(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記部材を設ける工程は、前記表面上において、互いに分離した前記部分の間から前記トレンチラインが突出するように行なわれる、請求項1に記載の脆性基板の分断方法。
前記部材を設ける工程において、前記部分は前記脆性基板の前記表面上に前記トレンチラインを介して100μm以下の間隔で配置される、請求項1または2に記載の脆性基板の分断方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0013】
(実施の形態1)
本実施の形態の脆性基板の分断方法について、以下に説明する。
【0014】
図1(A)および
図2(A)を参照して、まずガラス基板4(脆性基板)が準備される(
図4:ステップS10)。ガラス基板4は、上面SF1(表面)と、その反対の下面SF2とを有する。ガラス基板4は、上面SF1に垂直な厚さ方向DTを有する。また刃先51およびシャンク52を有するカッティング器具50が準備される。刃先51は、そのホルダとしてのシャンク52に固定されることによって保持されている。なおカッティング器具のより詳しい構造は実施の形態2および6において説明される。
【0015】
次に、ガラス基板4の上面SF1に刃先51が押し付けられる(
図4:ステップS20)。次に、押し付けられた刃先51がガラス基板4の上面SF1上で摺動させられる(
図1(A)中の矢印参照)。
【0016】
図1(B)および
図2(B)を参照して、刃先51の上記摺動によってガラス基板4の上面SF1上に塑性変形が発生させられる。これにより上面SF1上に、溝形状を有するトレンチラインTLが形成される(
図4:ステップS30)。
図3(A)を参照して、トレンチラインTLを形成する工程は、トレンチラインTLの直下においてガラス基板4がトレンチラインTLの延在方向(
図1(B)における横方向)と交差する方向DCにおいて連続的につながっている状態であるクラックレス状態が得られるように行なわれる。クラックレス状態においては、塑性変形によるトレンチラインTLは形成されているものの、それに沿ったクラックは形成されていない。よって従来のブレーク工程のようにガラス基板4に単純に曲げモーメントなどを発生させる外力を加えても、トレンチラインTLに沿った分断は容易には生じない。このためクラックレス状態においてはトレンチラインTLに沿った分断工程は行われない。クラックレス状態を得るために、刃先51に加えられる荷重は、クラックが発生しない程度に小さく、かつ塑性変形が発生する程度に大きくされる。
【0017】
クラックレス状態は、必要な時間に渡って維持される(
図4:ステップS40)。クラックレス状態の維持のためには、トレンチラインTLにおいてガラス基板4に対して過度の応力が加わるような操作、たとえば基板に破損を生じるような大きな外部応力の印加または大きな温度変化を伴う加熱、が避けられればよい。クラックレス状態が維持されつつ、ガラス基板4が次の工程の実施場所へと搬送され得る。またクラックレス状態が維持されつつ、ガラス基板4が次の工程の実施まで保管され得る。
【0018】
図1(C)および
図2(C)を参照して、トレンチラインTLの形成後、クラックレス状態が維持されつつ、上面SF1上に積層材11(部材)が設けられる。積層材11を設ける工程は、たとえば、予め準備された部材を接合することによって、または、原料を堆積することによって行い得る。
【0019】
積層材11は、上面SF1上においてトレンチラインTLを介して互いに分離した部分11aおよび11bを有する。言い換えれば、上面SF1上において部分11aおよび11bはトレンチラインTLを挟んでいる。部分11aおよび11bはガラス基板4の上面SF1上にトレンチラインTLを介して間隔Wで配置されてもよい。間隔Wは、表面SF1上において部分11aおよび11bの間を通るように刃先51を摺動させる動作が不可能な程度に小さくてもよい。なぜならば本実施の形態によればそのような動作が不要なためである。刃先51の上記動作が不可能となる原因は、部材11と、刃先51またはシャンク52との衝突である。間隔Wは、たとえば100μm以下とされ得る。部分11aおよび11bの各々はトレンチラインTLにごく近接していてもよい。
【0020】
積層材11は、上面SF1上において部分11aおよび11bの間からトレンチラインTLが突出するように設けられることが好ましい。
図1(C)においては、部分11aおよびbの間の領域からトレンチラインTLの右端部および左端部の各々が突出している。トレンチラインTLの一方端のみが突出していてもよい。
【0021】
なお下面SF2上にも積層材12が設けられてもよい。積層材12は、互いに分離した部分12aおよび12bを有してもよい。
【0022】
さらに
図1(D)および
図2(D)を参照して、積層材11が設けられた後、トレンチラインTLに沿って厚さ方向DTにおけるガラス基板4のクラックが伸展させられる。これにより、トレンチラインTLに対して自己整合的にクラックラインCLが形成される(
図4:ステップS50)。
図3(B)を参照して、クラックラインCLによってトレンチラインTLの直下においてガラス基板4はトレンチラインTLの延在方向(
図1(B)における横方向)と交差する方向DCにおいて連続的なつながりが断たれている。ここで「連続的なつながり」とは、言い換えれば、クラックによって遮られていないつながりのことである。なお、上述したように連続的なつながりが断たれている状態において、クラックラインCLのクラックを介してガラス基板4の部分同士が接触していてもよい。
【0023】
クラックラインCLの形成は、たとえば、トレンチラインTLの端部においてガラス基板4に、トレンチラインTL付近の内部応力の歪みを解放するような応力を印加することによって開始される。
図1(C)の例においては、トレンチラインTLの右端部または左端部においてガラス基板4に応力が印加される。
図1(C)に示すように部分11aおよび11bの間からトレンチラインTLが突出している場合、応力印加の際に部分11aおよび11bが障害となりにくい。なお詳しくは実施の形態2以降で後述するが、上記の両端部のうち応力が印加されるのにより好ましい方が存在し得る。また応力の印加は、たとえば、形成されたトレンチラインTL上に再度刃先を押し付けることによる外部応力の印加、または、レーザ光の照射などによる加熱によって行ない得る。
【0024】
さらに
図1(E)および
図2(E)を参照して、次に、クラックラインCLに沿ってガラス基板4が基板片4aおよび4bへ分断される(
図4:ステップS60)。すなわち、いわゆるブレーク工程が行なわれる。ブレーク工程は、たとえば、ガラス基板4への外力FB(
図2(D))の印加によって行ない得る。これにより部分11aおよび12aが設けられた基板片4aと、部分11bおよび12bが設けられた基板片4bとが得られる。
【0025】
本実施の形態によれば、ガラス基板4が分断される位置を規定するラインとして、その直下にクラックを有しないトレンチラインTLが形成される。分断の直接のきっかけとして用いられることになるクラックラインCLは、トレンチラインTLに沿ってクラックを自己整合的に伸展させることで形成される。よってトレンチラインTLの形成後かつクラックラインCLの形成前のガラス基板4は、分断される位置がトレンチラインTLによって規定されつつも、クラックラインCLが未だ形成されていないので容易に分断は生じない安定状態にある。ガラス基板4上に積層材11を設ける工程がこの安定状態において行なわれることにより、この工程時にガラス基板4が意図せず分断してしまうことを避けることができる。
【0026】
またこの工程はトレンチラインTLの形成後に行なわれるので、トレンチラインTLの形成のための刃先の移動が積層材11によって妨げられることがない。これにより、トレンチラインTLの配置と積層材11の配置とは互いに自由に定められ得る。よってトレンチラインTLが積層材11間の狭い領域を通る構造を得ることが可能である。その後、トレンチラインTLを用いてクラックラインCLを形成し、そしてそれに沿ってガラス基板4を分断することにより、積層材11間の狭い領域(
図1(D)における部分11aおよび11bの間の領域)を境界としてガラス基板4を分断することができる。
【0027】
以上のように、ガラス基板4上に積層材11を設ける工程中にガラス基板4が意図せず分断してしまうことを避けつつ、積層材11間の狭い領域を境界としてガラス基板4を分断することができる。
【0028】
また本実施の形態によれば、積層材11の部分11aおよび11b間の幅Wを任意に狭くできる。これにより部分11aおよび11bがより密集して配置され得る。よってガラス基板4をより効率的に利用し得る。
【0029】
また本実施の形態は、積層材11が耐熱性の低い材料、たとえば合成樹脂、からなる部分を含む場合に、特に有利である。なぜならばそのような場合、積層材の間の狭い隙間に対応して狭い幅を有するレーザ光によるスクライブを行なう技術を本実施の形態の方法に代わって用いることが、積層材への熱的悪影響を考慮すれば困難だからである。
【0030】
なお本実施の形態におけるクラックラインCLの形成工程は、いわゆるブレーク工程と本質的に異なっている。ブレーク工程は、既に形成されているクラックを厚さ方向にさらに伸展させ、基板を完全に分離するものである。一方、クラックラインCLの形成工程は、トレンチラインTLの形成によって得られたクラックレス状態から、クラックを有する状態への変化をもたらすものである。この変化は、クラックレス状態が有する内部応力の開放によって生じると考えられる。トレンチラインTLの形成時の塑性変形の状態、およびトレンチラインTLの形成によって生成される内部応力の大きさや方向性などの状態は、回転刃の転動が用いられる場合と、本実施の形態のように刃先の摺動が用いられる場合とでは異なると考えられ、刃先の摺動が用いられる場合には、より広いスクライブ条件においてクラックが発生しやすくなる。また内部応力の開放には何らかのきっかけが必要であり、上述したような外部からの応力印加によるトレンチラインTL上のクラックの発生がそのようなきっかけとして作用すると考えられる。トレンチラインTLおよびクラックラインCLの好適な形成方法の詳細は、以下の実施の形態2〜6において説明する。
【0031】
(実施の形態2)
はじめに、本実施の形態における脆性基板の分断方法において用いられる刃先について、以下に説明する。
【0032】
図5(A)および(B)を参照して、刃先51には、天面SD1(第1の面)と、天面SD1を取り囲む複数の面とが設けられている。これら複数の面は側面SD2(第2の面)および側面SD3(第3の面)を含む。天面SD1、側面SD2およびSD3(第1〜第3の面)は、互いに異なる方向を向いており、かつ互いに隣り合っている。刃先51は、天面SD1、側面SD2およびSD3が合流する頂点を有し、この頂点によって刃先51の突起部PPが構成されている。また側面SD2およびSD3は、刃先51の側部PSを構成する稜線をなしている。側部PSは突起部PPから線状に延びている。また側部PSは、上述したように稜線であることから、線状に延びる凸形状を有する。
【0033】
刃先51はダイヤモンドポイントであることが好ましい。すなわち刃先51は、硬度および表面粗さを小さくすることができる点からダイヤモンドから作られていることが好ましい。より好ましくは刃先51は単結晶ダイヤモンドから作られている。さらに好ましくは結晶学的に言って、天面SD1は{001}面であり、側面SD2およびSD3の各々は{111}面である。この場合、側面SD2およびSD3は、異なる向きを有するものの、結晶学上、互いに等価な結晶面である。
【0034】
なお単結晶でないダイヤモンドが用いられてもよく、たとえば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法で合成された多結晶体ダイヤモンドが用いられてもよい。あるいは、微粒のグラファイトや非グラファイト状炭素から、鉄族元素などの結合材を含まずに焼結された多結晶体ダイヤモンド粒子を鉄族元素などの結合材によって結合させた焼結ダイヤモンドが用いられてもよい。
【0035】
シャンク52は軸方向AXに沿って延在している。刃先51は、天面SD1の法線方向が軸方向AXにおおよそ沿うようにシャンク52に取り付けられることが好ましい。
【0036】
カッティング器具50を用いてトレンチラインTL(
図3(A))を形成するためには、ガラス基板4の上面SF1に、刃先51の突起部PPおよび側部PSが、ガラス基板4が有する厚さ方向DTへ押し付けられる。次に側部PSを上面SF1上に射影した方向におおよそ沿って、刃先51が上面SF1上を摺動させられる。これにより上面SF1上に、垂直クラックを伴わない溝状のトレンチラインTLが形成される。トレンチラインTLはガラス基板4の塑性変形によって生じるが、この際にガラス基板4が若干削れてもよい。ただしこのような削れは微細な破片を生じ得ることから、なるべく少ないことが好ましい。
【0037】
刃先51の摺動によって、トレンチラインTLおよびクラックラインCL(
図3(B))が同時に形成される場合と、トレンチラインTLのみが形成される場合とがある。クラックラインCLは、トレンチラインTLのくぼみから厚さ方向DTに伸展したクラックであり、上面SF1上においては線状に延びている。後述する方法によれば、トレンチラインTLのみが形成された後、それに沿ってクラックラインCLを形成することができる。
【0038】
次に、ガラス基板4の分断方法について、以下に説明する。
【0039】
図6(A)を参照して、ステップS10(
図4)にて、まずガラス基板4が準備される。ガラス基板4は平坦な上面SF1を有する。上面SF1を囲む縁は、互いに対向する辺ED1(第1の辺)および辺ED2(第2の辺)を含む。
図6(A)で示す例においては、縁は長方形状である。よって辺ED1およびED2は互いに平行な辺である。また
図6(A)で示す例においては辺ED1およびED2は長方形の短辺である。またガラス基板4は、上面SF1に垂直な厚さ方向DT(
図5(A))を有する。
【0040】
次に、ステップS20(
図4)にて、上面SF1に刃先51が位置N1で押し付けられる。位置N1の詳細は後述する。刃先51の押し付けは、
図5(A)を参照して、ガラス基板4の上面SF1上で刃先51の突起部PPが辺ED1および側部PSの間に配置されるように、かつ刃先51の側部PSが突起部PPと辺ED2の間に配置されるように行なわれる。
【0041】
次に、ステップS30(
図4)にて、上面SF1上に複数のトレンチラインTL(図中では5つのライン)が形成される。トレンチラインTLの形成は、位置N1(第1の位置)および位置N3の間で行なわれる。位置N1およびN3の間には位置N2(第2の位置)が位置する。よってトレンチラインTLは、位置N1およびN2の間と、位置N2およびN3の間とに形成される。
【0042】
位置N1およびN3は、
図6(A)に示すようにガラス基板4の上面SF1の縁から離れて位置してもよく、あるいは、その一方または両方が上面SF1の縁に位置してもよい。形成されるトレンチラインTLは、前者の場合はガラス基板4の縁から離れており、後者の場合はガラス基板4の縁に接している。
【0043】
位置N1およびN2のうち位置N1の方が辺ED1により近く、また位置N1およびN2のうち位置N2の方が辺ED2により近い。なお
図6(A)に示す例では、位置N1は辺ED1およびED2のうち辺ED1に近く、位置N2は辺ED1およびED2のうち辺ED2に近いが、位置N1およびN2の両方が辺ED1またはED2のいずれか一方の近くに位置してもよい。
【0044】
トレンチラインTLが形成される際には、本実施の形態においては、位置N1から位置N2へ刃先51が変位させられ、さらに位置N2から位置N3へ変位させられる。すなわち、
図5(A)を参照して、刃先51が、辺ED1から辺ED2へ向かう方向である方向DAへ変位させられる。方向DAは、刃先51から延びる軸AXを上面SF1上へ射影した方向に対応している。この場合、刃先51はシャンク52によって上面SF1上を引き摺られる。
【0045】
図6(B)を参照して、次に、実施の形態1で説明したクラックレス状態(
図3(A))が所望の時間に渡って維持される。その間に、ステップS40(
図4)として、実施の形態1と同様に積層材11が設けられる。積層材11は、上面SF1上において積層材11の部分の間からトレンチラインTLが辺ED2に向かって突出するように設けられる。
【0046】
次にステップS50(
図4)にて、トレンチラインTLに沿って位置N2から位置N1の方へ(図中、破線矢印参照)、厚さ方向DT(
図3(B))におけるガラス基板4のクラックを伸展させることによってクラックラインCLが形成される。クラックラインCLの形成は、アシストラインALおよびトレンチラインTLが位置N2で互いに交差することによって開始される。この目的で、トレンチラインTLを形成した後にアシストラインALが形成される。アシストラインALは、厚さ方向DTにおけるクラックをともなう通常のスクライブラインであり、トレンチラインTL付近の内部応力の歪みを解放するものである。アシストラインALの形成方法は、特に限定されないが、
図6(B)に示すように、上面SF1の縁を基点として形成されてもよい。
【0047】
なお位置N2から位置N1への方向に比して、位置N2から位置N3への方向へは、クラックラインCLが形成されにくい。つまりクラックラインCLの伸展のしやすさには方向依存性が存在する。よってクラックラインCLが位置N1およびN2の間には形成され位置N2およびN3の間には形成されないという現象が生じ得る。本実施の形態は位置N1およびN2間に沿ったガラス基板4の分断を目的としており、位置N2およびN3間に沿ったガラス基板4の分離は目的としていない。よって位置N1およびN2間でクラックラインCLが形成されることが必要である一方で、位置N2およびN3間でのクラックラインCLの形成されにくさは問題とはならない。
【0048】
次に、ステップS60(
図4)にて、クラックラインCLに沿ってガラス基板4が分断される。具体的にはブレーク工程が行なわれる。なおクラックラインCLがその形成時に厚さ方向DTに完全に進行した場合は、クラックラインCLの形成とガラス基板4の分断とが同時に生じ得る。この場合、ブレーク工程を省略し得る。
【0049】
以上によりガラス基板4の分断が行なわれる。
【0050】
次に、上記分断方法の第1〜第3の変形例について、以下に説明する。
【0051】
図7(A)を参照して、第1の変形例は、アシストラインALとトレンチラインTLとの交差が、クラックラインCL(
図6(B))の形成開始のきっかけとして不十分な場合に関するものである。
図7(B)を参照して、ガラス基板4へ、曲げモーメントなどを発生させる外力を加えることで、アシストラインALに沿ってガラス基板4が分離される。これによりクラックラインCLの形成が開始される。
【0052】
なお、
図7(A)においてはアシストラインALがガラス基板4の上面SF1上に形成されるが、ガラス基板4を分離するためのアシストラインALはガラス基板4の下面SF2上に形成されてもよい。この場合、アシストラインALおよびトレンチラインTLは、平面レイアウト上、位置N2で互いに交差するが、互いに直接接触はしない。
【0053】
また第1の変形例においては、ガラス基板4の分離によりトレンチラインTL付近の内部応力の歪みが解放され、それによりクラックラインCLの形成が開始される。したがってアシストラインAL自身が、トレンチラインTLに応力を加えることで形成されたクラックラインCLであってもよい。
【0054】
図8を参照して、第2の変形例においては、ステップS20(
図4)にて、ガラス基板4の上面SF1に刃先51が位置N3で押し付けられる。ステップS30(
図4)にて、トレンチラインTLが形成される際には、本変形例においては、位置N3から位置N2へ刃先51が変位させられ、さらに位置N2から位置N1へ変位させられる。すなわち、
図5を参照して、刃先51が、辺ED2から辺ED1へ向かう方向である方向DBへ変位させられる。方向DBは、刃先51から延びる軸AXを上面SF1上へ射影した方向と反対方向に対応している。この場合、刃先51はシャンク52によって上面SF1上を押し進められる。
【0055】
図9を参照して、第3の変形例においては、ステップS30(
図4)にてトレンチラインTLが形成される際に、刃先51はガラス基板4の上面SF1に位置N1に比して位置N2でより大きな力で押し付けられる。具体的には、位置N4を位置N1およびN2の間の位置として、トレンチラインTLの形成が位置N4に至った時点で、刃先51の荷重が高められる。言い換えれば、トレンチラインTLの荷重が、位置N1に比して、トレンチラインTLの終端部である位置N4およびN3の間で高められる。これにより、終端部以外での荷重を軽減しつつ、位置N2からのクラックラインCLの形成を誘起されやすくすることができる。
【0056】
本実施の形態によれば、トレンチラインTLからクラックラインCLを、より確実に形成することができる。
【0057】
また、後述する実施の形態3と異なり本実施の形態においては、トレンチラインTLが形成された時点(
図6(A))ではアシストラインALは未だ形成されていない。よってクラックレス状態を、アシストラインALからの影響なく、より安定的に維持することができる。なお、クラックレス状態の安定性が問題とならない場合は、アシストラインALが形成されていない
図6(A)の状態の代わりに、アシストラインALが形成された
図7(A)の状態で積層材11が設けられてもよい。
【0058】
(実施の形態3)
本実施の形態における脆性基板の分断方法について、
図10〜
図12を用いつつ、以下に説明する。
【0059】
図10を参照して、本実施の形態においてはアシストラインALがトレンチラインTLの形成前に形成される。アシストラインALの形成方法自体は、
図6(B)(実施の形態2)と同様である。
【0060】
図11を参照して、次に、ステップS20(
図4)にて上面SF1に刃先51が押し付けられ、そしてステップS30(
図4)にて、トレンチラインTLが形成される。トレンチラインTLの形成方法自体は、
図6(A)(実施の形態2)と同様である。アシストラインALおよびトレンチラインTLは位置N2で互いに交差する。次に、実施の形態2と同様、ステップS40(
図4)が行なわれる。
【0061】
図12を参照して、次に、ステップS40(
図4)として実施の形態2と同様に積層材11が設けられる。次に、ガラス基板4へ曲げモーメントなどを発生させる外力を加える通常のブレーク工程によって、アシストラインALに沿ってガラス基板4が分離される。これにより、ステップS50(
図5)として、実施の形態1と同様のクラックラインCLの形成が開始される(図中、破線矢印参照)。なお、
図10においてはアシストラインALがガラス基板4の上面SF1上に形成されるが、ガラス基板4を分離するためのアシストラインALはガラス基板4の下面SF2上に形成されてもよい。この場合、アシストラインALおよびトレンチラインTLは、平面レイアウト上、位置N2で互いに交差するが、互いに直接接触はしない。
【0062】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態2の構成とほぼ同じである。
【0063】
図13(A)を参照して、第1の変形例においては、アシストラインALはガラス基板4の下面SF2上に形成される。そして、
図8(実施の形態2)と同様に、トレンチラインTLの形成が位置N3から位置N1へ行なわれる。
図13(B)を参照して、積層材11が設けられた後、ガラス基板4へ曲げモーメントなどを発生させる外力を加えることで、アシストラインALに沿ってガラス基板4が分離される。これによりクラックラインCLの形成が開始される(図中、破線矢印参照)。
【0064】
図14を参照して、第2の変形例においては、ステップS30(
図4)にてトレンチラインTLが形成される際に、刃先51はガラス基板4の上面SF1に位置N1に比して位置N2でより大きな力で押し付けられる。具体的には、位置N4を位置N1およびN2の間の位置として、トレンチラインTLの形成が位置N4に至った時点で、刃先51の荷重が高められる。言い換えれば、トレンチラインTLの荷重が、位置N1に比して、トレンチラインTLの終端部である位置N4およびN3の間で高められる。これにより、終端部以外での荷重を軽減しつつ、位置N2からのクラックラインCLの形成を誘起されやすくすることができる。
【0065】
(実施の形態4)
図15(A)を参照して、本実施の形態における脆性基板の分断方法においては、ステップS30(
図4)にて、位置N1から位置N2を経由して辺ED2へ達するトレンチラインTLが形成される。
【0066】
図15(B)を参照して、次に、実施の形態2と同様、ステップS40(
図4)として積層材11が設けられる。次に位置N2と辺ED2との間に、トレンチラインTL付近の内部応力の歪みを解放させるような応力が加えられる。これによりトレンチラインTLに沿ったクラックラインの形成が誘起される(
図4:ステップS50)。
【0067】
応力の印加として具体的には、上面SF1上において位置N2と辺ED2との間(図中、破線および辺ED2の間の領域)で、押し付けられた刃先51が摺動させられる。この摺動は辺ED2に達するまで行なわれる。刃先51は好ましくは最初に形成されたトレンチラインTLの軌道に交差するように、より好ましくは最初に形成されたトレンチラインTLの軌道に重なるように摺動される。この再度の摺動の長さは、たとえば0.5mm程度である。またこの再度の摺動は、複数のトレンチラインTL(
図15(A))が形成された後にそれぞれに対して行なわれてもよく、あるいは、1つのトレンチラインTLの形成および再度の摺動を行なう工程がトレンチラインTLごとに順次行なわれてもよい。
【0068】
変形例として、位置N2と辺ED2との間に応力を加えるために、上述した刃先51の再度の摺動に代えて、上面SF1上において位置N2と辺ED2との間にレーザ光が照射されてもよい。これにより生じた熱応力によっても、トレンチラインTL付近の内部応力の歪みが解放され、それによりクラックラインの形成開始を誘起することができる。
【0069】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態2の構成とほぼ同じである。
【0070】
(実施の形態5)
図16(A)を参照して、本実施の形態における脆性基板の分断方法においては、ステップS30(
図4)にて、位置N1から位置N2へ、そしてさらに位置N3へ刃先51を変位させることによって、上面SF1の縁から離れたトレンチラインTLが形成される。トレンチラインTLの形成方法自体は
図6(A)(実施の形態2)とほぼ同様である。
【0071】
図16(B)を参照して、次に、実施の形態2と同様、ステップS40(
図4)として積層材11が設けられる。次に、
図15(B)(実施の形態4またはその変形例)と同様の応力印加が行なわれる。これによりトレンチラインTLに沿ったクラックラインの形成が誘起される(
図4:ステップS50)。
【0072】
図17を参照して、
図16(A)の工程の変形例として、トレンチラインTLの形成において、刃先51が位置N3から位置N2へそして位置N2から位置N1へ変位させられてもよい。
【0073】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態2の構成とほぼ同じである。
【0074】
(実施の形態6)
図18(A)および(B)を参照して、上記各実施の形態において、刃先51(
図5(A)および(B))に代わり、刃先51vが用いられてもよい。刃先51vは、頂点と、円錐面SCとを有する円錐形状を有する。刃先51vの突起部PPvは頂点で構成されている。刃先の側部PSvは頂点から円錐面SC上に延びる仮想線(
図18(B)における破線)に沿って構成されている。これにより側部PSvは、線状に延びる凸形状を有する。
【0075】
上記各実施の形態においてはガラス基板の縁の第1および第2の辺が長方形の短辺であるが、第1および第2の辺は長方形の長辺であってもよい。また縁の形状は長方形に限定されるものではなく、たとえば正方形であってもよい。また第1および第2の辺は直線状のものに限定されるものではなく曲線状であってもよい。また上記各実施の形態においてはガラス基板の面が平坦であるが、ガラス基板の面は湾曲していてもよい。
【0076】
上述した分断方法に特に適した脆性基板としてガラス基板が用いられるが、脆性基板はガラス基板に限定されるものではない。脆性基板は、ガラス以外に、たとえば、セラミックス、シリコン、化合物半導体、サファイア、または石英から作られ得る。
【0077】
本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。