特許第6288023号(P6288023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288023
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】非水電解液電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20180226BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20180226BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180226BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/0568
   H01M10/052
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-186875(P2015-186875)
(22)【出願日】2015年9月24日
(65)【公開番号】特開2017-27923(P2017-27923A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年1月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-142853(P2015-142853)
(32)【優先日】2015年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志賀 亨
(72)【発明者】
【氏名】奥田 匠昭
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/030008(WO,A1)
【文献】 特開2011−141974(JP,A)
【文献】 特開2016−062676(JP,A)
【文献】 特開2005−243620(JP,A)
【文献】 特開2015−015165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052、10/0568、10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、
負極と、
支持塩としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの少なくとも一方と、溶媒としてリン酸エステルアミドと、で構成され、前記支持塩の含有量A(モル)の前記溶媒の含有量B(モル)に対する比であるA/Bの値が1/4以上である非水電解液と、
を備えた非水電解液電池。
【請求項2】
前記A/Bの値は1/3以上2/3以下である、請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項3】
前記リン酸エステルアミドは、式()で表される化合物である、請求項1又は2に記載の非水電解液電池。
【化1】
【請求項4】
前記リン酸エステルアミドは、R4及びR5が、それぞれ、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、フッ素化メチル基、フッ素化エチル基、フッ素化プロピル基、からなる群より選ばれる1以上である、請求項に記載の非水電解液電池。
【請求項5】
前記リン酸エステルアミドは、X1及びX2が、それぞれ、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、からなる群より選ばれる1以上である、請求項又はに記載の非水電解液電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム電池としては、LiCoO2やLiNiO2、LiMn24などのリチウム遷移金属複合酸化物を活物質とする正極と、LiPF6などの支持塩をアルキルカーボネート溶媒に溶解した非水電解液と、を備えたものが知られている。正極活物質として用いられるリチウム遷移金属複合酸化物は、過充電状態になると酸素を放出して非水電解液と反応し、発火するおそれがある。そこで、非水電解液の難燃化の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1,2では、自己消火作用を有するリン酸アルキルエステルを溶媒に用いることが提案されている。また、特許文献3,4では、リン酸アルキルエステルのアルキル基の水素原子の一部をフッ素原子に置換した願フッ素リン酸アルキルエステルを溶媒に用いることが提案されている。また、特許文献5では、含フッ素リン酸エステルアミドを溶媒に用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−88023号公報
【特許文献2】特開2005−78847号公報
【特許文献3】特開2007−258067号公報
【特許文献4】特開2008−21560号公報
【特許文献5】特開2011−141974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜5の溶媒を用いた電池では、過充電時に発熱量が大きくなることがあった。このため、発熱をより抑制できる非水電解液電池が望まれていた。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、発熱をより抑制できる非水電解液電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を行った。そして、溶媒としてのリン酸エステルやリン酸エステルアミドに、支持塩としてのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドやリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを多量に溶解させた、支持塩濃度の極めて高い非水電解液を用いると、発熱をより抑制できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の非水電解液電池は、
リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、
負極と、
支持塩としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの少なくとも一方と、溶媒としてリン酸エステル及びリン酸エステルアミドの少なくとも一方と、で構成され、前記支持塩の含有量A(モル)の前記溶媒の含有量B(モル)に対する比であるA/Bの値が1/4以上である非水電解液と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この非水電解液電池では、発熱をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は、例えば以下のように推察される。例えば、支持塩としてのLiFSIやLiTFSIを溶媒としてのリン酸エステルにA/Bの値が1/4以上となるような高濃度で溶解させた非水電解液では、電解液中のリン酸エステル分子は、その多くがリチウムイオンに配位していると考えられる。こうしたリン酸エステル分子は、自由に動き回る溶媒分子としてはほとんど存在しないと考えられる。このため、正極活物質から放出される酸素と電解液との反応などがより抑制され、発熱をより抑制できると考えられる。リン酸エステルに代えてリン酸エステルアミドを用いた場合にも、同様の理由により、発熱をより抑制できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】非水電解液電池20の構成の一例を示す模式図。
図2】実験例3と実験例5の熱分析結果。
図3】実験例3の1〜3サイクル目の充放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非水電解液電池は、リチウムを吸蔵及び放出可能な正極と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導可能な非水電解液と、を備えている。
【0012】
正極は、リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含んでいる。具体的には、例えば、Li(1-a)MnO2(0≦a<1など、以下同じ)、Li(1-a)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-a)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-a)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物などを用いることができる。このうち、LiMnO2やLiCoO2、LiNiO2などが好ましい。なお、ここでは1種の遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物を例示したが、リチウム遷移金属複合酸化物は2種以上の遷移金属を含んでもよい。また、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムや遷移金属の一部が欠損していたり、過剰であったり、他の元素に置換されていてもよい。他の元素としては、例えば、Mg、Zn、Al、Ge、Sn等が挙げられる。
【0013】
正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極は、正極活物質を、正極合材(溶剤を除く)の70質量%以上90質量%以下の範囲で含むことが好ましく、80質量%以上90質量%以下がより好ましい。
【0014】
導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、活性炭、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。
【0015】
結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。
【0016】
活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。
【0017】
塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。
【0018】
集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0019】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成してもよいし、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマー、などが挙げられる。また、黒鉛・シリコン複合体や、グラフェン・チタン酸リチウム複合体などの複合体も用いることができる。リチウム合金としては、リチウムアルミニウムやリチウムシリコンなどが挙げられる。炭素質材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面からみて好ましく、人造黒鉛や天然黒鉛などのグラファイト類がより好ましい。
【0020】
負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0021】
非水電解液は、支持塩としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下LiFSIとも称する)及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下LiTFSIとも称する)の少なくとも一方と、溶媒としてリン酸エステル及びリン酸エステルアミドの少なくとも一方と、で構成されている。LiFSI及びLiTFSIは、それぞれ単独で、又は、両者を混合して、用いることができる。また、リン酸エステル及びリン酸エステルアミドは、それぞれ単独で、又は、両者を混合して、用いることができる。
【0022】
溶媒としてのリン酸エステルは、リン酸が持つ3つの水素の全てまたは一部が有機基で置き換わった構造を持つ。リン酸エステルは、リン酸モノエステルでもよいし、リン酸ジエステルでもよいし、リン酸トリエステルでもよいが、リン酸トリエステルであることが
好ましい。すなわち、リン酸エステルは、式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
式(1)において、R1〜R3における有機基としては、鎖状又は環状のアルキル基や、鎖状又は環状のアルキル基の一部の水素をフッ素化したフッ素化アルキル基、フェニル基、などが好適である。アルキル基やフッ素化アルキル基は、例えば、炭素数が、1以上10以下のものとしてもよく、1以上6以下としてもよく、1以上3以下としてもよい。フッ素化アルキル基は、アルキル基の一部の水素がフッ素化していてもよいし全部の水素がフッ素化していてもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、などが好適である。また、フッ素化アルキル基としては、フッ素化メチル基、フッ素化エチル基、フッ素化プロピル基、などが好適であり、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、などがより好適である。有機基は、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、フッ素化メチル基、フッ素化エチル基、フッ素化プロピル基、からなる群より選ばれる1以上であることが好ましい。
【0025】
式(1)において、R1〜R3は3つ全てが同じであることが好ましい。例えば、R1〜R3の全てがメチル基であるリン酸トリメチルや、R1〜R3の全てがエチル基であるリン酸トリエチル、R1〜R3の全てが2,2,2−トリフルオロエチル基であるリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、などが好ましい。
【0026】
溶媒としてのリン酸エステルアミドは、リンと窒素との一重結合を1つ有するアミドリン酸ジエステルとしてもよいし、リンと窒素との一重結合を2つ有するジアミドリン酸エステルとしてもよいが、アミドリン酸ジエステルが好ましい。すなわち、リン酸エステルアミドは、式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0027】
【化2】
【0028】
式(2)において、R4、R5、X1及びX2における有機基としては、鎖状又は環状のアルキル基や、鎖状又は環状のアルキル基の一部の水素をフッ素化したフッ素化アルキル基、フェニル基、などが好適である。アルキル基やフッ素化アルキル基は、例えば、炭素数が、1以上10以下のものとしてもよく、1以上6以下としてもよく、1以上3以下としてもよい。フッ素化アルキル基は、アルキル基の一部の水素がフッ素化していてもよいし全部の水素がフッ素化していてもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、などが好適である。また、フッ素化アルキル基としては、フッ素化メチル基、フッ素化エチル基、フッ素化プロピル基、などが好適であり、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、などがより好適である。
【0029】
式(2)において、R4及びR5は、同じであることが好ましい。R4及びR5は、アルキル基でもよいし、フッ素化アルキル基でもよいし、フェニル基でもよいが、フッ素化アルキル基であることが好ましい。また、R4及びR5は、それぞれ、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、フッ素化メチル基、フッ素化エチル基、フッ素化プロピル基、からなる群より選ばれる1以上であることが好ましい。リン酸エステルアミドは、例えば、R4及びR5がメチル基であるアミドリン酸ジメチルや、R4及びR5がエチル基であるアミドリン酸ジエチル、R4及びR5が2,2,2−トリフルオロエチル基であるアミドリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)、などが好ましい。
【0030】
式(2)において、X1及びX2は、同じでも異なってもよい。X1及びX2は、それぞれ、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、からなる群より選ばれる1以上であることが好ましい。リン酸エステルアミドは、例えば、X1及びX2がメチル基であるジメチルアミドリン酸ジエステルや、X1及びX2がエチル基であるジエチルアミドリン酸ジエステル、X1がメチル基でX2がフェニル基であるメチルフェニルアミドリン酸ジエステル、などが好ましい。
【0031】
溶媒は、リン酸エステル及びリン酸エステルアミドの少なくとも一方のみからなることが好ましく、特に、環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含まないことが好ましい。エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートなどの、環状や鎖状のカーボネートを含むと、過充電時の発熱量が多くなるためである。
【0032】
非水電解液は、支持塩の含有量A(モル)の、溶媒の含有量B(モル)に対する比であるA/Bの値が1/4以上である。A/Bの値が1/4以上であれば、溶媒としてのリン酸エステルやリン酸エステルアミドの多くがLiイオンに配位された状態になるため、正極活物質から放出された酸素と溶媒との反応をより抑制できると考えられる。また、A/Bの値が1/4以上であれば、充放電容量などの電池性能が良好であると考えられる。A/Bの値は1/3以上がより好ましい。A/Bの上限は特に限定されないが、例えば、溶媒に対する支持塩の飽和量としてもよく、1未満が好ましく、2/3以下がより好ましい。なお、汎用の非水電解液、例えば、体積比で1:1のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒1LにLiPF6を1モル溶解させた非水電解液では、LiPF6と溶媒とがモル比で1:11.6で存在する。LiPF6、LiClO4、LiBF4等の公知の支持塩を用いた場合、これらの溶解度が低いため、支持塩の濃度を上記A/Bの範囲まで高めることができない。
【0033】
非水電解液は、N−メチル−プロピルピペリジウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどの公知のイオン液体と組み合わせて用いてもよい。イオン液体を組み合わせて用いる場合、イオン液体は、非水電解液(LiFSI、LiTFSI、リン酸エステル及びリン酸エステルアミドの合計)に対して20体積%以下の範囲で含むものとしてもよく、5体積%以上20体積%以下としてもよいし、5体積%以上10体積%以下としてもよい。
【0034】
本発明の非水電解液電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水系リチウム電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明の非水電解液電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。この非水電解液電池の一例を図1に示す。図1は、コイン型の非水電解液電池20の構成の概略を表す断面図である。この非水電解液電池20は、カップ形状のケース21と、正極活物質を有しこのケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、ケース21の開口部に配設されガスケット25を介してケース21を密封する封口板26と、を備えている。この非水電解液電池20は、正極22と負極23との間の空間に非水電解液27を備えている。この非水電解液電池20において、正極は、リチウム遷移金属複合酸化物を含んでいる。また、非水電解液27は、支持塩としてLiFSI及びLiTFSIの少なくとも一方と、溶媒としてリン酸エステル及びリン酸エステルアミドの少なくとも一方と、で構成され、支持塩の含有量A(モル)の溶媒の含有量B(モル)に対する比であるA/Bの値が1/4以上である。
【0036】
以上詳述した非水電解液電池では、発熱をより抑制できる。この理由は、以下のように推察される。例えば、LiFSIやLiTFSIをリン酸エステルにA/Bの値が1/4以上となるような高濃度で溶解させた非水電解液では、電解液中のリン酸エステル分子は、その多く(より好適な状態では全て)がリチウムイオンに配位していると考えられる。こうしたリン酸エステル分子は、自由に動き回る溶媒分子としてはほとんど(より好適な状態では全く)存在しないと考えられる。このため、正極活物質から放出される酸素と電解液に含まれるリン酸エステルとの反応などが抑制され、発熱をより抑制できると考えられる。なお、本発明の非水電解液電池では、リン酸エステル分子が、電池特性の低下につながる自由に動き回る溶媒分子として存在しないため、電池特性が良好である。また、本発明の非水電解液電池では、リン酸エステルが自己消火性に優れているため、着火しにくい。リン酸エステルに代えてリン酸エステルアミドを用いた場合にも、同様の理由により、発熱をより抑制でき、電池特性が良好であり、着火しにくいと考えられる。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0038】
以下には、本発明の電池を具体的に作製した例について、実施例として説明する。
【0039】
1.電解液の準備
[実験例1]
LiTFSI(関東化学製、以下同じ)と、リン酸トリメチル(式(1)におけるR1〜R3が全てCH3)と、がモル比で1:2(A/B=1/2)となる電解液を用いた。
[実験例2]
LiTFSIと、リン酸トリエチルと、がモル比で1:2(A/B=1/2)となる電解液を用いた。
[参考例1]
LiTFSIと、リン酸トリエチル(式(1)におけるR1〜R3が全てC25)と、がモル比で1:1(A/B=1/1)となる電解液を調製しようとしたが、LiTFSIの一部が溶解しなかった。
[実験例3]
LiFSI(キシダ化学製、以下同じ)と、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)(式(1)におけるR1〜R3が全てCH2CF3)(東京化成工業製)と、がモル比で1:2(A/B=1/2)となる電解液を用いた。
[実験例4]
LiFSIと、リン酸トリエチル(東京化成工業)と、がモル比で1:3(A/B=1/3)となる電解液を用いた。
[実験例5]
LiPF6(キシダ化学製)と、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒(体積比1:1)と、がモル比で1:8となる電解液を用いた。
[実験例6]
LiFSIと、ECとDMCの混合溶媒(体積比1:1)と、がモル比で1:2となる電解液を用いた。
[実験例7]
LiFSIと、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジメチルアミド(式(2)におけるR4及びR5がCH2CF3でX1及びX2がCH3)(東ソー製)と、がモル比で1:2(A/B=1/2)となる電解液を用いた。
[実験例8]
LiFSIと、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジエチルアミド(式(2)におけるR4及びR5がCH2CF3でX1及びX2がC25)(東ソー製)と、がモル比で1:2(A/B=1/2)となる電解液を用いた。
[実験例9]
LiFSIと、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルフェニルアミド(式(2)におけるR4及びR5がCH2CF3でX1がCH3でX2がC65)(東ソー製)と、がモル比で1:2(A/B=1/2)となる電解液を用いた。
【0040】
2.発熱量と発熱ピーク温度の測定
LiNiO2(戸田工業製、以下同じ)を98質量%、カーボンブラック(東海カーボン製、TB5500、以下同じ)を2質量%、の比率で乳鉢で乾式混合し、その混合物0.5gを2トンの加圧力で圧縮成形し、バインダー無しの正極を得た。この正極と金属Li、電解液LiPF6/EC+DEC(キシダ化学製)を用いてコインセル(宝泉製)を組み、25℃にて定電流定電圧充電方式により満充電となる4.2Vまで充電した。
【0041】
充電後、正極を取り出し、ジメチルカーボネートで洗浄、乾燥した後、正極2.5mgに対して、各実験例の電解液1.35μLを滴下し、密閉型容器に封印し、熱分析装置(島津製作所製)を用いて熱分析を実施し、発熱量と発熱ピーク温度をそれぞれ求めた。
【0042】
3.着火試験
ポリエチレンセパレータ(東燃化学製)を幅5mm、長さ30mmの短冊状に切り出し、これに各実験例の電解液を150μL塗布し、含浸させた。その後ガスバーナーで火を近づけ、着火の有無を目視で観察した。
【0043】
4.電池の充放電試験
正極は次のようにして作製した。LiNiO2を85質量部、導電助剤としてカーボンブラックを10質量部、バインダーとしてPVdF溶液(クレハ化学製、#1120、以下同じ)をPVdFの正味で5重量部、の比率でN−メチルピロリドン(NMP)とともに湿式混練し、ペースト状の正極合材を得た。得られた正極合材をAl箔上に塗工し、その後、150℃で真空乾燥してNMPを除いた。こうして得られた正極を直径14mmの円板に打ち抜き、正極として用いた。
【0044】
負極は次のようにして作製した。天然黒鉛(大阪ガス製)を95質量部、バインダーとしてPVdF溶液をPVdFの正味で5重量部、の比率でNMPとともに湿式混練し、ペースト状の負極合材を得た。得られた負極合材をCu箔上に塗工し、その後、150℃で真空乾燥してNMPを除いた。こうして得られた負極を直径14mmの円板に打ち抜き、負極として用いた。
【0045】
上記の正極と負極を用い、各実験例の電解液200μLとともに、ポリエチレン製セパレータ(東燃化学製、厚さ25μm)3枚を用いてコインセルを組み立て、北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続して、25℃にて0.05mAの定電流で4.1までの充電と、3.0Vまでの放電を繰り返した。
【0046】
[実験結果]
表1に、実験例1〜9の発熱量、発熱ピーク温度、着火試験の結果及び充放電試験の結果をまとめた。実験例1〜4,7〜9が本発明の実施例に相当し、実験例5〜6が比較例に相当する。
【0047】
【表1】
【0048】
LiTFSIとリン酸トリメチルとを含む電解液を用いた実験例1では、LiPF6とEC+DMCとを含む電解液を用いた実験例5に比べて発熱量が2.58W/g小さく、発熱ピークが18℃高温側にシフトした。また、着火試験において、実験例1は燃えなかった(着火無し)のに対し、実験例5は燃えた(着火有り)。以上より、実験例1では、発熱をより抑制できることがわかった。また、発熱ピークをより高温側にできるし、着火しにくいことがわかった。さらに、実験例1では充放電も良好であった。
【0049】
実験例1のリン酸トリメチルに代えてリン酸トリエチルを用いた実験例2では、実験例5に比べて、発熱量が1.73W/g小さく、発熱ピークが24℃高温側にシフトした。また、着火試験において燃えなかった。以上より、リン酸トリメチル以外のリン酸エステルも好適に使用できることがわかった。また、発熱量を減らす観点からはリン酸トリメチルが好ましく、発熱ピークをより高温側にする観点からはリン酸トリエチルが好ましいと推察された。
【0050】
実験例1のLiTFSIに代えてLiFSIを用い、リン酸トリメチルに代えてリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を用いた実験例3では、実験例5に比べて発熱量が1.65W/g小さく、発熱ピークが104℃高温側にシフトした。また、実験例3では、着火試験において燃えなかった。以上より、LiTFSIに代えてLiFSIも好適に使用できることがわかった。また、フッ素を含むリン酸エステルも好適に使用できることがわかった。参考として、図2に、実験例3と実験例5の熱分析結果を示す。また、図3に実験例3の1〜3サイクル目の充放電曲線を示す。図3より、実験例3では、充放電が良好に行われることがわかった。なお、実験例1,2,4も、実験例3と同様に、充放電が良好に行われた。
【0051】
また、実験例3のリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)に代えてリン酸トリエチルを用いた実験例4では、実験例5に比べて、発熱量が2.42W/g小さく、発熱ピークが22℃高温側にシフトした。また、着火試験において燃えなかった。実験例2と実験例4との比較から、LiTFSIよりもLiFSIのほうが発熱量を低減できると推察された。また、実験例3と実験例4との比較から、フッ素を含むリン酸エステルの方がフッ素を含まないリン酸エステルよりも発熱ピークを高温側にできると推察された。
【0052】
また、実験例3のリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)に代えてリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジメチルアミドを用いた実験例7では、実験例5に比べて、発熱量が0.73W/g小さく、発熱ピークが24℃高温側にシフトした。また、着火試験において燃えなかった。このことから、リン酸エステルアミドを用いた場合にも、リン酸エステルを用いた場合と同様の効果が得られると推察された。なお、リン酸エステルアミドでも、リン酸エステルと同様、フッ素を含むものでもフッ素を含まないものでも好適に用いることができると推察された。また、リン酸エステルアミドでも、リン酸エステルと同様、フッ素を含むものの方がフッ素を含まないものよりも発熱ピークを高温側にできると推察された。
【0053】
また、実験例7のリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジメチルアミドに代えてリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジエチルアミドを用いた実験例8では、実験例5に比べて、発熱量が1.18W/g小さく、発熱ピークが23℃高温側にシフトした。また、着火試験において燃えなかった。このことから、ジメチルアミド以外のリン酸エステルアミドも好適に使用できることがわかった。
【0054】
また、実験例7のリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジメチルアミドに代えてリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルフェニルアミドを用いた実験例9では、実験例5に比べて、発熱量が3.02W/g小さく、発熱ピークが50℃高温側にシフトした。また、着火試験において燃えなかった。このことから、リン酸エステルアミドでは、窒素に少なくとも1つのフェニル基が結合しているものがより好ましいことがわかった。
【0055】
一方、実験例3のリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)に代えてEC+DMCを用いた実験例6では、実験例5に比べて、発熱ピークが34℃高温側にシフトしたものの、発熱量が1.71W/g大きく、着火試験において燃えた。以上より、支持塩としてLiPF6ではなくLiFSIを用いた場合にも、ECやDMC等のカーボネート系溶媒も用いると発熱量が増加してしまうため、溶媒としてリン酸エステルを用いる必要があることがわかった。
【0056】
以上より、LiTFSI及びLiTFSIの少なくとも一方と、リン酸エステル及びリン酸エステルアミドの少なくとも一方と、を含み、A/Bの値が1/4以上である電解液を用いた電池では、発熱をより抑制できることがわかった。また、こうした電池では、発熱ピークをより高温側にすることができるし、着火しにくいこともわかった。また、実験例1〜9は、正極活物質としてLiNiO2を用いたが、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物であれば、LiNiO2と類似の性質を有すると考えられるため、LiNiO2と同様、好適に使用できると推察された。
【0057】
なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、電池産業のに利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
20 非水電解液電池、21 ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 非水電解液。
図1
図2
図3