(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係る電流測定装置について図面を参照しながら説明を行う。以下の説明は、本発明の一実施形態についての例示であり、これに限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施形態は変更することができる。
【0022】
(実施の形態1)
図1には、本実施の形態に係る電流測定装置1の構成を示す。被測定回路90には、電源(Power Supply:「PS」と記した)91と負荷(Load)93と電源91と負荷93を接続する導線92から構成されるものとする。電流測定装置1は、センサ部10と、電流源(Current Generator:「CG」と記した。)12と、ローパスフィルタ(Low Pass Filter「LPF」と記した。)16と、電圧測定器(Voltage Meter:「VM」と記した。)18を含む。
【0023】
また、全体を制御する制御器(Micro Processor Unit:「MPU」と記した。)20とメモリ(「MM」と記した。)22、A/D変換器(「A/D」と記した。)24、入出力装置(「I/O」と記した。)26を有していても良い。センサ部10には、磁性素子11が配置されている。磁性素子11は、磁気抵抗素子であってもよいし、ホール素子であってもよい。本実施の形態では磁性素子11が磁気抵抗素子であるとして説明を行う。
【0024】
センサ部10には、筐体10a内に磁性素子11が固定されている。また、被測定回路90の回路の一部(導線92)を固定するための、ホルダー10b(
図1には図示せず。
図2で詳説する。)が配置される。本発明に係る電流測定装置1は、電流が流れる導線92を磁気回路ではクランプしないので、磁性素子11と導線92(電流)の間の距離を固定する必要があるからである。
【0025】
図2にセンサ部10の一例を示す。センサ部10は、磁性素子11(
図2には図示せず)を内部に保持する非磁性材料で形成された筐体10aとその上面にホルダー10bが設けられている。また、筐体10aには、内部の磁性素子11と電流源12を接続するための電流端子10c、および磁性素子11の電圧を測定するための電圧端子10dが設けられている。
【0026】
ホルダー10bは磁性素子11と導線92の距離を固定でき、非磁性体で構成されていれば、特に形状を限定されるものではない。ホルダー10bの形状は、導線92の太さや、導線92の被覆の厚み等によって、変わっても良い。また、導線92の太さごとに、別の形状をしたホルダー10bを持ったセンサ部10に交換できるような構成にしてもよい。
【0027】
磁性素子11が磁気抵抗素子の場合は、導線92を磁性素子11の厚み方向の真上若しくは真下に固定するのが好ましい。磁気抵抗効果は、磁性素子11に流れる電流に対して面内方向の外部磁界に対して磁気抵抗効果を発現するからである。
【0028】
一方、磁性素子11にホール素子を用いる場合は、ホルダー10bは、磁性素子11に流れる電流と平行であって、磁性素子11に隣接する位置に固定するのが好ましい。ホール効果は、磁性素子11に流れる電流に対して、面内に対して垂直方向からの外部磁界に対してホール効果を発現するからである。なお、磁気抵抗素子およびホール素子の種類の違いによって、磁性素子11の電圧を検出する部分と導線92の適切な関係が上記の説明以外の場合もあり得る。ホルダー10bは、磁性素子11と導線92の間のその位置関係を固定できるように形成されてよい。
【0029】
図1を再び参照して、磁性素子11には、磁性素子11に電流を流すための駆動電流端子11aと、磁性素子11の電圧を測定するための測定電圧端子11bがそれぞれ一対ずつ設けられる。駆動電流端子11aはセンサ部10の筐体10aに設けられた電流端子10cと接続されており、測定電圧端子11bは、筐体10aの電圧端子10dと接続されている。
【0030】
センサ部10で用いられる磁性素子11は、磁気抵抗素子若しくは、ホール素子のどちらであってもよいので、駆動電流端子11aと測定電圧端子11bは、共通であってもよいし、それぞれ直角の位置関係であってもよい。磁性素子11が磁気抵抗素子であれば、駆動電流端子11aと測定電圧端子11bは共通である場合が多い。また磁性素子11が、ホール素子であれば、駆動電流端子11aと測定電圧端子11bは、互いに直角の位置関係の場合が多い。
【0031】
電流源12(CG:Current Generator)は、交流電流を供給する電流源である。センサ部10の電流端子10cに接続される。なお、センサ部10の電流端子10cと磁性素子11の駆動電流端子11aは、接続されているので、電流源12は、駆動電流端子11aと接続されていると言っても良い。
【0032】
電流源12は、周波数が可変であることが望ましい。電流測定装置1は、導線92を流れる電流のうち、電流源12の発生する周波数とほぼ同じ周波数の電流を測定するからである。なお、複数の交流電流源12が用意されており、逐次切り替えるように構成されていてもよい。なお、このような構成は、実施の形態2で示す。また、測定したい周波数が予め分かっている場合は、電流源12がその周波数だけの電流を供給することを排除しない。
【0033】
また、電流源12は、定電流源だけでなく、定電圧源であってもよい。磁性素子11に流れる電流の周波数特性は、予め測定しておけば知ることができる。したがって、磁性素子11に流れる電流量に依存する測定感度は、後から補正することができるからである。特に、定電圧源を電流源12として用いた場合は、周波数によって磁性素子11のインピーダンスが変わるため、周波数によって流れる電流量が異なる。したがって、周波数ごとに予め流れる電流量を測定しておき、テーブル若しくは補正値を用意しておくことが望ましい。
【0034】
磁性素子11の測定電圧端子11bには、筐体10aに設けられた電圧端子10dを介して、電圧測定器18が接続される。測定電圧端子11bと電圧端子10dは接続されているので、電圧測定器18は、測定電圧端子11bと接続されていると言っても良い。電圧測定器18は、内部に適当な増幅器を有し、直流電圧が測定できればよい。電圧測定器18は、ローパスフィルタ16を介した磁性素子11の両端電圧しか測定しないからである。
【0035】
また、磁性素子11と電圧測定器18の間には、ローパスフィルタ16(LPF:Low Pass Filter)が配置される。ローパスフィルタ16のカットオフ周波数fcは固定のものであってもよい。また、外部からの制御信号によって減衰率を変更できるアクティブフィルタであれば、より好ましい。また、カットオフ周波数fcが変更できる構成であれば、電流測定時の測定バンド幅を変更できるので好ましい。
【0036】
制御器20は、1チップコンピューターが好適に利用できる。もちろん、それ以外の構成を排除しない。制御器20は、電流源12と、電圧測定器18に接続されている。ローパスフィルタ16のカットオフ周波数fcが可変であって、制御器20で制御可能な場合は、ローパスフィルタ16と接続されていてもよい。制御器20は、電流源12に対して指示信号Ccによって、電流を流すタイミングと、流す電流の大きさ及び周波数を制御することができる。また、ローパスフィルタ16に対しては、指示信号Cfによってカットオフ周波数fcを変更できる。また、電圧測定器18からの測定信号Svを受信することができる。
【0037】
また、制御器20には、操作者が操作可能な入出力装置26とメモリ22が接続されていてもよい。測定の開始や、測定の進行、測定データの表示、測定データの記憶などを行うためである。制御器20は、入出力装置26との間で、出力信号Cioを、また入力信号Sioをやり取りできる。出力信号Cioには、測定データが含まれ、入力信号Sioには、制御器20への指示信号が含まれる。また、制御器20と電圧測定器18の間には、A/D変換器24が配置されていてもよい。電圧測定器18の出力がアナログ信号の場合もあるからである。
【0038】
次に磁性素子11について、より詳細に説明する。磁性素子11は外部から印加された磁界によって、電流の流れ方が変化する性質を有する。電流の流れの変化が、素子に対して、流した電流方向の電圧で観測される場合と、流した電流と直角方向の電圧で観測される場合がある。前者は磁気抵抗効果が代表例であり、後者はホール効果が代表例である。
【0039】
図3に磁気抵抗素子と、磁気抵抗効果を示すグラフを示す。磁気抵抗素子100は、短冊状の基板102上に、磁性膜104が形成される。短冊状の一端104aから他端104bの方向を長手方向と呼ぶ。磁性膜104は、長手方向に磁化容易軸が誘導されるように形成されているのが望ましい。
【0040】
磁気抵抗素子100には、長手方向に電流105が流される。そして、被測定回路の導線92の電流I
1が流れる方向に長手方向を合わせるように配置される。なお、
図3では、被測定回路の導線92は、基板102の下側に配置されている様子を示している。導線92に電流I
1が流れるとその周囲に外部磁界Hexが発生する。この外部磁界Hexは長手方向の磁性膜104の磁化を、磁化容易軸から傾けるように働く。つまり、磁性膜104に流れる電流105の向きと磁化の向きが変化する。このとき、磁気抵抗効果が発生し、磁性膜104の電気抵抗が変化する。
【0041】
図3(b)には、一般的な磁気抵抗効果を示すグラフを示す。横軸は磁性膜104の長手方向に直角方向から印加された外部磁界Hex(A/m)であり、縦軸は磁性膜104の長手方向の電気抵抗(以後単に「抵抗値」ともいう。)Rmr(Ω)である。外部磁界Hexが印加されていない時の磁性膜104の電気抵抗をRm0とする。外部磁界Hexが磁気抵抗素子100に印加されると、ΔRmrだけ電気抵抗が減少する。
【0042】
また、電気抵抗Rmrの減少は、外部磁界Hexの方向(正負)によらない。つまり、磁気抵抗効果は、外部磁界Hexに対して偶関数の特性を有する。また、外部磁界Hexが小さい場合は、偶関数の極値付近(Hex=0の近傍)でしか電気抵抗Rmrが変化しないので、電気抵抗の変化ΔRmrが少なく、また線形性も低い。つまり、動作点Pが外部磁界Hexゼロの点にあったのでは、センサに用いる素子としては満足できるものではない。なお、動作点Pとは、磁気抵抗効果を示す曲線上で外部磁界Hexがゼロの時の点をいい、その時の電気抵抗の値はRm0である。
【0043】
図4には、改良したタイプの磁気抵抗素子を示す。
図4(c)には、
図3(b)に対応するグラフを示す。
図4(c)は、磁性抵抗素子に、予めバイアス磁界Hbiasを印加することによって動作点Pを符号107の点に移動させた状態を示している。このように動作点Pを磁気抵抗効果を表す特性曲線の傾斜部分に設定すれば、外部磁界Hexが小さくても、電気抵抗Rmrの変化は大きくなり、また、抵抗値の変化の方向で外部磁界Hexの方向が区別できる。より具体的には、
図4(a)に示すように、短冊状の磁気抵抗素子の長手方向に直角な方向からバイアス磁界Hbiasを印加すればよい。
【0044】
図4(b)には、磁気抵抗素子112を示す。磁気抵抗素子112は、磁性膜104の表面に銅などの導体で、傾斜した連続パターン113(バーバーポール型パターン)を形成したものである。傾斜した導体の連続パターン113の間を流れる電流I
2は、傾斜パターンの最短距離を流れるので、長手方向(磁化容易軸が形成されている方向)からみると、傾斜した方向に電流I
2が流れる。このような磁気抵抗素子112は、バイアス磁界Hbiasを用いなくても、外部磁界Hexがゼロの時に、電流と磁化の方向が傾斜しているので、あたかもバイアス磁界Hbiasが印加された効果を有する。つまり、
図4(c)のように動作点Pが、特性曲線の傾斜部分に設定される。
【0045】
本明細書では、磁気抵抗素子のバイアス手段と言った場合、バイアス用の磁石を配置するだけでなく、
図4(b)のように、導電体のパターン構成によって、見かけ上バイアス磁界Hbiasを有するような効果をもつものも、バイアス手段と呼ぶ。
【0046】
図5(a)には、バーバーポール型パターンを2つ対向させるように、配置した磁気抵抗素子115を示す。図面で上側の磁気抵抗素子を符号116で表し、下側の磁気抵抗素子を符号117で表す。また磁気抵抗素子116の磁気抵抗効果を表すグラフを
図5(b)に示し、磁気抵抗素子117の磁気抵抗効果を表すグラフを
図5(c)に示す。
【0047】
磁気抵抗素子115は、中央部分115cで接地し(センタータップ)、一端115aから他端115bに向かって電流I
2が流される。この時、傾斜のパターンによって電流I
2の傾斜方向が異なる。
【0048】
この時、磁気抵抗素子116では端子115aと中央部分115cとの間の電気抵抗がΔRmrだけ下がり、磁気抵抗素子117では中央部分115cと端子115bの間で電気抵抗がΔRmrだけ上がる。中央部分115cは接地しているので、磁気抵抗素子117での電気抵抗の増加は、マイナス側への増加になる。
【0049】
したがって、端子115aと端子115bの間では、結局2ΔRmrだけ電気抵抗が減少したことになる。つまり、磁気抵抗素子115の両端には、それぞれの素子の2倍(+6dB高い)の出力を得ることができる。なお、
図1の磁性素子11はこのタイプを例示している。すなわち、磁性素子11は接地されたセンタータップを有する。
【0050】
図6(a)には、ホール素子120とその特性を示す。ホール効果は、ホール素子120内部を流れる電流が、流れる電流に対して直角な方向から作用する磁界によって、素子内で偏ることで、電位差が生じることで発現する。
【0051】
ホール素子120の一端120aから他端120bに向かって電流I
2が流される。一方、被測定回路の導線92は、ホール素子120に隣接して配置される。導線92に流れる電流I
1がつくる外部磁界Hexは、ホール素子120の下面120dから上面120uに抜ける。すると、流れる電流I
2は力を受け、ホール素子120の幅方向120f方向に偏る。この偏りによって、ホール素子120の幅方向(120eと120f)に電位差が生じる。この電位差をホール電圧VHと呼ぶ。
【0052】
図6(b)には、その特性を表すグラフを示す。横軸は、外部磁界Hexである。また縦軸は、ホール電圧VHである。ホール素子120では、外部磁界Hexが所定の大きさの間は、ほぼリニアな部分122が観測される。また、外部磁界Hexが所定の値を超えると、ホール電圧VHは飽和する部分123が観測される。ホール素子120を使った実施形態は、実施の形態2で示す。
【0053】
次に再び
図1を参照して、本発明に係る電流測定装置1の測定原理について説明する。被測定回路90には、電流I
1が流れ、磁性素子11に電流I
2が流れているとする。被測定回路90の導線92がその周囲に作る磁界Hは、(1)式のように表される。なお、以下の数式説明で磁界Hは外部磁界Hexと置き換えても良い。
H=αI
1 ・・・(1)
【0054】
ここでαは比例定数である。導線92の近傍に磁性素子11が配置されると、磁性素子11は導線92が作る磁界Hを受け、磁気抵抗効果によって抵抗値Rmrが変化する。抵抗値の変化をΔRmrとすると、(2)式のように表される。
ΔRmr=βH ・・・(2)
【0055】
ここでβも比例定数である。(2)式に(1)式を代入すると、(3)式が得られる。
ΔRmr=αβI
1 ・・・(3)
【0056】
磁性素子11に電流I
2が流れているので、(3)式によって磁性素子11の両端電圧の変化ΔVmrは(4)式のように表される。
ΔVmr=ΔRmr×I
2 ・・・(4)
【0057】
外部からの磁界Hが無い時の磁性素子11の電気抵抗をRm0とすれば、磁性素子11の両端の電圧Vmrは、(5)式で表される。
Vmr=(Rm0+ΔRmr)×I
2
=(Rm0+αβI
1)×I
2 ・・・・(5)
【0058】
今被測定回路90に流れる電流I
1、および磁性素子11に流されている電流I
2が(6)式、(7)式で表されるとする。
I
1=I
1sin2πf
1t ・・・(6)
I
2=I
2sin2πf
2t ・・・(7)
【0059】
なお、ここでf
1、f
2は周波数を表し、tは時間を表す。「π」は円周率である。
【0060】
(6)式、(7)式を(5)式に代入し、また、(1)から(3)式を考慮すると、磁性素子11の両端電圧Vmrは、(8)式のように表される。
・・・(8)
【0061】
(8)式で表されるように、磁性素子11の両端には、αβγI
1I
2cos2π(f
1−f
2)tと、αβγI
1I
2cos2π(f
1+f
2)tという2つの周波数成分(f
1−f
2とf
1+f
2)の電圧Vmrが観測される。なお、γは比例定数である。
【0062】
ここでカットオフ周波数fcが|f
1−f
2|(||は絶対値を表す。)以下の周波数を有するローパスフィルタ16で磁性素子11の両端電圧Vmrを観測すると、f
1+f
2の周波数成分は観測されない。そのときの電圧Vsは、(9)式のように表される。
Vs=αβγI
1I
2cos2π(f
1−f
2)t ・・・(9)
【0063】
カットオフ周波数fcを十分に小さくしておき、磁性素子11に流れる電流I
2の周波数f
2を順次変更すると、周波数f
2が周波数f
1近傍になった場合に、(10)式で表される電圧Vsが観測される。
Vs=αβγI
1I
2 ・・・(10)
【0064】
f
1−f
2がゼロに近づくため(9)式の余弦(cos)の項が1とみなせるからである。
【0065】
つまり、導線92を流れる周波数f
2の電流I
2を測定バンド幅2fc(複素フィルターを使用する場合は帯域幅はfc)の電流スペクトルとして観測することができる。なお、このように、周波数f
1の信号に周波数f
2の信号を作用させて、f
1よりも低い周波数f
1−f
2の信号を得ることをダウンコンバートと呼ぶ。
【0066】
図7に、この関係を図面で示す。
図7(a)〜
図7(c)は、いずれも横軸が周波数fを表し、縦軸が電圧測定器18の出力Vsである。被測定回路90に流れている電流I
1の周波数をf
1とする。
図7(a)を参照して、今電流測定装置1の電流源12から周波数f
2の電流I
2が流れ、被測定回路90の導線92には、周波数f
1の電流I
1が流れている。すると、磁性素子11の両端では、(8)式のように、f
1−f
2およびf
1+f
2の信号が発生する。
【0067】
次に電流源12の周波数f
2を高くする。
図7(b)を参照して、周波数f
2が被測定回路90に流れる電流I
1の周波数f
1に近づくとf
1−f
2は値が小さくなり、周波数ゼロの方向に向かう。逆にf
1+f
2の方は周波数が高くなる。
【0068】
図7(c)を参照して、電流源12の電流I
2の周波数f
2をより電流I
1の周波数f
1に近づけると、f
1−f
2は小さな周波数となり、カットオフ周波数fcを下回る。カットオフ周波数fc以下となった周波数f
1−f
2の信号は、上記(10)式のように、電圧測定器18で電圧Vsとして観測することができる。すなわち、磁性素子11に流す電流I
2の周波数f
2を順次変えながら、磁性素子11の両端電圧を測定することで、導線92に流れる電流I
1の大きさと周波数f
1を検出することができる。
【0069】
図7(d)には、横軸に電流源12の周波数f
2をとり、縦軸には電圧測定器18の出力Vsを示す。電流測定装置1側では、磁性素子11に流す電流I
2の周波数f
2は既知であり、ローパスフィルタ16を通した磁性素子11の両端電圧の値は、電圧測定器18からの出力Vsで知ることができる。したがって、
図7(d)の横軸および縦軸の値は、電流測定装置1側で全て取得できるデータである。なお、
図7(d)は制御器20が入出力装置26に表示することができる。
【0070】
このように横軸を電流源12の周波数f
2とし、縦軸を磁性素子11の両端電圧の直流成分(Vs)をとれば、被測定回路90の導線92に流れていた電流I
1を測定することができる。なお、縦軸は適当な補正値で補正することで、電流I
1の強度に換算することができる。以上のように本発明の電流測定装置1では、ヘテロダイン若しくはスーパーへトロダインといった複雑な回路を用いることなく、被測定回路90の電流スペクトルを得ることができる。
【0071】
この関係は、被測定回路90に流れる電流I
1の周波数f
1が複数あっても同様に成り立つ。例えば、(6)式で表した被測定回路90に流れる電流I
1を(11)式のように表す。
・・・(11)
【0072】
ここでnは自然数を表し、f
1,nは導線92に流れるn番目の電流の周波数を表す。その時の電流の振幅はI
nである。磁性素子11に流す電流I
2は(7)式と同じとして、(11)式と(7)式を(5)式に代入すると、磁性素子11の端子電圧Vmrは(12)式のように表される。
・・・(12)
【0073】
カットオフ周波数fcを|f
1,n−f
2|より小さくすると、Vmrは(13)式のように表される。
・・・(13)
【0074】
被測定回路90の電流I
1が周波数f
1だけであった場合同様に、磁性素子11に流す電流I
2の周波数f
2を順次変更すると、f
2がf
1,nの近傍になった時に観測される電圧Vsは(14)式のように表される。
Vs=αβγI
nI
2 ・・・(14)
【0075】
なお、この電圧を計測する場合のバンド幅は2fcである。以上の説明は、磁性素子11がホール素子であっても、同様に成り立つ。
【0076】
上記の説明を前提として、再度
図1を参照し、電流測定装置1の動作について説明する。なお、電流源12は最低周波数f
2,0から最高周波数f
2,nまで流せる。また、簡単のために被測定回路90には、2種類の周波数の電流が流れているものとする。これらをそれぞれf
1,1とf
1,2とする。ただし、f
1,1<f
1,2とする。被測定回路90の導線92は、センサ部10のホルダー10b(
図2参照)に固定される。また、磁性素子11に対する補正値はすでに取得されているものとする。
【0077】
なお、補正値とは、上記の場合に、磁性素子11の両端電圧を、導線92に流れる電流と同じ周波数、同じ値になるように換算することのできる値を含む。また補正値は、予め求められており、メモリ22に記録されてもよい。
【0078】
以後の処理フローは、制御器20が行うものとして説明を行うが、手動でおこなってもよい。
図8には、制御器20のフローの一例を示す。測定の開始は操作者が、入出力装置26から出力信号Cioによって制御器20に送る。測定が開始されると(ステップS100)、制御器20は、前処理を行う(ステップS102)。前処理には、電流源12の周波数f
2を最低周波数f
2,0にセットする工程が含まれる。そして、周波数f
2が最高周波数f
2,nより高いか否かを判断する(ステップS104)。もし、周波数f
2が最高周波数f
2,nより高ければ(ステップS104のY分岐)、後処理(ステップS120)を行い、測定を終了する(ステップS122)。
【0079】
ここで、最高周波数f
2,nとは、電流源12が供給できる周波数の最高値をいい、最低周波数f
2,1とは、電流源12が供給できる周波数の最低値をいう。なお、電流源12が交流電流を供給できるのであれば、最低周波数には、周波数ゼロ(すなわち直流電流)を含んでよい。磁性素子11に流す定電流は、被測定回路90に重畳されている定電流を検出することができる。
【0080】
周波数f
2が最高周波数f
2,nより高くなければ(ステップS104のN分岐)、電流源12にf
2の値を送信し、電流源12に周波数f
2の電流を出力させる(ステップS106)。そして、電圧測定器18で、ローパスフィルタ16を介して磁性素子11の両端電圧(Vs)を測定する。次に、電圧測定器18の出力Vsと、f
2の値をメモリ22に記録する(ステップS108)。次に所定の周波数Δf
2だけ電流源12の周波数f
2を変化させる(ステップS110)。
【0081】
そして、ステップS104に戻る。制御器20は、新しいf
2が最高周波数f
2,nより大きくなるまで、電流源12の周波数f
2を上げながら、電圧測定器18の出力Vsとその時のf
2を記録する。
【0082】
電流源12の周波数f
2がf
1,1の近傍の値になると、ローパスフィルタ16を通して(14)式で示されるような出力Vsが電圧測定器18から得られる。そして、f
2がf
1,1から離れるとローパスフィルタ16を通して観測した磁性素子11の両端電圧(Vs)は低くなる。また、f
2がf
1,2の近傍の値になると、再びローパスフィルタ16を通して測定された磁性素子11の両端電圧(Vs)は上昇する。
【0083】
ステップS110で、f
2をΔf
2だけ増加させた結果、最高周波数f
2,nより高くなっていると、測定は終了し、ステップS104でY分岐に処理の流れが変わる。ステップS120に処理が移ると、制御器20は後処理を行い(ステップS120)、停止する(ステップS122)。
【0084】
ここで後処理(ステップS120)とは、メモリ22に記録した周波数f
2と電圧測定器18の出力結果Vsを入出力装置26等に出力するといった処理であってもよい。特に、電流源12として周波数可変の定電圧発振器を用いた場合は、周波数f
2によって、磁性素子11に流れる電流I
1が変わる。したがって、予め各周波数毎に補正値を用意し、それをメモリ22に記録しておく。測定結果を表示する際には、このメモリ22中の補正値を用いて電圧測定器18の出力Vsの値を補正するのが望ましい。
【0085】
得られるデータは、電流源12の周波数f
2と、電圧測定器18の出力Vsである。電流源12の周波数f
2を横軸とし、電圧測定器18の出力Vs(補正値を用いた補正後の値であってもよい)を縦軸として、これらのデータをプロットすると、被測定回路90の導線92に流れている電流のスペクトルが得られる(
図7(d)参照)。
【0086】
なお、上記の処理フローでは、電流源12の最低周波数から最高周波数まで測定した後、結果を表示するようにしたが、測定する周波数の範囲を決めて測定してもよいし、測定した毎にその時の値を表示するようにしてもよい。また、測定終了後は、停止するのではなく、次の測定のために、ステップS102に戻る等してもよい。
【0087】
(実施の形態2)
図9に本実施の形態に係る電流測定装置2の構成を示す。実施の形態1と同じ部品については同じ符号を付し、説明は割愛する場合がある。電流測定装置2では、センサ部10に磁性素子31としてホール素子(以後「ホール素子31」と呼ぶ。)が用いられる。ホール素子31は、駆動電流端子31aに対して、測定電圧端子31bが、直角に設けられている。したがって、センサ部10の筐体10aに設けた電流端子10cと電圧端子10dも直角の位置に配置される。
【0088】
また、ホール素子31の駆動電流端子31aに接続される電流端子10cには、複数の電流源32a、32b、32cが接続されている。また、これらの電流源32a、32b、32cと電流端子10cの間には、接続スイッチ33a、33b、33cが配置されている。これらの接続スイッチ33a、33b、33cは、制御器20からの指示信号Csa、Csb、Cscで開閉が制御される。電流源32a、32b、32cのそれぞれの出力周波数をf
2,1、f
2,2、f
2,3とする。
【0089】
なお、ここでは、電流源を3つ示したが、1つであってもよく、また2以上の複数であってもよい。
【0090】
ここで、実施の形態1で説明したように、f
2,1は周波数がゼロであってもよい。すなわち、直流であってもよい。周波数がゼロの場合は、被測定回路90中の交流成分は、測定できない。しかし、被測定回路90に一定のバイアス電流が流されている場合は、周波数ゼロの電流(定電流)をI
2としてセンサ部10に供給することによって、被測定回路90中の定電流成分(バイアス電流)を測定することができる。
【0091】
以下の制御器20による処理のフローは
図8で示した処理のフローとほとんど同じである。なお、電流源32はMaxn個あるとする。
図9の場合は、Maxnは3である。
図10を参照して、処理がスターとしたら(ステップS200)、前処理を行う(ステップS202)。この前処理には、nを1にセットする工程が含まれる。次に、nが電流源の個数Maxnより大きいか否かを判断する(ステップS204)。
【0092】
nがMaxnを越えていなければ(ステップS204のN分岐)、n番目の電流源が、ホール素子31に接続されるように接続スイッチが閉じられる(ステップS206)。そして、その時の電圧測定器18の出力Vsと流された電流の周波数f
2,nを記録する(ステップS208)。次にnをインクリメントし(ステップS210)、ステップS204に戻る。
【0093】
nが電流源の数Maxnを越えたら(ステップS204のY分岐)、後処理(ステップS220)を行い、停止する(ステップS222)。
【0094】
電流測定装置2は、磁性素子31に流す電流の周波数が電流源32の個数分と限定される。したがって、被測定回路90中に流れている電流の周波数が予め決まっている場合若しくは、測定したい電流の周波数が予め決まっている場合に特に有効となる。
【0095】
以上のように、本発明に係る電流測定装置1、2は、非常に簡単な構成で、被測定回路90に流れる電流のスペクトルを測定することができる。また、高い周波数の電流を測定する際にも、ローパスフィルタ16のカットオフ周波数fcの2倍の帯域幅の精度で測定することができ、Qの高い測定が可能である。
【0096】
なお、上記の実施の形態1では、磁性素子11として磁気抵抗素子を用い、実施の形態2では、磁性素子11としてホール素子を用いた例を示したが、これらの素子は入れ替えてもよい。つまり、実施の形態1の磁性素子11としてホール素子を用いることができるし、実施の形態2の磁性素子31として磁気抵抗素子を用いても良い。
【0097】
(実施の形態3)
図11に本実施の形態に係る電流測定装置3の構成を示す。電流測定装置3は、スーパーヘテロダインと類似した測定原理を有する。すなわち、予め所定の周波数帯域MBを中間周波数として設定しておく。次に、中間周波数より高い周波数f
1の電流(被測定回路90の電流I
1)を、磁性素子11と電流源12による周波数変換で、帯域MBの信号にする。すなわち、周波数f
1−f
2の信号を帯域MBまでダウンコンバートする。そして、周波数f
1−f
2の信号を中間周波数の信号として一度増幅する。その後にf
1−f
2の周波数の信号に対して、再度別の磁性素子と電流源(周波数はf
3)を用いた測定を行う。
【0098】
この技術は主として一定の帯域を有する送信信号をキャリア信号からベースバンド信号にダウンコンバートする際に、負の周波数の影響を排除するために用いられる。
【0099】
この技術を利用するメリットは、カットオフ周波数fc以下までダウンコンバートした周波数f
1−f
2の信号強度が小さい場合に特に有用となる。周波数f
1−f
2の信号強度が低い場合は、ローパスフィルタ16を通して観測できる直流電圧のSNRが低くなり、測定精度が低下する。
【0100】
しかし、周波数f
1−f
2の信号がカットオフ周波数fcより高い周波数(中間周波数)にして、一度増幅することで、ローパスフィルタ16を通して観測される電圧VsのSNRを高くすることができる。また、測定する電流に所定の帯域を有する信号が重畳されていた場合は、その帯域の信号を復調することも可能になる。
【0101】
図11では、
図1の構成を基本として説明を行う。しかし、
図9の構成であっても同様に適用することができる。すなわち、磁性素子は、磁気抵抗素子であってもホール素子であってもよい。
【0102】
なお、電流測定装置3では、磁性素子と電流源を2組利用する。実施の形態1で説明した電流測定装置1にはない磁性素子と電流源を第2磁性素子41および第2電流源42とする。そこで、電流測定装置1に存在する磁性素子および電流源を第1磁性素子11及び第1電流源12と呼ぶ。また、それぞれの端子についても、第1駆動電流端子11a、第1測定電圧端子11bとする。また、筐体10aを含めたセンサ部を第1センサ部10とする。
【0103】
被測定回路90と、第1磁性素子11、第1電流源12の構成は実施の形態1と同じである。したがって、筐体10a上にホルダー10bが設けられており、被測定回路90の導線92はホルダー10bで、第1磁性素子11と所定の位置関係に固定される。
【0104】
電流測定装置3は、第1測定電圧端子11b(電圧端子10d)が電流増幅器38に接続されている。そして、電流増幅器38の出力線39は接地される。電流増幅器38は、第1測定電圧端子11bの端子間電圧に比例した電流を流すことができれば、構成は特に限定されない。例えば、電流ブースターを備えた電圧増幅器を利用してもよい。
【0105】
また、電流増幅器38は、中間周波数の帯域MBの信号だけ増幅し、それ以外の信号は増幅しない。従って、フラットな周波数特性を有する必要はない。さらに言えば、帯域MBのバンドパスフィルタを有していても良い。
【0106】
電流増幅器38の出力線39には、第2磁性素子41が設けられる。第2磁性素子41は磁性素子11と同じものでもよい。ここでは磁気抵抗素子で説明するが、ホール素子を用いても良い。第2磁性素子41は、第1磁性素子11と同様に、バイアス手段を有する。ここでは、
図5で示した、バーバーポール型の導電体パターンを有するバイアス手段と、接地されたセンタータップを有するタイプのもので説明を続ける。
【0107】
第2磁性素子41と出力線39は、電流測定装置3中に内蔵される。つまり、出力線39と第2磁性素子41は、離脱可能に構成されなくてもよい。したがって、
図3で示した位置関係のように、出力線39を第2磁性素子41の膜厚方向の上若しくは下に密着配置し、そのまま固定してもよい。
【0108】
つまり、出力線39と第2磁性素子41は、一体的に形成されてもよい。具体的には、第2磁性素子41と出力線39を樹脂などでモールドする若しくは、第2磁性素子41と出力線39をフォトリソグラフィで一体的に作製してもよい。この部分を第2センサ部40と呼ぶ。第2センサ部40には、筐体等を明示的に示していないが、第2磁性素子41を筐体内に収納し、耐候性を高めてもよい。また、出力線39と第2磁性素子41の位置関係を固定するためのホルダーを有していてもよい。
【0109】
第2磁性素子41にも一対の第2駆動電流端子41aと、一対の第2測定電圧端子41bが設けられる。第2駆動電流端子41aには、第2電流源42が接続される。また第2測定電圧端子41bには、ローパスフィルタ16が接続される。ローパスフィルタ16には、電圧測定器18が接続される。電圧測定器18は、A/D変換器24を介して制御器50に接続される。ローパスフィルタ16以降の構成は、実施の形態1で示した電流測定装置1の場合と同じである。なお、制御器50の制御は、制御器20の場合と異なる処理を行う。
【0110】
第2電流源42は、制御器50の指示信号Cmによって、周波数の異なる電流を、第2磁性素子41の長手方向に流す。第2電流源42の電流を電流I
4とし周波数はf
3とする。第2電流源42は、
図12(a)の帯域MBまでの周波数の電流を流せればよい。さらにいえば、帯域MBの間の周波数の電流が流せればよい。
【0111】
次に
図11の構成図、
図12の測定原理図および
図13のフロー図を用いて電流測定装置3の動作(制御器50の処理)について説明する。説明を簡単にするために、被測定回路90には周波数f
1の電流が流れているとする。被測定回路に、複数の周波数の電流が流れている場合でも、以下の処理で測定することができる。
【0112】
処理が開始されたら(ステップS300)、前処理が行われる(ステップS302)。前処理には、第1電流源12の周波数f
2を最低周波数f
2,1にセットし、第2電流源42の周波数f
3を最低周波数f
3,0にセットする工程が含まれる。
【0113】
ここで、第2電流源42が出力する電流の周波数は、中間周波数の帯域MBの下側周波数fmdから上側周波数fmuまでと限っても良い(
図12(b)参照)。ここでは、第2電流源42が出力する最低周波数f
3,0は帯域MBの下側周波数fmdであり、最高周波数f
3,mは上側周波数fmuであるとする。
【0114】
次に、周波数f
2が最高周波数f
2,nより高いか否かを判断する(ステップS304)。もし、周波数f
2が最高周波数f
2,nより高ければ(ステップS304のY分岐)、後処理(ステップS320)を行い、測定を終了する(ステップS322)。
【0115】
ここで、最高周波数f
2,nとは、第1電流源12が供給できる周波数の最高値をいい、最低周波数f
2,1とは、第1電流源12が供給できる周波数の最低値をいう。なお、第1電流源12が交流電流を供給できるのであれば、最低周波数には、周波数ゼロ(定電流「f
2,0」と表す。)を含んでよい。磁性素子11に流す定電流は、被測定回路90に重畳されている定電流を検出することができる。
【0116】
次に、周波数f
2が最高周波数f
2,nより高くなければ(ステップS304のN分岐)、第1電流源12にf
2の値を送信し、第1電流源12に周波数f
2の電流I
2を出力させる(ステップS306)。このときの被測定回路90中の周波数f
1の電流I
1と第1電流源12による周波数f
2の電流I
2との周波数の関係の一例を
図12(a)に示す。周波数f
1とf
2の信号同士が第1磁性素子11によって演算され、f
1−f
2およびf
1+f
2の信号を発生させる。これらの信号は第1測定電圧端子11b間に現れる。
【0117】
一方、第1測定電圧端子11bが接続されている電流増幅器38は、中間周波数の帯域MB以外の周波数を増幅しない。したがって、f
1−f
2が中間周波数の帯域MBの信号になれば、このときの第1測定電圧端子11bの端子間電圧に比例した電流が電流増幅器38から出力線39に流される。なお、このときの比例定数は、電流増幅器38の増幅率となる。
【0118】
次に制御器50は、第2電流源42の電流をスイープさせる。具体的には、周波数f
3が最高周波数f
3,mより高いか否かを判断する(ステップS308)。周波数f
3が最高周波数f
3,mより高ければ(ステップS308のY分岐)、ステップS314までのループを抜ける。すなわち、スイープをやめる。周波数f
3が最高周波数f
3,mより高くなければ(ステップS308のN分岐)、第2電流源42にf
3の値を送信し、第2電流源42にf
3の周波数の電流を出力させる(ステップS310)。
【0119】
図12(b)には、このときの第2電流源42による電流(周波数f
3)と出力線39に流れる電流(周波数(f
1−f
2))の関係の一例を示す。第2センサ部40にとっては、周波数f
1−f
2の信号は固定された信号に見える。第2磁性素子41は、周波数f
1−f
2の信号と、第2電流源42による周波数f
3の電流との間で演算を行い、周波数f
1−f
2−f
3の信号と、周波数f
1−f
2+f
3の信号を、第2測定電圧端子41b間に発生させる。
【0120】
次に、電圧測定器18の出力Vsと、f
2およびf
3の値をメモリ22に記録する(ステップS312)。次に、所定の周波数Δf
3だけ第2電流源42の周波数f
3を変化させる(ステップS314)。ステップS308からステップS314を繰り返すことで、中間周波数の帯域MBの間にある周波数の電流をカットオフ周波数fc以下にダウンコンバートする。
【0121】
図12(c)に周波数f
3の信号(第2電流源42が流す電流)が、スイープによって周波数が高くなり、周波数f
1−f
2の信号に接近した場合の各信号周波数の関係を示す。周波数f
1−f
2−f
3の信号がカットオフ周波数fcより小さくなると、電圧測定器18に直流の出力電圧Vsとして観測される。
【0122】
ステップS308で第2電流源42の電流のスイープが終了したと判断されたら(ステップS308のY分岐)、周波数f
3を初期値f
3,0に再設定し(ステップS316)、所定の周波数Δf
2だけ第1電流源12の周波数f
2を変化させ(ステップS318)、ステップS304に戻る。ステップS304で測定が終了したと判断された場合は、後処理を行い(ステップS320)、停止する(ステップS322)。
【0123】
ステップS312で記録したf
2およびf
3の周波数は、f
2+f
3を横軸にとり、電圧測定器18の出力Vsを縦軸にとり、
図12(d)のようにプロットする。このようにすることで、被測定回路90中の電流のスペクトルを得ることができる。なお、縦軸の出力Vsは、第1センサ部10、電流増幅器38、第2センサ部40のゲインを予め測定して補正値を用意し、その補正値で補償することで、被測定回路90中に流れる電流の値に換算することができる。このような補正値は、メモリ22中に記憶され、制御器50が適時使用することができる。
【0124】
なお、本実施の形態ではf
3を複数の周波数の電流として扱ったが、中間周波数の帯域MBの所定の周波数に固定してもよい。また、
図11で示す第1電流源12および第2電流源42は、連続的に周波数を変更できても良いし、予め用意された、複数の電流源を切り替えるようにしてもよい。また、第1電流源12には直流電流が含まれていても良い。
【0125】
(実施の形態4)
実施の形態1、2および3では、周波数を測定できる電流測定装置の基本的原理について説明した。実際の使用形態では、近接した複数の周波数が存在する場合があり、信号同士のビートが生じ、ダウンコンバートはより複雑となる。また、実際の使用形態では、導線92を流れる電流I
1と、磁性素子11に流す電流とは、同期されていない。したがって、互いの位相は一致しない。
【0126】
互いの位相が一致しない場合、ローパスフィルタの出力電圧は一定せず、測定ができない(測定値が決まらない)場合もある。これは、周波数を持った電流を複素数的に扱わなかったからである。そこで、本実施の形態では、測定対象の電流を複素数として扱うことで、上記の課題を克服できる電流測定装置4を提供する。
【0127】
図14に本発明の電流測定装置4の構成を示す。電流測定装置4は、第1磁性素子11を有する第1センサ部10と第2磁性素子41を有する第2センサ部40と、測定対象である電流I
1が流れる導線92と第1センサ部10および第2センサ部40の位置関係を固定するホルダー10bと、第1磁性素子11に周波数f
1の信号を印加する電流源12と、第2磁性素子41に電流源12の信号と位相がπ/2ずれた電流を印加する位相変換器13と、第1磁性素子11および第2磁性素子41の端子間電圧に対して帯域制限をかける第1ローパスフィルタ16および第2ローパスフィルタ17と、第1ローパスフィルタ16と第2ローパスフィルタ17の出力(電圧値)の2乗和平方根を算出する振幅ベクトル演算器44(VAA)と、振幅ベクトル演算器44とメモリ22と結合された制御器52を含む。
【0128】
また、第1磁性素子11と第2磁性素子41の出力を増幅する第1計装アンプ46と第2計装アンプ47が含まれていてもよい。また、振幅ベクトル演算器44の出力をデジタル処理する場合は、振幅ベクトル演算器44の後段に、A/D変換器24を設けてもよい。
【0129】
また、第1ローパスフィルタ16と第2ローパスフィルタ17の出力から逆正接値を求める位相ベクトル演算器45(VAθ)が設けられていても良い。ベクトル演算器45の出力にはA/D変換器25が接続されていてもよい。なお、振幅ベクトル演算器44と位相ベクトル演算器45は、制御器52若しくは他の処理ユニットがソフト的に行ってもよい。
【0130】
第1磁性素子11と第2磁性素子41は、
図4もしくは
図5の構成であってよい。しかし、より大きな差動出力を得るために、ブリッジ回路としてもよい。
図15には、ブリッジ回路を利用した場合の第1センサ部10(第1磁性素子11)および第2センサ部40(第2磁性素子41)の構成を示す。第1センサ部10および第2センサ部40は同じ構成をしているので、ここでは第1センサ部10だけの構成を説明する。
【0131】
図15を参照して、第1センサ部10は第1磁性素子115と、ブリッジ抵抗60とブリッジ抵抗61で構成される。ブリッジ抵抗60とブリッジ抵抗61の一端は結合され、第1駆動電流端子11a(電流端子10c)の一方の端子となる。ブリッジ抵抗60の他端は、第1磁性素子115の一端115aに接続され、ブリッジ抵抗61の他端は第1磁性素子115の他端115bに接続される。
【0132】
第1磁性素子115は、図面(
図15)上側の磁気抵抗素子116と下側の磁気抵抗素子117が直列に接続されたと考えられる。したがって、中央部分115cを端子とすると、ブリッジ抵抗60および磁気抵抗素子116の直列接続部分と、ブリッジ抵抗61および磁気抵抗素子117の直列接続部分の並列接続で構成されるブリッジ回路が形成される。
【0133】
なお、ここで中央部分115cは、第1駆動電流端子11a(電流端子10c)の他方の端子となる。また、第1磁性素子115の一端115aと他端115bは、電圧端子10d(測定電圧端子11b)となる。第2センサ部40についても、同様の構成としてよい。
【0134】
図14を参照して、電流源12は制御器52からの指示信号Ccを受け、指示された周波数と強度の電流を出力する。また位相変換器13は、電流源12から電流を供給され、電流源12が出力する電流I
2と位相がπ/2ずれた電流I
4を出力する。
【0135】
振幅ベクトル演算器44は、第1ローパスフィルタ16と第2ローパスフィルタ17の出力をそれぞれX、Yとした時に、2乗和平方根値を算出する。より具体的には、2乗和平方根値をWとすると(15)式である。
・・・・(15)
【0136】
位相ベクトル演算器45は、第1ローパスフィルタ16と第2ローパスフィルタ17の出力をそれぞれX、Yとした時に、逆正接値を算出する。より具体的には、逆正接値をΘとすると、(16)式である。
・・・・(16)
【0137】
振幅ベクトル演算器44と位相ベクトル演算器45は、それぞれの出力を信号Svaおよび信号Svθとして制御器52に送信する。
【0138】
制御器52は、電流源12と振幅ベクトル演算器44と位相ベクトル演算器45と接続されている。そして、電流源12には指示信号Ccを送信し、電流源12が出力する電流値、周波数、出力する時期などを制御する。また、振幅ベクトル演算器44と位相ベクトル演算器45からの信号Svaおよび信号Svθを得て、電流源12が出力した電流の周波数と、信号Svaおよび信号Svθとの関係を、入出力装置26に出力する。
【0139】
次に
図14を参照して、電流測定装置4の動作について説明する。被測定回路90の導線92に流れる電流I
1によって導線92の周囲に磁界が発生する。一方、第1磁性素子11に交流電流I
2を流す。また、第2磁性素子41には交流電流I
2と同じ周波数で交流電流I
2と位相がπ/2だけずれた交流電流I
4が流される。
【0140】
第1磁性素子11および第2磁性素子41に流される電流の周波数と同一の周波数成分を有する電流が導線92に流れている場合は、第1ローパスフィルタ16および第2ローパスフィルタ17から直流電圧が得られるのは、実施の形態1で説明した通りである。
【0141】
交流電流I
2を流しながら、導線92に流れる電流I
1が発生する磁界の影響を受ける第1磁性素子11(第2磁性素子41)の測定電圧端子間11b(41b)に現れる出力電圧は、導線92に流れる電流I
1と第1磁性素子11に流される電流I
2の乗算結果となる。また、よく知られているように、実信号である導線92に流れる電流に、位相がπ/2ずれた電流を乗算すると、実数成分および虚数成分が生成される。これらの成分から、実信号の振幅および交流電流I
2と導線92に流れる電流I
1の位相差を求めることができる。
【0142】
以下に簡単にこれを説明する。導線92に流れる電流I
1をAcos(2πf
1t+θ
1)とする。ここでAは振幅である。電流源12および位相変換器13から出力される信号をそれぞれcos(2πf
2t+θ
2)、sin(2πf
2t+θ
2)とする。これらをそれぞれ複素数表現にし、その結果をBとするとBは、(17)式のようになる。
・・・・・(17)
【0143】
ここで電流源12の電流I
2の周波数f
2が導線92に流れる電流I
1の周波数f
1と同じになったとすると、(18)式のようになる。
・・・・・(18)
【0144】
このBをローパスフィルタで抜けば、1/2{Aexp[j(θ
1―θ
2]}を得ることができる。この成分を顕に書けば、1/2Acos[(θ
1―θ
2]と1/2Asin[(θ
1―θ
2]である。これらはまた、第1ローパスフィルタ16および第2ローパスフィルタ17の出力である。したがって、Xを1/2Acos[(θ
1―θ
2]とし、Yを1/2Asin[(θ
1―θ
2]とすると、(15)式および(16)式で示したように、振幅Wと位相Θを得ることができる。
【0145】
ここで得られた振幅Wは、導線92を流れる電流I
1の周波数f
1や、電流源12および位相変換器13から流れる電流I
2およびI
4の周波数f
2、さらにθ
1およびθ
2に依存しない。よって、安定した値を得ることができる。制御器52は、電流源12に出力させた周波数と、振幅Wの関係を入出力装置26に表示させることができる。なお、メモリ22には、得られた振幅Wを電流値に換算するテーブル若しくは補正値が記憶される。したがって、振幅Wは導線92に流れる電流値に換算して入出力装置26に表示してもよい。