特許第6287876号(P6287876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287876
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】排水処理方法及び排水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20180226BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20180226BHJP
   C02F 3/12 20060101ALI20180226BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C02F1/44 C
   C02F1/44 F
   B01D65/08
   C02F3/12 S
   C02F3/12 D
   B01D65/02
   B01D65/02 520
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-19535(P2015-19535)
(22)【出願日】2015年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-140838(P2016-140838A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年7月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】田口 和之
【審査官】 中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/043232(WO,A1)
【文献】 特開2012−005924(JP,A)
【文献】 特開2005−295887(JP,A)
【文献】 特開2013−052363(JP,A)
【文献】 特開2013−052362(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/137010(WO,A1)
【文献】 特開2013−158760(JP,A)
【文献】 特開2013−121586(JP,A)
【文献】 特開平09−075686(JP,A)
【文献】 特開2007−260664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
C02F 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理方法であって、前記分離膜の目詰まりの状態を改善する、バチルス属に属する微生物を優占化しつつ、前記分離膜の目詰まりの状態を該分離膜で固液分離された処理水の水圧又は水量を指標にして計測して、その計測に基づいて、前記微生物の活性化処理として、前記処理槽で活性汚泥処理される排水に鉄化合物及び/又はマグネシウム化合物を添加する処理を行うことを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
記水又は水量計測値が所定値を下回ったとき、前記微生物の活性化処理を行う請求項記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物は、少なくとも蛋白質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌する微生物を含む請求項1又は2記載の排水処理方法。
【請求項4】
前記微生物の活性化処理は、前記微生物が菌体外に分泌する蛋白質分解酵素及び/又は炭水化物分解酵素の増加を含む処理である請求項1〜のいずれか1つに記載の排水処理方法。
【請求項5】
前記微生物の活性化処理は、前記処理槽で活性汚泥処理される排水に、更にケイ素化合物を添加する処理を含む請求項1〜のいずれか1つに記載の排水処理方法。
【請求項6】
前記分離膜の目詰まりの状態を前記分離膜の逆洗処理又はバブリングを行なった後に計測する請求項1〜のいずれか1つに記載の排水処理方法。
【請求項7】
有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理装置であって、
前記分離膜の目詰まりの状態を改善する、バチルス属に属する微生物の活性剤であって、少なくとも鉄化合物又はマグネシウム化合物を含む該活性剤を供給する手段と、
前記分離膜の目詰まりの状態を該分離膜で固液分離された処理水の水圧又は水量を指標にして計測する手段と、
その計測に基づいて、前記処理槽で活性汚泥処理される排水中への前記活性剤の供給量を制御する制御手段を備えていることを特徴とする排水処理装置。
【請求項8】
前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物は、少なくとも蛋白質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌する微生物である請求項記載の排水処理装置。
【請求項9】
前記微生物の活性剤は、更に、ケイ素化合物を含む請求項又は8記載の排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活排水や産業排水など有機物を含んでいる排水を、活性汚泥処理するとともに、膜濾過して処理する排水処理方法及び排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理方法の1つとして、有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理して有機物等を除去し、次いで、逆浸透膜、限外ろ過膜、精密ろ過膜、中空糸膜等の分離膜を備えた膜モジュールを通過させて、浮遊微生物やその他の浮遊物質(SSと略称される)を濾過処理して固液分離する、膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane BioReactor)が知られている。膜分離活性汚泥法は、膜モジュールを用いて固液分離を行うため、最終沈殿池を省略でき、装置を小型化できるというメリットがある。
【0003】
しかしながら、長時間の運転によって膜モジュールに浮遊微生物やその他の浮遊物質(SS)等が徐々に堆積していき、分離膜が目詰まりするという問題があった。分離膜が目詰まりすると、膜圧力の上昇や濾過流束の低下などが生じ、排水処理装置の全体的な運転効率が低下する。また、最終的には分離膜を交換しなければならず、その交換間隔が短いと、連続運転が妨げられ、またその交換のためのコストもかかる。最近ではこのような分離膜の目詰まりの主な原因が、バブリングや逆洗によっても剥がれないほど強固な付着性を示す、活性汚泥中の微生物が産出する糖タンパク質を含む沈着物(粘着性の微生物やその残骸などを含む)であることが明らかになっている。
【0004】
膜分離活性汚泥法に関し、例えば下記特許文献1には、分離膜の目詰まりの原因となる分散性細菌を捕食する能力に優れた小動物を処理槽に導入して、その摂食作用を強化することによって、分離膜の目詰まりの問題を解決しようとする試みがある。また、例えば下記特許文献2には、目詰まりの原因となるバイオフィルムの形成を低めるか妨げることができる微生物を分離膜に供して、分離膜の目詰まりの問題を解決しようとする試みがある。
【0005】
一方、このような活性汚泥処理に利用される汚泥は、反応槽中の微生物が主な構成要素であり、排水中の有機物等を基質として生育した微生物の集塊である。そのため、活性汚泥処理では排水中の有機物が浄化される一方、それに応じて汚泥発生量も増えることになる。また、反応槽に存在する微生物に対して外界から微生物が全く混入しないという閉鎖系の処理ではなく、自然界に普遍的に存在する微生物が常に混入する状態にある。そのため、生物処理に関わる微生物は多種多様であり、様々な特性、機能を有する。よって、処理対象の排水によって反応槽内で優占化する微生物も異なっている。
【0006】
そこで、排水処理環境中の微生物の中でも増殖速度が速く、有機物を分解する酵素を大量に生産するバチルス菌を優占化させる手法を用いて排水処理の効率を向上させることが提案され、実用化されている。この場合に処理槽内にバチルス菌を優占化し、維持するため、ケイ素化合物やミネラルを含有する活性剤を添加することも行われる(下記特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−260664号公報
【特許文献2】特表2013−510710号公報
【特許文献3】特許第4826982号公報
【特許文献4】国際公開第2011/136188号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、膜分離活性汚泥法における分離膜の目詰まりの問題に関し、上記引用文献1の方法では、分散性細菌の捕食能に優れた小動物が処理槽に投入され、それが活性汚泥処理に有用な微生物までをも捕食してしまい、かえって排水処理能力に支障をきたすおそれがあった。また、上記引用文献2の方法でも、目詰まりの原因となるバイオフィルムの形成を低めるか妨げることができる微生物が処理槽内に供されることになるので、その存在によって処理槽内の微生物群の生育バランスがくずれて、かえって排水処理能力に支障をきたすおそれがあった。
【0009】
そこで本発明の目的は、膜分離活性汚泥法において、元来の活性汚泥処理環境に影響少なく、分離膜の長寿命化を図ることができる排水処理方法及び排水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の排水処理方法は、有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理方法であって、前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化しつつ、前記分離膜の目詰まりの状態を計測して、その計測した分離膜の目詰まりの状態に基づいて、前記微生物の活性化処理を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の排水処理方法によれば、処理槽内で活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出すので、沈殿槽が必要なく、装置構成を簡素化できる。また、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化して、分離膜の目詰まりの状態に応じて、その微生物の活性化処理を行うので、所望のタイミングで分離膜の目詰まりを解消することができ、少なくともその微生物の活性化処理時以外の期間は、処理槽内を活性汚泥処理に適する環境にしておくことができる。よって、元来の活性汚泥処理環境に影響少なく、分離膜の長寿命化を図ることができる。
【0012】
本発明の排水処理方法においては、前記分離膜の目詰まりの状態を示す指標が所定の閾値を超えたとき、前記微生物の活性化処理を行うことが好ましい。これによれば、分離膜の目詰まりの状態に基づいて、より正確な時期に、所望のタイミングで分離膜の目詰まりを解消することができる。
【0013】
本発明の排水処理方法においては、前記分離膜の目詰まりの状態を示す指標を、前記分離膜で固液分離された処理水の水圧とし、前記水圧の値が所定値を下回ったとき、前記微生物の活性化処理を行うことが好ましい。これによれば、分離膜の目詰まりの状態を簡便にモニタして、より正確な時期に、所望のタイミングで分離膜の目詰まりを解消することができる。
【0014】
本発明の排水処理方法においては、前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物は、少なくとも蛋白質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌する微生物を含むことが好ましい。これによれば、バブリングや逆洗によっても剥がれないほど強固な付着性を示す、糖タンパク質を含む沈着物であっても、これを分解・浄化して、分離膜の長寿命化を図ることができる。
【0015】
本発明の排水処理方法においては、前記微生物の活性化処理は、前記微生物が菌体外に分泌する蛋白質分解酵素及び/又は炭水化物分解酵素の増加を含む処理であることが好ましい。これによれば、そのように活性化された微生物によって、バブリングや逆洗によっても剥がれないほど強固な付着性を示す、糖タンパク質を含む沈着物であっても、これを分解・浄化して、分離膜の長寿命化を図ることができる。
【0016】
本発明の排水処理方法においては、前記微生物の活性化処理は、前記処理槽で活性汚泥処理される排水に鉄化合物及び/又はマグネシウム化合物を添加する処理であることが好ましい。これによれば、添加された鉄化合物やマグネシウム化合物によって微生物が菌体外に分泌する蛋白質分解酵素や炭水化物分解酵素の分泌の増加が起こるので、所望のタイミングで分離膜の目詰まりを解消することができ、少なくともその微生物の活性化処理時以外の期間は、処理槽内を活性汚泥処理に適する環境にしておくことができる。よって、元来の活性汚泥処理環境に影響少なく、分離膜の長寿命化を図ることができる。
【0017】
本発明の排水処理方法においては、前記微生物の活性化処理は、前記処理槽で活性汚泥処理される排水にケイ素化合物を添加する処理であることが好ましい。これによれば、添加されたケイ素化合物によって微生物の増殖が活性化され、それにともなってその微生物が分泌する蛋白質分解酵素や炭水化物分解酵素が増加するので、所望のタイミングで分離膜の目詰まりを解消することができる。
【0018】
本発明の排水処理方法においては、前記分離膜の目詰まりの状態を、前記分離膜の逆洗処理又はバブリングを行なった後に計測することが好ましい。これによれば、分離膜の目詰まりの状態をより正確にモニタすることができる。
【0019】
一方、本発明の排水処理装置は、有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理装置であって、
前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性剤を供給する手段と、
前記分離膜の目詰まりの状態を計測する手段と、
その計測した分離膜の目詰まりの状態に基づいて、前記処理槽で活性汚泥処理される排水中への前記活性剤の供給量を制御する制御手段を備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明の排水処理装置によれば、処理槽内で活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出すので、沈殿槽が必要なく、装置構成を簡素化できる。また、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性剤を供給する手段と、分離膜の目詰まりの状態を計測する手段と、その計測した分離膜の目詰まりの状態に基づいて、処理槽で活性汚泥処理される排水中への活性剤の供給量を制御する制御手段を備えているので、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化して、分離膜の目詰まりの状態に応じて、その微生物の活性剤を供給することにより、所望のタイミングで分離膜の目詰まりを解消することができ、少なくともその微生物の活性剤の供給時以外の期間は、処理槽内を活性汚泥処理に適する環境にしておくことができる。よって、元来の活性汚泥処理環境に影響少なく、分離膜の長寿命化を図ることができる。
【0021】
本発明の排水処理装置においては、前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物は、少なくとも蛋白質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌する微生物であることが好ましい。これによれば、バブリングや逆洗によっても剥がれないほど強固な付着性を示す、糖タンパク質を含む沈着物であっても、これを分解・浄化して、分離膜の長寿命化を図ることができる。
【0022】
本発明の排水処理装置においては、前記微生物の活性剤は、少なくとも鉄化合物又はマグネシウム化合物を含むことが好ましい。これによれば、活性剤として供給された鉄化合物やマグネシウム化合物によって微生物が菌体外に分泌する蛋白質分解酵素や炭水化物分解酵素の活性の分泌の増加が起こるので、所望のタイミングで分離膜の目詰まりを解消することができ、少なくともその微生物の活性剤の供給時以外の期間は、処理槽内を活性汚泥処理に適する環境にしておくことができる。よって、元来の活性汚泥処理環境に影響少なく、分離膜の長寿命化を図ることができる。
【0023】
本発明の排水処理装置においては、前記微生物の活性剤は、少なくともケイ素化合物を含むことが好ましい。これによれば、活性剤として供給されたケイ素化合物によって微生物の増殖が活性化され、それにともなってその微生物が分泌する蛋白質分解酵素や炭水化物分解酵素が増加するので、所望のタイミングで分離膜の目詰まりを解消することができる。
【0024】
本発明の排水処理装置においては、前記分離膜の目詰まりの状態を計測する手段は、前記分離膜で固液分離された処理水の水圧を計測する手段を含むことが好ましい。これによれば、分離膜の目詰まりの状態を簡便にモニタすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の排水処理方法及び排水処理装置によれば、膜分離活性汚泥法において、元来の活性汚泥処理環境に影響少なく、分離膜の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明による排水処理方法を実施するための排水処理装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明による排水処理方法を実施するための排水処理装置の他の例を示す概略構成図である。
図3図1に示す排水処理装置の制御装置での制御フローチャートである。
図4図2に示す排水処理装置の制御装置での制御フローチャートである。
図5】試験例1においてバチルス菌株Aについて菌体濃度あたりのタンパク質分解活性を測定した結果を示す図表である。
図6】試験例2においてバチルス菌株Aについてヨウ素デンプン反応の呈色を550nmの吸光度により測定した結果を示す図表である。
図7】試験例3においてバチルス菌株Bについて菌体濃度あたりのタンパク質分解活性を測定した結果を示す図表である。
図8】試験例4においてバチルス菌株Bについてヨウ素デンプン反応の呈色を550nmの吸光度により測定した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
【0028】
図1は、本発明による排水処理方法を実施するための排水処理装置の一例を示す概略構成図である。この排水処理装置は、排水を活性汚泥処理する処理槽1と、処理槽1内に設置された膜モジュール2とを備えており、いわゆる膜分離活性汚泥法による排水処理装置である。処理槽1には、流量調整槽を介して、前処理工程で夾雑物を除去した排水が導入されて、処理槽1内で所定時間の滞留を経て活性汚泥処理される。処理後の排水は、膜モジュール2に連通した配管を通じて吸引ポンプ3で吸引されて、その膜モジュール2に備わる分離膜で固液分離された液部が処理水として取り出される。余剰汚泥は必要に応じて汚泥引抜ポンプ4により系外に排出される。
【0029】
処理対象となる排水としては、窒素、有機物を含む排水であれば特に限定はなく、例えば家庭排水や、穀類でんぷん製造業、乳製品製造業、食肉センター、砂糖製造業、畜産食料品製造業、畜産農業、肉製品製造業、食肉ハム・ソーセージ製造業、水産練り製品製造業、水産食料品製造業、有機化学工業製造業、無機化学工業製造業などからの排水が挙げられる。
【0030】
処理槽1については、槽内に微生物を含む活性汚泥が滞留し、もしくは投入され、その活性汚泥中の微生物により排水の汚濁成分が分解され、除去される活性汚泥処理ができる処理槽であれば、特に限定はない。例えば、アンモニア酸化菌や亜硝酸酸化菌などの好気性微生物を含む曝気槽、亜硝酸酸化菌などの好気性微生物と脱窒菌などの嫌気性微生物を含む間欠曝気槽などが挙げられる。
【0031】
膜モジュール2に用いる分離膜としては、一般的な濾過膜であれば全て使用できる。例えば、逆浸透(RO)膜、限外ろ過(UF)膜、精密ろ過(MF)膜、中空糸(HF)膜等が挙げられる。また、濾過膜の材質としては、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。また、膜モジュール2の形態としては、特に限定は無く、中空糸膜モジュール、平膜型モジュール、スパイラル型モジュール、管型モジュール等が挙げられる。
【0032】
この実施形態では、処理槽1内底部であって膜モジュール2の下方に散気板5が設けられ、ブロア6からの空気を散気板5に供給して、処理槽1内で処理される排水に曝気処理が施されるようになっている。この曝気処理は、槽内の活性汚泥中の微生物への酸素供給が目的であるが、そのバブリング作用により膜モジュール2に比較的弱く付着した夾雑物を排除したり、もしくはそのような夾雑物が膜モジュール2に付着しないようにする役割も担っている。
【0033】
また、活性剤供給槽7からは活性剤注入ポンプ8によって、後述する分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物に対してその活性を向上させる活性剤が、処理槽1内の排水に供給されるようになっている。そして、その配管の途中にはバルブ9が設けられており、その開閉により活性剤の供給量が調節されるようになっている。
【0034】
また、膜モジュール2に連通した配管の途中には圧力センサ10が設けられており、分離膜で固液分離された処理水の水圧がモニタされるようになっている。
【0035】
(排水処理方法)
従来、膜分離活性汚泥法による排水処理装置では、運転の経過とともに膜モジュールの分離膜に目詰まりが発生するので、定期的に定常運転時とは逆の処理水側からの水圧を付加して逆洗処理を行い、膜モジュールに付着した夾雑物を排除しながら運転を行ったり、固液分離後の処理水の水圧を計測し、その水圧が所定値を下回ったら、膜モジュールを取出して薬液で洗浄したり、最終的には膜モジュールを交換する必要があった。
【0036】
本発明の排水処理方法では、膜モジュールの分離膜の長寿命化を図るため、このような膜モジュールのメンテナンスに加えて、あるいはその一部にかえて、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化して、分離膜の目詰まりの状態に応じて、その微生物の活性化処理を行う。
【0037】
分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物については、膜モジュールの分離膜の目詰まりの主な原因が、近年の研究から、バブリングや逆洗によっても剥がれないほど強固な付着性を示す、活性汚泥中の微生物が産出する糖タンパク質を含む沈着物(粘着性の微生物やその残骸などを含む)であることが明らかとなっている。そして、糖タンパク質が強固な付着性原因物質である。よって、この糖タンパク質を分解し、除去することによって、膜モジュールの分離膜に強固に付着した沈着物を排除して、分離膜の目詰まりの状態を改善することができる。糖タンパク質を分解し、除去できる微生物としては、例えば、少なくとも蛋白質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌する、バチルス属に属する微生物、ビフィズス属に属する微生物などが挙げられる。
【0038】
上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物は、少なくとも蛋白質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌する微生物を既存の微生物群の中からスクリーニングして得ることもできる。例えば、下記のような簡易酵素活性テストによって、蛋白質の分解性と炭水化物の分解性とに優れた微生物のスクリーニングを行うことができる。
【0039】
(1)蛋白質の分解性
0.2〜1.0%の濃度のカゼインを含む寒天培養基の平板上に菌を線状に接種して培養する。カゼインを含む寒天培養基は不透明〜半透明であるが、菌の生育後に菌の集落の周囲に透明な帯ができる場合は、タンパク質の分解性を示すものである(タンパク質の分解性を有する)。
【0040】
(2)炭水化物の分解性
0.2〜1.0%の濃度の可溶性デンプンを含む寒天培養基の平板上に菌を線状に接種して培養し、生育後にヨウ素液を平板上に注ぐ。菌の集落の周囲に、青色にならない透明な帯ができる場合は、澱粉の分解性を示すものである(デンプンの分解性を有する)。
【0041】
具体的には、バチルス菌である、Bacillus methylotrophicus CBMB205T (EU194897)株、Bacillus subtilis subsp. subtilis DSM 10T (AJ276351)株、Bacillus subtilis subsp. subtilisNBRC3009株、Bacillus subtilis subsp. subtilisATCC6051株などを用いることができる。
【0042】
また、ビフィズス菌である、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacteriuminfantisなどを用いることができる。
【0043】
上記に説明した微生物は、一般にバチルス菌やビフィズス菌に慣用されている方法により、その培養、保存、菌体分離等を行うことができる。例えば、栄養培地を挙げれば、Nutrient培地(0.3%肉エキス、0.5%ペプトン)あるいはLB培地(0.5%酵母エキス、1%ペプトン、1%塩化ナトリウム)などの培地により、その培養を行うことができる。
【0044】
本発明の排水処理方法においては、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を、優占化させる。「優占化」とは、上記処理槽1内で生息している生物相においてその数が優占的であることを意味する。優占的であるかどうかは、処理槽1内で生息している生物相を16SrDNA配列の決定などでランダムに同定して、目的とする属種に属する微生物がその他の生物種に対してどのくらいの割合で存在するかを求め、更に、その属種に属する微生物のうち、目的とする性質を有する微生物がどのくらいの割合で含まれているかを、上述した簡易酵素活性テストなどによって求め、知ることができる。具体的には、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を処理槽1内の活性汚泥1mL中に菌数およそ1×10個〜1×1010個存在するようにする。
【0045】
上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を処理槽1内で優占化させるための手段としては、特に制限されるものではないが、例えば、上記に例示したバチルス菌やビフィズス菌を種菌として、投入する種汚泥に添加したり、処理槽1に流入する前の排水に添加したり、処理槽1に流入した後の排水に添加したりする等して、その後そのバチルス菌やビフィズス菌が維持される処理条件を保つ方法が挙げられる。即ち、排水処理運転の初期の段階に上記微生物を添加することにより、処理槽1内で生息している生物相においてその数が優占的であることを確実にでき、その後従来法の処理条件を保てば、処理期間中、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物が優占化している状態となる。また、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化させて排水処理を行った後に得られる余剰汚泥には、その微生物が優占化される生物相のバランスが保たれているので、他の排水処理施設からそのような余剰汚泥を得、これを新たに処理すべき排水処理施設の立ち上げ時などに種汚泥として添加してもよい。あるいは、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の優占化が衰えたような場合には、このような種菌や種汚泥を随時添加してもよい。
【0046】
排水の処理条件としては、従来法に準じて行なえばよく、典型的には、例えば処理槽1内の処理排水の活性汚泥の濃度(MLSS)を2000mg/L〜2500mg/Lの範囲に管理し、pHを中性付近、すなわち6.5〜7の範囲に管理することが好ましい。また、嫌気性条件を好む傾向の微生物(脱窒菌、脱リン菌、脱窒性リン蓄積細菌等)の活性を利用するための処理と、好気性条件を好む傾向の微生物(硝化菌、酵母、大腸菌等)の活性を利用するための処理とを、処理槽1内で段階的、連続的又は間欠的に行なってもよい。この場合、排水中の窒素濃度、リン濃度などにもよるが、その嫌気条件での酸化還元電位を−150mV〜−200mVの範囲とし、その好気条件における溶存酸素量が2.0mg/L〜3.5mg/Lの範囲となるよう管理することが好ましい。例えば、図1に示す排水処理装置では、その散気板5からの空気の供給を調整することにより行うことができる。ただし、処理槽1内で所定時間の処理を終えた排水中に、臭気成分であるアンモニアを残存させないために、硝化菌が作用する好気条件による処理を最終工程で行ない、処理槽1内での処理を終えることが好ましい。
【0047】
本発明の排水処理方法においては、分離膜の目詰まりの状態に応じて、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性化処理を行う。その活性化処理は、例えば、処理槽1で活性汚泥処理される排水に、鉄塩などの鉄化合物やマグネシウム塩などのマグネシウム化合物を添加することなどにより行うことができる。これにより上記微生物が菌体外に分泌する蛋白質分解酵素や炭水化物分解酵素の分泌の増加が起こる。また、その活性化処理は、処理槽1で活性汚泥処理される排水に、ケイ酸塩などのケイ素化合物を添加することなどにより行ってもよい。これにより上記微生物の増殖が活性化される。上記微生物の活性化処理は、それら両方を含む処理であってもよい。
【0048】
例えば、図1に示す排水処理装置では、活性剤供給槽7に鉄化合物及びマグネシウム化合物とケイ素化合物とを少なくとも含有する活性剤を貯留しておき、所望時に活性剤注入ポンプ8によって処理槽1内に添加することができる。この場合、活性剤に含まれる鉄化合物及びマグネシウム化合物の合計量とケイ素化合物との含有比は、質量換算で0.5〜5:1であることが好ましく、2:1であることがより好ましい。また、ケイ素化合物は、処理槽1内の排水中に処理槽のBOD負荷量に対して0.1〜2質量%の濃度で存在するように添加することが好ましく、処理槽のBOD負荷量に対して0.2〜1質量%の濃度で存在するように添加することがより好ましい。鉄化合物、マグネシウム化合物の場合には、処理槽1内の排水中に処理槽のBOD負荷量に対して0.1〜2質量%の濃度で存在するように添加することが好ましく、処理槽のBOD負荷量に対して0.4〜2質量%の濃度で存在するように添加することがより好ましい。
【0049】
また、活性剤には上記の鉄塩などの鉄化合物、マグネシウム塩などのマグネシウム化合物、ケイ酸塩などのケイ素化合物以外にも他のミネラル分を含有してもよい。カルシウム塩などのカルシウム化合物、アルミニウム塩などのアルミニウム化合物、ニッケル塩などのニッケル化合物、チタン塩などのチタン化合物などが挙げられる。
【0050】
分離膜の目詰まりの状態を把握するには、例えば、分離膜で固液分離された処理水の水圧が、任意に定めた所定値を下回るかどうかを計測することなどにより行うことができる。即ち、排水処理の運転の経過にともなって分離膜が目詰まりし、その膜圧は上昇する一方、分離膜で固液分離された処理水の水圧が低下するので、その水圧があらかじめ定めた閾値を超え、下回った場合に、目詰まりを解消すべき時期であると判定できる。この場合、定常運転時とは逆の処理水側からの水圧を付加して分離膜の逆洗処理を行なったり、分離膜をバブリング処理したりした後に計測することが好ましい。これによれば、膜モジュール2に比較的弱く付着した夾雑物を排除したうえで計測するので、分離膜の目詰まりの状態をより正確に把握することができる。例えば、図1に示す排水処理装置では、膜モジュール2に連通した配管の途中に設けられた圧力センサ10により、分離膜で固液分離された処理水の水圧がモニタされるようになっている。また、吸引ポンプ3による吸引方向を逆転させることにより、処理水側からの水圧を付加することができる。
【0051】
分離膜の目詰まりの状態を把握するには、上記のように分離膜で固液分離された処理水の水圧を指標にする以外にも、例えば、分離膜で固液分離された処理水の単位時間当たりの水量が、任意に定めた所定値を下回るかどうかを計測することなどにより行うことができる。即ち、排水処理の運転の経過にともなって分離膜が目詰まりし、その膜圧は上昇する一方、分離膜で固液分離された処理水の単位時間当たりの水量が低下するので、その単位時間当たりの水量があらかじめ定めた閾値を超え、下回った場合に、目詰まりを解消すべき時期であると判定できる。
【0052】
図2は、本発明による排水処理方法を実施するための排水処理装置の他の例を示す概略構成図である。この排水処理装置では、活性剤供給槽7に加えてもう1つの活性剤供給槽11を備えている点において、図1に示した排水処理装置とは異なる。活性剤供給槽7と同様に、この活性剤供給槽11からは活性剤注入ポンプ12によって、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物に対してその活性を向上させる活性剤が、処理槽1内の排水に供給されるようになっている。そして、その配管の途中にはバルブ13が設けられており、その開閉により活性剤の供給量が調節されるようになっている。
【0053】
この実施形態では、それぞれ独立した2つの経路から上記活性剤を処理槽1内に添加することができる。例えば、上記ケイ素化合物を活性剤供給槽7から導入するとともに、上記鉄化合物及びマグネシウム化合物は活性剤供給槽11から導入することができる。この態様によれば、ケイ酸塩などのケイ素化合物は溶解度が低くしばしば懸濁液として供給しなければならず、添加濃度の調整するためにはハンドリングが若干煩雑であるところ、上記鉄化合物及びマグネシウム化合物は、ケイ酸塩などのケイ素化合物とは別個に、ハンドリングの煩雑さを伴わずに処理槽1内に供給することができる。また、例えば、処理槽1内で上記微生物の菌数が定常的に減退傾向を示すような場合には、目詰まりの状態にかかわらずに微生物の増殖が活性化されるケイ素化合物を継続して添加し、目詰まりを解消すべき時期には、ケイ素化合物の添加量を増量したり、上記鉄化合物及びマグネシウム化合物のみを添加するようにしたりしてもよい。
【0054】
(排水処理装置)
本発明の排水処理装置は、膜モジュールの分離膜の長寿命化を図るため、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性剤を供給する手段と、分離膜の目詰まりの状態を計測する手段と、処理槽で活性汚泥処理される排水中への活性剤の供給量を制御する制御手段を備えている。
【0055】
図1及び図3を参照して説明すると、活性剤供給槽7には上記活性剤が貯留され、そこから活性剤注入ポンプ8により処理槽1内に供給されるようになっている。これが本発明の「分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性剤を供給する手段」を構成している。また、膜モジュール2に連通した配管の途中には圧力センサ10が設けられており、分離膜で固液分離された処理水の水圧がモニタされるようになっている。これが本発明の「分離膜の目詰まりの状態を計測する手段」を構成している。更に、圧力センサ10での処理水の水圧値に応じた信号を受信し、且つ活性剤注入ポンプ8またはバルブ9に駆動信号を送信することができる制御装置14を備えており、これが本発明の「処理槽で活性汚泥処理される排水中への活性剤の供給量を制御する制御手段」を構成している。
【0056】
そして、圧力センサ10での処理水の水圧値が、制御装置14の演算部15に入力されて、その演算部15に格納した任意に定めた所定値と対比されて、その値を下回る場合には、目詰まりを解消すべき時期であると判定する(図3)。そしてその判定に応じた信号が、出力部16を介して、活性剤注入ポンプ8を駆動させあるいはその駆動量を増加させたり、バルブ9を開栓しあるいはその開栓量を増加させたりする(図3)。これにより、分離膜の目詰まりの状態に基づいて、上記活性剤を処理槽1内に供給し、あるいはその供給量を増大させることができる。なお、活性剤の供給は、圧力センサ10での処理水の水圧値が、制御装置14の演算部15に格納した任意に定めた所定値と対比されて、その値以上となるまで継続してもよく、所定時間で終了してもよい。
【0057】
一方、図2及び図4を参照して説明すると、この排水処理装置では、活性剤供給槽7に加えてもう1つの活性剤供給槽11を備えており、活性剤供給槽7からの第1の活性剤の供給量と活性剤供給槽11からの第2の活性剤の供給量が、制御装置14によりそれぞれ独立に制御できる点において、図1に示した排水処理装置とは異なる。この態様では、圧力センサ10での処理水の水圧値が、制御装置14の第1の演算部17に入力されて、その演算部17に格納した任意に定めた所定値と対比されて、その値を下回る場合には、目詰まりを解消すべき時期であると判定する(図4)。そしてその判定に応じた信号が、第1の出力部18を介して、活性剤注入ポンプ8を駆動させあるいはその駆動量を増加させたり、バルブ9を開栓しあるいはその開栓量を増加させたりする(図4)。一方で、圧力センサ10での処理水の水圧値に応じた信号は、制御装置14の第2の演算部19にも入力されて、その演算部19に格納した任意に定めた所定値と対比されて、その値を下回る場合には、目詰まりを解消すべき時期であると判定する。そしてその判定に応じた信号が、第2の出力部20を介して、活性剤注入ポンプ12を駆動させあるいはその駆動量を増加させたり、バルブ13を開栓しあるいはその開栓量を増加させたりする(図4)。これにより、分離膜の目詰まりの状態に基づいて、活性剤供給槽7からの第1の活性剤を処理槽1内に供給し、あるいはその供給量を増大させることができるとともに、それとは独立に、活性剤供給槽11からの第2の活性剤を処理槽1内に供給し、あるいはその供給量を増大させることができる。なお、活性剤供給槽7からの第1の活性剤の供給は、圧力センサ10での処理水の水圧値が、制御装置14の第1の演算部17に格納した任意に定めた所定値と対比されて、その値以上となるまで継続してもよく、所定時間で終了してもよい。また、活性剤供給槽11からの第2の活性剤の供給は、圧力センサ10での処理水の水圧値が、制御装置14の第2の演算部19に格納した任意に定めた所定値と対比されて、その値以上となるまで継続してもよく、所定時間で終了してもよい。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0059】
<試験例1>
バチルス属細菌のBacillus methylotrophicus(以下、「バチスル菌株A」という。)をNutrient培地に接種し、30℃で一晩培養した。このとき、バチルス菌の活性を向上させる活性剤(ケイ酸塩を含むミネラル)、その活性剤に鉄塩を添加して鉄塩の含量を2倍量に増加したもの、その活性剤にマグネシウム塩を添加してマグネシウム塩の含量を2倍量に増加したもの、その活性剤にマンガン塩を添加してマンガン塩の含量を2倍量に増加したもの、その活性剤にカルシウム塩を添加してカルシウム塩の含量を2倍量に増加したもの、をそれぞれ培地に2mg/mLになるように添加して培養し、培養液中に分泌された蛋白質分解酵素活性を比較した。
【0060】
蛋白質分解活性の測定は、上記の培養液を孔径0.2μmのフィルターでろ過し、そのろ液を、蛍光蛋白質分解酵素アッセイキット(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に供して行なった。このキットは蛋白質分解酵素の存在により蛍光強度が上昇するものであり、測定した蛍光強度を、菌体濃度を表す600nmの吸光度で除し、単位菌体濃度あたりのタンパク質分解酵素活性として比較した。
【0061】
その結果、図5に示されるように、活性剤中の鉄塩あるいはマグネシウム塩の含量を通常の2倍量に増加すると、従来の活性剤を用いた場合に比べて、バチルス菌株Aの蛋白質分解酵素活性が上昇した。一方、活性剤中のマンガン塩の含量を通常の2倍量に増加すると、従来の活性剤を用いた場合に比べて、バチルス菌株Aの蛋白質分解酵素活性が低下した。活性剤中のカルシウム塩の含量を通常の2倍量に増加した場合には、従来の活性剤を用いた場合と同等の蛋白質分解酵素活性であった。
【0062】
<試験例2>
バチルス菌株Aについて試験例1と同様に培養したそれぞれの培養液中に分泌されたデンプン分解酵素活性を調べた。
【0063】
具体的には、上記の培養液を孔径0.2μmのフィルターでろ過し、そのろ液1mLに0.5%水溶性デンプンを3mL加え、60分後、ヨウ素溶液を滴下した。デンプンが残存していれば、ヨウ素デンプン反応特有の青紫色を呈し、デンプンが分解されていれば変色しない。その呈色を550nmの吸光度により測定した。
【0064】
その結果、図6に示されるように、活性剤中の鉄塩、マグネシウム塩あるいはカルシウム塩の含量を通常の2倍量に増加すると、従来の活性剤を用いた場合に比べて、バチルス菌株Aのデンプン分解酵素活性が上昇した。一方、活性剤中のマンガン塩の含量を通常の2倍量に増加すると、従来の活性剤を用いた場合に比べて、バチルス菌株Aのデンプン分解酵素活性が低下した。
【0065】
<試験例3>
バチルス属細菌のBacillus subtilisに近縁なBacillus sp.(以下、「バチルス菌株B」という。)について、試験例1と同様の試験を行なった。
【0066】
その結果、図7に示されるように、活性剤中の鉄塩あるいはマグネシウム塩の含量を通常の2倍量に増加すると、従来の活性剤を用いた場合に比べて、バチルス菌株Bの蛋白質分解酵素活性が上昇した。一方、活性剤中のマンガン塩あるいはカルシウム塩の含量を通常の2倍量に増加すると、従来の活性剤を用いた場合に比べて、バチルス菌株Bの蛋白質分解酵素活性が低下した。
【0067】
<試験例4>
バチルス菌株Bについて、試験例2と同様の試験を行なった。
【0068】
その結果、図8に示されるように、活性剤中の鉄塩あるいはマグネシウム塩の含量を通常の2倍量に増加すると、従来の活性剤を用いた場合に比べて、バチルス菌株Bのデンプン分解酵素活性が上昇した。一方、活性剤中のマンガン塩あるいはカルシウム塩の含量を通常の2倍量に増加すると、従来の活性剤を用いた場合に比べて、バチルス菌株Bのデンプン分解酵素活性が低下した。
【0069】
上記試験例1〜4の結果より、バチルス菌の活性を向上させる活性剤として従来より用いられていたケイ酸塩を含むミネラル分からなる活性剤の、そのミネラル分のうち鉄塩やマグネシウム塩には、バチルス菌が菌体外に分泌する蛋白質分解酵素及び炭水化物分解酵素の分泌を増加して、バチルス菌の酵素活性を向上させる作用効果が特に高いことが明らかとなった。一方で、活性剤のミネラル分のうちマンガン塩には、バチルス菌の酵素活性を阻害する作用効果が特に高いことが明らかとなった。また、従来、活性剤のミネラル分のうちケイ酸塩には、バチルス菌の増殖を助ける作用効果があることが知られている。よって、活性剤として添加するこれらミネラルの添加量を個別に最適化することによって、効率よくバチルス菌の活性化処理を行うことができることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0070】
1:処理槽
2:膜モジュール
3:吸引ポンプ
4:汚泥引抜ポンプ
5、散気板
6:ブロア
7、11:活性剤供給槽
8、12:活性剤注入ポンプ
9、13:バルブ
10:圧力センサ
14:制御装置
15:演算部
16:出力部
17:第1の演算部
18:第1の出力部
19:第2の演算部
20:第2の出力部



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8