特許第6288757号(P6288757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京都府公立大学法人の特許一覧 ▶ 興人ライフサイエンス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6288757-運動機能性向上剤 図000002
  • 特許6288757-運動機能性向上剤 図000003
  • 特許6288757-運動機能性向上剤 図000004
  • 特許6288757-運動機能性向上剤 図000005
  • 特許6288757-運動機能性向上剤 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288757
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】運動機能性向上剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/06 20060101AFI20180226BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20180226BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20180226BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   A61K38/06
   A61P3/00
   A61P21/00
   A61P43/00 105
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-173445(P2013-173445)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-40204(P2015-40204A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年8月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】312015749
【氏名又は名称】興人ライフサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160978
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 政彦
(72)【発明者】
【氏名】青井 渉
(72)【発明者】
【氏名】小西 享
(72)【発明者】
【氏名】佐内 勇亮
【審査官】 茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−107962(JP,A)
【文献】 特表2010−505784(JP,A)
【文献】 特表2006−512320(JP,A)
【文献】 特開2003−018955(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/112641(WO,A1)
【文献】 NOVELLI G P et al,Exogenous glutathione increases endurance to muscle effort in mice,Pharmacol Res,1991年,Vol.23,No.2,Page.149-155
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58;41/00−45/08
A23L 5/40− 5/49;31/00−33/29
A61P 3/00− 3/14
A61P 21/00−21/06
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
200mg〜3gのグルタチオンを有効成分として含む、運動代謝促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオンを有効成分として含む運動機能性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、運動を行なうと、筋肉にあるグリコーゲン由来のグルコースが利用され、無酸素的な解糖反応が進行して筋肉の収縮に必要なATPが合成される。その代謝産物である乳酸が蓄積することで筋肉中のpH低下し、筋収縮の効率が落ちてくる。このため、筋肉中のpHを低下させないことが運度機能を持続させるためには必要となる。
【0003】
また、骨格筋のエネルギー代謝制御に関与する因子PGC−1αが知られている(非特許文献1)。マウスを寒冷環境下におくと骨格筋でのPGC−1αが増加する。そのため骨格筋組織での熱産生の制御に関わることが知られている。また、PGC−1αを強制発現させると、ミトコンドリア呼吸鎖に関わる因子の転写を促すNRFや、ミトコンドリアにおいてエネルギー消費を起こすと考えられている脱共役蛋白質、uncoupling protein(UCP)の発現が誘導されるほか、ミトコンドリアのゲノム複製や転写反応過程に重要な役割を果たすmitochondrial transcription factor A(mtTFA)の発現が誘導され、これら分子の機能発現によって細胞内のミトコンドリア数が増加し、また細胞の酸素消費量が増大することも明らかとなった。このことから、ヒト由来細胞内において、ミトコンドリアの機能が活性化することで、熱産生、即ちエネルギー消費を引き起こし、さらには細胞内でエネルギー源となる糖や脂質の代謝を活性化させることが知られている(非特許文献2)。
【0004】
これまで、運動機能改善剤について、抗疲労剤として、ビタミン類(特許文献1)、カツオやマグロの多量に含まれるイミダゾール化合物(特許文献2)、オルニチン(特許文献3)などが知られている。抗酸化物質として知られているグルタチオンは、特許文献3では、オルニチンと相乗効果により、ストレス性抗疲労効果があることが記載されている。
【0005】
しかし、グルタチオンが、運動機能を維持、向上させることについては、これまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−138170号公報
【特許文献2】特開2002−338473号公報
【特許文献3】国際公開番号WO2007/142286
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cell,92,829−838,1998
【非特許文献2】Cell,98,115−124,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、安全な物質で運動機能を維持、向上させる、運動機能向上剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、グルタチオンに筋肉中のpHの低下を抑制する機能と、PGC−1αを活性化し、ミトコンドリアDNAの産生量が増加することを見出し、本願発明を完成させた。
【0010】
本発明は、
(1)グルタチオンを有効成分として含む、ミトコンドリア活性(ミトコンドリアDNA量増加)による運動機能性向上剤、
(2)グルタチオンを有効成分として含む、筋肉pH低下抑制による運動機能性向上剤、
(3)グルタチオンを有効成分として含む、ミトコンドリア活性(ミトコンドリアDNA量増加)及び筋肉pH低下抑制による運動機能性向上剤。
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、筋肉中のpH低下を抑制する効果により、運動機能を持続させることができる。また、PGC-1αの活性化によりミトコンドリアが活性化するため、体内中の脂肪の取り込みや脂肪の燃焼が効率的に進むため、運動機能の維持だけでなく、体内の脂肪代謝を促進する効果を有する。そのため、糖尿病などの生活習慣病を予防する効果も有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】骨格筋におけるpH(グルタチオン)
図2】骨格筋におけるpH(ビタミンC)
図3】骨格筋におけるPGC-1α発現量(グルタチオン)
図4】骨格筋におけるPGC-1α発現量(ビタミンC)
図5】骨格筋におけるミトコンドリアDNA量 (グルタチオン)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の運動機能向上とは、疲労を抑制することではなく、競技等における運動実行力の向上から一般的なジョギング、ウオーキングのような軽度の運動実行力を向上させる機能である。また、運動時だけでなく平常時や歩行等の日常生活における体内の脂肪代謝を促進する機能も含む。
【0014】
本願発明の筋組織中のpH低下抑制とは、一般的には、筋組織中の乳酸の蓄積により筋肉中のpHが低下し、酸性化する。筋組織中のpHが低下することにより、筋組織の代謝活性が低下し、運動を持続することができなくなる。本発明は、筋組織中のpH低下を抑制するため、運動を持続させることが可能であり、さらに運動だけでなく、日常生活における歩行等においても、同様な効果を有するため、日常生活におけるグルコース等の消費が活発化する。
【0015】
pGC1αとは、Peroxisome proliferator-activated receptor γ co-activator 1αであり、ミトコンドリアの合成を促進する働きを有すること、血液中のブドウ糖(血糖)を骨格筋に取り込む糖輸送体であるGLUT4を増加させることがしられている。また、ヒトの筋肉でのPGC1α発現量が糖尿病や老化によってミトコンドリア機能とともに低下し、PGC1αはエネルギー消費量の低下によるメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の疾患治療標的となることが知られている。
【0016】
本発明は、筋組織中のpH低下抑制機能とPGC1αを活性化することで、ミトコンドリアDNA量を増加させ、結果的にミトコンドリアの合成を促進している。そのため、本発明は、生活習慣病の予防として使用することもできる。
【0017】
本発明でいうグルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンの3アミノ酸から構成されるトリペプタイドである。また、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオンあるいはこれらの混合物でもよい。還元型グルタチオンとはγ−L−Glu−L−Cys−Glyの構造を有するトリペプチドを表し、酸化型グルタチオンとは還元型グルタチオン2 分子がSS結合により結合したものである。グルタチオンの形態は、グルタチオンを有効成分として含有するものであれば何でもよい。
【0018】
本願の運動機能改善効果を得るためには、前段のグルタチオンを有効成分として含むものを投与する。投与の方法は、特に限定されず、経口投与、静脈内、腹膜内もしくは皮下投与等の非経口投与をあげることができる。具体的には、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、浸剤・煎剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、流エキス剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤等の非経口剤のいずれでもよい。
【0019】
グルタチオンを含有する酵母を経口投与することもできる。グルタチオンを多く含有する酵母としては「ハイチオンコーボMG」(興人ライフサイエンス社製)、グルタチオンを含有する酵母エキスとしては「ハイチオンエキスYH」(興人ライフサイエンス社製)などがある。
【0020】
本発明の投与量は、前述の機能が発現する量でれば特に限定されない。ヒトに投与する場合の投与量および投与回数は、投与形態、被投与者の年齢、体重等により異なるが、成人一日当り、グルタチオンを通常は50mg〜30g、好ましくは100mg〜10g、特に好ましくは200mg〜3gとなるように一日一回乃至数回投与する。
【0021】
投与間隔は、特に限定されない。継続的に投与することが好ましい。通常は1日間〜 1年間、好ましくは1週間〜3ヶ月間である。なお、本発明の製剤は、ヒトだけでなく、ヒト以外の動物に対しても使用することができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0023】
本発明及び実施例における測定条件は以下の通りである。
(筋組織pHの測定)
麻酔後, 微小ガラス電極(CMN−141, Chemical Instruments)を用いて前脛骨筋と腓腹筋の間質pHを測定した。
【0024】
(PGC−1α活性の測定)
筋中のPGC−1α量をwestern-blottingにより測定した。安静群の平目筋をホモジナイズし, BCA法(BCATM Protein Assay Kit, Thermo SCIENTIFIC)を用いてタンパク質濃度を測定した。調製したタンパク質サンプルを10%ゲル(Wako)に流し込み, 電気泳動により分離し, 転写装置(iBlot, Invitrogen)を用いてメンブレンに転写した。30分間のブロッキング後(EzBlockChemi, ATTO CORPORATION), Tris buffered saline(BIO-RAD Laboratories)-Tween20(Wako)、TBS−Tで5分間, 3回洗浄し, 1次抗体にanti−PGC−1α抗体(CHEMICON International)を用いて室温で60分間反応させた。TBSTで5分間, 3回洗浄し, 2次抗体にanti-rabbit抗体(GE Healthcare)を用いて室温で60分間反応させた。TBSTで5分間, 3回洗浄し, 発色剤(ECL plus, GE Healthcare)を4分間反応させた。画像解析装置(ImageQuant LAS 4000, GE Healthcare)を用いてバンドを検出し, 数値化した。その後, コントロール群に対する相対比を求めた。
【0025】
(ミトコンドリアDNAの測定)
安静群の平目筋をDNA分離試薬(DNA zol BD Reagent, Invitrogen)でホモジナイズした後,DNAを抽出した。β−actin(核DNAコード)とcytochrome oxidase II(COX−II)(ミトコンドリアDNAコード)をpolymerase chain reactionで増幅し, DNAコピー数を定量した。両者の比を用いてミトコンドリアDNA(mtDNA)量を求めた。
【0026】
以下の方法で、グルタチオンの運動機能性向上効果を測定した。
試験例1
飼育方法および実験プロトコール
実験動物には7週齢のICR雄性マウス(清水実験材料)を用いて実験を行った。1週間の予備飼育後, 体重をもとにグルタチオン群(n=21)と対照群(n=21)の2群にわけた。グルタチオン(興人ライフサイエンス株式会社)を2.0%溶液に調整し, グルタチオン群に5μl/g体重を1日1回,2週間経口投与した。対照群には蒸留水を同量,同期間経口投与した。飼育室は12時間の明暗サイクルが保たれ,プラスティックゲージ内で水と飼料は自由に摂取できるものとした。
最終日にさらに対照安静群(n=13), 対照運動群(n=8),グルタチオン安静群(n=13)およびグルタチオン運動群(n=8)の4群にわけた。運動群にはトレッドミル走運動を負荷し, その後, 全群解剖を行った。
【0027】
試験例2
運動および解剖プロトコール
運動負荷試験は, トレッドミル(MK680, 室町機械)を用いた。運動負荷実施日に, 安静群は運動負荷を行わず解剖し, 運動群には速度25m/分で30分間のトレッドミル走運動を負荷し, 運動負荷終了直後に解剖を行った。麻酔下にて筋組織pHを測定した後, 両脚の平目筋を摘出した。筋肉はドライアイスで凍結後, 測定まで−80℃で保存した。
【実施例1】
【0028】
筋組織pH
筋組織pHは, 安静時と比較して運動後で有意に低値を示した(p < 0.001)。また, 対照運動群と比較してグルタチオン運動群で有意に高値を示した(p < 0.05)。(図1図2
比較として、ビタミンCをグルタチオンと同様に投与したデータを取得した。
【実施例2】
【0029】
骨格筋PGC−1αおよびmtDNA
平目筋におけるPGC−1α発現量は対照群と比較してグルタチオン群で有意に高値を示した(p < 0.05)。mtDNA量(COX−II/β−actin)の相対比は、対照群と比較してグルタチオン群で有意に高値を示した(p < 0.05)。(図3図4
比較としてビタミンCのPGC−1αの発現量をグルタチオンと同条件でデータを取得した。
【0030】
データはすべて平均値±標準誤差で示した。4群間の比較には二元配置分散分析を行った後, 多重比較検定(Bonferroni)を行った。2群間の比較にはStudentのt検定を行った。有意水準は5%とした。
【0031】
測定の結果、グルタチオンを投与した群については、筋組織pHの低下が見られず、PGC−1α発現量の増加、mtDNA量の増加が見られた。このことから、グルタチオンを投与することで、運動機能の向上が確認された。一方、ビタミンCでは、グルタチオンの効果が確認されなかった。
【0032】
以上より、グルタチオンを有効成分として含む、安全な運動機能性向上剤を提供することができる。また、PGC−1αの活性化により、運動時だけでなく、安静時においても、筋肉組織中の代謝を活性化させ体内の脂肪代謝を促進するため、糖尿病などの生活習慣病を予防することも可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5