(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記噴射塗布する工程において、前記パターンの前記塗布膜の全ての周縁部分となる部分で吐出される溶液の量が前記周縁部分よりも内側となる部分で吐出される量よりも10〜60%多くなるようにすることを特徴とする請求項3記載の溶液の塗布方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1はこの発明を適用した溶液の塗布装置を示し、この塗布装置は、ベース1を有する。ベース1の上面には、
図1に示すX方向に所定間隔で離間した一対のレール2が、ベース1のX方向とは水平方向において直交するY方向に沿って設けられている。上記レール2にはテーブル3が走行可能に設けられ、図示しない駆動源によって走行駆動されるようになっている。テーブル3の上面には多数の支持ピン4が設けられ、これら支持ピン4には、たとえば液晶表示装置に用いられるガラス製の基板Wが供給されて支持される。
【0015】
各支持ピン4には、図示しない吸引孔が上端に開口して形成されている。これらの吸引孔には、図示しない吸引ポンプが同じく図示しない切替弁を介して接続されている。したがって、切替弁の適宜切替動作により、基板Wは支持ピン4によって吸着保持され、または吸着解除されるようになっている。そして、支持ピン4に吸着保持された基板Wは、テーブル3がレール2に沿って移動することにより、Y方向に走行可能となっている。
【0016】
なお、支持ピン4は基板Wとの接触面積を小さくし、支持ピン4によって基板Wの温度分布にばらつきが生じないようにするため、先端に行くにつれて細くなる形状が好ましい。
【0017】
上記テーブル3に保持されて移動する基板Wの上方には、上記基板Wに、たとえば配向膜やフォトレジスト膜などの機能性薄膜を形成するための溶液をインクジェット方式で噴射塗布する複数のヘッド、この実施の形態では3つのヘッド7A〜7Cが、基板Wの搬送方向と交差する方向(
図1に示すX方向)に沿って一列に配設されている。
【0018】
各ヘッド7A〜7Cは、
図2に示すようにヘッド本体8を備えている。ヘッド本体8は筒状に形成され、その下面開口は可撓板9によって閉塞されている。この可撓板9はノズルプレート11によって覆われており、このノズルプレート11と上記可撓板9との間に複数の液室12が形成されている。
【0019】
各液室12は、ノズルプレート11内に形成された主管11Aに不図示の枝管を介してそれぞれ連通されていて、主管11Aからこの枝管を介して溶液が各液室12に供給される。主管11Aは、一端が後述する給液孔13に接続され、他端が後述する回収孔17に接続されている。
【0020】
上記ヘッド本体8の長手方向一端部には上記液室12に連通する給液孔13が形成されている。この給液孔13から上記液室12にはたとえば配向膜やレジスト膜などの機能性薄膜を形成する溶液が供給される。それによって、上記液室12内は溶液で満たされるようになっている。
【0021】
上記ノズルプレート11には、基板Wの搬送方向に直交する方向(X方向)に沿って複数のノズル14が穿設されている。上記可撓板9の上面には、
図2に示すように上記各ノズル14にそれぞれ対向して複数の圧電素子15が設けられている。
【0022】
各圧電素子15は上記ヘッド本体8内に設けられた駆動部16によって駆動電圧が供給される。それによって、圧電素子15は伸縮し、可撓板9を部分的に変形させるから、その圧電素子15に対向位置するノズル14から溶液が搬送される基板Wの上面に噴射塗布される。
【0023】
なお、圧電素子15に印加する電圧の大きさを変えて圧電素子15の作動量を制御すれば、各圧電素子15が対向するノズル14からの溶液の吐出量を変えることができる。
【0024】
図2に示すように、上記ヘッド本体8の長手方向他端部には上記液室12に連通する回収孔17が形成されている。上記給液孔13から液室12に供給された溶液は、上記回収孔17から回収することができるようになっている。すなわち、各ヘッド7A〜7Cは上記液室12に供給された溶液をノズル14から噴射させるだけでなく、上記液室12を通じて上記回収孔17から回収することが可能となっている。
【0025】
図1、
図2に示すように、各ヘッド7A〜7Cの給液孔13には溶液供給管21から分岐された供給分岐管22が接続され、回収孔17には回収管23から分岐された回収分岐管24が接続されている。上記供給分岐管22には供給開閉弁25が設けられ、回収分岐管24には回収開閉弁26が設けられている。上記供給管21と回収管23との先端は連通弁27を介して接続されている。さらに、回収管23には回収分岐管24よりも基端側の部分に主回収弁28が設けられている。
【0026】
上記溶液供給管21の基端は、上記溶液Lが収容された溶液タンク31の底部に接続されている。溶液タンク31の上部には、開閉制御を有する図示しない大気開放管が接続されている。上記回収管23の基端は、上記溶液タンク31に供給する溶液Lを貯蔵した貯蔵タンク32に接続されている。回収管23の基端部からは供給弁33を有する供給分岐管34が分岐され、この供給分岐管34は上記溶液タンク31の底部に接続されている。
【0027】
上記貯蔵タンク32の上部には、上記溶液タンク31と同様、開閉制御弁を有する図示しない大気開放管が接続されている。さらに、図示しないガス供給管が接続されている。このガス供給管には開閉制御弁が接続されており、開閉制御弁には流量絞り弁が並列に設けられている。
【0028】
なお、上述した開閉弁及び各ヘッド7A〜7Cに設けられた圧電素子15は、図示しない制御装置によって開閉及び供給電圧が制御されるようになっている。
【0029】
さらに、溶液タンク31内の溶液Lの液面は、図示しないレベルセンサによって検出される。溶液Lの液面が所定以下になったことがレベルセンサによって検出されると、その検出に基いて貯蔵タンク32から溶液Lが補給される。つまり、貯蔵タンク32内の溶液Lが図示しない開閉制御弁を通じて供給される不活性ガスによって加圧されることで、上記溶液Lが上記溶液タンク31に補給され、これにより、溶液タンク31内の溶液Lの液面が一定高さになるよう制御される。
【0030】
つぎに、上記構成の塗布装置によって基板Wに溶液Lを塗布する動作について説明する。
【0031】
不図示の搬送ロボットによって、基板Wがテーブル3上に供給、載置されると、テーブル3の移動が開始される。このテーブル3の移動中、基板Wがヘッド7A〜7Cの下方に搬送されてきたならば、図示しない制御装置から駆動部16へ駆動信号が送られ、この駆動信号を受けて駆動部16が各圧電素子15に駆動電圧を印加する。これによって、各ヘッド7A〜7Cのノズル14から基板Wに溶液Lが噴射塗布される。
【0032】
基板Wに溶液が塗布されたならば、テーブル3は、基板Wが供給、載置された位置へと移動する。その位置で、溶液が塗布された基板Wは搬出される。なお、次に溶液が塗布される基板Wがあれば、その基板Wがステージ3上に供給、載置され、上述の動作が繰り返される。
【0033】
ところで、基板Wに矩形状の塗布パターンを形成する際、乾燥後の矩形状の塗布膜Pの周縁部分の膜厚が、他の部分である中央部に比べて厚くなるのを防止する必要がある。
【0034】
そこでこの実施形態では、基板Wに溶液を塗布する段階では、基板W上における塗布膜形成領域の周縁部分に塗布される溶液Lの量を周縁部分より内側の中央部分よりも10〜60パーセント多くする。つまり、中央部分に溶液Lを塗布する際にノズル14から吐出させる溶液Lの吐出量をSと設定した場合、周縁部分に溶液Lを塗布するときにノズル14から吐出させる溶液Lの吐出量を1.1S〜1.6Sに設定する。ここで、
図2に示すように、たとえば、3つのヘッド7A〜7Cには、それぞれ3個のノズル14がX方向に沿って一直線状に形成されていると仮定する(実際に塗布に用いるヘッドは一般的に100個を超えるノズルが形成されているが、説明をしやすくするためにここでは3個とする)。
【0035】
なお、この例は、3つのヘッド7A〜7Cの3つのノズル14をそれぞれ
図2における左から順にN1〜N3とし、基板Wを移動させながら、あるいはピッチ移動させながら、合計9個のノズル14を用いて、
図3に示すように、ノズル14の配列方向であるX方向に9列、基板Wの搬送であるY方向に9行の9列×9行の配置パターンで溶液Lの液滴を塗布するものである。また、
図1での隣接するヘッド同士の間隔、
図2ではN1〜N3のノズル配置間隔が誇張して描いてあるが、9個のノズルのピッチは
図3における
Sとする。
【0036】
このようなパターンで溶液Lを塗布するときには、まず、1行目の液滴の塗布位置がヘッド7A〜7Cの真下を通過するタイミングに合わせて、全てのノズル14から、中央部分に溶液Lを塗布するときの吐出量Sよりも10〜60パーセント多い吐出量(1.1S〜1.6S)で溶液Lを噴射させるように制御する。また、2行目から8行目の各行に対しては、両端に位置するノズル14、すなわち、ヘッド7AのノズルN1とヘッド7CのノズルN3からは溶液Lを吐出量1.1S〜1.6Sで噴射させ、残りの7個のノズル14、すなわち、ヘッド7AのノズルN2〜N3、ヘッド7BのノズルN1〜N3、ヘッド7CのN1〜N2からは溶液Lを吐出量Sで噴射させるように制御する。さらに、9行目に対しては、1行目と同様に、全てのノズル14全てから溶液Lを吐出量1.1S〜1.6Sで噴射させるように制御する。
【0037】
なお、ノズル14からの吐出量を10〜60パーセント増加させるためには、不図示の制御装置によって、当該ノズル14に対応する圧電素子15に印加する電圧を増加させるように制御したり、電圧の印加時間を増加させるように制御したり、あるいは、それらを組み合わせることによって制御することで行うことができる。
【0038】
このように塗布することによって、
図3に示すように、ヘッド7Aの左端のノズルN1によって溶液Lが塗布される領域N1A、ヘッド7Cの右端のノズルN3によって溶液Lが塗布される領域N3A、1行目の溶液Lが塗布される領域FA、および、9行目の溶液Lが塗布される領域EAからなる周縁部分の領域の各液滴の量は、その他の領域の各液滴の量よりも10〜60パーセント多くなる。
図3において、円の大きさは、基板Wに塗布された液滴の量の多い、少ないを表す。
【0039】
ちなみに、この実施の形態では、各ノズル14の列方向(塗布膜Pの幅方向)におけるノズルの配置間隔を0.2mmに設定し、また同一ノズル14から溶液Lを1回噴射させてから次に噴射させる間に基板WをY方向に0.2mm搬送するようになっている。
【0040】
この場合、塗布膜Pの周縁部分の領域、つまり溶液Lの供給量を多くする領域の幅は0.2mmとすることが好ましい。このようにすると、周縁部分の溶液Lの液滴は、
図3に示すように隣り合う液滴同士が隙間なく並ぶ状態となり、直ちに付着し合って一体化して周縁部分の形状が規定される。そのため、乾燥後の塗布膜Pの外周形状(矩形状)を所望の形状とすることができる。なお、前述の幅寸法は形成する塗布膜Pの大きさなどの条件によって異なってくる。すなわち、塗布膜Pの大きさが大きくなればなる程、溶液Lの供給量を多くする領域の幅もその分だけ広くすると良い。
【0041】
なお、
図3に示すようなパターンで塗布膜形成領域に塗布された各液滴は、塗布後、それぞれ濡れ広がって互いに付着し合い(一般にこの段階を「レベリング(平滑化)」ともいう。)矩形状の塗布膜Pを形成する。
図4は、この塗布膜Pを側面から見た断面図である。
【0042】
次に、上記実施形態における作用について説明する。
【0043】
先に述べたように、周縁部分と中央部分に塗布する溶液Lの液滴の大きさ、量が同じである場合、そのようなパターンで塗布された液滴によって形成された乾燥前の塗布膜は、表面張力の作用により中央部分に比べて周縁部分の膜厚が薄くなる傾向にある。塗布膜における膜厚の薄い周縁部分は、膜厚の厚い中央部分よりも気化熱による温度低下が大きいので、中央部分よりも液温が低くなる。一般的に液体は温度が低いと表面張力が大きくなる性質を有していることから、周縁部分と中央部分において表面張力の差が生じると、所謂マランゴニ対流の作用により、表面張力が低い方(中央部分)から高い方(周縁部分)へと溶液Lが流れこみ、乾燥が完了した後の塗布膜の周縁部分の膜厚が中央部分に比べて厚くなるということがある。
【0044】
しかしながら、本実施の形態によれば、基板Wに溶液を塗布する段階で、塗布膜Pの周縁部分は中央部分に比べて溶液Lの供給量を多くして塗布している。イメージ図で説明すると、
図4に示すように、ノズル14から吐出された溶液Lによって形成された乾燥前の塗布膜Pは、周縁部分に対する吐出量を増加させているため、表面張力の影響を受けながらも周縁部分が盛り上がって形成される。盛り上がっている周縁部分は、中央部分に比べて多くの溶液Lが溜まっているため、中央部分と同じ量の溶液Lを塗布している場合と比べ、気化熱による温度低下が緩やかになる。これに対し中央部分の溶液は周縁部分より少ないため、液温が周縁部分と比べて速く低くなりやすい。液体の性質上、液温が高い方(すなわち周縁部分)から低い方(すなわち中央部分)へと移動しやすくなるため、周縁部分に溜まった溶液Lは、中央部分へと徐々に移動する。したがって、周縁部分に塗布する溶液Lの量を増加させたとしても、乾燥の過程で時間の経過とともに周縁部分の溶液Lが中央部分に移動し、
図5に示すように、
図4の塗布膜Pよりも、周縁部分と中央部分とで厚さの差が少ない乾燥後の塗布膜Pが形成される。
【0045】
なお、塗布膜Pの周縁部分への溶液Lの供給量を、それ以外の部分に対する供給量に対して10〜60パーセントの範囲で増加させるように調整すると好ましいが、その理由は次のとおりである。
【0046】
すなわち、周縁部分へ供給する溶液Lの増加量が10パーセント以下であると、中央部との供給量の差が小さいため、基板に形成された塗布パターンの周縁部分の膜厚が中央部よりも厚くなることがあり、逆に周縁部分へ供給する溶液Lの増加量が60パーセント以上であると、圧電素子14による吐出量の制御が安定しないなどの影響があるためである。
【0047】
なお、本発明の実施において、溶液Lは機能性薄膜等の膜形成に用いられる溶液であればよく、さらに粘度の高い溶液においては、乾燥前の塗布膜P中での溶液の移動速度が遅くなるため、本発明の効果が発揮されやすい。粘度は例えば、1cP以上1000cP以下であることが好ましい。
【0048】
また、乾燥後の塗布膜Pの周縁部分の膜厚が中央部よりも厚くなった場合であっても、その厚さが許容範囲内であれば差し支えない。
【0049】
また、塗布膜形成領域に9列×9行のドットパターンで溶液Lを塗布し、9列×9行の最外周に位置する1列分に対する溶液Lの吐出量をそれよりも内側に塗布する溶液の吐出量よりも増加させるものとしたが、これに限定されるものではなく、塗布膜形成領域の周縁部分に塗布する溶液ドットのうち何列分の溶液の吐出量を増加させるかは、形成する塗布膜Pの大きさなどの条件によって適宜設定されるものである。
【0050】
また、塗布膜形成領域における周縁部分と中央部分に溶液ドットを一括して塗布するものとしたが、これに限られるものではなく、周辺部分と中央部分とに分けて溶液ドットを塗布するようにしても良い。すなわち、まず、周辺部分に、中央部分に塗布する溶液Lの吐出量よりも10〜60パーセント増加させた吐出量で溶液ドットを塗布し、この後、中央部分に溶液ドットを塗布するようにしても良い。なお、周辺部分と中央部分の塗布順を入れ替えてもかまわない。このようにした場合、周辺部分と中央部分とで、溶液ドットの配置間隔を違えて設定することが可能となる。
【0051】
周辺部分と中央部分とで、溶液ドットの配置間隔を違えて設定する場合には、各ヘッド7A〜7Cを個別に水平面内で回動させる回転駆動装置を設けると良い。このように構成すると、ヘッド7A〜7Cを回転させてノズル14の配列方向をX方向に対して傾斜させることでノズル14のX方向における配置間隔を狭めることができ、X方向における溶液ドットの配置間隔の変更にも対応することができる。
【0052】
また、上記実施の形態では塗布膜Pの周縁部分の領域の溶液Lの吐出量を多くするために、対応するノズル14の圧電素子15への電圧を制御していたが、吐出量を増加させる制御方法はこれに限らない。例えば、対応するノズル14から溶液Lを吐出する回数を増やすようにしたり、周縁部に向かうに従い、液滴と液滴の間隔が狭くなるようなパターンで溶液Lを塗布するようにしても良い。
【0053】
また、基板への塗布は、単一のノズルまたは単一のヘッドを用いて例えば
図3のようなパターンを形成するようにしても良い。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。