(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のゴム組成物は、天然ゴムを含むジエン系ゴムに、ネオデカン酸ホウ酸コバルト、フェノール系樹脂および硬化剤を配合してなり、動歪2%、20℃における動的貯蔵弾性率(E′)が13MPa以上、60℃の正接損失(tanδ)が0.20以下、歪60%、400rpmの定歪疲労試験で破壊するまでの繰り返し回数が35,000回以上である。
【0012】
本発明において、ゴム組成物の動歪2%、20℃における動的貯蔵弾性率(E′)は13MPa以上、好ましくは14〜19MPa、より好ましくは14.5〜17MPaである。動的貯蔵弾性率(E′)が13MPa未満であると、スチールコードに対する接着性能が劣り、タイヤ耐久性が不足する。動的貯蔵弾性率(E′)は、ゴム組成物の組成および温度、時間などの加硫条件により増減することができる。本明細書において、動的貯蔵弾性率(E′)はJIS−K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪±2%、温度20℃の条件により測定するものとする。
【0013】
本発明のゴム組成物は、60℃の正接損失(tanδ)が0.20以下、好ましくは0.14〜0.20、より好ましくは0.15〜0.19である。60℃のtanδが0.20を超えると、スチールコードに対する接着性能が低下する傾向があり、タイヤ耐久性が不足する。60℃のtanδは、ゴム組成物の組成および温度、時間などの加硫条件により増減することができる。本明細書において、60℃のtanδはJIS−K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪±2%、温度60℃の条件により測定するものとする。
【0014】
またゴム組成物の引張疲労特性は、歪60%、400rpmの定歪疲労試験で破壊するまでの繰り返し回数が35,000回以上、好ましくは50,000回以上である。ゴム組成物の歪60%の疲労寿命が35,000回未満であると、タイヤ耐久性が不足する。ゴム組成物の引張疲労特性は、ゴム組成物の組成および温度、時間などの加硫条件により調節することができる。本明細書において、ゴム組成物の引張疲労特性は、JIS−K6270を参考にして、ダンベル3号型の試験片(厚さ2mm)を用い、20℃、歪60%、試験周波数6.67Hz(回転数400rpm)の条件により測定するものとする。
【0015】
本発明のゴム組成物において、ジエン系ゴムは、天然ゴムを必ず含む。天然ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90〜100質量%である。天然ゴムの含有量が80質量%未満であるとスチールコードに対する接着性(例えばクロスプライ剥離力)を確保することができない。
【0016】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムとして天然ゴム以外の他のジエン系ゴムを配合することができる。他のジエン系ゴムとしては、例えばイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等を例示することができる。なかでもイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴムがよい。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。他のジエン系ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは0〜10質量%である。
【0017】
本発明のゴム組成物は、ネオデカン酸ホウ酸コバルトを配合することにより、スチールコードに対する接着性を高くする。ネオデカン酸ホウ酸コバルトは下記一般式(1)で表される化合物であり、その配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対
し0.3〜1.5質量部
、好ましくは0.5質量部を超え1.5質量部以下にす
る。ネオデカン酸ホウ酸コバルトの配合量が0.3質量部未満であると、スチールコードに対する初期接着性、耐久接着性を十分に高くすることができない虞がある。またネオデカン酸ホウ酸コバルトの配合量が1.5質量部を超えると定歪疲労特性が却って低下し、タイヤ耐久性が低下する虞がある。
【化1】
【0018】
ネオデカン酸ホウ酸コバルトは、コバルト含量が好ましくは18〜26質量%、より好ましくは20〜24質量%であるとよい。ネオデカン酸ホウ酸コバルトとして、例えばローディア社製マノボンドC22.5及びマノボンド680C、Shepherd社製CoMend A及びCoMend B、DIC CORPORATION社製DICNATE NBC−II等を挙げることができる。
【0019】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムに、フェノール系樹脂およびその硬化剤を配合する。フェノール系樹脂および硬化剤を配合することにより、ゴム組成物の硬さ、引張り破断伸びおよびスチールコードに対する接着性能を向上し、タイヤ耐久性を優れたものにすることができる。
【0020】
フェノール系樹脂としては、例えばクレゾール樹脂、レゾルシン樹脂、アルキルフェノール樹脂、変性フェノール樹脂を挙げることができる。変性フェノール樹脂としてはカシュー変性フェノール樹脂、オイル変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アニリン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂等が例示される。
【0021】
クレゾール樹脂は、クレゾールとホルムアルデヒドとを反応させた化合物であり、特にm−クレゾールを用いた化合物が好適である。クレゾール樹脂としては例えば住友化学社製スミカノール610、日本触媒社製SP7000等を例示することができる。
【0022】
レゾルシン樹脂は、レゾルシンとホルムアルデヒドとを反応させた化合物であり、例えばINDSPEC Chemical Corporation社製Penacolite B−18−S、同B−19−S、同B−20−S、同B−21−S等を例示することができる。またレゾルシン樹脂として、変性したレゾルシン樹脂を使用してもよく、例えばアルキルフェノール等により変性したレゾルシン樹脂が挙げられ、レゾルシン・アルキルフェノール・ホルマリン共重合体等を例示することができる。
【0023】
カシュー変性フェノール樹脂は、カシュー油を用いて変性したフェノール樹脂であり、例えば住友ベークライト社製スミライトレジンPR−YR−170、同PR−150、大日本インキ化学工業社製フェノライトA4−1419等を例示することができる。フェノール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドとの反応によって得られた未変性の樹脂であり、例えば住友化学社製スミカノール620等を例示することができる。
【0024】
フェノール系樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対
し0.5質量部以上
2質量部未満
、好ましくは0.7〜2.0質量部
未満にす
る。フェノール系樹脂の配合量が0.5質量部未満であると、動的貯蔵弾性率(E′)が低下、60℃のtanδが増加、およびスチールコードに対する接着性が低下し、タイヤ耐久性が不足する虞がある。またフェノール系樹脂の配合量が
2質量部以上であると60℃のtanδが却って増加し、定歪疲労特性が低下し、タイヤ耐久性が低下する虞がある。
【0025】
本発明において、上述したフェノール系樹脂を硬化させる硬化剤を配合する。硬化剤として、例えばヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、パラ−ホルムアルデヒドのポリマー、メラミンのN−メチロール誘導体等が挙げられる。これらのメチレン供与体は、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0026】
ヘキサメチレンテトラミンとしては、例えば三新化学工業社製サンセラーHT−PO等を例示することができる。ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)としては、例えばCYTEC INDUSTRIES社製CYREZ 964RPC等を例示することができる。ペンタメトキシメチルメラミン(PMMM)としては、例えばBARA CHEMICAL Co.,LTD.社製スミカノール507A等を例示することができる。
【0027】
硬化剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対
し0.5〜5質量部
、好ましくは0.7〜4.0質量部にす
る。硬化剤の配合量が0.5質量部未満であると、動的貯蔵弾性率(E′)が低下、60℃のtanδが増加、およびスチールコードに対する接着性が低下し、タイヤ耐久性が不足する虞がある。また硬化剤の配合量が5質量部を超えると、定歪疲労特性が低下し、タイヤ耐久性が低下する虞がある。
【0028】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムに硫黄および加硫促進剤を配合する。硫黄の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対
し4.0〜8.0質量部である。硫黄の配合量が
4.0質量部未満であると、スチールコードに対する接着性が低下する虞がある。また硫黄の配合量が
8.0質量部を超えると、タイヤ耐久性が低下する虞がある。本明細書において、硫黄の配合量は、加硫のために配合する硫黄および/または加硫剤中に含まれる硫黄の正味の配合量とする。
【0029】
加硫促進剤としては特に限定されるものではないが、好ましくはスルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えばN,N−ジシクロヘキシル−1,3−ベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(DZ)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CZ)、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(OBS)、N−(tert−ブチル)ベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(NS)を挙げることができる。これらスルフェンアミド系加硫促進剤は単独でまたは複数を組合わせて配合することができる。なかでもN,N−ジシクロヘキシル−1,3−ベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(DZ)および/またはN−(tert−ブチル)ベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(NS)を配合することが好ましい。
【0030】
加硫促進剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し好ましくは0.1〜1.0質量部、より好ましくは0.2〜0.8質量部である。加硫促進剤の配合量が0.1質量部未満であると、60℃のtanδが大きくなり、タイヤ耐久性が低下する虞がある。また加硫促進剤の配合量が1.0質量部を超えると、劣化時の接着性が低下する虞がある。
【0031】
本発明では、無機充填剤として、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等を任意に配合することができる。なかでもカーボンブラック、シリカが好ましい。カーボンブラックを配合することにより動的貯蔵弾性率(E′)を大きくすることができる。シリカを配合することにより60℃のtanδを小さくすることができる。
【0032】
ゴム組成物には、加硫促進助剤、老化防止剤、素練促進剤、各種オイル、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。本発明のゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0033】
本発明のゴム組成物は、空気入りタイヤのスチールコード被覆部を構成するのに好適に使用することができる。好ましくはベルト層および/またはカーカス層のスチールコードを被覆するコートゴムに使用するのがよい。特に好ましくはベルト層のスチールコードを被覆するコートゴムに使用するのがよい。スチールコードのコートゴムに本発明のゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、スチールコードに対する接着性能を改良したので、スチールコードと被覆ゴムとの剥離を抑制することができる。これにより、空気入りタイヤの耐久性を従来レベル以上に維持・向上することができる。
【0034】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
表1,2に示す配合からなる14種類のゴム組成物(実施例1〜
2、標準例、比較例1〜
11)を調製するに当たり、それぞれ硫黄及び加硫促進剤を除く成分を秤量し、1.7L密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、そのマスターバッチを放出し室温冷却した。このマスターバッチを1.7L密閉式バンバリーミキサーに供し、硫黄及び加硫促進剤を加え、混合しゴム組成物を得た。表1,2において、硫黄の配合量は、硫黄からなる加硫剤(製品)に含まれる硫黄の正味の配合量とする。
【0036】
上記で得られたゴム組成物の内、比較例7のゴム組成物を除くゴム組成物を、それぞれ所定形状の金型中で、170℃、10分間加硫して試験片を作製し、下記に示す方法により動的貯蔵弾性率(E′)、60℃のtanδ、および定歪疲労試験の評価を行った。なお比較例7のゴム組成物については、加硫条件を170℃、5分間で試験片を作成した。また後述する方法で、スチールコードの接着性(指数ゴム付着量)およびタイヤ耐久性試験を行った。
【0037】
動的貯蔵弾性率(E′)、60℃のtanδ
得られた試験片をJIS K6394に準拠して、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、動歪±2%、周波数20Hzの条件で、温度20℃における動的貯蔵弾性率(E′)および温度60℃における損失正接tanδを測定した。得られたE′およびtanδの結果は、表1,2の「20℃のE′」および「60℃のtanδ」の欄に示した。
【0038】
定歪疲労試験
得られた試験片を使用し、JIS K6251に準拠して、ダンベルJIS3号形試験片を作製し、JIS−K6270を参考にして、20℃、歪60%、試験周波数6.67Hz(回転数400rpm)の条件で引張定歪疲労試験を行い、破壊するまでの繰り返し回数を測定した。得られた結果は、表1,2の「引張定歪疲労特性」の欄に記載した。
【0039】
スチールコードの接着性(指数ゴム付着量)
12.7mm間隔で平行に並べたブラスめっきスチールコードを比較例7を除くゴム組成物で被覆すると共に、埋め込み長さ12.7mmで埋め込み、170℃,10分間の加硫条件で加硫接着してサンプルを作製した。ASTM D−2229に準拠して前記サンプルからスチールコードを引き抜き、その表面を被覆する指数ゴム付着量(%)により評価した。得られた結果は、表1,2の「指数ゴム付着量」の欄に記載した。
【0040】
タイヤ耐久性試験
得られたゴム組成物ゴム組成物の内、比較例7のゴム組成物を除くゴム組成物をベルト層のコートゴムに使用して空気入りタイヤ(サイズ295/35R21)を加硫成形した。得られたタイヤをリム(21×10.5J)に装着し、酸素濃度100%の気体を充填し空気圧350kPaにして、温度70℃の環境中に14日間、静置した。その後、空気圧170kPaに調整し、ドラム径1707mmで、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機にかけて、JATMA規定加重の88%から2時間ごとに13%ずつ荷重を増加させながら、速度60km/hの条件で、6,000kmの走行試験を行った。走行試験後、タイヤを分解してベルト層におけるエッジセパレーションの量(mm)を測定した。得られた結果は、表1,2の「タイヤ耐久性(剥離量)」の欄に記載した。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20
・CB:カーボンブラック、東海カーボン社製シースト300
・ステアリン酸Co:ステアリン酸コバルト、DIC CORPORATION社製ステアリン酸コバルト(コバルト含量9.5質量%)
・ネオデカン酸ホウ酸Co:ネオデカン酸ホウ酸コバルト、DIC CORPORATION社製DICNATE NBC−II(コバルト含量22.2質量%)
・フェノール系樹脂:レゾルシン樹脂、INDSPEC社製PENACOLITE RESIN B−18−S
・硬化剤:ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)、CYTEC INDUSTRIES社製CYREZ 964RPC
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・老化防止剤:フレキシス社製サントフレックス 6PPD
・硫黄:四国化成工業社製ミュークロン OT−20(硫黄含有量が80質量%)
・加硫促進剤:N,N−ジシクロヘキシル−1,3−ベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド、大内新興化学社製ノクセラー DZ
【0044】
表1から明らかなように実施例1〜
2のゴム組成物は、スチールコードに接着するゴム付着量(%)が多く、ベルト層におけるエッジセパレーションの量が抑制され、タイヤ耐久性が標準例以上に向上することが確認された。
【0045】
表2から明らかなように、比較例1,2のゴム組成物は、定歪疲労寿命が35,000回未満であるので、エッジセパレーションの量が大きくなる。
比較例3のゴム組成物は、20℃の動的貯蔵弾性率(E′)が13MPa未満、60℃のtanδが0.20を超えるので、スチールコードの接着性(指数ゴム付着量)が劣り、エッジセパレーションの量が大きくなる。
比較例4のゴム組成物は、60℃のtanδが0.20を超え、定歪疲労寿命が35000回未満であるので、エッジセパレーションの量が大きくなる。
比較例5のゴム組成物は、20℃の動的貯蔵弾性率(E′)が13MPa未満、60℃のtanδが0.20を超えるので、スチールコードの接着性(指数ゴム付着量)が劣り、エッジセパレーションの量が大きくなる。
比較例6のゴム組成物は、定歪疲労寿命が35,000回未満であるので、エッジセパレーションの量が大きくなる。
比較例7のゴム組成物は、170℃、5分の条件で加硫したのでアンダー加硫となり、20℃の動的貯蔵弾性率(E′)が13MPa未満、60℃のtanδが0.20を超え、引張定歪疲労特性が35,000回未満であるので、スチールコード被覆用ゴム組成物からなる空気入りタイヤにおいて、タイヤ耐久性が劣る。