【実施例】
【0030】
以下、本発明に係る精密機械用耐食性部材に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
1.精密機械用耐食性部材の製造
(実施例1)
等方性黒鉛であるIG−11(東洋炭素株式会社製)のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上にスプレー法によってチタネート系プライマーチタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)とフッ素樹脂混合物を塗布し、その上に静電粉体塗装法によってフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを実施例1とした。
【0032】
(実施例2)
IG−11の高純度製品であるIG−110(東洋炭素株式会社製)のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に、実施例1と同様の方法によりチタネート系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同様の方法によりフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを実施例2とした。
【0033】
(実施例3)
IG−11(東洋炭素株式会社製)のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によってクロム酸系プライマー850G−314(Dupont社製)と850−7799(Dupont社製)の重量比3:1混合液を塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを実施例3とした。
【0034】
(実施例4)
IG−110(東洋炭素株式会社製)のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によってクロム酸系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを実施例4とした。
【0035】
(比較例1)
ステンレス(SUS304)のプレート(200mm×200mm×厚み6mm)上に実施例1と同じ方法によってチタネート系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを比較例1とした。
【0036】
(比較例2)
ステンレス(SUS304)のプレート(200mm×200mm×厚み6mm)上に実施例1と同じ方法によってクロム酸系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを比較例2とした。
【0037】
(比較例3)
石英ガラスのプレート(165mm×165mm×厚み3mm)上に実施例1と同じ方法によってチタネート系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを比較例3とした。
【0038】
(比較例4)
石英ガラスのプレート(165mm×165mm×厚み3mm)上に実施例1と同じ方法によってクロム酸系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを比較例4とした。
【0039】
(比較例5)
IG−11のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によって樹脂系プライマー420−706(Dupont社製)を塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを比較例5とした。
【0040】
(比較例6)
IG−110のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によって樹脂系プライマー420−706(Dupont社製)を塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを比較例6とした。
【0041】
(比較例7)
IG−11のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によって樹脂系プライマー420−706(Dupont社製)を塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを比較例7とした。
【0042】
(比較例8)
IG−110のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によって樹脂系プライマー420−706(Dupont社製)を塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを比較例8とした。
【0043】
2.精密機械用耐食性部材の評価方法
次に、精密機械用耐食性部材の評価方法を説明する。
本評価においては山崎式ライニングテスターLA−15(山崎精機研究所製)を使用した。
図2は、本実施例及び比較例の精密機械用耐食性部材を評価する際の様子を示す。
山崎式ライニングテスターLA−15において、上記実施例及び比較例の耐食性部材プレート(4)を5%塩酸中に下半分を浸潤させ、密閉することで上半分を揮発した5%塩酸に曝した。
5%塩酸に直接浸かる耐食性部材の下半分を液相部分、5%塩酸に直接浸からない上半分を気相部分とし、二つの部分を合わせて浸漬部分(5)とした。これを100℃下で4週間放置し、1週間ごとに以下の評価を行った。
【0044】
外観評価
皮膜の変色、劣化、ブリスターの発生等の異常の有無を含む外観の変化の目視並びに拡大鏡での観察を1週間ごとに行った。
【0045】
ブリスターの最大径、発生面積の評価
ブリスターの最大径、発生面積を1週間ごとに測定した。
【0046】
重量変化の評価
重量変化の評価を1週間ごとに測定した。重量測定の結果より、皮膜の単位面積当たりの重量変化(ΔW/S、重量変化(mg)/表面積(123cm
2))を求め、その結果を表1乃至4に示す。
【0047】
密着力の評価
図3は、本発明に係る精密機械用耐食性部材の密着力を評価する際の様子を示す。実施例1乃至4と比較例1乃至8を5%塩酸に浸漬させ、100℃下で4週間評価した後、皮膜を5mm幅でカットし90°方向に皮膜を剥がし、剥がす際に必要な力(N/5mm幅)を
図3に示すA乃至E点でそれぞれ測定した。
測定値には炭素材料等の基材との密着力以外に、皮膜を曲げるのに要する力も含まれ、測定値は膜厚に影響される。本実施例及び比較例では、剥がす際に必要な力が24.5N/5mm以上または皮膜が測定時に破断すれば密着力の低下は認めないと判断した。
また、A点は浸漬部分ではないため5%塩酸や100℃に曝された影響を受けておらず、B乃至E点の測定値をA点と比較することで密着力が維持されているかどうかを判断した。その結果を表5に示す。
【0048】
上記の評価の結果、ブリスターを含む外観、重量及び密着力に変化がないものほど耐熱性、耐酸性度の高い、優れた精密機械用耐食性部材であるとすることができる。
【0049】
以上の実施例及び比較例における評価試験の結果は下記の通りである。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
(単位:N/5mm)
【0055】
<評価>
外観評価の結果、実施例1乃至4にはブリスターの発生、皮膜の変色、劣化等の異常は認められなかった(
図4参照)。
比較例1では、試験開始後2週間後から液相部分にブリスターの発生が確認され、試験期間の経過とともにブリスターの面積の増加が確認されたことから(
図5参照)、皮膜が5%塩酸浸透の影響を受けていると考えられる。
比較例2では、試験開始1週間後から液相部分にブリスターの発生が確認された。試験開始2週間後からは気相、液相部分共にブリスター発生を確認し、試験期間の経過とともにブリスターの面積の増加が確認されたことから(
図6参照)、5%塩酸浸透の影響を受けていると考えられる。
また、比較例3及び4では、試験開始後2週間後から気相、液相部分共にブリスターの発生が確認され、試験期間の経過とともにブリスターの面積の増加が確認されたことから(
図7参照)、皮膜が5%塩酸浸透の影響を受けていると考えられる。
【0056】
また、重量変化の評価の結果、比較例2の重量変化の値が1.87mg/cm
2となり、他の実施例及び比較例に比べて5%塩酸の浸透が進んでいることを示した。
比較例2には及ばないものの、比較例1、3、4の重量変化の値はそれぞれ0.57mg/cm
2、0.81mg/cm
2、1.54mg/cm
2であり、浸透が進んでいることを示した。
【0057】
表1乃至4の結果から、ステンレスや石英ガラスを基材とする耐食性部材と比較して炭素材料を基材とする耐食性部材はブリスターの発生が見られず、重量変化もほとんどなかったことから耐熱性、耐酸性共に優れていた。
また、実施例1及び2、実施例3及び4を比較すると、IG−11とIG−110との間に差異は認められなかった。
さらに実施例1、3と比較例5、7、及び実施例2、4と比較例6、8を比較すると、炭素材料を基材とした時、チタネート系プライマー、クロム酸系プライマー及び樹脂系プライマーとの間に耐熱性及び耐酸性については大きな差異は認められなかった。
【0058】
密着力の評価の結果、炭素材料を基材とし、樹脂系プライマーを使用している比較例5乃至8は、A点において、この比較例5乃至8とはチタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーを使用している点のみ異なる実施例1乃至4と比較して低い測定値が得られた。
つまり、比較例5乃至8は実施例1乃至4と比較して、100℃、5%塩酸に曝す前の初期密着力が低いことが確認された。
また、実施例1乃至4は密着力が強いため皮膜の破断が見られた。実施例1乃至4のB乃至E点の測定値は目安値(24.5N/5mm)よりも低いものの、浸漬していないA点と測定値がほとんど変わらないことから、気相、液相部分共に浸漬前の密着力を維持していることが確認された(
図8参照)。
【0059】
表5の結果から、同じ炭素材料を基材とする耐食性部材でも樹脂系プライマーを用いた場合、チタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーを用いた場合と比べて100℃、5%塩酸に曝す前の初期密着力が低いことが確認された。
炭素材料を基材とする耐食性部材にチタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーを用いた場合、浸漬しても気相、液相部分共に浸漬前の密着力を維持していた。
これらの結果から、樹脂系プライマーからなるプライマー層を有する炭素材料を基材とする耐食性部材よりも、チタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーからなるプライマー層を有する炭素材料を基材とする耐食性部材の方が密着性に優れているといえる。
【0060】
炭素材料を基材とする耐食性部材のA乃至E点全ての密着力がステンレスを基材とする耐食性部材よりも低かった。
密着力評価後の耐食性部材の状態を観察すると、プライマー層と炭素材料の層が混在していることから、密着力評価の際に炭素材料の表層が破壊されながら皮膜が剥がれていたと推測される。
つまり、炭素材料を基材とする耐食性部材のA乃至E点全ての密着力がステンレスを基材とする耐食性部材よりも低かったのは、炭素材料の物性が影響していると考えられる。
【0061】
以上の結果から、炭素材料を基材とし、プライマー層がチタネート系プライマー又はクロム酸系プライマーからなる耐食性部材は、耐熱性、耐酸性、密着力全てにおいて優れた部材であることがわかる。