(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理する事により得られる着色したポリイミド多孔質膜である、請求項8に記載の方法。
動物細胞が、チャイニーズハムスター卵巣組織由来細胞(CHO細胞)、アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞(Vero細胞)、ヒト肝癌由来細胞(HepG2細胞)、イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の細胞株(MDCK細胞)及びヒト肝癌組織由来樹立細胞株(huGK-14)からなる群から選択される、請求項14又は15に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
I.物質を産生する方法
本発明は、細胞を用いて物質を産生する方法に関する。本発明の方法は、細胞をポリイミド多孔質膜に適用し細胞を培養し、細胞により物質を産生させること、を含む。
【0018】
1.細胞
本発明の方法に利用し得る細胞の種類は特に限定されず、任意の細胞の増殖に利用可能である。
【0019】
例えば、細胞は、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌及び細菌からなる群から選択される。動物細胞は、脊椎動物門に属する動物由来の細胞と無脊椎動物(脊椎動物門に属する動物以外の動物)由来の細胞とに大別される。本明細書における、動物細胞の由来は特に限定されない。好ましくは、脊椎動物門に属する動物由来の細胞を意味する。脊椎動物門は、無顎上綱と顎口上綱を含み、顎口上綱は、哺乳綱、鳥綱、両生綱、爬虫綱などを含む。好ましくは、一般に、哺乳動物と言われる哺乳綱に属する動物由来の細胞である。哺乳動物は、特に限定されないが、好ましくは、マウス、ラット、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギなどを含む。
【0020】
限定されるわけではないが、動物細胞としては好ましくは例えば、動物細胞が、チャイニーズハムスター卵巣組織由来細胞(CHO細胞)、アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞(Vero細胞)、ヒト肝癌由来細胞(HepG2細胞)、イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の細胞株(MDCK細胞)、ヒト肝癌組織由来樹立細胞株(huGK-14)、正常ヒト線維芽細胞様滑膜細胞(HFLS細胞)及び慢性関節リウマチ患者由来線維芽細胞様滑膜細胞(HFLS−RA細胞)からなる群から選択される、細胞が使用される。
【0021】
本明細書における植物細胞の由来は特に限定されない。コケ植物、シダ植物、種子植物を含む植物の細胞が対象となる。
種子植物細胞が由来する植物は、単子葉植物、双子葉植物のいずれも含まれる。限定されるわけではないが、単子葉植物には、ラン科植物、イネ科植物(イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ、ソルガム等)、カヤツリグサ科植物などが含まれる。双子葉植物には、キク亜綱、モクレン亜綱、バラ亜綱など多くの亜綱に属する植物が含まれる。
【0022】
藻類も、細胞由来生物として見なす事が出来る。真正細菌であるシアノバクテリア(藍藻)から、真核生物で単細胞生物であるもの(珪藻、黄緑藻、渦鞭毛藻など)及び多細胞生物である海藻類(紅藻、褐藻、緑藻)などの異なるグループを含む。
【0023】
本明細書における古細菌及び細菌の種類も特に限定されない。古細菌は、メタン菌・高度好塩菌・好熱好酸菌・超好熱菌等からなる群から構成される。細菌は、例えば、乳酸菌、大腸菌、枯草菌及びシアノバクテリアなどからなる群から選択される。
【0024】
本発明の方法に利用しうる動物細胞又は植物細胞の種類は、限定されるわけではないが、好ましくは、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞、及び生殖細胞からなる群から選択される。
【0025】
本発明において「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称することを意図する。限定されるわけではないが、多能性幹細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。iPS細胞は倫理的な問題もない等の理由により特に好ましい。多能性幹細胞としては公知の任意のものを使用可能であるが、例えば、国際公開WO2009/123349(PCT/JP2009/057041)に記載の多能性幹細胞を使用可能である。
【0026】
「組織幹細胞」とは、分化可能な細胞系列が特定の組織に限定されているが、多様な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味する。例えば骨髄中の造血幹細胞は血球のもととなり、神経幹細胞は神経細胞へと分化する。このほかにも肝臓をつくる肝幹細胞、皮膚組織になる皮膚幹細胞などさまざまな種類がある。好ましくは、組織幹細胞は、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞、又は造血幹細胞から選択される。
【0027】
「体細胞」とは、多細胞生物を構成する細胞のうち生殖細胞以外の細胞のことを言う。有性生殖においては次世代へは受け継がれない。好ましくは、体細胞は、肝細胞、膵細胞、筋細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、線維芽細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、又は、リンパ球、赤血球、白血球、単球、マクロファージ若しくは巨核球の血球細胞から選択される。
【0028】
「生殖細胞」は、生殖において遺伝情報を次世代へ伝える役割を持つ細胞を意味する。例えば、有性生殖のための配偶子、即ち卵子、卵細胞、精子、精細胞、無性生殖のための 胞子などを含む。
【0029】
細胞は、肉腫細胞、株化細胞及び形質転換細胞からなる群から選択してもよい。「肉腫」とは、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血液等の非上皮性細胞由来の結合組織細胞に発生する癌で、軟部肉腫、悪性骨腫瘍などを含む。肉腫細胞は、肉腫に由来する細胞である。「株化細胞」とは、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもつに至り、半永久的な継代培養が可能になった培養細胞を意味する。PC12細胞(ラット副腎髄質由来)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HL−60細胞(ヒト白血球細胞由来)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓上皮細胞由来)、MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)、HepG2細胞(ヒト肝癌由来)などヒトを含む様々な生物種の様々な組織に由来する細胞株が存在する。「形質転換細胞」は、細胞外部から核酸(DNA等)を導入し、遺伝的性質を変化させた細胞を意味する。
【0030】
細胞は、所望の物質を発現しうる細胞であれば特に限定されない。細胞内は当該物質を天然に発現してもよく、あるいは、は遺伝子工学技術により当該物質を産生するように形質転換されていてもよい。好ましくは細胞は、物質を発現するように遺伝子工学技術により形質転換されているものである。動物細胞、植物細胞、細菌の形質転換については、各々適した方法が公知である。(例えば、MOLECULAR CLONING: A Laboratory Manual (Fourth Edition), Michael R Green and Joseph Sambrook, 2012, (Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Mutation Research 760 (2014) 36-45, Reviews in Mutation Research)
【0031】
2.物質
本発明の方法によって細胞に産生されうる物質の種類は、細胞内で天然に又は遺伝子工学技術により産生されうる物質であれば特に限定されない。好ましくは、前記物質は、タンパク質(ポリペプチドを含む)、糖タンパク質及びウイルスからなる群から選択される。
【0032】
タンパク質の例は、エリスロポイエチン、インスリン、アルブミン等の生理活性タンパク質、腫瘍壊死因子α、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン8(IL−8)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インターフェロン等のサイトカイン、トロンビン、トリプシンなどの酵素及び抗体医薬を含むモノクローナル抗体等を含む。好ましくは、生理活性タンパク質、モノクローナル抗体である。
【0033】
糖タンパク質の例は、コラーゲン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸などを含む。好ましくは、フィブロネクチンである。
【0034】
ウイルスの例は、インフルエンザウィルス、アデノウィルスなどを含む。好ましくは、インフルエンザウィルスである。
【0035】
本発明の、特定の細胞において天然に発現される物質の例は、形質転換細胞によって発現される抗体医薬品、ヒト皮膚線維芽細胞によって発現されるヒトコラーゲンやフィブロネクチンを含む。
【0036】
3.ポリイミド多孔質膜
ポリイミドとは、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称であり、通常は、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドを意味する。芳香族ポリイミドは芳香族と芳香族とがイミド結合を介して共役構造を持つため、剛直で強固な分子構造を持ち、かつ、イミド結合が強い分子間力を持つために非常に高いレベルの熱的、機械的、化学的性質を有する。
【0037】
本発明において用いるポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを(主たる成分として)含むポリイミド多孔質膜であり、より好ましくはテトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質膜である。「主たる成分として含む」とは、ポリイミド多孔質膜の構成成分として、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミド以外の成分は、本質的に含まない、あるいは含まれていてもよいが、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドの性質に影響を与えない付加的な成分であることを意味する。
【0038】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理する事により得られる着色したポリイミド多孔質膜も含まれる。
【0039】
ポリアミック酸
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを重合して得られる。ポリアミック酸は、熱イミド化又は化学イミド化することにより閉環してポリイミドとすることができるポリイミド前駆体である。
【0040】
ポリアミック酸は、アミック酸の一部がイミド化していても、本発明に影響を及ぼさない範囲であればそれを用いることができる。すなわち、ポリアミック酸は、部分的に熱イミド化又は化学イミド化されていてもよい。
【0041】
ポリアミック酸を熱イミド化する場合は、必要に応じて、イミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。また、ポリアミック酸を化学イミド化する場合は、必要に応じて、化学イミド化剤、脱水剤、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。ポリアミック酸溶液に前記成分を配合しても、着色前駆体が析出しない条件で行うことが好ましい。
【0042】
着色前駆体
本発明において用いられる着色前駆体とは、250℃以上の熱処理により一部または全部が炭化して着色化物を生成する前駆体を意味する。
【0043】
本発明において用いられる着色前駆体としては、ポリアミック酸溶液又はポリイミド溶液に均一に溶解または分散し、250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理、好ましくは空気等の酸素存在下での250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理により熱分解し、炭化して着色化物を生成するものが好ましく、黒色系の着色化物を生成するものがより好ましく、炭素系着色前駆体がより好ましい。
【0044】
着色前駆体は、加熱していくと一見炭素化物に見えるものになるが、組織的には炭素以外の異元素を含み、層構造、芳香族架橋構造、四面体炭素を含む無秩序構造のものを含む。
【0045】
炭素系着色前駆体は特に制限されず、例えば、石油タール、石油ピッチ、石炭タール、石炭ピッチ等のタール又はピッチ、コークス、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体、フェロセン化合物(フェロセン及びフェロセン誘導体)等が挙げられる。これらの中では、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体及び/又はフェロセン化合物が好ましく、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体としてはポリアクリルニトリルが好ましい。
【0046】
テトラカルボン酸二無水物は、任意のテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等を挙げることができる。また、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸を用いることも好ましい。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0047】
これらの中でも、特に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に用いることができる。
【0048】
ジアミンは、任意のジアミンを用いることができる。ジアミンの具体例として、以下のものを挙げることができる。
1)1,4−ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエンなどのベンゼン核1つのべンゼンジアミン;
2)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン;
3)1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン;
4)3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン。
【0049】
これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
【0050】
これらの中でも、芳香族ジアミン化合物が好ましく、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを好適に用いることができる。特に、ベンゼンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル及びビス(アミノフェノキシ)フェニルからなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミンが好ましい。
【0051】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、ガラス転移温度が240℃以上であるか、又は300℃以上で明確な転移点がないテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを組み合わせて得られるポリイミドから形成されていることが好ましい。
【0052】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、以下の芳香族ポリイミドからなるポリイミド多孔質膜であることが好ましい。
(i)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
(ii)テトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
及び/又は、
(iii)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド。
【0053】
限定されるわけではないが、ポリイミド多孔質膜として、少なくとも、2つの表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有する多層構造のポリイミド多孔質膜を、本発明に使用することが可能である。好ましくは、ポリイミド多孔質膜は、前記マクロボイド層が、前記表面層(A面及びB面)に結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層(A面及びB面)に囲まれた、膜平面方向の平均孔径が10〜500μmである複数のマクロボイドとを有し、前記のマクロボイド層の隔壁、並びに前記表面層(A面及びB面)はそれぞれ、厚さが0.01〜20μmであり、平均孔径0.01〜100μmの複数の孔を有し、当該細孔同士が連通しても良く、更に前記マクロボイドに連通して部分的あるいは全面的に多層構造を有しており、そして、総膜厚が5〜500μmであり、空孔率が40%以上95%未満である、ポリイミド多孔質膜である。
【0054】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜の総膜厚は、限定されるわけではないが、一態様として、20〜75μmとしてもよい。膜厚の相違により、細胞の増殖速度、細胞の形態、面内における細胞の飽和度等に相違が観察されうる。
【0055】
本発明において、2つの異なる表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有するポリイミド多孔質膜が使用される場合、A面に存在する孔の平均孔径は、B面に存在する孔の平均孔径と差があってもよい。好ましくは、A面に存在する孔の平均孔径は、B面に存在する孔の平均孔径よりも小さい。より好ましくは、A面に存在する孔の平均孔径がB面に存在する孔の平均孔径よりも小さく、A面に存在する孔の平均孔径が0.01〜50μm、0.01μm〜40μm、0.01μm〜30μm、0.01μm〜20μm、又は0.01μm〜15μmであり、B面に存在する孔の平均孔径が20μm〜100μm、30μm〜100μm、40μm〜100μm、50μm〜100μm、又は60μm〜100μmである。特に好ましくは、A面が平均孔径15μm以下の、例えば0.01μm〜15μmの小さい穴を有するメッシュ構造であり、B面が平均孔径20μm以上の、例えば20μm〜100μmの大穴構造である。本発明の方法において、A面に存在する孔の平均孔径が、B面に存在する孔の平均孔径よりも小さいポリイミド多孔質膜が使用される場合、細胞はA面から播種されてもB面から播種されてもよく、好ましくは、細胞はA面から播種される。
【0056】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜の総膜厚の測定は、接触式の厚み計で行うことができる。
ポリイミド多孔質膜表面の平均孔径は、多孔質膜表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積の平均値から下式(1)に従って孔の形状が真円であるとした際の平均直径を計算より求めることができる。
【数1】
(式中、Saは孔面積の平均値を意味する。)
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜の空孔率は、所定の大きさに切り取った多孔質フィルムの膜厚及び質量を測定し、目付質量から下式(2)に従って求めることができる。
【数2】
(式中、Sは多孔質フィルムの面積、dは総膜厚、wは測定した質量、Dはポリイミドの密度をそれぞれ意味する。ポリイミドの密度は1.34g/cm
3とする。)
【0057】
例えば、国際公開 WO2010/038873、特開2011−219585、又は特開2011−219586に記載されているポリイミド多孔質膜も、本発明に使用可能である。
【0058】
本発明の方法において細胞を適用するポリイミド多孔質膜は、当然、装填する細胞以外の生体成分を含まない状態、即ち、滅菌されていることが好ましい。本発明の方法は、好ましくは、ポリイミド多孔質膜を予め滅菌する工程を含む。ポリイミド多孔質膜は、耐熱性に極めて優れており、軽量であり、形・大きさも自由に選択可能であり、滅菌処理が容易である。乾熱滅菌、蒸気滅菌、エタノール等殺菌剤による滅菌、UVやガンマ線を含む電磁波滅菌等任意の滅菌処理が可能である。
【0059】
ポリイミド多孔質膜の表面に播種された細胞は、膜の表面及び/又は内部において安定して生育・増殖することが可能である。細胞は膜中の生育・増殖する位置に応じて、種々の異なる形態をとりうる。本発明の一態様において、細胞の種類に応じて、ポリイミド多孔質膜の表面及び内部を移動しながら、形状を変化させながら増殖することもある。
【0060】
4.細胞のポリイミド多孔質膜への適用
細胞のポリイミド多孔質膜への適用の具体的な工程は特に限定されない。本明細書に記載の工程、あるいは、細胞を膜状の担体に適用するのに適した任意の手法を採用することが可能である。限定されるわけではないが、本発明の方法において、細胞のポリイミド多孔質膜への適用は、例えば、以下のような態様を含む。
【0061】
(A)細胞を前記ポリイミド多孔質膜の表面に播種する工程を含む、態様;
(B)前記ポリイミド多孔質膜の乾燥した表面に細胞縣濁液を載せ、
放置するか、あるいは前記ポリイミド多孔質膜を移動して液の流出を促進するか、あるいは表面の一部を刺激して、細胞縣濁液を前記膜に吸い込ませ、そして、
細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる、
工程を含む、態様;並びに、
(C)前記ポリイミド多孔質膜の片面又は両面を、細胞培養液又は滅菌された液体で湿潤し、
前記湿潤したポリイミド多孔質膜に細胞縣濁液を装填し、そして、
細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる、
工程を含む、態様。
【0062】
(A)の態様は、ポリイミド多孔質膜の表面に細胞、細胞塊を直接播種することを含む。あるいは、ポリイミド多孔質膜を細胞縣濁液中に入れて、膜の表面から細胞培養液を浸潤させる態様も含む。
【0063】
ポリイミド多孔質膜の表面に播種された細胞は、ポリイミド多孔質膜に接着し、多孔の内部に入り込んでいく。好ましくは、特に外部から物理的又は化学的な力を加えなくても、細胞はポリイミド多孔質膜に自発的に接着する。ポリイミド多孔質膜の表面に播種された細胞は、膜の表面及び/又は内部において安定して生育・増殖することが可能である。細胞は生育・増殖する膜の位置に応じて、種々の異なる形態をとりうる。
【0064】
(B)の態様において、ポリイミド多孔質膜の乾燥した表面に細胞縣濁液を載せる。ポリイミド多孔質膜を放置するか、あるいは前記ポリイミド多孔質膜を移動して液の流出を促進するか、あるいは表面の一部を刺激して、細胞縣濁液を前記膜に吸い込ませることにより、細胞縣濁液が膜中に浸透する。理論に縛られるわけではないが、これはポリイミド多孔質膜の各表面形状等に由来する性質によるものであると考えられる。本態様により、膜の細胞縣濁液が装填された箇所に細胞が吸い込まれて播種される。
【0065】
あるいは、(C)の態様のように、前記ポリイミド多孔質膜の片面又は両面の部分又は全体を、細胞培養液又は滅菌された液体で湿潤してから、湿潤したポリイミド多孔質膜に細胞縣濁液を装填してもよい。この場合、細胞懸濁液の通過速度は大きく向上する。
【0066】
例えば、膜の飛散防止を主目的として膜極一部を湿潤させる方法(以後、これを「一点ウェット法」と記載する)を用いることができる。一点ウェット法は、実質上は膜を湿潤させないドライ法((B)の態様)にほぼ近いものである。ただし、湿潤させた小部分については、細胞液の膜透過が迅速になると考えられる。また、ポリイミド多孔質膜の片面又は両面の全体を十分に湿潤させたもの(以後、これを「ウェット膜」と記載する)に細胞懸濁液を装填する方法も用いることができる(以後、これを「ウェット膜法」と記載する)。この場合、ポリイミド多孔質膜の全体において、細胞懸濁液の通過速度が大きく向上する。
【0067】
(B)及び(C)の態様において、細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる。これにより細胞縣濁液中の細胞の濃度を濃縮する、細胞以外の不要な成分を水分とともに流出させる、などの処理も可能になる。
【0068】
(A)の態様を「自然播種」(B)及び(C)の態様を「吸込み播種」と呼称する場合がある。
【0069】
限定されるわけではないが、好ましくは、ポリイミド多孔質膜には生細胞が選択的に留まる。よって、本発明の好ましい態様において、生細胞が前記ポリイミド多孔質膜内に留まり、死細胞は優先的に水分とともに流出する。
【0070】
態様(C)において用いる滅菌された液体は特に限定されないが、滅菌された緩衝液若しくは滅菌水である。緩衝液は、例えば、(+)及び(-)Dulbecco’s PBS 、(+)及び(-)Hank's Balanced Salt Solution等である。緩衝液の例を以下の表1に示す。
【0072】
さらに、本発明の方法において、細胞のポリイミド多孔質膜への適用は、浮遊状態にある接着性細胞をポリイミド多孔質膜と縣濁的に共存させることにより細胞を膜に付着させる態様(絡め取り)も含む。例えば、本発明の細胞の方法において、細胞をポリイミド多孔質膜に適用するために、細胞培養容器中に、細胞培養培地、細胞及び1又はそれ以上の前記ポリイミド多孔質膜を入れてもよい。細胞培養培地が液体の場合、ポリイミド多孔質膜は細胞培養培地中に浮遊した状態である。ポリイミド多孔質膜の性質から、細胞はポリイミド多孔質膜に接着しうる。よって、生来浮遊培養に適さない細胞であっても、ポリイミド多孔質膜は細胞培養培地中に浮遊した状態で培養することが可能である。好ましくは、細胞は、ポリイミド多孔質膜に自発的に接着する。「自発的に接着する」とは、特に外部から物理的又は化学的な力を加えなくても、細胞がポリイミド多孔質膜の表面又は内部に留まることを意味する。
【0073】
5.細胞の培養
本発明は、ポリイミド多孔質膜に適用された細胞を培養し、細胞により物質を産生することを含む。
【0074】
ポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、培養する、ことについては、PCT/JP2014/070407に以下の通り記載されている。
【0075】
細胞培養は、細胞培養における存在形態により培養細胞は接着培養系細胞と浮遊培養系細胞に分類することができる。接着培養系細胞は培養容器に付着し増殖する培養細胞であり、継代には培地交換を行う。浮遊培養系細胞は培地中において浮遊状態で増殖する培養細胞であり、一般的には継代の際には培地交換は行わず、希釈培養を行う。浮遊培養は、浮遊状態、即ち液体中での培養が可能なため、大量培養が可能であり、培養容器表面にのみ生育する付着細胞と比較すると、立体的な培養である為に、単位空間当りの培養可能細胞数は多いという利点がある。
【0076】
本発明の方法において、ポリイミド多孔質膜を細胞培養培地中に浮遊した状態で用いる場合、2以上の前記ポリイミド多孔質膜の小片を用いてもよい。ポリイミド多孔質膜はフレキシブルな薄膜であるため、例えばその小片を培養液中に浮遊させて用いることにより、一定容量の細胞培養培地中に多くの表面積を有するポリイミド多孔質膜を持ち込むことが可能となる。通常培養の場合、容器底面積が細胞培養可能な面積の上限となるが、本発明のポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養では、先の持ち込まれたポリイミド多孔質膜の大表面積の全てが細胞培養可能な面積となる。ポリイミド多孔質膜は細胞培養液を通過させるので、例えば折りたたまれた膜内にも栄養や酸素等の供給が可能となる。
【0077】
ポリイミド多孔質膜の小片の大きさ、形状は、特に限定されない。形状は、円、楕円形、四角、三角、多角形、ひも状など任意の形をとりうる。
【0078】
本発明のポリイミド多孔質膜は柔軟性があるため形状を変化させて用いることができる。ポリイミド多孔質膜を平面状ではなく、立体状に形状を加工して用いてもよい。例えば、ポリイミド多孔質膜を、i)折り畳んで、ii)ロール状に巻き込んで、iii)シートもしくは小片を糸状の構造体で連結させて、あるいは、iv)縄状に結んで、細胞培養容器中の細胞培養培地中で浮遊もしくは固定させてもよい。i)〜iv)のように形状を加工することにより、小片を用いる場合と同様に、一定容量の細胞培養培地中に多くのポリイミド多孔質膜を入れることができる。さらに、各小片を集合体として取り扱うことができるため、細胞体を集合化して移動させることが可能となり、総合的な応用性が高い。
【0079】
小片集合体と同様の考え方として、2以上のポリイミド多孔質膜を、上下又は左右に細胞培養培地中に積層して用いてもよい。積層とは、ポリイミド多孔質膜が一部重なる態様も含む。積層培養により、狭いスペースで高密度に細胞を培養することが可能になる。既に細胞が育成している膜上にさらに膜を積層させて設置して別種細胞との多層系を形成することも可能である。積層するポリイミド多孔質膜の数は特に限定されない。
【0080】
上述した細胞の培養方法を、2種類又はそれより多くの方法を組み合わせて用いてもよい。例えば、態様(A)〜(C)のいずれかの方法を用いて先ずポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、次いで、細胞が接着したポリイミド多孔質膜を浮遊培養してもよい。あるいは、ポリイミド多孔質膜に適用する工程として、上記態様(A)〜(C)のいずれかの方法を2種類又はそれより多くを組み合わせて用いてもよい。
【0081】
本発明の方法において、好ましくは、細胞はポリイミド多孔質膜の表面及び内部に生育し増殖する。本発明の方法により、細胞は2日以上、より好ましくは4日以上、さらに好ましくは6日以上増殖し続けることができる。
【0082】
本発明の方法では、ポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、培養することにより、ポリイミド多孔質膜の有する内部の多面的な連結多孔部分や表面に、大量の細胞が生育するため、大量の細胞を簡便に培養することが可能となる。
【0083】
また、本発明の方法では、細胞培養に用いる培地の量を従来の方法よりも大幅に減らしつつ、大量の細胞を効率良く培養することが可能となる。たとえば、ポリイミド多孔質膜の一部分又は全体が、細胞培養培地の液相と接触していない状態であっても、大量の細胞を培養することができる。また、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和に対して、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積を、従来の方法よりも著しく減らすことも可能となる。
【0084】
本発明の方法を用いることにより、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10000倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することが可能となる。また、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の1000倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。さらに、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の100倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。そして、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。
【0085】
従来、細胞の三次元培養用基材として、多孔質ポリスチレン製基材であるAlvetex(登録商標)(リプロセル社)、ポリカプロラクトン製基材である3D Insert−PCL(3D Biotech社)、ポリスチレン製基材である3D Insert−PS(3D Biotech社)などが知られている。本発明の方法にしたがってポリイミド多孔質膜を用いて細胞培養した場合は、従来知られている三次元培養基材を用いて細胞培養した場合と比較して、単位体積当たりの物質産生効率が極めて高い。
【0086】
また、本発明の方法では、細胞が細胞塊(スフェロイド)を形成せずにポリイミド多孔質膜中で培養される。このような培養条件下において、細胞は剥離することなく長期間安定に生育することができるため、産生された物質を清澄液として取得することができる。
【0087】
また、細胞を大量に担持した状態でポリイミド多孔質膜を凍結、保存することが可能である。さらに、当該ポリイミド多孔質膜を任意の時に解凍し、プレ培養工程を経ることなく、タンパク質の産生に使用可能である。凍結・解凍工程を経たとしても、細胞の物質産生能力が低下することはない。従来、解凍した細胞を使用するためには、解凍した細胞をプレ培養し、生存している細胞を所望の基材又は担体に担持させて培養する必要があった。しかし、当該ポリイミド多孔質膜を使用することで、従来必要である解凍後のプレ培養工程を経ることなく、ポリイミド多孔質膜に細胞を接着させたまま培養、凍結、保存、解凍、そして再培養が可能である。そのため、例えば、細胞を担持した状態で凍結したポリイミド多孔質が大量に準備されていれば、拡大培養工程を経ずに、所望の時に大量の細胞を使用することが可能である。このような凍結、保存、解凍、及び培養の工程は複数回繰り返すことができる。
【0088】
6.細胞の培養・物質産生システム及び培養条件
本発明の方法において、細胞の培養・物質産生システム及び培養条件は、細胞の種類等に応じて適宜決定することができる。動物細胞、植物細胞、及び細菌の各細胞に適した培養方法が公知であり、当業者は任意の公知の方法を用いてポリイミド多孔質膜に適用した細胞を培養することができる。細胞培養培地も細胞の種類に応じて適宜調製することができる。
【0089】
動物細胞の細胞培養方法、細胞培養培地は、例えば、ロンザ社の細胞培養培地カタログに記載されている。植物細胞の細胞培養方法、細胞培養培地は、例えば、WAKO社の植物組織培地シリーズ等に記載されている。細菌の細胞培養方法、細胞培養培地は、例えば、BD社の一般細菌用培地カタログに記載されている。本発明の方法に用いることの細胞培養培地は、液体培地、半固形培地、固形培地等のいずれの形態であってもよい。また、霧状とした液体培地を細胞培養容器中に噴霧することにより、細胞を担持したポリイミド多孔質膜に培地が接触するようにしてもよい。
【0090】
ポリイミド多孔質膜を用いる細胞の培養に関して、マイクロキャリアやセルローススポンジ等、他の浮遊型培養担体と共存させることもできる。
【0091】
本発明の方法において、培養に用いるシステムの形状、規模などは特に限定されず、細胞培養用のシャーレ、フラスコ、プラスチックバッグ、試験管から大型のタンクまで適宜利用可能である。例えば、BD Falcon社製のセルカルチャーディッシュやサーモサイエンティフィック社製のNunc セルファクトリー等が含まれる。なお、本発明においてポリイミド多孔質膜を用いることにより、生来浮遊培養が可能でなかった細胞についても浮遊培養向け装置にて、浮遊培養類似状態での培養を行うことが可能になった。浮遊培養用の装置としては、例えば、コーニング社製のスピナーフラスコや回転培養等が使用可能である。また、同様の機能を実現出来る環境として、VERITAS社のFiberCell(登録商標)Systemの様な中空糸培養も使用することが可能である。
【0092】
本発明において、細胞を、静置培養条件下で培養してもよい。間歇的に培地を交換する事で、産生された有用物質を単離する事が可能である。シングルユース培養バッグを用いる静置培養も、ポリイミド多孔質膜を適用する事で、効率面が飛躍的に向上する。
【0093】
本発明において、細胞を回転培養又は攪拌条件下で培養してもよい。シングルユース培養バッグを継続的に揺する事で、非常に大きなスケールにも対応可能となる。回転培養・スピナーフラスコでの攪拌培養も同様である。また、これらの各方法に、連続的もしくは間歇的な培地交換システムを取り付け、長期培養を指向する事も可能である。
【0094】
本発明において、細胞を連続的に培養してもよい。例えば、本発明の方法における培養は、ポリイミド多孔質膜上に連続的に培地を添加し回収するような連続循環もしくは開放型の装置を用いて、空気中にポリイミド多孔質膜シートを露出させるような型式で実行することも可能である。
【0095】
本発明において、細胞の培養は、細胞培養容器外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系で行ってもよい。その際、細胞培養培地が細胞培養培地供給手段と細胞培養容器との間を循環する系であることができる。
【0096】
本発明は、細胞培養装置をインキュベータ内に設置し、細胞を培養することを含む、態様を含む。細胞培養容器外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系で行う場合、その系は、細胞培養容器である培養ユニットと細胞培養培地供給手段である培地供給ユニットとを含む細胞培養装置であってよく、ここで、培養ユニットは細胞を担持するための1又は複数のポリイミド多孔質膜を収容する培養ユニットであって、培地供給口および培地排出口を備えた培養ユニットであり、培地供給ユニットは培地収納容器と、培地供給ラインと、培地供給ラインを介して培地を送液する送液ポンプとを備え、ここで培地供給ラインの第一の端部は培地収納容器内の培地に接触し、培地供給ラインの第二の端部は培養ユニットの培地供給口を介して培養ユニット内に連通している、培地供給ユニットである、細胞培養装置であってよい。
【0097】
また、上記細胞培養装置において、培養ユニットは空気供給口及び空気排出口を備えない培養ユニットであってよく、また、空気供給口及び空気排出口を備えた培養ユニットであってよい。培養ユニットは空気供給口及び空気排出口を備えないものであっても、細胞の培養に必要な酸素等が培地を通じて十分に細胞に供給される。さらに、上記細胞培養装置において、培養ユニットが培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地収納容器に接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、培地が培地供給ユニットと培養ユニットとを循環可能であってよい。
【0098】
7.細胞による物質の産生
本発明は、上述したように細胞を培養することにより、細胞より所望の物質を産生させる。産生された物質が、細胞内に留まる物質であっても、細胞から分泌される物質であってもよい。産生された物質は、物質の種類、性質に応じて公知の方法により回収することが可能である。細胞から分泌される物質の場合、細胞培養培地から物質を回収することができる。産生された物質が細胞内に留まる物質の場合、細胞溶解剤等を用いた化学的処理、超音波処理、ホモジナイザー、破砕用ディスポチューブ等を用いた物理的処理などの公知の方法により細胞を破壊することにより、物質を細胞外に出して回収することが可能である。細胞を破壊する方法は、細胞の種類、物質の種類等に応じて適宜当業者が適用可能である。
【0099】
II.物質産生装置
本発明はまた、ポリイミド多孔質膜を含む、本発明の方法に使用するための、細胞培養により物質を産生する装置に関する。本発明の物質産生装置において、ポリイミド多孔質膜は固定されて用いられてもよく、あるいは細胞培養培地中に浮遊して用いられてもよく、培地中に置かれても、培地から露出しても良い。物質産生装置において、2以上のポリイミド多孔質膜が、上下又は左右に積層されてもよい。積層された集合体や集積体は、培地中に置かれても培地から露出していてもかまわない。
【0100】
本発明の細胞培養による物質産生装置としては、ポリイミド多孔質膜を含むものであれば任意の形態を取ってよく、公知の細胞培養装置を用いることが可能である。培養装置の形状、規模などは特に限定されず、シャーレ、試験管から大型のタンクまで適宜利用可能である。例えば、BD Falcon社製のセルカルチャーディッシュやサーモサイエンティフィック社製のNunc セルファクトリー等が含まれる。なお、本発明においてポリイミド多孔質膜を用いることにより、生来浮遊培養が可能でなかった細胞についても浮遊培養向け装置にて、浮遊培養類似状態での培養を行うことが可能になった。浮遊培養用の装置としては、例えば、コーニング社製のスピナーフラスコや回転培養等が使用可能である。また、同様の機能を実現出来る環境として、VERITAS社のFiberCell (登録商標) Systemの様な中空糸培養も使用する事が可能である。
【0101】
本発明の培養細胞による物質産生装置は、メッシュ上のシートに連続的に培地を添加し回収する様な、連続循環もしくは開放型の装置で、空気中にポリイミド多孔質膜シートを露出させる様な型式で実行する事も可能である。
【0102】
本発明の細胞産生した物質を回収するための手段をさらに設けてもよい。例えば、循環式添加培地に半透膜等を直結させる事で、乳酸等の不要物を除きながら、糖質やアミノ酸類を追加して、効率良い長時間培養法兼不要物除去法を構築する事も可能である。
【0103】
III.キット
本発明はさらに、ポリイミド多孔質膜を含む、本発明の方法に使用するためのキットに関する。
【0104】
本発明のキットは、ポリイミド多孔質膜の他に、細胞培養、物質産生、物質回収に必要な構成要素を適宜含みうる。例えば、ポリイミド多孔質膜に適用する細胞、細胞培養培地、連続的培地供給装置、連続的培地循環装置、ポリイミド多孔質膜を支持する足場もしくはモジュール、細胞培養装置、物質産生を確認する為のELISA、細胞破壊手段(例えば、細胞溶解剤、破砕用ディスポホモジナイザー)、物質回収手段(例えば、限外濾過遠心チューブ、共沈用試薬セット及びチューブ、抗体等の試薬)、キットの取り扱い説明書などが含まれる。
【0105】
限定されるわけではないが、一態様として、透明なパウチ内に滅菌されたポリイミド多孔質膜が単独で又は複数枚保存され、そのままで細胞培養に使用可能な形態を含むパッケージや、あるいは、同パウチ内にポリイミド多孔質膜と共に滅菌液体が封入されており、効率的吸込み播種が可能になっている膜・液体の一体型形態のキットを含む。
【0106】
IV.使用
本発明はさらに、ポリイミド多孔質膜の上述した本発明の方法のための使用、を含む。
【実施例】
【0107】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。以後、特に記述しない場合には、「ポリイミド多孔質膜」は総膜厚25μm、空孔率73%のポリイミド多孔質膜をいうものとする。当該ポリイミド多孔質膜は、2つの異なる表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有した。A面に存在する穴の平均孔径は6μmであり、B面に存在する穴の平均孔径は46μmであった。
【0108】
なお、以下の実施例で使用されたポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸成分である3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とジアミン成分である4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とから得られるポリアミック酸溶液と、着色前駆体であるポリアクリルアミドとを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより、調製された。
【0109】
<使用した細胞、材料等>
・正常ヒト皮膚線維芽細胞(LONZA社 product code CC−2511)
・正常ヒト線維芽細胞様滑膜細胞HFLS(CELL APPLICATIONS,INC.社)
・慢性関節リウマチ患者由来線維芽細胞様滑膜細胞HFLS−RA(CELL APPLICATIONS,INC.社)
・HepG2(CET(Cellular ENGINEERING TECHNOLOGIES, INC.)社、HEPG2−500)
・CHO−K1(パブリックヘルスイングランド cat. 85051005)
・CHO DP−12(ATCC CRL−12445)
・CHO−K1用培地(和光純薬工業株式会社 Ham’s F−12 087−08335)
・CHO DP−12用培地(和光純薬工業株式会社 IMDM 098−06465)
・Cell Counting Kit8(株式会社同仁化学研究所 CK04)
・ステンレスメッシュ(久宝金属株式会社 60メッシュ E9117)
・2cm×2cmの滅菌された正方形容器(Thermo Fisher Scientific 社 cat. 103)
・Penicillin−Streptomycin−Amphotericin BSuspension(X100)(和光純薬工業株式会社 161−23181)
・顕微鏡名、使用した画像ソフト名
Carl Zeiss 社製 LSM 700 使用ソフト ZEN
【0110】
実施例1 正常ヒト皮膚線維芽細胞による自発的物質産生
本実施例では、正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて、ポリイミド多孔質膜への播種を行い細胞培養を行った後、シャーレ内のフィブロネクチンの産生量を確認した。
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に細胞培養培地(2%FBS、Fibroblast Media、LONZA社製)1mlを加え、1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜のメッシュ構造のA面を上にして培地に浸漬させる。別途、培地1mlあたり4.2×10
6個の正常ヒト皮膚線維芽細胞(そのうち、生細胞は4.2×10
6個、死細胞は4.0×10
4個、生細胞率99%)を懸濁した、正常ヒト皮膚線維芽細胞懸濁液を準備した。シートあたり細胞懸濁液を4×10
4個/cm
2ずつ上記正方形容器中の細胞培養培地に添加し、この正方形容器中で14日間培養した。また、培地1mlあたり3.0×10
6個の正常ヒト皮膚線維芽細胞(そのうち、生細胞は2.9×10
6個、死細胞は1.6×10
5個、生細胞率95%)を懸濁した、正常ヒト皮膚線維芽細胞懸濁液を準備した。5cm
2シャーレに1mlの細胞培養培地を加え上記の細胞懸濁液を1.0×10
4個/cm
2添加して43日間培養し、シャーレにおいて細胞培養を行った。
【0111】
上記で細胞培養したシートを1枚入れた5cm
2シャーレおよび上記でシートを入れずに細胞培養した5cm
2シャーレを準備した。
培地上清を廃棄し新たに細胞培養培地をそれぞれに1ml加え、5%のCO
2、37℃で2日間インキュベートし、培地上清を回収した。回収した上清に含まれるフィブロネクチン量をELISA法により定量した(表2)。表2は、ヒト皮膚線維芽細胞を用いたフィブロネクチンの自発的産生量について、ポリイミド多孔質膜シートとシャーレを、各々培養足場として用いた場合の結果を示している。表2に示した通り、ポリイミド多孔質膜シートを用いた場合の方がシャーレを用いた場合より、フィブロネクチンの自発的産生量は2倍以上多かった。
【0112】
【表2】
【0113】
実施例2 正常ヒト線維芽細胞様滑膜細胞HFLS及び慢性関節リウマチ患者由来線維芽細胞様滑膜細胞HFLS−RAによる自発的物質産生
本実施例では、正常ヒト線維芽細胞様滑膜細胞HFLS及び慢性関節リウマチ患者由来線維芽細胞様滑膜細胞HFLS−RAを用いて、ポリイミド多孔質膜への播種を行い細胞培養を行った後、シャーレ内のIL−6の産生量を確認した。
【0114】
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に細胞培養培地(10%FBS、Synoviocyte Growth Medium、CELL APPLICATIONS,INC.社製)1mlを加え、1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜のメッシュ構造のA面を上にして培地に浸漬させる。別途、培地1mlあたり1.5×10
6個のHFLS細胞(そのうち、生細胞は1.4×10
6個、死細胞は2.0×10
4個、生細胞率99%)を懸濁した、HFLS細胞懸濁液を準備した。シートあたり細胞懸濁液を4.0×10
4個/cm
2ずつ上記正方形容器中の細胞培養培地に添加し、この正方形容器中で13日間培養した。また、5cm
2シャーレに1mlの細胞培養培地を加え、別途、培地1mlあたり5.9×10
5個のHFLS細胞(そのうち、生細胞は5.7×10
5個、死細胞は2.0×10
4個、生細胞率97%)を懸濁した、HFLS細胞懸濁液を準備した。細胞懸濁液を7×10
3個/cm
2添加して8日間培養し、シャーレにおいて細胞培養を行った。
【0115】
同様に、培地1mlあたり2.2×10
6個のHFLS−RA細胞(そのうち、生細胞は2.0×10
6個、死細胞は1.6×10
5個、生細胞率93%)を懸濁した、HFLS−RA細胞懸濁液を準備した。シートあたり細胞懸濁液を4.0×10
4個/cm
2ずつ上記正方形容器中の細胞培養培地に添加し、この正方形容器中で13日間培養した。また、5cm
2シャーレに1mlの細胞培養培地を加え、別途、培地1mlあたり5.8×10
5個のHFLS−RA細胞(そのうち、生細胞は5.6×10
5個、死細胞は2.0×10
4個、生細胞率97%)を懸濁した、HFLS−RA細胞懸濁液を準備した。細胞懸濁液を7.0×10
3個/cm
2添加して8日間培養し、シャーレにおいて細胞培養を行った。
【0116】
5cm
2シャーレを2つ用意し、上記で細胞培養したHFLSシート、HFLS−RAシートをそれぞれ1枚入れた。さらに、上記でシートを入れずに細胞培養したHFLS、HFLS−RAの5cm
2シャーレを準備した。
【0117】
培地上清を廃棄し新たに細胞培養培地をそれぞれに1ml加え、5%のCO
2、37℃で3日間インキュベートし、培地上清を回収した。回収した上清に含まれるIL−6量をELISA法により定量した(表3)。表3では、正常ヒト線維芽細胞様滑膜細胞を用いたIL−6の自発的産生量について、ポリイミド多孔質膜シートとシャーレを、各々培養足場として用いた場合の結果を示している。表3に示した通り、ポリイミド多孔質膜シートを用いた場合の方がシャーレを用いた場合より、IL−6の自発的産生量は正常ヒト線維芽細胞様滑膜細胞HFLSの場合で約25倍以上、慢性関節リウマチ患者由来線維芽細胞様滑膜細胞HFLS−RAの場合で、約5倍以上多かった。
【0118】
【表3】
【0119】
実施例3 ヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞による自発的アルブミン産生
本実施例では、ヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞をポリイミド多孔質膜へ播種して細胞培養を行った後、一定期間中に自発的に培地中へ放出されるアルブミンの産生量を確認した。
【0120】
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に細胞培養培地(10%FBS、HEPG2.E.MEDIA−450、Cellular Engineering Technologies Inc社製)1mlを加え、1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜のメッシュ構造のA面を上にして培地に浸漬させる。別途、培地1mlあたり1.6×10
6個のHepG2細胞(そのうち、生細胞は1.4×10
6個、死細胞は1.3×10
5個、生細胞率92%)を懸濁した、HepG2細胞懸濁液を準備した。シートあたり細胞懸濁液を2×10
4個/cm
2ずつ上記正方形容器中の細胞培養培地に添加し、この正方形容器中で21日間培養した。また、10cm
2シャーレに2mlの細胞培養培地を加え上記の細胞懸濁液を2×10
4個/cm
2添加して21日間培養し、シャーレにおいて細胞培養を行った。
【0121】
上記で細胞培養したシートを3枚、1枚入れた10cm
2シャーレおよび上記で細胞培養した10cm
2シャーレを準備した。培地上清を廃棄し新たに細胞培養培地をそれぞれに2ml加え、5%のCO
2、37℃で3時間インキュベートし、培地上清を回収した。回収した上清に含まれるアルブミン量をELISA法により定量した(表4、5)。表4及び5は、HepG2細胞を用いたアルブミンの自発的産生量について、ポリイミド多孔質膜シートとシャーレを、各々培養足場として用いた場合の結果を示している。表4は、膜の単位面積あたりのアルブミン産生量を、そして、表5は、1細胞あたりのアルブミンの産生量を示している。共存する膜の枚数と細胞あたりのアルブミン産生量に相関が無く、ポリイミド多孔質膜あたりの産生量は一定となっているので、細胞数の上昇と共に、物質産生が比例的に進展する事が予想される。
【0122】
【表4】
【0123】
【表5】
【0124】
実施例4 G−CSF産生CHO−K1細胞株による物質産生
本実施例では、G−CSF産生CHO−K1細胞を用いた細胞培養により、産生され、培地中に放出されたG−CSFの量を測定した。
【0125】
培地1mlあたり4.1×10
6個のG−CSF産生CHO−K1細胞(そのうち、生細胞は3.6×10
6個、死細胞は4.1×10
5個、生細胞率90%)の懸濁液を準備した。8×12.5cmの長方形のポリイミド多孔質膜のA面に対しシートあたり上記細胞懸濁液を4.1×10
4個/cm
2ずつ播種し、10×14cmの滅菌された長方形容器に細胞培養培地(1%FBS、Ham’s F−12、和光純薬工業株式会社)20mlを加え培地に浸漬させた。この長方形容器中で週2回の培地交換を行い、7日間培養した。培養したシートの培地上清を除去し、新たに細胞培養培地を20ml加え、5%のCO
2、37℃で24時間インキュベートし、培地上清を回収した。回収した上清に含まれるG−CSF量をELISA法により定量した(表6)。
【表6】
【0126】
実施例5 抗ヒトIL−8産生CHO DP−12細胞による物質産生
本実施例では、ヒト抗IL−8抗体産生CHO DP−12細胞を用いた細胞培養により、産生され培地中に放出された抗ヒトIL−8抗体の量を測定する事で、ポリイミド多孔質膜を用いる細胞培養システムの効率を調べた。比較例として、通常のシャーレでの培養における同抗体産生量を調査した。
【0127】
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に細胞培養培地(2%FBS、IMDM、和光純薬工業株式会社)0.5mlを加え、滅菌した1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜をメッシュ構造のA面を上にしてそれぞれ浸漬させた。1枚のシートあたり4×10
4個のヒト抗IL−8産生CHO DP−12細胞懸濁液をそれぞれ培地内シート上に添加し、1週間に2回の割合で培地交換し、細胞培養を継続的に実施した。85日間細胞培養した後、CCK8を用いて細胞数を測定した。細胞培養したシート2枚を1枚ずつ10cm
2シャーレに入れ、細胞培養培地をそれぞれ2ml加え、5%のCO
2、37℃で24時間インキュベートし、培地上清を回収した。回収した上清に含まれる抗ヒトIL−8抗体量をELISA法により定量した(表7のポリイミド多孔質膜1およびポリイミド多孔質膜2)。
【0128】
また、60cm
2シャーレに12mlの細胞培養培地を加え、培地1mlあたり5.3×10
6個のヒト抗IL−8産生CHO DP−12細胞(そのうち、生細胞は5.3×10
6個、死細胞は2.8×10
5個、生細胞率95%)の懸濁液を準備し、2.0×10
4個/cm
2ずつ播種した。24時間培養後に培地上清を回収した。回収した上清に含まれるヒト抗IL−8抗体量をELISA法により定量した(表7のシャーレ1およびシャーレ2)。
【0129】
【表7】
【0130】
驚くべきことに、培養足場としてポリイミド多孔質膜を使用した場合、シャーレを使用した場合と比較して、CHO−K1細胞の1細胞当たりの物質産生量が3倍以上増大した。
【0131】
実施例6 抗ヒトIL−8産生CHO DP−12細胞による物質産生
本実施例では、ヒト抗IL−8抗体産生CHO DP−12細胞を用いた細胞培養において、ポリイミド多孔質膜シートごと培養細胞を凍結し、再度融解した後、培養したケースで、通常の培養を続けた場合に産生され、培地中に放出される抗ヒトIL−8抗体量と変化が生じるか否かを調べた。
【0132】
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に細胞培養培地(2%FBS、IMDM、和光純薬工業株式会社)0.5mlを加え、滅菌した6枚の1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜をメッシュ構造のA面を上にしてそれぞれ浸漬させた。1枚のシートあたり4×10
4個のヒト抗IL−8産生CHO DP−12細胞懸濁液をそれぞれ培地内シート上に添加し、1週間に2回の割合で培地交換し、細胞培養を継続的に実施した。78日間細胞培養した後、CCK8を用いて細胞数を測定した。その後、細胞培養により細胞を担持したポリイミド多孔質膜シート6枚のうち2枚を、1枚ずつ10cm
2シャーレに入れ、細胞培養培地をそれぞれ2ml加え、5%のCO
2、37℃で24時間インキュベートし、培地上清を回収した。回収した上清に含まれる抗ヒトIL−8抗体量をELISA法により定量した(表8の非凍結シート1及び非凍結シート2)。
【0133】
また、細胞培養により細胞を担持したポリイミド多孔質膜シート6枚のうち4枚を、滅菌条件下で凍結保存バッグ移し、そこに細胞凍結保存液であるセルバンカー3mlを加えた。プログラムフリーザーで2条件(1分ごとに1℃、もしくは、10分ごとに1℃)にて−80℃に凍結後、−80℃にて24時間保存し、液体窒素中に移動させた。3日後、バックを37℃に加温して内容物を融解し、培地2mlを入れてインキュベータ内に24時間放置した後、2cm×2cmの滅菌された正方形容器にシートを移し、細胞培養培地1mlを加え3日間培養した。その後、シートを1枚ずつ10cm
2シャーレに入れ、細胞培養培地をそれぞれ2ml加え、5%のCO
2、37℃で24時間インキュベートし、培地上清を回収した。回収した上清に含まれる抗ヒトIL−8抗体量をELISA法により定量した(表8の凍結シート1〜4)。凍結による抗IL−8産生量の変化は認められなかった。
【0134】
【表8】
【0135】
実施例7 ヒト皮膚線維芽細胞長期培養時の気相継代による増殖確認
直径6cmのシャーレに2mlの培地を加え、滅菌した1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜のメッシュ構造のA面に1枚のシートあたり4×10
4個のヒト皮膚線維芽細胞を播種し、1ヶ月培養した。その後、シートを4分の1に切断し、更に培養を継続して合計230日培養した。その後、3.5cmディッシュ中央に、1.4cm角のステンレスメッシュを3枚重ねて設置し、その上に、前記ポリイミド多孔質膜を置き、滅菌した1.4cm角の空のポリイミド多孔質膜2枚で挟んだ。その状態で培地1mlを加えると、培地は、シートと同様の高さとなった。この状態でCO
2インキュベータ内に移動させ、1週間に2回の割合で培地交換して細胞培養を継続的に実施した。
【0136】
培養7日後、各シートを1枚ずつに分け、単一のシートとして培養を継続した。7日、10日、16日、21日、28日、42日、56日後にCCK8を用いて細胞数を計測し、元のシートと後から接地させた空のポリイミド多孔質膜について、細胞の増殖挙動をCCK8での染色法を用いて観察した。ヒト皮膚線維芽細胞を長期間培養したポリイミド多孔質膜から、効率的に細胞が空のポリイミド多孔質膜に移動し、継続的に増殖してゆく挙動が観察された。結果を
図1に示す。
【0137】
気相継代を経ずにポリイミド多孔質膜上で長期培養を294日間継続したヒト皮膚線維芽細胞培養シート及び気相継代を230日目に経て同期間培養した基盤シート及び気相培養により継代後56日間培養した上下2枚のシートについて、生息するヒト皮膚線維芽細胞が産生するフィブロネクチンを、ELISA測定にて、シートを培養した培地中へ24時間で放出したフィブロネクチンの量で比較した。培養期間及び気相継代に影響されず、安定なフィブロネクチンの産生を確認した。結果を表9に示す。比較対象として、ポリイミド多孔質膜にて13日間培養したシート2枚から産生されたフィブロネクチン量を併記した。
【0138】
【表9】
【0139】
実施例8 ヒト皮膚線維芽細胞の凍結及び物質産生
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に細胞培養培地0.5mlを加え、滅菌した1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜をメッシュ構造のA面を上にしてそれぞれ浸漬させた。1枚のシートあたり4×10
4個のヒト皮膚線維芽細胞懸濁液を培地内シート上にそれぞれ添加し、CO
2インキュベータ内で培養を開始した。1週間に2回の割合で培地交換して細胞培養を継続的に実施し、49日間細胞培養した後に、CCK8を用いて細胞数を測定したところ、9.1×10
4個であった。
【0140】
この、細胞が生育しているシートを凍結保存バックにセルバンカー3mlを加えた中に入れ、プログラムフリーザーで10分ごとに1℃下げて−80℃に凍結後、−80℃にて24時間保存し、液体窒素中に移動させた。5日後、バックを37℃に加温して内容物を融解し、培地2ml入れてインキュベータ内に24時間放置した。24時間後、5日後、8日後、13日後、21日後、29日後及び35日後にCCK8を用いて細胞数を測定した。24時間後、8日後、21日後及び35日後の比活性は、34%、91%、105%及び152%であった。35日培養後に、同シートに生育するヒト皮膚線維芽細胞のフィブロネクチン産生量をELISA法により測定した。結果を表10に示す。なお、比較対象として、凍結せずにポリイミド多孔質膜にて13日間培養したシート2枚から産生されたフィブロネクチン量を併記した。凍結による損傷を受けず、物質産生が継続される事を確認した。
【0141】
【表10】