特許第6288581号(P6288581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6288581アルミニウムまたはアルミニウム合金製伝熱管の拡管方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288581
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】アルミニウムまたはアルミニウム合金製伝熱管の拡管方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 39/20 20060101AFI20180226BHJP
   B21D 39/06 20060101ALI20180226BHJP
   B21D 37/20 20060101ALI20180226BHJP
   B21D 37/18 20060101ALI20180226BHJP
   B21D 53/08 20060101ALI20180226BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20180226BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20180226BHJP
   F28F 1/40 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   B21D39/20 B
   B21D39/06 B
   B21D37/20 Z
   B21D37/18
   B21D53/08 J
   F28F1/32 C
   F28F21/08 A
   F28F1/40 D
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-270230(P2013-270230)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-62951(P2015-62951A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年11月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-178132(P2013-178132)
(32)【優先日】2013年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宗尚
(72)【発明者】
【氏名】久米 淑夫
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−093713(JP,A)
【文献】 特開2006−257335(JP,A)
【文献】 特開2012−067900(JP,A)
【文献】 特開2005−288502(JP,A)
【文献】 特開2013−096651(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/043492(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 39/00 − 41/02
B21D 37/18 − 37/20
B21D 53/02 − 53/08
F28F 1/32
F28F 1/40
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなり、内周面に複数の放熱フィンとフィン溝が所定の間隔で複数交互に形成された伝熱素管の内側に該伝熱素管の内径より大きい外径を有するヘッド部を備えた拡管プラグを強制的に挿入して前記伝熱素管の外径を拡張させて伝熱管を形成する伝熱管の拡管方法であって、
前記拡管プラグとして、軸部とこの軸部先端側に形成されたヘッド部を有し、前記ヘッド部を硬度HRA8794の超硬合金から形成し、前記ヘッド部の外周表面に厚さを1.02.7μm、膜硬さを15〜60GPa、臨界剥離荷重を15〜60N、表面粗さRaを0.028〜0.18μmとしたダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆してなる拡管プラグを用い、
前記伝熱素管と前記拡管プラグとの間を潤滑する潤滑油として、引火点1798℃、
動粘度1.064.90mm/S(at40℃)の潤滑油を用い、拡管荷重140〜250Nで拡管することにより、内面フィン高さ減少率4.9〜10.0%、拡管率6.00〜6.22%で拡管することを特徴とする伝熱管の拡管方法。
【請求項2】
前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜として、硬さが3060GPaの範囲であり、臨界剥離荷重が30〜60Nのダイヤモンドライクカーボン皮膜を用いることを特徴とする請求項1に記載の伝熱管の拡管方法。
【請求項3】
表面粗さRaを0.0280.08μmとしたダイヤモンドライクカーボン皮膜を用い、拡管荷重140〜210Nで拡管することにより、内面フィン高さ減少率4.9〜7.5%で拡管することを特徴とする請求項1または2に記載の伝熱管の拡管方法。
【請求項4】
アルミニウムあるいはアルミニウム合金製のフィン材を複数配列してなるフィン集合体を貫通するように複数の伝熱素管を配置し、これらの伝熱素管を前記拡管プラグにより拡管して伝熱管とすることでこれらの伝熱管をフィン集合体と接合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の伝熱管の拡管方法。
【請求項5】
前記伝熱素管として、管内面の周方向に間隔をあけて管の長さ方向に延在された複数の螺旋溝を有する螺旋溝付き伝熱素管を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の伝熱管の拡管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡管用プラグを用いたアルミニウムまたはアルミニウム合金製伝熱管の拡管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チューブ、フィンを主体とするクーラー用室内機などの熱交換器は、フィンをアルミニウムから構成し、チューブを銅製ヘアピンパイプで構成する構造が従来から用いられている。ところが、近年、銅資源の枯渇などの背景から、更なる低コスト化、熱交換性能の向上、リサイクル性の追求などがなされ、チューブも含めて熱交換器全体をアルミニウムから構成するオールアルミニウム熱交換器が検討されている。
【0003】
チューブとフィンからなる熱交換器の一例として、図8図9に示すように、冷媒を通過させるチューブとして熱伝導性と加工性に優れた銅または銅合金からなる伝熱管100を蛇行させて設け、この伝熱管100の周囲に複数のアルミニウム合金製フィン材101を平行に配設した構造が知られている。伝熱管100は、平行に配設したフィン材101を貫通するように設けた複数の透孔を通過するように設けられている。
図8に示す熱交換器の構造において伝熱管100は、フィン材101を直線状に貫通する複数のU字状の主管100Aと、隣接する主管100Aの隣り合う端部開口どうしをU字形のエルボ管100Bで図9に示すように接続してなる。また、フィン材101を貫通している伝熱管100の一方の端部側に冷媒の入口部106が形成され、伝熱管100の他方の端部側に冷媒の出口部107が形成されることで図8に示す熱交換器105が構成されている。
【0004】
図8に示す構造の熱交換器105を製造するには、平行に配置された複数のフィン材101を直線状に貫通する透孔をフィン材101に予め複数箇所形成しておき、これらの透孔にこれら透孔より若干小さな外径の伝熱素管を挿通しておく。次に、図10に示すように球状のヘッド部110をロッド部111の先端側に有する拡管プラグ112を用い、この拡管プラグ112を伝熱素管103内に強制的に挿入し、伝熱素管103を押し広げるように塑性変形させて拡管することで伝熱管100を形成する。この拡管処理によって径が増大した伝熱管100はフィン材101の透孔を内側から押し広げるようにフィン材101に密着するのでフィン材101と伝熱管100を相互固定することができる。
【0005】
この種の拡管技術の一例として、軸部の先端部に球形状の本体部を備えた拡管治具であり、本体部の外周表面にダイヤモンドライクカーボン処理による表面処理層を有し、金属管の拡管時に用いる潤滑油として動粘度0.5〜11cSt(at40℃)の潤滑油を用いる技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−093713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術によれば、硬質かつ潤滑性を有する表面処理層を拡管治具の表面に形成した構造と潤滑油の選択により、拡管時の抵抗を低減している。これにより、金属管拡管時に発生する摩耗粉の生成を抑え、摩耗粉の拡管治具への凝着を防止し、金属管内面が荒れるなどの不具合を解消できる。
しなしながら、上述したような拡管プラグ112による拡管工程は、従来の銅あるいは銅合金製の伝熱素管103を用い、これを拡管して伝熱管100にするのであるならば、加工上問題を生じるおそれは低かったが、アルミニウムあるいはアルミニウム合金製の伝熱管を用いる場合、以下に説明する課題が新たに発生することがわかった。
【0008】
アルミニウムあるいはアルミニウム合金製の伝熱管は、銅あるいは銅合金製の伝熱管に比べ、拡管の際に拡管プラグ112にアルミニウムの凝着が発生し易く、拡管荷重が増大するので拡管プラグ112の破損あるいは伝熱管そのものの破損を引き起こす問題があった。拡管荷重が増大する原因の1つは、拡管プラグに対し銅よりもアルミニウムの方が親和性が高いことに起因している。
【0009】
また、熱交換器に適用される伝熱管は、近年では、図11に断面構造を示す伝熱管120のように内面壁に管の長さ方向に延在する複数の溝121を備えた溝付き管が多用されている。従来、この種の溝付き伝熱管120を銅あるいは銅合金から構成した場合に拡管プラグ112により拡管する技術はある程度確立しているが、溝付き伝熱管120をアルミニウムあるいはアルミニウム合金から構成した場合、拡管時に溝121が潰されて変形する問題を生じるおそれがあった。
【0010】
溝付き伝熱管120において溝121が潰れるか変形すると、熱交換効率が低下するので、熱交換器としての性能が低下するおそれがある。
このため、アルミニウムあるいはアルミニウム合金製の伝熱管を用い、その伝熱管が溝付きタイプであったとしても、溝の形を崩すことなくできるだけ円滑に拡管できる技術の提供が望まれている。
【0011】
本発明は上述の事情に鑑みなされたもので、アルミニウムあるいはアルミニウム合金製の伝熱管を拡管して熱交換器を構成する場合に好適な拡管プラグを用いて行う伝熱管の拡管方法であり、拡管時の抵抗を低く抑制し、伝熱管内面の溝の変形を抑制しつつ拡管できる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用した。
本発明に係る伝熱管の拡管方法は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなり、内周面に複数の放熱フィンとフィン溝が所定の間隔で複数交互に形成された溝付き伝熱素管の内側に該伝熱素管の内径より大きい外径を有するヘッド部を備えた拡管プラグを強制的に挿入して前記伝熱素管の外径を拡張させて伝熱管を形成する伝熱管の拡管方法であって、
前記拡管プラグとして、軸部とこの軸部先端側に形成されたヘッド部を有し、前記ヘッド部を硬度HRA8794の超硬合金から形成し、前記ヘッド部の外周表面に厚さを1.02.7μm、膜硬さを15〜60GPa、臨界剥離荷重を15〜60N、表面粗さRaを0.028〜0.18μmとしたダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆してなる拡管プラグを用い、前記伝熱素管と前記拡管プラグとの間を潤滑する潤滑油として、引火点1798℃、動粘度1.064.90mm/S(at40℃)の潤滑油を用い、拡管荷重140〜250Nで拡管することにより、内面フィン高さ減少率4.9〜10.0%、拡管率6.00〜6.22%で拡管することを特徴とする。
【0013】
本発明において、前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜として、硬さが3060GPaの範囲であり、臨界剥離荷重が30〜60Nのダイヤモンドライクカーボン皮膜を用いることができる。
本発明において、表面粗さRaを0.0280.08μmとしたダイヤモンドライクカーボン皮膜を用い、拡管荷重140〜210Nで拡管することにより、内面フィン高さ減少率4.9〜7.5%で拡管することができる。
本発明において、アルミニウムあるいはアルミニウム合金製のフィン材を複数配列してなるフィン集合体を貫通するように複数の伝熱素管を配置し、これらの伝熱素管を前記拡管プラグにより拡管して伝熱管とすることでこれらの伝熱管をフィン集合体と接合することを特徴とする方法でも良い
本発明において、前記伝熱素管として、管内面の周方向に間隔をあけて管の長さ方向に延在された複数の螺旋溝を有する螺旋溝付き伝熱素管を用いることができる。



【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、硬度HRA85〜95であって適度な硬さ範囲の超硬合金からなるヘッド部に良好な密着性で付着したダイヤモンドライクカーボン皮膜を備えた拡管プラグを用いてアルミニウムあるいはアルミニウム合金製の伝熱管を拡管するので、ヘッド部表面へのアルミニウムの凝着を防止しながら、低い抵抗で伝熱素管の拡管を行うことができる。このため、拡管後に内面の性状が良好な伝熱管を得ることができる。
また、低い拡管抵抗で従来よりも円滑に伝熱管を拡管できることから、拡管後の伝熱管の外径を均一化することができる。従って、伝熱管とフィン材を組み合わせて熱交換器を構成する場合、伝熱管とフィン材を精度良く結合することができ、伝熱管とフィン材との熱伝導性に優れ、熱交換特性の良好な熱交換器を提供できる。
【0015】
また、アルミニウムあるいはアルミニウム合金製の伝熱素管の内面側に複数の溝を備えた溝付き伝熱素管を拡管する場合、拡管プラグのヘッド部が拡管時に内面側の溝を押圧し、溝を変形させ、溝を潰すおそれがあるが、前記構成の拡管プラグを用いて拡管するならば、溝の変形を抑え、溝形状の整った伝熱管を得ることができる。
特に、内面側に複数の螺旋溝を備えた螺旋溝付き伝熱素管を拡管する場合、拡管プラグのヘッド部が拡管時に内面側の螺旋溝を押圧し、螺旋溝を変形させ、螺旋溝を潰すおそれがあるが、前記構成の拡管プラグを用いて拡管するならば、螺旋溝に変形を生じていない螺旋溝形状の整った伝熱管を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施に用いる拡管プラグの第1実施形態を示す斜視図。
図2】同拡管プラグにより拡管される伝熱素管の一例を示す横断面図。
図3】同拡管プラグにより伝熱素管を拡管して熱交換器を組み立てる状態を説明するための斜視図。
図4】同拡管プラグにより伝熱素管を拡管して伝熱管に加工する拡管動作を示す部分断面図。
図5】螺旋溝が形成された伝熱管の一例を示す断面図。
図6図1に示す拡管プラグにより拡管された伝熱管の部分断面図。
図7】従来の拡管プラグにより拡管された伝熱管の部分断面図。
図8】一般的な熱交換器の一例を示す構成図。
図9図8に示す熱交換器の部分斜視図。
図10】伝熱管を拡管プラグで拡管している状態を示す断面図。
図11】従来の伝熱管の一例を示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る拡管プラグの一実施形態について以下に説明する。
図1は本発明に係る一実施形態の拡管プラグを示すもので、この実施形態の拡管プラグ1は、軸部2とその先端側に一体形成されたヘッド部3とからなる。軸部2の後端側にはねじ軸2aが形成されている。ヘッド部3は樽型をなして軸部2より若干径が大きくなるように膨出形成され、先端側に平坦面3aを有し、ヘッド部3の長さ方向中央部側に最大径部3bが形状されている。このヘッド部3の最大径部3bが後述する伝熱素管を拡管して伝熱管とする場合の伝熱管の径を規定する。
【0018】
本実施形態の拡管プラグ1において、軸部2は、強度の高い鋼材、例えば、JIS規定SCM435で示されるクロムモリブデン鋼からなる。
本実施形態の拡管プラグ1において、ヘッド部3はHRA85以上HRA95以下の超硬合金から一体形成されている。HRAはロックウエル硬さの一種であり、先端半径0.2mm、かつ、先端角120゜のダイヤモンド円錐圧子をスケールとして用い、試験荷重600N、基本荷重100Nで測定される値である。まず、試験面に基本荷重を付加し、次いで試験荷重を足した合成荷重を加え、塑性変形させ、その後負荷を基準荷重に戻し、この際の基準面の永久窪みの深さを読み取り、この値から硬さを算出する方法で得られる硬さの指標である。
ヘッド部3は軸部2に対しカシメ加工により結合されているか、銀ろう等を用いたろう付け手段により結合されている。
【0019】
ヘッド部3を構成する超硬合金の硬さがHRA85未満であると、後述するダイヤモンドライクカーボン皮膜5の密着性が低下する。
ヘッド部3を構成する超硬合金の硬さがHRA95を超えると、超硬合金のじん性が低下し、拡管プラグによる加工ができなくなる。
【0020】
上述の条件を満たす超硬合金として、周期律表IVa、Va、VIa族元素の炭化物をFe、Co、Niなどの鉄系金属で焼結した超硬合金を用いることができる。一例として、WC−Co系合金、WC−TiC−Co系合金、WC−Ta−Co系合金、WC−TiC−Ta−Co系合金、WC−Ni系合金、WC−Ni−Cr系合金などを適宜用いることができる。
より具体的な一例としてWC粒子にCoを5〜17質量%添加した超硬合金においてHRC85〜95の範囲を得ることができるので、本実施形態の拡管プラグ1の構成材料に適用することができる。
より具体的に例えば、上述の超硬合金としてJISV10、V20、V30、V40、V50、V60などで規定されている種類の超硬合金を利用することができる。
【0021】
本実施形態の拡管プラグ1においてヘッド部2の外周面全面にダイヤモンドライクカーボン皮膜5が形成されている。このダイヤモンドライクカーボン皮膜5の膜厚は、0.5μm以上3.0μm以下の範囲であることが好ましい。
ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の膜厚が0.5μm未満であると、アルミニウムの凝集抑制効果が低下し、拡管時に拡管プラグ1に対するアルミニウムの凝着が生じ易くなる。また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の膜厚が3.0μmを超えるようであると、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の膜剥がれを生じ易くなる。
ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の硬さについては、20GPa以上70GPa以下であることが好ましい。ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の硬さが20GPa未満では耐摩耗性が低下して拡管プラグ1の寿命が短くなり、70GPaを超える硬さでは成膜自体が困難となる。
【0022】
また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の臨界剥離荷重は、5N以上であることが好ましい。ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の臨界剥離荷重が5N未満では、皮膜の剥離が起こり易くなり、拡管プラグ1の寿命が短くなる。また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の臨界膜厚荷重が30N以上であれば、より長い距離の拡管を施してもアルミニウムの凝着を生じ難い。
【0023】
拡管プラグ1とともに拡管時に用いる潤滑油は、特に図示はしていないが、引火点100℃以下、動粘度1.0mm/S(at40℃)以上の潤滑油を用いることが好ましい。
この条件に用いることができる潤滑油として例示するならば、ダフニーパンチオイル AF−2A(出光興産製:動粘度1.37mm/S)を挙げることができる。
【0024】
図2はアルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる円管状の伝熱素管10の断面構造を示し、この伝熱素管10は、前記構成の拡管プラグ1を用いて拡管する場合に適用することができる。このような断面形状の伝熱素管10は例えばアルミニウムあるいはアルミニウム合金を押出加工することで得ることができる。
この例の伝熱素管10は、ルームエアコン用熱交換器の伝熱管に適用する場合、例えば、直径5〜10mm程度の外径の管本体11の内部に複数の突条型の放熱フィン12が形成されてなる。
放熱フィン12は、それぞれ管本体11の内周面から管本体11の中心に向いて突出形成され、管本体11の内面の長さ方向全長に渡り延在するように、管本体11の内周面の周方向に所定の間隔で複数隣接形成されている。
【0025】
放熱フィン12は、管本体11の横断面において、管本体11の中心に向く平坦な頂平部12aとこの頂平部12aを挟むように延在する傾斜部12b、12bとを有する横断面視等脚台形状に形成されている。これらの放熱フィン12は、管本体11の内周面の周方向に所定の間隔で複数形成されているので、管本体11の内周面に沿って隣接する放熱フィン12、12の間にフィン溝14が形成されている。放熱フィン12の高さは例えば0.05〜0.35mm程度、管本体11の底肉厚(フィン溝14に対応する部分の肉厚)は0.3〜0.8mm程度とされる。
【0026】
前記管本体11は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる。管本体11を構成するアルミニウム合金に特に制限はなく、JISで規定される1050、1100、1200等の純アルミニウム系、あるいは、これらにMnを添加した3003に代表される3000系のアルミニウム合金等を適用することができる。勿論、これら以外にJISに規定されている5000系〜7000系のアルミニウム合金のいずれかを用いて管本体11を構成しても良いのは勿論である。
【0027】
図2に示す構造の管本体11を用いて熱交換器を構成するには、図3に示すようにアルミニウムあるいはアルミニウム合金製のフィン材15を複数重ねてフィン集合体16を構成し、このフィン集合体16に対し管本体11をU字状に曲げたヘアピンパイプ17の状態で接合する。
各フィン材15においてヘアピンパイプ17を挿通する予定位置に透孔を複数形成しておき、複数のフィン材15を平行に配置した場合、これらの透孔が一直線状に並ぶようにした上で図3に示すようにヘアピンパイプ17を必要本数フィン集合体16の透孔に挿通する。この挿通作業の場合、各ヘアピンパイプ17の開口部17aはフィン集合体16の一側に揃えておく。
なお、拡管プラグ1のねじ軸2aの部分に対し、嵌合自在なねじ穴を有する図示略の延長ロッドをねじ接合して拡管プラグ1の長さを調整しておく。これにより、拡管プラグ1の長さを調整し、ヘアピンパイプ17の全長に渡り、拡管できるように調整しておく。
【0028】
この状態において各ヘアピンパイプ17の開口部17aから拡管プラグ1のヘッド部5を強制的に押し込むと、図4に示すように拡管プラグ1のヘッド部5が内径Dであった伝熱素管10を押し広げるように塑性変形させるので内径dの伝熱管18に拡管することができる。内径dとなった伝熱管18はフィン材15の透孔を押し広げるようにフィン材15に結合するので、ヘアピンパイプ17をフィン材15に機械的に強く接合することができる。
【0029】
以上説明した拡管処理を行う場合、伝熱素管10の内面に当接してこれを押し広げるヘッド部5の表面に潤滑性が良好で硬いダイヤモンドライクカーボン皮膜5を形成しているので、伝熱素管10の内周面に当接して拡管する場合の変形抵抗の上昇をできるだけ抑制できる。また、拡管プラグ1は伝熱素管10の内面に形成されている複数の放熱フィン12に当接しつつ放熱フィン12を含めて伝熱素管10を拡管するので、拡管時に放熱フィン12が潰れるおそれを有し、変形するおそれを有するが、ヘッド部5の表面にダイヤモンドライクカーボン皮膜5を形成しているので、放熱フィン12の潰れや変形を極力少なくしながら目的の径の伝熱管18に拡管できる。
【0030】
拡管プラグ1において軸部2とヘッド部3をHRA85〜95の超硬合金から形成し、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5を良好な密着性でヘッド部3に備えているので、伝熱素管10がアルミニウムの凝着を起こしやすいアルミニウムあるいはアルミニウム合金製であったとしても抑制した拡管抵抗で拡管処理ができる。このため、放熱フィン12の変形を抑制し、形の整った放熱フィン12を備えた伝熱管18を製造できる。
また、放熱フィン12の変形を抑制しつつ拡管できることにより、得られる伝熱管18の外径を均一になるように拡管できるので、フィン材15と伝熱管18の接合時の密着強度を高めることができる。このため、伝熱管18とフィン材15との熱伝導性を良好として優れた熱交換性能を維持することができる。
【0031】
拡管プラグ1において、厚さ0.5〜3.0μmのダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆していることにより、拡管時の膜剥がれを抑制し、アルミニウム凝着のおそれを無くすることができるので、放熱フィン12の変形を抑制し、形の整った放熱フィン12を備えた伝熱管18を製造できる。
拡管プラグ1において、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の硬さが20〜70GPaの範囲であるならば、多数の伝熱素管10を拡管加工したとしても、耐摩耗性の低下が少ないので拡管プラグ1として寿命を長くすることができる。
ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の表面粗さRaを小さい値とした方が拡管荷重を少なくすることが可能となり、拡管する上で望ましく、内面フィン高さ減少率を小さくすることができる。例えば、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の表面粗さRaを0.1μm以下とすることが好ましく、0.05μm以下とすることがより好ましい。表面粗さRaの調整は、ダイヤモンドライクカーボン皮膜を成膜する際の条件の最適化により調整することができる。
【0032】
前記拡管処理の際に用いる潤滑油として引火点100℃以下、動粘度1.0mm/S(at40℃)以上の潤滑油を用いているので、ヘッド部3の表面にダイヤモンドライクカーボン皮膜5を用いた点と相俟って拡管時の抵抗をより低く抑えることが可能となる。このため、放熱フィン12の潰れや変形を極力少なくしながら目的の径の伝熱管18に拡管できる。
【0033】
図5は本発明に適用するアルミニウムまたはアルミニウム合金製の伝熱管の縦断面構造を示し、この例の伝熱管20は、先の実施形態の伝熱管18と同様、管本体21の内周に突条型の放熱フィン22が形成されている点、隣接する放熱フィン間にフィン溝23が形成されている点、管本体21が先の形態の構造と同等範囲の外径、肉厚、放熱フィン高さなどを満たす点については同等構造とされている。
【0034】
この実施形態の伝熱管20において、先の第1実施形態と異なる点は、放熱フィン22が伝熱管20の内周面に沿ってその長さ方向に螺旋を描くように形成されている点である。
管本体21の内部に形成されている複数の放熱フィン22は全ての放熱フィン22が同じピッチで螺旋状に形成されていて、放熱フィン22の間に形成されているフィン溝23についても管本体21の内部において所定のピッチで螺旋を描くように、即ち螺旋溝状に形成されている。
本実施形態の放熱フィン22を備えた伝熱管20であっても、先の第1実施形態の伝熱管18と同様に拡管プラグ1により拡管することができる。
【0035】
この実施形態のように放熱フィン22を管本体21の長さ方向に螺旋状になるように形成することで、螺旋溝型のフィン溝23についても管本体21の長さ方向に螺旋状に形成されるので、管本体21を冷媒が流れる際、冷媒との熱交換効率を良好にすることができる。
【0036】
次に、放熱フィン22の形状については、拡管時の加工に耐えるように構成することが好ましい。例えば、管本体21の内部には3次元的に形状付与された放熱フィン22が形成されているが、このような3次元形状を有した放熱フィン22を備えた管本体21を拡管プラグ1により拡管する場合、放熱フィン22が螺旋状に配置されていると、拡管プラグ1が放熱フィン22をそれらの捻り方向に沿って倒しつつ拡管してしまうことがある。
この点において先に説明したダイヤモンドライクカーボン皮膜5を備えた拡管プラグ1であるならば、放熱フィン22を倒したり、螺旋溝状のフィン溝23を潰したりすることを抑制しつつ拡管処理ができる。
なお、更に放熱フィン23の変形を防止する目的で、拡管プラグ1が放熱フィン22を倒すと想定される方向と反対側に予め放熱フィン22を傾斜させておくなどの工夫をすることが好ましい。このように予め放熱フィン22を傾斜させておくことで、拡管プラグによる拡管後においても放熱フィン22が潰れていない、目的の構造を提供できる。
【実施例】
【0037】
図1に示す形状であり、ヘッド部長さ7.3mm、ヘッド部最大径5.9mm、軸部長さ36.3mm、軸部外径5.5mm、ねじ軸部長さ10mm、ヘッド部がVM40相当の超硬合金(HRA90)からなり、軸部がJIS規定SCM435からなる拡管プラグを用いて拡管を行った。この拡管プラグにおいてヘッド部の外表面には厚さ1.0μm、硬さ30GPaのダイヤモンドライクカーボン皮膜を形成した。
拡管用の伝熱素管として、外径7.0mm、底肉厚0.5mm、放熱フィン(幅0.15mm、内面フィン高さ0.3mm)を内周に45個有する伝熱素管を前記拡管プラグ(最大外径φ5.9mm、プラグ前面R=10mm)で拡管した。この伝熱素管は、JIS3003合金からなる。
前記構成の拡管プラグにより前記構成の伝熱素管を拡管することにより、前記伝熱素管を外径10mmの伝熱管に拡管した。
【0038】
拡管の際、伝熱素管を潤滑油(ダフニーパンチオイルAF−2A:出光興産製:動粘度1.37mm/S)に浸漬後、直ちに拡管した。
拡管の結果、拡管荷重299N、図6に示すように変形やつぶれの少ない内面性状に優れた放熱フィンを有する伝熱管を得ることができた。この伝熱管の拡管率は6.0%、放熱フィン高さ減少率は10%になっている。放熱フィン高さ減少率とは、拡管する前の伝熱素管の状態の放熱フィン高さと、拡管後の図6に示す伝熱管30の放熱フィン31の高さHを比較し、高さの減少した割合を示す。
内面フィン高さ減少率とは、{(拡管前フィン高さ−拡管後フィン高さ)/拡管前フィン高さ}}×100の式で計算される値を示す。なお、これら個々の高さは、CCDカメラを用いた各管の断面撮像の結果を用いて算出できる。
【0039】
前記拡管プラグにおいて、構成材料と各部の寸法を同等にした拡管プラグであって、ヘッド部の表面にダイヤモンドライクカーボン皮膜を形成していない拡管プラグを用意し、上記実施例と同等条件にて伝熱素管を拡管して伝熱管を製造した。
この場合、拡管荷重は600Nであり、図7に示す断面形状の伝熱管33が製造された。この伝熱管の放熱フィン高さ減少率は25%であり、拡管率は5.36%であった。
得られた伝熱管33の断面は図7に示すように放熱フィン35がいびつに変形した形状となった。これは、拡管荷重が600Nと極めて高く、拡管荷重が高いために放熱フィン35に拡管プラグから作用する力が大きく作用し、放熱フィン35が変形したものと推定できる。
【0040】
以下に、拡管プラグを構成する超硬合金硬さ(HRA)とダイヤモンドライクカーボン皮膜の膜厚(μm)、硬さ(GPa)、潤滑油引火点(℃)、拡管用潤滑油の動粘度(mm/S)を変更して上記と同等の拡管試験を行った結果を表1、表2に示す。超硬合金は、超硬工具協会規格(CIS019D)に相当する表1、表2に示す各超硬合金を用い、各超硬合金製のヘッド部を構成して拡管プラグを構成した。各拡管プラグの軸部やヘッド部の長さ、外径等の大きさは上述の例のものと同等である。また、各拡管プラグのDLC膜について、表面粗さを測定した結果を表1、表2に併記した。
【0041】
表1、表2に拡管荷重(N)、内面フィン高さ減少率(%)、拡管率(%)、アルミ凝集状態、拡管プラグ寿命(距離2000m、5000m)、油乾燥性を示す。
表1、表2の評価項目において、内面フィン高さ減少率は、上述の計算式に従う拡管試験前後における高さ減少率(分母は拡管前のフィン高さ)を示す。拡管率は、拡管試験前後における外径拡管率(分母は拡管前)を示し、アルミ凝集条体は、拡管後拡管プラグの外観を観察し、拡管プラグ周方向に凝着が無い場合を○印、凝着範囲が1/2程度生じていた場合を△印、1/2を超える凝着範囲であった場合を×印で示した。拡管プラグ寿命は、各拡管距離後に拡管プラグを外観観察し、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の摩滅によってアルミ凝着状態に変化が見られないことを評価し、凝着無しの場合を◎印、周方向1/4以下を○印、周方向1/3以下を△印、周方向1/2以下を▲印、周方向1/2を超える場合を×印で示した。油乾燥性とは、シャーレに1gの潤滑油を採取し、140℃×2分加熱後の重量が加熱前の5%以下の場合を○印、10%以下の場合を△印、10%超えの場合を×印で示した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1に示すNo.1〜13、17〜28の試料の試験結果から、超硬合金硬さHRA85〜95、DLC膜厚0.5〜3.0μm、拡管潤滑油動粘度を1.0mm以上とすることで、拡管荷重が低く(200〜300N)、内面フィン高さ減少率が小さく(7〜13%)、拡管率に優れ、アルミニウムの凝集が発生し難く、拡管プラグ寿命の長い状態を得ることができるとわかる。
なお、No.1〜13、17〜28の試料の試験結果において、臨界剥離荷重30N以上のNo.9〜13、17〜28の試料は拡管プラグ寿命が特に優れていることが判る。
【0045】
これらの試料に対し、超硬合金硬さがHRA83のNo.29の試料(比較例)は拡管プラグとしての寿命が短くなった。超硬合金硬さがHRA96のNo.30の試料(比較例)は超硬合金部分が脆くなり、拡管プラグによる加工ができなかった。ダイヤモンドライクカーボン皮膜の膜厚が3.5μmのNo.32の試料(比較例)は皮膜自体が厚すぎるために拡管プラグのヘッド部分に成膜できなかった。No.33の試料(比較例)は潤滑油動粘度が低い試料であり潤滑性が不十分となり、アルミニウム凝集状態が悪化した。No.34の試料(比較例)は潤滑油引火点が高く、粘度が高い試料であり、油乾燥性が不十分になった。拡管加工後に乾燥処理を施して拡管油の残留分が少ないことが有利であるので、140℃×2分の加熱により残油分5%以下であることが望ましい。
また、試料1〜16のダイヤモンドライクカーボン皮膜においてその表面粗さRaの測定結果比較から、Raを0.1μm以下とした方が、拡管荷重削減の面で望ましく、0.05μm以下とした方が、拡管荷重を削減した上に、内面フィン高さ減少率を少なくできる上でより望ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0046】
1…拡管プラグ、2…軸部、2a…ねじ軸部、3…ヘッド部、5…ダイヤモンドライクカーボン皮膜、10…伝熱素管、11…管本体、12…放熱フィン、14…フィン溝、15…フィン材、16…フィン集合体、17…ヘアピンパイプ、17a…開口部、18…伝熱管。
図1
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