特許第6288577号(P6288577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288577
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】多角柱磁石を用いた磁気センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/09 20060101AFI20180226BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   G01R33/09
   H01L43/08 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-199158(P2013-199158)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-64309(P2015-64309A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390009667
【氏名又は名称】セイコーNPC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147740
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 俊
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
(72)【発明者】
【氏名】星野 佑太
【審査官】 山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−038770(JP,A)
【文献】 国際公開第98/038792(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/09
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗効果素子およびバイアス永久磁石を用いた磁気センサにおいて、前記バイアス永久磁石は多角柱形状であって、その多角柱形状の断面上部が三角形状であり、その三角形状の上部頂点を結ぶ稜線に対してN極またはS極が着磁されることを特徴とし、複数の前記磁気抵抗効果素子は前記バイアス永久磁石の前記稜線の上方に、前記バイアス永久磁石の前記稜線に対して平行な直線上に配置され、複数の前記磁気抵抗効果素子の抵抗変化に基づいて、前記稜線と直交する方向を含む方向に移動された検出対象を検出することを特徴とする多角柱磁石を用いた磁気センサ。
【請求項2】
前記磁気抵抗効果素子は前記バイアス永久磁石の前記稜線に対する着磁方向と直交する平面上に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の多角柱磁石を用いた磁気センサ。
【請求項3】
前記磁気抵抗効果素子は前記稜線の両側に配置されることを特徴とする、請求項または請求項に記載の多角柱磁石を用いた磁気センサ。
【請求項4】
前記稜線の両側に配置された前記磁気抵抗効果素子は前記稜線に対して対称な位置に配置されることを特徴とする、請求項に記載の多角柱磁石を用いた磁気センサ。
【請求項5】
前記バイアス永久磁石の断面上部の三角形状は二等辺三角形を有し、前記上部頂点が二等辺三角形の2つの等辺による頂点であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の多角柱磁石を用いた磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアス永久磁石および磁気抵抗効果素子を用いた磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁場の変化に応じて電圧・電流・抵抗値が変化する特性を利用した磁気センサは、携帯電話やノートパソコンなどの開閉部に用いられる非接触スイッチ、カードリーダーや紙幣識別装置に使用される磁気ヘッド、電子コンパスやGPS補正機能として利用される地磁気センサ、エンジン回転数検知や車輪角度検出に用いられる回転センサや角度センサなど種々の用途に適用されている。磁気センサの種類として、ホール素子、磁気抵抗効果素子、磁気インピーダンス(MI)素子、SQUID(超伝導量子素子)などがある。たとえば、磁場の強さにより電気抵抗値が変化する現象を用いた磁気抵抗効果素子(以下、MR素子とも記載)は、高感度で磁気ヘッド技術を応用できるので、磁気インクを印刷した紙幣や有価証券等のパターン検出や識別に用いられている。
【0003】
図6は、従来の磁気センサチップおよびバイアス永久磁石から構成される磁気センサを用いた磁気インク検出方法を示す図である。四角形状の永久磁石102の中心位置付近.上方に磁気センサチップ101が永久磁石102の上面に平行に配置され、永久磁石102は磁気センサチップ101に形成されたMR素子104にバイアス磁場を与えている。通常、水平方向磁場を検知するMR素子には、バイアス磁場として垂直方向磁場A0ではなく、水平方向磁場を有する曲線磁場A1が作用している。磁気センサチップ101は永久磁石102が作るバイアス磁場の垂直方向磁場A0の直上付近に配置され、磁気センサチップ101上に搭載されたMR素子104が磁気インク103を検出する方向(磁気インク検出方向)Bは垂直方向磁場A0に直角となっている。磁気インク103は磁気センサチップ101の上方を移動し、磁気インク103の移動方向Cは磁気インク検出方向Bと一致している。磁気インク103が移動してMR素子に作用している曲線磁場A1の近傍に達して横切るとき磁場A1が変動するので、MR素子に抵抗変化が生じる。
【0004】
図7は、水平方向磁場とMR素子の抵抗変化との関係を示すグラフである。
図7(a)は水平方向磁場がゼロ、つまり、垂直方向磁場A0のみにおけるMR素子の抵抗変化を示す。このとき、動作点はL0の位置になるため、検出磁場Hxに対する抵抗変化ΔRは極めて小さくなってしまう。図7(b)はある程度の水平方向磁場Hx1がバイアス磁場として作用するように、MR素子104を垂直方向磁場A0の位置から水平方向にx1だけずらして配置したとき(水平方向磁場を有する曲線磁場A1が作用する場合)のMR素子の抵抗変化を示す。このとき、動作点はL1の位置となり、その動作点L1の近傍では、磁場変化に対してある程度の傾き(この傾きの大きさが感度である)を有しているため、磁場変化Hxによる抵抗変化ΔRはかなり大きくなる。
【0005】
従って、水平方向磁場を検知するMR素子は、垂直方向磁場の直上(水平方向磁場がゼロになる位置)ではなく、その位置から少しずらしてある程度の水平方向の磁場が作用する磁場に配置し、MR素子に適切なバイアス磁場を与えられるようにする。
図8は四角形状のバイアス磁石とMR素子との位置関係を示し、MR素子を複数配置した場合の構成例を示す。図8(a)は磁石23の横方向から見た位置関係を示す正面図で、図8(b)はバイアス磁石23の上方から見た位置関係を示す平面図である。図8(a)に示すように、バイアス磁石23の磁石中心線V4に対して直角方向のライン(平面)C1上にMR素子24が配置されている。実際には、C1は実装基板の表面であり、その表面に複数のMR素子24が搭載されている。MR素子24はC1方向に対する磁場、すなわち水平方向磁場の変化に対して抵抗が変化するように配置されている。図7において示したように水平方向磁場がゼロとなる位置よりも少しずらした所(ラインC2)にMR素子24は配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−145379
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図8に示した四角形状(断面が長方形の平板状)のバイアス磁石(以下、四角磁石とも記載)において、磁石の材質や着磁の仕方などの製造バラツキなどにより水平方向磁場がゼロになる位置は、バイアス磁石23の磁石中心線V4と一致せず、一直線とはならない。図9は四角形状のバイアス磁石の磁場を示す図である。図9(a)は理想的な状態で磁石が磁化されたときの磁場を示す図である。図の曲線が磁力線でバイアス永久磁石の作る磁場の状態を示す。上部がN極で下部がS極の四角形状の磁石21を横方向に見た磁場である。理想的には磁石21の中心Oにおいて磁力線軸E1が磁石21の上面に対して90度方向になり、磁力線軸E1方向が垂直磁場Vo方向と一致する。従って、水平方向磁場がゼロになるポイントP1は磁石21の中心Oと一致する。尚、磁力線軸とは、磁石中心位置における磁力線の方向を示す軸である。
【0008】
しかし、磁石の材質や着磁の仕方などの製造バラツキ等によって磁力線軸は理想角度から傾いてしまう。たとえば、図9(b)は磁石21の中心Oにおける磁力線軸E2が図の左側に少し(10度)傾いた場合の磁場の状態を示している。このとき垂直磁場Voの位置は磁石21の中心Oから図の右側にずれた所に発生する。すなわち、水平方向磁場がゼロになるポイントP2は磁石21の中心Oから右側に矢印で示す分(p2)だけずれてしまう。また、図9(c)は磁石21の中心Oにおける磁力線軸E3が図の右側に少し(10度)傾いた場合の磁場の状態を示している。このとき垂直磁場Voの位置は磁石21の中心Oから図の左側にずれた所に発生する。すなわち、水平方向磁場がゼロになるポイントP3は磁石21の中心Oから左側に矢印で示す分(p3)だけずれてしまう。
【0009】
このように、一般に従来の磁気センサに用いられる四角形状のバイアス磁石において、製造バラツキなどにより水平方向磁場がゼロになる位置は磁石の中心からずれてしまう。つまり、図8での水平方向磁場がゼロになる位置は、バイアス磁石23の中心であるラインV4(バイアス磁石23の中央ライン)からずれてしまい、実際には曲線V5のようになってしまう。
【0010】
よって、水平方向磁場がゼロになる位置がバイアス磁石23の中心であるとして適切なバイアス磁場が与えられるように、ラインV4から少しずらした直線状のラインC2に沿って、アレイ上にMR素子24を配置したとしても、配置された多数のMR素子において、水平方向磁場がゼロになるMR素子もあれば、逆方向のバイアス磁場がかかってしまうMR素子もある。従って、図7から分かるように、各MR素子の抵抗値変化量が大きくばらつき、各MR素子の感度も一定にならず大きくばらつく。特に、多数のMR素子からなるMR素子アレイではさらに磁気センサの感度がばらついてしまう。1個のMR素子だけ、あるいは少数のMR素子を搭載するだけなら、水平方向磁場がゼロになる点を測定した後にMR素子を実装する方法もあるが、実装時間が大幅に長くなりコスト高となり実用的ではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、従来の磁気センサに用いられている四角形状とする長方形型平板形状のバイアス永久磁石の代わりに断面上部が三角形である多角柱形状のバイアス永久磁石を磁気センサに用いるものであり、具体的には以下の特徴を有する。
(1)本発明は、磁気抵抗効果素子およびバイアス永久磁石を用いた磁気センサにおいて、前記バイアス永久磁石は多角柱形状であって、その多角柱形状の断面上部が三角形状であり、その三角形状の上部頂点を結ぶ稜線に対してN極またはS極が着磁されることを特徴とし、複数の前記磁気抵抗効果素子は前記バイアス永久磁石の前記稜線の上方に、前記バイアス永久磁石の前記稜線に対して平行な直線上に配置され、複数の前記磁気抵抗効果素子の抵抗変化に基づいて、前記稜線と直交する方向を含む方向に移動された検出対象を検出することを特徴とする磁気センサである。
(2)本発明は、(1)に加えて、前記磁気抵抗効果素子は前記永久磁石の前記稜線に対する着磁方向と直交する平面上に配置されることを特徴とする。
(3)本発明は、(1)または(2)に加えて、前記磁気抵抗効果素子は前記稜線の両側に配置され、さらに、前記稜線の両側に配置された磁気抵抗効果素子は前記稜線に対して対称な位置に配置されることを特徴とする。
(4)本発明は、上記に加えて、前記バイアス永久磁石の断面上部の三角形状は二等辺三角形を有し、前記上部頂点が二等辺三角形の2つの等辺による頂点であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁気センサに用いる断面上部が三角形である多角柱形状のバイアス永久磁石は、従来の磁気センサに用いられている四角形状のバイアス永久磁石よりも、水平方向磁場がゼロになる点のバラツキが小さいので、それぞれの磁気抵抗効果素子に適切なバイアス磁界をかけることができ、各磁気抵抗効果素子の感度を一定に揃えることができる。特にアレイ状に多数の磁気抵抗効果素子を配置した場合にその効果が大きい。また、断面上部が三角形である多角柱形状のバイアス永久磁石は、個体間による水平方向磁場がゼロになる点のバラツキも小さいので、安定した磁気特性を有する磁気センサを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の磁気センサに用いられる三角磁石の作る磁場をシミュレーションして表現した図である。
図2図2は、本発明の磁気センサに用いられる三角磁石と磁気抵抗効果素子の配置状態および水平方向磁場ゼロ点を示す図である。
図3図3は、本発明の磁気センサに用いられるバイアス永久磁石の別の実施形態を示す図である。
図4図4は、磁気抵抗効果素子およびバイアス永久磁石を実装した磁気センサパッケージの一例を示す図である。
図5図5は、本発明の実施例を示す表である。
図6図6は、磁気抵抗効果素子およびバイアス永久磁石から構成される磁気センサを用いた磁気インク検出方法を示す図である。
図7図7は、水平方向磁場と磁気抵抗効果素子の抵抗変化との関係を示すグラフである。
図8図8は、従来の磁気センサに用いられている四角形状のバイアス磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示し、磁気抵抗効果素子を複数配置した場合の構成例を示す図である。
図9図9は、従来の磁気センサに用いられている四角形状のバイアス磁石の磁場を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、従来の磁気センサに用いられている長方形型平板形状のバイアス永久磁石(以下、四角磁石ともいう)の代わりに断面上部が三角形である多角柱形状のバイアス永久磁石を磁気センサに用いることによって、水平方向磁場がゼロとなるポイント(以下、水平方向磁場ゼロ点ともいう)の変動を小さくするものである。
【0015】
まず、本発明の磁気センサに用いるバイアス永久磁石として、断面が三角形である三角柱形状のバイアス永久磁石(以下、三角磁石ともいう)を用いた場合の実施形態について示す。
図1は、本発明の磁気センサに用いられる三角磁石の作る磁場をシミュレーションして表現した図である。図1に示す三角磁石1は、三角柱形状の断面が二等辺三角形であり、頂点側がN極でその対辺(以下、底辺)側がS極となっている。図1に示す磁場の状態は、頂点側から底辺側に向かう磁場分布であり、図1に示す細い実線(曲線)は磁力線を表す。図1(a)は理想的に作製された三角磁石の磁場を示す。ここで理想的にとは、磁石の材質が均一に分布し、磁区も均一に揃い、着磁等の製造バラツキもなく、さらに形状も正確に作製された場合等を意味する。三角磁石1の頂点Oおよび底辺の中点を通る中線(垂線と一致する)M1に対して磁石の材質や着磁状態等の磁場を発生する要素が均一に形成されている(理想的な状態)ので、三角磁石1の磁場は中線M1に対して対象となっている。このM1は幾何学的な磁石中心線でもある。頂点Oから出る磁力線(すなわち、磁石中心位置における磁力線であり、これを以下、磁力線軸と称する)E1は中線M1上にあり、垂直磁場を示している。従って、頂点Oにおける水平(方向)磁場(三角磁石1の底辺に平行な方向の磁場、あるいは中線M1または磁石中心線に垂直な方向の磁場)はゼロ(0)であり、この水平方向磁場ゼロ点P1は頂点Oと一致する。
【0016】
しかし実際の磁石では磁石の材質や着磁状態等の製造条件のバラツキなどによって理想的な状態で作製することは難しいので、磁力線軸は少し傾いて形成される。図1(b)は、磁力線軸E2が約10度(中線M1に対して)左側へ傾いた時の磁力線の状態を示す図である。この磁力線状態は理想的な状態と異なっており、中線M1に対して非対称になっている。この結果、水平方向磁場ゼロ点P2は中線M1の右側に少しずれてしまい、三角磁石1の頂点Oとは一致しない。しかし、そのズレ量は、図9において示した四角磁石の場合に比べるとかなり小さい。また三角磁石の頂点付近における磁力線の分布状態も理想的な状態からの変化が小さい。
【0017】
図1(c)は、磁力線軸E3が約10度(中線M1に対して)右側へ傾いた時の磁力線の状態を示す図である。この磁力線状態は理想的な状態と異なっており、中線M1に対して非対称になる。この結果、水平方向磁場ゼロ点P3は中線M1の左側に少しずれてしまい、三角磁石1の頂点Oとは一致しない。しかし、そのズレ量は、図9において示した四角磁石の場合に比べるとかなり小さい。また三角磁石の頂点付近における磁力線の分布状態も理想的な状態からの変化も小さい。このように、実際の三角磁石においては、水平方向磁場ゼロ点の磁石中心からのズレはかなり小さくなっている。尚、図1においては頂点側をN極とした場合について説明したが、頂点側をS極、底辺側をN極とした場合においても、磁場の向きが逆になるだけであるから、上記と同様であり、水平方向磁場ゼロ点の磁石中心からのズレはかなり小さくなる。
【0018】
図2は、本発明の磁気センサに用いられる三角磁石と磁気抵抗効果素子の配置状態および水平方向磁場ゼロ点を示す図である。図2(a)は横方向断面図(立面図)であり、図2(b)は水平方向透視図(平面図)である。三角磁石1は断面が二等辺三角形であり、頂点側の上方(頂点から一定距離をおいて)にMR素子が配置される。三角磁石1の中線M2は磁石中心線および垂線(頂角から底辺に下ろした垂直線)である。複数のMR素子2は、中線M2に垂直な平面C1上で、かつ三角磁石1の頂点の直上において、中線M2から少し離して配置される。すなわち、複数のMR素子2は、図2(b)に示すように、中線M2から距離xだけ離れた直線C2上に配置される。
【0019】
尚、図2(b)に示す直線M2は図2(a)の立面図から平面図へ延長した直線ということで便宜上中線M2と呼んでいるが、正確には中線ではなく、三角磁石の頂点を結ぶ稜線であり、その線を頂線と名付ける。この頂線と中線はいたる所で垂直に交わっている。また、磁石中心線は、図2(a)の立面図でみると中線M2と一致するが、図2(b)の平面図でみると長方形の対角線の交点からその直上にある頂点を結ぶ線の1本だけである。この1本の磁石中心線はこの位置における断面三角形の中線M1と一致し、理想的にはこの位置において中線M1および磁石中心線方向へ垂直方向磁場が生じている。また、図2(b)における中線(頂線)M2上では理想的には水平方向磁場がゼロとなる。平面C1が実装基板の表面となる場合は、各MR素子2は実装基板に個別に実装されるので、中線M2(正確には頂線M2)に平行な直線C2上にMR素子2の中心がくるように配置する。複数のMR素子が1つのチップ(磁気センサチップ)上に形成されている場合は、磁気センサチップが平面C1となり、磁気センサチップに形成された複数のMR素子2の中心が直線C2上にくるように磁気センサチップを配置する。尚、MR素子が1個の場合は、磁石中心線に対して直交する直線C1上にMR素子を配置するのが、MR素子の磁気特性を活用する上で最も良い。
【0020】
距離xは、たとえば、図7に示したように、MR素子の特性曲線において磁場の変化に対してMR素子の抵抗が最も効果的に変化するポイント(位置)から決定される。特に、MR素子をK2とK1との間の非飽和領域に配置すると、わずかな磁場変化によって大きな抵抗変化を発生させることができる。水平方向磁場ゼロの位置Y1は、中線M2のラインとは一致しないが、そのズレ量は非常に小さく、図8に示す四角磁石の場合と比較するとその違いは歴然である。三角磁石の場合において、水平方向磁場ゼロの位置Y1は三角磁石1の磁石中心M2から余りずれないので、MR素子2を多数アレイ状に配置した場合でも各MR素子に印加されるバイアス磁場の大きさは余り変化しない。従って、磁石中心M2からの距離xにおける各MR素子の特性曲線のバラツキもかなり小さくなる。また、多数の三角磁石においても水平方向磁場ゼロ点の位置はそれぞれの頂点(頂線)からのズレがかなり小さく、個体差が小さいので、品質の安定した磁気センサを作製できる。
【0021】
上記において、断面が二等辺三角形の三角磁石は磁石中心(中線)に対して磁力線分布が対称形となるので、断面が任意の三角形である三角磁石の中において水平磁場ゼロ点のズレが最も小さくなる。従って、MR素子を中線M2を挟んで逆側にもMR素子を配置することもできる。このとき、MR素子を中線M2に対して対称位置に配置すると、理想的には、中線M2の両側におけるMR素子特性も対称型となるので、水平方向磁場ゼロ点のズレ量が小さい三角磁石の場合は、中線M2から右側に距離xの直線位置にMR素子を並べて配置すると、その右側のMR素子の特性は左側のMR素子と余り変わらない特性を得ることができる。その結果、中線の両側にMR素子を並べることによって感度をさらに高めることができる。
【0022】
磁石中心(中線)に対して垂直な面C1上にMR素子を配置すると最もMR素子の感度を良好にできるが、多少傾いて(たとえば、10度以下)配置しても三角磁石の場合はMR素子の特性の変化は小さい。従って、MR素子と三角磁石を1つのパッケージに収納する場合において、その実装自由度が大きい。
【0023】
次に、本発明の磁気センサに用いられるバイアス永久磁石の別の実施形態を示す。
図3は、磁石の断面上部が三角形(二等辺三角形)で、断面下部が四角形(長方形)である五角形磁石と磁気抵抗効果素子の配置状態および水平方向磁場ゼロ点を示す図である。図3(a)は横方向断面図(立面図)であり、図3(b)は水平方向透視図(平面図)である。
五角形磁石3は、三角形形状の上方がN極(またはS極)で四角形形状の下方が逆極のS極(またはN極)となるように着磁されている。三角形の上部頂点から対辺(四角形の底辺)を通る中線(垂線ともなる)M3は磁石中心線となる。五角形磁石3の断面上部は三角形状であるから、三角磁石と同様の特性を示す。従って、平面図において示すように、水平磁場ゼロ点を示す曲線Y2と磁石中心線M3とのズレ量は小さい。従って、MR素子の特性バラツキも小さくなる。
図3では五角形磁石について説明したが、本発明は磁石の断面上部が三角形(好ましくは二等辺三角形)であれば、断面下部が四角形以外の形状、たとえば三角形、五角形、六角形等任意の多角形形状でも上記した効果を実現できる。このとき、三角形形状の上方がN極(またはS極)で多角形形状の下方が逆極のS極(またはN極)となるように着磁される。
【0024】
次に、本発明の磁気センサをパッケージ実装したときの実施形態を示す。図4は、MR素子およびバイアス永久磁石を1つにまとめて実装した磁気センサパッケージの一例を示す図である。実装基板(プリント配線基板)12の表面において、中央付近の所定の場所に磁気抵抗効果素子(MR素子)11(11−1、2)を、接着剤等を介して付着させる。実装基板12上には必要な配線が形成されており、この配線パターンとMR素子11とをワイヤ等で接続する。また、実装基板12の周囲には外部端子17が備わり、この外部端子17と実装基板の配線は導通しているので、外部からMR素子11に電圧を印加でき、また外部へ信号を出力できる。さらに、実装基板12の表面にコトロール用ICチップ(図示せず)も搭載することによって、MR素子に生ずる抵抗変化を演算処理することもできる。実装基板12の表面上に搭載されたMR素子11やICチップを保護するために、これらの素子を封止材13で被覆する。
【0025】
実装基板12の裏面側にバイアス永久磁石15を配置し、非磁性で絶縁性の接着部材16を介して実装基板(プリント配線基板)12にバイアス永久磁石15を付着する。バイアス永久磁石15は三角磁石であり、その頂点A側がN極に、その対辺(底辺)BC側がS極に形成されている。(これは逆でも良い。)その頂点Aと実装基板11との間に所定のギャップzを持たせる。このギャップzは、たとえば、図7に示すようなMR素子の特性曲線をもとにして、三角磁石15の頂点AとMR素子との距離(ギャップz+実装基板12の厚さ)から決定される。また、磁石の中線M4は磁石中心線である。MR素子の中心位置は磁石の中線M4から一定距離x(図2におけるxと同じ)だけ離して実装する。このxもたとえば、図7に示すようなMR素子の特性曲線をもとにして決定される。三角磁石15の断面形状が二等辺三角形(AB=AC)である場合、中線M4は垂線であり、理想的には頂点Aにおいて垂直磁場が中線M4方向に形成される。
【0026】
実装基板12、封止材13、端子17、実装基板12上にパターニングされた配線材料、ワイヤなどは、バイアス永久磁石15の磁場への影響を極力小さくするために、非磁性材料である必要がある。実装基板12として、紙フェノール基板、紙エポキシ基板、ガラスエポキシ基板、ポリイミド基板等の絶縁基板を使用できる。封止材13として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等を使用できる。端子17やワイヤとして、銅、アルミニウム、金等を使用できる。接着部材16として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等を使用できる。また、実装基板等に形成される配線も銅、アルミニウム、金等の非磁性材料が望ましい。三角磁石は、ネオジウム磁石、サマリウムコバルト磁石等の希土類系磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石等種々の磁石を使用できる。その製造方法として、ボンド磁石、焼結磁石、鋳造磁石等種々適用できる。また、ボンド磁石の成形方法として、射出成形、圧縮成形、抽出成形等種々適用できる。
【0027】
図4に示す磁気センサパッケージのサイズの一例として、磁気センサパッケージの横幅は15mm、高さ8mm、奥行き20mm、断面二等辺三角形の三角磁石サイズは横幅10mm、高さ3mm、奥行き20mm(従って、頂角αは約120度)、ギャップ(z)1.1mm、実装基板12の厚みは1mm、MR素子11のサイズは縦0.4mm、横0.4mm、厚さ0.2mm、封止材13の厚みは1mmである。また、xは0.1mm〜1.0mmである。
【0028】
図4ではMR素子が磁石中心線の両側に2個配列しているが、これらはたとえば直列に接続され抵抗の変化量の感度を高めている。また、奥行き側は図示していないが、図2図3に示すように多数のMR素子をアレイ状に配列して、広い範囲の磁気インクパターンを読み取るようにすることもできる。MR素子は単体チップとして実装基板に搭載しているが、MR素子をまとめて1チップ化して、そのチップを実装基板に搭載しても良い。さらにコントロール用IC内にMR素子を形成して、そのICを実装基板に搭載しても良い。このような場合においても、MR素子11(11−1、2)と中線M4との距離xを保持するようにチップを実装する。
【実施例】
【0029】
三角磁石(断面形状:二等辺三角形、長さ50mm、幅10mm、厚さ(頂点からの高さ)3mm、頂角は約120°)および四角磁石(断面形状:長方形、長さ50mm、幅10mm、厚さ3mm)について、磁石の中心と水平磁場ゼロとの位置ズレ量を調査した。磁石の材質は共に等方性ネオジウムボンド磁石である。それぞれ3個の試料(磁石)について、磁石(ともに上側がN極)の直上1mmの所を、磁石中心(対角線の交点)から長さ方向片側2.5mm(両側で5mm)および幅方向3.0mm(両側で6mm)の範囲の磁場を幅方向について4μmピッチ(長さ方向は100μmピッチ)で測定して、幅方向の水平方向磁場ゼロのポイントを調査した。測定装置は、マグネットアナライザを用いた。
【0030】
その結果を図5に示す。三角磁石については、頂線(頂点を結ぶ辺、長さ方向)からの水平磁場ゼロ点(線)までの距離の平均が80μm(σ=9μm)、四角磁石については、短辺側(幅方向)の中点を結ぶ線(磁石中心を通る)からの水平方向磁場ゼロ点(線)までの距離の平均が332μm(σ=11μm)であった。三角磁石の方が四角磁石よりもズレ量が約1/4であり、かなり小さいことが確かめられた。また、これらと同じデータを用いて水平方向磁場ゼロ点(線)の直線性について調査した。水平方向磁場ゼロ点(線)の直線性は、長さ方向に伸びる水平方向磁場ゼロ点(線)(図2におけるY1、および図8におけるV5)の幅方向における最大値と最小値の差で評価した。この差が小さいほど直線性が良い。その結果を図5に示す。三角磁石は差が約5μm(σ=2.0μm)、四角磁石は差が22μm(σ=4.2μm)である。従って、三角磁石の方が四角磁石より直線性もかなり良いことが分かった。
【0031】
以上説明した様に、本発明は、MR素子を用いた磁界センサにおいて、従来用いられている四角磁石の代わりに断面上部が三角形である多角柱形状の永久磁石を用いることによって、水平方向磁場ゼロ点の磁石中心線からのズレ量がかなり小さくなり、磁気特性の感度や品質が優れた磁気センサを実現できる。従って、たとえば、本発明の磁気センサを用いて磁気インク等が印刷された紙葉類の識別を行なった場合、印刷物を正確に読み取ることが可能になる。また、本発明の磁気センサに用いる水平方向磁場を検知するMR素子として、トンネル磁気抵抗効果(TMR)素子、巨大磁気抵抗効果(GMR)素子、あるいは異方性磁気抵抗効果(AMR)素子を用いることができる。
【0032】
尚、明細書の各部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることは言うまでもない。さらに、上記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、水平方向磁場ゼロ点のバラツキが非常に小さいので、高性能の、非接触スイッチ、磁気ヘッド、地磁気センサ、回転センサや角度センサ等にも適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1・・・三角磁石、2・・・磁気抵抗効果素子、3・・・五角形磁石、
4・・・台形磁石、11・・・磁気抵抗効果素子、12・・・実装基板、
13・・・封止材、15・・・三角磁石、16・・・非磁性・絶縁性材、17・・・端子、
21・・・四角磁石、23・・・四角磁石、24・・・磁気抵抗効果素子、
101・・・磁気センサチップ、102・・・永久磁石、103・・・磁気インク(磁性体)、104・・・磁気抵抗効果素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9