特許第6288720号(P6288720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6288720乳酸菌ラクトバチルス・カゼイグループの種間関係および種内関係を識別する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288720
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】乳酸菌ラクトバチルス・カゼイグループの種間関係および種内関係を識別する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180226BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20180226BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/68 A
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-237794(P2015-237794)
(22)【出願日】2015年12月4日
(65)【公開番号】特開2017-42158(P2017-42158A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2016年3月17日
(31)【優先権主張番号】104128512
(32)【優先日】2015年8月28日
(33)【優先権主張国】TW
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年6月5日 サイト[ScienceDirectに掲載された論文]”http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S089085081530013X”
(73)【特許権者】
【識別番号】595096431
【氏名又は名称】財團法人食品工業發展研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 建勳
(72)【発明者】
【氏名】黄 麗娜
(72)【発明者】
【氏名】王 俐▲ティン▼
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/100810(WO,A1)
【文献】 Systematic and Applied Microbiology,2006年,Vol.29,pp.368-374
【文献】 Diagnostic Microbiology and Infectious Disease,2011年,Vol.70,pp.307-315
【文献】 International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology,2007年,Vol.57,pp.25-30
【文献】 Journal of Medical Microbiology,2004年,Vol.53,pp.813-817
【文献】 Systematic and Applied Microbiology,2007年,Vol.30,pp.309-315
【文献】 APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,2007年,Vol.73,pp.6601-6611
【文献】 Antonie van Leeuwenhoek ,2011年,Vol.99,pp.319-327
【文献】 Microbiology,2007年,Vol.153,pp.2655-2665
【文献】 Food Microbiology,2014年 9月 9日,Vol.46,pp.357-367
【文献】 Molecular and Cellular Probes,2015年 6月30日,Vol.29,pp.531-533
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12Q 1/68
CA/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’−ATTGAYCARCTATCKGCMAC−3’(配列番号1)(式中、Y=C又はT、R=A又はG、K=G又はT、及びM=A又はC)として示されるヌクレオチド配列を含む第1のプライマー混合物と、
5’−GAGCCRTAACCGGCAATMA−3’(配列番号2)(式中、R=A又はG、及びM=A又はC)として示されるヌクレオチド配列を含む第2のプライマー混合物と、
を含む、プライマー対。
【請求項2】
請求項1に記載の第1のプライマー混合物及び第2のプライマー混合物と溶媒とを含む組成物。
【請求項3】
ラクトバチルス・カゼイグループにおける乳酸菌のDNA試料からmutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを増幅するために請求項1に記載の第1のプライマー混合物と溶媒とを含む組成物。
【請求項4】
ラクトバチルス・カゼイグループにおける乳酸菌のDNA試料からmutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを増幅するために請求項1に記載の第2のプライマー混合物と溶媒とを含む組成物。
【請求項5】
ラクトバチルス・カゼイグループにおける乳酸菌の種を識別する方法であって、
(a)前記乳酸菌からDNA試料を抽出する工程と、
(b)請求項1に記載のプライマー対請求項2に記載の組成物、又は、請求項3に記載の組成物および請求項4に記載の組成物を使用して前記DNA試料を増幅することでmutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを取得する工程と、
(c)増幅された前記部分フラグメントの配列を決定する工程と、
(d)決定された前記配列と、Lb.カゼイグループの2以上の基準株の対応する遺伝子配列とを比較して前記各基準株に対するパーセント類似性及び/又は同一性を得ることにより、前記乳酸菌が最も高いパーセント類似性及び/又は同一性を有するLb.カゼイグループの基準株と同じ種として前記乳酸菌を同定する工程と、
を含む、方法。
【請求項6】
Lb.カゼイグループの前記2以上の基準株が、Lb.カゼイBCRC 10697(ATCC 393)、Lb.パラカゼイBCRC 12248(ATCC 25302)、及びLb.ラムノサスBCRC 10940(ATCC 12116)、又はそれらの任意の組合せである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
Lb.カゼイグループにおける乳酸菌と、同じ種であるが異なる株のLb.カゼイグループにおける他の2以上の乳酸菌が同じハプロタイプか否かを判定する方法であって、
(a)前記乳酸菌からDNA試料を抽出する工程と、
(b)請求項1に記載のプライマー対請求項2に記載の組成物、又は、請求項3に記載の組成物および請求項4に記載の組成物を使用して前記DNA試料を増幅することでmutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを取得する工程と、
(c)増幅された前記部分フラグメントの配列を決定する工程と、
(d)ハプロタイプ分析を行って、決定された前記配列と、同じ種であるが異なる株の他の2以上の乳酸菌の各対応する遺伝子配列とを比較する工程と、
を含み、分析された前記配列が互いに異なる場合に、比較された前記乳酸菌が異なるハプロタイプであることを表す、方法。
【請求項8】
同じ種のLb.カゼイグループにおける前記2以上の乳酸菌がLb.パラカゼイにおいて異なる株である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
Lb.パラカゼイの前記株が、Lb.パラカゼイBCRC 12248、Lb.パラカゼイBCRC 12188、Lb.パラカゼイBCRC 14001、Lb.パラカゼイBCRC 16100、Lb.パラカゼイBCRC 17001、Lb.パラカゼイBCRC 17005、Lb.パラカゼイBCRC 17475、Lb.パラカゼイBCRC 17483、Lb.パラカゼイBCRC 17484、Lb.パラカゼイBCRC 17488、Lb.パラカゼイBCRC 17489、Lb.パラカゼイBCRC 12193、Lb.パラカゼイBCRC 14023、Lb.パラカゼイBCRC 16094、及びLb.パラカゼイBCRC 17002から選択される1又は複数の株である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
同じ種のLb.カゼイグループにおける前記2以上の乳酸菌がLb.ラムノサスにおいて異なる株である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
Lb.ラムノサスの前記株が、Lb.ラムノサスBCRC 10940、Lb.ラムノサスBCRC 14029、Lb.ラムノサスBCRC 16000、Lb.ラムノサスBCRC 16095、Lb.ラムノサスBCRC 17004、Lb.ラムノサスBCRC 17490、Lb.ラムノサスBCRC 80663、及びLb.ラムノサスBCRC 80666から選択される1又は複数の株である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載のプライマー対請求項2に記載の組成物、又は、請求項3に記載の組成物および請求項4に記載の組成物を含むキット。
【請求項13】
Lb.カゼイグループにおける少なくとも1つの乳酸菌のmutL遺伝子の配列情報を含むコンピュータ可読媒体を更に含む、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
Lb.カゼイグループにおける前記少なくとも1つの乳酸菌が、Lb.カゼイBCRC 10697、Lb.カゼイBCRC 17487、Lb.カゼイBCRC 17942、Lb.カゼイBCRC 80156、Lb.カゼイBCRC 17647、Lb.パラカゼイBCRC 12248、Lb.パラカゼイBCRC 12188、Lb.パラカゼイBCRC 14001、Lb.パラカゼイBCRC 16100、Lb.パラカゼイBCRC 17001、Lb.パラカゼイBCRC 17005、Lb.パラカゼイBCRC 17475、Lb.パラカゼイBCRC 17483、Lb.パラカゼイBCRC 17484、Lb.パラカゼイBCRC 17488、Lb.パラカゼイBCRC 17489、Lb.パラカゼイBCRC 12193、Lb.パラカゼイBCRC 14023、Lb.パラカゼイBCRC 16094、Lb.ラムノサスBCRC 10940T、Lb.ラムノサスBCRC 14029、Lb.ラムノサスBCRC 16000、Lb.ラムノサスBCRC 16095、Lb.ラムノサスBCRC 17004、Lb.ラムノサスBCRC 17490、Lb.ラムノサスBCRC 80663、Lb.ラムノサスBCRC 80666及びそれらの任意の組合せから選択される、請求項13に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、特異的な標的遺伝子の配列を増幅するプライマー対を使用して増幅された配列をシーケンシングして比較することによって、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)グループにおける乳酸菌の類縁分類群を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Lb.カゼイ(Lb. casei)、Lb.パラカゼイ(Lb. paracasei)及びLb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)を含むラクトバチルス・カゼイグループの種は、一般的に安全と認識され(GRAS)、市販のプロバイオティクス又はヨーグルト製品の製造用微生物として広く使用されている。ただし、これらの種は、分類学的に近縁である。上記種の遺伝子型及び表現型は非常に類似する(上記種間の16S rRNA遺伝子の平均類似性は98.9%超である)ため、互いの種を正確に識別することは困難である。さらに、各プロバイオティクスの機能的特性は株特異的である。したがって、国連の食糧農業機関(FAO)及び世界保健機関(WHO)は、2002年にプロバイオティクスの学名を株レベルまで同定することが重要であると発表した。
【0003】
パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)は、種の識別及び異なる微生物の差別化のための最も信頼できる方法(gold standard method)として通常使用される。この方法は種内識別の目的を達成し得るが、複雑であり手間がかかる。上記方法の再現性は今もなお課題である。
【0004】
多座配列タイピング(MLST)は、より新しい高度化された分類学的技法である。基本的には、MLSTは、約450bpを有する6〜7のハウスキーピング遺伝子をシーケンシングした後、微生物の配列型(ST)を決定するため、これらのハウスキーピング遺伝子の配列をアラインして配列間の変異塩基を同定することにより確立される。MLSTは良好な識別及び再現性を提供し、配列情報データバンクを確立するため及び異なる研究所に由来する配列を比較するために使用され得ることから、MLSTはPFGEの精度を改善するのみならず、それに取って代わることができる。
【0005】
Cai et al.(非特許文献1)及びDiancourt et al.(非特許文献2)は、MLSTを使用してLb.カゼイの40株及び52株をそれぞれ36のハプロタイプ及び31のハプロタイプに分類した。これら及び他の文献は、Lb.カゼイを分類するためのマーカーとして、recA、yycH、dnaK、hsp60、tuf、rpoA及びpheS(好ましくは、recA、yycH、及びpheS)等の多くのタンパク質をコードする遺伝子を同定および選択した。しかしながら、これらの同定マーカーの大半は、微生物を種レベルに分類し得るに過ぎず、同種間の異なる株を効果的に特定することはできない。さらに、MLSTは細菌を識別するために6〜7の遺伝子座を比較及びシーケンシングすることを必要とする。したがって、MLSTもまた手間と費用がかかる。
【0006】
Alekseeva et al.(特許文献1)は、Lb.アシドフィルス(Lb. acidophilus)、Lb.ヘルヴェティクス(Lb. helveticus)、Lb.プランタルム(Lb. plantarum)、Lb.パラカゼイ(Lb. paracasei)及びLb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)を含む食用乳酸菌のMazEF遺伝子及びRelBE遺伝子のフラグメントの配列を比較するために配列アライメントを使用して、細菌の種間及び種内の識別を確認した。Alekseeva et al.の結果は、Lb.パラカゼイ及びLb.ラムノサスのMazEF遺伝子の配列類似性は約83%であることから、この遺伝子に基づいてこれら2つの細菌を互いに識別することができることを示す。しかしながら、Alekseeva et al.は、それらの種に分類学上近縁の細菌Lb.カゼイを比較に含めなかった。さらに、Alekseeva et al.は、比較用の基準株としてLb.ラムノサスを使用しなかった。したがって、Alekseeva et al.の結果は、MazEF遺伝子を使用してLb.カゼイ、Lb.パラカゼイ、及びLb.ラムノサス間の種間関係を識別することができるかどうかを判定することができない。種内識別において、Alekseeva et al.は、MazEF遺伝子分析によりLb.パラカゼイの7つの株を3つのハプロタイプに分類することができ、またrelE1遺伝子分析によりLb.ラムノサスの5つの株を3つのハプロタイプに分類することができることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/100810号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】"Genotypic and Phenotypic Characterization of Lactobacillus casei Strains Isolated from Different Ecological Niches Suggests Frequent Recombination and Niche Specificity." Microbiology, 153, pp.2655-2665, 2007
【非特許文献2】"Multilocus Sequence Typing of Latobacillus casei Reveals a Clonal Population Structure with Low Levels of Homologous Recombination." Applied and Environmental Microbiology, Oct. 2007, pp.6601-6611
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、当該技術分野では、簡便で、迅速に、同時に、また正確に乳酸菌の種間関係及び種内関係を同定することができる方法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの態様は、mutL(DNAミスマッチ修復タンパク質)遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメント又はdnaJ(ヒートショックタンパク質)遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを増幅することができるプライマー対を提供する。
【0011】
本発明の別の態様は、mutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメント又はdnaJ遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを増幅するために使用することができる1又は複数のプライマーを含む組成物を提供する。
【0012】
本発明の別の態様は、上述のプライマー対又は組成物を使用することによってLb.カゼイグループにおける乳酸菌の種を識別する方法を提供する。
【0013】
本発明の別の態様は、Lb.カゼイグループにおける乳酸菌と、同種であるが異なる株の他の2以上の乳酸菌が同じハプロタイプであるか否かを判定する方法を提供する。
【0014】
本発明の別の態様は、上述のプライマー対又は組成物を含むキットを提供する。
【0015】
本発明を以下の欄に詳細に説明する。本発明の他の特性、目的及び利点は、本発明の詳細な説明及び特許請求の範囲に容易に見出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】Lb.カゼイグループの異なる近縁種においてmutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントをシーケンシングした結果から構築された系統樹を示す図である。
図2】Lb.カゼイグループの異なる近縁種においてdnaJ遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントをシーケンシングした結果から構築された系統樹を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、以下の本発明の様々な実施形態の詳細な説明、実施例、及びそれらの関連する説明を含む表を参照することにより、更に容易に理解され得る。別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義されるような用語は、関連する技術分野の内容においてそれらの意味と矛盾することなく解釈されるべきであり、本明細書で明確に規定されない限り、理想化された意味又は過度に形式的な意味で解釈されるものではないことが更に理解される。また、本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明する目的に過ぎず、限定を意図するものではないことが理解される。
【0018】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数の形態「一つの(a)」、「一つの(an)」及び「その(the)」は、文脈が明確に規定しない限り複数の指示対象を包含することに留意しなければならない。そのため、文脈により必要とされない限り、単数形の用語は複数形を包含し、複数形の用語は単数形を包含する。
【0019】
本明細書では、しばしば範囲を「約」一つの特定の値から及び/又は「約」別の特定の値までとして表す。かかる範囲が表される場合、一実施形態は、一つの特定の値から及び/又は他の特定の値までの範囲を包含する。同様に、「約」の語を用いることにより値が近似値として表される場合、特定の値が別の実施形態を形成すると理解される。各範囲の終点は、他の終点に関して、また他の終点から独立しても有効であると更に理解される。本明細書で使用される「約」の用語は、±20%、好ましくは±10%、より好ましくは±5%を指す。
【0020】
本明細書で使用される「単離された」又は「単離」の用語は、その材料が本来の環境(例えば、それが天然に存在する場合には自然環境)から取り出されたことを意味する。「単離された」又は「単離」の用語は、その材料が精製された程度を必ずしも反映するものではない。
【0021】
本明細書で使用される「パーセント同一性」又は「パーセント同一」の用語は、2以上のポリヌクレオチド配列を比較及びアラインした後のその2以上の配列における同じ遺伝子座の同一レベルを意味し、「パーセント類似性」又は「パーセント類似」の用語は、2以上のポリヌクレオチド配列を比較又はアラインした後のその2以上の配列の塩基の同一レベルを意味する。
【0022】
本明細書で使用される「基準株」は、2つの株が同じ種かどうかを判定するために、別の株と比較するための参照として使用され得るモデル株を表す。
【0023】
本明細書で使用される「プライマー」の用語は、指定のポリヌクレオチドテンプレートと特異的にハイブリダイズし、相補的なポリヌクレオチドの合成の開始点を提供することができる約15〜45の核酸塩基を有するオリゴヌクレオチドを表す。合成が誘導される条件下、すなわち、ヌクレオチド、相補的なポリヌクレオチドテンプレート、及びDNAポリメラーゼ等の重合剤の存在下にポリヌクレオチドプライマーが置かれると、かかる合成が起こる。「縮重プライマー」の用語は、プライマーの1又は複数のコードが縮重コードで置換されていることを意味する。
【0024】
本明細書で使用される「ハプロタイプ」の用語は、増幅された配列に見出される一塩基多型(SNP)の組合せパターンを指す。
【0025】
本発明の一つの目的は、乳酸菌のmutL遺伝子及びdnaJ遺伝子の部分フラグメントをそれぞれ増幅するために使用され得るプライマー対を提供することである。本発明の好ましい実施形態では、上記プライマー対は縮重プライマー対である。
【0026】
本明細書に記載されるように、mutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを増幅するために使用され得るプライマー対において、第1のプライマー混合物は5’−ATTGAYCARCTATCKGCMAC−3’(配列番号1)(式中、Y=C又はT、R=A又はG、K=G又はT、及びM=A又はC)として示されるヌクレオチド配列を含み、第2のプライマー混合物は5’−GAGCCRTAACCGGCAATMA−3’(配列番号2)(式中、R=A又はG、及びM=A又はC)として示されるヌクレオチド配列を含む。
【0027】
本明細書に記載されるように、dnaJ遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを増幅するために使用され得るプライマー対において、第1のプライマー混合物は5’−TCTGAAYTTVGTYTGRCTTTG−3’(配列番号3)(式中、Y=C又はT、V=G、A又はC、及びR=A又はG)として示されるヌクレオチド配列を含み、第2のプライマー混合物は5’−GTGGTGCVCARGCKAATC−3’(配列番号4)(式中、V=G、A又はC、R=A又はG、及びK=G又はT)として示されるヌクレオチド配列を含む。
【0028】
本発明のプライマーは、化学合成法等の当該技術分野で既知の任意の方法によって得ることができる。
【0029】
本発明の別の目的は、第1のプライマー混合物及び/又は第2のプライマー混合物と溶媒とを含み、第1のプライマー混合物が5’−ATTGAYCARCTATCKGCMAC−3’(配列番号1)(式中、Y=C又はT、R=A又はG、K=G又はT、及びM=A又はC)として示されるヌクレオチド配列を含み、第2のプライマー混合物が5’−GAGCCRTAACCGGCAATMA−3’(配列番号2)(式中、R=A又はG、及びM=A又はC)として示されるヌクレオチド配列を含む、mutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを増幅する組成物を提供することである。
【0030】
本発明の別の目的は、第1のプライマー混合物及び/又は第2のプライマー混合物と溶媒とを含み、第1のプライマー混合物が5’−TCTGAAYTTVGTYTGRCTTTG−3’(配列番号3)(式中、Y=C又はT、V=G、A又はC、及びR=A又はG)として示されるヌクレオチド配列を含み、第2のプライマー混合物が5’−GTGGTGCVCARGCKAATC−3’(配列番号4)(式中、V=G、A又はC、R=A又はG、及びK=G又はT)として示されるヌクレオチド配列を含む、dnaJ遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを増幅する組成物を提供することである。
【0031】
本発明の一実施形態では、上記組成物に含まれるプライマー混合物は、第1のプライマー混合物である。本発明の別の実施形態では、上記組成物に含まれるプライマー混合物は、第2のプライマー混合物である。本発明の更なる実施形態では、上記組成物に含まれるプライマー混合物は、第1のプライマー混合物と第2のプライマー混合物とを含む。
【0032】
本発明の組成物に含まれる溶媒は、オリゴヌクレオチドを溶解することができる任意の液体を用いることができる。例えば、上記溶媒は、限定されるものではないが、水又はリン酸緩衝液を用いることができる。
【0033】
本発明の別の目的は、Lb.カゼイグループにおける乳酸菌の種を識別する方法であって、
(a)乳酸菌からDNA試料を抽出する工程と、
(b)本明細書に開示のプライマー対又は組成物を使用してDNA試料を増幅することで、mutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメント及び/又はdnaJ遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを取得する工程と、
(c)増幅された部分フラグメントの配列を決定する工程と、
(d)決定された配列と、Lb.カゼイグループの2以上の基準株の対応する遺伝子配列とを比較して各基準株に対するパーセント類似性及び/又は同一性を得ることにより、その乳酸菌が最も高いパーセント類似性及び/又は同一性を有するLb.カゼイグループの基準株と同じ種として乳酸菌を同定する工程と、
を含む、方法を提供することである。
【0034】
本明細書で使用される「Lb.カゼイグループにおける乳酸菌」の用語は、その乳酸菌がLb.カゼイグループの一つの種に特定されていることを意味する。
【0035】
本発明の工程(a)では、上記乳酸菌からDNA試料を抽出する方法は当該技術分野で既知の任意の方法であってもよい。DNeasy Blood & Tissue Kit(Qiagen、アメリカ合衆国)及びFavorPrep Blood/Cultured Cell Genomic DNA Extraction Mini Kit(Favorgen Biotech、台湾)を、上記試料の抽出及び精製に関する非限定的な例として使用することができる。
【0036】
本発明の工程(b)では、「増幅する」は、ポリヌクレオチド分子のより多くのコピーを得るためにポリヌクレオチド配列の複製に使用することができる任意の方法を表す。上記の方法としては、限定されるものではないが、逆転写、ポリメラーゼ連鎖反応及びリガーゼ連鎖反応が挙げられる。
【0037】
本発明の一実施形態では、工程(b)は、第1のプライマー混合物/組成物及び第2のプライマー混合物/組成物を使用してDNA試料を増幅することで、mutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを取得する。ここで、第1のプライマー混合物/組成物は5’−ATTGAYCARCTATCKGCMAC−3’(配列番号1)(式中、Y=C又はT、R=A又はG、K=G又はT、及びM=A又はC)として示されるヌクレオチド配列を含み、第2のプライマー混合物/組成物は5’−GAGCCRTAACCGGCAATMA−3’(配列番号2)(式中、R=A又はG、及びM=A又はC)として示されるヌクレオチド配列を含む。本発明の別の実施形態では、工程(b)は、第1のプライマー混合物/組成物及び第2のプライマー混合物/組成物を使用してDNA試料を増幅することで、dnaJ遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを取得する。ここで、第1のプライマー混合物/組成物は5’−TCTGAAYTTVGTYTGRCTTTG−3’(配列番号3)(式中、Y=C又はT、V=G、A又はC、及びR=A又はG)として示されるヌクレオチド配列を含み、第2のプライマー混合物/組成物は5’−GTGGTGCVCARGCKAATC−3’(配列番号4)(式中、V=G、A又はC、R=A又はG、及びK=G又はT)として示されるヌクレオチド配列を含む。本発明の更なる実施形態では、mutL遺伝子及びdnaJ遺伝子の両方のヌクレオチド配列のフラグメントが増幅される。
【0038】
本発明の工程(c)では、使用されるLb.カゼイグループの基準株としては、限定されるものではないが、Lb.カゼイBCRC 10697(ATCC 393)、Lb.パラカゼイBCRC 12248(ATCC 25302)、及びLb.ラムノサスBCRC 10940(ATCC 12116)が挙げられる。
【0039】
ポリヌクレオチド分子の配列は、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems、アメリカ合衆国カリフォルニア州)、又はPRISM 3730 Sequencer(Applied Biosystems)を使用する等の任意の従来の技法又は方法によって決定され得る。
【0040】
本発明の工程(d)では、パーセント類似性/同一性を以下の配列比較アルゴリズムの一つを使用するか、又は目視検査によって測定することができる。
【0041】
配列比較において、典型的には1つの配列は参照配列として働き、それと試験配列とを比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列及び参照配列をコンピュータに入力する。その後、配列比較アルゴリズムが、設計されたプログラムパラメータに基づいて参照配列と比較した試験配列のパーセント配列類似性/同一性を算出する。
【0042】
比較のための配列の最適なアライメントは、例えば、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981のローカルホモロジーアルゴリズムにより、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970のホモロジーアライメントアルゴリズムにより、Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988の類似法の探索により、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実行(ウィスコンシン州マディソン、サイエンスドライブ575所在のGenetics Computer GroupのWisconsin Genetics Software PackageにおけるGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA)により、又は目視検査により行われ得る。
【0043】
有用なアルゴリズムの一つの例は、PILEUPである。PILEUPは、関係及びパーセント配列類似性/同一性を示すために、プログレッシブペアワイズアライメントを使用して一群の関連する配列から複数の配列のアライメントを生成する。また、PILEUPは、上記のアライメントを生成するために使用することができる系統樹をプロットする。系統樹は、近隣結合(NJ)法(Saitou and Nei, Mol Biol Evol,4:406-425, 1987)を使用して作製することもできる。PILEUPはFeng & Doolittle, J. Mol. Evol. 35:351-360, 1987の簡易化プログレッシブアラインメント法を使用する。使用される方法はHiggins & Sharp, CABIOS 5:151-153, 1989によって記載される方法に類似する。配列のマルチプルアライメントを作製するのに有用な他のアルゴリズムは、Clustal W(Thompson et al., Nucleic Acids Research 22: 4673-4680, 1994)、及びClustal X(1.83)(Thompson et al., Nucleic AcidsRes 25:4876-4882, 1997)である。
【0044】
パーセント配列同一性及び配列類似性を決定するのに適したアルゴリズムの別の例は、Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990に記載されるBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通じて公的に利用可能である。また、MatGAT 2.02(Campanella et al., BMC Bioinformatics, 4:29, 2003)、及びVector NTI v 9.0(Invitrogen、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ)も配列同一性/類似性を算出するために使用することができる。
【0045】
Lb.カゼイグループの各基準株に対する乳酸菌の配列同一性/類似性を得た後、その乳酸菌を、乳酸菌が最も高い類似性及び/又は同一性を有するLb.カゼイグループの基準株と同じ種として同定する。
【0046】
本発明の別の目的は、Lb.カゼイグループにおける乳酸菌と、同じ種であるが異なる株のLb.カゼイグループにおける他の2以上の乳酸菌とが同じハプロタイプか否かを判定する方法であって、
(a)乳酸菌からDNA試料を抽出する工程と、
(b)本明細書に開示のプライマー対又は組成物を使用してDNA試料を増幅することで、mutL遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメント及び/又はdnaJ遺伝子のヌクレオチド配列の部分フラグメントを取得すると、
(c)増幅された配列フラグメントの配列を決定する工程と、
(d)ハプロタイプ分析を行って、決定された配列と、同じ種であるが異なる株の他の2以上の乳酸菌の各対応する遺伝子配列とを比較する工程と、
を含み、分析された配列が互いに異なる場合に、比較された乳酸菌が異なるハプロタイプであることを表す、方法を提供することである。
【0047】
工程(a)、(b)及び(c)は、上に開示される方法によって行うことができる。工程(d)におけるハプロタイプ分析は、DnaSP v.5.0ソフトウェア(Librado et al., Bioinformatic, 25:1451-1452, 2009)又はBioNumericsソフトウェア(Applied Maths、アメリカ合衆国)を使用して行うことができる。
【0048】
本発明の一実施形態では、同じ種のLb.カゼイグループにおける2以上の乳酸菌がLb.パラカゼイにおいて異なる株である。Lb.パラカゼイにおける異なる株の例としては、限定されるものではないが、Lb.パラカゼイBCRC 12248、Lb.パラカゼイBCRC 12188、Lb.パラカゼイBCRC 14001、Lb.パラカゼイBCRC 16100、Lb.パラカゼイBCRC 17001、Lb.パラカゼイBCRC 17005、Lb.パラカゼイBCRC 17475、Lb.パラカゼイBCRC 17483、Lb.パラカゼイBCRC 17484、Lb.パラカゼイBCRC 17488、Lb.パラカゼイBCRC 17489、Lb.パラカゼイBCRC 12193、Lb.パラカゼイBCRC 18853、Lb.パラカゼイBCRC 18854、Lb.パラカゼイBCRC 14023、Lb.パラカゼイBCRC 16094、及びLb.パラカゼイBCRC 17002が挙げられる。
【0049】
本発明の別の実施形態では、同じ種のLb.カゼイグループにおける2以上の乳酸菌がLb.ラムノサスにおいて異なる株である。Lb.ラムノサスにおける異なる株の例としては、限定されるものではないが、Lb.ラムノサスBCRC 10940、Lb.ラムノサスBCRC 14029、Lb.ラムノサスBCRC 16000、Lb.ラムノサスBCRC 16095、Lb.ラムノサスBCRC 17004、Lb.ラムノサスBCRC 17490、Lb.ラムノサスBCRC 80663、及びLb.ラムノサスBCRC 80666が挙げられる。
【0050】
本発明の別の目的は、上に開示されるプライマー対または組成物を含み、第1のプライマー混合物/組成物及び第2の混合物/組成物が1つの容器又は別々の容器に含まれる、Lb.カゼイグループにおける乳酸菌の種間関係及び/又は種内関係を識別するキットを提供することである。
【0051】
本発明では、上記キットは、比較及び/又は分析のためにLb.カゼイグループにおける少なくとも1つの乳酸菌の配列情報を更に含んでもよい。上記情報は、任意の種類のコンピュータ可読媒体、例えばディスク又はUSBフラッシュドライブに含まれる。
【0052】
Lb.カゼイグループにおける少なくとも1つの乳酸菌は、限定されるものではないが、Lb.カゼイBCRC 10697、Lb.カゼイBCRC 17487、Lb.カゼイBCRC 17942、Lb.カゼイBCRC 80156、Lb.カゼイBCRC 17647、Lb.パラカゼイBCRC 12248、Lb.パラカゼイBCRC 12188、Lb.パラカゼイBCRC 14001、Lb.パラカゼイBCRC 16100、Lb.パラカゼイBCRC 17001、Lb.パラカゼイBCRC 17005、Lb.パラカゼイBCRC 17475、Lb.パラカゼイBCRC 17483、Lb.パラカゼイBCRC 17484、Lb.パラカゼイBCRC 17488、Lb.パラカゼイBCRC 17489、Lb.パラカゼイBCRC 12193、Lb.パラカゼイBCRC 18853、Lb.パラカゼイBCRC 18854、Lb.パラカゼイBCRC 14023、Lb.パラカゼイBCRC 16094、Lb.ラムノサスBCRC 10940T、Lb.ラムノサスBCRC 14029、Lb.ラムノサスBCRC 16000、Lb.ラムノサスBCRC 16095、Lb.ラムノサスBCRC 17004、Lb.ラムノサスBCRC 17490、Lb.ラムノサスBCRC 80663、Lb.ラムノサスBCRC 80666及びそれらの任意の組合せとすることができる。
【0053】
本発明のキットは、Lb.カゼイグループにおける乳酸菌の種間関係及び/種内関係を識別するために、上に開示される方法を説明する指示書を更に含んでもよい。
【0054】
下記の具体的な実施例は単なる解説として解釈され、上記開示の他の部分を何ら制限するものではない。当業者は、更なる労作なしに、本明細書の記載に基づいて、本発明を最大限に利用することができると考えられる。本明細書で引用される全ての文献は、それらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【実施例】
【0055】
材料及び方法
試料収集
1.乳酸菌株
参照株(基準株及び単離株を含む)はいずれもIndustry Research And Development InstituteのBioresources Collection and Research Center(BCRC)より提供された(表1参照)。
【0056】
【表1】
【0057】
2.細菌株のインキュベーション条件
MRSアガー(Oxoid、イギリスのベイジングストーク)を標準固形培地として使用し、全ての株を30℃で嫌気的にインキュベートした。その細菌を30℃で48時間インキュベートした後、少量の新鮮な細菌試料を採取し、1.5mL容のエッペンドルフに添加した。細胞のDNAをDNeasy Blood & Tissue Kit(Qiagen、アメリカ合衆国)を使用して抽出および精製した後、適量の脱イオン水に溶解した。少量のDNA溶液を採取し、1%アガロースゲルの電気泳動によってDNAの質を測定した。上記溶液の残部は更なる使用のため−20℃で保存した。
【0058】
実施例1.mutL遺伝子の判定
1.縮重プライマーの設計
Lb.カゼイ(AP012544;当初ラクトバチルス・カゼイ亜種カゼイATCC393と命名された)、Lb.パラカゼイ(CP000423;当初ラクトバチルス・カゼイATCC334と命名された)、及びLb.ラムノサスATCC8530(CP003094)のmutL遺伝子の配列をGenBankからダウンロードした。mutL遺伝子が最も保存された領域に基づいて、縮重プライマーであるLcagp−mutlF3(5’−ATTGAYCARCTATCKGCMAC−3’(配列番号1))及びLcagp−mutlR4(5’−GAGCCRTAACCGGCAATMA−3’(配列番号2))(式中、YはC又はTであり、RはA又はGであり、KはG又はTであり、MはA又はCである)を設計した。
【0059】
2.mutL遺伝子のPCR増幅及びヌクレオチドシーケンシング
Lb.カゼイ、Lb.パラカゼイ及びLb.ラムノサスのmutL遺伝子の部分フラグメント(約809bp)を、上記の縮重プライマーを使用してPCRにより増幅した。PCR反応条件は、94℃で5分間、94℃で1分間、60℃で1分間及び72℃で5分間を30サイクルし、更に最終伸長工程が72℃で7分間であった。得られたアンプリコンをQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen、アメリカ合衆国)を使用して精製した後、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems、アメリカ合衆国カリフォルニア州)及びPRISM 3730 Sequencer(Applied Biosystems)により配列決定した。
【0060】
3.種間関係分析
全ての株のDNA配列をClustal X(1.83)プログラム(Thompson et al., 1997)によってアラインし、配列間の同一性をMatGAT 2.02ソフトウェア(Campanella et al., 2003)によって算出した。表2は、Lb.カゼイ、Lb.パラカゼイ及びLb.ラムノサスのmutL遺伝子の全ての増幅された部分フラグメントの同一性を示す。近隣結合法(Saitou and Nei, "The neighbor-joining method: a new method for reconstructing phylogenetic trees." Mol Biol Evol;1987; 4:406-425)を使用して、乳酸菌の系統樹を構築した。図1の系統樹に示されるように、異なる種は異なるクラスターに分布される。
【0061】
【表2】
【0062】
表2及び図1の結果より、Lb.カゼイグループにおける細菌のmutL遺伝子を増幅した配列の同一性/類似性は、細菌の種間関係の識別に使用可能であることが理解され得る。例えば、被験乳酸菌のmutL遺伝子を増幅した配列と、Lb.カゼイ、Lb.パラカゼイ及びLb.ラムノサスの基準株のmutL遺伝子の対応する配列とを比較することにより、その被験細菌が最も高い同一性/類似性を有する基準株と同じ種に被験細菌を識別することができる。
【0063】
4.種内関係分析
DnaSP v.5.0ソフトウェア(Librado and Rozas, 2009)をハプロタイプ分析に使用した。その結果は、被験株Lb.パラカゼイBCRC 12248、BCRC 12193、BCRC 17482、BCRC 16100、BCRC 17005、BCRC 18853、BCRC 18854、BCRC17484、BCRC 17488、BCRC 17489、BCRC 14023、BCRC 16094、BCRC 17002及びBCRC 17457が14の異なるハプロタイプに同定され、被験株Lb.ラムノサスBCRC 10940、BCRC 80666、BCRC 16095、BCRC 17490、BCRC 16000、BCRC 80663及びBCRC 14029が7つの異なるハプロタイプに同定されたことを示す。したがって、乳酸菌のmutL遺伝子を増幅した配列をLb.パラカゼイ及びLb.ラムノサスの株の種内関係の識別に使用することができる。例えば、Lb.パラカゼイ又はLb.ラムノサスと同定された被験細菌のmutL遺伝子を増幅した配列を、Lb.パラカゼイ又はLb.ラムノサスの異なる株のmutL遺伝子の各々の対応する配列と比較して、それらが同じハプロタイプか否かを判定することができる。
【0064】
実施例2.dnaJ遺伝子の判定
1.縮重プライマーの設計
Lb.カゼイ(AP012544;当初ラクトバチルス・カゼイ亜種カゼイATCC 393と命名された)、Lb.パラカゼイ(AP012541;当初ラクトバチルス・パラカゼイ亜種パラカゼイJCM 8130と命名された)、及びLb.ラムノサスATCC 8530(CP003094)のdnaJ遺伝子の配列をGenBankからダウンロードした。dnaJ遺伝子が最も保存された領域に基づいて、縮重プライマーであるLcasDnaJ−F1 5’−TCTGAAYTTVGTYTGRCTTTG−3’(配列番号3)、及びLcasDnaJ−R1 5’−GTGGTGCVCARGCKAATC−3’(配列番号4)(式中、YはC又はTであり、VはG、A又はCであり、RはA又はGであり、KはG又はTである)を設計した。
【0065】
2.dnaJ遺伝子のPCR増幅及びヌクレオチドシーケンシング
Lb.カゼイ、Lb.パラカゼイ及びLb.ラムノサスのdnaJ遺伝子の部分フラグメント(約620bp)を上記の縮重プライマーを使用してPCRにより増幅した。PCR反応条件は、94℃で5分間、94℃で1分間、60℃で1分間及び72℃で5分間を30サイクルし、更に最終伸長工程が72℃で7分間であった。得られたアンプリコンをQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen、アメリカ合衆国)を使用して精製した後、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems、アメリカ合衆国カリフォルニア州)及びPRISM 3730 Sequencer(Applied Biosystems)により配列決定した。
【0066】
3.種間関係分析
全ての株のDNA配列をClustal X(1.83)プログラム(Thompson et al., 1997)によってアラインし、配列間の類似性をMatGAT 2.02ソフトウェア(Campanella et al., 2003)によって算出した。表3は、被験Lb.カゼイ、被験Lb.パラカゼイ及び被験Lb.ラムノサスのdnaJ遺伝子の全ての増幅された部分フラグメントの類似性を示す。近隣結合法(Saitou and Nei, 1987)を使用して、乳酸菌の系統樹を構築した。図2の系統樹に示されるように、異なる種は異なるクラスターに分布される。
【0067】
【表3】
【0068】
表3及び図2の結果より、Lb.カゼイグループにおける細菌のdnaJ遺伝子を増幅した配列の同一性/類似性は、細菌の種間関係の識別に使用可能であることが理解され得る。例えば、被験乳酸菌のdnaJ遺伝子を増幅した配列と、Lb.カゼイ、Lb.パラカゼイ及びLb.ラムノサスの基準株のdnaJ遺伝子の対応する配列とを比較することにより、その被験細菌が最も高い同一性/類似性を有する基準株と同じ種に被験細菌を識別することができる。
【0069】
4.種内関係分析
DnaSP v.5.0ソフトウェア(Librado and Rozas, 2009)をハプロタイプ分析に使用した。その結果は、被験株Lb.パラカゼイBCRC 12248、BCRC 12188、BCRC 14001、BCRC 16100、BCRC 17001、BCRC 17005、BCRC 17475、BCRC 17483、BCRC 17484、BCRC 17488、BCRC 17489及び単離株275が12の異なるハプロタイプに同定され、被験株Lb.ラムノサスBCRC 10940、BCRC 14029、BCRC 16000、BCRC 16095、BCRC 17004、BCRC 17490及びBCRC 80666が7つの異なるハプロタイプに同定されたことを示す。したがって、乳酸菌のdnaJ遺伝子を増幅した配列をLb.パラカゼイ及びLb.ラムノサスの株の種内関係の識別に使用することができる。例えば、Lb.パラカゼイ又はLb.ラムノサスと同定された被験細菌のdnaJ遺伝子を増幅した配列を、Lb.パラカゼイ又はLb.ラムノサスの異なる株のdnaJ遺伝子の各々の対応する配列と比較して、それらが同じハプロタイプか否かを判定することができる。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]