【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、ペリクル枠用の素材等について鋭意研究を重ねた結果、Al−Ca合金を利用すること等がペリクル枠の平坦度向上に極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、
アルミニウム合金製フレーム枠の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠であって、
前記アルミニウム合金製フレーム枠は、
Ca:5.0〜10.0wt%、残部がアルミニウムと不可避的不純物を有し、
分散相であるAl
4Ca相の面積(体積)率が25%以上であり、
前記Al
4Ca相の一部の結晶構造が単斜晶であるアルミニウム合金からなり、
前記陽極酸化皮膜がAl
4Ca粒子を有すること、
を特徴とするペリクル枠、を提供する。
【0013】
平坦度の向上にはヤング率の低いペリクル枠が必要とされるところ、一般的なアルミニウム合金と比較してヤング率が低いAl−Ca合金を使用することで、低いヤング率とペリクル枠に要求される機械的強度とを両立することができる。つまり、ペリクル枠の材料としてヤング率の低いAl−Ca合金を使用することで、複雑形状を有さないペリクル枠であっても露光原版の変形を効果的に抑制することができる。ヤング率が低い材料としては、マグネシウムや合成樹脂等も存在するが、材料の入手性及び汎用性等の観点から、アルミニウム合金であるAl−Ca合金を用いることが好ましい。
【0014】
Al−Ca合金は、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されず、従来公知の種々のAl−Ca合金を使用することができるが、Ca:5.0 〜 10.0wt%、残部がアルミニウムと不可避的不純物を有し、分散相であるAl
4Ca相の面積(体積)率が25%以上であり、Al
4Ca相の一部の結晶構造が単斜晶である必要がある。なお、本発明において、Al
4Ca相の面積(体積)率は、例えば、光学顕微鏡による断面観察像の画像解析によって簡便に測定することができる。
【0015】
Caを添加することでAl
4Caの化合物が形成し、アルミニウム合金のヤング率を低下させる作用を有する。当該効果はCaの含有量が5.0%以上で顕著となり、逆に10.0%を超えて添加されると鋳造性が低下し、特にDC鋳造等の連続鋳造による鋳造が困難となることから、粉末冶金法等の製造コストの高い方法で製造する必要性が生じる。粉末冶金方法で製造する場合、合金粉末表面に形成された酸化物が製品の中に混入してしまい、耐力を低下させる虞がある。
【0016】
また、分散相として用いるAl
4Ca相の結晶構造は基本的に正方晶であるが、本願発明者が鋭意研究を行ったところ、Al
4Ca相に結晶構造が単斜晶であるものが存在すると耐力があまり低下せず、一方でヤング率は大きく低下することが明らかとなった。ここで、Al
4Ca相の体積率を25%以上とすることで、耐力を維持しつつヤング率を大きく低下させることができる。なお、Al
4Ca相の有無及び結晶構造については、例えば、X線回折測定法によって評価することができる。
【0017】
ペリクルを露光原版に貼り付けることによる露光原版の歪みは、ペリクル枠の歪みに起因する影響が大きい。貼り付け時にペリクル枠が変形し、それが元に戻ろうとする変形応力により露光原版が変形する。当該変形応力は、ペリクル枠を構成する材料のヤング率及びその変形量に依存するため、ヤング率の低いAl−Ca合金を使用することにより、ペリクルを露光原版に貼り付けた時の変形応力が小さいペリクル枠を実現することができる。
【0018】
また、本発明のペリクル枠においては、前記アルミニウム合金のV含有量及びFe含有量が、それぞれ0.0001〜0.005wt%及び0.05〜1.0wt%であること、が好ましい。Al−Ca合金にVが1%程度存在すると、Ca、Ti及びAl等と30μm以上の化合物を形成し、陽極酸化処理後に白点欠陥が顕在化する場合がある。これに対し、V含有量を0.0001〜0.005wt%の範囲に抑えることで、当該白点欠陥を抑制することができる。
【0019】
また、Al−Ca合金を鋳造する際に、α相(Al相)の近くに微細共晶組織が形成される場合があり、当該微細共晶組織を有するAl−Ca合金に塑性加工を施した後、陽極酸化処理を施すと、当該組織の違いから微細共晶組織に該当する部分だけ黒色が強調され、黒色欠陥となってしまう。これに対し、0.05〜1.0wt%のFeを添加したAl−Ca合金は鋳造組織が粗大かつ均一になり、微細共晶がぼやけるため、黒色欠陥となることを抑制することができる。
【0020】
また、本発明のペリクル枠においては、前記Al
4Ca相の平均結晶粒径が1.5μm以下であること、が好ましい。より微細なAl
4Ca相が多く分散することにより、陽極酸化後の黒色化を促進することができる。
【0021】
また、本発明のペリクル枠においては、前記Al−Ca合金に塑性加工を施したものを用いることが好ましく、熱間圧延材として加工されたものであることがより好ましい。熱間圧延したAl−Ca合金材は、低いヤング率とペリクル枠に要求される機械的強度とを兼ね備えることから、ペリクル枠の素材として好適に用いることができる。なお、アトマイズ法によって製造したAl−Ca合金粉末材を、皮材となる2枚のアルミニウム板の間に挟んで熱間圧延を施し、得られた板材を機械加工で枠状にすることで、熱間圧延材を得ることができる。
【0022】
また、本発明のペリクル枠においては、前記Al−Ca合金がダイカスト鋳造法によって製造されたものであること、が好ましい。ダイカスト鋳造によって製造されたAl−Ca合金材は、低いヤング率とペリクル枠に要求される機械的強度とを兼ね備えることから、ペリクル枠の素材として好適に用いることができる。また、ダイカスト鋳造を用いてペリクル枠用のAl−Ca合金材を製造することで、機械加工を低減できると共に、低ヤング率かつ高強度のAl−Ca合金材を、効率よく得ることができる。
【0023】
更に、本発明のペリクル枠においては、前記Al−Ca合金にZn、Mg及びCuが添加されていること、が好ましい。光源からの光の反射を防いで鮮明なパターン転写像を得るために、陽極酸化処理等を用いたペリクル枠の黒色化が求められるところ、Al−Ca合金にZn、Mg及びCuが添加されることで、当該黒色化が容易となる。
【0024】
ここで、本発明のペリクル枠においては、陽極酸化皮膜にAl
4Ca相(粒子)が残存しており、当該Al
4Ca相(粒子)の脱離等に起因するボイド等が存在しないため、色及び機械的特性の観点で均質な被膜を得ることができる。
【0025】
また、本発明は、
5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAl
4Ca相の体積率が25%以上であるアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施してアルミニウム合金製塑性加工材を得る第一工程と、
前記アルミニウム合金製塑性加工材に対して、100〜300℃の温度範囲で熱処理を施す第二工程と、
前記熱処理後の前記アルミニウム合金製塑性加工材に対して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を電解質として含んだアルカリ性の電解液又はマレイン酸、シュウ酸、サリチル酸及びクエン酸のうちの1種類以上の有機酸を含むアルカリ性の電解液で陽極酸化処理を施す第三工程と、を有すること、
を特徴とするペリクル枠の製造方法、も提供する。
【0026】
Al−Ca合金のヤング率は、Al
4Ca相の量と結晶構造によって変化する。よって、Al
4Ca相の量が同じであっても、第一工程における塑性加工によって結晶構造が変化し、ヤング率が上昇する場合がある。これに対し、当該塑性加工後に100〜300℃の温度範囲で熱処理(焼鈍処理)を施すことにより、Al
4Ca相の結晶構造を塑性加工前の状態に戻すことができ、ヤング率を下げることができる。従って、第二工程と第三工程とを入れ替えても同様な効果を得ることができるが、その場合には熱処理による被膜へのダメージ(クラック等)について考慮する必要がある。
【0027】
また、本発明のペリクル枠の製造方法においては、前記アルミニウム合金鋳塊のV含有量及びFe含有量を、それぞれ0.0001〜0.005wt%及び0.05〜1.0wt%とすること、が好ましい。
【0028】
アルミニウム合金鋳塊のV含有量を0.0001〜0.005wt%とすることで、VとCa、Ti及びAl等との反応による、30μm以上の化合物の形成を抑制することができる。その結果、陽極酸化処理(第三工程)後における白点欠陥の形成を抑制することができる。
【0029】
また、Fe含有量を0.05〜1.0wt%とすることで、Al−Ca合金の鋳造組織を粗大かつ均一にすることができる。その結果、陽極酸化処理(第三工程)後に強調される微細共晶組織をぼやかすことができ、黒色欠陥の形成を抑制することができる。
【0030】
また、本発明のペリクル枠の製造方法においては、前記第一工程の前に、前記アルミニウム合金鋳塊を400℃以上の温度に保持する熱処理を施すことが好ましい。塑性加工前に400℃以上の温度で保持(均質化処理)することで、共晶組織を粗大かつ均一にすることができる。その結果、上述の通り、微細共晶組織をぼやかすことができ、黒点欠陥の形成を抑制することができる。
【0031】
また、本発明のペリクル枠の製造方法においては、前記第三工程の後に、更に、金属塩を含む電解液で二次電解着色を施すこと、が好ましい。例えば、Ni塩やNi+Sn塩等を含む電解着色液で二次電解することで、黒色化を更に進めることができると共に、白点及び黒点欠陥も低減することができる。
【0032】
また、本発明は、
上述の本発明のペリクル枠と、
前記ペリクル枠に支持されたペリクル膜と、
を有するペリクル、も提供する。
【0033】
本発明のペリクル枠は、ペリクル枠に必要とされる機械的強度と低いヤング率を両立することから、本発明のペリクルは極めて良好な平坦度を維持することができる。