【文献】
前之園裕隆他,微細構造が転写された有機フレキシブルシート表面へのOP9細胞の培養評価,電子情報通信学会技術研究報告,2013年,Vol.113, No.18,p.37-42
【文献】
JULIEN Sylvie et al.,Implantation of ultrathin, biofunctionalized polyimide membranes into the subretinal space of rats,Biomaterials,2011年,Vol.32,p.3890-3898
【文献】
TAO Chun-Te et al.,Polyetherimide membrane formation by the cononsolvent system and its biocompatibility of MG63 cell line,Journal of Membrane Science,2006年,Vol.269,p.66-74
【文献】
KIM Sang-Bok et al.,Use of a poly(ether imide) coating to improve corrosion resistance and biocompatibility of magnesium (Mg) implant for orthopedic applications,J Biomed Mater Res A,2013年,Vol.101, No.6,p.1708-1715
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(2)における培養において、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10000倍又はそれより少ない、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
工程(2)における培養において、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の100倍又はそれより少ない、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
工程(2)における培養が、細胞培養容器外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系で行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
培養ユニットが培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地収納容器に接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、培地が培地供給ユニットと培養ユニットとを循環可能である、請求項9又は10に記載の方法。
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜である、請求項15に記載の方法。
培養ユニットが培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地収納容器に接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、培地が培地供給ユニットと培養ユニットとを循環可能である、請求項21〜26のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
培養ユニットが培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地回収ユニットに接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、排出された培地を培地回収ユニット内に回収可能である、請求項21〜26のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
1又は複数のポリイミド多孔質膜が、水平に対して45度以下の角度で傾斜した剛体の上に載置され、ポリイミド多孔質膜の上端部近傍から培地が供給されるよう培地供給ラインの第二の端部が設置され、ポリイミド多孔質膜の下端部近傍から培地が排出されるよう培地排出ラインの第二の端部が設置されている、請求項21〜31のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
1又は複数のポリイミド多孔質膜の上面の一部又は全部を被覆するように、ポリイミド多孔質膜よりも平均孔径の大きい多孔質シートがさらに載置される、請求項32〜34のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
培養ユニット内に含まれる培地の体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10000倍又はそれより少ない、請求項21〜41のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
培養ユニット内に含まれる培地の体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の100倍又はそれより少ない、請求項21〜42のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
培養ユニット内に含まれる培地の体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の5倍又はそれより少ない、請求項21〜42のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、請求項21〜44のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理する事により得られる着色したポリイミド多孔質膜である、請求項45に記載の細胞培養装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、大量の細胞の培養方法、細胞培養装置及びキットを提供することを目的とする。また、本発明は、より簡便かつ効率的な連続型細胞培養装置及び連続型細胞培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
限定されるわけではないが、本発明は好ましくは以下の態様を含む。
[態様1]
細胞の大量培養方法であって、
(1)細胞をポリイミド多孔質膜に適用することと、
(2)細胞を適用したポリイミド多孔質膜を細胞培養培地に適用し、培養することと
を含む、方法。
[態様2]
2以上のポリイミド多孔質膜を、上下又は左右に細胞培養培地中に積層して用いる、態様1に記載の方法。
[態様3]
ポリイミド多孔質膜を
i)折り畳んで、
ii)ロール状に巻き込んで、
iii)シートもしくは小片を糸状の構造体で連結させて、あるいは、
iv)縄状に結んで
細胞培養容器中の細胞培養培地中で浮遊もしくは固定させて用いる、態様1又は2に記載の方法。
[態様4]
工程(2)における培養において、ポリイミド多孔質膜の一部分又は全体が、細胞培養培地の液相と接触していない、態様1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[態様5]
工程(2)における培養において、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10000倍又はそれより少ない、態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[態様6]
工程(2)における培養において、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の100倍又はそれより少ない、態様1〜5のいずれか一項に記載の方法。
[態様7]
工程(2)における培養が、細胞培養容器外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系で行われる、態様1〜6のいずれか一項に記載の方法。
[態様8]
細胞培養培地が細胞培養培地供給手段と細胞培養容器との間を循環する、態様7に記載の方法。
[態様9]
態様7又は8に記載の方法であって、前記系が、細胞培養容器である培養ユニットと細胞培養培地供給手段である培地供給ユニットとを含む細胞培養装置であり、ここで
培養ユニットは細胞を担持するための1又は複数のポリイミド多孔質膜を収容する培養ユニットであって、培地供給口および培地排出口を備えた培養ユニットであり、
培地供給ユニットは培地収納容器と、培地供給ラインと、培地供給ラインを介して連続的又は間歇的に培地を送液する送液ポンプとを備え、ここで培地供給ラインの第一の端部は培地収納容器内の培地に接触し、培地供給ラインの第二の端部は培養ユニットの培地供給口を介して培養ユニット内に連通している、培地供給ユニットである、
方法。
[態様10]
培養ユニットが空気供給口及び空気排出口を備えない培養ユニットである、態様9に記載の方法。
[態様11]
培養ユニットが培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地収納容器に接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、培地が培地供給ユニットと培養ユニットとを循環可能である、態様9又は10に記載の方法。
[態様12]
細胞が、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌及び細菌からなる群から選択される、態様1〜11のいずれか一項に記載の方法。
[態様13]
動物細胞が、脊椎動物門に属する動物由来の細胞である、態様12に記載の方法。
[態様14]
細菌が、乳酸菌、大腸菌、枯草菌及びシアノバクテリアからなる群から選択される、態様12に記載の方法。
[態様15]
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
[態様16]
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜である、態様15に記載の方法。
[態様17]
ポリイミド多孔質膜が、2つの異なる表層面とマクロボイド層を有する多層構造のポリイミド多孔質膜である、態様15又は16に記載の方法。
[態様18]
ポリイミド多孔質膜を含む、態様1〜17のいずれか一項に記載の方法に使用するための細胞培養装置。
[態様19]
2以上のポリイミド多孔質膜が、上下又は左右に積層している、態様18に記載の細胞培養装置。
[態様20]
ポリイミド多孔質膜を含む、態様1〜17のいずれか一項に記載の方法に使用するためのキット。
[態様21]
態様1〜17のいずれか一項に記載の方法のための、ポリイミド多孔質膜の使用。
[態様22]
細胞培養装置であって、
細胞を担持するための1又は複数のポリイミド多孔質膜を収容する培養ユニットであって、培地供給口および培地排出口を備えた培養ユニットと、
培地供給ユニットであって、培地収納容器と、培地供給ラインと、培地供給ラインを介して連続的又は間歇的に培地を送液する送液ポンプとを備え、ここで培地供給ラインの第一の端部は培地収納容器内の培地に接触し、培地供給ラインの第二の端部は培養ユニットの培地供給口を介して培養ユニット内に連通している、培地供給ユニットと、
を含む細胞培養装置。
[態様23]
培養ユニットが、空気供給口、空気排出口、及び酸素交換膜を備えない、態様22に記載の細胞培養装置。
[態様24]
培養ユニットが、空気供給口及び空気排出口、又は酸素交換膜をさらに備えた、態様22に記載の細胞培養装置。
[態様25]
空気供給口及び空気排出口が、5%CO
2ガス含有空気供給口及び5%CO
2ガス含有空気排出口である、態様24に記載の細胞培養装置。
[態様26]
培養ユニットが、ポリイミド多孔質膜を撹拌するための手段を有さない、態様22〜25のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
[態様27]
培養ユニットが、ポリイミド多孔質膜を撹拌するための手段をさらに有する、態様22〜25のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
[態様28]
培養ユニットが培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地収納容器に接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、培地が培地供給ユニットと培養ユニットとを循環可能である、態様22〜27のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
[態様29]
培養ユニットが培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地回収ユニットに接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、排出された培地を培地回収ユニット内に回収可能である、態様22〜27のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
[態様30]
培養ユニットを振盪するための手段をさらに含む、態様22〜29のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
[態様31]
培養ユニットが可撓性バッグからなる、態様22〜30のいずれかに記載の細胞培養装置。
[態様32]
可撓性バッグがガス透過性プラスチックバッグである、態様31に記載の細胞培養装置。
[態様33]
1又は複数のポリイミド多孔質膜が、水平に対して45度以下の角度で傾斜した剛体の上に載置され、ポリイミド多孔質膜の上端部近傍から培地が供給されるよう培地供給ラインの第二の端部が設置され、ポリイミド多孔質膜の下端部近傍から培地が排出されるよう培地排出ラインの第二の端部が設置されている、態様22〜32のいずれかに記載の細胞培養装置。
[態様34]
剛体が金属メッシュである、態様33に記載の細胞培養装置。
[態様35]
1又は複数のポリイミド多孔質膜と剛体とがハウジング内に収容され、ハウジングが培養ユニット内に収容されている、態様33又は34に記載の細胞培養装置。
[態様36]
1又は複数のポリイミド多孔質膜の上面の一部又は全部を被覆するように、ポリイミド多孔質膜よりも平均孔径の大きい多孔質シートがさらに載置される、態様33〜35のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
[態様37]
多孔質シートが不織布、ガーゼ、及びスポンジからなる群より選択される、態様36に記載の細胞培養装置。
[態様38]
培地供給ラインの第二の端部の近傍に脱泡ユニットがさらに設置されている、態様33〜37のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
[態様39]
2以上のポリイミド多孔質膜が上下に積層される、態様22〜38のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
[態様40]
1又は複数のポリイミド多孔質膜が折り畳まれている、態様22〜39のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
[態様41]
1又は複数のポリイミド多孔質膜の一部分又は全体が、培地によって湿潤している、態様22〜40のいずれかに記載の細胞培養装置。
[態様42]
1又は複数のポリイミド多孔質膜表面の一部分又は全体が、培地の液相に接触していない、態様22〜41のいずれかに記載の細胞培養装置。
[態様43]
培養ユニット内に含まれる培地の体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10000倍又はそれより少ない、態様22〜42のいずれかに記載の細胞培養装置。
[態様44]
培養ユニット内に含まれる培地の体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の100倍又はそれより少ない、態様22〜43のいずれかに記載の細胞培養装置。
[態様45]
培養ユニット内に含まれる培地の体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の5倍又はそれより少ない、態様22〜43のいずれかに記載の細胞培養装置。
[態様46]
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、態様22〜45のいずれかに記載の細胞培養装置。
[態様47]
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理する事により得られる着色したポリイミド多孔質膜である、態様46に記載の細胞培養装置。
[態様48]
態様22〜47のいずれか一項に記載の細胞培養装置をインキュベータ内に設置し、細胞を培養することを含む、細胞の培養方法。
[態様49]
態様22〜47のいずれかに記載の細胞培養装置をインキュベータ内に設置し、細胞を培養すること、及び
細胞に接触した培地を連続的又は間歇的に回収すること
を含む、細胞によって産生された物質を回収するための方法。
[態様50]
態様22〜47のいずれか一項に記載の細胞培養装置のためのポリイミド多孔質膜の使用。
[態様51]
細胞によって産生された物質を回収するための、態様22〜47のいずれか一項に記載の細胞培養装置の使用。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ポリイミド多孔質膜を用いて細胞培養を実施する場合、様々な形態で多数のシートを限定的な空間に共存させることにより、大量の細胞を効率良く培養できるという知見に基づいている。本発明の方法により、省スペースにて効率的かつ簡便に大量の細胞を培養することが可能となった。
【0017】
また、本発明は、細胞培養担体としてポリイミド多孔質膜を用いることにより、培養スペースや培地の量が少ない条件下でも、簡便かつ効率的な連続型細胞培養を可能とする。
ポリイミド多孔質膜は微親水性の多孔質特性を有するため、ポリイミド多孔質膜内に安定した液保持がなされ、乾燥にも強い湿潤環境が保たれる。そのため、従来の細胞培養装置と比較しても極めて少量の培地でも、細胞の生存及び増殖を達成することができる。
【0018】
また、ポリイミド多孔質膜の一部又はすべてが空気に露出した状態であっても培養が可能であるため、細胞に対して効率的な酸素供給を行うことができ、大量の細胞を培養することができる。
【0019】
本発明によれば、用いる培地の量が極めて少なく、また、培養担体であるポリイミド多孔質膜を気相に露出することができるため、細胞への酸素供給は拡散によって十分に行われる。したがって、本発明では特に酸素供給装置を必要としない。
【0020】
さらに、ポリイミド多孔質膜は密着性を上げて積層して用いることもできるため、非常に小さな体積中で細胞を大量かつ安定的に培養することが可能となる。
また、本発明では、ポリイミド多孔質膜に近接して連続的又は間歇的に培地を供給することにより、培地を滞留させることなく連続的に細胞を培養することも可能となる。
【0021】
さらに本発明によれば、従来付着細胞で継代が必要なコンフルエントな状態になった場合であっても、細胞が播種されていない、及び/又は、細胞が生着するスペースを有したポリイミド多孔質膜を、コンフルエント又はサブコンフルエントになった細胞培養担体に密着させる(例えば、挟持する、積層する等)ことで、従来用いられるトリプシン等を使用することなく、拡大培養が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
I.細胞の培養方法
本発明は、細胞の大量培養方法に関する。なお、国際出願番号PCT/JP2014/070407の全内容を、参照により本明細書に援用する。
【0024】
本発明の細胞の培養方法は、細胞をポリイミド多孔質膜に適用し、培養することを含む。本発明者らは、ポリイミド多孔質膜が細胞の接着、培養に適していることを見出し、本発明に想到した。本発明の方法は、ポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、ポリイミド膜の表面又は内部で細胞を培養することを含むことを特徴とするものである。
【0025】
1.細胞のポリイミド多孔質膜への適用
細胞のポリイミド多孔質膜への適用の具体的な工程は特に限定されない。本明細書に記載の工程、あるいは、細胞を膜状の担体に適用するのに適した任意の手法を採用することが可能である。限定されるわけではないが、本発明の方法において、細胞のポリイミド多孔質膜への適用は、例えば、以下のような態様を含む。
【0026】
(A)細胞を前記ポリイミド多孔質膜の表面に播種する工程を含む、態様;
(B)前記ポリイミド多孔質膜の乾燥した表面に細胞縣濁液を乗せ、
放置するか、あるいは前記ポリイミド多孔質膜を移動して液の流出を促進するか、あるいは表面の一部を刺激して、細胞縣濁液を前記膜に吸い込ませ、そして、
細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる、
工程を含む、態様;並びに、
(C)前記ポリイミド多孔質膜の片面又は両面を、細胞培養液又は滅菌された液体で湿潤し、
前記湿潤したポリイミド多孔質膜に細胞縣濁液を装填し、そして、
細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる、
工程を含む、態様。
【0027】
(A)の態様は、ポリイミド多孔質膜の表面に細胞、細胞塊を直接播種することを含む。あるいは、ポリイミド多孔質膜を細胞縣濁液中に入れて、膜の表面から細胞培養液を浸潤させる態様も含む。
【0028】
ポリイミド多孔質膜の表面に播種された細胞は、ポリイミド多孔質膜に接着し、多孔の内部に入り込んでいく。好ましくは、特に外部から物理的又は化学的な力を加えなくても、細胞はポリイミド多孔質膜に自発的に接着する。ポリイミド多孔質膜の表面に播種された細胞は、膜の表面及び/又は内部において安定して生育・増殖することが可能である。細胞は生育・増殖する膜の位置に応じて、種々の異なる形態をとりうる。
【0029】
(B)の態様において、ポリイミド多孔質膜の乾燥した表面に細胞縣濁液を乗せる。ポリイミド多孔質膜を放置するか、あるいは前記ポリイミド多孔質膜を移動して液の流出を促進するか、あるいは表面の一部を刺激して、細胞縣濁液を前記膜に吸い込ませることにより、細胞縣濁液が膜中に浸透する。理論に縛られるわけではないが、これはポリイミド多孔質膜の各表面形状等に由来する性質によるものであると考えられる。本態様により、膜の細胞縣濁液が装填された箇所に細胞が吸い込まれて播種される。
【0030】
あるいは、(C)の態様のように、前記ポリイミド多孔質膜の片面又は両面の部分又は全体を、細胞培養液又は滅菌された液体で湿潤してから、湿潤したポリイミド多孔質膜に細胞縣濁液を装填してもよい。この場合、細胞懸濁液の通過速度は大きく向上する。
【0031】
例えば、膜の飛散防止を主目的として膜極一部を湿潤させる方法(以後、これを「一点ウェット法」と記載する)を用いることができる。一点ウェット法は、実質上は膜を湿潤させないドライ法((B)の態様)にほぼ近いものである。ただし、湿潤させた小部分については、細胞液の膜透過が迅速になると考えられる。また、ポリイミド多孔質膜の片面又は両面の全体を十分に湿潤させたもの(以後、これを「ウェット膜」と記載する)に細胞懸濁液を装填する方法も用いることができる(以後、これを「ウェット膜法」と記載する)。この場合、ポリイミド多孔質膜の全体において、細胞懸濁液の通過速度が大きく向上する。
【0032】
(B)及び(C)の態様において、細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる。これにより細胞縣濁液中の細胞の濃度を濃縮する、細胞以外の不要な成分を水分とともに流出させる、などの処理も可能になる。
【0033】
(A)の態様を「自然播種」(B)及び(C)の態様を「吸込み播種」と呼称する場合がある。
限定されるわけではないが、好ましくは、ポリイミド多孔質膜には生細胞が選択的に留まる。よって、本発明の好ましい態様において、生細胞が前記ポリイミド多孔質膜内に留まり、死細胞は優先的に水分とともに流出する。
【0034】
態様(C)において用いる滅菌された液体は特に限定されないが、滅菌された緩衝液若しくは滅菌水である。緩衝液は、例えば、(+)及び(-)Dulbecco’s PBS 、(+)及び(-)Hank's Balanced Salt Solution等である。緩衝液の例を以下の表1に示す。
【0036】
さらに、本発明の方法において、細胞のポリイミド多孔質膜への適用は、浮遊状態にある接着性細胞をポリイミド多孔質膜と縣濁的に共存させることにより細胞を膜に付着させる態様(絡め取り)も含む。例えば、本発明の細胞の培養方法において、細胞をポリイミド多孔質膜に適用するために、細胞培養容器中に、細胞培養培地、細胞及び1又はそれ以上の前記ポリイミド多孔質膜を入れてもよい。細胞培養培地が液体の場合ポリイミド多孔質膜は細胞培養培地中に浮遊した状態である。ポリイミド多孔質膜の性質から、細胞はポリイミド多孔質膜に接着しうる。よって、生来浮遊培養に適さない細胞であっても、ポリイミド多孔質膜は細胞培養培地中に浮遊した状態で培養することが可能である。好ましくは、細胞は、ポリイミド多孔質膜に自発的に接着する。「自発的に接着する」とは、特に外部から物理的又は化学的な力を加えなくても、細胞がポリイミド多孔質膜の表面又は内部に留まることを意味する。
【0037】
細胞培養は、細胞培養における存在形態により培養細胞は接着培養系細胞と浮遊培養系細胞に分類することができる。接着培養系細胞は培養容器に付着し増殖する培養細胞であり、継代には培地交換を行う。浮遊培養系細胞は培地中において浮遊状態で増殖する培養細胞であり、一般的には継代の際には培地交換は行わず、希釈培養を行う。浮遊培養は、浮遊状態、即ち液体中での培養が可能なため、大量培養が可能であり、培養容器表面にのみ生育する付着細胞と比較すると、立体的な培養である為に、単位空間当りの培養可能細胞数は多いという利点がある。
【0038】
本発明の大量培養方法において、ポリイミド多孔質膜を細胞培養培地中に浮遊した状態で用いる場合、2以上の前記ポリイミド多孔質膜の小片を用いてもよい。ポリイミド多孔質膜は立体的でフレキシブルな薄膜であるため、例えばその小片を培養液中に浮遊させて用いることにより、一定容量の細胞培養培地中に多くの培養可能な表面積を有するポリイミド多孔質膜を持ち込むことが可能となる。通常培養の場合、容器底面積が細胞培養可能な面積の上限となるが、本発明のポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養では、先の持ち込まれたポリイミド多孔質膜の大表面積の全てが細胞培養可能な面積となる。ポリイミド多孔質膜は細胞培養液を通過させるので、例えば折りたたまれた膜内にも栄養や酸素等の供給が可能となる。また、ポリイミド多孔質膜は従来の平面培養とは全く異なり、立体的かつフレキシブルな構造を有する細胞培養基材であるため、接着性を有する細胞を培養容器の形状を選ばず、様々な形状、材質、大きさの培養容器内でも培養可能である(例えば、シャーレ、フラスコ、タンク、バッグ等)。
【0039】
ポリイミド多孔質膜の小片の大きさ、形状は、特に限定されない。形状は、円、楕円形、四角、三角、多角形、ひも状など任意の形をとりうる。
【0040】
本発明のポリイミド多孔質膜は柔軟性があるため形状を変化させて用いることができる。ポリイミド多孔質膜を平面状ではなく、立体状に形状を加工して用いてもよい。例えば、ポリイミド多孔質膜を、i)折り畳んで、ii)ロール状に巻き込んで、iii)シートもしくは小片を糸状の構造体で連結させて、あるいは、iv)縄状に結んで、細胞培養容器中の細胞培養培地中で浮遊もしくは固定させてもよい。i)〜iv)のように形状を加工することにより、小片を用いる場合と同様に、一定容量の細胞培養培地中に多くのポリイミド多孔質膜を入れることができる。さらに、各小片を集合体として取り扱うことができるため、細胞体を集合化して移動させることが可能となり、総合的な応用性が高い。
【0041】
小片集合体と同様の考え方として、2以上のポリイミド多孔質膜を、上下又は左右に細胞培養培地中に積層して用いてもよい。積層とは、ポリイミド多孔質膜が一部重なる態様も含む。積層培養により、狭いスペースで高密度に細胞を培養することが可能になる。既に細胞が育成している膜上にさらに膜を積層させて設置して別種細胞との多層系を形成することも可能である。積層するポリイミド多孔質膜の数は特に限定されない。
【0042】
上述した本発明の細胞の培養方法を、2種類又はそれより多くの方法を組み合わせて用いてもよい。例えば、態様(A)〜(C)のいずれかの方法を用いて先ずポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、次いで、細胞が接着したポリイミド多孔質膜を浮遊培養してもよい。あるいは、ポリイミド多孔質膜に適用する工程として、上記態様(A)〜(C)のいずれかの方法を2種類又はそれより多くを組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明の方法において、好ましくは、細胞はポリイミド多孔質膜の表面及び内部に生育し増殖する。本発明の方法により、細胞は2日以上、より好ましくは4日以上、さらに好ましくは6日以上増殖し続けることができる。本明細書の記載の実施例1では、少なくとも23日間細胞が増加することが観察された。
【0044】
2.細胞
本発明の方法に利用し得る細胞の種類は特に限定されず、任意の細胞の増殖に利用可能である。
【0045】
例えば、細胞は、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌及び細菌からなる群から選択される。動物細胞は、脊椎動物門に属する動物由来の細胞と無脊椎動物(脊椎動物門に属する動物以外の動物)由来の細胞とに大別される。本明細書における、動物細胞の由来は特に限定されない。好ましくは、脊椎動物門に属する動物由来の細胞を意味する。脊椎動物門は、無顎上綱と顎口上綱を含み、顎口上綱は、哺乳綱、鳥綱、両生綱、爬虫綱などを含む。好ましくは、一般に、哺乳動物と言われる哺乳綱に属する動物由来の細胞である。哺乳動物は、特に限定されないが、好ましくは、マウス、ラット、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギなどを含む。
【0046】
本明細書における植物細胞の由来は特に限定されない。コケ植物、シダ植物、種子植物を含む植物の細胞が対象となる。
種子植物細胞が由来する植物は、単子葉植物、双子葉植物のいずれも含まれる。限定されるわけではないが、単子葉植物には、ラン科植物、イネ科植物(イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ、ソルガム等)、カヤツリグサ科植物などが含まれる。双子葉植物には、キク亜綱、モクレン亜綱、バラ亜綱など多くの亜綱に属する植物が含まれる。
【0047】
藻類も、細胞由来生物として見なす事が出来る。真正細菌であるシアノバクテリア(藍藻)から、真核生物で単細胞生物であるもの(珪藻、黄緑藻、渦鞭毛藻など)及び多細胞生物である海藻類(紅藻、褐藻、緑藻)などの異なるグループを含む。
【0048】
本明細書における古細菌及び細菌の種類も特に限定されない。古細菌は、メタン菌・高度好塩菌・好熱好酸菌・超好熱菌等からなる群から構成される。細菌は、例えば、乳酸菌、大腸菌、枯草菌及びシアノバクテリアなどからなる群から選択される。
【0049】
本発明の方法に利用しうる動物細胞又は植物細胞の種類は、限定されるわけではないが、好ましくは、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞、及び生殖細胞からなる群から選択される。
【0050】
本発明において「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称することを意図する。限定されるわけではないが、多能性幹細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。iPS細胞は倫理的な問題もない等の理由により特に好ましい。多能性幹細胞としては公知の任意のものを使用可能であるが、例えば、国際公開WO2009/123349(PCT/JP2009/057041)に記載の多能性幹細胞を使用可能である。
【0051】
「組織幹細胞」とは、分化可能な細胞系列が特定の組織に限定されているが、多様な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味する。例えば骨髄中の造血幹細胞は血球のもととなり、神経幹細胞は神経細胞へと分化する。このほかにも肝臓をつくる肝幹細胞、皮膚組織になる皮膚幹細胞などさまざまな種類がある。好ましくは、組織幹細胞は、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞、又は造血幹細胞から選択される。
【0052】
「体細胞」とは、多細胞生物を構成する細胞のうち生殖細胞以外の細胞のことを言う。有性生殖においては次世代へは受け継がれない。好ましくは、体細胞は、肝細胞、膵細胞、筋細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、線維芽細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、又は、リンパ球、赤血球、白血球、単球、マクロファージ若しくは巨核球の血球細胞から選択される。
【0053】
「生殖細胞」は、生殖において遺伝情報を次世代へ伝える役割を持つ細胞を意味する。例えば、有性生殖のための配偶子、即ち卵子、卵細胞、精子、精細胞、無性生殖のための胞子などを含む。
【0054】
細胞は、肉腫細胞、株化細胞及び形質転換細胞からなる群から選択してもよい。「肉腫」とは、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血液等の非上皮性細胞由来の結合組織細胞に発生する癌で、軟部肉腫、悪性骨腫瘍などを含む。肉腫細胞は、肉腫に由来する細胞である。「株化細胞」とは、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもつに至り、半永久的な継代培養が可能になった培養細胞を意味する。PC12細胞(ラット副腎髄質由来)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HL−60細胞(ヒト白血球細胞由来)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓上皮細胞由来)、MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)、HepG2細胞(ヒト肝癌由来)などヒトを含む様々な生物種の様々な組織に由来する細胞株が存在する。「形質転換細胞」は、細胞外部から核酸(DNA等)を導入し、遺伝的性質を変化させた細胞を意味する。動物細胞、植物細胞、細菌の形質転換については、各々適した方法が公知である。
【0055】
3.ポリイミド多孔質膜
ポリイミドとは、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称であり、通常は、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドを意味する。芳香族ポリイミドは芳香族と芳香族とがイミド結合を介して共役構造を持つため、剛直で強固な分子構造を持ち、かつ、イミド結合が強い分子間力を持つために非常に高いレベルの熱的、機械的、化学的性質を有する。
【0056】
本発明において用いるポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを(主たる成分として)含むポリイミド多孔質膜であり、より好ましくはテトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質膜である。「主たる成分として含む」とは、ポリイミド多孔質膜の構成成分として、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミド以外の成分は、本質的に含まない、あるいは含まれていてもよいが、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドの性質に影響を与えない付加的な成分であることを意味する。
【0057】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理する事により得られる着色したポリイミド多孔質膜も含まれる。
【0058】
ポリアミック酸
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを重合して得られる。ポリアミック酸は、熱イミド化又は化学イミド化することにより閉環してポリイミドとすることができるポリイミド前駆体である。
【0059】
ポリアミック酸は、アミック酸の一部がイミド化していても、本発明に影響を及ぼさない範囲であればそれを用いることができる。すなわち、ポリアミック酸は、部分的に熱イミド化又は化学イミド化されていてもよい。
【0060】
ポリアミック酸を熱イミド化する場合は、必要に応じて、イミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。また、ポリアミック酸を化学イミド化する場合は、必要に応じて、化学イミド化剤、脱水剤、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。ポリアミック酸溶液に前記成分を配合しても、着色前駆体が析出しない条件で行うことが好ましい。
【0061】
着色前駆体
本発明において着色前駆体とは、250℃以上の熱処理により一部または全部が炭化して着色化物を生成する前駆体を意味する。
【0062】
本発明で用いられる着色前駆体としては、ポリアミック酸溶液又はポリイミド溶液に均一に溶解または分散し、250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理、好ましくは空気等の酸素存在下での250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理により熱分解し、炭化して着色化物を生成するものが好ましく、黒色系の着色化物を生成するものがより好ましく、炭素系着色前駆体がより好ましい。
【0063】
着色前駆体は、加熱していくと一見炭素化物に見えるものになるが、組織的には炭素以外の異元素を含み、層構造、芳香族架橋構造、四面体炭素を含む無秩序構造のものを含む。
【0064】
炭素系着色前駆体は特に制限されず、例えば、石油タール、石油ピッチ、石炭タール、石炭ピッチ等のタール又はピッチ、コークス、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体、フェロセン化合物(フェロセン及びフェロセン誘導体)等が挙げられる。これらの中では、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体及び/又はフェロセン化合物が好ましく、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体としてはポリアクリルニトリルが好ましい。
【0065】
テトラカルボン酸二無水物は、任意のテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等を挙げることができる。また、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸を用いることも好ましい。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0066】
これらの中でも、特に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に用いることができる。
【0067】
ジアミンは、任意のジアミンを用いることができる。ジアミンの具体例として、以下のものを挙げることができる。
1)1,4−ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエンなどのベンゼン核1つのべンゼンジアミン;
2)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン;
3)1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン;
4)3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン。
【0068】
これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
これらの中でも、芳香族ジアミン化合物が好ましく、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを好適に用いることができる。特に、ベンゼンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル及びビス(アミノフェノキシ)フェニルからなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミンが好ましい。
【0069】
ポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、ガラス転移温度が240℃以上であるか、又は300℃以上で明確な転移点がないテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを組み合わせて得られるポリイミドから形成されていることが好ましい。
【0070】
本発明のポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、以下の芳香族ポリイミドからなるポリイミド多孔質膜であることが好ましい。
(i)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
(ii)テトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
及び/又は、
(iii)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド。
【0071】
限定されるわけではないが、ポリイミド多孔質膜として、少なくとも、2つの表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有する多層構造のポリイミド多孔質膜を、本発明の方法に使用することが可能である。好ましくは、ポリイミド多孔質膜は、前記マクロボイド層が、前記表面層(A面及びB面)に結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層(A面及びB面)に囲まれた、膜平面方向の平均孔径が10〜500μmである複数のマクロボイドとを有し、前記のマクロボイド層の隔壁、並びに前記表面層(A面及びB面)はそれぞれ、厚さが0.01〜20μmであり、平均孔径0.01〜100μmの複数の孔を有し、当該細孔同士が連通しても良く、更に前記マクロボイドに連通して部分的あるいは全面的に多層構造を有しており、そして、総膜厚が5〜500μmであり、空孔率が40%以上95%未満である、ポリイミド多孔質膜である。
【0072】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜の総膜厚は、限定されるわけではないが、一態様として20〜75μmとしてもよい。膜厚の相違により、細胞の増殖速度、細胞の形態、面内における細胞の飽和度等に相違が観察されうる。
【0073】
本発明において、2つの異なる表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有するポリイミド多孔質膜が使用される場合、A面に存在する孔の平均孔径は、B面に存在する孔の平均孔径と差があってもよい。好ましくは、A面に存在する孔の平均孔径は、B面に存在する孔の平均孔径よりも小さい。より好ましくは、A面に存在する孔の平均孔径がB面に存在する孔の平均孔径よりも小さく、A面に存在する孔の平均孔径が0.01〜50μm、0.01μm〜40μm、0.01μm〜30μm、0.01μm〜20μm、又は0.01μm〜15μmであり、B面に存在する孔の平均孔径が20μm〜100μm、30μm〜100μm、40μm〜100μm、50μm〜100μm、又は60μm〜100μmである。特に好ましくは、ポリイミド多孔質膜のA面が平均孔径15μm以下、例えば0.01μm〜15μmの小さい穴を有するメッシュ構造であり、B面が平均孔径20μm以上、例えば20μm〜100μmの大穴構造である。
【0074】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜の総膜厚の測定は、接触式の厚み計で行うことができる。
ポリイミド多孔質膜表面の平均孔径は、多孔質膜表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積の平均値から下式(1)に従って孔の形状が真円であるとした際の平均直径を計算より求めることができる。
【数1】
(式中、Saは孔面積の平均値を意味する。)
【0075】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜の空孔率は、所定の大きさに切り取った多孔質フィルムの膜厚及び質量を測定し、目付質量から下式(2)に従って求めることができる。
【数2】
(式中、Sは多孔質フィルムの面積、dは総膜厚、wは測定した質量、Dはポリイミドの密度をそれぞれ意味する。ポリイミドの密度は1.34g/cm
3とする。)
【0076】
例えば、国際公開 WO2010/038873、特開2011−219585、又は特開2011−219586に記載されているポリイミド多孔質膜も、本発明の方法に使用可能である。
【0077】
ポリイミド多孔質膜の表面に播種された細胞は、膜の表面及び/又は内部において安定して生育・増殖することが可能である。細胞は膜中の生育・増殖する位置に応じて、種々の異なる形態をとりうる。本発明の一態様において、細胞の種類に応じて、ポリイミド多孔質膜の表面及び内部を移動しながら、形状を変化させながら増殖することもある。
【0078】
本発明の方法において細胞を適用するポリイミド多孔質膜は、当然、適用する以外の細胞を含まない状態、即ち、滅菌されていることが好ましい。本発明の方法は、好ましくは、ポリイミド多孔質膜を予め滅菌する工程を含む。ポリイミド多孔質膜は、耐熱性に極めて優れており、軽量であり、形・大きさも自由に選択可能であり、滅菌処理が容易である。乾熱滅菌、蒸気滅菌、エタノール等消毒剤による滅菌、紫外線やガンマ線等の電磁波滅菌等任意の滅菌処理が可能である。
【0079】
4.細胞培養と培養体積
ポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養のモデル図を
図1に示す。
図1は理解を助けるための図であり、各要素は実寸ではない。本発明の方法では、ポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、培養することにより、ポリイミド多孔質膜の有する内部の多面的な連結多孔部分や表面に、大量の細胞が生育するため、大量の細胞を簡便に培養することが可能となる。また、本発明の方法では、細胞培養に用いる培地の量を従来の方法よりも大幅に減らしつつ、大量の細胞を培養することが可能となる。たとえば、ポリイミド多孔質膜の一部分又は全体が、細胞培養培地の液相と接触していない状態であっても、大量の細胞を培養することができる。また、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和に対して、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積を、従来の方法よりも著しく減らすことも可能となる。
【0080】
本明細書において、細胞を含まないポリイミド多孔質膜がその内部間隙の体積も含めて空間中に占める体積を「見かけ上ポリイミド多孔質膜体積」と呼称する(
図1の左の状態)。そして、ポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、ポリイミド多孔質膜の表面及び内部に細胞が担持された状態において、ポリイミド多孔質膜、細胞、及びポリイミド多孔質膜内部に浸潤した培地が全体として空間中に占める体積を「細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積」と呼称する(
図1の右の状態)。膜厚25μmのポリイミド多孔質膜の場合、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積は、見かけ上ポリイミド多孔質膜体積より、最大で50%程度大きな値となる。本発明の方法では、1つの細胞培養容器中に複数のポリイミド多孔質膜を収容して培養することができるが、その場合、細胞を担持した複数のポリイミド多孔質膜のそれぞれについての細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和を、単に「細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和」と記載することがある。
【0081】
本発明の方法を用いることにより、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10000倍又はそれより少ない条件でも、細胞を良好に培養することが可能となる。また、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の1000倍又はそれより少ない条件でも、細胞を良好に培養することができる。さらに、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の100倍又はそれより少ない条件でも、細胞を良好に培養することができる。そして、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10倍又はそれより少ない条件でも、細胞を良好に培養することができる。
【0082】
つまり、本発明によれば、細胞培養する空間(容器)を従来の二次元の細胞培養装置に比べて極限まで小型化可能となる。また、培養する細胞の数を増やしたい場合は、積層するポリイミド多孔質膜の枚数を増やす等の簡便な操作により、柔軟に細胞培養する体積を増やすことが可能となる。本発明に用いられるポリイミド多孔質膜を備えた細胞培養装置であれば、細胞を培養する空間(容器)と細胞培養培地を貯蔵する空間(容器)とを分離することが可能となり、培養する細胞数に応じて、必要となる量の細胞培養培地を準備することが可能となる。細胞培養培地を貯蔵する空間(容器)は、目的に応じて大型化又は小型化してもよく、あるいは取り替え可能な容器であってもよく、特に限定されない。
【0083】
たとえば、実施例1における培養条件では、1.4cm角の正方形で膜厚25μmのポリイミド多孔質膜50枚にヒト皮膚線維芽細胞を適用したもの(細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和がおよそ0.25cm
3)を4mlの培地を用いて培養した。これは、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和のおよそ16倍程度となる条件である。その結果、細胞がすべて細胞培養培地中に均一に分散しているものとした場合の細胞数が、株化細胞ではないヒト接着性細胞であるにも関わらず、培地1ミリリットルあたり2.5×10
6個を超える数に達するほど大量に培養することができた。
【0084】
本明細書において、細胞の大量培養とは、たとえば、ポリイミド多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数が、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして、培地1ミリリットルあたり1.0×10
5個以上、1.0×10
6個以上、2.0×10
6個以上、5.0×10
6個以上、1.0×10
7個以上、2.0×10
7個以上、5.0×10
7個以上、1.0×10
8個以上、2.0×10
8個以上、5.0×10
8個以上、1.0×10
9個以上、2.0×10
9個以上、または5.0×10
9個以上となるまで培養することをいう。ポリイミド多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数を、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして計測する方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。たとえば、実施例1で用いた方法のように、CCK8を用いた細胞数計測法を好適に用いることができる。具体的には、Cell Countinig Kit8;同仁化学研究所製溶液試薬(以下、「CCK8」と記載する。)を用いて、ポリイミド多孔質膜を用いない通常の培養における細胞数を計測し、吸光度と実際の細胞数との相関係数を求める。その後、細胞を適用し、培養したポリイミド多孔質膜を、CCK8を含む培地に移し、1〜3時間インキュベータ内で保存し、上清を抜き出して480nmの波長にて吸光度を測定して、先に求めた相関係数から細胞数を計算する。
【0085】
動物細胞を用いる場合、ポリイミド多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数が、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして、培地1ミリリットルあたり1.0×10
5個以上、1.0×10
6個以上、2.0×10
6個以上、5.0×10
6個以上、1.0×10
7個以上、2.0×10
7個以上、または5.0×10
7個以上となるまで培養することを、細胞の大量培養ということができる。
【0086】
ヒト皮膚線維芽細胞のような線維芽細胞を用いる場合、ポリイミド多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数が、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして、培地1ミリリットルあたり1.0×10
5個以上、1.0×10
6個以上、2.0×10
6個以上、5.0×10
6個以上、1.0×10
7個以上、2.0×10
7個以上、または5.0×10
7個以上となるまで培養することを、細胞の大量培養ということができる。
【0087】
また、CHO細胞を用いる場合、ポリイミド多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数が、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして、培地1ミリリットルあたり1.0×10
5個以上、1.0×10
6個以上、2.0×10
6個以上、5.0×10
6個以上、1.0×10
7個以上、2.0×10
7個以上、または5.0×10
7個以上となるまで培養することを、細胞の大量培養ということができる。
【0088】
また、Hela細胞を用いる場合、ポリイミド多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数が、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして、培地1ミリリットルあたり1.0×10
5個以上、1.0×10
6個以上、2.0×10
6個以上、5.0×10
6個以上、1.0×10
7個以上、2.0×10
7個以上、または5.0×10
7個以上となるまで培養することを、細胞の大量培養ということができる。
【0089】
また、別の観点からは、細胞の大量培養とは、たとえば、ポリイミド多孔質膜を用いた培養後にポリイミド多孔質膜1平方センチメートルあたりに含まれる細胞数が1.0×10
5個以上、2.0×10
5個以上、1.0×10
6個以上、2.0×10
6個以上、5.0×10
6個以上、1.0×10
7個以上、2.0×10
7個以上、5.0×10
7個以上、1.0×10
8個以上、2.0×10
8個以上、または5.0×10
8個以上となるまで培養することをいう。ポリイミド多孔質膜1平方センチメートルあたりに含まれる細胞数は、セルカウンター等の公知の方法を用いて適宜計測することが可能である。
【0090】
動物細胞を用いる場合、1.0×10
5個以上、2.0×10
5個以上、1.0×10
6個以上、2.0×10
6個以上、5.0×10
6個以上、1.0×10
7個以上、2.0×10
7個以上、または5.0×10
7個以上となるまで培養することを、細胞の大量培養ということができる。
【0091】
本明細書に於ける大量培養の定義について、上述のポリイミド多孔質膜1平方センチメートルあたりに大量の細胞が成育する事と並列して、シート上の細胞がスフェロイド様の細胞集合塊を形成せず、ポリイミド多孔質膜に接着した細胞が、全体の細胞数の80%以上を占める、という状態を意味する。これは、安定的に大量の細胞を培養する為の重要な条件であり、凝集や壊死を惹起する様な細胞同士のみの集合化ではなく、ポリイミド多孔質膜上及び内部に、十分な培地等の養分や酸素を供給しながら安定した生育の足場を持った細胞集団の安定的な培養方法を意味する。
【0092】
3.細胞の培養システム及び培養条件
本発明の方法において、細胞の培養システム及び培養条件は、細胞の種類等に応じて適宜決定することができる。動物細胞、植物細胞、及び細菌の各細胞に適した培養方法が公知であり、当業者は任意の公知の方法を用いてポリイミド多孔質膜に適用した細胞を培養することができる。細胞培養培地も細胞の種類に応じて適宜調製することができる。
【0093】
動物細胞の細胞培養方法、細胞培養培地は、例えば、ロンザ社の細胞培養培地カタログに記載されている。植物細胞の細胞培養方法、細胞培養培地は、例えば、WAKO社の植物組織培地シリーズ等に記載されている。細菌の細胞培養方法、細胞培養培地は、例えば、BD社の一般細菌用培地カタログに記載されている。本発明の方法に用いることの細胞培養培地は、液体培地、半固形培地、固形培地等のいずれの形態であってもよい。また、液滴状とした液体培地を細胞培養容器中に噴霧することにより、細胞を担持したポリイミド多孔質膜に培地が接触するようにしてもよい。
【0094】
ポリイミド多孔質膜を用いる細胞の培養に関して、マイクロキャリアやセルローススポンジ等、他の浮遊型培養担体と共存させることもできる。
本発明の方法において、培養に用いるシステムの形状、規模などは特に限定されず、細胞培養用のシャーレ、フラスコ、プラスチックバッグ、試験管から大型のタンクまで適宜利用可能である。例えば、BD Falcon社製のセルカルチャーディッシュやサーモサイエンティフィック社製のNunc セルファクトリー等が含まれる。なお、本発明においてポリイミド多孔質膜を用いることにより、生来浮遊培養が可能でなかった細胞についても浮遊培養向け装置にて、浮遊培養類似状態での培養を行うことが可能になった。浮遊培養用の装置としては、例えば、コーニング社製のスピナーフラスコや回転培養等が使用可能である。また、同様の機能を実現出来る環境として、VERITAS社のFiberCell(登録商標)Systemの様な中空糸培養も使用することが可能である。
【0095】
本発明の方法における培養は、ポリイミド多孔質膜上に連続的に培地を添加し回収するような連続循環もしくは開放型の装置を用いて、空気中にポリイミド多孔質膜シートを露出させるような型式で実行することも可能である。
【0096】
本発明において、細胞の培養は、細胞培養容器外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系で行ってもよい。その際、細胞培養培地が細胞培養培地供給手段と細胞培養容器との間を循環する系であることができる。
【0097】
細胞の培養を、細胞培養容器外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系で行う場合、その系は、細胞培養容器である培養ユニットと細胞培養培地供給手段である培地供給ユニットとを含む細胞培養装置であってよく、ここで
培養ユニットは細胞を担持するための1又は複数のポリイミド多孔質膜を収容する培養ユニットであって、培地供給口および培地排出口を備えた培養ユニットであり、
培地供給ユニットは培地収納容器と、培地供給ラインと、培地供給ラインを介して連続的又は間歇的に培地を送液する送液ポンプとを備え、ここで培地供給ラインの第一の端部は培地収納容器内の培地に接触し、培地供給ラインの第二の端部は培養ユニットの培地供給口を介して培養ユニット内に連通している、培地供給ユニットである
細胞培養装置であってよい。
【0098】
また、上記細胞培養装置において、培養ユニットは空気供給口及び空気排出口を備えない培養ユニットであってよく、また、空気供給口及び空気排出口を備えた培養ユニットであってよい。培養ユニットは空気供給口及び空気排出口を備えないものであっても、細胞の培養に必要な酸素等が培地を通じて十分に細胞に供給される。さらに、上記細胞培養装置において、培養ユニットが培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地収納容器に接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、培地が培地供給ユニットと培養ユニットとを循環可能であってよい。
【0099】
上記細胞の培養システムの一例である細胞培養装置の例を
図2に示すが、本発明の目的のために用いることができる細胞の培養システムはこれに限定されるものではない。
【0100】
II.細胞培養装置
本発明は、細胞培養装置であって、
細胞を担持するための1又は複数のポリイミド多孔質膜を収容する培養ユニットであって、培地供給口および培地排出口を備えた培養ユニットと、
培地供給ユニットであって、培地収納容器と、培地供給ラインと、培地供給ラインを介して連続的又は間歇的に培地を送液する送液ポンプとを備え、ここで培地供給ラインの第一の端部は培地収納容器内の培地に接触し、培地供給ラインの第二の端部は培養ユニットの培地供給口を介して培養ユニット内に連通している、培地供給ユニットと、
を含む細胞培養装置に関する。なお、国際出願番号PCT/JP2014/070407の全内容を、参照により援用する。
【0101】
本発明はまた、ポリイミド多孔質膜を含む、本発明の培養方法に使用するための細胞培養装置に関する。本発明の細胞培養装置において、ポリイミド多孔質膜は固定されて用いられてもよく、あるいは細胞培養培地中に浮遊して用いられてもよく、培地中に置かれても、培地から露出しても良い。細胞培養装置において、2以上のポリイミド多孔質膜が、上下又は左右に積層してもよい。積層された集合体や集積体は、培地中に置かれても培地から露出していてもかまわない。
【0102】
本発明の細胞培養装置としては、ポリイミド多孔質膜を含むものであれば任意の形態を取ってよい。たとえば、上述した本発明の大量培養方法において用いる細胞の培養システムは、いずれも本発明の細胞培養装置として用いることができる。
【0103】
本発明の細胞培養装置において、ポリイミド多孔質膜は、1枚の膜を平面状又は折り畳んで用いてもよく、2枚以上のポリイミド多孔質膜を上下に積層して又は折り畳んで積層して用いてもよい。ポリイミド多孔質膜を積層する方法は限定されないが、A面とB面同士が合わさるように積層してもよい。
【0104】
本発明の方法に用いることの細胞培養培地(本明細書において、単に培地と記載することがある)は、液体培地、半固形培地、固形培地等のいずれの形態であってもよいが、液体培地を好ましく用いることができる。また、霧状もしくは液滴状とした液体培地を細胞培養容器中に噴霧することにより、細胞を担持したポリイミド多孔質膜に培地が接触するようにしてもよい。
【0105】
ポリイミド多孔質膜を用いる細胞の培養に関して、マイクロキャリアやセルローススポンジ等、他の浮遊型培養担体と共存させることもできる。
本発明の細胞培養装置は、細胞を担持するための1又は複数のポリイミド多孔質膜を収容する培養ユニットおよび培地供給ユニットを含む。
【0106】
培養ユニット内において、ポリイミド多孔質膜は固定されて用いられてもよく、あるいは細胞培養培地中に浮遊して用いられてもよく、培地中に置かれても、培地から露出しても良い。細胞培養装置において、2以上のポリイミド多孔質膜が、上下又は左右に積層してもよい。積層された集合体や集積体は、培地中に置かれても培地から露出していてもかまわない。
【0107】
培養ユニットは、培地供給口および培地排出口を備える。培養ユニットは、空気供給口、空気排出口、及び酸素交換膜を備えないものであることができる。本発明によれば、用いる培地の量が極めて少なく、また、培養担体であるポリイミド多孔質膜を気相に露出することができるため、細胞への酸素供給は拡散によって十分に行われる。したがって、本発明では特に酸素供給装置やガス交換機構を必要としない。もっとも、培養ユニットは空気供給口及び空気排出口、又は酸素交換膜を備えるものであってもよい。空気供給口及び空気排出口は、5%CO
2ガス含有空気供給口及び5%CO
2ガス含有空気排出口であることができる。
【0108】
培養ユニットは、ポリイミド多孔質膜を撹拌するための手段を有さないものであってよい。本発明によれば、培養容器内で用いる培地の量が極めて少なく、また、培養担体であるポリイミド多孔質膜を気相に露出することができるため、細胞への酸素供給は拡散によって十分に行われるからである。もっとも、培養ユニットは、ポリイミド多孔質膜を撹拌するための手段を収容するものであってもよい。
【0109】
また、培養ユニットは、培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地収納容器に接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、培地が培地供給ユニットと培養ユニットとを循環可能であるものであってよい。この場合、頻繁な培地供給や培地交換を必要とすることなく、連続的な培地供給が可能となる。
【0110】
また、培養ユニットは、培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地回収ユニットに接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、排出された培地を培地回収ユニット内に回収可能であるものであってよい。たとえば、排出された培地から細胞が産生した物質等を回収したい場合等において、この態様を有効に用いることができる。
【0111】
本発明の細胞培養装置は、培地供給ユニットを含む。培地供給ユニットは、培地収納容器と、培地供給ラインと、培地供給ラインを介して連続的又は間歇的に培地を送液する送液ポンプとを備え、ここで培地供給ラインの第一の端部は培地収納容器内の培地に接触し、培地供給ラインの第二の端部は培養ユニットの培地供給口を介して培養ユニット内に連通している。
【0112】
本発明の細胞培養装置は、培養ユニットを振盪するための手段をさらに含むものであってもよい。培養ユニットを振盪するための手段としては、細胞の培養に適した振盪を外部から与えられるものであれば得に限定はされないが、たとえばマルチシェーカー等の振盪機が例示される。
【0113】
本発明の細胞培養装置に含まれる培養ユニットは、上記の要素を有するものであればどのような材質や形態のものであってもよい。市販の培養容器をそのまま、あるいは加工したものにポリイミド多孔質膜を収容して用いてもよい。市販の培養容器の例としては、たとえばガス不透過性又は透過性のプラスチックバッグのような可撓性バッグやスピナーフラスコ等が例示されるが、これらに限定されない。培養ユニットが可撓性バッグからなる細胞培養装置の例を
図12に、培養ユニットがスピナーフラスコからなる細胞培養装置の例を
図13に示す。
【0114】
本発明の細胞培養装置は、1又は複数のポリイミド多孔質膜が、水平に対して45度以下の角度で傾斜した剛体の上に載置され、ポリイミド多孔質膜の上端部近傍から培地が供給されるよう培地供給ラインの第二の端部が設置され、ポリイミド多孔質膜の下端部近傍から培地が排出されるよう培地排出ラインの第二の端部が設置されているものであることができる。このような細胞培養装置の例を
図2に示す。剛体は、水平に対して40度以下、35度以下、30度以下、25度以下、20度以下、15度以下、10度以下、又は5度以下の角度で傾斜したものであってよい。剛体の傾斜角度は、培養する細胞の種類、播種する細胞数、培養増殖速度、酸素要求性等に応じて適宜最適化することができ、又は、経時的に変化させても良い。剛体の材質は、ポリイミド多孔質膜を安定的に支持できるものであれば特に限定はされないが、例えばステンレススチール等の金属メッシュが例示される。
【0115】
上記細胞培養装置において、ポリイミド多孔質膜の上端部近傍から培地が供給されるよう培地供給ラインの第二の端部が設置され、ポリイミド多孔質膜の下端部近傍から培地が排出されるよう培地排出ラインの第二の端部が設置されていてよい。ここでポリイミド多孔質膜の上端部近傍とは、剛体の上に載置されたポリイミド多孔質膜を、剛体の傾斜に配向して略約三等分したうちの最も高い端部に培地を適用しうる位置をいう。また、ポリイミド多孔質膜の下端部近傍とは、剛体の上に載置されたポリイミド多孔質膜を、剛体の傾斜に配向して略三等分したうちの最も低い端部を介して培地を排出しうる位置をいう。
【0116】
上記細胞培養装置において、1又は複数のポリイミド多孔質膜と剛体とがハウジング内に収容され、ハウジングが培養ユニット内に収容されているものとしてもよい。ハウジングの材質および形態は、目的に応じて適宜決定することができる。
【0117】
上記細胞培養装置において、1又は複数のポリイミド多孔質膜と、該1又は複数のポリイミド多孔質膜を載置する剛体とは、
図10に示すように複数設けられる構成であってもよい。これにより、各段のポリイミド多孔質膜は、ほぼ同一条件の培地がされることとなり、細胞を大量に培養しても各段の培養条件を揃えることが可能となる。
【0118】
上記細胞培養装置において、1又は複数のポリイミド多孔質膜の上面の一部又は全部を被覆するように、ポリイミド多孔質膜よりも平均孔径の大きい多孔質シートをさらに載置してもよい。多孔質シートはポリイミド多孔質膜よりも平均孔径の大きいものであればどのようなものを用いてもよいが、たとえば不織布、ガーゼ、及びスポンジ等を好適に用いることができる。ポリイミド多孔質膜よりも平均孔径の大きい多孔質シートをポリイミド多孔質膜上に載置することにより、ポリイミド多孔質膜表面上を流れる培地、特に液体培地の偏流を抑制し、ポリイミド多孔質膜表面上に均一に培地を適用することができるため、さらに培養効率を上げることができる。
【0119】
上記細胞培養装置において、培地供給ラインの第二の端部の近傍に脱泡ユニットをさらに設置してもよい。ここで、培地供給ラインの第二の端部の近傍とは、培地がポリイミド多孔質膜上に培地が供給された際に生じうる気泡を脱泡ユニットが捕捉しうる位置をいう。脱泡ユニットを設置することにより、ポリイミド多孔質膜表面上に均一に培地を適用することができるため、さらに培養効率を上げることができる。
【0120】
本発明の細胞培養装置は、上述したいずれの態様のものであっても、細胞培養装置内の培養槽内で用いる培地の量を極めて少なくすることができ、培養装置の小型化、省スペース化に寄与する。たとえば、1又は複数のポリイミド多孔質膜の一部分又は全体が、培地によって湿潤しているものとすることができる。また、1又は複数のポリイミド多孔質膜表面の一部分又は全体が、培地の液相に接触していないものとすることができる。1又は複数のポリイミド多孔質膜表面の一部分又は全体が培地の液相に接触していない状態は、1又は複数のポリイミド多孔質膜表面の一部分又は全体が気相に曝露された状態であってよい。本発明の細胞培養装置は、連続的又は間歇的にポリイミド多孔質膜に培地が供給されるため、ポリイミド多孔質膜に存在する孔の一部又はすべてに培地が含まれた湿潤状態が保たれる。
【0121】
本発明の細胞培養装置は、細胞培養に用いる培地の量を従来の方法よりも大幅に減らしつつ、大量の細胞を培養することを可能とするため、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和に対して、培養ユニット中に含まれる細胞培養培地の総体積を、従来の方法よりも著しく減らすことも可能となる。
【0122】
本明細書において、細胞を含まないポリイミド多孔質膜がその内部間隙の体積も含めて空間中に占める体積を「見かけ上ポリイミド多孔質膜体積」と呼称する。そして、ポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、ポリイミド多孔質膜の表面及び内部に細胞が担持された状態において、ポリイミド多孔質膜、細胞、及びポリイミド多孔質膜内部に浸潤した培地が全体として空間中に占める体積を「細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積」と呼称する。膜厚25μmのポリイミド多孔質膜の場合、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積は、見かけ上ポリイミド多孔質膜体積より、最大で50%程度大きな値となる。本発明の方法では、1つの培養ユニット中に複数のポリイミド多孔質膜を収容して培養することができるが、その場合、細胞を担持した複数のポリイミド多孔質膜のそれぞれについての細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和を、単に「細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和」と記載することがある。
【0123】
本発明の方法を用いることにより、培養ユニット中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10000倍又はそれより少ない条件、1000倍又はそれより少ない条件、100倍又はそれより少ない条件、10倍又はそれより少ない条件、もしくは5倍又はそれより少ないでも、細胞を良好に培養することができる。
【0124】
本発明はまた、上述した細胞培養装置をインキュベータ内に設置し、細胞を培養することを含む、細胞の培養方法にも関する。
【0125】
インキュベータは、細胞の培養に適した温度を保つことができるものであればどのようなものを用いてもよい。温度に加え、湿度及びCO
2濃度を調整することができるインキュベータを用いてもよい。一般的な動物細胞を用いる場合、5%CO
2を細胞培養装置に供給できるインキュベータを用いてよい。
【0126】
III.細胞の培養方法に使用するためのキット
本発明はさらに、ポリイミド多孔質膜を含む、細胞の培養方法に使用するためのキットに関する。
【0127】
本発明のキットは、ポリイミド多孔質膜の他に、細胞培養に必要な構成要素を適宜含みうる。例えば、ポリイミド多孔質膜に適用する細胞、細胞培養培地、連続的培地供給装置、連続的培地循環装置、ポリイミド多孔質膜を支持する足場もしくはモジュール、細胞培養装置、キットの取り扱い説明書などが含まれる。
【0128】
限定されるわけではないが、一態様として、透明なパウチ内に滅菌されたポリイミド多孔質膜が単独で又は複数枚保存され、そのままで細胞培養に使用可能な形態を含むパッケージや、あるいは、同パウチ内にポリイミド多孔質膜と共に滅菌液体が封入されており、効率的吸込み播種が可能になっている膜・液体の一体型形態のキットを含む。
IV.細胞によって産生された物質を回収するための方法
本発明は、上述した細胞培養装置をインキュベータ内に設置し、細胞を培養すること、及び、細胞に接触した培地を連続的又は間歇的に回収することを含む、細胞によって産生された物質を回収するための方法にも関する。本発明の方法によれば、細胞はポリイミド多孔質に保持されたままであるため、従来、細胞又は細胞から産生されたデブリス等を除くために行われる遠心分離操作や、フィルター等を用いることが必要なく、培養上清のみを回収することが可能となる。
V.細胞培養装置の使用
本発明は、細胞を培養するための、上述した細胞培養装置の使用にも関する。また、本発明は、細胞によって産生された物質を回収するための、上述した細胞培養装置の使用にも関する。
【0129】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明する。なお本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。以後、特に記述しない場合には、「ポリイミド多孔質膜」は総膜厚25μm、空孔率73%のポリイミド多孔質膜をいうものとする。当該ポリイミド多孔質膜は、2つの異なる表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有した。A面に存在する穴の平均孔径は6μmであり、B面に存在する穴の平均孔径は46μmであった。
【0130】
なお、以下の実施例で使用されたポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸成分である3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とジアミン成分である4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)から得られるポリアミック酸溶液と、着色前駆体であるポリアクリルアミドとを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより、調製された。
【0131】
<使用した細胞、材料等>
・ヒト線維芽細胞(LONZA社 product code CC−2511)
・CHO−K1(パブリックヘルスイングランド cat. 85051005)
・CHO DP−12(ATCC CRL−12445)
・ヒト線維芽細胞用培地(LONZA社 product code CC−3132)
・CHO−K1用培地(和光純薬工業株式会社 Ham’s F−12 087−08335)
・CHO DP−12用培地(和光純薬工業株式会社 IMDM 098−06465)
・3.5cmシャーレ(Falcon社 cat. 353001)
・20cm
2シャーレ(Falcon社 cat. 353004)
・Cell Counting Kit 8(CCK8、株式会社同仁化学研究所 CK04)
・クライオチューブ(Thermo Fisher Scientific 社 1.8ml cat. 377267)
・2cm×2cmの滅菌された正方形容器(Thermo Fisher Scientific 社 cat. 103)
・Penicillin−Streptomycin−Amphotericin BSuspension(X100)(和光純薬工業株式会社 161−23181)
・顕微鏡名、使用した画像ソフト名
Carl Zeiss 社製 LSM 700 使用ソフト ZEN
・ヒトGCSF産生CHO−K1細胞株
委託業務により、以下の手順でヒトGCSF(顆粒球コロニー刺激因子)産生CHO−K1細胞株を得た。使用した細胞は、CHO−K1(パブリックヘルスイングランド cat. 85051005)である。以下工程に従い、ヒトGCSFを安定して発現する細胞株を入手した。
手順(i) ネオマイシン耐性遺伝子と合成ヒトGCSF遺伝子を導入したプラスミドの設計及び製造
手順(ii) トランスフェクショングレードプラスミド大量調製
手順(iii) 一過性遺伝子発現細胞の作成
手順(iv) 遺伝子安定発現株の作成、Real Time PCRによる発現遺伝子確認及びシングルクローン化
手順(v) 各クローンの目的タンパク質発現のELISAによる確認
こうして得られた細胞株から、産生が良好な細胞株;#42を選択し、以降の実験に使用した。
【実施例1】
【0132】
ヒト皮膚線維芽細胞のポリイミド多孔質膜を用いる大量培養
ヒト皮膚線維芽細胞を用いて、ポリイミド多孔質膜への播種を行った後、シャーレ内で大量培養を実施した。
【0133】
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に2%FBS入り細胞培養培地0.5mlを加え、滅菌した1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜をメッシュ構造のA面もしくは大穴構造のB面を上にして浸漬させた。別途、培地1mlあたり2.1×10
6個のヒト皮膚線維芽細胞(そのうち、生細胞は1.9×10
6個、死細胞は1.6×10
5個、生細胞率92%)を懸濁した、ヒト皮膚線維芽細胞懸濁液を準備した。細胞懸濁液を50μlずつ、上記正方形容器中の細胞培養培地に添加した。
【0134】
この正方形容器中で24時間培養した後、150枚の細胞を播種したシートをそれぞれ50枚ずつ20cm
2シャーレ3つに移動し、4mlの培地を加えて培養を継続した。4日間、7日間、14日間、23日間後にCCK8を用いて細胞数を計測し、増殖挙動を観察した。結果を
図3に示す。
【実施例2】
【0135】
CHO−K1細胞のポリイミド多孔質膜を用いる大量培養
本実施例では、CHO−K1細胞を用いて、ポリイミド多孔質膜への播種を行った後、シャーレ内で大量培養を実施した。
【0136】
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に2%FBS入り細胞培養培地0.5mlを加え、滅菌した1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜をメッシュ構造のA面を上にして浸漬させた。別途、培地4mlあたり5.0×10
6個のCHO−K1細胞(そのうち、生細胞は4.5×10
6個、死細胞は4.7×10
5個、生細胞率91%)を懸濁した、CHO−K1細胞懸濁液を準備した。細胞懸濁液を40μlずつ、上記正方形容器中の細胞培養培地に添加した。
【0137】
この正方形容器中で24時間培養した後、25枚の細胞を播種したシートを20cm
2シャーレ1枚に移動して集め、2mlの培地を加えて培養を継続した。11日間、18日間、20日間後にCCK8を用いて細胞数を計測し、細胞の生育挙動を観察した。観察期間を通じて、1mlあたり1.0×10
7個以上の細胞数が生息する事を観察した。
【0138】
【表2】
【実施例3】
【0139】
CHO−K1細胞のポリイミド多孔質膜を用いる大量連続培養
本実施例では、CHO−K1細胞を用いて、ポリイミド多孔質膜への播種を行った後、連続培養装置を用いて大量連続培養を実施した。
【0140】
4cm×10cmの滅菌されたポリイミド多孔質膜10枚を乾熱滅菌し、滅菌された角型シャーレ内に並べた。培地5mlあたり1.1×10
7個のCHO−K1細胞(そのうち、生細胞は1.1×10
7個、死細胞は5.0×10
5個、生細胞率96%)を含む懸濁液を用意し、先に準備したポリイミド多孔質膜上に夫々0.5mlずつ播種した。シート上に置いた懸濁液は、セルスクレーパーにて均一化し、シートを少し動かす事で、液を通過させて細胞をポリイミド多孔質膜に播種した。このシート10枚を、A面を上にして積層し、同サイズのステンレス製金属メッシュ上に乗せ、更に上部にPE/PP混合不織布を乗せ、この細胞を含む集合体をプラスチックケース内に設置した(
図2参照)。この際、細胞を含むポリイミド多孔質膜積層体を、約20°傾斜させた。傾斜上部から連続的に培地(ペニシリン・ストレプトマイシン・アンフォテリシンB(終濃度;ペニシリン:100IU/ml、ストレプトマイシン:0.1mg/ml、アンフォテンシンB:0.25μg/ml)を加えたHam‘s F−12に10%FBSを添加したもの)を添加し、毎分3mlの流速で150ml量の培地溜から循環させた。ポリイミド多孔質膜は相互に密着して集合体として存在していた。
【0141】
3日後、培地溜の液を廃棄後、新規な100mlの培地液を培地溜に添加し、更に2日間培地循環を継続した。播種完了から5日後に培地循環を停止し、CCK8による呈色反応を用いて生育細胞数を調べた。ポリイミド多孔質膜各シートに生息する細胞の総和は、8.9×10
8個であった。膜厚25μmに対し、上面下面合わせて膜厚自身の50%まで細胞・培地による増加エリアを想定すると、生存領域を含む部材体積は1.5mlで、生息細胞密度は1mlあたり5.9×10
8個であった。不織布への細胞増殖は1.5×10
7個で、概算生息細胞密度は1mlあたり3.8×10
6個であった。不織布を含め、シート毎の細胞数測定結果を
図4に示す。図中、数字は、積層されたポリイミド多孔質膜シートの上から数えた番号を示す。最上層(No.1)及び中間層(No.5)の、細胞の育成したポリイミド多孔質膜を一部切り取ってホルマリン固定し、核(DAPI)、細胞膜(セルマスク)、及びアクチン(ファロイジン)染色を行った後の蛍光顕微鏡写真を
図5に示す。細胞の良好な増殖が確認された。
【実施例4】
【0142】
馴化されたCHO−K1細胞のポリイミド多孔質膜を用いる大量連続培養
4cm×10cm角の正方形のポリイミド多孔質膜10枚を180℃30分で乾熱滅菌し、メッシュ構造のA面を上にして滅菌プレート上に置いた。別途、培地1mlあたり2.4×10
6個の0.5%FBSに馴化したCHO−K1細胞(そのうち、生細胞は2.3×10
6個、死細胞は9.0×10
4個、生細胞率96%)を懸濁した、CHO−K1細胞懸濁液5mlを準備した。細胞懸濁液を0.5mlずつ、上記の滅菌したポリイミド多孔質膜10枚にそれぞれ添加し、セルスクレーパーにて平準化した。数分間放置した後、シートを少し動かして懸濁液を通過させ、その後に、シートと同型の金属メッシュ上に細胞播種を完了したシート10枚を積層した。その後、積層したシート上に不織布を乗せ、培養装置内部に設置し、その上に培地供給ラインを据えて、37℃に設定したタイテック社製強制通気式CO
2インキュベータに培養装置全体を移し、培養準備を完了した。
【0143】
0.5%FBSを含むHam培地150mlを毎分1mlのペースで循環させ、連続培養を開始した。3日後に培地を取り外してフレッシュな培地100mlと交換し、同様のペースで培地交換を続けながら更に9日間培養を継続した。
培養開始から12日目に培地循環を終了し、ポリイミド多孔質膜及び不織布を取り外した。取り外したポリイミド多孔質膜を集合体のまま、CCK8にてセルカウントを実施した所、合計で、2.6×10
8個の細胞を確認した。概算の細胞培養密度としては、1.7×10
8個/mlであった。細胞の育成したポリイミド多孔質膜を一部切り取ってホルマリン固定し、核(DAPI)、細胞膜(セルマスク)、及びアクチン(ファロイジン)染色を行った後の蛍光顕微鏡写真を
図6に示す。馴化細胞を用いても、良好な細胞の増殖が確認された。
【実施例5】
【0144】
大量気相暴露培養、大量継代、長期培養
実施例4から引き続き、CHO−K1細胞の付着した4cm×10cm角の長方形のポリイミド多孔質膜10枚を基準シートとし、滅菌した同サイズのポリイミド多孔質膜10枚のメッシュ構造のA面を全て上にして、基準シート上面に積層させた。また、同じくポリイミド多孔質膜10枚のメッシュ構造のA面を全て上にして、基準シート下面に積層させた。その後、積層した30枚のシート上に不織布を乗せ、実施例4で使用した培養装置(
図2)内部に設置し、その上に培地供給ラインを据えて、37℃に設定したタイテック社製強制通気式CO
2インキュベータに培養装置全体を移し、培養準備を完了した。
【0145】
0.5%FBSを含むHam培地を毎分2mlのペースで循環させて連続培養を開始した。
図7に示すペースで培地交換を続けながら更に76日間以上培養を継続した。その時のグルコース消費量と乳酸生成量をLC/MS(Shimadzu LCMS−2020)で測定した。
図7にその結果を示す。
【実施例6】
【0146】
本実施例では、G−CSF産生CHO−K1細胞を用いた細胞培養により、増殖した細胞数を比較する事で、ポリイミド多孔質膜を用いる細胞培養システムの効率を調べた。
【0147】
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に、滅菌した1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜40枚をメッシュ構造のA面を上にして設置し、その上に培地1mlあたり3.9×10
5個のG−CSF産生CHO−K1細胞(そのうち、生細胞は3.5×10
5個、死細胞は3.7×10
4個、生細胞率91%)の懸濁液を100μl載せて、液部を通過させ、播種を完了した。通過液部吸引廃棄後、その上に、細胞培養培地10%(20枚)もしくは1%(20枚)FBSを含むHam‘s−F12培地を1ml添加し、CO
2インキュベータに移して、培養を継続した。週2回の培地交換を行い14日間培養した後、CCK8を用いて細胞数を計測した所、培養された細胞数は、各培養条件20枚の平均値として、10%FBS添加Ham培地では1cm
2あたり3.9×10
6個、1%FBS添加Ham培地では1cm
2あたり2.9×10
6個であった。
【実施例7】
【0148】
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に細胞培養培地(2%FBS、IMDM、和光純薬工業株式会社、もしくは、5%FBS、IMDM、和光純薬工業株式会社)0.5mlを加え、滅菌した1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜をメッシュ構造のA面を上にしてそれぞれ浸漬させた。1枚のシートあたり4×10
4個のヒト抗IL−8産生CHO DP−12細胞懸濁液をそれぞれ培地内シート上に添加し、1週間に2回の割合で培地交換し、細胞培養を継続的に実施しながらCCK8を用いて経時的に細胞数の測定を行なった。FBS2%(
図8)及び5%(
図9)の両条件ともに、10枚のシートで実験を行ない、良好な細胞の増殖が観察された。
【0149】
遺伝子組換えCHO−K1細胞の市販3次元培養用足場を用いる大量培養
ヒトG−CSF遺伝子を導入したCHO−K1細胞を用いて、市販3次元培養用足場への播種を行った後、シャーレ内で大量培養を実施した。
【0150】
(1)Alvetex(登録商標)による培養
Alvetex(登録商標)(リプロセル社、cat.AVP004)の直径約2.2cm(播種面積:約3.8cm
2)のインサートセルに1mlのCHO−K1細胞用培地;10%FBSを含むHam‘s−F12培地を添加し、足場シートの単位面積当たり2.0×10
4/cm
2となるように、ヒトG−CSF遺伝子組換えCHO−K1細胞を5.0×10
4個播種した。
【0151】
播種された容器を5%のCO
2、37℃でインキュベートし、3日おきに、この培地の上清を回収し、新たに細胞培養培地を播種時と同様に加えて培養を継続した。3日、6日、14日後にCCK8を用いて細胞数を計測した。
【0152】
(2)Biotexによる培養
3D Insert−PCL/−PS(3D Biotek,LLC、cat.PS152012−6)の直径約2.1cm(播種面積:約3.5cm
2)のセルに1ml、外側容器に4mlのCHO−K1細胞用培地;10%FBSを含むHam‘s−F12培地を添加し、足場シートの単位面積当たり2.0×10
4/cm
2となるように、ヒトG−CSF遺伝子組換えCHO−K1細胞を7.0×10
4個播種した。
【0153】
播種された容器を5%のCO
2、37℃でインキュベートし、3日おきに、この培地の上清を回収し、新たに細胞培養培地を播種時と同様に加えて培養を継続した。3日、6日、14日後にCCK8を用いて細胞数を計測した。
【0154】
(3)ポリイミド多孔質膜による培養
2cm×2cmの滅菌された正方形容器にCHO−K1細胞用培地;10%FBSを含むHam‘s−F12培地0.5mlを加え、滅菌した1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜10枚(播種面積;2cm
2)のA面を上側に向けて培地に浸漬する。シートの単位面積当たり2.0×10
4/cm
2となるように、ヒトG−CSF遺伝子組換えCHO−K1細胞を4.0×10
4個播種した。
【0155】
播種された容器を5%のCO
2、37℃でインキュベートし、3日おきに、この培地の上清を回収し、新たに細胞培養培地を播種時と同様に加えて培養を継続した。6日、14日後にCCK8を用いて細胞数を計測した。
【0156】
<比較検証>
それぞれの部材は、面積及び厚みに差異があり、そのままで細胞培養効率を比較する事は困難である為、面積及び厚みを揃え、体積的効率として比較する事が必要となる。その為、各部材の細胞数を1cm
2及び25μmに面積・厚みを換算し、その体積内に培養される細胞について
図10に比較した。
【0158】
(1)Alvetex(登録商標)による培養
Alvetex(登録商標)(リプロセル社、cat.AVP004)の直径約2.2cm(播種面積:約3.8cm
2)のインサートセルに1mlの細胞培養培地(2%FBS、Fibroblast Media、LONZA社製)を添加し、ヒト皮膚線維芽細胞(5.0×10
4個)懸濁液を播種した。
【0159】
播種された容器を5%のCO
2、37℃でインキュベートし、3日おきに、この培地の上清を回収し、新たに細胞培養培地を播種時と同様に加えて培養を継続した。3日、6日、14日後にCCK8を用いて細胞数を計測した。
【0160】
(2)Biotexによる培養
3D Insert−PCL/−PS(3D Biotek,LLC社、cat.PS152012−6)の直径約2.1cm(播種面積:約3.5cm
2)のセルに1ml、外側容器に4mlの細胞培養培地(2%FBS、Fibroblast Media、LONZA社製)を添加し、足場シートの単位面積当たり2.0×10
4/cm
2となるように、ヒト皮膚線維芽細胞(7.0×10
4個)懸濁液を播種した。
【0161】
播種された容器を5%のCO
2、37℃でインキュベートし、3日おきに、この培地の上清を回収し、新たに細胞培養培地を播種時と同様に加えて培養を継続した。3日、6日、14日後にCCK8を用いて細胞数を計測した。
【0162】
(3)ポリイミド多孔質膜による培養
2cm×2cmの滅菌された正方形容器に細胞培養培地1mlを加え、滅菌した1.4cm角の正方形のポリイミド多孔質膜(播種面積;2cm
2)のA面を上側に向けて培地に浸漬する。ヒト皮膚線維芽細胞をシートの単位面積当たり2×10
4/cm
2となるように播種した。
【0163】
播種された容器を5%のCO
2、37℃でインキュベートし、3日おきに、この培地の上清を回収し、新たに細胞培養培地を播種時と同様に加えて培養を継続した。18日後にCCK8を用いて細胞数を計測した。
【0164】
<比較検証>
それぞれの部材は、面積及び厚みに差異があり、そのままで細胞培養効率を比較する事は困難である為、面積及び厚みを揃え、体積的効率として比較する事が必要となる。その為、各部材の細胞数を1cm
2及び25μmに面積・厚みを換算し、その体積内に培養される細胞について
図11に比較した。