特許第6288216号(P6288216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6288216ポリオレフィン微多孔膜、蓄電デバイス用セパレータフィルム、及び蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288216
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ポリオレフィン微多孔膜、蓄電デバイス用セパレータフィルム、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20180226BHJP
   C08J 9/36 20060101ALI20180226BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20180226BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20180226BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20180226BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20180226BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C08J9/00 ACES
   C08J9/36
   B32B5/18
   B32B27/32 E
   H01M2/16 P
   H01M2/16 L
   H01G11/52
   H01G9/02 301
【請求項の数】6
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-222366(P2016-222366)
(22)【出願日】2016年11月15日
(65)【公開番号】特開2017-141428(P2017-141428A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-22797(P2016-22797)
(32)【優先日】2016年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】城戸崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】崎本 亮
(72)【発明者】
【氏名】川端 健嗣
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−265414(JP,A)
【文献】 再公表特許第2012/029699(JP,A1)
【文献】 特開2011−256316(JP,A)
【文献】 特開2014−003038(JP,A)
【文献】 特開2010−248518(JP,A)
【文献】 特表2014−505339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
B32B 1/00−43/00
H01G 9/022−9/028、11/00−11/86
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂を中間層とし、ポリプロピレン系樹脂を表層とする積層構造であるポリオレフィン微多孔膜であって、
メルトダウン温度が195℃以上230℃以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂の200℃条件によるゼロ剪断粘度が、13000〜20000Pa・sであり、
前記ポリエチレン系樹脂は、融点が125℃以上140℃以下であり、重量平均分子量が22万以上40万以下であり、分子量分布が6以上15以下であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜
ここで、前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン換算値である
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量は、50万以上80万以下である請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜;
ここで、前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン換算値である。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂の分子量分布が7.5以上16以下である請求項2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜を有する蓄電デバイス用セパレータフィルム。
【請求項5】
前記ポリオレフィン微多孔膜の片面または両面に耐熱多孔質層が積層され、
前記耐熱多孔質層が、耐熱性微粒子と有機バインダとを含み、
前記耐熱性微粒子の含有量が、前記耐熱多孔質層に対して80重量%以上99重量%以下であり、
前記耐熱多孔質層の厚さが2μm〜10μmである請求項に記載の蓄電デバイス用セパレータフィルム。
【請求項6】
請求項4または5に記載の蓄電デバイス用セパレータフィルムと、正極と、負極とを備える蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱性を示すポリオレフィン微多孔膜、それを有する蓄電デバイス用セパレータフィルム、及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスには、正負両極の短絡防止のために、ポリオレフィン微多孔膜からなるセパレ−タフィルムが介在している。
近年、高エネルギー密度、高起電力、自己放電の少ない蓄電デバイス、特にリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等が開発、実用化されるようになってきた。
リチウムイオン二次電池の負極としては、例えば金属リチウム、リチウムと他の金属との合金、カ−ボンやグラファイト等のリチウムイオンを吸着する能力又はインターカレーションにより吸蔵する能力を有する有機材料、リチウムイオンをド−ピングした導電性高分子材料等が知られている。また、正極としては例えば(CFで示されるフッ化黒鉛、MnO、V、CuO、AgCrO、TiO等の金属酸化物や硫化物、塩化物が知られている。
【0003】
また、非水電解液として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等の有機溶媒にLiPF、LiBF、LiClO、LiCFSO等の電解質を溶解したものが使用されている。
しかし、リチウムイオン二次電池では、リチウムの反応性が特に強いため、外部短絡や誤接続等により異常電流が流れた場合、電池温度が著しく上昇してこれを組み込んだ機器に熱的ダメ−ジを与える懸念がある。このような危険性を回避するために、単層または積層のポリオレフィン微多孔膜が、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイス用のセパレータフィルムとして提案されている。
【0004】
これらの単層又は積層のポリオレフィン微多孔膜を蓄電デバイス用セパレ−タフィルムとして使用することにより、両極間の短絡防止やデバイスの電圧の維持等を図ることができる。また、異常電流等でデバイスの内部温度が所定温度以上に上昇したときに、多孔質膜の孔を塞いで無孔化させて、両極間にイオンが流れないように電気抵抗を増大させる。これにより蓄電デバイスの機能を停止させて、過度の温度上昇による発火等の危険を防止し、安全を確保することができる。過度の温度上昇による発火等の危険を防止する機能は、蓄電デバイス用のセパレ−タフィルムにとって極めて重要であり、一般に無孔化或いはシャットダウン(以下、SD)と呼ばれる。
【0005】
蓄電デバイス用のセパレ−タフィルムとしてポリオレフィン微多孔膜を用いた場合、無孔化開始温度が低すぎると、蓄電デバイスの僅かな温度上昇でイオンの流れが阻止されるため実用面で問題がある。また、無孔化開始温度が高すぎると、発火等を引き起こすまでイオンの流れを阻害できない危険性があり安全面で問題がある。一般に無孔化開始温度は110〜160℃であり、好ましくは120〜150℃であると考えられている。
【0006】
また、蓄電デバイス内の温度が無孔化維持上限温度を越えて上昇した場合、セパレータフィルムが溶断して破れが生じるメルトダウン(以下、MD)と呼ばれる現象により、再びイオンの移動が可能となり、更なる温度上昇が引き起こされる。このような理由から、蓄電デバイス用セパレ−タとして、適切な無孔化開始(SD)温度を有するだけでなく、無孔化を維持できる上限(MD)温度が高い、という特性が要求されている。さらに、セパレ−タフィルムに用いられるポリオレフィン微多孔膜としては、前記無孔化に関する特性の他に、電気抵抗が低いこと、引張強度等の機械的強度が高いこと、厚みムラや電気抵抗等のバラツキが小さいこと等が要求される。
【0007】
蓄電デバイス用セパレータフィルムに用いられる単層又は積層微多孔膜を製造する方法としては、様々な提案がなされている。特に多孔化の方法から大別すると、湿式法と乾式法に分類することができる(特許文献1、2参照)。
【0008】
例えば特許文献1には、微多孔フィルムを製造する湿式法が開示されている。この製造方法は、微多孔フィルムを形成するマトリクス樹脂であるPEやPP等の樹脂と、添加物とを添加・混合した樹脂を用いてフィルムを製膜する工程と;シート化した後に、マトリクス樹脂と添加物とからなるフィルムから添加物を抽出することで、マトリクス樹脂中に空隙を形成する工程と;その後、フィルムを延伸する工程とを含む。添加物としては、樹脂と混和する溶媒、可塑剤、無機微粒子などが提案されている。
【0009】
微多孔フィルムの製造方法として湿式法を用いた場合、溶媒等の添加物を含有させることにより押出時の樹脂粘度を低下させることができる。そのため、多層膜の原料である高分子として、高分子量の原料を用いた製膜が可能となり、突き刺し強度や破断強度などの機械物性が向上させることが容易である。しかし、湿式法を用いた場合、溶媒の抽出工程に時間と労力を要し、生産性の向上が困難であった。
【0010】
また、湿式法で得られた微多孔膜の細孔径は比較的大きく、空孔率に対し透気度が低い傾向がある。このため、自動車用途のような高レートの充放電を行うとデンドライトが比較的容易に生成される等の問題があった。また、SD特性を向上させようとした場合にメルトダウン特性が低下する、もしくは調整が困難となる問題もあった。
【0011】
例えば特許文献2には、微多孔フィルムを製造する乾式法が開示されている。溶融押出時に高ドラフト比を採用することにより、シート化した延伸前のフィルム中のラメラ構造を制御し、これを一軸延伸することでラメラ界面での開裂を発生させ、空隙を形成する方法等が提案されている。
【0012】
微多孔膜の製造方法として乾式法を採用した場合、湿式法では必須となっていた溶媒の抽出工程を必要としないため湿式法に比べて生産性に優れる。しかし、延伸速度が制限されるため、更なる生産性向上が困難であった。
【0013】
電池の安全性を高める為に、セパレータに耐熱性が求められている。特に、無機粒子をセパレータフィルムに塗工して、耐熱多孔質層を形成することで耐熱性が向上することが知られている(特許文献3)。しかしながら、追加の加工が必要である為、未加工品より高価である。
【0014】
一方、ポリエチレンやポリプロピレン樹脂材料に融点が高い樹脂材料を混練することで、耐熱性を付与する事が知られている(特許文献4)。
【0015】
さらには、耐熱性の高い樹脂材料を塗工により後加工する方法(特許文献5)、もしくは、ポリエチレンやポリプロピレン樹脂材料からなるフィルムに融点の高い樹脂材料からなる多孔膜を張り合わせる(特許文献6)等して、セパレータフィルムの耐熱性を向上させる取り組みも知られている。しかしながら、耐熱層として無機粒子を含む耐熱多孔質層を形成させる場合と同様に、追加の加工が必要である為、未加工品より高価である。
【0016】
しかし、電気化学的な安定性、他の物性とのバランス等の市場の要求を満たすと共に、安価で耐熱性に優れ、蓄電デバイス用セパレータフィルムとしての特性のバランスに優れた製品は存在しない。
【0017】
さらに、蓄電デバイス用セパレータフィルムには、電池に組み上げた後に実施する短絡不良実験に耐える品質も求められている。特許文献7には、耐圧不良実験として、電池を作製直後に、電池端子間に0.3kVの電圧を0.5秒間印加した際に0.5mA以上の電流が流れたものを不良とする、という記載がある。特に、車載向けの電池においては、デバイスの高容量化が進み、1セルに使用するセパレータフィルムの面積が増える。この為、1セルに使用するセパレータフィルム中に1点でも上記電圧にて短絡するような欠陥が存在すると、電池の製造工程での歩留まりが落ちてしまい、不都合であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開昭55−131028号公報
【特許文献2】特公昭55−32531号公報
【特許文献3】特許第5259721号公報
【特許文献4】特表2012−530802号公報
【特許文献5】特許第5286817号公報
【特許文献6】特開2000−108249号公報
【特許文献7】特許第4830250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
近年、自動車用途向け蓄電デバイスが実用化されるようになり、デバイスの高容量化、高レート化、そして低コスト化が進んでいる。
一方、安全性に対する要求も高く、蓄電デバイス向けセパレータフィルムにも安全性の向上が要求されている。
本発明者は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、安全性に優れたポリオレフィン微多孔膜、それを有する蓄電デバイス用セパレータフィルム、及び蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、課題を解決できる手段を見出し、本発明に至った。すなわち本発明は以下の特徴[1]〜[10]を有する。
[1] ポリプロピレン系樹脂を含むポリオレフィン微多孔膜であって、
メルトダウン温度が195℃以上230℃以下であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
[2] 前記ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量は、50万以上80万以下である[1]に記載のポリオレフィン微多孔膜;
ここで、前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン換算値である。
[3] 前記ポリプロピレン系樹脂の分子量分布が7.5以上16以下である[2]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【0021】
[4] 前記ポリプロピレン系樹脂の200℃条件によるゼロ剪断粘度が、13000〜20000Pa・sである[1]〜[3]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[5] 更にポリエチレン系樹脂を含む[1]〜[4]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[6] 前記ポリエチレン系樹脂を中間層とし、前記ポリプロピレン系樹脂を表層とする積層構造である[5]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[7] 単位面積耐電圧が3kV/m以上である[1]〜[6]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜;
ここで、前記単位面積耐電圧は、10cm×100cmサイズの試験片に対して電圧をかけた短絡試験において、導通しない電圧を測定することによって得られた値である。
【0022】
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜を有する蓄電デバイス用セパレータフィルム。
[9] 前記ポリオレフィン微多孔膜の片面または両面に耐熱多孔質層が積層され、
前記耐熱多孔質層が、耐熱性微粒子と有機バインダとを含み、
前記耐熱性微粒子の含有量が、前記耐熱多孔質層に対して80重量%以上99重量%以下であり、
前記耐熱多孔質層の厚さが2μm〜10μmである[8]に記載の蓄電デバイス用セパレータフィルム。
[10] [8]または[9]に記載の蓄電デバイス用セパレータフィルムと、正極と、負極とを備える蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0023】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、耐熱性に優れる。本発明のポリオレフィン微多孔膜を有する蓄電デバイス用セパレータを用いることにより、蓄電デバイスの安全性向上に寄与することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は実施例1および比較例1で作製したポリオレフィン微多孔膜のシャットダウン曲線である。
図2図2(A)(B)は測定時における試料の固定方法を説明する図である。
図3】本実施形態のポリオレフィン微多孔質膜の一例を説明するための断面模式図である。
図4】従来のポリオレフィン微多孔質膜を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されず、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更可能である。
本発明者は、重量平均分子量と分子量分布が適切な範囲のポリプロピレン樹脂を用い、かつ、乾式法による一軸延伸プロセスとを組み合わせる事により、優れた生産性(コスト)と耐熱性、そしてセパレータフィルムとしての特性のバランスに優れた微多孔膜を見出した。これにより蓄電デバイスのコスト、安全性を両立する事が期待できる。
また、本発明のポリオレフィン微多孔膜によれば、従来と同程度の空孔率でありながら表面開口率を下げたことにより、例えば蓄電デバイスの短絡を抑えることができる。
【0026】
(ポリオレフィン微多孔膜)
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、ポリプロピレン(以降、PPという場合がある。)系樹脂を含む。ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量は、50万以上であることが好ましく、54万以上であることがより好ましく、最も好ましくは55万以上である。また、その上限は100万以下であることが好ましく、より好ましくは80万以下、最も好ましくは75万以下である。
GPCによるポリスチレン換算重量平均分子量が50万未満であると、力学特性やメルトダウン温度が低下するために好ましくない。また、重量平均分子量が100万を超えると、フィルムの加工性が低下し、セパレータフィルムのコストが増す為に好ましくない。
【0027】
さらに、分子量分布は7.5以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましく、さらに8.5以上であることが好ましく、最も好ましくは9.0以上である。その上限は16以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、さらに14以下であることが好ましく、最も好ましくは、13以下である。
分子量分布が小さいと、粘度特性が低下し、メルトダウン温度が低下する為に好ましくない。分子量分布が大きすぎると加工性が低下し、コストが増す為に好ましくない。
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン換算値である。また、分子量分布は、この方法により求めた重量平均分子量を用いて算出した値である。
【0028】
さらに、PP系樹脂の示差走査熱量計(DSC)にて測定した結晶融解ピーク温度(融点)は、155℃以上であることが好ましく、157℃以上がより好ましく、159℃以上がさらに好ましく、最も好ましくは160℃以上である。上限は175℃以下であることが好ましく、173℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましく、最も好ましくは169℃以下である。PP系樹脂の結晶融解ピーク温度が低すぎると、微多孔膜の加工特性が低下するために好ましくない。
【0029】
PP系樹脂の200℃条件によるゼロ剪断粘度は、13000〜20000Pa・sの範囲内であることが好ましい。13000Pa・s以上のゼロ剪断粘度とすることでポリオレフィン微多孔膜のメルトダウン温度を少なくとも200℃超にすることが可能となる。20000Pa・s以下のゼロ剪断粘度とすることで、形状の保持特性を従来よりも十分に向上させることができ、200℃超の環境下においてもセパレータの形状を確実に安定して維持できる。PP系樹脂のゼロ剪断粘度は14000〜19000Pa・sがより好ましく、15000〜18000Pa・sが更に好ましい。
【0030】
PP系樹脂とは、プロピレンをモノマーの主成分として80%以上含む重合物であり、このような重合物を単独で使用しても、複数種混合してもよい。また、PP系樹脂には、一般的に界面活性剤、老化防止剤、可塑剤、難燃剤、着色剤等の添加剤が、合目的的に含まれており、本発明のPP系樹脂においても、これらの添加剤が含まれていても良い。
【0031】
PP系樹脂は立体規則性の高いものが好ましい。PP系樹脂のペンタッド分率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0032】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、メルトダウン(MD)温度が195℃以上であり、好ましくは200℃以上、より好ましくは200.1℃以上、最も好ましくは201.0℃以上である。上限については、高温であればあるほど好ましいが、通常は、230℃以下であり、225℃以下である場合や、220℃以下である場合も好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態のポリオレフィン微多孔膜におけるポリプロピレン系樹脂の含有量は、ポリオレフィン微多孔膜の総重量に対して、90重量%以上であってもよい。95重量%以上であっても、または99重量%以上であってもよい。ポリオレフィン微多孔膜の材料がポリプロピレン系樹脂であることがもっとも好ましい。
【0034】
本発明のその他の実施形態のポリオレフィン微多孔膜は、更にポリエチレン系樹脂を含んでも良い。
【0035】
その場合、ポリオレフィン微多孔膜における、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン(以降、PEという場合がある。)系樹脂との合計含有量は、ポリオレフィン微多孔膜の総重量に対して、90重量%以上であってもよい。95重量%であっても、または99重量%以上であってもよい。ポリオレフィン微多孔膜の材料がポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂であることがもっとも好ましい。
【0036】
PE系樹脂とは、エチレンをモノマーの主成分として80%以上含む重合物であり、このような重合物を単独で使用しても、複数種混合してもよい。また、PE系樹脂には、一般的に界面活性剤、老化防止剤、可塑剤、難燃剤、着色剤等の添加剤が、合目的的に含まれており、本発明のPP系樹脂においても、これらの添加剤が含まれていても良い。
PE系樹脂の重量平均分子量は、220,000以上400,000以下であることが好ましく、300,000以上400,000以下であることがより好ましい。
PE系樹脂の分子量分布は、6.0以上15.0以下であることが好ましく、7.5以上10.0以下であることがより好ましい。
【0037】
PE系樹脂の密度は、0.950g/cm以上0.970g/cm以下であることが好ましい。PE系樹脂は、密度が0.960g/cm以上の高密度ポリエチレンがより好ましいが、中密度ポリエチレンでもよい。
PE系樹脂の融点は、125℃以上140℃以下であることが好ましく、130℃以上136℃以下であることがより好ましい。
PE系樹脂のメルトインデックスは、0.20以上0.40以下であることが好ましく、0.30以上0.40以下であることがより好ましい。
【0038】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、PP系樹脂とPE系樹脂とから構成されていてもよいし、PP系樹脂のみから構成されていてもよい。PP系樹脂のみから構成するとは、PP系樹脂を単層のフィルムとして構成させる事を示す。
【0039】
また、PP系樹脂とPE系樹脂から構成する、とは、ポリオレフィン微多孔膜であって、PP系樹脂とPE系樹脂を混練等によりブレンドし、単層のフィルムとして構成させる場合や、PP系樹脂とPE系樹脂とを積層させた構成を示す。積層させた場合は、PP/PEの2層構造や、3層構造、さらに4層以上の積層構造であっても良い。
好ましい形態は、PP系樹脂の単層のフィルム、および3層構造のフィルムである。3層の積層構造は、ポリエチレンを中間層とし、ポリプロピレンを表層とする、即ち外層がポリプロピレンで内層がポリエチレンになるように積層する場合(PP/PE/PP)や、外層がポリエチレンで内層がポリプロピレンになるように積層する場合(PE/PP/PE)がある。積層構造は、上記のいずれかに特定されるものではないが、カールがなく、外傷を受け難くポリオレフィン微多孔膜の耐熱性、機械的強度等がよく、また蓄電デバイス用セパレータとしての安全性、信頼性等々の特性を満たす上から、外層がポリプロピレンで内層がポリエチレンになるように3層積層する場合(PP/PE/PP)が最も好適である。
【0040】
ポリオレフィン微多孔膜が複数枚のポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンフィルムが積層されたものである場合、各層を構成するPP系樹脂またはPE系樹脂は、分子量が等しくてもよいし、それぞれ異なっていてもよい。
【0041】
ポリオレフィン微多孔膜の全体の厚みは、蓄電デバイス用セパレータとしての機械的強度、性能、小型化等の面から7.0μm以上であることが好ましく、7.5μm以上であることがより好ましく、さらに8.0μm以上であることが好ましく、最も好ましくは8.5μm以上である。上限は50μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは42μm以下である。
膜厚が薄すぎると、破膜が生じやすくなり、デバイスの短絡率が向上し、安全性が低下する恐れが有る為、好ましくない。また、膜厚が厚すぎると、蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合の安全性は向上するが、イオン伝導性が低下し、デバイスのレート特性が低下する為、好ましくない。
【0042】
ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)により、微多孔膜の断面を撮影した画像を画像解析すること、もしくは、打点式の厚み測定装置等により求めることができる。
【0043】
本発明の各実施例形態のポリオレフィン微多孔膜の透気度は80s/100cc以上であることが好ましく、90s/100cc以上であることがより好ましく、さらに100s/100cc以上であることが好ましく、最も好ましくは105s/100cc以上である。上限は700s/100cc以下であることが好ましく、650s/100cc以下であることがより好ましく、さらに好ましくは600s/100cc以下であり、200s/100cc以下であることが最も好ましい。
透気度が低すぎると、電池を作動させた際に短絡しやすくなる恐れがある為、好ましくない。また、透気度が高すぎると、イオンの移動度が低くなり電池として作動しなくなる恐れがある為、好ましくない。
【0044】
本発明の各実施例形態のポリオレフィン微多孔膜の空孔率は30%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上である。上限は70%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは58%以下である。
空孔率が高すぎると、機械的強度が悪くなるし、電池を作動させた際に短絡しやすくなる恐れがある為、好ましくない。また、空孔率が低すぎると、イオンの移動度が低くなり電池として作動しなくなる恐れがある為、好ましくない。
【0045】
本発明の各実施例形態のポリオレフィン微多孔膜の単位面積耐電圧は、3kV/m以上であることが好ましく、4kV/m以上であることがより好ましく、5kV/m以上であることがさらに好ましい。6kV/m以上であることがもっとも好ましい。
なお、単位面積耐電圧は、10cm×100cmサイズの試験片に対して電圧をかけた短絡試験において、導通しない電圧を測定することによって得られた値である。
すなわち、本発明のポリオレフィン微多孔膜は、10cm×100cmの試験片について、0.3kVの電圧をかけた際の短絡試験において導通しないポリオレフィン微多孔膜であることが好ましい。
【0046】
検査の電圧は、高ければ高い程好ましいが、フィルムの膜厚や空孔率等に依存する為、電池の検査電圧である0.3kVが好ましく、より好ましくは、0.4kVであり、さらに好ましくは0.5kV、もっとも好ましくは0.6kVである。
検査の面積としては、全数検査が好ましいが、検査に掛かる時間、人員等のコストの面から、0.10mが好ましく、より好ましくは0.15m、最も好ましくは0.2mである。
【0047】
ポリオレフィン微多孔膜の極大孔径は、0.05μm以上であることが好ましく、0.08μm以上であることがより好ましい。上限は2μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。極大孔径が小さ過ぎると、電池用セパレ−タとして使用したときのイオンの移動性が悪く、抵抗が大きくなるので適当でない。また極大孔径が大きすぎると、イオン移動が大きすぎて適当でない。
【0048】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の透気度は、80s/100cc以上であることが好ましく、90s/100cc以上であることがより好ましく、100s/100cc以上であることがさらに好ましく、最も好ましくは105s/100cc以上である。上限は、700s/100cc以下であることが好ましく、650s/100cc以下であることがより好ましく、600s/100cc以下であることがさらに好ましい。電池用セパレ−タとして使用する場合、透気度が遅すぎると、イオンの流れが抑制されるので適当ではない。透気度が速すぎると、イオンの流れが速すぎて、故障時の温度上昇を高めることになるので適当ではない。
【0049】
ポリオレフィン微多孔膜が複数枚のフィルムを積層した積層体である場合、フィルム間の層間剥離強度は3〜90g/15mmであることが好ましく、3〜80g/15mmであることがより好ましい。層間剥離強度が低いと、例えば電池用セパレ−タの製造工程でフィルム間の剥がれ、カール、伸び等が生じ易く、製品の品質面で問題が生じる恐れがある。
【0050】
ポリオレフィン微多孔膜をセパレータとして用いる場合、一軸延伸または二軸延伸されたポリオレフィン微多孔膜が好適である。中でも、長手方向(MD方向)に一軸延伸されたポリオレフィン微多孔膜は、適度な強度を備えつつ幅方向の熱収縮が少ないため、特に好ましい。一軸延伸されたポリオレフィン微多孔膜をセパレータとして用いると、長尺シート状の正極および負極とともに巻回された場合、長手方向の熱収縮も抑制することが可能となる。このため、長手方向に一軸延伸されたポリオレフィン微多孔膜は、巻回された電極体を構成するセパレータとして特に好適である。
【0051】
<ポリオレフィン微多孔膜の製造方法>
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、製造時に溶媒を使用しない乾式プロセスにて製造されることが好ましい。
湿式法で製造した微多孔膜は除去できない溶媒成分が残留し、可塑剤として働いている為か、メルトダウン温度が向上しない為に好ましくない。
【0052】
以下に上述のポリオレフィン微多孔膜を製造する工程について説明する。
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、例えば、原反(前駆体フィルム)の製造工程、ラミネート工程、延伸工程の3つの工程を経ることで製造することができる。ポリオレフィン微多孔膜は、2種3層の多層原反製膜装置を用いて3層積層された原反を製造した後に、延伸工程を経ることで製造することもできる。
また、PE系樹脂やPP系樹脂の単層からなるポリオレフィン微多孔膜を製造する場合、または多層原反製膜装置で製膜した原反を用いてポリオレフィン微多孔膜を製造する場合は、ラミネート工程を省略しても良い。
【0053】
[原反の製造工程]
ポリオレフィン微多孔膜を作製するための前駆体フィルムである原反フィルムは、厚みが均一で、複数枚積層させた後に延伸により多孔化する性質を備えていることが好ましい。成形方法は、Tダイによる溶融成形が好適であるが、インフレーション法や湿式溶液法等を採用することもできる。
例えば、PP系樹脂とPE系樹脂とが積層されたポリオレフィン微多孔膜を得るために、別々にフィルムをTダイによる溶融成形する場合、一般にそれぞれの樹脂の溶融温度の20℃以上60℃以下温度で、ドラフト比10以上1000以下、好ましくは50以上500以下で行なわれる。また引取速度は特に限定はされないが、普通10m/min.以上、200m/min.以下で成形される。引取速度は、最終的に得られるポリオレフィン微多孔膜の特性(複屈折及び弾性回復率、ポリオレフィン微多孔膜の孔径、空孔率、層間剥離強度、機械的強度等)に影響するので重要である。
また、ポリオレフィン微多孔膜の表面粗さを一定の値以下に抑える為に、原反フィルムの厚みの均一性が重要である。原反の厚みに対する変動係数(C.V.)は、0.001以上、0.030以下の範囲に調整することが望ましい。
【0054】
[ラミネート工程]
原反の製造工程により製造された原反であるポリプロピレンフィルムとポリエチレンフィルムを積層する工程について記載する。
ポリプロピレンフィルムとポリエチレンフィルムは、熱圧着によって積層される。複数枚のフィルムは、これを加熱されたロール間を通し熱圧着される。詳細には、フィルムが複数組の原反ロールスタンドから巻きだされ、加熱されたロール間でニップされ圧着されて積層される。積層は、各フィルムの複屈折及び弾性回復率が実質的に低下しないように熱圧着することが必要である。
【0055】
複数層を熱圧着させる加熱されたロ−ルの温度(熱圧着温度)は、120℃以上160℃以下であることが好ましく、更に好ましくは125℃以上150℃以下である。熱圧着温度が低すぎると、フィルム間の剥離強度が弱くなり、その後の延伸工程で剥がれが生じる。逆に熱圧着温度が高すぎると、ポリエチレンフィルムが溶融し、フィルムの複屈折及び弾性回復率が大きく低下し、所期の課題を満たすポリオレフィン微多孔膜は得られない。
また、複数枚の原反を熱圧着した積層フィルムの厚みは、特に制限されないが一般には9μm以上、60μm以下が適当である。
【0056】
[延伸工程]
積層フィルムは延伸工程にて、各層同時に多孔質化される。
延伸工程は、熱処理ゾーン(オーブン1)、冷延伸ゾーン、熱延伸ゾーン(オーブン2)、熱固定ゾーン(オーブン3)の4つのゾーンにより行われる。
【0057】
積層フィルムは、延伸される前に熱処理ゾーンにて熱処理される。熱処理は、加熱空気循環オーブンもしくは加熱ロールにより、定長もしくは10%以下の緊張下で行われる。
PP系樹脂とPE系樹脂とが積層されたポリオレフィン微多孔膜を製造する場合、熱処理温度は、110℃以上、150℃以下の範囲が好ましく、115℃以上、140℃以下の範囲がより好適である。熱処理温度が低いと十分に多孔化せず、また高すぎるとポリエチレンの溶融が生じて不都合である。熱処理時間は3秒以上、3分間以下が好ましい。
【0058】
熱処理された積層フィルムは、冷延伸ゾーンにて低温延伸され、次いで熱延伸ゾーンにて高温延伸されて多孔化され、積層多孔質フィルムとされる。PP系樹脂とPE系樹脂とが積層されたポリオレフィン微多孔膜を製造する場合、いずれか一方の延伸だけではポリプロピレンとポリエチレンが十分に多孔化されなくなり、これを電池用セパレータとして用いた場合の特性が悪くなる。
【0059】
低温延伸の温度は、マイナス20℃以上、プラス50℃以下とすることが好ましく、特に20℃以上、40℃以下が好ましい。この低温延伸温度が低すぎると作業中にフィルムの破断が生じ易く、好ましくない。一方、低温延伸温度が高すぎると多孔化が不十分になるので好ましくない。低温延伸の倍率(初期延伸倍率)は、3%以上、200%以下の範囲が好ましく、より好ましくは5%以上、100%以下の範囲である。低温延伸の倍率が低すぎると、空孔率が小さいものしか得られない。また高すぎると、所定の空孔率と孔径のものが得られなくなる。したがって、上記範囲が適切である。
【0060】
低温延伸した積層フィルムは、次いで熱延伸ゾーンで高温延伸される。高温延伸の温度は、70℃以上、150℃以下とすることが好ましく、特に80℃以上、145℃以下が好ましい。この範囲を外れると十分な多孔化がされないので適当でない。高温延伸の倍率(最大延伸倍率)は、100%以上、400%以下の範囲であることが好ましい。高温延伸の倍率が低すぎると、透気度が低く、また高すぎると、透気度が高くなりすぎるので上記範囲が好適である。
【0061】
低温延伸と高温延伸をした後、オーブンで熱緩和工程を行うことが好ましい。熱緩和工程は、延伸時に作用した応力残留によるフィルムの延伸方向への収縮を防ぐために行う。熱緩和工程では、例えば、予め延伸後のフィルム長さが10%以上、300%以下の範囲で減少する程度に熱収縮させ、最終延伸倍率とする。熱緩和工程の温度は、70℃以上、145℃以下とすることが好ましく、特に80℃以上、140℃以下が好ましい。
PP系樹脂とPE系樹脂とが積層されたポリオレフィン微多孔膜を製造する場合、熱緩和工程の温度が高すぎると、PE層が融解してしまい不都合である。一方、熱間和工程の温度が低すぎると熱緩和が十分でなく、ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率が高くなり好ましくない。また、熱緩和工程を行わないとポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率が大きくなり、蓄電デバイス用セパレータとして好ましくない。
【0062】
熱延伸ゾーンを経た熱処理フィルムは、次いで熱固定ゾーンにて延伸方向の寸法が変化しないように規制して加熱処理する熱固定を行う。熱固定は加熱空気循環オ−ブンもしくは加熱ロ−ルにより、定長(0%)以上、もしくは10%以下の緊張下で行われる。
熱固定温度は、110℃以上、150℃以下とすることが好ましく、115℃以上、140℃以下の範囲がより好適である。温度が低いと十分な熱固定効果が得られず、ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率が高くなる。また、PP系樹脂とPE系樹脂とが積層されたポリオレフィン微多孔膜を製造する場合、熱固定温度が高すぎるとポリエチレンの溶融が生じて不都合である。
【0063】
本発明においては、厚み精度に優れた原反フィルムを積層し、かつ、延伸、熱緩和後に熱固定を行う。このことで、圧縮の特性に優れ、寸法安定性のよい所期の課題を満たすことができる層間剥離強度の高いポリオレフィン微多孔膜が得られる。
【0064】
ポリオレフィン微多孔膜を製造するには、原反を複数枚別々に製膜して、多層に張り合わせる上記の方法を用いてもよいし、個別の押出機より押し出された樹脂を、ダイの中で合流させ、共に押し出す方法を用いることも可能である。
【0065】
図3は、本実施形態のポリオレフィン微多孔質膜の一例を説明するための断面模式図である。図3における符号11は、ポリオレフィン微多孔質膜10に含まれる多数の空孔のうちの一つを示している。図3に示すように、空孔11は、断面視で厚み方向中心部から表面及び裏面に向かって徐々に直径が小さくなる略円筒状の形状を有する。ポリオレフィン微多孔質膜10に含まれる空孔11は、表面から見た孔径d1と、極大孔径d2との差が大きい。このことにより、図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10では、空孔率よりも表面開口率が小さくなっている。
【0066】
図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10は、空孔率が40〜70%であり、表面開口率が10〜30%の模式図である。空孔率が40%以上であって表面開口率が10%以上であると、これを蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合に電解質を十分に保持できるため、好ましい。空孔率は50%以上であることがより好ましい。表面開口率は12%以上であることがより好ましい。
また、空孔率が70%以下であって表面開口率が30%以下であると、これを蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合に、セパレータを介した短絡を効果的に防止でき、好ましい。また、空孔率は60%以下であることがより好ましい。表面開口率は25%以下であることが更に好ましい。
【0067】
図4は、従来のポリオレフィン微多孔質膜を説明するための断面模式図である。図4における符号21は、ポリオレフィン微多孔質膜20に含まれる多数の空孔のうちの一つを示している。図4に示す空孔21も、図3に示す空孔11と同様に、断面視で厚み方向中心部から表面及び裏面に向かって徐々に直径が小さくなる略円筒状の形状を有する。
しかし、図4に示す従来のポリオレフィン微多孔質膜20は、蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合に、電解質を十分に保持でき、かつ、セパレータを介した短絡を効果的に防止できるものではなかった。
【0068】
それは、図4に示す空孔21の表面から見た孔径d3と、極大孔径d4との差が、図3に示す空孔11と比較して小さいためである。すなわち、図4に示すポリオレフィン微多孔質膜20では、蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合に電解質を十分に保持できる空孔率にすると、表面開口率が大きくなりすぎてセパレータを介した短絡を十分に防止できなくなる。
【0069】
図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10に含まれるおけるポリプロピレン系樹脂(PP系樹脂)の重量平均分子量は、50万以上100万以下であることが好ましい。重量平均分子量の下限は54万以上がより好ましく、55万以上が最も好ましい。さらに重量平均分子量の上限は80万以下であることがより好ましく、75万以下であることが最も好ましい。PP系樹脂の重量平均分子量が50万以上100万以下であると、後述する製造方法により、空孔率が40〜70%、表面開口率が10〜30%である図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10を容易に製造することができる。
【0070】
図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10は、PP系樹脂のみからなる単層膜、またはPP系樹脂のみから構成される層を表層とした複層膜であることが好ましい。
以下、図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10がPP系樹脂のみからなる場合の製造法について、詳細に説明する。
PP系樹脂のみからなるポリオレフィン微多孔質膜10を製造するには、上述したポリオレフィン微多孔膜の製造方法と同様に、溶媒を使用しない乾式プロセスを用いることが好ましい。図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10は、例えば、PP原反フィルム(前駆体フィルム)の製造工程と延伸工程とを経ることで製造できる。
【0071】
[PP原反の製造工程]
既に原反フィルムの製造方法については一通り説明しているが、とりわけPP原反フィルム(以降、PP原反という)の製造方法について以下に記載する。
図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10の素材として用いるPP原反は、公知の方法および条件を用いて製造できる。具体的には、PP原反の製造方法として、Tダイによる溶融成形法、インフレーション法、湿式溶液法等が挙げられる。
図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10を製造する場合、乾式法でTダイを用いて押出する方法によりPP原反を製造することが好ましい。
PP原反の厚さは、製造するポリオレフィン微多孔質膜10の厚さと、後述する低温延伸および高温延伸の倍率とに応じて決定することができ、特に限定されない。また、PP原反の弾性回復率を90%以下にすることにより、この原反を延伸して形成した微多孔質膜の強度を高めることが可能となる。
【0072】
PP原反の複屈折は、15.0×10−3〜17.0×10−3であることが好ましい。PP原反の複屈折が上記範囲であると、空孔率が40〜70%、表面開口率が10〜30%のポリオレフィン微多孔質膜10が得られやすく、好ましい。
PP原反の弾性回復率は、90%以下であることが好ましい。PP原反の弾性回復率が上記範囲であると、空孔率が40〜70%、表面開口率が10〜30%のポリオレフィン微多孔質膜10が得られやすく好ましい。また、PP原反を用いて製造した微多孔質膜の強度が高いものとなり、好ましい。
【0073】
[延伸工程]
次に、PP原反から巻き出した原反フィルムを一軸延伸して多孔質化する。
延伸工程は、従来公知の方法および条件で行うことができ、例えば、上述したポリオレフィン微多孔膜の製造方法と同様にして行うことができる。
以上の工程により、空孔率が40〜70%、表面開口率が10〜30%のPP系樹脂のみからなるポリオレフィン微多孔質膜10が得られる。
【0074】
図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10は、ポリプロピレン系樹脂を含み、メルトダウン温度が195℃以上230℃以下であるので、これを蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合に、優れた安全性が得られる。しかも、図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10は、空孔率が40〜70%、表面開口率が10〜30%である。このため、これを蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合に、電解質を十分に保持できるとともに、セパレータを介した短絡を効果的に防止できる。
さらに、図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10に含まれるポリプロピレン系樹脂が、重量平均分子量50万以上100万以下である場合、上記の製造方法により、空孔率が40〜70%、表面開口率が10〜30%である図3に示すポリオレフィン微多孔質膜10を容易に製造できる。
【0075】
(蓄電デバイス用セパレータフィルム)
本発明の蓄電デバイス用セパレータフィルムは、本発明のポリオレフィン微多孔膜を有する。
本発明の一実施態様の蓄電デバイス用セパレータフィルムは、本発明のポリオレフィン微多孔膜のみからなることができる。すなわち、本発明のポリオレフィン微多孔膜は、特に追加加工せず、そのまま、蓄電デバイス用セパレータフィルムとして用いることができる。
【0076】
本発明のその他の実施態様の蓄電デバイス用セパレータフィルムは、本発明のポリオレフィン微多孔膜を用いた蓄電デバイス用セパレータフィルムとして、ポリオレフィン微多孔膜の片面もしくは両面に、耐熱多孔質層、接着層、機能層から選ばれる少なくとも1層を有していても良い。これらの耐熱多孔質層、接着層、機能層は、各単層で配置されても良く、複数層積層されても良い。
これらの層の形成方法として、複数回の塗工で積層させても良いが、混合等により複数の機能を持たせた層を配置しても良い。たとえば、特許文献3に記載の公知の手法を用いる事ができる。
【0077】
耐熱多孔質層は、本発明の微多孔膜の片面もしくは両面に、耐熱性微粒子と有機バインダを混合し塗工する工程を経る等の手法にて付与してもよい。さらに、耐熱多孔質層の上に、フッ素系樹脂等の有機物を塗工して接着層を付与しても良い。さらに、接着層の上に、有機微粒子等とバインダを混合して、塗工する工程を経る手法にて、機能層を付与しても良い。
【0078】
[耐熱多孔質層]
以下に、耐熱多孔質層について詳述する。
耐熱多孔質層は、耐熱性微粒子を含有することで、その耐熱性を確保している。なお「耐熱性」とは、少なくとも150℃において変形などの形状変化が目視で確認されないことを意味する。耐熱性微粒子の有する耐熱性は、200℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることが更に好ましい。また、耐熱多孔質層は単層であってもよいし複数の層が積層された多層であってもよい。
【0079】
耐熱性微粒子としては、電気絶縁性を有する無機微粒子であることが好ましく、具体的には、酸化鉄、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、TiO、マグネシア、ベーマイト、BaTiOなどの無機酸化物微粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの無機窒化物微粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子;モンモリロナイトなどの粘土微粒子;などが挙げられる。ここで、前記無機酸化物微粒子は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などの微粒子であってもよい。また、これらの無機微粒子を構成する無機化合物は、必要に応じて、元素置換されていたり、固溶体化されていたりしてもよい。更に前記の無機微粒子は表面処理が施されていてもよい。また、無機微粒子は、金属、SnO、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの導電性酸化物、カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質材料などで例示される導電性材料の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、前記の無機酸化物など)で被覆することにより電気絶縁性を持たせた粒子であってもよい。
【0080】
また、耐熱性微粒子として有機微粒子を用いてもよい。有機微粒子の具体例としては、ポリイミド、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、架橋ポリメチルメタクリレート(架橋PMMA)、架橋ポリスチレン(架橋PS)、ポリジビニルベンゼン(PDVB)、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの架橋高分子の微粒子;熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子の微粒子;が挙げられる。これらの有機微粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。
【0081】
耐熱性微粒子は、前記例示のものを1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。耐熱性微粒子は上記のとおり無機微粒子および有機微粒子を用いることができるが、用途に応じて適宜使い分けるとよい。
耐熱性微粒子としては、特に、ベーマイトを用いることが好ましい。例えばベーマイトとしては、平均粒径で、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは15μm以下、より好ましくは3μm以下のものが用いられる。
なお、耐熱性微粒子の平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA−920」)を用い、耐熱性微粒子を溶解しない媒体に分散させて測定した数平均粒子径として規定できる。
耐熱性微粒子の形状は、例えば、球状に近い形状であってもよいし、板状であってもよい。短絡防止の点から、耐熱性微粒子は板状の粒子であることが好ましい。板状に形成された耐熱性微粒子の代表的な例としては、アルミナやベーマイトなどが挙げられる。
【0082】
耐熱多孔質層は耐熱性微粒子を主成分として含む。なお「主成分として含む」とは、耐熱性微粒子を、耐熱多孔質層の構成成分の全体積中で70重量%以上含むことを意味する。耐熱多孔質層における耐熱性微粒子の量は、耐熱多孔質層の構成成分の全重量中、80重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましい。耐熱多孔質層が主成分として耐熱性微粒子を含有することで、ポリオレフィン微多孔膜を含む多孔膜全体の熱収縮を良好に抑制できる。
【0083】
耐熱多孔質層は、例えば主成分として含む耐熱性微粒子同士を結着したり、耐熱性微粒子をポリオレフィン微多孔膜とを結着したりするために、樹脂バインダなどの有機バインダを含有することが好ましい。このような観点から耐熱多孔質層中の耐熱性微粒子量の好適な上限値は、例えば、耐熱多孔質層の構成成分の全重量中、99重量%であることが好ましい。なお、耐熱多孔質層における耐熱性微粒子の量が少なすぎると、例えば、耐熱多孔質層中の有機バインダ量を多くする必要が生じる。その場合には、耐熱多孔質層の空孔が有機バインダによって埋められてしまい、例えばセパレータとしての機能を喪失するおそれがある。また、開孔剤などを用いて多孔質化した場合には、耐熱性微粒子同士の間隔が大きくなりすぎて、熱収縮を抑制する効果が低下するおそれがある。
【0084】
耐熱多孔質層に用いる有機バインダとしては、耐熱性微粒子同士や耐熱性微粒子とポリオレフィン微多孔膜とを良好に接着でき、かつ電気化学的に安定で、蓄電デバイス用セパレータに使用する場合に電解液に対して安定であれば特に制限はない。
例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体、フッ素樹脂[ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など]、フッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびヒドロキシエチルセルロース(HEC)などの水溶性セルロース誘導体、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリN−ビニルアセトアミド、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリイミドなどが挙げられる。これらの有機バインダは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
前記例示の有機バインダの中でも、150℃以上の耐熱性を有する耐熱樹脂が好ましく、特に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、ポリビニルブチラール(PVB)、フッ素系ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)などの柔軟性の高い材料がより好ましい。また、アクリル酸ブチルを主成分とし、これを架橋した構造を有する低ガラス転移温度の架橋アクリル樹脂(自己架橋型アクリル樹脂)も好ましい。
【0086】
耐熱多孔質層における有機バインダの含有量は、耐熱性微粒子100重量部に対して1.1〜30重量部であることが好ましい。
【0087】
耐熱多孔質層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.5μm以上であり、より好ましくは1μm以上であり、さらに好ましくは2μm以上である。耐熱多孔質層の膜厚は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは8μm以下であり、さらに好ましくは6μm以下である。耐熱多孔質層が薄すぎるとメルトダウン防止効果が不十分となる。また、耐熱多孔質層が厚すぎると、例えばセパレータを電池に組み込む工程で耐熱多孔質層にひびが入るなどの欠陥が生じる危険性が高まるので好ましくない。また、耐熱多孔質層が厚すぎると、蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合に、電解液の注液量が増加して電池製造コストの増加の一因となること、電池の体積辺りおよび重量当たりのエネルギー密度が低下することから、好ましくない。
【0088】
ポリオレフィン微多孔膜の膜厚と耐熱多孔質層の膜厚との合計は、特に限定されないが、4〜40μm、好ましくは9〜30μm、更に好ましくは10〜28μmである。上記の膜厚が薄すぎると、メルトダウン防止効果が不十分となる上にLiデンドライトによる短絡抑止効果も不十分となるので好ましくない。上記の膜厚が厚すぎると、電池セパレータとして使用したとき、電解液の注液量が増加し電池製造コストの増加の一因となること、電池の体積辺りおよび重量当たりのエネルギー密度が低下することから、好ましくない。
【0089】
また、ポリオレフィン微多孔膜の平均膜厚をa(μm)、耐熱多孔質層の平均膜厚をb(μm)としたとき、膜厚比a/bの値が、0.5以上20以下であることが好ましく、1以上10以下であることがより好ましい。ポリオレフィン微多孔膜に対して、耐熱多孔質層の膜厚を厚くすると、電解液の保持率が悪くなってしまう。このため、膜厚比a/bの値は上記の範囲が好ましい。
【0090】
耐熱多孔質層を積層したポリオレフィン微多孔膜のガーレ値(透気度)は、特に限定されないが、80〜700秒/100cc、好ましくは90〜650秒/100cc、更に好ましくは100〜600秒/100ccである。ガーレ値が高すぎると、積層多孔質膜を積層したポリオレフィン微多孔膜を電池セパレータとして使用したときの機能が十分に得られない虞が生じる。ガーレ値が低すぎると、電池内部の反応の不均一性が高まる危険性があり好ましくない。
【0091】
[耐熱多孔質層の形成方法]
耐熱多孔質層の形成方法は、上記ポリオレフィン微多孔膜の片面または両面に上記耐熱性微粒子を主成分として含む塗工液を塗布する工程と、塗布された塗工液を乾燥して耐熱多孔層を形成させる工程とを含む。
【0092】
耐熱多孔質層が有機バインダを含有する場合には、耐熱多孔質層を形成する塗工液(スラリーなど)の媒体(溶媒)に、有機バインダを溶解させるか、または塗工液中に分散させたエマルジョンの形態とすればよい。
この塗工液は、耐熱性微粒子と必要に応じた量の有機バインダとを含み、これらが水や有機溶剤などの媒体に分散(有機バインダは媒体に溶解してもよい)されたものである。
【0093】
塗工液の媒体として用いる有機溶剤としては、ポリオレフィン微多孔膜を溶解したり膨潤させたりするなどしてポリオレフィン微多孔膜にダメージを与えないものである。また、有機バインダを使用する場合にあっては、有機溶剤として有機バインダを均一に溶解可能なものである。有機溶剤は、このようなものであれば特に制限は無いが、例えば、テトラヒドロフラン(THF)などのフラン類;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン類;などが好適である。なお、高沸点の有機溶剤は、耐熱多孔質層形成用の組成物をポリオレフィン微多孔膜に塗布した後、乾燥などによって有機溶剤を除去する際に、ポリオレフィン微多孔膜に熱溶融などのダメージを与える虞があるので好ましくない。
これらの有機溶剤を用いた場合、塗工液中に、多価アルコール(エチレングリコール、トリエチレングリコールなど)や界面活性剤(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチルアルキルフェニルエーテルなど)などを適宜加えてもよい。
【0094】
また、塗工液の媒体には、水を用いることもできる。その場合にも、塗工液中に、アルコール(エタノール、イソプロパノールなどの炭素数が6以下のアルコールなど)や界面活性剤(例えば、前記の有機溶剤を媒体とする塗工液に用い得るものとして例示したもの)を加えてもよい。
【0095】
ポリオレフィン微多孔膜上に塗工液を塗布する方法としては、通常、慣用の流延または塗布方法が用いられる。具体的には、例えば、ロールコーター、エヤナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、シルクスクリーンコーター、ダイコーター、マイクログラビアコーター法などの従来公知の塗工装置を用いる方法が挙げられる。
【0096】
次に、ポリオレフィン微多孔膜の片面または両面に塗布された塗工液を乾燥して塗工液中の媒体を除去することにより、耐熱多孔質層を形成する。
【0097】
以下に、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等のなどの蓄電デバイスに用いられるセパレータについて説明する。セパレータの形状は、例えばリチウムイオン二次電池の形状等に応じて適宜調整するとよい。同様に、正極および負極の形状もリチウムイオン二次電池の形状に応じて適宜調整するとよい。
セパレータは、本実施形態の蓄電デバイス用セパレータフィルムで構成され、単層構造もしくは多層構造を有する。
【0098】
(非水電解液)
本実施形態の蓄電デバイスに用いられる非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状エステルが好適に挙げられる。広い温度範囲、特に高温での電気化学特性が相乗的に向上するため、鎖状エステルが含まれることが好ましく、鎖状カーボネートが含まれることが更に好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの両方が含まれることがもっとも好ましい。なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0099】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)から選ばれる一種又は二種以上が挙げられ、ECとVCの組み合わせ、PCとVCの組み合わせが特に好ましい。
【0100】
また、非水溶媒がエチレンカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートを含むと電極上に形成される被膜の安定性が増し、高温、高電圧サイクル特性が向上するので好ましい。エチレンカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートの含有量は、非水溶媒の総体積に対し、好ましくは3体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは7体積%以上である。また、その上限としては、好ましくは45体積%以下、より好ましくは35体積%以下、更に好ましくは25体積%以下である。
【0101】
鎖状エステルとしては、非対称鎖状カーボネートとして、メチルエチルカーボネート(MEC)、対称鎖状カーボネートとして、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、鎖状カルボン酸エステルとして酢酸エチル(以下、EA)が好適に挙げられる。前記鎖状エステルの中でも、MECとEAのような非対称かつエトキシ基を含有する鎖状エステルの組み合わせが可能である。
【0102】
鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60〜90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下して広い温度範囲、特に高温での電気化学特性が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0103】
鎖状エステルの中でもEAが占める体積の割合は、非水溶媒中に1体積%以上が好ましく、2体積%以上がより好ましい。その上限としては、10体積%以下がより好ましく、7体積%以下であると更に好ましい。非対称鎖状カーボネートはエチル基を有するとより好ましく、メチルエチルカーボネートが特に好ましい。
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、広い温度範囲、特に高温での電気化学特性向上の観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90〜45:55が好ましく、15:85〜40:60がより好ましく、20:80〜35:65が特に好ましい。
【0104】
[電解質塩]
本実施形態の蓄電デバイスに用いられる電解質塩としては、リチウム塩が好適に挙げられる。
リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiN(SOF)、LiN(SOCFからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましく、LiPF、LiBF及びLiN(SOF)から選ばれる1種又は2種以上が更に好ましく、LiPFを用いることが最も好ましい。
【0105】
[非水電解液の製造]
本実施形態の蓄電デバイスに用いられる非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩及び該非水電解液に対して溶解助剤などを特定の混合比率で混合させた組成物を添加する方法により得ることができる。この際、用いる非水溶媒及び非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0106】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、下記の第1、第2の蓄電デバイスに使用することができ、非水電解質として液体状のものだけでなくゲル化されているものも使用できる。中でも電解質塩にリチウム塩を使用するリチウムイオン電池(第1の蓄電デバイス)用やリチウムイオンキャパシタ(第2の蓄電デバイス)用のセパレータとして用いることが好ましく、リチウムイオン電池用に用いることがより好ましく、リチウムイオン二次電池用に用いることが更に好ましい。
【0107】
(蓄電デバイス)
本発明の蓄電デバイスは、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータとしての本発明のポリオレフィン微多孔膜を有する蓄電デバイス用セパレータフィルムと、少なくともセパレータに含浸される非水電解液と、を備える。
【0108】
[リチウムイオン二次電池]
本発明の蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液を有する。非水電解液以外の正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
【0109】
例えば、リチウムイオン二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン、及びニッケルからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独で用いるか又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0110】
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiCo1−x(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、及びCuから選ばれる1種又は2種以上の元素)、LiMn、LiNiO、LiCo1−xNixO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2Mn0.3、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiMnOとLiMO(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体、及びLiNi1/2Mn3/2から選ばれる1種以上が好適に挙げられる。
【0111】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラックなどから選ばれる1種又は2種以上のカーボンブラック等が挙げられる。
【0112】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の結着剤と混合し、これに溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製板等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、所定条件のもとに加熱処理することにより作製することができる。
【0113】
リチウムイオン二次電池用負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、又はLiTi12等のチタン酸リチウム化合物等を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0114】
これらの中では、リチウムイオンの吸蔵及び放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用することがより好ましい。
【0115】
特に複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合又は結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、鱗片状天然黒鉛を球形化処理した粒子、を用いることが好ましい。
【0116】
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、所定条件のもとに加熱処理することにより作製することができる。
【0117】
[リチウムイオン二次電池]
本発明の蓄電デバイスの1つとして、リチウムイオン二次電池の構造に特に限定はなく、コイン型電池、円筒型電池、角型電池、又はラミネート電池等を適用できる。
【0118】
巻回型のリチウムイオン二次電池は、例えば、電極体が非水電解液と共に電池ケースに収容された構成を有する。電極体は、正極と負極とセパレータとによって構成されている。非水電解液の少なくとも一部は、電極体に含浸されている。
【0119】
巻回型のリチウムイオン二次電池では、正極として、長尺シート状の正極集電体と、正極活物質を含み且つ正極集電体上に設けられた正極合材層とを含む。負極として、長尺シート状の負極集電体と、負極活物質を含み且つ負極集電体上に設けられた負極合材層とを含む。
セパレータは、正極および負極と同様に、長尺シート状に形成されている。正極および負極は、それらの間にセパレータを介在させ筒状に巻回される。
【0120】
電池ケースは、有底円筒状のケース本体と、ケース本体の開口部を塞ぐ蓋とを備える。蓋およびケース本体は例えば金属製であり互いに絶縁されている。蓋は正極集電体に電気的に接続され、ケース本体は負極集電体に電気的に接続されている。なお、蓋が正極端子、ケース本体が負極端子をそれぞれ兼ねるようにしてもよい。
【0121】
リチウムイオン二次電池は、−40〜100℃、好ましくは−10〜80℃で充放電することができる。また、巻回型リチウムイオン二次電池の内圧上昇の対策として、電池の蓋に安全弁を設ける、電池のケース本体やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を蓋に設けることもできる。
【0122】
[巻回型リチウムイオン二次電池の製造]
一例として、リチウムイオン二次電池の製造手順について以下に説明する。
まず、正極、負極、およびセパレータをそれぞれ作製する。次に、それらを重ね合わせて円筒状に巻回することにより、電極体を組み立てる。次いで電極体をケース本体に挿入し、ケース本体内に非水電解液を注入する。これにより、電極体に非水電解液が含浸する。ケース本体内に非水電解液を注入した後、ケース本体に蓋を被せ、蓋およびケース本体を密封する。なお、巻回後の電極体の形状は円筒状に限られない。例えば、正極とセパレータと負極とを巻回した後、側方から圧力を加えることにより、偏平形状に形成してもよい。
【0123】
上記のリチウムイオン二次電池は、各種用途向けの二次電池として利用可能である。例えば、自動車等の車両に搭載され、車両を駆動するモータ等の駆動源用の電源として好適に利用することができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等があげられる。かかるリチウムイオン二次電池は、単独で使用されてもよく、直列および/または並列に複数の電池を接続して使用してもよい。
【0124】
[リチウムイオンキャパシタ]
本発明の他の蓄電デバイスとしてリチウムイオンキャパシタがあげられる。本実施形態のリチウムイオンキャパシタは、セパレータとしての本発明のポリオレフィン微多孔膜を有する蓄電デバイス用セパレータフィルム、非水電解液、正極、負極を有する。リチウムイオンキャパシタは、負極であるグラファイト等の炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵することができる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気二重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。電解液には少なくともLiPF等のリチウム塩が含まれる。
【0125】
なお、上記では巻回型リチウムイオン二次電池について記載したが、本発明はこれに限らず、ラミネート型リチウムイオン二次電池に適用してもよい。
例えば、正極または負極の電極を一対のセパレータによってサンドイッチして包装する。本実施形態にあっては、正極を袋詰電極にしている。セパレータは、電極よりもやや大きいサイズを有している。電極の本体を一対のセパレータで挟み込みつつ、電極端部から出っ張ったタブをセパレータから外部に突出させる。重ねられた一対のセパレータの側縁同士を接合して袋詰めにし、このセパレータで袋詰めされた一方の電極と他方の電極とを交互に積層し電解液を含浸させることでラミネート型電池を作製することができる。このとき、厚みを薄型化するために、これらセパレータおよび電極を厚み方向に圧縮してもよい。
【実施例】
【0126】
次に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら一実施例に限定されるものではない。
【0127】
(評価実験方法)
以下に示す方法により製造したポリオレフィン微多孔膜および蓄電デバイス用セパレータフィルム、これらの原料および原反について、以下に示す項目を以下に示す方法により評価した。
【0128】
[剥離強度測定]
ラミネート工程後に得られた積層フィルムから幅方向(TD):15mm×長さ方向(MD):200mmの試験片を、積層フィルムのTD方向中心部とTD方向両端部(端部より10mm内側の位置を試験片のTD方向端面とする)とからそれぞれ採取した。各試験片について、それぞれA面(一方の面)から接着面の一部を剥がしたサンプルとB面(他方の面)から接着面の一部を剥がしたサンプルとを作成し、各積層フィルム毎に合計6点のサンプルを作成した。各サンプルを、ORIENTEC社製の引張試験機RTC−1210AにT状態にセットして、100Nのロードセルを用い、チャック間距離50mm、クロスヘッドスピード50mm/min.の条件にて、MD方向の層間剥離強度を測定した。剥離開始後、120mm、140mm、160mm、180mm、200mm剥離時の剥離強度を測定し、その平均値を剥離強度として評価した。なお、表1中に記載された単位「g/15mm」は幅方向(TD方向)に15mmで切り出されたサンプルの剥離強度であることを意味している。
【0129】
[膜厚測定]
試料よりMD50mm、全幅にわたるテープ状の試験片を5枚用意する。5枚の試験片を重ね、測定点が25点になるように幅方向に等間隔に、ファインプリューフ社製電気マイクロメーター(ミリトロン1240触針5mmφ(フラット面、針圧0.75N))を用い厚さを測定した。測定値の1/5の値を各点の一枚あたりの厚さとし、その平均値を算出し、膜厚とした。
【0130】
[厚みの変動係数(C.V.)]
原反の厚みの変動係数(C.V.)は、上記の膜厚測定と同様にして、測定点が25点になるように幅方向に等間隔に試験片の厚みを測定し、その結果の標準偏差
【0131】
【数1】
を、算術平均
【0132】
【数2】
で除することで求めた。原反の厚みの変動係数(C.V.)は、原反の幅方向の厚みのバラツキの指標として評価した。
【0133】
[複屈折]
偏光顕微鏡を使用し、直交ニコル下でベレックコンペンセータを用いて測定された値である。
【0134】
[弾性回復率]
PE原反の弾性回復率は、次の式(1)による。50%伸長後荷重0となった時の長さは、25℃、65%相対湿度において試料(幅15mm、長さ2インチ)を引張試験機にセットし、2インチ/minの速度で50%まで伸長した後、1分間伸長状態で保持しその後同速度で弛緩させたものを測定した。
【0135】
弾性回復率(%)=[(50%伸長時の長さ−50%伸長後荷重0となった時の長さ)/(50%伸長時の長さ−伸長前の長さ)]×100 (1)
【0136】
PP原反の弾性回復率は、次の(2)による。100%伸長後荷重0となった時の長さは、25℃、65%相対湿度において試料(幅10mm、長さ50mm)を引張試験機にセットし、50mm/minの速度で100%まで伸長した後、直ちに同速度で弛緩させ、150℃で30分熱処理したものを測定した。
【0137】
弾性回復率(%)=[(100%伸長時の長さ−100%伸長後荷重0となった時の長さ)/伸長前の長さ]×100 (2)
【0138】
[融解熱量]
パーキンエルマー社製入力補償型DSC(商品名:Diamond DSC)を用いてISO3146に準じ、走査温度範囲30℃から250℃まで、昇温速度10℃/分で昇温し昇温走査後に10分間の熱処理を行った。その後、降温速度10℃/分で走査温度下限まで降温させ、再び昇温速度10℃/分で走査温度上限まで走査を行い、その際の吸熱ピークのピークトップ温度を融点とし、その時の熱量を融解熱量とした。
【0139】
[重量平均分子量および分子量分布]
PE原反の原料として用いたPE、およびPP原反の原料として用いたPPの重量平均分子量および分子量分布は、Waters社製V200型ゲル浸透クロマトグラフを用いて、標準ポリスチレン換算によって求めた。カラムにはShodexAT−G+AT806MSの2本を使用し、0.3wt/vol%に調製したオルトジクロロベンゼン中、145℃で測定を行った。検出器には、示差屈折計(RI)を用いた。
【0140】
[透気度(ガーレ値)の測定]
製造したポリオレフィン微多孔膜または蓄電デバイス用セパレータフィルムからMD方向に80mm、全幅の試験片を採取し、中央部と左右の端部(端面から50mm内側)の3点について、B型ガーレ式デンソメーター(株式会社東洋精機社製)を用い、JIS P8117に準じて、測定を行った。3点の平均値をガーレ値として評価した。
【0141】
[引張強度、引張伸度の測定]
ASTM D−822に準じ、測定を行った。
幅方向(TD)に延びる幅10mm、長さ100mmの短冊状の試験片と、長さ方向(MD)に延びる幅10mm、長さ100mmの短冊状の試験片とを、それぞれ試料の幅方向(TD)中央部と左右の端部(端面から10mm内側の位置を試験片のTD方向端面とする)の3点から採取した。
【0142】
引張試験機−ORIENTEC.RTC−1210Aにて、100Nのロードセルを用い、チャック間距離50mm、クロスヘッドスピード50mm/min.の条件にて引張試験を実施した。
【0143】
引張強度は試験片破断時の荷重W(kg)、試験片の断面積S(mm、厚さは膜厚測定の平均値を用いる)から以下の式より算出した。
【0144】
【数3】
【0145】
[引張伸度]
引張伸度は試験前の試験片の標点間距離L(mm)、破断時の標点間距離L(mm)から以下の式より算出した。
【0146】
【数4】
MD方向およびTD方向の引張強度は、少数第1位を四捨五入し、整数にまるめた。また、MD方向およびTD方向の引張伸度は、少数第1位を四捨五入し、整数にまるめた。
各測定値の平均値を引張強度、引張伸度として評価した。
【0147】
[突刺強度]
製造したポリオレフィン微多孔膜または蓄電デバイス用セパレータフィルムから、MD方向に約30mm、TD方向に全幅にわたるテープ状の試験片を取採した。
カトーテック株式会社製、ハンディー圧縮試験機にR=0.5mmのニードル試験アタッチメントを装着し、90mm/minの速度で、固定された試験片の中心を突いたときに、試験片が破れる荷重を測定した。
測定は20点行い、20点の平均を持って突刺強度とした。
【0148】
[目付重量]
試料より幅方向に両サイドより型枠を用い100mm×100mmの試験片を2枚採取し、採取した2枚の各試験片の重量を測定した。
測定した重量から以下の式より目付重量を算出した。
【0149】
【数5】
【0150】
[空孔率]
試料の幅方向両端部より型枠を用いて100mm×100mmの試験片を、両端面に沿って2枚採取し、採取した2枚の各試験片の重量を0.1mg迄測定した。
測定した重量から以下の式を用いて空孔率を算出した。
【0151】
【数6】
結果は、少数第1位を四捨五入して整数としてまとめた。
【0152】
[熱収縮率]
試料より試験片(200×200mm)を両側10mm内側から採取した。各試験片の幅方向(TD)及び長さ方向(MD)各1ヶ所に標点間距離180mmの標点を中央部に記入し、標点間寸法を鋼尺にて測定した。標点間距離を記入した試料を紙に挟み、ヤマト科学製、熱風循環式 型式:DK−43にて105℃にて2時間加熱処理を行った。加熱処理された試料を紙に挟んだまま取り出し、室温にて60分間放冷を行い、標点間距離を鋼尺にて測定した。
【0153】
加熱収縮率は加熱前標点間距離をL(mm)、加熱後の標点間距離をL(mm)とし以下の式により算出した。
熱収縮率=(L−L)/L×100
【0154】
[オーブン加熱試験]
図2(A)に示すように、試料2を縦60mm×横60mm角に切り出し、中央部にφ40mmの円状の穴を空けたアルミ板1(材質:JIS規格A5052、サイズ:縦60mm、横60mm、厚さ1mm)2枚の間にはさみ、図2(B)に示すように周囲をクリップ3(KOKUYO社製、ダブルクリップ「クリ−J35」)で固定した。
アルミ板2枚で固定された状態の試料2を200℃に設定したオ−ブン(ESPEC社製、PH−201、ダンパー閉状態)に入れ、オーブン設定温度が200℃に再び達してから2分後に取り出し、試料の状態からメルトダウン(MD)特性の有無を評価した。
【0155】
○:形状が維持されている場合(MD特性あり)
×:形状が維持できず、破膜した場合(MD特性なし)
なお、フィルム片が60mm×60mm角に切り出せない場合は、中央部がφ40mmの円状の穴にフィルムが設置されるように調整し、試料を作成しても構わない。
【0156】
[シャットダウン・メルトダウン温度]
自製の電気抵抗測定用セルを用いて、シャットダウン温度、メルトダウン温度を測定した。体積比でプロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)をPC/DEC=3/7で混合した混合溶媒を調製した。前記混合溶媒に対し1mol/Lの濃度になるように六フッ化燐酸リチウムが溶解した電解液を、製造したポリオレフィン微多孔膜または蓄電デバイス用セパレータフィルムに含浸させ、セパレータ試料片とした。ニッケル製電極に電解液を含浸させたセパレータ試料片を挟み、10℃/minの速度で昇温した。電極間抵抗は抵抗測定装置:LCRハイテスタ(日置電気(株)製)を用いて、測定周波数1kHzの条件で行った。このとき、電気抵抗が1000Ωに達した温度をシャットダウン温度とした。また、シャットダウン温度後も230℃まで昇温を続けて、短絡が生じるかを確認し、短絡が生じた温度をメルトダウン温度とした。
【0157】
[耐電圧試験]
株式会社サンコウ電子研究所社製ピンホール試験機TO−5DP型を用い、検査電圧0.3kVと0.5kVの条件で、サンプルサイズ10cm×100cmの面積についてプローブを接触させながら走査し、耐電圧試験を実施した。評価結果は、○、×で判別した。
○:通電箇所無し。
×:通電箇所、1か所以上あり。
【0158】
[表面開口率の測定方法]
ポリオレフィン微多孔膜の表面SEM観察を行い、その画像をImage Jで2値化した。その画像において、開口部を黒色、未開口部を白色として分離し、10μm×10μmの範囲の面積を4箇所画像解析し、それぞれ開口部の総面積を算出した。算出した各開口部の総面積から平均値を求め、画像解析を実施した面積で除して、百分率で評価した。
【0159】
[ゼロ剪断粘度]
TAインスツルメント社製のレオメータARES(型式:ARES)を用いて、溶融PP樹脂のせん断動的粘弾性測定を行った。ジオメトリには、コーン−パラレルプレート(コーン角0.1rad)を用いた。周波数範囲400〜0.01s−1(5points per decade)、ひずみ0.1(10%)の条件で、温度220℃、200℃、180℃、160℃の4水準について動的粘弾性測定を行い、200℃の測定データを基準としてマスターカーブを作成した。周波数0.01s−1以下の領域において、一定値となった粘度の値をゼロ剪断粘度とした。なお本明細書では、上述した200℃の測定データを基準としてマスターカーブを作成し、このマスターカーブに基づいてゼロ剪断粘度を算出することを「200℃条件」という。
【0160】
(実施例1)
以下に本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法の一例について示すが、製造方法は以下に限らず他の方法を用いてもよい。例えば、以下の方法の他にも、Tダイを用いた共押し出し工程と延伸工程とでポリオレフィン微多孔膜を作製してもよい。
【0161】
[PP原反の製膜]
吐出幅1000mm、吐出リップ開度2mmのTダイを使用し、重量平均分子量が590,000、分子量分布が11.0、ペンタッド分率が92%、融点が161℃のポリプロピレン樹脂を、Tダイ温度200℃で溶融押出した。吐出フィルムは90℃の冷却ロ−ルに導かれ、37.2℃の冷風が吹きつけられて冷却された後、40m/min.で引き取った。得られた未延伸ポリプロピレンフィルム(PP原反)の膜厚は14.1μm、複屈折は15.0×10−3、弾性回復率は150℃、30分熱処理後で90.0%であった。また、得られたPP原反の原反の厚みに対する変動係数(C.V.)は、0.015であった。
【0162】
[PE原反の製膜]
吐出幅1000mm、吐出リップ開度2mmのTダイを使用し、重量平均分子量が320,000、分子量分布が7.8、密度が0.964g/cm、融点が133℃、メルトインデックス0.31の高密度ポリエチレンを、173℃で溶融押出した。吐出フィルムは115℃の冷却ロ−ルに導かれ、39℃の冷風を吹きつけて冷却した後、20m/min.で引き取った。得られた未延伸ポリエチレンフィルム(PE原反)の膜厚は7.6μm、複屈折は37.5×10−3、50%伸長時の弾性回復率は38.5%であった。 また、得られたPE原反の原反の厚みに対する変動係数(C.V.)は、0.016であった。
【0163】
[ラミネート工程]
この未延伸PP原反(PP原反)と未延伸PE原反(PP原反)とを使用し、両外層がPPで内層がPEのサンドイッチ構成の三層の積層フィルムを以下のようにして製造した。
三組の原反ロ−ルサンドから、PP原反とPP原反をそれぞれ巻きだし速度6.5m/min.で巻きだし、加熱ロ−ルに導き、ロール温度147℃のロールにて熱圧着し、その後同速度で30℃の冷却ロ−ルに導いた後に巻き取った。巻出し張力はPP原反が5.0kg、PE原反が3.0kgであった。得られた積層フィルムは膜厚35.8μmで、剥離強度は57.9g/15mmであった。
【0164】
[延伸工程]
この三層の積層フィルムは125℃に加熱された熱風循環オ−ブン(熱処理ゾーン:オーブン1)中に導かれ加熱処理を行った。次いで熱処理した積層フィルムは、冷延伸ゾーンにて、35℃に保持されたニップロール間で18%(初期延伸倍率)に低温延伸された。供給側のロ−ル速度は2.8m/min.であった。引き続き130℃に加熱された熱延伸ゾーン(オーブン2)にて、ロ−ル周速差を利用してロ−ラ間で190%(最大延伸倍率)になるまで熱延伸された後、引きつづき125%(最終延伸倍率)まで熱緩和させ、次いで熱固定ゾーン(オーブン3)にて、133℃にて熱固定され、連続的にPP/PE/PP、3層構造のポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0165】
使用した原料の特性、および得られたポリオレフィン微多孔膜の物性を表1および表2に示した。
また、実施例1のポリオレフィン微多孔膜を、蓄電デバイス用セパレータフィルムとして用いた場合の電気特性(耐電圧試験の結果)を表2に示した。
また、オーブン加熱試験のメルトダウン(MD)特性については、表3に示した。シャットダウン(SD)温度特性については、図1に示した。
【0166】
(実施例2〜実施例6)
PP樹脂原料と、PP原反およびPE原反の膜厚とを変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリオレフィン微多孔膜を作製した。
使用した原料の特性、および得られたポリオレフィン微多孔膜の物性を表1および表2に示した。実施例2〜実施例6に使用したPP樹脂は表1に記載した物性の原料を使用した。
また、実施例2〜実施例6のポリオレフィン微多孔膜を、蓄電デバイス用セパレータフィルムとして用いた場合の電気特性(耐電圧試験の結果)を表2に示した。
【0167】
(実施例7)
多層原反装置を使用して3層構造(PP/PE/PP)の多層原反を作製し、ラミネート工程を省略した以外は、実施例1と同様の方法で作成した。
使用した原料の特性、および得られたポリオレフィン微多孔膜の物性を表1および表2に示した。複屈折および弾性回復率は多層原反のまま測定を行った。また、弾性回復率は、PE原反と同様にして測定した。
また、実施例7のポリオレフィン微多孔膜を、蓄電デバイス用セパレータフィルムとして用いた場合の電気特性(耐電圧試験の結果)を表2に示した。
【0168】
(実施例8〜実施例9)
PP原反のみを用い、ラミネート工程を省略した以外は、実施例1と同様の方法で、PP単層のポリオレフィン微多孔膜を作製した。
使用した原料の特性、および得られたポリオレフィン微多孔膜の物性を表1および表2に示した。実施例8〜実施例9に使用したPP樹脂は表1に記載した物性の原料を使用した。
また、実施例8〜実施例9のポリオレフィン微多孔膜を、蓄電デバイス用セパレータフィルムとして用いた場合の電気特性(耐電圧試験の結果)を表2に示した。
【0169】
(実施例10〜実施例12)
実施例1〜実施例3のポリオレフィン微多孔膜の片面に、それぞれ2μm、5μm、8μmの耐熱多孔質層(フィラー:ベーマイト(平均粒径2μm))を塗工・乾燥させることで、総厚32.0μm、31.5μm、29.1μmの蓄電デバイス用セパレータフィルムを作製した。
なお、耐熱多孔質層の重量はそれぞれ、2.72g/m、6.84g/m、10.96g/mであった。
実施例10〜実施例12のポリオレフィン微多孔膜(実施例1〜実施例3のポリオレフィン微多孔膜と同じである。)の物性を表1に示す。作製した蓄電デバイス用セパレータフィルムの物性を表2に示す。なお、実施例10〜実施例12では、耐熱性微粒子としてフィラーであるベーマイトを用い、樹脂バインダとしてポリビニルピロリドン(PVP)を用いてスラリーを調製し、このスラリーをポリオレフィン微多孔膜の片面に塗布して耐熱多孔質層を形成した。
【0170】
(比較例1〜比較例3)
表1に示したように、PP樹脂原料と、PP原反およびPE原反の膜厚とを変更し、PP樹脂として表1に示したように、重量平均分子量が47,0000〜51,0000、分子量分布が5.6〜7.2、融点が166〜167℃のPP樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を作成した。
使用した原料の特性、および得られたポリオレフィン微多孔膜の物性および電気特性を表1および表2に示した。
【0171】
(比較例4)
表1に示したように、重量平均分子量が410,000、分子量分布が9.3、融点が164℃のPP樹脂を用いた以外は、実施例8と同様にしてPP単層のポリオレフィン微多孔膜を作成した。
使用した原料の特性、および得られたポリオレフィン微多孔膜の物性および電気特性を表1および表2に示した。
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】
【0174】
【表3】
【0175】
実施例1〜12、比較例1〜4において使用したPP樹脂の200℃条件によるゼロ剪断粘度を上記の方法により測定した。その結果、実施例1〜12において使用したPP樹脂の200℃条件によるゼロ剪断粘度は、15849〜17783Pa・sの範囲であった。これに対し、比較例1〜4において使用したPP樹脂の200℃条件によるゼロ剪断粘度は、6310〜7079Pa・sの範囲であり、実施例1〜12と比較して低かった。
【0176】
表2に示すように、実施例1〜12のポリオレフィン微多孔膜(または蓄電デバイス用セパレータフィルム)は、メルトダウン温度が195℃以上であり、耐電圧試験の結果が○であり、蓄電デバイスのセパレータとして好適であることが確認できた。
これに対し、比較例1〜4のポリオレフィン微多孔膜は、メルトダウン温度が195℃未満であり、実施例1〜12のポリオレフィン微多孔膜と比較して、蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合の安全性が低いものであった。
【0177】
(実施例A〜実施例D、比較例5〜比較例6)
表4に示すPP樹脂を用いて、実施例1と同様にして、表4に示す膜厚のPP原反を作成した。得られた原反は膜厚9〜26μmであった。
得られた原反に対して、実施例1と同様にして延伸工程を行い、実施例A〜DのPP単層のポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0178】
実施例A〜実施例D、比較例5〜比較例6において使用した原料の特性、および得られたポリオレフィン微多孔膜の物性および電気特性(耐電圧試験の結果)を表4に示した。
【0179】
【表4】
【0180】
表4に示すように、実施例A〜Dのポリオレフィン微多孔膜は、メルトダウン温度が195℃以上230℃以下であり、耐電圧試験の結果が○であり、蓄電デバイスのセパレータとして好適であることが確認できた。
これに対し、比較例5、6のポリオレフィン微多孔膜は、メルトダウン温度が195℃未満であり、蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合の安全性が低いものであった。
【0181】
実施例8、実施例A〜実施例D、比較例5〜比較例6のポリオレフィン微多孔膜の表面開口率を上記の方法により測定した。その結果を表4に示す。また、実施例8の表面開口率は17.7%であった。
【符号の説明】
【0182】
1 アルミ板
2 試料
3 クリップ
10、20 ポリオレフィン微多孔質膜
11、21 空孔
図1
図2
図3
図4