(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガスバリア層中の、亜鉛のK吸収端のX線広域吸収近傍構造(EXAFS)スペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数において、(0.28nmのスペクトル強度)/(0.155nmのスペクトル強度)の値が0.08〜0.20である請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
前記ガスバリア層は、X線光電子分光法により測定される亜鉛(Zn)原子濃度が1〜35atm%、ケイ素(Si)原子濃度が5〜25atm%、アルミニウム(Al)原子濃度が1〜7atm%、酸素(O)原子濃度が50〜70atm%である請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ガスバリア性フィルム)
本発明者らは、高透明かつ水蒸気遮断性が高く、耐屈曲性を有するガスバリア性フィルムを得ることを目的として鋭意検討を重ね、高分子フィルム基材の少なくとも片側に、少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含有するガスバリア層を有するガスバリア性フィルムであって、該ガスバリア層が、以下の[I]〜[III]のいずれかを満たす構成としたところ、前記課題を解決することを見出したものである。
[I]亜鉛のK吸収端のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルについて、(9664.0eVのスペクトル強度)/(9668.0eVのスペクトル強度)の値が0.910〜1.000である。
[II]亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した割合が、0.1〜1.5であり、以下の式で表される構造密度指数が1.20〜1.40である。
構造密度指数=(X線反射率(XRR)法により求められたガスバリア層の密度)/(X線光電子分光(XPS)法により求められた組成比率から算出された理論密度)
[III]FT−IR測定により測定される波数900〜1,100cm
−1にあるピークを波数920cm
−1と1,080cm
−1とにピーク分離したとき、920cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0以上7.0以下である。
【0015】
ガスバリア層に含まれる酸化亜鉛は、ガスバリア性及び光学特性に優れることから好ましく用いられ、酸化ケイ素は、非晶質膜を形成することやガスバリア性に優れるため好ましく用いられる。以下[I]〜[III]について説明する。なお、[I]〜[III]のいずれかのみを満たしても本発明の効果は得られるが、複数を同時に満たすと、さらに高い効果が得られることからより好ましい。
【0016】
(ガスバリア層が[I]を満たすガスバリア性フィルム)
本発明において、[I]は、亜鉛のK吸収端のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルについて、(9664.0eVのスペクトル強度)/(9668.0eVのスペクトル強度)の値が0.910〜1.000であることが好ましい。かかる特性を有するガスバリア層の構造については、後述する方法により、亜鉛のK吸収端に関して、吸収微細X線構造(XAFS:X−ray Absorption Fine Structure)の評価を行い特定される。XAFSは、X線吸収端近傍構造(XANES:X−ray Absorption Near Edge Structure)と広域X線吸収構造(EXAFS:Extended X−ray Absorption Fine Structure)とに分類される。XANESは、試料のX線吸収端近傍50eV程度の狭い領域に現れる吸収端微細構造のことである。一方、EXAFSは、XANESよりも高エネルギー側である約100eV程度から1keV程度の広い範囲にわたって現れる吸収微細構造のことである。XANESからは、着目原子の価数や構造に関する情報が得られ、EXAFSでは試料の局所構造(着目原子周囲の原子種、価数、距離)に関する情報が主に得られる。
【0017】
XAFSの具体的な測定方法は、以下のとおりである。X線源よりX線を発生させ、モノクロメータにて単色化された後に集光ミラーにてX線を集光させる。X線パス上に試料をセットし、集光ミラーにて集光させたX線を試料に入射させ、試料透過前後のX線強度をイオンチャンバーにて計測する。本手法にて、X線のエネルギーを目的の吸収端を基準として、−500eV〜+1,200eVの範囲でX線エネルギーを走査し、試料透過前後のX線強度より吸光度を算出し、走査エネルギーに対して吸光度をプロットすることにより、X線吸収スペクトルを得ることができる。
【0018】
得られたX線吸収スペクトルについて、50〜300eVの範囲の任意の2点を選択し、Victoreenの式で最小二乗近似し、吸収端より高エネルギー側に外挿することでバックグラウンド除去を行う。次に、100〜1,000eVの範囲の任意の2点を選択し、EXAFS振動成分の振動中心をスプライン関数で近似した曲線の強度が測定範囲のエネルギー領域で1になるように規格化を行い、EXAFS振動成分を抽出する。そして、得られたEXAFS振動成分に波数kの3乗の重み付けを行い、3〜12((オングストローム)
−1)の範囲について有限フーリエ変換することにより、亜鉛原子周りの動径分布関数を得ることができる。
【0019】
ガスバリア層の亜鉛K吸収端のXANESスペクトル(
図7)について、A部(9664.0eVのスペクトル強度)はケイ酸亜鉛成分に由来し、B部(9668.0eVのスペクトル強度)は酸化亜鉛成分に由来する。
【0020】
(9664.0eVのスペクトル強度)/(9668.0eVのスペクトル強度)の値が大きいことはガスバリア層中にケイ酸亜鉛成分の割合が多いことを意味する。一方、(9664.0eVのスペクトル強度)/(9668.0eVのスペクトル強度)の値が小さいことはガスバリア層中に酸化亜鉛の割合が多いことを意味する。(9664.0eVのスペクトル強度)/(9668.0eVのスペクトル強度)の値は0.910〜1.000であることが好ましい。0.910未満である場合、ガスバリア層中のケイ酸亜鉛成分の割合が少なく、緻密性に乏しいため、所望のガスバリア性は得られない場合がある。一方、1.000より大きい場合、ケイ酸亜鉛成分の割合が多く、緻密になりすぎることから、クラックが生じやすくなる場合がある。ガスバリア性の観点より、0.920〜1.000であることがより好ましく、0.920〜0.960であることがさらに好ましい。
【0021】
ガスバリア層の亜鉛K吸収端のEXAFSより得られた動径分布関数(
図9)について、C部(0.155nmのスペクトル強度)はZnOの最近接Zn−Oに起因し、D部(0.28nmのスペクトル強度)はZnOの第2〜3近接のZn−ZnもしくはZn−Siに起因する。
【0022】
(0.28nmのスペクトル強度)/(0.155nmのスペクトル強度)の値が大きいことは、Zn周りの第2〜3近接に存在する原子の秩序性が高いことを意味する。一方、(0.28nmのスペクトル強度)/(0.155nmのスペクトル強度)の値が小さいことは、Zn周りの第2〜3近接に存在する原子の秩序性が低く、結晶性が低いことを意味する。(0.28nmのスペクトル強度)/(0.155nmのスペクトル強度)の値は0.08〜0.20であることが好ましい。0.08未満であると、層中の構造秩序性が低いため、所望のガスバリア性は得られない場合がある。一方、0.20より大きい場合、秩序性が良好になりすぎることから、クラックなどが生じやすくなる場合がある。ガスバリア性の観点より、0.09〜0.20であることがより好ましく、0.09〜0.15であることがさらに好ましい。また、0.12〜0.14であることが特に好ましい。
【0023】
(ガスバリア層が[I]を満たすガスバリア性フィルムの製造方法)
ガスバリア層が[I]を満たすガスバリア性フィルムの製造方法は、高分子フィルム基材の少なくとも片側に、少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含むガスバリア層を形成するガスバリア性フィルムの製造方法であって、該ガスバリア層を以下に述べる方法にて形成するものである。
【0024】
本発明において、[I]を満たすガスバリア層は、スパッタリング、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法などによって形成できる。これらの方法の中でも、安価、簡便かつ所望の層の性質を得られる手法として、スパッタリングが好ましい。また、スパッタリングの方法は枚葉式、ロールツーロールなどいずれの方法で行ってもよい。
図3〜5には枚葉式で行う場合のスパッタリング装置の一例を、
図6(a)(b)にはロールツーロールで行う場合のスパッタリング装置の一例を示す。
【0025】
本発明における[I]を満たすガスバリア層をスパッタリングにより形成するには、少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含有し、亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した割合が、1.4〜8.5であるターゲット材料を用い、高分子フィルム基材の表面を40〜200℃の温度としてからスパッタリングを行うことにより得ることができる(以降、亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した割合を「亜鉛/ケイ素比」と記すこともある)。かかる条件を適用することにより、スパッタリングを行う際にガスバリア層を形成する無機材料粒子が高分子フィルム基材の表面に均一に拡散することにより、ガスバリア層の緻密化を図ることができ、類似構成でこれまで達成不可能であった高いガスバリア性が得られる。なお、スパッタリングを行う際にガスバリア層を形成する無機材料粒子が高分子フィルム基材の表面に均一に拡散することを「粒子の表面拡散性」と略記することもある。以下各条件について、詳細を記す。
【0026】
ターゲット材料の亜鉛/ケイ素比は、上述の通り1.4〜8.5であることが好ましい。亜鉛/ケイ素比が1.4より小さいと、ガスバリア層を形成した際に軟らかい金属である亜鉛が少なくなるため、ガスバリア層が柔軟性に乏しくなる場合がある。かかる観点から、亜鉛/ケイ素比は1.5以上であることがより好ましい。また、亜鉛/ケイ素比が8.5より大きいと、ガスバリア層を形成した際に非晶質構造を取り難くなり、クラックが生じやすくなる場合がある。かかる観点から、亜鉛/ケイ素比は6.5以下であることがより好ましい。
【0027】
そして、高分子フィルム基材の表面の温度を40〜200℃に調節してからスパッタリングを行うことで、粒子の表面拡散性が向上し、これによりガスバリア層の緻密化を図ることが可能となることから好ましい。なお、「高分子フィルム基材の表面の温度を40〜200℃に調節してからスパッタリングを行う」とは、スパッタリングを行う前に高分子フィルム基材の表面の温度を40〜200℃とすることを表す。すなわち、スパッタリング中には無機材料粒子の衝突により一般に高分子フィルム基材の表面の温度が上昇するが、かかる温度上昇分は含まない温度を示すものである。高分子フィルム基材の表面の温度が40℃より低いと、十分な粒子の表面拡散性の向上効果が得られず、ガスバリア性が不十分となる場合がある。一方、高分子フィルム基材の表面の温度が200℃より高いと、高分子フィルム基材に溶融変形が生じ、ガスバリア性フィルムとして使用することができなくなる場合がある。成膜を行う前の高分子フィルム基材の表面の温度は、ガスバリア性やフィルムの熱負けを抑制する観点より、100〜180℃に調節することが好ましく、100〜150℃であることがより好ましい。
【0028】
高分子フィルム基材の表面の温度を調節する方法としては、IRヒーターにより高分子フィルム基材の表面側から加熱する方法、通常はクーリングドラムとして用いるスパッタリング時に高分子フィルム基材を支持するメインロール(
図6(a)(b)における符号17で示されるロール)を加熱することで高分子フィルム基材の裏面側から加熱する方法などが挙げられる。なお、加熱する方法については、前記した温度範囲に調整することができるものであれば、これらに限定されるわけではないが、前記した中では、高分子フィルム基材の表面側が効率的に加熱されることから、IRヒーターにより高分子フィルム基材を表面側から加熱する方法が好ましい。また、IRヒーターにより高分子フィルムを表面側から加熱する場合、高分子フィルム基材の表面温度を均一にする観点や飛来するスパッタ粒子が効率的に加熱される観点から、
図6(a)のようにスパッタリングターゲットとIRヒーターを交互に配置することが好ましい。さらに、フィルムの熱負けを抑える観点から、IRヒーターにより高分子フィルムを表面側から加熱する場合は、高分子フィルム基材の裏面側を冷却することが好ましい。
【0029】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法において亜鉛/ケイ素比が1.4〜8.5であるターゲット材料を用いて、高分子フィルム基材の表面温度を40〜200℃として、成膜を行うことが好ましいことは上述の通りであるが、この際形成されるガスバリア層の亜鉛/ケイ素比は、0.1〜1.5であることが好ましい。ガスバリア層の亜鉛/ケイ素比が1.5より大きくなると、ガスバリア層を構成する成分が結晶化しクラックが生じやすくなることでガスバリア層が割れやすくなる場合がある。ガスバリア層の亜鉛/ケイ素比が0.1より小さくなると、ガスバリア層を柔軟性の高い膜質にする亜鉛原子がガスバリア層中に少なくなることで、ガスバリア層が割れやすくなる場合がある。ターゲット材料と得られたガスバリア層の亜鉛/ケイ素比が上記のように大きく異なるのは、高分子フィルム基材の表面の加熱を行うことにより、蒸気圧の高い亜鉛原子が抜けやすくなったためである。ガスバリア性フィルムの柔軟性、ガスバリア性の観点より、ガスバリア層の亜鉛/ケイ素比を0.3〜1.2とすることがより好ましい。
【0030】
ガスバリア層における亜鉛のK吸収端のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルについて、(9664.0eVのスペクトル強度)/(9668.0eVのスペクトル強度)の値が0.910よりも小さい場合、IRヒーターの出力を上げることにより高分子フィルム基材の表面温度を上げる方法や、スパッタリングターゲットと高分子フィルム基材の距離を狭くする方法を適用することで粒子の表面拡散性を向上させて、当該値を上昇させることが可能であり、当該値が1.000よりも大きい場合、亜鉛/ケイ素比を下げたスパッタリングターゲットを使用する方法や、IRヒーターの出力を下げる方法を適用することにより高分子フィルム基材の表面温度を下げることにより、当該値を低下させることが可能である。
【0031】
(ガスバリア層が[II]を満たすガスバリア性フィルム)
本発明において、[II]は、亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した割合が、0.1〜1.5であり、以下の式で表される構造密度指数が1.20〜1.40である。
構造密度指数=(X線反射率(XRR)法により求められたガスバリア層の密度)/(X線光電子分光(XPS)法により求められた組成比率から算出された理論密度)
ガスバリア層の亜鉛/ケイ素比は、0.1〜1.5であることが好ましい。ガスバリア層の亜鉛/ケイ素比が1.5より大きくなると、ガスバリア層を構成する成分が結晶化しクラックが生じやすくなることでガスバリア層が割れやすくなる場合がある。ガスバリア層の亜鉛/ケイ素比が0.1より小さくなると、ガスバリア層を柔軟性の高い膜質にする亜鉛原子がガスバリア層中に少なくなることで、ガスバリア層が割れやすくなる場合がある。
【0032】
構造密度指数とは、ガスバリア層の緻密性を評価する指標であり、ガスバリア層について、X線光電子分光(XPS)法により求められた組成比より理論密度を算出し、X線反射率(XRR)法によって実測密度を求め、実測密度/理論密度の計算により求めるものである。理論密度は、化合物1gが薄膜においてどの程度の体積を占めているかを、以下に基づいて算出するものを用いる。
【0033】
理論密度[g/cm
3]=薄膜1[g]/(1g中の化合物Aの体積[cm
3]+1g中の化合物Bの体積[cm
3]+・・・+1g中の化合物Zの体積[cm
3])
例えば、ガスバリア層の含有組成比率が下記3種類の元素で構成されている場合は以下のように計算することが可能である。ただし、すべての元素について、完全酸化物を仮定する。
ZnO
61.0[atm%] 実測密度5.60[g/cm
3] 分子量 81.4
SiO
2 35.0[atm%] 実測密度2.20[g/cm
3] 分子量 60.1
Al
2O
3 4.0[atm%] 実測密度3.97[g/cm
3] 分子量102.0
理論密度[g/cm
3]=1[g]/{{61.0[atm%]×81.4/(61.0[atm%]×81.4+35.0[atm%]×60.1+4.0[atm%]×102.0)}+{35.0[atm%]×60.1/(61.0[atm%]×81.4+35.0[atm%]×60.1+4.0[atm%]×102.0)}+{4.0[atm%]×102.0/(61.0[atm%]×81.4+35.0[atm%]×60.1+4.0[atm%]×102.0)}}
=3.84[g/cm
3]
上記の計算により得られた構造密度指数の値が大きいことはガスバリア層がより緻密であることを意味する。一方、構造密度指数の値が小さいことは、ガスバリア層が緻密でなく、欠陥やクラックが存在しやすいことを意味する。本発明のガスバリア性フィルムのガスバリア層に関して、構造密度指数は1.20〜1.40であることが好ましい。1.20より小さい場合、ガスバリア層の空隙や欠陥が多く存在すると考えられ、良好なガスバリア性が得られない場合がある。一方、構造密度指数が1.40より大きい場合、所望のものと異なる配位構造をとりうるようになるため、良好なガスバリア性が得られなくなる場合がある。ガスバリア性の観点より、構造密度指数は1.25〜1.35であることがより好ましい。1.30〜1.35の範囲にあることがさらに好ましい。
【0034】
(ガスバリア層が[II]を満たすガスバリア性フィルムの製造方法)
ガスバリア層が[II]を満たすガスバリア性フィルムの製造方法は、高分子フィルム基材の少なくとも片側に、少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含むガスバリア層を形成するガスバリア性フィルムの製造方法であって、該ガスバリア層を以下に述べる方法にて形成するものである。
【0035】
本発明において[II]を満たすガスバリア層は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含有し、亜鉛/ケイ素比が、1.4〜8.5であるターゲット材料を用いて、高分子フィルム基材の表面を40〜200℃の温度としてから、スパッタリングを行うことにより、ガスバリア層を形成することができる。かかる条件を適用すると、粒子の表面拡散性が良好となることから、ガスバリア層の緻密化を図ることができ、類似構成でこれまで達成不可能であった高いガスバリア性が得られる。
【0036】
使用するターゲット材料について、亜鉛/ケイ素比が、1.4〜8.5であることが好ましい。亜鉛/ケイ素比が1.4より小さい場合、ガスバリア層を形成した際に軟らかい金属である亜鉛が少なくなるため、ガスバリア層が柔軟性に乏しくなる場合がある。かかる観点から、亜鉛/ケイ素比は1.5以上であることがより好ましい。また、亜鉛/ケイ素比が8.5より大きい場合、ガスバリア層を形成した際に非晶質構造を取り難くなり、クラックが生じやすくなる場合がある。かかる観点から、亜鉛/ケイ素比は6.5以下であることがより好ましい。
【0037】
そして、高分子フィルム基材の表面の温度を40〜200℃に調節してからスパッタリングを行うことで、粒子の表面拡散性が向上し、これによりガスバリア層の緻密化を図ることが可能となることから好ましい。なお、「高分子フィルム基材の表面の温度を40〜200℃に調節してからスパッタリングを行う」とは、[I]の場合と同様スパッタリングを行う前に高分子フィルム基材の表面の温度を40〜200℃とすることを表す。すなわち、スパッタリング中には無機材料粒子の衝突により一般に高分子フィルム基材の表面の温度が上昇するが、かかる温度上昇分は含まない温度を示すものである。高分子フィルム基材の表面の温度が40℃より低いと、十分な粒子の表面拡散性の向上効果が得られず、ガスバリア性が不十分となる場合がある。一方、高分子フィルム基材の表面の温度が200℃より高いと、高分子フィルム基材に溶融変形が生じ、ガスバリア性フィルムとして使用することができなくなる場合がある。
【0038】
高分子フィルム基材の表面の温度を調節する方法としては、IRヒーターにより高分子フィルム基材の表面側から加熱する方法、通常はクーリングドラムとして用いるスパッタリング時に高分子フィルム基材を支持するメインロール(
図6(b)における符号17で示されるロール)を加熱することで高分子フィルム基材の裏面側から加熱する方法などが挙げられる。なお、加熱する方法については、前記した温度範囲に調整することができるものであれば、これらに限定されるわけではないが、前記した中では、高分子フィルム基材の表面側が効率的に加熱されることから、IRヒーターにより高分子フィルム基材を表面側から加熱する方法が好ましい。
【0039】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法において亜鉛/ケイ素比が1.4〜8.5であるターゲット材料を用いて、高分子フィルム基材の表面温度を40〜200℃として、スパッタリングを行うことが好ましいことは上述の通りであるが、この際形成されるガスバリア層の亜鉛/ケイ素比は、0.1〜1.5であることが好ましい。ガスバリア層の亜鉛/ケイ素比が1.5より大きくなると、ガスバリア層を構成する成分が結晶化しクラックが生じやすくなることでガスバリア層が割れやすくなる場合がある。ガスバリア層の亜鉛/ケイ素比が0.1より小さくなると、ガスバリア層を柔軟性の高い膜質にする亜鉛原子がガスバリア層中に少なくなることで、ガスバリア層が割れやすくなる場合がある。ターゲット材料と得られたガスバリア層の亜鉛/ケイ素比が上記のように大きく異なるのは、高分子フィルム基材の表面の加熱を行うことにより、蒸気圧の高い亜鉛原子が抜けやすくなったためである。ガスバリア性フィルムの柔軟性、ガスバリア性の観点より、ガスバリア層の亜鉛/ケイ素比を0.3〜1.2とすることがより好ましい。
【0040】
ターゲット材料およびガスバリア層の組成比率は、後述するようにX線光電子分光法(以降、XPS法と記す場合もある)により測定することができる。ここで、ターゲット材料およびガスバリア層の最表面は一般に過剰酸化されており、内部の組成比率と異なるため、XPS法による分析の前処理としてアルゴンイオンを用いたスパッタエッチングにより、最表層を5nm、エッチングして除去した後、組成分析を行い得た原子濃度を、本発明における原子濃度とする。
【0041】
ターゲット材料の組成比率は、亜鉛(Zn)原子濃度が3〜37atm%、ケイ素(Si)原子濃度が5〜20atm%、アルミニウム(Al)原子濃度が1〜7atm%、酸素(O)原子濃度が50〜70atm%の範囲にあることが好ましい。亜鉛原子濃度が3atm%よりも少ない、またはケイ素原子濃度が20atm%よりも多いと、ガスバリア層を柔軟性の高い膜質にする亜鉛原子の割合が少なくなるため、ガスバリア層を形成した際にガスバリア性フィルムの柔軟性が損なわれる場合がある。かかる観点から、亜鉛原子濃度は、5atm%以上であることがより好ましい。亜鉛原子濃度が37atm%よりも多い、またはケイ素原子濃度が5atm%よりも少ないと、ケイ素原子の割合が少なくなることで形成されるガスバリア層は結晶膜になりやすく、クラックが入りやすくなる場合がある。かかる観点から、亜鉛原子濃度は、36.5atm%以下であることがより好ましい。また、同様の観点からケイ素原子濃度は、7atm%以上であることがより好ましい。アルミニウム原子濃度が1atm%よりも少ないと、ターゲット材料の導電性が損なわれるため、DCスパッタリングを行うことができなくなる場合がある。また、アルミニウム原子濃度が7atm%よりも多いと、ガスバリア層を形成した際に、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が過剰に高くなるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。酸素原子濃度が50atm%よりも少ないと、形成されるガスバリア層は酸化不足になりやすく、光線透過率が低下する場合がある。酸素原子濃度が70atm%よりも多いと、ガスバリア層を形成する際に酸素が過剰に取り込まれやすくなるため、空隙や欠陥が増加し、ガスバリア性が低下する場合がある。
【0042】
(ガスバリア層が[III]を満たすガスバリア性フィルム)
本発明において、[III]は、FT−IR測定により測定される波数900〜1,100cm
−1にあるピークを波数920cm
−1と1,080cm
−1とにピーク分離したとき、920cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0以上7.0以下である。
【0043】
本発明のガスバリア層は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含有することから、後述する方法により、FT−IR測定した際、酸化亜鉛と二酸化ケイ素およびその複合物により波数900〜1,100cm
−1にピークをもつ吸収スペクトルが得られる。そして、前記波数900〜1,100cm
−1のピークをZn−O−Si結合の吸収に由来する920cm
−1とSi−O−Si結合に由来する1,080cm
−1とにピーク分離し、それぞれのスペクトルの面積強度を比較することで、前記ガスバリア層に含まれるSi−O−Si結合とZn−O−Si結合の比率情報を得ることができる。このとき、波数900〜1,100cm
−1のピークをピーク分離する際、後述のソフトを用いて、ベースラインとして650cm
−1と1,400cm
−1におけるスペクトル値の2点を結ぶ直線を設定し、ガウス関数を2つ設定する。ガウス関数の1つのピーク位置のみを1,080cm
−1に固定値とし設定し計算を実施する。計算の結果、1,080cm
−1にピークをもつスペクトルの面積強度と900〜940cm
−1にピーク位置が計算されたものをZn−O−Si結合の吸収に由来する920cm
−1のピークとし、スペクトルの面積強度をそれぞれ求めて比率をとる。
【0044】
本発明において、[III]を満たすガスバリア層は、920cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0以上7.0以下が好ましい。920cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0未満であると、Si−O−Si結合の比率が増加し柔軟性が乏しく割れやすいガスバリア層となる場合があり、また、920cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が7.0より大きくなるとSi−O−Si結合の比率が少なくなるためアモルファス性が低下し、容易にクラックが入りバリア性が低下する場合がある。より好ましくは1.0以上6.0以下であり、さらに好ましくは1.0以上5.0以下である。
【0045】
また、前記ガスバリア層内に酸化亜鉛と二酸化ケイ素およびその複合物以外の含有物で波数900〜1,100cm
−1にピークを持つ吸収スペクトルが得られる場合は、含有物由来のピークを分離・除去した後、920cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値を求めることが好ましい。このとき、前述同様にピーク分離を実施するが、ガウス関数を3つ以上設定するとき(900〜1,100cm
−1に3つ以上ピークを持つ)、少なくともガウス関数のピーク位置を920cm
−1と1,080cm
−1とを固定値とし計算を実施し、それぞれの面積強度を計算する。
【0046】
(ガスバリア層が[III]を満たすガスバリア性フィルムの製造方法)
ガスバリア層が[III]を満たすガスバリア性フィルムの製造方法は、高分子フィルム基材の少なくとも片側に、少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含有するガスバリア層を形成するガスバリア性フィルムの製造方法であって、該ガスバリア層を以下に述べる方法にて形成するものである。
【0047】
すなわち、酸素を含むガス圧を0.20Pa未満としてスパッタリングを行うことにより、ガスバリア層を形成する工程を含む製造方法である。酸素を含まないガス(たとえばArガスのみ)でスパッタリングを実施すると、ガスバリア層の酸素欠損が多く、Si−O−Si結合およびZn−O−Siの結合ができ難くなる場合がある。さらに、前記ガスバリア層は光の透過率が低い黒色の膜となってしまう場合がある。また、ガス圧を0.20Pa以上でスパッタリングを実施すると920cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が7より大きくなり、Si−O−Si結合が少なくなる場合がある。
【0048】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、スパッタリング時の高分子フィルム基材が以下の(1)および(2)を満たすことが好ましい。なおここでいう「スパッタリング時」とは、「スパッタリング中」を表す。すなわち、スパッタリング中には無機材料粒子の衝突により一般に高分子フィルム基材の表面の温度が上昇するが、かかる温度上昇分を含む温度を示すものである。
(1)ガスバリア層が形成される面とは逆の面の温度が−20℃以上、150℃以下
(2)(ガスバリア層が形成される面の温度)−(ガスバリア層が形成される面とは逆の面の温度)≦100(℃)。
【0049】
スパッタリング時に、(ガスバリア層が形成される面の温度)−(ガスバリア層が形成される面とは逆の面の温度)が100℃より大きいと、該高分子フィルム基材の両面の熱収縮差が大きくなるため、カールや熱負けが発生する場合がある。また、該高分子フィルム基材のガスバリア層が形成される面とは逆の面の温度が−20℃以上、150℃以下であることが好ましい。該高分子フィルム基材のガスバリア層が形成される面とは逆の面が−20℃以上のとき、ガスバリア層が920cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が7.0以下となるため好ましい。また、150℃以下のとき、920cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm
−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0以上となり好ましい。
【0050】
通常、スパッタリングによりガスバリア層が形成される面は、ガスバリア層が形成される面とは逆の面に対し温度が高くなるが、ガスバリア層が形成される面とは逆の面の温度が−20℃以上、150℃以下であり、かつ(ガスバリア層が形成される面の温度)−(ガスバリア層が形成される面とは逆の面の温度)≦100(℃)であれば高分子フィルム基材の熱負けによるフィルム切れを抑制することができるため好ましい。
【0051】
このとき高分子フィルム基材の両面の温度測定は、放射温度計、熱電対など公知の技術が使用できる。好ましくは、高分子フィルム基材の両面中央側に熱電対を金属部が露出しないように耐熱テープで貼り付け、温度を測定するとスパッタリング時の熱履歴が分かり好ましい。
【0052】
(ガスバリア層の硬度)
ガスバリア層の硬度は、ナノインデンテーション法(連続剛性測定法)により、測定することができる。ナノインデンテーション法とは、押し込み試験中に圧子を微小振動させ、振動に対する応答振幅、位相差を時間の関数として取得し、押し込み深さの連続的変化に対応して、圧子除荷時の初期勾配を連続的に算出する方法である。本発明のガスバリア層について、硬度は0.8〜1.8GPaであることが好ましい。0.8GPa未満であると、ガスバリア層が軟らかすぎることにより、傷がつきやすくなる場合がある。一方、1.8GPaよりも大きいと、ガスバリア層が硬いことより、所望の耐屈曲性が得られなくなる場合がある。耐傷つき性および耐屈曲性の観点より、0.85〜1.5GPaであることがより好ましい。さらに好ましくは、0.85〜1.1GPaの範囲である。
【0053】
(ガスバリア層の厚み)
ガスバリア層の厚みは、50〜300nmが好ましく、100〜200nmがより好ましい。ガスバリア層の厚みが50nmよりも薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が生じる場合がある。また、300nmよりも厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によってガスバリア層にクラックが発生しやすくなり、ガスバリア性が低下する場合がある。
【0054】
(ガスバリア層に含まれる酸化亜鉛と二酸化ケイ素以外の成分)
ガスバリア層には、少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とが含まれていれば、上記以外の無機化合物が含まれていても構わない。例えば、亜鉛、ケイ素、アルミニウム,チタン,スズ,インジウム,ニオブ,タンタル,ジルコニウム等の元素の酸化物、窒化物、硫化物等、またはそれらの混合物を含んでいても構わない。ガスバリア性の観点より、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、窒化ケイ素を含むことがより好ましく、酸化アルミニウムを含むことがさらに好ましい。
【0055】
(ガスバリア層の密度)
形成したガスバリア層の密度は、X線反射率法(XRR法)により測定することができる。XRR法とは、X線を試料表面に極浅い角度(0〜5°程度)で入射させ、その入射角対鏡面方向に反射したX線強度プロファイルを測定する。この測定により得られたプロファイルに対してシミュレーション解析を行い最適化することにより、試料の厚み、層の密度、粗さを決定する手法である。XRR法により測定されるガスバリア層の密度は、1〜7g/cm
3であることが好ましい。1g/cm
3より小さいと、得られたガスバリア層は緻密でなく、十分なガスバリア性が得られない場合がある。一方、ガスバリア層の密度が7g/cm
3より大きいとガスバリア層が硬くなりやすく、ガスバリア層が割れやすくなる場合がある。ガスバリア性や屈曲性の観点より、ガスバリア層の密度は2〜7g/cm
3であることがより好ましく、2〜5g/cm
3であることがさらに好ましい。
【0056】
(ガスバリア層の組成比率)
ガスバリア層の組成比率は、後述するようにX線光電子分光法(XPS法)により測定することができる。ここで、ガスバリア層の最表面は一般に過剰酸化されており、内部の組成比率と異なるため、XPS法による分析の前処理としてアルゴンイオンを用いたスパッタエッチングにより、最表層を5nm程度エッチングして除去した後、組成分析を行い得た原子濃度を、本発明における原子濃度とする。
【0057】
ガスバリア層の組成比率は、亜鉛(Zn)原子濃度が1〜35atm%、ケイ素(Si)原子濃度が5〜25atm%、アルミニウム(Al)原子濃度が1〜7atm%、酸素(O)原子濃度が50〜70atm%の範囲にあることが好ましい。
【0058】
亜鉛原子濃度が1atm%よりも少ない、またはケイ素原子濃度が25atm%よりも多いと、ガスバリア層を柔軟性の高い性質にする亜鉛原子の割合が少なくなるため、ガスバリア性フィルムの柔軟性が低下する場合がある。かかる観点から、亜鉛原子濃度は、3atm%以上であることがより好ましい。亜鉛原子濃度が35atm%よりも多い、またはケイ素原子濃度が5atm%よりも少ないと、ケイ素原子の割合が少なくなることでガスバリア層は結晶層になりやすく、クラックが入りやすくなる場合がある。かかる観点から、ケイ素原子濃度は、7atm%以上であることがより好ましい。アルミニウム原子濃度が1atm%よりも少ないと、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が損なわれるため、ガスバリア層には空隙や欠陥が生じやすくなる場合がある。また、アルミニウム原子濃度が7atm%よりも多いと、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が過剰に高くなるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。酸素原子濃度が50atm%よりも少ないと、亜鉛、ケイ素、アルミニウムは酸化不足となり、光線透過率が低下する場合がある。また、酸素原子濃度が70atm%よりも多いと、酸素が過剰に取り込まれるため、空隙や欠陥が増加し、ガスバリア性が低下する場合がある。
【0059】
(高分子フィルム基材)
本発明に適用される高分子フィルム基材としては、有機高分子化合物を含むフィルムであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーを含むフィルムなどを使用することができる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートを含むフィルムであることが好ましい。高分子フィルム基材を構成するポリマーは、ホモポリマー、コポリマーのいずれでもよいし、また、単独のポリマーであってもよいし複数のポリマーをブレンドして用いてもよい。
【0060】
また、高分子フィルム基材として、単層フィルム、あるいは、2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムや、一軸方向あるいは二軸方向に延伸されたフィルム等を使用してもよい。ガスバリア層を形成する側の基材表面には、密着性を良くするために、コロナ処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、粗面化処理、および、有機物または無機物あるいはそれらの混合物で構成されるアンカーコート層の形成処理、といった前処理が施されていても構わない。また、ガスバリア層を形成する側の反対面には、フィルムの巻き取り時の滑り性の向上および、ガスバリア層を形成した後にフィルムを巻き取る際にガスバリア層との摩擦を軽減することを目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が施されていても構わない。本発明に使用する高分子フィルム基材の厚さは特に限定されないが、ガスバリア性フィルムの柔軟性を確保する観点から500μm以下が好ましく、引っ張りや衝撃に対する強度を確保する観点から5μm以上が好ましい。また、フィルムの加工やハンドリングの容易性から10μm〜200μmがさらに好ましい。
【0061】
(アンカーコート層)
本発明に適用される高分子フィルム基材の表面には、蒸着層との密着性の向上を目的として
図2に示すようにアンカーコート層を形成することが好ましい。スパッタリングの際にアンカーコート層上に飛来してきたスパッタ粒子の表面拡散性を確保するため、アンカーコート層の鉛筆硬度はH以上3H以下であることが好ましい(鉛筆硬度は、(軟)10B〜B、HB、F、H〜9H(硬)である)。Hより軟らかいと、スパッタ粒子が飛来した際に、ミキシングが起こりやすくなり、十分な表面拡散性が得られないため、ガスバリア層の緻密化を図ることが難しい場合がある。一方、3Hより硬い場合、ガスバリア性フィルムの屈曲性が損なわれ、ガスバリア層にクラックが入りやすくなる場合がある。
【0062】
得られたガスバリア性フィルムの高分子フィルムとガスバリア層との間に、アンカーコート層を有することにより、高分子フィルム基材に直接ガスバリア層を作製した場合よりもガスバリア層の平坦性が向上し、ガスバリア性が向上することや高分子フィルム基材上に直接ガスバリア層を施した場合よりもガスバリア性フィルムの柔軟性が向上する。
【0063】
このアンカーコート層に用いられる材料としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等が挙げられ、これらを1または2種以上併せて使用することもできる。本発明に用いるアンカーコート層の材料としては耐溶剤性の観点から主剤と硬化剤とからなる二液硬化型樹脂が好ましく、ガスバリア性、耐水性の観点からポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を主剤として使用することがより好ましい。硬化剤としてはガスバリア性、透明性などの特性を阻害しない範囲内であれば、特に限定されることはなく、イソシアネート系、エポキシ系などの一般的な硬化剤を使用することができる。これらのアンカーコート層には、既知の添加剤を含有させることもできる。
【0064】
本発明に用いるアンカーコート層の厚みは、0.3〜10μmが好ましい。層の厚みが0.3μmより薄くなると、高分子フィルム基材1の凹凸の影響を受けて、ガスバリア層の表面粗さが大きくなる可能性があり、ガスバリア性が低下する場合がある。層の厚みが10μmより厚くなると、アンカーコート層の層内に残留する応力が大きくなることによって高分子フィルム基材1が反り、ガスバリア層にクラックが発生するため、ガスバリア性が低下する場合がある。従って、アンカーコート層の厚みは0.3〜10μmが好ましい。さらに、フレキシブル性を確保する観点から1〜3μmがより好ましい。
【0065】
高分子フィルム基材の表面にアンカーコート層を形成する方法としては上記のアンカーコート層の材料に溶剤、希釈剤等を加えて塗剤とした後、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の方法により高分子フィルム基材上にコーティングして塗膜を形成し、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコート層を形成することができる。塗膜の乾燥方法は、熱ロール接触法、熱媒(空気、オイルなど)接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が利用できる。中でも、本発明のアンカーコート層の厚みである0.3〜10μmの厚みの層を塗工するに好適な手法として、グラビアコート法が好ましい。
【0066】
本発明のガスバリア性フィルムは、水蒸気等に対するガスバリア性に優れているので、例えば、食品、医薬品などの包装材および薄型テレビ、フレキシブルディスプレイ、太陽電池などの電子デバイス部材として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0067】
[評価方法]
以下の評価を行った。なお、測定n数についての記載がないものは、n=1である。
【0068】
(1)吸収微細X線構造
ガスバリア層の構造は吸収微細X線構造(XAFS)を用いて評価を行った。すなわち、X線源よりX線を発生させ、モノクロメータにて単色化された後に集光ミラーにてX線を集光させた。X線パス上に試料をセットし、集光ミラーにて集光させたX線を試料に入射させ、試料透過前後のX線強度をイオンチャンバーにて計測した。本手法にて、X線のエネルギーを目的の吸収端を基準として、−500eV〜+1,200eVの範囲でX線エネルギーを走査し、試料透過前後のX線強度より吸光度を算出し、走査エネルギーに対して吸光度をプロットすることにより、X線吸収スペクトルを得た。
【0069】
X線吸収スペクトルの解析はシカゴ大学作成のフリーソフトATHENA(バージョン:0.8.061)を用いて行った。得られたX線吸収スペクトルについて、−30eVと−300eVの2点を選択し、Victoreenの式で最小二乗近似し、吸収端より高エネルギー側に外挿することでバックグラウンド除去を行った。次に、150eVと1,000eVの2点を選択し、EXAFS振動成分の振動中心をスプライン関数で近似した曲線の強度が測定範囲のエネルギー領域で1になるように規格化を行い、EXAFS振動成分を抽出した。そして、得られたEXAFS振動成分に波数kの3乗の重み付けを行い、3〜12((オングストローム)
−1)の範囲について有限フーリエ変換することにより、亜鉛原子周りの動径分布関数を得た。
【0070】
測定条件は下記の通りとした。
・実験施設 :高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設(Photon Factory)
・実験ステーション :BL9A
・分光器 :Si(111)2結晶分光器
・ミラー :集光ミラー
・吸収端 :Zn K(9660.7eV)吸収端
・検出法 :透過法
・使用検出器 :イオンチャンバー。
【0071】
(2)層の厚みおよび密度の評価
ガスバリア層の厚み及び密度はX線反射率法(XRR法)を用いて評価を行った。すなわち、高分子フィルム基材の上に形成されたガスバリア層に、斜方向からX線を照射し、入射X線強度に対する全反射X線強度のガスバリア層表面への入射角度依存性を測定することにより、得られた反射波のX線強度プロファイルを得た。その後、X線強度プロファイルのシミュレーションフィッティングを行い、各領域の厚み、密度を求めた。
【0072】
測定条件は下記の通りとした。
・装置 :Rigaku製SmartLab
・解析ソフト :Rigaku製GrobalFit
・サンプルサイズ :30mm×40mm
・入射X線波長 :0.1541nm(CuKα
1線)
・出力 :45kV、30mA
・入射スリットサイズ:0.05mm×5.0mm
・受光スリットサイズ:0.05mm×20.0mm
・測定範囲(θ) :0〜4.0°
・ステップ(θ) :0.002° 。
【0073】
(3)組成分析
ガスバリア層の組成分析は、X線光電子分光法(XPS法)により行った。すなわち、アルゴンイオンを用いたスパッタエッチングにより、最表層を5nm程度エッチングして除去した後、各元素の含有比率を測定した。ガスバリア層中における組成傾斜はないものとし、この測定点における組成比率を、ガスバリア層の組成比率とした。
XPS法の測定条件は下記の通りとした。
・装置 :ESCA 5800(アルバックファイ社製)
・励起X線 :monochromatic AlKα
・X線出力 :300W
・X線径 :800μm
・光電子脱出角度 :45°
・Arイオンエッチング :2.0kV、10mPa。
【0074】
(4)水蒸気透過率測定
温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cm
2の条件で、英国、テクノロックス(Technolox)社製の水蒸気透過率測定装置(機種名:DELTAPERM(登録商標))を使用して測定した。サンプル数は水準当たり2サンプルとし、測定回数は同一サンプルについて各5回測定を行った。1つのサンプルについて5回測定を行い得たデータを平均し、小数点第2位を四捨五入し、当該サンプルにおける平均値を求めた。同様に別のサンプルの平均値を求め、2つのサンプルの平均値をさらに平均した上で、小数点第2位を四捨五入し、その値を水蒸気透過度(g/(m
2・24hr・atm))とした。DELTAPERMにて測定下限(1.0×10
−4g/m
2・24hr・atm)以下の測定試料については、温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cm
2の条件で、MORESCO社製の水蒸気透過率測定装置(機種名:スーパーディテクトSKT(登録商標))を使用して測定した。サンプル数は水準当たり2サンプルとし、測定回数は同一サンプルについて各5回測定を行った。1つのサンプルについて5回測定を行い得たデータを平均し、小数点第2位を四捨五入し、当該サンプルにおける平均値を求めた。同様に別のサンプルの平均値を求め、2つのサンプルの平均値をさらに平均した上で、小数点第2位を四捨五入し、その値を水蒸気透過度(g/(m
2・24hr・atm))とした。
【0075】
また、上記記載の条件におけるDELTAPERMにて測定下限(1.0×10
−4g/m
2・24hr・atm)以下の測定試料については、温度60℃、湿度90%RH、測定面積50cm
2の条件でもDELTAPERMで測定を行った。サンプル数は水準当たり2サンプルとし、測定回数は同一サンプルについて各5回測定を行った。1つのサンプルについて5回測定を行い得たデータを平均し、小数点第2位を四捨五入し、当該サンプルにおける平均値を求めた。同様に別のサンプルの平均値を求め、2つのサンプルの平均値をさらに平均した上で、小数点第2位を四捨五入し、その値を水蒸気透過度(g/(m
2・24hr・atm))とした。
【0076】
(5)ガスバリア層の硬度
ガスバリア層の硬度測定は、ナノインデンテーション法(連続剛性測定法)により行った。ナノインデンテーション法とは、押し込み試験中に圧子を微小振動させ、振動に対する応答振幅、位相差を時間の関数として取得し、押し込み深さの連続的変化に対応して、圧子除荷時の初期勾配を連続的に算出する方法である。
・測定装置 :MTSシステムズ社製 超微小硬度計 Nano Indenter
DCM
・測定方法 :ナノインデンテーション法(連続剛性測定法)
・使用圧子 :ダイヤモンド製正三角錐圧子
・測定雰囲気 :室温・大気中。
【0077】
(6)フィルムの表面温度の測定
後述のスパッタリングを実施する際、高分子フィルム基材の表面中央に熱電対を金属部が露出しないように耐熱テープで貼り付け、基材の表面温度を測定した。各水準にてスパッタリング前の高分子フィルム基材表面の最も高い温度を、それぞれの測定温度とした。・装置(データロガー) :DQ1860(DATAPAQ社製)
・サンプリング周期 :0.1秒
・熱電対 :K型。
【0078】
(7)鉛筆硬度
JIS K5600−5−4:1999に規定する鉛筆硬度試験(500g荷重)を行い、傷がつかなかった最も高い硬度を記載した。
【0079】
(8)FT−IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)測定
ガスバリア層のFT−IR測定はATR(Attenuated Total Refrection)法を用いて測定した。各水準でガスバリア層形成前後の高分子フィルム基材をそれぞれ切り出し、ATR結晶に圧着し、それぞれn=2回ずつ測定を実施した。ガスバリア層形成前後で得られたスペクトルの差スペクトルを取り、波数900〜1,100cm
−1にあるピークを波数920cm
−1と1,080cm
−1とにピーク分離し、それぞれのスペクトルの面積強度を求めた。このとき、ベースラインとして650cm
−1と1,400cm
−1におけるスペクトル値の2点を結ぶ直線を設定し、ガウス関数を2つ設定、ガウス関数の1つのピーク位置のみを1,080cm
−1での固定値とし設定し計算を実施する。計算の結果、1,080cm
−1にピークをもつスペクトルの面積強度と900〜940cm
−1にピーク位置が計算されたものをZn−O−Si結合の吸収に由来する920cm
−1のピークとし、スペクトルの面積強度をそれぞれ求めて比をとった。n=2回の測定結果の平均値を測定結果とした。
・装置 :FTS−55a(Bio−RadDIGILAB社製)
・光源 :高輝度セラミック
・検知器 :MCT
・パージ :窒素ガス
・分解能 :4cm
−1・積算回数 :256回
・測定方法 :減衰全反射(Attenuated Total Refrection,ATR)法
・測定波長 :4,000〜600cm
−1・付属装置 :一回反射型ATR測定付属装置(Seagull,Harrick社製)
・ATR結晶 :Geプリズム
・入射角度 :70度
・解析ソフト :GRAMS AI ver8.0(Thermo Electoron Corporation社製)。
【0080】
(実施例1)
[アンカーコート層の形成]
高分子フィルム基材1として、厚み125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U48:両面に易接着層が施されている)を用い、該高分子フィルム基材上に、アンカーコート層形成用の塗工液として、ウレタンアクリレート(中国塗料(株)製フォルシード420C)100質量部をトルエン70質量部で希釈した塗工液Aを調製した。次いで、塗工液Aを前記高分子フィルム基材の片面にマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を1.0J/cm
2照射、硬化させ、厚み1μmのアンカーコート層を設けた。
【0081】
[ガスバリア層の形成]
高分子フィルム基材1にアンカーコート層を形成した側に、酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの質量比が77/20/3であるスパッタリングターゲットを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、ガスバリア層を設けた(ガスバリア層の厚み:150nmとした)。
【0082】
具体的な操作は以下のとおりである。
図3に示す構造の枚葉式のスパッタリング装置4を使用した。まず、プラズマ電極8上に酸化亜鉛、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムを含有する混合物で、酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3であるスパッタリングターゲットを設置した枚葉式スパッタリング装置4の基板ホルダ5にアンカーコート層を設けた前記高分子フィルム基材6をセットし、基板ホルダ5を20rpmにて回転を開始させた。次に、真空ポンプにより、枚葉式スパッタリング装置4内を減圧し、1.0×10
−3Pa以下を得ると同時に、高分子フィルム基材6の表面温度が150℃となるようにIRヒーター7にて加熱を行った。次に、減圧度2.0×10
−1Paとなるように酸素ガス分圧20%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入した。前記高分子フィルム基材6が回転した際に、プラズマ電極8とIRヒーター7を交互に通過するようにプラズマ電極8とIRヒーター7を配置し、IRヒーター7にて加熱を行いながら、直流電源により投入電力1,500Wをプラズマ電極8に印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子フィルム基材6の表面上にガスバリア層を形成した。
【0083】
次いで、得られたガスバリア性フィルムから試験片を切り出し、XAFS測定、膜硬度測定、XRR法によりスパッタ層の厚み、密度評価、XPS法により組成含有比率の評価、FT−IR測定および水蒸気透過率の評価を実施した。
結果を表1に示す。
【0084】
(実施例2)
アンカーコート層形成用の塗工液として、ウレタンアクリレートに変えて、ポリエステルアクリレート(日本化薬(株)製FOP−1740)100質量部にシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング(株)製SH190)0.2質量部を添加し、トルエン50質量部、MEK50質量部で希釈した塗工液Bを調製し、塗工液Bをマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を1.0J/cm
2照射、硬化させ、厚み1μmのアンカーコート層を設けた以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0085】
(実施例3)
高分子フィルム基材6のスパッタリング前の表面温度を100℃とした以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0086】
(実施例4)
高分子フィルム基材6のスパッタリング前の表面温度を180℃とした以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0087】
(実施例5)
酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が89/8/3であるスパッタリングターゲットを用いる以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0088】
(実施例6)
酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が67/30/3であるスパッタリングターゲットを用いる以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0089】
(実施例7)
使用するスパッタリング装置を
図6(a)に示す構造の巻き取り式スパッタリング装置11を使用した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0090】
まず、プラズマ電極27〜31上に酸化亜鉛、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムを含有する混合物で、酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3であるスパッタリングターゲットを設置した巻き取り式スパッタ装置11の巻き取り室の中で、巻き出しロール13にアンカーコート層を設けた前記高分子フィルム基材12をセットし、巻き出した後にガイドロール14,15,16を介して、メインロール17に通した。次に、減圧度2.0×10
−1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、前記高分子フィルム基材12のスパッタリング前の表面温度が150℃となるように、IRヒーター22〜26にて加熱を行いながら、直流電源により投入電力3,000Wをプラズマ電極27〜31に印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子フィルム基材12の表面上にガスバリア層を形成した。その後、ガイドロール18,19,20を介して巻き取りロール21に巻き取った。
【0091】
(実施例8)
アンカーコート層形成用の塗工液として、ウレタンアクリレートに変えて、ポリエステルアクリレート(日本化薬(株)製FOP−1740)100質量部にシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング(株)製SH190)0.2質量部を添加し、トルエン50質量部、MEK50質量部で希釈した塗工液Bを調製し、塗工液Bをマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を1.0J/cm
2照射、硬化させ、厚み1μmのアンカーコート層を設けた以外は、実施例7と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0092】
(実施例9)
アンカーコート形成用の塗工液として、ウレタンアクリレート(中国塗料(株)製フォルシード420C)に変えて、ウレタンアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製KRM7735)を用いた以外は、実施例7と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例10)
高分子フィルム基材12のスパッタリング前の表面温度を100℃とした以外は、実施例7と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0093】
(実施例11)
高分子フィルム基材12のスパッタリング前の表面温度を180℃とした以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0094】
(実施例12)
酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が89/8/3であるスパッタリングターゲットを用いる以外は、実施例7と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0095】
(実施例13)
酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が67/30/3であるスパッタリングターゲットを用いる以外は、実施例7と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0096】
(実施例14)
図6(b)に示す構造の巻き取り式のスパッタリング装置を使用し、実施例1と同様にして高分子フィルム基材12のアンカーコート層を形成した面上に酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムとで形成された混合焼結材であるスパッタリングターゲットをプラズマ電極33に設置し、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施しガスバリア層を設けた。具体的な操作は以下のとおりである。
まず、プラズマ電極33に酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3で焼結されたスパッタリングターゲットを設置したスパッタリング装置11の巻き出しロール13に前記高分子フィルム基材12をガスバリア層を設ける側の面とプラズマ電極33の高分子フィルム基材側の面とが距離100mmで対向するようにセットし、巻き出し側ロール14,15,16を介して、メインロール17に通した。メインロール17の温度を−20℃になるよう設定し、ガス圧1.5×10
−1Paで酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、直流電源により投入電力3,000Wを印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子フィルム基材12の表面上にガスバリア層を形成した。ガスバリア層の厚みは50nmになるようにフィルム搬送速度により調整した。その後、ガイドロール18,19,20を介して巻き取りロール21に巻き取った。
【0097】
(実施例15)
メインロール17の温度を150℃に設定した以外は実施例14と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0098】
(実施例16)
メインロール17の温度を100℃に設定した以外は実施例14と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0099】
(実施例17)
メインロール17の温度を50℃に設定した以外は実施例14と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0100】
(実施例18)
メインロール17の温度を0℃に設定した以外は実施例14と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0101】
(実施例19)
ガス圧を1.0×10
−1Paに設定した以外は実施例14と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0102】
(実施例20)
ガス圧を1.0×10
−1Paに設定した以外は実施例15と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0103】
(実施例21)
高分子フィルム基材とスパッタリングターゲットとの距離を50mmに設定した以外は実施例14と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0104】
(実施例22)
高分子フィルム基材とスパッタリングターゲットとの距離を50mmに設定した以外は実施例15と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0105】
(比較例1)
高分子フィルム基材1のスパッタリング前の表面温度を25℃とした以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0106】
(比較例2)
高分子フィルム基材12のスパッタリング前の表面温度を25℃とした以外は、実施例5と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0107】
(比較例3)
高分子フィルム基材12のスパッタリング前の表面温度を25℃とした以外は、実施例6と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0108】
(比較例4)
高分子フィルム基材12のスパッタリング前の表面温度を25℃とした以外は、実施例7と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0109】
(比較例5)
酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が92/5/3であるスパッタリングターゲットを用いる以外は、実施例7と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0110】
(比較例6)
ガス圧を2.0×10
−1Paに設定した以外は実施例14と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0111】
(比較例7)
高分子フィルム基材12のスパッタリング前の表面温度を210℃に設定した以外は実施例14と同様にしてガスバリア性フィルムを得た
【0112】
【表1-1】
【0113】
【表1-2】