特許第6288418号(P6288418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288418
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ラックバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/32 20060101AFI20180226BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20180226BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20180226BHJP
   B62D 3/12 20060101ALI20180226BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20180226BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   B29C70/32
   B29C70/68
   C08J5/24
   B62D3/12 503Z
   F16H19/04 Z
   C08L101/00
   C08K7/06
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-254397(P2013-254397)
(22)【出願日】2013年12月9日
(65)【公開番号】特開2015-113359(P2015-113359A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100183450
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 太知
(72)【発明者】
【氏名】国島 武史
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−082728(JP,A)
【文献】 特開平04−197740(JP,A)
【文献】 特開2001−032819(JP,A)
【文献】 特開2004−263378(JP,A)
【文献】 特開昭58−071119(JP,A)
【文献】 特開昭64−026430(JP,A)
【文献】 米国特許第02837456(US,A)
【文献】 米国特許第04238539(US,A)
【文献】 特開平01−101140(JP,A)
【文献】 特開平02−078533(JP,A)
【文献】 特開2013−103652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/32
B29C 70/68
B62D 3/12
C08J 5/24
C08K 7/06
C08L 101/00
F16H 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化樹脂製のパイプと、前記パイプの軸方向に並ぶ本体部および前記本体部よりも細い延長部を有し、前記延長部において前記パイプに連結される金属部品とを含むラックバーの製造方法であって、
前記軸方向に延びる金属製のマンドレルと、前記金属部品において粗面加工が施された外周面を有する前記延長部とを前記軸方向につなげることによって構成される芯材の外周面に、炭素繊維に樹脂を含浸させたプリプレグシートを巻き付ける工程と、
前記芯材の外周面に巻き付けられた前記プリプレグシートを焼成硬化させることによって、前記延長部の外周面に対して一部が外嵌固定された前記パイプを形成する工程と、
前記芯材のうち前記マンドレルだけを前記パイプから取り除く工程と、を含み、
前記プリプレグシートを巻き付ける工程では、前記プリプレグシートが、前記軸方向における前記プリプレグシートの端部と前記金属部品の前記本体部との間に隙間が設けられ、かつ、前記マンドレルの外周面と前記金属部品の前記延長部の前記外周面とに跨るように、前記芯材の外周面に巻き付けられることを特徴とする、ラックバーの製造方法。
【請求項2】
前記延長部の外周面は、前記軸方向において前記本体部から離れるにしたがって拡径するテーパ状であることを特徴とする、請求項1記載のラックバーの製造方法。
【請求項3】
前記延長部は、その外周面から突出し、前記パイプを前記軸方向に位置決めするための突出部を含むことを特徴とする、請求項1記載のラックバーの製造方法。
【請求項4】
前記プリプレグシートを前記芯材の外周面に巻き付ける工程は、前記プリプレグシートと前記延長部の外周面との間に熱接着フィルムを介在させる工程を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のラックバーの製造方法。
【請求項5】
前記金属部品が、前記軸方向における前記パイプの一端に連結される第1金属部品と、前記軸方向における前記パイプの他端に連結される第2金属部品とを有し、
前記第1金属部品および前記第2金属部品のうちの少なくとも一方には、ラック歯が形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のラックバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば車両のステアリング装置を構成するラックバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1のプロペラシャフトは、FRP(繊維強化プラスチック)製本体筒の端部内側に、その本体筒の内径と実質的に等しい金属製薄肉リングが装着され、その薄肉リングの内側に、薄肉リングの内径よりも大きな外径を有する金属製継手が圧入されることによって製造される。当該圧入の際、薄肉リングの外周面に配置した硬質の粒子がFRP製本体筒の内面に食い込む。
【0003】
また、繊維強化プラスチックの応用例としては、下記特許文献2のように、金属円筒体の内部に接着層を介してFRP製円筒体が内嵌されたグラビア用印刷ロールのロール本体や、下記特許文献3のように、芯金の小径部にプリプレグを巻きつけて積層し、炭素繊維強化プラスチック外殻を形成することによって得られるラックが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−91433号公報
【特許文献2】特開平5−193097号公報
【特許文献3】特開2013−75533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のプロペラシャフトは、FRP製本体筒と継手との間に薄肉リングが存在するので、FRP製本体筒と継手とを同軸状になるように位置決めすること(同軸度の確保ともいう)が困難である。さらに、薄肉リングに対する継手の圧入によって、薄肉リングの外周面がFRP製本体筒の内面に食い込むため、本体筒の繊維強化プラスチックを構成する繊維が切断される虞がある。そこで、繊維の切断の防止するための加工等の対策が必要となるので、プロペラシャフトの製造コストが増大する虞がある。
【0006】
この発明は、かかる背景のもとでなされたものであり、炭素繊維強化樹脂製のパイプと金属部品とを連結することでバー状部品を構成する場合において、パイプと金属部品との位置決め精度を向上させつつ、製造コストの低減を図ることができるラックバーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、炭素繊維強化樹脂製のパイプ(10)と、前記パイプの軸方向(X)に並ぶ本体部(20)および前記本体部よりも細い延長部(21)を有し、前記延長部において前記パイプに連結される金属部品(17,18)とを含むラックバー)の製造方法であって、前記軸方向に延びる金属製のマンドレル(24)と、前記金属部品において粗面加工が施された外周面(21A)を有する前記延長部とを前記軸方向につなげることによって構成される芯材(23)の外周面(23A)に、炭素繊維に樹脂(28)を含浸させたプリプレグシート(26)を巻き付ける工程と、前記芯材の外周面に巻き付けられた前記プリプレグシートを焼成硬化させることによって、前記延長部の外周面に対して一部(10A,10B)が外嵌固定された前記パイプを形成する工程と、前記芯材のうち前記マンドレルだけを前記パイプから取り除く工程と、を含み、前記プリプレグシートを巻き付ける工程では、前記プリプレグシートが、前記軸方向における前記プリプレグシートの端部と前記金属部品の前記本体部との間に隙間が設けられ、かつ、前記マンドレルの外周面と前記金属部品の前記延設部の前記外周面とに跨るように、前記芯材の外周面に巻き付けられることを特徴とする、ラックバーの製造方法である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記延長部の外周面は、前記軸方向において前記本体部から離れるにしたがって拡径するテーパ状であることを特徴とする、請求項1記載のラックバーの製造方法である。
請求項3記載の発明は、前記延長部は、その外周面から突出し、前記パイプを前記軸方向に位置決めするための突出部(31)を含むことを特徴とする、請求項1記載のラックバーの製造方法である。
【0009】
請求項4記載の発明は、前記プリプレグシートを前記芯材の外周面に巻き付ける工程は、前記プリプレグシートと前記延長部の外周面との間に熱接着フィルム(30)を介在させる工程を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のラックバーの製造方法である。
請求項5記載の発明は、前記金属部品が、前記軸方向における前記パイプの一端に連結される第1金属部品と、前記軸方向における前記パイプの他端に連結される第2金属部品とを有し、前記第1金属部品および前記第2金属部品のうちの少なくとも一方には、ラック歯が形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のラックバーの製造方法である。
【0010】
お、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、バー状部品は、炭素繊維強化樹脂製のパイプと、延長部を有する金属部品とを含んでいる。バー状部品の製造の際に準備される芯材は、パイプの軸方向に延びる金属製のマンドレルと、金属部品において粗面加工が施された外周面を有する延長部とを軸方向につなげることによって構成されている。バー状部品の製造の際、炭素繊維に樹脂を含浸させたプリプレグシートが芯材の外周面に巻き付けられた後に焼成硬化されることで、延長部の外周面に対して一部が外嵌固定されたパイプが形成される。
【0012】
プリプレグシートの焼成硬化によって、延長部において粗面加工(凹凸加工)が施された外周面の凹部には、プリプレグシートから染み出した樹脂が進入している。これにより、パイプは、延長部に密着し、強固に固定されている。
このように、バー状部品では、パイプと金属部品との間に別部品を介在させることなく、パイプと金属部品とが直接連結されている。そのため、パイプと金属部品とが同軸状に配置された状態を保つことができ、パイプと金属部品との位置決め精度を向上させることができる。また、当該別部品を省略できるうえに、当該別部品を備える場合において炭素繊維の切断の防止するための必要となる対策が不要となるため、バー状部品全体の製造コストを低減することができる。
【0013】
以上の結果、パイプと金属部品との位置決め精度を向上させつつ、製造コストの低減を図ることができる。
請求項2記載の発明のように延長部の外周面がテーパ状である場合、パイプが延長部から抜けにくくなることから、パイプと金属部品とが分解しにくくなるので、バー状部品の強度の向上を図ることができる。
【0014】
請求項3記載の発明のように延長部の外周面の突出部がパイプを軸方向に位置決めている場合、パイプが延長部から抜けにくくなることから、パイプと金属部品とが分解しにくくなるので、バー状部品の強度の向上を図ることができる。
請求項4記載の発明のように、プリプレグシートと延長部の外周面との間に熱接着フィルムを介在させる場合、延長部の外周面とパイプとが、プリプレグシートの樹脂だけでなく熱接着フィルムによっても接着されるため、延長部とパイプとをより強固に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態におけるバー状部品22を備えるステアリング装置1の概略正面図である。
図2図2は、バー状部品22の製造工程を示す模式的な断面図である。
図3図3は、図2の次の工程を示す模式的な断面図である。
図4図4は、図3の次の工程を示す模式的な断面図である。
図5図5は、図4において2点鎖線で囲った部分を拡大して示した図である。
図6図6は、図5に本発明の第1変形例を適用した図である。
図7図7は、第2変形例の第2金属部品18とパイプ10とが連結している部分の断面図である。
図8図8は、図7に第3変形例を適用した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態におけるバー状部品22を備えるステアリング装置1の概略正面図である。
図1を参照して、ステアリング装置1は、操舵部材2と、ステアリングシャフト3と、中間軸5と、ピニオン軸7と、ラックバー8と、ハウジング9とを主に含んでいる。
【0018】
操舵部材2として、たとえば、ステアリングホイールを用いることができる。操舵部材2には、ステアリングシャフト3の一端が連結されている。ステアリングシャフト3の他端と中間軸5の一端とが自在継手4によって連結されている。また、中間軸5の他端とピニオン軸7の一端とが自在継手6によって連結されている。ステアリングシャフト3と、中間軸5と、ピニオン軸7とは、同一直線上に存在しなくてもよい。
【0019】
ピニオン軸7の他端の外周面にはピニオン歯14が一体的に設けられている。ラックバー8は、車両の幅方向(図1の左右方向)に延びる略円柱状である。ここで、ラックバー8が延びる方向を軸方向Xとする。軸方向Xは、車両の幅方向(図1の左右方向)と同じである。
ラックバー8の外周面の周上1箇所には、ピニオン歯14と噛み合うラック歯15が形成されている。ピニオン軸7のピニオン歯14およびラックバー8のラック歯15は、互いに噛み合うことでラックアンドピニオン式の転舵機構Aを構成している。
【0020】
ラックバー8は、ハウジング9に収容されている。ハウジング9は、車体に固定される略円筒体である。ラックバー8の両端部は、ハウジング9の両側へ突出し、各端部にはそれぞれ継手11を介してタイロッド12が結合されている。各タイロッド12は、対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪13に連結されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン歯14およびラック歯15によって、軸方向Xに沿ったラックバー8の直線運動に変換される。これにより、転舵輪13の転舵が達成される。このように、ラックバー8は、操舵部材2の操舵に応じて軸方向Xに移動することによって転舵輪13を転舵させることができる。
【0021】
ラックバー8は、一端部(図1における軸方向Xの左側の端部)8Aと他端部(図1における軸方向Xの右側の端部)8Bとを含んでいる。ラックバー8は、パイプ10と、2つの金属部品である第1金属部品17および第2金属部品18とを主に含んでいる。第2金属部品18には、ラック歯15が設けられている。
パイプ10は、炭素繊維強化樹脂製であり、軸方向Xに延びる略円筒状である。パイプ10は、たとえばラックバー8においてラック歯15よりも一端部8A側に設けられており、軸方向Xにおいて第1金属部品17と第2金属部品18との間に配置されている。パイプ10の一端部(図1における軸方向Xの左側の端部)に、符号「10A」を付し、他端部(図1における軸方向Xの右側の端部)に符号「10B」を付し、パイプ10の内周面に、符号「10C」を付すことにする。
【0022】
第1金属部品17は、ラックバー8の一端部8Aとして、一端部8A側の継手11に隣接している。第1金属部品17は、パイプ10の一端部10Aに対してラックバー8の一端部8A側から連結されている。
第1金属部品17は、軸方向Xに並ぶ本体部20および延長部21を一体的に有している。本体部20は、軸方向Xに延びる中心軸を有する円筒状である。延長部21は、第1金属部品17において本体部20よりもラックバー8の他端部8B側に設けられている。延長部21は、本体部20から他端部8B側へ向けて軸方向Xに延びる円筒状である。延長部21は、本体部20よりも細く、本体部20と同軸状に並んでいる。また、第1金属部品17には、軸方向Xに延びる挿通孔17Aが形成されている。挿通孔17Aは、本体部20および延長部21のそれぞれの中心軸を通って本体部20および延長部21の両方を軸方向Xに貫通している。
【0023】
第2金属部品18は、ラックバー8の他端部8Bとして、他端部8B側の継手11に隣接している。第2金属部品18は、ラック歯15の摩耗を防止するために、たとえば、焼き入れ処理したS45C等の炭素鋼で形成されている。ここでの焼き入れ処理としては、浸炭焼き入れ加工や高周波焼き入れ加工等が挙げられる。第2金属部品18は、パイプ10の他端部10Bに対してラックバー8の他端部8B側から連結されている。第2金属部品18は、第1金属部品17と同様に、前述した本体部20および延長部21を一体的に有している。ただし、第2金属部品18の本体部20および延長部21は、第1金属部品17の本体部20および延長部21とは、寸法(直径や軸方向Xにおける長さ)等において異なっていてもよい。
【0024】
第2金属部品18の本体部20は、軸方向Xに延びる中心軸を有する円筒状である。この本体部20にラック歯15が設けられている。第2金属部品18の延長部21は、第2金属部品18において本体部20よりもラックバー8の一端部8A側に設けられている。延長部21は、本体部20から一端部8A側へ向けて軸方向Xに延びる円筒状である。ただし、第2金属部品18は、第1金属部品17の挿通孔17Aに相当する挿通孔を有しておらず、中実となっている。
【0025】
第1金属部品17の延長部21が、パイプ10の一端部10Aの中空部分に対して軸方向X(図1における左側)から嵌め込められている。また、第2金属部品18の延長部21が、パイプ10の他端部10Bの中空部分に対して軸方向X(図1における右側)から嵌め込められている。これにより、第1金属部品17および第2金属部品18のそれぞれは、延長部21において、パイプ10の端部(一端部10Aまたは他端部10B)に対して軸方向Xから連結されている。
【0026】
連結状態のパイプ10、第1金属部品17および第2金属部品18は、一体化されていて、全体として軸方向Xに延びるバー状部品22を構成している。このバー状部品22が、ラックバー8を構成している。ラックバー8の一部が炭素繊維強化樹脂製のパイプ10で構成されているので、ラックバー8全体を金属で構成する場合と比べて、大幅な軽量化を図ることができる。
【0027】
次に、このようなバー状部品22の製造方法について説明する。
図2は、バー状部品22の製造工程を示す模式的な断面図である。図2における各部材の姿勢は、図1と一致している(後述する図3図8においても同様)。
図2を参照して、バー状部品22の製造の初期段階として、芯材23が準備される。芯材23は、円筒状のパイプ10を形成するために必要な部材である。芯材23は、マンドレル24と、第1金属部品17および第2金属部品18の各延長部21とを軸方向Xにつなげることによって構成されている。
【0028】
マンドレル24は、金属製であり、軸方向Xに延びる円柱状である。
第1金属部品17および第2金属部品18の各延長部21の外周面21Aには、予め粗面加工が施されている。そのため、外周面21Aは、多数の凹凸部27を有している。ここでの粗面加工としては、たとえば、アヤメローレット加工、キー溝加工、スプライン加工、ショットブラスト加工、酸によるエッチング、レーザーエッチング等が挙げられるが、加工コストを考慮するとアヤメローレット加工が望ましい。
【0029】
また、第2金属部品18は、前述した焼き入れ加工が施されているため、第2金属部品18の延長部21は、曲げ応力に対する耐力が向上されており、延長部21の外周面21Aにおいて粗面加工が施された部分は、焼き入れ加工が施されていない材料と比較して靭性が向上されている。なお、第1金属部品17にも焼き入れ加工が施されてもよい。
図2では、バー状部品22の製造工程の初期段階として、マンドレル24と、第1金属部品17および第2金属部品18の各延長部21とを軸方向Xにつなげることによって芯材23が準備される。具体的には、第1金属部品17と第2金属部品18とが、互いの延長部21が対向した状態で、軸方向Xに離して配置され、その後、第1金属部品17の挿通孔17Aにマンドレル24が挿通される。挿入後のマンドレル24では、一部が挿通孔17A内に残っているもの、他の部分は、挿通孔17Aからはみ出して第2金属部品18まで延びている。マンドレル24において第2金属部品18側の端部24Aは、第2金属部品18の延長部21に対して軸方向X(第1金属部品17側)から突き当たっている。これにより、第1金属部品17と第2金属部品18との間にマンドレル24が架設され、第1金属部品17と第2金属部品18とマンドレル24とが同軸状で連結された状態になり、芯材23が完成する。なお、第2金属部品18およびマンドレル24のうち、一方に凸部が設けられ、他方に凹部が設けられて、凸部が凹部に嵌まり込むことによって第2金属部品18とマンドレル24とが同軸状に位置決めされてもよいし、凹部および凸部の代わりに、位置決めのための専用の治具を用いてもよい。
【0030】
完成した芯材23の外周面23Aは、各延長部21の外周面21Aと、マンドレル24において挿通孔17Aから第2金属部品18側にはみ出ている部分の外周面24Bとを含んでいる。
第1金属部品17と第2金属部品18とマンドレル24とが同軸状で連結されていることから、第1金属部品17および第2金属部品18の各延長部21の中心軸C1とマンドレル24の中心軸C2とは、一致して軸方向Xに延びている。
【0031】
図3は、図2の次の工程を示す模式的な断面図である。
図3を参照して、前述したパイプの材料となるプリプレグシート26が準備される。プリプレグシート26は、たとえば一方向(Uni-Direction)に引き揃えられた多数の炭素繊維(図示せず)に樹脂28を含浸させたシート状である。プリプレグシート26には、“トレカ”(商標登録)T300や“トレカ”(商標登録)T700に代表されるあらゆる炭素繊維を用いることができる。また、樹脂28には、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂および不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。ラックバー8は、車両のエンジンルーム内で使用されるため、樹脂28の硬化温度は、130℃以上であることが望ましい。
【0032】
図3に示す工程において、プリプレグシート26は、たとえばシートワインディング法によって芯材23の外周面23Aに対して1重または2重以上に巻き付けられる。巻き付け後の状態では、図3に示すように、プリプレグシート26がマンドレル24と各延長部21とに跨っている。また、プリプレグシート26は、マンドレル24の外周面24Bおよび各延長部21の外周面21Aに対して密着して、芯材23を取り囲んでいることから、全体として略円筒状になっている。
【0033】
次に、芯材23の外周面23Aに巻き付けられた状態のプリプレグシート26を焼成硬化させる。ここでの焼成硬化により、プリプレグシート26の形状は、芯材23の外周面23Aに巻き付けられたときの略円筒状のままで固定される。その後、プリプレグシート26は、常温での冷却を経てパイプ10となる。つまり、パイプ10は、外周面23Aに巻き付けられたプリプレグシート26を焼成硬化させることによって形成される。この状態のパイプ10では、一部(端部10Aおよび10B)が、各延長部21の外周面21Aに対して外嵌(詳しくは、後述するように外嵌固定)されている。
【0034】
また、パイプ10の中心軸C3は、各延長部21の中心軸C1およびマンドレル24の中心軸C2と一致しており、パイプ10が各延長部21およびマンドレル24と同軸状に配置されている。
なお、プリプレグシート26は、炭素繊維の延びる方向を軸方向Xに向ける巻き方(いわゆるヘリカル巻き)を主な巻き方として、芯材23の外周面23Aに巻き付けられる。そのため、パイプ10では、内部の炭素繊維が軸方向Xに引き揃えられているので、軸方向Xに対する強度が高い。
【0035】
図4は、図3の次の工程を示す模式的な断面図である。
図4を参照して、次に、芯材23のうちマンドレル24だけをパイプ10から取り除く。具体的には、マンドレル24全体を、第1金属部品17の挿通孔17Aから引き抜く。このとき、マンドレル24を、円滑に引き抜くために、冷却によって収縮させてもよい。その場合、マンドレル24をパイプ10から引き抜く際に必要な力が低減される。
【0036】
マンドレル24が取り除かれた状態では、各本体部20と、パイプの一端部10Aおよび他端部10Bとの間に隙間25(たとえば、軸方向Xにおける端部の1mm〜2mm程度の隙間)を設けておくことが好ましい。そのためには、プリプレグシート26を芯材23の外周面23Aに巻き付ける工程において、本体部20との間に隙間25を設けてプリプレグシート26を巻き付ければよい。
【0037】
隙間25を設けていれば、パイプ10に対して曲げ応力が負荷された場合に、端部10Aおよび10Bが各本体部20と接触することを防止することができ、パイプ10の曲げ応力に対する破壊強度を向上させることができる。
以上により、パイプ10は、軸方向Xにおける両端部10Aおよび10Bにおいて、第1金属部品17および第2金属部品18に連結された状態になり、バー状部品22が完成する。
【0038】
この状態で、各延長部21の中心軸C1とパイプ10の中心軸C3とが一致した状態を保っており、各延長部21がパイプ10と同軸状に配置された状態を保っている。
図5は、図4において2点鎖線で囲った部分を拡大して示した図である。
図5を参照して、完成したバー状部品22において、パイプ10の内周面10Cと各延長部21の外周面21Aとの間には、プリプレグシート26から染み出た樹脂28が介在されている。樹脂28は、前述した芯材23へのプリプレグシート26の巻き付け工程およびその後の焼成硬化の工程において(図3参照)、各延長部21の外周面21Aに形成された凹凸部27における各凹部29に進入して硬化する。樹脂28が凹部29に進入した硬化した状態では、凹凸部27の凸部35は、パイプ10の内周面10Cに対して噛み合うように密着しているものの、プリプレグシート26内の炭素繊維には接触していない。よって、パイプ10の端部10Aおよび10Bは、内部の炭素繊維が切断されていない状態で、対応する延長部21の外周面21Aに対して、外嵌固定(抜け止め)されている(図4参照)。なお、この状態の各延長部21は、パイプ10の端部10Aおよび10Bに対して軸方向Xにずれないし、周方向にもずれないように位置決めされている(図4参照)。
【0039】
ここで、本実施形態とは異なり、粗面加工が施された延長部21を用いない比較例を想定してみる。比較例の場合、パイプ10と第1金属部品17および第2金属部品18のそれぞれとをねじ締結するために、パイプ10の内周面10Cにねじ部を設ける必要がある。比較例においてプリプレグシート26をヘリカル巻きによって芯材23に巻き付ける場合には、パイプ10の内周面10Cにねじ部を設ける際に、最内層(最も芯材23側)におけるプリプレグシート26内の炭素繊維が切断される虞がある。炭素繊維が切断されると、パイプ10の強度が著しく低下する。比較例において炭素繊維の切断を防止するためには、少なくとも最内層のプリプレグシート26は、芯材23の周方向に炭素繊維が延びるような巻き方(いわゆるフープ巻)で芯材23に巻き付けられる必要がある。
【0040】
一方、本実施形態であれば、パイプ10の内周面10Cにねじ部を設ける必要がなく、パイプ10をヘリカル巻きのみ(またはヘリカル巻きの割合を高めて)で作成できる。つまり、本実施形態では、比較例と比べて、一種類の巻き方によって作成することができる分だけ、プリプレグシート26の芯材23(図3参照)への巻き数を減らすこともでき、軸方向Xにおける強度を高めることができる。つまり、延長部21に粗面加工を施すことによって、パイプ10の軽量化と強度向上とを図ることができる。さらに、パイプ10と第1金属部品17および第2金属部品18との間に別部品を介在させることなく、パイプ10と第1金属部品17および第2金属部品18とが直接連結されている。そのため、パイプ10と第1金属部品17および第2金属部品18とが同軸状に配置された状態を保つことができ、パイプ10と第1金属部品17および第2金属部品18との位置決め精度を向上させることができる。また、当該別部品を省略できるうえに、当該別部品を備える場合において炭素繊維の切断の防止するための必要となる対策が不要となるため、バー状部品22全体の製造コストを低減することができる。
【0041】
また、パイプ10と第1金属部品17および第2金属部品18のそれぞれとの間に金属製の別部品(金属円環)を介在させる場合には、当該別部品に曲げ耐性向上のために焼き入れ加工および粗面加工を施す必要があるので、本実施形態と比較して製造コストが増大する虞がある。さらに、第1金属部品17および第2金属部品18のそれぞれと別部品とをねじ締結するのであれば、ねじ加工およびねじ締結の手間がかかるし、第1金属部品17および第2金属部品18のそれぞれとパイプ10との間における同軸度の確保がますます困難になる。
【0042】
また、バー状部品22は、パイプ10に第1金属部品17および第2金属部品18のそれぞれを圧入することで構成された訳でないので、完成したパイプ10と第1金属部品17および第2金属部品18のそれぞれとの間に余計な力がほとんど加わっていない。そのため、パイプ10の中心軸C3と第1金属部品17および第2金属部品18の中心軸C1とが一致した状態を保つことができる。つまり、パイプ10と第1金属部品17および第2金属部品18とが同軸状に配置された状態を保つことができ、パイプ10と第1金属部品17および第2金属部品18との位置決め精度を向上させることができる。
【0043】
以上の結果、パイプ10と第1金属部品17および第2金属部品18との位置決め精度を向上させつつ、製造コストの低減を図ることができる。
次に、本発明の第1変形例について説明する。
図6は、図5に第1変形例を適用した図である。また、図6において、上記に説明した部材と同様の部材には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する(後述する図7および図8も同様)。
【0044】
図6を参照して、第1変形例における延長部21の外周面21Aには、凹凸部27に沿うように熱接着フィルム30が設けられている。
延長部21に熱接着フィルム30が取り付けられた芯材23が準備された後に、前述したように芯材23の外周面23Aにプリプレグシート26を巻き付ける(図3参照)。これにより、熱接着フィルム30は、プリプレグシート26と外周面21Aとの間に介在される。つまり、第1変形例では、プリプレグシート26を芯材23の外周面23Aに巻き付ける工程は、プリプレグシート26と外周面21Aとの間に熱接着フィルム30を介在させる工程を含んでいる。プリプレグシート26を芯材23の外周面23Aに巻き付ける工程によって、熱接着フィルム30は、芯材23の径方向に沿って外周面21Aとプリプレグシート26とに挟まれ、外周面21Aとプリプレグシート26とに接着される。次に、プリプレグシート26を焼成硬化することで、熱接着フィルム30は、プリプレグシート26と外周面21Aとに一層強固に接着される。これにより、延長部21とパイプ10とをより強固に固定することができる。なお、当該強度向上のために、熱接着フィルム30の厚みTは、凹凸部27における凸部35の高さH(凹部29の深さ)を超えない程度であることが望ましい。また、熱接着フィルム30は、パイプ10と第1金属部品17や第2金属部品18との間に生じる応力を緩和する機能も発揮できる。
【0045】
熱接着フィルム30としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂を含む熱接着フィルムが適用可能である。その中でも、エポキシ樹脂を含む熱接着フィルム30を使用することが望ましい。エポキシ樹脂を含む熱接着フィルム30を使用すれば、エポキシ樹脂を含むプリプレグシート26との接着強度がより一層高くなり、耐熱性も向上される。
【0046】
図7は、第2変形例の第2金属部品18とパイプ10とが連結している部分の断面図である。
図7を参照して、第2変形例の延長部21の外周面21Aは、軸方向Xにおいて本体部20から離れるにしたがって拡径するテーパ状である。パイプ10は、延長部21に沿って巻き付けられた状態で焼成硬化されるため、パイプ10の内周面10Cも軸方向Xにおいて本体部20から離れるにしたがって拡径するテーパ状になっている。この構成であれば、パイプ10に対して軸方向X(軸方向Xにおける外側)に力が加わった場合、第2金属部品18の延長部21においてテーパ状の外周面21Aがパイプ10の内周面10Cに軸方向X(軸方向Xにおける内側)から引っかかる。そのため、パイプ10が延長部21から抜けにくくなることから、パイプ10と第2金属部品18とが分解しにくくなるので、バー状部品22の強度の向上を図ることができる。なお、図7では、第2金属部品18の周辺のみが図示されているが、もちろん、第1金属部品17の延長部21の外周面21Aも第2金属部品18の延長部21と同様にテーパ状であってもよい。そうすれば、第1金属部品17および第2金属部品18の両方からパイプ10が抜けることを防止できる。
【0047】
図8は、図7に第3変形例を適用した図である。
図8を参照して、第3変形例の延長部21は、外周面21Aから突出し、パイプ10を軸方向Xに位置決めするための突出部31を含んでいる。第3変形例の突出部31は、延長部21の軸方向Xにおいて本体部20とは反対側の端部において外周面21Aの周方向の全周に亘って形成されている。パイプ10の他端部10Bは、突出部31だけでなく、突出部31よりも本体部20側における延長部21の外周面21Aに対しても外嵌されている。そのため、突出部31が、炭素繊維を切断しない程度にパイプ10の内周面10Cに食い込んで、パイプ10を軸方向Xに位置決めしている。この構成であれば、パイプ10に対して軸方向X(軸方向Xにおける外側)に力が加わった場合、第2金属部品18の突出部31がパイプ10の内周面10Cに引っかかる。そのため、パイプ10が延長部21から抜けにくくなることから、パイプ10と第2金属部品18とが分解しにくくなるので、バー状部品22の強度の向上を図ることができる。なお、図8では、第2金属部品18の周辺のみが図示されているが、もちろん、第1金属部品17の延長部21も第2金属部品18の延長部21と同様に突出部31を含んでいてもよい。そうすれば、第1金属部品17および第2金属部品18の両方からパイプ10が抜けることを防止できる。
【0048】
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、ラック歯15が形成される第2金属部品18の強度を考慮すると、前述した実施形態のように第1金属部品17に挿通孔17Aを設けることが望ましい。しかし、第2金属部品18の強度を考慮せずに済むのであれば、第1金属部品17の挿通孔17Aの代わりに、当該挿通孔17Aに相当する挿通孔が第2金属部品18に設けられてもよい。この場合、マンドレル24は、第2金属部品18の挿通孔に挿通される。
【0049】
また、第1変形例の熱接着フィルム30は、第2変形例および第3変形例のバー状部品22にも適用可能である。
また、第2変形例のテーパ状の外周面21Aは、第1金属部品17または第2金属部品18のいずれかのみに設けられている場合もあり得る。
また、第3変形例の突出部31は、外周面21Aの周方向における全周に設けられていなくてもよい。また、突出部31は、延長部21の外周面21Aにおいて軸方向Xにおける端部以外の部分に設けられていてもよい。また、突出部31は、第1金属部品17または第2金属部品18のいずれかのみに設けられている場合もあり得る。
【0050】
また、前述した実施形態のバー状部品22は、ラックバー8であったが、ラックバー8以外のバー状部品(たとえば各種シャフト、ロッド、パイプ状部品)として構成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…ステアリング装置、8…ラックバー、10…パイプ、10A…一端部、10B…他端部、17…第1金属部品、18…第2金属部品、20…本体部、21…延長部、21A…外周面、22…バー状部品、23…芯材、23A…外周面、24…マンドレル、26…プリプレグシート、28…樹脂、30…熱接着フィルム、31…突出部、X…軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8