特許第6288402号(P6288402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本軽金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6288402-ペリクル枠及びペリクル 図000004
  • 特許6288402-ペリクル枠及びペリクル 図000005
  • 特許6288402-ペリクル枠及びペリクル 図000006
  • 特許6288402-ペリクル枠及びペリクル 図000007
  • 特許6288402-ペリクル枠及びペリクル 図000008
  • 特許6288402-ペリクル枠及びペリクル 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6288402
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ペリクル枠及びペリクル
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/64 20120101AFI20180226BHJP
   G03F 1/62 20120101ALI20180226BHJP
【FI】
   G03F1/64
   G03F1/62
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-562368(P2017-562368)
(86)(22)【出願日】2017年6月30日
(86)【国際出願番号】JP2017024177
【審査請求日】2017年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2016-137523(P2016-137523)
(32)【優先日】2016年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129632
【弁理士】
【氏名又は名称】仲 晃一
(74)【代理人】
【識別番号】100148426
【弁理士】
【氏名又は名称】森貞 好昭
(74)【代理人】
【識別番号】100118038
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勲
(72)【発明者】
【氏名】田口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】兪 俊
(72)【発明者】
【氏名】石渡 保生
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/059783(WO,A1)
【文献】 特開2011−7934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金製フレーム枠の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠であって、
前記アルミニウム合金製フレーム枠は、
Ca:5.0〜10.0wt%、残部がアルミニウムと不可避的不純物を有し、
分散相であるAlCa相の面積(体積)率が25%以上であり、
前記AlCa相の一部の結晶構造が単斜晶であるアルミニウム合金からなり、
前記陽極酸化皮膜がAlCa粒子を有すること、
を特徴とするペリクル枠。
【請求項2】
前記アルミニウム合金のV含有量及びFe含有量が、それぞれ0.0001〜0.005wt%及び0.05〜1.0wt%であること、
を特徴とする請求項1に記載のペリクル枠。
【請求項3】
前記AlCa相の平均結晶粒径が1.5μm以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のペリクル枠。
【請求項4】
5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAlCa相の体積率が25%以上であるアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施して、アルミニウム合金製塑性加工材を得る第一工程と、
前記アルミニウム合金製塑性加工材に対して、100〜300℃の温度範囲で熱処理を施す第二工程と、
前記熱処理後の前記アルミニウム合金製塑性加工材に対して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を電解質として含んだアルカリ性の電解液又はマレイン酸、シュウ酸、サリチル酸及びクエン酸のうちの1種類以上の有機酸を含むアルカリ性の電解液で陽極酸化処理を施す第三工程と、を有すること、
を特徴とするペリクル枠の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金鋳塊のV含有量及びFe含有量が、それぞれ0.0001〜0.005wt%及び0.05〜1.0wt%であること、
を特徴とする請求項4に記載のペリクル枠の製造方法。
【請求項6】
前記第一工程の前に、前記アルミニウム合金鋳塊を400℃以上の温度に保持する熱処理を施すこと、
を特徴とする請求項4又は5に記載のペリクル枠の製造方法
【請求項7】
前記第三工程の後に、更に、金属塩を含む電解液で二次電解着色を施すこと、
を特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のペリクル枠の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のペリクル枠と、
前記ペリクル枠に支持されたペリクル膜と、を有すること、
を特徴とするペリクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI等の半導体装置及び液晶表示板の製造に用いるリソグラフィ用マスクのペリクルに使用される枠に関し、より具体的には、高解像度を必要とする露光においても好適に使用することができるペクリル枠、及び当該ペリクル枠を用いたペリクルに関する。
【背景技術】
【0002】
LSI及び超LSI等の半導体装置や液晶表示板は、半導体ウエハや液晶用原版に光を照射することでパターンが形成される(リソグラフィによるパターン形成)。ここで、ゴミが付着した露光原版を用いた場合は当該ゴミが光を吸収及び/又は反転するため、パターンが良好に転写されない(例えば、パターンの変形やエッジの不明瞭)。その結果、半導体装置や液晶表示板の品質及び外観等が損なわれ、性能や製造歩留まりの低下が生じてしまうという問題があった。
【0003】
このため、リソグラフィに関する工程は通常クリーンルームで行われるが、当該環境下においても露光原版へのゴミの付着を完全に防止することはできないため、露光原版の表面にゴミよけのためのペクリルが設けられるのが一般的である。ペクリルはペクリル枠及び当該ペクリル枠に張設したペクリル膜から構成され、露光原版の表面に形成されたパターン領域を囲むように設置される。リソグラフィ時に焦点を露光原版のパターン上に合わせておけば、ペクリル膜にゴミが付着した場合であっても、当該ゴミが転写に影響することはない。
【0004】
近年、LSIのパターンは微細化が急速に進んでおり、これに応じて露光光源の短波長化が進んでいる。具体的には、これまで主流であった、水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)から、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)等に移行しつつあり、露光原版及びシリコンウエハに要求される平坦性もより厳しくなってきている。
【0005】
ペリクルは、露光原版が完成した後でパターンのゴミよけのために露光原版に貼り付けられる。ペリクルを露光原版に貼り付けると露光原版の平坦度が変化することがあり、露光原版の平坦度の低下に伴って焦点ズレ等の問題が発生する可能性がある。露光原版の平坦度が変化すると、露光原版に描かれたパターンの形状が変化し、露光原版の重ね合わせ精度が低下してしまう。ここで、ペリクル貼り付けによる露光原版の平坦度の変化は、ペリクル枠の平坦度に大きく影響されることが知られている。
【0006】
これに対し、例えば、特許文献1(特開2011−7934号公報)においては、ペリクル枠バーの断面が、上辺及び下辺が平行な基本四辺形の両側辺に、四辺形状の窪みを有した形状であることを特徴とするペリクル枠、が開示されている。
【0007】
上記特許文献1に記載のペリクル枠においては、ペリクル枠の断面積を基本四辺形よりも縮小することにより、変形応力の小さいペリクル枠にすることが可能となることから、ペリクルを露光原版に貼り付けても、ペリクル枠の変形に起因する露光原版の変形を極力低減することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−7934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているペリクル枠においては、四辺形上の窪みを形成させるための加工が必要であることから、製造工程が煩雑になることに加えて、コスト的にも不利である。また、ペリクル枠の平坦度も未だに十分とは言い難い。
【0010】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、ペリクルの貼り付けによる露光原版の変形を効果的に抑制可能なペリクル枠であって、複雑形状を有さないペリクル枠、及び当該ペリクル枠を用いたペリクルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、ペリクル枠用の素材等について鋭意研究を重ねた結果、Al−Ca合金を利用すること等がペリクル枠の平坦度向上に極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、
アルミニウム合金製フレーム枠の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠であって、
前記アルミニウム合金製フレーム枠は、
Ca:5.0〜10.0wt%、残部がアルミニウムと不可避的不純物を有し、
分散相であるAlCa相の面積(体積)率が25%以上であり、
前記AlCa相の一部の結晶構造が単斜晶であるアルミニウム合金からなり、
前記陽極酸化皮膜がAlCa粒子を有すること、
を特徴とするペリクル枠、を提供する。
【0013】
平坦度の向上にはヤング率の低いペリクル枠が必要とされるところ、一般的なアルミニウム合金と比較してヤング率が低いAl−Ca合金を使用することで、低いヤング率とペリクル枠に要求される機械的強度とを両立することができる。つまり、ペリクル枠の材料としてヤング率の低いAl−Ca合金を使用することで、複雑形状を有さないペリクル枠であっても露光原版の変形を効果的に抑制することができる。ヤング率が低い材料としては、マグネシウムや合成樹脂等も存在するが、材料の入手性及び汎用性等の観点から、アルミニウム合金であるAl−Ca合金を用いることが好ましい。
【0014】
Al−Ca合金は、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されず、従来公知の種々のAl−Ca合金を使用することができるが、Ca:5.0 〜 10.0wt%、残部がアルミニウムと不可避的不純物を有し、分散相であるAlCa相の面積(体積)率が25%以上であり、AlCa相の一部の結晶構造が単斜晶である必要がある。なお、本発明において、AlCa相の面積(体積)率は、例えば、光学顕微鏡による断面観察像の画像解析によって簡便に測定することができる。
【0015】
Caを添加することでAlCaの化合物が形成し、アルミニウム合金のヤング率を低下させる作用を有する。当該効果はCaの含有量が5.0%以上で顕著となり、逆に10.0%を超えて添加されると鋳造性が低下し、特にDC鋳造等の連続鋳造による鋳造が困難となることから、粉末冶金法等の製造コストの高い方法で製造する必要性が生じる。粉末冶金方法で製造する場合、合金粉末表面に形成された酸化物が製品の中に混入してしまい、耐力を低下させる虞がある。
【0016】
また、分散相として用いるAlCa相の結晶構造は基本的に正方晶であるが、本願発明者が鋭意研究を行ったところ、AlCa相に結晶構造が単斜晶であるものが存在すると耐力があまり低下せず、一方でヤング率は大きく低下することが明らかとなった。ここで、AlCa相の体積率を25%以上とすることで、耐力を維持しつつヤング率を大きく低下させることができる。なお、AlCa相の有無及び結晶構造については、例えば、X線回折測定法によって評価することができる。
【0017】
ペリクルを露光原版に貼り付けることによる露光原版の歪みは、ペリクル枠の歪みに起因する影響が大きい。貼り付け時にペリクル枠が変形し、それが元に戻ろうとする変形応力により露光原版が変形する。当該変形応力は、ペリクル枠を構成する材料のヤング率及びその変形量に依存するため、ヤング率の低いAl−Ca合金を使用することにより、ペリクルを露光原版に貼り付けた時の変形応力が小さいペリクル枠を実現することができる。
【0018】
また、本発明のペリクル枠においては、前記アルミニウム合金のV含有量及びFe含有量が、それぞれ0.0001〜0.005wt%及び0.05〜1.0wt%であること、が好ましい。Al−Ca合金にVが1%程度存在すると、Ca、Ti及びAl等と30μm以上の化合物を形成し、陽極酸化処理後に白点欠陥が顕在化する場合がある。これに対し、V含有量を0.0001〜0.005wt%の範囲に抑えることで、当該白点欠陥を抑制することができる。
【0019】
また、Al−Ca合金を鋳造する際に、α相(Al相)の近くに微細共晶組織が形成される場合があり、当該微細共晶組織を有するAl−Ca合金に塑性加工を施した後、陽極酸化処理を施すと、当該組織の違いから微細共晶組織に該当する部分だけ黒色が強調され、黒色欠陥となってしまう。これに対し、0.05〜1.0wt%のFeを添加したAl−Ca合金は鋳造組織が粗大かつ均一になり、微細共晶がぼやけるため、黒色欠陥となることを抑制することができる。
【0020】
また、本発明のペリクル枠においては、前記AlCa相の平均結晶粒径が1.5μm以下であること、が好ましい。より微細なAlCa相が多く分散することにより、陽極酸化後の黒色化を促進することができる。
【0021】
また、本発明のペリクル枠においては、前記Al−Ca合金に塑性加工を施したものを用いることが好ましく、熱間圧延材として加工されたものであることがより好ましい。熱間圧延したAl−Ca合金材は、低いヤング率とペリクル枠に要求される機械的強度とを兼ね備えることから、ペリクル枠の素材として好適に用いることができる。なお、アトマイズ法によって製造したAl−Ca合金粉末材を、皮材となる2枚のアルミニウム板の間に挟んで熱間圧延を施し、得られた板材を機械加工で枠状にすることで、熱間圧延材を得ることができる。
【0022】
また、本発明のペリクル枠においては、前記Al−Ca合金がダイカスト鋳造法によって製造されたものであること、が好ましい。ダイカスト鋳造によって製造されたAl−Ca合金材は、低いヤング率とペリクル枠に要求される機械的強度とを兼ね備えることから、ペリクル枠の素材として好適に用いることができる。また、ダイカスト鋳造を用いてペリクル枠用のAl−Ca合金材を製造することで、機械加工を低減できると共に、低ヤング率かつ高強度のAl−Ca合金材を、効率よく得ることができる。
【0023】
更に、本発明のペリクル枠においては、前記Al−Ca合金にZn、Mg及びCuが添加されていること、が好ましい。光源からの光の反射を防いで鮮明なパターン転写像を得るために、陽極酸化処理等を用いたペリクル枠の黒色化が求められるところ、Al−Ca合金にZn、Mg及びCuが添加されることで、当該黒色化が容易となる。
【0024】
ここで、本発明のペリクル枠においては、陽極酸化皮膜にAlCa相(粒子)が残存しており、当該AlCa相(粒子)の脱離等に起因するボイド等が存在しないため、色及び機械的特性の観点で均質な被膜を得ることができる。
【0025】
また、本発明は、
5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAlCa相の体積率が25%以上であるアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施してアルミニウム合金製塑性加工材を得る第一工程と、
前記アルミニウム合金製塑性加工材に対して、100〜300℃の温度範囲で熱処理を施す第二工程と、
前記熱処理後の前記アルミニウム合金製塑性加工材に対して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を電解質として含んだアルカリ性の電解液又はマレイン酸、シュウ酸、サリチル酸及びクエン酸のうちの1種類以上の有機酸を含むアルカリ性の電解液で陽極酸化処理を施す第三工程と、を有すること、
を特徴とするペリクル枠の製造方法、も提供する。
【0026】
Al−Ca合金のヤング率は、AlCa相の量と結晶構造によって変化する。よって、AlCa相の量が同じであっても、第一工程における塑性加工によって結晶構造が変化し、ヤング率が上昇する場合がある。これに対し、当該塑性加工後に100〜300℃の温度範囲で熱処理(焼鈍処理)を施すことにより、AlCa相の結晶構造を塑性加工前の状態に戻すことができ、ヤング率を下げることができる。従って、第二工程と第三工程とを入れ替えても同様な効果を得ることができるが、その場合には熱処理による被膜へのダメージ(クラック等)について考慮する必要がある。
【0027】
また、本発明のペリクル枠の製造方法においては、前記アルミニウム合金鋳塊のV含有量及びFe含有量を、それぞれ0.0001〜0.005wt%及び0.05〜1.0wt%とすること、が好ましい。
【0028】
アルミニウム合金鋳塊のV含有量を0.0001〜0.005wt%とすることで、VとCa、Ti及びAl等との反応による、30μm以上の化合物の形成を抑制することができる。その結果、陽極酸化処理(第三工程)後における白点欠陥の形成を抑制することができる。
【0029】
また、Fe含有量を0.05〜1.0wt%とすることで、Al−Ca合金の鋳造組織を粗大かつ均一にすることができる。その結果、陽極酸化処理(第三工程)後に強調される微細共晶組織をぼやかすことができ、黒色欠陥の形成を抑制することができる。
【0030】
また、本発明のペリクル枠の製造方法においては、前記第一工程の前に、前記アルミニウム合金鋳塊を400℃以上の温度に保持する熱処理を施すことが好ましい。塑性加工前に400℃以上の温度で保持(均質化処理)することで、共晶組織を粗大かつ均一にすることができる。その結果、上述の通り、微細共晶組織をぼやかすことができ、黒点欠陥の形成を抑制することができる。
【0031】
また、本発明のペリクル枠の製造方法においては、前記第三工程の後に、更に、金属塩を含む電解液で二次電解着色を施すこと、が好ましい。例えば、Ni塩やNi+Sn塩等を含む電解着色液で二次電解することで、黒色化を更に進めることができると共に、白点及び黒点欠陥も低減することができる。
【0032】
また、本発明は、
上述の本発明のペリクル枠と、
前記ペリクル枠に支持されたペリクル膜と、
を有するペリクル、も提供する。
【0033】
本発明のペリクル枠は、ペリクル枠に必要とされる機械的強度と低いヤング率を両立することから、本発明のペリクルは極めて良好な平坦度を維持することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ペリクルの貼り付けによる露光原版の変形を効果的に抑制可能なペリクル枠であって、複雑形状を有さないペリクル枠を提供することができる。また、本発明によれば、極めて良好な平坦度を有するペリクルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明のペリクル枠を用いて構成された本発明のペリクルの一例を示す概略断面図である。
図2】本発明のペリクル枠の一例を示す概略平面図である。
図3】実施例で得られたアルミニウム合金塑性加工材のX線回折パターンである。
図4】実施ペリクル枠断面の光学顕微鏡写真である。
図5】実施ペリクル枠に関する断面のSEM写真である。
図6】比較ペリクル枠2に関する断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しながら本発明のペリクル枠及びペリクルについての代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0037】
1.ペリクル枠及びペリクル
本発明のペリクル枠は、Al−Ca合金からなること、を特徴とするペリクル枠であり、一端面にペリクル膜接着剤を介してペリクル膜を張設することで、リソグラフィ用のペリクルとして使用することができる。
【0038】
本発明のペリクル枠を用いて構成された本発明のペリクルの一例の概略断面図及び本発明のペリクル枠の概略平面図を、図1及び図2にそれぞれ示す。ペリクル1は、ペリクル枠2の上端面にペリクル膜貼り付け用接着層4を介してペリクル膜6を張設したものである。ペリクル1を使用する際は、ペリクル1を露光原版(マスク又はレチクル)8に粘着させるための接着用粘着層10がペリクル枠2の下端面に形成され、接着用粘着層10の下端面にライナー(不図示)が剥離可能に貼着される。
【0039】
ペリクル枠2は、Al−Ca合金からなり、当該Al−Ca合金は熱間押出材又は熱間圧延材として加工されたもの、又はダイカスト鋳造法によって製造されたものであることが好ましい。これらの手法を用いること、低いヤング率とペリクル枠に要求される機械的強度とを兼ね備えたAl−Ca合金を効率的に得ることができる。なお、熱間押出、熱間圧延、及びダイカスト鋳造法の工程は、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されず、従来公知の種々の方法を用いることができる。
【0040】
Al−Ca合金は、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されず、従来公知の種々のAl−Ca合金を使用することができるが、Ca:5.0〜10.0wt%、残部がアルミニウムと不可避的不純物を有し、分散相であるAlCa相の面積(体積)率が25%以上であり、AlCa相の一部の結晶構造が単斜晶である必要がある。
【0041】
Caを添加することでAlCaの化合物が形成し、アルミニウム合金のヤング率を低下させる作用を有する。当該効果はCaの含有量が5.0%以上で顕著となり、逆に10.0%を超えて添加されると鋳造性が低下し、特にDC鋳造等の連続鋳造による鋳造が困難となることから、粉末冶金法等の製造コストの高い方法で製造する必要性が生じる。粉末冶金方法で製造する場合、合金粉末表面に形成された酸化物が製品の中に混入してしまい、耐力を低下させる虞がある。
【0042】
また、分散相として用いるAlCa相の結晶構造は基本的に正方晶であるが、本願発明者が鋭意研究を行ったところ、AlCa相に結晶構造が単斜晶であるものが存在すると耐力があまり低下せず、一方でヤング率は大きく低下することが明らかとなった。ここで、AlCa相の体積率を25%以上とすることで、耐力を維持しつつヤング率を大きく低下させることができる。
【0043】
また、Al−Ca合金は、アルミニウム合金のV含有量及びFe含有量が、それぞれ0.0001〜0.005wt%及び0.05〜1.0wt%であること、が好ましい。Al−Ca合金にVが1%程度存在すると、Ca、Ti及びAl等と30μm以上の化合物を形成し、陽極酸化処理後に白点欠陥が顕在化する場合がある。これに対し、V含有量を0.0001〜0.005wt%の範囲に抑えることで、当該白点欠陥を抑制することができる。
【0044】
また、Al−Ca合金を鋳造する際に、α相(Al相)の近くに微細共晶組織が形成される場合があり、当該微細共晶組織を有するAl−Ca合金に塑性加工を施した後、陽極酸化処理を施すと、当該組織の違いから微細共晶組織に該当する部分だけ黒色が強調され、黒色欠陥となってしまう。これに対し、0.05〜1.0wt%のFeを添加したAl−Ca合金は鋳造組織が粗大かつ均一になり、微細共晶がぼやけるため、黒色欠陥となることを抑制することができる。
【0045】
また、AlCa相の平均結晶粒径は1.5μm以下であること、が好ましい。より微細なAlCa相が多く分散することにより、陽極酸化後の黒色化を促進することができる。
【0046】
また、上記Al−Ca合金には粉末焼結材を用いてもよい。ペリクル1を接着した後の露光原版(マスク又はレチクル)8の平坦度を向上させるためには、ヤング率の低いペリクル枠2が必要とされるところ、Al−Ca合金は一般的なアルミニウム合金と比較してヤング率が低いことに加え、空隙を有する粉末焼結材とすることで、ヤング率をより低い値とすることができる。
【0047】
Al−Ca合金は、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されず、従来公知の種々のAl−Ca合金を使用することができるが、AlCa晶出物の結晶構造や形状制御等により、低ヤング率と優れた圧延加工性とを両立させたAl−Ca合金を使用することが好ましい。
【0048】
上述のとおり、ペリクル1を露光原版(マスク又はレチクル)8に貼り付けることによる露光原版(マスク又はレチクル)8の歪みは、ペリクル枠2の歪みに起因する影響が大きい。貼り付け時にペリクル枠2が変形し、それが元に戻ろうとする変形応力により露光原版(マスク又はレチクル)8が変形する。当該変形応力は、ペリクル枠2を構成する材料のヤング率及びその変形量に依存するため、ヤング率の低いAl−Ca合金を使用することにより、ペリクル1を露光原版(マスク又はレチクル)8に貼り付けた時の変形応力が小さいペリクル枠2を実現することができる。
【0049】
また、ペリクル枠2の素材としては、例えば、Al−Ca合金の粉末焼結体を熱間押出材として加工したものを使用することができる。Al−Ca合金粉末材を熱間鍛造及び熱間押出等、熱間で成形加工する場合、ブリスタ等の欠陥が発生する場合があるが、Al−Ca合金粉末焼結体を熱間押出しすることで、当該欠陥の発生が抑制された素材を得ることができる。
【0050】
ペリクル枠2の素材として用いるAl−Ca合金粉末熱間押出材を製造する方法は特に限定されないが、CIP法等による原料粉末(アトマイズ法等の急冷凝固法やメカニカルアロイング法等により製造されたAl−Ca合金粉末)の成形、真空中又は不活性ガス雰囲気下におけるAl−Ca合金粉末成形体の加熱・焼結、真空中又は不活性ガス雰囲気下における焼結体の冷却、及び得られた焼結体の熱間押出し、によって好適に製造することができる。ここで、圧粉条件、焼結条件、押出条件及び原料粉末表面の酸化状態等によって、Al−Ca合金粉末熱間押出材の空隙率を適宜制御することができる。
【0051】
また、ペリクル枠2の素材においては、Al−Ca合金のCa含有量が0.5〜15質量%であること、が好ましい。Ca含有量を0.5質量%以上とすることで、AlCa相が適度に形成され、ヤング率を低減する効果が得られる。また、Ca含有量を15質量%以下とすることで、AlCa相の量が多くなりすぎず、素材が脆性的になることを抑制でき、十分な強度を付与することができる。
【0052】
均一な陽極酸化皮膜を形成するために、前処理として酸やアルカリを用いたエッチング処理を行ってもよく、得られた枠体にごみ等が付着した場合に検知し易くするために予めブラスト処理等を施すようにしてもよい。一方、洗浄度を高めるために、陽極酸化処理や着色処理や封孔処理後に、純水洗浄、湯洗浄、超音波洗浄等の洗浄処理を行うようにしてもよい。
【0053】
ペリクル枠2の形状は、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されず、露光原版(マスク又はレチクル)8の形状に応じて従来公知の種々の形状とすることができるが、一般的には、ペリクル枠2の平面形状はリング状、矩形状又は正方形状であり、露光原版(マスク又はレチクル)8に設けられた回路パターン部を覆う大きさと形状とを備えている。なお、ペリクル枠2 には気圧調整用通気口(不図示)、当該通気口用の除塵用フィルタ(不図示)、及びジグ穴(不図示)等が設けられていてもよい。
【0054】
ペリクル枠2の高さ(厚さ)は、1〜10mmであることが好ましく、2〜7mmであることがより好ましく、3〜6mmであることが最も好ましい。ペリクル枠2の高さ(厚さ)をこれらの値とすることで、ペリクル枠2の変形を抑制できると共に、良好なハンドリング性を担保することができる。
【0055】
ペリクル枠2の断面形状は、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されず、従来公知の種々の形状とすることができるが、上辺及び下辺が平行な四辺形とすることが好ましい。ペリクル枠2の上辺にはペリクル膜6を張設するための幅が必要であり、下辺には接着用粘着層10を設けて露光原版8に接着するための幅が必要である。当該理由から、ペリクル枠2の上辺及び下辺の幅は1〜3mm程度とすることが好ましい。
【0056】
ペリクル枠2の平坦度は、20μm以下とすることが好ましく、10μm以下とすることがより好ましい。ペリクル枠2の平坦度を向上させることで、ペリクル1を露光原版(マスク又はレチクル)8に貼り付けた場合のペリクル枠2の変形量を小さくすることができる。なお、上記のペリクル枠2の平坦度は、ペリクル枠2の各コーナー4点と4辺の中央4点の計8点において高さを測定することで仮想平面を算出し、当該仮想平面からの各点の距離のうち、最高点から最低点を差引いた差により算出することができる。
【0057】
2.ペリクル枠の製造方法
本発明のペリクル枠の製造方法は、5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAlCa相の体積率が25%以上であるアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施してアルミニウム合金製塑性加工材を得る第一工程と、 前記アルミニウム合金製塑性加工材に対して、100〜300℃の温度範囲で熱処理を施す第二工程と、前記熱処理後の前記アルミニウム合金製塑性加工材に対して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を電解質として含んだアルカリ性の電解液又はマレイン酸、シュウ酸、サリチル酸及びクエン酸のうちの1種類以上の有機酸を含むアルカリ性の電解液で陽極酸化処理を施す第三工程と、を有すること、を特徴とするペリクル枠の製造方法である。
【0058】
Al−Ca合金のヤング率は、AlCa相の量と結晶構造によって変化する。よって、AlCa相の量が同じであっても、第一工程における塑性加工によって結晶構造が変化し、ヤング率が上昇する場合がある。これに対し、当該塑性加工後に100〜300℃の温度範囲で熱処理(焼鈍処理)を施すことにより、AlCa相の結晶構造を塑性加工前の状態に戻すことができ、ヤング率を下げることができる。
【0059】
また、アルミニウム合金鋳塊のV含有量を0.0001〜0.005wt%とすることで、VとCa、Ti及びAl等との反応による、30μm以上の化合物の形成を抑制することができる。その結果、陽極酸化処理(第三工程)後における白点欠陥の形成を抑制することができる。
【0060】
更に、Fe含有量を0.05〜1.0wt%とすることで、Al−Ca合金の鋳造組織を粗大かつ均一にすることができる。その結果、陽極酸化処理(第三工程)後に強調される微細共晶組織をぼやかすことができ、黒色欠陥の形成を抑制することができる。
【0061】
また、第一工程の前に、アルミニウム合金鋳塊を400℃以上の温度に保持する熱処理を施すことが好ましい。塑性加工前に400℃以上の温度で保持(均質化処理)することで、共晶組織を粗大かつ均一にすることができる。その結果、上述の通り、微細共晶組織をぼやかすことができ、黒点欠陥の形成を抑制することができる。
【0062】
また、第三工程の後に、更に、金属塩を含む電解液で二次電解着色を施すこと、が好ましい。例えば、Ni塩やNi+Sn塩等を含む電解着色液で二次電解することで、黒色化を更に進めることができると共に、白点及び黒点欠陥も低減することができる。
【0063】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0064】
≪実施例≫
表1の試料1に示す組成(wt%)を有するアルミニウム合金をDC鋳造法により、φ8インチの鋳塊(ビレット)に鋳造した後、550℃×4時間の均質化処理後、押出温度500℃で横幅180mm×厚さ8mmの平板状に塑性加工した。その後、厚さ3.5mmまで冷間圧延した後、200℃で4hr保持する熱処理を行い、実施アルミニウム合金塑性加工材を得た。
【0065】
得られた実施アルミニウム合金塑性加工材を機械加工して、枠型形状をなす外形寸法149mm×122mm×厚さ3mmのアルミフレームを作製した。得られたアルミフレーム材に対して、平均粒径が約100μmのステンレスを用いてショットブラスト処理を行った後、水酸化ナトリウム8g/Lが溶解したアルカリ性水溶液(pH=13.7)を電解液として、浴温度5℃、電解電圧40Vの定電圧電解を20分行って、アルミフレーム材に対して陽極酸化処理を施した。そして、純水にて洗浄した後、アルミフレーム材の表面に形成された陽極酸化皮膜を渦電流式膜厚計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ社製)にて確認したところ、膜厚6.6μmであった。
【0066】
次いで、蒸気封孔装置に入れて、相対湿度100%(R.H.)、2.0kg/cmG、及び温度130℃の水蒸気を発生させながら30分の封孔処理を行い、実施ペリクル枠を得た。
【0067】
実施アルミニウム合金塑性加工材のX線回折パターンを図3に示す。なお、X線回折測定は、板状の実施アルミニウム合金塑性加工材から20mm×20mmの試料を切り出し、表層部を約500μm削った後、当該領域に対してCu−Kα線源でθ−2θの測定を行った。 図3におけるAlCa相のピーク位置から、実施アルミニウム合金塑性加工材には正方晶のAlCa相と単斜晶のAlCa相が混在していることが分かる。
【0068】
実施ペリクル枠の断面に関する組織観察結果(光学顕微鏡写真)を図4に示す。黒色領域がAlCa相であり、画像解析によって当該AlCa相の面積(体積)率を測定したところ、36.8%であった。
【0069】
実施ペリクル枠を試験片形状に切り出し、引張試験によって引張強度、耐力及びヤング率を測定し、得られた結果を表2に示した。また、実施ペリクル枠を切断、整列させて30×30mmの面を形成し、KONICA MINOLTA製 CR−400によって実施ペリクル枠のハンターの色差式による明度指数L値を測定し、得られた結果を表2に示した。
【0070】
≪比較例1≫
表1の試料2に示す組成(wt%)を使用したこと以外は実施例と同様にして、膜厚7.1μmの陽極酸化皮膜を有する比較ペリクル枠1を得た。また、実施例と同様にして、比較ペリクル枠1の引張強度、耐力、ヤング率及びL値を測定し、得られた結果を表2に示した。
【0071】
また、実施例と同様にして、比較ペリクル枠1の断面に関する組織観察を行い、画像解析によってAlCa相の面積(体積)率を測定したところ、15.9%であった。
【0072】
≪比較例2≫
陽極酸化電解液に酒石酸ナトリウム(53g/L)を加えたこと以外は実施例同様にして、膜厚6.6μmの陽極酸化皮膜を有する比較ペリクル枠2を得た。また、実施例と同様にして、比較ペリクル枠2の引張強度、耐力、ヤング率及びL値を測定し、得られた結果を表2に示した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
実施例における7.44wt%Ca合金から生成したペリクル枠のヤング率は、50.2GPaであり、比較例1(62.5GPa)と比べると大幅に小さくなっている。ここで、比較例2のヤング率も50.2GPaと小さな値を示しているが、L値が78.8と大きくなっている。
【0076】
実施ペリクル枠と比較ペリクル枠2に関する断面のSEM写真(使用装置:ZEISS製 ULTRA PLUS)を図5及び図6にそれぞれ示す。実施ペリクル枠においては陽極酸化皮膜にAlCa相が残存しているのに対し、比較ペリクル枠2においては溶解によって陽極酸化皮膜からAlCa相が除去され、ポーラスな状態となっている。当該観察結果より、比較ペリクル枠2においてはAl4Ca相が除去されたことにより、L値が高くなったと考えられる。
【符号の説明】
【0077】
1・・・ペリクル、
2・・・ペリクル枠、
4・・・ペリクル膜貼り付け用接着層、
6・・・ペリクル膜、
8・・・露光原版(マスク又はレチクル)、
10・・・接着用粘着層。
【要約】
ペリクル(1)の貼り付けによる露光原版(8)の変形を効果的に抑制可能なペリクル枠(2)であって、複雑形状を有さないペリクル枠及び当該ペリクル枠を用いたペリクルを提供する。アルミニウム合金製フレーム枠の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠であって、当該アルミニウム合金製フレーム枠は、Ca:5.0〜10.0wt%、残部がアルミニウムと不可避的不純物を有し、分散相であるAl4Ca相の面積(体積)率が25%以上であり、Al4Ca相の一部の結晶構造が単斜晶であるアルミニウム合金からなり、陽極酸化皮膜がAl4Ca粒子を有すること、を特徴とするペリクル枠。
図1
図2
図3
図4
図5
図6