【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
臭い成分の分析に用いたSPME-GC/MS分析は、下記の条件により行った。
[SPME]
Fiber:Carboxen/Polydimethyl Siloxane(Supelco製)
温度:40℃
抽出時間:35min
[GC]
装置:HP6890(Agilent製)
Column:DB-WAX/60m×0.25mm
Film 0.25μm
オーブン温度:40℃(4min hold)−6℃/min−70℃−3℃/min−240℃
[MS]
装置:HP 5973 MSD(Agilent製)
【0031】
[培地]
微生物の増殖性を確認する際の培地として、下記を用いた。
・BHI(ブレインハートインフュージョン)寒天培地(BD社製):Calf Brains, Infusion from 7.7g,Beef Heart, Infusion from 9.8g、Proteose Peptone 10g、Dextrose 2g、Sodium Chloride 5g、Disodium Phosphate 2.5g(pH7.4±0.2)
・GP(グルコース・ペプトン)寒天培地(日本製薬製):Glucose 20g, Casein Peptone 5g, Yeast Extract 2g, MgSO
4 0.5g, KH
2PO
4 1g, Agar 15g (pH5.7±0.1)
【0032】
I.参考例 ヒト実使用試験
1.供試グロス
非水系の皮膚外用製品として、下記の3種類のリップグロスA,B,Cを用いた。なお、これらのグロスの容器は、唇に直接塗布するドームタイプ容器を使用した。
[リップグロス]
・リップグロスA
油剤、着色剤、防腐剤無添加
水分活性:0.561
・リップグロスB
油剤、着色剤、防腐剤(フェノキシエタノール)
水分活性:0.476
・リップグロスC
油剤、着色剤、防腐剤(フェノキシエタノール、パラベン)
水分活性:0.604
【0033】
2.ヒト実使用試験
女性被検者約40名を対象とし、約1ヶ月間、1日必ず2〜3回以上、上記リップグロスA,B,Cを使用し、試験期間中は携行してもらった。なお、生活時の活動制限は行っていない。また、変臭を感じた時点ですぐに試験を中止し、サンプルを回収した。試験終了後の回収サンプルは、直ちに容器先端部の微生物検査を行うと共に、容器先端部の変臭を官能評価により確認した。
官能評価は、変臭の強度を強、弱、無しの3段階で評価した。全サンプル中で強度が弱の変臭が発生したサンプルの割合を弱変臭率とし、強度が強の変臭が発生したサンプルの割合を強変臭率とした。
【0034】
3.ヒト実使用試験の結果
(1)官能評価
官能評価の結果、グロスAは弱変臭率として16%、強変臭率として22%、グロスBは弱変臭率として11%、強変臭率として6%、グロスCは弱変臭率として9%、強変臭率として0%を示した(表1−1)。これらの結果から、各グロスの変臭発生リスクは、A>B>Cの順となり、各グロスの変臭に対する防止効力はA<B<Cであることが確認された。
【0035】
【表1-1】
【0036】
(2)微生物分析
上記官能評価の結果、変臭が確認されたグロスAのサンプルを用いて、変臭強度と、菌の検出、容器表面に付着した細胞片数との関係を調べた。
[菌の検出]
グロスサンプルを回収後、直ちに1μLループにて容器先端部分をかきとり、BHI寒天培地とGP寒天培地に塗布した。塗布後のBHI寒天培地は32〜37℃、塗布後のGP寒天培地は25℃にて、2〜7日培養した。培養後、平板上に出現したコロニー数を目視により観察して、菌数を少、中、多の3段階で評価した。
[容器表面に付着した細胞片数]
グロスサンプルの容器先端部分をスライドグラスにあて、光学顕微鏡にて観察し、細胞片数を少、中、多の3段階で評価した。
【0037】
官能評価で示された各サンプルの変臭強度(強、弱の2段階)と、上記で評価した検出菌数、及び容器表面に付着した細胞片数との関係を表1−2に示す。なお、表中の括弧内の数字はサンプル数を表す。
その結果、検出菌数が多く付着細胞片数が多いものに、強い変臭が発生する傾向が観察された。
【0038】
【表1-2】
【0039】
[変臭サンプルからの菌株分離]
さらに、上記実使用と同様のテストを行い、変臭が確認されたグロスサンプルから菌株を分離した。分離された菌株のうち、安定的に生育可能な菌株として、下記の5属7種が分離された。
【0040】
【表1-3】
【0041】
(3)変臭成分解析
次に、変臭が確認されたグロスAの2つのサンプルと未使用品を対象として、SPME−GC/MSにより変臭成分を解析した。サンプルはキャップ部と塗布部を裁断し、検出成分のアバンダンス(Abundance)の合計を算出した。
その結果、変臭に関与する成分として16成分を同定し、低級アルデヒド、低級脂肪酸、ケトン等の成分を確認した(表1−4)。異臭発生サンプルからは、コントロール(未使用品)では検出されなかったイソバレルアルデヒドやアセトインが検出され、酢酸、酪酸、イソ吉草酸などの臭い成分が大幅に増加していた。
【0042】
【表1-4】
【0043】
II.変臭発生モデルの構築
ヒトの実使用に替えて用いることのできる、変臭発生モデルについて検討を行った。
変臭発生モデルにはフィルタを用い、これに唇由来成分を添着させたモデルA、Bと、フィルタに唇由来成分を模した微生物、基質、補助基質を添着させたモデルCとを用意した。これらのモデルを用いて、臭いの発生と微生物増殖との関連性、培養条件、微生物の種類および使用量、基質の使用量、補助基質の添加効果等の各条件を検討した。
【0044】
1. 変臭発生モデルA
フィルタは、0.2μm/25mm(ポリカーボネート製、Millipore社製)を使用した。
フィルタを直接唇にこすりつけ、調湿した20ml容のガラスサンプル瓶の側面部に本フィルタを設置した。本ガラス瓶の底部に各種調湿液(湿度100%:滅菌水、湿度75%:飽和塩化ナトリウム溶液、湿度43%:飽和炭酸カリウム溶液、湿度0%:シリカゲル)を添加し、密閉した。30℃にて24時間培養後、変臭の有無を官能評価で確認した。
官能評価は変臭を2段階(あり:変臭が感じられる、なし:変臭が感じられない)の指標を基にして評価した。
【0045】
2. 変臭発生モデルB
生理食塩水で湿らせた滅菌綿棒で唇を数回こすり、0.5mL生理食塩水内にて使用した綿棒を洗浄した。本洗浄液200μLを孔径11μm又は0.2μmフィルタ(いずれもポリカーボネート製、Millipore社製、25mm)にてろ過した後、2mLの生理食塩水にてフィルタ表面を洗浄し、30mL容のガラスサンプル瓶の側面部に本フィルタを設置した。本ガラス瓶の底部に500μLの滅菌水を添加し、密閉した(湿度100%)。30℃にて1〜2日間培養後、変臭の有無を官能評価およびSPME−GC/MS分析にて確認すると共に、微生物の増殖性を確認した。
なお、孔径11μmフィルタを用いたサンプルは、基質として唇角質細胞、微生物種として唇角層に存在する微生物を主な対象とした系を、孔径0.2μmフィルタを用いたサンプルは、基質として唾液成分及び唇角質細胞、微生物種として唇及び口腔内に存在する全微生物を主な対象とした系を模したものである。
【0046】
[官能評価]
官能評価は、変臭を下記の6段階の指標により評価した。
A:強い変臭が感じられる
B:変臭が感じられる
C:弱い変臭が感じられる
D:やや弱い変臭が感じられる
E:かなり弱い変臭が感じられる
F:変臭が感じられない
【0047】
微生物の増殖性の確認は、サンプル瓶に生理食塩水を添加後、十分に混合し、その溶液の一定量をBHI寒天培地に塗抹した。塗抹した寒天培地を30℃、1〜2日間培養後、残存菌数を確認した。
【0048】
3. 変臭発生モデルC
基質を添着したフィルタに、所定濃度の菌液を20μL、所定濃度に調整した各種補助基質を20μL添着した。30mL容のガラスサンプル瓶の側面部に基質、菌、補助基質を添着したフィルタを設置した。本ガラス瓶の底部に500μLの滅菌水を添加し、密閉した(湿度100%)。30℃にて所定時間培養後、変臭の有無を官能評価、又はSPME−GC/MSにて確認すると共に、微生物の増殖性を確認した。
【0049】
[フィルタ]
0.2μm/25mm(ポリカーボネート製、Millipore社製)を使用した。
【0050】
[供試微生物]
上記I.のヒト実使用試験において、変臭を示したサンプルから分離した菌株を使用した。各種菌株は純粋に単離後、使用前まで10%グリセロール溶液中に懸濁し、−80℃にて凍結保存した。
凍結保存した供試微生物は試験実施前に融解し、BHI寒天培地に接種した。30℃にて24〜48時間培養後、生理食塩水に懸濁し、所定の菌数となるように調整し、実験に使用した。
【0051】
[供試基質]
基質として、ケラチノサイト(KURABO社製、正常ヒト細胞)、又は水溶性ケラチンの5%水溶液(TCI社製)を主に使用した。
ケラチノサイトはEpiLife-KG2(KURABO社製)で培養後、孔径0.2μmのフィルタ(Millipore社製、25mm)上に培養細胞を所定の細胞数となるように添着し、吸引ろ過により培養液を除去した。リン酸緩衝液にて培養細胞を洗浄し、ケラチノサイト添着フィルタを調製した。
5%ケラチン水溶液は、オートクレーブにて滅菌後、ケラチンが所定量となるように孔径0.2μmのフィルタ上に添着し、ケラチン添着フィルタを調製した。
【0052】
[供試補助基質]
補助基質としては、0.1%ロイシン溶液及び0.1%カザミノ酸溶液を主に使用した。
【0053】
[官能評価]
官能評価は、変臭を下記の6段階の指標により評価した。
A:強い変臭が感じられる
B:変臭が感じられる
C:弱い変臭が感じられる
D:やや弱い変臭が感じられる
E:かなり弱い変臭が感じられる
F:変臭が感じられない
【0054】
微生物の増殖性の確認は、サンプル瓶に生理食塩水を添加後、十分に混合し、その溶液の一定量をBHI寒天培地に塗抹した。塗抹した寒天培地を、30℃で所定期間培養後、残存菌数を確認した。
【0055】
検証1. 変臭発生モデルAによる培養湿度条件の検討
変臭発生モデルAを用いて、容器内の調湿液の種類をかえることにより湿度条件を0〜100%と変更して、湿度と臭い発生との関係を検証した。臭い発生の有無は、官能評価により行った。
その結果、湿度が75%以下では、変臭は確認されなかった(表2−1)。この結果から、変臭は、75%を超える高湿度環境下で発生することがわかった。
【0056】
【表2-1】
【0057】
検証2. 変臭発生モデルBによる変臭の発生と微生物の増殖性、及び変臭成分の解析
変臭発生モデルBの孔径11μm及び0.2μmの両フィルタサンプルについて、官能評価、微生物の増殖性、SPME−GC/MS分析を行った。
官能評価には、1日間培養後のサンプルを使用した。その結果、両サンプルともに変臭が確認された(表3−1)。
【0058】
【表3-1】
【0059】
微生物の増殖性は、培養2日後のサンプルについて行った。その結果、孔径11μm及び0.2μmの両フィルタサンプルで、培養開始時に比べ、培養2日後に微生物が増殖していることが確認された(表3−2)。
【0060】
【表3-2】
【0061】
SPME−GC/MS分析には、培養2日後のサンプルを使用した。その結果、孔径11μm及び0.2μmの両フィルタサンプルにおいて、変臭の原因とされる成分が検出された(表3−3)。
【0062】
【表3-3】
【0063】
これらの結果から、異なる孔径のフィルタを用いて、フィルタに付着する基質及び微生物種が異なる場合でも、高湿度環境下では微生物が増殖し、それに伴って変臭が発生することが確認された。すなわち、当該モデル系を用いて高湿度環境下で変臭を再現することができること、微生物の増殖性と変臭関与成分の生成に関係が認められることがわかった。
【0064】
検証3. 変臭発生モデルCによる各条件の検討
変臭発生モデルCを用いて、フィルタに添着させる基質、微生物、補助基質の各条件を検証した。
【0065】
3.1 基質:ケラチノサイト
3.1.1 ケラチノサイト量の検討
フィルタに添着させるケラチノサイトの細胞数を変えてサンプルを調製し、評価した。
微生物及び接種菌量
・
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株
接種菌量1×10
8 cfu
・
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株
接種菌量1×10
3 cfu
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2〜15日間培養
評価:官能評価
【0066】
その結果、
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株を接種したサンプルでは、ケラチノサイトの細胞数が10
2〜10
5 cellのときに変臭が確認された(表4−1)。
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株を接種したサンプルでは、ケラチノサイトの細胞数が10
2〜10
5 cellのときに変臭が確認された(表4−2)。
【0067】
【表4-1】
【0068】
【表4-2】
【0069】
3.1.2 接種菌量の検討
フィルタに接種する菌量を変えてサンプルを調製し、評価した。
微生物
・
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株
・
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株
ケラチノサイト添加量(細胞数):6×10
4 cell(
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株接種サンプル)、4×10
5 cell(
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株接種サンプル)
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:官能評価
【0070】
その結果、
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株では、接種菌量が10
2〜10
8 cfuの場合に変臭を確認した(表4−3)。また、
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株では、接種菌量が10
2〜10
6 cfuの場合に変臭を確認した(表4−4)。
【0071】
【表4-3】
【0072】
【表4-4】
【0073】
3.1.3 補助基質添加効果の検証
(1)補助基質の有無
補助基質を添加したサンプルと添加しないサンプルを調製し、評価した。
微生物及び接種菌量
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株、
Staphylococcus epidermidis An 7-1株、及び
Propionibacterium acnes An 7-2株の3株混合液(各菌株1×10
8 cfu接種)
ケラチノサイト添加量(細胞数):3×10
5 cell
補助基質:カザミノ酸0.02mg、各種アミノ酸混合液(ヒスチジン(His),メチオニン(Met),システイン(Cys),プロリン(Pro),ロイシン(Leu),各0.02mg)
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:官能評価
【0074】
その結果、補助基質を添加したサンプル、添加しないサンプルともに変臭を確認したが、補助基質を添加したサンプルで特に変臭の強度が強まることが確認された(表4−5)。
【0075】
【表4-5】
【0076】
(2)補助基質の種類
サンプルに添加する補助基質の種類を、表4−6に示すように変えてサンプルを調製し、評価した。
微生物及び接種菌量
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株、
Staphylococcus epidermidis An 7-1株、及び
Propionibacterium acnes An 7-2株の3株混合液(各菌株1×10
6 cfu接種)
ケラチノサイト添加量(細胞数):2×10
5 cell
補助基質:カザミノ酸0.02mg、各種アミノ酸混合液(ヒスチジン(His),メチオニン(Met),システイン(Cys),プロリン(Pro),ロイシン(Leu),各0.02mg)
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:官能評価
【0077】
その結果、カザミノ酸とロイシンを添加した場合に、より変臭が強くなることが確認された(表4−6)。
【0078】
【表4-6】
【0079】
(3)補助基質の種類
サンプルに添加する補助基質の種類を、表4−7に示すように変えてサンプルを調製し、評価した。
微生物及び接種菌量
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株、接種菌量1×10
8 cfu
ケラチノサイト添加量(細胞数):4×10
5 cell
補助基質:カザミノ酸0.02mg、各種アミノ酸(グリシン(Gly),グルタミン酸(Glu),セリン(Ser),アスパラギン酸(Asp),ロイシン(Leu),各0.02mg)
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:官能評価
【0080】
その結果、他のアミノ酸でも変臭を確認することは出来るが、中でもロイシンの添加効果が高いことを再度確認した(表4−7)。
【0081】
【表4-7】
【0082】
3.1.4 菌種・菌株の最適化
フィルタに接種する微生物の種類を変えてサンプルを調製し、評価した。微生物は、上記I.のヒト実使用試験において変臭を示したサンプルから分離した各菌種、菌株を使用した。
微生物(菌株、接種菌量は表4−8,4−9参照)
・
Staphylococcus epidermidis
・
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius
・
Candida albicans
・
Staphylococcus warneri
・
Staphylococcus saprophyticus subsp.
saprophyticus
・
Actinomyces naeslundii
ケラチノサイト添加量(細胞数):6×10
4 cell(表4−8)、4×10
5 cell(表4−9)
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:官能評価
【0083】
その結果、
Staphylococcus epidermidis、
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius、
Candida albicans、
Staphylococcus warneri、
Staphylococcus saprophyticus subsp.
saprophyticus、
Actinomyces naeslundiiにて変臭を確認した。特に、
Staphylococcus epidermidis、
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobiusでは菌株が相違しても程度の差はあるが変臭が確認できた(表4−8,4−9)。
【0084】
【表4-8】
【0085】
【表4-9】
【0086】
3.1.5 変臭成分解析
基質及び補助基質の組合わせを変えてサンプルを調製し、評価した。
微生物及び接種菌量
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株
接種菌量2×10
4 cfu
ケラチノサイト添加量(細胞数):1×10
4 cell
補助基質:ロイシン0.02mg、カザミノ酸0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2日間培養
評価:SPME−GC/MS分析
【0087】
その結果、ケラチノサイトを加えた場合、変臭成分であるイソバレルアルデヒドが検出された。さらに、カザミノ酸やロイシンが添加されることによって、イソ吉草酸成分も検出され、これらの臭い成分が増加する傾向にあることが確認された(表4−10)。
【0088】
【表4-10】
【0089】
3.2 基質:タンパク質、ペプチド
基質として表4−11に示す各種タンパク質又はペプチドを用いてサンプルを調製し、評価した。
微生物及び接種菌量
Staphylococcus epidermidis Ae 7-1株
接種菌量1×10
8 cfu
基質
・バクトペプトン(BD社製)
*1)
・ポリペプトン(日本製薬社製)
*1)
・スキムミルク(BD社製)
・トリプトン(BD社製)
・ボビンセラムアルブミン(BSA、SIGMA社製)
・羊毛由来ケラチン(不溶性、TCI社製)懸濁溶液
*1)
・エラスチン(SIGMA社製)
*2)
・水溶性ケラチン(5%水溶液を使用、TCI社製)
*3)
*1) 0.1%懸濁液をオートクレーブ後、超音波処理して微粉化し、滅菌水にて10倍希釈後使用した。
*2) 5%溶液を調整し、オートクレーブ後、超音波処理して微粉化後使用した。
*3) 市販品を直接オートクレーブにて滅菌後、滅菌水にて10倍希釈して使用した。
上記以外の基質は、0.5%水溶液を調整して用いた。
基質量
・羊毛由来ケラチン以外:1mg
・羊毛由来ケラチン:0.02mg
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、6日間培養
評価:官能評価
【0090】
その結果、全ての基質において、フィルタに添加した当初とは異なる臭いを確認した(表4−11)。なかでも、水溶性ケラチンは、変臭の度合いが判定しやすかったため、最適基質として用いることができるか、更なる検討を行った。
【0091】
【表4-11】
【0092】
3.3 基質:水溶性ケラチン
3.3.1 ケラチン量の検討
フィルタに添着させる水溶性ケラチン量を変えてサンプルを調製し、評価した。
微生物及び接種菌量
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株
接種菌量6×10
5 cfu
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2日間及び5日間培養
評価:官能評価
【0093】
その結果、水溶性ケラチンを0.001mg以上使用した場合に、変臭を確認した(表4−12)。
【0094】
【表4-12】
【0095】
3.3.2 接種菌量と培養時間の検討
接種する菌量と培養時間を変えてサンプルを調製し、評価した。
微生物
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株
接種菌量1×10
1〜1×10
7 cfu
基質量:水溶性ケラチン 1mg
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、9時間〜2日間培養
評価:官能評価
【0096】
その結果、2日間培養後のサンプルでは、接種菌量が1×10
1 cfu以上で変臭を確認した(表4−13、4−14)。
【0097】
【表4-13】
【0098】
【表4-14】
【0099】
3.3.3 補助基質添加効果の検証
補助基質を添加したサンプルと添加しないサンプルを調製し、評価した。
微生物及び接種菌量
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株
接種菌量2×10
4 cfu
基質量:水溶性ケラチン 1mg
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、2日〜21日間培養
評価:官能評価
【0100】
その結果、2日以上の培養により、補助基質を添加しない場合でも変臭を確認できること、及び補助基質を添加したサンプルで特に変臭の強度が強まることが確認された(表4−15)。
【0101】
【表4-15】
【0102】
3.3.4 変臭成分解析
基質として水溶性ケラチンを用いた場合の変臭成分を、官能評価及びSPME−GC/MS分析により解析した。
微生物及び接種菌量
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株
接種菌量2×10
7 cfu
基質量:水溶性ケラチン 1mg
補助基質:カザミノ酸0.02mg、ロイシン0.02mg
培養条件:湿度100%、30℃、7日間培養
評価:官能評価、SPME−GC/MS分析
【0103】
その結果、官能評価にて変臭が確認された。また、SPME−GC/MS解析の結果、イソバレルアルデヒド、イソ吉草酸が生成していることが確認された(表4−16)。
【0104】
【表4-16】
【0105】
III.変臭発生モデルを用いた非水系皮膚外用製品の評価
上記II.の変臭発生モデルを用いて検証し得られた各条件をもとに、下記の評価モデルを作成して、非水系皮膚外用製品の異臭発生評価を行った。
【0106】
1. 供試製品
非水系の皮膚外用製品として、上記I.のヒト実使用試験と同じ3種類のリップグロスA,B,Cを用いた。
【0107】
2. 非水系製品(リップグロス)の評価モデル
(1)フィルタ法
100mL容のガラスサンプル瓶の底部にグロスを所定量添加し、添加したグロス上に、基質、微生物、補助基質を添着したフィルタ表面をグロスに接触させるように設置した。基質として、水溶性ケラチン0.125mgをフィルタに添着した。接種微生物として、上記I.のヒト実使用試験の分離菌である
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株を使用し、菌量2×10
4 cfuをフィルタへ添着した。さらに、補助基質としてロイシン0.0025mg、カザミノ酸0.0025mgをそれぞれフィルタへ添着した。サンプル瓶の底部に各グロス(A、B、C)0.2g添加し、グロス表面に添着後のフィルタを接触させた。
100mL容サンプル瓶の内部に、500μLの滅菌水を添加した小容量ガラス瓶を設置した後、100mL容サンプル瓶を密閉して、高湿度環境(湿度100%)とした。また、比較対象として、グロスを添加しない以外は上記と同様に調製したサンプル(コントロールサンプル)、及び添加したグロス上に基質、菌、補助基質を添着したフィルタを接触させない以外は上記と同様に調製したサンプル(グロスのみのサンプル)を、それぞれ調製した。これらのサンプルを30℃で培養し、培養1日後と2日後に変臭の有無を官能評価で確認すると共に、微生物の増殖性を確認した。また、培養2日後のサンプルについて、SPME−GCによる変臭成分解析を行った。
【0108】
官能評価は、変臭を下記の6段階の指標により評価した。
A:強い変臭が感じられる
B:変臭が感じられる
C:弱い変臭が感じられる
D:やや弱い変臭が感じられる
E:かなり弱い変臭が感じられる
F:変臭が感じられない
【0109】
微生物の増殖性の確認は、100mL容のガラスサンプル瓶にレシチンポリソルベート溶液(LP希釈液、日本製薬社製)をグロスに対して10倍量となるように添加後、十分に混合し、その溶液の一定量をBHI寒天培地に塗抹した。塗抹した寒天培地を30℃、1〜2日間培養後、残存菌数を確認した。
【0110】
(2)重層法
30mL容のガラスサンプル瓶の底部にグロスを所定量添加し、添加したグロス上部に基質、微生物、補助基質を直接添加し、重層させた。基質として水溶性ケラチン2.25mg、補助基質としてロイシン0.009mg及びカザミノ酸0.009mgを含むリン酸緩衝液(pH6.4)を、基質・補助基質溶液として使用した。接種菌として、上記I.のヒト実使用試験の分離菌である
Staphylococcus aureus subsp.
anaerobius Ae 44-2株を使用した。サンプル瓶の底部に各グロス(A、B、C)1gを添加し、グロス表面に基質・補助基質溶液0.45mLと、菌液0.05mL(およそ10
4cfu)を添加した。
サンプル瓶を、湿度を100%に調節したボックス内に設置し、ボックス全体を密閉して、高湿度環境(湿度100%)とした。また、比較対象として、グロスを添加しない以外は上記と同様に調製したサンプル(コントロールサンプル)、及び添加したグロス上に基質、菌、補助基質を添加しない以外は上記と同様に調製したサンプル(グロスのみのサンプル)を、それぞれ調製した。これらのサンプルを30℃で培養し、5日目と7日目に微生物の増殖性を確認した。
【0111】
微生物の増殖性の確認は、30mL容のサンプル瓶にレシチンポリソルベート溶液(LP希釈液、日本製薬社製)をグロスに対して10倍量となるように添加後、十分に混合し、その溶液の一定量をBHI寒天培地に塗抹した。塗抹した寒天培地を30℃、1〜2日間培養後、残存菌数を確認した。
【0112】
3. 評価結果
フィルタ法による官能評価の結果、グロスAでは変臭を確認したが、グロスB及びCでは変臭を確認できなかった(表5−1)。
【0113】
【表5-1】
【0114】
フィルタ法によるサンプル中の生存菌数を確認した結果、グロスAでは接種した菌が増殖する傾向が確認された。一方、グロスB及びCでは減少する傾向が確認された(表5−2)。
【0115】
【表5-2】
【0116】
重層法によるサンプル中の生存菌数を確認した結果においても、グロスAでは接種した菌が増殖する傾向が確認され、グロスB及びCでは減少する傾向が確認された(表5−3)。
【0117】
【表5-3】
【0118】
フィルタ法によるSPME−GC/MS解析の結果から、グロスAサンプルから変臭成分であるイソバレルアルデヒドが多く検出された。グロスAよりも防腐性の高いグロスBサンプルからは、イソバレルアルデヒドが検出されたものの、その量はグロスAに比べて少なかった。さらに、グロスCサンプルではイソバレルアルデヒドが検出されなかった(表5−4)。
【0119】
【表5-4】
【0120】
以上の結果から明らかなように、ヒト実使用試験の結果と変臭発生モデルを用いたラボ評価系とで、官能評価結果、SPME−GC/MS解析結果、微生物の増殖性がそれぞれ相関していた。本発明で構築した変臭発生モデルの評価系を用いて、実使用状況における、非水系製品の微生物による異臭発生リスク、すなわち非水系製品の二次汚染防止効力を適切に評価できることが確認できた。
【0121】
IV.比較例:日本薬局方の保存効力試験
日本薬局方保存効力試験法(第十六改正日本薬局方 参考情報 G4.微生物関連 保存効力試験法、p.2044−2046)のカテゴリーII製剤に準拠した方法で、リップグロスの二次汚染防止効力を評価した。
【0122】
接種微生物は、保存効力試験法に記載されている下記菌株を含む数種の微生物を使用した。
・
Escherichia coli NBRC3972
・
Pseudomonas aeruginosa NBRC13275
・
Staphylococcus aureus NBRC13276
リップグロスは、上記I.のヒト実使用試験で用いたのと同じリップグロスA,B,Cを使用した。
【0123】
上記微生物を、生理食塩水に1×10
8cfu/mLとなるように懸濁し、本懸濁液をリップグロスサンプルに対して1質量%接種し(10
6cfu/g)、十分に混合した。接種後のサンプルを30℃にて所定期間保管した後、一定量をサンプリングし、LP希釈液にて不活化した後、SCDLP寒天培地に塗沫した。30℃にて所定期間培養後、生存菌数を測定した。
接種菌数を100%として、生存菌数が0.01%以下となるまでの日数を測定した。
上記試験を、日を変えて2回実施した。1回目と2回目の結果をそれぞれ表6−1に示す。
【0124】
【表6-1】
【0125】
表6−1に示すように、グロスA,B,Cの全てにおいて1回目試験と2回目試験とで生存菌数が0.01%以下となるまでの日数が大きく異なった。すなわち、当該試験方法では、菌数の減少速度が安定せず、結果の再現性が悪いことがわかった。さらに、2回目の試験では、グロスA,B,Cの菌数の減少速度が全て同じという結果になり、ヒト実使用試験の結果と相関しなかった。
これらの結果から、当該試験方法では、非水系製品の二次汚染防止効力を迅速且つ適切に評価することは難しいと考えられた。