【文献】
TEALDI Cristina, MUSTARELLI Piercarlo, ISLAM M. Saiful,Layered LaSrGa3O7-Based Oxide-Ion Conductors: Cooperative Transport Mechanisms and Flexible Structur,Advanced Functional Materials,ドイツ,Wiley-VCH,2010年 8月27日,Vol.20, No.22,p.3874-3880
【文献】
KUANG Xiaojun et al.,Interstitial oxide ion conductivity in the layered tetrahedral network melilite structure,nature materials,英国,Nature Publishing Group,2008年 5月18日,Vol.7 No.6,p.498-504
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、環境問題・エネルギー問題を解決するための有力な手段の一つである。特に、固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、(1)発電効率が高い、(2)多様な燃料に対応可能である、(3)小型分散電源から大規模火力代替システムまで幅広い適応性を持つ、(4)Pt触媒を必要としない、等の利点がある。
しかし、SOFC普及に向けて、作動温度(現状の作動温度:750℃)の低温化が鍵となっている。低温化(例えば、600℃)によって、(1)セルの耐久性向上(化学安定性)、(2)安価な筐体(安価なステンレス鋼)の使用、(3)起動停止時間の短縮、が可能となる。
【0003】
従来のSOFCは、750℃で運転しており、電解質としてイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を使用している。YSZの結晶構造は、蛍石構造であり、対称性の高い結晶構造である。そのため、YSZ中の酸素イオンは、3次元方向への空孔拡散によって移動する。しかし、YSZは、700℃以上でなければ、0.01S/cm以上の伝導度を達成できない。
これに対し、メリライト構造を持つ酸化物からなる固体電解質(メリライト電解質)は、対称性の低い結晶構造を持ち、特定方向に高いイオン伝導度を示す。そのため、低温作動のSOFC用の電解質として、メリライト電解質が検討されている。
【0004】
メリライト電解質としては、例えば、
(1)LaSrGa
3O
7(非特許文献1)、
(2)La
1.54Sr
0.46Ga
3O
7.27(非特許文献2)、
(3)La
1.64Ca
0.36Ga
3O
7.32(非特許文献3)、
(4)La
1.5Ca
0.5Ga
3O
7.25(非特許文献4)、
(5)(A
1+xB
1-x)GaGa
2O
7+x/2(但し、0≦x≦0.5;A=La、Nd;B=Ca、Sr)(非特許文献5)、
などが知られている。
【0005】
メリライト電解質は、600℃における伝導度がYSZのそれを超えるものが多い。特に、La
1.54Sr
0.46Ga
3O
7.27の600℃における伝導度は、0.01S/cmを超えている。しかし、SOFCの作動温度を低下させるためには、低温における伝導度をさらに向上させることが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Adv. Funct. Mater., 2010, 20, 3874-3880
【非特許文献2】Nat. Mater., 2008, 7, 498
【非特許文献3】Agew. Chem. Int. Ed., 2010, 49, 2362-2366
【非特許文献4】J. Mater. Chem. A, 2015, 3, 3091-2366
【非特許文献5】J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 15200-15211
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 固体電解質]
本発明に係る固体電解質は、メリライト構造を有し、次の(1)式で表される組成を有する。
La
2-yM
yX
3-zMg
zO
7+α ・・・(1)
但し、
Mは、Mg以外のアルカリ土類金属元素、
Xは、3価の金属元素、
0<y<2、0<z<3、αは、電気的中性が保たれる値。
【0012】
[1.1. メリライト構造]
図1に、元素MがSrであり、元素XがGaであるメリライト電解質の結晶構造の模式図を示す。メリライト電解質は、Ga−O配位4面体(X−O配位4面体)が2次元的に繋がったGa−O層(X−O層)と、Ga−O層の層間に挿入されたLa及びSr(元素M)とを備えている。Ga−O配位4面体の中心にはGa原子があり、頂点には酸素原がある。
図1に示すメリライト電解質において、酸素イオンはGa−O層に沿って拡散しやすい。そのため、Ga−O層に平行方向のイオン伝導度は、垂直方向のイオン伝導度に比べて高くなる。
【0013】
Ga−O層は、異なる2種類のGa−O配位4面体が頂点を共有する構造である。Ga(1)は、4つのO(3)と結合しており、すべての酸素イオンがGa(2)−O配位4面体と頂点を共有している。また、Ga(2)−O配位4面体は、1つのO(1)、1つのO(2)、及び2つのO(3)と結合している。O(3)は、Ga(1)−O配位4面体と頂点を共有しており、O(1)は、Ga(2)−O配位4面体同士で頂点を共有している。O(2)は、Ga(1)−O配位4面体と頂点を共有しておらず、非架橋酸素の状態で存在している。
O(4)は、Ga−O層内に存在する格子間酸素であり、イオン伝導源となっている。O(4)量は、La/Sr比に依存する。つまり、La/Sr比が大きいほど、O(4)量が多く、イオン伝導度も高くなる。Sr以外の元素Mも同様であり、2価の元素Mに対し、3価のLa量が多いほど、格子内の酸素量(O(4))が増える。La/Sr比を変えられる理由は、La、Srのイオン半径が、それぞれ、1.13Å(0.113nm)、1.21Å(0.121nm)であり、また、電気陰性度が、それぞれ、1.03、0.99であり、イオン半径及び電気陰性度の値がほぼ同じであるからである。
【0014】
Ga(1)−O配位4面体の中心が2aサイトであり、2aサイトは、Ga(1)(元素X(1))のみにより占有される。すなわち、Ga(1)は、Mgにより置換されない。
一方、Ga(2)−O配位4面体の中心が4eサイトであり、4eサイトは、Ga(2)(元素X(2))及びMgにより占有される。Ga(2)及びMgは、4eサイトを任意の比率で占有することができる。
層間のサイトがLaサイトであり、Laサイトは、La及びSr(元素M)により占有される。La及びSr(元素M)は、Laサイトを任意の比率で占有することができる。
【0015】
[1.2. 元素M]
元素Mは、Mg以外のアルカリ土類金属元素(Be、Ca、Sr、Ba、Ra)を表す。メリライト電解質は、1種類の元素Mを含んでいても良く、あるいは、2種以上を含んでいても良い。
元素Mを含むメリライト電解質は、高いイオン伝導度を示す。これは、Laの一部を元素Mで置換することによって、O(4)量が増えるためである。
特に、元素MとしてSrを含むメリライト電解質は、高いイオン伝導度を示す。これは、イオン半径及び電気陰性度がLaに近く、La/M比を最適化するのが容易であるためである。
なお、Mgは、アルカリ土類金属元素であるが、Laサイトを占有することはない。これは、イオン半径や電気陰性度が関係していると考えられる。
【0016】
[1.3. 元素X]
元素Xは、3価の金属元素を表す。元素Xとしては、例えば、Ga、Al、Inなどがある。メリライト電解質は、1種類の元素Xを含んでいても良く、あるいは、2種以上を含んでいても良い。
元素Xを含むメリライト電解質は、高いイオン伝導度を示す。これは、元素Xを含むメリライト電解質は、キャリアーとなる酸素イオン(O(4)イオン)が格子内で動きやすいためと考えられる。
特に、元素XとしてGa及び/又はAlを含むメリライト電解質は、高いイオン伝導度を示す。なお、Ga−OよりAl−Oの方がイオン結合が強いので、Ga含有メリライトよりAl含有メリライトの方が、高イオン伝導性を示す可能性がある。
【0017】
[1.4. y]
yは、Laサイトを占有する元素Mの割合を表す。yは、メリライト結晶構造を維持できる限りにおいて、0<y<2の範囲内の値を取ることができる。
【0018】
元素Mに対するLaの比(La/M比)は、メリライト電解質のイオン伝導度に影響を与える。一般に、La/M比が大きくなるほど、イオン伝導度が高くなる。600℃において0.01S/cm以上のイオン伝導度を得るためには、La/M比(=(2−y)/y)は、1.9以上が好ましい。La/M比は、好ましくは、2.3以上、さらに好ましくは、2.5以上である。
一方、La/M比が過剰になると、かえってイオン伝導度が低下する。従って、La/M比は、4.0以下が好ましい。La/M比は、さらに好ましくは、3.5以下である。
【0019】
[1.5. z]
zは、Mgのドープ量を表す。zは、メリライト構造を維持できる限りにおいて、0<z<3の範囲内の値を取ることができる。
【0020】
一般に、Mg量が多くなるほど、酸素イオンが動きやすくなり、イオン伝導度が増加する。このような効果を得るためには、zは、0超が好ましい。zは、好ましくは、0.02以上、さらに好ましくは、0.03以上である。
Mgのドープ量の上限は、La/M比に依存する。一般に、La/M比が大きくなるほど、ドープ可能なMg量が少なくなる。過剰に添加されたMgは、MgOとしてメリライト電解質中に分散し、イオン伝導度を低下させる原因となる。従って、zは、0.20以下が好ましい。zは、さらに好ましくは、0.15以下である。
【0021】
[1.6. α]
αは、メリライト電解質の電気的中性が保たれる値を表す。αは、極端な還元雰囲気下で材料合成を行わない限り、メリライト電解質に含まれるカチオンの比率でほぼ決まる。
αは、形式的には、(1−y−z)/2と表せる。しかし、実際には、酸素空孔の形成等により、理論値より若干増減することがある。
【0022】
[2. 固体電解質の製造方法]
本発明に係る固体電解質は、
(a)金属元素の量が所定の比率となるように原料を混合し、
(b)混合粉を固相反応(仮焼)させることにより、目的とする結晶相を生成させ、
(c)仮焼粉を成形し、
(d)成形体を酸化雰囲気下において焼結させる
ことにより製造することができる。
各工程の条件は、特に限定されるものではなく、固体電解質の組成に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。
【0023】
[3. 作用]
La及び3価の金属元素(X)を含むメリライト電解質は、対称性の低い結晶構造を持ち、イオン伝導度に異方性がある。このようなメリライト電解質において、Laの一部を元素Mで置換し、かつ、La/M比を最適化すると、低温における伝導度が向上する。これは、結晶構造内の酸素イオンの内、キャリアーとなる酸素イオン(O(4)イオン)の量が増加するためと考えられる。
【0024】
さらに、元素Xの一部をMgで置換すると、低温における伝導度がさらに向上する。組成を最適化すると、600℃における伝導度が従来型電解質(YSZ)の約10倍以上(0.02S/cm)となる。これは、以下の理由によると考えられる。
【0025】
すなわち、Gaと酸素との電気陰性度の差は1.68であるのに対し、Mgと酸素との電気陰性度の差は2.27である。そのため、酸素との電気陰性度差が元素Xより大きいMgをドープすると、メリライト電解質のイオン結合性が大きくなる。
さらに、元素Xは3価であるのに対し、Mgは2価である。そのため、価数が元素Xより小さいMgをドープすると、メリライト電解質中の酸素空孔の量が増大する。
その結果、これらの効果により、キャリアーとなる酸素イオンが格子内でさらに動きやすい状態となると考えられる。
【実施例】
【0026】
(実施例1〜2、比較例1〜2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 原料混合及び仮焼]
原料として、炭酸ストロンチウム、酸化ランタン、酸化ガリウム、及び酸化マグネシウムを使用した。組成がLa
2-ySr
yGa
3-zMg
zO
7+α(y=0.7〜0.46、z=0〜0.04)となるように原料を計量した。これをφ2mmのジルコニアボールが入った500ccポットに入れ、さらに250ccのエタノールを投入した。ボールミル法によって15時間攪拌し、粉砕混合した。
混合後、80℃下でエタノール蒸留、及び粉体の乾燥を15時間行った。次に、ボールと乾燥粉の混合物をふるい(60メッシュ)にかけ、混合粉を分離させた。
【0027】
上記混合粉を坩堝に入れ、大気中、1300℃×15時間、加熱炉で仮焼させた。さらに仮焼後の試料をふるい(60メッシュ)分けした。ふるい分けした仮焼サンプル10gとエタノール(250cc)をφ2mmのジルコニアボールが入った500ccポットに入れ、ボールミル法によって15時間粉砕した。
粉砕後、80℃下でエタノール蒸留、及び粉体の乾燥を15時間行った。次に、ボールと仮焼粉の混合物をふるい(60メッシュ)にかけ、仮焼粉を分離した。
【0028】
次に、仮焼粉10gに、添加剤として5%PVA(ポリビニルアルコール)4gと、溶媒としてエタノール4gを加えて混合し、室温下で24時間静置した。その後、乾燥機(80℃)で15時間、乾燥させた。
【0029】
[1.2. 電解質膜作製(焼結体作製)]
添加剤を加えた仮焼粉1.5gを、2cmφの錠剤成型器に入れ、油圧プレス(プレス圧:26kN)により2cmφのペレットを作製した。2cmφのペレットを大気中、1400℃×50時間、加熱炉で反応させ、1.7cmφ(厚さ:1mm)の焼結体を得た。
【0030】
[2. 試験方法]
[2.1. X線回折]
得られた焼結体について、X線回折を行った。また、リートベルト解析を用いて、結晶構造の解析を行った。
[2.2. 伝導度測定]
焼結体の上下面に白金電極を付け、LCRメーターを用いて、2端子で膜厚方向のコンダクタンスを評価した。測定は、大気雰囲気下において、最高800℃まで行った。
【0031】
[4. 結果]
[4.1. X線回折]
図2に、La
1.35Sr
0.65Ga
2.96Mg
0.04O
7.26(実施例1)のXRDパターンを示す。また、表1に、そのリートベルト解析結果を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
図3に、La
1.33Sr
0.67Ga
3O
7.1(比較例1)のXRDパターンを示す。また、表2に、そのリートベルト解析結果を示す。
【0034】
【表2】
【0035】
図4に、La
1.54Sr
0.46Ga
2.87Mg
0.13O
7.21(実施例2)のXRDパターンを示す。また、表3に、そのリートベルト解析結果を示す。
【0036】
【表3】
【0037】
さらに、
図5に、La
1.54Sr
0.46Ga
3O
7.27(比較例2)のXRDパターンを示す。また、表4に、そのリートベルト解析結果を示す。
なお、
図2〜
図5において、「I
obs」は実測値、「I
cal」は計算値、「I
obs−I
cal」は実測値と計算値との差をそれぞれ表す。
【0038】
【表4】
【0039】
図2〜5及び表1〜4より、
(1)Mg
2+が2aサイトを置換するモデルでは、Mgの占有率が負になること、
(2)Mg
2+が4eサイトを置換するモデルでは、Mgの占有率が正になること、及び
(3)Mg
2+が2aサイトと4eサイトの双方を置換するモデルでは、Mgの占有率が負になること、
がわかった。
すなわち、リートベルト解析から、Mgは、4eサイトに入ることがわかった。
【0040】
[4.2. 伝導度]
図6に、メリライト電解質及びYSZの伝導度の温度依存性を示す。また、表5に、各電解質の伝導度を示す。
【0041】
【表5】
【0042】
メリライトのGaサイトにMgをドープすることにより、伝導度が向上することを確認した。例えば、同等のLa/Sr比で比較すると、La
1.35Sr
0.65Ga
2.96Mg
0.04O
7.26、及びLa
1.33Sr
0.67Ga
3O
7.1の伝導度(600℃)は、それぞれ、0.01S/cm及び0.0034S/cmであり、Mgドープにより伝導度が2.9倍向上した。
また、La
1.54Sr
0.46Ga
2.87Mg
0.13O
7.21、及びLa
1.54Sr
0.46Ga
3O
7.37の伝導度(600℃)は、それぞれ、0.0203S/cm、及び、0.019S/cmであり、Mgドープにより伝導度が向上した。
一方、YSZの伝導度(600℃)は、0.0023S/cmであった。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。