(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体が、スチレン含有率が15質量%以上で、ジブロック量が30質量%以下である、請求項1記載の眼瞼疾患治療用貼付剤。
【背景技術】
【0002】
皮膚に貼付して使用する貼付剤は、支持体と、支持体の少なくとも片面に設けられた粘着剤層を備える層構造を有している。さらに、粘着剤層の表面を保護するために剥離層が配置されたり、また、例えば、支持体が極めて薄い場合等には、支持体にキャリアフィルム等のキャリア層を備えたりする層構造を有することが多い。
【0003】
貼付剤は、皮膚に貼り付けた後に剥離され、その後、多くの場合、新たな貼付剤が貼り付けられるものであることから、所望の期間皮膚から脱落することがなく、容易かつ美麗に剥離することができ、さらに皮膚に対する刺激が強くないことが求められる。また、日常生活で皮膚を露出する箇所に貼付剤を貼り付ける場合は、貼り付けた箇所が余り目立たないことが求められることもある。
【0004】
すなわち、貼付剤には、適度の粘着力を有することが求められる。粘着力が弱すぎると、貼付剤が皮膚表面から簡単に剥離したり、皮溝などの微細な凹凸のある皮膚表面に沿って適用できなかったりする。粘着力が強すぎると、かぶれが生じたり、使用後の剥離が困難となったりする。
【0005】
顔面は、腕や肩などと比較して、皮脂を多く分泌する箇所である。皮脂を多く分泌する顔面に貼付剤を貼付する場合、とりわけ眼瞼に貼付剤を貼付する場合には、粘着剤層の粘着剤が眼瞼の皮膚から分泌される皮脂を吸収することによって、粘着剤の凝集力が低下し、貼付剤が剥がれやすくなるおそれがある。そこで、皮脂を多量に吸収しても剥がれないようにするために、粘着剤層の厚みを十分厚くすることが必要であると考えられていた。
【0006】
顔面のうち、眼瞼(まぶた)は、特に他人に注目される顔面部位であるとともに、常時繰り返されるまばたき等により、運動による伸縮が極めて多い顔面部位であることから、眼瞼に貼付される貼付剤としては、粘着性とともに皮膚刺激の少なさが、とりわけ強く求められる部位である。
【0007】
ところで、霰粒腫、眼瞼炎、マイボーム腺機能不全、アレルギー性結膜炎、春季カタル及びアトピー性角結膜炎など、眼瞼及び眼瞼結膜の炎症によって起こる疾患が知られている。例えば霰粒腫は、眼瞼組織内の瞼の裏にあるマイボーム腺にできる腫瘤であり、治療方法として、切開や掻爬の他、ステロイド療法が行われる。
【0008】
ステロイド療法としては、病巣内へのステロイド注射が行われるようになってきた。しかし、ステロイド注射には、注射時の痛み、注射部位の皮下白色(ステロイド)沈着物の形成、脱色や皮膚萎縮などのステロイド注射後の合併症があり、非常にまれには、ステロイド注射後の網膜及び脈絡膜血管閉塞が生じることもある。そこで、根治のために外科的手術による摘出治療が行われることがあるが、患者の負担に大きなものがある。
【0009】
そこで、これらの問題を解決するために、ステロイド含有の眼瞼疾患治療用貼付剤が望まれている。特許文献1として、副腎皮質ホルモン等の眼瞼疾患治療薬を配合した貼付剤が知られている。眼瞼疾患治療用貼付剤は、点眼剤など他の点剤形と比較して、眼内(涙液)への移行が少なく、ステロイドによる眼圧上昇や白内障のリスクを低減できる利点がある。また貼付剤では、注射や外科的手術のように苦痛を伴わず、薬物の持続性が保たれ
、短期での治療が見込まれる。
【0010】
ステロイド療法による眼瞼疾患治療用に使用する眼瞼疾患治療用貼付剤としては、粘着剤層にステロイドを含有させることが一般的である。特許文献2として、クロベタゾール等のコルチコステロイドを粘着剤層に含有する経皮治療剤、すなわち治療用貼付剤が開示されているが、眼瞼疾患治療用貼付剤は具体的に示唆されていない。なお、以下、クロベタゾールまたはその酸エステルを総称して、単に「クロベタゾール」ということがある。したがって、クロベタゾールを含有する粘着剤層を備え、眼瞼皮膚に長時間にわたって貼付することが可能であり、かつ、糊残りが少なく、皮膚刺激が少ない眼瞼疾患治療用貼付剤が求められ、併せて、貼付状態が余り目立たない眼瞼疾患治療用貼付剤が求められてきた。
【0011】
先に挙げた特許文献1には、副腎皮質ホルモン等の眼瞼疾患治療薬を配合した貼付剤、すなわち眼疾患治療用経皮吸収型製剤が記載され、粘着剤層として、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤からなる粘着剤層が開示されている。
【0012】
また、特許文献3には、パラフィン系炭化水素及び/またはナフテン系炭化水素と脂環族炭化水素樹脂、並びに、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含む粘着性基剤を含有する粘着剤層が支持体の片面に設けられた医療用貼付剤が開示されており、支持体として、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン等の合成樹脂フィルム、不織布、布地、アルミニウム箔などが挙げられ、厚み135μmの軟質塩化ビニルフィルムを使用することが具体的に開示されている。さらに、特許文献4には、支持体上に、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を必須成分とし、有効成分としてフルルビプロフェンを配合してなる粘着剤層が積層された外用貼付剤が開示されており、支持体として、不織布、織布が挙げられている。
【0013】
しかしながら、従来の貼付剤は、眼瞼疾患治療用貼付剤としては、まだ効果が十分であるとはいえず、クロベタゾールを含有する粘着剤層を備える眼瞼疾患治療用貼付剤の改善が求められていた。加えて、ステロイドのような薬物は、添加量を最小限に抑え、高い皮膚透過性を実現することが望ましい。そこで、少量のクロベタゾールを含有する粘着剤層を備え、眼瞼皮膚に長時間にわたって貼付することが可能であり、かつ、糊残りが少なく、皮膚刺激が少ない眼瞼疾患治療用貼付剤に適する支持体と粘着剤層との組み合わせが求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、支持体、粘着剤層及び剥離層を、この順に備える眼瞼疾患治療用貼付剤であって、支持体及び粘着剤層の組み合わせに特徴を有する。
【0022】
1.支持体
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、支持体として、ヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率である支持体を備える。
【0023】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、支持体として、ヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率である支持体を備えることにより、眼瞼疾患治療用貼付剤が、眼瞼の皮膚に密着することができ、かつ、眼瞼の動きに追従することができる程度の柔軟さを有することができ、その結果、皮脂の分泌がある眼瞼の皮膚に長時間にわたって貼付することが可能であり、かつ、糊残りが少なく、皮膚刺激が少ない眼瞼疾患治療用貼付剤を提供することができる。また、後述するように、支持体としては、多くの場合、実質的に透明性が高いプラスチックフィルムが使用されるので、貼付状態が余り目立たない眼瞼疾患治療用貼付剤を提供することができる。支持体のヤング率が小さすぎると、眼瞼疾患治療用貼付剤の強度が不足するため、眼瞼疾患治療用貼付剤を眼瞼に貼付したり、所要期間貼付後に剥離したりするときに、破れることがある。支持体のヤング率が大きすぎると、眼瞼疾患治療用貼付剤が、眼瞼の皮膚に密着したり、眼瞼の動きに追従したりすることができず、長期間にわたって眼瞼疾患治療用貼付剤を貼付できないことがある。
【0024】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤が備える支持体としては、該支持体のヤング率が0.01〜0.5GPa、好ましくは0.03〜0.48GPa、より好ましくは0.05〜0.45GPaの弾性率である限り、特に限定されないが、多くの場合、ヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率であるプラスチックフィルムを使用することが適切である。プラスチックフィルムのヤング率は、ASTM−D−882に準拠して測定したものであり、本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤が備える支持体は、フィルムのMD方向(フィルム成形時の押出方向)及びTD(フィルム成形時の押出方向と直交方向)のいずれについても、ヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率である。
【0025】
一般に、貼付剤の支持体として使用されるプラスチックフィルムの材料であるプラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリスチレン;ナイロン6、ナイロン66、MXD6等のポリアミド;ポリビニルアルコール;エチレン−酢酸ビニル共重合体;アクリル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン等のポリウレタン;スチレン−イソプレン−スチレ
ン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエンゴム等の合成ゴム;などの合成樹脂があり、これらの合成樹脂に種々の有機添加剤(樹脂でもよい。)または無機添加剤を含有させた合成樹脂組成物を単独で、または混合して、成形することにより形成したプラスチックフィルム、更には、該プラスチックフィルムの積層体が挙げられる。これらのプラスチックフィルムとしては、無延伸フィルム、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルム等の選択がされることもある。
【0026】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の支持体として使用するのに適するヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率であるプラスチックフィルムは、上記した合成樹脂等のプラスチックを主たる材料として、所要のヤング率の弾性率を有するプラスチックフィルムを形成するように、材料の組成を選定したり、成形条件を選定したりすることによって、調製することができる。
【0027】
具体的には、ヤング率の調整の容易さ等の観点から、材料として、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等)、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ナイロン6等のポリアミド;を好ましく使用することができ、特に、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレン無延伸フィルム、無延伸ポリアミドフィルムなどが好適である。なお、ポリエステルフィルム等においては、ポリエステル単独を使用するとヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率のものとならないことがあるが、樹脂ブレンドや添加剤の配合等によって、ヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率を有するものとすることができる場合がある。
【0028】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の支持体を形成する材料として好ましい合成樹脂の分子量、融点、ガラス転移温度、溶融粘度等の特性は、特に限定されず、得られるプラスチックフィルムが、支持体として求められるヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率を有することができる範囲で選択すればよい。
【0029】
〔支持体の厚み〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤が備える支持体の厚みは、特に限定されないが、通常1〜80μmの範囲であり、好ましくは3〜70μm、より好ましくは5〜60μmの範囲である。したがって、最も好ましい支持体は、厚み5〜60μmのポリエチレンフィルムである。貼付中の眼瞼疾患治療用貼付剤の目立ちにくさや違和感の緩和の観点から、支持体の厚みを2〜20μmの範囲、好ましくは5〜20μmにまで薄くすることも可能である。支持体の厚みが小さすぎる場合には、支持体の強度が不充分となり、眼瞼疾患治療用貼付剤を眼瞼に貼り付けたり、眼瞼疾患治療用貼付剤を顔面から剥がしたりする際に、支持体が切れてしまうことがあるとともに、支持体の製造が困難となることがある。支持体の厚みが大きすぎると、眼瞼疾患治療用貼付剤の厚みが大きくなる結果、眼瞼疾患治療用貼付剤が皮溝などの微細な凹凸のある眼瞼の皮膚表面に沿って密着しにくく、貼付状態が目立ちやすくなり、違和感も大きくなりやすく、剥離時の痛みも大きくなる。支持体の厚みは、ダイヤルシックネスゲージを用いて測定する。なお、眼瞼疾患治療用貼付剤の他の層の厚みの測定方法も同様である。
【0030】
〔添加剤〕
支持体となるプラスチックフィルムを形成するための合成樹脂組成物には、所望により、顔料や染料などの着色剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤など種々の有機添加剤または無機添加剤を含有させることができる。これら添加剤の含有量は、添加剤の種類によって最適な範囲を選定すればよいが、プラスチックフィルムを構成する合成樹脂100質量部に対して、通常0.001〜30質量部、好ましくは0.01〜25質量部、より好ましくは0.1〜20質量部の範囲とすることが多い。
【0031】
〔マット加工〕
眼瞼疾患治療用貼付剤を眼瞼の皮膚表面に貼り付けたとき、眼瞼疾患治療用貼付剤の手触り、滑り性、外観などを改善するために、眼瞼疾患治療用貼付剤を構成する支持体の背面(支持体の、粘着剤層側とは反対側に位置する面を意味する。)に、微小な凹凸を形成することが好ましい場合がある。すなわち、支持体の粘着剤層側と反対側の面がマット加工されている貼付剤とすることができる。マット加工により、支持体表面の動摩擦係数を1.0未満に低減できる。なお、後述するように、眼瞼疾患治療用貼付剤を製造する際に、キャリアフィルムの表面にマット加工によって微小な凹凸を形成しておき、該微小な凹凸面上に支持体を形成することにより、プラスチックフィルムである支持体の表面(背面)に該微小な凹凸を転写することができる。
【0032】
また、支持体は、粘着剤との投錨性の向上などを目的として、片面または両面にサンドブラスト処理、コロナ処理等の表面処理を行ってもよい。また、包材から貼付剤を取り出しやすくするために、支持体の片面または両面にサンドブラスト以外の方法で凹凸を設けることもできる。
【0033】
2.粘着剤層
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、粘着剤層が、以下の(a−1)〜(a−4):
(a−1)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有する;
(a−2)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率(質量比)が1:2〜1:4である;
(a−3)軟化剤の含有量が40〜60質量%である;及び
(a−4)更にクロベタゾールまたはその酸エステルを0.005〜5質量%含有する、を含むことに特徴を有する。
【0034】
〔粘着剤〕
一般に、貼付剤の粘着剤層は、常温で感圧接着性を示す粘着剤から形成され、皮膚刺激性の弱い粘着剤として、例えば、アクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルエステル系粘着剤、ビニルエーテル系粘着剤、ウレタン系粘着剤などが使用される。本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤が備える粘着剤層を形成する粘着剤は、合成ゴム系粘着剤の範疇に属するものである。
【0035】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、更に、合成ゴムとして、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有する合成ゴム系粘着剤である。本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、皮膚刺激が少なく、また、皮膚表面の凹凸に沿って密着して貼付箇所が目立たず、皮脂の分泌がある箇所にも長時間にわたって貼付が維持されるように粘着特性を制御することが容易であることから、粘着剤層が、以下の(a−1)〜(a−4):
(a−1)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有する;
(a−2)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率(質量比)が1:2〜1:4である;
(a−3)軟化剤の含有量が40〜60質量%である;及び
(a−4)更にクロベタゾールまたはその酸エステルを0.005〜5質量%含有する、を含むという特有の組成を有する。
【0036】
〔スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤において、粘着剤層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有する。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体とし
ては、貼付剤における合成ゴム系粘着剤において使用されるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、例えば、スチレン含有率が5質量%以上程度のものであれば、特に限定されないが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体が、スチレン含有率が15質量%以上で、ジブロック量が30質量%以下であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有することが好ましい。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体におけるスチレン含有率は、より好ましくは17質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。スチレン含有率の上限は特にないが、粘着剤としての粘弾性の観点から、通常30質量%である。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体におけるジブロック量は、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。ジブロック量の下限は特にないが、合成上の問題から、通常5質量%である。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体におけるスチレン含有率が小さすぎたり、ジブロック量が多すぎたりすると、眼瞼疾患治療用貼付剤を剥離するときに、糊残りがあったり、皮膚刺激が大きくなって発赤が生じたりすることがある。好ましく使用されるスチレン含有率が15質量%以上で、ジブロック量が30質量%以下であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体は、単量体であるスチレン及びイソプレンを重合条件を調整しながら重合して製造してもよいし、市販品から選択して使用してもよく、市販品としては、例えば、JSR株式会社製のJSR SIS5002(スチレン含有率22質量%、ジブロック量15質量%)、JSR SIS5000(スチレン含有率14質量%、ジブロック量26質量%)等が知られている。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体は一種類でもよいし、数種類を混ぜて使用してもよい。
【0037】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層に含有されるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体としては、上記したスチレン含有率が15質量%以上で、ジブロック量が30質量%以下であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体のみを使用してもよいし、上記したスチレン含有率が15質量%以上で、ジブロック量が30質量%以下であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体をスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%含有すれば、その他のスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を併せて使用してもよい。
【0038】
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体のスチレン含有率は、赤外線分光分析によって測定し、また、ジブロック量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法によって測定することができる。
【0039】
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の重量平均分子量は、通常50,000〜1,500,000、好ましくは80,000〜1,000,000、より好ましくは100,000〜400,000の範囲である。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の重量平均分子量を上記範囲とすることによって、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の凝集性、粘着力、他成分との混合作業性、他成分との親和性などをバランスよくさせることができる。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の重量平均分子量は、GPC法により、標準ポリスチレン換算値として求めた値である。
【0040】
〔粘着付与樹脂〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有し、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率(質量比)が1:2〜1:4である。すなわち、本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体に対して、2〜4倍量(質量比)の粘着付与樹脂を含有することにより、皮脂の分泌がある眼瞼の皮膚に長時間にわたって貼付することが可能であり、かつ、糊残りが少なく
、皮膚刺激が少ない眼瞼疾患治療用貼付剤が提供される。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率(質量比)は、好ましくは1:2.2〜1:3.8、より好ましくは1:2.4〜1:3.5である。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体に対する粘着付与樹脂の含有割合が小さすぎると、皮脂の分泌がある眼瞼の皮膚に長時間にわたって貼付することができなくなることがあり、粘着付与樹脂の含有割合が大きすぎると、眼瞼疾患治療用貼付剤を剥離するときに糊残りが生じたり、皮膚刺激が大きくなって発赤が生じたりすることがある。
【0041】
粘着付与樹脂としては、ゴム系粘着剤において通常使用される粘着付与樹脂であれば特に限定されず、一種類または複数種類を配合することができる。例えば、テルペン樹脂〔例えば、ヤスハラケミカル株式会社製のYSレジンPX、クリアロンP(水添テルペン樹脂)等〕、ロジン樹脂〔例えば、荒川化学工業株式会社製のKE−311、KE−100、スーパーエステルS−100(ロジンエステル)、パイノバ社製のフォーラル105(水添ロジンエステル)等〕、クマロン−インデン樹脂、石油樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂〔例えば、荒川化学工業株式会社製のアルコン(登録商標)P−100等〕、水添脂環族系炭化水素(例えば、トーネックス株式会社製のエスコレッツ5300等)などが例示される。凝集力の観点から、テルペン樹脂が好ましい。
【0042】
〔軟化剤〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有し、軟化剤の含有量が40〜60質量%である。すなわち、本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層は、軟化剤を40〜60質量%含有することにより、眼瞼疾患治療用貼付剤の皮膚への追従性を向上させ、また、粘着力を調整し、皮膚刺激を軽減することができるので、皮脂の分泌がある眼瞼の皮膚に長時間にわたって貼付することが可能であり、かつ、糊残りが少なく、皮膚刺激が少ない眼瞼疾患治療用貼付剤が提供される。軟化剤の含有量は、好ましくは40〜58質量%であり、より好ましくは40〜55質量%である。軟化剤の含有割合が小さすぎると、眼瞼疾患治療用貼付剤の眼瞼の皮膚への追従性が低下し、更に剥離時の痛みが大きくなるおそれがあり、軟化剤の含有割合が多すぎると、剥離時に糊残りするおそれがある。
【0043】
軟化剤としては、ゴム系粘着剤において通常使用される軟化剤であれば特に限定されず、例えば、流動パラフィン、液状ポリブテン、液状ポリイソブチレン、ヒマシ油、綿実油、パーム油、ヤシ油、シリコン油、プロセスオイルなど軟化剤が例示され、効果的な軟化作用を示す観点から室温で液体である軟化剤が好ましく、また、安全性及びスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体との相溶性の観点から流動パラフィンが特に好ましい。
【0044】
〔クロベタゾールまたはその酸エステル〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層は、所定量及び割合のスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有し、更にクロベタゾールまたはその酸エステルを0.005〜5質量%含有する点に特徴を有する。クロベタゾールまたはその酸エステルの含有量は、好ましくは0.05〜3質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。含有量が多すぎると、接触皮膚炎、皮膚萎縮、毛細血管拡張等の副作用を起こす危険がある。眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層に含有させることができるクロベタゾールまたはその酸エステルとは、クロベタゾール及びクロベタゾールの酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種を意味する。クロベタゾールまたはその酸エステルとしては、クロベタゾールのほか、例えば、クロベタゾールの酪酸エステル、酢酸エステル、ギ酸エステル、プロピオン酸エステル、ジプロピオン酸エステル等を使用することができる。これらの中でも、プロピオン酸クロベタゾール、酪酸クロベタゾール、吉草酸クロベタゾール等のクロベタゾールの酸エステルが使用上好ましい。
【0045】
〔他の薬物〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層は、所定量及び割合のスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有し、更にクロベタゾールまたはその酸エステルを含有するほかに、必要に応じて、各種添加剤を含有することができ、特に、クロベタゾールまたはその酸エステル以外の他の薬物を含有することができる。該他の薬物としては、眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層に含有させて使用されている薬物であれば特に限定されない。例えば、抗炎症剤(ジカプリル酸ピリドキシン、グリチルリチン酸ジカリウム、ジパルミチン酸ピリドキシン、グリチルリチン酸、塩酸ジフェンヒドラミン、オウバクエキス、ステアリン酸グリチルレチニル、塩化リゾチーム、アミノカプロン酸、レイシエキス、ヨクイニン、メリロートエキス、ボタンエキス、トウキエキス、トウキ根エキス、センキュウエキス、ゲンノショコエキス、アラントイン、及びアルニカエキス等)、抗菌剤(シコニン、ヒノキチオール、セドロール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、感光素201号、及びアジピン酸等)、皮脂分泌抑制剤(エストラジオール、ビタミンB2、ビタミンB6、ローヤルゼリーエキス、リボフラビン等)、吸油性多孔質粉体(多孔質ナイロンパウダー及び多孔質セルロースパウダー等)、皮脂吸収剤(カオリン、タルク、粘土、酸化亜鉛等)、角質剥離剤(サリチル酸、イオウ、ベントナイト、シクロデキストリン等)、抗酸化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸、安息香酸、パラベン類、塩化ベンザルコニウム、及び塩化ベンゼトニウム等)、肌荒れ改善剤(アルニカモンタナエキス、甘草エキス、レチノール、グリチルリチン酸ジカリウム、シャクヤクエキス、セージ葉エキス、ビワ葉エキス、ローズマリーエキス等)、酸化防止剤(ビタミン類及びブチルヒドロキシトルエン等)や、各種の非ステロイド系鎮痛消炎剤、抗ヒスタミン剤、保湿剤、ビタミン類、香料基剤、美容成分などが挙げられ、他のステロイドを含有させることもできる。
【0046】
〔その他の添加剤〕
さらに、本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層は、必要に応じて、その他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤としては、眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層に含有させて慣用されている添加剤であれば特に限定されない。例えば、経皮吸収促進剤、充填剤、紫外線吸収剤、可溶化剤、着色剤、可塑剤などが挙げられる。特に、経皮吸収促進剤を含有することが好ましく、ラウリルアルコール等の脂肪族高級アルコール;イソステアリン酸等の脂肪酸;ジイソプロパノールアミン等のアルコールアミン;ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル等の脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどを使用することができる。
【0047】
〔粘着剤層の厚み〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤が備える粘着剤層の厚みは、1〜50μmの範囲であり、好ましくは3〜45μm、より好ましくは5〜40μmの範囲の厚みである。本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤が備える粘着剤層は、前記した以下の(a−1)〜(a−4):
(a−1)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有する;
(a−2)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率(質量比)が1:2〜1:4である;
(a−3)軟化剤の含有量が40〜60質量%である;及び
(a−4)更にクロベタゾールまたはその酸エステルを0.005〜5質量%含有する、を含むことにより、適度の粘着性を有し、皮脂の分泌がある眼瞼の皮膚に長時間にわたって貼付することが可能であり、かつ、糊残りが少なく、皮膚刺激が少ない眼瞼疾患治療用貼付剤を提供することができる。本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤が備える粘着剤層は、更に以下の(a−2’)及び(a−3’):
(a−2’)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率
(質量比)が1:2.4〜1:3.5である;かつ、
(a−3’)軟化剤の含有量が40〜55質量%である、を含むことにより、一層優れた効果を奏するものとなる。
【0048】
〔支持体及び粘着剤層の厚み〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、支持体と粘着剤層との合計厚みが2〜120μmの範囲であり、好ましくは6〜100μm、より好ましくは10〜80μmの範囲の厚みである。支持体と粘着剤層との合計厚みが小さすぎると、眼瞼疾患治療用貼付剤の強度が不充分で、眼瞼疾患治療用貼付剤を眼瞼の皮膚に貼り付けたり、眼瞼疾患治療用貼付剤を眼瞼の皮膚から剥がしたりする際に、切れてしまうことがあり、また、眼瞼の皮膚に対する粘着性が不足して、皮脂を多く分泌する顔面への付着性が不十分となることがある。一方、支持体と粘着剤層との合計厚みが大きすぎると、眼瞼疾患治療用貼付剤が皮溝などの微細な眼瞼の皮膚表面の凹凸に沿って密着しにくく、貼付状態が目立ちやすくなり、違和感も大きくなりやすいとともに、眼瞼疾患治療用貼付剤を眼瞼の皮膚から剥がす際に、皮膚を損傷したり、痛みが感じられたりすることがある。
【0049】
3.剥離層
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、支持体、粘着剤層及び剥離層を、この順に備える眼瞼疾患治療用貼付剤である。すなわち、本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、眼瞼疾患治療用貼付剤を、具体的には粘着剤層を皮膚に貼り付けるときまで、粘着剤層を保護するために、粘着剤層に隣接して剥離層を備える。
【0050】
本発明における剥離層としては、特に限定されず、眼瞼疾患治療用貼付剤更には貼付剤(粘着テープ)の技術分野において、一般に、離型紙、離型フィルム、剥離紙、剥離フィルム、剥離ライナーなどと称して使用されるものを用いることができる。具体的には、例えば、表面をシリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、表面をシリコーン処理したポリエチレンと紙との積層体などが挙げられる。剥離層は、同一または異なる厚みの2枚以上のシートとして、粘着剤層を保護してもよい。また、剥離層は、取扱い性(すなわち、粘着剤層からの剥離性)を向上するために、切れ目を設けてもよいし、眼瞼疾患治療用貼付剤より大きな面積に形成し、周縁部に掴み部を設けてもよい。また、剥離層は、取扱い性の向上や印刷適性の向上等の目的で、剥離層の粘着剤層に対向する面または粘着剤層の反対側の面に、サンドブラスト処理等による凹凸を設けてもよい。さらに、剥離層を一枚の大きなシートとして設け、その上に、粘着剤層、支持体及びキャリアフィルムからなる組み合わせを複数配列させてもよく、この場合、剥離層は、複数の貼付剤において共有されることとなる。
【0051】
また、剥離層は、後述するように、本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の製造方法において、粘着剤層の形成を容易にするために使用することもできる。すなわち、あらかじめ用意した剥離層の表面に、粘着剤層を形成するためのスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有する粘着剤組成物を塗布する方法等によって、粘着剤層と剥離層とを備える積層シートを製造し、次いで、粘着剤層の表面に支持体を積層することによって、支持体、粘着剤層及び剥離層を、この順に備える眼瞼疾患治療用貼付剤を得ることができる。
【0052】
剥離層の厚みは、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常20μm以上、好ましくは40μm以上であり、その上限値は500μm程度である。
【0053】
4.キャリアフィルム
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、支持体、粘着剤層及び剥離層を、この順に備える眼瞼疾患治療用貼付剤であり、更に、支持体に隣接するキャリアフィルムを支持体の粘着剤
層と反対側の面に備えることにより、眼瞼疾患治療用貼付剤の取扱い性、皮膚への貼付性を向上させることができる。すなわち、眼瞼疾患治療用貼付剤を皮膚に貼り付ける際、支持体にシワが入ったり、眼瞼疾患治療用貼付剤が折れ曲がって粘着剤層同士が接着してしまったりすることがあるが、眼瞼疾患治療用貼付剤が支持体に隣接してキャリアフィルムを備えることによって、キャリアフィルム、支持体、粘着剤層及び剥離層を、この順に備える眼瞼疾患治療用貼付剤であると、眼瞼疾患治療用貼付剤の形状保持性が向上するので、こうした問題を防止することができる。キャリアフィルムは、前記の眼瞼疾患治療用貼付剤から、まず剥離層を剥離して、粘着剤層を眼瞼の皮膚に押し付けて眼瞼疾患治療用貼付剤を貼付した後に、支持体からキャリアフィルムを剥離するようにして使用する。
【0054】
キャリアフィルムを形成する材料としては、特に限定されず、前記した剥離層を形成する材料と同様のものを使用することができる。例えば、各種の熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いて形成することができ、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン等からなるフィルムを用いることができる。また、これらフィルムと紙との積層体を用いることができる。キャリアフィルムは、取扱い性や皮膚への貼付性の向上の観点から、好ましくはポリエステルフィルムであり、また、眼瞼疾患治療用貼付剤を貼付した後に、キャリアフィルムを支持体から剥離しやすいように、支持体側の面にマット加工が施されていることが好ましい。キャリアフィルムと支持体とは、熱圧着または粘着等により剥離可能なように形成されている。キャリアフィルムと支持体との剥離力を調整するために、キャリアフィルムの支持体に対向する側の面に、粘着剤、液状可塑剤、離型剤等を塗布してもよいし、その他の表面処理を施してもよい。
【0055】
キャリアフィルムの厚みは、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常20μm以上、好ましくは40μm以上であり、その上限値は500μm程度である。
【0056】
〔キャリアフィルムの大きさ〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤がキャリアフィルムを備える場合、キャリアフィルムの大きさは、支持体と同じでもよいが、支持体より大きいものとしてもよい。キャリアフィルムが支持体より大きいことによって、該キャリアフィルムを貼付剤の掴み部分として利用して、眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層を剥離層から剥離することが容易になり、また、指が粘着剤に触れてしまうことなく、眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層を皮膚に貼付できる。ここで、「キャリアフィルムが支持体より大きい」とは、キャリアフィルムの全面が支持体を覆っているのではない状態を意味し、換言すると、キャリアフィルムが支持体を覆わない部分を有することを意味する。例えば、キャリアフィルムの面積が支持体の面積より大きい(この場合、キャリアフィルムの一部分が支持体を覆っている。)場合のほか、キャリアフィルムが格子状等のパターン状に形成され、格子の端部が支持体からはみ出している場合、キャリアフィルムが支持体の縁部を支持体からはみ出るように覆う場合などの態様をとるように備えることができる。キャリアフィルムは、支持体を、複数のシートに分割して、または一部重なった状態で覆うように備えられていてもよい。なお、キャリアフィルム上面(支持体の反対側の面)に、更に取扱い性を向上するための口取りや切れ目を設けたシートを配置してもよい。
【0057】
〔剥離層の剥離力及びキャリアフィルムの剥離力〕
眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層から剥離層を剥離するのに必要な力(剥離層の剥離力)は、眼瞼疾患治療用貼付剤の支持体からキャリアフィルムを剥離する力(キャリアフィルムの剥離力)より小さく設定されている。このように設定することにより、眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層から剥離層を剥離した後に、キャリアフィルムが支持体上に一体的に残っているため、眼瞼疾患治療用貼付剤を皮膚に貼り付ける際まで、眼瞼疾患治療用貼
付剤はある程度の剛性を有しているので取扱い性がよいものとなる。
【0058】
5.眼瞼疾患治療用貼付剤
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、支持体、粘着剤層及び剥離層を、この順に備える眼瞼疾患治療用貼付剤であって、
(a)粘着剤層は、以下の(a−1)〜(a−4)を含む:
(a−1)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有する;
(a−2)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率(質量比)が1:2〜1:4である;
(a−3)軟化剤の含有量が40〜60質量%である;及び
(a−4)更にクロベタゾールまたはその酸エステルを0.005〜5質量%含有する;かつ、
(b)支持体は、ヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率である、
ことを特徴とする、前記の眼瞼疾患治療用貼付剤である。本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、上記の構成を備える粘着剤層と支持体との特有の組み合わせによって、皮脂の分泌がある眼瞼の皮膚に長時間にわたって貼付することが可能であり、かつ、糊残りが少なく、皮膚刺激が少なく、低濃度で薬物透過性に優れる眼瞼疾患治療用貼付剤を提供するという効果を奏することができる。特に、前記のスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体が、スチレン含有率が15質量%以上で、ジブロック量が30質量%以下であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有するものであると一層優れた効果を奏する。
【0059】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、眼瞼の皮膚表面に貼付して、粘着剤層に含有される眼疾患治療薬であるクロベタゾールまたはその酸エステルを経皮的に眼の局所組織に投与するために使用する。眼瞼の皮膚表面とは、上眼瞼、下眼瞼または両眼瞼の前表面(皮膚表面)、またはこれらの眼瞼の皮膚表面とその周辺の皮膚表面である。そのため、本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、上眼瞼、下眼瞼または両眼瞼の皮膚表面に沿って貼付し得る形状及び大きさを有するものであることが好ましい。そのような形状の具体例としては、眼瞼の前表面の形状に沿うような四角形、楕円形、三日月形、円形、馬蹄形、リング状などの形状が挙げられる。本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤の厚み(支持体、粘着剤層及び剥離層の合計厚み)は、通常22〜400μm、多くの場合40〜300μmの範囲である。
【0060】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、付着性及び柔軟性がよく、剥離時の痛みが少なく、剥離後の糊残りが少ないものである。また、より具体的には、本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、所定の方法により測定した粘着力、プローブタック、角質剥離面積、及びクロベタゾールまたはその酸エステルの皮膚透過試験により、効果を確認することができる。
【0061】
〔付着性〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、以下の方法によって評価する付着性に優れている。すなわち、本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤から、幅10mm×長さ20mmの大きさに切り出した試験片(面積2cm
2の四角形)を、成人男女7名の被験者の洗顔後の水分をふき取った下眼瞼に貼り付けて12時間静置後(以下、「12時間貼付後」ということがある。)の付着性の評価を聞き、以下の基準に照らして、眼瞼疾患治療用貼付剤の付着性の評価とする。AAまたはAの評価であれば、眼瞼疾患治療用貼付剤の付着性が優れているといえる。
<付着性の評価基準>
AA:6〜7名が、付着性が強いと評価。
A :4〜5名が、付着性が強いと評価。
B :2〜3名が、付着性が強いと評価。
C :1名またはゼロ名が、付着性が強いと評価。
【0062】
〔柔軟性〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、以下の方法によって評価する柔軟性に優れている。すなわち、上記の眼瞼疾患治療用貼付剤の試験片を貼り付けた7名の被験者に、12時間貼付後の柔軟性の評価を聞き、以下の基準に照らして、眼瞼疾患治療用貼付剤の柔軟性の評価とする。AAまたはAの評価であれば、眼瞼疾患治療用貼付剤の柔軟性が優れているといえる。
<柔軟性の評価基準>
AA:6〜7名が、柔軟性があると評価。
A :4〜5名が、柔軟性があると評価。
B :2〜3名が、柔軟性があると評価。
C :1名またはゼロ名が、柔軟性があると評価。
【0063】
〔剥離時の痛み〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、以下の方法によって評価する剥離時の痛みが少ない点で優れる。すなわち、上記の眼瞼疾患治療用貼付剤の試験片を貼り付けた7名の被験者に、12時間貼付後に剥離するときの痛みの有無を聞き、0(痛みを感じない)、1(少し痛みを感じる)、2(1よりも痛みを強く感じる)、3(痛みを強く感じる)の4段階で評価して、7名の平均値を四捨五入し、以下の基準に照らし、貼付材の剥離時の痛みの評価とする。AAまたはAの評価であれば、剥離時の痛みが少なく優れているといえる。<剥離時の痛みの評価基準>
AA:4段階の平均値が、0である。
A :4段階の平均値が、1である。
B :4段階の平均値が、2である。
C :4段階の平均値が、3である。
【0064】
〔剥離後の糊残り〕
上記の眼瞼疾患治療用貼付剤の試験片を貼り付けた7名の被験者の、眼瞼疾患治療用貼付剤を12時時間貼付後に剥離した後の該眼瞼疾患治療用貼付剤を貼付した下眼瞼における糊残り(以下、単に「糊残り」ということがある。)の状態を、目視で観察し、0(糊残りがない)、1(糊残りが若干認められる)、2(糊残りが1よりも多く認められる)、3(糊残りが多い)の4段階で評価して、7名の平均値を四捨五入し、以下の基準に照らし、眼瞼疾患治療用貼付剤の糊残りの評価とする。糊残りの評価が、AAまたはAであれば、眼瞼疾患治療用貼付剤の使用感が優れているといえる。
<糊残りの評価基準>
AA:4段階の平均値が、0である。
A :4段階の平均値が、1である。
B :4段階の平均値が、2である。
C :4段階の平均値が、3である。
【0065】
〔粘着力〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、JIS Z0237に準拠する対BA−SUS板(ブライトアニールステンレス)の180度剥離試験において、0.5〜3N/15mmの範囲の粘着力、好ましくは0.5〜2.7N/15mm、より好ましくは0.6〜2.5N/15mmの範囲である。本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、前記の範囲の対BA−SUS板粘着力を有することにより、眼瞼の皮膚に貼り付けた場合、眼瞼の動きなどの外力によって剥がれやすくなることがなく、同時に、眼瞼疾患治療用貼付剤を眼瞼の皮膚表面から剥離するときに抵抗感や痛みを感じることがない。対BA−SUS板粘着力が大きす
ぎると、眼瞼疾患治療用貼付剤を眼瞼の皮膚表面から剥離するときに抵抗感や痛みを感じるおそれがある。対BA−SUS板の180度剥離試験は、幅15mmに切り出した眼瞼疾患治療用貼付剤の試験片をBA−SUS板に貼り付け、2kgのゴムロールを300mm/分の速度で2往復させて、1分間以内にインストロン型引張試験機で180度方向に剥離速度300mm/分の条件で引き剥がすときの粘着力を測定するものである(n=3の平均値)。
【0066】
〔プローブタック〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、粘着剤層のプローブタックが、1.5〜5N/5mmφの範囲であることが好ましく、より好ましくは1.6〜4N/5mmφの範囲である。本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、粘着剤層が前記の範囲のプローブタックを有することにより、眼瞼の皮膚に貼り付けた場合に、眼瞼の動きなどの外力によっても簡単に剥がれることがなく、かつ、該眼瞼疾患治療用貼付剤を皮膚から剥離するときに抵抗感や痛みを感じるおそれがない。前記のプローブタックは、ニチバン株式会社製プローブタックテスターを使用して、JIS Z0237(1996年版)に参考として記載されているプローブタック試験法に従い、直径5mmの円柱プローブを粘着面から垂直方向に引きはがすのに要する力を測定して求めたものである(n=3の平均値)。
【0067】
〔角質剥離面積〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、眼瞼の皮膚に対して長時間にわたって貼付することが可能であるとともに、糊残りが少なく、かつ、皮膚刺激が少ないものであって、眼瞼疾患治療用貼付剤を貼付した眼瞼の皮膚から剥離するときの角質剥離面積が、45%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下である。眼瞼疾患治療用貼付剤の角質剥離面積は以下の方法によって測定するものである。すなわち、本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤から、幅10mm×長さ20mmの大きさに切り出した試験片を、成人男女7名の被験者の洗顔後の水分をふき取った下眼瞼に貼り付け、12時間静置後に剥離して、剥離後の眼瞼疾患治療用貼付剤(の粘着剤層)に付着している角質の面積の合計を測定し、貼付剤の面積に対する比率を算出する(単位:%)。
【0068】
〔クロベタゾールまたはその酸エステルの皮膚透過試験〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、クロベタゾールまたはその酸エステルの皮膚透過性が優れた貼付剤である。クロベタゾールまたはその酸エステルの皮膚透過量は、以下の方法によって測定する。すなわち、へアレスマウス皮膚を用いるin vitroの皮膚透過試験において、クロベタゾールまたはその酸エステルの24時間の累積皮膚透過量が1.0〜3.0μg/cm
2である。へアレスマウス皮膚を用いるin vitroの皮膚透過試験において、クロベタゾールまたはその酸エステルの24時間の累積皮膚透過量は、好ましくは、1.1〜2.8μg/cm
2、より好ましくは1.2〜2.5μg/cm
2である。へアレスマウス皮膚を用いるin vitroの皮膚透過試験は、以下の方法により行う。すなわち、へアレスマウス(雄、7週齢)の腹部皮膚を用いて、真皮側をレセプター層側にして、直径20mmφの横型拡散セルに装着する。2重構造のセルに、温度32℃の温水を循環させてセル内部を一定の温度条件に保ち、皮膚の角質層側に、15mmφに打ち抜いた眼瞼疾患治療用貼付剤を貼付する。レシーバー側層に、レシーバー溶液(20質量%ポリエチレングリコール/精製水)を充満させ、攪拌子で攪拌しながら、貼付開始から6時間が経過するごとにレシーバー溶液を1.0mLずつサンプリングし、サンプリングした各レシーバー溶液試料にメタノールを各0.5mL加え、攪拌後、遠心分離し、除蛋白した溶液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって定量してクロベタゾールまたはその酸エステルの濃度を測定することにより、6、12、24時間当たりのクロベタゾールまたはその酸エステルの累積皮膚透過量(μg/cm
2)を求め、それぞれの平均値を求める(n=3)。なお、サンプリングした後の横型拡散セルには、同量のレシーバー溶液を補充する。
【0069】
〔貼付剤の形状及び大きさ〕
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、支持体、粘着剤層及び剥離層を、この順に備える眼瞼疾患治療用貼付剤であって、更に、前記した諸特性を備えるものである限り、特に形状及び大きさが限定されず、所定の形状の眼瞼疾患治療用貼付剤、ロール状の眼瞼疾患治療用貼付剤、更には、袋に封入された眼瞼疾患治療用貼付剤でもよい。好ましくは、眼瞼の前表面の形状に沿うような、形状が、四角形、楕円形、三日月形、円形、馬蹄形、リング状などのものとする。また、周囲に角部を有する所定の形状の眼瞼疾患治療用貼付剤においては、周囲の角部に適宜Rを設けてもよい。大きさは、特に限定されないが、1枚当たりの貼付面積が、通常0.5〜10cm
2の範囲、好ましく1〜5cm
2の範囲、より好ましくは1〜3cm
2の範囲となるようにすればよい。
【0070】
6.眼瞼疾患治療用貼付剤の製造方法
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、支持体、粘着剤層及び剥離層を、この順に備える眼瞼疾患治療用貼付剤であって、
(a)粘着剤層は、以下の(a−1)〜(a−4)を含む:
(a−1)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有する;
(a−2)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率(質量比)が1:2〜1:4である;
(a−3)軟化剤の含有量が40〜60質量%である;及び
(a−4)更にクロベタゾールまたはその酸エステルを0.005〜5質量%含有する;かつ、
(b)支持体は、ヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率である;
ことを特徴とする前記の眼瞼疾患治療用貼付剤を得ることができる限り、その製造方法は限定されない。製造効率の観点から、剥離層の上面に粘着剤層を形成する工程を含む眼瞼疾患治療用貼付剤の製造方法が好ましい。具体的には、あらかじめ形成した剥離層を一方向に走行させながら、その上面に、粘着剤層を形成する粘着剤、すなわちスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤、並びに、更にクロベタゾールまたはその酸エステルを含有する粘着剤を塗工し、乾燥除去して粘着剤層を形成した後に、ヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率である支持体(キャリアフィルムを積層したものでもよい。)を積層する方法によることが好ましい。
【0071】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、例えば、上記した方法などにより、キャリアフィルム、支持体、粘着剤層及び剥離層を、この順に積層して備えるものを製造した後に、ロール状に巻き取ってロール状の眼瞼疾患治療用貼付剤を得てもよいし、所望の大きさ及び形状、例えば、眼瞼の前表面の形状に沿うような四角形、楕円形、三日月形、円形、馬蹄形、リング状などに切り出して、眼瞼疾患治療用貼付剤を得てもよい。また、更に続いて袋に封入して、眼瞼疾患治療用貼付剤を得てもよい。必要に応じて、薬物の安定性を保つために、袋内の空気を窒素で置換してもよい。
【0072】
本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、先に説明したとおり、眼瞼の皮膚表面に貼付して、粘着剤層に含有される眼疾患治療薬であるクロベタゾールまたはそのエステルを経皮的に眼の局所組織に投与するために使用するものである。したがって、眼疾患治療薬であるクロベタゾールまたはそのエステルは、主として皮膚透過により、結膜、涙液組織、角膜、虹彩、毛様体、強膜等の外眼部または前眼部に至る組織に到達する。よって、本発明の、先に詳述した構造を備える、粘着剤層にクロベタゾールまたはそのエステルを含有する貼付剤は、霰粒腫、眼瞼炎、マイボーム腺機能不全、アレルギー性結膜炎、春季カタル及びアトピー性角結膜炎等の眼瞼疾患のほか、角膜炎、強膜炎、ドライアイ、上強膜炎、前眼部ブドウ膜炎、術後炎症、虹彩炎、虹彩毛様体炎等の周辺組織の眼疾患の治療に有効な、
眼疾患治療用貼付剤である。本発明の眼疾患治療用貼付剤は、先に説明したと同様の実施の態様のものとすることができ、同様の方法で製造することができる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例及び比較例を示して、本発明について具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤及び貼付剤が備える各層の特性及び物性の測定方法は、以下のとおりである。
【0074】
〔厚み〕
眼瞼疾患治療用貼付剤、及び、該貼付剤が備えるキャリアフィルム、支持体、粘着剤層及び剥離層の厚みは、ダイヤルシックネスゲージを用いて測定した。
【0075】
〔ヤング率〕
支持体のヤング率は、ASTM−D−882に準拠して測定した。
【0076】
〔スチレン含有率及びジブロック量〕
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体のスチレン含有率は、赤外線分光分析によって測定し、ジブロック量は、GPC法により測定した。
【0077】
〔付着性〕
眼瞼疾患治療用貼付剤の付着性は、以下の方法で評価した。すなわち、眼瞼疾患治療用貼付剤から、幅10mm×長さ20mmの大きさに切り出した試験片(面積2cm
2の四角形)を、成人男女7名の被験者の洗顔後の水分をふき取った下眼瞼に貼り付けて12時間静置後(12時間貼付後)の付着性の評価を聞き、以下の基準に照らして、眼瞼疾患治療用貼付剤の付着性の評価とした。
<付着性の評価基準>
AA:6〜7名が、付着性が強いと評価。
A :4〜5名が、付着性が強いと評価。
B :2〜3名が、付着性が強いと評価。
C :1名またはゼロ名が、付着性が強いと評価。
【0078】
〔柔軟性〕
眼瞼疾患治療用貼付剤の柔軟性は、以下の方法で評価した。すなわち、上記の眼瞼疾患治療用貼付剤の試験片を貼り付けた7名の被験者に、12時間貼付後の柔軟性の評価を聞き、以下の基準に照らして、眼瞼疾患治療用貼付剤の柔軟性の評価とした。
<柔軟性の評価基準>
AA:6〜7名が、柔軟性があると評価。
A :4〜5名が、柔軟性があると評価。
B :2〜3名が、柔軟性があると評価。
C :1名またはゼロ名が、柔軟性があると評価。
【0079】
〔剥離時の痛み〕
眼瞼疾患治療用貼付剤の剥離時の痛みは、以下の方法で評価した。すなわち、上記の眼瞼疾患治療用貼付剤の試験片を貼り付けた7名の被験者に、12時間貼付後に剥離するときの痛みの有無を聞き、0(痛みを感じない)、1(少し痛みを感じる)、2(1よりも痛みを強く感じる)、3(痛みを強く感じる)の4段階で評価して、7名の平均値を四捨五入し、以下の基準に照らし、貼付剤の剥離時の痛みの評価とした。
<剥離時の痛みの評価基準>
AA:4段階の平均値が、0である。
A :4段階の平均値が、1である。
B :4段階の平均値が、2である。
C :4段階の平均値が、3である。
【0080】
〔剥離後の糊残り〕
眼瞼疾患治療用貼付剤の剥離後の糊残りは、以下の方法で評価した。すなわち、上記の眼瞼疾患治療用貼付剤の試験片を貼り付けた7名の被験者の、眼瞼疾患治療用貼付剤を12時間貼付後に剥離した後の該眼瞼疾患治療用貼付剤を貼付した下眼瞼における糊残りの状態を、目視で観察し、0(糊残りがない)、1(糊残りが若干認められる)、2(糊残りが1よりも多く認められる)、3(糊残りが多い)の4段階で評価して、7名の平均値を四捨五入し、以下の基準に照らし、眼瞼疾患治療用貼付剤の糊残りの評価とした。
<糊残りの評価基準>
AA:4段階の平均値が、0である。
A :4段階の平均値が、1である。
B :4段階の平均値が、2である。
C :4段階の平均値が、3である。
【0081】
〔粘着力(対BA−SUS板粘着力)〕
眼瞼疾患治療用貼付剤の付着力(対BA−SUS板粘着力)は、JIS Z0237に準拠して180度剥離試験を行って測定した。すなわち、幅15mm×長さ70mmに切り出した眼瞼疾患治療用貼付剤の試験片をBA−SUS板に貼り付け、2kgのゴムロールを300mm/分の速度で2往復させて、1分間以内にインストロン型引張試験機で180度方向に剥離速度300mm/分の条件で引き剥がすときの粘着力を測定した(単位:N/15mm)(n=3の平均値)。
【0082】
〔眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層のプローブタック〕
眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層のプローブタックは、ニチバン株式会社製プローブタックテスターを使用して、JIS Z0237(1996年版)に参考として記載されているプローブタック試験法に従い、直径5mmの円柱プローブを粘着面から垂直方向に引きはがすのに要する力を測定して求めた(n=3の平均値)。
【0083】
〔角質剥離面積〕
眼瞼疾患治療用貼付剤の角質剥離面積は、眼瞼疾患治療用貼付剤から、幅10mm×長さ20mmの大きさに切り出した試験片を、成人男女7名の被験者の洗顔後の水分をふき取った下眼瞼に貼り付け、12時間静置後に剥離して、剥離後の眼瞼疾患治療用貼付剤(の粘着剤層)に付着している角質の面積の合計を測定し、貼付剤の面積に対する比率を算出した(単位:%)。
【0084】
〔クロベタゾールまたはその酸エステルの皮膚透過試験〕
へアレスマウス(雄、7週齢)の腹部皮膚を用いて、真皮側をレセプター層側にして、直径20mmφの横型拡散セルに装着した。2重構造のセルに、温度32℃の温水を循環させてセル内部を一定の温度条件に保ち、皮膚の角質層側に、15mmφに打ち抜いた眼瞼疾患治療用貼付剤を貼付した。レシーバー側層に、レシーバー溶液(20質量%ポリエチレングリコール/精製水)を充満させ、攪拌子で攪拌しながら、貼付開始から6時間が経過するごとにレシーバー溶液を1.0mLずつサンプリングし、サンプリングした各レシーバー溶液試料にメタノールを各0.5mL加え、攪拌後、遠心分離し、除蛋白した溶液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって定量してクロベタゾールまたはその酸エステルの濃度を測定することにより、6、12、24時間当たりのクロベタゾールまたはその酸エステルの累積皮膚透過量(μg/cm
2)を求め、それぞれの平均値(「6時間累積皮膚透過量」、「12時間累積皮膚透過量」及び「24時間累積皮膚透過量」)を求めた(n=3)。なお、サンプリングした後の横型拡散セルには、同量のレシーバ
ー溶液を補充した。
【0085】
[実施例1]
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(JSR株式会社製のJSR SIS5002。スチレン含有率22質量%、ジブロック量15質量%)100質量部、粘着付与樹脂であるテルペン樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製のYSレジン)250質量部及び軟化剤である流動パラフィン〔カネダ株式会社製のハイコール(登録商標)M−352〕350質量部、並びに、粘着剤層におけるプロピオン酸クロベタゾールの含有量が0.7質量%となる割合量(実施例1においては、5質量部)のプロピオン酸クロベタゾールを混合してトルエン/アセトン=8/2溶液に溶解し、固形分57質量%の粘着剤層を形成するための塗工液を調製した。この塗工液を、乾燥後厚み20μmとなるように、剥離層を形成する剥離紙(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム。厚み75μm)の片面にバーコーターを使用して塗布し、次いで乾燥して、剥離層と粘着剤層とからなる積層体を得た。続いて、粘着剤層の上面に、支持体として厚み35μmの低密度ポリエチレンフィルム(ヤング率0.12GPa)を載置して貼り合わせ、支持体、粘着剤層及び剥離層をこの順に備える厚み130μmの眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、付着性、柔軟性、剥離時の痛み、剥離後の糊残り、対BA−SUS板粘着力、プローブタック及び角質剥離面積(以下、総称して「諸特性」ということがある。)を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0086】
[実施例2]
軟化剤である流動パラフィンを300質量部含有するものとしたことを除いて実施例1と同様にして、眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。なお、粘着剤層におけるプロピオン酸クロベタゾールの含有量が0.7質量%となる割合量の配合とした。以下の実施例及び比較例においても同様である。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0087】
[実施例3]
軟化剤である流動パラフィンを250質量部含有するものとしたことを除いて実施例1と同様にして、眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0088】
[実施例4]
支持体を厚み15μmの低密度ポリエチレンフィルム(ヤング率0.13GPa)に変更したことを除いて実施例2と同様にして、眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0089】
[実施例5]
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(JSR株式会社製のJSR SIS5000。スチレン含有率14質量%、ジブロック量26質量%)を100質量部含有するものとしたことを除いて実施例2と同様にして、眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0090】
[実施例6]
粘着付与樹脂であるテルペン樹脂を200質量部含有するものとしたことを除いて実施例1と同様にして、眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0091】
[実施例7]
粘着付与樹脂であるテルペン樹脂を、ロジン樹脂(荒川化学工業株式会社製のKE−311)にしたことを除いて実施例3と同様にして眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0092】
[比較例1]
軟化剤である流動パラフィンを150質量部含有するものとしたことを除いて実施例1と同様にして、眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0093】
[比較例2]
軟化剤である流動パラフィンを817質量部含有するものとしたことを除いて実施例1と同様にして、眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0094】
[比較例3]
粘着付与樹脂であるテルペン樹脂を150質量部含有するものとしたことを除いて実施例3と同様にして、眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0095】
[比較例4]
支持体を厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム〔東レ株式会社製のルミラー(登録商標)S−10。ヤング率4.7GPa〕に変更したことを除いて実施例2と同様にして眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0096】
[比較例5]
シリコーン系粘着剤(ダウコーニング社製、BIO−PSA4501。以下、「Si−1」ということがある。)、及び、粘着剤層におけるプロピオン酸クロベタゾールの含有量が0.7質量%となる割合量のプロピオン酸クロベタゾールを混合して酢酸エチル溶液に溶解し、固形分50質量%の粘着剤層を形成するための塗工液を調製した。この塗工液を、乾燥後厚み20μmとなるように、剥離層を形成する剥離紙(フッ素処理したポリエチレンテレフタレートフィルム。厚み75μm)の片面にバーコーターを使用して塗布し、次いで乾燥して、剥離層と粘着剤層(Si−1 99.3質量及びプロピオン酸クロベタゾール 0.7質量%を含有する。)とからなる積層体を得た。続いて、粘着剤層の上面に、支持体として厚み35μmの低密度ポリエチレンフィルム(ヤング率0.12GPa)を載置して貼り合わせ、支持体、粘着剤層及び剥離層をこの順に備える厚み130μmの眼瞼疾患治療用貼付剤を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0097】
[比較例6]
シリコーン系粘着剤(Si−1)を、シリコーン系粘着剤(ダウコーニング社製、BIO−PSA4102。以下、「Si−2」ということがある。)に変更したことを除いて比較例5と同様にして、眼瞼疾患治療用貼付剤(粘着剤層はSi−2 99.3質量及びプロピオン酸クロベタゾール 0.7質量%を含有する。)を製造した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について、諸特性を測定、評価した結果と粘着剤層の組成を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1から、支持体、粘着剤層及び剥離層を、この順に備える眼瞼疾患治療用貼付剤であって、
(a)粘着剤層は、以下の(a−1)〜(a−4)を含む:
(a−1)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有する;
(a−2)スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率(質量比)が1:2〜1:4である;
(a−3)軟化剤の含有量が40〜60質量%である;及び
(a−4)更にクロベタゾールまたはその酸エステルを0.005〜5質量%含有する;かつ、
(b)支持体は、ヤング率が0.01〜0.5GPaの弾性率である、
実施例1〜7の眼瞼疾患治療用貼付剤は、眼瞼の皮膚に対する付着性及び柔軟性に優れ、剥離時の痛みが少なく、剥離後の糊残りが少ないことが分かった。また、対BA−SUS板粘着力は0.6〜2.5N/15mmで、プローブタックは1.8〜4.5N/5mmφであって、適度な粘着性を有し、また角質剥離面積が8〜23%と剥離性が少ない優れた特性を有することから、皮脂の分泌がある眼瞼の皮膚に長時間にわたって貼付することが可能であり、かつ、糊残りが少なく、皮膚刺激が少ない眼瞼疾患治療用貼付剤が提供されることが分かった。
【0100】
特に、粘着剤層がスチレン含有率22質量%、ジブロック量15質量%であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有する実施例1〜3の眼瞼疾患治療用貼付剤は、糊残りが極めて少ない点で一層優れた眼瞼疾患治療用貼付剤であることが分かった。このスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有し、更に、支持体が厚み15μmの低密度ポリエチレンフィルムである実施例4の眼瞼疾患治療用貼付剤は、粘着剤層の組成が同じである実施例2の眼瞼疾患治療用貼付剤より剥離時の痛みが少なく、角質剥離面積がより小さい点で、一層優れた眼瞼疾患治療用貼付剤であることが分かった。また、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率が、1:2.5である実施例1の眼瞼疾患治療用貼付剤は、その比率が1:2である実施例6の眼瞼疾患治療用貼付剤よりも、角質剥離面積が12%と極めて小さい点で、特に優れた眼瞼疾患治療用貼付剤であることが分かった。さらに、実施例3の眼瞼疾患治療用貼付剤と実施例7の眼瞼疾患治療用貼付剤とを対比すると、粘着付与樹脂としてテルペン樹脂を含有する実施例3の眼瞼疾患治療用貼付剤は、粘着剤の凝集力が高いことから、剥離後の糊残りがより少ないものであることが分かった。
【0101】
これに対して、粘着剤層における軟化剤の含有量が約30質量%と少量である比較例1の眼瞼疾患治療用貼付剤は、剥離時の痛みがあるとともに、対BA−SUS板粘着力が大きいことから、皮膚刺激が大きいものであることが分かった。粘着剤層における軟化剤の含有量が約70質量%と多量である比較例2の眼瞼疾患治療用貼付剤は、眼瞼への付着性が悪いことから、皮脂の分泌がある眼瞼の皮膚に長時間にわたって貼付することができないおそれがあることが分かった。また、粘着剤層が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と粘着付与樹脂との比率(質量比)が1:1.5である比較例3の眼瞼疾患治療用貼付剤は、対BA−SUS板粘着力が小さく、眼瞼への付着性が悪いことから、粘着力が不足して、眼瞼の皮膚に長時間にわたって貼付することができないおそれがあることが分かった。さらに、支持体が、ヤング率が4.7GPaのポリエチレンテレフタレートフィルムである比較例4の眼瞼疾患治療用貼付剤は、眼瞼への付着性が悪いことから、皮脂の分泌がある眼瞼の皮膚に長時間にわたって貼付することができないおそれがあることが分かった。さらにまた、粘着剤層に含有される粘着剤として、シリコーン系粘着剤を用いた場合については、比較例5のシリコーン系粘着剤を含有すると、角質剥離量が多く、比較例6のシリコーン系粘着剤を含有すると、十分な付着性を得ることができず、付着性と角質剥離量との双方を改善することが困難であることが推察された。
【0102】
〔クロベタゾールまたはその酸エステルの皮膚透過試験〕
[実施例8]
粘着剤層に含有されるプロピオン酸クロベタゾールの含有量が0.5質量%となるように調製したことを除いて実施例1と同様にして製造した眼瞼疾患治療用貼付剤について、プロピオン酸クロベタゾールの皮膚透過量を測定した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について測定した、6、12、24時間当たりのプロピオン酸クロベタゾールの累積皮膚透過量(μg/cm
2)の結果を表2に示す。
【0103】
[比較例7]
粘着剤層に含有されるシリコーン系粘着剤を、溶液系アクリル系重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル−酢酸ビニル共重合体〔ヘンケル社製のDuroTAK(登録商標)87−4098〕に変更したこと、粘着剤層に含有されるプロピオン酸クロベタゾールの含有量が0.5質量%となるように調製したこと、及び、使用する剥離紙をシリコーン処理したポリエチレンテレフタレートに変更したことを除いて比較例5と同様にして製造した眼瞼疾患治療用貼付剤(以下、「アクリル系眼瞼疾患治療用貼付剤」ということがある。)について、プロピオン酸クロベタゾールの皮膚透過量を測定した。この眼瞼疾患治療用貼付剤について測定した、6、12、24時間当たりのプロピオン酸クロベタゾールの累積皮膚透過量(μg/cm
2)の結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2から、粘着剤層が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂及び軟化剤を含有する本発明の眼瞼疾患治療用貼付剤を使用する実施例8の結果と、粘着剤層がアクリル系重合体を含有するアクリル系眼瞼疾患治療用貼付剤を使用する比較例7の結果との対比のとおり、本願発明の眼瞼疾患治療用貼付剤は、クロベタゾールまたはその酸エステルの皮膚透過性が極めて優れていることが確認され、眼瞼疾患治療用貼付剤の粘着剤層に含有されるクロベタゾールが低濃度であっても、十分な皮膚透過性を有することが分かった。