(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288688
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ブレーズド凹面回折格子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20180226BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
G02B5/18
B29C59/02 B
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-518153(P2016-518153)
(86)(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公表番号】特表2016-533520(P2016-533520A)
(43)【公表日】2016年10月27日
(86)【国際出願番号】CN2013087439
(87)【国際公開番号】WO2015043046
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2016年4月18日
(31)【優先権主張番号】201310462037.1
(32)【優先日】2013年9月29日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】511233865
【氏名又は名称】グラジュエート スクール アット シェンチェン、 ツィングワ ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ、チアン
(72)【発明者】
【氏名】ニ、カイ
(72)【発明者】
【氏名】ティアン、ルイ
(72)【発明者】
【氏名】リ、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】シュ、ミンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ジンチャオ
(72)【発明者】
【氏名】パン、ジンチャオ
(72)【発明者】
【氏名】ドン、ハオ
【審査官】
藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−233283(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/031460(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/021557(WO,A1)
【文献】
特開2012−013530(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101246229(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
B29C 33/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸面ブレーズドマスター回折格子を製造するステップAと、
タイリング対象である2つの凹面回折格子基板を用意し且つ分割シートを用意するステップBと、
2つの凹面回折格子を複製し、複製時、前記2つの凹面回折格子基板を前記凸面ブレーズドマスター回折格子に押し付け、凸面ブレーズドマスター回折格子の中間に分割シートを鉛直に置いて前記2つの凹面回折格子基板を分離することにより、凸面ブレーズドマスター回折格子で互いに独立した2つの凹面回折格子を複製するステップCと、
独立した2つの凹面回折格子をそれぞれ2つの異なる方向から引き抜くことにより、それらを凸面ブレーズドマスター回折格子から分離するステップDと、
上記ステップDの後に前記凹面回折格子をタイリングするステップEと、を含むブレーズド凹面回折格子の製造方法。
【請求項2】
前記ステップAにおいて、前記凸面ブレーズドマスター回折格子は、凸面ブレーズドマスター回折格子基板に対して感光、現像及びイオンビームエッチングを行ってなるものであり、前記凸面ブレーズドマスター回折格子基板の作用面は光学面であり、光沢処理されたものであり、製造過程において、前記凸面ブレーズドマスター回折格子基板の作用面に感光材料、即ちフォトレジストをスピンコーティングし、前記凸面ブレーズドマスター回折格子基板について、まず、ホログラフィック露光法を利用して凸面フォトレジストマスク回折格子を得て、次に、前記凸面フォトレジストマスク回折格子を現像してフォトレジストマスター回折格子を得て、最後に、現像後のフォトレジストマスター回折格子をイオンビームエッチングして凸面ブレーズドマスター回折格子を得る請求項1に記載のブレーズド凹面回折格子の製造方法。
【請求項3】
前記凸面ブレーズドマスター回折格子基板の機能面は、球面又は非球面である請求項2に記載のブレーズド凹面回折格子の製造方法。
【請求項4】
前記ステップBにおいて、凹面回折格子基板のプロファイルは前記凸面ブレーズドマスター回折格子基板の作用面のプロファイルと一致し、且つ前記2つの凹面回折格子基板は完全に同様なサイズ、輪郭を有し、前記分割シートは、材質が硬質高温蒸煮耐性PEシーリングフィルムであり、主成分がポリエチレンである請求項2又は3に記載のブレーズド凹面回折格子の製造方法。
【請求項5】
前記分割シートはシリコーンオイル膜分離層、反射膜及びエポキシ樹脂粘着剤のいずれにも粘着しない請求項4に記載のブレーズド凹面回折格子の製造方法。
【請求項6】
前記ステップCにおいて、まず、凸面ブレーズドマスター回折格子の中間に分割シートを鉛直に置き、製造済みの凸面ブレーズドマスター回折格子に、薄くて均一なシリコーンオイル膜を分離層としてコーティングし、さらに反射膜をめっきし、次に、蒸着後の凸面ブレーズドマスター回折格子をオーブン内のプラットフォームに置き、エポキシ樹脂を注入し、且つ前記2つの凹面回折格子基板を押し付け、レベリングして気泡を除去した後、オーブンを適切な硬化温度に昇温させ、エポキシ樹脂が硬化した後、オーブンから取り出す請求項1から5のいずれか一項に記載のブレーズド凹面回折格子の製造方法。
【請求項7】
前記ステップEにおいて、2つの回折格子の鉛直方向の間隔B=0であり、2つの回折格子の水平方向の間隔S=Nd(Nが正の整数で、dがタイリング対象である回折格子の回折格子定数である)である請求項1から6のいずれか一項に記載のブレーズド凹面回折格子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブレーズド凹面回折格子の新規製造方法に関し、当該製造方法はスペクトロメータ、分析測定等の分野に幅広く適用でき、回折格子製造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィック凹面回折格子は分散、フォーカシング、フラット画像フィールド(凹面回折格子の非常に重要な特徴の一つは、結像可能であり、且つ一つの平面上に結像できるので、CCDを受光素子として使用できることである)を一体化し、携帯型回折格子スペクトロメータの重要な素子であり、スペクトロメータの最終品質を直接決める。しかしながら、凹面基板の幾何形状の制限により、凹面回折格子はイオンビームで直接エッチングされ難く、多くの場合に全く不可能であるので、凹面回折格子の溝形状を正確に制御できず、回折効率の向上が難しく、応用のボトルネックになる。
【0003】
この問題に対して、従来、一般的な手段は、直接露光して凸面マスター回折格子を製造し、次に、複製して凹面回折格子を得ることであり、しかし、フラットフィールド(即ち、上記「フラット画像フィールド」)凹面回折格子は、溝形状がいずれも同様であるので、凸面マスター回折格子から複製した後、鉛直方向に沿って引き抜くと、所望の凹面回折格子を得ることができる。しかし、ブレーズド凹面回折格子の場合は、ブレーズ角のため、同様に鉛直方向に沿って引き抜くと、回折格子の回折効率に大きな影響をもたらし、その応用を制限してしまう。
【発明の概要】
【0004】
従来の複製方法の欠点を克服するために、本発明はブレーズド凹面回折格子の製造方法を提供して従来のブレーズド凹面回折格子の複製方法の誤差が大きい問題を解決する。
【0005】
そのため、本発明では、もとの完全な複製用回折格子ブランクをサイズと形状が完全に同様な2つの部分に分割し、複製した後、それぞれ引き抜き、最後に、さらに回折格子のタイリングを行い、所望の凹面回折格子を得る。
【0006】
好ましくは、本発明は以下の特徴をさらに有する。
【0007】
ステップAにおいて、前記凸面ブレーズドマスター回折格子は、凸面ブレーズドマスター回折格子基板に対して感光、現像及びイオンビームエッチングを行ってなるものであり、前記凸面ブレーズドマスター回折格子基板の作用面は光学面であり、光沢処理されたものであり、製造過程において、前記凸面ブレーズドマスター回折格子基板の作用面に感光材料、即ちフォトレジストをスピンコーティングし、凸面ブレーズドマスター回折格子基板について、まず、ホログラフィック露光法を利用して凸面フォトレジストマスク回折格子を得て、次に、前記凸面フォトレジストマスク回折格子を現像してフォトレジストマスター回折格子を得て、最後に、現像後のフォトレジストマスター回折格子をイオンビームエッチングして凸面ブレーズドマスター回折格子を得る。
【0008】
前記凸面ブレーズドマスター回折格子基板の機能面は平面、球面又は非球面である。
【0009】
ステップBにおいて、前記凹面回折格子基板のプロファイルは凸面ブレーズドマスター回折格子基板の作用面のプロファイルと一致し、且つ前記凹面回折格子基板をサイズ、形状が完全に同様な2つの部分に分割でき、前記分割シートは、材質が硬質高温蒸煮PEシーリングフィルムであり、主成分がポリエチレンである。
【0010】
前記分割シートはシリコーンオイル膜分離層、反射膜及びエポキシ樹脂粘着剤のいずれにも粘着してはならない。
【0011】
ステップCにおいて、まず、凸面ブレーズドマスター回折格子の中間に分割シートを鉛直に置き、製造済みの凸面ブレーズドマスター回折格子に、薄くて均一なシリコーンオイル膜を分離層としてめっきし、さらに反射膜をめっきし、次に、蒸着後の凸面ブレーズドマスター回折格子をオーブン内のプラットフォームに置き、エポキシ樹脂を注入し、且つ前記凹面回折格子基板を押し付け、レベリングして気泡を除去した後、オーブンを適切な硬化温度に昇温させ、エポキシ樹脂が硬化した後、オーブンから取り出す。
【0012】
ステップEにおいて、2つの回折格子の鉛直方向の間隔B=0であり、2つの回折格子の水平方向の間隔S=Nd(Nが正の整数で、dがタイリング対象である回折格子の回折格子定数である)であり、即ち間隔Sが回折格子定数の整数倍であるようにしなければならない。
【0013】
本発明に係るブレーズド凹面回折格子の製造方法によれば、引き抜く時に生じた回折格子の回折効率への影響を回避でき、従来のブレーズド凹面回折格子の複製方法の誤差が大きい問題を解決する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は製造済みの凸面ブレーズドマスター回折格子の模式図である。
【
図3】
図3は凸面ブレーズドマスター回折格子を利用してブレーズド凹面回折格子を複製する模式図である。
【
図4】
図4はブレーズド凹面回折格子の引き抜き模式図である。
【
図5】
図5はブレーズド凹面回折格子のタイリング模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の技術的思想をより明らかにするために、添付図面及び具体的な実施形態を参照して本発明をさらに説明する。
【0016】
本実施例において、ブレーズド凹面回折格子の製造方法を説明し、具体的には、以下のとおりである。
【0017】
1、まず、凸面ブレーズドマスター回折格子1を製造する。製造済みの凸面ブレーズドマスター回折格子1が
図1に示される。前記凸面ブレーズドマスター回折格子1は、凸面ブレーズドマスター回折格子基板に対して感光、現像及びイオンビームエッチングを行ってなるものであり、前記凸面ブレーズドマスター回折格子基板の作用面(即ち、凸面ブレーズドマスター回折格子基板における凸面)は光学面であり、光沢処理されたものである。製造過程において、凸面ブレーズドマスター回折格子基板の作用面に感光材料、即ちフォトレジストをスピンコーティングし、凸面ブレーズドマスター回折格子基板について、まず、ホログラフィック露光法を利用して凸面フォトレジストマスク回折格子を得て、次に、凸面フォトレジストマスク回折格子を現像してフォトレジストマスター回折格子を得て、最後に、現像後のフォトレジストマスター回折格子をイオンビームエッチングして凸面ブレーズドマスター回折格子1を得る。
【0018】
2、凹面回折格子基板2を用意し、
図2に示すように、その作用面(ここで言う作用面が上記の作用面と対向するはずであり、2つの面が複製過程において貼合され、つまり、この作用面が凹面回折格子基板における凹面であり、プロファイルが凸面ブレーズドマスター回折格子基板における凸面と一致する)のプロファイルは凸面ブレーズドマスター回折格子基板の作用面のプロファイルと一致する。且つ、前記凹面回折格子基板は、サイズ、形状が完全に同様な2つの部分に分割されることができる。
【0019】
3、分割シート4を用意する。前記分割シート4は分割作用を実現できる。前記分割シート4は、シリコーンオイル膜分離層、反射膜及びエポキシ樹脂粘着剤(これらを分離層等3と称する)のいずれにも粘着してはならない。分割シートは、材質が硬質高温蒸煮PEシーリングフィルムであり、主成分がポリエチレンであり、主な作用が分割であるので、極めて薄い。
【0020】
4、
図3に示すように、凹面回折格子の複製を行う。まず、凸面ブレーズドマスター回折格子1の中間に分割シート4を鉛直に置き(外部力、例えば機械治具等によって直立状態を維持する必要がある。分割シートを高さ調整可能な係止スロットに係止し、係止スロットを回折格子の両側に対称的に置き、回折格子に対する係止スロットの位置を調整することで、分割シートをちょうど回折格子の中央に位置させることができる)、製造済みの凸面ブレーズドマスター回折格子1に、薄くて均一なシリコーンオイル膜を分離層としてめっきし、さらに反射膜(アルミ膜、金膜や銀膜等)をめっきし、次に、蒸着後の凸面ブレーズドマスター回折格子をオーブン内のプラットフォームに置き、エポキシ樹脂を注入し、且つ凹面回折格子基板2を押し付け、よくレベリングし、気泡を除去した後、オーブンを60℃に昇温させ、エポキシ樹脂が硬化した後、オーブンから取り出す。全過程において、分割シートは終始上面に直立しており、オーブンに入れる過程において、分割シートの質量が小さく、且つ既に直立状態になったので、係止スロットを撤去してオーブンに入れてもよい。取り出した後、必要に応じて、後続の引き抜きを容易に行うように係止スロットを置くか否かを選択することができる。
【0021】
5、
図4に示すように、ブレーズド凹面回折格子の分離を行う。上記の製造された回折格子を分離する。回折格子G2について、直接上向きに引き抜く方式2により引き抜き、比較的優れた回折格子溝形状を得ることができる。しかし、回折格子G1について、同様な方式を採用すると、回折格子G1の右側縁部分での溝形状が悪くなり、これにより、回折格子全体の品質が低下し、回折格子の回折効率が低下し、さらに回折格子の応用に影響する。回折格子G1を傾斜方向に引き抜き、回折格子の両側をともに考慮すると、所望の溝形状を得ることができる。分離後の回折格子は
図5に示される。G1とG2は
図2(基板)において対称的であるが、複製した後、
図4におけるG1とG2は非対称であり、非対称性はそれらのミクロ溝形状に表現され、イオンビームで凸面ブレーズドマスター回折格子基板をエッチングする時、イオンビームの角度が固定するが、回折格子がある方向に回転し、このようにエッチングして最終の凸面ブレーズドマスター回折格子を得るので、凸面ブレーズドマスター回折格子の両側の溝形状は非対称であり、さらにブレーズド凹面回折格子の溝形状も非対称である。従って、それらの引き抜き方式は異なる。
【0022】
6、凹面回折格子をタイリングし、原理が
図5に示される。上記分離後の回折格子G1、G2をタイリングし、原理は以下のとおりである。回折格子G1とG2との間に間隔B、Sがあり、平面波が角度αで回折格子G1とG2に入射し、光線L1とL2を同じ角度βで回折させるために、回折格子G1とG2の表面が平行で且つラスタラインも平行であるようにしなければならない。この時の同じ回折次数の回折光線L1と回折光線L2との間に位相差δがあるとすると、計算により、
【数1】
であり、回折格子全体の回折効率を確保するために、凹面回折格子の位相精度に対する要求が高く、タイリング回折格子の各タイリング対象である回折格子の回折波面同士の位相が一致することを確保するために、各タイリング対象である回折格子を同一平面上に位置させる(即ちB=0)以外、次式
【数2】
の値を2πの整数倍にしなければならない。つまり、B=0であるようにする以外、S=Ndである(Nが正の整数で、dがタイリング対象である回折格子の回折格子定数である)、即ち間隔Sが回折格子定数の整数倍であるようにしなければならない。
【0023】
ここまで、ブレーズド凹面回折格子のタイリングと複製が完了する。
【0024】
当業者にとって、上記の技術方案及び考案に基づき、他の対応する様々な変更や変形を行うことができ、それらの変更や変形はいずれも本発明の範囲に属すべきである。
【符号の説明】
【0025】
1 : 凸面ブレーズドマスター回折格子
2 : 凹面回折格子基板
3 : 分離層等
4 : 分割シート
G1 : 第1タイリング回折格子
G2 : 第2タイリング回折格子
L1 : 第1光線
L2 : 第2光線