(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【実施例1】
【0029】
続いて、発明を実施するための形態について実施例を参照しながら説明する。実施例におけるX線は、本発明の放射線に相当する。なお、実施例におけるFPDはフラットパネルディテクタの略である。本発明の放射線位相差撮影装置は、放射線吸収が少ない被写体Mに対しても撮影ができるので、工業用途としては基板の透視、医療用途としては乳房の透視などに向いている。
【0030】
本発明に係る放射線位相差撮影装置について説明する。
図1は、本発明に係る撮影装置1の全体構成を示している。撮影装置1は、
図1に示すように被写体Mを載置する載置台2と、載置台2の上側に設けられるとともに角錐形状に広がるX線ビームを照射するX線源3と、X線源3から生じ、載置台2上の被写体Mを透過してきたX線を検出するFPD4を備えている。FPD4と載置台2との挟まれる位置にはタルボ干渉を生じさせる位相格子5が設けられている。X線源3は本発明の放射線源に相当し、FPD4は本発明の検出部に相当する。位相格子5は本発明の格子に相当する。
【0031】
撮影装置1は、タルボ干渉を利用した放射線撮影装置である。したがって、X線源3は位相のそろった放射状に広がるX線ビームを出力する構成となっている。また、位相格子5とFPD4との間の距離は、タルボ距離に設定されている。この設定により位相格子5の自己像がFPD4のX線を検出する検出面上に現れることになる。本発明における検出面は2つあり、それぞれの機能は異なっている。この点についての詳細は後述のものとする。
【0032】
自己像生成部11は、FPD4の出力に基づいて位相格子5の自己像を写し込んだ自己像画像P0a,P0bを生成する。すなわち、自己像生成部11は、FPD4の有する2つの検出面で検出された検出データをそれぞれ独立したものとして扱い、2種類の自己像画像P0a,P0bを生成する構成となっている。生成された自己像画像P0a,P0bは透視画像生成部12に出力される。透視画像生成部12は、位相格子5の自己像画像P0a,P0bの各々に基づいて被写体Mで生じたX線の位相差がイメージングされた透視画像P1a,P1bを生成する。
【0033】
撮像系移動機構13は、
図2に示すようにX線源3,FPD4,位相格子5を互いの位置関係を保った状態で載置台2に対して移動させる構成である。撮像系移動機構13により、X線源3,FPD4,位相格子5は、載置台2に平行な方向に移動することができる。撮像系移動機構13は、X線源3,位相格子5,およびFPD4の位置関係が保たれたままFPD4の検出面で被写体Mの投影が直線的に移動するように撮像系3,4,5および被写体Mの相対位置を変更させる。撮像系3,4,5は、X線を照射するX線源3と、放射線を吸収する1方向に伸びる吸収線5aが1方向と直交する方向に配列されている位相格子5と、放射線を検出する検出素子が縦横に配列された検出面でタルボ干渉によって生じる位相格子5の自己像を検出するFPD4とから構成される。撮像系移動機構13は、後述の高エネルギーX線検出面4bと低エネルギーX線検出面4aとの位置関係を保った状態でFPD4を移動させる。吸収線5aは本発明の吸収体に相当し、撮像系移動機構13は本発明の位置変更部に相当する。
【0034】
実施例1の場合、撮像系3,4,5に対する被写体Mの相対位置の変更は被写体Mを動かさずに撮像系3,4,5を移動させることで実行される。なお、撮像系移動制御部14は、撮像系移動機構13を制御する目的で設けられている。
【0035】
X線源制御部6は、X線源3を制御する目的で設けられている。撮影中、X線源制御部6は、パルス状にX線ビームを繰り返し出力するようにX線源3を制御する。X線源3がX線ビームを出力する度に、FPD4は載置台2上の被写体Mおよび位相格子5を透過してきたX線を検出し検出データを自己像生成部11に送出する。このように本発明の装置は、X線撮影を連写することにより自己像を生成する構成となっている。
【0036】
X線撮影の連写は、X線源制御部6と撮像系移動制御部14とが互いに協働して実現される。すなわち、両者が協働することにより、高エネルギーX線検出面4a上において高エネルギーX線検出面4aの短手方向の幅(後述の
図4の縦方向、すなわち移動方向についての幅)分に相当する移動量だけ撮像系3,4,5を移動させる動作と、X線ビームが照射される動作とが互いに繰り返される。したがって、連写を続けていくとFPD4上の被写体Mの写り込む位置が高エネルギーX線検出面4aの短手方向の幅分だけ移動していく。このように実施例1に係るX線源制御部6は、撮像系移動機構13が検出面上で被写体Mの投影が高エネルギーX線検出面4aの短手方向の幅だけ移動させるごとにX線源3に放射線の照射を実行させる。なお、高エネルギーX線検出面4aの短手方向の幅は、低エネルギーX線検出面4bの短手方向の幅に一致している。
【0037】
図3は、位相格子5について説明している。位相格子5は、FPD4の検出面の全域にX線ビームの投影が写り込むような形状をしている。したがって、位相格子5は、FPD4の検出面と同じように撮像系3,4,5の移動方向を縦方向とし、移動方向と直交する方向を横方向とする矩形の形状をしている。
【0038】
位相格子5は、X線を吸収する線状に伸びる複数の吸収線5aを有している。吸収線5aは、延びる方向に直交する方向に所定のピッチで配列している。この吸収線5aは、撮像系3,4,5の移動方向に伸びている。
【0039】
図1に示す主制御部21は、各部6,11,12,14を統括的に制御する目的で設けられている。この主制御部21は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより各部を実現している。また、これら各部は、これらを担当する演算装置に分割して実行されてもよい。各部は必要に応じて記憶部27にアクセスすることができる。操作卓25は、操作者の指示を入力する目的で設けられている。また、表示部26は、透視像を表示する目的で設けられている。
【0040】
<本発明の特徴的な構成>
続いて、本発明の特徴的な構成について説明する。本発明は、X線源3,FPD4,自己像生成部11,透視画像生成部12に特徴がある。
【0041】
<本発明の特徴的な構成:デュアルエナジー出力タイプのX線源>
本発明の特徴的な構成の一つとして、X線源3が異なるエネルギーのX線を同時に出力することにある。すなわち、X線源3は、例えば8.5kevのエネルギーを有する低エネルギーのX線(長波長X線)と、例えば22kevのエネルギーを有する高エネルギーのX線(短波長X線)とを出力する。低エネルギーのX線と高エネルギーのX線とは互いに異なる方向に出射されるので、X線源3は、エネルギーの異なるX線が重なり合ったものを出力するわけではない。このようにX線源3から出力されるX線にエネルギーに違いが見られるのは、出力されるX線の波長が異なることに由来する。本発明のX線源3は、高エネルギーのX線と低エネルギーのX線とを同時に照射する。
【0042】
位相格子5には、低エネルギーのX線が通過する部分と高エネルギーのX線が通過する部分とが存在する。この2つの部分はオーバーラップしていない。また、この2つの部分の間で位相格子5の吸収線のピッチを同じにすることにできるし、違えるようにすることもできる。
【0043】
<本発明の特徴的な構成:2つの検出面を有するFPD>
FPD4の検出面は、
図1に示すように、低エネルギーのX線検出用の低エネルギーX線検出面4aと、高エネルギーのX線検出用の高エネルギーX線検出面4bとを備えている。
図4は、FPD4の低エネルギーX線検出面4aについて説明している。FPD4の低エネルギーX線検出面4aには縦20μm×横20μmの矩形をしている検出素子が縦横に配列されている。検出素子の縦方向は撮像系移動機構13が実現する撮像系3,4,5の移動方向に一致している。FPD4の低エネルギーX線検出面4aは、撮像系3,4,5の移動方向を縦方向とし、移動方向と直交する方向を横方向とする矩形の形状をしている。低エネルギーX線検出面4aは、縦方向に20cmの幅があり、横方向に2cmの幅がある。これら検出素子および検出面の大きさは適宜変更が可能である。
【0044】
なお、高エネルギーX線検出面4bも、
図4で説明した低エネルギーX線検出面4aと同様な構成となっている。次に、2つの検出面4a,4bの位置関係について説明する。2つの検出面4a,4bは、横方向が撮像系3,4,5の移動方向に一致する向きに配列されている。このように本発明のFPD4は、高エネルギーのX線に係る位相格子5の自己像を検出する高エネルギーX線検出面4bと、低エネルギーのX線に係る位相格子5の自己像を検出する低エネルギーX線検出面4aとを備えている。
【0045】
図5に示すように、X線源3が照射するX線のエネルギーは低エネルギーX線検出面4aに入射するものと高エネルギーX線検出面4bに入射するものとでは互いに異なっている。すなわち、X線源3は、低エネルギーX線検出面4aに
図5の斜線で示す低エネルギーのX線が入射し、高エネルギーX線検出面4bに
図5の網掛けで示す高エネルギーのX線が入射するように動作する。互いの検出面4a,4bにX線が入射することにより検出面4a,4bにはタルボ干渉による位相格子5の自己像が写り込むことになる。
【0046】
検出面4a,4bに位相格子5の自己像が現れるのには条件がある。すなわち、検出面4a,4bとX線源3との距離がタルボ距離となっていなければならない。このタルボ距離は、X線の波長によって変化する。すなわち、タルボ距離は、X線の波長が長くなるのに応じて短くなる性質がある。そこで、本発明の構成によれば、
図1に示すように低エネルギーX線検出面4aの方が高エネルギーX線検出面4bよりも位相格子5に近い側に位置させるようにしている。つまり、2つの検出面4a,4bはいずれも位相格子5からタルボ距離だけ離れている。しかし、2つの検出面4a,4bの間で対象とするX線の波長が違うので、2つの検出面4a,4bは、
図1に示すような配置となったのである。
【0047】
したがって、FPD4が有する高エネルギーX線検出面4bから位相格子5までの距離と、低エネルギーX線検出面4aから位相格子5までの距離とは互いに異なる。すなわち、位相格子5と低エネルギーX線検出面4aとの距離は、低エネルギーのX線に最適化されており、位相格子5と高エネルギーX線検出面4bとの距離は、高エネルギーのX線に最適化されている。したがってX線源3で生じた低エネルギーのX線は位相格子5を通過し、低エネルギーX線検出面4a上に位相格子5の自己像を写し出す。同様に、X線源3で生じた高エネルギーのX線は位相格子5を通過し、高エネルギーX線検出面4b上に位相格子5の自己像を写し出す。
【0048】
このように、実施例1のFPD4は、低エネルギーX線検出面4aを有する検出器ユニットと高エネルギーX線検出面4bを有する検出器ユニットとの2つの検出器ユニットから構成される。これら検出器ユニットの相対位置は、撮影中に変化することがない。また、これら検出器ユニットの出力は互いに独立している。
【0049】
<本発明の特徴的な構成:2つの自己像画像を生成する自己像生成部>
低エネルギーX線検出面4aに係るFPD4の出力と高エネルギーX線検出面4bに係るFPD4の出力とは自己像生成部11に出力される。自己像生成部11は、低エネルギーX線検出面4aに係るFPD4の出力に基づいて自己像画像P0aを生成する一方で、高エネルギーX線検出面4bに係るFPD4の出力に基づいて自己像画像P0bを生成する。互いの自己像画像P0a,P0bは、同じ位相格子5の自己像が写り込んでいる。
【0050】
ここで、
図5のような載置台2に被写体Mを置いた撮影を考える。この場合、
図5の斜線で示す低エネルギーのX線と
図5の網掛けで示す高エネルギーのX線は、それぞれ被写体Mの異なる部分を通って検出面4a,4bに入射する。従って、
図5の様な状態では、低エネルギーのX線についての撮影は低エネルギーのX線が通過する被写体Mの1部分Maについてしか行えず、高エネルギーのX線についての撮影は高エネルギーのX線が通過する被写体Mの1部分Mbについてしか行えないということになる。
【0051】
そこで、本発明の構成では、低エネルギーのX線についての撮影と高エネルギーのX線についての撮影とを被写体全域について実行できるように工夫がされている。すなわち、本発明における自己像の撮影は、被写体Mに対して撮像系3,4,5が移動されながらX線を連射することで実行されるのである。
図6は、撮像系3,4,5が撮影中に移動している様子を示している。撮像系3,4,5を移動していくと、低エネルギーX線検出面4a,高エネルギーX線検出面4bがこの順に被写体Mに近づいて、この順に被写体Mから遠ざかる。
図7は、低エネルギーX線検出面4a,高エネルギーX線検出面4bが被写体Mの一端部を通過していく様子を示している。
図7の左側では、被写体Mの一端部が低エネルギーX線検出面4aで撮影されている。
図7の右側では、被写体Mの一端部が高エネルギーX線検出面4bで撮影されている。このように被写体Mの一端部は、検出面4a,4bのそれぞれで撮影されることになる。
【0052】
自己像生成部11は、撮像系3,4,5が移動されながら連射されたX線の検出結果に基づいて2枚の自己像画像P0a,P0bを生成する。自己像生成部11は、X線が照射される度に照射された低エネルギーのX線の検出結果をFPD4から受信し、撮像系3,4,5の移動方向に幅狭の短冊状の画像を生成する。そして、自己像生成部11は、
図8に示すように複数生成した短冊状の画像を撮影の時系列順に撮像系3,4,5の移動方向に並べてつなぎ合わせることにより被写体Mの全域が写り込んだ自己像画像P0aを生成する。とはいえ、実際に自己像画像P0aに写り込んでいるのは、被写体Mそのものではなく、被写体Mにより乱れた位相格子5の自己像である。
【0053】
同様に、自己像生成部11は、X線が照射される度に照射された高エネルギーのX線の検出結果をFPD4から受信し、撮像系3,4,5の移動方向に幅狭の短冊状の画像を生成する。そして、自己像生成部11は、複数生成した短冊状の画像を撮影の時系列順に撮像系3,4,5の移動方向に並べてつなぎ合わせることにより被写体Mの全域が写り込んだ自己像画像P0bを生成する。このとき自己像画像P0bが生成される様子は
図8と同様である。とはいえ、実際に自己像画像P0bに写り込んでいるのは、被写体Mそのものではなく、被写体Mにより乱れた位相格子5の自己像である。
【0054】
このように、自己像生成部11は、低エネルギーX線検出面4aの検出結果に基づき被写体全域についての自己像画像P0aを生成するとともに、高エネルギーX線検出面4bの検出結果に基づき被写体全域についての自己像画像P0bを生成する。自己像画像P0aは、被写体Mに低エネルギーのX線を当てたときに観察される位相格子の自己像の乱れを表しており、自己像画像P0bは、被写体Mに高エネルギーのX線を当てたときに観察される位相格子の自己像の乱れを表している。このように、自己像生成部11は、FPD4が高エネルギーX線検出面4bでX線を検出した結果から自己像をイメージングするとともに、FPD4が低エネルギーX線検出面4aでX線を検出した結果から自己像をイメージングする。
【0055】
<本発明の特徴的な構成:2つの透視画像を生成する透視画像生成部>
自己像生成部11は、自己像画像P0a,P0bを透視画像生成部12に送出する。透視画像生成部12は、自己像画像P0aに基づいて被写体Mの透視像が写り込んだ透視画像P1aを生成するとともに、自己像画像P0bに基づいて被写体Mの透視像が写り込んだ透視画像P1bを生成する。このように、透視画像生成部12は、自己像生成部11がイメージングした高エネルギーのX線に係る自己像から被写体Mの透視画像を生成するとともに、自己像生成部11がイメージングした低エネルギーのX線に係る自己像から被写体Mの透視画像を生成する。生成された透視画像P1a,P1bの各々は表示部26に並べて表示される。
【0056】
図9,
図10は、球形の被写体Mを撮影したときに得られる透視画像P1a,P1bを模式的に表している。このような被写体Mは、周縁部はX線を通過しやすく、中心部はX線を吸収しやすいという性質がある。
【0057】
図9は透視画像P1aが生成される様子を示している。透視画像P1aは、低エネルギーのX線で被写体Mをイメージングした結果となっている。透視画像P1aには、被写体Mの周縁部は被写体Mの内部の様子が鮮明に写り込んでいる。低エネルギーのX線は、被検体のX線を通過しやすい部分の撮影に向いている。しかし、透視画像P1aに写り込む被写体Mの中心部は必ずしも鮮明であるとは言えない。低エネルギーのX線は、被写体Mの中心部を透過できない場合があるからである。本発明の装置は、被写体Mを通り抜けたX線の位相がどの程度変化したかを可視化するものである。したがって、被写体MをX線が十分に通り抜けなければ被写体内部の鮮明なイメージングはできない。
【0058】
図10は透視画像P1bが生成される様子を示している。透視画像P1bは、高エネルギーのX線で被写体Mをイメージングした結果となっている。透視画像P1bには、被写体Mの中心部に被写体Mの内部の様子が鮮明に写り込んでいる。高エネルギーのX線は、被検体のX線を通過しにくい部分の撮影に向いている。しかし、透視画像P1bに写り込む被写体Mの周縁部は必ずしも鮮明であるとは言えない。高エネルギーのX線は、被写体Mの周縁部を素通りしてしまったからである。本発明の装置は、被写体Mを通り抜けたX線の位相がどの程度変化したかを可視化するものである。したがって、被写体Mを通り抜けたX線の位相が十分に変化していないと被写体内部の鮮明なイメージングはできない。
【0059】
本発明の装置によれば、撮影条件の異なる2つの透視画像P1a,P1bを見比べることで被写体Mの内部の様子を正確に知ることができる。すなわち、被写体Mの周縁部についての内部構造を知りたければ透視画像P1aを参照すればよいし、被写体Mの中心部についての内部構造を知りたければ透視画像P1bを参照すればよい。
【0060】
以上のように、本発明によれば、複数のエネルギーのX線を用いた物体の撮影を簡便に行うことができるX線位相差撮影装置が提供できる。すなわち、本発明の構成は、デュアルエナジー出力タイプのX線源3と高エネルギーX線検出面4bおよび低エネルギーX線検出面4aを備えたFPD4とを備え、高エネルギーのX線による撮影と低エネルギーのX線による撮影との二種類の撮影を行えるようにしている。そして、撮像系と被写体Mとの相対位置を変更させながら被写体Mをスキャンするように撮影すれば、二種類の撮影を一度に完了することができる。
【0061】
また、本発明は小角散乱を利用した透視画像にも応用することができるので、まずは小角散乱について簡単に説明する。物体にX線を当てると、物体の中で一部のX線の進行方向が変えられる現象が起こる。このような現象をX線の散乱という。X線の散乱のうち、進行方向がほとんど変化しない散乱を小角散乱と呼ぶ。このような小角散乱に係るX線は、FPD4に検出され自己像生成部11が生成する自己像画像P0a,P0bに写り込む。透視画像生成部12は、自己像画像P0a,P0bのそれぞれから小角散乱に係る成分を抽出して小角散乱画像を生成することができる。このとき生成される小角散乱画像は、自己像画像P0aに基づいて生成されたものと自己像画像P0bに基づいて生成されたものとの2つがある。
【0062】
小角散乱という現象を考えるときに被写体内部を構成する構造物を粒子として捉えると分かりやすい。この粒子にX線が当たると小角散乱が生じると考えるのである。低エネルギーのX線を被写体に当てて生じた小角散乱X線は、被写体内部を構成する粒子のうち比較的径の大きなものに由来している。一方、高エネルギーのX線を被写体に当てて生じた小角散乱X線は、被写体内部を構成する粒子のうち比較的径の小さなものに由来している。このように、小角散乱画像の撮影時に用いるX線の波長を変えると、小角散乱画像に写り込む像が変わってくる。低エネルギーのX線を被写体に当てて撮影した小角散乱画像は、被写体内部を構成する径の大きな粒子を写し込んだものとなっており、高エネルギーのX線を被写体に当てて撮影した小角散乱画像は、被写体内部を構成する径の小さな粒子を写し込んだものとなっている。
【0063】
本発明の構成によれば、一度のスキャンで低エネルギーのX線を用いた撮影と高エネルギーのX線を用いた撮影とを同時に行うことができるので、撮影の対象が異なる2枚の小角散乱画像を同時に取得することができる。すなわち、低エネルギーのX線に係る自己像画像P0aからは、被写体内部を構成する径の大きな粒子を写し込んだ小角散乱画像が生成でき、高エネルギーのX線に係る自己像画像P0aからは、被写体内部を構成する径の小さな粒子を写し込んだ小角散乱画像が生成できる。
【0064】
本発明は上述の構成に限られず、下記のように変形実施することもできる。
【0065】
(1)上述の実施例によれば、撮像系移動機構13は、FPD4,位相格子5とともにX線源3を移動させる構成としていたが、本発明はこれに限られない。X線源3,FPD4,位相格子5の位置関係を変えないようにFPD4,位相格子5を円弧の軌跡をたどって移動させるように撮像系移動機構13を構成することで被写体Mと撮像系との相対位置を変化させるようにしてもよい。また、撮像系3,4,5を移動させずに載置台2を移動させることにより被写体Mと撮像系との相対位置を変化させるようにしてもよい。
【0066】
(2)上述の構成によれば、被写体MをX線源3と位相格子5との間に載置するようにしていたが、本発明はこの構成に限られない。載置台2および被写体Mを位相格子5とFPD4との間に載置するようにしてもよい。
【0067】
(3)上述の実施例によれば、X線源3は、低エネルギーのX線と高エネルギーのX線を同時に照射していたが、本発明はこの構成に限られない。X線源3が低エネルギーのX線と高エネルギーのX線を交互に照射するように構成してもよい。
【0068】
(4)上述の実施例によれば低エネルギーX線検出面4aと高エネルギーX線検出面4bとは同じピッチで検出素子が配列されていたが、本発明はこの構成に限られない。検出面4a,4bの間で検出素子のピッチを変えるように構成してもよい。
【0069】
(5)上述の実施例によれば、低エネルギーのX線と高エネルギーのX線とは同じ位相格子5を通過するような構成となっていたが、本発明はこの構成に限られない。低エネルギーのX線が通過する低エネルギーX線位相格子5と、高エネルギーのX線が通過する高エネルギーX線位相格子5とを備え、低エネルギーX線位相格子5を構成する吸収線のピッチと高エネルギーX線位相格子5を構成する吸収線のピッチとを互いに変更するようにしてもよい。
【0070】
(6)上述の吸収線のピッチが異なる位相格子5を設ける構成において、低エネルギーのX線に係るタルボ距離と高エネルギーのX線におけるタルボ距離とを一致させる様に設定することもできる。この場合、低エネルギーX線検出面4aから位相格子5までの距離と高エネルギー放射線検出面4bから位相格子5までの距離とは一致する。
【0071】
(7)上述の実施例によれば、FPD4が自己像を直接に観察するような構成となっていたが、本発明はこの構成に限られない。検出面4a,4bを覆うように吸収格子を配置し、自己像と吸収格子との間で発生したモアレを検出面4a,4bで観察するような構成としてもよい。
【0072】
(8)上述のX線源3は、デュアルエナジー出力タイプとなっていたが、本発明はこの構成に限られない。これに代えて本発明のX線源3を広帯域のX線を出力するタイプの構成とすることもできる。このようなX線源3は様々な波長のX線を出力することになるから、低エネルギー放射線検出面4aおよび高エネルギー放射線検出面4bには、単色光のX線が入射するわけではない。ところが自己像の生成に関与できるX線の波長は、位相格子5から検出面4a,4bまでの距離に応じて決まる。したがって、本発明によっても低エネルギー放射線検出面4aに自己像を写し込むのはある特定の波長を有する低エネルギーのX線であり、高エネルギー放射線検出面4bに自己像を写し込むのはある特定の波長を有する高エネルギーのX線である。
このように、デュアルエナジー出力タイプのX線源3を用いなくても
図9,
図10で説明した透視画像P1a、P1bを取得することができる。なお、検出面4a,4b上でどの波長のX線の自己像が現れるかは、位相格子5と検出面4a,4bとの距離だけではなく、位相格子5に配列される吸収線5aのピッチによっても決まる。したがって、自己像を発生させるX線の波長は、位相格子5と検出面4a,4bとの距離と、位相格子5の吸収線5aのピッチを適宜変更して選択することができる。