特許第6288752号(P6288752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6288752非水系皮膚外用製品の二次汚染防止効力の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288752
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】非水系皮膚外用製品の二次汚染防止効力の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20180226BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   A61Q1/04
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-22827(P2013-22827)
(22)【出願日】2013年2月8日
(65)【公開番号】特開2014-150758(P2014-150758A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100155505
【弁理士】
【氏名又は名称】野明 千雪
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】荒木 裕行
(72)【発明者】
【氏名】千田 昌子
(72)【発明者】
【氏名】杉本 華子
(72)【発明者】
【氏名】福林 智子
(72)【発明者】
【氏名】継国 孝司
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−313044(JP,A)
【文献】 特開2005−314283(JP,A)
【文献】 特開2010−252710(JP,A)
【文献】 特開2011−167082(JP,A)
【文献】 特開2005−247776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)の工程を含む、非水系皮膚外用製品の二次汚染防止効力の評価方法。
(1)非水系皮膚外用製品の表面に、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、アクチノマイセス(Actinomyces)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、バチルス(Bacillus)属、コクリア(Kocuria)属、及びカンジダ(Candida)属に属する細菌又は真菌からなる群より選ばれる少なくとも1種のヒト皮膚及び口腔内の常在菌である微生物と、ケラチノサイト、ケラチン及びペプトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の基質と、ロイシン及びカザミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の補助基質とを接触させる工程、
(2)(1)の非水系皮膚外用製品を前記微生物が生育可能な湿度条件下で一定期間保持する工程、及び
(3)(2)の一定期間保持した非水系皮膚外用製品において、微生物の二次汚染によって発生する臭い又は微生物の増殖性を評価することにより、非水系皮膚外用製品の持つ、微生物の二次汚染に対する防止効力を評価する工程
【請求項2】
前記非水系皮膚外用製品の水分活性が0.75以下である、請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記基質が、ケラチノサイト及びケラチンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2記載の評価方法。
【請求項4】
前記基質が水溶性ケラチンである、請求項1〜3のいずれか1記載の評価方法。
【請求項5】
前記補助基質が少なくとも、ロイシン及びカザミノ酸を含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の評価方法。
【請求項6】
前記微生物が、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus)スタフィロコッカス・ワーネリ(Staphylococcus warneri)スタフィロコッカス・サプロフィティカス(Staphylococcus saprophyticus subsp. saprophyticus)プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、及びカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれか1項記載の評価方法。
【請求項7】
前記微生物が、スタフィロコッカスエピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、及びスタフィロコッカスオウレウスアネロビウス(Staphylococcus aureus subsp. anaerobius)から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれか1項記載の評価方法。
【請求項8】
前記工程(3)において、評価する臭い成分がイソ吉草酸及びイソバレルアルデヒドから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれか1項記載の評価方法。
【請求項9】
前記皮膚外用製品が化粧料である、請求項1〜のいずれか1項記載の評価方法。
【請求項10】
前記皮膚外用製品が、口唇用化粧料である、請求項1〜のいずれか1項記載の評価方法。
【請求項11】
前記微生物が生育可能な湿度条件を、水または飽和リン酸二水素アンモニウム液を用いて調湿する、請求項1〜10のいずれか1項記載の評価方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系皮膚外用製品において微生物による二次汚染の防止効力を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料等の皮膚外用製品では、製品の製造或いは使用段階において、外部環境から微生物が混入し汚染が引き起こされることが知られている。微生物に汚染された製品では、増殖した微生物やその代謝産物の影響により製品の腐敗や変質が進行して、異臭(以下、本明細書では変臭ともいう)、変色、品質劣化等を生じることがある。油性基剤等の非水溶性基剤を用いた非水系の皮膚外用製品は、製品中に微生物増殖に必要な水分が十分に含まれないため、微生物による汚染リスクが比較的低いと考えられているが、現実には、使用時に異臭が発生することが報告されている(特許文献1)。
【0003】
微生物による汚染は、製品の製造段階で発生する一次汚染と、消費者の使用段階で発生する二次汚染とに大別される。二次汚染を防止するため、通常は、製品に防腐・防黴処理が施される。
皮膚外用製品における二次汚染防止効力の確認試験としては、日本薬局方の保存効力試験(非特許文献1)やCTFAの微生物学ガイドライン(非特許文献2)を参考として、これに準じた方法が考案され、実施されている。非特許文献1には、対象製品中に微生物を強制的に接種し、均一混合した上、製品中の微生物の生残菌数を経時的に測定して、微生物の死滅挙動を調べることにより、製品の微生物に対する保存効力を評価する方法が記載されている。また、非特許文献2には、対象製品表面に微生物を塗布した上、製品中の微生物の生残菌数を経時的に測定して、微生物の死滅挙動を調べることにより、製品の微生物に対する保存効力を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−247776号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第十六改正日本薬局方 参考情報 G4.微生物関連 保存効力試験法、p.2044−2046
【非特許文献2】CTFA(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association) Microbiology Guideline Section 20, 21, 22, 23, 24、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが上記文献記載の方法について検討したところ、これらの方法は水溶性基剤を用いた水系皮膚外用製品の評価には適しているものの、非水溶性基剤を用いた非水系皮膚外用製品の評価には、必ずしも適していなかった。上記方法により非水系皮膚外用製品を試験したところ、試験環境の変化によって結果が大きく変わり、再現性が悪く、安定した評価結果を得られなかった。これでは、実際の製品評価に当該方法を使用する場合、消費者への安全性を確保するためには、試験環境が結果に影響していないことを確認する、試験を複数回実施して結果の安定性を確認する、ヒト実使用試験(ヒトが実際に対象製品を一定期間使用して異臭の発生等を確認する試験)を併せて行い結果の妥当性を確認する、等の付加的な試験を行うことが必要となる。すなわち、上記方法では、簡易かつ迅速に非水系皮膚外用製品の評価を行うことは難しく、時間的、費用的な負荷が大きい。
さらに、上記方法は微生物の死滅挙動のみを評価するものであり、変臭や変色等の製品の物性変化まで評価することは難しかった。
【0007】
本発明は、非水系の皮膚外用製品において起こる使用時の異臭発生リスクを、簡便な手法で、迅速に、且つ再現性よく評価しうるラボ評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題に鑑み、まず、非水系の皮膚外用製品の使用時において、異臭が発生する原因メカニズムの解明を行った。次いで、上記で解明した異臭発生モデルを応用した、ラボ評価系の構築を検討した。その結果、異臭の発生に必要な栄養源(基質)を特定し、非水系製品の表面に、微生物と、当該基質とを付着させ、これを微生物が増殖可能な高湿度環境下におくことで、使用時の異臭発生リスクを評価できることを見出した。さらに、上記基質とともに補助基質を用いることで、菌の増殖とそれに伴う臭いの発生が早まり、評価結果が迅速に得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(3)の工程を含む、非水系皮膚外用製品の二次汚染防止効力の評価方法に関する。
(1)非水系皮膚外用製品の表面に、微生物と、ケラチノサイト、タンパク質及びペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種の基質と、アミノ酸、糖類、ビタミン類、金属塩及び脂質からなる群より選ばれる少なくとも1種の補助基質とを接触させる工程、
(2)(1)の非水系皮膚外用製品を微生物が生育可能な湿度条件下で一定期間保持する工程、及び
(3)(2)の非水系皮膚外用製品において、発生する臭い又は微生物の増殖性を評価する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、非水系皮膚外用製品の微生物による二次汚染の防止効力を、簡便な手法で、迅速に、且つ再現性よく評価することができる。本発明の方法を用いることで、非水系皮膚外用製品の使用時における異臭発生のリスクを適切に評価・確認することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法で評価対象とする非水系の皮膚外用製品は、油性基剤等の非水溶性の基剤を用いており、微生物の増殖に必要な水分をほとんど含まないものである。具体的には、水分活性が0.75以下の皮膚外用製品である。
水分活性は、食品、化粧品、医薬製剤等における微生物の増殖能を評価するために用いられる指標で、製品中の自由水の割合を表す単位である。水分活性(Water Activity:Aw)は、製品を入れた密閉容器内の水蒸気圧(P)と、その温度における純水の蒸気圧(Po)の比:P/Poで定義される。水分活性は、例えば、ロトロニック水分活性測定システム(GSI Creos製)により測定することができる。
化粧品等に含まれる水分は、他成分と結合した状態の結合水と、移動が容易な自由水とに分類される。上述のように、化粧品や製剤の腐敗やカビの発生は微生物汚染によって引き起こされるが、微生物がこれらの製品中で繁殖するためには一定量の自由水が存在することが不可欠である。微生物にはそれぞれ生育可能な水分活性の範囲があり、それに満たない水分活性下では生育できない。生育に最低限必要な水分活性を生育最低水分活性といい、一般的な細菌ではAw=0.90程度以上、一般的なカビ・酵母ではAw=0.75程度以上とされている。
【0012】
水分活性の低い非水系皮膚外用製品では、製品中で微生物が生育できないため、使用時に微生物が混入しても汚染が生じるリスクは低いと考えられ、汚染防止能や変臭リスクの適切な評価系は確立されていなかった。現実には、非水系製品であっても使用により異臭が発生することが報告されているが、その異臭発生原因についても解明されていなかった。
そこで、本発明者らは非水系皮膚外用製品での異臭発生原因について検討を行ったところ、製品使用時に、皮膚常在菌等の微生物、ヒトの唾液・汗等の水分、剥がれた角質や皮脂等の体表由来成分、が製品の表面に付着し、それらが付着したまま容器内で密閉状態に置かれることにより、付着した水分による高湿度環境が形成され、微生物が体表由来成分を栄養源として増殖し、異臭を発生させていることを見出した。すなわち、異臭発生は微生物による二次汚染を原因とし、製品表面への微生物の付着、外部栄養源の供給、及び高湿度環境下の要因が組み合わさることで生じることをつきとめた。さらに、異臭発生の原因となる栄養源として、特に窒素源が必要であることを特定した。
【0013】
次いで、異臭発生のための上記3つの要因、製品表面への微生物の付着、外部栄養源の供給、高湿度環境の形成、を再現することで、非水系皮膚外用製品の二次汚染防止効力のラボ評価系を構築した。さらに、用いる栄養源(基質、補助基質)について検討したところ、基質としてタンパク質等を、補助基質としてアミノ酸等を併用することで、評価を簡便・迅速に行え、且つ安定的な試験結果が得られることがわかった。
すなわち、本発明の方法は、非水系皮膚外用製品において微生物による二次汚染の防止効力を評価する方法であって、少なくとも下記(1)〜(3)の工程を、この順で含む。
(1)非水系皮膚外用製品の表面に、微生物と、ケラチノサイト、タンパク質及びペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種の基質と、アミノ酸、糖類、ビタミン類、金属塩及び脂質からなる群より選ばれる少なくとも1種の補助基質とを接触させる工程、
(2)(1)の非水系皮膚外用製品を微生物が生育(増殖)可能な湿度条件下で一定期間保持する工程(微生物の培養工程)、及び
(3)(2)の非水系皮膚外用製品において、発生する臭い又は微生物の増殖性を評価する工程
以下、工程(1)〜(3)について詳細に説明する。
【0014】
本発明において、皮膚外用製品とは、体表(皮膚、口腔内、粘膜、爪、体毛(頭髪など)表面を含む)に直接製品を接触させて使用する形態の製品である。皮膚外用製品として具体的には、化粧料、医薬品を含む皮膚外用剤が挙げられる。なお、当該化粧料には、日本の薬事法上、化粧品及び医薬部外品の両方に属するものが含まれる。
なかでも、本発明の評価対象とする皮膚外用製品は、化粧料が好ましい。化粧料としては、口唇用化粧料(例えば、リップグロス、口紅(液状、固形状のもの双方を含む)、リップクリームなど)、皮膚用化粧料(例えば、ファンデーション、コンシーラー、美容オイル、サンスクリーンなど)、アイメイク用化粧料(マスカラなど)、清浄用化粧料(オイルクレンジングなど)、頭髪用化粧料(整髪料、チック剤など)等が挙げられる。本発明の評価方法は、特に口唇用化粧料に用いることが好ましい。
【0015】
本発明において、「二次汚染」とは、消費者が製品を使用する段階での、微生物による汚染をいう。これに対する概念として「一次汚染」があり、これは、製品の生産から消費者の手に渡るまでの段階で、原材料(原料、容器等)、製造環境(製造設備、作業者、作業環境等)などを介して微生物が混入し汚染されることを指す。
【0016】
本発明の方法で用いる微生物は、使用時に製品に付着する可能性のあるものであれば特に制限はない。当該微生物には、細菌類、真菌類の双方が含まれる。また、本発明の方法において、用いる微生物は1種であっても複数種であってもよい。
前記微生物として、好ましくはヒト常在菌であり、より好ましくは皮膚及び口腔内の常在菌である。具体的には、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、アクチノマイセス(Actinomyces)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、バチルス(Bacillus)属、コクリア(Kocuria)属、及びカンジダ(Candida)属に属する細菌又は真菌が好ましい。
スタフィロコッカス属細菌としては、Staphylococcus epidermidisStaphylococcus aureusStaphylococcus warneriStaphylococcus saprophyticus subsp. saprophyticusStaphylococcus hominis等が挙げられる。
アクチノマイセス属細菌としては、Actinomyces naeslundiiActinomyces viscosus等が挙げられる。
プロピオニバクテリウム属細菌としては、Propionibacterium acnes等が挙げられる。
ストレプトコッカス属細菌としては、Streptococcus pseudopneumoniaeStreptococcus mitisStreptococcus cristatusStreptococcus sanguinis等が挙げられる。
アシネトバクター属細菌としては、Acinetobacter calcoaceticus等が挙げられる。
バチルス属細菌としては、Bacillus subtilis等が挙げられる。
カンジダ属真菌としては、Candida albicans等が挙げられる。
なかでも、本発明の方法で用いる微生物として、スタフィロコッカス属細菌が好ましく、スタフィロコッカス エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)又はスタフィロコッカス オウレウス(Staphylococcus aureus)がより好ましく、スタフィロコッカス エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)又はスタフィロコッカス オウレウス アネロビウス(Staphylococcus aureus subsp. anaerobius)がさらに好ましい。
【0017】
栄養源である基質には、ケラチノサイト、タンパク質及びペプチドから選ばれる少なくとも1種を用いる。
前記タンパク質としては、ケラチン、エラスチン、アルブミン、糖タンパク質(例えば、ムチン、プロリンリッチタンパク、ラクトフェリン、フィブロネクチン、スタセリン、酸性プロリンリッチタンパク、ヒスチジンリッチタンパク)、乳タンパク質(例えば、スキムミルク)等が挙げられる。評価系における利用のしやすさを考慮すると、前記タンパク質として好ましくは、ケラチン(より好ましくは、水溶性ケラチン(オリゴケラチン))、エラスチン、アルブミン(より好ましくは血清アルブミン、さらに好ましくはボビンセラムアルブミン(BSA))であり、より好ましくはケラチンであり、さらに好ましくは水溶性ケラチンである。
また、評価系における利用のしやすさを考慮すると、前記ペプチドとして好ましくは、ペプトン(例えば、バクトペプトン、ポリペプトン、トリプトン、カゼインペプトン、ソイペプトン)である。
基質は、ケラチノサイト、ケラチン、エラスチン、及びアルブミンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ケラチノサイト及びケラチンから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ケラチンがさらに好ましく、水溶性ケラチンがよりさらに好ましい。
【0018】
基質とともに用いる補助基質としては、アミノ酸、糖類、ビタミン類、金属塩、及び脂質から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。基質とともに補助基質を用いることで、微生物の繁殖を促進して培養期間を短縮化し、評価にかかる時間を短縮することができる。
前記アミノ酸は、ロイシン、カザミノ酸、ヒスチジン、メチオニン、システイン、プロリン、グリシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸、イソロイシン、アラニン、アルギニン、リジン、トリプトファン、バリン、トレオニン、セリン、チロシン、フェニルアラニン、グルタミン、及びアスパラギンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
糖類としては、単糖、2糖、オリゴ糖から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、単糖から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、グルコースがさらに好ましい。
ビタミン類としては、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ペプトンやエキス(例えば、酵母エキス、脳抽出物、心臓抽出物)に含有されるビタミンから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
金属塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、鉄等のリン酸塩、クロル塩、硫酸塩又は硝酸塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ナトリウム、カリウム又はマグネシウムのリン酸塩がより好ましい。
脂質としては、単純脂質、複合脂質、誘導脂質等から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、角層(セラミド、脂肪酸、コレステロール、コレステリルエステルを主要な脂質として含有)、ペプトン、エキス(例えば、酵母エキス、脳抽出物、心臓抽出物)に含有される脂質から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
においの発生を早めて迅速に評価結果が得られる点から、補助基質として、少なくとも1種のアミノ酸を用いることが好ましく、ロイシン、カザミノ酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン、システイン、プロリンから選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましく、少なくともロイシン又はカザミノ酸を用いることがさらに好ましく、ロイシン及びカザミノ酸を用いることが特に好ましい。
【0019】
工程(1)において、微生物と基質と補助基質とを、非水系皮膚外用製品の表面に接触させる方法は特に限定されない。例えば、微生物と基質と補助基質を、直接被検製品の表面に塗布等する方法、基質及び補助基質を含有した寒天培地上に微生物を塗抹し、その上に被検製品を積層する方法、フィルタ上に微生物と基質と補助基質を載せて、このフィルタを被検製品の上に重ねる方法、などが例示できる。
【0020】
被検製品の表面に接触させる微生物、基質、補助基質の量は特に限定されず、被検製品の種類等に応じて選択できる。被検製品の単位表面積当たりにおける、各使用量の一例を以下に示す。
・被検製品の表面積:12.5mm × 12.5mm × 3.14=490mm
・微生物量
スタフィロコッカス エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)使用の場合:10〜10cfu、より好ましくは10〜10cfu
スタフィロコッカス オウレウス アネロビウス(Staphylococcus aureus subsp. anaerobius)使用の場合:10〜10cfu、より好ましくは10〜10cfu
・基質量
ケラチノサイト使用の場合:10〜10cell、より好ましくは10〜10cell
水溶性ケラチン使用の場合:0.001mg以上10mg以下、より好ましくは0.01mg以上10mg以下
・補助基質量
アミノ酸使用の場合:0.02mg以下、より好ましくは0.0025mg以上0.02mg以下
【0021】
工程(2)では、工程(1)で微生物、基質及び補助基質が接触した被検製品を、当該微生物が生育可能な湿度条件下で一定期間保持して、微生物の培養を行う。なお、「微生物が生育可能」とは、微生物が増殖可能なことをいう。
培養時の湿度(相対湿度)は、微生物が増殖可能な湿度以上とすればよく、用いる微生物の種類によって異なるが、75%を超えることが好ましく、86%以上とすることがより好ましく、88%以上とすることがさらに好ましい。湿度の上限値は100%とすることができる。
被検製品を上記の湿度環境に保つ方法は特に限定されず、例えば、被検製品の湿度を保てるよう密閉容器中で、又は湿度を制御可能な室内等で培養すればよい。密閉容器内の湿度調整は、水又は飽和リン酸二水素アンモニウム液等の塩溶液を用いて行うことができる。また、培養に用いる容器は、被検製品や基質、微生物の生育に影響を及ぼさないものであれば特に限定されず、通常のガラス瓶、ガラス管、遠心管、プラスチック容器等を使用できる。
培養温度は、用いる微生物の種類によって適宜選択すればよいが、一般的な微生物の増殖条件である30℃前後の温度で行うことが好ましい。
培養期間は、用いる微生物や基質や補助基質の種類によって微生物の増殖速度が異なるため、これらの要因を考慮して適宜を選択する。通常は、1日以上、1か月程度とすることができ、好ましくは1週間程度である。
【0022】
例えば、接種微生物としてスタフィロコッカス エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)又はスタフィロコッカス オウレウス アネロビウス(Staphylococcus aureus subsp. anaerobius)を、基質としてケラチノサイト又は水溶性ケラチンを、補助基質としてアミノ酸を用いる場合、湿度条件100%、培養温度30℃前後とし、1週間程度培養を行うことが好ましい。
【0023】
工程(3)は、上記(2)の培養工程を経た被検製品について、発生する臭い又は微生物の増殖性を評価する。微生物による二次汚染は、接種した微生物の増殖性、及び微生物増殖の結果発生する異臭のいずれによっても評価することができる。
本発明の方法は、微生物の二次汚染に対する製品の持つ防止効力を評価し、それによって製品使用時の異臭発生リスクを知るものである。後述の実施例に示されているように、異臭の発生と微生物の増殖性とは相関しており、微生物の増殖性を指標として臭い発生のリスクを適切に評価することができる。評価の簡便性の点からは、微生物の増殖性により評価することが好ましい。
【0024】
臭いの評価方法としては、官能評価、SPME(固相マイクロ抽出:Solid phase micro extraction)-GC/MS分析、HPLC分析等の臭い成分分析による評価法を用いることができる。
検出対象とする臭いの種類は、用いる微生物と基質の種類によっても変わりうるが、本発明者らが検討したところ、ヒト実使用後の製品の官能評価では、イソ吉草酸臭、酪酸臭、硫黄臭、ムレ臭、味噌臭、メチオナール臭等が報告され、使用後の製品のSPME-GC分析では、イソ吉草酸、イソバレルアルデヒド、酢酸、酪酸、アセトイン等が異臭成分として検出された。なお、イソバレルアルデヒドはイソ吉草酸の前駆体化合物である。これらの知見から、本発明の方法において官能評価により臭いを評価する場合は、イソ吉草酸臭、イソバレルアルデヒド臭、酢酸臭、酪酸臭、硫黄臭、ムレ臭、味噌臭、メチオナール臭を検出することが好ましく、SPME-GC等の臭い成分分析の場合は、イソ吉草酸、イソバレルアルデヒド、酢酸、酪酸、アセトインを検出することが好ましい。なかでも、異臭発生のクレームに多く見られる、イソ吉草酸又はその前駆体であるイソバレルアルデヒドの臭い、又はこれらの臭い成分を評価対象とすることが好ましい。
官能評価においては、上記(1)及び(2)の工程を経た被検製品から、上述した種類の臭いの発生を検知した場合に、変臭発生リスクがあると判断できる。
SPME-GC等の臭い成分分析による評価においては、上記工程(1)及び(2)を経た被検製品と、上記工程(1)を経ない比較用製品(すなわち、微生物、基質及び補助基質を接触させていない製品)とにおいて臭い成分の検出量を比較し、被検製品において上述した種類の臭い成分の検出量が増加した場合に、変臭発生リスクがあると判断できる。
【0025】
微生物の増殖性は、培養後の被検製品について微生物数を測定することにより評価できる。微生物数を測定する方法としては、プレートへの塗抹による菌数測定、吸光度測定、熱量測定、ATP測定、インピーダンス測定等の方法を用いることができる。
測定の結果、微生物数が初期接種量に対して減少していない場合は、代謝活動を有する微生物が存在する可能性があるため、変臭発生リスクがあると判断できる。
【0026】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の方法を開示する。
【0027】
<1> 下記(1)〜(3)の工程を含む、非水系皮膚外用製品の二次汚染防止効力の評価方法。
(1)非水系皮膚外用製品の表面に、微生物と、ケラチノサイト、タンパク質及びペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種の基質と、アミノ酸、糖類、ビタミン類、金属塩及び脂質からなる群より選ばれる少なくとも1種の補助基質とを接触させる工程、
(2)(1)の非水系皮膚外用製品を微生物が生育可能な湿度条件下で一定期間保持する工程、及び
(3)(2)の非水系皮膚外用製品において、発生する臭い又は微生物の増殖性を評価する工程
【0028】
<2> 前記非水系皮膚外用製品の水分活性が0.75以下である、<1>項記載の評価方法。
<3> 前記基質が、ケラチノサイト、ケラチン、エラスチン、及びアルブミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、<1>又は<2>項記載の評価方法。
<4> 前記補助基質がアミノ酸である、<1>〜<3>項のいずれか1項記載の評価方法。
<5> 前記補助基質が、カザミノ酸、ロイシン、ヒスチジン、メチオニン、システイン、プロリン、グリシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸、イソロイシン、アラニン、アルギニン、リジン、トリプトファン、バリン、トレオニン、セリン、チロシン、フェニルアラニン、グルタミン、及びアスパラギンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、<1>〜<4>項のいずれか1項記載の評価方法。
<6> 前記微生物が、スタフィロコッカス エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、及びスタフィロコッカス オウレウス アネロビウス(Staphylococcus aureus subsp. anaerobius)から選ばれる少なくとも1種である、<1>〜<5>項のいずれか1項記載の評価方法。
<7> 前記工程(3)において、評価する臭い成分がイソ吉草酸及びイソバレルアルデヒドから選ばれる少なくとも1種である、<1>〜<6>項のいずれか1項記載の評価方法。
<8> 前記皮膚外用製品が化粧料である、<1>〜<7>項のいずれか1項記載の評価方法。
<9> 前記皮膚外用製品が、口唇用化粧料である、<1>〜<8>項のいずれか1項記載の評価方法。
<10> 前記微生物が生育可能な湿度条件を、水または飽和リン酸二水素アンモニウム液を用いて調湿する、<1>〜<9>項のいずれか1項記載の評価方法。
<11> 前記補助基質として、少なくともロイシン又はカザミノ酸を用いる、<1>〜<10>項のいずれか1項記載の評価方法。
<12> 前記補助基質として、ロイシン及びカザミノ酸を用いる、<1>〜<11>項のいずれか1項記載の評価方法。
<13> 前記工程(2)において、湿度を100%とする、<1>〜<12>項のいずれか1項記載の評価方法。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
臭い成分の分析に用いたSPME-GC/MS分析は、下記の条件により行った。
[SPME]
Fiber:Carboxen/Polydimethyl Siloxane(Supelco製)
温度:40℃
抽出時間:35min
[GC]
装置:HP6890(Agilent製)
Column:DB-WAX/60m×0.25mm
Film 0.25μm
オーブン温度:40℃(4min hold)−6℃/min−70℃−3℃/min−240℃
[MS]
装置:HP 5973 MSD(Agilent製)
【0031】
[培地]
微生物の増殖性を確認する際の培地として、下記を用いた。
・BHI(ブレインハートインフュージョン)寒天培地(BD社製):Calf Brains, Infusion from 7.7g,Beef Heart, Infusion from 9.8g、Proteose Peptone 10g、Dextrose 2g、Sodium Chloride 5g、Disodium Phosphate 2.5g(pH7.4±0.2)
・GP(グルコース・ペプトン)寒天培地(日本製薬製):Glucose 20g, Casein Peptone 5g, Yeast Extract 2g, MgSO4 0.5g, KH2PO4 1g, Agar 15g (pH5.7±0.1)
【0032】
I.参考例 ヒト実使用試験
1.供試グロス
非水系の皮膚外用製品として、下記の3種類のリップグロスA,B,Cを用いた。なお、これらのグロスの容器は、唇に直接塗布するドームタイプ容器を使用した。
[リップグロス]
・リップグロスA
油剤、着色剤、防腐剤無添加
水分活性:0.561
・リップグロスB
油剤、着色剤、防腐剤(フェノキシエタノール)
水分活性:0.476
・リップグロスC
油剤、着色剤、防腐剤(フェノキシエタノール、パラベン)
水分活性:0.604
【0033】
2.ヒト実使用試験
女性被検者約40名を対象とし、約1ヶ月間、1日必ず2〜3回以上、上記リップグロスA,B,Cを使用し、試験期間中は携行してもらった。なお、生活時の活動制限は行っていない。また、変臭を感じた時点ですぐに試験を中止し、サンプルを回収した。試験終了後の回収サンプルは、直ちに容器先端部の微生物検査を行うと共に、容器先端部の変臭を官能評価により確認した。
官能評価は、変臭の強度を強、弱、無しの3段階で評価した。全サンプル中で強度が弱の変臭が発生したサンプルの割合を弱変臭率とし、強度が強の変臭が発生したサンプルの割合を強変臭率とした。
【0034】
3.ヒト実使用試験の結果
(1)官能評価
官能評価の結果、グロスAは弱変臭率として16%、強変臭率として22%、グロスBは弱変臭率として11%、強変臭率として6%、グロスCは弱変臭率として9%、強変臭率として0%を示した(表1−1)。これらの結果から、各グロスの変臭発生リスクは、A>B>Cの順となり、各グロスの変臭に対する防止効力はA<B<Cであることが確認された。
【0035】
【表1-1】
【0036】
(2)微生物分析
上記官能評価の結果、変臭が確認されたグロスAのサンプルを用いて、変臭強度と、菌の検出、容器表面に付着した細胞片数との関係を調べた。
[菌の検出]
グロスサンプルを回収後、直ちに1μLループにて容器先端部分をかきとり、BHI寒天培地とGP寒天培地に塗布した。塗布後のBHI寒天培地は32〜37℃、塗布後のGP寒天培地は25℃にて、2〜7日培養した。培養後、平板上に出現したコロニー数を目視により観察して、菌数を少、中、多の3段階で評価した。
[容器表面に付着した細胞片数]
グロスサンプルの容器先端部分をスライドグラスにあて、光学顕微鏡にて観察し、細胞片数を少、中、多の3段階で評価した。
【0037】
官能評価で示された各サンプルの変臭強度(強、弱の2段階)と、上記で評価した検出菌数、及び容器表面に付着した細胞片数との関係を表1−2に示す。なお、表中の括弧内の数字はサンプル数を表す。
その結果、検出菌数が多く付着細胞片数が多いものに、強い変臭が発生する傾向が観察された。
【0038】
【表1-2】
【0039】
[変臭サンプルからの菌株分離]
さらに、上記実使用と同様のテストを行い、変臭が確認されたグロスサンプルから菌株を分離した。分離された菌株のうち、安定的に生育可能な菌株として、下記の5属7種が分離された。
【0040】
【表1-3】
【0041】
(3)変臭成分解析
次に、変臭が確認されたグロスAの2つのサンプルと未使用品を対象として、SPME−GC/MSにより変臭成分を解析した。サンプルはキャップ部と塗布部を裁断し、検出成分のアバンダンス(Abundance)の合計を算出した。
その結果、変臭に関与する成分として16成分を同定し、低級アルデヒド、低級脂肪酸、ケトン等の成分を確認した(表1−4)。異臭発生サンプルからは、コントロール(未使用品)では検出されなかったイソバレルアルデヒドやアセトインが検出され、酢酸、酪酸、イソ吉草酸などの臭い成分が大幅に増加していた。
【0042】
【表1-4】
【0043】
II.変臭発生モデルの構築
ヒトの実使用に替えて用いることのできる、変臭発生モデルについて検討を行った。
変臭発生モデルにはフィルタを用い、これに唇由来成分を添着させたモデルA、Bと、フィルタに唇由来成分を模した微生物、基質、補助基質を添着させたモデルCとを用意した。これらのモデルを用いて、臭いの発生と微生物増殖との関連性、培養条件、微生物の種類および使用量、基質の使用量、補助基質の添加効果等の各条件を検討した。
【0044】
1. 変臭発生モデルA
フィルタは、0.2μm/25mm(ポリカーボネート製、Millipore社製)を使用した。
フィルタを直接唇にこすりつけ、調湿した20ml容のガラスサンプル瓶の側面部に本フィルタを設置した。本ガラス瓶の底部に各種調湿液(湿度100%:滅菌水、湿度75%:飽和塩化ナトリウム溶液、湿度43%:飽和炭酸カリウム溶液、湿度0%:シリカゲル)を添加し、密閉した。30℃にて24時間培養後、変臭の有無を官能評価で確認した。
官能評価は変臭を2段階(あり:変臭が感じられる、なし:変臭が感じられない)の指標を基にして評価した。
【0045】
2. 変臭発生モデルB
生理食塩水で湿らせた滅菌綿棒で唇を数回こすり、0.5mL生理食塩水内にて使用した綿棒を洗浄した。本洗浄液200μLを孔径11μm又は0.2μmフィルタ(いずれもポリカーボネート製、Millipore社製、25mm)にてろ過した後、2mLの生理食塩水にてフィルタ表面を洗浄し、30mL容のガラスサンプル瓶の側面部に本フィルタを設置した。本ガラス瓶の底部に500μLの滅菌水を添加し、密閉した(湿度100%)。30℃にて1〜2日間培養後、変臭の有無を官能評価およびSPME−GC/MS分析にて確認すると共に、微生物の増殖性を確認した。
なお、孔径11μmフィルタを用いたサンプルは、基質として唇角質細胞、微生物種として唇角層に存在する微生物を主な対象とした系を、孔径0.2μmフィルタを用いたサンプルは、基質として唾液成分及び唇角質細胞、微生物種として唇及び口腔内に存在する全微生物を主な対象とした系を模したものである。
【0046】
[官能評価]
官能評価は、変臭を下記の6段階の指標により評価した。
A:強い変臭が感じられる
B:変臭が感じられる
C:弱い変臭が感じられる
D:やや弱い変臭が感じられる
E:かなり弱い変臭が感じられる
F:変臭が感じられない
【0047】
微生物の増殖性の確認は、サンプル瓶に生理食塩水を添加後、十分に混合し、その溶液の一定量をBHI寒天培地に塗抹した。塗抹した寒天培地を30℃、1〜2日間培養後、残存菌数を確認した。
【0048】
3. 変臭発生モデルC
基質を添着したフィルタに、所定濃度の菌液を20μL、所定濃度に調整した各種補助基質を20μL添着した。30mL容のガラスサンプル瓶の側面部に基質、菌、補助基質を添着したフィルタを設置した。本ガラス瓶の底部に500μLの滅菌水を添加し、密閉した(湿度100%)。30℃にて所定時間培養後、変臭の有無を官能評価、又はSPME−GC/MSにて確認すると共に、微生物の増殖性を確認した。
【0049】
[フィルタ]
0.2μm/25mm(ポリカーボネート製、Millipore社製)を使用した。
【0050】
[供試微生物]
上記I.のヒト実使用試験において、変臭を示したサンプルから分離した菌株を使用した。各種菌株は純粋に単離後、使用前まで10%グリセロール溶液中に懸濁し、−80℃にて凍結保存した。
凍結保存した供試微生物は試験実施前に融解し、BHI寒天培地に接種した。30℃にて24〜48時間培養後、生理食塩水に懸濁し、所定の菌数となるように調整し、実験に使用した。
【0051】
[供試基質]
基質として、ケラチノサイト(KURABO社製、正常ヒト細胞)、又は水溶性ケラチンの5%水溶液(TCI社製)を主に使用した。
ケラチノサイトはEpiLife-KG2(KURABO社製)で培養後、孔径0.2μmのフィルタ(Millipore社製、25mm)上に培養細胞を所定の細胞数となるように添着し、吸引ろ過により培養液を除去した。リン酸緩衝液にて培養細胞を洗浄し、ケラチノサイト添着フィルタを調製した。
5%ケラチン水溶液は、オートクレーブにて滅菌後、ケラチンが所定量となるように孔径0.2μmのフィルタ上に添着し、ケラチン添着フィルタを調製した。
【0052】
[供試補助基質]
補助基質としては、0.1%ロイシン溶液及び0.1%カザミノ酸溶液を主に使用した。
【0053】
[官能評価]
官能評価は、変臭を下記の6段階の指標により評価した。
A:強い変臭が感じられる
B:変臭が感じられる
C:弱い変臭が感じられる
D:やや弱い変臭が感じられる
E:かなり弱い変臭が感じられる
F:変臭が感じられない
【0054】
微生物の増殖性の確認は、サンプル瓶に生理食塩水を添加後、十分に混合し、その溶液の一定量をBHI寒天培地に塗抹した。塗抹した寒天培地を、30℃で所定期間培養後、残存菌数を確認した。
【0055】
検証1. 変臭発生モデルAによる培養湿度条件の検討
変臭発生モデルAを用いて、容器内の調湿液の種類をかえることにより湿度条件を0〜100%と変更して、湿度と臭い発生との関係を検証した。臭い発生の有無は、官能評価により行った。
その結果、湿度が75%以下では、変臭は確認されなかった(表2−1)。この結果から、変臭は、75%を超える高湿度環境下で発生することがわかった。
【0056】
【表2-1】
【0057】
検証2. 変臭発生モデルBによる変臭の発生と微生物の増殖性、及び変臭成分の解析
変臭発生モデルBの孔径11μm及び0.2μmの両フィルタサンプルについて、官能評価、微生物の増殖性、SPME−GC/MS分析を行った。
官能評価には、1日間培養後のサンプルを使用した。その結果、両サンプルともに変臭が確認された(表3−1)。
【0058】
【表3-1】
【0059】
微生物の増殖性は、培養2日後のサンプルについて行った。その結果、孔径11μm及び0.2μmの両フィルタサンプルで、培養開始時に比べ、培養2日後に微生物が増殖していることが確認された(表3−2)。
【0060】
【表3-2】
【0061】
SPME−GC/MS分析には、培養2日後のサンプルを使用した。その結果、孔径11μm及び0.2μmの両フィルタサンプルにおいて、変臭の原因とされる成分が検出された(表3−3)。
【0062】
【表3-3】
【0063】
これらの結果から、異なる孔径のフィルタを用いて、フィルタに付着する基質及び微生物種が異なる場合でも、高湿度環境下では微生物が増殖し、それに伴って変臭が発生することが確認された。すなわち、当該モデル系を用いて高湿度環境下で変臭を再現することができること、微生物の増殖性と変臭関与成分の生成に関係が認められることがわかった。
【0064】
検証3. 変臭発生モデルCによる各条件の検討
変臭発生モデルCを用いて、フィルタに添着させる基質、微生物、補助基質の各条件を検証した。
【0065】
3.1 基質:ケラチノサイト
3.1.1 ケラチノサイト量の検討
フィルタに添着させるケラチノサイトの細胞数を変えてサンプルを調製し、評価した。

微生物及び接種菌量
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株
接種菌量1×10 cfu
Staphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株
接種菌量1×10 cfu
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2〜15日間培養
評価:官能評価
【0066】
その結果、Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株を接種したサンプルでは、ケラチノサイトの細胞数が10〜10 cellのときに変臭が確認された(表4−1)。Staphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株を接種したサンプルでは、ケラチノサイトの細胞数が10〜10 cellのときに変臭が確認された(表4−2)。
【0067】
【表4-1】
【0068】
【表4-2】
【0069】
3.1.2 接種菌量の検討
フィルタに接種する菌量を変えてサンプルを調製し、評価した。

微生物
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株
Staphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株
ケラチノサイト添加量(細胞数):6×10 cell(Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株接種サンプル)、4×10 cell(Staphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株接種サンプル)
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:官能評価
【0070】
その結果、Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株では、接種菌量が10〜10 cfuの場合に変臭を確認した(表4−3)。また、Staphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株では、接種菌量が10〜10 cfuの場合に変臭を確認した(表4−4)。
【0071】
【表4-3】
【0072】
【表4-4】
【0073】
3.1.3 補助基質添加効果の検証
(1)補助基質の有無
補助基質を添加したサンプルと添加しないサンプルを調製し、評価した。

微生物及び接種菌量
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株、Staphylococcus epidermidis An 7-1株、及びPropionibacterium acnes An 7-2株の3株混合液(各菌株1×10 cfu接種)
ケラチノサイト添加量(細胞数):3×10 cell
補助基質:カザミノ酸0.02mg、各種アミノ酸混合液(ヒスチジン(His),メチオニン(Met),システイン(Cys),プロリン(Pro),ロイシン(Leu),各0.02mg)
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:官能評価
【0074】
その結果、補助基質を添加したサンプル、添加しないサンプルともに変臭を確認したが、補助基質を添加したサンプルで特に変臭の強度が強まることが確認された(表4−5)。
【0075】
【表4-5】
【0076】
(2)補助基質の種類
サンプルに添加する補助基質の種類を、表4−6に示すように変えてサンプルを調製し、評価した。

微生物及び接種菌量
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株、Staphylococcus epidermidis An 7-1株、及びPropionibacterium acnes An 7-2株の3株混合液(各菌株1×10 cfu接種)
ケラチノサイト添加量(細胞数):2×10 cell
補助基質:カザミノ酸0.02mg、各種アミノ酸混合液(ヒスチジン(His),メチオニン(Met),システイン(Cys),プロリン(Pro),ロイシン(Leu),各0.02mg)
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:官能評価
【0077】
その結果、カザミノ酸とロイシンを添加した場合に、より変臭が強くなることが確認された(表4−6)。
【0078】
【表4-6】
【0079】
(3)補助基質の種類
サンプルに添加する補助基質の種類を、表4−7に示すように変えてサンプルを調製し、評価した。

微生物及び接種菌量
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株、接種菌量1×10 cfu
ケラチノサイト添加量(細胞数):4×10 cell
補助基質:カザミノ酸0.02mg、各種アミノ酸(グリシン(Gly),グルタミン酸(Glu),セリン(Ser),アスパラギン酸(Asp),ロイシン(Leu),各0.02mg)
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:官能評価
【0080】
その結果、他のアミノ酸でも変臭を確認することは出来るが、中でもロイシンの添加効果が高いことを再度確認した(表4−7)。
【0081】
【表4-7】
【0082】
3.1.4 菌種・菌株の最適化
フィルタに接種する微生物の種類を変えてサンプルを調製し、評価した。微生物は、上記I.のヒト実使用試験において変臭を示したサンプルから分離した各菌種、菌株を使用した。

微生物(菌株、接種菌量は表4−8,4−9参照)
Staphylococcus epidermidis
Staphylococcus aureus subsp. anaerobius
Candida albicans
Staphylococcus warneri
Staphylococcus saprophyticus subsp. saprophyticus
Actinomyces naeslundii
ケラチノサイト添加量(細胞数):6×10 cell(表4−8)、4×10 cell(表4−9)
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:官能評価
【0083】
その結果、Staphylococcus epidermidisStaphylococcus aureus subsp. anaerobiusCandida albicansStaphylococcus warneriStaphylococcus saprophyticus subsp. saprophyticusActinomyces naeslundiiにて変臭を確認した。特に、Staphylococcus epidermidisStaphylococcus aureus subsp. anaerobiusでは菌株が相違しても程度の差はあるが変臭が確認できた(表4−8,4−9)。
【0084】
【表4-8】
【0085】
【表4-9】
【0086】
3.1.5 変臭成分解析
基質及び補助基質の組合わせを変えてサンプルを調製し、評価した。

微生物及び接種菌量
Staphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株
接種菌量2×10 cfu
ケラチノサイト添加量(細胞数):1×10 cell
補助基質:ロイシン0.02mg、カザミノ酸0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:SPME−GC/MS分析
【0087】
その結果、ケラチノサイトを加えた場合、変臭成分であるイソバレルアルデヒドが検出された。さらに、カザミノ酸やロイシンが添加されることによって、イソ吉草酸成分も検出され、これらの臭い成分が増加する傾向にあることが確認された(表4−10)。
【0088】
【表4-10】
【0089】
3.2 基質:タンパク質、ペプチド
基質として表4−11に示す各種タンパク質又はペプチドを用いてサンプルを調製し、評価した。

微生物及び接種菌量
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株
接種菌量1×10 cfu
基質
・バクトペプトン(BD社製)*1)
・ポリペプトン(日本製薬社製)*1)
・スキムミルク(BD社製)
・トリプトン(BD社製)
・ボビンセラムアルブミン(BSA、SIGMA社製)
・羊毛由来ケラチン(不溶性、TCI社製)懸濁溶液*1)
・エラスチン(SIGMA社製)*2)
・水溶性ケラチン(5%水溶液を使用、TCI社製)*3)
*1) 0.1%懸濁液をオートクレーブ後、超音波処理して微粉化し、滅菌水にて10倍希釈後使用した。
*2) 5%溶液を調整し、オートクレーブ後、超音波処理して微粉化後使用した。
*3) 市販品を直接オートクレーブにて滅菌後、滅菌水にて10倍希釈して使用した。
上記以外の基質は、0.5%水溶液を調整して用いた。
基質量
・羊毛由来ケラチン以外:1mg
・羊毛由来ケラチン:0.02mg
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、6日間培養
評価:官能評価
【0090】
その結果、全ての基質において、フィルタに添加した当初とは異なる臭いを確認した(表4−11)。なかでも、水溶性ケラチンは、変臭の度合いが判定しやすかったため、最適基質として用いることができるか、更なる検討を行った。
【0091】
【表4-11】
【0092】
3.3 基質:水溶性ケラチン
3.3.1 ケラチン量の検討
フィルタに添着させる水溶性ケラチン量を変えてサンプルを調製し、評価した。

微生物及び接種菌量
Staphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株
接種菌量6×10 cfu
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2日間及び5日間培養
評価:官能評価
【0093】
その結果、水溶性ケラチンを0.001mg以上使用した場合に、変臭を確認した(表4−12)。
【0094】
【表4-12】
【0095】
3.3.2 接種菌量と培養時間の検討
接種する菌量と培養時間を変えてサンプルを調製し、評価した。

微生物
Staphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株
接種菌量1×10〜1×10 cfu
基質量:水溶性ケラチン 1mg
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、9時間〜2日間培養
評価:官能評価
【0096】
その結果、2日間培養後のサンプルでは、接種菌量が1×10 cfu以上で変臭を確認した(表4−13、4−14)。
【0097】
【表4-13】
【0098】
【表4-14】
【0099】
3.3.3 補助基質添加効果の検証
補助基質を添加したサンプルと添加しないサンプルを調製し、評価した。

微生物及び接種菌量
Staphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株
接種菌量2×10 cfu
基質量:水溶性ケラチン 1mg
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2日〜21日間培養
評価:官能評価
【0100】
その結果、2日以上の培養により、補助基質を添加しない場合でも変臭を確認できること、及び補助基質を添加したサンプルで特に変臭の強度が強まることが確認された(表4−15)。
【0101】
【表4-15】
【0102】
3.3.4 変臭成分解析
基質として水溶性ケラチンを用いた場合の変臭成分を、官能評価及びSPME−GC/MS分析により解析した。

微生物及び接種菌量
Staphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株
接種菌量2×10 cfu
基質量:水溶性ケラチン 1mg
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、7日間培養
評価:官能評価、SPME−GC/MS分析
【0103】
その結果、官能評価にて変臭が確認された。また、SPME−GC/MS解析の結果、イソバレルアルデヒド、イソ吉草酸が生成していることが確認された(表4−16)。
【0104】
【表4-16】
【0105】
III.変臭発生モデルを用いた非水系皮膚外用製品の評価
上記II.の変臭発生モデルを用いて検証し得られた各条件をもとに、下記の評価モデルを作成して、非水系皮膚外用製品の異臭発生評価を行った。
【0106】
1. 供試製品
非水系の皮膚外用製品として、上記I.のヒト実使用試験と同じ3種類のリップグロスA,B,Cを用いた。
【0107】
2. 非水系製品(リップグロス)の評価モデル
(1)フィルタ法
100mL容のガラスサンプル瓶の底部にグロスを所定量添加し、添加したグロス上に、基質、微生物、補助基質を添着したフィルタ表面をグロスに接触させるように設置した。基質として、水溶性ケラチン0.125mgをフィルタに添着した。接種微生物として、上記I.のヒト実使用試験の分離菌であるStaphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株を使用し、菌量2×10 cfuをフィルタへ添着した。さらに、補助基質としてロイシン0.0025mg、カザミノ酸0.0025mgをそれぞれフィルタへ添着した。サンプル瓶の底部に各グロス(A、B、C)0.2g添加し、グロス表面に添着後のフィルタを接触させた。
100mL容サンプル瓶の内部に、500μLの滅菌水を添加した小容量ガラス瓶を設置した後、100mL容サンプル瓶を密閉して、高湿度環境(湿度100%)とした。また、比較対象として、グロスを添加しない以外は上記と同様に調製したサンプル(コントロールサンプル)、及び添加したグロス上に基質、菌、補助基質を添着したフィルタを接触させない以外は上記と同様に調製したサンプル(グロスのみのサンプル)を、それぞれ調製した。これらのサンプルを30℃で培養し、培養1日後と2日後に変臭の有無を官能評価で確認すると共に、微生物の増殖性を確認した。また、培養2日後のサンプルについて、SPME−GCによる変臭成分解析を行った。
【0108】
官能評価は、変臭を下記の6段階の指標により評価した。
A:強い変臭が感じられる
B:変臭が感じられる
C:弱い変臭が感じられる
D:やや弱い変臭が感じられる
E:かなり弱い変臭が感じられる
F:変臭が感じられない
【0109】
微生物の増殖性の確認は、100mL容のガラスサンプル瓶にレシチンポリソルベート溶液(LP希釈液、日本製薬社製)をグロスに対して10倍量となるように添加後、十分に混合し、その溶液の一定量をBHI寒天培地に塗抹した。塗抹した寒天培地を30℃、1〜2日間培養後、残存菌数を確認した。
【0110】
(2)重層法
30mL容のガラスサンプル瓶の底部にグロスを所定量添加し、添加したグロス上部に基質、微生物、補助基質を直接添加し、重層させた。基質として水溶性ケラチン2.25mg、補助基質としてロイシン0.009mg及びカザミノ酸0.009mgを含むリン酸緩衝液(pH6.4)を、基質・補助基質溶液として使用した。接種菌として、上記I.のヒト実使用試験の分離菌であるStaphylococcus aureus subsp. anaerobius Ae 44-2株を使用した。サンプル瓶の底部に各グロス(A、B、C)1gを添加し、グロス表面に基質・補助基質溶液0.45mLと、菌液0.05mL(およそ10cfu)を添加した。
サンプル瓶を、湿度を100%に調節したボックス内に設置し、ボックス全体を密閉して、高湿度環境(湿度100%)とした。また、比較対象として、グロスを添加しない以外は上記と同様に調製したサンプル(コントロールサンプル)、及び添加したグロス上に基質、菌、補助基質を添加しない以外は上記と同様に調製したサンプル(グロスのみのサンプル)を、それぞれ調製した。これらのサンプルを30℃で培養し、5日目と7日目に微生物の増殖性を確認した。
【0111】
微生物の増殖性の確認は、30mL容のサンプル瓶にレシチンポリソルベート溶液(LP希釈液、日本製薬社製)をグロスに対して10倍量となるように添加後、十分に混合し、その溶液の一定量をBHI寒天培地に塗抹した。塗抹した寒天培地を30℃、1〜2日間培養後、残存菌数を確認した。
【0112】
3. 評価結果
フィルタ法による官能評価の結果、グロスAでは変臭を確認したが、グロスB及びCでは変臭を確認できなかった(表5−1)。
【0113】
【表5-1】
【0114】
フィルタ法によるサンプル中の生存菌数を確認した結果、グロスAでは接種した菌が増殖する傾向が確認された。一方、グロスB及びCでは減少する傾向が確認された(表5−2)。
【0115】
【表5-2】
【0116】
重層法によるサンプル中の生存菌数を確認した結果においても、グロスAでは接種した菌が増殖する傾向が確認され、グロスB及びCでは減少する傾向が確認された(表5−3)。
【0117】
【表5-3】
【0118】
フィルタ法によるSPME−GC/MS解析の結果から、グロスAサンプルから変臭成分であるイソバレルアルデヒドが多く検出された。グロスAよりも防腐性の高いグロスBサンプルからは、イソバレルアルデヒドが検出されたものの、その量はグロスAに比べて少なかった。さらに、グロスCサンプルではイソバレルアルデヒドが検出されなかった(表5−4)。
【0119】
【表5-4】
【0120】
以上の結果から明らかなように、ヒト実使用試験の結果と変臭発生モデルを用いたラボ評価系とで、官能評価結果、SPME−GC/MS解析結果、微生物の増殖性がそれぞれ相関していた。本発明で構築した変臭発生モデルの評価系を用いて、実使用状況における、非水系製品の微生物による異臭発生リスク、すなわち非水系製品の二次汚染防止効力を適切に評価できることが確認できた。
【0121】
IV.比較例:日本薬局方の保存効力試験
日本薬局方保存効力試験法(第十六改正日本薬局方 参考情報 G4.微生物関連 保存効力試験法、p.2044−2046)のカテゴリーII製剤に準拠した方法で、リップグロスの二次汚染防止効力を評価した。
【0122】
接種微生物は、保存効力試験法に記載されている下記菌株を含む数種の微生物を使用した。
Escherichia coli NBRC3972
Pseudomonas aeruginosa NBRC13275
Staphylococcus aureus NBRC13276
リップグロスは、上記I.のヒト実使用試験で用いたのと同じリップグロスA,B,Cを使用した。
【0123】
上記微生物を、生理食塩水に1×10cfu/mLとなるように懸濁し、本懸濁液をリップグロスサンプルに対して1質量%接種し(10cfu/g)、十分に混合した。接種後のサンプルを30℃にて所定期間保管した後、一定量をサンプリングし、LP希釈液にて不活化した後、SCDLP寒天培地に塗沫した。30℃にて所定期間培養後、生存菌数を測定した。
接種菌数を100%として、生存菌数が0.01%以下となるまでの日数を測定した。
上記試験を、日を変えて2回実施した。1回目と2回目の結果をそれぞれ表6−1に示す。
【0124】
【表6-1】
【0125】
表6−1に示すように、グロスA,B,Cの全てにおいて1回目試験と2回目試験とで生存菌数が0.01%以下となるまでの日数が大きく異なった。すなわち、当該試験方法では、菌数の減少速度が安定せず、結果の再現性が悪いことがわかった。さらに、2回目の試験では、グロスA,B,Cの菌数の減少速度が全て同じという結果になり、ヒト実使用試験の結果と相関しなかった。
これらの結果から、当該試験方法では、非水系製品の二次汚染防止効力を迅速且つ適切に評価することは難しいと考えられた。