数算出部41bは、スペクトラムアナライザ50からの熱振動スペクトルに基づいて、カンチレバー21の共振周波数を算出する制御を行う。また、圧電素子制御部41cは、共振周波数算出部41bで算出されたカンチレバー21の共振周波数に基づいて、励振信号の周波数と位相とを調整して圧電素子22に励振信号を出力する制御を行う。
【0027】
以上のように、本発明の周波数変調方式原子間力顕微鏡1によれば、スペクトラムアナライザ50を備えているので、制御部41が熱振動スペクトルを取得し、その熱振動スペクトルに基づいて圧電素子22に励振信号を出力するので、測定者による調整の手間を減らすことができる。
【0028】
<他の実施形態>
(1)上述した周波数変調方式原子間力顕微鏡1では、試料載置台32がX方向とY方向とに移動可能となっている構成を示したが、カンチレバー支持部20がX方向とY方向とに移動可能となっているような構成としてもよい。
【0029】
(2)上述した周波数変調方式原子間力顕微鏡1では、光てこ式光学検出装置を利用してカンチレバー21のたわみ(変位)を検出する構成を示したが、他の方法を利用してカンチレバーのたわみを検出するような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、試料表面と探針との相互作用に基づいて表面情報を取得する走査型プローブ顕微鏡等に使用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 周波数変調方式原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)
20 カンチレバー支持部
21 カンチレバー
21a 探針
22 圧電素子
30 光源部
31 変位測定部(センサ)
32 試料載置台
32a 載置面
32b ピエゾスキャナ
33 試料容器
41 制御部
50 スペクトラムアナライザ
図1
図2
図3
図4
図5