(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288501
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
F01K 23/10 20060101AFI20180226BHJP
F02C 9/28 20060101ALI20180226BHJP
F02C 6/00 20060101ALI20180226BHJP
F02C 6/18 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
F01K23/10 C
F02C9/28 C
F02C6/00 D
F02C6/18 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-26662(P2014-26662)
(22)【出願日】2014年2月14日
(65)【公開番号】特開2015-151939(P2015-151939A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(72)【発明者】
【氏名】村山 雅人
(72)【発明者】
【氏名】堤 孝則
(72)【発明者】
【氏名】小山 智規
(72)【発明者】
【氏名】田村 憲
(72)【発明者】
【氏名】藤井 貴
【審査官】
倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/149731(WO,A1)
【文献】
実開平03−005943(JP,U)
【文献】
特許第4745940(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 23/10
F02C 6/00
F02C 6/18
F02C 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料供給装置が燃料の元から燃料を生成し、生成した前記燃料を前記燃料供給装置の出口側に設けられた第一の動力源の前段機構を介して前記第一の動力源に供給し、前記第一の動力源が前記燃料を燃焼して稼働することにより発電を行う発電システムの制御装置であって、
前記前段機構における負荷変化前に設定された前記燃料の圧力と、前記前段機構における負荷変化後の設定された前記燃料の圧力との圧力差に基づいて、当該圧力差を補い前記負荷変化後の設定された前記燃料の圧力に変更するための前記前段機構における燃料容量を特定し、前記燃料供給装置に対する前記燃料の元の供給量を調整するための指令値であって特定した前記燃料容量の調整を加速して行う燃料供給加速指令値を用いて前記燃料供給装置に対して出力する前記燃料の元の供給量の指令値である燃料供給指令値を算出する
ことを特徴とする発電システムの制御装置。
【請求項2】
前記第一の動力源よりも出力応答の遅い第二の動力源を備え、第一の動力源と第二の動力源により発電を行う発電システムの制御装置であって、
前記発電システムに対する出力指令値から前記第二の動力源の出力値を減じた前記第一の動力源に対する出力指令値に基づいて算出したベース燃料供給指令値と、前記燃料供給加速指令値とを加算した前記燃料供給指令値を算出して前記燃料供給装置に出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の発電システムの制御装置。
【請求項3】
前記発電システムに対する出力指令値に基づいて算出したベース燃料供給指令値と、負荷変化における前記第一の動力源による前記前段機構の前記燃料の圧力変動に対して入力する前記燃料の元の供給量を調整するための指令値である出力加速指令値と前記燃料供給加速指令値とに基づいて算出した発電システム加速指令値と、を加算した燃料供給指令値を算出して前記燃料供給装置に出力する
ことを特徴とする請求項2に記載の発電システムの制御装置。
【請求項4】
前記ベース燃料供給指令値を大気温度によって補正する
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の発電システムの制御装置。
【請求項5】
燃料供給装置が燃料の元から燃料を生成し、生成した前記燃料を前記燃料供給装置の出口側に設けられた第一の動力源の前段機構を介して前記第一の動力源に供給し、前記第一の動力源が前記燃料を燃焼して駆動することにより発電を行う発電システムを、
前記前段機構における負荷変化前に設定された前記燃料の圧力と、前記前段機構における負荷変化後の設定された前記燃料の圧力との圧力差に基づいて、前記圧力差を補い前記負荷変化後の設定された前記燃料の圧力に変更するための前記前段機構における燃料容量を特定し、前記燃料供給装置に対する前記燃料の元の供給量を調整するための指令値であって、特定した前記燃料容量の調整を加速して行う燃料供給加速指令値を用いて前記燃料供給装置に対して出力する前記燃料の元の供給量の指令値である燃料供給指令値を算出する
ことによって制御することを特徴とする発電システムの制御方法。
【請求項6】
前記第一の動力源よりも出力応答の遅い第二の動力源を備え、第一の動力源と第二の動力源により発電を行う発電システムを、
前記発電システムに対する出力指令値から前記第二の動力源の出力値を減じた前記第一の動力源に対する出力指令値に基づいて算出したベース燃料供給指令値と、前記燃料供給加速指令値とを加算した前記燃料供給指令値を算出して前記燃料供給装置に出力する
ことを特徴とする請求項5に記載の発電システムの制御方法。
【請求項7】
前記発電システムに対する出力指令値に基づいて算出したベース燃料供給指令値と、負荷変化における前記第一の動力源による前記前段機構の前記燃料の圧力変動に対して入力する前記燃料の元の供給量を調整するための指令値である出力加速指令値と前記燃料供給加速指令値とに基づいて算出した発電システム加速指令値と、を加算した燃料供給指令値を算出して前記燃料供給装置に出力する
ことを特徴とする請求項6に記載の発電システムの制御方法。
【請求項8】
前記ベース燃料供給指令値を大気温度によって補正する
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の発電システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭ガス化複合発電システムの制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭ガス化複合発電システム(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)は、石炭、バイオマス、石油残渣油などの炭素水素起源燃料をガス化して得られる可燃性ガスを燃料とする発電装置である。IGCCは、それらの可燃性ガスを燃料とするガスタービンと、ガスタービンの排熱を回収して得られる蒸気により運転する蒸気タービンとを備える。IGCCは、さらにガスタービン及び蒸気タービンと同軸又は多軸にて構成された発電機を備え、ガスタービン及び蒸気タービンによって発電機を駆動し発電する。
以下、
図1を用いてIGCCの構成について説明する。
図1は、IGCCの構成図の一例である。石炭供給設備1は、原炭を粉砕し、微粉炭をガス化炉2に供給する。空気分離装置10は、大気を吸入し、窒素と酸素に分離し、それらをガス化炉2に供給する。また、空気昇圧機11は、空気を吸入し、圧縮してガス化炉2へ供給する。空気分離装置10から供給される窒素は、石炭・チャー搬送に用いられる。また、空気分離装置10から供給される酸素と、空気昇圧機11から供給される圧縮空気は、石炭のガス化に用いられる。ガス化炉2は、石炭を燃焼させ、燃料ガスを発生させる。燃料ガスは、高温フィルタ3へ送られる。高温フィルタ3はチャーを回収する。燃料ガスは、さらにガス精製設備4へ送られ、硫黄化合物・窒素化合物などが取り除かれる。精製された燃料ガスは、ガスタービンガバナ14によって流量を制御しながら、ガスタービンの燃焼器5へ供給される。ガスタービンは、ガスタービン圧縮機7から吸入した大気と燃料ガスを燃焼させ、ガスタービン6を稼働する。HRSG12は、ガスタービンの排熱を回収して蒸気を生成し、その蒸気を蒸気タービン8に供給する。蒸気タービン8は、供給された蒸気によって稼働する。蒸気生成時の排ガスは、煙突13から廃棄される。ガスタービン6と蒸気タービン8の軸は、発電機9に連結され、発電機9を駆動し、発電を行う。
【0003】
制御装置50は、石炭ガス化複合発電装置の出力を制御する。以下、
図6を用いて、従来の出力制御について説明する。
図6は、従来のIGCCの出力制御系統の一例を示す図である。制御装置50は、要求負荷に従って、発電機出力指令(MWD)を決定する(S100)。次に制御装置50は、所定の方法で測定した発電機9の出力値(S101)と、発電機出力指令との偏差を算出する(S102)。制御装置50は、この偏差を補正するGT制御(S103)を行い、ガスタービンガバナ(「GT GOV」)14の開度を調整する(S104)。
また、制御装置50は、上記の処理(S100〜S104)と並行して、発電機出力指令に基づいて、ベースガス化炉入力指令(GID0)(S108)と、システムガス圧力の設定値とを算出する。発電機出力指令からシステムガス圧力の設定値を算出するには関数FXを用いる(S109)。
また、制御装置50は、圧力計15が測定したシステムガス圧力の実測値(S110)を取得し、システムガス圧力の設定値との偏差を算出する(S111)。制御装置50は、算出した圧力偏差に基づいて、ガス化炉2へ投入する石炭と、空気と、酸素の流量を示すガス化炉入力指令補正を算出する(S112)。制御装置50は、これらベースガス化炉入力指令と、ガス化炉入力指令補正とを加算し(S113)、ガス化炉入力指令(GID)を求める(S114)。制御装置50は、このガス化炉入力指令から石炭流量指令(S115)と、空気流量指令(S116)と、酸素流量指令(S117)とを算出し、ガス化炉2へ投入する石炭、酸素、空気を制御する。このように、制御装置50は、S111で算出した圧力偏差を補正するようなガス化炉入力指令補正を用いることでPI(Proportional Integral)制御等によるフィードバック制御を行っている。
【0004】
この出力制御において、負荷が一定で発電量が整定している場合、ガス化炉入力指令補正の値は、大気温度等の外乱を補償する為の変動以外は、ほぼゼロである。一方、負荷変化時においては、制御装置50は、発電機出力指令の時間的な変化に一致するようガスタービンガバナ14の開度を調整し、発電機9の出力を制御する。その場合、ガス化炉入力指令補正は、出力の変化による圧力変動を抑えるような値となる。このときガス化炉入力指令(GID)は、発電機出力指令により決まるベースガス化炉入力指令(GID0)と、負荷変化によって生じる圧力偏差を補償するガス化炉入力指令補正との和として与えられる。
また、特許文献1には、負荷変化を円滑に行うべくガス化炉2の運転状態を促進させるための値であるガス化炉入力加速指令「GIR」を、ガス化炉入力指令に加えて出力制御を行う技術について開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4745940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的にコンバインドプラントにおける負荷変化時には、蒸気タービンの出力応答に遅れが生じる。そして、そのような場面では、ガスタービンの出力を、発電機出力指令の変化率よりも早く変化させて、蒸気タービンの出力を補い、コンバインドプラントの出力を発電機出力指令に追従させる制御が行われる。このとき、このガスタービンの動作がシステムガス圧力の変動を引き起こす恐れがある。
IGCCにおいては、このようなガスタービンの動作に加え、負荷変化に応じて、ガスタービン燃料圧力設定値及びガスタービン燃料消費量(発熱量に依存)が変動する為、システムガス圧力が大きく変動してしまう恐れがある。
このシステムガス圧力の変動を、フィードバック制御によって整定(設定した運転状態を継続して保持していること)させる場合(S112)、整定までに時間を要しがちになる問題がある。また、フィードバック制御のゲインを大きくしすぎると、整定時には微小な外乱に対しても過度な応答を示す要因となり、プラントの安定を損ねる恐れがある。
【0007】
そこでこの発明は、上述の課題を解決することのできる制御装置、制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発電システムの制御装置は、
燃料供給装置が燃料の元から燃料を生成し、生成した前記燃料を前記燃料供給装置の出口側に設けられた第一の動力源の前段機構を介して前記第一の動力源に供給し、前記第一の動力源が前記燃料を燃焼して稼働する
ことにより発電を行う発電システムの制御装置であって、
前記前段機構における負荷変化前に設定された前記燃料の圧力と、前記前段機構における負荷変化後の設定された前記燃料の圧力との圧力差に基づいて
、当該圧力差を補い前記負荷変化後の設定された前記燃料の圧力
に変更するための前記前段機構における燃料容量を特定し、前
記燃料供給装置に対する
前記燃料の元の供給量を調整するための指令値であって特定した前記燃料容量の調整を加速して行う燃料供給加速指令値を用いて前記燃料供給装置に対して出力する
前記燃料の元の供給量の指令値である燃料供給指令値を算出する。
【0009】
本発明の発電システムの制御装置によれば、燃料容量の調整を加速して行う燃料供給加速指令値を用いて前記燃料供給装置に対して出力する燃料供給指令値を算出することで急激な負荷変化に対応することができる。
【0010】
また、本発明の発電システムの制御装置は、前記第一の動力源よりも出力応答の遅い第二の動力源を備え、第一の動力源と第二の動力源により発電を行う発電システムの制御装置であって、前記発電システムに対する出力指令値から前記第二の動力源の出力値を減じた前記第一の動力源に対する出力指令値に基づいて算出したベース燃料供給指令値と、前記燃料供給加速指令値とを加算した前記燃料供給指令値を算出して前記燃料供給装置に出力することを特徴とする。
【0011】
本発明の発電システムの制御装置によれば、発電システムに対する出力指令値から第二の動力源の出力値を減じて得た第一の動力源に対する出力指令値に基づくベース燃料供給指令値と、燃料供給加速指令値とを加算した燃料供給指令値を算出して前記燃料供給装置に出力することで第一の動力源(例えば、ガスタービン)よりも出力応答の遅い第二の動力源(例えば、蒸気タービン)の応答遅れに対応することができる。
【0012】
また、本発明の発電システムの制御装置は、前記発電システムに対する出力指令値に基づいて算出したベース燃料供給指令値と、負荷変化における前記第一の動力源による
前記前段機構の前記燃料の圧
力変動に対して入力する
前記燃料の元の供給量を調整するための指令値である出力加速指令値と前記燃料供給加速指令値とに基づいて算出した発電システム加速指令値と、を加算した燃料供給指令値を算出して前記燃料供給装置に出力することを特徴とする。
【0013】
本発明の発電システムの制御装置によれば、蒸気タービンの負荷変化への追従が遅い応答を考慮する必要がない。
【0014】
また、本発明の発電システムの制御装置は、前記ベース燃料供給指令値を大気温度によって補正することを特徴とする。
【0015】
本発明の発電システムの制御装置によれば、大気温度の変化にも対応することができる。
【0016】
また、本発明の発電システムの制御方法は、
燃料供給装置が燃料の元から燃料を生成し、生成した前記燃料を前記燃料供給装置の出口側に設けられた第一の動力源の前段機構を介して前記第一の動力源に供給し、前記第一の動力源が前記燃料を燃焼して駆動する
ことにより発電を行う発電システムを、
前記前段機構における負荷変化前に設定された前記燃料の圧力と、前記前段機構における負荷変化後の設定された前記燃料の圧力との圧力差に基づい
て、前記圧力差を補
い前記負荷変化後の設定された前記燃料の圧力に変更するための前記前段機構における燃料容量を特定し、前
記燃料供給装置に対
する前記燃料の元の供給量を調整するための指令値であって、特定した前記燃料容量
の調整を加速して
行う燃料供給加速指令値を用いて前記燃料供給装置に対して出力する
前記燃料の元の供給量の指令値である燃料供給指令値を算出することによって制御することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の発電システムの制御方法は、前記第一の動力源よりも出力応答の遅い第二の動力源を備え、第一の動力源と第二の動力源により発電を行う発電システムを、前記発電システムに対する出力指令値から前記第二の動力源の出力値を減じた前記第一の動力源に対する出力指令値に基づいて算出したベース燃料供給指令値と、前記燃料供給加速指令値とを加算した前記燃料供給指令値を算出して前記燃料供給装置に出力することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の発電システムの制御方法は、前記発電システムに対する出力指令値に基づいて算出したベース燃料供給指令値と、負荷変化における前記第一の動力源による
前記前段機構の前記燃料の圧
力変動に対して入力する
前記燃料の元の供給量を調整するための指令値である出力加速指令値と前記燃料供給加速指令値とに基づいて算出した発電システム加速指令値と、を加算した燃料供給指令値を算出して前記燃料供給装置に出力することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の発電システムの制御方法は、前記ベース燃料供給指令値を大気温度によって補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、発電プラント全体の圧力・温度バランスを調整し、負荷変化に対しても、発電プラント全体の安定した運転が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】本発明に係る第一実施形態におけるIGCCの出力制御の一例を示す図である。
【
図3】本発明に係る第一実施形態におけるガス化炉入力加速指令の決定方法を説明するための図である。
【
図4】本発明に係る第二実施形態におけるIGCCの出力制御の一例を示す図である。
【
図5】本発明に係る第三実施形態におけるIGCCの出力制御の一例を示す図である。
【
図6】従来のIGCCの出力制御の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第一実施形態>
以下、本発明の一実施形態によるIGCCの出力制御について
図1〜3を参照して説明する。IGCCの構成は、
図1を用いて説明した内容と同じである。本実施形態の発電システム(IGCC)は、燃料を燃焼して稼働する第一の動力源(ガスタービン)と、第一の動力源よりも出力応答の遅い第二の動力源(蒸気タービン)とを備え、それらにより発電機を駆動し発電を行う発電システムである。本実施形態は、制御装置50が燃料供給装置(ガス化炉)に供給する石炭、酸素、空気などの燃料供給量を示すガス化炉入力指令(GID)を決定する方法に関する。
図2は、本実施形態におけるIGCCの出力制御の一例を示す図である。
図2を用いて、本実施形態における制御装置50が行う出力制御について説明する。
制御装置50は、負荷の要求を取得し、負荷に応じた発電機出力指令値(MWD)を決定する(S100)。制御装置50は、例えば発電機9に備えられた出力計で測定した発電機9の出力値を取得し(S101)、発電機出力指令と発電機9の出力値との偏差を計算する(S102)。次に制御装置50は、発電機9の出力が発電機出力指令と一致するようにガスタービン制御を行う(S103)。具体的には、計算した出力値の偏差を補正するためのガスタービンガバナ(「GT GOV」)14の開度を決定し、その値によって、ガスタービンガバナ14を制御する(S104)。これにより、制御装置50は、燃焼器5に供給する燃料を調整し、発電機9の出力を制御する。ガスタービンガバナ開度は、例えば出力値の偏差とガスタービンガバナ開度とを対応付けたテーブルが予め制御装置50が備える記憶部(図示せず)に記録されていて、その値を読み出して決定してもよい。
【0023】
また、制御装置50は、発電機出力指令に応じた負荷変化後のシステムガス圧力の設定値を、関数FXによって求める。次に、制御装置50は、負荷変化前のシステムガス圧力設定値と負荷変化後のシステムガス圧力設定値との差を算出する。なお、負荷変化前のシステムガス圧力設定値は、制御装置50が、予め記憶部に記録してあり、その値を読み込むものとする。そして、制御装置50は、算出した差に応じたガス化炉入力加速指令(GIR)を決定する(S105)。ガス化炉入力加速指令を求めるには、ガス圧力差とガス化炉入力加速指令(GIR)が予め対応付けられて記憶部に記録されており、制御装置50は、この値を記憶部から読み込んで求めてもよいし、読み込んだ値を用いて補間計算によって求めてもよい。なお、システムガス圧力とは、ガス化炉2の出口側のガス管系統における燃料ガスの圧力である。また、システムガスとは燃料ガスである。本実施形態では、ガスタービンの前段機構(ガス管系統)での負荷変化前における設定された燃料ガスの圧力と、負荷変化後における設定された燃料ガスの圧力との圧力差や圧力比に基づいて、負荷変化後における設定された燃料ガスの圧力を保つための必要燃料容量を特定する。そして、この必要燃料容量を補うためのガス化炉入力加速指令を算出し、この値を考慮して燃料の供給量を決定する。「設定された燃料ガスの圧力」は、シミュレーションなどにより算出した計画値でもよいし、実機により測定し求めた値でもよい。また、この燃料容量を考慮したガス化炉入力加速指令については、後に
図3を用いて説明する。
【0024】
また、制御装置50は、所定の方法で測定した蒸気タービンの出力値を取得し(S106)、発電機出力指令との差分を算出する(S107)。蒸気タービンの出力値は、例えば蒸気タービンの出入口における圧力、温度、流量を測定し、計算によって求めてもよい。算出した差分は、ガスタービンに対する出力指令(GT_MWD、ガスタービン出力指令)である。続いて制御装置50は、ガスタービン出力指令に基づいて、ベースガス化炉入力指令(GID0)を決定する(S108)。ベースガス化炉入力指令は、予めガスタービン出力指令に対応したベースガス化炉入力指令が記憶部に記録されていて、制御装置50が、ガスタービン出力指令を用いて対応するベースガス化炉入力指令を読み出して決定してもよいし、読み出した値から補間計算を行って算出して決定してもよい。
【0025】
また、制御装置50は、発電機出力指令に応じて決定するシステムガス圧力の設定値を、関数FX(S109)を用いて決定する。また、制御装置50は、圧力計15で測定した圧力(システムガス圧力)を取得する(S110)。そして、制御装置50は、システムガス圧力設定値とシステムガス圧力との偏差を計算する(S111)。制御装置50は、計算した偏差に基づいて、システムガス圧力制御を行うガス化炉入力指令補正を算出する(S112)。なお、ガス化炉入力指令補正の算出にはPI制御などのフィードバック制御の方法を用いる。
【0026】
最終的に制御装置50は、ガス化炉入力加速指令(GIR)と、ベースガス化炉入力指令(GID0)と、ガス化炉入力指令補正とを合計する(S113)。この合計した値が、ガス化炉入力指令(GID)である(S114)。制御装置50は、合計したガス化炉入力指令に基づいて石炭流量指令(S115)、空気流量指令(S116)、酸素流量指令(S117)の各値を算出し、各制御点に対して出力する。なお、ガス化炉入力指令(GID)とは、ガス化炉への投入物質の流量を決める為の指標であり、GIDを各物質毎に設定された関数に用いて、燃料流量(例えば石炭)及び酸化剤流量(例えば、空気、酸素)を算出するものである。
【0027】
次に、上記の処理のS105で決定したガス化炉入力加速指令について説明する。
図3は、負荷上昇時の負荷変化前後のシステムガス圧力の差によるシステムガス保有量の違いについて説明するための図である。
まず、左図は、負荷変化前のガス管系統(前段機構)の圧力がaであるときのシステムガスの体積を示している。右図は、負荷上昇時に、符号21が示す体積分のシステムガスを追加してシステムガス圧力をbに上昇させたときの、負荷上昇前からガス管系統に存在していたシステムガスの体積を示している。このとき、元々ガス管系統内に存在したシステムガスの体積は、a/bとなる(符号22)。従来は、負荷上昇時にシステムガスの体積が圧縮されることを特に意識せずに、発電機出力指令に応じたベースガス化炉入力指令(S108)をベースとして、システムガス圧力の測定値と設定値との偏差を補正するようなフィードバック制御(S112)を行っていた。その為、発電機の出力値が整定するまでに時間を要していた。
本実施形態では、例えば、
図3の例の場合、符号21が示す体積分のシステムガスを補償する指令値を予め加味したガス化炉入力加速指令(S105)を用いてフィードフォワード制御を行う。そのため、システムガス圧力の設定値とシステムガス圧力の測定値との偏差を小さくすることができ、システムガス圧力の変動を整定するまでの時間を短縮できるという効果が得られる。それにより、負荷変化に対しても発電プラント全体の安定した運転が可能となる。
なお、このときのガス化炉入力加速指令は、ガスタービンの前段機構、つまり圧力計15が備えられたガス化炉2の出口側のガス管系統における、負荷変化前後の燃料ガスの圧力差に基づく、燃料ガスの体積差を考慮したガス化炉入力加速指令(GIR)である。このガス化炉入力加速指令は、シミュレーション及び実機での試運転によって調整して決定される。
【0028】
<第二実施形態>
なお、第一実施形態では、
図2において発電機出力指令から蒸気タービンの出力分を減算してガスタービンに対する出力指令値を算出したが、ベースガス化炉入力指令をガスタービン出力指令に基づいて決定するのではなく、発電機出力指令に基づいて決定する方法(第二実施形態)も考えられる。
図4を用いて第二実施形態について説明する。
図4は、本発明に係る第二実施形態におけるIGCCの出力制御の一例を示す図である。本実施形態では、上述のとおり、ベースガス化炉入力指令を発電機出力指令に基づいて決定する(S108)。その為、本実施形態のガス化炉入力加速指令には、
図3を用いて説明した圧力変化による燃料ガスの体積の変化だけではなく、ガスタービンの動作の加速によるシステムガス圧力の変動を補償する値を加える。IGCCにおいては、蒸気タービンの遅い出力応答を補償し、プラントの出力を発電機出力指令に追従させるため、ガスタービンの動作を加速させるが、その際、ガスタービンの動作がシステムガス圧力の変動を引き起こす恐れがある。本実施形態におけるガス化炉入力加速指令には、このシステムガス圧力の変動を抑えるために入力する指令値である出力加速指令値と、第一実施形態におけるガス化炉入力加速指令とに基づいて算出した値(発電システム加速指令値)を用いる。この出力加速指令値は、ガスタービンの動作によって引き起こされるシステムガス圧力の変動を抑えるための指令値であってシミュレーション及び実機での試運転によって調整して決定される。
なお、ガスタービンの動作の加速分とは、以下の説明におけるαのことをいう。プラント全体の負荷変化として発電機出力指令がX%/minで変化するとした場合、ガスタービンと蒸気タービンの負荷変化率もX%/minで変化しようとする。但し、蒸気タービンの出力は、蒸気への熱伝達等により応答に遅れが発生する。この遅れ具合をα%/minとすると、蒸気タービンの負荷変化率は、X−α%/minとなる。このときプラント全体の発電機出力指令の変化率に合わせる為、ガスタービンの負荷変化率を、X+α%/minとする。
本実施形態によれば、第一実施形態でのガス化炉入力加速指令に加え、更にガスタービン動作の加速を考慮したガス化炉入力加速指令を用いることで、出力応答の遅い蒸気タービンがプラントに含まれる場合でも、負荷変化時のシステムガス圧力の変動を抑制することができる。それにより、負荷変化に対しても発電プラント全体の安定した運転が可能となる。
【0029】
<第三実施形態>
以下、本発明の第三実施形態による出力制御を、
図5を参照して説明する。
図5は、本発明に係る第三実施形態におけるIGCCの出力制御の一例を示す図である。
図5は、第三実施形態における処理のうち、第一実施形態と異なる処理を行う部分だけを抽出した図である。図に含まれていない処理については
図2と同じである。
制御装置50は、要求負荷に応じて発電機出力指令を決定する(S100)。そして、蒸気タービンの出力値を取得して発電機出力指令から蒸気タービンの出力値を減算してガスタービン出力指令(GT_MWD)を算出する(S107)。次に制御装置50は、ガスタービン圧縮機7の近傍に備えられた温度計から大気温度を取得する。次に制御装置50は、記憶部に予め記録された大気温度ごとのベースガス化炉入力指令と、ガスタービン出力指令との相関を示す関数やテーブルなどを用いて、取得した大気温度とガスタービン出力指令を条件に、大気温度補正を行ったベースガス化炉入力指令「GID0 Tx」を算出する。以降の処理については第一実施形態と同様である。つまり本実施形態では、大気温度補正を行ったベースガス化炉入力指令「GID0 Tx」と、ガス化炉入力加速指令と、システムガス圧力補正値とを加算してガス化炉入力指令を算出する。
【0030】
本実施形態によれば、ベースガス化炉入力指令を大気温度に応じて補正することで、大気温度補正を行った石炭流量指令値、空気流量指令値、酸素流量指令値を算出することができる。それにより、第一実施形態の効果に加え、大気温度の影響を受けず発電プラント全体を安定して運転することができる。本実施形態は、第一実施形態及び第二実施形態と組み合わせることが可能である。
【0031】
なお、ガスタービンは、第一の動力源の一例である。また、システムガス圧力は、前段機構における負荷変化前に設定された燃料の圧力の一例である。また、ガス化炉は、燃料を第一の動力源へ供給する燃料供給装置の一例である。また、蒸気タービンは、出力応答の遅い第二の動力源の一例である。また、ガス化炉入力指令は、燃料供給指令値の一例である。また、ベース燃料供給指令値は、ベース燃料供給指令値の一例である。また、ガス化炉入力加速指令は、燃料供給加速指令値の一例である。
【0032】
なお上述の制御装置50は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した制御装置50における各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0033】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0034】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、例えば本発明に係る制御装置は、ガス化炉、ガスタービンを含むPoly−GenerationやIGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)等のプラントにおいて適用可能である。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1・・・石炭供給設備
2・・・ガス化炉
3・・・高温フィルタ
4・・・ガス精製設備
5・・・燃焼器
6・・・ガスタービン
7・・・ガスタービン圧縮機
8・・・蒸気タービン
9・・・発電機
10・・・空気分離装置
11・・・空気昇圧機
12・・・HRSG
13・・・煙突
14・・・ガスタービンガバナ
15・・・圧力計