(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288420
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 55/2265 20060101AFI20180226BHJP
F16D 65/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
F16D55/2265 110
F16D65/02 N
F16D65/02 M
F16D55/2265 109
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-269975(P2013-269975)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-124833(P2015-124833A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】畔柳 進治
【審査官】
長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−097329(JP,U)
【文献】
特開平09−032871(JP,A)
【文献】
実開平06−040475(JP,U)
【文献】
実開昭51−134184(JP,U)
【文献】
実開昭54−176080(JP,U)
【文献】
特表2008−530474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に設けられた支持ブラケットに対してブレーキディスクロータの軸方向に移動可能に支持されたブレーキキャリパを備えたディスクブレーキ装置であって、
前記支持ブラケット及び前記ブレーキキャリパの一方に設けられ前記ブレーキディスクロータの軸方向に延びるスライドピンと、
前記支持ブラケット及び前記ブレーキキャリパの他方に設けられ前記スライドピンが摺動可能に挿入されるボス部と、
前記スライドピンと前記ボス部との間に配置され、前記スライドピンと前記ボス部との摺動面に面して潤滑剤を滞留させる潤滑剤保持用孔を有する潤滑剤保持部材と、を備え、
前記潤滑剤保持部材は袋状に形成され、前記スライドピンの先端部を覆い、前記スライドピンが前記ボス部内に押し込まれたときに前記潤滑剤保持部材も前記ボス部内に押し込まれるように配置されることを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記潤滑剤保持用孔は、前記スライドピンと前記ボス部との摺動面に面して複数設けられることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記潤滑剤保持部材は網目状の部材で形成されることを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記スライドピンは、前記支持ブラケット及び前記ブレーキキャリパの一方に着脱可能に固定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のディスクブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置のブレーキキャリパの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の制動装置に用いられるディスクブレーキ装置では、ディスクパッドを支持するブレーキキャリパが、車体側に設けられた支持ブラケットに支持されて構成されている。
詳しくは、例えば特許文献1に示すように、支持ブラケットに設けられた穴に、車体側に備えられたスライドピンが挿入されて、ブレーキキャリパが車体側に対して車軸方向に摺動可能に支持されている。これにより、ブレーキキャリパのブレーキパッドの位置がブレーキディスクロータに対してその軸方向に移動自在であって、一対のブレーキパッドによりブレーキディスクを挟み込んで制動したときに、ブレーキパッドの片当たりを自動的に低減させることができる。
【0003】
更に、特許文献1では、スライドピンをその軸方向に押圧しており、スライドピンの位置を安定させて、ブレーキディスクロータとブレーキパッドとの間の隙間の変動を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002―266907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のようにスライドピンを穴に挿入し摺動可能にした構造では、スライドピンにグリスを塗布し、摺動性能を高めるようにすることが一般的である。
しかしながら、摺動を繰り返し続けることで、グリスがスライドピンの摺動面からなくなる、所謂グリス切れとなって、ブレーキキャリパから異音が発生する虞がある。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、ブレーキキャリパの支持部での潤滑性の維持を図り、異音発生を防止するディスクブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、車体側に設けられた支持ブラケットに対してブレーキディスクロータの軸方向に移動可能に支持されたブレーキキャリパを備えたディスクブレーキ装置であって、前記支持ブラケット及び前記ブレーキキャリパの一方に設けられ前記ブレーキディスクロータの軸方向に延びるスライドピンと、前記支持ブラケット及び前記ブレーキキャリパの他方に設けられ前記スライドピンが摺動可能に挿入されるボス部と、前記スライドピンと前記ボス部との間に配置され、前記スライドピンと前記ボス部との摺動面に面して潤滑剤を滞留させる潤滑剤保持用孔を有する潤滑剤保持部材と、を備え
、前記潤滑剤保持部材は袋状に形成され、前記スライドピンの先端部を覆い、前記スライドピンが前記ボス部内に押し込まれたときに前記潤滑剤保持部材も前記ボス部内に押し込まれるように配置されることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2の発明では、請求項1において、前記潤滑剤保持用孔は、前記スライドピンと前記ボス部との摺動面に面して複数設けられることを特徴とする。
また、請求項3の発明では、請求項2において、前記潤滑剤保持部材は網目状の部材で形成されることを特徴とする
。
【0008】
また、請求項
4の発明では、請求項1から
3のいずれか1項において、前記スライドピンは、前記支持ブラケット及び前記ブレーキキャリパの一方に着脱可能に固定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1のディスクブレーキ装置によれば、スライドピンとボス部との間に潤滑剤保持用孔を有する潤滑剤保持部材が配置されるので、潤滑剤保持部材にグリス等の潤滑剤を塗布してディスクブレーキ装置を組み立てることで、潤滑剤保持用孔に潤滑剤が保持される。これにより、潤滑剤をスライドピンの摺動部に長期間保持することができ、ブレーキキャリパの支持部での摺動性が維持され、潤滑剤切れによる異音の発生を防止することができる。
また、スライドピンの挿入方向の移動で潤滑剤保持部材をボス部内に押し込むことができ、スライドピンが繰り返し移動しても潤滑剤保持部材のボス部からの離脱を防止することができる。
【0010】
本発明の請求項2のディスクブレーキ装置によれば、潤滑剤保持部材に潤滑剤保持用孔が摺動面に面して複数設けられるので、潤滑剤の保持性を向上させることができる。特に潤滑剤保持用孔を多く設けることで、摺動面の各所で潤滑剤を保持することができ、ブレーキキャリパの移動が少ない場合でも、潤滑剤切れの発生箇所を低減させることができる。
【0011】
本発明の請求項3のディスクブレーキ装置によれば、潤滑剤保持用孔を多く設けた潤滑剤保持部材を容易に調達することができる
。
【0012】
本発明の請求項
4のディスクブレーキ装置によれば、スライドピンを容易に交換することができるので、ブレーキキャリパの支持部に潤滑剤保持部材を有しないディスクブレーキ装置に対して、小径のスライドピンに交換することで、潤滑剤保持部材を容易に追加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態のディスクブレーキ装置の全体構造を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態におけるブレーキキャリパの支持構造を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態のブレーキキャリパの支持部の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態のディスクブレーキ装置1の全体構造を示す斜視図である。
図2は、本実施形態におけるブレーキキャリパ2の支持構造を示す斜視図である。
図3は、本実施形態のブレーキキャリパ2の支持部の断面図である。
本発明の一実施形態のディスクブレーキ装置1は、車両の車輪を制動するブレーキ装置である。
【0015】
図1、2に示すように、本実施形態のディスクブレーキ装置1は、車輪とともに回転するブレーキディスクロータ3と、車体側(サスペンションアーム4側)に支持されたブレーキキャリパ2を備えている。
ブレーキキャリパ2は、車体側に固定された支持ブラケット5に支持されている。
ブレーキキャリパ2には、ブレーキシリンダ6と、ブレーキディスクロータ3を挟むように一対のブレーキパッド7が備えられており、配管8を介してブレーキシリンダ内6に油圧が供給されることで、一対のブレーキパッド7の少なくとも一方が他方に近づく方向に移動して、ブレーキディスクロータ3を挟み、ブレーキディスクロータ3の両面を押圧して、ブレーキディスクロータ3の回転に制動力を与える構成になっている。
【0016】
ブレーキキャリパ2には、上下方向に突出するフランジ部9が夫々設けられ、当該フランジ部9には、スライドピン10が互いに平行に車両左右方向、即ちブレーキディスクロータ3の軸方向に延びるように固定されている。
支持ブラケット5には、フランジ部9に面して車両左右方向に延びる筒状のボス部11が夫々備えられている。ボス部11のフランジ部9側の一端は開口し、他端は閉塞している。ボス部11には、フランジ部9に固定されているスライドピン10が摺動可能に挿入されている。よって支持ブラケット5に対して、ブレーキキャリパ2が車両左右方向に、即ちブレーキディスクロータ3の軸方向に移動可能に支持されている。
【0017】
図3に示すように、ブレーキキャリパ2のフランジ部9には、スライドピン10の固定用の孔20が設けられ、当該孔20には雌ねじ部21が形成されている。
スライドピン10は、円柱状のシャフト部22と、当該シャフト部22の一端部にシャフト部22より大径の頭部23とを有している。スライドピン10のシャフト部22には、頭部23に隣接した部分に雄ねじ部24が形成されている。そして、このスライドピン10をフランジ部9に設けられた孔20の雌ねじ部21に、スライドピン10の頭部23がフランジ部9に当接するまでねじ込んで、スライドピン10がブレーキキャリパ2に固定されている。このときスライドピン10の先端部がフランジ部9から大きく突出する。
【0018】
ディスクブレーキ装置1の組み立て時には、スライドピン10のシャフト部22の外周面にグリス等の潤滑剤が塗布されてボス部11に挿入されている。ボス部11とフランジ部9との間には、シャフト部22の周囲を覆う蛇腹状のカバー25が設けられており、シャフト部22の保護を図るとともに、スライドピン10の摺動部へのごみの侵入やグリスの落下を防止する機能を有している。
【0019】
本実施形態では、スライドピン10の先端部を覆うように袋状のグリス保持部材30(潤滑剤保持部材)が設けられている。グリス保持部材30は、シャフト部22とボス部11との間に配置される。グリス保持部材30は、例えば金属や樹脂繊維で形成されており、小径のグリス保持用孔31(潤滑剤保持用孔)が、シャフト部22に当接する部位の略全域に亘って多数設けられている。
【0020】
このグリス保持用孔31は、シャフト部22に塗布されているグリスが入り込み、ブレーキキャリパ2が移動して、スライドピン10とボス部11とが摺動を繰り返しても、想定する使用期間において当該グリス保持用孔31にグリス等の潤滑剤が滞留するように大きさや個数を設定すればよい。
グリス保持用孔31は、グリス保持部材30を貫通する孔ではなく、摺動面側に窪みを設けて形成してもよい。また、グリス保持部材30にパンチング等で孔をあけてグリス保持用孔31を形成してもよいし、あらかじめ孔や摺動面側に窪みを有する部材でグリス保持部材30を形成してもよい。グリス保持用孔31の形状についても円形やその他の形状でもよい。また、網目状の部材でグリス保持部材30を形成してもよい。
【0021】
以上のような構成により、本願では、スライドピン10のシャフト部22とボス部11との間に塗布されたグリスが、グリス保持部材30のグリス保持用孔31に入り込んで滞留するので、スライドピン10がボス部11に対して摺動を繰り返しても、当該摺動部からのグリスの流出を抑制し、スライドピン10とボス部11との摺動部における潤滑性を長期間保持することができる。これにより、グリス切れによるスライドピン10の摺動部での異音の発生を防止することができる。
【0022】
また、本実施形態では、スライドピン10と支持ブラケット5のボス部11の間にグリス保持用孔31を有する簡単な構成のグリス保持部材30を追加するだけで、摺動部でのグリスの保持性を高められるので、部品コストの増加を抑えつつ、異音の発生を防止することができる。
また、グリス保持部材30を有しない構造のディスクブレーキ装置に対し、例えばスライドピン10を外径の若干小さいものに交換してグリス保持部材30を追加すれば、ブレーキキャリパ2や支持ブラケット5等の周囲の部品を交換または追加工せずに、グリス保持部材30を後から容易に追加して、異音の発生を抑えることができる。このとき、スライドピン10がブレーキキャリパ2のフランジ部9に着脱可能に固定されているので、スライドピン10を容易に交換することができる。
【0023】
また、本実施形態では、グリス保持用孔31をグリス保持部材のスライドピン10に当接する部位の全域に亘って複数設けているので、摺動部の全面に亘ってグリスを保持することができ、ブレーキキャリパ2の移動が少なくともグリス切れの発生箇所を低減し、摺動部における潤滑性を確保することができる。
また、グリス保持部材30を袋状に形成しているので、スライドピン10がボス部11内に押し込まれたときに、グリス保持部材30もボス部11内に押し込まれる。これにより、グリス保持部材30のボス部11からの離脱を防止することができる。
【0024】
なお、本願発明は、上記実施形態に限定するものではない。
例えば、グリス保持部材30を両端が開いた筒状に形成してもよい。グリス保持用孔31については、上述のように各種形状が可能である。
また、上記実施形態では、ブレーキキャリパ2にスライドピン10が固定され、支持ブラケット5にボス部11が設けられているが、この反対、即ちブレーキキャリパ2にボス部11が設けられ、支持ブラケット5にスライドピン10が固定されている構造であっても本発明を適用できる。
【0025】
また、上記施形態では、スライドピン10に雄ねじ部24を形成し、フランジ部9に形成した雌ねじ部21にねじ込んで固定する構成をとっているが、スライドピン10に雌ねじ部を形成し、フランジ部9に形成したボルト孔を通したボルトで固定される構成であっても本発明を適用できる。
本発明は、ボス部にスライドピンを挿入して移動可能に支持されるブレーキキャリパの支持部に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 ディスクブレーキ装置
2 ブレーキキャリパ
3 ブレーキディスクロータ
5 支持ブラケット
10 スライドピン
11 ボス部
30 グリス保持部材(潤滑剤保持部材)
31 グリス保持用孔(潤滑剤保持用孔)