特許第6288849号(P6288849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288849
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】車両用油圧回路
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20180226BHJP
   F16H 61/00 20060101ALI20180226BHJP
   F04C 15/06 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   F04C2/10 341E
   F16H61/00
   F04C15/06 A
   F04C15/06 D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-114419(P2014-114419)
(22)【出願日】2014年6月2日
(65)【公開番号】特開2015-227649(P2015-227649A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】先山 孝洋
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−052682(JP,A)
【文献】 特開2006−233867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/06
F16H 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルタンクと、このオイルタンクのオイルが供給される被駆動体と、前記オイルを吸引し前記被駆動体へ吐出するポンプとを備えるとともに、前記オイルタンクと前記ポンプとの間に前記オイルを通流させる吸入油路が形成され、前記ポンプと前記被駆動体との間に前記オイルを通流させる吐出油路が形成され、
前記吸入油路の少なくとも一部には、エアを溜めるためのエア停止部が形成され
前記ポンプは、オイルを吸引及び吐出するポンプ本体と、ポンプ本体を駆動する駆動部と、内部に前記エア停止部が形成されポンプ本体を前記被駆動体側に固定するブラケットとを備え、
前記ブラケット内には、前記ポンプの軸方向に貫通するように、かつ前記被駆動体側の開口より前記ポンプ側の開口が重力方向下側になるように前記吸入油路が形成されることで、前記吸入油路内の重力方向上部の少なくとも一部には、エアを溜めるためのエア停止部が形成されていることを特徴とする車両用油圧回路。
【請求項2】
前記エア停止部は、前記吸入油路の一部に、前記ポンプから重力方向上方に向けた油路により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用油圧回路。
【請求項3】
前記エア停止部は、オイルの流動方向と異なる方向であって上方に向けて広げられた空間により形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用油圧回路。
【請求項4】
前記車両用油圧回路は、前記ポンプを駆動するためのモータ部を備え、
前記ポンプは、
前記ポンプ本体と、
ポンプケースと、
前記ポンプケースに設けられたポンプ室と、
前記ポンプ室に回転自在に配置されたアウタロータと、
前記モータ部の回転軸と一体回転し、前記アウタロータと協働して前記オイルを吸引して該オイルを吐出する作動室を形成するインナロータと、を有するトロコイド式ポンプであることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の車両用油圧回路。
【請求項5】
前記吐出油路には、この吐出油路の前記オイルの圧力が設定された値以上となった際に、このオイルの圧力を低下させるリリーフ手段が設けられていることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の車両用油圧回路。
【請求項6】
前記リリーフ手段は、前記吐出油路の前記オイルを前記吸入油路に再流入させることを特徴とする請求項に記載の車両用油圧回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用油圧回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両に搭載されているミッション等の油圧装置(被駆動体)にオイルを供給するための車両用油圧回路が知られている。
また、近年、車両の静粛性向上や燃費改善のために、車両の一時停止時にエンジンを一旦オフする、所謂アイドルストップ機能を備えた車両が増えてきている。
このようなアイドルストップ機能を備えた車両に搭載される車両用油圧回路としては、車両のエンジンにより駆動し、油圧装置にオイルを供給する機械式ポンプと、エンジンを停止させた際に機械式ポンプに代わって油圧装置にオイルを供給する電動ポンプと、を備えている。
【0003】
電動ポンプは、オイルタンク(オイルサンプともいう)に貯留されたオイルを、吸入油路及びポンプと直接連通する吸入室を介して吸引し、ポンプと直接連通する吐出室及び吐出油路を介して油圧装置へ向けて吐出するようになっている。また、電動ポンプには、吐出ポート(吐出油路ともいう)から吐出されるオイルの圧力が所定値以上に高くならないように、リリーフバルブが設けられている。リリーフバルブから排出されたオイルは、吸入ポート(吸入油路ともいう)側に戻され、再びポンプ室に流入し、吐出ポートから吐出される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−287316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来技術にあっては、例えば、オイルサンプに貯留されたオイルにエアが混じっていた場合、そのエアが、電動ポンプの不作動時(機械式ポンプ作動中)に浮力によって吸入ポート又は吸入室付近に上昇してきて溜まることがある。吸入ポート又は吸入室に所定量のエアが混入すると、電動ポンプの駆動開始時には、先ず、ポンプにエアが浸入する。すると、電動ポンプのポンピング作用が弱まり、吐出ポートから油圧装置に供給されるオイルの圧力が所定の圧力まで高まるのに時間がかかったり、電動ポンプがオイル自体を吐出できなくなったりするおそれがある。このため、電動ポンプの作動信頼性が低下してしまうという課題がある。このような車両用油圧回路を車両のミッション装置に適用した場合、エンジンを再スタートさせる際にアクセルペダルを踏み込んでも、ミッション内に規定の油圧が作用していないため、実際に車両が加速に転じるまでに時間差が生じ、運転者が違和感を覚えるという課題があった。
【0006】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、オイルの吐出圧を速やかに高めることができると共に、オイルを確実に吐出させることができ、作動信頼性を向上できる車両用油圧回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る車両用油圧回路は、オイルタンクと、このオイルタンクのオイルが供給される被駆動体と、前記オイルを吸引し前記被駆動体へ吐出するポンプとを備えるとともに、前記オイルタンクと前記ポンプとの間に前記オイルを通流させる吸入油路が形成され、前記ポンプと前記被駆動体との間に前記オイルを通流させる吐出油路が形成され、前記吸入油路の少なくとも一部には、エアを溜めるためのエア停止部が形成され、前記ポンプは、オイルを吸引及び吐出するポンプ本体と、ポンプ本体を駆動する駆動部と、内部に前記エア停止部が形成されポンプ本体を前記被駆動体側に固定するブラケットとを備え、前記ブラケット内には、前記ポンプの軸方向に貫通するように、かつ前記被駆動体側の開口より前記ポンプ側の開口が重力方向下側になるように前記吸入油路が形成されることで、前記吸入油路内の重力方向上部の少なくとも一部には、エアを溜めるためのエア停止部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
このように構成することで、吸入油路にエアが溜まっていても、エア停止部にエアを溜めることができるため、電動ポンプの始動後、速やかに油圧装置に供給されるオイルの圧力を高めることができる。
また、吸入油路に存在するエアを、十分にエア停止部内に溜めることができる。
【0009】
本発明に係るエア停止部は、前記吸入油路の一部に、前記ポンプから重力方向上方に向けた油路により形成されていてもよい。
【0010】
このように構成することで、本発明に係る車両用油圧回路は、ポンプ近傍に略オイルだけを貯留することができ、エア停止部に存在するエアが直接ポンプに流入することが阻止される。
【0011】
本発明に係る前記エア停止部は、オイルの流動方向と異なる方向であって上方に向けて広げられた空間により形成されていてもよい。
このように構成することで、本発明に係る車両用油圧回路は、吸入油路に存在するエアを、十分にエア停止部内に溜めることができる。
【0013】
本発明に係る前記ポンプは、前記ポンプ本体と、ポンプケースと、前記ポンプケースに設けられたポンプ室と、前記ポンプ室に回転自在に配置されたアウタロータと、前記モータ部の回転軸と一体回転し、前記アウタロータと協働して前記オイルを吸引して該オイルを吐出する作動室を形成するインナロータと、を有するトロコイド式ポンプであってもよい。
【0014】
ここで、オイルを圧送するポンプとして、ポンプの作動室の容積変化によりオイルを吐出するトロコイド式ポンプを用いた場合、オイルに混入する異物(エア等)によって性能がばらつきやすい。しかしながら、上記のように構成することで、電動ポンプの作動信頼性を向上できる。
【0015】
本発明に係る前記吐出油路には、この吐出油路の前記オイルの圧力が設定された値以上となった際に、このオイルの圧力を低下させるリリーフ手段が設けられていることが好ましい。
このように構成することで、吸入油路、吐出油路及びリリーフ手段を、それぞれ別々に設ける必要がなくなり、一体化できる。このため、部品点数を削減でき、製造コストを低減できると共に、電動ポンプの組付け性を向上できる。
【0016】
本発明に係る前記リリーフ手段は、前記吐出油路の前記オイルを前記吸入油路に再流入させてもよい。
このように構成することで、リターン手段の構成を簡素化できるとともに、小型化できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両用油圧回路は、吸入油路に浸入したエアをエア停止部にとどめることができるため、電動ポンプの始動後、速やかに被駆動部に供給されるオイルの圧力を高めることができる。したがって、本発明は、ポンプがエア噛みすることを防止してオイルの吐出圧を速やかに高めることができるとともに、オイルを確実に吐出させることができ、電動ポンプの作動信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態における車両用油圧回路の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態におけるブラケットをポンプ本体側から視た正面図である。
図3】本発明の実施形態におけるブラケットを接続部材側から視た背面図である。
図4図2のB−B線における斜視断面図である。
図5】本発明の実施形態における車両用油圧回路の変形例である。
図6】本発明の実施形態における車両用油圧回路の一部の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
(車両用油圧回路)
図1は、車両用油圧回路1の概略構成図である。
同図に示すように、車両用油圧回路1は、車両に搭載された被駆動部としてのミッション3と、オイルタンク4と、オイルタンク4に貯留されたオイルをミッション3に供給するための機械式ポンプ5及び電動ポンプ6とこれらをつなぐ各油路を主構成としている。
本実施形態では、ミッション3と電動ポンプ6との間に接続部材2が介装されている。
【0021】
機械式ポンプ5は不図示のエンジン(駆動部)に連結されており、このエンジンの駆動力を利用して駆動するようになっている。通常、車両用油圧回路1は、機械式ポンプ5をメインポンプとして使用し、エンジンが停止した際に機械式ポンプ5に代わって電動ポンプ6を駆動させ、ミッション3にオイルを供給する。
【0022】
また、車両用油圧回路1には、機械式ポンプ5とオイルタンク4とを連結する第1吸入油路7と、機械式ポンプ5とミッション3とを連結する第1吐出油路8と、ミッション3とオイルタンク4とを連結する第1リターン油路(システムリターン油路ともいう)9と、が形成されている。
そして、機械式ポンプ5が駆動すると、第1吸入油路7を介してオイルタンク4から機械式ポンプ5にオイルが吸入され、このオイルが第1吐出油路8を介してミッション3に圧送される。ミッション3で使用されたオイルは、第1リターン油路9を介してオイルタンク4に戻される。
【0023】
接続部材2には、電動ポンプ6とオイルタンク4とを連結する第2吸入油路10と、電動ポンプ6と第1吐出油路8とを連結する第2吐出油路11とが形成されている。
そして、機械式ポンプ5が停止して電動ポンプ6が駆動すると、第2吸入油路10を介してオイルタンク4から電動ポンプ6の後述するポンプ室24にオイルが吸入され、このオイルが第2吐出油路11および第1吐出油路8を介してミッション3に圧送される。
【0024】
また、接続部材2の第2吐出油路11の途中には、逆止弁13が設けられており、機械式ポンプ5を駆動させた際、機械式ポンプ5から圧送されたオイルが第2吐出油路11を逆流しないようになっている。また、機械式ポンプ5によって付与される油圧は、電動ポンプ6による油圧よりも高く設定されており、機械式ポンプ5が作動中に、電動ポンプ6が作動しても逆止弁13が開くことはなく、ミッション3には規定の油圧が付与されるようになっている。
さらに、第2吐出油路11内のオイルの圧力が所定値以上になった場合には、その圧力を開放するために、後述するリリーフバルブ42が、第2リターン油路12を介してオイルを第2吸入油路10に戻すようになっている。
【0025】
(電動ポンプ)
電動ポンプ6は、モータ部(駆動部)14と、モータ部14に連結されモータ部14と同軸上に配置されたポンプ部15と、を備えている。
モータ部14は、例えば樹脂により形成されたモータケース16と、モータケース16内にインサート成形によって固定されたステータ17と、ステータ17の径方向内側に、回転自在に設けられたロータ18と、を備えたいわゆるブラシレスモータである。モータ部14に外部電源(例えば、バッテリ)からの電力を供給することにより、ロータ18が回転する。ロータ18の回転軸19は、ポンプ部15内に向かって突出しており、このポンプ部15と連結されている。
【0026】
ポンプ部15は、モータ部14側に配置され、オイルを吸引及び吐出するポンプ本体21と、ポンプ本体21のモータ部14とは反対側に配置され、接続部材2(被駆動部側)に電動ポンプ6を固定するためのブラケット22と、を備えている。
ポンプ本体21は、モータ部14およびブラケット22に挟持されるように固定されたポンプケース23を有している。ポンプケース23は、例えばアルミダイキャストにより形成されている。ポンプケース23内には、略円筒状のポンプ室24が形成されており、ここに略リング状のアウタロータ25が回転自在に設けられている。
【0027】
また、アウタロータ25の径方向内側には、インナロータ26が偏心した状態で回転自在に設けられている。このインナロータ26に、モータ部14の回転軸19の一端が固定されている。
そして、これらアウタロータ25とインナロータ26とにより、いわゆるトロコイド式ポンプが構成されている。すなわち、アウタロータ25の図示しない内歯と、インナロータ26の図示しない外歯とにより形成される空間の容積を変化させることで、オイルを吸引して吸引したオイルを吐出する作動室27が形成されている。作動室27において、ポンプケース23とアウタロータ25とインナロータ26とブラケット22とで囲まれた空間は、容積変化室27a,27bとして構成されている。
【0028】
図2は、ブラケット22をポンプ本体21側から視た正面図、図3は、ブラケット22を接続部材2側からみた背面図、図4は、ブラケット22を図2のB−B線における斜視断面図である。以下、本発明の要部の詳細構造を図2図4を用いて説明する。
図2図3に示すように、ブラケット22は、例えばアルミダイキャストにより、平坦な端面22a,22b及び側面22c−22gに囲まれて所定の肉厚を以って形成されている。端面22aは、図1に示すポンプケース23の端面23aと接合可能に形成され、端面22bは、接続部材2と接合可能に形成されている。
本実施形態において、図1に示すポンプ本体21とブラケット22とは一体化されている。
このポンプ本体21と一体化されたブラケット22は、側面22eを略下方に向けて底面とし、端面22a,22bを立ち上がらせた姿勢で接続部材2と接合されている。
【0029】
なお、ポンプケース23の端面23aには、このポンプケース23とブラケット22との間のシール性を確保するための図示しないOリングが設けられている。
また、以下の説明では、ブラケット22において、ポンプケース23側の端面22aを、ポンプケース側端面22aと称し、ポンプケース側端面22aとは反対側の端面22bを接続部材側端面22bと称して説明する。
【0030】
ブラケット22の外周部には、このブラケット22と図1に示すポンプケース23およびモータケース16とを不図示のボルトによって締結固定するための2つの雌ネジ部32が刻設されている。雌ネジ部32は、ブラケット22を厚さ方向に貫通するように形成されている。
【0031】
また、ブラケット22の外周部には、このブラケット22を接続部材2に不図示のボルトによって締結固定するための3つのボルト座33(第1ボルト座33a、第2ボルト座33b、第3ボルト座33c)が、周方向にほぼ等間隔で3箇所形成されている。各ボルト座33には、不図示のボルトを挿通可能な挿通孔33dが形成されている。
【0032】
図2図4に示すように、ブラケット22のポンプケース側端面22aには、モータ部14の回転軸19(図1参照。以下同様)に対応する箇所に、この回転軸19の一端を受け入れる凹部31が形成されている。この凹部31に回転軸19の一端が当接することにより、回転軸19の振れを抑制できる。
また、ブラケット22には、図1に示すポンプケース23のポンプ室24に対応する箇所に、第3吸入油路28及び第3吐出油路29が形成されている。
【0033】
具体的に、第3吸入油路28は、接続部材側端面22b側からポンプケース側端面22aにブラケット22を厚さ方向に貫通する丸孔状に形成された吸入口28aと、ポンプケース側端面22a側に溝状に形成され、側面22eに向けて略垂直に(すなわち鉛直下方に向かって)延びる第1通路28bと、第1通路28bに連なる溝状に形成され、凹部31の周縁に沿って下方に向かって平面視略C字状に延びる第2通路28cとにより形成されている。
【0034】
吸入口28aは、所定量(具体的には1cc程度)のエアを貯留できる容積を有し、図1に示す作動室27内の容積変化室27aよりも上方に位置している。
第1通路28bは、(ポンプケース側端面22aの正面視で)吸入口28aと一部が連通しているとともに吸入口28aから鉛直方向下方に向けて形成され、オイルをこの第1通路28bの形状に従って重力方向に流下させるようになっている。
その後第2通路28cが第1通路28bに連通し、凹部31に沿って下方に湾曲しつつ延びている。
図1に示すポンプ本体21の作動室27内の一方側の容積変化室27a(導入口)が、第2通路28cと連通するように配置されている。
【0035】
以上の構成より、吸入口28a及び第1通路28bは、ポンプ本体21の作動室27にエアが浸入することを阻止するエア停止部Rを形成している。すなわち、エア停止部Rは、電動ポンプの不作動中に、オイルタンク4内に混入したエアが第2吸入油路10を通ってブラケット22の吸入口28aに到った場合であっても、そのエアを吸入口28a付近にとどめて第1通路28bを流下するのを防ぐことによって、第2通路28cと作動室27の後述する容積変化室27aとの間(すなわちポンプ近傍)に略オイルだけを貯留する構造となっている。
【0036】
なお、第1通路28bと第2通路28cは、ブラケット22単体では、ポンプケース側端面22a側が開口しているが、この開口は、ポンプケース側端面22aとポンプケース23の端面23aとを重ね合わせることにより閉塞され、オイルが通流する第3吸入油路28となる。
【0037】
第3吐出油路29は、ポンプケース側端面22aと接続部材側端面22bとの間方向に貫通する丸孔状に形成された吸入口29aと、一部が吸入口29aと連通するようにポンプケース側端面22a側に溝状に形成された第1通路29bと、第1通路29bに連なる溝状に形成された第2通路29cとにより構成されている。
【0038】
第2通路29cは、第3吸入油路28の第2通路28cの形状と凹部31を中心に略点対称となるように、下方に延びる略C字状に形成されている。また、第2通路29cは、図1に示すポンプ本体21の作動室27における一方側の容積変化室27aと点対象位置に設定された他方側の容積変化室27b(導出口)と連通するように配置されている。
【0039】
図4に示すように、ブラケット22には、第3吐出油路29の第2通路29bに連通し、図2に示す第1ボルト座33aと第2ボルト座33cとの間の側面22cに向かって斜め上方に延び、軸線Lを中心として側面22cにおいて開口するリリーフ孔34が形成されている。
リリーフ孔34は、側面22c側の内周面の径が奥側すなわち第2通路29b側の内周面の径よりも大径に形成された大径部34aと、第2通路29b側に形成された小径部34bとにより形成されている。
【0040】
また、ブラケット22には、大径部34aを形成している壁部の小径部34b側を開口した連通孔35が形成されている。
この連通孔35は、図1に示す第2リターン油路12と連通している。
リリーフ孔34には、図2に示すように第2通路29b側から順にコイルバネ39,弁体38が収納されている。そして、大径部34aの内周面には、雌ネジ部40が刻設されており、ここにキャップボルト41が不図示のワッシャを介在させて螺入されている。
【0041】
キャップボルト41を螺入することにより、コイルバネ39が僅かに圧縮変形され、弁体38に、小径部34b側に向かう押圧力が付勢される。弁体38は、コイルバネ39によって、通常は大径部34aと小径部34bとの間に形成された段差部34cに当接している。この段差部34cに弁体38が当接した状態では、この弁体38によって第2連通孔35が閉塞されている。また、コイルバネ39のバネ力は、第3吐出油路29を通流するオイルの圧力が所定値以上高くなった場合に、弁体38がバネ力に抗してスライド移動し、第2連通孔35が開放されてオイルの圧力が開放されるような力に設定されている。
【0042】
これにより、第3吐出油路29を通流するオイルの圧力が所定値以上高くなった場合、第3吐出油路29のオイルは、リリーフ孔34,図4に示す連通孔35を介して図1に示す第2リターン油路12に導かれる。すなわち、リリーフ孔34,弁体38,コイルバネ39,連通孔35およびキャップボルト41は、第3吐出油路29を通流するオイルの余剰圧力を低減するためのリリーフバルブ42として機能する。
【0043】
このように構成されたブラケット22は、図1に示すように側面22eを底面として接続部材2に取り付けられた状態で、接続部材2の第2吸入油路10と第3吸入油路28の吸入口28aとがほぼ同軸上に配置され、これら第2吸入油路10と吸入口28aとが吸入側ジョイントパイプ43を介して連結される。
【0044】
また、接続部材2の第2吐出油路11と第3吐出油路29の第1通路29bとがほぼ同軸上に配置され、これら第2吐出油路11と第1通路29bとが吐出側ジョイントパイプ44を介して連結される。そして、各ジョイントパイプ43,44の軸方向両端側には、それぞれOリング45a,45bが装着され、第2吸入油路10と第3吸入油路28の吸入口28aとの接続箇所のシール性、および第2吐出油路11と第3吐出油路29の第1通路29bとの接続箇所のシール性が確保されている。
【0045】
なお、ブラケット22の接続部材側端面22bには、このブラケット22と接続部材2との間のシール性を確保するために環状溝50内にOリング51が設けられており、連通孔35から吐出されたオイルが外部に流出しないようになっている。
【0046】
(車両用油圧回路の動作)
次に、図1図2に基づいて、車両用油圧回路1の動作について説明する。
同図に示すように、車両のミッション3を駆動させる場合、不図示のエンジンが駆動している間は、機械式ポンプ5が作動する。つまり、エンジンの動力が機械式ポンプ5に伝達されてこの機械式ポンプ5が駆動し、オイルタンク4から第1吸入油路7を介してオイルが吸入される。機械式ポンプ5に吸入されたオイルは、第1吐出油路8を介してミッション3に圧送される。ミッション3で使用されたオイルは、第1リターン油路9を介してオイルタンク4に戻される。
【0047】
機械式ポンプ5の作動中、電動ポンプ6は作動しないよう設定されているが、オイルタンク4中にエアが混じっていた場合、そのエアが、浮力によってオイルタンク4から第2吸入油路10の上方に移動することがある。しかし、本発明においては、そのエアを吸入口28a付近(エア停止部R)に留めることによって、第2通路28cと作動室27との間に略オイルだけを貯留することができる。したがって、電動ポンプ6を始動させると、上記貯留されたオイルによって電動ポンプ6を速やかにスタンバイ状態に移行させて所望の油圧を送る準備が可能になり、延滞なくミッション3に供給されるオイルの圧力を高めることができる。また、スタンバイ状態の間にエア停止部Rに溜まったエアも円滑に吐き出すことができる。
【0048】
一方、例えば、アイドルストップ等によりエンジンが一時的に停止した際には、電動ポンプ6を使用してミッション3にオイルを供給する。この場合、不図示のバッテリ等から電力が供給されてモータ部14が駆動すると、このモータ部14の回転軸19に連結されているポンプ本体21のインナロータ26、アウタロータ25が回転する。すると、オイルタンク4のオイルが、第2吸入油路10、ブラケット22内の第3吸入油路28を介してポンプ本体21に供給される。
【0049】
この際、第2吸入油路10にエアが浸入していても、吸入油路10内及びオイル内のエアは、エア停止部Rにより吸入口28a付近に留められポンプ本体21に浸入することが阻止される。そして、第2通路28cと作動室27との間には略オイルだけが貯留されているため、エアが作動室27に至らない。
【0050】
その後、オイルは、ポンプ本体21から第3吐出油路29、第2吐出油路11に圧送され、その油圧により逆止弁13を開放させ、第1吐出油路8を介してミッション3にオイルが圧送される。
ミッション3で使用されたオイルは、機械式ポンプ5の駆動時と同様、第1リターン油路9を介してオイルタンク4に戻される。
【0051】
ここで、機械式ポンプ5による油圧が第1吐出油路8に残存しており、逆止弁13が開放せずに第3吐出油路29を通流するオイルの圧力が所定値以上に高まった場合、リリーフバルブ42が作動し、第3吐出油路29のオイルがリリーフバルブ42及び第2リターン油路12を介して第2吸入油路10に導かれ、再び電動ポンプ6に吸引される。
【0052】
この構成により、エア停止部Rによりオイルがポンプ本体21内に浸入することを防止できオイル内のエアを可及的に除去することができるため、車両用油圧回路1がコンパクトとなるという効果が得られる。
なお、オイルは、図5に示すようにリリーフバルブ42により第2リターン油路12を介して第1リターン油路9に戻してもよい。
【0053】
上述の実施形態のように、ブラケット22には、第3吸入油路28として吸入口28a及び第1通路28b(エア停止部R)が形成されているため、車両用油圧回路1は、エアを吸入口28a付近に留めてエアがポンプ本体21に浸入することを抑制することができる。
このため、車両用油圧回路1は、吸入油路10内にエアが混入していても、ポンプ本体21がエアを直接吸入することを抑制してオイルの吐出圧を速やかに高め、オイルを確実に吐出させることができるという効果を奏する。よって、車両用油圧回路1は、電動ポンプ6の作動信頼性を確実に向上することができるという効果を奏する。
【0054】
また、ブラケット22に、第3吸入油路28と第3吐出油路29とリリーフバルブ42とを一体的に設けたので、車両用油圧回路1は、これら第3吸入油路28、第3吐出油路29およびリリーフバルブ42をそれぞれ別々に設ける場合と比較して部品点数を削減できる。このため、車両用油圧回路1は、製造コストを低減できると共に、電動ポンプ6の組付け性を向上できるという効果を奏する。
【0055】
さらに、車両用油圧回路1は、ブラケット22にリリーフ孔34及び連通孔35を形成するとともに、リリーフ孔34内に弁体38、コイルバネ39を収納し、キャップボルト41によって弁体38とコイルバネ39のリリーフ孔34からの抜けを防止できる。そして、これらリリーフ孔34,連通孔35,弁体38,コイルバネ39及びキャップボルト41をリリーフバルブ42として機能させているので、車両用油圧回路1は、リリーフバルブ42の構成を簡素化できると共に小型化できるという効果を奏する。
【0056】
また、車両用油圧回路1は、ポンプ部15を、いわゆるトロコイド式ポンプとした場合であっても、オイルにエア等の異物の混入時にポンプ性能の低下を抑えることができ、その作動信頼性を向上できるという効果を奏する。
【0057】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
具体的には、上記実施形態のエア停止部Rは、吸入口28a及び第1通路28bにより形成したが、図5に示すように、接続部材2の中で配管等をクランク状に形成することにより第2吸入油路10の一箇所又は複数箇所を上下方向に向けたものであってもよい。
【0058】
また、同図に示すように第3吐出油路29又は第2吐出油路11(本図では第3吐出油路29)は、段差部50が形成されたものであってもよい。この場合段差部50は、第3吐出油路29及び吐出油路11の少なくとも一部がポンプ本体21方向に下る、言い換えるとオイルの流動方向にオイルを上昇させる構造となっている。
この構成により、仮に一部のエアがポンプ本体21に浸入しポンプ本体21から吐出された場合であっても、段差部50は、このエアをオイルと共に上昇させ、速やかにポンプ本体21から排出することができる。
【0059】
また、エア停止部Rは、図6に示すように、第2吸入油路10及び第3吸入油路28の少なくともいずれか一方の一部または複数箇所をオイルの流動方向と異なる方向であって上方(斜め上方であってもよい)に向けて広げた空間により形成されたものであってもよい。
このような構成とすることにより、第2吸入油路10,第3吸入油路28内のエアをエア停止部R内に貯留しポンプ本体21に浸入することを防止することができる。
【0060】
なお、前記ポンプに向かって重力方向下方に向けた油路により形成したエア停止部R及びオイルの流動方向と異なる方向であって上方(斜め上方であってもよい)に向けて広げた空間により形成したエア停止部Rは適宜組み合わせてもよい。
なお、エア停止部Rは、坂道等で車両が傾いた場合でも留めたエアをポンプ本体21方向に移動させない形状及び容積に形成されていればよい。
【0061】
また、上述の実施形態では、ブラケット22に、第3吸入油路28と第3吐出油路29とリリーフバルブ42とを一体的に設けた場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、第3吸入油路28及び第3吐出油路29がそれぞれ別々の油路に連結されていれば、第3吸入油路28、第3吐出油路29、リリーフバルブ42をそれぞれ別々に設けてもよい。
また、リリーフバルブ42を市販されているものに代えて、リリーフバルブ42のみをブラケット22とは別体としてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…車両用油圧回路
3…ミッション(被駆動部)
4…オイルタンク
5…機械式ポンプ(ポンプ)
6…電動ポンプ(ポンプ)
7…第1吸入油路(油路)
8…第1吐出油路(油路)
9…第1リターン油路(油路)
10…第2吸入油路
11…第2吐出油路
14…モータ部
15…ポンプ部
21…ポンプ本体
22…ブラケット
25…アウタロータ
26…インナロータ
27…作動室
28…第3吸入油路
28a…吸入口
28b…第1通路
28c…第2通路
29…第3吐出油路
29b…第1通路(吐出口)
34…リリーフ孔
50…段差部
R…エア停止部
図1
図2
図3
図4
図5
図6