特許第6288053号(P6288053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アンデン株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6288053-車両接近通報装置 図000003
  • 特許6288053-車両接近通報装置 図000004
  • 特許6288053-車両接近通報装置 図000005
  • 特許6288053-車両接近通報装置 図000006
  • 特許6288053-車両接近通報装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288053
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】車両接近通報装置
(51)【国際特許分類】
   B60Q 5/00 20060101AFI20180226BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   B60Q5/00 650A
   B60Q5/00 620A
   B60Q5/00 630B
   B60Q5/00 640Z
   B60Q5/00 660Z
   H04R1/02 102B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-232034(P2015-232034)
(22)【出願日】2015年11月27日
(65)【公開番号】特開2017-95060(P2017-95060A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2016年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390001812
【氏名又は名称】アンデン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 仁史
(72)【発明者】
【氏名】田治見 大生
(72)【発明者】
【氏名】山本 力
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智則
(72)【発明者】
【氏名】松井 唯史
【審査官】 津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−080992(JP,A)
【文献】 特開2013−126781(JP,A)
【文献】 特開2009−101895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発音する接近通報音データを記憶したメモリ部(21a)と、前記メモリ部(21a)から前記接近通報音データを読み出すと共に、前記接近通報音データに基づいて発音を行う車両の接近通報音を表す接近通報音電圧波形信号を生成する信号生成部(21b)と、を有するマイコン(21)を有し、前記マイコン(21)が出力する発音出力に基づいて発音体(3)から接近通報音を発生させることで、車両の接近を通報する車両接近通報装置において、
前記マイコン(21)は、
前記発音体(3)の温度である発音体温度を推定演算する演算部(21d)と、
前記演算部(21d)で推定演算した発音体温度に基づいて前記接近通報音を補正する補正部(21e)と、を有し、
前記演算部(21d)は、車両のうち前記発音体(3)と異なる位置に備えられた温度センサ(1a〜1c)で検出された温度に関する情報を取得し、該取得した温度に基づいて前記発音体温度を推定演算することを特徴とする車両接近通報装置。
【請求項2】
前記演算部(21d)は、前記温度センサとして、外気温センサ(1c)で検出された外気温に関する情報を取得し、該外気温に基づいて前記発音体温度を推定演算することを特徴とする請求項1に記載の車両接近音通報装置。
【請求項3】
前記演算部(21d)は、前記温度センサとして、前記発音体(3)と異なる車載機器の温度を検出する温度センサ(1c)で検出された前記車載機器の温度に関する情報を取得し、前記外気温と前記車載機器の温度とに基づいて前記発音体温度を推定演算することを特徴とする請求項2に記載の車両接近音通報装置。
【請求項4】
前記メモリ部は、複数の前記車載機器それぞれの温度に対する前記発音体(3)の温度の相関関係を示す情報を記憶しており、
前記演算部(21d)は、取得した複数の前記車載機器それぞれの温度に関する情報と前記相関関係とから、複数の前記車載機器の温度に基づく前記外気温からの前記発音体温度の変化を演算することを特徴とする請求項3に記載の車両接近音通報装置。
【請求項5】
前記演算部(21d)は、前記外気温および取得した複数の前記車載機器それぞれの温度に対して所定の係数(a1、b1、c1)を乗算した値の合計から前記発音体温度を演算することを特徴とする請求項4に記載の車両接近音通報装置。
【請求項6】
前記演算部(21d)は、車速に関する情報を取得し、前記車速に対応する前記発音体(3)の自然空冷係数(k2)を前記車速に乗算した値を前記合計から差し引くことで前記発音体温度を演算することを特徴とする請求項5に記載の車両接近音通報装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両から音声を発生させることにより、車両が接近していることを周囲に通報する車両接近通報装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV車)やハイブリッド車(HV車)などでは、その構造的に発生騒音が小さく、これらの車両の接近を歩行者が気付き難いということから、歩行者などの周囲に車両が近くにいるという認知度を上げるために、擬似走行音を発生させる車両接近通報装置が搭載されつつある。
【0003】
この車両接近通報装置では、スピーカを介して擬似走行音などの接近通報音を発音しており、通報性と騒音性の双方を考慮してスピーカ出力音圧が設定される。また、スピーカの温度に応じてスピーカに備えられているボイスコイルの抵抗値が変化し、それに基づいてスピーカ出力音圧が変化する。このため、温度センサをスピーカの近傍もしくはスピーカの内部に取り付けることによってスピーカの温度を検出し、ボイスコイルの抵抗値の変化を加味した温度補正を行うことでスピーカ出力音圧が所望の音圧となるように制御している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/184829号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにスピーカの近傍もしくはスピーカの内部に温度センサを備える場合、スピーカの温度検出のみの為に追加部品として温度センサを備えることになる。
【0006】
また、スピーカのボイスコイルの抵抗値の変化のみを考慮した補正であるため、単純にスピーカへの入力電圧の増減のみしか行われていない。ところが、スピーカの温度特性はボイスコイルの抵抗値とコーン紙の硬度等の影響もあり、周波数特性(周波数−スピーカ出力音圧特性)にも影響しているため、出力される音の周波数ズレが生じて所望の音よりも小さく聞こえたり大きく聞こえたりするなどの問題を生じさせる。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、スピーカなどの発音体の温度検出のみの為に追加部品として温度センサを備えなくても、発音体の出力音圧の温度補正を行うことができる車両接近通報装置を提供することを第1の目的とする。また、発音体温度の変化が生じても聞こえる接近通報音の変化が少なくなるようにすることができる車両接近通報装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、発音する接近通報音データを記憶したメモリ部(21a)と、メモリ部(21a)から接近通報音データを読み出すと共に、接近通報音データに基づいて発音を行う車両の接近通報音を表す接近通報音電圧波形信号を生成する信号生成部(21b)と、を有するマイコン(21)を有し、マイコン(21)が出力する発音出力に基づいて発音体(3)から接近通報音を発生させることで、車両の接近を通報する車両接近通報装置において、マイコン(21)は、発音体(3)の温度である発音体温度を推定演算する演算部(21d)と、演算部(21d)で推定演算した発音体温度に基づいて接近通報音を補正する補正部(21e)と、を有し、演算部(21d)は、車両のうち発音体(3)と異なる位置に備えられた温度センサ(1a〜1c)で検出された温度に関する情報を取得し、該取得した温度に基づいて発音体温度を推定演算することを特徴としている。
【0009】
このように、発音体温度に応じて接近通報音を補正することで温度変化に伴う接近通報音の変化を抑制できる。そして、発音体(3)とは異なる位置に備えられた他の車載機器の温度を示す温度センサ(1b、1c)の検出結果を用いることで、発音体温度を推定演算している。このため、発音体(3)の温度検出のみの為に温度センサを備えなくても、発音体(3)の出力音圧の温度補正を行うことができる車両接近通報装置とすることが可能となる。
【0010】
例えば、請求項2に記載したように、演算部(21d)は、温度センサとして、外気温センサ(1c)で検出された外気温に関する情報を取得し、該外気温に基づいて発音体温度を推定演算することができる。
【0011】
また、請求項3に記載したように、演算部(21d)は、温度センサとして、発音体(3)と異なる車載機器の温度を検出する温度センサ(1c)で検出された車載機器の温度に関する情報を取得し、外気温と車載機器の温度とに基づいて発音体温度を推定演算することができる。
【0012】
具体的には、請求項4に記載したように、メモリ部に、複数の車載機器それぞれの温度に対する発音体(3)の温度の相関関係を示す情報を記憶し、演算部(21d)にて、取得した複数の車載機器それぞれの温度に関する情報と相関関係とから、複数の車載機器の温度に基づく外気温からの発音体温度の変化を演算することができる。
【0013】
より詳しくは、請求項5に記載したように、演算部(21d)にて、外気温および取得した複数の車載機器それぞれの温度に対して所定の係数(a1、b1、c1)を乗算した値の合計から発音体温度を演算することができる。
【0014】
請求項6に記載の発明では、演算部(21d)は、車速に関する情報を取得し、車速に対応する発音体(3)の自然空冷係数(k2)を車速に乗算した値を合計から差し引くことで発音体温度を演算することを特徴としている。
【0015】
このように、車速に対応する発音体(3)の自然空冷についても加味して発音体温度を演算することで、より発音体温度を的確に推定演算することができる。
【0016】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態にかかる車両接近通報装置を含む車両接近通報システムのブロック図である。
図2】スピーカボイスコイルの抵抗率の温度特性を示した図である。
図3】温度と音圧レベルとの関係を示した図である。
図4】スピーカ周波数特性および音源特性を示した図である。
図5】発音出力に対するボイスコイルの温度変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態にかかる車両接近通報装置を含む車両接近通報システムのブロック図である。この図を参照して、本実施形態にかかる車両用接近通報装置を含む車両接近通報システムについて説明する。
【0020】
図1に示すように、車両接近通報システムは、情報入力部1と車両接近通報装置2およびスピーカ3とを有した構成とされている。車両接近通報システムでは、車両接近通報装置2が情報入力部1から伝えられる各種情報に基づいて、ロードノイズが小さな低速走行時に発音体であるスピーカ3から擬似走行音を発音することで、車両の接近を周囲の歩行者などに通報する。なお、ここでは、車両接近通報装置2をスピーカ3と別体としているが、スピーカ3を車両接近通報装置2と一体化した構成としても良い。
【0021】
情報取得部1は、各種センサ1a〜1cからの情報やエンジン制御用の電子制御装置(以下、エンジンECUという)1dからの情報を車両接近通報装置2に対して入力するものである。各種センサ1a〜1cとしては、車速センサ1a、液温センサ1b、外気温1cが挙げられる。
【0022】
車速センサ1aは、車両の車速検知信号を出力し、車両接近通報装置2に対して入力する。液温センサ1bは、ラジエータ水の温度を示す水温検知信号もしくはエンジンオイルの油温を示す油温検知信号を出力し、車両接近通報装置2に対して入力する。液温センサ1bは、ラジエータ水の温度もしくはエンジンオイルの温度のいずれかを検出する1つの温度センサであっても良いし、それぞれ別々に検知結果を車両接近通報装置2に伝える2つの温度センサであっても良い。外気温センサ1cは、車室外の外気温を示す外気温検知信号を出力し、車両接近通報装置2に対して入力する。エンジンECU1dは、エンジン制御に用いられる種々の物理量の値などを扱っており、その中からエンジン作動時間に関する情報を車両接近通報装置2に対して入力する。
【0023】
各センサ1a〜1cの検知信号やエンジンECU1dからの情報は、例えば車内LANなどを通じて車両接近通報装置2に対して入力されるようになっている。また、ここでは各センサ1a〜1cの検知信号がそのまま車両接近通報装置2に対して入力される形態を示しているが、車両に備えられている他の電子制御装置(以下、ECUという)において扱われている車速情報や温度情報を車両接近通報装置2に対して入力するようにしても良い。
【0024】
例えば、メータ制御用のECUにおいて、車速センサ1aの車速検知信号を入力して車速を取得していることから、その車速情報を車両接近通報装置2に対して入力するようにしても良い。また、エンジンECU1dにおいて、液温センサ1bの検知信号に基づいてラジエータ水やエンジンオイルの温度を取得していることから、それらの温度情報を車両接近通報装置2に対して入力するようにしても良い。また、車両用空調装置(エアコン)の制御用のECUにおいて、外気温センサ1cの検知信号に基づいて外気温を取得していることから、その外気温情報を車両接近通報装置2に対して入力するようにしても良い。
【0025】
なお、ここで説明した液温センサ1bや外気温センサ1cとしては、車両に搭載されているものを用いており、スピーカ3の温度(以下、スピーカ温度という)を検出する為のみに追加部品として備えているものではない。
【0026】
車両接近通報装置2は、情報入力部1からの各種情報、すなわち車速、液温および外気温やエンジン作動時間に関する情報に応じて発音の制御を行う。具体的には、車両接近通報装置2は、マイコン21とローパスフィルタ(以下、LPFという)22およびパワーアンプ(以下、AMPという)23を有している。
【0027】
マイコン21は、メモリ部21a、信号生成部21b、取得部21c、演算部21d、音圧・周波数補正部21eおよび出力時間演算部21fを有した構成とされている。
【0028】
メモリ部21aは、接近通報音の音源データとなる接近通報音データや各種制御プログラムなどを記憶する部分である。例えば、メモリ部21aには、PCMデータなどの接近通報音データ、スピーカ温度に対応付けた補正演算プログラムを含む車両の接近通報音の発音の制御プログラムなどが記憶されている。
【0029】
信号生成部21bは、メモリ部21aに記憶された接近通報音データに基づいて、その音を出力するための接近通報音電圧波形信号を生成する。
【0030】
取得部21cは、情報入力部1から各種情報を取得する部分である。上記したように、情報入力部1が車速センサ1a、液温センサ1b、外気温センサ1cからの各種検知信号やECU1dからの車両の走行可能状態に関する情報を入力することから、取得部1は、これら各種情報を取得する。
【0031】
ここで取得する各種情報は、スピーカ温度の変化の外部要因となる情報である。すなわち、車速が大きくなると、スピーカ3への風当たりが強くなり、スピーカ温度低下が生じ得る。また、ラジエータの温度やエンジン温度など、スピーカ3の周囲に存在している部材の温度の影響によってスピーカ温度が変動し得る。同様に、外気温の影響によってもスピーカ温度が変動し得る。このように、取得部21cは、情報入力部1から各種情報を入力することで、スピーカ温度を変化させ得る外部要因のパラメータの各値を取得している。
【0032】
なお、情報入力部1から伝えられる情報が各種センサ1a〜1cによる各種検出信号である場合には、取得部21cは、その各種検出信号に基づいて、車速、ラジエータ水の水温、エンジンオイルの油温、外気温などを求めている。
【0033】
演算部21dは、取得部21cで取得した各種情報や、後述する出力時間演算部21fから伝えられるスピーカ3での発音の出力時間に基づいて、スピーカ温度を推定演算する。なお、演算部21dによる演算の手法については後述する。
【0034】
音圧・周波数補正部21eは、演算部21dで演算したスピーカ温度に基づいて、スピーカ3から発音する際のスピーカ出力音圧の振幅および出力する音の周波数を補正するように、接近通報音電圧波形信号を補正する。そして、補正後のスピーカ出力音圧および周波数の接近通報音電圧波形信号をLPF22に伝えている。この音圧・周波数補正部21eによる補正の手法については後述する。
【0035】
出力時間演算部21fは、スピーカ3から発音を行うときの出力時間を演算し、その出力時間を演算部21dに伝える。スピーカ温度は発音を行った際の出力時間に応じて上昇する。このため、スピーカ3の出力時間は、スピーカ温度の変化の内部要因となる情報となる。
【0036】
出力時間演算部21fは、例えば、車両が走行してスピーカ3から発音が行われると、発音が停止するまでの間、出力時間を積算する。出力時間演算部21fによる出力時間の積算は車両の始動中行われ、車両の始動が解除されるとリセットされる。車両が始動中であるか否かは例えば車両の走行可能状態に基づいて判定することができ、出力時間演算部21gは、車両が始動中において、出力時間の積算を行っている。また、出力時間演算部21fは、スピーカ3からの発音を停止してからの経過時間を出力時間と共に演算部21dに伝えている。すなわち、スピーカ3からの発音が停止するとスピーカ温度が低下することから、発音を停止してからの経過時間を演算部21dに伝えることで、出力時間に基づくスピーカ温度上昇と、発音を停止してからのスピーカ温度低下を加味して、より正確にスピーカ温度を演算できるようにしている。
【0037】
LPF22は、フィルタ部に相当し、マイコン21から出力された接近通報音電圧波形信号を入力し、高周波のノイズ成分を除去して、ノイズ成分除去後の接近通報音電圧波形信号を発生させる。例えば、LPF22は、出力に対応する電圧を内蔵のコンデンサに蓄え、それをAMP23に出力している。
【0038】
AMP23は、図示しない定電圧源からの電圧印加に基づいてLPF22の出力と対応する電流をスピーカ3に流す。スピーカ3が発音する音圧は、AMP23から供給される電流の大きさ(振幅)に応じて決まり、AMP23から供給される電流の大きさは、PWM出力に対応するLPF22の出力波形によって決まる。このため、スピーカ温度に基づく補正後の接近通報音電圧波形信号に基づいてAMP23が流す電流を変化させられる。
【0039】
スピーカ3は、AMP23を通じて送られてくる接近通報音電圧波形信号に応じた周波数、音圧レベルで接近通報音の発音を行うものである。スピーカ3にはボイスコイルが備えられており、このボイスコイルに接近通報音電圧波形信号が伝わると、ボイスコイルが動かされ、その動きが振動板に伝わることで接近通報音に変換される。
【0040】
次に、上記した音圧・周波数補正部21eでの補正の手法および演算部21dによるスピーカ温度の推定演算方法について説明する。
【0041】
音圧・周波数補正部21eでは、スピーカ温度に応じて接近通報音電圧波形信号の電圧レベルの補正を行う。具体的には、後述するように、接近通報音電圧波形信号の振幅係数k1を演算している。そして、音圧・周波数補正手段21eは、演算された振幅係数k1を接近通報音電圧波形信号に掛け合わせることで、音圧補正後の接近通報音電圧波形信号を生成している。
【0042】
具体的には、音圧・周波数補正手段21eは、メモリ部21aに記憶された演算式もしくはマップを用いて、演算部21fで取得されたスピーカ温度に対応する振幅係数k1を演算している。メモリ部21aには、スピーカ3が搭載される場所の温度変化として想定される温度範囲内における温度と音圧レベルとの関係を示した演算式もしくはマップを記憶してあり、その演算式にスピーカ温度を代入して振幅係数k1を演算したり、マップからスピーカ温度に対応する振幅係数k1を選択している。なお、スピーカ温度については、後述するように演算部21dで行われる推定演算の結果を用いている。
【0043】
図2は、スピーカ3に備えられたボイスコイルの抵抗率の温度特性を示した図であり、図3は、温度と音圧レベルとの関係を示した図である。
【0044】
図2に示すように、例えば、スピーカ3のボイスコイル材料は銅であり、銅の抵抗率の温度係数が約4000ppm/℃となるため、ボイスコイルインピーダンスは、−40℃から110℃迄の150℃幅で約60%変化することになる。
【0045】
このため、図3の破線で示したように、温度変化に伴って接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを変更しなかった場合、実際にスピーカ3から出力される接近通報音の音圧レベルは温度上昇に伴って低下する。例えば、−40〜110℃に変化した場合のように、150℃幅だと温度変化の影響だけで単純に4dB低下してしまう。したがって、音圧・周波数補正手段21eにてスピーカ温度に応じた振幅係数k1を演算し、その振幅係数k1を接近通報音電圧波形信号に掛け合わせることでスピーカ3での発音の音圧レベルを補正でき、スピーカ3から接近通報音を発音したときに、その音圧レベルが一定値となるようにする。
【0046】
具体的には、スピーカ温度が高くなるほど振幅係数k1が大きくなるような値とすることで接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを補正している。例えば、スピーカ3での発音の音圧レベルが常温(25℃程度)を基準として設定されていて、その基準となる温度での音圧レベルが通報性も騒音性も両方共に満足する値に設定してある場合には、その温度を基準として、その温度以下であれば振幅係数k1をk1<1として接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを下げ、その温度以上であれば振幅係数k1をk1>1として接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを上げるようにしている。これにより、スピーカ3での発音の音圧レベルが図3中の破線で示した温度特性となるのに対して図3中の実線で示すような一定値となるようにできる。
【0047】
なお、スピーカ3からの発音の音圧レベルを一定値としているが、一定値とは、必ずしも全く同じ固定の音圧レベルである必要はなく、ある程度幅を持たせた値、例えば使用温度範囲における音圧レベルの変化が所定範囲(例えば2dB)以内となるようにしても良い。
【0048】
また、音圧・周波数補正部21eでは、スピーカ温度に応じて接近通報音電圧波形信号の周波数の補正を行う。通常、接近通報音として用いる音源データの特性(以下、音源特性という)についてはスピーカ3の周波数特性(以下、スピーカ周波数特性という)に応じて設定するため、スピーカ周波数特性の変化は意図せぬ音圧変動や音色の変化を生じさせる可能性がある。そして、スピーカ周波数特性は、スピーカ3に備えられている図示しないコーン紙の温度変化に基づく硬度変化によって変動することから、スピーカ温度変化によるスピーカ周波数特性の変動に対応して、音圧・周波数補正部21eで、スピーカ周波数特性の変化量に合わせて接近通報音の音程を微調整することで補正する。この補正を、上記したスピーカ温度に対応する音圧の振幅の補正と組み合わせて行っている。
【0049】
例えば、図4に示すように、スピーカ周波数特性や音源特性は、スピーカ温度、より詳しくはコーン紙の温度変化に基づく硬度変化によって変動する。すなわち、コーン紙の硬度によってコーン紙の共振周波数が決まることから、コーン紙の温度変化に起因する硬度変化に伴って共振周波数が変化し、スピーカ周波数特性や音源特性が変化する。スピーカ周波数特性については、山状の波形で示され、スピーカ温度が低温、常温、高温の場合それぞれでピークをとるときの周波数が変化し、スピーカ温度が低いほどピークをとるときの周波数が高くなる。また、音源特性については、音源として使用する周波数帯域中における低周波数帯と高周波数帯それぞれで代表的な2つの成分の効率(能率)の変化を示してあるが、スピーカ温度が低温、常温、高温の場合それぞれで効率が変化しており、スピーカ温度が高いほど効率が低下する。
【0050】
このため、スピーカ温度に基づいて接近通報音の周波数を補正し、音程を微調整する。例えば、スピーカ温度が常温よりも高いと接近通報音の周波数を常温のときよりも上げると共に、スピーカ温度が常温よりも低いと接近通報音の周波数を常温のときよりも下げるようにし、スピーカ周波数特性が常温に近づくように補正する。また、スピーカ温度に基づいて接近通報音として使用している周波数帯域中の各成分の音圧を変化させる。例えば、スピーカ温度が常温よりも高いと接近通報音の接近通報音の周波数成分の音圧を低くすると共に、スピーカ温度が常温よりも低いと接近通報音の接近通報音の周波数成分の音圧を高くすることで音源特性が常温に近づくようにする。これにより、スピーカ温度の変化が生じても聞こえる接近通報音の変化が少なくなるようにすることができる。
【0051】
このように、音圧・周波数補正部21eにて、スピーカ音に応じて接近通報音の音圧の振幅や周波数を補正している。これにより、スピーカ温度の変化が生じても聞こえる接近通報音の変化が少なくなるようにすることができる。
【0052】
次に、演算部21dによるスピーカ温度の推定演算の手法について説明する。スピーカ温度の推定は、スピーカ3の周囲の雰囲気温度(以下、スピーカ雰囲気温度という)の推定とスピーカ3に備えられるボイスコイルの温度上昇推定とによって行われる。
【0053】
スピーカ雰囲気温度、換言すればボイスコイルの雰囲気温度は、エンジン・ラジエータ等を熱源として、他の車載機器により上昇する。スピーカ3の搭載位置における雰囲気温度と、車両通信から取得できる水温や油温および外気温の温度情報との相関を予め計測し、スピーカ雰囲気温度を推定する際に、各センサ1a〜1cで検出された温度に乗算する係数a1、b1、c1として求める。そして、それぞれの係数を乗算したセンサ温度を合計することでスピーカ雰囲気温度を推定する。スピーカ搭載位置と熱源となる他の車載機器は各車両において異なるため、それぞれ係数を求める必要がある。また車両走行時には、スピーカ搭載位置におけるエアフローの風当たりにより自然空冷が生じることも加味する。自然冷却は車速に比例するとみなし、搭載位置による影響度を自然空冷係数として定め、上記の合計値から車速に対して自然空冷係数を乗算した値を差し引く。
【0054】
具体的には、以下の数式により推定している。なお、下記の数式中において、Tspはスピーカ雰囲気温度、Tairは外気温情報、a1は外気温係数、Traは水温情報、b1は水温係数、Toilは油温情報、c1は油温係数、SPDは車速情報、k2は車速に対する自然空冷係数を意味している。
【0055】
(数1)
Tsp=a1・Tair+b1・Tra+c1・Toil−k2・SPD
一方、ボイスコイルの温度上昇は、スピーカ3での発音を行った出力時間と、発音を停止してからの経過時間と、スピーカ3の出力率(%)とから推定演算される。
【0056】
接近通報音として設定した音声出力波形は一定の音色を繰り返し再生するため、接近通報音は定常波と見なすことができる。接近通報音の出力波形、出力振幅、出力時間を乗算したもの、つまり出力電圧の積分値の2乗に発音時の熱損失は比例することから、ボイスコイルに生じている熱損失と上記のように推定されるスピーカ雰囲気温度Tspとの和で、図5に示すように温度上昇曲線または下降曲線のどの位置にいるか推定が可能である。
【0057】
例えば、温度上昇曲線については、次式で示される。なお、下記の数式中において、Tvcはボイスコイル温度、a2は温度上昇曲線の漸近線、τは時定数である。漸近線a2は発音時の熱損失に比例し、時定数τは放熱性に依存する。これら漸近線a2および時定数τについては予め実測により、もしくは、計算により求めておくことができる。一方、温度下降曲線については、発音を停止したときのボイスコイル温度Tvcとスピーカ雰囲気温度Tspとの温度差と発音を停止してからの経過時間とボイスコイルの材質などに基づいて決まる。したがって、スピーカ雰囲気温度Tspに対して、発音時には温度上昇曲線に基づく温度上昇分を加算し、発音停止時には温度下降曲線に基づく温度低下分を減算することで、ボイスコイル温度Tvcを推定演算することが可能となる。
【0058】
【数2】
このボイスコイルの温度の推定演算については、車両の走行可能状態における接近通報音の出力時間および発音を停止してからの経過時間を加味した温度上昇分の加算と温度低下分の減算の積算によって行っている。これにより、車両の始動開始からのボイスコイルの温度変化に対応して正確にスピーカ温度を演算できる。
【0059】
なお、スピーカ3の出力率、すなわち接近通報音の音圧レベルに対する出力率の最大出力を100%としたときに対する実際の出力の比は、車速等に応じて設定可能である。具体的には、車速が低いときには出力率は小さく、車速が高くなるほど出力率を大きくというように接近通報音の出力を設定できる。この場合、出力率に応じて温度上昇曲線の漸近線a2が変わることから、漸近線a2に対して出力率を乗算することで、出力率の変化に対応した温度上昇曲線とすることができる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態にかかる車両接近通報装置では、スピーカ温度に応じて接近通報音の音圧、例えば接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを補正したり、接近通報音の周波数や接近通報音として使用している周波数帯域中の各成分の音圧を補正している。
【0061】
したがって、温度変化に伴う接近通報音の変化を抑制できる。そして、スピーカ3とは異なる位置に備えられた他の車載機器の温度や外気温の検出を行っている各種温度センサ1b、1cの検出結果を用いることで、スピーカ温度を検出できるようにしている。このため、スピーカ3の温度検出のみの為に温度センサを備えなくても、スピーカ出力音圧の温度補正を行うことができる車両接近通報装置とすることが可能となる。
【0062】
また、スピーカ温度、より詳しくはコーン紙の温度に基づいて接近通報音の周波数などを補正することで、スピーカ3の周波数ずれなどを抑制できる。このため、スピーカ温度の変化が生じても聞こえる接近通報音の変化が少なくなるようにすることができる。
【0063】
(他の実施形態)
上記実施形態では、スピーカ3で実際に発音されたときの接近通報音の音圧レベルが固定値もしくは所定範囲内となるようにする場合について説明したが、上記した車速に加えて、アクセル開度などの車両走行状態に応じて接近通報音の音圧レベルの出力率を変化させることがある。例えば、車速もしくはアクセル開度が大きくなるほど、接近通報音の音圧レベルの出力率を大きくすることで、歩行者により車両の接近が速いことや車両の加速量が大きいことを認識させるようにすることができる。
【0064】
このような場合には、基本的には車両状態と接近通報音の音圧レベルに対する出力率とが一定の関係となるが、スピーカ温度が変化すると、その関係も変化させられることになる。このため、この場合にもスピーカ温度に基づいて接近通報音波形信号の振幅係数k1を演算し、接近通報音波形信号を補正すれば、車両状態と接近通報音の音圧レベルに対する出力率とが一定の関係となるようにすることができる。
【0065】
同様に、接近通報音の周波数や使用される周波数帯域についても、車速やアクセル開度などの車両走行状態に応じて変化させることができる。その場合にも、車両走行状態に応じて設定される接近通報音の周波数や使用される周波数帯域について、スピーカ温度に応じて変化させるようにすれば、上記実施形態で説明した効果を得ることができる。
【0066】
また、上記実施形態では、マイコン21に備えられた信号生成部から出力される接近通報音波形信号自体が既に補正後の信号となるようにしているが、マイコン21の外部で接近通報音波形信号の電圧レベルや周波数および使用される周波数帯域中の周波数成分の音圧を補正することもできる。例えば、マイコン21の外部に電圧制御部を設け、この電圧制御部に対して補正前の接近通報音波形信号を入力すると共に、マイコン21から振幅定数k1や周波数および周波数帯域中の周波数成分の補正量に応じた制御信号を出力する。このようにすれば、電圧制御部にて、制御信号に基づいて接近通報音波形信号の電圧レベルなどを補正することができ、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
なお、上記実施形態で説明したように、車両接近通報装置2をスピーカ3と別体としても、スピーカ3を車両接近通報装置2と一体化した機電一体タイプとしても良い。
【符号の説明】
【0068】
1a 車速センサ
1b スピーカ温度センサ
2 車両接近通報装置
3 スピーカ
21 マイコン
22 LPF
23 AMP
図1
図2
図3
図4
図5