特許第6287860号(P6287860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6287860ろ過装置、化学品の製造装置およびろ過装置の運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287860
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ろ過装置、化学品の製造装置およびろ過装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/58 20060101AFI20180226BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20180226BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20180226BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20180226BHJP
   C12P 7/00 20060101ALN20180226BHJP
   C12P 7/56 20060101ALN20180226BHJP
【FI】
   B01D61/58
   B01D65/02
   C12M1/00 D
   C12M1/12
   !C12P7/00
   !C12P7/56
【請求項の数】12
【全頁数】53
(21)【出願番号】特願2014-553370(P2014-553370)
(86)(22)【出願日】2014年6月20日
(86)【国際出願番号】JP2014066481
(87)【国際公開番号】WO2014204002
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-130368(P2013-130368)
(32)【優先日】2013年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100129160
【弁理士】
【氏名又は名称】古館 久丹子
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】西尾 彩
(72)【発明者】
【氏名】武内 紀浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 敦
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−006873(JP,A)
【文献】 特開平10−156156(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/086720(WO,A1)
【文献】 特開2009−072708(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02308586(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/58
B01D 61/22
B01D 61/14
B01D 65/02
C12M 1/00
C12M 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被ろ過液を透過液と非透過液とに分離する複数の分離膜モジュールを備えるろ過装置であって、
複数の前記分離膜モジュールの非透過側を直列に接続することで、複数の直列ユニットを形成する直列非透過液流路と、
互いに異なる直列ユニットに含まれ、かつ同じ段に配置される複数の分離膜モジュールの透過側を並列に接続することで並列ユニットを形成するユニット横断並列流路と、
同じ並列ユニットに属する当該複数の前記分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を一括制御することで、それら分離膜モジュールのろ過流量または膜間差圧の少なくとも一方を制御するろ過運転制御装置と、を備え、
前記ろ過運転制御装置は、前記ユニット横断並列流路上にあり、かつ、同じ並列ユニットに属する複数の分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を一括制御することで、それら分離膜モジュールのろ過流量または膜間差圧の少なくとも一方を制御するろ過装置。
【請求項2】
被ろ過液を透過液と非透過液とに分離する複数の分離膜モジュールを備えるろ過装置であって、
複数の前記分離膜モジュールの非透過側を直列に接続することで、複数の直列ユニットを形成する直列非透過液流路と、
複数の前記分離膜モジュールの透過側を並列に接続することで、並列ユニットを形成する並列透過液流路と、
を備え、
前記並列透過液流路として、互いに異なる直列ユニットに含まれ、かつ同じ段に配置される複数の前記分離膜モジュール間を接続するユニット横断並列流路を少なくとも備え、
同じ並列ユニットに属する複数の分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を一括制御することで、それら分離膜モジュールの透過流量または膜間差圧の少なくとも一方を制御し、かつ前記ユニット横断並列流路上にある、ろ過運転制御装置をさらに備えるろ過装置。
【請求項3】
前記並列ユニットとして、第1並列ユニットと、前記第1並列ユニットに含まれる分離膜モジュールよりも後段に配置される第2並列ユニットと、を少なくとも備える請求項1または2に記載のろ過装置。
【請求項4】
前記ろ過運転制御装置は、互いに異なる並列ユニットに属する分離膜モジュール間でのろ過流量の差を低減するように、前記分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を制御する請求項1からのいずれか1項に記載のろ過装置。
【請求項5】
前記ろ過運転制御装置は、互いに異なる並列ユニットに属する分離膜モジュール間での膜間差圧の差を低減するように、前記分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を制御する請求項1からのいずれか1項に記載のろ過装置。
【請求項6】
前記並列透過液流路に接続され、逆圧洗浄用の洗浄液を供給する洗浄液供給部をさらに備える請求項に記載のろ過装置。
【請求項7】
複数の前記ろ過運転制御装置を備える、請求項1からのいずれか1項に記載のろ過装置。
【請求項8】
前記分離膜モジュールの長手方向が、水平方向に対して垂直であるかまたは傾いている請求項1からのいずれか1項に記載のろ過装置。
【請求項9】
原料と、前記原料を発酵させて化学品を生成する細胞と、を含む発酵液を収容する発酵槽と、
前記発酵槽に接続され、前記分離膜モジュールにより前記発酵液をろ過して、細胞を含む非透過液と前記化学品を含有する透過液とに分離する請求項1からのいずれか1項に記載のろ過装置と、
前記非透過液を前記発酵槽に還流する流路と、を備える化学品の製造装置。
【請求項10】
分離膜モジュールの被ろ過液入口を介して直列に接続された2段以上の分離膜モジュールを有する複数の直列ユニットを備えるろ過装置の運転方法であって、
互いに異なる前記直列ユニット含まれ、かつ同じ段に配置される複数の分離膜モジュールの透過側が並列に接続されることで並列ユニットが形成されており、
前記ろ過装置の運転方法は、
(a)前記分離膜モジュールによって、被ろ過液を透過液と非透過液とに分離するろ過を行う工程と、
(b)同じ並列ユニットに属する複数の分離膜モジュールから流出される透過液の圧力を一括制御することで、それら分離膜モジュールのろ過流量または膜間差圧の少なくとも一方を制御する工程と、
(c)ろ過実行とろ過停止とを交互に繰り返す間欠ろ過を行う工程と、
を備え、
前記工程(c)は、前記工程(b)において透過液の圧力を一括で制御される複数の前記分離膜モジュールについて、一括して前記間欠ろ過を行うことを含むろ過装置の運転方法。
【請求項11】
前記ろ過装置の運転方法は、
(d)ろ過停止中の分離膜モジュールを逆圧洗浄する工程をさらに備える請求項10に記載のろ過装置の運転方法。
【請求項12】
前記工程(a)は、
(a1)一部の分離膜モジュールにおいてろ過を停止する工程と、
(a2)前記工程(a1)によりろ過が停止された分離膜モジュール以外の分離膜モジュールのろ過を実行する工程と、を含む請求項10または11に記載のろ過装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数系列の直列配置した分離膜モジュールを備えるろ過装置、当該ろ過装置を利用した化学品の製造装置およびろ過装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分離膜は、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産を行う発酵分野、食品工業分野等様々な方面で利用されている。飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野においては、分離膜が従来の砂ろ過、凝集沈殿過程の代替として水中の不純物を除去するために用いられている。
【0003】
分離膜モジュールには様々な様式があるが、膜面積あたりの設置面積が小さく、分離膜モジュールの交換費用が少ない中空糸膜モジュールなどを用いる技術が一般的に知られており、ろ過の方法としては、(1)ろ過対象液を分離膜モジュールに送液してろ過を行う全量ろ過法、および(2)ろ過対象液を分離膜モジュールに送液し、一部はろ過して、他の大部分はろ過対象液の貯槽などに循環するクロスフローろ過法がある。クロスフローろ過では、分離膜と平行なクロスフロー流れの剪断力により分離膜表面の堆積物を除去する効果が期待でき、濁質濃度の高い対象液の処理に好ましく用いられる。
【0004】
分離膜を用いたろ過技術の適用例として、連続発酵法が挙げられる。すなわち、連続発酵法において、微生物または培養細胞を分離膜でろ過することで、濾液から化学品を回収すると同時に濃縮液中の微生物または培養細胞を発酵培養液に保持または還流させることが提案されている。これによって、発酵培養液中の微生物や培養細胞濃度を高く維持することができる。
【0005】
連続発酵装置においては、より効率的な連続発酵による生産を行うために、膜面積あたりの設置面積が小さく、分離膜モジュールの交換費用が少ない中空糸膜モジュールなどを用いる技術が開示されている(特許文献1参照)。この技術では、微生物や培養細胞を、分離膜に中空糸膜を用いて、濾液から化学品を回収すると同時に濃縮液中の微生物や培養細胞を発酵培養液に保持または還流させることにより、発酵培養液中の微生物や培養細胞濃度を高く維持することが可能となっている。発酵培養液を中空糸膜モジュールに送液し、一部はろ過をして、大部分は発酵槽に還流させるクロスフローろ過を採用しており、このクロスフローの流れの剪断力により、膜表面の汚れを除去し、効率的なろ過を長期間継続することも可能である。
【0006】
ここで、工業規模で行う連続発酵では、大きな発酵槽が使用され、その容積は数百mにもなることが想定される。高濃度の微生物を含む発酵液を大量にろ過するためには、大きな膜面積が必要である。大きな膜面積を実現するには、1つの発酵槽に対して、複数の分離膜モジュールを使用することが有効である。例えば百m3の発酵液をろ過する場合、発酵液のろ過性、分離膜モジュールの性能により最適数は変わるが、多い場合は数百本または数千本の複数の分離膜モジュールが用いられる。
【0007】
特許文献2では、分離膜を洗浄する効果を得るためにクロスフローろ過(cross-flow filtration)が採用されている。また、運転コスト削減の観点から、クロスフロー流量を削減できるように、分離膜モジュールが直列に配置されている(特許文献2)。
【0008】
飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野でも、多量の水を処理するため、多くの分離膜モジュールを使用する。クロスフローろ過で分離膜モジュールを直列に配置して、中空糸膜の外側に原液を流しフラッシング洗浄する際の使用原液量および廃液処理量を削減する技術が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特開2008−237101号公報
【特許文献2】国際公開第2012/086720号
【特許文献3】日本国特開2009−72708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
複数の分離膜モジュールをクロスフローろ過に適用すると、分離膜モジュール数が多くなるほど、各モジュールに送液するクロスフロー流量の総量が多くなり、クロスフローの送液ポンプ動力コストが増える。また、クロスフロー送液配管径が大きくなると共に、計器類も含め設備費が増える。
【0011】
モジュールを直列に配置すると、並列で配置するよりも、クロスフロー流量の総量を削減することができ、送液設備の大型化も抑制できると考えられる。しかしながら、設備のさらなる簡素化が求められており、本発明は、そのような要求に応えることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、本発明は以下のいずれかの構成を備える。
【0013】
(1)被ろ過液を透過液と非透過液とに分離する複数の分離膜モジュールを備えるろ過装置であって、
複数の前記分離膜モジュールの非透過側を直列に接続することで、直列ユニットを形成する直列非透過液流路と、
複数の前記分離膜モジュールの透過側を並列に接続することで、並列ユニットを形成する並列透過液流路と、
を備えるろ過装置。
【0014】
(2)被ろ過液を透過液と非透過液とに分離する複数の分離膜モジュールを備えるろ過装置であって、
複数の前記分離膜モジュールの非透過側を直列に接続することで、直列ユニットを形成する直列非透過液流路と
複数の前記分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を一括制御することで、それら分離膜モジュールのろ過流量または膜間差圧の少なくとも一方を制御するろ過運転制御装置と、
を備えるろ過装置。
【0015】
(3)前記ろ過運転制御装置は、互いに異なる前記直列ユニットに含まれかつ同じ段に配置される複数の分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を一括制御する上記(2)に記載のろ過装置。
【0016】
(4)互いに異なる直列ユニットに属する複数の分離膜モジュールの透過側を並列に接続することで並列ユニットを形成するユニット横断並列流路をさらに備え、
前記ろ過運転制御装置は、前記ユニット横断並列流路上にあり、かつ、同じ並列ユニットに属する複数の分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を一括制御することで、それら分離膜モジュールのろ過流量または膜間差圧の少なくとも一方を制御する上記(2)または(3)に記載のろ過装置。
【0017】
(5)前記並列透過液流路として、互いに異なる直列ユニットに属する複数の分離膜モジュール間を接続するユニット横断並列流路を少なくとも備え、
同じ並列ユニットに属する複数の分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を一括制御することで、それら分離膜モジュールの透過流量または膜間差圧の少なくとも一方を制御し、かつ前記ユニット横断並列流路上にある、ろ過運転制御装置をさらに備える上記(1)に記載のろ過装置。
【0018】
(6)前記並列ユニットとして、第1並列ユニットと、前記第1並列ユニットに含まれる分離膜モジュールよりも後段に配置される第2並列ユニットと、を少なくとも備える上記(4)または(5)に記載のろ過装置。
【0019】
(7)前記ろ過運転制御装置は、互いに異なる並列ユニットに属する分離膜モジュール間でのろ過流量の差を低減するように、前記分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を制御する上記(4)〜(6)のいずれかに記載のろ過装置。
【0020】
(8)前記ろ過運転制御装置は、互いに異なる並列ユニットに属する分離膜モジュール間での膜間差圧の差を低減するように、前記分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を制御する上記(4)〜(6)のいずれかに記載のろ過装置。
【0021】
(9)前記並列透過液流路に接続され、逆圧洗浄用の洗浄液を供給する洗浄液供給部をさらに備える(5)に記載のろ過装置。
【0022】
(10)複数の前記ろ過運転制御装置を備える、(2)〜(9)のいずれかに記載のろ過装置。
【0023】
(11)前記分離膜モジュールの長手方向が、水平方向に対して垂直であるかまたは傾いている上記(1)〜(10)のいずれかに記載のろ過装置。
【0024】
(11)原料と、前記原料を発酵させて化学品を生成する細胞と、を含む発酵液を収容する発酵槽と、
前記発酵槽に接続され、前記分離膜モジュールにより前記発酵液をろ過して、細胞を含む非透過液と前記化学品を含有する透過液とに分離する上記(1)〜(11)のいずれかに記載のろ過装置と、
前記非透過液を前記発酵槽に還流する流路と、を備える化学品の製造装置。
【0025】
(13)分離膜モジュールの被ろ過液入口を介して直列に接続された2段以上の分離膜モジュールを有する複数の直列ユニットを備えるろ過装置の運転方法であって、
(a)前記分離膜モジュールによって、被ろ過液を透過液と非透過液とに分離するろ過を行う工程と、
(b)互いに異なる前記直列ユニットに含まれる複数の分離膜モジュールから流出される透過液の圧力を一括制御することで、それら分離膜モジュールのろ過流量または膜間差圧の少なくとも一方を制御する工程と、
(c)ろ過実行とろ過停止とを交互に繰り返す間欠ろ過を行う工程と、
を備え、
前記工程(c)は、前記工程(b)において透過液の圧力を一括で制御される複数の前記分離膜モジュールについて、一括して前記間欠ろ過を行うことを含むろ過装置の運転方法。
【0026】
(14)前記ろ過装置の運転方法は、
(d)ろ過停止中の分離膜モジュールを逆圧洗浄する工程をさらに備える上記(13)に記載のろ過装置の運転方法。
【0027】
(15)前記工程(a)は、
(a1)一部の分離膜モジュールにおいてろ過を停止する工程と、
(a2)前記ステップ(a1)によりろ過が停止された分離膜モジュール以外の分離膜モジュールのろ過を実行する工程と、を含む上記(13)または(14)に記載のろ過装置の運転方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ろ過装置において、複数の分離膜モジュールの透過液出口が互いに接続されるか、またはろ過装置が複数の分離膜モジュールから排出される透過液の圧力を一括制御するろ過運転制御装置を備えることで、複数の分離膜モジュール間で設備を共有することができる。よって、本発明によれば、分離膜モジュールの直列配置によるクロスフロー流量の低減と併せて、設備を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る連続発酵装置の概略図である。
図2図2は、第1実施形態にかかる間欠ろ過処理を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の第2実施形態に係る連続発酵装置の概略図である。
図4図4は、逆圧洗浄を行う機構を備える連続発酵装置の概略図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態にかかる間欠ろ過処理を説明するフローチャートである。
図6図6は、さらに他の実施形態に係る連続発酵装置の概略図である。
図7図7は、ろ過運転制御装置の一例を示す機能ブロック図である。
図8図8は、ろ過運転制御動作の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、さらに他の実施形態に係る並列モジュールユニットの上部からみた概略図である。
図10図10は、分離膜モジュールを斜め配置した分離膜モジュールユニットの概略図である。
図11図11は、分離膜モジュールを斜め配置した分離膜モジュールユニットの概略図である。
図12図12は、分離膜モジュールを縦置き直列配置した分離膜モジュールユニットの概略図である。
図13図13は、分離膜モジュールを縦置き並列配置した分離膜モジュールユニットの概略図である。
図14図14は、本発明の実施の一形態にかかる分離膜モジュールの概略図である。
図15図15は、別の形態にかかる分離膜モジュールの概略図である。
図16図16は、さらに別の形態にかかる分離膜モジュールの概略図である。
図17図17は、さらに別の形態にかかる分離膜モジュールの概略図である。
図18図18は、さらに別の形態にかかる分離膜モジュールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、例えば、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産を行う発酵分野、食品工業分野等様々な方面で、複数の分離膜モジュールを使用する際、適用することができる。ここでは、連続発酵装置を実施形態の例にあげて説明する。
【0031】
I.化学品の製造装置
本発明の実施の形態について、連続発酵装置を例に図を用いて説明する。以下の連続発酵装置は、後述する化学品の製造方法を実行するための装置の一例である。よって、製造方法を実行するための装置の構成として製造方法の欄で言及される構成については、説明を省略することがある。
【0032】
(1)第1実施形態
(1−1)化学品製造装置全体の構成
図1は、第1実施形態に係る連続発酵装置の概略図である。第1実施形態に係る連続発酵装置101(以下、単に「発酵装置」と称することがある。)は、発酵槽1と、温度制御装置3と、撹拌装置4と、pHセンサ5と、レベルセンサ6と、気体供給装置7と、水供給ポンプ8と、培地供給ポンプ9と、pH調整剤供給ポンプ10と、を備える。発酵装置101はさらに、ろ過装置201を備える。発酵槽1とろ過装置201とは、発酵槽内の発酵液をろ過装置201に送る送液ライン(送液流路)20と、ろ過装置201から循環過液を発酵槽1に戻す還流ライン(還元流路)60とで繋がれている。
【0033】
発酵液は被ろ過液として分離膜モジュールに送られ、非透過液と透過液とに分離される。そこで、本書において、連続発酵装置内で、被ろ過液、非透過液、透過液が流れる流路および分離膜モジュール内の空間のうち、分離膜モジュール内の分離膜を境として、被透過液側を「非透過側」と呼び、透過液側を「透過側」と呼ぶ。
【0034】
発酵槽1では、細胞および原料が投入される。発酵槽1内では、細胞による発酵によって、原料が化学品を含有する発酵液へと変換される。細胞および発酵の詳細については後述する。
【0035】
温度制御装置3は、温度センサと、加熱部と、冷却部と、制御部とを備える。温度制御装置3は、温度センサによって検出された発酵槽1内の温度に基づいて、その温度が所定範囲内の値を示すように制御部によって加熱部及び冷却部の動作を制御する。こうして、発酵槽1の温度が一定に維持されることで、細胞濃度が高く維持される。
【0036】
撹拌装置4は、発酵槽1内の発酵液を撹拌する。
【0037】
pHセンサ5は、発酵槽1内の発酵液のpHを検出する。図示しないpH制御部は、pHセンサ5の検出結果に基づいて、pH調整剤供給ポンプ10の動作を制御することで、発酵槽1内の発酵液のpHを所定の範囲内に保つ。pH調整剤供給ポンプ10は、pH調整剤槽に接続されており、pH調整剤を発酵槽1に供給する。pH調整剤槽内には、pH調整剤として、アルカリ性溶液または酸性溶液が収容されている。また2つ以上のpH調整剤槽に接続されていてもよい。その場合、アルカリ性溶液および酸性溶液はそれぞれのpH調整剤槽に収容されている。
【0038】
レベルセンサ6は、発酵槽1における液面の高さを検出する。図示しないレベル制御部は、レベルセンサ6の検出結果に基づいて、発酵槽1内の液面の高さを所定の範囲内に維持するように、水供給ポンプ8、培地供給ポンプ9等、液体を発酵槽1に供給する機構の動作を制御する。
【0039】
気体供給装置7は、気体供給口を介して、発酵槽1に気体を供給する。気体供給口は、発酵槽1に気体を直接供給するように配置されてもよいし、発酵液を分離膜モジュールに送るラインまたは分離膜モジュールに、気体を供給するように配置されてもよい。ラインまたは分離膜モジュールに気体が供給されることで、発酵液に酸素を溶解させると同時に、気体の剪断力により分離膜表面へ堆積した細胞等を除去することができる。
【0040】
気体供給口が、送液ラインまたは分離膜モジュールに気体を供給する位置に設けられる場合、気体供給口は、分離膜モジュールの下部に設けられても良く、さらには、発酵槽1と、分離膜モジュールとを連通する配管(つまり流路)に設けられてもよい。循環ポンプ11を用いて発酵槽1から分離膜モジュールまで発酵液を送液する際には、発酵液と循環ポンプ11の間、または循環ポンプ11と最前段の分離膜モジュールの間に気体供給口を設けることができる。
【0041】
気体の供給ラインは、後述の直列ユニット毎に設置すれば、直列ユニット毎に、個別に気体の供給を行うことができる。また、間欠的に気体を供給し、気体の使用量を抑制することもできる。
【0042】
気体供給装置7が供給する気体は、発酵槽1で好気性発酵が行われる場合は、酸素を含むことが好ましい。酸素を含む気体とは、純酸素でも良く、発酵に悪影響のない気体、例えば、空気、窒素、二酸化炭素、メタン、または前記した気体の混合気体などを酸素と混合することで、酸素の濃度が調整された気体でも良い。また、発酵槽1で嫌気性発酵が行われる場合などにおいて、酸素の供給速度を下げる必要があれば、気体供給装置7は、二酸化炭素、窒素、メタンおよびアルゴンなど、酸素を含まないガスと空気との混合ガスを供給することも可能である。
【0043】
気体供給源は、気体を圧縮した後、一定な圧力で気体を供給することが可能な装置、または、気体が圧縮されていて、一定な圧力で気体を供給することが可能なタンクで良い。ガスボンベ、ブロアー、コンプレッサー、あるいは配管によって供給される圧縮ガスなどを使用することができる。
【0044】
水供給ポンプ8は、発酵槽1に直接的に水を供給する。なお、水は、原料の供給およびpH調整剤の添加等によっても、間接的に発酵槽1に供給可能である。また、分離膜モジュールの透過側から非透過側へ水を送液することで間接的に発酵槽1に供給されてもよい。分離膜モジュールの透過側から供給側へ水が送液されることで、発酵槽1に水が供給されると同時に、分離膜表面に堆積した細胞等を除去することができる。
【0045】
連続発酵装置に添加される物質は、コンタミによる汚染を防止し、発酵を効率よく行うため、滅菌されていることが好ましい。例えば、原料となる培地は、調整後に加熱されることで滅菌されてもよい。また、培地、pH調整剤および発酵槽に添加される水は、必要に応じて、滅菌用フィルターを通すなどして無菌化されてもよい。
【0046】
(1−2)ろ過装置
ろ過装置201は、複数の分離膜モジュールA1、A2、A3、B1、B2、B3、C1、C2、C3、D1、D2およびD3と、循環ポンプ11と、ろ過運転制御装置(制御部)51、52および53とを主に備える。
【0047】
(A)分離膜モジュールの概要
分離膜モジュールは、被ろ過液からろ過液(つまり透過液)を分離することができればよく、その構造は本書で説明される具体例に限定されるものではない。
【0048】
分離膜モジュールは、筐体と;筐体内に収容され、被ろ過液を透過液と非透過液とに分離する分離膜と;筐体の外側から分離膜に被ろ過液を供給する被ろ過液入口と;透過液を筐体外に排出する透過液出口と、非透過液を筐体外に排出する非透過液出口と、を備える。被ろ過液入口および透過液出口は、筐体の長手方向における両端の近傍にそれぞれ設けられることが好ましい。筐体の長手方向とは、分離膜モジュールの長手方向と読み替えることができる。非透過液は、循環液として、発酵槽1に戻される。より詳細な構造については後述する。
【0049】
(B)分離膜モジュールの配置
本実施形態では、分離膜モジュールA1、A2およびA3は、発酵液の流れる方向において上流側からこの順に並べられている。分離膜モジュールA1、A2およびA3の非透過側は、直列に接続されている。つまり、分離膜モジュールA1、A2およびA3は、第1直列ユニットSU1を形成している。分離膜モジュールA1、A2およびA3はそれぞれ、1つの直列ユニットSU1において、1段目、2段目、3段目に配置されている。
【0050】
「分離膜モジュールの非透過側が直列に接続されている」とは、ある分離膜モジュールに供給された被ろ過液から得られた非透過液が、他の分離膜モジュールに被ろ過液として供給されるように、これら2つのモジュールが接続されていることを意味する。
【0051】
具体的には、分離膜モジュールA1の非透過液出口とその後段の分離膜モジュールA2の被ろ過液入口とが、直列非透過液流路611で接続され、分離膜モジュールA2の非透過液出口とその後段の分離膜モジュールA3の被ろ過液入口とが直列非透過液流路612で接続される。
【0052】
同様に、分離膜モジュールB1、B2およびB3も、非透過側において、直列に接続されることで第2直列ユニットSU2を形成し、分離膜モジュールC1、C2およびC3も、非透過側において直列に接続されることで第3直列ユニットSU3を形成し、D1、D2およびD3も、非透過側において直列に接続されることで第4直列ユニットSU4を形成する。第2、第3および第4直列ユニット内の分離膜モジュールも、第1直列ユニットと同様に直列非透過液流路で接続されているが、これらのユニットの直列非透過液流路については、図示はするが、余白の都合上、符号を省略する。
【0053】
このような直列ユニットの構成によれば、前段のモジュールで得られた非透過液は、後段のモジュールに被ろ過液として供給される。本書においては、ろ過装置内で、まだいずれの分離膜モジュールに入っていない発酵液、ある分離膜モジュールから流出して次の分離膜モジュールに到達するまでの非透過液、および最後段の分離膜モジュールから流出した非透過液を、まとめて「循環液」と称することがある。また、循環液は、「クロスフロー」とも称される。
【0054】
本書において、1段目、2段目等の「段」とは、発酵槽1から供給される発酵液の流れる方向に沿って並んだモジュールの順番を指す。よって、第1直列ユニットSU1における最上流のモジュールA1が1段目のモジュールであり、次のモジュールA2が2段目のモジュールである。
【0055】
直列ユニットにおいては、前段の(上流の)モジュールが、後段の(下流の)モジュールより下に配置されていることが好ましい。「前段のモジュールが後段のモジュールよりも下に配置されている」とは、具体的には、前段のモジュールの上部が、後段のモジュールの下部よりも下方に配置されているか、または、前段のモジュールの非透過液出口が後段のモジュールの被ろ過液入口よりも下方に配置されていることを指す。
【0056】
なお、同じ直列ユニットに属するモジュールが鉛直方向に沿って並んでいる必要はない。つまり、前段のモジュールの斜め上に後段のモジュールが配置されていてもよい。
【0057】
図1の構成では、個々の分離膜モジュールは、被ろ過液入口が下に、非透過液出口が上になるように配置される。つまり、循環液は、それぞれの分離膜モジュールを下から上に登って、より上に配置された分離膜モジュールに送られる。すなわち、発酵液は、分離膜モジュールA1の下部にある被ろ過液入口から分離膜モジュールA1に供給される。分離膜モジュールA1の分離膜を透過しなかった非透過液は、分離膜モジュールA1内を上へと進み、モジュールA1の上部にある非透過液出口から、分離膜モジュールA2の下部にある被ろ過液入口へと送られる。モジュールA2およびA3内を、順に上った非透過液は、最終的には、最上段にある分離膜モジュールA3の非透過液出口から発酵槽に還流される。
【0058】
第1−第4直列ユニット(第1−第4分離膜モジュール直列ユニット)(SU1−SU4)は、さらに並列に接続されている。つまり、発酵槽1から発酵液を取り出す配管、すなわち送液ライン20から4本の配管(被ろ過液配管)21、22、23、24が分岐しており、この4本の配管がそれぞれ4つの直列ユニットの1段目の分離膜モジュールの被ろ過液入口に接続されている。そして、第1−第4直列ユニット(SU1−SU4)のそれぞれの最後段の分離膜モジュールから循環液を取り出す4つの配管(循環液配管)61、62、63、64は、発酵槽1に循環液を送り返す1つの配管、すなわち還流ライン60に接続される。還流ライン60には、バルブ141が配置される。
【0059】
さらに、異なる直列ユニットにおいて、同じ段に配置された分離膜モジュールの透過側は、並列に接続されている。すなわち、各直列ユニットに於いて1段目に配置された分離膜モジュールA1、B1、C1およびD1は、これらモジュールの透過液出口を介して、配管31によって互いに並列に接続されることで、第1並列ユニットPU1を形成する。同様に、2段目、3段目に配置された各4つの分離膜モジュールは、それぞれ配管32および33によって接続されることで、第2並列ユニットPU2および第3並列ユニットPU3を形成する。配管31のように、分離膜モジュールの透過側を並列に接続する流路を並列透過液流路と呼び、特に、異なる直列ユニットに含まれる分離膜モジュールの透過側を並列に接続する流路を、ユニット横断並列流路と呼ぶことができる。
【0060】
本形態のろ過装置は、並列流路としてユニット横断並列流路のみを備えるが、本発明はこれに限定されず、ろ過装置は、同じ直列ユニットのモジュールを接続する並列透過液流路を備えてもよい。
【0061】
このように、複数の分離膜モジュールは3行4列のマトリックスを形成している。
【0062】
循環ポンプ11は、マトリックス状に配置された分離膜モジュールの上流に、つまり発酵槽1に接続された送液ライン20上に配置される。循環ポンプ11は、発酵槽1内の発酵液を、配管を介して分離膜モジュールに送る。分離膜モジュール内へ送られた発酵液の一部はモジュール内の分離膜によってろ過され、残りは循環液として配管61、62、63、64から還流ライン60へ送液され、発酵槽へと戻る。このようにして、発酵液を発酵槽とろ過装置との間で循環させることによって、分離膜表面にクロスフロー流を発生させることができる。循環ポンプ11は、クロスフロー流に、発酵槽から分離膜モジュールを通って再び発酵槽へ戻ることのできる力学的エネルギー(つまり圧力)を与える。この際、還流ライン60上のバルブ141の開度が小さいほど通液抵抗が大きくなるので、与えられるエネルギーも高くなる。すなわち、バルブ141の開度が小さいほどバルブ141の非透過側のクロスフロー流の圧力は増加する。
【0063】
マトリックスにおける各段には、つまり第1−第3並列ユニット(PU1−PU3)には、第1−第3ろ過運転制御装置(51−53)がそれぞれ設けられる。第1ろ過運転制御装置51は、透過液流量センサ41と、ろ過ポンプ121およびバルブ131と、制御部501とを備える。ろ過運転制御装置52は、透過液流量センサ42と、ろ過ポンプ122およびバルブ132と、制御部502とを備え、ろ過運転制御装置53は、透過液流量センサ43と、ろ過ポンプ123およびバルブ133と、制御部503とを備える。
【0064】
透過液流量センサ41は、図1では特に第1並列ユニットPU1に含まれる分離膜モジュールA1、B1、C1およびD1の透過液を並列に接続する配管31上に配置される。他の透過液流量センサ42、43についても同様に、第2並列ユニットPU2、第3並列ユニットPU3に含まれる分離膜モジュールの透過液を並列に接続する配管32および33上にそれぞれ配置される。透過液流量センサはこのように、各並列ユニットに含まれる分離膜モジュールの透過側に接続される配管の液体の流量を検知できればよい。透過液流量センサとしては、例えば質量流量計、面積流量計、超音波流量計、差圧流量計、電磁流量計などが使用可能である。また、透過液を透過液配管から所定時間だけビーカーなどに採取し、重量または体積を測定することで単位時間あたりの量を算出し、流量計測の代替としてもよい。ただし、連続発酵装置に使用する場合、コンタミによる汚染を防止する為に配管内を加熱して蒸気滅菌を行うので、流量計は蒸気滅菌への耐久性を有するものが必要である。
【0065】
透過液流量センサ41−43は、並列ユニットにおける分離膜モジュールの運転状況を検出するための検出部の1種に過ぎず、後述するように他の構成に置き換え可能である。
【0066】
ろ過ポンプ121は、第1並列ユニットPU1に含まれる分離膜モジュールA1、B1、C1およびD1の透過液を並列に接続する配管31上に配置されている。第2ろ過運転制御装置52のろ過ポンプ122、第3ろ過運転制御装置53のろ過ポンプ123も、それぞれ第2並列ユニットPU2、第3並列ユニットPU3に含まれる分離膜モジュールの透過液を並列に接続する配管32および33上に配置される。
【0067】
ろ過制御バルブ131は、配管31で、第1並列ユニットPU1とろ過ポンプ121との間に配置される。他のろ過制御バルブについても同様に、ろ過制御バルブ132は、ライン32上で、第2並列ユニットPU2とろ過ポンプ122との間に配置され、ろ過制御バルブ133は、ライン33上で、第3並列ユニットPU3とろ過ポンプ123との間に配置される。
【0068】
ろ過運転制御装置51−53は、各並列ユニット間でのろ過流量や膜間差圧の差異が小さくなるように、透過液圧力を制御する。制御の概略は以下のとおりである。制御の詳細については後述する。なお、膜間差圧とは、分離膜モジュールにおける被透過側の圧力と透過液の圧力との差である。
【0069】
制御部501は、第1並列ユニットの配管31に設けられた透過液流量センサ41の出力結果に基づいて、ろ過ポンプ121の駆動力およびバルブ131の開度の少なくとも一方を制御することができる。こうして、制御部501は、第1並列ユニットPU1に含まれる分離膜モジュールA1、B1、C1およびD1の透過液の圧力を一括制御することができる。
【0070】
ろ過運転制御装置52および53はそれぞれ、第2並列ユニットPU2および第3並列ユニットPU3に対応するように配置される。そして、ろ過運転制御装置52および53はそれぞれ、ろ過運転制御装置51と同様に、透過液流量センサ42および43の出力結果に基づいて、第2並列ユニットPU2および第3並列ユニットPU3に含まれる分離膜モジュールの透過液圧力を一括制御する。
【0071】
また、ろ過運転制御装置51−53は、バルブ131、132、133の開度で並列ユニットごとの制御を行い、3つのろ過ポンプ121−123を1つのポンプで代替することも可能である。その場合、ろ過ポンプは、3つの配管31−33がバルブ131−133の下流で並列に接続された配管上に配置される。
【0072】
複数の分離膜モジュールの非透過側が直列に接続されることで、ろ過装置全体で循環する流量(クロスフロー流量)は低減される。また、直列配置された分離膜モジュール間で、送液ラインおよび計器等を共有することができるので、設備の簡素化が可能となる。
【0073】
また、本実施形態のろ過装置では、分離膜モジュールを、透過液出口を介して並列に接続することで、透過液の流れる配管および透過液の流れを監視する計器等を共有し、設備のさらなる簡素化が可能となる。
【0074】
さらに、本実施形態では、互いに異なる直列ユニットに含まれ、同じ段に配置された分離膜モジュールを接続している。同じ段に配置された分離膜モジュールの間では、被ろ過液の圧力差は小さいので、これらの分離膜モジュールの透過液出口が並列に接続されることで、複数の分離膜モジュールが透過液配管を共有しても、それらの分離膜モジュール間における膜間差圧の差は小さい。従って、膜間差圧の差による分離膜モジュール間におけるろ過量の不均等化は生じにくい。このように、複数の分離膜モジュール間で配管等の透過側の部材を共有する場合は、同等の非透過側圧力を示す分離膜モジュールの透過側を接続することが好ましい。以下に、詳細に、説明する。
【0075】
分離膜モジュールの非透過側を直列に配置すると、分離膜モジュールおよび配管に由来する圧力損失によって、前段(クロスフロー流れにおいて上流側)の分離膜モジュールと後段(クロスフロー流れにおいて下流側)の分離膜モジュールとの間で非透過側の圧力に差が生じるので、膜間差圧に差が生じ、その結果、ろ過量に差が生じる。例えば、前段のモジュールに比べて、後段のモジュールでは、非透過側の圧力は小さくなる。つまり、後段のモジュールほど膜間差圧が小さくなり、ろ過量は小さくなる。
【0076】
分離膜モジュールが全て新品の場合など、同一圧力条件下において同様にろ過量が得られる分離膜モジュール同士では、膜間差圧が小さい分離膜モジュールほどろ過量は小さくなる。
【0077】
また、一部の分離膜モジュールの使用期間が長く、膜詰まりが進行している場合など、同一圧力条件下において同様のろ過量を得ることができない場合、該モジュールが後段に配置されるとろ過量はさらに減少する。
【0078】
特に、クロスフロー流量が大きい場合、配管に由来する圧力損失は大きくなる。さらには、クロスフロー流量が大きい場合など、モジュール内でクロスフローが均等に流れるように、モジュール内に整流部材が配置されることがある。整流部材が設けられると、さらに圧力損失が大きくなる。
【0079】
大きなろ過量を示す分離膜モジュールでは、より小さなろ過量を示す分離膜モジュールより、膜詰まりが発生しやすい。つまり、ろ過量に差があると、メンテナンスの負担が重くなる。
【0080】
従って、直列配置された前段の分離膜モジュールと後段の分離膜モジュールとで、ろ過量の差を低減し、かつ安定的な運転を継続するためには、前段の分離膜モジュールと後段の分離膜モジュールとで、膜間差圧を同程度になるように調整することが好ましい。なお、クロスフロー流量に変化がない場合、非透過側の圧力の経時変化は小さく、透過側の圧力の経時変化の方が大きいので、透過側の圧力を調節することが望ましい。
【0081】
ここで、複数の分離膜モジュールの透過液出口を並列に接続することで、これらの複数の分離膜モジュールの透過液圧力を一括して制御することが可能となる。透過液の圧力は、透過液が通る配管上のバルブの開度を変更することで経時的に調整が可能である。
【0082】
また、直列配置の各段は、個別に透過液圧力を制御できるので、ろ過量も段毎に設定することが可能となる。つまり、前段と後段の分離膜モジュール間において被透過側の圧力に差があっても、透過側の圧力を昇/減圧してろ過量の差を低減することができる。また、膜間差圧の差を小さくするように運転することも可能となる。
【0083】
特に、上述したように、圧力損失によって、前段の並列ユニットの膜間差圧の方が後段の並列ユニットの膜間差圧よりも大きくなる場合、後段の並列ユニットの透過液の圧力が、前段の並列ユニットの透過液圧力より低くなるように制御することで、段間におけるろ過量の差を減少させることができる。具体的には、後段のモジュールに接続されたろ過ポンプの駆動力を増加させることで、膜間差圧の差が低減される。つまり、前段と後段とのろ過流量が平均化される。また、後段のモジュールに接続されたろ過制御バルブの開度を上げたり、前段のモジュールに接続されたろ過制御バルブの開度を下げたりしてもよい。
【0084】
なお、分離膜モジュールを直列に繋ぐ被ろ過液の流路に昇圧ポンプを配置するなど、構成が変更されれば、前段の並列ユニットの膜間差圧と後段の並列ユニットの膜間差圧との大小関係は逆転しうる。つまり、例えば、分離膜モジュールA2と分離膜モジュールA3との間、分離膜モジュールB2と分離膜モジュールB3との間、分離膜モジュールC2と分離膜モジュールC3との間、分離膜モジュールD2と分離膜モジュールD3との間の非透過液流路にそれぞれ昇圧ポンプが設けられた場合、これらの昇圧ポンプが稼働することで、後段のモジュールで生じる膜間差圧が、前段のモジュールで生じる膜間差圧よりも大きくなることがある。このような場合にも、例えば前段の並列ユニットに1つのろ過運転制御装置が設けられてもよい。このろ過運転制御装置は、1つの並列ユニットに含まれるモジュールのろ過量を、後段のモジュールとは別に一括制御することができる。こうして、前段と後段とにおけるろ過量の差を平均化することができる。
【0085】
膜間差圧の制御は、他の手段で行うこともできる。例えば、被ろ過液側の送液ライン上にバルブ141などのバルブまたはオリフィスなどの通液抵抗を設置することにより、被ろ過液の圧力を上昇させることで、すべてのモジュールの膜間差圧を大きくすることもできる。また、透過側の配管に、各段でそれぞれ大きさの異なるオリフィスなどの通液抵抗を設置し、透過側圧力を減少させることで、各段の膜間差圧またはろ過量を平均化することもできる。
【0086】
例えば、図1の装置で、分離膜モジュール並列ユニットPU1における各分離膜モジュールの透過側ラインで、または各分離膜モジュールの透過側ラインが合流した部分で、オリフィスなどの圧力損失を有する設備を設け、このオリフィスなどの圧力損失が分離膜モジュールA1および配管に由来する圧力損失と同様である場合、分離膜モジュール並列ユニットPU1とPU2を同じろ過制御装置でろ過運転しても、分離膜モジュール並列ユニットPU1とPU2の各分離膜モジュールの膜間差圧を同レベルでろ過運転することができる。
【0087】
また、透過側のバルブが全開になった場合など、透過側での圧力調整が困難である場合は、前述のように還流ラインのバルブ141等を操作して、被ろ過液の圧力を調整することができる。
【0088】
発酵槽1から分離膜モジュールへの発酵液の供給ラインである配管20には、分離膜モジュールを経由しないで発酵槽1に発酵液を戻すバイパスが接続されていても良い。このようなバイパスラインを設けることで、ろ過性が悪化した場合などに分離膜モジュールの一部を停止する場合、停止する分離膜モジュールの分のクロスフローをバイパスによって流すことができるので、装置全体としての圧力変動を抑えることができる。
【0089】
(1−3)ろ過運転制御装置
図7に、ろ過運転制御装置の機能ブロック図の一例を示す。図7に示すろ過運転制御装置51は、1段目の並列ユニットPU1に接続される制御装置の一例である。ろ過運転制御装置51は、透過液流量センサ41と、制御部501と、ろ過ポンプ121とを備える。制御部501は、入力部501aと、判定部501bと、メモリ501cと、ポンプ制御部501dとを備える。
【0090】
図8に、ろ過運転制御動作の一例を示すフローチャートを示す。判定部501bは、透過液流量センサ41の出力結果に基づいて、ろ過ポンプ121の駆動の要否および駆動力を判定する。1段目の透過液流量を、基準となる設定流量に近づける場合は、判定部501bは、1段目の透過液流量センサ41の検知結果と、基準となる設定流量との差を算出し、得られた差と所定値(閾値)との大小関係を判定する。メモリ501cには、基準となる設定流量と1段目の透過液流量との差に対応づけて、ろ過ポンプの駆動力が記憶されている。
【0091】
ポンプ制御部501dは、判定部501bの比較結果およびメモリ501cの有する情報に基づいて、ろ過ポンプ121を制御する。例えば、ポンプ制御部501dは、基準となる設定流量より1段目の透過液流量が小さく、かつその差が所定量よりも大きければ、ポンプ制御部501dは、ろ過ポンプの駆動力を増大させる。また、基準となる設定流量よりも、1段目の透過液流量が大きく、かつその差が所定量よりも大きければ、ポンプ制御部501dは、ろ過ポンプの駆動力を低減する。また、1段目の透過液流量が、基準となる設定流量と同一か、異なっていても許容範囲内であれば、ポンプ制御部501dは、ろ過ポンプ121の駆動力を維持する。こうして、ろ過運転が制御される。
【0092】
なお、判定の基準値として、メモリ501cに、あらかじめ圧力の上限値および下限値が格納されていてもよい。この場合は、上限値を超えたときに、判定部501bはろ過ポンプ121の駆動力を低下させる必要があると判定し、下限値を下回ったときに、判定部501bは、ろ過ポンプ121の駆動力を増加させる必要があると判定する。
【0093】
なお、入力部501aへの設定流量の入力は、作業者が判断して入力しても良いし、別の検出センサを用いた入力装置を設けて、入力部501aへ設定値を出力させても良い。
【0094】
各段に個別に設定される流量は、最小設定値に対する最大設定値の割合が好ましくは3倍以下、より好ましくは2倍以下、さらに好ましくは1.5倍以下となるように設定し、局所の分離膜モジュールに過負荷がかからないようにすることが好ましい。
【0095】
各段を一括に制御する場合、大きな膜間差圧がかかっている分離膜モジュールでは、他の分離膜モジュールよりもろ過量が大きくなる傾向があり、より多くのろ過量を得ようとする。また、分離膜モジュールの直列段数が増えると、装置全体でのろ過量が増加するため、より多くのろ過量が局所のモジュールに集中することになり、モジュールの段数によっては、モジュールによって、ろ過量に5倍以上の差が出ることも想定される。
【0096】
これに対して、本実施の形態は各段個別に制御するので、このような傾向を抑制し、安定的に運転することが可能となる。
【0097】
また、透過液流量センサの代わりに透過液圧力センサを検出センサとして使用してろ過ポンプを駆動させるろ過運転制御装置を使用しても良い。
【0098】
(2)第2実施形態
図3は、本発明の第2実施形態で使用する連続発酵装置の概略図である。本発明の第2実施形態に係る連続発酵装置102では、循環ポンプ11から1段目の各分離膜モジュールA1、B1、C1およびD1へ発酵液を送液する配管の長さがそれぞれ略均等に設定されている。また、最後段の分離膜モジュールA3、B3、C3およびD3から発酵槽1へと至る配管の長さも略均等になるように設定されている。連続発酵装置102はろ過装置202を備える。
【0099】
具体的には、直列ユニットSU1とSU2とは非透過液流路において並列接続されており、かつ直列ユニットSU3とSU4との間で、非透過液流路においてが並列接続されている。つまり、発酵槽1から発酵液を分離膜モジュール群に送り出す送液ライン20は、2本に枝分かれし、その一方がさらに2本に枝分かれして、直列ユニットSU1、SU2最前段の分離膜モジュールA1およびB1に接続する。枝分かれした他方の配管も、さらに2本に枝分かれして、直列ユニットSU3、SU4の最前段の分離膜モジュールC1およびD1に接続する。直列ユニットSU1およびSU2の最後段の分離膜モジュールA3およびB3は、この2つの分離膜モジュールから流出した非透過液が互いに合流するように、それぞれの非透過液出口を介して、並列に接続される。他の2つの直列ユニットSU3およびSU4についても、それぞれに属する最後段のモジュールは、非透過液出口を介して並列に接続される。
【0100】
第1実施形態では、全ての直列ユニットSU1−SU4の最前段および最後段の非透過側が互いに並列に接続されているのに対して、第2実施形態では、モジュール群全体において、モジュールおよび配管の配置が左右対称になるように、直列ユニットSU1とSU2とが対になり、直列ユニットSU3とSU4とが対になって配置される。
【0101】
(3)第3実施形態
図4に示す発酵装置103は、分離膜モジュールの逆圧洗浄を行う膜洗浄装置40を備える以外は、第2実施形態にかかる連続発酵装置102と同様の構成を備える。発酵装置103はろ過装置203を備える。
【0102】
図4に示すように、膜洗浄装置40は、洗浄液を貯蔵する洗浄液槽と、各並列ユニットに洗浄液を送る配管と、洗浄液ポンプ14とを備える。また、並列ユニットに洗浄液を送る配管上には、洗浄液バルブ151、洗浄液バルブ152、洗浄液バルブ153がそれぞれ配置されている。
【0103】
洗浄液槽と、洗浄液ポンプ14、ならびに洗浄液槽から分離膜モジュールまでの配管および洗浄液バルブ15は、耐薬品性に優れるものであることが好ましい。逆圧洗浄液の注入は手動でも可能だが、制御部が、ろ過ポンプ121−123、ろ過制御バルブ131−133、洗浄液ポンプ14および洗浄液バルブ151−153を、タイマーなどを利用して、自動的に行うことが好ましい。
【0104】
分離膜モジュールの非透過側が直列に接続されることで、ろ過装置全体で循環する流量(クロスフロー流量)は低減される。また、直列配置された分離膜モジュール間で、送液ラインおよび計器等を共有することができるので、設備の簡素化が可能となる。
【0105】
しかし、分離膜モジュールを直列に配置すると、第1実施形態で述べたように、段間でろ過量や膜間差圧に差が生じる。
【0106】
膜間差圧は、分離膜の透過側から非透過側へ洗浄液を送液する際に、洗浄液の流れに抵抗を与える。その抵抗は、膜間差圧の値が大きいほど大きくなる。従って、分離膜モジュール間で膜間差圧に差が生じると、モジュール間における洗浄液の流れやすさに差が生じることとなる。例えば、前段(原流体の流れにおいて上流側)のモジュールに比べて、後段(原流体の流れにおいて下流側)のモジュールの膜間差圧の方が小さい場合、後段のモジュールの方に洗浄液が流れやすくなり、前段のモジュールへの洗浄液の送液不良が生じ、前段モジュールの洗浄が不十分となることがある。また、洗浄液の供給流量は、ろ過流量よりも多い場合があり、その場合は抵抗が更に大きくなるので、モジュールによる洗浄液の供給量の偏りが顕著となる。
【0107】
従って、直列配置された分離膜モジュール間で、均等に洗浄液を送液するためには、それぞれ個別に制御することが好ましいと考えられる。しかしながら、このような個別の制御を行うためには、分離膜モジュール毎に制御装置を設ける必要があり、設備が大型化すると共に、設備費が増大する。
【0108】
これに対して、本実施形態のろ過装置では、互いに異なる直列ユニットに含まれる分離膜モジュールの透過側を並列に接続することで、透過液の配管および計器等を共有することができるので、設備のさらなる簡素化が可能となる。同じ段に配置された分離膜モジュールの間では、上述のように膜間差圧の差は小さいので、これらの分離膜モジュールが透過液配管を共有しても、分離膜モジュール間における洗浄液供給量の差を小さくすることができる。さらに、並列に接続された複数の分離膜モジュールの洗浄工程を一括して制御することが可能となる。
【0109】
なお、膜洗浄装置は、第1実施形態のろ過装置にも適用可能である。
【0110】
(4)第4実施形態
図6に示すように、本実施形態の発酵装置104は、12本の分離膜モジュールを備えるろ過装置204およびろ過装置205を有する。ろ過装置204およびろ過装置205は、第3実施形態と同様に左右対称なマトリックスを形成するように配置された12本の分離膜モジュールを含むモジュール群を2つ備え、2つのモジュール群は、最前段および最後段で、さらに並列に接続されている。言い換えると、発酵装置104は、第3実施形態とほぼ同様のろ過装置を2つ備える。
【0111】
ろ過装置204は、ろ過運転制御装置(制御部)54、55、56と、ろ過ポンプ161、162、163と、ろ過制御バルブ171、172、173と、洗浄液バルブ181、182、183を備えている。さらにろ過装置204は、分離膜モジュールE1、F1、G1およびH1、分離膜モジュールE2、F2、G2およびH2、分離膜モジュールE3、F3、G3およびH3を備えている。
【0112】
また、各マトリックス配列中の同段のモジュールの透過液は並列接続されており、それぞれのマトリックスの段毎にろ過運転制御装置が設けられる。こうして、本形態では、ろ過装置全体で、モジュール配置は左右対称になっている。
【0113】
II.化学品の製造方法および装置の動作
以下、本発明のろ過装置および発酵装置が利用される化学品の製造方法について説明する。
【0114】
1.発酵工程
本形態において、化学品の製造方法は、原料を細胞による発酵で化学品を含有する発酵液へと変換する発酵工程を含む。
【0115】
(A)細胞
本実施形態において、「細胞」とは、微生物および培養細胞の総称である。
【0116】
化学品の製造において使用される微生物については特に制限はなく、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、および糸状菌等の真核細胞、大腸菌、乳酸菌、コリネ型細菌および放線菌などの原核細胞が挙げられる。また、培養細胞としては、動物細胞および昆虫細胞等が挙げられる。また、使用する微生物や培養細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0117】
乳酸を製造する場合、真核細胞であれば酵母、原核細胞であれば乳酸菌を用いることが好ましい。このうち酵母は、乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を細胞に導入した酵母が好ましい。このうち乳酸菌は、消費したグルコースに対して対糖収率として50%以上の乳酸を産生する乳酸菌を用いることが好ましく、更に好ましくは対糖収率として80%以上の乳酸菌であることが好適である。
【0118】
(B)原料
原料としては、培養する細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであればよい。
【0119】
原料としては、液体培地が用いられる。培地中の成分であって、目的の化学品に変換される物質(すなわち狭義の原料)を原料と称することもあるが、本書では、特に区別しない場合には、培地全体を原料と称する。狭義の原料とは、例えば化学品としてアルコールを得るための発酵基質であるグルコース、フルクトース、ショ糖などの糖である。
【0120】
原料は、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸やビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する。炭素源としては、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、酢酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリンなどが使用される。窒素源としては、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等が添加されてもよい。
【0121】
細胞が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物が標品またはそれを含有する天然物として、原料に添加される。
【0122】
原料は、消泡剤を必要に応じて含有してもよい。
【0123】
(C)培養液
培養液とは、原料を含む培地において細胞が増殖した結果得られる液である。
【0124】
連続発酵においては、培養液に原料を追加することができるが、追加する原料の組成は、目的とする化学品の生産性が高くなるように、培養開始時の組成から適宜変更してもよい。例えば、狭義の原料の濃度、培地における他の成分の濃度等は、変更可能である。
【0125】
(D)発酵液
発酵液は、発酵の結果生じた物質を含有する液であり、原料、細胞、及び化学品を含有してもよい。つまり、文言「培養液」と「発酵液」とはほぼ同じ意味で用いられることがある。
【0126】
(E)化学品
上記の細胞によって、発酵液中に、化学品すなわち変換後の物質が生産される。化学品としては、例えば、アルコール、有機酸、アミノ酸および核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。例えば、アルコールとしては、エタノール、1、3−ブタンジオール、1、4−ブタンジオールおよびグリセロール等が挙げられる。また、有機酸としては、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸およびクエン酸等を挙げることができ、核酸であればイノシン、グアノシンおよびシチジン等を挙げることができる。また、本発明の方法を、酵素、抗生物質および組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。
【0127】
また、本発明の製造方法は、化成品、乳製品、医薬品、食品または醸造品の製造に適用できる。ここで化成品としては、例えば、有機酸、アミノ酸および核酸が挙げられ、乳製品としては、例えば、低脂肪牛乳などが挙げられ、食品としては、例えば、乳酸飲料など、醸造品としては、例えば、ビール、焼酎が挙げられる。また、本発明の製造方法によって製造された、酵素、抗生物質、組み換えタンパク質等は、医薬品に適用可能である。
【0128】
(F)培養
連続発酵による化学品の製造では、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って、細胞濃度を高くした後に、連続発酵(つまり培養液の引き抜き)を開始しても良い。または、細胞濃度を高くした後に、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続発酵を行っても良い。連続発酵による化学品の製造では、適当な時期から原料培養液の供給および培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養液の引き抜きの開始時期は必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養液の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。
【0129】
培養液には菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。培養液中の細胞の濃度は、培養液の環境が細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが、効率よい生産性を得る上で好ましい態様である。培養液中の細胞の濃度は、一例として、乳酸菌を用いたD−乳酸発酵では、乾燥重量として、細胞濃度を5g/L以上に維持することにより良好な生産効率が得られる。
【0130】
連続発酵による化学品の製造において、原料に糖類を使用する場合は、培養液中の糖類濃度は5g/L以下に保持されることが好ましい。培養液中の糖類濃度を5g/L以下に保持することが好ましい理由は、培養液の引き抜きによる糖類の流失を最小限にするためである。
【0131】
細胞の培養は、通常、pH3以上8以下、温度20℃以上60℃以下の範囲で行われる。培養液のpHは、無機の酸あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、通常、pH3以上8以下のあらかじめ定められた値に調節する。酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を21%以上に保つ、培養液を加圧する、撹拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。
【0132】
連続発酵の運転においては、発酵槽の細胞濃度をモニタリングすることが望ましい。細胞濃度の測定はサンプルを採取し、測定することでも可能だが、細胞発酵槽に、MLSS測定器など、細胞濃度センサを設置し、細胞濃度の変化状況を連続的にモニタリングすることが望ましい。
【0133】
連続発酵による化学品の製造では、必要に応じて、発酵槽内から培養液、細胞を引き抜くことができる。例えば、発酵槽内の細胞濃度が高くなりすぎると、分離膜の閉塞が発生しやすくなることから、引き抜くことで、閉塞から回避することができる。また、発酵槽内の細胞濃度によって化学品の生産性能が変化することがあるが、生産性能を指標として細胞を引き抜くことで、生産性能を維持させることも可能である。
【0134】
連続発酵による化学品の製造では、発酵槽の数は問わない。連続発酵による化学品の製造では、連続培養操作は、通常、培養管理上単一の発酵槽で行うことが好ましい。発酵槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵槽を用いることも可能である。この場合、配管によって並列または直列に接続された複数の発酵槽を用いて連続培養を行っても良い
【0135】
2.ろ過工程
(A)ろ過工程全体
以下、図1に示す本実施形態にかかる連続発酵装置101におけるろ過工程について説明する。発酵生産物を含む発酵液は、分離膜モジュールによってろ過されることで細胞と発酵生産物に分離される。発酵生産物(つまり目的の化学品)を含む透過液は、回収されることで、発酵装置101外に取り出される。また、分離された細胞は、発酵槽1に戻されるので、発酵槽内の細胞濃度が高く維持される。その結果、生産性の高い発酵生産が可能となる。
【0136】
ろ過実行時には、ろ過制御バルブ131−133が開かれた状態で、循環ポンプ11により全ての直列ユニットSU1−SU4に発酵液が送られる。分離膜モジュールの非透過側に送られた発酵液は、透過液と非透過液とに分離される。透過液は分離膜モジュールの透過液出口から回収される。こうして、発酵生産物である化学品がろ過により回収される。
【0137】
また、分離膜モジュールに供給される発酵液の圧力を変動させても良い。循環ポンプ11の吐出圧力を変動することにより局所的に乱流領域をつくることができ、クロスフローの発酵液の剪断力が増大し、分離膜表面に堆積した細胞等の堆積物を除くことができる。
【0138】
循環ポンプ11の吐出圧力の変動は、連続的に変動させてもよい。通常、循環ポンプ11の吐出圧力は、ほぼ一定で運転しているが、設定の時間のみ、制御バルブを操作することなどにより、設定した時間のみ変動させ断続的に変動させることもできる。
【0139】
循環ポンプ11の吐出圧力の変動が大きいほど、堆積物の除去効果が大きく、また圧力変動が小さいほど、送液配管のハンチングによる接続部からの漏れが抑制される。そのため、循環ポンプ11の圧力変動の大きさは、吐出圧力に対して、3%以上20%以下であることが望ましい。
【0140】
また、クロスフロー循環の送液ライン、例えば、送液配管や、分離膜モジュールに同時に気体を供給することで、供給する発酵液中に気体を混入させることができ、発酵液中に混入した気体により剪断力を増加させることができる。これにより、分離膜表面から細胞等の堆積物を除去する効果をさらに増大させることができる。
【0141】
各分離膜モジュールから回収される濾液は、並列に配置した分離膜モジュールの段毎に配管を介して透過液回収部(図示せず)に送液される。一方、分離膜モジュールでろ過されなかった発酵液(非透過液)は、配管を介して発酵槽1に戻される。
【0142】
発酵液を分離膜モジュール中の分離膜でろ過処理する際の膜間差圧(つまり、ろ過の駆動力)は、培養細胞および培地成分が容易に目詰まりしない範囲に調整されることが好ましい。膜間差圧の範囲の具体例とは、例えば0.1kPa以上200kPa以下であり、好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPa以下である。上記膜間差圧の範囲内であれば、細胞(特に原核細胞)および培地成分の目詰まり、並びにろ過量の低下が抑制される。その結果、連続発酵運転での不具合の発生が、効果的に抑制される。
【0143】
ろ過装置における各段の循環液の圧力について、具体例を挙げて説明する。この例では、分離膜モジュール1本のクロスフロー流れによる圧力損失が100kPaであり、循環ポンプ11の送液圧が400kPaであり、循環ポンプ11から直列1段目の分離膜モジュールの入口への送液配管の圧力損失が20kPaであり、直列3段目の分離膜モジュールの出口から発酵槽1への送液配管の圧力損失が50kPaであり、直列1段目から2段目および直列2段目から3段目の分離膜モジュールの送液配管の圧力損失が10kPaである。この例において、分離膜モジュールA1、B1、C1およびD1の入り口での循環液の圧力は、循環ポンプ11から分離膜モジュールまでの送液配管の圧力損失分だけ少なくなり、380kPaとなる。
【0144】
分離膜モジュールA2、B2、C2およびD2の入り口での循環液の圧力は、さらに直列1段目の分離膜モジュールおよび送液配管の圧力損失分だけ少なくなり、270kPaとなる。
【0145】
分離膜モジュールA3、B3、C3およびD3の入り口での循環液の圧力は、さらに直列2段目の分離膜モジュールおよび送液配管の圧力損失分だけ少なくなり、160kPaとなる。
【0146】
分離膜モジュールA3、B3、C3およびD3の出口での被ろ過液の圧力は、さらに直列3段目の分離膜モジュールの圧力損失分だけ少なくなり、60kPaとなる。
分離膜モジュールの個体差や送液配管の違いにより、若干の違いが生じる可能性があるが、ろ過に必要な膜間差圧は数〜200kPa程度である。つまり、ここで述べたような構成であれば、循環ポンプ11の駆動によって、分離膜モジュールの各段でろ過に必要な圧力を確保することが可能である。
【0147】
また、このような直列に配置された分離膜モジュール間の透過液の流れを一括制御すると、上述の通り、循環液の圧力の差分の膜間差圧の差が生じることとなる。つまり、この例においては最下段の分離膜モジュール下部と、最上段の分離膜モジュール上部とにおいて、320kPaの差が生じる。透過液圧力が0kPaの場合、最下段の分離膜モジュール下部では膜間差圧は380kPaとなり、最上段の分離膜モジュール上部では60kPaとなり、比較すると約6倍の差が生じ、分離膜の特性にもよるが膜間差圧とろ過量が比例の関係にある場合ならば、ろ過量も約6倍の差が生じると考えられ、最下段の分離膜モジュールに過負荷がかかる。
また、膜間差圧は数〜200kPaの範囲にすることが望ましく、膜間差圧が380kPaの場合は目詰まりが急速に進むため、透過液圧力を昇圧させて膜間差圧を低下させる必要があるが、透過液圧力が高くなると最上段の膜間差圧は更に小さくなり、分離膜モジュール間のろ過量の差は更に大きくなる。
【0148】
ろ過に必要な駆動力を得る他の手段については、後述する。
【0149】
(B)間欠ろ過
クロスフローの流れの剪断力により分離膜表面の堆積物を除去することができる。ろ過処理とろ過停止処理とを交互に繰り返す間欠ろ過を行い、特にろ過を停止するろ過停止処理時にクロスフローの流れの剪断力を大きくすることにより分離膜表面の堆積物を除去することが好ましい。
【0150】
例えば9分間のろ過処理と1分間のろ過停止処理とを繰り返し行なう間欠ろ過において、ろ過時の9分間は、ろ過で発酵液が減量した分、発酵槽に原料が添加されるが、ろ過停止時の1分間は、循環ポンプ11により発酵液が全量発酵槽1に還流され、発酵液は減量しないので、発酵槽に原料は添加されない。連続発酵装置101において、全ての分離膜モジュールについて、同じタイミングで9分間のろ過処理と、1分間のろ過停止処理を行うと、ろ過を行う際は原料が添加されるが、ろ過停止処理の際は原料が添加されない。原料の添加が間欠的になると、発酵槽1中の原料濃度が安定せず、そのため安定した発酵が困難となる懸念がある。そのため、本実施形態においては、分離膜モジュールの各並列ユニットについて、同時にろ過停止せず、各段のろ過停止処理が重複しないよう制御して、ろ過量が均等化するように調整することが好ましい。
【0151】
なお、連続発酵を例に挙げて詳細に説明したが、本実施形態のように、ろ過量の変化を小さく抑えることは、他の用途においても有用である。
【0152】
図2を参照して、第1実施形態にかかる間欠ろ過処理を説明する。図2は、第1実施形態にかかる間欠ろ過処理を説明するフローチャートである。第1実施形態において、間欠ろ過処理する場合、分離膜モジュールの各並列ユニットについて、ろ過停止処理のタイミングを制御して間欠ろ過処理を行うことが好ましい。
【0153】
第1実施形態において、ろ過停止処置のタイミングを制御するとは、例えば、少なくとも1段の並列ユニットのろ過停止処理を、他の並列ユニットのろ過処理中に行うことを意味し、好ましくは、各並列ユニットのろ過停止処理が重複しないよう制御する。各並列ユニットのろ過停止処理が重複しないように間欠ろ過する場合、まず、全ての分離膜モジュールでろ過処理を行う(ステップS1)。全ての分離膜モジュールでろ過処理を行うためには、ろ過制御バルブ131、132および133を開とし、ろ過ポンプ121、122および123を運転するとともに、循環ポンプ11により分離膜モジュールの各直列ユニット(SU1−SU4)に発酵液を供給することによりろ過される。なお、以下の全ての工程において、分離膜モジュールでろ過されなかった発酵液は、発酵槽1にクロスフローされている。
【0154】
所定時間経過後(例えば2分後)、第1並列ユニットPU1をろ過停止処理する(ステップS2)。第1並列ユニットPU1をろ過停止処理し、かつその他の段の並列ユニットをろ過処理する場合、ろ過制御バルブ132および133を開、131を閉とし、ろ過ポンプ122および123を運転、121を停止するとともに、循環ポンプ11により分離膜モジュールに発酵液を供給することにより、第2、第3並列ユニットPU2、PU3でろ過される。第1並列ユニットPU1では、ろ過停止処理となり、分離膜モジュール内でクロスフローされる発酵液により膜の堆積物を除去している。
【0155】
所定時間経過後(例えば1分後)、第1並列ユニットPU1のろ過停止処理を終了して、直列に配置した全ての段の分離膜モジュールでろ過処理を行う(ステップS3)。ろ過制御バルブ131を開に切替え、ろ過ポンプ121を運転することにより全ての段の分離膜モジュールでろ過処理される。
【0156】
所定時間経過後(例えば2分後)、第2並列ユニットPU2をろ過停止処理する(ステップS4)。第2並列ユニットPU2をろ過停止処理し、かつ他の段の並列ユニットでろ過処理する場合、ろ過制御バルブ132を閉に切替え、ろ過ポンプ122を停止することにより、第1、第3並列ユニットPU1、PU3でろ過され、第2並列ユニットPU2では、ろ過停止処理となる。分離膜モジュール内では、クロスフローされる発酵液により膜の堆積物を除去している。
【0157】
所定時間経過後(例えば1分後)、第2並列ユニットPU2のろ過停止処理を終了して、全ての段の分離膜モジュールでろ過処理を行う(ステップS5)。ろ過制御バルブ132を開に切替え、ろ過ポンプ122を運転することによりすべての段の分離膜モジュールでろ過処理される。
【0158】
所定時間経過後(例えば2分後)、第3並列ユニットPU3をろ過停止処理する(ステップS6)。第3並列ユニットPU3をろ過停止処理し、かつ他の段の並列ユニットをろ過処理する場合、ろ過制御バルブ133を閉に切替え、ろ過ポンプ123を停止することにより、第1、第2並列ユニットPU1、PU2でろ過され、分第3並列ユニットPU3では、ろ過停止処理となる。分離膜モジュール内では、クロスフローされる発酵液により膜の堆積物を除去している。
【0159】
このような間欠ろ過処理を繰り返すことで、各並列ユニットのろ過停止処理が重複しないよう制御することができる。
【0160】
なお、循環ポンプ11によるクロスフローの流れの剪断力により、分離膜モジュールの膜表面の汚れを除去することが期待できることから、ろ過停止でもクロスフローの流れがあることが好ましい。
【0161】
図6の装置で、ろ過装置204の全ての分離膜モジュールをろ過停止し、一方で、ろ過装置205の全て、または一部の分離膜モジュールをろ過継続することは可能である。ただし、分離膜モジュール並列ユニット毎に、ろ過停止処理を行う方が、ろ過量の変動としては少なく好ましい。
【0162】
3.洗浄工程
(A)洗浄工程概要
化学品の製造方法は、分離膜の洗浄工程を含んでいてもよい。洗浄工程は、具体的な方法に限定されるものではないが、ろ過処理とろ過停止処理を繰り返す間欠ろ過処理により分離膜の非透過側の表面において、クロスフローの剪断力により、分離膜上の細胞等の堆積物を除去するほか、洗浄液を非透過側から透過側へ通液する洗浄(順洗)またはろ過を停止して、分離膜の透過側から非透過側へ洗浄液を通液する洗浄(逆圧洗浄)または逆圧洗浄液で浸漬することで、分離膜を洗浄することが好ましい。複数の分離膜モジュールを使用し、間欠ろ過処理を行う場合、並列または直列に配置した複数の分離膜モジュールのろ過停止処理が重複しないように制御して、ろ過が全停止しないようにすることが好ましい。
【0163】
ろ過を停止して分離膜を洗浄する際、同時に連続的または間欠的に、気体をモジュールへ供給しても良い。なお、分離膜を逆圧洗浄する際、クロスフローの流れは有り/無しの何れでも良い。クロスフローの流れが有り、逆圧洗浄する場合は、クロスフローの圧力と分離膜間差圧の総和より大きい圧力にて逆圧洗浄をすれば良い。
【0164】
(B)逆圧洗浄
ここで、逆圧洗浄とは、分離膜の透過側から、被非透過側である発酵液側へ洗浄液を送ることにより、膜面の汚れ物質を除去する方法である。逆圧洗浄は、水、または洗浄液により行うことができる。洗浄液には、発酵に大きく阻害しない範囲で、アルカリ、酸、酸化剤または還元剤を含む水を使用することができる。発明の効果を阻害しない範囲の洗浄液とは、例えば次亜塩素酸ナトリウムの場合は、有効塩素濃度が10〜5000ppmの洗浄液を使用することが好ましく、例えば水酸化ナトリウムおよび水酸化カルシウムは、pHが10〜13の洗浄液を使用することが好ましい。この範囲を超える濃度では分離膜の損傷、細胞への悪影響が考えられ、これ未満の濃度では、膜洗浄効果の低下が懸念される。
【0165】
ここで、アルカリの例としては、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムなどを挙げることができる。酸の例としては、シュウ酸、クエン酸、塩酸、硝酸などを挙げることができる。また酸化剤の例としては、次亜塩素酸塩、過酸化水素などを挙げることができる。還元剤の例としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの無機系還元剤などを挙げることができる。また、この逆圧洗浄液は高温で使用することもできる。
【0166】
逆圧洗浄では、分離膜の透過側から非透過側に洗浄液を透過させるため、洗浄液は固形物を含まないことが好ましい。例えば、水酸化カルシウムは約0.01Nより濃い濃度では、水酸化カルシウムが溶解せずに固体として存在するため、逆圧洗浄液としては適さない。
【0167】
また、発酵液のpHが一時的にでも適正範囲を外れれば、その期間の発酵成績が低下し、また細胞の活性が低下する懸念がある。そのため、逆圧洗浄にアルカリや酸を添加する場合は、発酵液のpHを適正な範囲に制御するため、別にpH調整の制御装置を持つことが必要である。
【0168】
なお、逆圧洗浄は、分離膜の膜間差圧の経時的な上昇を抑制するのに行うため、適当な時間間隔で周期的に行うことが好ましい。逆圧洗浄周期は、膜間差圧および膜間差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄周期は、時間あたり0.5回以上12回以下の範囲であり、より好ましくは時間あたり1回以上6回以下の範囲である。逆圧洗浄周期がこの範囲より多いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、ろ過を行う時間が短くなる。またこの範囲より少ないと、洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0169】
なお、逆圧洗浄液の逆圧洗浄速度は、膜ろ過速度の0.5倍以上10倍以下の範囲が好ましく、1倍以上5倍以下の範囲であることがより好ましい。逆圧洗浄速度が膜ろ過速度の10倍以下であることで、分離膜に損傷を与える可能性を低減し、また0.5倍以上であることで洗浄効果を充分に得ることができる。
【0170】
逆圧洗浄液の逆圧洗浄時間は、逆圧洗浄周期、膜間差圧および膜間差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄時間は、1回あたり5秒以上300秒以下の範囲であり、より好ましくは1回あたり30秒以上120秒以下の範囲である。逆圧洗浄時間がこの範囲より長いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より短いと、洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0171】
(C)複数系列の直列モジュールでの膜洗浄方法
マトリックス状に配置された複数の分離膜モジュールを備えるろ過装置において、第3および第4実施形態のように、1つの並列ユニットに対して1つの洗浄液バルブが設けられている場合は、個々の段を別々に洗浄することができる。また、1つの並列ユニットに対して2つ以上の洗浄液バルブが設けられている場合は、1つの並列ユニットに含まれる複数の分離膜モジュールを2つ以上のグループに分けて洗浄することができる。
【0172】
なお、膜の浸漬洗浄を行う場合は、洗浄対象となる分離膜モジュールについて、クロスフローろ過を一旦中断し、例えば並列ユニット毎に洗浄液を膜に供給し、膜を浸漬洗浄することもできる。
【0173】
第3実施形態の発酵装置103における逆圧洗浄について説明する。
【0174】
ろ過停止時に逆圧洗浄を行う場合、例えば、ろ過時の9分間は、ろ過で発酵液が減量した分、発酵槽に原料が添加されるが、ろ過停止時に逆圧洗浄する1分間は、逆圧洗浄の洗浄液が発酵槽1に流入するため、発酵槽1の発酵液量が増加する。発酵槽1の液量が設定値を超える場合は、逆圧洗浄液の増加分が解消されるまで、発酵槽1に原料は添加されない。複数の分離膜モジュールが、全て同じタイミングで9分間ろ過と1分ろ過停止・逆圧洗浄とを繰り返す場合、原料の添加が間欠的となり、発酵槽1中の原料濃度が安定せず、そのため安定した発酵が困難となる懸念がある。そのため、分離膜モジュールの各段について、同時に逆圧洗浄しないようにタイミングをずらして、ろ過量が均等化するように調整することが有効である。
【0175】
図5を参照して、本第3実施形態において、ろ過停止処理中に逆圧洗浄を行う場合の間欠ろ過処理を説明する。図5は、本発明の第3実施形態にかかる間欠ろ過処理を説明するフローチャートである。直列に配置された分離膜モジュールをろ過停止中に逆圧洗浄する場合、直列に配置された分離膜モジュールの各段の逆圧洗浄のタイミングを制御して間欠ろ過処理を行うことが好ましい。第3実施形態において逆圧洗浄のタイミングを制御するとは、例えば、直列に配置された分離膜モジュールの少なくとも1段の逆圧洗浄処理を、他の段の分離膜モジュールのろ過処理中に行うことを意味し、好ましくは、直列に配置された分離膜モジュールの各段の逆圧洗浄処理が重複しないように制御する。直列に配置された分離膜モジュールの各段の逆圧洗浄処理が重複しないように間欠ろ過する場合、まず、全ての分離膜モジュールでろ過処理を行う(ステップS11)。
【0176】
全ての分離膜モジュールでろ過処理を行うためには、ろ過制御バルブ131、132および133を開とし、ろ過ポンプ121、122および123を運転するとともに、循環ポンプ11により分離膜モジュールに発酵液を供給することによりろ過される。なお、以下のすべての工程において、直列に配置された分離膜モジュールでろ過されなかった発酵液は、発酵槽1に還流されている。
【0177】
所定時間経過後(例えば2分後)、第1並列ユニットPU1を逆圧洗浄処理する(ステップS12)。第1並列ユニットPU1を逆圧洗浄処理し、かつその他の並列ユニットをろ過処理する場合、ろ過制御バルブ132および133を開、131を閉とし、ろ過ポンプ122および123を運転、121を停止するとともに、循環ポンプ11により各直列ユニットSU1、SU2、SU3およびSU4に発酵液を供給する。
【0178】
さらに洗浄液バルブ152および153を閉、151を開とし、洗浄液ポンプ14を運転することで、第2、第3並列ユニットPU2、PU3がろ過、第1並列ユニットPU1が逆圧洗浄となる。第1並列ユニットPU1では、洗浄液ポンプ14により洗浄液が第1並列ユニットPU1の透過液側に供給され、洗浄液が非透過側にろ過されることにより膜の堆積物を除去している。
【0179】
所定時間経過後(例えば1分後)、第1並列ユニットPU1の逆圧洗浄処理を終了して、全ての分離膜モジュールでろ過処理を行う(ステップS13)。洗浄液バルブ151を閉に切替え、洗浄液ポンプ14を停止するとともに、ろ過制御バルブ131を開に切替え、ろ過ポンプ121を運転することにより全ての分離膜モジュールでろ過処理される。
【0180】
所定時間経過後(例えば2分後)、第2並列ユニットPU2を逆圧洗浄処理する(ステップS14)。第2並列ユニットPU2を逆圧洗浄処理し、かつその他の段をろ過処理する場合、ろ過制御バルブ132を閉に切替え、ろ過ポンプ122を停止するとともに、洗浄液バルブ152を開に切替え、洗浄液ポンプ14を運転することで直列に配置された第1、第3並列ユニットPU1、PU3がろ過、第2並列ユニットPU2が逆圧洗浄となる。第2並列ユニットPU2では、洗浄液ポンプ14により洗浄液が第2並列ユニットPU2の透過液側に供給され、洗浄液が非透過側にろ過されることにより膜の堆積物を除去している。
【0181】
所定時間経過後(例えば1分後)、第2並列ユニットPU2の逆圧洗浄処理を終了して、全ての分離膜モジュールでろ過処理を行う(ステップS15)。洗浄液バルブ152を閉に切替え、洗浄液ポンプ14を停止するとともに、ろ過制御バルブ132を開に切替え、ろ過ポンプ122を運転することによって、全ての分離膜モジュールでろ過処理される。
【0182】
所定時間経過後(例えば2分後)、第3並列ユニットPU3を逆圧洗浄処理する(ステップS16)。第3並列ユニットPU3を逆圧洗浄処理し、かつその他の段をろ過処理する場合、ろ過制御バルブ133を閉に切替え、ろ過ポンプ123を停止するとともに、洗浄液バルブ153を開に切替え、洗浄液ポンプ14を運転することで第1、第2並列ユニットPU1、PU2がろ過、第3並列ユニットPU3が逆圧洗浄となる。第3並列ユニットPU3では、洗浄液ポンプ14により洗浄液が第3並列ユニットPU3の透過液側に供給され、洗浄液が非透過側にろ過されることにより膜の堆積物を除去している。
【0183】
このような間欠ろ過処理を繰り返すことで、分離膜モジュールの各並列ユニットの逆圧洗浄処理が重複しないよう制御することができる。
【0184】
上記において、間欠ろ過処理のろ過停止処理中に膜の逆圧洗浄を行う場合について説明したが、間欠ろ過処理の全てのろ過停止処理中に逆圧洗浄を行う必要はなく、分離膜の閉塞を防止することができれば、ろ過停止処理の一部でのみ逆圧洗浄を行うこととしてもよい。例えば、図2に示す間欠ろ過処理1(直列に配置された分離膜モジュールの各段のろ過停止処理を重複しないように制御)と、図5に示す間欠ろ過処理2(直列に配置された分離膜モジュールの各段の逆圧洗浄処理を重複しないように制御)とを交互に繰り替えしてもよく、または間欠ろ過処理1を2回連続し、その後間欠ろ過処理2を1回等、を繰り返し行ってもよく、分離膜モジュールの性能や、ろ過処理対象、ろ過処理量等のろ過条件等を考慮して決定すればよい。あるいは、間欠ろ過処理のろ過停止処理中には逆圧洗浄を行わずに、別工程で逆圧洗浄を行い、分離膜モジュールの逆圧洗浄工程を重複しないよう制御すればよい。
【0185】
本第2実施形態では、上記のようにして分離膜モジュールのろ過停止処理や逆圧洗浄処理のタイミングを分散させるよう制御することにより、発酵液量の変動や培地供給量の変動が少なくなるため、安定的に発酵を行うことができ、かつ化学品を高い回収率で回収することができる。
【0186】
間欠ろ過と同様、分離膜モジュールを、直列ユニット毎ではなく、並列ユニット毎に逆圧洗浄することで、並列ユニット内の分離膜モジュール間で逆圧洗浄に関わる設備を共有できるので、設備費を低減することができる。
(D)浸漬洗浄
また逆圧洗浄をする際に、一旦ろ過を停止し、逆圧洗浄液で分離膜を浸漬することができる。浸漬時間は、浸漬洗浄周期、膜間差圧および膜間差圧の変化により決定することができる。浸漬時間は、好ましくは1回あたり1分以上24時間以下、より好ましくは1回あたり10分以上12時間以下の範囲である。
【0187】
連続発酵装置においては、分離膜を複数系列とし、分離膜を逆圧洗浄液で浸漬洗浄する際に、一部の系列のみを浸漬洗浄するように切り替えて、ろ過が全停止しないようにすることも好ましく採用できる。
【0188】
4.ろ過運転制御
図1図7および図8を参照して、第1実施形態におけるろ過運転制御動作の具体例について説明する。なお、本動作は、本書で説明する全ての実施形態に係るろ過装置に適用可能である。
【0189】
図8は、ろ過装置201におけるろ過運転制御動作の一例の流れを説明するフローチャートである。図8では、作業者が各段の基準となる設定値を制御装置に入力することが前提である。ただし、設定値は前述の通り、各段によってろ過流量に偏りが生じないように設定する。
【0190】
ろ過運転制御装置は、各段のろ過流量を、設定値のろ過流量に近づけるように制御する。また、図1に示すろ過運転制御装置51−53は、いずれも、図7と同様の機能ブロックを備え、メモリ501cに相当する記憶装置に、設定値の透過液流量と、各段の透過液流量との差に対応付けられて、透過液圧力をどれだけ増減させるか(ろ過ポンプの駆動力の大きさ)が記憶されている。
【0191】
まず、入力部501aにより、1段目の透過液設定流量F0_1が読み取られる(ステップS21、S22)。透過液設定流量F0_1は、制御部501のメモリ501cに一旦格納される。
【0192】
次に、制御部501により1段目の透過液流量センサの出力値F1が読み取られる(ステップS23)。そして、出力値F1もメモリ501cに一旦格納される。所定の時間(例えば1分間)、F1の読み取りを繰り返す(ステップS24でNo、ステップS23)。所定時間経過後、格納された出力値F1の平均値F1_aveが算出され、メモリ501cに格納される(ステップS24でYes、ステップS25)。判定部501bは、メモリ501cから1段目の設定圧力F0_1および流量平均値F1_aveを読み取って、圧力差(F0_1−F1_ave)を算出し、さらに算出結果と閾値αとを比較する。
【0193】
α<(F0_1−F1_ave)であれば(ステップS26でYes)、ポンプ制御部501dは1段目のろ過ポンプ121の駆動力を増加させる(ステップS27)。また、−α≦(F0_1−F1_ave)≦αであれば(ステップS26でNo、ステップS30でYes)、1段目のろ過ポンプ121の駆動力を維持する(ステップS31)。また、(F0_1−F1_ave)<−αであれば、ろ過ポンプ121の駆動力を低減する(ステップS26でNo、ステップS30でNo、ステップS32)。このとき、ろ過ポンプの駆動力の変更量は、(F0_1−F1_ave)の値に応じて、いくつかの段階に分けてメモリ501cに記憶されていればよい。
【0194】
こうして、1段目の分離膜モジュールのろ過運転制御が完了するので、次に2段目の制御が行われる(ステップS28、ステップS29でNo、S22)。
【0195】
3段目の制御が完了すると、一連の制御動作は終了する(ステップS27でYes、エンド)。
【0196】
閾値αは、設定流量の10%以下が好ましく、より好ましくは設定流量の5%以下、さらには設定流量の1%以下であることが好ましい。
【0197】
このろ過運転制御動作を行うタイミングは特に限定されない。例えば、ろ過装置の使用開始時、運転期間が所定期間に達したときなどに、この制御動作が行われてもよい。工程管理の観点からは、より頻繁に上述の制御動作をすることが好ましい。例えば、工程管理を行う作業者が1日に1回制御動作を行ってもよいし、シーケンスで自動制御を行ない、10分毎に制御動作を行ってもよい。
【0198】
なお、透過液の圧力の制御は、ろ過ポンプの駆動力を調節する以外に、ろ過制御バルブの開度を調節することでも制御可能である。すなわち、ろ過制御バルブの開度を大きくすることで、透過液圧力を低減することが可能であり、ろ過ポンプの駆動力を増大させるのと同様の効果を得ることができる。
【0199】
また、透過液流量センサの代わりに透過液圧力センサの出力値を使用して制御動作を行っても良い。透過液圧力センサは、ろ過運転時とろ過停止時の値を読み取り、両者の差を算出することで膜間差圧を計測することもできる。制御動作に使用する出力値は、透過液圧力の値でも、上述のような方法で透過液圧力から算出される膜間差圧の値でも、設定値と検出値の両者が一方に統一されていれば良い。
【0200】
このようにして、ろ過運転制御装置は、そのろ過運転制御装置が接続されている複数の分離膜モジュールの透過液圧力を、異なる段の分離膜モジュール間のろ過流量の差異を低減するように、一括制御することができる。また、同様の制御によって膜間差圧の差異を低減するように一括制御することもできる。
【0201】
5.滅菌または殺菌工程
(5−1)滅菌および殺菌の概要
発酵液に雑菌が混入すると、発酵効率の低下および酵槽内での発泡等により、化学品の製造効率が低下する。そのため、雑菌混入を防ぐために、発酵前に、発酵槽、分離膜および周辺設備を滅菌するか、殺菌することで、雑菌混入(コンタミネーション)を防ぐことが好ましい。
【0202】
滅菌の方法としては、火炎滅菌、乾熱滅菌、煮沸滅菌、蒸気滅菌、紫外線滅菌、ガンマ線滅菌、ガス滅菌等の方法が挙げられる。滅菌方法としては、特に、蒸気滅菌が好ましい。また、殺菌方法としては、温水殺菌が好ましい。
【0203】
蒸気滅菌または温水滅菌によると、例えば中空糸膜モジュールのように複雑な内部構造を有するモジュールでも、充分に滅菌することができる。
【0204】
また、蒸気滅菌および温水滅菌は、膜を乾燥させにくく、耐薬品性を獲得した微生物にも有効である。
【0205】
(5−2)蒸気滅菌
蒸気滅菌は、一般的には121℃で、15分間から20分間行うことが好ましい。工業規模での設備で蒸気滅菌を行う場合、例えば、125℃の飽和水蒸気を発酵槽、分離膜モジュールおよび周辺設備に供給し、各設備を121℃まで昇温し、この温度を20分以上保持することで、滅菌を行うことができる。
【0206】
蒸気滅菌時には、分離膜モジュールの非透過側に蒸気を供給しても良いし、透過側に蒸気を供給しても良い。外圧式中空糸膜に対しては、非透過側に蒸気を供給することが一般的である。膜の種類によっては、非透過側から透過側に蒸気を通気し、非透過側だけでなく、透過側も滅菌してもよい。
【0207】
複数系列の直列モジュールを有する上記I.で説明したろ過装置を滅菌する工程の一形態について、特に図1に示す構造のろ過装置の蒸気滅菌を例に挙げて以下に説明する。
【0208】
蒸気滅菌を行うと、熱交換により蒸気ドレン(drain)が発生する。この蒸気ドレンを排出しやすいように、蒸気滅菌時には、蒸気をモジュールの上方から供給して下方から排出することが好ましい。よって、直列に接続されたモジュールの最上段のモジュールから蒸気を供給することで、直列に接続された全てのモジュールに蒸気を供給することができる。ドレンの排出については、後述する。
【0209】
蒸気滅菌時には、分離膜モジュールの被ろ過液側から蒸気を供給しても良いし、透過側から蒸気を供給しても良い。外圧式中空糸膜に対しては、被ろ過液側から蒸気を供給して、被ろ過液側を所定の温度に昇温して滅菌しても良い。さらには、膜の種類によっては、被ろ過液側から透過側に蒸気を通気し、透過側も滅菌しても良い。
【0210】
分離膜モジュールを縦にして(長手方向が鉛直方向に沿うように)配置することで、以下の利点がある。まず、被ろ過液を下方から入れたときに、空気を溜めることなく、モジュール内を被ろ過液で満たしやすい。その結果、膜面積を有効に使用できる。また、被ろ過液の泡立ちを抑制でき、かつ被ろ過液に含まれる細胞を傷つけにくい。さらに、分離膜モジュールを直列に接続して、接続された一連の分離膜モジュールを一括して滅菌するときも、ドレンを効率良く排出することができる。
【0211】
具体的な形態では、図示しない蒸気供給装置が、還流ライン60に設けられた蒸気供給口(図示せず)に接続される。ろ過装置201が、還流ライン60に接続されることで、蒸気供給装置は、全ての分離膜モジュールに、1つの蒸気供給口を介して蒸気を供給することができる。
【0212】
ただし、1つの蒸気供給口を介して全ての直列ユニットに一度に蒸気を供給できる構成においても、直列ユニットの数が多い場合などにおいては、直列ユニットを複数のグループに分けて、まずグループ毎に直列ユニットに蒸気を通し、その後に、全ての直列ユニットに一斉に蒸気滅菌を行うことが好ましい。このように蒸気を通すことで、多くの直列ユニットが設けられていても、蒸気供給口から遠い直列ユニットでも滅菌不良の発生を抑制することができる。
【0213】
具体的に説明する。蒸気供給口が、還流ライン60において、循環液の流れる方向において最も下流で還流ライン60に接続する配管61よりも、さらに下流に設けられている場合を例に挙げる。この構成において、蒸気供給口から、全ての直列ユニットSU1、SU2、SU3およびSU4に一斉に蒸気を通そうとすると、蒸気供給口に近い側から、直列ユニットSU1、SU2、SU3の順で早く蒸気が到達する。蒸気供給口から遠い直列ユニットSU4に蒸気が到達するタイミングは、全ての直列ユニットの中で最も遅い。いずれの直列ユニット内にも、蒸気供給開始前の空気が存在している可能性はあるが、直列ユニットSU1の上部から下部まで早く蒸気が通るので、空気は押し出されやすい。ところが、直列ユニットSU4に蒸気が到達したときには、直列ユニットSU1を通った蒸気がろ過装置201の下方にまで到達し、その蒸気によって、ろ過装置201の下部の配管内の圧力がすでに高まっていることがある。直列ユニットSU4内の空気は、上方から供給される蒸気によって押し下げられるものの、下方の配管内の圧力がすでに高まっていることで、空気は押し出されることなく、直列ユニットSU4内に残存する。空気が残存している部分は、昇温しにくいので、滅菌不良が起きる可能性がある。
【0214】
そこで、上述のように、例えば、図1の構成において、直列ユニットSU1およびSU2にまず蒸気を通した後、SU1およびSU2への蒸気供給を一旦停止し、その後、直列ユニットSU3およびSU4へ蒸気を通す。各直列ユニットに蒸気を通した後は、蒸気通気前に存在していた空気が残っていないため、全ての直列ユニットに対する蒸気供給を一斉に再開しても、滅菌不良は起きにくい。
【0215】
幾つの系列の分離膜モジュール直列ユニットに一度に蒸気を供給できるかは、予め蒸気の通気試験を行い、各分離膜モジュールの各部分が設定した蒸気滅菌温度に昇温できているか確認することで、判断することができる。
【0216】
このように、直列ユニットを複数備えるろ過装置では、直列に接続された分離膜モジュールの一端から蒸気を送り込むことで、それに接続された一連の分離膜モジュールを滅菌することができる。
【0217】
(5−3)ドレン排出
蒸気は複数の分離膜モジュールで形成されたマトリックスの上方から供給され、蒸気ドレンは、下方から排出される。
【0218】
図1等に示す構成において、被ろ過液入口を介して直列に接続された2つの分離膜モジュール間では、上方の(つまり蒸気の流れる方向において上流の)モジュール内で発生したドレンは、そのモジュールの被ろ過液入口を通って、下方の分離膜モジュールの非透過液出口から下方の分離膜モジュール内を流れる。こうして、非透過側が直列に接続された分離膜モジュールの中を流れたドレンは全て、最下段の分離膜モジュール(例えば、分離膜モジュールA1、B1等)に集められて、排出される。このように、直列ユニットにおいては、1つの直列ユニットのドレンを最下段のモジュールからまとめて排出することができる。その結果、運転のための設備の規模および運転コストを小さく抑えることができる。
【0219】
また、モジュール内に大量のドレンが滞留すると、ドレンが存在するところには蒸気が行き渡らず、滅菌の所定温度以上に昇温することが困難となることがある。そこで、分離膜モジュールは、その長手方向が、水平方向に垂直(つまり鉛直方向に平行)であるか、水平方向に対して斜めに配置されることが好ましい。それによって、ドレンは速やかに排出されるからである。
【0220】
具体的には、分離膜モジュールの長手方向は、水平方向に対して、垂直または斜めであることが好ましい。つまり、分離膜モジュールの長手方向と水平方向との間の角度が1°以上90°以下であることが好ましい。分離膜モジュールの角度の詳細については後述する。
【0221】
また、分離膜モジュールの底部にドレン排出口があると、ドレンが速やかに排出される。
【0222】
なお、本発明は、本書に示す実施形態に限定されるものではなく、1つのろ過装置に対して、複数の蒸気供給装置が接続されていてもよいし、複数の蒸気供給口が設けられていてもよい。また、蒸気供給口の位置は、特定の位置に限定されるものではない。
【0223】
(3)温水殺菌の場合
温水殺菌を行う場合は、一般的に70℃から90℃程度の高温の温水を各分離膜モジュールに例えば1時間といった所定の時間、通液して殺菌を行う。この場合、分離膜モジュールや配管内に空気などが残らない様に、例えば図1のろ過装置201で、温水をろ過装置201のユニットの下部から供給して、ろ過装置201のユニットの上部から温水を排出する。蒸気滅菌と同様、温水が供給されるのが遅い分離膜モジュール内に空気が残り、それ以外の分離膜モジュールに温水が通液されると、残った空気が排出されにくくなることがある。よって、直列ユニットを適切なユニット数毎のグループに分け、そのグループごとに温水の供給を行ってもよい。
【0224】
例えば、図1ならば、直列ユニットSU1およびSU2にまず温水を通気した後、一旦、SU1およびSU2への温水を停止し、その後、直列ユニットSU3およびSU4へ温水を通液する。各直列ユニットに温水を通液した後は、温水通液前に存在していた空気などが残っていないため温水供給を一斉に再開することができる。
【0225】
III.その他の変形例
被ろ過液を透過液と非透過液とに分離する複数の分離膜モジュールを備えるろ過装置であって、複数の前記分離膜モジュールの非透過側を直列に接続することで、直列ユニットを形成する直列非透過液流路と、複数の前記分離膜モジュールの透過側を並列に接続することで、並列ユニットを形成する並列透過液流路と、を備えるろ過装置によると、設備の簡素化が実現される。
【0226】
また、被ろ過液を透過液と非透過液とに分離する複数の分離膜モジュールを備えるろ過装置であって、上述の直列非透過液流路と、複数の前記分離膜モジュールから流出する透過液の圧力を一括制御することで、それら分離膜モジュールのろ過流量または膜間差圧の少なくとも一方を制御するろ過運転制御装置と、を備えるろ過装置も、設備の簡素化を実現することができる。
【0227】
図1等を参照して上述した実施形態のろ過装置は、これらのろ過装置の一例である。
【0228】
なお、図1等に示すように、1つの直列非透過液流路は、1つのろ過装置に含まれる複数の分離膜モジュールのうちの一部、すなわち少なくとも2つの分離膜モジュール間を接続すればよい。つまり、1つのろ過装置が複数の直列ユニットを有してもよいし、1つのろ過装置が、直列ユニットに含まれる分離膜モジュールと、その直列ユニットに含まれない分離膜モジュールとを有していてもよい。並列透過液流路および並列ユニットについても同様である。
【0229】
以下に、ろ過装置の構成の具体例および変形例についてさらに詳細に説明する。
【0230】
<分離膜モジュール間の接続等>
マトリックス内の複数の直列ユニットにおいて、分離膜モジュールの数は、互いに異なっていても良い。ただし、各直列ユニットにおける分離膜モジュールの数が同じである方が、それぞれの直列ユニットでの圧力損失が、互いに同程度となるので、圧力をより容易に制御することができる。
【0231】
また、直列ユニット間が配管で接続されていてもよい。この場合、クロスフローが異なる直列ユニット間を行き来するが、バルブ等を設けることでクロスフローの流量を調整することができる。また、蒸気滅菌時に蒸気の流れが分岐するが、各分岐について個別に蒸気をとおすことで、各分離膜モジュール内に蒸気滅菌前に存在していた空気などを排除することができる。 また、同段に属する(同行に属する)分離膜モジュールは、その後段の分離膜モジュールとの間を直列に接続する配管の長さは、互いにほぼ同一であることが好ましい。つまり、第1直列ユニットSU1の分離膜モジュールA1と分離膜モジュールA2との間の配管の長さと、第2直列ユニットSU2の分離膜モジュールB1と分離膜モジュールB2との間の配管の長さとは、略同一であることが好ましい。
【0232】
ただ、例えば、分離膜モジュールの性能向上またはろ過量の変更などで、必要な膜面積が変動することはあり得る。つまり、コスト削減などによって、分離膜モジュールの数が装置設計時の数から減ることは有り得る。1つの直列ユニットにおいて、装置設計時に想定されていた数よりも分離膜モジュール数を減らす場合には、例えば、分離膜モジュール間を直列に接続する配管の配管径を変えるか、配管にオリフィスを設けるなどして、その直列ユニットにおける圧力損失を元の直列ユニットと同等になるように調整することができる。また、1つの直列ユニット全体を省略する場合にも、同様に配管径を変えるか、オリフィスを利用することによって、適当な圧力損失を生じさせることができる。
【0233】
なお、当初の設計よりも分離膜モジュール数を増やす場合、1つの直列ユニット当たりのモジュールの本数を増やしても良いし、直列ユニットの数を増やしても良い。
【0234】
また、並列に接続されたモジュール間でろ過運転制御装置等を共有化する場合、各段の全ての分離膜モジュールについて、ろ過運転制御装置等を共有化しても良いし、各段の分離膜モジュールを幾つかのユニットに分けて、透過液ライン等を共有化しても良い。例えば、図1では、分離膜モジュールA2、B2、C2、D2が、1つの並列ユニットとして、ろ過ラインおよびろ過運転制御装置52を共有しているが、分離膜モジュールA2、B2を1つの並列ユニットとし、分離膜モジュールC2、D2を別の並列ユニットとして、それぞれに対応するろ過運転制御装置を設けてもよい。
【0235】
ろ過装置は、上述したように、透過液並列流路を備えることが好ましく、透過液並列流路は、異なる直列ユニットに属する2つ以上の分離膜モジュールの透過液側を介して並列接続するユニット横断並列流路を有することが好ましい。
【0236】
透過液並列流路によって接続された分離膜モジュールは、並列ユニットを構成する。図1において、配管121、122、123が、透過液並列流路の具体例である。図1の例では、1つの並列ユニットに含まれる全てのモジュールは、同じ段に配置されている。そして、1つの並列ユニットに含まれるモジュールの透過液圧力は一括で制御される。
【0237】
1つの並列ユニット内で、それぞれの分離膜モジュールに接続された透過液の配管の長さの差が小さいことが望ましい。そのために、たとえば、トーナメント表のように(言い換えるとツリー図のように)、モジュールを接続することができる。具体的には、図1の構成において、分離膜モジュールA1とモジュールB1とが透過液配管で接続され、同様にモジュールC1とモジュールD1とが透過液配管で接続され、モジュールA1とB1が接続された配管の中間点と、C1とD1が接続された配管の中間点とがさらに接続される構成が例示される。
【0238】
また、例えば、図9の構成では、分離膜モジュールA1、B1、C1およびD1が、水平面方向に描かれた円周上(図中に点線の仮想線を示す。)に配置される。各分離膜モジュールA1、B1、C1およびD1からは、円の中心に向かって透過液の配管31a、31b、31cおよび31dが延びている。円の中心では、これらの透過液の配管は、円の中心で1つの配管31に接続されている。
【0239】
圧力損失は、クロスフロー流速および分離膜モジュール構造などの要因によって変動する。クロスフロー流速は、循環液が流れる配管に設けられた流量センサ等の計器、バルブ(およびその開度)、および循環ポンプの駆動力などによって変動する。また、同じクロスフロー流速においても、被ろ過側に設置されたバルブの開度または循環ポンプの駆動力の大きさによって、クロスフロー流の圧力は変動する。従って、ポンプの駆動力やバルブの開度を調節することによって、循環液の圧力を増減させて膜間差圧および/またはろ過量を調節することができる。
【0240】
また、同じ段の分離膜モジュール同士を接続した並列透過液流路の圧力損失は小さいことが望ましい。並列透過液流路の圧力損失が小さいことで、同じ段の分離膜モジュール間で膜間差圧の差異が小さくなるので、1つのろ過運転制御装置による一括制御が好ましく適用される。分離膜モジュールの種類によっても異なるが、精密ろ過膜の中空糸膜モジュールであれば、同じ段の分離膜モジュールを接続する並列透過液流路の圧力損失は、好ましくは10kPa以下、さらに好ましくは5kPa以下、さらには1kPa以下であることが好ましい。
【0241】
透過液配管の圧力損失を小さくするための構成としては、配管径を大きくすること、圧力損失発生源となる余分な計器などを設けないこと、また、共有化する分離膜モジュール数を少なくすること、ろ過運転制御装置は共有するが、透過液配管を幾つかに分岐させて分離膜モジュールと接続すること、などが考えられる。また、共有されるろ過運転制御装置と各分離膜モジュールとの間の透過液配管の長さは略均等であることが好ましい。
【0242】
また、透過液配管の圧力損失を小さくすることが困難な場合は、ろ過運転制御装置から遠い分離膜モジュールの透過液配管を高い位置に、ろ過運転制御装置から近い分離膜モジュールの透過液配管を低い位置に設置することで、水頭差を利用して、透過液圧力を調整しても良い。あるいは、透過液配管の合流地点よりも分離膜モジュール側(上流側)でオリフィスやバルブなどの通液抵抗を設置することによって、圧力損失による影響を排除することができる。
【0243】
さらには、異なる直列ユニットに属する分離膜モジュールにおいて、段の異なる分離膜モジュールを接続する場合、分離膜モジュールの非透過液側の圧力差や水頭差分の圧力損失を生じるオリフィスなどの通液抵抗を設置することで、影響を排除することができる。
【0244】
<分離膜モジュールの角度>
上述したように、分離膜モジュールは、その長手方向が、水平方向に対して垂直または斜めになるように配置されることが好ましい。「斜め」とは、平行および垂直方向から外れていることを意味する。
【0245】
なお、「角度」とは、分離膜モジュールの長手方向に平行な直線と水平方向に平行な直線との間の角度のうち、鋭角となる角度である(図10の角度R1、R2、R3)。
【0246】
分離膜モジュールがこのように配置されていることで、上述したように、蒸気滅菌時のドレンを速やかに排出することができる。なお、直列に接続する本数が多い場合は、それだけ最下段の分離膜モジュールには多くのドレンが流入するので、ドレンの流下速度を大きくするために、分離膜モジュールの長手方向と水平方向との間の角度は大きいことが好ましい。
【0247】
これにより、蒸気滅菌のための設備を備えた連続発酵装置でも、運転のための設備の規模および運転コストを小さく抑えることができる。
【0248】
また、直列に接続されている分離膜モジュールのうち、少なくとも2つのモジュールが、上述の数値範囲内の角度を示せばよい。
【0249】
より具体的には、分離膜モジュールは、被ろ過液入口がその非透過液出口より高い位置にあるように配置されることが好ましい。この構成によって、ドレンをより速やかに分離膜モジュール外に排出することができる。
【0250】
なお、1つの直列ユニット内の分離膜モジュールの位置は、水平方向にずれていてもよいし、重なっていてもよい。また、1つの直列ユニットを上方から見たとき、その直列ユニットに含まれる複数の分離膜モジュールの長手方向は、互いに平行であってもよいし、交差していてもよい。
【0251】
発生するドレンの量は、外部の気温、分離膜モジュール、分離膜モジュール周辺の配管、設備の保温の状態などにより異なる。よって、予め分離膜モジュールを蒸気加熱する試験を行うことで、適切な角度等を確認することができる。蒸気加熱試験では、例えば、上方の分離膜モジュール(図1ではA3)の非透過液出口から加熱蒸気を分離膜モジュール内に送り込むことで、該分離膜モジュールの被ろ過液供給口および下段の分離膜モジュール(図1ではA2)の非透過液出口を介して分離膜モジュール内に加熱蒸気を送り込み、同様にして再下段の分離膜モジュール(図1ではA1)まで加熱する。この実験により、分離膜モジュールの温度、特に各モジュールの下部について、所定の滅菌温度まで昇温できれば、各モジュールの角度は適切である。一方で、充分に昇温できないモジュールがあれば、その分離膜モジュールの角度を大きくすることを検討すればよい。
【0252】
<直列ユニットにおける分離膜モジュール配置の具体例>
以下に、直列ユニットにおける分離膜モジュールの配置の具体例を示す。これらのモジュール配置は、上述したろ過装置に適用可能である。
【0253】
以下に説明する直列ユニットは、2個以上の分離膜モジュールであって、その分離膜モジュールが斜めに配置されている分離膜モジュールと;いずれか1つの分離膜モジュールとその分離膜モジュールより下に配置された分離膜モジュールとの一次側を直列に接続する送液ラインと、いずれか1つの分離膜モジュールのドレンをその分離膜モジュールより下に配置された分離膜モジュールに送り込むドレン排出ラインとを備える。
【0254】
通常、分離膜モジュールは、円筒または直方体のように一方向に長いことが多い。複数のこのような分離膜モジュールを、長さ方向が鉛直方向に平行になるように設置し(縦置きし)かつ直列に接続する場合、鉛直方向に分離膜モジュールを並べると、設備全体の高さは、(個々の分離膜モジュールの長さ)×(重ねた本数)以上になる。
【0255】
これに対して、分離膜モジュールを、その長手方向が鉛直方向に対して斜めになるように配置することで、設備高さを抑制することができる。
【0256】
図10および図11では、外圧式中空糸膜モジュールを備えるモジュールユニットを例に挙げるが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の分離膜モジュールに適用可能である。
【0257】
図10に示す直列ユニットSU11は、複数の分離膜モジュールA1、A2、A3と、分離膜モジュールA1とA2との間、および分離膜モジュールA2とA3との間をそれぞれ直列に接続する直列非透過液流路(送液ラインの一例)611、612、613を備える。
【0258】
分離膜モジュールA1、A2、A3はそれぞれ、図18の中空糸膜モジュールa15と同様の構成を有する。ただし、後述する分離膜モジュールのいずれも、図10および図11の構成に適用可能である。
【0259】
分離膜モジュールA1は最下方に、モジュールA2はA1の上に、モジュールA3はA2の上に配置される。このように、鉛直方向に分離膜モジュールを積み重ねた方が、水平方向に並べるよりも、分離膜モジュール間を繋ぐ管を短くすることができ、運転にかかるエネルギーを低減することができる。
【0260】
また、分離膜モジュールA1、A2、A3の長手方向(筒状ケースの高さ方向:図中に一点鎖線で示す)と水平方向(図中に点線で示す)との間の角度は、1°以上90°以下であることが好ましい。前記モジュールの長手方向と水平方向との間の角度は、1°以上90°未満であってもよい。さらには、この角度は、1°以上45°以下であることがより好ましく、5°以上30°以下であることがより好ましい。
【0261】
角度が1°以上であれば、蒸気滅菌時の分離膜モジュール内でのドレンの滞留を抑制し、滅菌不良を効果的に抑制することができる。角度が大きいほど(長手方向が鉛直に近いほど)、ドレンの排出速度(つまりドレンの流下速度)は大きくなる。特に下段の分離膜モジュールには上段の分離膜モジュールのドレンが集まるため、下段の分離膜モジュールおよび下段の流路では、昇温性が低下する懸念がある。直列に接続する本数が多い場合は、それだけ最下段の分離膜モジュールには多くのドレンが流入するので、分離膜モジュールの長手方向と水平方向との間の角度を大きくすることで、ドレンの流下速度を早くして、ドレンを早く排出することが好ましい。
【0262】
一方で、角度が小さい方が、分離膜モジュールユニットの高さHUを小さくできるので、設備費および運転コストを低減することができる。さらには、分離膜モジュールの交換などのメンテナンスにおいても手間を削減することができる。そのため、斜め配置の分離膜モジュールの傾きは、必要最小限とすることが好ましく、その一例が、上述の1°以上45°以下という範囲である。
【0263】
図10では、直列ユニットSU11内の全てのモジュールA1、A2、A3の長手方向と水平方向との間の角度、R2およびR3は同等である。ただし、1つの直列ユニットに含まれる複数の分離膜モジュールの角度は互いに異なっていてもよい。
【0264】
例えば、図11の直列ユニットSU12は、各モジュールの長手方向が、隣のモジュールの長手方向とジグザグになるように配置されている以外は図10の直列ユニットSU11と同様の構成を備える。
【0265】
また、直列に接続されているモジュールのうち、少なくとも2つのモジュールが、上述の数値範囲内の角度を示せばよい。つまり、上述の数値範囲内の角度を示すモジュールに、上述の数値範囲からはずれた角度を示す分離膜モジュールが、さらに接続されていてもよい。つまり、直列ユニットは、長手方向と水平方向との間の角度が1°以上45°以下になるように配置された第1分離膜モジュールと、長手方向と水平方向との間の角度が1°以上45°以下になるように配置され、かつ前記第1分離膜モジュールの上方に配置された第2分離膜モジュールと、前記第1分離膜モジュールと前記第2分離膜モジュールの一次側とを直列に分離膜モジュールの1次側を直列に接続する送液ラインと、を備えればよい。第1分離膜モジュールと第2分離膜モジュールとの間に、異なる角度を示す他の分離膜モジュールが接続されていてもよい。
【0266】
なお、1つの直列ユニット内の分離膜モジュールの位置は、水平方向にずれていてもよいし、重なっていてもよい。また、1つの直列ユニットを上方から見たとき、その直列ユニットに含まれる複数の分離膜モジュールの長手方向は、互いに平行であってもよいし、交差していてもよい。
【0267】
分離膜モジュールの角度は、モジュールを実際に使用する前に、あらかじめ蒸気加熱試験を行うことで、決定されてもよい。蒸気加熱試験では、例えば、上方のモジュールA3の濃縮液出口711から加熱蒸気をモジュール内に送り込むことで、モジュールA3の被ろ過液入口701および下のモジュールA2の濃縮液出口711を介してモジュールA2に加熱蒸気を送り込み、同様にして下方のモジュールA1まで加熱する。この実験により、分離膜モジュールの温度、特に各モジュールの下部について、所定の滅菌温度まで昇温できれば、各モジュールの角度は適切である。一方で、充分に昇温できないモジュールがあれば、その分離膜モジュールの角度を大きくすることを検討すればよい。
【0268】
ドレンを滞留させずに排出するためには、モジュールのドレン排出口は、モジュールの設置姿勢において最も低い位置に設けられることが好ましい。モジュールの長手方向が鉛直方向に沿うようにモジュールを設置するのであれば、分離膜モジュールのドレン排出口は、モジュールの縦軸の近傍(つまり端面図における中央付近)で、モジュールの下端に設けられればよい。しかし、モジュールを斜めに設置する場合は、ドレン排出口は偏心した位置に設けられることが好ましい。言い換えると、筐体においてドレンが溜まりやすいところに、ドレン排出口を設ければよい。こうして、分離モジュールを、その長手方向が略鉛直方向に平行になるように、または斜めに配置にすると、ドレンが滞留することなく排出される。具体的な構成としては、図14図16図17図18に示すとおりである。
【0269】
例えば、径159mmで、長さ1500mmの円筒状の3本の分離膜モジュールを直列に接続したとする。このとき、図10または図11のように、モジュールを傾けて配置すれば、分離膜モジュールが接続された直列ユニットの高さを1.5m程度に抑えることができる。
【0270】
直列非透過液流路611、612、613は、各モジュールの一次側を接続できればよい。図10および図11では、直列非透過液流路612は、上のモジュールのドレン排出ノズル80aと、下のモジュールの濃縮液排出ノズル711aとを接続する。上述のいずれのモジュールを適用する場合も、直列非透過液流路は、同様の位置に接続されればよい。
【0271】
本実施形態において、1つの循環ポンプに並列に接続される直列ユニットの数は、循環ポンプの仕様等を考慮して決定されるが、メンテナンスの容易さを考慮すると10列以内が望ましい。なお、膜ろ過差圧の急上昇など異常が生じた場合に、計器の測定結果から、異常発生の原因である分離膜モジュールの列方向での位置(直列方向でどの段にあるか)を検出することができる。
【0272】
また、1つの直列ユニットに含まれる分離膜モジュールの数も、具体的な数値に限定されない。直列に配置する分離膜モジュールの数が多いほど、分離膜モジュールにおける圧力損失の総量が大きくなるので、クロスフローの循環ポンプには大きな動力が求められる。
【0273】
<ろ過駆動力>
図1では、循環ポンプ11によって、全ての分離膜モジュールに発酵液を送っている。また、先述した具体例のモジュール構成では、圧力損失を考慮しても、図1のろ過装置において必要とされるろ過の駆動力は、循環ポンプ11のみでまかなうことが可能である。
【0274】
しかし、単一のポンプのみでろ過の駆動力をまかなう場合、モジュール数が多くなるほど、ポンプに大きな容量が要求される。ろ過装置全体に含まれる分離膜モジュールをいくつかのグループに分けて、各グループの非透過側に発酵液を送るポンプを接続してもよい。また、ポンプ、直列ユニット、ポンプ、直列ユニットの順に、2つ以上の直列ユニットを、ポンプを間に挟んで直列に接続してもよい。また、1部の前記ユニットを他のユニットの後段に直列配置してもよい。
【0275】
また、図1では、ろ過の駆動力を循環ポンプ11で発生させているが、駆動力は他の構成によって生じてもよい。他の構成として、例えば、非透過液と透過液との液位差(水頭差)を利用したサイホンが挙げられる。また、ろ過の駆動力は、循環ポンプ11の駆動に代えて、または循環ポンプ11の駆動と併せて、透過液配管に設置されたろ過ポンプ121−123によって透過液圧力を調整することで得られてもよい。加えて、非透過側および透過側の少なくとも一方にコントロールバルブを設置することによっても、ろ過の駆動力を制御することができる。循環ポンプ11は、発酵液が供給される全ての分離膜モジュールのろ過駆動力を増減させ、透過液配管に接続される、ろ過ポンプ121−123ならびにコントロールバルブは、同じ配管に接続される分離膜モジュールのろ過駆動力を調節する。更に、非透過側に導入される気体または液体の圧力を調整することによっても、ろ過の駆動力は制御される。
【0276】
<ろ過運転制御装置>
ろ過運転制御装置は、そのろ過運転制御装置が接続されている複数の分離膜モジュールと、他段の分離膜モジュールとの膜間差圧および/またはろ過流量の差異を低減するように、透過液圧力を一括制御する。
【0277】
ろ過運転制御装置は、透過液流量センサ、透過液圧力センサまたは差圧センサ(以下、まとめて「センサ」と称する。)のうち少なくとも1つを備え、これらのセンサの出力結果に基づいて制御を行うように構成されていてもよい。これらのセンサは、ろ過量やろ過抵抗またはそれに関連する情報を得ることができるので、ろ過運転状況の検知部の一例であると言える。
【0278】
センサは、全ての分離膜モジュールに対応するように設置される必要はなく、代表的な分離膜モジュールに設置されれば良い。例えば、同じ段に配置された分離膜モジュールで共有されている透過液配管にセンサが設けられていればよい。
【0279】
また、制御部は、ろ過運転状況に関連する値をセンサによって測定することなく、あらかじめ測定されたデータに基づいて制御を行うように構成されていてもよい。また、制御部は、ろ過ポンプ毎にあらかじめ設定された駆動力で、それぞれのろ過ポンプを駆動するようになっていてもよい。
【0280】
<膜洗浄装置>
図4図6では、膜洗浄装置40および401は、分離膜モジュールの透過側に洗浄液を供給するように配置されているが、これらの洗浄装置は、分離膜モジュールの非透過側に対して洗浄液を供給するように配置されてもよい。
【0281】
図4および図6では、膜洗浄装置40および401は、分離膜モジュールの段毎に洗浄液の供給のオン/オフを切り替えられるようになっている。言い換えると、膜洗浄装置40および401は、1つの段に洗浄液を供給する場合は、その段に含まれる全ての分離膜モジュールに対して洗浄液を供給する。
【0282】
ただし、各段の分離膜モジュールが2つ以上のグループに分けられており、そのグループ毎に、洗浄液を供給する配管およびバルブが設けられていれば、そのグループ毎に洗浄液の供給のオン/オフを切り替えることが可能となる。
【0283】
分離膜モジュールの各段の洗浄液供給ラインにおける圧力損失は小さいことが望ましい。洗浄液供給ラインにおける圧力損失が小さいことで、同じ段の分離膜モジュール間での膜間差圧の違いが小さく、均一な洗浄効果が得られる。例えば、膜間差圧の違いが大きいと、膜間差圧の高い分離膜モジュールに洗浄液が流れにくくなり、洗浄効果が低減する可能性がある。分離膜モジュールの種類によっても異なるが、精密ろ過の中空糸膜モジュールであれば、各段での洗浄液供給ラインにおける圧力損失は、好ましくは10kPa以下、より好ましくは5kPa以下、さらに好ましくは1kPa以下である。
【0284】
洗浄液供給ラインの圧力損失を小さくするには、配管径を大きくすること、圧力損失発生源となる余分な計器などを設けないこと、また、1つの膜洗浄装置を共有する分離膜モジュール数を少なくすること、膜洗浄装置は共有するが洗浄液供給ラインを幾つかに分岐させて分離膜モジュールと接続すること、などの方法が考えられる。洗浄液供給ラインの圧力損失の観点からは、洗浄液供給ラインの長さは共有された各段のモジュール毎に略均等にすることが好ましい。
【0285】
また、洗浄液供給ラインの圧力損失が小さくできなくても、膜洗浄装置から近い分離膜モジュールの洗浄液供給ラインを高い位置に、膜洗浄装置から遠い分離膜モジュールの洗浄液供給ラインを低い位置に設置して傾斜をつけて、ヘッド差を利用しても良い。
透過液ラインと洗浄液供給ラインを共有する場合は、膜洗浄装置はろ過運転制御装置とは共有化した分離膜モジュールを介して反対側に設置されても良い。
【0286】
<分離膜モジュール>
分離膜は、平膜、中空糸膜、スパイラル式などいずれの形状であってもよい。中空糸膜モジュールについては、外圧式、内圧式のいずれであってもよい。
【0287】
分離膜モジュールには、均等に発酵液が送液されることが好ましく、そのため、送液する発酵液の粘度、送液ラインの配管長さ及び太さにより送液抵抗が送液圧に対して小さいことが好ましい。
【0288】
なお、1つのろ過装置は、互いに異なる構成(例えば、分離膜モジュールの長さ、膜の充填率、分離膜の種類など)を備える複数の分離膜モジュールを備えてもよいし、全ての分離膜モジュールが、同じ構成を備えていてもよい。ただし、異なる充填率を有する分離膜モジュールを備える場合など、モジュール毎にクロスフロー流束が異なると、発酵液の流量を互いに同じにするように制御したとしても、モジュールによって、クロスフローの剪断力による分離膜の洗浄効果に差が生じる。またモジュールのろ過速度の設定も個別に行う必要がある。さらに、異なるモジュールを管理するには、同じ種類のモジュールを管理するよりも手間が増えるので、生産管理の観点からは、分離膜モジュールの仕様は同じである方が好ましい。
【0289】
また、同じ仕様の分離膜モジュールであっても、ロットによって膜ろ過抵抗(膜の通液抵抗)が異なる場合がある。透過液配管が共有されている複数の分離膜モジュール内において、膜ろ過抵抗が異なる場合、膜ろ過抵抗の小さいものほど積極的にろ過が行われ、膜の目詰まりも促進される。
【0290】
そこで、互いに透過液配管を共有する分離膜モジュールの膜ろ過抵抗の和が、他の透過液配管を共有する分離膜モジュールの膜ろ過抵抗の和との差が小さくなるように配置することが望ましい。これによって、透過液配管を共有しない分離膜モジュールにおいても目詰まりの進行速度をそろえることが可能となる。その結果、目詰まりに伴うメンテナンスの頻度および作業負荷が低減される。
【0291】
また、上流の分離膜モジュールの膜ろ過抵抗が、下流の分離膜モジュールの膜ろ過抵抗よりも高い場合、上流の分離膜モジュールでの膜間差圧を増大させることで、上流および下流のモジュールで、同等のろ過流束を得ることができる。この場合、膜間差圧を増大させるためには、ろ過運転制御装置のバルブまたはポンプの動力を下げ、上流の分離膜モジュールの透過液の圧力を減圧することによって、膜間差圧を増加させることができる。このように、膜ろ過抵抗の大きい分離膜モジュールを上流に配置することによって、低い動力で分離膜モジュール間での流束の差を小さくすることが可能となり、省エネルギー効果を得ることが出来る。
【0292】
分離膜モジュールのロットごとの膜ろ過抵抗の大きさの違いは、分離膜モジュールの検品表に記載されている値を参考にしても良いし、ある所定の圧力をかけて水をろ過し、単位時間あたりのろ過量を測定することで計測されても良い。
【0293】
(1)分離膜モジュールの構成
分離膜モジュールの具体的な構成について、外圧式中空糸膜モジュールを例に、図面を参照しながら説明する。
【0294】
図14の中空糸膜モジュールa11は、両端が開口した筒状ケースa3と、上キャップa6と、下キャップa7と、筒状ケースa3内に収納された多数本の中空糸膜a2とを備える。
【0295】
筒状ケースa3、上キャップa6および下キャップa7は、筐体に相当する。
【0296】
筒状ケースa3は、両端が開口した円筒状のケースであり、側面において、円筒形状における高さ方向での下端の近傍に被ろ過液入口701が設けられ、高さ方向での上端の近傍に濃縮液出口711が設けられている。また、被ろ過液入口701および濃縮液出口711からはそれぞれノズル701a(80a)および711aが突出している。
【0297】
上キャップa6は、筒状ケースa3の上端に装着される。上キャップa6には第1のろ過液出口91が設けられる。下キャップa7は筒状ケースa4の下端に装着される。下キャップa7には第2のろ過液出口92が設けられる。ろ過液出口91および92からは、ノズル91aおよび92aが突出する。なお、本形態では、被ろ過液入口701がドレン排出口80を兼ねる。また、被ろ過液入口701は、エア供給口としても機能する。
【0298】
本形態では、中空糸膜a2は、その両端が開口している。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、中空糸膜は2つの端面の少なくとも一方が開口していればよい。本形態では、中空糸膜a2の上端と下端とは、それぞれ中空糸膜集束部材a41およびa42によって束ねられている。図14では、両方の中空糸膜集束部材a4が筒状ケースa3の内部に固定されることで、中空糸膜束が筒状ケースa3内に固定される。中空糸膜集束部材a41およびa42は、いわゆるポッティング剤で形成されている。なお、中空糸膜集束部材a41およびa42を、必要に応じ筒状等の容器内に接着固定し、Oリングやパッキンなどのシール材を用いて液密に筒状ケースa3の内部に固定することで、中空糸膜a2と中空糸膜集束部材a41およびa42をカートリッジ式として、中空糸膜束を筒状ケース3内に固定しても良い。
【0299】
中空糸膜モジュールa11では、例えば、全量ろ過の場合、被ろ過液は、被ろ過液入口80から、筒状ケースa3の内部、具体的には中空糸膜a2の外側(非透過側:一次側)に供給される。中空糸膜a2を透過した透過液は、中空糸膜内部(透過側:二次側)をとおり、中空糸膜a2の開口した上端から上キャップa6内に流れ、次いで第1ろ過液出口91から中空糸膜モジュールa11の外部へと流出する。また、透過液は、中空糸膜a2の開口した下端から下キャップa7内に流れることもでき、このように下キャップa7内に流れた透過液は、第2ろ過液出口92から中空糸膜モジュールa11の外部へと流出する。中空糸膜集束部材a41、a42が筒状ケースa3の内壁に(つまり筐体の内壁に)液密に固定されていることで、透過液と被ろ過液および濃縮液とは互いに混ざらないように隔離される。
【0300】
図15の中空糸膜モジュールa12は、中空糸膜a2の下端が閉塞された状態で、小束閉塞部材a5によって束ねられており、かつ筒状ケースa3および下キャップa7に変えて、筒状ケースa31および下キャップa71が設けられる以外は、図14の構成とほぼ同一である。すでに説明した部材については、同符号を付してその説明を省略する。
【0301】
図15の形態では、中空糸膜a2の上端は、開口した状態で、中空糸膜集束部材a41に束ねられる。中空糸膜集束部材a41は、図14の形態と同様に、筒状ケースa3の上端近傍に液密に固定される。一方、中空糸膜a2の下方の端部は、1束から300束程度の小束a2aに分割され、小束a2a毎に小束閉塞部材a5で束ねられ、かつ下端が閉塞されている。
【0302】
なお、下方の端部において、小束a2aは筐体に対して固定されておらず、自由に動くことができる。また、補強のために各小束a2aにはスチールワイヤーやアラミド繊維コードなどの、高強度かつ低伸度である糸状または棒状の部材を含んでもよい。
筒状ケースa31は、被ろ過液入口を備えない以外は、筒状ケースa3と同様の構成を備える。下キャップa71は、図14の下キャップa7と同様の構造を有するが、下キャップa7でのろ過液出口92に相当する構造が、被ろ過液入口702、ドレン排出口81およびエア供給口として機能する。
【0303】
図15の中空糸膜モジュールa12では、例えばクロスフローろ過の場合、被ろ過液は、被ろ過液入口702から、複数の小束a2aの間を通って、筒状ケースa3の内部、具体的には中空糸膜a2の外側に供給される。中空糸膜a2を透過した透過液は、中空糸膜内部をとおり、中空糸膜a2の開口した上端から上キャップa6内に流れ、次いで第1ろ過液出口91から中空糸膜モジュールa12の外部へと流出する。中空糸膜a2を透過しなかった濃縮液は、濃縮液出口711から中空糸膜モジュールa12の外部へと流出する。中空糸膜集束部材a41が筒状ケースa3の内壁に(つまり筐体の内壁に)液密に固定されていることで、透過液と被ろ過液および濃縮液とは互いに混ざらないように隔離される。
【0304】
なお、図14の構成と図15の構成とを組み合わせることもできる。つまり、図14の構成において、中空糸膜a2の片方の端部が閉塞されていてもよい。例えば、図15の筒状ケースa31、上キャップa6、下キャップa71を備える筐体内に、中空糸膜集束部材a41およびa42で束ねられた図14の中空糸膜a2が収容されており、かつ、中空糸膜集束部材a42が中空糸膜a2の下端を閉塞していてもよい。この場合、中空糸膜集束部材a42に対して筒状ケースa3が固定されておらず、筒状ケースa3と中空糸膜集束部材a42との間に隙間が設けられていてもよい。
【0305】
上述したいずれの構成においても、膜の上端または下端のうち、閉塞される方の端部は、U字状に折り曲げた糸束の湾曲部が閉塞部材または集束部材によって束ねられていてもよい。
【0306】
さらに、図16図17に示すように、ドレン排出口80をろ過液入口701とは別に設けてもよい。
【0307】
具体的には、図16の分離膜モジュールa13は、筒状ケースa3に代えて筒状ケースa32を備える以外は、図14の中空糸膜モジュールa11と同じ構成を備える。筒状ケースa32は、その下端の近傍に、別々に設けられたろ過液入口701およびドレン排出口80を備える。ろ過液入口701の位置は、筒状ケースの周方向において、ドレン排出口80に近くてもよいし、離れていてもよい。
【0308】
また、図17の分離膜モジュールa14は、筒状ケースa31に代えて筒状ケースa33を備える以外は、図15の中空糸膜モジュールa12と同じ構成を備える。筒状ケースa33は、その下端にドレン排出口80を備える。また、図17の構成において、被ろ過液入口702とドレン排出口80との位置が入れ替わってもよい。
【0309】
また、図18の中空糸膜モジュールa15は、被ろ過液入口701(ドレン排出口80)が、偏心した位置に設けられる以外は図15の中空糸膜モジュールa12と同様の構成を有する。図14図16図17でも、ドレン排出口80が偏心した位置に設けられている。
【0310】
以上に説明した部材のより具体的な構成および分離膜モジュールがさらに備え得る部材について説明する。
【0311】
(2)筐体
筒状ケースa3、上キャップa6および下キャップ7は、蒸気滅菌に対する耐熱性を有することが好ましい。例えば、これらの部材の材料としては、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィドなどの耐熱性の樹脂が単独もしくは混合で用いられる。また、樹脂以外の材料として、アルミニウム、ステンレス鋼などが好ましい。好ましい材料としてはさらに、樹脂と金属の複合体や、ガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂などの複合材料が挙げられる。
【0312】
筐体の形状は特に限定はないが、円筒形状の胴体を持つものが好ましい。胴体部の形状は円筒でなくとも良く、筐体の製作のし易さ、分離膜モジュール内のデッドスペースの最小化などを考慮して変更することができる。
【0313】
(3)整流部材
分離膜モジュールは、筐体内に、分離膜モジュール内の流れを整流化するための整流部材を備えてもよい。整流部材は、例えば、筒状の部材であり、筐体の上端近傍(例えば筒状ケースa3および筒状ケースa31の上端近傍)に配置される。
分離膜は、接着剤などで、筐体または整流部品に固定されても良い。また、分離膜はカートリッジ式であってもよい。つまり、分離膜が、筐体または整流部品に対して脱着可能であってもよい。
【0314】
(4)集束部材
中空糸膜集束部材a41およびa42のように中空糸膜開口したまま束ねる部材ならびに小束閉塞部材a5のように中空糸膜を閉塞しかつ束ねる部材をまとめて集束部材とよぶ。集束部材としては、接着剤が好ましく用いられる。
【0315】
接着剤として、硬化後のタイプDデュロメータ硬度が50以上80以下程度の合成樹脂が好ましく用いられる。タイプDデュロメータ硬度は、JIS−K6253(2004)で測定される。
【0316】
硬度が50以上であることで、ろ過時、逆圧洗浄時、および蒸気滅菌時に分離膜1次側から高圧の飽和水蒸気を投入した場合等の、分離膜の1次側と2次側で差圧がかかった時にも、中空糸膜集束部材a4の変形を小さく抑えることができる。その結果、中空糸膜と集束部材との間での剥離発生を抑制することができ、中空糸膜a2が破断してリークを起こす懸念が低減される。
【0317】
また、硬度が80以下であることも、中空糸膜が損傷する危険性を低減する。集束部材の表面のうち、中空糸膜が突出している部分では、集束部材の角と中空糸膜が接触する。ろ過時および逆圧洗浄時等において中空糸膜の揺れが発生したときに、集束部材の角と中空糸膜の外面とが強く接触する可能性があるが、その場合も、硬度が80以下であることで、中空糸膜の損傷および破断の発生を抑制することができる。
【0318】
以上の様な、中空糸膜集束部材a4および小束閉塞部材a5の接着剤としては、汎用品で安価であり、水質への影響も小さいエポキシ樹脂やポリウレタン樹脂などの合成樹脂を用いることが好ましい。
【0319】
(5)分離膜充填率
分離膜モジュールの分離膜の充填率について、中空糸膜モジュールを例に説明する。ここで、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の充填率は以下の式1で求められる。
【0320】
【数1】
【0321】
中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の充填率は、使用する目的や状況に応じて適宜決定することができる。具体的には、充填率は、30%以上60%以下が好ましい。また、本実施形態では、中空糸膜モジュールを斜めに配置して、直列に接続して、かつ蒸気滅菌を行うので、中空糸膜の充填率は、40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましい。
【0322】
理由は以下のとおりである。中空糸膜モジュールを斜めに設置すると、筐体内で中空糸膜が鉛直方向に偏り、その偏りが、滅菌時の昇温性およびクロスフローの流れに影響する可能性がある。そのため、中空糸膜が筐体の中で偏りが大きくならない様に、筐体の中に中空糸膜を詰めて、空隙を必要最小限にすることが好ましい。そのため、通常よりも中空糸膜の充填率を高めに設定しておくことが好ましい。
【0323】
また、中空糸膜が筐体の中で偏らない様に、保持板などで中空糸膜を保持しても良い。保持板などの保持部材は、蒸気滅菌に対して耐熱性を有することが好ましく、また蒸気ドレンの滞留が無いように、凹部分を持たない構造を有することが好ましい。
【0324】
充填率が30%以上であることが好ましい他の理由を以下に述べる。充填率が大きいほど、1個のモジュール当たりの膜面積が大きくなるため、ろ過効率が向上する。充填率が30%以上であることで、中空糸膜モジュール内で中空糸膜以外の断面積が小さく抑えられるので、循環流量を大きくしなくても膜面線速度を大きくすることができる。つまり、大型の循環ポンプを必要とすることなくろ過に適切な線速度を得ることができるので、機器費および運転電力を抑えることができる。また循環流量が小さくて済むので、細い配管を用いることができ、その結果、配管および自動弁などのバルブ類にかかる費用を抑制することができる。
【0325】
中空糸膜の充填率が60%以下であることで、滅菌における蒸気、ろ過運転における被ろ過液、洗浄における洗浄液が、モジュール内に充分に行き渡りやすい。
【0326】
また、充填率が60%以下であることで、微生物をモジュール外に排出しやすいので、膜の目詰まりを抑制しやすい。また、充填率が60%以下であれば、筐体に中空糸膜束を挿入することも容易である。さらに、中空糸膜の間に集束部材を構成する接着剤が浸透しやすく、製作が容易である。
【0327】
<分離膜>
分離膜は、有機膜、無機膜のいずれであってもよい。分離膜は、逆圧洗浄または薬液浸漬等により洗浄されるので、耐圧性および耐薬品性を有することが好ましい。
【0328】
分離性能及び透水性能、さらには耐汚れ性の観点から、分離膜は、有機高分子化合物を主成分として含有することが好ましい。有機高分子化合物としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などの樹脂が挙げられる。分離膜は、これらの樹脂を主成分として含有し、かつ複数の樹脂の混合物を含んであってもよい。
溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂およびポリアクリロニトリル系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が、化学的強度(特に耐薬品性)と物理的強度を併せ有する特徴をもつためより好ましく用いられる。
【0329】
分離膜は、さらに好ましくは、フッ素樹脂系高分子を含む中空糸膜であり、三次元網目構造と球状構造の両方を有し、三次元網目構造中に脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子、またはセルロースエステルを含有することで親水性を有する中空糸膜である。
【0330】
ここで、三次元網目構造とは、固形分が三次元的に網目状に広がっている構造を意味する。三次元網目構造は、網を形成する固形分に仕切られた細孔およびボイドを有する。
また、球状構造とは、多数の球状もしくは略球状の固形分が、直接もしくは筋状の固形分を介して連結している構造を意味する。
【0331】
また、分離膜は、球状構造層と三次元網目構造層以外の層、例えば多孔質基材などの支持体層を含んでいても良い。多孔質基材としては、有機材料、無機材料等、特に限定されないが、軽量化しやすい点から有機繊維が好ましい。多孔質基材は、さらに好ましくは、セルロース系繊維、酢酸セルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維などの有機繊維からなる織布や不織布である。
【0332】
三次元網目構造層と球状構造層の上下や内外の配置は、ろ過方式によって変えることができるが、三次元網目構造層が分離機能を担い、球状構造層が物理的強度を担うため、三次元網目構造層を分離対象側に配置することが好ましい。特に、汚れ物質の付着によるろ過性能の低下を抑制するためには、分離機能を担う三次元網目構造層を分離対象側の最表層に配置することが好ましい。
【0333】
また平均細孔径は、使用する目的や状況に応じて適宜決定することができるが、ある程度小さい方が好ましく、通常は0.01μm以上1μm以下であることが良い。中空糸膜の平均細孔径が0.01μm未満であると、糖や蛋白質などの成分やその凝集体などの膜汚れ成分が細孔を閉塞して、安定運転ができなくなる。透水性能とのバランスを考慮した場合、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.03μm以上である。また、1μmを超える場合、膜表面の平滑性と膜面の流れによる剪断力や、逆洗やエアースクラビングなどの物理洗浄による細孔からの汚れの成分の剥離が不十分となり、安定運転ができなくなる。さらに中空糸膜の平均細孔径が細胞の大きさに近づくと、これらが直接孔を塞いでしまう場合がある。また発酵液中の細胞の一部が死滅することにより細胞の破砕物が生成する場合があり、これらの破砕物によって中空糸膜の閉塞することから回避するために、平均細孔径は0.4μm以下が好ましく、0.2μm以下であれば、より好適に実施することができる。
【0334】
ここで、平均細孔径は、倍率10、000倍以上の走査型電子顕微鏡観察で観察される複数の細孔の直径を測定し、平均することにより求めることができる。10個以上、好ましくは20個以上の細孔を無作為に選び、それら細孔の直径を測定し、数平均して求めることが好ましい。細孔が円状でない場合などは画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円、すなわち等価円を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めることも好ましく採用できる。
【実施例】
【0335】
以下、本発明の実施の効果をさらに詳細に、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(1)外圧式中空糸膜の作製
(a)質量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ−ブチロラクトンとを、それぞれ38質量%と62質量%の割合で170℃の温度で溶解した。この高分子溶液をγ−ブチロラクトンを中空部形成液体として随伴させながら口金から吐出し、温度20℃のγ−ブチロラクトン80質量%水溶液からなる冷却浴中で固化して球状構造からなる中空糸膜を作製した。
【0336】
(b)次いで、質量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14質量%、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、CAP482−0.5)を1質量%、N−メチル−2−ピロリドンを77質量%、T−20Cを5質量%、水を3質量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を、上記(a)で得られた球状構造からなる中空糸膜の表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させることで、球状構造層の上に三次元編目構造を備える中空糸膜を作製した。こうして得られた中空糸膜を125℃飽和水蒸気と1時間接触させた。
【0337】
(c)上記(b)で得られた中空糸膜の被処理水側表面の平均細孔径は、0.04μmであった。また、上記(b)で得られた中空糸膜について純水透水量を評価したところ、5.5×10-93/m2/s/Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。
【0338】
(2)外圧式中空糸膜モジュールの作製
上記(1)で製作した中空糸膜を用いて、分離膜モジュールを作製した。具体的には、中空糸膜をポッティング剤(サンユレック社製ポリウレタン、SA−7068A/SA−7068B、各々の混合比は重量比で64:100となるように混合した)によって束ねた。また、中空糸膜の上端においてポッティング剤の一部を切り落とすことで、中空糸膜を開口させた。こうして束ねられた中空糸膜を、ポリスルホン樹脂製筒状容器製の筐体内に固定して、モジュールを形成した。なお、筐体のサイズは、内径10mm、長さ15cmのものを使用した。
【0339】
(実施例1)
製作した多孔性中空糸膜および膜ろ過モジュールを用いて、実施例1を行った。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
【0340】
発酵槽容量:2(L)
発酵槽有効容積:1.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン中空糸膜22本(有効長8cm、総有効膜面積0.023m)
中空糸膜モジュール本数:12本。図4の様に、中空糸膜モジュール3本を直列に接続し、これを4系列設置した。
温度調整:32(℃)
発酵槽通気量:窒素ガス0.2(L/min)
発酵槽攪拌速度:600(rpm)
pH調整:3NCa(OH)によりpH6に調整
乳酸発酵培地供給:発酵槽液量が約1.5Lで一定になる様に制御して添加
発酵液循環装置によるクロスフロー流束:0.3(m/s)
膜ろ過流量制御:吸引ポンプによる流量制御
間欠的なろ過処理:ろ過処理(9分間)〜ろ過停止処理(9分間)の周期運転
膜ろ過流束:0.01(m/日)以上0.3(m/日)以下の範囲で膜間差圧が20kPa以下となる様に可変。膜間差圧が範囲を超えて上昇し続けた場合は、連続発酵を終了した。
【0341】
培地は121℃、20分での飽和水蒸気下の蒸気滅菌をして用いた。微生物としてSporolactobacillus laevolacticus JCM2513(SL株)を用い、培地として表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、下記に示したHPLC(high performance liquid chromatography;高速液体クロマトグラフィー)を用いて以下の条件下で行った。
【0342】
【表1】
【0343】
カラム:Shim-Pack SPR-H(島津社製)
移動相:5mM p-トルエンスルホン酸(0.8mL/min)
反応相:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
カラム温度:45℃
【0344】
なお、乳酸の光学純度の分析は、以下の条件下で行った。
カラム:TSK-gel Enantio L1(東ソー社製)
移動相:1mM 硫酸銅水溶液
流束:1.0mL/分
検出方法 :UV 254nm
温度:30℃
【0345】
D−乳酸の光学純度は、次式で計算される。
光学純度(%)=100×(D−L)/(D+L)
【0346】
ここで、LはL−乳酸の濃度を表し、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0347】
培養は、まずSL株を試験管で5mLの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mLに植菌し、100mL容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図4に示す膜分離型連続発酵装置103の1.5Lの発酵槽に培地を入れて植菌し、発酵槽1を付属の攪拌装置4によって攪拌し、発酵槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、循環ポンプ11を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、循環ポンプ11を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、乳酸発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵液量を1.5Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、ろ過ポンプ121、122、123とろ過制御バルブ131、132、133によりろ過量が発酵培地供給流量と同一となるように制御した。適宜、膜透過発酵液中の生産されたD−乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0348】
膜分離型連続発酵装置103において、間欠ろ過処理のろ過停止処理中に逆圧洗浄を行いながらD−乳酸の連続発酵を行った。間欠ろ過処理は、図4に示すようなフローにより分離膜モジュール並列ユニットPU1、PU2、PU3を配置し、分離膜モジュール並列ユニットPU1、PU2、PU3の逆圧洗浄処理が重複しないよう制御した。間欠ろ過処理は、全分離膜モジュールを2分間ろ過処理運転し、分離膜モジュール並列ユニットPU1のみ1分間逆圧洗浄処理する。その後、再度全分離膜モジュールを2分間運転し、分離膜モジュール並列ユニットPU2のみ1分間逆圧洗浄処理する。再度全分離膜モジュール2を2分間運転し、分離膜モジュール並列ユニットPU3のみ1分間逆圧洗浄処理した。該間欠ろ過処理を連続して繰り返すことにより連続発酵しながら、生産されたD−乳酸を回収した。逆圧洗浄の流束はろ過流束の2倍に設定して、蒸留水を用いて逆圧洗浄を行った。
【0349】
上記の間欠ろ過処理による連続発酵試験を行った結果を表2に示す。図4に示す膜分離型連続発酵装置103において、連続発酵を400時間行うことができ、D−乳酸生産速度は最大4.2g/L/hrで、膜間差圧の上昇もなく安定的に運転できた。
【0350】
(実施例2)
実施例2は、膜分離型連続発酵装置103において、分離膜モジュール並列ユニットPU1、PU2、PU3を同時に間欠ろ過処理のろ過停止処理し、ろ過停止処理中に逆圧洗浄を行いながらD−乳酸の連続発酵を行った。間欠ろ過処理は、全分離膜モジュールを2分間運転し、その後全分離膜モジュールを1分間逆圧洗浄処理し、再度全分離膜モジュールを6分間ろ過運転する。該間欠ろ過処理を連続して繰り返すことにより連続発酵しながら、生産されたD−乳酸を回収した。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0351】
上記の間欠ろ過処理による連続発酵試験を行った結果を表2に示す。図4に示す膜分離型連続発酵装置103において、連続発酵を380時間行うことができ、D−乳酸生産速度は、最大4.0g/L/hrであった。膜間差圧の上昇もなく安定的に運転できた。
【0352】
【表2】
【0353】
本出願は、2013年6月21日出願の日本特許出願、特願2013−130368に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0354】
本発明のろ過装置によれば、複数の分離膜モジュール間で設備を共有することができ、分離膜モジュールの直列配置によるクロスフロー流量の低減と併せて、設備を簡素化することができる。
【符号の説明】
【0355】
1:発酵槽
A1、B1、C1、D1:分離膜モジュール
A2、B2、C2、D2:分離膜モジュール
A3、B3、C3、D3:分離膜モジュール
E1、F1、G1、H1:分離膜モジュール
E2、F2、G2、H2:分離膜モジュール
E3、F3、G3、H3:分離膜モジュール
3:温度制御装置
4:撹拌装置
5:pHセンサ
6:レベルセンサ
7:気体供給装置
8:水供給ポンプ
9:培地供給ポンプ
10:pH調整剤供給ポンプ
11:循環ポンプ
121、122、123:ろ過ポンプ
131、132、133:ろ過制御バルブ
14:洗浄液ポンプ
151、152、153:洗浄液バルブ
161、162、163:ろ過ポンプ
171、172、173:ろ過制御バルブ
181、182、183:洗浄液バルブ
20:送液ライン
21、22、23、24:被ろ過液配管
40、401:膜洗浄装置
41、42、43、44、45、46:透過液流量センサ
51、52、53:ろ過運転制御装置
60:還流ライン
61、62、63、64:循環液配管
611、612、613:直列非透過液流路
501、502、503:制御部
101、102、103、104:連続発酵装置
201、202、203、204、205:ろ過装置
PU1、PU2、PU3、PU4:分離膜モジュール並列ユニット
SU1、SU2、SU3、SU4、SU11、SU12:分離膜モジュール直列ユニット
a11、a12、a13、a14、a15、A1、A2、A3:中空糸膜モジュール
a2:中空糸膜
a2a:中空糸膜小束
a3:筒状ケース
a41、a42:中空糸膜集束部材
a5:小束閉塞部材
a6:上キャップ
a7:下キャップ
701、702:被ろ過液入口
701a、702a:被ろ過液ノズル
711:濃縮液出口
711a:濃縮液ノズル
80、81:ドレン排出口
80a、81a:ドレン排出ノズル
91、92:ろ過液出口
92a:ろ過液排出ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図18