(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記機能層(14)を形成する熱可塑性樹脂が、ポリメタクリル酸メチル樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリプロピレン樹脂,ABS樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の複合シート(20)。
前記溶融接着充填層(12)又は中間層(16)の少なくとも何れか一方に、波長が380〜500nmの電磁波を吸収或いは拡散させる有色材料が配合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合シート(20)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記ポリオレフィン樹脂は、その殆どが炭素と水素からなる極性の低い化学的に安定なプラスチックであり、他の樹脂に比べて透湿性や酸素透過性が極めて低い反面、表面の濡れ性が悪いために他の材料或いは他のプラスチックとの接着が極めて難しく、一般的には接着しないとされている。
つまり、特許文献3に記載のように、和紙,不織布,織物及び畳表などの天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材とポリオレフィン樹脂フィルムとを単に熱圧着させただけでは、これらの布帛素材と樹脂フィルムとが強固に接着された耐久性の高い複合シートを製造することができないという問題が有った。
【0007】
そこで、本発明の主たる課題は、和紙,不織布,織物及び畳表などの天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材と強固に接着できると共に、透湿性や酸素透過性が極めて低く、当該布帛素材に対して優れた自動車内装材,鉄道車輛内装材,住宅部材及び家電部材としての適性を賦与することができる樹脂フィルムを提供することである。
また、本発明の更なる課題は、このような樹脂フィルムを和紙,不織布,織物及び畳表などの天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材と複合ラミネート化し、自動車内装材,鉄道車輛内装材,住宅部材及び家電部材として好適な複合シートと樹脂成形部材とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における第1の発明は、
天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材18の少なくとも片面に取着される樹脂フィルム10であって、
メルトフローレート(MFR:試験条件は170℃,2.16kg荷重)が0.5g/10分より大きく且つ54.0g/10分未満のオレフィン系樹脂からなり、該オレフィン系樹脂が変性ポリオレフィン樹脂を含有する溶融接着充填層12と、
熱可塑性樹脂からなり、前記溶融接着充填層12の表面に積層される機能層14とで構成されていることを特徴とする樹脂フィルム10である。
【0009】
この発明では、メルトフローレート(MFR:試験条件は170℃,2.16kg荷重)が0.5g/10分より大きく且つ54.0g/10分未満で且つ変性ポリオレフィン樹脂を含有するオレフィン系樹脂で樹脂フィルム10の溶融接着充填層12が形成されているので、樹脂フィルム10と布帛素材18とを熱圧着させると、当該布帛素材18の深部にまで溶融接着充填層12が侵入し、主としてアンカー効果によって樹脂フィルム10と布帛素材18とが強固に接着される。
【0010】
ここで、溶融接着充填層12を構成するオレフィン系樹脂のメルトフローレートは、上述のように0.5g/10分より大きく且つ54.0g/10分未満の範囲内であるのが好ましい。メルトフローレートが0.5g/10分以下の場合には、特に緻密な布帛素材18に対する溶融接着充填層12の含浸性や接着性が劣るようになり、逆に同54.0g/10分以上の場合には、フィルム製膜性が悪くなり、とりわけインフレーション成形でのフィルム製膜が著しく悪化するようになるからである。
また、上記の発明において、「天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材18」として、和紙,不織布,織物及び畳表からなる群より選ばれた少なくとも1つを例示することができる。
【0011】
上記の発明においては、溶融接着充填層12と機能層14との間に、オレフィン系のポリマーアロイもしくはポリマーブレンドからなる中間層16を更に介層するが好ましい。このような中間層16を介層することによって、後述するように機能層14をオレフィン系樹脂以外の樹脂で形成した場合であっても、溶融接着充填層12と機能層14とを強固に接合することができるようになる。
【0012】
また、本発明においては、上記機能層14を形成する熱可塑性樹脂が、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA),ポリカーボネート樹脂(PC),ポリプロピレン樹脂(PP),ABS樹脂(ABS),ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET) やポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとしたエステルエラストマーなどのポリエステル系樹脂,ポリエチレン樹脂(PE),ポリスチレン樹脂(PS),ポリウレタン樹脂(PU)からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。この場合、上記の機能層14に各樹脂それぞれが有する機能を賦与することができる。
【0013】
さらに、本発明においては、前記溶融接着充填層12又は中間層16の少なくとも何れか一方に、波長が380〜500nmの電磁波を吸収或いは拡散させる有色材料を配合するのが好ましい。
通常、紫外線吸収剤を配合する一般的なプラスチックの耐光処方では380nm以下の波長の紫外線を吸収或いは拡散させるが、「波長が380〜500nmの電磁波を吸収或いは拡散させる有色材料を配合する」ことにより、従来の耐光処方と併用することで、より幅広い波長域の紫外線やこれに近似する可視光線を吸収或いは拡散させることができ、樹脂フィルム10が接着された布帛素材18の変色や劣化をより一層効果的に防止することができる。
【0014】
また、「波長が380〜500nmの電磁波を吸収或いは拡散させる有色材料」を溶融接着充填層12又は中間層16の少なくとも何れか一方に配合するようにしているので、当該樹脂フィルム10を布帛素材18に貼着した際に最表面側となる機能層14は透明で光沢感に優れたままとなる。このため、このような樹脂フィルム10を布帛素材18の表面に貼着するだけで、布帛素材18に耐光性の彩色を施すことができるのに加え、布帛素材18の表面を鏡面状に仕上げることができるようになる。
なお、「波長が380〜500nmの電磁波を吸収或いは拡散させる有色材料」としては、赤褐色,マルーン,えんじ色なども含む茶系の或いは黒系の染料や顔料、無機系紫外線吸収剤、酸化鉄系紫外線吸収剤などを例示することができる。
【0015】
本発明における第2の発明は、天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材18の少なくとも表面側に、上記第1の発明の何れかに記載の樹脂フィルム10が前記溶融接着充填層12の融点以上の温度で熱圧着されていることを特徴とする複合シート20である。
ここで、本発明(第2の発明)においては、天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材18の裏面と該裏面側に熱圧着される樹脂フィルム11との間、或いは、天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材18の裏面に熱圧着された樹脂フィルム11の外表面側に、当該樹脂フィルム11の融点よりも高い温度での形状維持が可能な繊維を主体とした不織布34を介装、或いは、積層するのが好ましい。
【0016】
また、本発明における第3の発明は、上記第2の発明の複合シート20を用い、該複合シート20の裏面に、熱可塑性の基材樹脂30を射出成形することによって両者を一体化させるとともに、所定の形状に成形して得たことを特徴とする樹脂成形部材32である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、和紙,不織布,織物及び畳表などの天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材と強固に接着できると共に、透湿性や酸素透過性が極めて低く、当該布帛素材に対して優れた自動車内装材,鉄道車輛内装材,住宅部材及び家電部材としての適性を賦与することができる樹脂フィルムを提供することができる。また、本発明の樹脂フィルムを用いれば、自動車内装材,鉄道車輛内装材,住宅部材及び家電部材として好適な複合シートと樹脂成形部材とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の樹脂フィルムおよびこれを用いた複合シート並びに樹脂成形部材について、図面を参照しながら説明する。
本発明の樹脂フィルム10は、和紙,不織布,織物及び畳表と言った天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材18(
図2参照)の少なくとも片面に取着され、当該布帛素材18を保護・装飾するためのもので、
図1(a)に示すように、溶融接着充填層12と機能層14とで構成されたものと、
図1(b)に示すように、溶融接着充填層12と機能層14との間に中間層16が介層された構造のものとがある。
樹脂フィルム10の厚みは、特に限定されるものではないが、30〜500μmの範囲であることが好ましい。樹脂フィルム10の厚みが30μm未満の場合には、布帛素材18表面の保護・装飾用材料として必要な十分な強度を維持するのが困難になり、逆に、樹脂フィルム10の厚みが500μmより大きい場合には、当該樹脂フィルム10が剛直になり過ぎて布帛素材18表面の保護・装飾用材料として必要な柔軟性(曲面追従性)が損なわれるようになるからである。
【0020】
溶融接着充填層12は、樹脂フィルム10を布帛素材18の表面に取着する際に、熱溶融させて布帛素材18の内部へと浸透させ、該布帛素材18の組織の間に充填させる層で、JIS K 7210に準拠して測定したメルトフローレート(MFR:試験条件は170℃,2.16kg荷重)が0.5g/10分より大きく且つ54.0g/10分未満、好ましくは0.8〜40.0g/10分、より好ましくは1.0〜10.0g/10分のオレフィン系樹脂で形成されている。上述したように、MFRが0.5g/10分以下では、布帛素材18に対する溶融接着充填層12の含浸性や接着性が劣るようになり、逆にMFRが54.0g/10分以上になると、フィルム製膜性が悪くなり、とりわけインフレーション成形でのフィルム製膜が著しく悪化するようになる。
【0021】
ここで、上述したように、ポリオレフィン樹脂は極性の低い化学的に安定なプラスチックであり、仮にMFRを高くして熱溶融時の流動性を上げたとしても、表面の濡れ性が悪いため、布帛素材18や他の樹脂との接着が極めて難しい。そこで、本発明の樹脂フィルム10では、布帛素材18や他の樹脂に対する接着性を向上させるために、溶融接着充填層12を構成するオレフィン系樹脂に、該オレフィン系樹脂或いはオレフィン系樹脂と他の樹脂との共重合体を、α,β−不飽和カルボン酸やその誘導体(例えばアクリル酸やアクリル酸メチル)、又は脂環族カルボン酸やその誘導体(例えば無水マレイン酸)などで変性(例えばグラフト変性)させた変性ポリオレフィン樹脂を配合している。
【0022】
この変性ポリオレフィン樹脂は、無極性のポリオレフィン樹脂に極性基を導入し、布帛素材18や他の樹脂と云った異素材との接着性を付与するものであり、溶融接着充填層12を形成するオレフィン系樹脂全体に占めるこの変性ポリオレフィン樹脂の配合割合は2重量%〜80重量%の範囲であるのが好ましく、より好ましくは5重量%〜20重量%の範囲である。溶融接着充填層12を形成するオレフィン系樹脂全体に占める変性ポリオレフィン樹脂の配合割合が2重量%未満の場合には、布帛素材18へのなじみが悪くなり含浸性も低下するようになるからであり、逆に80重量%を超える場合には、含浸性が極めて良くなる反面、布帛素材18の表面に残る樹脂の量が少なくなり機能層14(或いは中間層16)との接着強度が低下するようになる虞があるからである。
【0023】
機能層14は、樹脂フィルム10を布帛素材18に取着して複合シート20を構成する際に、最も表側(或いは最も裏側)に配設される層である。この機能層14は、これを形成する樹脂に固有の機能や性質を発揮させるための層である。したがって、本発明の樹脂フィルム10を用いて製造した複合シート20を自動車や鉄道車輛の内装用途で使用する場合には、この機能層14をポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA),ポリカーボネート樹脂(PC),ポリプロピレン樹脂(PP),ABS樹脂(ABS),ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)やポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとしたエステルエラストマーなどのポリエステル系樹脂,ポリエチレン樹脂(PE),ポリスチレン樹脂(PS),ポリウレタン樹脂(PU)からなる群より選ばれた少なくとも1種で形成するのが好ましい。例えば、機能層14をポリウレタン樹脂で形成した場合には表面の肌触りが良くなり、機能層14をABS樹脂で形成した場合には耐衝撃性が向上すると云ったように、この機能層14を介して、樹脂フィルム10の表面(ひいては和紙,不織布,織物,畳表などの天然繊維や化学・合成繊維からなる布帛素材18の表面)に、上記の各樹脂それぞれに固有の機能を賦与することができる。
【0024】
また、後述するように、本発明の樹脂シート10を用いて製造した複合シート20と基材樹脂30とを接合させて樹脂成形部材32を製造する際に(
図4参照)、機能層14を構成する樹脂とその機能層14に接合される基材樹脂30とを同一或いは同種のものにすることによって、複合シート20と基材樹脂30とを高い層間強度で強固に接合一体化させることができるようになる。
【0025】
中間層16は、
図1(b)に示すように、必要に応じて、溶融接着充填層12と機能層14との間に介層される層である。上述したようにオレフィン系樹脂は、極性の低い化学的に安定なプラスチックであり、仮に溶融接着充填層12に変性ポリオレフィン樹脂を配合したとしても、機能層14を構成する樹脂の種類などによっては、溶融接着充填層12と機能層14との間に十分な層間強度を確保することが出来ない場合がある。そのような場合、溶融接着充填層12と機能層14との間にオレフィン系のポリマーアロイもしくはポリマーブレンドからなる中間層16を介層するのが好ましい。
ここで、オレフィン系のポリマーアロイもしくはポリマーブレンドに、オレフィン系樹脂と共に配合する原料樹脂としては、機能層14を構成する樹脂と同じか或いは同種のものを用いるのが好ましい。そうすることで、この中間層16を介して、溶融接着充填層12と機能層14とを高い層間強度で強固に接合することができるようになる。
【0026】
以上のような各層12,14,16で構成された樹脂フィルム10を製造する際には、インフレーション法、Tダイ法またはチューブラー法など公知のフィルム製造方法を採用することができる。また、製造効率を向上させると共に、在庫管理などの負担を軽減させ、製品の取扱性を向上させるためには、各層12,14,16を製膜と同時に積層・一体化させるのが好ましいが、各層12,14,16をそれぞれ別体で製造し、布帛素材18の表面に取着する際に、所定の順番で積層して熱圧着するようにしてもよい。
【0027】
なお、樹脂フィルム10を形成する各層12,14,16には、原料樹脂のほか、必要に応じてブロッキング防止剤,滑剤,紫外線吸収剤,耐候安定剤,難燃剤,波長が380〜500nmの電磁波を吸収或いは拡散させる有色材料などの添加剤を添加してもよい。
【0028】
ここで、波長が380〜500nmの電磁波、すなわち波長が380〜400nmの紫外線と波長が400〜500nmの前記紫外線に近似する可視光線とを吸収或いは拡散させる有色材料、より具体的には、赤褐色,マルーン,えんじ色なども含む茶系の或いは黒系の染料や顔料、無機系紫外線吸収剤、酸化鉄系紫外線吸収剤などを添加する場合には、溶融接着充填層12又は中間層16の少なくとも何れか一方に添加するのが好ましい。有色であるこれらの薬剤を溶融接着充填層12又は中間層16の少なくとも何れか一方に配合することにより、機能層14は透明で光沢感に優れたままとなる。そうすると、このように構成した樹脂フィルム10を布帛素材18の表面に熱圧着するだけで、布帛素材18に耐光性の彩色を施すことができると共に、当該布帛素材18の表面を鏡面状に仕上げることができるようになる。
【0029】
次に、
図2を参照しつつ、以上のように構成される樹脂フィルム10を用いた複合シート20の製造する方法について説明する。
複合シート20とは、布帛素材18の少なくとも片面に上記の樹脂シート10をラミネートして当該布帛素材18の表面を保護・装飾したものである。
布帛素材18は、上述したように、天然繊維や化学・合成繊維からなる、手すき和紙,機械すき和紙,不織布,織物(絹織物,毛織物,綿織物,麻織物,化学繊維織物及びその混合織物など),畳表などの総称であり、厚さ0.1〜2.0mm程度のシート状のものである。ここで、上記の和紙や不織布は湿式抄紙方法や乾式抄紙方法などがあり、織物や畳表の織り方は手織りや機械織りなど数多くの織り方があるが、これら布帛素材18の製造方法は前記の方法に限定されるものではない。
【0030】
上記の布帛素材18と前述の樹脂フィルム10とを積層一体化させて複合シート20を製造する際には、
図2に示すような熱ロール22を用いる。具体的には、少なくとも布帛素材18の片面に樹脂フィルム10を積層した後、この積層したシートを、溶融接着充填層12を構成する樹脂の融点もしくはそれ以上の温度に加熱した上下一対の熱ロール22の間に送り込み所定の圧力を加えながら熱圧着し、その後冷却することによって、
図3に示すように、布帛素材18(
図3中、上段(a)のものは和紙と不織布との積層体、下段(b)のものは織物を使用。)の内部に溶融接着充填層12が浸透し、両者が強固に接着された複合シート20が完成する。
【0031】
なお、
図2では、布帛素材18の上側に中間層16を有さない2層構造の樹脂フィルム10を積層し、同下側に中間層16を有する3層構造の樹脂フィルム10を積層する場合を示しているが、布帛素材18と樹脂フィルム10との組合せはこれに限定されるものではない。
また、複合シート20の製造方法は、上記のように上下一対の熱ロール22を用いて連続的に複合シート20を製造する方法のみならず、所定の長さに断裁した樹脂フィルム10及び布帛素材18を積層して平面プレス機で熱圧着する方法(バッチ式)などであってもよい。
【0032】
さらに、複合シート20を製造する際には、必要に応じて次のような改良を加えるのが好適である。すなわち、
図4(a)に示すように、布帛素材18の表面に樹脂フィルム10を積層すると共に、布帛素材18の裏面に裏面側用の樹脂フィルム11(勿論、この樹脂フィルム11が本発明の樹脂フィルム10であってもよい。)を積層して熱ロール22で熱圧着する際に、布帛素材18の裏面と該裏面側に熱圧着される樹脂フィルム11との間に、当該樹脂フィルム11の融点よりも高い温度での形状維持が可能な繊維を主体とした不織布34を介装させる。すると、この不織布34が、
図4(b)に示すように、裏面側用の樹脂フィルム11の内部全体から外表面に亘って配置されるようになり、当該樹脂フィルム11があたかもFRP(Fiber Reinforced Plastics)のような構造となる。その結果、後述するように射出成形を用いて樹脂成形部材32を製造する際に、加熱・溶融状態の基材樹脂30が有する熱や圧力、或いは流れによって樹脂フィルム11の外表面側に形成された(当該基材樹脂30との)接着層が溶融・流出するのを防止して、両者の間で接着不良が生じるのを防止することができる。加えて、樹脂フィルム11の外表面に散在する不織布34と基材樹脂30との間でアンカー効果が発揮され、両者を強固に接合させることができるようになる。また、上述したように、樹脂フィルム11がFRPのような構造になっていることから、複合シート20に剛性を付与することもできるようになる。
【0033】
また更に、
図5(a)に示すように、布帛素材18の表面に樹脂フィルム10を積層すると共に、布帛素材18の裏面に裏面側用の樹脂フィルム11(勿論、この樹脂フィルム11も本発明の樹脂フィルム10であってもよい。)を積層して熱ロール22で熱圧着する際に、樹脂フィルム11の外表面側に、当該樹脂フィルム11の融点よりも高い温度での形状維持が可能な繊維を主体とした不織布34を積層させる。すると、この不織布34が、
図5(b)に示すように、樹脂フィルム11外表面側の内部から外表面に亘って配置されるようになる。その結果、上述の場合と同様に、射出成形を用いて樹脂成形部材32を製造する際に、加熱・溶融状態の基材樹脂30が有する熱や圧力、或いは流れによって樹脂フィルム11の外表面側に形成された(当該基材樹脂30との)接着層が溶融・流出するのを防止して、両者の間で接着不良が生じるのを防止することができるのに加え、上述の場合よりも樹脂フィルム11の外表面により多くの不織布34が配置されていることから、不織布34と基材樹脂30との間でより多くのアンカー効果が発揮され、両者をより一層強固に接合させることができるようになる。なお、このように不織布34を樹脂フィルム11の外表面側に積層した場合、複合シート20の剛性を上げることはあまり期待できないが、複合シート20の柔軟性を損なうことはない。
【0034】
なお、
図4(b)及び
図5(b)に示した例では、不織布34を「樹脂フィルム11の融点よりも高い温度での形状維持が可能な繊維を主体とした」ものに限定しているが、「樹脂フィルム11の融点よりも高い温度での形状維持が可能な繊維」とは、単に樹脂フィルム11よりも融点が高い熱可塑性繊維に限られるものではなく、例えば、レーヨンやリヨセル等の再生セルロース繊維やコットンリンターなども含まれる概念である。
更に、不織布34の製造方法として、乾式及び湿式の何れの方法も採用することができる。
【0035】
次に、
図6を参照しつつ、上記のように構成された複合シート20を用いて、自動車内装材などの樹脂成形部材32を製造する方法について説明する。
まず始めに、
図6(a)に示すように、両面に樹脂フィルム10が熱圧着された複合シート20を、射出成形装置24の第1型26(雌型)に装着する。なお、この複合シート20は、予め真空成形等で第1型26の内面に沿う所定の形状に成形しておいてもよい。
続いて、
図6(b)に示すように、図示しない射出ユニットのノズルから第2型28に設けられたゲート28aを介してキャビティA内に加熱・溶融された熱可塑性の基材樹脂30を押し出し、第1型26と第2型28とを型締めする。ここで、基材樹脂30としては、ポリプロピレン樹脂,ABS樹脂,AS樹脂及びポリカーボネート/ABS・アロイ,ポリカーボネートからなる群より選ばれた少なくとも1種を用いるのが好適である。
そして、複合シート20からなる表面保護・装飾部分と、基材樹脂30からなる本体部分とを冷却・硬化させて樹脂成形部材32を完成させた後、
図6(c)に示すように、完成した樹脂成形部材32をキャビティAから離型する。
【0036】
この樹脂成形部材32の製造方法において、複合シート20の基材樹脂30と接する側の表面に位置する樹脂フィルム10の機能層14と、この機能層14に接合される基材樹脂30とを同一或いは同種のものにしておくのが好ましい。こうすることにより、複合シート20と基材樹脂30とを高い層間強度で強固に接合一体化させることができるようになるからである。
また、第1型26の表面を鏡面仕上げしておけば、完成する樹脂成形部材32の表面にその鏡面が転写されるので、樹脂成形部材32に対して別途、鏡面加工を施す手間を省略することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の樹脂フィルムについて、具体的な実施例及び比較例を掲げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例の各樹脂フィルム(より具体的には、溶融接着充填層フィルム)の特性評価は以下の方法で行なった。
【0038】
1.樹脂フィルムの特性評価
(1)溶融接着充填層フィルムの製造特性の評価
(a)溶融接着充填層を構成する樹脂のMFR:JIS K 7210に準拠して、170℃,2.16kg荷重の試験条件で測定した。
(b)Tダイ加工性:溶融接着充填層を構成する組成の樹脂物混合物を、スクリュー直径35mmの単軸押出機を使用して、ダイス内の溶融樹脂の流れが均一になるように設計した幅400mmのTダイに導入し、ダイス出口の樹脂温度170℃の条件で押出した。なお、リップギャップは1.0mmとした。そして、ダイスからでてきた溶融樹脂シートを30℃の冷却ロールで冷却し、層厚みが50μmのオレフィン系フィルムを得ると共に、Tダイ加工性を目視により観察し、◎(優)、○(良)、△(可)、×(不可)の4段階で評価した。
(c)インフレーション加工性:単層フィルムを成形する場合として、溶融接着充填層を構成する組成の樹脂組成物を、35mm押出機を用い、押出温度200℃、吐出量5kg/hrで溶融混練し、周長157mm(直径50mmφ)、リップクリアランス0.5mmの円形リップより筒状に押出し、エアーを当てながら冷却し、厚み50μmのインフレーションフィルムを作製した。又、多層フィルムを成形する場合として、溶融接着充填層を構成する組成の樹脂組成物を内層とし、ポリプロピレン樹脂(ランダムポリプロピレン:日本ポリケム株式会社製 ウインテックWFX4TA)を中間層及び外層として、ダイス温度190℃にて三層の共押出インフレーションフィルムを作製した。なお、押出機口径は、内層/中間層/外層=200/200/200(単位:mmφ)で、層構成比は、内層/中間層/外層=1/1/1(総厚さ=150μm)、積層体成形速度は8m/分に設定した。そして、各インフレーションフィルム成形過程について、インフレーション加工性を目視により観察し、◎(優)、○(良)、△(可)、×(不可)の4段階で評価した。
【0039】
(2)溶融接着充填層フィルムの物性評価
(a)含浸性:厚さ0.20mmの機械すき和紙(雲竜紙)の上下両面に溶融接着充填層となる厚さ0.05mmの実施例又は比較例のフィルムをセットし、更にその外側に厚さ0.10mmのポリプロピレンフィルム(機能層)を重ね合わせ、ホットプレスを用いて180℃、1MPaで30秒間熱圧着させた。その後、プレスしたまま常温まで冷却し、和紙シート(=複合シート)を得た。得られた和紙シートの略中央部分から幅30mm×長さ100mmの試料を切り出し、木口面を200倍に拡大したSEM写真を撮り、布帛素材内部に対する溶融接着充填層の浸透具合を目視により観察し、◎(優)、○(良)、△(可)、×(不可)の4段階で評価した。
(b)密着性:上記含浸性評価と同じ方法で作成した試料を用い、表裏両面のポリプロピレンフィルムそれぞれを引張試験機のクランプにセットし、このポリプロピレンフィルムを引っ張り、和紙シートとポリプロピレンフィルムとの剥離強度を測定した。そして、得られた結果を◎(優)、○(良)、△(可)、×(不可)の4段階で評価した。
【0040】
[実施例1]
高透明ポリプロピレン樹脂として日本ポリプロ社製のウィンテック(登録商標;品番WEG6NT)を、分子量調整用高MFRポリプロピレン樹脂として日泉化学社製のPP2101を準備した。そして、高透明ポリプロピレン樹脂80重量%及び分子量調整用高MFRポリプロピレン樹脂20重量%を混合し、更に、上記樹脂混合物100重量部に対してアデカ社製の紫外線吸収剤アデカスタブ(登録商標;品番1413)、BASF(旧チバ・ジャパン)社製の酸化防止剤IRGANOX(登録商標;品番1010)をそれぞれ0.5重量部加え、これらの混合体を、80メッシュの金網を装着した35mmφのベント付きの押出機を用いて温度200℃でストランド状に押出し、ストランドを水冷した後カットして溶融接着充填層用のコンパウンドを調製した。得られたコンパウンドは90℃で8時間乾燥させた後、その一部を上述した溶融接着充填層フィルムの製造特性の評価に供した。
続いて、このコンパウンドを200℃の製膜温度に設定した35mmφの空冷インフレーション成膜機に投入し、厚さ50μmの溶融接着充填層フィルムを成形した。
得られたフィルムの物性評価結果および係る処方でのフィルム製造特性の評価結果を表1に示す。
【0041】
[実施例2]
高透明ポリプロピレン樹脂として日本ポリプロ社製のウィンテック(登録商標;品番WFX4TA)を、分子量調整用高MFRポリプロピレン樹脂として日泉化学社製のPP2101を、また、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂として三洋化成工業社製のユーメックス(登録商標;品番1010)を準備した。そして、高透明ポリプロピレン樹脂50重量%、分子量調整用高MFRポリプロピレン樹脂40重量%、およびマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂10重量%を混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で溶融接着充填層用のコンパウンドを調製し、又、実施例1と同様の方法で溶融接着充填層フィルムの製造特性及び得られるフィルム物性の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0042】
[実施例3]
変性ポリオレフィン系樹脂として三菱化学社製のモディック(登録商標;品番F534A)を、分子量調整用高MFRポリプロピレン樹脂として日泉化学社製のPP2101を準備し、変性ポリオレフィン系樹脂80重量%と分子量調整用高MFRポリプロピレン樹脂20重量%とを混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で溶融接着充填層用のコンパウンドを調製し、又、実施例1と同様の方法で溶融接着充填層フィルムの製造特性及び得られるフィルム物性の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0043】
[実施例4]
分子量調整用高MFRポリプロピレン樹脂である日泉化学社製のPP2101のみをマトリックス樹脂として溶融接着充填層用のコンパウンドを調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で溶融接着充填層フィルムの製造特性及び得られるフィルム物性の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
高透明ポリプロピレン樹脂である日本ポリプロ社製のウィンテック(登録商標;品番WEG6NT)のみをマトリックス樹脂として溶融接着充填層用のコンパウンドを調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で溶融接着充填層フィルムの製造特性及び得られるフィルム物性の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
分子量調整用高MFRポリプロピレン樹脂として日泉化学社製のPP2101を、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂として三洋化成工業社製のユーメックス(登録商標;品番1010)を準備し、分子量調整用高MFRポリプロピレン樹脂80重量%とマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂20重量%とを混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で溶融接着充填層用のコンパウンドを調製し、又、実施例1と同様の方法で溶融接着充填層フィルムの製造特性及び得られるフィルム物性の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、実施例の溶融接着充填層フィルムでは、製造性及び溶融接着充填層としての機能が共に良好であることが窺える。これに対し、溶融接着充填層を構成する樹脂のMFRが本発明の下限未満である比較例1では、フィルムの製造性は良好で有るものの、得られたフィルムは溶融接着充填層として全く機能しないことが窺える。また逆に、溶融接着充填層を構成する樹脂のMFRが本発明の上限を大きく超える場合には、主にフィルムの製造性が著しく悪化するようになることが窺える。
【0048】
2.和紙シート及びファブリックシートの特性評価
次に、複合シートの代表として、布帛部材に和紙を使用した和紙シートと、布帛部材にジャガード織物を使用したファブリックシートとを取り上げ、以下のように特性評価を行なった。
【0049】
(1)和紙シートの伸張率について
厚さ0.075mmの機械すき和紙(雲竜紙)の表裏両面に、上記実施例1の溶融接着充填層フィルムを介して厚さ0.05mmのポリプロピレンフィルムを熱圧着して、厚さ0.3mmの和紙シートを得た。さらにこの和紙の裏面と溶融接着充填層フィルムの間に0.2mmの不織布を挟んで厚さ0.05mmのポリプロピレンフィルムを熱圧着して、厚さ0.5mmの不織布補強和紙シートを作成した。この和紙シートと不織布補強和紙シート及び樹脂フィルムがラミネートされていない厚さ0.075mmの機械すき和紙(雲竜紙)とについて、以下の方法で伸張率を測定した。
【0050】
すなわち、各シートから幅10mm×長さ200mmの試験試料3本を切り出し、島津精密万能試験機オートグラフを用い、室温15±5℃、湿度30±5%、速度1mm/分、標点距離50mmの条件で引張試験を行い、得られたデータを基に、下式(1)に従って伸張率(%)を算出した。
伸張率(%)=(複合シートの最大点変位(mm))/(布帛素材の最大点変位(mm))×100 …(1)
その結果、下の表2に示すように、和紙を溶融接着充填層フィルムとポリプロピレンフィルムとからなる樹脂フィルムでラミネートすることにより、2.7倍程度伸張し、さらに不織布補強を行うことにより6.3倍の伸張率を示すことが明らかとなった。また、破断面を観察した結果、和紙単体では、繊維の絡み合いが引き延ばされ破断するが、和紙シートはラミネートした和紙が破断した後、ラミネートフィルムが引き延ばされて破断することが、また、不織布補強和紙シートは素材毎では破断せず、一体化したシートとして破断することがわかった。
【0051】
【表2】
【0052】
(2)ファブリック(ジャガード織)シートの伸張率について
厚さ0.3mmファブリック(ジャガード織)の表裏両面に、上記実施例1の溶融接着充填層フィルムを介して厚さ0.05mmのポリプロピレンフィルムを熱圧着して、厚さ0.5mmのファブリックシートを得た。このファブリックシートと樹脂フィルムがラミネートされていない厚さ0.3mmのファブリック(ジャガード織)とについて、以下の方法で伸張率を測定した。
【0053】
すなわち、各シートから幅10mm×長さ200mmの試験試料3本を切り出し、島津精密万能試験機オートグラフを用い、室温15±5℃、湿度30±5%、速度1mm/分、標点距離50mmの条件で引張試験を行い、得られたデータを基に、上記の和紙シートと同じ式(1)に従って伸張率(%)を算出した。
その結果、下の表3に示すように、ファブリックを溶融接着充填層フィルムとポリプロピレンフィルムとからなる樹脂フィルムでラミネートすることにより、1.1倍程度の伸張率を示すことが明らかとなった。また、破断面を観察した結果、ファブリック単体では繊維の絡み合いが引き延ばされ破断するが、ファブリックシートでは素材毎には破断せず、一体化したシートとして破断することがわかった。
【0054】
【表3】
【0055】
(3)和紙シート及びファブリックシートを射出成形に用いる際の金型への追従性について
上記伸張率の測定に用いたものと同様の不織布補強和紙シート及びファブリックシートを準備し、これらの複合シートを日精樹脂工業製の射出成型機NS−60-9Aに装着したテスト金型(凹凸部の深さや曲率などを変えた数種類のものを使用)にセットした。続いて、射出圧;60MPaで1圧50%,2圧50%、射出速度;1速10%,2速10%、射出温度260℃、金型温度50℃の成形条件で、不織布補強和紙シートの裏面側にABS樹脂(テクノポリマー(株)社のテクノABS545)を射出成形し、
図7に示すような、金型への追従性評価用の樹脂成形部材サンプルを得た。そして、各樹脂成形部材サンプルの段差部分ならびに凸部平面における複合シート(とりわけ布帛素材)の破れの有無を目視で確認して金型への追従性を評価した。
その結果、樹脂フィルムでラミネートした複合シートでは、上述したように伸張率が高くなっていることから、予備加熱や成形時の樹脂による加熱効果とも相俟って、さらに金型への追従性が著しく向上し、伸びが必要な形状や深い凹凸等にも対応できることが窺えた。
【0056】
3.自動車内装部材の製造
上記「和紙シート及びファブリックシートの特性評価」に供した和紙シート及びファブリックシートを用いて、以下のとおり、樹脂成形部材である自動車内装オーナメントの製造を行った。
まず始めに、インサート成形用に設計された金型を射出成形機(東洋機械金属製 Si−180IV)に取り付け、金型を所定の温度まで昇温させる。
続いて、成形品の大きさに合わせてカットした和紙シート若しくはファブリックシートを金型固定側に取り付けた位置決めピンに取り付けた後、金型を閉じ、ブロックポリプロピレン樹脂(住友化学社製AZ864)80重量部に、充填剤としてタルクのマスターバッチ(住友化学社製 MF110)20重量部を配合した樹脂を用いて、インサート成形を行った。なお、インサート成形時における樹脂の射出条件は、射出速度30mm/秒、最大射出圧15MPa、シリンダー温度(実測)180℃前後とした。
【0057】
そして、金型に射出した樹脂が硬化した後、型開して金型内から成形体を取り出し、成形体外周にはみ出た複合シートをカットして自動車内装オーナメントを完成させた。なお、塗装外観アップのため、さらにプライマー塗布した後、クリヤー塗装やマット調仕上げにより、深み感を出したり、落ち着いた仕上げにすることも可能である。
以上のようにして得られた自動車内装オーナメントは、耐光性、耐熱性、耐湿性、耐湿熱性、硬さ、密着性、耐衝撃性、耐薬品性、外観など自動車内装材に求められるすべての性能を満たすことができた。