(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池は、シリコン系太陽電池や化合物系太陽電池と比較して、資源的制約が無く、原材料が安価であり、製法が簡便であるため生産コストを低く抑えることができ、軽量で柔軟性をもたせることができるなどの利点を有している。これらの利点のため、有機薄膜太陽電池は、次世代の太陽電池として大きな期待を集めている。
【0003】
この有機薄膜太陽電池は、正孔輸送体(p型半導体)と電子輸送体(n型半導体)とを含む光電変換層が陽極と陰極との間に挟みこまれた構造を有している。一般に、ガラスなどの透明基体の表面にスズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの半導体セラミックスの蒸着層を形成した透明電極が陽極として使用されており、ITOやFTOより小さい仕事関数を有するアルミニウム膜、マグネシウム−銀合金膜などの金属電極が陰極として使用されている。透明電極を介して上記光電変換層に光が照射されると、光電変換層内に電子と正孔とが生成し、正孔は正孔輸送体を介して陽極側に、電子は電子輸送体を介して陰極側に、それぞれ分離して輸送される。
【0004】
ところで、有機薄膜太陽電池の性能は、光電変換層ばかりでなく、陽極と光電変換層との界面によっても影響を受ける。陽極と光電変換層の間の平滑性や密着性の悪さに起因して、光電変換層から陽極への正孔輸送効率が低下するが、このことが太陽電池の短絡電流密度を低下させ、光電変換効率を低下させる。このことを防止する目的で、陽極と光電変換層の間に、正孔輸送能を有する導電性ポリマー層で構成される正孔取り出し層が設けられている。この正孔取り出し層は、主として、陽極の表面を平滑化して光電変換層と陽極との界面抵抗を減少させる作用を果たす。
【0005】
そして、この正孔取り出し層として、ポリチオフェン、特にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)のポリスチレンスルホン酸塩から成る層が頻繁に使用されてきた(以下、3,4−エチレンジオキシチオフェンを「EDOT」と表し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を「PEDOT」と表し、ポリスチレンスルホン酸を「PSS」と表し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)のポリスチレンスルホン酸塩を「PEDOT:PSS」と表す)。例えば、非特許文献1(Solar Energy Materials & Solar Cells 94(2010)623−628)は、UV−オゾン処理を行ったITOガラス電極(仕事関数:5.2eV)から成る陽極上に、PEDOT:PSS水性分散液をスピンコートすることにより正孔取り出し層(仕事関数:5.3eV)を形成し、次いで、銅−フタロシアニンから成る正孔輸送体層、フラーレンから成る電子輸送体層、フッ化リチウム薄膜から成る正孔ブロック層、及びアルミニウム膜から成る陰極をこの順番で真空蒸着法により形成した有機薄膜太陽電池を開示している。この文献は、PEDOT:PSS正孔取り出し層によりITOガラス電極表面の凹凸が顕著に改善され、光電変換層から陽極への正孔輸送効率が顕著に改善された結果、太陽電池の短絡電流密度が大幅に上昇したことを報告している。
【0006】
特許文献1(特開2009−146981号公報)には、ITO電極層等の透明電極層上に、アモルファス酸化チタン層、[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステルとポリ−3−ヘキシルチオフェンとを含有する光電変換層、PEDOT:PSSを含有する導電性ポリマー層(正孔取り出し層)、及びAu集電電極層が順に形成されている有機薄膜太陽電池が開示されており、PEDOT:PSSを含有する導電性ポリマー層により、ショートが抑制されることが示されている。また、特許文献2(特開2011−181904号公報)には、透明電極層を備えた透明基板と、透明電極上に形成されたPEDOT:PSSバッファー層(正孔取り出し層)と、該バッファー層上に形成された光電変換層と、該光電変換層上に形成された対極電極層とを有する有機薄膜太陽電池が開示されており、透明電極層は、透明基板上にITO等の導電性金属酸化物を含有する非晶質膜を形成した後、この非晶質膜の表面をレーザーアニールにより結晶化する工程により製造されている。さらに、特許文献3には、基板の表面に、ITO層(仕事関数:4.8eV)と、PEDOT:PSSとカーボンナノチューブとの混合物により形成されている正孔輸送層(正孔取り出し層、仕事関数:5.0eV)と、フェニル−C61−酪酸メチルエステルとポリ−3−ヘキシルチオフェンとを含有する発電層(光電変換層、ポリ−3−ヘキシルチオフェンの仕事関数:5.2eV)と、電子輸送層と、第2電極と、をこの記載順に積層してなる太陽電池用有機薄膜電極が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、有機薄膜太陽電池における正孔取り出し層として検討されているPEDOT:PSS層は、高い吸水性を示すという問題がある。
【0010】
この点について、非特許文献1は、PEDOT:PSS正孔取り出し層を有する有機薄膜太陽電池を温度25℃湿度55%の空気中に光未照射の状態で放置すると、PEDOT:PSS層が雰囲気から水蒸気を吸収してシート抵抗を増加させるため、太陽電池の特性が急速に劣化することを報告している。特許文献3には、PEDOT:PSSにカーボンナノチューブを混在させることにより耐水性が向上することが記載されているものの、具体的に証明されていない。また、PSSは拡散しやすい物質であるため、拡散して太陽電池の他の構成要素と反応することが懸念される。さらに、正孔取り出し層を形成するためのPEDOT:PSS水性分散液はpHが3未満の酸性物質であるため、太陽電池の他の構成要素を腐食させるおそれもある。特許文献2には、酸の影響によって透明電極層が溶解して透明電極層の電気的特性が低下することが、非晶質膜より耐酸性の高い結晶膜により抑制されることが記載されているが、この対策では透明電極層以外の構成要素の腐食を防止することはできない。
【0011】
さらに、太陽電池の製造過程において太陽電池の各構成要素が高温を経験することがあり、また太陽電池を猛暑時に野外で使用する場合も想定されるため、太陽電池の各構成要素には十分な耐熱性が求められる。しかしながら、PEDOT:PSS層は満足のいく耐熱性を有していない。
【0012】
したがって、PEDOT:PSSの代替物として、耐水性に優れ、強い酸性を示さず、その上耐熱性に優れる正孔取り出し層が望まれる。
【0013】
この問題に対し、出願人は、本願の優先権主張の基礎とされた出願の出願日後に公開されたWO2012/133858A1及びWO2012/133859A1において、電解重合により得られた、3位と4位に置換基を有するチオフェン(以下、3位と4位に置換基を有するチオフェンを、「置換チオフェン」と表わす。)から成る群から選択された少なくとも一種のモノマーから構成されたポリマーと、該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である少なくとも一種の化合物から発生したアニオンと、を含む導電性ポリマー層が、PEDOT:PSSに比較して著しく電気化学的活性に富むため正孔取り出し層として好適である上に、空気中の水分に安定であり、中性付近のpHを示すため太陽電池の製造或いは使用の過程で他の構成要素が腐食されるおそれがなく、しかも優れた耐熱性を有すること、さらには、上記導電性ポリマー層の密度を1.15〜1.80g/cm
3の範囲に限定することにより、耐熱性がさらに向上することを報告した。ここで、「非スルホン酸系有機化合物」とは、スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を有していない有機化合物を意味する。
【0014】
本発明の目的は、上述した知見を基礎として、耐熱性に優れる上に、高い光電変換効率を有する有機薄膜太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、鋭意検討した結果、有機薄膜太陽電池の陽極上の導電性ポリマー層の厚みを1〜100nmに設定して有機薄膜太陽電池を構成することにより、上述の目的が達成されることを発見した。
【0016】
したがって、本発明は、少なくとも表面に導電性部分を有する透明基体から成る陽極と、該陽極の導電性部分の上に積層された導電性ポリマー層から成る正孔取り出し層と、該正孔取り出し層上に積層された正孔輸送体と電子輸送体とを含む光電変換層と、該光電変換層上に積層された陰極と、を備えた有機薄膜太陽電池であって、上記導電性ポリマー層が、置換チオフェンから選択された少なくとも一種のモノマーから構成されたポリマーと、該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である少なくとも一種の化合物から発生したアニオンと、を含み、且つ、1〜100nmの範囲の厚みを有することを特徴とする有機薄膜太陽電池を提供する。
【0017】
陽極を構成する透明基体は、透明で絶縁性のガラス基板又はプラスチック基板の表面に、ITO、酸化スズ、FTOなどの透明な半導体セラミックス層を蒸着又は塗布により設けることにより得ることができる。陽極の導電性部分の上に積層される導電性ポリマー層は、1〜100nmの範囲の厚みを有する。厚みが1nmより薄いと、基体の導電性部分の凹凸を平滑化する効果が得られにくくなり、したがって光電変換層と陽極との界面抵抗を減少させる効果が得られにくくなるため、有機薄膜太陽電池の光電変換効率が低下する。導電性ポリマー層の厚みが100nmより厚いと、導電性ポリマー層の透明性が低下し、したがって光電変換層に到達する光量が低下するため、有機薄膜太陽電池の光電変換効率が低下する。導電性ポリマー層の厚みは、1〜25nmであるのが好ましい。1〜25nmの厚みを有する導電性ポリマー層は特に平坦な表面を有するため、光電変換層と陽極との界面抵抗を好適に減少させ、また、透明基体と導電性ポリマー層の両方を通過する光の透過率が高いため、光電変換層へ達する光量が増加して光電変換効率が上昇する。
【0018】
上記導電性ポリマー層には、ドーパントとして、非スルホン酸系有機化合物であってそのアニオンの分子量が200以上である化合物から発生したアニオンが含まれる。無機化合物から発生したアニオン、或いは、有機化合物であってもスルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を有する化合物から発生したアニオン、或いは、スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を有していない有機化合物であってもアニオンの分子量が200未満である化合物から発生したアニオンは、耐熱性に優れた導電性ポリマー層を与えない(WO2012/133858A1及びWO2012/133859A1参照)。非スルホン酸系有機化合物であってそのアニオンの分子量が200以上である化合物のなかでも、ボロジサリチル酸、ボロジサリチル酸塩、式(I)又は式(II)
【化1】
(式中、mが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、nが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、oが2又は3を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸及びこれらの塩から選択された化合物は、特に耐熱性に優れた導電性ポリマー層を与えるため好ましい。また、ボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩は、特に平滑な表面を有する導電性ポリマー層を与えるため好ましい(WO2012/133858A1参照)。
【0019】
上記導電性ポリマー層を構成するためのモノマーには、置換チオフェン、すなわち、3位と4位に置換基を有するチオフェンから成る群から選択された化合物であれば、特に限定が無い。チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。特にモノマーがEDOTであると、環境安定性と光透過性(透明性)に優れる導電性ポリマー層が得られるため好ましい。
【0020】
上記導電性ポリマー層の密度は、1.15〜1.80g/cm
3の範囲であるのが好ましく、1.20〜1.80g/cm
3の範囲であるのがより好ましく、1.60〜1.80g/cm
3の範囲であるのが特に好ましい。密度が1.15g/cm
3未満であると、耐熱性が急激に低下し、密度が1.80g/cm
3を超える導電性ポリマー層の製造は困難である。また、柔軟性を有する有機薄膜太陽電池を得る場合には、導電性ポリマー層の密度が高すぎると導電性ポリマー層が固くなって柔軟性に乏しくなるため、導電性ポリマー層の密度が1.75g/cm
3以下であるのが好ましく、1.70g/cm
3以下であるのが特に好ましい。
【0021】
1.15〜1.80g/cm
3の範囲の密度を有する導電性ポリマー層は、100〜80質量%の水と0〜20質量%の有機溶媒とから成る溶媒と、モノマーとしての置換チオフェンと、上述した特定範囲の非スルホン酸系有機化合物と、を含む重合液を用いた電解重合により得ることができる。この特定範囲の非スルホン酸系有機化合物は、重合液において支持電解質として作用するため、「非スルホン酸系有機支持電解質」とも表わされる。また、100〜80質量%の水と0〜20質量%の有機溶媒とから成る溶媒を、以下「水リッチ溶媒」と表わす。水リッチ溶媒において、水と有機溶媒との合計量は100質量%である。水リッチ溶媒における有機溶媒の含有量が増加すると、ポリマー粒子が緻密に充填された導電性ポリマー層が電解重合により基体上に形成されにくくなり、有機溶媒の含有量が溶媒全体の20質量%を超えると、得られた導電性ポリマー層の耐熱性が顕著に低下する(WO2012/133858A1及びWO2012/133859A1参照)。
【0022】
電解重合により、基体の導電性部分の上に導電性ポリマー層が密着性良く形成されるため、基体の導電性部分と導電性ポリマー層との間の界面抵抗が小さい。また、電解重合により得られる上記導電性ポリマー層は、電気化学的活性に優れる上に、耐熱性に優れる。さらに、電解重合により得られる導電性ポリマー層は、空気中の水分に安定であり、太陽電池の他の構成要素を腐食させる心配も無い。
【発明の効果】
【0023】
本発明の有機薄膜太陽電池において陽極の上に形成されている特定範囲の導電性ポリマー層は、電気化学的活性に優れ、耐水性に優れ、強い酸性を示さず、その上耐熱性に優れる。また、上記導電性ポリマー層が光透過性に優れるため、光電変換層に到達する光量を増加させることができる。したがって、光電変換効率の高い有機薄膜太陽電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、陽極と正孔取り出し層との組み合わせ(以下、陽極と正孔取り出し層との組み合わせを「電極体」という。)について説明し、次いで、有機薄膜太陽電池の全体について説明する。
【0026】
A:電極体
本発明の有機薄膜太陽電池は、少なくとも表面に導電性部分を有する透明基体から成る陽極と、該陽極の導電性部分の上に積層された導電性ポリマー層から成る正孔取り出し層と、からなる電極体を備えており、上記導電性ポリマー層は、置換チオフェンから選択された少なくとも一種のモノマーから構成されたポリマーと、該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である少なくとも一種の化合物から発生したアニオンと、を含み、且つ、1〜100nm、好ましくは1〜25nmの範囲の厚みを有する。そして、この導電性ポリマー層は、上記モノマーと上記非スルホン酸系有機化合物とを含む電解重合用の重合液を得る調製工程、及び、得られた重合液に陽極を導入し、電解重合を行うことにより、上記モノマーの重合により得られた導電性ポリマー層を陽極の導電性部分の上に形成する重合工程、を含む方法により製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0027】
(1)調製工程
この工程で調製する電解重合用の重合液は、水リッチ溶媒と、モノマーとしての置換チオフェンと、上述した特定範囲の非スルホン酸系有機化合物と、を必須成分として含む。
【0028】
重合液の調製には、環境負荷が小さく、経済的にも優れる水を主溶媒として使用する。この重合液には、水に加えて、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸メチルなどの有機溶媒が含まれていてもよいが、溶媒全体の80質量%以上は水である。水は溶媒全体の90質量%以上であるのが好ましく、溶媒全体の95質量%以上であるのがより好ましく、溶媒が水のみから成るのが特に好ましい。水リッチ溶媒における有機溶媒の含有量が増加すると、ポリマー粒子が緻密に充填された導電性ポリマー層が電解重合により基体上に形成されにくくなり、有機溶媒の含有量が溶媒全体の20質量%を超えると、得られた導電性ポリマー層の耐熱性が顕著に低下する。
【0029】
モノマーとしては、置換チオフェン、すなわち、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択されたモノマーが用いられる。チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。使用可能なモノマーの例としては、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジエチルチオフェンなどの3,4−ジアルキルチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェンなどの3,4−ジアルコキシチオフェン、3,4−メチレンジオキシチオフェン、EDOT、3,4−(1,2−プロピレンジオキシ)チオフェンなどの3,4−アルキレンジオキシチオフェン、3,4−メチレンオキシチアチオフェン、3,4−エチレンオキシチアチオフェン、3,4−(1,2−プロピレンオキシチア)チオフェンなどの3,4−アルキレンオキシチアチオフェン、3,4−メチレンジチアチオフェン、3,4−エチレンジチアチオフェン、3,4−(1,2−プロピレンジチア)チオフェンなどの3,4−アルキレンジチアチオフェン、チエノ[3,4−b]チオフェン、イソプロピルチエノ[3,4−b]チオフェン、t−ブチル−チエノ[3,4−b]チオフェンなどのアルキルチエノ[3,4−b]チオフェンが挙げられる。モノマーとして、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を混合して使用しても良い。特に、EDOTを使用するのが好ましい。
【0030】
重合液中の支持電解質としては、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である化合物が用いられる。これらの支持電解質のアニオンが、以下に示す電解重合の過程でドーパントとして導電性ポリマーフィルム中に含まれる。特に、ボロジサリチル酸、ボロジサリチル酸塩、式(I)又は式(II)
【化2】
(式中、mが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、nが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、oが2又は3を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸及びこれらの塩を好ましく使用することができる。塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ブチルアンモニウム塩などのアルキルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、ジブチルアンモニウム塩などのジアルキルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリブチルアンモニウム塩などのトリアルキルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウム塩を例示することができる。これらの支持電解質は、特に耐熱性に優れた導電性ポリマー層を与える。中でも、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸の塩、例えばカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩は、極めて高い耐熱性を有する導電性ポリマー層を与える。また、ボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩は、特に平滑な表面を有する導電性ポリマー層を与える。
【0031】
また、ボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩は、安価で経済的に有利であり、特に平滑な表面を有する導電性ポリマー層を与えるため好ましいが、ボロジサリチル酸及びボロジサリチル酸塩に含まれるボロジサリチル酸イオンが水中で水への溶解度が極めて小さいサリチル酸とホウ酸とに加水分解することがわかっている。そのため、ボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を支持電解質として使用すると、徐々に重合液中に沈殿が生じて使用に耐えなくなる。このことを回避するため、ボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を支持電解質として使用する場合には、この支持電解質を液に添加した後沈殿生成前に電解重合を行うか、或いは、ボロジサリチル酸イオンの加水分解を抑制する作用を有するニトロベンゼン及びニトロベンゼン誘導体から成る群から選択された安定化剤と併用する。上記安定化剤は、単独の化合物であっても良く、2種以上の化合物であっても良い。ニトロベンゼン誘導体としては、ニトロフェノール、ニトロベンジルアルコール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ジニトロベンゼン、ニトロアニソール、ニトロアセトフェノンを例示することができ、o−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール、及びこれらの混合物が好ましい。
【0032】
支持電解質は、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良く、重合液に対する飽和溶解量以下の濃度で且つ電解重合のために充分な電流が得られる量で使用され、好ましくは10mM以上の濃度で、特に好ましくは30mM以上の濃度で使用される。
【0033】
重合液の調製は、モノマーの含有量に応じて、以下のような方法により行う。モノマーが飽和溶解量以下の量である場合には、重合液製造用の容器に、水リッチ溶媒、モノマーとしての置換チオフェン、及び上述した特定範囲の支持電解質を導入し、手作業により或いは機械的な攪拌手段を使用して各成分を水リッチ溶媒に溶解させることにより、重合液を調製する。モノマーが飽和溶解量を超える量である場合には、すなわち、重合液製造用の容器に、水リッチ溶媒、モノマーとしての置換チオフェン、及び上述した特定範囲の支持電解質を導入して攪拌・均一化した後静置するとモノマーが相分離する場合には、液に超音波照射を施して相分離したモノマーを重合液中に油滴として分散させることにより重合液を調製することができる。水リッチ溶媒に飽和溶解量を超える量のモノマーを添加した液に超音波照射を施してモノマーを油滴として分散させ、次いで得られた液に支持電解質を添加することにより、本発明の重合液を得ることもできる。重合液における各成分が安定であれば、調製時の温度に制限は無い。なお、本明細書において、「超音波」とは10kHz以上の周波数を有する音波を意味する。
【0034】
超音波照射のために、超音波洗浄機用、細胞粉砕機用等として従来から知られている超音波発振器を特に限定なく使用することができる。モノマー油滴が水リッチ溶媒に安定に分散している液を超音波照射により得るためには、相分離しているモノマーを数μm以下の直径を有する油滴にする必要があり、そのためには、少なくとも機械的作用が強い数百nm〜数μmのキャビテーションを発生させることができる15〜200kHzの周波数の超音波を相分離液に照射する必要がある。超音波の出力は、4W/cm
2以上であるのが好ましい。超音波照射時間には厳密な制限はないが、2〜10分の範囲であるのが好ましい。照射時間が長いほど、モノマー油滴の凝集が阻害され、解乳化までの時間が長期化する傾向にあるが、超音波照射時間が10分以上では、油滴の凝集阻害効果が飽和する傾向が認められる。異なる周波数及び/又は出力を有する超音波を用いて複数回の照射を行うことも可能である。飽和溶解量を超えるモノマーの含有量は、超音波照射により解乳化が抑制された分散液が得られる量であれば良く、モノマーの種類ばかりでなく、支持電解質の種類と量、超音波照射条件によっても変化する。
【0035】
本発明の重合液には、水リッチ溶媒、置換チオフェンから選択されたモノマー、及び上記特定範囲の支持電解質に加えて、本発明に悪影響を与えない範囲内で他の添加物が含まれていても良い。好適な添加物として、水溶性のノニオン界面活性剤が挙げられる。モノマーがノニオン界面活性剤のミセル中に濃縮されるため、速やかに電解重合が進行し、高電導度を示すポリマーが得られる。その上、ノニオン界面活性剤自体はイオン化せず、上記特定範囲の支持電解質のアニオンによるポリマーへのドーピングを阻害することが無い。
【0036】
ノニオン界面活性剤としては、公知の水溶性のノニオン界面活性剤を特に限定無く使用することができる。例としては、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン付加アルキルフェノールホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシアルキレン付加スチリルフェノールホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシアルキレン付加ベンジルフェノールホルムアルデヒド縮合物、アルキンジオール、ポリオキシアルキレン付加アルキンジオール、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンひまし油、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらは単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。また、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのような分散効果が高いアルキンジオールと他のノニオン界面活性剤、好ましくは、ポリオキシエチレン(9)ノニルフェニルエーテル分岐型のようなポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとの組み合わせを重合液において使用すると、重合液におけるモノマーの含有量を大幅に増加させることができるため好ましい。
【0037】
ノニオン界面活性剤を併用する場合には、重合液製造用の容器に、水リッチ溶媒、モノマー、上記特定範囲の支持電解質、及びノニオン界面活性剤を導入し、手作業により或いは機械的な攪拌手段を使用して或いは超音波を照射して各成分を水リッチ溶媒に溶解させることにより、重合液を調製する。また、重合液製造用の容器に、水リッチ溶媒、モノマー、及びノニオン界面活性剤を導入して、各成分を水リッチ溶媒に溶解させた液を調製した後、電解重合直前に、この液に上記特定範囲の支持電解質を添加して溶解させても良い。
【0038】
いずれの重合液の製造方法においても、支持電解質としてのボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩と、安定化剤としてのニトロベンゼン及び/又はニトロベンゼン誘導体と、を併用する場合には、重合液製造用の容器に両者をほぼ同時に導入するか、或いは安定化剤を先に導入する。安定化剤はボロジサリチル酸イオンの加水分解を抑制するために使用されるからである。
【0039】
(2)重合工程
上述の調製工程により得られた重合液に、少なくとも表面に導電性部分を有する透明基体から成る作用極(太陽電池における陽極、導電性ポリマー層の基体)と対極とを導入し、電解重合を行うことにより、置換チオフェンの重合により得られた導電性ポリマー層を作用極の導電性部分の上に形成し、有機薄膜太陽電池のための電極体を得る。
【0040】
本発明では、電解重合の作用極として、有機薄膜太陽電池において使用される陰極より仕事関数が大きい導電性部分を少なくとも表面に有する透明基体が選択される。例えば、光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどの透明で絶縁性のガラス基板、又は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルサルホン、ポリアクリレートなどの透明で絶縁性のプラスチック基板の表面に酸化インジウム、スズドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)などの透明導電層を蒸着又は塗布により設けた透明基体が作用極として使用される。透明導電層の表面抵抗は、好ましくは15Ω/□以下であり、特に好ましくは10Ω/□以下である。表面抵抗が低いほど、有機薄膜太陽電池全体の抵抗が減少し、電池の光電変換効率が増加する。また、透明基体の光透過率は、85%以上であるのが好ましく、90%以上であるのがより好ましい。光透過率が高いほど、有機薄膜太陽電池の光電変換層に対する光量が増加し、電池の光電変換効率が増加する。
【0041】
電解重合の対極としては、白金、ニッケルなどの板を用いることができる。
【0042】
電解重合は、調製工程により得られた重合液を用いて、定電位法、定電流法、電位掃引法のいずれかの方法により行われる。定電位法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して1.0〜1.5Vの電位が好適であり、定電流法による場合には、モノマーの種類に依存するが、1〜10000μA/cm
2、好ましくは5〜500μA/cm
2、より好ましくは10〜100μA/cm
2の電流値が好適であり、電位掃引法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して−0.5〜1.5Vの範囲を5〜200mV/秒の速度で掃引するのが好適である。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10〜60℃の範囲である。重合時間は重合液の組成や電解重合条件に依存して変化するが、一般的には0.6秒〜2時間、好ましくは1〜10分、特に好ましくは2〜6分の範囲である。
【0043】
電解重合により、上述した特定範囲の非スルホン酸系有機支持電解質のアニオンをドーパントとして含む導電性ポリマー層が作用極の導電性部分の上に形成される。得られる導電性ポリマー層の密度は、1.15〜1.80g/cm
3の範囲である。導電性ポリマー層の密度が1.15g/cm
3未満であると、耐熱性が急激に低下し、密度が1.80g/cm
3を超える導電性ポリマー層の製造は困難である。耐熱性に優れた導電性ポリマー層の密度は、好ましくは1.20〜1.80g/cm
3の範囲、特に好ましくは1.60〜1.80g/cm
3の範囲である。また、柔軟性を有する電極体を得る場合には、導電性ポリマー層の密度が高すぎると導電性ポリマー層が固くなって柔軟性に乏しくなるため、導電性ポリマー層の密度が1.75g/cm
3以下であるのが好ましく、1.70g/cm
3以下であるのが特に好ましい。
【0044】
導電性ポリマー層の厚みは、一般的には1〜100nmの範囲である。厚みが1nmより薄いと、基体の導電性部分の凹凸を平滑化する効果が得られにくくなり、したがって光電変換層と陽極との界面抵抗を減少させる効果が得られにくくなるため、有機薄膜太陽電池の光電変換効率が低下する。導電性ポリマー層の厚みが100nmより厚いと、導電性ポリマー層の透明性が低下し、したがって光電変換層に到達する光量が低下するため、有機薄膜太陽電池の光電変換効率が低下する。透明基体と導電性ポリマー層の両方を通過する光の透過率は、約80%以上であるのが好ましく、約85%以上であるのが特に好ましい。導電性ポリマー層の厚みは、1〜25nmであるのが好ましい。1〜25nmの厚みを有する導電性ポリマー層は特に平坦な表面を有するため、光電変換層と陽極との界面抵抗を好適に減少させ、また、透明基体と導電性ポリマー層の両方を通過する光の透過率が高いため、光電変換層へ達する光量が増加して光電変換効率が上昇する。導電性ポリマーの厚みは、原子間力顕微鏡等により測定することができる。また、所定の電流密度での定電流電解重合を時間を変えて2回以上行い、各回の電解重合により得られた導電性ポリマー層の厚みを測定した後、得られた厚みと電解重合における通電電荷量との関係を示す計算式を導出し、導出した計算式を用いて通電電荷量から導電性ポリマー層の厚みを算出しても良い。
【0045】
電解重合後の導電性ポリマー層を水、エタノール等で洗浄し、乾燥することにより、耐熱性に優れた導電性ポリマー層が基体上に密着性良く形成された電極体を得ることができる。得られた電極体の導電性ポリマー層は、空気中の水分に安定であり、また中性付近のpHを示すため、太陽電池の製造或いは使用の過程で他の構成要素が腐食されるおそれも無い。
【0046】
B:有機薄膜太陽電池
有機薄膜太陽電池は、上述した陽極と正孔取り出し層とが一体に積層された電極体と、正孔取り出し層上に積層された正孔輸送体と電子輸送体とを含む光電変換層と、該光電変換層上に積層された陰極と、を備えている。陽極の導電性部分の上に形成された導電性ポリマー層は、従来のPEDOT:PSS層に比較して、優れた電気化学的活性と耐熱性とを有している。
【0047】
有機薄膜太陽電池における光電変換層は、正孔輸送体(p型半導体)と電子輸送体(n型半導体)とを含む。正孔輸送体としては、従来の有機薄膜太陽電池において正孔輸送体として使用されている化合物を特に限定無く使用することができ、例としては、ポリフェニレン及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、ポリアルキルチオフェン及びその誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン及びフタロシアニン誘導体が挙げられる。電子輸送体としては、従来の有機薄膜太陽電池において電子輸送体として使用されている化合物を特に限定無く使用することができ、例としては、フラーレン及びフラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、ポリフルオレン誘導体、ペリレン誘導体、ポリキノン誘導体、シアノ基又はトリフルオロメチル基含有ポリマーが挙げられる。正孔輸送体及び電子輸送体は、それぞれ、単一の化合物を使用しても良く、2種以上の混合物を使用しても良い。
【0048】
光電変換層は、正孔輸送体と電子輸送体とが層状に積層されたバイレイヤー型であってもよく、正孔輸送体と電子輸送体とが混在したバルクヘテロ型であってもよく、正孔輸送体と電子輸送体との間に正孔輸送体と電子輸送体とが混在した層が形成されたp−i−n型であっても良い。バイレイヤー型又はp−i−n型の場合には、上述した電極体における導電性ポリマー層の直上に正孔輸送体が積層される。
【0049】
光電変換層の厚みは、一般的には1〜3000nmの範囲、好ましくは1nm〜600nmの範囲である。光電変換層の厚みが3000nmより厚いと、光電変換層の内部抵抗が高くなり好ましくない。光電変換層の厚みが1nmより薄いと、陰極と導電性ポリマー層とが接触するおそれがある。
【0050】
有機薄膜太陽電池における陰極としては、本発明により得られた太陽電池用電極体に含まれる基体の導電性部分(有機薄膜太陽電池の陽極)より仕事関数が低い導電性部分を少なくとも表面に有する基体が使用される。例えば、リチウム、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、カルシウム、マグネシウム、マグネシウム−銀合金などの金属層又は合金層を少なくとも表面に有する基体を陰極とすることができる。導電性部分は、単層であっても良く、異なる仕事関数を有する複数の層であっても良い。
【0051】
また、透明な基体を陰極として使用しても良い。このような陰極としては、光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどの透明で絶縁性のガラス基板、又は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルサルホン、ポリアクリレートなどの透明で絶縁性のプラスチック基板の表面に酸化インジウム、ITO、IZO、酸化スズ、ATO、FTO、酸化亜鉛、AZOなどの透明導電層を蒸着又は塗布により設けた透明基体を好適に使用することができる。
【0052】
有機薄膜太陽電池は、上述した電極体を使用して公知の方法により得ることができる。例えば、電極体の導電性ポリマー層(正孔取り出し層)の上に、光電変換層を、使用される正孔輸送体及び電子輸送体の種類に依存して、真空蒸着法、スパッタリング法などの乾式法により、或いは、トルエン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンなどの溶媒に正孔輸送体及び/又は電子輸送体を添加した液をスピンコート、バーコート、キャストコートなどの湿式法により積層し、必要に応じて加熱乾燥した後、陰極を真空蒸着法、スパッタリング法などにより積層する方法、或いは、電極体の導電性ポリマー層(正孔取り出し層)と陰極の導電性部分の間に正孔輸送体及び電子輸送体を含む液を充填して加熱乾燥する方法、などが挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0054】
まず本発明の有機薄膜太陽電池に用いられる電極体について説明し、次に本発明の有機薄膜太陽電池について説明する。
【0055】
(a)電極体の製造
電極体A
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液にp−ニトロフェノールを0.10Mの濃度で、EDOTを0.0148Mの濃度で、ボロジサリチル酸アンモニウムを0.08Mの濃度で、この順番に添加して攪拌し、全てのEDOTが溶解した重合液を得た。得られた重合液に、1cm
2の面積を有するITO電極(ITO層表面抵抗:10Ω/□)を作用極として、5cm
2の面積を有するSUSメッシュを対極として、それぞれ導入し、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を行った。重合時間は、異なる厚みのPEDOT層が得られるように、0.2〜6分の範囲で調整した。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、160℃で30分間乾燥することにより、ITO電極上に10〜200nmの厚みのPEDOT層(ドーパント:ボロジサリチル酸アニオン)が形成された電極体を得た。PEDOT層の密度は、約1.6g/cm
3であった。
【0056】
電極体B
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液に、EDOTを0.0148Mの濃度で、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムを0.08Mの濃度で、添加して攪拌し、全てのEDOTが溶解した重合液を得た。得られた重合液に、1cm
2の面積を有するITO電極(ITO層表面抵抗:10Ω/□)を作用極として、5cm
2の面積を有するSUSメッシュを対極として、それぞれ導入し、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を1分間行った。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、160℃で30分間乾燥することにより、ITO電極上に35nmの厚みのPEDOT層(ドーパント:ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸アニオン)が形成された電極体を得た。PEDOT層の密度は、約1.6g/cm
3であった。
【0057】
電極体C
1cm
2の面積を有するITO電極(ITO層表面抵抗:10Ω/□)上に、市販のPEDOT:PSS水性分散液(商品名バイトロンP:スタルク社製)の100μLをキャストし、2000rpmの回転数で30秒間スピンコートを行った。次いで、160℃で30分間乾燥し、PEDOT:PSS層を有する電極体を得た。
【0058】
なお、電極体A〜Cにおける導電性ポリマーの厚みは、以下のようにして算出した。まず、ITO電極上に0.1mA/cm
2の条件で定電流電解重合を1分間行うことにより導電性ポリマー層を形成し、原子間力顕微鏡によりポリマー層の厚みを測定する実験を行った。次いで、ITO電極上に0.1mA/cm
2の条件で定電流電解重合を28.6分間行うことにより導電性ポリマー層を形成し、段差計によりポリマー層の厚みを測定する実験を行った。この2つの実験から電荷量と導電性ポリマー層の厚みとの関係式を導出した。そして、導出された関係式を用いて、電解重合の電荷量を導電性ポリマー層の厚みに換算した。
【0059】
電極体Aについて、光透過率を評価した。
図1に、PEDOT層の厚みと波長600nmの光の透過率との関係を示す。PEDOT層が10〜100nmの範囲では、厚みが厚くなるにつれて光透過率が低下したが、厚みが100nmに近づくにつれて、光透過率の低下が緩やかになった。しかしながら、PEDOT層の厚みが200nmになると、光透過率が再び大きく低下した。したがって、光電変換層に到達する光量の低下を抑制して、有機薄膜太陽電池の光電変換効率の低下を抑制するためには、PEDOT層の厚みを100nm以下にすることが重要であることがわかった。また、導電性ポリマー層の厚みが25nm以下であると、透明基体と導電性ポリマー層の両方を通過する光の透過率が約80%以上になることがわかった。透明基体と導電性ポリマー層の両方を通過する光の透過率が高いと、有機薄膜太陽電池の光電変換効率が向上するため好ましい。
【0060】
図2には、導電性ポリマー層の表面を原子間力顕微鏡にて観察した結果を示した。
図2の(A)は厚み15nmの導電性ポリマー層の表面の観察結果であり、(B)は厚み25nmの導電性ポリマー層の表面の観察結果であり、(C)は厚み35nmの導電性ポリマー層の表面の観察結果である。厚み35nmの導電性ポリマー層の表面には、矢印で示す凸部が認められたが、厚み15nm及び25nmの導電性ポリマー層の表面には凹凸がほとんど認められなかった。平坦な表面は、光電変換層と陽極との界面抵抗を減少させ、光電変換効率を向上させるため好ましい。
【0061】
電極体AのうちのPEDOT層の厚みが35nm、100nm或いは200nmである電極体、電極体B、電極体C、及びITO電極について、導電性ポリマー層又はITO層の仕事関数をケルビン法により測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
いずれの電極体の導電性ポリマー層もほぼ同一の仕事関数値を有しており、PEDOT層中のドーパントの種類及びPEDOT層の厚みによる影響はほとんど認められなかった。また、いずれの電極体の導電性ポリマー層もITOよりわずかに大きな仕事関数を有しており、より高い仕事関数を有する正孔輸送体を含む光電変換層と組み合わせることにより、正孔取り出し層として機能することがわかった。
【0064】
(b)有機薄膜太陽電池の製造
実施例1
[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル(PCBM)とポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)との濃度2質量%のクロロベンゼン溶液(P3HTとPCBMの質量比5:3)を、光電変換層用塗工液として調製した。次いで、厚み35nmのPEDOT層を有する電極体AのPEDOT層上に上記塗工液をキャストし、1500rpmの回転数で60秒間スピンコートを行うことにより、光電変換層(膜厚:約100nm)を形成した。
【0065】
真空蒸着装置に陰極用シャドウマスクを設置し、真空チャンバ内を4×10
−4Pa以下の圧力になるようにロータリーポンプ並びにターボ分子ポンプを用いて真空引きした後、アルミナ坩堝を抵抗加熱して、光電変換層上に陰極としてアルミニウムを成膜速度10〜15nm/分で成膜し、有機薄膜太陽電池を得た。
【0066】
実施例2
厚み35nmのPEDOT層を有する電極体Aの代わりに電極体Bを用いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0067】
比較例1
厚み35nmのPEDOT層を有する電極体Aの代わりに、厚み200nmのPEDOT層を有する電極体Aを用いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0068】
比較例2
厚み35nmのPEDOT層を有する電極体Aの代わりに電極体Cを用いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0069】
(c)有機薄膜太陽電池の評価
実施例1,2及び比較例1,2の有機薄膜太陽電池について、ソーラシュミレータによる100mW/cm
2、AM1.5Gの照射条件下での電流−電圧特性を評価した。測定は、光を陽極側から照射して行った。表2に、得られた短絡電流密度、開放電圧、曲線因子、及び光電変換効率を示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2から明らかなように、厚いPEDOT層を正孔取り出し層として有する比較例1の有機薄膜太陽電池は、低い光電変換効率を示した。
【0072】
実施例1,2及び比較例1,2の有機薄膜太陽電池を、光非照射下で、大気中、室温にて10日間放置し、再度光電変換効率を評価したところ、実施例1,2及び比較例1の有機薄膜太陽電池は、放置前の光電変換効率の85%を示したが、比較例2の有機薄膜太陽電池は、放置前の光電変換効率の70%の光電変換効率しか示さなかった。これは、比較例2におけるPEDOT:PSS層が高い吸水性を有するためであると考えられる。これに対し、実施例1,2及び比較例1の有機薄膜太陽電池は、放置の間も空気中の水分の影響を受けずに安定であったことがわかる。