(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
単一細胞レベル(およそ数十pg以下)に相当する超微量なサンプルから得られる核酸情報を直接解析できれば、単一細胞レベルで細胞を詳細に定義することができ、がん細胞、幹細胞、神経細胞、iPS細胞をはじめとするあらゆる新しい細胞分類生物学を生み出すことができる。単一細胞レベルでの解析が望まれる具体例として血中循環がん細胞が挙げられる。がん細胞の有無だけでなく、ゲノムから得られる一塩基多型(SNP)、がん細胞の状態を反映するRNAの配列情報やメチル化のような核酸修飾などの個々の患者に対するあらゆる貴重な情報を得られる。従来技術においては、このような単一細胞レベルでの転写物の解析は意図されておらず、数十pg以下のサンプル中の全転写物を測定可能な装置は存在しなかった。本発明者らは、単一細胞レベルでの転写物解析の有用性を見出し、超微量なサンプルからの核酸情報を直接解析することを考えた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明者らは、従来技術に鑑みて、単一細胞に由来する核酸のような超微量の核酸分子の配列決定において、正確な測定をするためには非増幅によるものでなければならないと考えた。そこで、本発明者らは、特徴的な独自フローセルの作製と、それによる配列決定のための1分子シーケンサーを組み合わせることを考え、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、流体の入口と出口とを有する流路を備える核酸配列決定用のフローセルであって、前記流路の少なくとも一部が光透過性の面で形成され、前記光透過性の面の、流路に面した側面が、測定対象核酸分子に特異的に結合する捕捉オリゴヌクレオチドを備えてなる。
【0013】
前記捕捉オリゴヌクレオチドが、1×10
6/mm
2以上の密度で、前記光透過性の面の、流路に面した側面に固定されていることが好ましい。
【0014】
前記捕捉オリゴヌクレオチドが、オリゴdTであることが好ましい。
【0015】
前記光透過性の面の、流路に面した側面が、生体物質の非特異的付着を阻害する化学修飾基をさらに備えてなることが好ましい。
【0016】
前記非特異的付着を阻害する化学修飾基が、ポリエチレングリコールまたはその誘導体であることが好ましい。
【0017】
前記光透過性の面が、ガラスもしくはシリカであることが好ましい。
【0018】
前記フローセルにおいて、前記流路が、一定の間隔で配置された対向する二つの平面によって形成され、少なくとも一方の平面が、前記光透過性の面で形成されることが好ましい。
【0019】
前記流路が、第一基板と、少なくとも一部が光透過性の面で形成される第二基板と、前記第一基板と前記第二基板との間に設けられるスペーサーとにより画定され、前記流路の容積が10μL以下であって、前記第一基板の流路に面した側面が、生体物質の非特異的付着を阻害する化学修飾基を備えることが好ましい。
【0020】
前記スペーサーの厚みが、10〜50μmであることが好ましい。
【0021】
本発明は、別の実施形態によれば、核酸配列決定装置であって、
上述のいずれかの実施形態によるフローセルと、
複数種類の試薬を独立して前記フローセルに供給するポンプユニットと、
前記フローセルへの試薬の供給機構と、排出機構とを備えてなり、前記フローセルを着脱可能に載置するフローユニットと、
前記フローセルの温度調節を行う温度制御ユニットと、
前記フローセルからの蛍光を観察可能な顕微鏡と、駆動可能なステージとを備えるステージユニットと、
前記顕微鏡の焦点を合わせる自動焦点制御ユニットと、
励起光源とシャッターとを備える励起ユニットと、
前記顕微鏡の蛍光画像を、画像データとして取得する検出ユニットと、
前記ポンプユニットと、前記フローユニットと、前記ステージユニットと、前記自動焦点制御ユニットと、前記励起ユニットと、前記検出ユニットとに、作動可能に接続されたコンピュータであって、前記複数のユニットを制御し、前記検出ユニットで取得された画像データから、核酸配列を決定するコンピュータとを備えてなる。
【0022】
前記検出ユニットが、時間遅延積分法式ラインスキャン装置であることが好ましい。
【0023】
前記顕微鏡が、全反射照明蛍光顕微鏡であることが好ましい。
【0024】
本発明は、また別の局面によれば、核酸配列決定方法であって、
a)上記のいずれかのフローセルに、前記捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する測定対象核酸分子を含んでなる核酸サンプル溶液を適用する工程であって、それにより前記フローセルの前記捕捉オリゴヌクレオチドに、前記測定対象核酸分子を結合する、工程と、
b)前記捕捉オリゴヌクレオチドに結合した測定対象核酸分子を核酸配列決定に供する工程とを含む。
【0025】
前記工程b)が以下の工程c)およびd)を含む方法であることが好ましい:
c)4種類のヌクレオチドモノマーを1種類ずつ順次使用して以下のc1)〜c4)を繰り返して行う工程:
c1)前記フローセルにおいて、蛍光色素が切断可能に結合された1種類のヌクレオチドモノマーと、ポリメラーゼとの存在下で、前記捕捉オリゴヌクレオチドから前記測定対象核酸分子の配列依存的に伸長すること、
c2)前記c1)における未反応の物質を、前記フローセルから除去すること、
c3)前記蛍光色素を励起し、蛍光画像を得ること、
c4)前記蛍光色素を切断し、切断した蛍光色素を前記フローセルから除去すること、および
d)工程c)で得られた画像を処理し、捕捉オリゴヌクレオチドの伸長鎖の核酸配列を得る工程。
【0026】
前記捕捉オリゴヌクレオチドが1種類のヌクレオチドから構成されており、前記工程bが、前記工程c)の前に以下の工程e)〜i)をさらに含む方法であることが好ましい:
e)前記捕捉オリゴヌクレオチドを構成するヌクレオチドと同一の1種類のヌクレオチドモノマーとポリメラーゼとの存在下で、捕捉オリゴヌクレオチドから、測定対象核酸分子中の捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列依存的に伸長する工程、
f)蛍光色素が切断可能に結合された、前記工程e)における前記1種類のヌクレオチドモノマーとは異なる3種類のヌクレオチドモノマーとポリメラーゼの存在下で、測定対象核酸分子中の捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列の5’側に隣接する1ヌクレオチド依存的に、捕捉オリゴヌクレオチドから伸長する工程、
g)前記工程f)における未反応の物質を、前記フローセルから除去する工程、
h)前記蛍光色素を励起し、蛍光画像を得る工程、
i)前記蛍光色素を切断し、切断した蛍光色素を前記フローセルから除去する工程。
【0027】
前記捕捉オリゴヌクレオチドが2種類以上のヌクレオチドから構成されており、前記工程bが、前記工程c)の前に以下の工程f’)〜i’)をさらに含む方法であることが好ましい:
f’)蛍光色素が切断可能に結合された、4種類のヌクレオチドモノマーとポリメラーゼの存在下で、測定対象核酸分子中の捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列の5’側に隣接する1ヌクレオチド依存的に、捕捉オリゴヌクレオチドから伸長する工程、
g’)前記工程f)における未反応の物質を、前記フローセルから除去する工程、
h’)前記蛍光色素を励起し、蛍光画像を得る工程
i’)前記蛍光色素を切断し、切断した蛍光色素を前記フローセルから除去する工程。
【0028】
前記核酸サンプル溶液に含まれる測定対象核酸分子の量が、20pg以下であることが好ましい。
【0029】
前記核酸配列決定方法の前記工程a)において、核酸サンプル溶液中の測定対象核酸分子の100%が、前記フローセルの前記捕捉オリゴヌクレオチドに結合されることが好ましい。
【0030】
前記核酸配列決定方法において、前記測定対象核酸分子が、非増幅核酸分子であることが好ましい。
【0031】
前記核酸配列決定方法において、前記測定対象核酸分子が、単一細胞由来の核酸分子であることが好ましい。
【0032】
前記核酸配列決定方法において、前記測定対象核酸分子が、RNAであり、前記ポリメラーゼが、逆転写酵素であることが好ましい。
【0033】
前記核酸配列決定方法において、前記測定対象核酸分子が、DNAであり、前記ポリメラーゼが、DNAポリメラーゼであることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明のフローセルは、20pg以下といった超微量サンプル量であっても、サンプル中に含まれる多数の異なる塩基配列を有する核酸のすべてについて、個別に、かつ正確に、配列決定をすることができる。これにより、例えば、動物細胞1個あたりに含まれる全RNA(10〜30pg)の配列を、増幅法を用いることなく解析することができる。さらには、本発明のフローセルにより、単一細胞レベルに含まれる全核酸の塩基配列の決定が可能となり、個々の単一細胞の、より詳細な特徴付けが可能になる。応用例としては、例えば、血中がん細胞数個単位にしか発現しない核酸の配列を特定することができ、がんの治療及び予防において有効な情報を得ることができる。
また、本発明による核酸配列決定方法は、従来技術による方法と比較して、1/1000000以下のサンプル量で解析を行うことができ、細胞1個あるいは数個レベルにおける、核酸の迅速かつ正確な定量を可能となる。それゆえ、増幅法を必須とする従来技術による方法における、サンプルや試薬の損失を大幅に低減することができる。また、測定時間の短縮を可能にし、測定にかかるコストを大幅に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明を、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は、本発明を限定するものではない。
【0037】
本発明は、第一実施形態によるとフローセルである。第一実施形態に係るフローセルは、入口と出口とを有する流路を備え、前記流路の少なくとも一部が光透過性の面で形成され、前記光透過性の面の、流路に面した側面が、測定対象核酸分子に特異的に結合する捕捉オリゴヌクレオチドとを備えてなる。
【0038】
フローセルは、少なくとも入口と出口とを有する流路を備える。流路の形状は、例えば、略直方体形状、管状、楕円状とすることができるが、特定の形状には限定されない。流路の容積が小さいことが好ましい。測定の対象となる微量の核酸を効率よくフローセルに捕捉させるためである。具体的には、容積は、例えば10μL以下、好ましくは5μL以下、より好ましくは3μL以下である。また、容積は、例えば0.1μL以上、好ましくは0.5μL以上、より好ましくは、1μL以上である。流路における流体の流動性確保や、セルの洗浄を確実に行うためである。
【0039】
フローセルを構成する少なくとも一部の面は、光透過性である必要がある。ここでいう、光透過性とは、フローセルの流路内の蛍光を、フローセルの外側から、顕微鏡で観察し、デジタル画像を取得可能な程度に光が透過し得ることをいう。流路内の核酸分子の配列情報を得るために、フローセルの外側から、光透過性の面をスキャンするためである。スキャンする光透過性の面の形状は、スキャンが可能であれば平面でも曲面でもよい。例えば、光透過性の面が、円柱(チューブ)状の曲面の少なくとも一部で構成される場合には、フローセルの光透過性の面を回転させながら焦点を合わせてスキャンすることができる。好ましくは、光透過性の面は平面である。光透過性の面は、その面積を、例えば、2〜1000mm
2とすることができ、20〜300mm
2とすることが好ましい。
【0040】
光透過性の面は、それ自体が蛍光を発することなく、顕微鏡で流路の内部の蛍光が観察可能な光透過性を有する材料から構成することができる。特には、光透過性の面は、全反射照明蛍光顕微鏡の対物レンズに接触し、流路から発される蛍光を観察するために必要な強度及び厚みを備えるものであることが好ましい。具体的には、光透過性の面は、例えば、ガラス、シリカから構成することができる。
【0041】
光透過性の面は、好ましくは、その流路に面した側面に生体物質の非特異的付着を阻害する化学修飾基を備える。ここで、生体物質の非特異的な付着とは、細胞内に含まれる核酸、蛋白質、脂質等の物質が、核酸の水素結合を利用した相補的結合以外の結合により、流路内に捕捉されることをいう。生体物質の非特異的な付着は、サンプル溶液の流路を妨害し、また意図しない蛍光シグナルを発する原因となりうるため、好ましくないためである。サンプル溶液中の物質の非特異的吸着を阻害し、それ自体が蛍光を発するものでない任意の化学修飾基を用いることができる。
【0042】
化学修飾基の一例としては、ポリマー、特にはポリエチレングリコール(PEG)またはその誘導体、例えばメトキシポリエチレングリコール(mPEG)が挙げられるが、これらには限定されない。ポリエチレングリコールを化学修飾物質として用いる場合は、例えば、数平均分子量が2000〜10000、好ましくは、数平均分子量が5000程度の市販のポリエチレングリコールを用いることができる。
【0043】
光透過性の面の、流路に面した側面における、非特異的付着を阻害する化学修飾基の密度は、生体物質の非特異的な付着防止ができる程度であればよい。化学修飾物質となりうるポリマーの分子量や形状にもよるが、1×10
11〜3×10
11分子/mm
2であることが好ましい。
【0044】
生体物質の非特異的な付着を防止する化学修飾基の光透過性の面への結合は、例えば、光透過性の面をアミノシラン化した後に、生体物質の非特異的な付着を防止する化学修飾基が有するNHS反応基を光透過性の面上のアミノ基と反応させることによって行うことができる。化学修飾基の他の例として、変性タンパク質が挙げられる。変性タンパク質としては、ウシ血清アルブミン(BSA)やカゼインを用いることができ、これらを光透過性の面に固定する方法としては、変性タンパク質自体による光透過性の面への非特異吸着が挙げられるが、これらには限定されない。
【0045】
生体物質の非特異的な付着を防止する化学修飾基は、光透過性の面のみならず、フローセル内の流路に面した任意の面に結合されていても良い。流路への、生体物質の非特異的な付着を防止するためである。好ましくは、フローセル内の流路に面したすべての側面に、生体物質の非特異的な付着を防止する化学修飾基を備える。フローセル内の流路を形成する各種材料に、上記のようなポリエチレングリコール(PEG)等のポリマーあるいは、変性タンパク質を結合する方法は、当業者に既知の通常の方法を用いることができる。この場合の化学修飾基の密度も、光透過性の面の流路に面した側面における、非特異的付着を阻害する化学修飾基の密度と同様とすることができる。
【0046】
光透過性の面には、測定対象核酸分子が特異的に結合する部位となるオリゴヌクレオチドを固定する。本明細書において、配列が決定される個々の核酸を、「測定対象核酸分子」、これらを含む溶液を、「核酸サンプル溶液」と指称する。「測定対象核酸分子」は、通常、異なる配列、塩基長を有する複数種類の核酸分子を指称する。また、セルに固定されているオリゴヌクレオチドであって、測定対象核酸分子が特異的に結合するオリゴヌクレオチドを、「捕捉オリゴヌクレオチド」と指称する。また、「捕捉オリゴヌクレオチド」が固定されている、光透過性の面の流路に面した側面を、「捕捉面」とも指称する。捕捉オリゴヌクレオチドは、長さが例えば20〜200、好ましくは30〜100、より好ましくは40〜60、さらに好ましくは約50ヌクレオチドの核酸分子であって、単一の塩基から構成されるものであっても良く、複数種類の塩基から構成されるものであってもよい。核酸サンプル溶液中の測定対象核酸分子を確実に結合させることができる長さを有し、かつ、1個の捕捉オリゴヌクレオチドに対し、複数の測定対象核酸分子が結合しないようにするためである。例えば、測定対象となる核酸分子がRNAの場合には、捕捉オリゴヌクレオチドとして、オリゴデオキシチミジンヌクレオチド(オリゴdT)を用いることができる。mRNAの3’末端に存在するポリAテイル、またはその他のRNA(tRNA、rRNAなど)の3’末端に付加したポリAテイルと相補鎖を形成して、測定対象となるRNAを、捕捉オリゴヌクレオチドに固定することができるためである。
【0047】
捕捉オリゴヌクレオチドの、光透過性の面、すなわち捕捉面への付着密度は、例えば、1×10
6分子/mm
2以上とすることができ、好ましくは、1×10
7分子/mm
2以上であり、さらに好ましくは、6×10
7分子/mm
2以上である。核酸サンプル溶液中の測定対象核酸分子のすべてを、もれなく測定するために、捕捉オリゴヌクレオチド分子総数が、測定対象核酸分子総数の100倍以上、好ましくは1000倍以上となるようにするためである。本実施形態によるフローセルは、一つの目的として、1個の細胞に含まれるすべてのRNA分子をフローセル内に捕捉し、塩基配列を決定するために用いられる。1細胞当たりのRNA分子の総数が、約1×10
5分子であるから、上記比率を達成するためには、捕捉オリゴヌクレオチド分子総数は、例えば、約1×10
7分子以上、好ましくは、約1×10
8分子以上である。
【0048】
捕捉オリゴヌクレオチドは、捕捉面に結合させる。例えば、上記化学修飾基と同様、NHS反応基を有するビオチン化PEGを介して、ビオチン−アビジン結合により結合されていることが好ましいが、この方法には限定されない。なお、捕捉オリゴヌクレオチドは、光透過性の面の表面から、5’→3’の向きに固定されていることが好ましい。捕捉オリゴヌクレオチドの捕捉面への結合は、捕捉オリゴヌクレオチドを含む溶液を捕捉面に適用することによって行うことができる。捕捉オリゴヌクレオチドを含む溶液の濃度を、1pM〜10μMの間で変化させることにより、捕捉面に結合される捕捉オリゴヌクレオチドの付着密度を、1×10
5〜1×10
10分子/mm
2の所望の値とすることができる。
【0049】
このような所望の捕捉オリゴヌクレオチドの付着密度を達成するために、本発明者らは、捕捉オリゴヌクレオチドを含む溶液の濃度と、捕捉面に結合される捕捉オリゴヌクレオチドの付着密度との関係を、予め実験的に求めた。
図12にグラフを示す。グラフは、捕捉オリゴヌクレオチドの一例として、蛍光色素Cy5で標識したオリゴdTを用いる場合の実験に基づく。Cy5標識したオリゴdTの濃度である[Cy5−dT50−biotin](単位はpM)に対して、Cy5から発せられる蛍光カウント数(Estimated counts/mm
2)を求めた。蛍光カウント数は捕捉オリゴヌクレオチド分子数に等しいと考えられるため、このグラフより、捕捉オリゴヌクレオチド分子を特定の濃度で含む溶液を捕捉面に適用すれば、特定の捕捉オリゴヌクレオチドを付着密度達成することができる。
【0050】
図12のグラフを得るための考え方についてさらに説明する。捕捉オリゴヌクレオチドの濃度が、低濃度、特には、1〜1000pM程度の溶液をガラス基板などの捕捉面に結合させた場合、その捕捉オリゴヌクレオチドを蛍光標識して、観察領域の面積(Field of view:FOV)における蛍光スポットの個数をカウントすることが可能である。
図13(a)は、観察領域の面積における、蛍光標識された捕捉オリゴヌクレオチドの蛍光スポット個数を示すグラフである。一方、1000pM以上の高濃度の捕捉オリゴヌクレオチド溶液を捕捉面に共有結合させた場合、蛍光分子密度が高くなるため、蛍光スポット個数を観察し、カウントすることは難しい。そのため、1pM〜10μMの範囲の捕捉オリゴヌクレオチド濃度を有する溶液を捕捉面に適用した場合の、観察領域の面積における、蛍光標識された捕捉オリゴヌクレオチドの蛍光強度を求めた。その結果を
図13(b)に示す。
図13(b)のグラフ中、観察領域の面積における蛍光強度を、normalized fluorescence intensityとしている。これらの2つのグラフの傾斜を比較し、相関させて、捕捉オリゴヌクレオチド溶液の濃度と蛍光カウント数の関係を求めたものが、
図12のグラフである。
【0051】
本実施形態によるフローセルの流路は、様々な形状、態様で構成することができるが、流体を通過させることができる空間を有していればよく、特定の構成には限定されない。例えば、2つの基板を、スペーサーを介して組み合わせて形成することができる。他に、スペーサーに相当する構造を備えた基板と平面の基板とを組み合わせる方法、成形によって流路を作製する方法や、管状の流路を形成する方法など、任意の方法で作製することが可能である。
【0052】
次に、第一実施形態に係るフローセルの具体例として、対向する2枚の基板と、スペーサーとから主として構成されているフローセルについて、図面を参照して説明する。
【0053】
図2は、本実施形態に係るフローセルの平面図(A)、流路方向に垂直な断面図(B)、流路方向に並行な断面図(C)である。
図2(A)を参照すると、フローセル1は、第一基板10と、第二基板20と、スペーサー30とから主として構成される。
図2(B)及び
図2(C)を参照すると、第一基板10と、第二基板20とは、間隔をあけて対向しており、第一基板10と、第二基板20との間にスペーサーが位置する。そして、第一基板10と、第二基板20と、スペーサー30とが、略直方体形状の空間となる流路40を構成する。すなわち、略直方体形状の流路のうち、対向する二つの側面が、第一基板10、第二基板20の表面で構成され、他の側面が、スペーサー30で構成される。
【0054】
本実施形態においては、流路40の容量が十分に小さい必要がある。具体的には、スペーサー30の厚みL1は例えば10μm以上、好ましくは20μm以上、かつ、例えば50μm以下、好ましくは40μm以下である。さらに好ましくは、L1は約30μmである。流路の幅L2が1〜3mmであり、流路40の長さL3が10〜25mmであることが好ましい。本実施形態において、スペーサー30の厚みL1とは、対向する第一基板10と第二基板20との距離をいう。流路の幅L2とは、流体の流れ方向Fに垂直な流路の寸法をいう。流路の長さL3とは、流体の流れ方向の流路40の寸法をいう。
【0055】
別の態様において、本実施形態の流路40の幅L2及び流路の長さL3の寸法は、上記寸法に限定されることなく、流路40の容積が特定の値になるように寸法を決定することができる。具体的には、流路40の容積が、例えば、10μL以下、好ましくは3μL以下、より好ましくは2μL以下、さらに好ましくは1μL以下になるように、流路の寸法L2、L3を決定することができる。特には、L2は1mm以上、L3は10mm以上であることが好ましい。核酸分子配列決定法において、複数の分子からの蛍光を観察するために必要な領域を確保するためである。また、生体物質の非特異的吸着、ごみや空気の混入を防止する観点からも、かかる寸法とすることが好ましい。
【0056】
次に、
図2(A)を参照すると、第一基板10は、略矩形の光透過性の板状部材である。第一基板10は、流体の入口12と出口13とを備えている。流体の入口12及び出口13は、第一基板10に形成された小さな孔であってよい。孔の大きさは、特には限定されないが、各種試料を含む流体、特には、核酸及び酵素を含む緩衝液が、流通することができる大きさである。流体の入口12と流体の出口13とは、例えば、直径が1mm以下の円形もしくは一辺が1mm以下の矩形の孔であってよく、好ましくは、直径が約0.4〜0.7mm程度の円形の孔である。形状は円形や矩形には限定されないが、流体注入用の管及び流体排出用の管(図示しない)に適合しうる形状であることが好ましい。また、極微量の核酸サンプル溶液や、酵素を含む流体を損失無くフローセル1に導入するため、直径、長径もしくは一辺が1mm以下の孔であることが好ましい。
【0057】
第一基板10及び第二基板20は、基板表面の化学修飾が可能であり、全反射照明蛍光顕微鏡による蛍光の観察が可能な、光透過性の部材である。例えば、第一基板10は、ガラス基板、シリカ基板、ならびにプラスチック基板であってよいが、これらには限定されない。第二基板20は、ガラス基板、シリカ基板であってよい。好ましくは、第一基板10及び第二基板20は、ガラス基板またはシリカ基板である。第二基板20は、例えば、0.15〜0.2mmの厚さを有する対物レンズ用のガラス基板を用いることができる。第一基板10はその強度や厚みにおいて特に制限はなく、汎用の1〜3mmのガラス基板を用いることができる。
【0058】
スペーサー30は、所望の強度を持って第一基板10及び第二基板20に付着することができ、生体物質の非特異的な吸着を阻害し得る材料であって、それ自体が蛍光を発することなく、核酸サンプル溶液や分析に必要な試薬類の溶液が浸出しない部材により構成することができる。例えば、接着強度が3〜10N/cmで、厚みが10〜50μmの両面テープをスペーサー30として用いることができるが、これには限定されない。スペーサー30となる両面テープは、フローセル1の、略直方体形状の流路40の四面を構成する。例えば、ポリエステル、アクリルといった素材の両面テープは、生体物質の非特異的な吸着を生じることはないため好ましく用いられる。別の例として、スペーサー30は、第一基板10または第二基板20に形成された高分子膜であってもよい。高分子膜でスペーサー30を構成する場合もまた、厚みが10〜50μmであって、均一な膜であり、かつ生体物質の非特異的な吸着を防止する材料であることが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリフェニレンサルファイド、芳香族ポリアミド(アラミド)フィルムからなる膜を挙げることができるが、これらには限定されない。
【0059】
図1は、
図2(C)に示す本実施形態によるフローセル1の断面の一部を、拡大して、模式的に示す図である。第一基板10及び第二基板20は、流路40に面した側面に、生体物質の非特異的な付着を防止する化学修飾基11、21を備えるように構成されていることを特徴とするものである。一方、第二基板20の流路40に面した側面、すなわち捕捉面には、上記非特異的吸着を阻害する化学修飾基21に加え、測定対象核酸分子が特異的に結合する部位を構成する捕捉オリゴヌクレオチド22を固定する。以下の説明及び図面において、50ヌクレオチドのオリゴデオキシチミジンヌクレオチド(オリゴdT
50)を捕捉オリゴヌクレオチドとして用いる場合を例として説明するが、本発明は特定の捕捉オリゴヌクレオチドに限定するものではない。捕捉オリゴヌクレオチド22は、第二基板20の表面から、5’→3’の向きに固定されている。本実施形態によるフローセル1において、捕捉面の面積は、上記流路の形状から決定することができ、例えば、10〜20mm
2とすることができる。
【0060】
上記のように構成される本実施形態によるフローセル1は、後に詳述する核酸配列決定方法において使用することができる。核酸配列決定方法では、本実施形態によるフローセル1を用いることで、細胞1個分に相当する数の、複数種類の配列未知の測定対象核酸分子を含む核酸サンプル溶液において、すべての核酸分子の塩基配列を個別に、かつ同時に決定することができる。
【0061】
次に、本実施形態によるフローセル1について、製造方法の観点から説明する。本実施形態によるフローセル1の製造方法は、第一基板10、及び第二基板20を化学修飾する工程と、第一基板10、スペーサー30、第二基板20を積層する工程とを備える。
【0062】
第一基板10及び第二基板20を化学修飾する工程は、以下の手順に従って実施することができる。
【化1】
【0063】
すなわち、ガラス基板の水酸基にアミノシランを付加して、ガラス表面にアミノ基を導入する工程と、かかるアミノ基に、PEGまたはその誘導体を結合する工程とを含む。このような化学修飾方法における詳細な条件等は当業者には理解されており、通常の手順により実施することができる。一例として、以下に、ガラス基板の化学修飾プロトコルを示すが、本発明はこのプロトコルに限定されるものではない。
【0064】
1.第一基板10に、流体の入口12、出口13となる孔を形成する。
2.第一基板10及び第二基板20を炎にあてて、酸化処理する。
3.第一基板10及び第二基板20を、約1Mの水酸化カリウム中で、10〜20分間、超音波処理する。
4.上記3の工程を繰り返す。
5.第一基板10及び第二基板20を、脱イオン水中で、10〜20分間、超音波処理する。
6.シラン化剤を、溶媒中に約2〜10体積%になるように溶解させた溶液で、第一基板10及び第二基板20をシラン化する。
7.水でガラス基板をすすぐ。
8.第一基板10は、mPEG−SPA(mPEGスクシンイミジルプロピオン酸エステル)のみ、第二基板は、mPEG−SPAとビオチン化PEGを所定の割合で混合した溶液中でインキュベートする。混合割合は、第二基板20に結合させる所望の捕捉オリゴヌクレオチドの濃度に応じて決定する。
9.第一基板10及び第二基板20を、脱イオン水中で洗浄後、乾燥し、真空保存する。
【0065】
このようにして得られた、化学修飾された第一基板10、第二基板20の概念図を、
図1に示す。第二基板20においては、捕捉オリゴヌクレオチド22の一例であるオリゴdTが所望の濃度で特異的に結合されており、第一基板10、第二基板20とも、生体物質の非特異的な付着を防止する化学修飾基11、21を備えている。なお、
図1中の化学修飾基及びオリゴdTの数は概念的なものであり、特定の数に限定されることを意図するものではない。
【0066】
次に、第一基板10、スペーサー30、第二基板20を積層する工程においては、まず、第一基板10上もしくは第二基板20上に、スペーサー30を積層する。このとき、スペーサー30の形状が、流路40の容積を決定し得る。一例として、両面テープ状のスペーサーを用いる場合には、流路40となる部分を残してスペーサーを基板に積層する。あるいは、別の例として、高分子薄膜からなるスペーサーを用いる場合には、例えば既知の印刷技術を使用して、第一基板10上もしくは第二基板20上に、所望の流路40部分を残して、均一な厚さでスペーサーを形成することができる。
【0067】
次いで、前工程で形成したスペーサー30に、対向する基板を積層する工程を経ることで、本実施形態に係るフローセルを製造することができる。
【0068】
本発明の第一実施形態によるフローセルは、極微量の核酸サンプル溶液、例えば、約0.1〜1pMの測定対象核酸分子を含む1μL以下の容量の核酸サンプル溶液を適用することで、セル流路内の捕捉面に、測定対象核酸分子を100%捕捉することができる。本実施形態のフローセルは、PCRなどの核酸増幅によるバイアスを回避して、一分子シークエンシングを実施するために有効に用いることができ、核酸サンプル溶液に含まれる総ての核酸分子について、網羅的な検出を可能にするものである。
【0069】
次に、本発明は、第二実施形態によれば、核酸配列決定装置である。
図3は、第二実施形態による核酸配列決定装置を概念的に示す図である。
図3を参照すると、核酸配列決定装置100は、上述の第一実施形態のフローセル1と、ポンプユニット110と、フローユニット120と、温度制御ユニット130と、ステージユニット140と、自動焦点制御ユニット150と、励起ユニット160と、検出ユニット170と、コンピュータ180とを備える。
【0070】
ポンプユニット110は、第三実施形態において詳細に説明する核酸配列決定方法において使用する、核酸モノマーを含んだ緩衝液などの試薬類をフローセルに供給するためのユニットである。ポンプユニット110は、主として、必要な試薬類と、これらの試薬類を所定の量で、かつ所定の順番で、フローセル1に供給する供給ポンプとを備えるものである。少なくとも、20〜30種類の試薬を、5〜50μL程度の極微量ずつフローセル1に供給する必要がある。このようなポンプユニット110の技術は既知であり、任意の微量分注ポンプユニットを用いることができる。ポンプユニット110は、コンピュータ180と作動可能に連結されており、試薬類を所定の量で、かつ所定の順番で、フローセル1に供給する機構は、コンピュータ180により制御される。
【0071】
フローユニット120は、前記供給ポンプとフローセル1とを接続する流体の供給管と、フローセル1と、フローセル1で使用済みの流体をフローセル1から排出する排出管及び排出ポンプとから構成される。フローセル1は第一実施形態において詳述したものを使用する。例えば、フローセル1を用いる場合、入口12、出口13には、流体の供給管、排出管を着脱可能に接続することができる。接続の機構は詳細には示さないが、通常の方法を用いて、流体が漏出することのないように構成される。
【0072】
温度制御ユニット130は、ヒーターと、温度調節器とから構成される。ヒーターは、通常、ステージユニット140を構成するステージに設けられ、ステージに着脱可能に載置されるフローセル1内の試料の温度を、例えば、約25〜約60℃の範囲で調整することができるものである。なお、ヒーターの温度調節範囲はこの範囲に限定されるものではない。ヒーターの一例としては、アルミ製のヒータープレートで、フローセルを挟み込み、ねじで固定する型のものを用いることができるが、これに限定するものではない。
【0073】
ステージユニット140は、セル内の蛍光を観察可能な顕微鏡と、駆動可能なステージとから構成することができる。
【0074】
顕微鏡の一例として、全反射照明蛍光顕微鏡が挙げられる。全反射照明蛍光顕微鏡は、一般的には、レーザー光をカバーガラスで全反射させることで得られる、カバーガラスの反対側に位置する水溶液層に浸み出すエバーネッセント光を利用し、カバーガラスのごく近傍の蛍光分子を励起して観察するものである。本発明におけるフローセルの光透過性の面が、カバーガラスに相当する機能を果たし、捕捉面に固定された捕捉オリゴヌクレオチドの伸長鎖に結合される蛍光色素が励起される。顕微鏡の他の例としては、共焦点顕微鏡や落射蛍光顕微鏡を挙げることができるが、これらには限定されない。
【0075】
ステージは、エンコーダ付電動ステージであってよい。分解能は0.01〜0.1μm、移動量は30〜150mmであることが好ましい。
【0076】
自動焦点制御ユニット150は、上記ステージユニットを構成する全反射照明蛍光顕微鏡の対物レンズの位置を調節するものである。一例として、自動焦点維持装置パーフェクトフォーカス機能を内蔵した対物レンズの位置を調節する機構を備え、リアルタイムでの焦点位置検出とフィードバックが可能で、高速画像取得をしながらの焦点維持が可能である特性を備えるものを用いることができる。
【0077】
励起ユニット160は、励起原となるレーザーと、励起タイミングを調節するためのシャッターから構成される。レーザーは、例えば、連続波発振動作(CW)レーザーを用いることができるが、特定のレーザーには限定されない。レーザーの他の例としては、パルス光源レーザーといったレーザーを使用することもできる。レーザーの発振波長は、ヌクレオチドモノマーに結合された蛍光色素に対応する必要があり、当業者であれば、使用する蛍光色素の種類によって適切な発信波長を決定することができる。例えば、蛍光物質として、Cy5の励起に適した639nmを発振するレーザーを用いて実施することが可能であるが、特定の波長に限定されない。
【0078】
検出ユニット170は、前記顕微鏡で観察されたフローセルの内部からの蛍光の画像を、画像データとして取得する装置である。フローセル内の捕捉面全体にわたって、蛍光画像を取り込むことができるものであればよく、スキャンすることによって、捕捉面全体の蛍光画像を得ることができるものであることが好ましい。
【0079】
一例として、検出ユニット170は、TDI(時間遅延積分方式)ラインスキャン装置を備えるCCDカメラから構成されるものであってよい。TDIラインスキャン装置によるラインスキャニング方法を用いることで、本発明のフローセル1の測定対象核酸分子が固定されている全域である、視野全体を捉えることができる。TDIラインスキャン装置は、広い面積にわたって、特定方向にスキャンしたストリップを併せて一つの画像を得ることができる装置であって、境界線のない大きな画像を得られることが特徴であるため、好ましい。TDIラインスキャン装置としては、市販の装置を用いることができる。
【0080】
従来、核酸の配列決定手法において、ラインスキャン装置が用いられることはなかったが、本実施形態においては、TDIラインスキャン装置を備える検出ユニット170を用いることにより、捕捉面全体を網羅的に検出することができるようになり、効率的かつ正確な測定が可能になる。
【0081】
コンピュータ180は、前述のすべてのユニットを制御し、核酸配列決定を実行させるとともに、検出ユニット170で得られた画像から、シグナルを検出し、さらに、各サイクルで得られた複数の画像から、シグナルの情報に基づいて、核酸塩基配列を決定する。シグナルの検出には、任意のアルゴリズムを用いることができ、例えば、市販の1分子位置検出ソフトウエアを用いることができる。
【0082】
本発明の第二実施形態による核酸配列決定装置は、フローセルと、装置に含まれるすべてのユニットとを備えることで、短い測定時間で、一細胞分もしくはそれ以下に相当する分子数の核酸の配列決定を実施することができる。
【0083】
次に、本発明の第三実施形態による核酸配列決定方法について説明する。かかる方法は、第一実施形態において説明したフローセルを用いて、フローセルの捕捉面に固定された測定対象核酸を検出及び/または解析することを特徴とする。
【0084】
第三実施形態による核酸配列決定方法は、
a)第一実施形態に記載のフローセルに、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する測定対象核酸分子を含んでなる核酸サンプル溶液を適用する工程であって、それにより前記フローセルの前記捕捉オリゴヌクレオチドに、前記測定対象核酸分子を結合する、工程と、
b)前記捕捉オリゴヌクレオチドに結合した測定対象核酸分子を核酸配列決定に供する工程とを含む。
【0085】
前記工程b)は、以下の工程c)およびd)を含んでもよい:
c)4種類のヌクレオチドモノマーを1種類ずつ順次使用して以下のc1)〜c4)を繰り返して行う工程:
c1)前記フローセルにおいて、蛍光色素が切断可能に結合された1種類のヌクレオチドモノマーと、ポリメラーゼとの存在下で、前記捕捉オリゴヌクレオチドから前記測定対象核酸分子の配列依存的に伸長すること、
c2)前記c1)における未反応の物質を、前記フローセルから除去すること、
c3)前記蛍光色素を励起し、蛍光画像を得ること、
c4)前記蛍光色素を切断し、切断した蛍光色素を前記フローセルから除去すること、および
d)工程c)で得られた画像を処理し、捕捉オリゴヌクレオチドの伸長鎖の核酸配列を得る工程。
【0086】
前記捕捉オリゴヌクレオチドが1種類のヌクレオチドから構成されている場合、前記工程b)が、工程c)の前に以下の工程e)〜i)(以下、これらをまとめて「フィルアンドロック工程」ともいう)をさらに含んでもよい:
e)前記捕捉オリゴヌクレオチドを構成するヌクレオチドと同一の1種類のヌクレオチドモノマーとポリメラーゼとの存在下で、捕捉オリゴヌクレオチドから、測定対象核酸分子中の捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列依存的に伸長する工程、
f)蛍光色素が切断可能に結合された、前記工程e)における前記1種類のヌクレオチドモノマーとは異なる3種類のヌクレオチドモノマーとポリメラーゼの存在下で、測定対象核酸分子中の捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列の5’側に隣接する1ヌクレオチド依存的に、捕捉オリゴヌクレオチドから伸長する工程、
g)前記工程f)における未反応の物質を、前記フローセルから除去する工程、
h)前記蛍光色素を励起し、蛍光画像を得る工程
i)前記蛍光色素を切断し、切断した蛍光色素を前記フローセルから除去する工程。
【0087】
最初に、本発明において配列を決定する対象となる核酸サンプル溶液について説明する。核酸サンプル溶液は、生体細胞から得た、多種多様な核酸分子を含むものであってよい。本発明においては、核酸は、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)のいずれであっても測定することができる。好ましくは、核酸は単一の細胞に由来する全てのRNAである。また、本発明において、核酸サンプル溶液は、PCR等による増幅をしていないものであることが好ましい。したがって、例えば、配列の異なる、60,000〜15,000,000分子の核酸を含む試料を測定することができる。
【0088】
必要に応じて、本発明の核酸配列決定方法を実施する前に、核酸サンプル溶液を構成する各測定対象核酸分子の3’末端に、フローセルに固定された捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列を、酵素処理などにより付加する前処理工程を含むことが好ましい。核酸サンプル溶液を構成する各測定対象核酸分子を、フローセルの捕捉オリゴヌクレオチドに強固に結合させるためである。捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列は、50〜200塩基数であることが好ましく、100〜200塩基数であることがさらに好ましい。捕捉オリゴヌクレオチド22との結合を強固にするためである。捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列の配列特性は、捕捉オリゴヌクレオチド22に依存して決定される。例えば、捕捉オリゴヌクレオチドがオリゴdTである場合、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列としてポリAが付加される。この場合、酵素処理には、例えばNew England BioLabsから入手可能であり市販される大腸菌ポリAポリメラーゼターミナルトランスフェラーゼ等のようなポリメラーゼが有用である。これらのポリメラーゼを用いる酵素処理は、製造業者の指示書に従って実施することができる。なお、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列は、捕捉オリゴヌクレオチドに対し、十分な結合強度を有しているものであれば、完全な相補鎖でなくとも、一塩基または数塩基の塩基対ミスマッチが存在してもよい。
【0089】
前処理工程は、測定対象分子が本来3’末端にポリAテイルを有するmRNAである場合や、測定対象核酸分子中の特定の配列を、捕捉オリゴヌクレオチドとの結合部位として用いる場合には、必要がない場合もある。このような場合には、測定対象核酸分子中に、「捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列が備わっている」ということができる。また、例えば、天然の配列特性として、3’末端に1以上のA残基が存在し、そこに上記前処理工程によりさらにA残基を付加した場合には、天然の配列特性において備わっているA残基と、付加したA残基を含めて捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列ということができる。ここでは、一例としてAについて述べたが、U、C、G並びに、DNA分子におけるdA、dT、dC、dGにおいても同様の定義を適用することができる。
【0090】
必要に応じて、前述のように前処理をした測定対象核酸分子は、緩衝液中に溶解して、上記工程a)に供する核酸サンプル溶液とする。緩衝液は、lxSSC/150mM HEPES/0.1%SDSといった組成とすることが好ましいが、かかる組成に限定されることはない。
【0091】
工程a)の捕捉オリゴヌクレオチドに測定対象核酸分子を結合する工程では、第一実施形態において詳述したフローセル1に、核酸サンプル溶液を適用することにより、測定対象核酸分子をフローセル1の捕捉オリゴヌクレオチド22に結合する。かかる工程a)においては、フローセル中の溶液の塩濃度および温度(例えば50℃)を一定に維持して所定の時間(例えば1時間)インキュベーションすることが好ましい。このとき、フローセルに固定された捕捉オリゴヌクレオチドと、測定対象核酸分子の捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列とが相補的な結合を形成することにより、複数の測定対象核酸分子がフローセル1に固定される。第二実施形態による核酸配列決定装置100を用いて本実施形態による方法を実施する場合、工程a)は、コンピュータ180を用いて、所定の条件を設定することより、主として、ポンプユニット110と、フローユニット120と、温度制御ユニット130とを機能させて実施することができる。
【0092】
次いで、前記捕捉オリゴヌクレオチドに結合した測定対象核酸分子を核酸配列決定に供する。核酸配列決定の方法は、捕捉オリゴヌクレオチドに結合した測定対象核酸分子を利用できるものであれば特に限定されず、1分子のポリメラーゼの複製反応をリアルタイムに検出する1分子シークエンシング方法や、核酸の取り込みによって排出されるリン酸を捉えるパイロシークエンシング方法が挙げられる。
【0093】
例えば、以下の工程c)およびd)を含む方法によって実施することができる:
c)4種類のヌクレオチドモノマーを1種類ずつ順次使用して以下のc1)〜c4)を繰り返して行う工程:
c1)前記フローセルにおいて、蛍光色素が切断可能に結合された1種類のヌクレオチドモノマーと、ポリメラーゼとの存在下で、前記捕捉オリゴヌクレオチドから前記測定対象核酸分子の配列依存的に伸長すること、
c2)前記c1)における未反応の物質を、前記フローセルから除去すること、
c3)前記蛍光色素を励起し、蛍光画像を得ること、
c4)前記蛍光色素を切断し、切断した蛍光色素を前記フローセルから除去すること、および
d)工程c)で得られた画像を処理し、捕捉オリゴヌクレオチドの伸長鎖の核酸配列を得る工程。
【0094】
工程c)は、4種類のヌクレオチドモノマーを1種類ずつ順次使用して以下に詳述するc1)〜c4)を繰り返して行うことによって、前記捕捉オリゴヌクレオチドから、前記測定対象核酸分子の配列依存的に伸長し、蛍光画像を得るものである。本発明において、「捕捉オリゴヌクレオチドから、測定対象核酸分子の配列依存的に伸長する」、とは、工程a)で結合させた捕捉オリゴヌクレオチドと、測定対象核酸分子との複合体において、測定対象核酸分子を鋳型として、ポリメラーゼにより、捕捉オリゴヌクレオチドの3’側に伸長鎖を形成することをいう。
【0095】
c1)において、前記フローセルにおいて、蛍光色素が切断可能に結合された1種類のヌクレオチドモノマーと、ポリメラーゼとの存在下で、前記捕捉オリゴヌクレオチドから前記測定対象核酸分子の配列依存的に伸長する。
【0096】
蛍光色素が切断可能に結合されたヌクレオチドモノマーは、例えば、Cy5などの蛍光色素が、例えば、S−S結合で共有結合的に、かつ切断可能に結合された核酸塩基を有するヌクレオチドモノマーである。例えば、国際公開WO2009/124254A1号公報の第92頁に記載のものを用いることができるが、これらには限定されない。国際公開WO2009/124254A1号公報に記載のヌクレオチドモノマーは、組み込み効率、精度ともに高いという点で有利である。同様の機能を有するモノマーであれば、当業者が新たに合成して製造することもできるし、改変することもできる。ポリメラーゼは、DNAポリメラーゼもしくは逆転写酵素であってよい。測定対象核酸分子がDNAの場合は、DNAポリメラーゼを用いることができ、測定対象核酸分子がRNAの場合は、逆転写酵素を用いることができる。
【0097】
ここでは、蛍光色素が切断可能に結合されたdATP、dCTP、dGTP、dTTPのいずれかと、DNAポリメラーゼ(例えばクレノウ酵素)とにより、測定対象核酸分子の配列依存的に、1塩基分だけ、伸長する。
図6(a)は、c1)が終了した時点のフローセル内を模式的に示す図である。1種類のヌクレオチドモノマーとしては、蛍光色素が切断可能に結合されたdCTPを使用している。dCTPを用いて、測定対象核酸分子依存的に、1塩基分だけ伸長するため、測定対象核酸分子の配列の1本鎖部分の5’側にGが存在する、右側の伸長鎖のみが伸長されている。左側、真ん中の伸長鎖は、伸長されない。第二実施形態による核酸配列決定装置100を用いて本実施形態による方法を実施する場合、c1)は、コンピュータ180を用いて、所定の条件を設定することより、主として、ポンプユニット110と、フローユニット120と、温度制御ユニット130とを機能させて実施することができる。
【0098】
c2)において、前記c1)における未反応の物質を、前記フローセルから除去する。未反応の物質の除去は、例えば、フローセルに3回、各々1×SSC/150mM HEPES/0.1%SDS(pH7.0)を含む溶液及び、150mM HEPES/150mM NaCl(pH7.0)を含む溶液を導入することで実施することができる。c2)も、c1)と同様に、ポンプユニット110と、フローユニット120と、温度制御ユニット130とを機能させて実施することができる。
【0099】
c3)において、前記蛍光色素を励起し、蛍光画像を得る。
図6(b)は、c3)が終了した時点のフローセル内を模式的に示す図である。測定対象核酸分子の配列中のGに依存して伸長された、3’末端がCとなっている伸長鎖のみに蛍光色素が結合している。そして、
図6(b)の下のパネルに見られるように、3’末端がCとなっている伸長鎖のみが、蛍光シグナルを発している状態を、画像として捉えることができる。c3)では、励起ユニット160を機能させ、ステージユニット140、自動焦点制御ユニット150、検出ユニット170により、フローセル内の蛍光をスキャンして画像を得る。
【0100】
c4)において、前記蛍光色素を切断し、切断した蛍光色素を前記フローセルから除去する。蛍光色素の切断は、例えば、50mM TCEP(tris(2−carboxyethyl)phosphine)といった試薬をフローセル中に導入し、5分間待つことで、行われ得るが、用いる試薬は特定の物には限定されない。当業者であれば、蛍光色素部分を選択的に切断することができ、他の物質に影響を与えない試薬を選択することができる。除去は、例えば、c2)と同様に、フローセルに3回、各々1×SSC/150mM HEPES/0.1%SDS(pH7.0)を含む溶液及び、150mM HEPES/150mM NaCl(pH7.0)を含む溶液を導入することで実施することができる。c4)も、c1)、c2)と同様に、ポンプユニット110と、フローユニット120と、温度制御ユニット130とを機能させて実施することができる。
【0101】
図6(c)は、c4)の終了時点でのフローセル中を模式的に示す図である。蛍光色素や未反応のモノマー分子は存在せず、c1)からc4)までの1サイクルが終了した状態である。
図6(c)のパネルは、この時点で、全反射蛍光鏡画像を取得したときの画像である。理論的には、蛍光色素が結合した核酸は存在せず、蛍光シグナルがない状態である。なお、
図6(c)中に観察される蛍光は、完全に除去することのできない非特異吸着を示している。この非特異吸着蛍光は各サイクル毎にその蛍光位置を不規則に変えるため、画像処理の段階で除去することが可能である。
【0102】
工程c)では、4種類のヌクレオチドモノマーを1種類ずつ順次使用して上記のc1)〜c4)を繰り返して行う。ここで、dATP、dCTP、dGTP,dTTPの4種のヌクレオチドモノマーを用いて、4サイクルを実施する単位を、1ラウンドと指称する。
図6(d)は、dCTPによる第1サイクルが終了したのち、dATPによる第2サイクルのc1)を実施した状態を示す。なお、4種のヌクレオチドモノマーのサイクルの順序は問わず、例えば、第1サイクルで、dCTP、第2サイクルで、dATP、第3サイクルでdGTP,第4サイクルでdTTPによる伸長を行うことができる。しかし、各ラウンドにおいてサイクルの順序を変えることは好ましくない。
【0103】
前記工程c)においては、1ラウンドを繰り返して、伸長鎖を、さらに伸長していく。ラウンドの繰り返し数は、一例として、測定対象核酸分子の塩基長に依存してもよい。例えば、ラウンドを繰り返し、各サイクルの工程c)で、蛍光が観察されなくなったら、終了することができる。あるいは、細胞中の全ての転写物の配列が既知であれば、決定された配列に基づいて遺伝子を同定するのに十分な情報が得られるまでラウンドを繰り返すことができる。さらには、最大のラウンド数を予め設定して実施することもできる。ラウンド数は、当業者が、測定対象核酸分子の特性および測定の目的に応じて、適宜決定することができる。前述の装置100を用いる場合には、コンピュータ180において、所望の設定を行うことができる。
【0104】
工程d)は、工程c)で得られた画像を処理し、捕捉オリゴヌクレオチドの伸長鎖の核酸配列を得る工程である。工程d)を、
図7を用いて説明する。
図7(b)は、第1サイクルでヌクレオチドCに結合した蛍光分子の蛍光シグナルを捉えた画像を模式的に示す図、
図7(c)は、第2サイクルでヌクレオチドAに結合した蛍光分子の蛍光シグナルを捉えた画像を模式的に示す図、
図7(d)は、第3サイクルでヌクレオチドTに結合した蛍光分子の蛍光シグナルを捉えた画像を模式的に示す図、
図7(e)は、第4サイクルでヌクレオチドGに結合した蛍光分子の蛍光シグナルを捉えた画像を模式的に示す図である。ここで、Spot1〜Spot4は、蛍光シグナルが観察される位置であって、これは、1分子の測定対象核酸分子が固定されている位置に等しい。そして、これらの画像を重ね合わせることによって、Spot1〜Spot4のそれぞれにおいて、伸長鎖の塩基の種類及び順番が呼び出される。
図7(a)は、第1サイクルから第4サイクルまでの1ラウンドで、Spot1〜Spot4のそれぞれにおいて、呼び出された塩基を示すものである。Spot1では、伸長鎖は、5’側から、C、A、Tの順に配列していることがわかる。同様に、Spot2では、伸長鎖は、T、Spot3では、伸長鎖は、T、Spot4では、伸長鎖は、Gである。これを、次のラウンドについても同様に行うことで、伸長鎖の初期状態の次の塩基から、3’末端の塩基までのすべての核酸塩基配列を呼び出すことができる。工程d)は、コンピュータ180を用いて実施することができる。
【0105】
追加の工程として、工程d)で得られた伸長鎖の核酸塩基配列をさらに解析したり、伸長鎖の核酸塩基配列に基づいて測定対象核酸分子の塩基配列を得たりする工程を設けても良い。コンピュータ180において、任意の追加のアルゴリズムを実行させることで、様々な計算や解析が可能になる。
【0106】
前記捕捉オリゴヌクレオチドが1種類のヌクレオチドから構成されている場合、工程c)の前にフィルアンドロック工程を行ってもよい。工程a)の終了後の、セルの状態の概念図を、
図4に示す。例えば、捕捉オリゴヌクレオチドがオリゴdT
50であり、測定対象核酸分子がポリAからなる捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列を備える場合を例として説明する。なお、
図4のTは、説明の便宜上、dTの5塩基分を表すものとする。このとき、50塩基のオリゴdTのすべてが、ポリAと相補的な結合を作っているとは限らない。例えば、
図4(a)のように50塩基のうち20塩基のみが相補鎖を形成している分子、
図4(b)のようにオリゴdTの50塩基すべてが相補鎖を形成している分子など様々な場合があり得る。さらに、
図4(a)のように相補鎖を形成している塩基数が少ないために、結合安定性が不足し、
図4(c)のようにより多くの塩基が相補鎖を形成するようにずれが生じる場合もあり得る。このように、工程a)を経た状態において、各分子の結合状態は均一ではなく、多種多様でありうる。フィルアンドロック工程は、このような多種多様の結合状態から、各分子について測定が開始できる初期状態にまで捕捉オリゴヌクレオチドを伸長するとともに、捕捉オリゴヌクレオチドと、測定対象核酸分子との結合のずれが生じないように確実に固定することを意図するものである。
【0107】
図5(a)は、
図4と同様に、各分子の結合状態が初期状態にない場合の図を概念的に示すものである。「初期状態」とは、捕捉オリゴヌクレオチドが、測定対象核酸分子の捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列依存的に伸長され、さらに、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列の5’側の1ヌクレオチド依存的に伸長された状態をいうものとする。
図4においてオリゴdTとポリAについて説明したように、複数の測定対象核酸分子は、それぞれ、捕捉オリゴヌクレオチドへの結合状態が異なるため、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列依存的に初期状態まで伸長される場合の伸長される塩基数も、分子によって異なることとなる。
【0108】
フィルアンドロック工程は、以下の工程e)〜i)を含む:
e)前記捕捉オリゴヌクレオチドを構成するヌクレオチドと同一の1種類のヌクレオチドモノマーとポリメラーゼとの存在下で、捕捉オリゴヌクレオチドから、測定対象核酸分子中の捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列依存的に伸長する工程、
f)蛍光色素が切断可能に結合された、前記工程e)における前記1種類のヌクレオチドモノマーとは異なる3種類のヌクレオチドモノマーとポリメラーゼの存在下で、測定対象核酸分子中の捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列の5’側に隣接する1ヌクレオチド依存的に、捕捉オリゴヌクレオチドから伸長する工程、
g)前記工程f)における未反応の物質を、前記フローセルから除去する工程、
h)前記蛍光色素を励起し、蛍光画像を得る工程、
i)前記蛍光色素を切断し、切断した蛍光色素を前記フローセルから除去する工程。
【0109】
工程e)において、使用するヌクレオチドモノマーは、核酸塩基に蛍光色素が結合されていないものであって、デオキシヌクレオチド三リン酸を使用することが好ましく、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列依存的に、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、チミジン三リン酸(dTTP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)を用いることができる。例えば、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列が、ポリAの場合は、蛍光色素が結合されていないdTTPを用いることができる。ポリメラーゼは、DNAポリメラーゼであるクレノウ酵素を用いることができる。緩衝液の組成は、20mM Tris−HCl(pH8.8)、50μM MnSO
4、10mM(NH
4)
2SO
4、10mM KCl、10mM NaCl、0.1% TritonX−100、及び50U/mLクレノウフラグメント(exo−)とすることができる。緩衝液中のヌクレオチドモノマーの濃度は、それぞれ、50〜200nMとすることが好ましい。フローセルへの適用の温度条件、伸長反応時間等は、フローセル中で、ポリメラーゼによって捕捉オリゴヌクレオチドを伸長することができる条件であればよく、具体的には、37〜50℃、4〜10分間といった条件とすることができる。工程e)は、コンピュータ180を用いて、所定の条件を設定することより、主として、ポンプユニット110と、フローユニット120と、温度制御ユニット130とを機能させて実施することができる。
【0110】
次に、工程f)では、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列に相補的なヌクレオチド以外の、3種のヌクレオチドモノマーを同時に、ポリメラーゼとともにフローセルに供給する。これにより、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列の5’側に隣接する、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列とは別の種類のヌクレオチドに依存して、捕捉オリゴヌクレオチドの伸長鎖がさらに1塩基分だけ組み込まれる。工程f)も、工程e)と同様に、主として、ポンプユニット110と、フローユニット120と、温度制御ユニット130とを機能させて実施することができる。
【0111】
図5(b)は、上述の工程e)及びf)を経て、初期状態となった、捕捉オリゴヌクレオチドと測定対象核酸分子との複合体を概念的に示す図である。捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列は、捕捉オリゴヌクレオチドの伸長鎖と相補的に結合している。そして、捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列の5’側に隣接する1ヌクレオチドもまた、捕捉オリゴヌクレオチドの伸長鎖と、相補鎖を形成している。そして、捕捉オリゴヌクレオチドの伸長鎖の3’末端には、蛍光色素が結合したヌクレオチドが位置している。伸長鎖の3’末端にある蛍光色素が結合したヌクレオチドの種類は、測定対象核酸分子の配列に依存するため、それぞれの伸長鎖で異なっている。
【0112】
次いで、工程g)において前記工程f)における未反応の物質を、前記フローセルから除去し、工程h)において前記蛍光色素を励起し、蛍光画像を得る。
図5(b)のパネルは、この時点で、全反射蛍光鏡画像を取得したときの画像である。理論的には、測定対象核酸分子のすべてが、蛍光色素が結合した伸長鎖と複合体を形成している状態であり、核酸サンプル溶液中のすべての測定対象核酸分子に相当する、蛍光シグナルを捉えている状態である。工程g)は、主として、ポンプユニット110と、フローユニット120と、温度制御ユニット130とを機能させることにより、工程h)は、主として、励起ユニット160と、ステージユニット140と、自動焦点制御ユニット150と、検出ユニット170とを機能させることにより実施することができる。
【0113】
次に、蛍光色素を切断、除去する工程i)を実施する。切断および除去はc4)について上記したのと同様に行われる。
図5(c)は、工程i)の終了後、3種の核酸塩基の蛍光色素が切断された状態の複合体を示す。また、
図5(c)のパネルは、この時点で、全反射蛍光鏡画像を取得したときの画像である。理論的には、蛍光色素が結合した核酸は存在せず、蛍光シグナルがない状態である。工程i)は、ポンプユニット110と、フローユニット120と、温度制御ユニット130とを機能させて実施することができる。
【0114】
上記フィルアンドロック工程においては、初期状態とすることで、すべての測定対象核酸分子からのシグナルを得る。これにより、測定対象核酸分子の各々のセル中での位置、及び核酸配列を決定すべき測定対象核酸分子の総数およびその基板上の結合位置が得られる。
【0115】
捕捉オリゴヌクレオチドが1種類のヌクレオチドから構成されている場合以外には、上記工程e)〜i)に替えて、初期状態とする工程のみを行えばよい。具体的には、捕捉オリゴヌクレオチドが2種類以上のヌクレオチドから構成されている場合は、下記の工程f’)〜i’)を実施する。
f’)蛍光色素が切断可能に結合された、4種類のヌクレオチドモノマーとポリメラーゼの存在下で、測定対象核酸分子中の捕捉オリゴヌクレオチドに相補的な配列の5’側に隣接する1ヌクレオチド依存的に、捕捉オリゴヌクレオチドから伸長する工程、
g’)前記工程f)における未反応の物質を、前記フローセルから除去する工程、
h’)前記蛍光色素を励起し、蛍光画像を得る工程
i’)前記蛍光色素を切断し、切断した蛍光色素を前記フローセルから除去する工程。
【0116】
捕捉オリゴヌクレオチドが1種類のヌクレオチドから構成されている場合以外には、捕捉オリゴヌクレオチドと捕捉対象核酸との間で、結合位置がずれる可能性が低いため、いわゆる、フィルアンドロックが必要ない。しかし、この場合にも、初期状態として、すべての捕捉オリゴヌクレオチドからの蛍光を捉える工程を含むことが好ましい。
【0117】
なお、上記の方法は、測定対象核酸分子が、デオキシリボ核酸(DNA)からなる核酸分子である場合について具体的に説明した。上記の方法に有用な既知のおよび従来のDNAポリメラーゼには、限定的ではないが、Pyrococcus furiosus(Pfu)DNAポリメラーゼ、Pyrococcus woesei(Pwo)DNAポリメラーゼ、Thermus thermophilus(Tth)DNAポリメラーゼ、Bacillus stearothermophilusDNAポリメラーゼ、Thermococcus litoralis(Tli)DNAポリメラーゼ(Vent(商標)DNAポリメラーゼ)、9°Nm(商標)DNAポリメラーゼ、Stoffel断片、ThermoSquenase(登録商標)、Therminator(商標)、Thermotoga maritima(Tma)DNAポリメラーゼ、Thermus aquaticus(Taq)DNAポリメラーゼ、Pyrococcus kodakaraensis KOD DNAポリメラーゼ、JDF−3DNAポリメラーゼ、PyrococcusGB−D(PGB−D)DNAポリメラーゼ(Deep Vent(商標)DNAポリメラーゼ)、UITmaDNAポリメラーゼ、TgoDNAポリメラーゼ、E.coli DNAポリメラーゼI、T7DNAポリメラーゼ、古細・BR>ロDP1I/DP2DNAポリメラーゼIIが含まれる。測定対象核酸分子が、リボ核酸(RNA)からなる核酸分子である場合には、上記工程のうち、DNAポリメラーゼを用いて測定対象核酸分子依存的に捕捉オリゴヌクレオチドを伸長する工程に替えて、逆転写酵素を用いて測定対象RNA分子依存的に捕捉オリゴヌクレオチドを伸長する工程とすることで、本発明の方法を実施することができる。逆転写酵素の種類としては、HIV、HTLV−1、HTLV−II、FeLV、FIV、SIV、AMV、MMTV、MoMuLV、およびその他のレトロウイルスからの逆転写酵素を用いることができるが、これらには限定されない。
【0118】
本実施形態にかかる方法においては、微量の測定対象核酸分子の配列を決定できる。本発明の方法に従って配列をできる核酸の量は、例えば1pg以下、好ましくは100fg以下、より好ましくは10fg以下である。ただし、本発明によれば、より多量(例えば1μg以下)の核酸を使用することもできる。本発明の方法により、測定対象核酸分子の例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上、なお好ましくは約100%が、捕捉オリゴヌクレオチドに結合され、配列決定に今日される。このように、微量の測定対象核酸分子を配列決定できるので、増幅していない(非増幅の)核酸分子を使用することができる。従来技術では、核酸サンプル溶液をセルに供給する前の時点で、PCRによる核酸増幅が必須であり、それに伴い定量性が失われるものであったが、本発明においては、フローセルによりこのような問題点を解決したものである。また、本発明の方法では単一細胞由来の核酸分子を配列決定に供することができる。
【0119】
以下に、本発明を、実施例を用いてさらに具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の例示であり、本発明は実施例に記載された範囲に限定するものではない。
【実施例1】
【0120】
[フローセルの作製]
最初に、第一基板10、第二基板20として、ガラス基板を用意し、これらに化学修飾を行った。第一基板10の厚さが1〜3mm、および第二基板20の厚さ0.12〜0.17mmのガラス基板を、ベクタボンド(ベクター社製)を用いてアミノシラン化し、アミノ基を反応させた。その後、NHS反応基の結合したBiotin−PEG(Nanocos社製、製品名BIOTIN−PEG−NHS(M.W.5000DA))とPEG(Nanocos社製、製品名MPEG−NHS(M.W.5000DA))を、1:100で混合した、濃度が10%w/vの溶液を第二基板に相当するガラス基板の片方の側面のみに反応させた。第一基板に相当するガラス基板には、予め流体の入口、出口となる小孔を、電着ダイヤモンドバー(ミニター社製、AD2103)を用いて形成し、その後に、PEG(Nanocos社製、MPEG−NHS(M.W.5000DA))を、片方の側面のみに反応させた。次に、捕捉オリゴヌクレオチドとして、末端をビオチン化した濃度が1000pMのオリゴdT
50溶液を用意し、ストレプトアビジンを介して基板へと結合させた。この場合、基板上のオリゴdT
50の付着密度は、およそ4×10
6分子/mm
2となる。
【0121】
これらのガラス基板を用いて、
図2に示したフローセルを作製した。2枚の修飾を行ったガラス基板を複数回のフローに耐えることのできる、厚さが30μmの両面テープ(3M社製、フィルム基材両面テープ(一般用)9313BT)によって挟み込み、容量が約1μLの流路を備えるフローセルを作成した。
【0122】
通常は第一基板に相当するガラス基板としては非修飾のガラス基板を用いるが、今回は超微量の核酸サンプル溶液をロスさせないために、第一基板に相当するガラス基板にも非修飾PEGを修飾させて挟み込む構造を構築した。その結果、第一基板に非特異的に捕捉される測定対象核酸分子が激減し、第二基板のみに測定対象核酸分子を捕捉することに成功した。
【実施例2】
【0123】
[フローセルの測定対象核酸分子の捕捉率]
次に、上記実施例1で作製したフローセルの、捕捉オリゴヌクレオチドとしての修飾オリゴTの密度と捕捉率を調べるために、Cy5で蛍光標識したオリゴdA
50を用いて結合の1分子可視化を行った。
図8(a)及び(b)に示すように、シグナル輝点密度がオリゴdA
50濃度に比例し上昇した。200pM条件下で、シグナル輝点の観察により結合を確認した後、フローセルを95度でインキュベーションしオリゴ結合を解離させた。その結果、
図8(c)に示すように、輝点は消失した。これは非特異結合がないことを示している。
【0124】
次に、オリゴdA
50が、どの程度の効率でフローセルに結合しているのかを調べるために、オリゴdA
50の、第二基板への捕捉率を調べた。捕捉率は、以下の式により計算することができる。
【0125】
捕捉率(%)=[AB]/[A]
0
[K
d]=[A][B]/[AB]
[AB]=([A]
0+[B]
0+K
d)-{([A]
0+[B]
0+K
d)
2-4[A]
0[B]
0}
1/2【0126】
上記式中、[A]は、オリゴ(dA
50)のモル濃度、[A]
0は、オリゴ(dA
50)の初期モル濃度、[B]はオリゴ(dT
50)のモル濃度、[B]
0はオリゴ(dT
50)の初期モル濃度を表し、[AB]は、オリゴ(dA
50)とオリゴ(dT
50)とが結合した複合体のモル濃度を表す。K
dは、解離定数を表す。
【0127】
導入前の核酸サンプル溶液中の測定対象核酸分子数に対して輝点数の比を計算した。核酸サンプル溶液を変化したところ20pMオリゴ(dT
50)において
図9に示したように核酸サンプル溶液の濃度が低いほど捕捉率が高くなることを突き止めた。また、理論計算上、捕捉オリゴヌクレオチドであるオリゴdT
50の濃度が50、200、500、1000pMと濃くなるにつれて測定対象核酸分子の捕捉率は著しく上昇することがわかった。理論計算の結果を、
図10に示す。
【0128】
この結果を踏まえて、1000pMのオリゴdT
50を、ストレプトアビジンを介して、Biotin−PEG基板に固定した。そして、核酸サンプル溶液中の測定対象核酸分子に相当するdA
50の濃度を変えて、上記式1にしたがって、捕捉率を測定した。結果を
図11に示す。測定は、各々のフローセル、dA
50の濃度において、20〜30回実施し、標準偏差をエラーバーで示している。
図11を参照すると、dA
50の濃度を高くすることで、捕捉率を大きく上げることができることがわかった。この結果、本発明のフローセルを用いることで、核酸サンプル溶液の濃度が0.1pM、及び1pMの濃度で、ほぼ全ての核酸サンプル溶液中の測定対象核酸分子を捕獲することに成功した。
図11には、従来技術のフローセルを用いた場合の捕捉率についても併記している。従来技術においては、最大でも30%程度の捕捉率であったのに対し、捕捉率を100%にまで上げることに成功した。捕捉率の向上は、核酸サンプル溶液中のすべての測定対象核酸分子について、塩基配列決定をするために欠かせない特性であり、本発明のフローセルの大きな利点となる。
【実施例3】
【0129】
[1pgの超微量サンプルを用いたシーケンシング実施例]
これらの手法を総合し、実際に超微量サンプルを用いて配列決定実験を行った。そのためにシーケンシングに必要な化学サイクル及び安定的なシグナル取得に欠かせない装置を構築した。シーケンシングサイクルは、
図5及び6に模式的に示したように、1塩基ずつフローコントロールによって各蛍光ヌクレオチド画像を取得し、どのフローのタイミングで蛍光ヌクレオチドが結合したかを画像レベルで統合することで実際に分子ごとの配列を呼び出した。用いた核酸配列決定装置の概略は、
図3に示した。核酸配列決定装置100において、ポンプユニット110、フローユニット120は、TECAN社製のユニットXLP6000を用いた。温度制御ユニット130は、東海ヒット製ユニットを用いた。ステージユニット140、自動焦点制御ユニット150は、NIKON社製のユニットパーフェクトフォーカスユニット TI−ND6−PFSを用いた。励起ユニット160は、コヒーレント社製の連続波発振動作(CW)レーザーを用いた。検出ユニット170は、浜松ホトニクス社のImagEM−1K−N TDI−EM−CCDカメラを用いた。これらのユニットは、すべてコンピュータ(PC)180により一括制御した。コンピュータ180の作動には、また、浜松ホトニクス社の1分子位置検出ソフトウエアを用いた。シーケンシングに必要な化学サイクル、温度制御、スキャン、画像取得の各動作は、本発明の方法を順で自動制御することができるシステムを構築した。
【0130】
蛍光標識ヌクレオチドは、国際公開WO2009/124254A1号公報の第92頁に記載のものを用いた。これらの蛍光標識ヌクレオチドは1塩基ずつ画像取得を行った後、S−S結合を切断することによって次の塩基位置にポリメラーゼの移動が可能となる重要な化学物質である。
【0131】
(サンプル結合工程)
上記実施例1で作製したフローセルをステージユニットに設置し、配列決定実験を行った。フローセルへの緩衝液の導入はフローセルの排出口に接続したポンプユニットにより行った。まずフローセルに、緩衝液A(150mM HEPES/150mM NaCl)を75μl流し、50℃の温度に保った。次に、緩衝溶B(1×SSC/150mM HEPES/0.1%SDS)中に、25pMとした核酸サンプル溶液を1μl、フローセルに流し、1時間放置した。放置の後、このフローセルに各75μlの緩衝溶液B(1×SSC/HEPES/0.1%SDS)を2回流した。次いで各75μlの緩衝液A(150mM HEPES/150mM NaCl)を2回流した。以降、このフローセルの温度は、37℃に保った。
【0132】
(フィルアンドロック工程)
国際公開WO2009/124254A1号公報に記載のヌクレオチド類似体(100nM dCTP類似体、100nM dGTP類似体、500nM dUTP類似体)、及び1mM dTTPを含むヌクレオチド溶液(組成:20mM Tris−HCl、pH8.8、10mM MgSO
4、10mM (NH
4)
2SO
4、10mM HCl、および0.1%Triton X−100、および50U/mlクレノウ(exo+)ポリメラーゼ)を30μl、フローセルに流し、37℃の温度において、4分間待った。その後、このフローセルに各75μlの緩衝溶液B(1×SSC/HEPES/0.1%SDS)を2回流した。次いで各75μlの緩衝液A(150mM HEPES/150mM NaCl)を2回流した。続いて、緩衝液D(30%アセトニトリル、100mM HEPES、67mM NaCl、25mM MES、12mM Trolox、5mM DABCO、80mMグルコース、5mM NaI、0.1U/μlグルコースオキシダーゼ、pH7.0を含む)を75μl流した。初期状態の位置の画像化は、639nm照射レーザー(Coherent)によって蛍光分子を励起することで行った。その後、このフローセルに各75μlの緩衝溶液B(1×SSC/HEPES/0.1%SDS)を2回流した。次いで各75μlの緩衝液A(150mM HEPES/150mM NaCl)を2回流した。次に、75μlの50mM TCEP溶液をフローセルに流し、5分間待つことでCy5蛍光色素を取り込まれたヌクレオチド類似体より切り離した。その後、このフローセルに各75μlの緩衝溶液B(1×SSC/HEPES/0.1%SDS)を2回流した。次いで、各75μlの緩衝液A(150mM HEPES/150mM NaCl)を2回流した。さらに、75μlの50mMヨードアセトアミド溶液をフローセルに流し、5分間待つことで、ヌクレオチド類似体を保護し、切り離されたCy5蛍光分子との再結合を防いだ。その後、このフローセルに各75μlの緩衝溶液B(1×SSC/HEPES/0.1%SDS)を2回流した。次いで各75μlの緩衝液A(150mM HEPES/150mM NaCl)を2回流した。
【0133】
(シークエンス工程)
フィルアンドロック工程後のフローセルに、dCTP類似体溶液(組成:100nM dCTP、20mM Tris−HCl、pH8.8、10mM MgSO
4、10mM (NH
4)
2SO
4、10mM HCl、および0.1%Triton X−100、および50U/mlクレノウ(exo−)ポリメラーゼ)を30μl流し、37℃の温度において、5分間待った。以下、蛍光分子画像化、切断、保護といった過程は上記フィルアンドロック過程と同様にして行った。以降、ヌクレオチド類似体のみ変更することでdCTP類似体、dATP類似体、dGTP類似体、dUTP類似体の順でこれらの工程を繰り返した。
【0134】
(配列呼び出し工程)
上記過程において得られた蛍光分子画像を1分子解析ソフトウエア(浜松ホトニクス)によって解析した。
【0135】
下記の表1に具体的なシーケンシング実施例を示した。これらのシーケンシング実験は繰り返し実験が可能で非常に再現性が高かった。下記の表中、○の表示は、シグナルが検出されたことを、−の表示はシグナルが検出されなかったことを示し、スポット#は、
図7で模式的に示したように、測定対象核酸分子の位置に対応させた番号である。F&Lはフィルアンドロック工程を、1st、2nd、3rdはそれぞれ第1、第2、第3ラウンドを示す。C、A、G、Tは各ラウンド中のサイクルを示す。Obtainedは、第1ラウンドから第3ラウンドで伸長された、呼び出された核酸配列を示す。
【0136】
【表1】
【0137】
本実施例では、予め配列が既知の測定対象核酸分子を用い、捕捉オリゴヌクレオチドの伸長鎖について、核酸配列を決定したが、伸長鎖の正確な核酸配列を得ることができた。
【0138】
本願の基礎出願である、2013年3月19日出願の日本国特許出願である特願2013-056690号の内容は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。また、本明細書において引用される全ての特許、特許出願、及び刊行物の内容も、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。