特許第6288544号(P6288544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288544
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/72 20060101AFI20180226BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20180226BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20180226BHJP
   C08G 18/62 20060101ALI20180226BHJP
   C08G 18/78 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C08G18/72
   C08F290/06
   C08G18/42 069
   C08G18/62 016
   C08G18/78 037
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-146283(P2013-146283)
(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2015-17210(P2015-17210A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162628
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 博
(74)【代理人】
【識別番号】100119286
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 操
(72)【発明者】
【氏名】石川 正和
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−524412(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0280139(US,A1)
【文献】 特開2015−017211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00−18/87
C08F 290/00−290/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)成分を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート(X)を含有する、硬化性樹脂組成物。
(a)1分子中に2〜3個の水酸基を有し、かつ、水酸基1個当たりの数平均分子量が100〜900の範囲であるポリカプロラクトンジ又はトリオール
(b)脂肪族及び/又は脂環式ジイソシアネートと、炭素数1〜20の脂肪族モノアルコールとのアロファネート変性体である、アロファネート変性ジ又はトリイソシアネート
(c)水酸基含有(メタ)アクリレート
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン(メタ)アクリレートを含有する硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紫外線、電子線等の活性エネルギー線や熱により硬化する硬化性樹脂組成物は、耐擦傷性、耐薬品性等を有する硬化物(被膜や成形物)を形成することから、塗料・コーティング剤、インキ、粘・接着剤、光学部品等の用途で幅広く利用されている。近年、これらの用途では単に耐擦傷性や耐薬品性が要求されるだけでなく、引張伸度や耐屈曲性等の柔軟性、硬化後や高温高湿条件下での低収縮性等の様々な性能が要求されている。
【0003】
このような硬化性樹脂としては、耐擦傷性と柔軟性を有する硬化物を形成可能なウレタン(メタ)アクリレートが広く利用されており、例えば、分子量800〜8,000のポリカプロラクトンジオール、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネートモノマー、及び2−ヒドロキシエチルアクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートが報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1のウレタン(メタ)アクリレートは、ポリカプロラクトン骨格で構成されるソフトセグメントの分子量が大きいため、これを用いて得た硬化物は、引張伸度等の柔軟性に優れるが、一方でウレタン結合濃度が低く凝集力に起因する強靭性が低下し、結果として表面硬度が低く擦り傷が付きやすいという課題を抱えていた。
【0004】
最近では、一旦付いた軽微な傷を、経時的に復元して消失させることが可能な被膜を形成する手法が要望されており、ポリカプロラクトンポリオール、イソホロンジイソシアネートやリジンジイソシアネート等の有機イソシアネート、及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートが報告されている(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2の樹脂組成物は、爪で付けた傷の傷復元性を示すものであるが、用途によっては金属ブラシ等のより硬質な材料に対する傷復元性が必要であり、傷復元性の向上がより一層要求されている。また、引張伸度等の柔軟性が十分ではないため成形加工等の変形に対してクラックが発生したり、塗膜が基材から剥離する恐れがあった。
【0005】
さらに、ウレタン(メタ)アクリレートを含有する硬化性樹脂組成物としては、ポリカーボネートジオール、アロファネート変性ジイソシアネート、及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートが報告されている(特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂基材への密着性や塗工性については十分に検討されているものの、ポリカーボネートジオール骨格は結晶性が高いため、弾性回復性が低く傷復元性に劣り、引張伸度や耐屈曲性等の柔軟性も十分ではないという課題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−219821号公報
【特許文献2】特開2004−35599号公報
【特許文献3】特開2006−45361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、傷復元による耐擦傷性及び柔軟性に優れ、かつ、耐薬品性や低収縮性等の諸物性にも優れるウレタン(メタ)アクリレートを含有する、硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のポリカプロラクトンジ又はトリオール、アロファネート変性ジ又はトリイソシアネート、及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートを含有する硬化性樹脂組成物が有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
記(a)〜(c)成分を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート(X)を含有する、硬化性樹脂組成物。
(a)1分子中に2〜3個の水酸基を有し、かつ、水酸基1個当たりの数平均分子量が100〜900の範囲であるポリカプロラクトンジ又はトリオール
(b)脂肪族及び/又は脂環式ジイソシアネートと、炭素数1〜20の脂肪族モノアルコールとのアロファネート変性体である、アロファネート変性ジ又はトリイソシアネート
(c)水酸基含有(メタ)アクリレート
【発明の効果】
【0009】
本発明の硬化性樹脂組成物は、基材への密着性に優れ、硬化後の被膜は、硬質のブラシ等による傷であっても復元するなど良好な耐擦傷性を有する。硬化被膜は、また、十分な引張伸度を有していて柔軟性に優れるが、低収縮性であり、かつ耐薬品性を有するなど、優れた各種物性を有する。そのため、本発明の硬化性樹脂組成物は、塗料・コーティング剤、光学部品、インキ、粘・接着剤等、広範囲の用途に適用できる。特に、電子機器筐体やメンブレンスイッチ等のインサート成形用フィルム、フレキシブルディスプレイ、光ディスク用のコーティング剤;導光シート、プリズムシート、レンズシート等の光学シートに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の詳細について説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物は、(a)ポリカプロラクトンジ又はトリオール、(b)アロファネート変性ジ又はトリイソシアネート、及び(c)水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られる、ウレタン(メタ)アクリレート(X)を含有する。
【0011】
<ポリカプロラクトンジ又はトリオール(a)>
本発明に用いるポリカプロラクトンジ又はトリオール(a)は、1分子中にポリカプロラクトン構造と2〜3個の水酸基を有し、かつ、水酸基1個当たりの数平均分子量が100〜900の範囲の化合物である。ポリカプロラクトンジ又はトリオールは上記範囲のものであれば特に限定されないが、一般的には2又は3価の多価アルコールを開始剤として、カプロラクトン類を開環付加重合して得られる化合物である。多価アルコールに対するカプロラクトン類の平均付加モル数は、水酸基1個当たりの数平均分子量が100〜900の範囲となるように設定する。
【0012】
2価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。3価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール等が挙げられる。また、カプロラクトン類としては、ε−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、γ−カプロラクトン等が挙げられる。
【0013】
ポリカプロラクトンジオールとしては、例えば、前記の2価アルコールにε−カプロラクトンを開環付加重合して得られる化合物であり、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、又は1,4−ブタンジオールに、ε−カプロラクトンを開環付加重合して得られる化合物が好ましい。ポリカプロラクトントリオールとしては、例えば、前記の3価アルコールにε−カプロラクトンを開環付加重合して得られる化合物であり、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパンに、ε−カプロラクトンを開環付加重合して得られる化合物が好ましい。
【0014】
1分子中に有する水酸基が1個の場合、ウレタン(メタ)アクリレートを硬化して形成される硬化膜の架橋密度が不十分であるために弾性が低下し、傷復元性が十分に得られず傷が残ってしまう恐れがある。一方、1分子中に有する水酸基が3個を超える場合、製造時にウレタン(メタ)アクリレートの架橋密度が高くなりすぎてゲル化する恐れがあるため好ましくない。
【0015】
また、水酸基1個当たりの数平均分子量が100未満であると、硬化膜の架橋密度が高くなりすぎて傷復元性が低下する恐れがある。他方、水酸基1個当たりの数平均分子量が900を超えると、架橋密度が低くなりすぎて傷復元性が低下するため好ましくない。ポリカプロラクトンジ又はトリオールの水酸基1個当たりの数平均分子量は150〜500の範囲であることが好ましい。なお、本発明における数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した標準ポリエチレングリコール換算の分子量を表し、水酸基1個当たりの数平均分子量は、下記式(1)より算出される値を表す。
【0016】
【数1】
【0017】
本発明に用いるポリカプロラクトンジ又はトリオール(a)は2種以上を組み合わせてもよく、その場合にはポリカプロラクトンジオール(a1)及びポリカプロラクトントリオール(a2)を組み合わせることが好ましく、(a2)成分に対する(a1)成分のモル比率[(a1)/(a2)]を99/1〜20/80の範囲で組み合わせることが好ましい。
【0018】
入手可能な市販品としては、例えば、(株)ダイセル製の「プラクセル205」、「プラクセル205H」、「プラクセル205U」、「プラクセルL205AL」、「プラクセル208」、「プラクセル210」、「プラクセル210N」、「プラクセル210CP」、「プラクセル212」、「プラクセル303」、「プラクセル305」、「プラクセル308」、「プラクセル309」、「プラクセル312」、Perstorp社製の「CAPA2047A」、「CAPA2054」、「CAPA2100」、「CAPA2121」、「CAPA3031」、「CAPA3041」、「CAPA3050」、「CAPA3201」、DIC(株)製の「ポリライトOD−X−2155」、「ポリライトOD−X−2585」等が挙げられる。
【0019】
<アロファネート変性ジ又はトリイソシアネート(b)>
本発明に用いるアロファネート変性ジ又はトリイソシアネート(b)は、1分子中に少なくとも1個以上のアロファネート結合と2〜3個のイソシアネート基を有する化合物である。本発明に用いるアロファネート変性ジ又はトリイソシアネートは上記範囲のものであれば特に限定されないが、一般的には公知の方法に従って、炭素数1〜20のモノアルコールと、該モノアルコール中の水酸基当量に対してイソシアネート当量が過剰となる量の脂肪族、脂環式又は芳香族ジイソシアネートモノマーを、アロファネート化触媒の存在下でアロファネート変性させることによって得られる化合物である。
【0020】
ジイソシアネートモノマーとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、m−又はp−フェニレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。炭素数1〜20のモノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等の脂肪族モノアルコール;シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の脂環式モノアルコール;ベンジルアルコール、フェノール、フェニルフェノール等のフェノール又は芳香族モノアルコール等が挙げられる。
【0021】
その中でも、傷復元性、引張伸度、耐候性及び耐黄変性の観点から、脂肪族又は脂環式ジイソシアネートモノマーと炭素数1〜20の脂肪族モノアルコールをアロファネート変性させることによって得られる化合物が好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートと炭素数1〜9の脂肪族モノアルコールをアロファネート変性させることによって得られる化合物がより好ましい。これらアロファネート変性ジ又はトリイソシアネートは、一種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0022】
1分子中に有するイソシアネート基が1個の場合、ウレタン(メタ)アクリレートを硬化して形成される硬化膜の架橋密度が不十分であるために弾性が低下し、傷復元性が十分に得られず傷が残ってしまう恐れがある。他方、イソシアネート基が3個を超えると、製造時にウレタン(メタ)アクリレートの架橋密度が高くなりすぎてゲル化する恐れがあるため好ましくない。本発明は、1分子中にアロファネート結合を有するジ又はトリイソシアネートを用いることで、傷復元性及び引張伸度を飛躍的に向上させる機能を有する。
【0023】
入手可能な市販品としては、例えば、住化バイエルウレタン(株)製の「デスモジュールXP2580」、「デスモジュールXP2565」、「デスモジュールXP2803」、旭化成ケミカルズ(株)製の「デュラネートA201H」、日本ポリウレタン(株)製の「LVA−209」、「LVA−210」、「LVA−211」等が挙げられる。
【0024】
<水酸基含有(メタ)アクリレート(c)>
本発明で用いる水酸基含有(メタ)アクリレート(c)は、1分子中に少なくとも1個以上の水酸基と、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する水酸基含有(メタ)アクリレートである。水酸基含有(メタ)アクリレートは上記範囲のものであれば特に限定されないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン付加物(平均付加モル数1〜10)、ポリエチレングリコール(平均付加モル数1〜30)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(平均付加モル数1〜30)モノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等が挙げられる。その中でも、反応性及び汎用性の観点から、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン付加物(平均付加モル数1〜10)が好ましく、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン付加物(平均付加モル数1〜3)がより好ましい。これら水酸基含有(メタ)アクリレートは、一種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0025】
<ウレタン(メタ)アクリレート(X)>
本発明の硬化性樹脂組成物に含有されるウレタン(メタ)アクリレート(X)は、前記(a)〜(c)成分を反応させて得られる化合物である。特定のポリカプロラクトンジ又はトリオール(a)、及びアロファネート変性ジ又はトリイソシアネートを組み合わせることにより、ウレタン(メタ)アクリレートを硬化して形成される硬化膜は、高弾性な三次元架橋構造を有するため、傷復元性及び引張伸度に優れる。
【0026】
(a)〜(c)成分を反応させる際の配合割合は、(a)及び(c)成分に含まれる水酸基当量をそれぞれOH及びOH、(b)成分に含まれるイソシアネート基当量をNCOとした場合、(a)及び(c)成分の合計水酸基当量に対する(b)成分のイソシアネート基当量の比率[NCO/(OH+OH)]は、通常0.1〜10の範囲であり、0.5〜2の範囲が好ましく、0.9〜1.2の範囲であることがさらに好ましい。当量比[NCO/(OH+OH)]が0.1未満の場合、(a)及び(c)成分の一部がウレタン(メタ)アクリレート骨格に取り込まれずそのまま残存し、傷復元性が低下する恐れがあるため好ましくない。他方、当量比[NCO/(OH+OH)]が10を超えると、(b)成分、並びに(a)成分と(b)成分とのウレタンプレポリマーが残存し、傷復元性、引張伸度、及び保存安定性が低下するため好ましくない。但し、使用する(a)〜(c)成分を意図的に組成物中に残存させる場合はこの限りではない。
【0027】
また、(c)成分の水酸基当量に対する(a)成分の水酸基当量の比率(OH/OH)は、通常0.1〜15の範囲であり、0.4〜8の範囲であることが好ましく、0.9〜3の範囲であることがより好ましい。当量比(OH/OH)が0.1未満の場合、硬化膜の弾性が低く傷復元性及び引張伸度が低下する恐れがある。一方、当量比(OH/OH)が15を超えると、硬化性が低いため表面にタックが生じる恐れがある。
【0028】
ウレタン(メタ)アクリレート(X)の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を利用することができ、例えば、ポリカプロラクトンジ又はトリオール(a)及びアロファネート変性ジ又はトリイソシアネート(b)を反応させてイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得た後、水酸基含有(メタ)アクリレート(c)を反応させることにより得ることができる。また、別の方法として(b)成分及び(c)成分を先に反応させた後、(a)成分を反応させる方法、(a)〜(c)成分の全ての原料を一度に反応させる方法等が挙げられる。
【0029】
ウレタン(メタ)アクリレート(X)を製造する際は、反応速度の促進を目的としてジブチルスズジラウレートやトリエチルアミン等のウレタン化触媒や、重合を防止するためにハイドロキノンモノメチルエーテル(以下「MEHQ」という)や2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(以下「BHT」という)等の重合禁止剤を配合してもよい。ウレタン化触媒及び重合禁止剤の配合量は、(a)〜(c)成分の合計質量に対して通常1〜2,000ppmの範囲であり、10〜1,000ppmの範囲であることが好ましい。なお、反応温度は通常10〜100℃の範囲であり、40〜80℃の範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明のウレタン(メタ)アクリレート(X)の重量平均分子量は、2,000〜100,000の範囲であり、3,000〜80,000の範囲が好ましく、4,000〜50,000の範囲がより好ましい。重量平均分子量が2,000未満の場合、ウレタン(メタ)アクリレートを硬化して形成される硬化膜の架橋密度が不十分であるために弾性が低下し、傷復元性が十分に得られず傷が残ってしまう恐れがある。一方、重量平均分子量が100,000を超えると、粘度が著しく高くなるため、ハンドリングや塗工性等の作業性が悪化するため好ましくない。
【0031】
本発明の硬化性樹脂組成物には、任意成分として本発明の効果を阻害しない範囲内で、光重合開始剤、(X)成分以外のエチレン性不飽和単量体、(メタ)アクリル重合体、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、表面調整剤、レベリング剤、充填剤、顔料、チキソトロピー性付与剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、消泡剤、防汚剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を配合することができる。
【0032】
<光重合開始剤>
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等のベンゾイン又はベンゾインアルキルエーテル;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸等の芳香族ケトン;ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン等のアセトフェノン;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイドが挙げられる。これらの中でも、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン等のアセトフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイドが好ましく、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノンがより好ましい。
【0033】
光重合開始剤の配合量は、ウレタン(メタ)アクリレート(X)を含有する樹脂固形分の合計質量に対して0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.5〜5質量%の範囲がより好ましい。0.1質量%未満では硬化が十分に進行せず、20質量%を超えると樹脂固形分の質量が相対的に減少し、硬化物の目標とする物性が低下する恐れがある。
【0034】
本発明の硬化性樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート(X)及び必要に応じて前記添加剤を配合し、常法により均一に混合して得ることができる。前記硬化性樹脂組成物の使用方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を利用することができ、例えば、基材表面上に塗布して被膜を形成する方法や金型等に注入して成形物を作製する方法が挙げられる。
塗布する基材は特に限定されず、プラスチック、金属、木材、紙、ガラス等の様々な材質の基材を用いることができる。プラスチック基材としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等のプラスチックフィルム又は成形品が挙げられる。これらの中でも、透明性や強靭性の観点からPET樹脂が好ましい。塗布方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、フローコート法、バーコート法等の塗工方法や、グラビア印刷、スクリーン印刷等の印刷方法を適用することが可能である。塗膜の厚さは通常1〜200μmであり、傷復元性の観点から3〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。100μmを超えると硬化物の硬化性が低下し、傷復元性や引張伸度が低下する恐れがあり、膜厚が1μm未満では傷復元性等の性能が十分に得られない恐れがある。
【0035】
本発明の硬化性樹脂組成物は、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線及び電子線の群より選ばれる活性エネルギー線を照射することにより硬化させることができる。活性エネルギー線の照射方法は、通常の硬化性樹脂組成物の硬化方法を用いることができる。活性エネルギー線照射装置として紫外線を用いる場合は、波長が200〜450nmの領域にスペクトル分布を有するフュージョンUVシステムズ社製HバルブやDバルブ等の無電極ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ガリウムランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。活性エネルギー線の照射量は、積算光量として通常10〜3000mJ/cmであり、好ましくは50〜2000mJ/cmである。照射時の雰囲気は空気中でもよいし、窒素やアルゴン等の不活性ガス中で硬化してもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下において特に規定しない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を示す。
【0037】
<製造例1;ウレタン(メタ)アクリレート(X−1)の製造>
攪拌装置、空気又は窒素導入管、温度計を備えた四つ口フラスコに、(a)成分としてポリカプロラクトンジオール(水酸基価374mgKOH/g、水酸基1個当たりの数平均分子量150、以下「PCL203」という)300g、(b)成分としてヘキサメチレンジイソシアネート(以下「HDI」という)のアロファネート変性体(デスモジュールXP2580、住化バイエルウレタン(株)製、イソシアネート基含有率=20.0%、以下「XP2580」という)840g、ジブチルスズジラウレート(以下「DBTDL」という)0.27g、メチルイソブチルケトン(以下「MIBK」という)915gを仕込み、窒素を吹き込みながら内温を60℃に保持して5時間反応させた。続いて、(c)成分として2−ヒドロキシエチルアクリレート(水酸基価483mgKOH/g、以下「HEA」という)232g、MEHQを0.27g投入し、空気を吹き込みながら同温度にて3時間反応させた後、イソシアネート基含有量が0.1%以下となることを確認し、樹脂固形分60%で重量平均分子量11,000のウレタン(メタ)アクリレート(X−1)を2,282g得た。
【0038】
<製造例2〜7、比較製造例1〜3;ウレタン(メタ)アクリレート(X−2)〜(X−7)、(X’−1)〜(X’−3)の製造>
表1に示す原料及び仕込み量に変更する以外は製造例1と同様の方法で、ウレタン(メタ)アクリレート(X−2)〜(X−7)、及び(X’−1)〜(X’−3)を得た。
【0039】
<比較製造例4;ウレタン(メタ)アクリレート(X’−4)の製造>
攪拌装置、空気又は窒素導入管、温度計を備えた四つ口フラスコに、XP2565を699g、HEAを232g、MEHQを0.19g投入し、DBTDLを0.19g、MIBKを380g仕込み、空気を吹き込みながら内温を60℃に保持して5時間反応させた後、イソシアネート基含有量が0.1%以下となることを確認し、樹脂固形分60%で重量平均分子量900のウレタン(メタ)アクリレート(X’−4)を1,311g得た。
【0040】
<比較製造例5;ウレタン(メタ)アクリレート(X’−5)の製造>
攪拌装置、空気又は窒素導入管、温度計を備えた四つ口フラスコに、(b’)成分としてHDIのイソシアヌレート変性体(デュラネートTPA−100,旭化成ケミカルズ(株)社製、イソシアネート基含有率=23.0%、以下「TPA−100」という)を510g、HEAを232g、MEHQを0.25g投入し、空気を吹き込みながら内温を60℃に保持して5時間反応させた。続いて、PCL210を500g投入し、空気を吹き込みながら同温度にて3時間反応させた後、イソシアネート基含有量が0.1%以下となることを確認し、樹脂固形分60%で重量平均分子量2,200のウレタン(メタ)アクリレート(X’−5)を2,070g得た。
【0041】
なお、表1中における略号は以下の化合物を表す。
・PCL205:ポリカプロラクトンジオール、水酸基価212mgKOH/g、水酸基1個当たりの数平均分子量265
・PCL210:ポリカプロラクトンジオール、水酸基価114mgKOH/g、水酸基1個当たりの数平均分子量492
・PCL312:ポリカプロラクトントリオール、水酸基価135mgKOH/g、水酸基1個当たりの数平均分子量416
・PCL320:ポリカプロラクトントリオール、水酸基価84mgKOH/g、水酸基1個当たりの数平均分子量668
・1,4−BD:1,4−ブタンジオール、水酸基価1,246mgKOH/g、水酸基1個当たりの数平均分子量45
・PCL220:ポリカプロラクトンジオール、水酸基価56mgKOH/g、水酸基1個当たりの数平均分子量1,002
・XP2565:IPDIのアロファネート変性体、住化バイエルウレタン(株)社製、製品名:デスモジュールXP2565、イソシアネート基含有率=12.0%、樹脂固形分80%(酢酸ブチル)
・IPDI:イソホロンジイソシアネート
・FA2D:2−ヒドロキシエチルアクリレートのε−カプロラクトン付加物、(株)ダイセル社製、製品名:プラクセルFA2D、ε−カプロラクトンの平均付加モル数2
【0042】
【表1】
【0043】
<実施例1〜8、比較例1〜5;硬化性樹脂組成物の調製及び硬化膜の作製>
上記製造例で得られたウレタン(メタ)アクリレート、光重合開始剤、本発明のウレタン(メタ)アクリレート(X)以外のエチレン性不飽和単量体、及び添加剤をそれぞれ表2に示す割合で配合して硬化性樹脂組成物を得た。続いて、易接着PETフィルム(コスモシャインA4300,膜厚100μm,東洋紡績(株)製)上に、得られた硬化性樹脂組成物を乾燥膜厚が20μmとなるよう塗工し、80℃にて5分間乾燥して有機溶剤を蒸発させた。さらに、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムズジャパン(株)製,光源:Hバルブ)を用いて積算光量500mJ/cm2の紫外線を照射することで硬化膜を有するフィルムを得た。得られたフィルムについて密着性、傷復元性、引張伸度、耐薬品性、及び低収縮性を以下の方法により評価した。
【0044】
<密着性>
JIS K 5600に準拠し、作製した硬化膜を有するフィルムを60℃、90RH%の条件下で1時間保管した後、25℃に冷却してからカッターナイフで1mm四方の碁盤目を100個作製し、市販のセロハンテープを表面に密着させた後に一気に剥がしたとき、剥離せずに残った碁盤目の個数を下記の基準により判定した。
◎:残存した碁盤目の個数が100個である。
○:残存した碁盤目の個数が90〜99個である。
△:残存した碁盤目の個数が60〜89個である。
×:残存した碁盤目の個数が59個以下である。
【0045】
<傷復元性>
作製した硬化膜層を有するフィルムに、25℃、60RH%の条件下、真鍮ブラシにより500gの荷重を掛けて5往復擦ったとき、硬化物の表面状態を目視によって下記の基準により判定した。
◎:傷が3分以内に復元する。
○:3分後に傷が認められるが、10分経過後には復元する。
△:1時間後に傷跡が若干認められる。
×:1時間後も傷が全く復元しない。
【0046】
<引張伸度>
作製した硬化膜層を有するフィルムを10mm×60mmサイズに裁断し、オートグラフを用いてチャック間距離が40mmとなるようセットした後、25℃、60RH%の条件下、50mm/minの引張速度にて引張試験を行い、硬化膜にクラックが生じたときの伸度を決定した。引張伸度の評価基準は下記のとおりである。
◎:引張伸度が50%以上である。
○:引張伸度が30〜50%未満である。
△:引張伸度が20〜30%未満である。
×:引張伸度が20%未満である。
【0047】
<耐薬品性>
作製した硬化膜層を有するフィルムにエタノールを0.5mL滴下し、23℃、60RH%の条件下で30分間放置した後、ガーゼでエタノールを除去し、硬化物の表面状態を目視によって下記の基準により判定した。
◎:表面に白化、膨潤、剥離等の異常が全く確認できなかった。
○:表面に白化、膨潤、剥離等の異常がほとんど確認できなかった。
×:表面に白化、膨潤、剥離等の異常が確認された
【0048】
<低収縮性>
10cm×10cmにカットした硬化膜を有するフィルムを、80℃、60RH%の条件下で1時間加熱した後、25℃に冷却してから水平な台に硬化膜面を上にして置いたとき、浮き上がった4辺それぞれの高さの平均値を計測し、寸法安定性を下記の基準により判定した。
◎:高さの平均値が3mm未満である。
○:高さの平均値が3mm〜5mm未満である。
△:高さの平均値が5mm〜9mm未満である。
×:高さの平均値が9mm以上である。
【0049】
【表2】
【0050】
なお、表2中における略号は以下の化合物を表す。
・V#2100:2−アクリロイルオキシプロピルフタレート、製品名:ビスコート#2100、大阪有機化学工業(株)製
・ACMO:アクリロイルモルホリン、製品名:ACMO、興人(株)製
・Irg184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、製品名:イルガキュア184、BASFジャパン(株)製
・BYK−3570:(メタ)アクリロイル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、製品名:BYK−3570、ビックケミー・ジャパン(株)製
・NANOBYK−3650:有機化合物により表面処理されたシリカ粒子分散液、製品名:NANOBYK−3650、平均粒子径20nm、ビックケミー・ジャパン(株)製
【0051】
上表2の評価結果より、本発明に係る実施例1〜8の硬化性樹脂組成物は、一旦付いた軽微な傷が復元して消失する傷復元性、引張伸度、密着性、耐薬品性、及び耐カール性のすべてに優れていた。他方、ポリカプロラクトンジ又はトリオールが本発明の規定外であるウレタン(メタ)アクリレートを使用した比較例1及び2の硬化性樹脂組成物によっては、傷復元性、引張伸度、密着性、耐薬品性、及び耐カール性のすべてを満足する硬化被膜を得ることができなかった。アロファネート結合を含まないジイソシアネートモノマー又はイソシアヌレート変性体を用いた比較例3及び5の硬化性樹脂組成物によって形成された硬化膜は、架橋構造の弾性が低く、傷が復元せずに残ってしまった。また、ポリカプロラクトンジ又はトリオールを用いなかった比較例4の硬化性樹脂組成物は、形成された硬化膜における架橋構造の弾性が低く、傷が復元せずに残ってしまい、かつ、引張伸度も十分ではなかった。