特許第6288636号(P6288636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288636
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】精密機械用耐食性部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/89 20060101AFI20180226BHJP
   C04B 41/83 20060101ALI20180226BHJP
   C04B 41/82 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C04B41/89 K
   C04B41/83 A
   C04B41/82 A
   C04B41/89 B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-232536(P2013-232536)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-51907(P2015-51907A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年9月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-162719(P2013-162719)
(32)【優先日】2013年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391065448
【氏名又は名称】日本フッソ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】山田 益士
(72)【発明者】
【氏名】福村 直己
(72)【発明者】
【氏名】岩永 隆志
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 まりこ
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/022400(WO,A1)
【文献】 特開2012−006803(JP,A)
【文献】 特開2007−045672(JP,A)
【文献】 特開2005−225701(JP,A)
【文献】 特開平01−131011(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/122920(WO,A1)
【文献】 特開2011−202034(JP,A)
【文献】 特開昭54−045641(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/135043(WO,A1)
【文献】 特開2002−030475(JP,A)
【文献】 特開2011−104822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B41/80−41/91
C04B35/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料と、前記炭素材料上に形成されたプライマー層と、前記プライマー層上に形成されたフッ素樹脂皮膜とを有し、前記炭素材料が等方性黒鉛からなり、前記プライマー層がチタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーからなることを特徴とする精密機械用耐食性部材。
【請求項2】
前記プライマー層がチタネート系プライマーからなることを特徴とする請求項1記載の精密機械用耐食性部材。
【請求項3】
前記クロム酸系プライマーがフッ素樹脂とクロム酸及びリン酸を含む混合液であることを特徴とする請求項1記載の精密機械用耐食性部材。
【請求項4】
前記チタネート系プライマーがチタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)とフッ素樹脂の混合物であることを特徴とする請求項1または2記載の精密機械用耐食性部材。
【請求項5】
前記精密機械が半導体製造装置であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の精密機械用耐食性部材。
【請求項6】
前記精密機械が熱交換器であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の精密機械用耐食性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機械用耐食性部材に関し、より詳しくは、炭素材料にフッ素樹脂をコーティングした耐食性部材を使用することにより、金属コンタミネーションが発生することなく、強度があり加工が容易な精密機械用耐食性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の製造工程には材料の研磨、洗浄、加熱等の工程が含まれており、通常、これらの処理工程に用いられる製造装置には、金属又は石英で主に構成された部材が使用される。
【0003】
例えば、特許文献1には半導体又は平板ディスプレイ等の製造装置の処理室内壁等への反応生成物堆積、内壁等の腐食による金属汚染、放出ガスによるプロセスのゆらぎなどを抑制した複数のプロセスを可能にする多機能製造装置システムおよびそれに用いる保護皮膜構造が開示されている。
具体的には、金属材料の表面に、下地層として母材の直接酸化により形成した1μm以下の膜厚の酸化物皮膜を有する第1皮膜層を有し、さらに200μm程度の第2皮膜層を形成し、第2皮膜層はプラズマ溶射法により形成した酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウムおよびこれらの混晶、NiPメッキ、Niメッキ、Crメッキ、フッ素樹脂皮膜のうち少なくともひとつから成ることが開示されており、これにより母材金属表面を腐食させることを防ぎ、金属汚染を低減させることができると記載されている(特許文献1要約参照)。
【0004】
しかし、表面をコーティングしていても金属で主に構成された部材を使用すると、温度変化や強酸性または強アルカリ性の薬剤によって内壁面等が腐食することによる金属コンタミネーションが発生する可能性があるという問題点がある。電子部品を製造する際には、高い清浄レベルが要求される。特に半導体はコンタミネーションに弱く、可能な限り清浄な環境で製造することが望ましい。
【0005】
また、特許文献2には半導体の製造で使用する超音波洗浄用石英ガラス槽及びその製造方法、並びに該超音波洗浄用石英ガラス槽を用いた洗浄方法が開示されている。
具体的には、石英ガラス槽の表面全体を膜厚10μm〜5mmのフッ素系樹脂皮膜で覆われていることを特徴とする超音波洗浄用石英ガラス槽が開示されており、超音波が透過し良好な洗浄が行えることが記載されている。
【0006】
しかし、石英で主に構成された部材を使用することで金属コンタミネーションは発生しなくなるものの、金属部材に比べて加工しにくいため、様々な形態の精密機械に加工できないという問題点がある。また、金属部材に比べて強度が低いため、耐久性が低いという問題点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006/135043号公報
【特許文献2】特開2003−347263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、炭素材料にプライマー層を介してフッ素樹脂皮膜を設けることで、金属コンタミネーションが発生しない、強度があって加工が容易な精密機械用耐食性部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、炭素材料と、前記炭素材料上に形成されたプライマー層と、前記プライマー層上に形成されたフッ素樹脂皮膜とを有し、前記炭素材料が等方性黒鉛からなり、前記プライマー層がチタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーからなることを特徴とする精密機械用耐食性部材に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記プライマー層がチタネート系プライマーからなることを特徴とする請求項1記載の精密機械用耐食性部材に関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記クロム酸系プライマーがフッ素樹脂とクロム酸及びリン酸を含む混合液であることを特徴とする請求項1記載の精密機械用耐食性部材に関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記チタネート系プライマーがチタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)とフッ素樹脂の混合物であることを特徴とする請求項1または2記載の精密機械用耐食性部材に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記精密機械が半導体製造装置であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の精密機械用耐食性部材に関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記精密機械が熱交換器であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の精密機械用耐食性部材に関する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、炭素材料を基材として用いることで加工が容易になるため、様々な形状の精密機械用部材として使用することができ、金属コンタミネーションが発生しない精密機械とすることができる。
また、炭素材料上にフッ素樹脂皮膜をコーティングした耐食性部材を精密機械において使用することで強度が増し、部材の腐食を抑えることができる。
さらに、炭素材料とフッ素樹脂皮膜の間にプライマー層を設けることで、炭素材料とフッ素樹脂皮膜との密着性を強くし、フッ素樹脂皮膜の剥離を防ぐことができる。
また、炭素材料とフッ素樹脂皮膜の間にチタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーからなるプライマー層を設けることで、炭素材料とフッ素樹脂皮膜との密着性をより強くし、フッ素樹脂皮膜の剥離を防ぐことができる。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、炭素材料とフッ素樹脂皮膜の間にチタネート系プライマーからなるプライマー層を設けることで、炭素材料とフッ素樹脂皮膜との密着性をより強くし、フッ素樹脂皮膜の剥離を防ぐことができる。また、チタネート系プライマーは毒性が低いため、環境に対して悪影響を及ぼすことを防止することができる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、クロム酸系プライマーとしてフッ素樹脂とクロム酸及びリン酸を含む混合液からなるプライマー層を設けることで、密着性をより強くすることができる。
【0018】
請求項4に係る発明によれば、チタネート系プライマーとしてチタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)とフッ素樹脂の混合物からなるプライマー層を設けることで、密着性をより強くすることができる。
【0019】
請求項5に係る発明によれば、炭素材料上にフッ素樹脂皮膜をコーティングし、炭素材料とフッ素樹脂皮膜の間にチタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーからなるプライマー層を設けた耐食性部材を半導体製造装置において使用することで、金属コンタミネーションが発生しない、強度がある加工が容易な半導体製造装置とすることができる。
【0020】
請求項6に係る発明によれば、炭素材料上にフッ素樹脂皮膜をコーティングし、炭素材料とフッ素樹脂皮膜の間にチタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーからなるプライマー層を設けた耐食性部材を熱交換器において使用することで、金属コンタミネーションが発生しない、耐久性の高い熱交換器とすることができる。
また、炭素材料は熱伝導性が高いため、効率よく熱交換できる熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る精密機械用耐食性部材の構造断面図である。
図2】本発明に係る精密機械用耐食性部材を評価する際の様子を示す。
図3】本発明に係る精密機械用耐食性部材の密着力を評価する際の様子を示す。
図4】100℃下で4週間、5%塩酸に浸漬させた後の実施例1を示す。
図5】100℃下で4週間、5%塩酸に浸漬させた後の比較例1を示す。
図6】100℃下で4週間、5%塩酸に浸漬させた後の比較例2を示す。
図7】100℃下で4週間、5%塩酸に浸漬させた後の比較例4を示す。
図8】密着力測定後の実施例1を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.精密機械用耐食性部材
以下、本発明に係る精密機械用耐食性部材について詳細に説明する。
【0023】
本発明の目的は、炭素材料にプライマー層を介してフッ素樹脂をコーティングした構成とすることにより、金属コンタミネーションが発生することなく、強度があり加工が容易な精密機械用耐食性部材を提供することにある。
【0024】
図1は、本発明に係る精密機械用耐食性部材の構造断面図であり、その構造は、炭素材料(1)と、炭素材料(1)上に形成されたプライマー層(2)と、プライマー層(2)上に形成されたフッ素樹脂皮膜(3)とから成る。
【0025】
素材料(1)として等方性黒鉛を使用する。等方性黒鉛は従来の異方性黒鉛と異なり、切り出し方向による特性差がないことから加工が容易であるため、本発明において好適に使用される。かさ密度は1.4〜1.7Mg/m程度が好ましい。
【0026】
フッ素樹脂皮膜(3)と炭素材料(1)との密着性を向上させるために、両者の間にプライマー層(2)を設ける。プライマー層(2)を構成するプライマーとしては、チタネート系プライマー又はクロム酸系プライマーを使用する。
この発明において使用するクロム酸系プライマーとしてフッ素樹脂とクロム酸及びリン酸を含む混合物を好適に用いることができ、具体的には850G−314(Dupont社製)と850−7799(Dupont社製)の重量比3:1混合液が挙げられる。
この発明において使用するチタネート系プライマーとして特許公開2011−202034に開示のプライマーが挙げられる。具体的には、チタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)とフッ素樹脂の混合物等が挙げられる。
この発明においてチタネート系プライマー又はクロム酸系プライマーを用いることにより、炭素材料(1)とフッ素樹脂皮膜(3)との密着性がより優れたものとなる。
この発明において、チタネート系プライマーはクロム酸系プライマーと比べて毒性がより低いため、チタネート系プライマーが好適に使用される。何故ならチタネート系プライマーを用いることにより、環境に悪影響を及ぼすことがないからである。
プライマー層(2)の膜厚は3〜15μmの範囲内であることが好ましい。プライマー層(2)の膜厚が3μm未満だとフッ素樹脂皮膜(3)と炭素材料(1)とを密着させる力が小さくなるため好ましくなく、15μmより大きいと発泡などが発生し加工不良となるため好ましくない。
【0027】
フッ素樹脂皮膜(3)におけるフッ素樹脂の種類は特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(PTEE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン樹脂(VF2)等を使用することができる。
本発明においては、PFA、FEPが好適に使用される。何故ならピンホールがないフッ素樹脂皮膜を形成するのに適しており、耐薬品性が良いからである。
フッ素樹脂皮膜(3)の膜厚は100〜2000μmの範囲内であることが好ましい。フッ素樹脂皮膜(3)の膜厚が100μm未満だと耐熱性や耐酸性度が低くなるため好ましくなく、2000μmより大きいと皮膜の収縮力が大きくなり、耐食性部材の歪みが増すため好ましくない。
【0028】
2.精密機械用耐食性部材の製造方法
次に、本発明の精密機械用耐食性部材の製造方法について説明する。
まず、炭素材料(1)表面のゴミやホコリを取り除く。次に、コーティングの施工温度で熱分解するような有機物等を取り除くため必要に応じて有機溶剤等で脱脂処理を行なうか400℃程度で空焼きする。接着のための表面積を増やすため、炭素材料(1)の表面をブラスト処理によって粗面化する。ブラスト処理の方法は特に限定されない。
上記したプライマーを用いて炭素材料の上にプライマー層(2)を形成する。プライマーはエアスプレー等の方法で塗布し、乾燥させる。乾燥させる方法は特に限定されない。プライマーを塗布する際、1回塗布しても良いし、複数回塗布しても良い。
プライマー層(2)の上にフッ素樹脂皮膜(3)を静電粉体塗装法等によって1〜20回塗布し、320〜380℃で1〜5時間焼成する。
【0029】
本発明の耐食性部材の使用用途は特に限定されず、原子力、航空宇宙分野などの環境・エネルギー関連、半導体製造用、熱交換器、イオン注入装置用や高周波素子製造用などのエレクトロニクス関連、各種工業炉部材、光ファイバー等幅広い分野に使用することができる。
本発明においては、半導体製造装置及び熱交換器に好適に使用される。
特に半導体製造装置のウエハ洗浄工程を行う部分に使用される部材として好適に使用される。
【実施例】
【0030】
以下、本発明に係る精密機械用耐食性部材に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
1.精密機械用耐食性部材の製造
(実施例1)
等方性黒鉛であるIG−11(東洋炭素株式会社製)のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上にスプレー法によってチタネート系プライマーチタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)とフッ素樹脂混合物を塗布し、その上に静電粉体塗装法によってフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを実施例1とした。
【0032】
(実施例2)
IG−11の高純度製品であるIG−110(東洋炭素株式会社製)のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に、実施例1と同様の方法によりチタネート系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同様の方法によりフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを実施例2とした。
【0033】
(実施例3)
IG−11(東洋炭素株式会社製)のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によってクロム酸系プライマー850G−314(Dupont社製)と850−7799(Dupont社製)の重量比3:1混合液を塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを実施例3とした。
【0034】
(実施例4)
IG−110(東洋炭素株式会社製)のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によってクロム酸系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを実施例4とした。
【0035】
(比較例1)
ステンレス(SUS304)のプレート(200mm×200mm×厚み6mm)上に実施例1と同じ方法によってチタネート系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを比較例1とした。
【0036】
(比較例2)
ステンレス(SUS304)のプレート(200mm×200mm×厚み6mm)上に実施例1と同じ方法によってクロム酸系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを比較例2とした。
【0037】
(比較例3)
石英ガラスのプレート(165mm×165mm×厚み3mm)上に実施例1と同じ方法によってチタネート系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを比較例3とした。
【0038】
(比較例4)
石英ガラスのプレート(165mm×165mm×厚み3mm)上に実施例1と同じ方法によってクロム酸系プライマーを塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを比較例4とした。
【0039】
(比較例5)
IG−11のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によって樹脂系プライマー420−706(Dupont社製)を塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを比較例5とした。
【0040】
(比較例6)
IG−110のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によって樹脂系プライマー420−706(Dupont社製)を塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NFX−3650A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み300μmでコーティングした。これを比較例6とした。
【0041】
(比較例7)
IG−11のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によって樹脂系プライマー420−706(Dupont社製)を塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを比較例7とした。
【0042】
(比較例8)
IG−110のプレート(200mm×200mm×厚み5mm)上に実施例1と同じ方法によって樹脂系プライマー420−706(Dupont社製)を塗布し、その上に実施例1と同じ方法によってフッ素樹脂皮膜(NF−240A:日本フッソ工業株式会社製)を厚み500μmでコーティングした。これを比較例8とした。
【0043】
2.精密機械用耐食性部材の評価方法
次に、精密機械用耐食性部材の評価方法を説明する。
本評価においては山崎式ライニングテスターLA−15(山崎精機研究所製)を使用した。図2は、本実施例及び比較例の精密機械用耐食性部材を評価する際の様子を示す。
山崎式ライニングテスターLA−15において、上記実施例及び比較例の耐食性部材プレート(4)を5%塩酸中に下半分を浸潤させ、密閉することで上半分を揮発した5%塩酸に曝した。
5%塩酸に直接浸かる耐食性部材の下半分を液相部分、5%塩酸に直接浸からない上半分を気相部分とし、二つの部分を合わせて浸漬部分(5)とした。これを100℃下で4週間放置し、1週間ごとに以下の評価を行った。
【0044】
外観評価
皮膜の変色、劣化、ブリスターの発生等の異常の有無を含む外観の変化の目視並びに拡大鏡での観察を1週間ごとに行った。
【0045】
ブリスターの最大径、発生面積の評価
ブリスターの最大径、発生面積を1週間ごとに測定した。
【0046】
重量変化の評価
重量変化の評価を1週間ごとに測定した。重量測定の結果より、皮膜の単位面積当たりの重量変化(ΔW/S、重量変化(mg)/表面積(123cm))を求め、その結果を表1乃至4に示す。
【0047】
密着力の評価
図3は、本発明に係る精密機械用耐食性部材の密着力を評価する際の様子を示す。実施例1乃至4と比較例1乃至8を5%塩酸に浸漬させ、100℃下で4週間評価した後、皮膜を5mm幅でカットし90°方向に皮膜を剥がし、剥がす際に必要な力(N/5mm幅)を図3に示すA乃至E点でそれぞれ測定した。
測定値には炭素材料等の基材との密着力以外に、皮膜を曲げるのに要する力も含まれ、測定値は膜厚に影響される。本実施例及び比較例では、剥がす際に必要な力が24.5N/5mm以上または皮膜が測定時に破断すれば密着力の低下は認めないと判断した。
また、A点は浸漬部分ではないため5%塩酸や100℃に曝された影響を受けておらず、B乃至E点の測定値をA点と比較することで密着力が維持されているかどうかを判断した。その結果を表5に示す。
【0048】
上記の評価の結果、ブリスターを含む外観、重量及び密着力に変化がないものほど耐熱性、耐酸性度の高い、優れた精密機械用耐食性部材であるとすることができる。
【0049】
以上の実施例及び比較例における評価試験の結果は下記の通りである。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
(単位:N/5mm)
【0055】
<評価>
外観評価の結果、実施例1乃至4にはブリスターの発生、皮膜の変色、劣化等の異常は認められなかった(図4参照)。
比較例1では、試験開始後2週間後から液相部分にブリスターの発生が確認され、試験期間の経過とともにブリスターの面積の増加が確認されたことから(図5参照)、皮膜が5%塩酸浸透の影響を受けていると考えられる。
比較例2では、試験開始1週間後から液相部分にブリスターの発生が確認された。試験開始2週間後からは気相、液相部分共にブリスター発生を確認し、試験期間の経過とともにブリスターの面積の増加が確認されたことから(図6参照)、5%塩酸浸透の影響を受けていると考えられる。
また、比較例3及び4では、試験開始後2週間後から気相、液相部分共にブリスターの発生が確認され、試験期間の経過とともにブリスターの面積の増加が確認されたことから(図7参照)、皮膜が5%塩酸浸透の影響を受けていると考えられる。
【0056】
また、重量変化の評価の結果、比較例2の重量変化の値が1.87mg/cmとなり、他の実施例及び比較例に比べて5%塩酸の浸透が進んでいることを示した。
比較例2には及ばないものの、比較例1、3、4の重量変化の値はそれぞれ0.57mg/cm、0.81mg/cm、1.54mg/cmであり、浸透が進んでいることを示した。
【0057】
表1乃至4の結果から、ステンレスや石英ガラスを基材とする耐食性部材と比較して炭素材料を基材とする耐食性部材はブリスターの発生が見られず、重量変化もほとんどなかったことから耐熱性、耐酸性共に優れていた。
また、実施例1及び2、実施例3及び4を比較すると、IG−11とIG−110との間に差異は認められなかった。
さらに実施例1、3と比較例5、7、及び実施例2、4と比較例6、8を比較すると、炭素材料を基材とした時、チタネート系プライマー、クロム酸系プライマー及び樹脂系プライマーとの間に耐熱性及び耐酸性については大きな差異は認められなかった。
【0058】
密着力の評価の結果、炭素材料を基材とし、樹脂系プライマーを使用している比較例5乃至8は、A点において、この比較例5乃至8とはチタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーを使用している点のみ異なる実施例1乃至4と比較して低い測定値が得られた。
つまり、比較例5乃至8は実施例1乃至4と比較して、100℃、5%塩酸に曝す前の初期密着力が低いことが確認された。
また、実施例1乃至4は密着力が強いため皮膜の破断が見られた。実施例1乃至4のB乃至E点の測定値は目安値(24.5N/5mm)よりも低いものの、浸漬していないA点と測定値がほとんど変わらないことから、気相、液相部分共に浸漬前の密着力を維持していることが確認された(図8参照)。
【0059】
表5の結果から、同じ炭素材料を基材とする耐食性部材でも樹脂系プライマーを用いた場合、チタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーを用いた場合と比べて100℃、5%塩酸に曝す前の初期密着力が低いことが確認された。
炭素材料を基材とする耐食性部材にチタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーを用いた場合、浸漬しても気相、液相部分共に浸漬前の密着力を維持していた。
これらの結果から、樹脂系プライマーからなるプライマー層を有する炭素材料を基材とする耐食性部材よりも、チタネート系プライマーまたはクロム酸系プライマーからなるプライマー層を有する炭素材料を基材とする耐食性部材の方が密着性に優れているといえる。
【0060】
炭素材料を基材とする耐食性部材のA乃至E点全ての密着力がステンレスを基材とする耐食性部材よりも低かった。
密着力評価後の耐食性部材の状態を観察すると、プライマー層と炭素材料の層が混在していることから、密着力評価の際に炭素材料の表層が破壊されながら皮膜が剥がれていたと推測される。
つまり、炭素材料を基材とする耐食性部材のA乃至E点全ての密着力がステンレスを基材とする耐食性部材よりも低かったのは、炭素材料の物性が影響していると考えられる。
【0061】
以上の結果から、炭素材料を基材とし、プライマー層がチタネート系プライマー又はクロム酸系プライマーからなる耐食性部材は、耐熱性、耐酸性、密着力全てにおいて優れた部材であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明である耐食性部材は、半導体製造装置及び熱交換器に好適に利用される。
【符号の説明】
【0063】
1 炭素材料
2 プライマー層
3 フッ素樹脂皮膜
4 耐食性部材プレート
5 浸漬部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8