特許第6288367号(P6288367)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6288367平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288367
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
   G01N27/62 102
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-504454(P2017-504454)
(86)(22)【出願日】2015年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2015056814
(87)【国際公開番号】WO2016143030
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2017年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルニック ヘルマン
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−525672(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/006698(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0149902(US,A1)
【文献】 飯沼 恒一,「気相イオン輸送係数研究の現状」,電気学会論文誌A,2001年 5月 1日,Vol. 121, No. 5,pp. 406-409
【文献】 Roger Guevremont,"High-field asymmetric waveform ion mobility spectrometry: A new tool for mass spectrometry",Journal of Chromatography A,Elsevier B.V.,2004年11月26日,Vol. 1058, No. 1-2,pp. 3-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の平行な平板電極と、該平板電極の間のイオン分離空間に不均一電場を形成するために該平板電極に非対称パルス電圧を印加する主電圧発生部と、を具備し、前記イオン分離空間にイオン導入方向と同じ方向に一定流速でバッファガスを流通させた状態で、試料成分由来のイオンを該イオン分離空間に導入し、そのイオンをバッファガスの流れによって搬送しつつ前記不均一電場の作用によってイオンの移動を制御することにより、移動度に応じてイオンを分離する平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置において、
a)前記平板電極で挟まれるイオン分離空間内にあって、イオンの通過方向と同方向に延伸する棒状で、そのイオン通過領域を挟んで配置された少なくとも2本の電場補正用電極と、
b)前記電場補正用電極に、前記非対称パルス電圧と同期するパルス電圧と所定の直流電圧とを加算した電圧を印加する電場補正用電圧発生部と、
を備えることを特徴とする平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置であって、
前記電場補正用電圧発生部は、非対称パルス電圧を抵抗分割して生成したパルス電圧と所定の直流電圧とを加算することを特徴とする平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置であって、
前記電場補正用電極の断面外縁形状は、円形、楕円形、多角形、正方形、又は矩形のいずれかであることを特徴とする平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置であって、
前記電場補正用電極は、前記平板電極のイオン出口側端部よりもさらに外側に延びる延出部を有することを特徴とする平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置であって、
前記電圧発生部は、一対の平板電極の一方に他方の電位に比較して高い一定の付加的な直流電圧を印加するとともに、前記電場補正用電圧発生部は、イオン流を挟む一対の電場補正用電極の一方に対し他方の電位に比較して高い一定の付加的な直流電圧を印加することを特徴とする平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置であって、
前記イオン分離空間を通過することで移動度比に応じて分離され形成された複数のイオン流の中の、特定の移動度比を有するイオン流が到達する位置に、該イオン流のみを選択的に検出可能である大きさの唯一の検出器を備えたことを特徴とする平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置であって、
前記イオン分離空間を通過することで移動度比に応じて分離され形成された複数のイオン流の中の、互いに異なる複数の特定の移動度比を有するイオン流がそれぞれ到達する位置に、その複数のイオン流をそれぞれ選択的に検出可能である大きさの複数の検出器を備えたことを特徴とする平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置であって、
前記イオン分離空間を通過することで移動度比に応じて分離され形成された複数のイオン流の中の、互いに異なる複数の特定の移動度比を有するイオン流が到達する位置に唯一の位置敏感型検出器を備え、該位置敏感型検出器により前記複数のイオン流をそれぞれ分離して検出するようにしたことを特徴とする平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置であって、
前記電場補正用電極は、前記一対の平板電極の間に該電極の拡がり方向に離して平行に3本以上設けられ、隣接する2本の電場補正用電極の間の空間がそれぞれイオン分離空間であることを特徴とする平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置であって、
前記電場補正用電極は、イオン通過領域を挟んで配置された複数本の電極を1組として、前記平板電極に直交する方向に互いに離して2組以上設けられ、
前記電場補正用電圧発生部は、前記2組以上の電場補正用電極の組毎に異なる電圧を印加可能であることを特徴とする平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンを移動度によって分離するイオン移動度分光装置に関し、さらに詳しくは、平行平板電極を用い、両電極間に不均一電場を形成して該電場中をイオンを移動させることで該イオンを分離する平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料分子から生成した分子イオンを電場の作用により媒質気体(又は液体)中で移動させるとき、該イオンは電場の強さやその分子の大きさなどで決まる移動度に比例した速度で移動する。イオン移動度分光測定法(Ion Mobility Spectrometry=IMS)は、試料分子の分析のためにこの移動度を利用した測定手法であり、移動度に応じて分離したイオンを検出器に導入して検出する装置や、移動度に応じて分離したイオンをさらに質量分析器などに導入して質量電荷比に応じて分離したうえで検出する装置などが知られている。
【0003】
こうしたイオン移動度分光測定の一手法として、DMS(=Differenntial Mobility Spectrometry)と呼ばれる手法が従来知られている(特許文献1、非特許文献1参照)。イオンの移動度は強い電場の下では電場の強さに比例しなくなり、しかも、その移動度の変動率はイオン種によって異なる。DMSはこの原理を利用してイオン種を分離するものである。
【0004】
図10及び図11は従来の平行平板電極型のDMSにおけるイオン分離部1の概略構成図であり、図10図11はイオン分離部1を見る方向が異なる。
このイオン分離部1では、いずれもX−Z平面に平行である上側平板電極11及び下側平板電極12で挟まれる空間がイオンを分離するためのイオン分離空間15である。スペーサ13、14によってY軸方向に所定間隔離間した状態に保持される平板電極11、12の間には、パルス電圧発生部21から、図12に示すような、電圧値がハイレベル(V1)である期間THとローレベル(V2)である期間TLとの長さが大きく相違する非対称パルス電圧が印加される。また、イオン分離空間15にはZ軸方向に一定流速で大気などの適宜のバッファガスの流れが形成される。
【0005】
印加電圧がハイレベルである期間THには、相対的に強い、電場強度がEHである高電場がイオン分離空間15に形成され、印加電圧がローレベルである期間TLには、相対的に弱い、電場強度がELである低電場がイオン分離空間15に形成される。いま、図10に示すように、移動度が相違する3種のイオンがイオン分離空間15に対し所定速度でZ軸方向に入射された場合を考える。
【0006】
イオンが進行するに伴い、イオン分離空間15における電場の強度はEHとELとに交互に切り替わる。そのため、イオン分離空間15内を進行するイオンは電場強度EHである高電場による力と電場強度ELである低電場による力とを交互に受けることになる。これにより、イオン分離空間15内を進行するイオンにとっては、図10中に示したように、電場強度EHである高電場領域100と電場強度ELである低電場領域101とがZ軸方向に交互に存在するものとみなせる。高電場領域100と低電場領域101とのZ軸方向の長さの比は、電圧ハイレベル期間THと電圧ローレベル期間TLとの比で決まる。
【0007】
高電場領域100をイオンが通過する際には、該電場から受ける力によって3種のイオンはいずれも上側平板電極11に向かうように進行する。このとき、高電場領域100中における移動度がμH1、μH2、μH3であるイオンはそれぞれ、EH・μH1、EH・μH2、EH・μH3という速度を持つ。一方、低電場領域101をイオンが通過する際には、該電場から受ける力によって3種のイオンはいずれも下側平板電極12に向かうように進行する。このとき、高電場領域100中における移動度がμL1、μL2、μL3であるイオンはそれぞれ、EL・μL1、EL・μL2、EL・μL3という速度を持つ。これにより、3種のイオンはいずれもイオン分離空間15中でジグザグに進行する。
【0008】
いま、高電場領域100中における移動度と低電場領域101中における移動度との比(以下、単に「移動度比」という)がα1=μH1/μL1である1種のイオンについてTH・EH・μH1=TL・EL・μL1となるように分離条件を定めると、このイオン種では、高電場領域100中でのY軸方向の移動量と低電場領域101中でのY軸方向(ただし負方向)の移動量とが等しくなる。そのため、このイオン種はバッファガス流に乗って中心軸Cに沿いつつジグザグに移動し、イオン分離空間15の出口に達する。図10ではこのイオン種の軌道をaで模式的に示している。
【0009】
一方、移動度比がα1とは異なる、α2=μH2/μL2であるイオン種、及び、α3=μH3/μL3であるイオン種はいずれも、高電場領域100中でのY軸方向の移動量と低電場領域101中でのY軸方向の移動量とが等しくない。そのため、イオン分離空間15中を進行するに伴い、これらイオンは中心軸Cから離れていく(図10での軌道b、c参照)。そして、中心軸Cからのイオンの離間量が十分に大きくなると、イオンはやがて平板電極11、12に接触して消滅する。これにより、このDMSでは、特定の移動度比を有するイオン種のみを分離して取り出すことができる。
【0010】
しかしながら、上述した平行平板電極型DMSでは、イオン分離空間15を通過するイオンは電場によりY軸方向(正又は負)の力を受けるだけであるため、イオン分離空間15の入口端面(X−Y平面に平行な端面)において中心軸Cから離れた位置に入射した移動度比がα1であるイオンは、イオン分離空間15の出口端面でも中心軸Cから離れた位置より出射する。つまり、空間的な拡がりを有してイオン分離空間15に導入された同じ移動度比のイオンは、空間的に拡がったままイオン分離空間15から出てゆくことになる。また、移動度比が同じであってイオン分離空間15の入口端面において同じ位置から入射されたイオンであっても初期エネルギや入射角度のばらつきなどがあるため、必ずしも中心軸Cに沿った軌道a上を移動するわけではない。そのため、或る移動度比を有するイオンは、イオン分離空間15の出口端面に達した時点で、例えば図11中にAで示した広い範囲に広がってしまう。
【0011】
このように同じ移動度比を持つイオンが空間的に広がってしまうと、例えばイオン分離空間15の出口外側に配置したアパーチャやスキマーなどによって特定の位置に達したイオンを取り出そうとしたとき、イオンの透過率が低くなってしまう。その結果、測定感度を上げることが難しくなる。また、移動度比の相違する複数のイオン種を分離してそれぞれ取り出そうとしても、他のイオン種が混じる可能性が高くなり、測定の精度低下に繋がる。
【0012】
改良型のDMSとして、図13に示したような円筒形状電極を用いた装置も知られている(非特許文献2参照)。このDMSでは、上記例と同様に、同心円状の円筒形状電極110、120に非対称パルス電圧が印加され、その円筒形状電極110、120の間のイオン分離空間15に上記例と同様の電場が形成される。ただし、この装置では、一対の円筒形状電極110、120の間に形成される電場による等電位面は内周側、つまり円筒形状電極120に近づくほど曲率半径が小さくなる。そのため、イオン分離空間15中を移動するイオンに対してその空間的な拡がりを収束させる力が作用し、イオンは特定の円弧状の中心線B付近に収束する。
【0013】
しかしながら、こうしたDMSでも、イオン流の幅方向に該イオンを収束する作用は大きくないため、イオン透過率の改善効果は十分とはいえない。また、高い機械的精度で円筒形状電極を作製しようとすると、平行平板電極に比べてコストがかなり高くなる。そのため、図13に示したような構成は装置コストの点で不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6774360号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「1−8−4−1 質量分析関連機器/ハイフネーテッド技術/イオン移動度測定/イオン移動度計(IMS)、1−8−4−1−2 High-Field Asymmetric Waveform Ion Mobility Spectrometry-Mass Spectrometry(FAIMS-MS)」、特許庁、[平成26年7月1日検索]、インターネット<URL: http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/mass/1-8-4.pdf>
【非特許文献2】エイスマン(G.A.Eiceman)、ほか2名、「イオン・モビリティ・スペクトロメトリー(Ion Mobility Spectrometry)」、CRC Press、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主な目的は、不均一電場を形成するために平行平板電極を利用しながら、高いイオン透過率及び高いイオン分離性能を実現することができる平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために成された本発明は、一対の平行な平板電極と、該平板電極の間のイオン分離空間に不均一電場を形成するために該平板電極に非対称パルス電圧を印加する主電圧発生部と、を具備し、前記イオン分離空間にイオン導入方向と同じ方向に一定流速でバッファガスを流通させた状態で、試料成分由来のイオンを該イオン分離空間に導入し、そのイオンをバッファガスの流れによって搬送しつつ前記不均一電場の作用によってイオンの移動を制御することにより、移動度に応じてイオンを分離する平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置において、
a)前記平板電極で挟まれるイオン分離空間内にあって、イオンの通過方向と同方向に延伸する棒状で、そのイオン通過領域を挟んで配置された少なくとも2本の電場補正用電極と、
b)前記電場補正用電極に、前記非対称パルス電圧と同期するパルス電圧と所定の直流電圧とを加算した電圧を印加する電場補正用電圧発生部と、
を備えることを特徴としている。
【0018】
ここでいう非対称パルス電圧とは、電圧値がハイレベルである期間とローレベルである期間とが等しくない、つまりはデューティ比が0.5(50%)ではないパルス電圧のことである。
【0019】
本発明に係るイオン移動度分光装置において、一対の平板電極で挟まれるイオン分離空間には、平板電極に非対称パルス電圧のハイレベル電圧が印加されている期間とローレベル電圧が印加されている期間とで異なる電場が形成される。イオン分離空間に電場補正用電極が存在しない場合、イオン分離空間に形成される電場における等電位面は平板電極に略平行となる。電場中を移動するイオンはこの等電位面に略直交する方向に力を受ける。そのため、上述したように等電位面が平板電極に略平行である場合、イオンを収束させるような力は作用しない。
【0020】
これに対し、本発明に係るイオン移動度分光装置では、イオン分離空間において電場補正用電極が配置されている位置(空間的位置)の電位は電場補正用電圧発生部から該電場補正用電極に印加される電圧で決まる。そして、電場補正用電極とそれを挟む平板電極との間の空間に形成される電場における等電位面の間隔や形状は、電場補正用電極の形状や大きさ、又は位置と印加電圧に依存する。そのため、電場補正用電極の形状や大きさなどを適宜に定め、印加電圧も適宜に定めることで、イオン分離空間にあって電場補正用電極で挟まれる空間に形成される電場における等電位面の形状は歪み、つまり曲面状となり、それによって電場中を移動するイオンに対して該イオンを収束させる力が作用する。そうした力が作用しつつも、非対称パルス電圧によって各イオンは移動度比に応じてジグザグに移動する。したがって、イオン分離空間の出口においては、移動度比毎に或る程度収束したイオン流が得られる。これによって、例えば、目的とする移動度比を示すイオン流が到達する位置にスキマーなどを配置すれば、その目的イオンを高い効率で取り出すことができる。
【0021】
本発明に係る平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置において、電場補正用電圧発生部は、平板電極に印加される非対称パルス電圧と同期し、直流電圧レベルが適宜に調整されたパルス電圧を電場補正用電極に印加する必要がある。
そこで本発明に係る平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置において、電場補正用電圧発生部は、非対称パルス電圧を抵抗分割して生成したパルス電圧と所定の直流電圧とを加算する構成とするとよい。
この構成によれば、抵抗分割のための抵抗値を調整するだけで、電場補正用電極に印加されるパルス電圧の振幅を定めることができる。
【0022】
また本発明に係る平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置において、電場補正用電極の断面外縁形状は特に限定されないが、その断面外縁形状は例えば、円形、楕円形、多角形、正方形、又は矩形のいずれかとすることができる。また、断面外縁の全体が上記形状である必要はなく、少なくとも中心軸に向いた側、つまりはイオンが通過する側の断面外縁形状が円形、楕円形、或いはそれ以外の上記形状であればよい。
【0023】
また、電場補正用電極の長さは、通常、一対の平板電極におけるイオン通過方向の長さと同程度であればよいが、電場補正用電極が、平板電極のイオン出口側端部よりもさらに外側に延びる延出部を有する構成としてもよい。イオン分離空間に配置される電場補正用電極は、通常、イオン搬送用のバッファガスの流れと同方向に延伸しているから、該電場補正用電極はバッファガスが直線的に流れるようにその流れを導く作用も有する。そのため、上記構成のように、電場補正用電極に延出部を設けると、平板電極のイオン出口側端部より外側においてもバッファガスの流れが乱れにくくなり、移動度比に応じて分離されたイオンが混じることを回避することができる。
【0024】
また、本発明に係る平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置では、前記電圧発生部は、一対の平板電極の一方に他方の電位に比較して高い一定の付加的な直流電圧を印加するとともに、前記電場補正用電圧発生部は、イオン流を挟む一対の電場補正用電極の一方に対し他方の電位に比較して高い一定の付加的な直流電圧を印加する構成とするとよい。
【0025】
これら付加的な直流電圧はいずれも、各電圧に印加される電圧そのものに比べれば僅かである。こうした付加的な直流電圧の印加によって、電場が若干アンバランスになるため、それにより移動度比に応じて案内されるイオン流の到達位置を僅かにずらすことができる。
【0026】
また、本発明の第1の態様による平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置は、
前記イオン分離空間を通過することで移動度比に応じて分離され形成された複数のイオン流の中の、特定の移動度比を有するイオン流が到達する位置に、該イオン流のみを選択的に検出可能である大きさの唯一の検出器を配置する構成とするとよい。
この第1の態様による平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置によれば、特定の移動度比を有するイオンを選択的に検出することができる。
【0027】
また、本発明の第2の態様による平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置は、
前記イオン分離空間を通過することで移動度比に応じて分離され形成された複数のイオン流の中の、互いに異なる複数の特定の移動度比を有するイオン流がそれぞれ到達する位置に、その複数のイオン流をそれぞれ選択的に検出可能である大きさの複数の検出器を配置する構成としてもよい。
この第2の態様による平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置によれば、互いに異なる複数の特定の移動度比を有するイオンを同時に検出することができる。
【0028】
また、本発明の第3の態様による平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置は、
前記イオン分離空間を通過することで移動度比に応じて分離され形成された複数のイオン流の中の、互いに異なる複数の特定の移動度比を有するイオン流が到達する位置に唯一の位置敏感型検出器を配置し、該位置敏感型検出器により前記複数のイオン流をそれぞれ分離して検出する構成としてもよい。
【0029】
ここで、位置敏感型検出器としては例えば、微小検出素子が2次元的に多数配列された2次元検出器などを用いることができる。この第3の態様による平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置でも、互いに異なる複数の特定の移動度比を有するイオンを同時に検出することができる。
【0030】
また本発明に係る平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置では、電場補正用電極は最低2本あればよいが、3本以上の電場補正用電極を略平行に配置し、隣接する2本の電場補正用電極の間の空間にイオン流を通過させることで、例えばより多くの量のイオンを移動度に応じて分離することができる。
【0031】
即ち、本発明に係る平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置において、
前記電場補正用電極は、前記一対の平板電極の間に該電極の拡がり方向に離して平行に3本以上設けられ、隣接する2本の電場補正用電極の間の空間がそれぞれイオン分離空間となっている構成としてもよい。
【0032】
さらにまた、本発明に係る平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置では、前記電場補正用電極は、イオン通過領域を挟んで配置された複数本の電極を1組として、前記平板電極に直交する方向に互いに離して2組以上設けられ、
前記電場補正用電圧発生部は、前記2組以上の電場補正用電極の組毎に異なる電圧を印加可能である構成としてもよい。
【0033】
この構成によれば、一対の平板電極の間の該電極に直交する方向の電界分布を細かく調整してイオンをより的確に分離することが可能となる。
【0034】
なお、このように3本以上の電場補正用電極使用する場合においても、一対(2本)の電場補正用電極を使用する場合と同様に、上述した様々な構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置によれば、平行平板電極とロッド電極などの単純な形状の電極との組み合わせによって、移動度比に応じて分離したイオンをそれぞれ空間的に収束させつつイオン分離空間から取り出すことができる。それによって、特定の移動度比を有するイオンを検出したり、或いは次段の例えば質量分析部などへ導入したりする際に、より多くの量を検出又は測定に供することができるので、検出感度や測定感度を向上させることができる。
また本発明に係る平行平板型不均一電場イオン移動度分光装置によれば、移動度比に応じたイオンの分離性能が向上するので、異なる移動度比を持つイオンの混入を軽減することができ、検出精度や測定精度を向上させることもできる。さらにまた、装置の構造が複雑になることを避けることができるので、装置コストの点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の一実施例であるイオン移動度分光装置におけるイオン分離部の概略構成図。
図2】本実施例のイオン移動度分光装置におけるイオン分離部の概略斜視図。
図3】本実施例のイオン移動度分光装置におけるイオン分離空間内に形成される電場による等電位面のシミュレーション結果を示す図。
図4】本実施例のイオン移動度分光装置におけるイオン分離空間でのイオン軌道のシミュレーション結果を示す図。
図5】本発明の他の実施例であるイオン移動度分光装置におけるイオン分離部の概略構成図。
図6】本発明のさらに他の実施例であるイオン移動度分光装置におけるイオン分離部の概略斜視図。
図7】本発明に係るイオン移動度分光装置の一態様の概略構成図。
図8】本発明に係るイオン移動度分光装置の別の態様の概略構成図。
図9】本発明に係るイオン移動度分光装置の別の態様の概略構成図。
図10】従来のDMSにおけるイオン分離の原理説明図。
図11】従来のDMSにおけるイオン分離部の概略構成図。
図12】従来のDMSにおいて平板電極に印加される非対称パルス電圧の一例を示す波形図。
図13】従来の別のDMSにおけるイオン分離部の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の一実施例であるイオン移動度分光装置について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施例のイオン移動度分光装置におけるイオン分離部の概略構成図、図2は本実施例のイオン移動度分光装置におけるイオン分離部の概略斜視図である。
図10図13を用いて説明した従来のイオン移動度分光装置と同じ又は相当する構成要素には同じ符号を付している。
【0038】
本実施例のイオン移動度分光装置では、従来装置と同様に、スペーサ13、14によりY軸方向に所定間隔離して保持される一対の平板電極11、12の間にイオン分離空間15が形成されるが、このイオン分離空間15には、中心軸Cを挟んでX軸方向に離間して2本のロッド電極16、17が配置されている。これらロッド電極16、17はZ軸方向に延伸する円柱状導電体であり、この2本のロッド電極16、17は互いに平行であるとともに、平板電極11、12に対しても平行である。
【0039】
電圧発生部2は、従来装置においても設けられていた主電圧発生部としてのパルス電圧発生部21のほかに、ロッド電極16、17に電圧を印加する電場補正用電圧発生部として、2個の抵抗器24、25、直流電圧発生部22、及び電圧加算部23が設けられている。上側平板電極11と下側平板電極12との間には、パルス電圧発生部21から、従来装置と同様の、つまりは図1に示したような非対称パルス電圧が印加される。
【0040】
この非対称パルス電圧が直列接続された抵抗器24、25により電圧分割されることで生成されたパルス電圧と、直流電圧発生部22で生成された所定の電圧値V0の直流電圧とが電圧加算部23で加算され、2本のロッド電極16、17に共通に印加される。この印加電圧は、非対称パルス電圧の振幅(パルス波高値V1−V2)が抵抗器24、25の抵抗比に応じて縮小されたパルス電圧に対し、所定の電圧値V0だけ直流電圧レベルが適宜シフトされた(オフセット電圧が与えられた)ものとみなすこともできる。当然のことながら、ロッド電極16、17に印加されるパルス電圧の立ち上がり及び立ち下がりは非対称パルス電圧に同期しており、非対称パルス電圧の電圧値がハイレベル(V1)である期間THとローレベル(V2)である期間TLとでは、ロッド電極16、17に印加される電圧値が交互に切り替わる。
【0041】
イオン分離空間15にロッド電極16、17が存在しない場合、つまり図11に示した構成である場合には、或る時点においてイオン分離空間15に形成される電場中の等電位面は、平板電極11、12に略平行となる。これに対し、本実施例のイオン移動度分光装置では、ロッド電極16、17の円筒形状である外周面の電位は、或る時点において平板電極11、12に印加される電圧に応じた所定の電位となる。そのため、ロッド電極16、17のこの電位によって、上側平板電極11とロッド電極16、17との間の空間の等電位面、下側平板電極12とロッド電極16、17との間の空間の等電位面、及び、両ロッド電極16、17の間の空間における等電位面、のそれぞれの形状や、等電位面の密集度合(つまりは電位勾配)などが定まる。
【0042】
図3は、或る時点(平板電極11、12間にハイレベルである電圧値V1が印加されている時点)において、イオン分離空間15内に形成される電場による等電位面(実際にはX−Y平面上の等電位線をZ軸方向に移動させることで描かれる面)をシミュレーションした結果の一例である。上述したようにロッド電極16、17の外周面は同一の所定電位であるため、この例では、下側平板電極12とロッド電極16、17との間の空間に形成される等電位面は密になり、また、ロッド電極16、17のごく近傍では、等電位面はロッド電極16、17の外周面に沿った曲面形状となる。そのために、ロッド電極16、17で挟まれた空間における等電位面は、図3に示すように上方に膨出した曲面状となる。これは、図13に示した円筒形状電極を用いたイオン分離部において形成される等電位面の形状に近いことが分かる。当然のことながら、この等電位面の形状は、非対称パルス電圧がハイレベルである期間THとローレベルである期間TLとで異なる。
【0043】
電場中を移動するイオンに対して電場が作用する力は、等電位面に略直交する方向となる。イオン分離空間15に形成される電場中の等電位面が平板電極11、12に略平行である場合、非対称パルス電圧の印加によって高電場と低電場とが切り替わる毎に、イオンは上下(図1図3中でY軸方向)に振られる力を受けるだけであって、イオンをいずれかの位置や領域に収束させる力は生じない。そのため、イオン分離空間15への入射時のイオンの空間的な拡がりはイオン分離空間15を経ても縮小せず、エネルギや入射角度にばらつきがある同移動度比を持つイオンは、イオン分離空間15を通過する間に却ってその軌道が広がってしまうことになる。
【0044】
これに対し、平板電極11、12、ロッド電極16、17で囲まれる空間における等電位面の形状が図3に示したような曲面状である場合、ロッド電極16、17の近傍に位置するイオンには中心軸Cを通るY−Z平面に近づくような力が作用し、その力はロッド電極16、17に近いほど大きい。イオン分離空間15に、図3に示した状態とは異なる(つまりは低電場領域に対応する)電場が形成される場合も、Y軸方向のイオンの移動方向の正負は反転するものの、やはりロッド電極16、17の近傍に位置するイオンには中心軸Cを通るY−Z平面に近づくような力が作用する。これによって、バッファガスの流れに乗ってイオン分離空間15内を搬送されるイオンは幅方向(X軸方向)及び縦方向(Y軸方向)の拡がりがともに抑えられ、中心軸Cを通るY−Z平面近傍で且つ移動度比毎に収束することになる。
【0045】
図4はイオン分離空間15でのイオン軌道のシミュレーション結果を示す図である。この軌道シミュレーションでは、平板電極11、12間のイオン分離空間15ほぼ全体に、3種の移動度比を持つイオンを入射するような条件を設定した。また、イオン分離がほぼ最良になるように、平板電極11、12及びロッド電極16、17への印加電圧を設定した。図4から分かるように、バッファガス流によってイオンがイオン分離空間15内を搬送される途中で、移動度比が異なる3種のイオンは中央付近に収束されつつ、Y軸方向に層状に分離される。そして、イオン種毎に軌道a1、a2、a3を持つイオン流に分離され、イオン分離空間15から出射する。また、図4では明らかでないが、それぞれのイオン流はX軸方向にも十分に収束された状態となる。
【0046】
なお、図4に示した例では、イオン分離空間15の出口端面の外側に、3層のイオン軌道を隔てるように2枚のごく薄い電極板18、19が配置されている。これら電極板18、19にはイオンと同極性である所定の電圧が印加されている。これによって、電極板18の上方を通過する軌道a1であるイオン流は上方に、電極板19の下方を通過する軌道a3であるイオン流は下方に僅かに偏向されるため、軌道a1、a2、a3である三つのイオン流の間隔はさらに広がる。その結果、移動度比によって分離したイオンの検出やイオンの採取が容易になる。
【0047】
図7図9は上述した構成のイオン分離部1を用いたイオン移動度分光装置のいくつかの態様の概略構成図である。
【0048】
図7に示した態様のイオン移動度分光装置では、イオン源30で生成されたイオン(又は帯電エアロゾルなど)がイオン分離部1のイオン分離空間15に導入され、上述したように異なる移動度比を有するイオンは層状に分離される。イオン分離空間15の出口端面外側の所定位置には、ごく小さなサイズの検出面を有する又はごく微小な領域に達したイオンのみを収集して検出する検出器31が設置されている。この検出器31には、層状に分離され、或る一つの移動度比を有するイオンを含むイオン流のみが導入され、それ以外の移動度比を有するイオンを含むイオン流は検出器31には入射しない。これにより、このイオン移動度分光装置では、特定の移動度比を有するイオンのみを選択的に検出することができる。
検出対象のイオンの移動度比を変更するには、直流電圧発生部22から発生する直流電圧の値を調整することで、層状に分離されたイオン流の到達位置を変えるようにするか、或いは、検出器31の設置位置をメカニカルに変えるようにすればよい。
【0049】
また、図7に示したイオン移動度分光装置では、平板電極11、12の後縁端よりもロッド電極16、17の後縁端が延出している。イオン分離空間15においてロッド電極16、17はバッファガス流と同じ方向(Z軸方向)に延伸しているから、上述したようにイオン分離空間15の出口端面よりも突出したロッド電極16、17の後縁端部はイオン分離空間15の出口端面から出たバッファガス流の乱れを軽減する、つまりはバッファガス流を整流するように作用する。これによって、移動度比に応じて層状に分離されたイオン流が、イオン分離空間15の出口端面から出た直後にバッファガス流の乱れによって混じってしまうことを回避することができる。
【0050】
図8に示した態様のイオン移動度分光装置は、イオン分離空間15の出口端面外側に、ごく小さなサイズの検出面を有する又はごく微小な領域に達したイオンのみを収集して検出する複数(この例では3個)の検出器31a、31b、31cをY軸方向に備える。各検出器31a、31b、31cにはそれぞれ、層状に分離され、或る一つの移動度比を有するイオンを含むイオン流のみが導入される。したがって、このイオン移動度分光装置では、互いに異なる特定の移動度比を有する3種のイオンを同時並行的に検出することができる。このイオン移動度分光装置においても、複数の検出器31a、31b、31の位置をそれぞれ独立に変更できるようにしてもよいし、複数の検出器31a、31b、31を一体としてその位置を変更できるようにしてもよい。
【0051】
図9に示した態様のイオン移動度分光装置は、イオン分離空間15の出口端面外側に、位置敏感型の検出器として2次元検出器32を備える。2次元検出器32は例えば、イオンを電子に変換するマイクロチャンネルプレート(MCP)と、電子を光子に変換する蛍光板と、光を電気信号に変換する微小受光素子を多数配置した2次元イメージセンサと、の組合せを用いることができる。このイオン移動度分光装置では、2次元検出器32において、移動度比に応じて層状に分離されたイオン流が到達する位置はアドレス情報として得られるから、複数のイオン流に対応する信号強度をそれぞれ独立に得ることができる。
【0052】
また、図7図9に示したイオン移動度分光装置では、イオン分離部1で移動度比に応じて分離されたイオンを検出器で検出していたが、検出器に代えてスキマー、アパーチャなどのイオン導入部を設け、該イオン導入部により特定の1又は複数の移動度比を有するイオンを含むイオン流を取り出し、取り出したイオンを四重極マスフィルタなどの質量分析器に導入する構成としてもよい。これにより、移動度比に応じて分離したイオンをさらに質量電荷比に応じて分離して検出することができる。
【0053】
また、上記実施例のイオン移動度分光装置では、一対の平板電極11、12の間にロッド電極16、17を2本のみ設け、その2本のロッド電極16、17の間の空間内にバッファガスを流してイオンを搬送するようにしていたが、より多数のロッド電極を平行に配置し、隣接する2本のロッド電極の間の空間全てをイオン搬送に利用してもよい。こうした構造を採用した本発明の他の実施例のイオン移動度分光装置におけるイオン分離部1の概略斜視図を図に示す。この例では、X軸方向に幅広い一対の平板電極11A、12Aの間に、5本のロッド電極16A、17A、16B、17B、16Cが配置されており、隣接する2本のロッド電極の間の四つの空間がイオン搬送及びイオン分離に利用される。5本のロッド電極16A、17A、16B、17B、16Cには共通の電圧が印加されるから、四つの空間のいずれもイオンの分離条件は同じであり、各空間において移動度比に応じて層状に分離されたイオン流が得られることになる。これにより、大量のイオンを同時並行的に分離することが可能となる。
【0054】
さらに別の構造を採用した本発明の他の実施例のイオン移動度分光装置におけるイオン分離部の概略構成図を図に示す。この例では、一対の平板電極11、12の間に、Y軸方向に互いに離間して複数組(この例では3組)のロッド電極対、つまり、第1のロッド電極対16a、17aと第2のロッド電極対16b、17bと第3のロッド電極対16c、17cとを設けている。そして、電圧発生部2は各ロッド電極対に対して異なる電圧を印加するために、2個の抵抗器24a、25a、直流電圧発生部22a、及び電圧加算部23aを含む第1の電場補正用電圧発生部と、2個の抵抗器24b、25b、直流電圧発生部22b、及び電圧加算部23bを含む第2の電場補正用電圧発生部と、2個の抵抗器24c、25c、直流電圧発生部22c、及び電圧加算部23cを含む第3の電場補正用電圧発生部と、を備える。
【0055】
即ち、この構成では、第1乃至第3の電場補正用電圧発生部において直列接続されている2本の抵抗器(24aと25a、24bと25b、24cと25c)の抵抗比を適宜に調整することで、ロッド電極に印加する非対称パルス電圧の振幅を適宜に調整することができる。また、直流電圧発生部22a、22b、22cで生成する直流電圧の電圧値を適宜に調整することで、ロッド電極に印加される電圧のオフセットを調整することができる。これによって、平板電極11、12で挟まれる空間におけるY軸方向の電界分布を、移動度比に応じてイオンを的確に分離するように細かく調整して最適化することができる。
【0056】
また、上記実施例ではいずれもロッド電極は円柱状であるが、断面外縁形状が円形状である必要はなく、例えば楕円形、多角形状、正方形状、長方形状(矩形状)などであってもよい。
【0057】
また、上記実施例では2本又は複数本のロッド電極に共通の電圧を印加していたが、意図的に一方のロッド電極に他方よりも若干高い直流電圧を印加することで、X軸方向にも電場を非対称としてイオンが収束する位置をX軸方向にずらすようにしてもよい。
【0058】
さらにまた、本発明の趣旨の範囲で、上記以外の点について適宜変形、修正、追加を行っても、本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0059】
1…イオン分離部
11…上側平板電極
12…下側平板電極
13、14…スペーサ
15…イオン分離空間
16、17…ロッド電極
18、19…電極板
2…電圧発生部
21…パルス電圧発生部
22、22a、22b、22c…直流電圧発生部
23、23a、23b、23c…電圧加算部
24、25、24a、24b、24c、25a、25b、25c…抵抗器
C…中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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