(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、陰イオン交換膜を用いた水素発生装置は、陽イオン交換膜を用いた装置と比較して、イオン交換膜や、電解槽に使用されるガスケット、パッキン等の部材が劣化しやすいという課題があった。
【0006】
この発明は、水を電気分解することにより水素を発生させる水素発生装置において、電解槽を構成する部材や、アニオン交換膜が劣化することを抑制することができる水素発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様によれば、電解槽と、前記電解槽を陰極室と陽極室とに区画するアニオン交換膜と、前記陰極室に水を供給する陰極室水供給部と、前記陽極室に水を供給する陽極室水供給部と、前記アニオン交換膜の前記陰極室側の面に設けられた陰極と、前記アニオン交換膜の前記陽極室側の面に設けられた陽極と、前記陰極室の内部に配置されて前記陰極に電力を供給する陰極給電体と、前記陽極室の内部に配置されて前記陽極に電力を供給する陽極給電体と、前記陽極室にて、前記陽極室内に発生する活性酸素を減少させる活性酸素減少材と、を備える。
【0008】
このような構成によれば、陽極室に発生する活性酸素を減少させる活性酸素減少材を設けたことによって、電解槽を構成する部材や、アニオン交換膜が活性酸素により酸化分解されるなどして劣化することを抑制することができる。
【0009】
上記水素発生装置において、前記活性酸素減少材は、前記活性酸素の自己分解を促進する触媒を有してよい。
【0010】
このような構成によれば、触媒を用いて活性酸素の自己分解を促進させることによって、化学反応により活性酸素を減少させることができる。
【0011】
上記水素発生装置において、前記陽極給電体は、導電性を有し、陽極室の内部空間を埋めるように配置されたワイヤを有し、前記触媒は、前記ワイヤの外表面に配置されていてよい。
【0012】
このような構成によれば、陽極室の内部空間を埋めるように配置されたワイヤを触媒でコーティングすることによって、陽極室内に自己分解触媒を均一に分布することができる。
【0013】
上記水素発生装置において、前記活性酸素減少材は、前記陽極室水供給部から供給される水に前記触媒を添加する触媒供給部から供給してよい。
【0014】
このような構成によれば、自己分解触媒の分散量を大きくすることができる。また、給電体として、自己分解触媒が配置されていない通常の触媒を用いることができる。また、活性酸素の発生状況に応じて、自己分解触媒の量を調整することができる。
【0015】
上記水素発生装置において、前記陰極室の内部圧力を前記陽極室の内部圧力と同等か、または高圧にする圧力調整部をさらに有してよい。
【0016】
このような構成によれば、陰極室の内部圧力を陽極室の内部圧力よりも高くすることにより、活性酸素を含有した陽極室内部の水が陰極室へ向かってアニオン交換膜を通過したり、アニオン交換膜を酸化分解したりするのを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、陽極室に発生する活性酸素を減少させる活性酸素減少材を設けたことによって、電解槽を構成する部材や、アニオン交換膜が活性酸素により酸化分解されるなどして劣化することを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態の水素発生装置1について図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の水素発生装置1は、電解槽2と、直流電源3と、電解槽2にて生成された水素(H
2)が導入される水素タンク4と、電解槽2にて生成された酸素(O
2)が導入される酸素タンク5と、を備えている。水素発生装置1は、電解槽2内の水(H
2O純水)を電気分解することにより、水素を得る装置である。
電解槽2は、アニオン交換膜7(陰イオン交換膜、アルカリ形イオン交換膜)によって陰極室13と陽極室14とに区画されている。
【0020】
陰極室13の上部と水素タンク4とは、水素を含む処理水が導入される第一処理水ライン17を介して接続されている。陽極室14の上部と酸素タンク5とは、酸素を含む処理水が導入される第二処理水ライン18を介して接続されている。
水素タンク4の下部と陰極室13の下部とは、第一循環ライン15を介して接続されている。第一循環ライン15は、陰極室13に水を供給する陰極室水供給部として機能する。酸素タンク5の下部と陽極室14の下部とは、第二循環ライン16を介して接続されている。第二循環ライン16は、陽極室14に水を供給する陽極室水供給部として機能する。
【0021】
図2に示すように、電解槽2は、ケーシング6と、アニオン交換膜7と、アニオン交換膜7の陰極室13側の面(他方の面)に形成されている陰極9と、アニオン交換膜7の陽極室14側の面(一方の面)に形成されている陽極10と、直流電源3と接続された板状の主電極8と、陰極給電体11と、陽極給電体12と、を備えている。
【0022】
ケーシング6は、側壁22と、電解槽2の上部を封止する上壁23と、電解槽2の下部を封止する下壁24と、を有している。
電解槽2は、アニオン交換膜7によって陰極室13と陽極室14とに区画されている。下壁24には、循環ライン15,16を流れる水を陰極室13及び陽極室14に供給するための水導入孔25が設けられている。上壁23には、陰極室13から水素及び水を排出するための水素排出孔26が設けられている。上壁23には、陽極室14から酸素及び水を排出するための酸素排出孔27が形成されている。
【0023】
アニオン交換膜7は、陽イオンの通過を阻止し陰イオンを通過させるアルカリ性(塩基性)のイオン交換膜(電解質膜)である。アニオン交換膜7としては、例えば株式会社アストム製、ネオセプタAHA(登録商標)等を使用することができる。
【0024】
陰極9は、アニオン交換膜7の陰極室13を向く面に貼り付けられている、多数の孔を有する電極触媒である。陽極10は、アニオン交換膜7の陽極室14を向く面に貼り付けられている、多数の孔を有する電極触媒である。陰極9及び陽極10は、アニオン交換膜7の表面に、触媒材料とアニオン交換膜材料が混練されて接合面を有する。即ち、アニオン交換膜7は、陰極9と陽極10とによって挟まれており、アニオン交換膜7と陰極9と陽極10とは一体化されている。
陰極9及び陽極10は、鉄、ニッケル、コバルト等の遷移金属によって形成されている。即ち、陰極9及び陽極10を形成するための材料に、白金、イリジウムなどの貴金属を使用する必要はない。
【0025】
主電極8は、側壁22に隣接して配置された板状部材であり、導電性を有する金属によって形成されている。
陰極給電体11は、主電極8と接続された多孔質系給電体である。
図3に示すように、陰極給電体11は、陰極室13の内部空間を埋めるように組み合わせられた複数の導電性のワイヤ20から構成されている。例えば、陰極給電体11は、格子状に組み合わされているワイヤ20からなる複数のメッシュと、メッシュ同士を接続する複数のワイヤ20と、から形成することができる。面状をなすメッシュは主電極8と平行に配置されて、メッシュ同士を接続するワイヤ20は主電極8と直交する方向に延在している。
【0026】
陰極給電体11の形状は、上記した形状に限ることはなく、陰極室13の空間を埋めると共に、液体が通過できる多孔質の構造であればよい。例えば、ワイヤを不織布状に絡み合わせた構造としてもよい。また、導電性を有する材料をスポンジ状に形成したものでもよい。
【0027】
陽極給電体12の形状は、陰極給電体11と略同様である。
図4に示すように、陽極給電体12を構成するワイヤ20の外表面の少なくとも一部は、過酸化水素(H
2O
2)やオゾン(O
3)などの活性酸素の自己分解を促進する触媒21(自己分解触媒)によってコーティングされている。自己分解触媒21は、陽極室14にて、陽極室14内に発生する活性酸素を減少させる活性酸素減少材として機能する。
自己分解触媒21は、遷移金属、例えば、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)等の酸化物を採用することができる。又は、自己分解触媒21は、希土類元素、例えば、ランタン(La)の酸化物、を採用することができる。更に、自己分解触媒21としては、上記遷移金属又は希土類金属の複合酸化物を採用することができる。
なお、コストの点から、自己分解触媒21を形成する材料として、白金(Pt)や、イリジウム(Ir)を用いることは好ましくない。
【0028】
また、自己分解触媒21は、ワイヤ20に均一に分布させる必要はなく、
図5に示すように、ワイヤ20の外表面に分散させてもよい。即ち、自己分解触媒21は、ワイヤ20の外周面の少なくとも一部を被覆していればよい。ただし、自己分解触媒21は、ワイヤ20の外周面に一様に形成されていることが好ましい。
【0029】
水素タンク4の容量C1と酸素タンク5の容量C2の比は、C1:C2=2±0.5:1となっている。即ち、水素タンク4の容量は、酸素タンク5容量よりも大きくなるように設定されている。
【0030】
具体的には、水素タンク4の容量C1と酸素タンク5の容量C2は、水素及び酸素の発生に伴い変化する水素タンク4の内部圧力と酸素タンク5の内部圧力とが、略等しくなるように設定されている。
即ち、陰極9において発生する水素の体積V1と陽極10において発生する酸素の体積V2の比は、V1:V2=2:1であり、水素の体積V1が酸素の体積V2の約2倍であるため、水素タンク4の容量を大きくすることにより、水素タンク4の内部圧力と酸素タンク5の内部圧力の差圧が小さくなる。
【0031】
次に、本実施形態の水素発生装置1の作用について説明する。
循環ラインから水が供給されて、陰極室13及び陽極室14に水が流入した状態において、主電極8に電力を供給すると、陰極室13内の水が電気分解される。
【0032】
陰極室13においては、正反応R1(
図2参照)として式(1)に示すような反応が起こる。
4H
2O + 4e
− → 2H
2 + 4OH
− ・・・(1)
即ち、陰極室13において水(H
2O)が電気分解されることにより、水素(H
2)と水酸化物イオン(陰イオン、OH
−)が発生する。換言すれば、水と陰極給電体11から供給される電子(e
−)とが反応して水素が発生する。陰極室13にて生成された水素及び水は、水素タンク4に導入されて気液分離される。
陰イオンである水酸化物イオンは、陰イオン交換膜を通過して陽極室14に移動する。
【0033】
陽極室14においては、正反応R1として次の反応が起こる。
4OH
− → O
2 + 2H
2O + 2e
− ・・・(2)
即ち、水酸化物イオンから酸素(O
2)及び水(H
2O)が生成される。陽極室14にて生成された酸素及び水は、酸素タンク5に導入されて気液分離される。
【0034】
一方、陽極室14においては、副反応R2(
図2参照)として式(3)に示すような反応が起こる。
2OH
− → H
2O
2 + 2e
− ・・・(3)
2OH
− + O
2 → O
3 + H
2O + 2e
− ・・・(4)
即ち、陽極10における副生成物質として、過酸化水素(H
2O
2)、オゾン(O
3)が発生する。
【0035】
ここで、本実施形態の陽極給電体12は、過酸化水素やオゾンなどの活性酸素の自己分解を促進する自己分解触媒21でコーティングされている。これにより、式(5)、(6)で示す過酸化水素とオゾンの自己分解が促進される。
2H
2O
2 → 2H
2O + O
2 ・・・(5)
2O
3 → 3O
2 ・・・(6)
【0036】
上記実施形態によれば、陽極室14に配置されている陽極給電体12が活性酸素の自己分解を促進する触媒21によってコーティングされていることによって、アニオン交換膜7、ケーシング6、ケーシング6に使用されるガスケット、パッキン類が活性酸素により酸化分解されるなどして劣化することを抑制することができる。
【0037】
特に、アニオン交換膜7は、主に有機材料から形成されており、過酸化水素やオゾン等の活性酸素が拡散することによって損傷しやすい。よって、活性酸素の自己分解が促進されることによりCOの発生が抑制されることは、電極触媒の長寿命化につながる。
更に、電解槽2の内部に配置される有機材料の酸化によって発生するCOは、電極触媒(陰極9、陽極10)の被毒成分であるため、活性酸素の自己分解が促進されることによる効果が大きい。
また、陽極室14の空間を埋めるように配置されたワイヤ20を触媒21でコーティングすることによって、陽極室14内に自己分解触媒21を均一に分布することができる。
【0038】
また、アニオン交換膜7に電極触媒が圧着されているため、電気抵抗が少ない。これにより、水素発生の際のエネルギー効率を高めることができる。
また、水素タンク4の容量を酸素タンク5の容量よりも大きくすることによって、陰極室13の内部圧力と陽極室14の内部圧力の差圧を小さくすることができる。即ち、水素タンク4の内部圧力と酸素タンク5の内部圧力の差圧を小さくすることにより、これらタンクとラインを通じて連通している陰極室13の内部圧力と陽極室14の内部圧力との差圧を小さくすることができるので、陽極/陰極室の電解液が電極ならびにアニオン交換膜を透過し、電流効率の低下(=発生した水素、酸素が対極室へ移動して逆電解され水に戻る現象)や、アニオン交換膜のダメージ(=陽極で発生した活性酸素種(H
2O
2,O
3)がアニオン交換膜へ逆流して膜を酸化分解する問題)を制御し易くなる。加えて物理的なアニオン交換膜の変形や損傷を防ぐことが出来る。
【0039】
なお、電解槽2は、ケーシング6内に複数の陰極室13及び陽極室14を設ける構造とすることができる。例えば、
図6の第一実施形態の変形例の電解槽2のように、正の主電極8を一対の陽極室14で共用する構造とすることができる。
【0040】
また、上記実施形態では、水素タンク4及び酸素タンク5内の水を電解槽2に循環させる構成としたがこれに限ることはない。電解槽2に供給する水は、別の系統から供給してよい。また、水素タンク4内の水を酸素タンク5内に導入させてもよい。
【0041】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態の水素発生装置を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
図7に示すように、本実施形態の水素発生装置の陽極給電体12は、自己分解触媒によってコーディングされていない。
本実施形態の水素発生装置は、第二循環ライン16に自己分解触媒粉末21S(自己分解触媒の微粒子)を添加する触媒供給部28を有している。これにより、陽極室14には、第二循環ライン16を介して自己分解触媒粉末21Sが添加された水が供給される。換言すれば、本実施形態の陽極室14と酸素タンク5とには、自己分解触媒粉末21Sを含有する水が循環する。
【0042】
上記実施形態によれば、自己分解触媒の分散量を大きくすることができる。
また、活性酸素の発生状況に応じて、自己分解触媒の量を調整することができる。
なお、本実施形態の水素発生装置では、第二循環ライン16に触媒供給部28を設ける構成としたが、これに限ることはなく、最初から水に自己分解触媒粉末21Sを添加してもよい。
【0043】
(第三実施形態)
以下、本発明の第三実施形態の水素発生装置1Cを図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
図8に示すように、本実施形態の水素発生装置1Cは、第一処理水ライン17を流れる水及び水素の流量を調整する流量調整バルブ29が設けられている。流量調整バルブ29は、第一処理水ライン17の流路面積を調整可能な弁である。水電解では陰極室と陽極室において発生する水素、酸素の体積比が2:1と異なることで圧力差を生じる。このため、流量調整バルブ29は、陰極室13(
図6参照)の内部圧力を陽極室14の内部圧力と同等か、または高圧にする圧力調整部として機能する。即ち、流量調整バルブ29は、陰極室13と陽極室14において生じる圧力差を調整する機能を有し、陰極室13の圧力を陽極室14以上に調整する。
電解槽2には、陰極室13の内部圧力を測定する陰極室圧力測定装置30と、陽極室14の内部圧力を測定する陽極室圧力測定装置31が設けられている。
【0044】
本実施形態の水素発生装置1Cは、流量調整バルブ29を調整する制御装置32を備えている。制御装置32には、陰極室圧力測定装置30と陽極室圧力測定装置31によって測定された陰極室13の内部圧力の値及び陽極室14の内部圧力の値が入力される。制御装置32は、陰極室13の内部圧力が陽極室14の内部圧力と同等または高くなるように、流量調整バルブ29を調整する。
ここで、水素タンク4の容量が酸素タンク5の容量よりも大きいため、陰極室13の内部圧力と陽極室14の内部圧力との差圧は小さくなっている。
【0045】
上記実施形態によれば、流量調整バルブ29を用いて第一処理水ライン17の流路面積を小さくすることができる。第一処理水ライン17の流路面積の減少に伴い第一処理水ライン17に圧力損失が生じることによって、流量調整バルブ29の上流側の陰極室13の内部圧力陽極室14と同等か、または高くすることができる。
【0046】
陰極室13の内部圧力を陽極室14の内部圧力と同等か、または高くすることにより、活性酸素を含有した陽極室14内部の水が陰極室13へ向かってアニオン交換膜7を通過したり、アニオン交換膜7を酸化分解したりするのを防止することができる。
また、水素タンク4の容量と酸素タンク5の容量とが、陰極室13の内部圧力と陽極室14の内部圧力とを略等しくするように設定されていることにより、流量調整バルブ29の調整により、陰極室13と陽極室14において生じる圧力差を調整しやすくすることができる。
【0047】
なお、上記実施形態では、水素タンク4の容量を酸素タンク5の容量よりも大きくして、陰極室13の内部圧力と陽極室14の内部圧力との差圧を小さくした状態で、更に陰極室13の内部圧力を高くする構成としたがこれに限ることはない。即ち、水素タンク4の容量を酸素タンク5の容量よりも大きくするは必要なく、水素タンク4の容量と酸素タンク5の容量とを略等しくするなどしてこれにより、陰極室13の内部圧力を高めやすくしてもよい。
【0048】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。