特許第6288585号(P6288585)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288585
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
   B23B51/00 S
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-124053(P2014-124053)
(22)【出願日】2014年6月17日
(65)【公開番号】特開2016-2617(P2016-2617A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】栗塚 和昌
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−25308(JP,A)
【文献】 特開2009−18360(JP,A)
【文献】 特開2014−8549(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0129031(US,A1)
【文献】 特開平1−92019(JP,A)
【文献】 特開2004−268230(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/054400(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00−51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心にシンニング部を有し、さらに、切れ刃に、シンニング部切れ刃の外端に連なる凹円弧切れ刃部が含まれ、その切れ刃の全域に刃先強化用のホーニング面又はネガランドが形成されたドリルであって、
前記ホーニング面又はネガランドの軸直角視でのドリル軸方向幅が回転中心からシンニング部切れ刃の外端に向かって次第に増加し、シンニング部切れ刃の外端から前記凹円弧切れ刃部の中間点に行くにつれて次第に減少し、前記中間点から切れ刃の外端に向かって再度次第に増加しているドリル。
【請求項2】
前記ホーニング面又はネガランドの軸直角視でのドリル軸方向幅が0.02mm〜0.06mmである請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記凹円弧切れ刃部の曲率半径がドリル径の0.5倍以上に設定された請求項1又は請求項2に記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、刃先に強化処理を施したドリル、詳しくは、刃先の強度を維持して切削負荷を低減させたドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
ドリルの刃先の強化は、通常、刃先を鈍化させる方法でなされる。その刃先の鈍化は、例えば、下記特許文献1、2が示しているよう方法でなされている。
【0003】
特許文献1のドリルは、すくい面に刃先を鈍らせるネガランドを形成し、シンニング部切れ刃に付したネガランドのドリル正面視での幅を主切れ刃に付したネガランドの幅よりも大きくしている。
【0004】
また、特許文献2のドリルは、刃先部に刃先を丸めるホーニング処理を施したものであって、シンニング部切れ刃のホーニング幅をシンニング部切れ刃の全長に亘って一定にするとともに、シンニング部切れ刃の径方向外端に連なる外周部切れ刃の外端におけるホーニング幅をシンニング部切れ刃のホーニング幅の1.5倍以上に広げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−18360号公報
【特許文献2】特開2004−268230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の刃先強化処理は、ネガランドやホーニングの幅をシンニング部切れ刃については一定させ、外周部切れ刃においてはその幅を一定させるか、もしくは、回転中心側から外周側に向かって大きくする形態が採られているが、このような強化処理では、切れ刃の負荷のかかり難い部位の鈍化が必要以上になされ、それが原因で切削負荷が大きくなる。
【0007】
切削負荷の増加は、加工の安定性を低下させ、ドリルの寿命にも悪影響を及ぼす。
【0008】
そこで、この発明は、刃先に強化処理(鈍化処理)を施したドリルを改善の対象にして
そのドリルの刃先の強度を維持しながら切削負荷を低減させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、回転中心にシンニング部を有し、さらに、切れ刃に、シンニング部切れ刃の外端に連なる凹円弧切れ刃部が含まれ、その切れ刃の全域に刃先強化用のホーニング面(ホーニング処理によって丸みのついた面)又はネガランドが形成されたドリルの前記ホーニング面又はネガランドを以下の如く構成した。
【0010】
即ち、それらの面を、軸直角視でのドリル軸方向幅が回転中心からシンニング部切れ刃の外端に向かって次第に増加し、シンニング部切れ刃の外端から前記凹円弧切れ刃部の中間点に行くにつれて次第に減少し、前記中間点から切れ刃の外端に向かって再度次第に増加する面にした。
【発明の効果】
【0011】
この発明のドリルは、刃先強化用のホーニング面やネガランドが上記の通りに構成されており、従来の刃先強化処理を施したドリルに比べて切削負荷が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明のドリルの一例を示す側面図である。
図2図1のドリルの側面の一部を拡大して示す図である。
図3図1のドリルの正面を拡大して示す図である。
図4図3のX−X線に沿った位置の拡大断面図である。
図5】この発明のドリルの刃先処理の他の例を示す拡大断面図である。
図6】性能評価試験における軸方向負荷の測定値を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明のドリルの実施の形態を添付図面の図1図5に基づいて説明する。図示のドリル1は、本体部2の外周にねじれ溝3を有するツイストドリルである。
【0014】
ねじれ溝3の先端の溝面はすくい面4となっており、そのすくい面4と先端の逃げ面5が交差した位置の稜線及び本体部2の先端中心に形成されたシンニング部7の溝面と逃げ面5が交差した位置の稜線によって切れ刃6が形成されている。
【0015】
8はマージン、9は本体部2の後方に連なるシャンクである。
【0016】
切れ刃6は、図3に示すように、シンニング部に沿ったシンニング部切れ刃6aと、そのシンニング部切れ刃6aの径方向外端に連なった外周部切れ刃6bとからなる。
【0017】
図示の外周部切れ刃6bは、シンニング部切れ刃6aの外端に連なった凹円弧切れ刃部6b−1と、その凹円弧切れ刃部6b−1の外端から最外周に至る凸円弧切れ刃部6b−2を組み合わせたものになっている。
【0018】
なお、ここでは、ドリルの回転方向を基準にして回転方向と反対向きに凹んだものを凹円弧切れ刃部、回転方向に凸となるように膨らんだものを凸円弧切れ刃部と称している。
【0019】
切れ刃6には、全域に刃先強化の処理が施されている。例示のドリルの刃先強化は、ホーニング処理で刃先を丸めたものになっている。図2図3の10が刃先の強化処理によって形成されたホーニング面である。
【0020】
そのホーニング面10は、軸直角視(図2)でのドリル軸方向幅wが回転中心からシンニング部切れ刃6aの外端に向かって次第に増加している。
【0021】
そしてさらに、シンニング部切れ刃6aの外端から凹円弧切れ刃部6b−1の最大に凹んだ中間点Mpに行くにつれて次第に減少し、前記中間点Mpから切れ刃6の外端(凸円弧切れ刃部6b−2の径方向外端)に向かって再度次第に増加する面となっている。
【0022】
そのホーニング面10の軸直角視でのドリル軸方向幅wは、0.02mm〜0.06mmが適当である。最小部の幅を0.02mm以上とすることで、不足の無い刃先の強化効果を得ることができる。
【0023】
また、その幅を0.06mm以下とすることで、切削負荷低減の効果を犠牲にせずに済む。
【0024】
凹円弧切れ刃部6b−1は、曲率半径が適切に設定されていると、例えば、0.5D(Dはドリル径)以上に設定されていると、凹円弧切れ刃部6b−1の中間点Mpに加わる負荷の集中が起こり難く、中間点Mpに加わる負荷がシンニング部切れ刃6aの外端に加わる負荷よりも小さくなる。
【0025】
そのために、凹円弧切れ刃部6b−1の中間点Mp付近の強化の度合い(これはホーニング面10の軸直角視でのドリル軸方向幅wによって決まる)は、シンニング部切れ刃6aの外端部の強化度合いよりも小さくて済み、負荷のかかり難い領域の必要以上の鈍化を抑えて切削負荷を低減することが可能になる。
【0026】
なお、前記ホーニング面10は、図5に示すようなネガランド11に置き換えることができる。すくい面に研磨や研削などでネガランド11を設ける構造でも刃先を強化することができる。
【0027】
この形態も、ネガランドの軸直角視でのドリル軸方向幅wを回転中心からシンニング部切れ刃の外端に向かって次第に増加させ、次いで、シンニング部切れ刃の外端から凹円弧切れ刃部の中間点に向かって次第に減少させ、前記中間点から切れ刃の外端に向かって再度次第に増加させることで、切れ刃の負荷のかかり難い部位の鈍化が必要以上になされることを抑えて切削負荷を低減することができる。
【0028】
なお、例示のドリルの外周部切れ刃6bは、外端側が凸円弧形状になっているが、その外周部切れ刃6bは、シンニング部切れ刃6aの外端に連なる内端からドリルの外周に至る外端までの全域が、前記特許文献2の図2に示されているような凹円弧形状をなす刃に構成されていてもよい。
【実施例】
【0029】
図1に示す刃形を備える2枚刃の直径D=φ8mmの超硬ツイストドリル(試料1)を試作した。その試料1は、切れ刃の全域に刃先強化用のホーニング面を形成した。
【0030】
そのホーニング面は、軸直角視での軸方向幅をシンニング部切れ刃の内端から外端に向かって緩やかに増加させ、次いで、シンニング部切れ刃の外端から凹円弧切れ刃部の中間点に向かって緩やかに減少させ、さらに、凹円弧切れ刃部の中間点から切れ刃の最外端に
向かって緩やかに増加させた。
【0031】
そのホーニング面のシンニング部切れ刃の内端部における軸直角視での幅は0.02mm、シンニング部切れ刃の外端部での幅は0.05mm、凹円弧切れ刃部の中間点での幅は0.02mm、切れ刃の最外端部での幅は0.06mmである。
【0032】
比較のために、同一径、同一刃形の超硬ツイストドリル(試料2、試料3)も試作した。試料2は、ホーニング面の軸直角視での幅を切れ刃の全域において一律の0.06mmにした。
【0033】
また、試料3は、ホーニング面の回転中心での幅を0.02mm、切れ刃最外端での幅を0.06mmとし、その幅を回転中心から切れ刃の最外端にかけて次第に増加させた。
【0034】
かかる試料1〜試料3を用いて、下記の条件で各2穴の穴明けを実施し、その際の切削負荷を測定した。
【0035】
−切削条件−
被削材:SUS304
切削速度(周速)Vc=60m/min
送り量f=0.15mm/rev
【0036】
切削負荷の測定は、測定具(日本キスラー社製の切削動力計)の上に被削材を載せて上方から被削材を切り込ませ、測定具に加わる軸方向の荷重を測る方法で行った。
【0037】
その結果を図6に示す。この図6からわかるように、試料1は試料2に比べて切削負荷が300Kgf・cm程度減少している。
負荷の振れ幅も、試料2は300Kgf・cm程度であるのに対し、試料1は200Kgf・cm弱と小さくなっている。
【0038】
また、試料3は、喰いつきの初期の負荷ピーク値が1500Kgf・cm程度まで高まっているのに対し、試料1は喰いつきの初期から加工終了までの負荷の上限値が1200Kgf・cm程度で安定しており、加工中の負荷の振れ幅も試料3より小さくなっている。
【0039】
この評価試験の結果から、刃先強化を目的として設けるホーニング面やネガランドの軸直角視での幅を切れ刃の位置に応じて変化させることの有効性が伺える。
【符号の説明】
【0040】
1 ドリル
2 本体部
3 ねじれ溝
4 すくい面
5 逃げ面
6 切れ刃
6a シンニング部切れ刃
6b 外周部切れ刃
6b−1 凹円弧切れ刃部
6b−2 凸円弧切れ刃部
7 シンニング部
8 マージン
9 シャンク
10 ホーニング面
11 ネガランド
図1
図2
図3
図4
図5
図6