【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 社団法人電気化学会、第53回電池討論会 講演要旨集、第135ページ、平成24年11月13日 第53回電池討論会、社団法人電気化学会、平成24年11月14日〜16日
【文献】
小林玄器 他,酸化物コーティングを施したLi過剰固溶体系正極Li[Li0.2Ni0.183Co0.03Mn0.583]O2の電極特性,電気化学会第79回大会講演要旨集,日本,2012年 3月29日,p.115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正極活物質のX線回折において層状岩塩構造ピークである(003)、(101)及び(104)にシフトを有することを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
前記正極活物質のX線回折において層状岩塩構造ピークである(003)、(101)及び(104)の各シフトが、前記固溶体活物質だけのX線回折における層状岩塩構造ピークに対して、
(003)が低角度側にシフトし、
(101)が高角度側にシフトし、
(104)が高角度側にシフトしてなることを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
前記Al元素が、前記固溶体活物質表面から該活物質内部に厚さ35nmまでの領域に存在してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
有機スルホン系化合物、有機ジスルホン系化合物、ビニレンカーボネート誘導体、エチレンカーボネート誘導体、エステル誘導体、2価フェノール誘導体、テルフェニル誘導体、ホスフェート誘導体およびフルオロリン酸リチウム誘導体の少なくとも一種の電解液用添加剤を含む、請求項11または12に記載の非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態は正極活物質であり、集電体の表面の正極活物質層に含まれ、集電体と正極活物質層とが正極を構成する。この正極と、集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極と、電解質層とを有する発電要素を有する非水電解質二次電池が構成される。
【0014】
以下、図面を参照しながら、本実施形態の正極活物質を用いた非水電解質二次電池を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
[非水電解質二次電池]
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、本実施形態の正極活物質を使用した二次電池であれば特に制限はなく、典型的にはリチウムイオン二次電池が挙げられる。すなわち、本実施形態の正極と、リチウムイオンを挿入・脱離可能な負極活物質を含有する負極と、前記正極および前記負極の間に介在する電解質層とを備える非水電解質二次電池である。以下の説明では、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る並列に積層したリチウムイオン二次電池(以下、単に「並列積層型電池」とも称する)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
図1に示すように、本実施形態の並列積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素17が、電池外装材であるラミネートフィルム22の内部に封止された構造を有する。詳しくは、高分子−金属複合ラミネートフィルムを電池外装材として用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合することにより、発電要素17を収納し密封した構成を有している。
【0017】
発電要素17は、負極集電体11の両面(発電要素の最下層用および最上層用は片面のみ)に負極活物質層12が配置された負極と、電解質層13と、正極集電体14の両面に正極活物質層15が配置された正極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの負極活物質層12とこれに隣接する正極活物質層15とが、電解質層13を介して対向するようにして、負極、電解質層13、正極がこの順に積層されている。正極活物質層には、後述するように、特定の組成および構造の正極活物質を使用する。
【0018】
これにより、隣接する負極、電解質層13、および正極は、1つの単電池層16を構成する。したがって、本実施形態の並列積層型電池10は、単電池層16が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するといえる。また、単電池層16の外周には、隣接する負極集電体11と正極集電体14との間を絶縁するためのシール部(絶縁層)(図示せず)が設けられていてもよい。発電要素17の両最外層に位置する最外層負極集電体11aには、いずれも片面のみに負極活物質層12が配置されている。なお、
図1とは負極および正極の配置を逆にすることで、発電要素17の両最外層に最外層正極集電体が位置するようにし、該最外層正極集電体の片面のみに正極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0019】
負極集電体11および正極集電体14には、各電極(負極および正極)と導通される負極集電板18および正極集電板19がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム22の端部に挟まれるようにラミネートフィルム22の外部に導出される構造を有している。負極集電板18および正極集電板19は、必要に応じて負極端子リード20および正極端子リード21を介して、各電極の負極集電体11および正極集電体14に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい(
図1にはこの形態を示す)。ただし、負極集電体11が延長されて負極集電板18とされ、ラミネートフィルム22から導出されていてもよい。同様に、正極集電体14が延長されて正極集電板19とされ、同様に電池外装材22から導出される構造としてもよい。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態に係る直列に積層した双極型のリチウムイオン二次電池(以下、単に「直列積層型電池」とも称する)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
図2に示す直列積層型電池10bは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素17が、電池外装材であるラミネートフィルム22の内部に封止された構造を有する。
【0021】
図2に示すように、直列積層型電池10bの発電要素17は、集電体23の一方の面に電気的に結合した正極活物質層15が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層12が形成された複数の双極型電極24を有する。正極活物質層には、後述するように、特定の組成および構造の正極活物質を使用する。各双極型電極24は、電解質層13を介して積層されて発電要素17を形成する。なお、電解質層13は、基材としてのセパレータの面方向中央部に電解質が保持されてなる構成を有する。この際、一の双極型電極24の正極活物質層15と前記一の双極型電極24に隣接する他の双極型電極24の負極活物質層12とが電解質層13を介して向き合うように、各双極型電極24および電解質層13が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極24の正極活物質層15と前記一の双極型電極24に隣接する他の双極型電極24の負極活物質層12との間に電解質層13が挟まれて配置されている。
【0022】
隣接する正極活物質層15、電解質層13、および負極活物質層12は、一つの単電池層16を構成する。したがって、本実施形態の直列積層型電池10bは、単電池層16が複数積層されることで、電気的に直列接続されてなる構成を有するといえる。また、電解質層13からの電解液の漏れによる液絡を防止する目的で、単電池層16の外周部にはシール部(絶縁部)25が配置されている。なお、発電要素17の最外層に位置する正極側の最外層集電体23aには、片面のみに正極活物質層15が形成されている。また、発電要素17の最外層に位置する負極側の最外層集電体23bには、片面のみに負極活物質層12が形成されている。ただし、正極側の最外層集電体23aの両面に正極活物質層15が形成されてもよい。同様に、負極側の最外層集電体23bの両面に負極活物質層12が形成されてもよい。
【0023】
さらに、
図2に示す直列積層型電池10bでは、正極側の最外層集電体23aに隣接するように正極集電板19が配置され、これが延長されて電池外装材であるラミネートフィルム22から導出している。一方、負極側の最外層集電体23bに隣接するように負極集電板18が配置され、同様にこれが延長されて電池の外装であるラミネートフィルム22から導出している。
【0024】
図2に示す直列積層型電池10bにおいては、通常、各単電池層16の周囲に絶縁部25が設けられる。この絶縁部25は、電池内で隣り合う集電体23どうしが接触したり、発電要素17における単電池層16の端部の僅かな不揃いなどに起因する短絡が起こったりするのを防止する目的で設けられる。かような絶縁部25の設置により、長期間の信頼性および安全性が確保され、高品質の直列積層型電池10bが提供されうる。
【0025】
なお、単電池層16の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、直列積層型電池10bでは、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層16の積層回数を少なくしてもよい。直列積層型電池10bでも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止する必要がある。よって、発電要素17を電池外装材であるラミネートフィルム22に減圧封入し、正極集電板19および負極集電板18をラミネートフィルム22の外部に取り出した構造とするのがよい。
【0026】
上記
図1および
図2における正極活物質層15及び正極は、後述する特定の組成および特定の構造の正極活物質を含む。これにより、電動車両への適用を指向した非水電解質二次電池は、高出力化および高容量化を実現でき、かつ、充放電の繰り返しによっても容量低下の生じにくいものとなる。以下、非水電解質二次電池の各構成について、詳細に説明する。
【0027】
[正極]
正極は、負極とともにリチウムイオンの授受により電気エネルギーを生み出す機能を有する。正極は、集電体および正極活物質層を必須に含み、集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる。
【0028】
(集電体)
集電体は導電性材料から構成され、その一方の面または両面に正極活物質層が配置される。集電体を構成する材料に特に制限はなく、例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0029】
金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼(SUS)、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。これらのうち、導電性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス鋼、または銅を用いることが好ましい。
【0030】
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
【0031】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、およびポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0032】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限されないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限されないが、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
【0033】
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はないが、通常は1〜100μm程度である。
【0034】
(正極活物質層)
正極活物質層は特定の組成および特定の構造の正極活物質を必須に含む。前記正極活物質層は、それ以外の正極活物質、導電助剤、バインダ等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0035】
(正極活物質)
正極活物質は、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵できる組成を有する。本実施形態の正極活物質は、以下の組成式(1):
【0037】
ここで、XはTi、ZrおよびNbからなる少なくとも1種であり、a+b+c+d+e=1.5、1.1≦[a+b+c+e]≦1.4、0.1≦d≦0.4、0≦e≦0.5である。zは原子価を満足する酸素数で表される、固溶体活物質を有する。さらに、この固溶体活物質の粒子表面に、さらにアルミナ層が存在すると共に、該固溶体活物質粒子とアルミナ層の界面の該固溶体活物質側にAl元素が存在(浸入)する領域を有することを特徴とするものである。
【0038】
従来より、高エネルギー密度の二次電池を得るには、正極と負極に用いられる活物質材料の単位質量当りに蓄えられる電気量を大きくする必要がある。このうち、正極活物質材料としては、固溶体系正極材料(固溶体活物質)が研究されている。固溶体系正極材料としては、電気化学的に不活性な層状のLi
2MnO
3と、電気化学的に活性な層状のLiMO
2(ここで[M]は、Co、Ni、Mn、Feなどの遷移金属)との固溶体から成る層状系のリチウム含有遷移金属酸化物が研究されている。固溶体活物質を用いた電池では、固溶体系正極材料(Li
2MnO
3組成)を活性化する(結晶構造の一部をスピネル相に構造変化させる:相転移させる)ため、プラトー電位以上(例えば、4.4〜4.8V)まで充電する必要がある。このスピネル相(Mnが移動することで生成するLiMnO
2系が徐々にスピネル相に変化)への相転移は、正極活物質の結晶構造内において、遷移金属層を構成している遷移金属元素(Mnなど)が酸化(例えば、Mn
3+⇒Mn
4+)(充電による非可逆的相転移)されることによって起こると考えられている。しかしながら、相転移に関与する遷移金属元素の一部は、スピネル相を形成せず(固定化されず)に結晶構造外への溶出が起こる。また、遷移金属の酸化に伴い、格子酸素の一部が離脱し酸素ガスも発生するが、結晶構造内に酸素欠陥ができることによっても、遷移金属元素の溶出が起こる。さらに、プラトー電位付近(4.3〜4.5V)で充放電のサイクルを繰り返したり、プラトー電位付近の電位に長期間暴露されることでも、固溶体活物質を構成している遷移金属(Mnなど)の酸化に伴う溶出が起こる。このため、Li
2MnO
3組成を電気化学的に活性な状態にする一方で、岩塩型層状構造の安定化及びMn等の遷移金属溶出を抑制しなければならない。
【0039】
従来、固溶体活物質を用いた正極では、層状LiMO
2(例えば、LiNi
1/2Mn
1/2O
2等)対し、層状Li
2MnO
3の充電末期や放電末期の過電圧(抵抗)が高いため、充放電容量やレート特性が低下することが知られている。また、使用上限電位が高い(4.3V以上)ため、NiやMnが溶出し易い問題があった。
【0040】
従来、固溶体活物質を用いた正極を使用して電池にした場合、正極及び負極活物質の劣化、電解液の劣化(液枯れ)、Li−副産物生成等により電池性能(充放電特性、C−レート特性)や寿命特性(容量維持率)が低下する問題があった。また、堆積物蓄積やガス発生により電極間に間隔が発生することでインピーダンス(DCR)が増加する問題があった。また過電圧が増大することで、さらに充放電容量、C−レート特性や容量維持率が低下するという問題もあった。従来の固溶体活物質は、活性化するためプラトー電位以上(例えば、4.4〜4.8V)の充電(結晶構造の一部がスピネル相構造に変化(相転移)を伴う)が必要である。スピネル相(LiMnO
2系)への部分相転移は、正極活物質の結晶構造内において、遷移金属層を構成している遷移金属元素(MnやNiなど)が酸化される(例えば、Mn
3+⇒Mn
4+;充電による非可逆的相転移)過程と、上記に伴い格子酸素が脱離する過程で起こると考えられている。よって、高容量を得るためプラトー電位付近(4.4〜4.5V)で充放電サイクルを繰り返すと、部分相転移と酸素脱離が徐々に進行する。その結果、結晶構造の変化(相転移と酸素脱離)に伴って、平均電圧,容量やレート特性が低下する。また、相転移に関与する遷移金属元素の一部は、スピネル相を形成せず(固定化されず)に結晶構造外への溶出を起こす。また、遷移金属の酸化に伴い格子酸素の一部が離脱し酸素ガスが発生するが、結晶構造内に酸素欠陥ができることによっても、遷移金属元素の溶出が起こる。さらに、プラトー電位付近で充放電サイクルを繰り返すだけでなく、満充電状態(プラトー電位付近の電位)に長期間暴露されることでも、固溶体活物質を構成している遷移金属(MnやNiなど)の酸化に伴う溶出が起こる。その結果、表層の結晶構造の変化に伴う遷移金属の溶出が、耐久性低下の要因にもなる。
【0041】
そこで、本実施形態では、正極活物質として、表面にAl
2O
3などの無機物(例えば、TiO
2、ZrO
2など)でコーティング(被覆)したアルミナ層を有する固溶体活物質を用いる。こうした構成の正極活物質を用いることで、プラトー電位以上の高電位(例えば、4.4〜4.8V)で活性化処理した後、充放電サイクル(例えば、4.3〜4.5V)を繰り返すことによる結晶構造の変化が抑制できる。また、表面をAl
2O
3層で被覆することで、活性化に伴い、遷移金属層内のMnがLi層に移動して一部がスピネル相へ相転移する際に、スピネル相を形成せず(固定化されず)に結晶構造外へ溶出する遷移金属(Mn)が減少し、性能及び耐久性の向上が図れる。
【0042】
さらに、本実施形態では、Al
2O
3コート(被覆)層のAl元素の一部が該活物質粒子の表層に侵入(存在する領域を有する)することで、酸素との共有結合が強まる。そのため、その他の遷移金属の酸化に伴う格子酸素の離脱が減少するため、酸素ガスの発生が減少し、結晶構造内に酸素欠陥の生成も減少する。また、プラトー電位付近(4.3〜4.5V)で充放電のサイクルを繰り返したり、プラトー電位付近の電位に長期間暴露されても、結晶構造が安定化され、酸素離脱が減少するため、固溶体活物質を構成している遷移金属(Mnなど)の酸化に伴う溶出が抑制さるため、性能及び耐久性の向上が図れる。さらに、最も不安定になる該活物質粒子表層(〜20nm、更には30nmまで;
図16及び実施例5)が、Al
2O
3コートとAl元素の侵入により安定化するため、特許文献1のように該活物質粒子表層にAl元素の侵入(存在)困難なAl
2O
3コート技術に比べ、さらに、性能及び耐久性の向上が図れる。またAl
2O
3コート層のAl元素が粒子(バルク)内に侵入及び置換されないため、バルク内におけるNiやMnの酸化還元に伴うLi挿入脱離が阻害されないので、高容量を得ることができる。
【0043】
上記につき図面を用いて説明する。
図3は、各電極(正極)の出力特性試験時の放電曲線を比較した図面である。
図3では、2種の電極(正極)を用いた電池で、同じ条件で出力特性試験を行った。アルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質(bare sample;比較例1)として用いた正極と、固溶体活物質表面に5質量%アルミナ層を設けた正極活物質(5wt%Al
2O
3 coating;実施例4)を用いた正極を使用した電池を用いた。いずれの固溶体活物質にも、実施例1の組成式;Li
1.5[Ni
0.40Mn
0.60Co
0.40[Li]
0.1]O
zで表されるものを用いた。これらの正極活物質を用いて作製した各正極を使用した電池で、放電レート特性を変えて試験した。アルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質として用いた正極を使用した電池には、比較例1のラミネート型電池を用いた。固溶体活物質表面に5質量%アルミナ層を設けたものを用いた正極を使用した電池には、実施例4のラミネート型電池を用いた。
図3の放電試験条件は、実施例1の電池特性の評価として、初充電処理、ガス除去処理1、活性化処理、ガス除去処理2を行った。その後、性能評価を0.1Cレートから
図3に示す0.05C、0.1C、0.2C、0.5C,1.0C、2.0Cレートにそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして行い、放電曲線を得た。
【0044】
図4は、高温(50℃)下での各電極(正極)の充放電曲線を比較した図面である。
図4では、4種の電極(正極)を用いた電池で、同じ条件で充放電試験した。アルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質(bare sample)として用いた正極と、固溶体活物質表面に2、5、10質量%アルミナ層を設けた正極活物質(2、5、10wt%Al
2O
3 coating)を用いた正極を使用した電池を用いた。いずれの固溶体活物質にも、実施例1の組成式;Li
1.5[Ni
0.40Mn
0.60Co
0.40[Li]
0.1]O
zで表されるものを用いた。アルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質として用いた正極を使用した電池には、比較例1のラミネート型電池を用いた。固溶体活物質表面に2質量%アルミナ層を設けた正極活物質を用いた正極を使用した電池には、実施例3のラミネート型電池を用いた。固溶体活物質表面に5質量%アルミナ層を設けた正極活物質を用いた正極を使用した電池には、実施例4のラミネート型電池を用いた。固溶体活物質表面に10質量%アルミナ層を設けた正極活物質を用いた正極を使用した電池には、実施例5のラミネート型電池を用いた。
図4の充放電試験条件は、実施例1の電池特性の評価として、初充電処理、ガス除去処理1、活性化処理、ガス除去処理2を行った後、性能評価を室温下から高温(50℃)下に変更した以外は実施例1と同様にして行った。
【0045】
図5は、高温(50℃)下での各電極(正極)のサイクル特性を比較した図面である。
図5では、4種の電極(正極)を用いた電池で、同じ条件で充放電サイクル試験した。アルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質(bare sample)として用いた正極と、固溶体活物質表面に2、5、10質量%アルミナ層を設けた正極活物質(2、5、10wt%Al
2O
3 coating)を用いた正極を使用した電池を用いた。いずれの固溶体活物質にも、実施例1の組成式;Li
1.5[Ni
0.40Mn
0.60Co
0.40[Li]
0.1]O
zで表されるものを用いた。アルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質として用いた正極を使用した電池には、比較例1のラミネート型電池を用いた。固溶体活物質表面に2質量%アルミナ層を設けた正極活物質を用いた正極を使用した電池には、実施例3のラミネート型電池を用いた。固溶体活物質表面に5質量%アルミナ層を設けた正極活物質を用いた正極を使用した電池には、実施例4のラミネート型電池を用いた。固溶体活物質表面に10質量%アルミナ層を設けた正極活物質を用いた正極を使用した電池には、実施例5のラミネート型電池を用いた。
図5のサイクル特性試験条件は、実施例1の電池特性の評価として、初充電処理、ガス除去処理1、活性化処理、ガス除去処理2、性能評価を行った後、寿命評価を実施例1と同様にして行い、サイクル特性を得た。
【0046】
本実施形態では、Al
2O
3(TiO
2、ZrO
2などの無機物)コーティング(即ち、アルミナ層(チタニア層、ジルコニア層等の無機物層)を設けること)により、表層の結晶構造から遷移金属(Mn
4+、Ni
2+)の溶出及び酸素の離脱の抑制を図ることができる。さらに、Al
2O
3層−固溶体活物質の界面で(Al−Li)化合物を形成させる(活物質側にAl元素が存在する領域を設ける)ことで、Li拡散性(Li伝導性)の向上を図ることができる。その結果、界面抵抗が減少するだけでなく、粒子内Li拡散抵抗も減少させることができる。こうした抵抗の減少とLi拡散性の向上により、
図3、4、5に示すように、電池性能(容量、レート特性、サイクル特性)を向上させることができる。また、遷移金属の溶出を抑制することで、固溶体活物質(粒子)表層−電解液間の反応を抑制することができると共に、サイクル経過に伴う平均電圧の低下を抑制することができる。
【0047】
また本実施形態では、正極活物質のX線回折において層状岩塩構造ピークである(003)、(101)及び(104)にシフトを有するのが好ましい。詳しくは、これらの各ピークシフトが、前記固溶体活物質だけのX線回折における層状岩塩構造ピークに対して、(003)が低角度側にシフトし、(101)が高角度側にシフトし、(104)が高角度側にシフトしてなるのが好ましい。また各ピークシフト幅が、前記固溶体活物質だけのX線回折における層状岩塩構造ピークに対して、(003):−0.08°≦Δθ<0.00°、(101):0.00°<Δθ≦0.05°、(104):0.00°<Δθ≦0.05°が好ましい。
【0048】
これは、従来、固溶体活物質を正極活物質に用いた場合、XRD(X線回折)ピークとして、LiMO
2は層状岩塩構造(岩塩型層状構造)を示す。Li
2MnO
3は、20−23°に超格子回折ピークが存在するが、その他は、LiMO
2と同じ層状岩塩構造(岩塩型層状構造)を示す。したがって、Li
2MnO
3とLiMO
2の固溶体活物質では、20−23°に超格子回折ピークが存在する層状岩塩構造(岩塩型層状構造)を示すことになる。該固溶体活物質は、Mn等の遷移金属の固溶状態が不十分な場合、初期からLiMnO
2が不純物として存在、あるいはプラトー電位以上の高電位(例えば、4.4〜4.8V)で活性化処理した後、結晶構造の一部に変化が見られる。さらに、充放電サイクル(例えば、4.3〜4.5V)を繰り返すことによって、結晶構造の一部が変化し、不純物として存在あるいは結晶構造の一部に変化に伴って生成したLiMnO
2が、サイクルの経過と伴に、徐々に、スピネル相に変化してスピネル相に特徴的なXRD回折ピークが現れてくる。上記のように、充放電サイクルの経過と伴って該結晶構造が変化すると、固溶体活物質の劣化が進み、すなわち、4Vと3V付近にリチウムマンガンスピネルに特徴的な電位プラトー領域が現れる始め、結果として、容量低下及び平均電圧低下が起こる。こうした課題(問題点に)に対し、Al
2O
3層を配置した本実施形態の固溶体活物質では、活物質側にAl元素が存在する領域を設けることで、層状岩塩構造ピーク((003)、(101)、(104))にシフトが観測される。ただし、Al
2O
3コート量が0.5質量%以下では、Al元素の侵入量が少ないのでXRDピークシフトは観測されないが、活物質側にAl元素が存在する領域を設けることによる効果は十分に得られる(実施例1等参照)。Al
2O
3コート量が多くなると、シフトが明確になる(観測できる)ため、活物質側にAl元素が侵入(存在)したことの証拠としても利用可能といえる。具体的には、上記したように、(003)が、−0.08°≦Δθ<0.00°の範囲で低角度側にシフトし、(101)が、0.00°<Δθ≦0.05°の範囲で高角度側にシフトし、(104)が0.00°≦Δθ≦0.05°の範囲で高角度側にシフトする。表面をAl
2O
3(などの無機物)でコーティング(被覆)した固溶体活物質では、上記したように層状岩塩構造ピークにシフトを有することで、プラトー電位以上の高電位(例えば、4.4〜4.8V)で活性化処理した後、充放電サイクル(例えば、4.3〜4.5V)を繰り返すことによる結晶構造の変化が抑制できる。表面をAl
2O
3層で被覆することで、活性化に伴い、遷移金属層内のMnがLi層に移動して一部がスピネル相へ相転移する際に、スピネル相を形成せず(固定化されず)に結晶構造外へ溶出する遷移金属(Mn)が減少し、性能及び耐久性の向上が図れる。さらに、正極活物質のX線回折において層状岩塩構造ピークである(003)、(101)及び(104)にシフトを有する(Al
2O
3コート(被覆)層のAl元素の一部が該活物質粒子表層に侵入する)ことで、酸素との共有結合が強まる。そのため、その他の遷移金属の酸化に伴う格子酸素の離脱が減少するため、酸素ガスの発生が減少し、結晶構造内に酸素欠陥の生成も減少する。さらに、(003)、(101)及び(104)に上記した範囲のピークシフトを有することで、最も不安定になる該活物質粒子表層(〜20nm)が、Al
2O
3コートとAl元素の侵入(存在)により安定化する。そのため、従来の該活物質粒子表層へのAl元素の侵入(存在)が困難なAl
2O
3コート技術に比べ、さらに、性能及び耐久性の向上が図れる。また、さらに、(003)、(101)及び(104)に上記した範囲のピークシフトを有することで、Al
2O
3コート層のAl元素が粒子(バルク)内に侵入及び置換されないため、バルク内におけるNiやMnの酸化還元に伴うLi挿入脱離が阻害されないので、高容量を得ることができる。
【0049】
本実施形態において、固溶体活物質粒子とアルミナ層の界面の該固溶体活物質側にAl元素が存在する領域を有することの確認は、高分解能の測定装置を用いれば、定性的には、活物質粒子表層にAl元素が存在していることを確認できる。分析装置(分析法)としては、XPS(X線光電子分光法)、TEM−EDX(透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)、STEM−EDX/EELS(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法/電子エネルギー損失分光分析器)、HAADF−STEM(高角度散乱暗視野−走査透過電子顕微鏡像)などを使用することができる。以下に示す各種分析装置を用いた活物質粒子表層にAl元素が存在していることの分析例を示す。但し、本実施形態ではこれらに何ら制限されるものではなく、活物質粒子表層にAl元素が存在していることを確認できればよい。
【0050】
(1)電子顕微鏡写真(走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM))とXPS(X線光電子分光)による分析
図6(a)は、本実施形態の正極活物質粒子を構成する、Al
2O
3層−固溶体活物質(粒子)の界面付近の電子顕微鏡(SEM)で観察した様子を表す図面である。
図6(b)は、本実施形態の正極活物質粒子を構成する、Al
2O
3層−固溶体活物質(粒子)の界面をXPSで観察した様子を表す図面である。
図6(a)では、実施例3で作製した正極活物質である、固溶体活物質表面に2質量%アルミナ層を設けたサンプル(2wt%Al
2O
3 coated sample)を用いた。
図6(b)では、比較例1で作製したアルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質としたサンプル(bare sample)用いた。更に実施例3で作製した固溶体活物質表面に2質量%アルミナ層を設けた正極活物質サンプル(2wt%Al
2O
3 coated sample)を用いた。このうち、実施例3で作製した固溶体活物質表面に2質量%アルミナ層を設けた正極活物質サンプルは、
図6(a)より、アルミナ層(厚さ10nm;表1の実施例3参照)の表面から深さ方向に15〜20nmまで、アルゴンエッチングを行った。これにより、Al
2O
3層−固溶体活物質(粒子)の界面よりも活物質側の表層(深さ方向;5〜10nm)の元素分布を知ることができる。また、いずれの固溶体活物質にも、実施例1の組成式;Li
1.5[Ni
0.40Mn
0.60Co
0.40[Li]
0.1]O
zで表されるものを用いた。
【0051】
図6(a)に示すように、2本の直線を引いた範囲に、固溶体活物質粒子(図の左側の緻密な状態の色の濃い部分)の表面上に形成されたAl
2O
3層が確認できる。Al
2O
3層の部分は、Al
2O
3粒子同士が結合して形成されて層状化しているため、粒々の状態で比較的濃淡のある部分として視認できる。
図6(b)からは、アルミナ被覆されていない固溶体活物質サンプル(bare sample)のX線光電子分光スペクトルでは、光電子のエネルギー(横軸)1550〜1570eVの範囲に、光電子のピークは観察されず、Al元素は観測されなかった。一方、固溶体活物質表面に2質量%アルミナ層を設けたサンプル(2wt%Al
2O
3 coated sample)では、Al
2O
3層−固溶体活物質(粒子)の界面よりも活物質側の表層(深さ方向;5〜10nm)の元素分布として、1562eV近傍にAl(1s)の強いピークを観察することができた。このことから、Al
2O
3層−固溶体活物質(粒子)の界面よりも活物質側の表層(深さ方向;5〜10nm)にAl元素が存在していることが確認できる。
【0052】
(2)Al元素分析とX線回折(ピークシフト)による分析
固溶体活物質や正極活物質の元素分析は、既存の元素分析装置を用いて行うことができる。
図7(A)は、元素分析により固溶体活物質の組成式が判明した正極活物質のXRD(X線回折)パターンを示すチャートである。
図7(A)では、アルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質として用いたサンプル(Bare sample)のXRD(X線回折)パターンを示すチャートを下図に示す。また下図と同じ固溶体活物質(粒子)表面に2質量%アルミナ層を設けた正極活物質サンプル(2wt%Al
2O
3 coated sample)のXRD(X線回折)パターンを示すチャートを上図に示す。いずれの固溶体活物質にも、実施例1の組成式;Li
1.5[Ni
0.40Mn
0.60Co
0.40[Li]
0.1]O
zで表されるものを用いた。アルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質として用いたサンプル(Bare sample)は、比較例1で作製した正極活物質を用いた。固溶体活物質(粒子)表面に2質量%アルミナ層を設けた正極活物質サンプルは、実施例3で作製した正極活物質を用いた。
図7(B)は、
図7(A)中の2種(上図と下図)のパターンの(a)に示すピークを拡大して表示した図面である。
図7(C)は、
図7(A)中の2種(上図と下図)のパターンの(b)に示すピークを拡大して表示した図面である。また、
図7に示すXRD(X線回折)は、SPring−8、BL2B2、λ=0.6Åとする放射光X線回折により測定したものである。
【0053】
図7(B)(C)に示すように、層状岩塩構造ピーク(003)、(104)に僅かながらシフトが観測され、表面のAl
2O
3層は、単に被覆しているだけではないと示唆された。
【0054】
図8(a)は、元素分析により固溶体活物質の組成式がわかった正極活物質のXRD(X線回折)パターンを示すチャートである。
図8(a)では、アルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質として用いたサンプル(Bare sample)のXRD(X線回折)パターンを示すチャートを下図に示す。また下図と同じ固溶体活物質(粒子)表面に2質量%アルミナ層を設けた正極活物質サンプル(2wt%Al
2O
3 coated sample)のXRD(X線回折)パターンを示すチャートを中図に示す。また下図と同じ固溶体活物質(粒子)表面に5質量%アルミナ層を設けた正極活物質サンプル(5wt%Al
2O
3 coated sample)のXRD(X線回折)パターンを示すチャートを上図に示す。いずれの固溶体活物質にも、実施例1の組成式;Li
1.5[Ni
0.40Mn
0.60Co
0.40[Li]
0.1]O
zで表されるものを用いた。アルミナ被覆されていない固溶体活物質を正極活物質として用いたサンプル(Bare sample)は、比較例1で作製した正極活物質を用いた。固溶体活物質(粒子)表面に2質量%アルミナ層を設けた正極活物質サンプルは、実施例3で作製した正極活物質を用いた。固溶体活物質(粒子)表面に5質量%アルミナ層を設けた正極活物質サンプルは、実施例4で作製した正極活物質を用いた。
図8(b)は、
図8(a)中の3種(上図と中図と下図)のパターンの層状岩塩構造ピーク(003)のピークシフト及びシフト幅が判別できるように拡大して表示した図面である。
図8(c)は、
図8(a)中の3種(上図と中図と下図)のパターンの層状岩塩構造ピーク(101)のピークシフト及びシフト幅が判別できるように拡大して表示した図面である。
図8(d)は、
図8(a)中の3種(上図と中図と下図)のパターンの層状岩塩構造ピーク(104)のピークシフト及びシフト幅が判別できるように拡大して表示した図面である。また、
図8に示すXRD(X線回折)は、Rigaku,Ultima III、線源;CuKαとする粉末X線回折により測定したものである。
【0055】
図8(a)に示すように、層状岩塩構造ピーク(003)、(101)、(104)にいずれもピークが観察された。
図8(b)(c)(d)から、下図の固溶体活物質のサンプル(Bare sample)に対して、中図及び上図のアルミナ層を設けたものは、層状岩塩構造ピーク(003)(101)(104)のいずれにも、僅かながらピークシフトが観測された。このことから、固溶体活物質表面のAl
2O
3層は、単に被覆しているだけではないと示唆された。より詳しくは、
図8(b)より(003)が、低角度側にシフトし、
図8(c)より(101)が、高角度側にシフトし、
図8(d)より(104)が高角度側にシフトすることが観察できる。更にピークシフト幅は、Al
2O
3コート量に依存しており、(003)が、−0.08°≦Δθ<0.00°の範囲で低角度側にシフトし、(101)が、0.00°<Δθ≦0.05°の範囲で高角度側にシフトし、(104)が0.00°≦Δθ≦0.05°の範囲で高角度側にシフトしていることが観察された(
図8(b)(c)(d)参照)。以上のことから、アルミナ層−固溶体活物質(粒子)の界面部で、一部が化合物を生成(または固溶)しているものと思われる。これにより実施例の表1から分かるように、遷移金属(Mn等)の溶出防止効果が格段に高まることで、性能及び耐久性の向上効果が大いに高められていることが確認できた。
【0056】
(3)STEM−EDX(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)による(定量マッピング)分析
図9(a)は、活物質粒子のBF(Bright−field)−STEM Image(明視野−走査透過電子顕微鏡像)を表す図面である。
図9(b)は、
図9(a)と同一視野での活物質粒子のHAADF−STEM Image(高角度散乱暗視野−走査透過電子顕微鏡像)を表す図面である。測定対象は、活物質粒子(2次粒子)サイズが約2μmである、固溶体活物質(粒子)表面に2質量%のアルミナをコーティンして作製した実施例3の正極活物質粒子(2次粒子)を用いた。固溶体活物質には、実施例1の組成式;Li
1.5[Ni
0.40Mn
0.60Co
0.40[Li]
0.1]O
zで表されるものを用いた。
図10は、STEM−EDX(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)による定量マッピングデータを示した図面である。
図10(a)は、
図9(b)と同一のHAADF−STEM画像である。
図10(b)は、HAADF−STEM(上段左の
図10(a))と同一視野で測定したO(上段中央)のマッピングデータを示した図面である。
図10(c)は、HAADF−STEM(上段左の
図10(a))と同一視野で測定したAl(上段右)のマッピングデータを示した図面である。
図10(d)は、HAADF−STEM(上段左の
図10(a))と同一視野で測定したMn(下段左)のマッピングデータを示した図面である。
図10(e)は、HAADF−STEM(上段左の
図10(a))と同一視野で測定したCo(下段中央)のマッピングデータを示した図面である。
図10(f)は、HAADF−STEM(上段左の
図10(a))と同一視野で測定したNi(下段右)のマッピングデータを示した図面である。
【0057】
上段右の
図10(c)のAlのマッピングデータより、活物質粒子の表層部にAl(図中の白い部分)を観察することができる。このことから、アルミナ(Al
2O
3)コート層は、固溶体活物質粒子表面(全体)に分布することがわかる。また、測定対象の正極活物質C1
2.0(実施例3の正極活物質)を構成する元素であるO、Al、Mn、Co、Niの存在なおよび分布状態も確認できる。
【0058】
上記分析において、STEM像観察には、試料を透過した電子線を用いて結像する明視野(Bright−field:BF)STEM像と、試料から散乱された電子線を用いて結像する暗視野(Dark−field:DF)STEM像の2種類の観察法がある。
図9(a)に示すBF−STEM像では、通常のTEM像と同様に、試料の内部構造を示す透過像、
図9(b)に示す(HAA)DF−STEM像では、試料の組成を反映したコントラストが得られる組成像の観察できる。特に、HAADF(高角散乱環状暗視野)では、原子番号(Z)に起因する弾性散乱電子contrastが優勢なためZ−contrast像ともいわれる結像法である。原子番号の大きな物質が明るく見える(
図9(b)、
図11(b)、
図12(a)〜
図25(a)参照)。HAADF−STEM(高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法)では、像は細く絞った電子線を試料に操作させながら当て、透過電子のうち高角に散乱したものを環状の検出器で検出することにより得られる。Z
2ρが大きな材料の方がより高角に散乱されることから、重い元素はSTEM像では暗く、HAADF−STEM像では明るい。原子量(Z)に比例したコントラストが得られることからZコントラスト像とも呼ばれる。またSTEM−EDX定量マッピングでは、電子線を細く絞り試料上を走査しながら、各点から発生した特性X線をEDS(Energy−Dispersive−Spectroscopy)検出器に取り込むことにより、試料の組成分布の情報を得ることができる。TEM測定では、SEM測定に見られる様な電子線の拡散が殆どないため、ナノメーターの空間分解能で測定が可能となる。
【0059】
(4)HAADF−STEM Image(高角度散乱暗視野−走査透過電子顕微鏡像)と元素分析法による分析
図11(a)は、活物質粒子のBF(Bright−field)−STEM Image(明視野−走査透過電子顕微鏡像)を表す図面である。
図11(b)は、
図11(a)と同一視野での活物質粒子のHAADF−STEM Image(高角度散乱暗視野−走査透過電子顕微鏡像)を表す図面である。測定対象は、固溶体活物質表面に2質量%のアルミナをコーティンして作製した実施例3の正極活物質粒子(1次粒子)の固溶体活物質−アルミナ層界面、特に固溶体活物質側の表層の元素分布を観察対象とした。固溶体活物質には、実施例1の組成式;Li
1.5[Ni
0.40Mn
0.60Co
0.40[Li]
0.1]O
zで表されるものを用いた。
図11(b)の白っぽい側(右側)がアルミナ層であり、黒い部分(左側)が固溶体活物質である。
図12は、
図11(b)と同一のHAADF−STEM画像であり、元素分析によるAl元素の存在(浸入)を観察する領域(四角の枠で囲った4か所)を、画像中に丸数字の1〜4で区分けした図面である。
図13(a)は、
図12と同一のHAADF−STEM画像であり、元素分布の観察対象とする部分(画像中の丸数字の1の部分)の四角い枠を太線で示した図面である。
図13(b)は、
図13(a)の元素分布の観察対象の部分につき、元素分析した図面である。
【0060】
図13(b)より、元素分布の観察対象とする部分である
図13(a)の丸数字の1の部分には、Al元素はほとんど観察されない。アルミナ層の厚みが約10〜20nmであり、当該観察対象はアルミナ層よりも外側になる。
【0061】
図14(a)は、
図12と同一のHAADF−STEM画像であり、元素分布の観察対象とする部分(画像中の丸数字の2の部分)の四角い枠を太線で示した図面である。
図14(b)は、
図14(a)の元素分布の観察対象の部分につき、元素分析した図面である。
【0062】
図14(b)より、元素分布の観察対象とする部分である
図14(a)の丸数字の2の部分で、Al元素ピークを観察できた。
図14(a)のHAADF−STEM画像では、アルミナ層は固溶体活物質より原子番号の小さく軽い元素で構成されており、暗い部分に位置する。
図14(a)の活物質−アルミナ層界面(白い領域と黒い領域の界面)からの距離を考慮すると、アルミナ層の厚みが約10〜20nmであることから、当該観察部分はアルミナ層であることがわかる。
【0063】
図15(a)は、
図12と同一のHAADF−STEM画像であり、元素分布の観察対象とする部分(画像中の丸数字の3の部分)の四角い枠を太線で示した図面である。
図15(b)は、
図15(a)の元素分布の観察対象の部分につき、元素分析した図面である。
【0064】
図15(b)より、元素分布の観察対象とする部分である
図15(a)の丸数字の3の部分で、Al元素ピークを観察できた。
図15(a)のHAADF−STEM画像で丸数字の3の部分は、活物質−アルミナ層界面(白い領域と黒い領域の界面)からの距離を考慮すると、活物質−アルミナ層界面から固溶体活物質粒子の最表層の領域(5〜10nm)である。この領域でAl元素が観察されたことから、活物質−アルミナ層界面から活物質側にAl元素が存在(浸入)していることがわかる。
【0065】
図16(a)は、
図12と同一のHAADF−STEM画像であり、元素分布の観察対象とする部分(画像中の丸数字の4の部分)の四角い枠を太線で示した図面である。
図16(b)は、
図16(a)の元素分布の観察対象の部分につき、元素分析した図面である。
図25は、
図13〜
図16までの観察結果に基づき、
図12と同一のHAADF−STEM画像中に、Ni、Co、Mn、Alの濃度分布を色味で表現した図面である。
【0066】
図16(b)より、元素分布の観察対象とする部分である
図16(a)の丸数字の4の部分でも、Al元素ピークを観察できた。ただし、Al濃度は減少している。これは、
図16(a)のHAADF−STEM画像で丸数字の4の部分は、活物質−アルミナ層界面(白い領域と黒い領域の界面)からの距離を考慮すると、活物質−アルミナ層界面から固溶体活物質粒子の最表層下部の領域(10〜20nm)である。この領域でもAl元素が観察されたことから、活物質−アルミナ層界面から活物質側の表層(〜20nm程度)にAl元素が存在(浸入)していることがわかる。また、
図15(b)及び
図16(b)から活物質の最表層よりもAl濃度が減少していることから、Al元素の侵入により、
図25に示すように最表層が最も濃度が高く、内部に向けて徐々に濃度減少(漸減)するような濃度勾配が形成されていると思われる。
図6a、
図10、
図13〜
図16の観察結果から、
図25に示すように、アルミナ(Al
2O
3)コート層は、固溶体活物質粒子表面に分布する(
図6a、
図10参照)。Al元素は、固溶体活物質粒子の表面から約10〜20nmまで内部に侵入(存在)している。侵入深さについては、アルミナ層の厚さ(コーティング量)にもよるが、30nm程度まで内部に侵入(存在)し得ることがわかる(表1の実施例19参照)。さらに、実施例3と同様にして調製した正極活物質を用いることに鑑みると、固溶体活物質粒子表面へのアルミナをコーティング後の焼成温度が低い(400〜450℃)に関わらず、Al元素が固溶体活物質の表層部に固溶(ないしAl・Li含有化合物形成)していることを確認できる。ただし、表層部に固溶しているAl・Li含有化合物は特定できないが、LiAlO
2に近いものであると思われる。即ち、固溶体活物質粒子の表面の一部あるいは全部(
図6aよりほぼ全部)にAl
2O
3層が存在し、かつ該固溶体活物質粒子の表層(〜20nm、更には35nmまで;
図16及び実施例19)にAl元素が侵入している。
【0067】
(組成式(1)を有する固溶体活物質)
本実施形態の正極活物質は、組成式(1);Li
1.5[Ni
aMn
bCo
c[Li]
d[X]
e]O
zを表される固溶体活物質を有する。ここで、Xは、Ti、ZrおよびNbからなる少なくとも1種であり、0≦e≦0.5、a+b+c+d+e=1.5、0.1≦d≦0.4、1.1≦[a+b+c+e]≦1.4であり、zは、原子価を満足する酸素数で表される。組成式(1)の固溶体活物質は、X線回折(XRD)ピークとして、LiMO
2は岩塩型層状構造を示す。Li
2MnO
3は、20−23°に超格子回折ピークが存在するが、その他は、LiMO
2と同じ岩塩型層状構造を示す。したがって、Li
2MnO
3とLiMO
2の固溶体系では、20−23°に超格子回折ピークが存在する岩塩型層状構造を示すことになる。即ち、組成式(1)の正極活物質は、X線回折(XRD)測定において、特定の複数の回折ピークを有している。上記組成式の正極活物質は、Li
2MnO
3とLiMnO
2の固溶体系であり、複数の回折ピークのうち、20−23°の回折ピークは、Li
2MnO
3に特徴的な超格子回折ピークである。また、通常は、36.5−37.5°(101)、44−45°(104)および64−65(108)/65−66(110)の回折ピークは、LiMnO
2の岩塩型層状構造に特徴的なものである。また、本実施形態では、岩塩型層状構造を示す回折ピークの一部として、(003)、(101)、(104)に回折ピークを有している(
図8(a)のBare sample参照)。本実施形態の固溶体活物質には、これらの角度範囲に、岩塩型層状構造を示す回折ピーク以外のピーク、例えば不純物等に由来する他のピークが存在するものは含まれないことが好ましい。このような他のピークが存在する場合には、岩塩型層状構造以外の構造が固溶体活物質に含まれることを意味している。岩塩型層状構造以外の構造は含まれない方が、本実施形態のサイクル特性向上の効果を確実に得られる。
【0068】
本実施形態の組成式(1)で表される固溶体活物質においては、Ti、ZrおよびNbからなる少なくとも1種が、Ni、Co、Mnからなる遷移金属層中で、Mn
4+を置換することにより固溶し、岩塩型層状構造を形成していてもよい。即ち、一般式(1)のXの価数のeが0より大きい、即ち、一般式(1)のXに相当するTi、ZrおよびNbからなる少なくとも1種を含む構成であってもよい(実施例14〜19参照)。
【0069】
即ち、Mnの一部を、Ti、ZrあるいはNbに置換した固溶体は、プラトー電位以上の高電位(例えば、4.4〜4.8V)で活性化処理した後、充放電サイクル(例えば、4.3〜4.5V)を繰り返すことによる結晶構造の変化が抑制できる。Ti、Zr及びNbなどの元素が遷移金属層内に固溶してMn4
+を置換することで、活性化に伴い、遷移金属層内のMnがLi層に移動して一部がスピネル相へ相転移する際に、スピネル相を形成せず(固定化されず)に結晶構造外へ溶出する遷移金属(Mnなど)が減少し、性能及び耐久性の向上が図れる。さらに、置換元素と酸素との共有結合が強まるため、その他の遷移金属の酸化に伴う格子酸素の離脱が減少するため、酸素ガスの発生が減少し、結晶構造内に酸素欠陥の生成も減少する。プラトー電位付近(4.3〜4.5V)で充放電のサイクルを繰り返したり、プラトー電位付近の電位に長期間暴露されても、結晶構造が安定化され、酸素離脱が減少するため、固溶体系正極活物質を構成している遷移金属(Mnなど)の酸化に伴う溶出が抑制さるため、性能及び耐久性の向上が図れる。その結果、表面をAl
2O
3などの無機物(例えば、TiO
2、ZrO
2など)でコーティング(被覆)した固溶体は、プラトー電位以上の高電位(例えば、4.4〜4.8V)で活性化処理した後、充放電サイクル(例えば、4.3〜4.5V)を繰り返すことによる結晶構造の変化が抑制できる。表面をAl
2O
3層で被覆することで、活性化に伴い、遷移金属層内のMnがLi層に移動して一部がスピネル相へ相転移する際に、スピネル相を形成せず(固定化されず)に結晶構造外へ溶出する遷移金属(Mn)が減少し、性能及び耐久性の向上が図れる。さらに、Al
2O
3コート(被覆)層のAl元素の一部が該活物質粒子表層に侵入することで、酸素との共有結合が強まるため、その他の遷移金属の酸化に伴う格子酸素の離脱が減少するため、酸素ガスの発生が減少し、結晶構造内に酸素欠陥の生成も減少する。最も不安定になる該活物質粒子表層(〜35nm)が、Al
2O
3コートとAl元素の侵入により安定化する。そのため、従来の該活物質粒子表層へのAl元素の侵入(存在)が困難なAl
2O
3コート技術に比べ、さらに、性能及び耐久性の向上が図れる。Al
2O
3コート層のAl元素が粒子(バルク)内に侵入及び置換されないため、バルク内におけるNiやMnの酸化還元に伴うLi挿入脱離が阻害されないので、高容量を得ることができる。
【0070】
さらに、上記組成式(1)の固溶体活物質においては、Ti、ZrおよびNbからなる少なくとも1種を含む場合には、該固溶体活物質の岩塩型層状構造を示す回折ピークは、低角度側にシフトしていることが好ましい。すなわち、Ti、ZrおよびNbからなる少なくとも1種を含む上記組成式(1)の固溶体活物質は、X線回折(XRD)測定において、20−23°、35.5−36.5°(101)、43.5−44.5°(104)および64−65(108)/65−66(110)に回折ピークを有することが好ましい。回折ピークの低角度側へのシフトは、Ti等が上記組成式(1)の固溶体活物質中により多く固溶し、Mnを置換していることを示し、Mn溶出抑制の効果がより大きいと考えられる。
【0071】
さらに、上記組成式(1)の固溶体活物質においては、Ti、ZrおよびNbからなる少なくとも1種を含む場合には、上記組成式(1)の固溶体活物質の遷移金属層中にTi等がMn
4+を置換して固溶することにより、置換元素と酸素との共有結合が強くなり、遷移金属の酸化に伴う結晶格子中の酸素の離脱も低減し得る。このことにより、酸素ガスの発生を抑制し、結晶構造内の酸素欠陥が減少し得る。
【0072】
また、本実施形態の組成式(1)で表される固溶体活物質において、a+b+c+eは、1.1≦[a+b+c+e]≦1.4を満たす。一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)は、材料の純度向上及び電子伝導性向上という観点から、容量及び出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中のMnを一部置換するものである。そして、1.1≦[a+b+c+e]≦1.2であることにより、各元素の最適化を図り、容量及び出力特性をより向上させることができる。したがって、この関係を満足する正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合、高い可逆容量を維持することにより、高容量を維持しつつ、優れた初期充放電効率を発揮することが可能となる。
【0073】
更に、上記組成式(1)において、a+b+c+d+e=1.5、1.1≦[a+b+c+e]≦1.4の関係を満足すれば、a、b及びcの値は特に限定されない。ただし、aは、0<a<1.5であることが好ましく、0.1≦a≦0.75であることがより好ましい。aが上記範囲であると、より容量維持率の優れた二次電池が得られる。なお、aがa≦0.75でない場合は、ニッケル(Ni)が2価であることを条件として上記dの範囲内において正極活物質中にニッケルを含有するため、結晶構造が安定化しないことがある。一方、a≦0.75である場合は、正極活物質の結晶構造が岩塩型層状構造となり易い。
【0074】
さらに、上記組成式(1)において、bは、0<b<1.5であることが好ましく、より好ましくは0.2≦b≦0.9である。bが上記範囲であると、より容量維持率の優れた二次電池が得られる。ただ、bがb≦0.9でない場合は、マンガンが4価であることを条件として上記dの範囲内において正極活物質中にマンガンを含有し、さらに正極活物質中にニッケル(Ni)を含有するため、結晶構造が安定化しないことがある。一方、b≦0.9である場合は、正極活物質の結晶構造が岩塩型層状構造となり易い。
【0075】
また、組成式(1)において、cは、0≦c<1.5であることが好ましい。ただ、cがc≦0.6でない場合は、コバルトが3価であることを条件として上記dの範囲内において正極活物質中にニッケル及びマンガンを含有する。さらに、ニッケル(Ni)が2価、マンガン(Mn)が4価であることを条件として上記dの範囲内において正極活物質中にコバルト(Co)を含有する。そのため、正極活物質の結晶構造が安定化しないことがある。一方、c≦0.6である場合は、正極活物質の結晶構造が岩塩型層状構造となり易い。
【0076】
また、組成式(1)においては、a+b+c+d+e=1.5である。この式を満たすことにより、正極活物質の結晶構造を安定化させることができる。
【0077】
また、組成式(1)においては、0.1≦d≦0.4である。dが0.1≦d≦0.4でない場合は、正極活物質の結晶構造が安定化しないことがある。逆に、dが0.1≦d≦0.4の場合は、正極活物質が岩塩型層状構造となり易い。dの範囲は、より好ましくは、0.15≦d≦0.35である。dが0.1以上の場合は、組成がLi
2MnO
3に近くなり難く、充放電が容易となるため好ましい。
【0078】
また、組成式(1)においては、0≦e≦0.5である。Ti、Zr及びNbの少なくとも一種を有する場合、0.01≦e≦0.5であればTi、Zr及びNbの少なくとも一種が、Mn
4+を溶出が抑制される程度に十分に置換できる。かかる観点から好ましくは0.02≦e≦0.5、より好ましくは0.05≦e≦0.3である。但し、e=0の場合でも十分に本実施形態の作用効果を奏し得るものである(実施例1〜13と実施例14〜19を対比参照のこと)。
【0079】
各元素のイオン半径は、Mn
4+ 0.54Åに対し、Ti
4+ 0.61Å、Zr
4+ 0.72Å、Nb
5+ 0.64Åであり、Ti、ZrおよびNbがMnよりも大きくなっている。そのため、正極活物質中のMn
4+がTi等に置換されるにつれて、結晶格子が膨張し、岩塩型層状構造を示す回折ピークは低角度側にシフトする。逆に、回折ピークがより低角度側にシフトしていれば、Ti等のMn
4+の置換量がより大きく、結晶構造が安定しやすいということになる。すなわち、充放電の際のMnの溶出がより抑制され、二次電池の容量低下をより効果的に防止し得る。
【0080】
固溶体活物質の比表面積としては、0.2〜0.6m
2/gであることが好ましく、0.25〜0.5m
2/gであることがより好ましい。比表面積が0.2m
2/g以上であると、十分な電池の出力が得られうることから好ましい。一方、比表面積が0.6m
2/g以下であると、マンガンの溶出がより抑制されうることから好ましい。なお、本明細書において、比表面積の値は、測定装置:日本ベル製BELSORP−miniIIを用いて測定された値を採用するものとする。
【0081】
固溶体活物質(二次粒子)の平均粒径としては、10〜20μmであることが好ましく、12〜18μmであることがより好ましい。平均粒径が10μm以上であると、マンガンの溶出が抑制されうることから好ましい。一方、平均粒径が20μm以下であると、正極活物質の製造時におけるアルミナのコーティングにおいて二次粒子を構成する一次粒子表面の隅々にまでアルミナを被覆することができる。また、正極の製造時における集電体への塗布工程において、箔切れや詰まり等が抑制されうることから好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置により計測されたものを採用する。平均粒径は、例えば、堀場製作所製の粒度分布分析装置(型式LA−920)を用いて測定することができる。
【0082】
本実施形態の正極活物質は、上記した組成式(1)の固溶体活物質と、(a)該固溶体活物質の表面に、アルミナ層が存在すると共に、(b)該固溶体活物質とアルミナ層の界面の該固溶体活物質側にAl元素が存在する領域を有するものである。
【0083】
このうち、上記した組成式(1)の固溶体活物質を有することにより、固溶体活物質の活性化に伴う部分的なスピネル相の相転移の際に、スピネル相を形成せず(固定化されず)に結晶構造外へ溶出する遷移金属が減少し、性能及び耐久性の向上が図れる。
【0084】
(a)アルミナ層(アルミナコート層、アルミナ被覆層、Al
2O
3層等)について
本実施形態では、上記組成式(1)の固溶体活物質(粒子)の表面に、アルミナ層が存在する。かかる構成により、上記組成式(1)の固溶体活物質による作用効果に加え、さらに固溶体活物質の表面にアルミナ被覆層が存在するため、遷移金属の酸化に伴う格子酸素の離脱が減少することで、酸素ガスの発生が減少し、結晶構造内に酸素欠陥の生成も減少する。またプラトー電位付近で充放電サイクルを繰り返したり、プラトー電位付近の電位に長期間暴露されても、固溶体活物質を構成している遷移金属(Mn、Niなど)の酸化に伴う溶出が抑制され、また酸素離脱も減少するため、性能及び耐久性が向上する。
【0085】
前記アルミナ層は、前記固溶体活物質の粒子表面の50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、中でも好ましくは表面全体(略100%;概ね97〜98%程度)を被覆してなるのが望ましい。これにより、固溶体活物質が露出する部分が残ることがなくなるため、上記した作用効果をより一層高めることができる。特に本実施形態では、後述する正極活物質の製造方法において、既存の製造方法と異なる製法・条件で調製することにより、前記固溶体活物質の粒子表面の50%以上、更には表面全体(略100%;概ね97〜98%程度)を被覆ができることを見出したものである(
図6(a)参照)。詳しくは、硝酸Alを原料源に、pH・焼成温度の条件を適化することで、固溶体活物質の粒子表面の50%以上、更には表面全体(略100%;概ね97〜98%程度)を被覆することができると共に、固溶体活物質の表層部にAl元素が侵入し易いことを見出したものである。また、従来困難であった固溶体活物質粒子の表面全体(略100%;概ね97〜98%程度)を被覆できるようになると、Al
2O
3被覆層が緻密になると電解液が浸透できず、Liイオンが拡散できないという新たに課題(問題点)が生じる。かかる課題に対して、後述する正極活物質の製造方法において、既存の製造方法と異なる製法・条件(特に焼成温度を最適化)で調製することにより、Al(OH)
3から形成される結晶構造としてη−Al
2O
3(焼成温度400〜450℃)とすることにより、新たな課題も解消できることを見出したものである。但し、本実施形態では、アルミナ層が、上記固溶体活物質の粒子表面の一部(50%未満)を被覆した形態であっても、本実施形態の作用効果を有効に発現し得る範囲内であれば、本実施形態の技術範囲に含まれるもので会えることは言うまでもない。
【0086】
前記アルミナ層の平均厚さは、1〜60nm、好ましくは2〜55nm、より好ましくは3〜30nm、さらに好ましくは3〜20nm、特に好ましくは5〜15nmの範囲である。前記アルミナ層の平均厚さが上記範囲内であれば、遷移金属の酸化に伴う格子酸素の離脱が減少することで、酸素ガスの発生が減少し、結晶構造内に酸素欠陥の生成も減少する。プラトー電位付近で充放電サイクルを繰り返したり、プラトー電位付近の電位に長期間暴露されても、固溶体活物質を構成している遷移金属(Mn、Niなど)の酸化に伴う溶出が抑制され、また酸素離脱も減少するため、性能及び耐久性が向上する。上記固溶体活物質粒子の表面に配置するAl
2O
3層の平均厚みが、1nm以上、特に3以上であれば、Al
2O
3コート層による耐久性向上効果が十分に得られる。またAl
2O
3層の平均厚みが60nm以下、特に20nm以下であれば、Liイオンが移動し易く性能向上効果が十分に得られる。アルミナ層の平均厚さの測定方法は、例えば、SEMやTEMの観察像により行うことができる。この他にも、上記した固溶体活物質の平均粒径と、アルミナ層を設けた正極活物質の平均粒径、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置により計測し、その差をアルミナ層の平均厚さとしてもよい。
【0087】
前記アルミナ(Al
2O
3)の含有量は、正極活物質全量に対して0.1〜12質量%、好ましくは0.3〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%、特に好ましくは1〜5質量%の範囲である。前記アルミナの含有量が上記範囲内であれば、遷移金属の酸化に伴う格子酸素の離脱が減少することで、酸素ガスの発生が減少し、結晶構造内に酸素欠陥の生成も減少する。プラトー電位付近で充放電サイクルを繰り返したり、プラトー電位付近の電位に長期間暴露されても、固溶体活物質を構成している遷移金属(Mn、Niなど)の酸化に伴う溶出が抑制され、また酸素離脱も減少するため、性能及び耐久性が向上する。アルミナ(Al
2O
3)の含有量が、0.1質量%以上、特に0.5質量%以上であれば、Al
2O
3コート層による耐久性向上効果が十分に得られる。アルミナ(Al
2O
3)の含有量が、12質量%以下、特に5質量%以下であれば、Liイオンが移動し易く性能向上効果が十分に得られる。アルミナ(Al
2O
3)の含有量の測定方法は、例えば、ICP、EDXやEPMAなどの元素分析法により行うことができる。
【0088】
(b)固溶体活物質層の表層部のAl元素について
本実施形態では、上記組成式(1)の固溶体活物質と、その表面にコートされたアルミナ被覆層の界面の該固溶体活物質側にAl元素が存在する領域を有することを特徴とするものである。これにより、上記組成式(1)の固溶体活物質及びアルミナ層による作用効果に加え、固溶体活物質粒子の表層にAl
2O
3被覆層を設け、さらに、固溶体活物質粒子の表層部にAl元素が侵入(存在)することで、上記改善効果が増大する。これは、Al元素が侵入することで、Li・Al含有化合物(層状LiCoO
2と同様の結晶系・空間群をとるα−Li
1−xAlO
2)が生成し、上記改善効果の増大に寄与(関与)していると考えられる。
【0089】
前記Al元素は、前記組成式(1)の固溶体活物質の表面から該活物質内部に厚さ(侵入深さ)35nmまで、好ましくは表面〜30nmまで、より好ましくは表面〜25nmまでの領域に存在してなるのが望ましい。これにより、上記組成式(1)の固溶体活物質及びアルミナ層による作用効果がより一層増大する点で望ましい。言い換えれば、前記組成式(1)の固溶体活物質の表面にAl元素が侵入(存在)している最大深さ(表面からの最大距離)は、1nm以上35nm以下、好ましくは3nm以上30nm以下、より好ましくは5nm以上25nm以下である。前記組成式(1)の固溶体活物質の表面にAl元素が侵入(存在)している最大深さ(表面からの最大距離)が1nm以上、好ましくは3nm以上であれば、Al
2O
3コート層による性能向上効果が十分に得られる。前記組成式(1)の固溶体活物質の表面にAl元素が侵入(存在)している最大深さ(表面からの最大距離)が35nm以下、好ましくは30nm以下であれば、前記固溶体活物質の表層部の結晶構造が不安定化することもなく、耐久性向上効果が十分に得られる。更に、Liイオンの移動がし易くなり性能向上効果も十分に得られる。Al元素の固溶体活物質表層部への侵入深さの測定方法は、XPS(X線光電子分光法)、TEM−EDX(透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)、STEM−EDX/EELS(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法/電子エネルギー損失分光分析器)、HAADF−STEM(高角度散乱暗視野−走査透過電子顕微鏡像)などを使用して行うことができる。ただし、これらに制限されるものではない。
【0090】
本実施形態の正極活物質の比表面積としては、0.2〜0.6m
2/gであることが好ましく、0.25〜0.5m
2/gであることがより好ましい。比表面積が0.2m
2/g以上であると、十分な電池の出力が得られうることから好ましい。一方、比表面積が0.6m
2/g以下であると、マンガンの溶出がより抑制されうることから好ましい。
【0091】
本実施形態の正極活物質の平均粒径としては、10〜20μmであることが好ましく、12〜18μmであることがより好ましい。平均粒径が10μm以上であると、マンガンの溶出が抑制されうることから好ましい。一方、平均粒径が20μm以下であると、正極の製造時における集電体への塗布工程において、箔切れや詰まり等が抑制されうることから好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置により計測されたものを採用する。平均粒径は、例えば、堀場製作所製の粒度分布分析装置(型式LA−920)を用いて測定することができる。
【0092】
上記正極活物質は、以下のような方法で調製することができる。
【0093】
即ち、上記正極活物質の製造方法は、組成式(1):Li
1.5[Ni
aMn
bCo
c[Li]
d[X]
e]O
z(ここで、Xは、Ti、ZrおよびNbからなる少なくとも1種であり、0≦e≦0.5、a+b+c+d+e=1.5、0.1≦d≦0.4、1.1≦[a+b+c+e]≦1.4であり、zは、原子価を満足する酸素数)で表される固溶体活物質の表面にアルミナをコーティングする工程、を含むことを特徴とするものである。好ましくは、前記固溶体活物質を調製する工程をさらに含み、該工程が、融点が100℃〜350℃の遷移金属の有機酸塩を混合する第1工程と、第1工程で得られた混合物を100℃〜350℃で融解する第2工程と、第2工程で得られた溶融物を、前記融点以上の温度で熱分解する第3工程と、第3工程で得られた熱分解物を焼成する第4工程と、を含むことを特徴とするものである。前記第1工程において、さらにTi、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸塩を混合することを特徴とする。前記第1工程において、さらにアルカリ金属の有機酸塩を混合することを特徴とする。さらに、前記固溶体活物質の表面にアルミナをコーティングする工程が、前記固溶体活物質と硝酸アルミニウム溶液をpH7〜8で混合する第5工程と、前記第5工程で得られた固溶体活物質前駆体を乾燥する第6工程と、前記第6工程で得られた乾燥後の固溶体活物質前駆体を温度450℃±50℃で焼成する第7工程と、を含むことを特徴とする。
【0094】
まず、前記組成式(1)の固溶体活物質の調製は、必要に応じて加えられるTi、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸塩と、融点が100℃〜350℃の遷移金属の有機酸塩とを混合する第1工程と、第1工程で得られた混合物を100℃〜350℃で融解する第2工程と、第2工程で得られた溶融物を、前記融点より高い温度で熱分解する第3工程と、第3工程で得られた熱分解物を焼成する第4工程と、を含む。次に正極活物質の調製(固溶体活物質表面へのAl
2O
3コーティング)は、前記「組成式(1)の固溶体活物質の調製」で得られた固溶体活物質と硝酸アルミニウム溶液をpH7〜8で混合し、得られた固溶体活物質前駆体を乾燥し、温度450℃±50℃で焼成する工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0095】
(1)組成式(1)の固溶体活物質の調製について
(a)第1工程
第1工程では、必要に応じて加えられるTi、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸塩(任意成分)と、融点が100℃〜350℃の遷移金属の有機酸塩とを混合する。Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸塩は、好ましくは、クエン酸錯体水溶液の形態で混合する。Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸錯体水溶液は、以下に限定はされないが、好ましくは以下のように調製できる。
【0096】
すなわち、無水クエン酸をアセトン等の有機溶媒に溶解し、この溶解液に、Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種のアルコキシドを加える。この際、Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種とクエン酸とのモル比は、(Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種)/クエン酸が1/1〜1/2であることが好ましい。アルコキシドを添加すると、溶解液中に沈殿が生じるため、沈殿物を吸引濾過する。次いで、得られた沈殿物に水を加え、50〜60℃に加温しながら撹拌し、溶解させる。水の量は、最終的にTi、ZrおよびNbの少なくとも一種の酸化物換算で1〜10質量%のクエン酸錯体水溶液濃度になるように適宜加える。この水溶液を一日静置し、沈殿物を濾過して、濾液としてTi、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸錯体水溶液が得られる。
【0097】
Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種のアルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ニオブイソプロポキシド、チタンエトキシド、チタンn−プロポキシド、チタンブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ニオブエトキシド、ニオブブトキシドが挙げられる。
【0098】
次に、得られたTi、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸錯体水溶液(任意成分)に、融点が100℃〜350℃の遷移金属の有機酸塩を添加し、混合物とする。融点が100℃〜350℃の遷移金属の有機酸塩としては、好ましくは、酢酸ニッケル、酢酸マンガン、酢酸コバルト、クエン酸マンガン等が挙げられる。
【0099】
好ましくは、上記のTi、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸錯体水溶液に、さらにアルカリ金属の有機酸塩を混合する。アルカリ金属の有機酸塩としては、好ましくは、酢酸リチウム、クエン酸リチウム、等が挙げられる。アルカリ金属の有機酸塩をこの段階で混合すると、製造方法が簡便であり好ましい。
【0100】
(b)第2工程
本工程では、第1工程で得られた混合物を、100℃〜350℃、好ましくは200〜300℃で融解する。
【0101】
(c)第3工程
本工程では、第2工程で得られた加熱溶融物(スラリー)を、第1工程で使用した遷移金属の有機酸塩の融点以上の温度で熱分解し、乾燥粉末である熱分解物を得る。複数の遷移金属の有機酸塩の融点がそれぞれ異なる場合には、最も高い融点以上の温度で熱分解する。より詳細には、溶融物をスプレー装置で、200〜600℃、より好ましくは200〜400℃で加熱噴霧することができる。
【0102】
(d)第4工程
本工程では、第3工程で得られた熱分解物を、600〜1200℃、より好ましくは800〜1100℃で、5〜20時間、好ましくは10〜15時間焼成する。焼成の前に仮焼成を行ってもよく、その場合は、200〜700℃、より好ましくは300〜600℃で、1〜10時間、より好ましくは2〜6時間仮焼成することができる。このようにして、本実施形態の組成式(1)の固溶体活物質が得られる。
【0103】
(2)正極活物質の調製(固溶体活物質表面にアルミナをコーティングする工程)について
正極活物質の調製(固溶体活物質表面にアルミナをコーティングする工程)では、前記「組成式(1)の固溶体活物質の調製」で得られた固溶体活物質と硝酸アルミニウム溶液をpH7〜8で混合する第5工程と、第5工程で得られた固溶体活物質前駆体を乾燥する第6工程と、前記第6工程で得られた乾燥後の固溶体活物質前駆体を温度450℃±50℃で焼成する第7工程とを含む。これらの工程を経て上記固溶体活物質の粒子表面の一部ないし全部(50〜100%)に形成されるAl
2O
3層は、Liイオンの移動性が高く、さらに、遷移金属の溶出を抑制する効果が高いことが望まれる。さらに、水酸化アルミニウムの沈殿反応をpH7〜8の範囲で行い、尚且つ焼成温度を450℃±50℃、望ましくは、420℃〜480℃とすることで、固溶体活物質の粒子の表面の一部ないし全部(50〜100%)にAl
2O
3層が存在すると共に、該固溶体活物質粒子の表層にAl元素が侵入した該固溶体活物質(即ち、本実施形態の正極活物質)を製造できる。この結果、性能と耐久性に優れた電池を提供できる。以下、各工程について説明する。
【0104】
(e)第5工程
本工程では、第4工程で得られた固溶体活物質と、硝酸アルミニウム溶液をpH7〜8で混合する。これにより、固溶体活物質前駆体を得ることができる。
【0105】
アルミニウムの原料は、硝酸アルミニウムが好適である。これは、硝酸根が焼成工程(第7工程)で分解除去できるので、この正極活物質を使用した電池の性能が良いためである。硫酸アルミニウムや塩化アルミニウムでは硫酸根や塩酸根が残留し、この正極活物質を使用した電池の性能が低下する。なお、酢酸アルミニウムは、本法(沈殿反応)に適さない。
【0106】
アルミニウム(Al
2O
3層)の原料である硝酸アルミニウムの配合量は、上記した正極活物質のAl
2O
3の含有量となるように、適宜調整すればよい。
【0107】
本工程では、さらに沈殿剤を用いる。該沈殿剤としては、アンモニウム水が好適である。これは、アンモニウム根が焼成工程(第7工程)で分解除去できるので、この正極活物質を使用した電池の性能が良いためである。水酸化ナトリウムでは、正極活物質の不純物としてNaが残存し、この正極活物質を使用した電池の性能が低下する。
【0108】
上記固溶体活物質と硝酸アルミニウム溶液と沈殿剤のアンモニウム水の混合時のpHがpH7未満では、硝酸アルミニウムとアンモニウム水との反応が不十分で、水酸化アルミニウムの沈殿生成が悪く、仕込み量に対し、所望のコート量を得ることができない。一方、pH8超では、水酸化アルミニウムが再溶解し、仕込み量に対し、所望のコート量を得ることができない。
【0109】
混合温度及び混合時間としては、混合操作により、硝酸アルミニウムとアンモニウム水との反応が十分になされ、所望の固溶体活物質前駆体(上記固溶体活物質表面に水酸化アルミニウムの沈殿生成がなされたもの)が形成されればよく、特に制限されるものではない。目安としては、混合温度(反応系の溶液温度)が20〜50℃の範囲で、混合時間が30分〜3時間の範囲であればよい。なお、混合した後、3時間程度までであれば、得られた固溶体活物質前駆体を溶液中に浸漬しておいてもよい。これにより、好適なアルミナ層のコートができ、充放電特性とサイクル耐久性の改善効果が得られる。
【0110】
また、混合手段(装置)としては、特に制限されるものではなく、従来公知の混合・撹拌手段(装置)を用いることができる。
【0111】
(f)第6工程
本工程では、第5工程で得られた固溶体活物質前駆体を乾燥する。
【0112】
まずは、第5工程の混合溶液から固溶体活物質前駆体をろ過する。ろ過手段(装置)としては、特に制限されるものではなく、従来公知のろ過手段(装置)を用いることができる。
【0113】
次に、ろ別された固溶体活物質前駆体を乾燥する。乾燥条件としては、固溶体活物質前駆体を十分に乾燥できれば特に制限されるものではない。即ち、乾燥から焼成までを連続して行う場合には、厳密に乾燥工程(第6工程)と焼成工程(第7工程)とを区別しなくてもよく、所定の焼成温度下で、乾燥から焼成まで行ってもよいためである。以上のことから、乾燥条件としては、乾燥温度が80〜200℃の範囲で、乾燥時間が30分〜12時間、好ましくは1〜6時間の範囲であればよい。また、乾燥時の雰囲気としては、特に制限されるものではなく、大気雰囲気等で行うことができる。
【0114】
また、乾燥手段(装置)としては、特に制限されるものではなく、従来公知の乾燥手段(装置)を用いることができる。具体的には、例えば、真空乾燥、熱風乾燥、赤外線(IR)乾燥、自然乾燥等を適宜組み合わせて使用できる。
【0115】
(g)第7工程
本工程では、第6工程で乾燥された固溶体活物質前駆体を温度450℃±50℃で焼成する。
【0116】
固溶体活物質前駆体の焼成条件としては、焼成温度450℃±50℃の範囲で、好ましくは420〜480℃の範囲で、1〜12時間、好ましくは2〜6時間の範囲とすることで、固溶体活物質の粒子の表面の一部ないし全部(50〜100%)にAl
2O
3層が存在すると共に、該固溶体活物質粒子の表層にAl元素が侵入した該固溶体活物質質(即ち、本実施形態の正極活物質)を製造できる。焼成温度が400℃未満では、水酸化アルミニウムの分解が不十分で、所望のAl
2O
3コート層が形成できず、この正極活物質を使用した電池は耐久性が悪い。一方、焼成温度が500℃超では、Al
2O
3層が密になり、Liイオンの移動性が低下し、この正極活物質を使用した電池は性能が悪い。また、焼成時の雰囲気としては、特に制限されるものではなく、大気雰囲気等で行うことができる。
【0117】
また、焼成手段(装置)としては、特に制限されるものではなく、従来公知の焼成手段(装置)を用いることができる。
【0118】
以上が、本実施形態の正極活物質およびその製造方法の説明である。以下、当該正極活物質以外の正極の構成部材(導電助剤、バインダ等)、更には該正極を用いてなる電池の正極以外の各構成部材(負極、電解質層、外装材など)につき、説明する。
【0119】
(導電助剤)
導電助剤とは、活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。正極活物質層が導電性材料を含むことにより、正極活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性が向上しうる。
【0120】
導電助剤としては、特に制限されないが、アセチレンブラック、カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、グラファイト等のカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF;登録商標)等の種々の炭素繊維、膨張黒鉛などが挙げられる。
【0121】
正極活物質層の全量に対する導電助剤の含有量は、通常、0〜30質量%であり、好ましくは1〜10質量%であり、さらに好ましくは3〜7質量%である。
【0122】
(バインダ)
バインダは、活物質層中の構成部材同士または活物質層と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。
【0123】
バインダとしては、特に制限されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)などの合成ゴム系バインダ等が挙げられる。
【0124】
正極活物質層の全量に対するバインダの含有量は、通常、0〜50質量%であり、好ましくは5〜45質量%であり、さらに好ましくは10〜25質量%であり、特に好ましくは15〜20質量%である。
【0125】
[負極]
負極は、正極とともにリチウムイオンの授受により電気エネルギーを生み出す機能を有する。負極は、集電体および負極活物質層を必須に含み、集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる。
【0126】
(集電体)
負極に用いられうる集電体は、正極に用いられうる集電体と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0127】
(負極活物質層)
負極活物質層は負極活物質を含む。前記負極活物質層は、導電助剤、バインダ等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0128】
(負極活物質)
負極活物質は、放電時にリチウムイオンを放出し、充電時にリチウムイオンを吸蔵できる組成を有する。負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、負極活物質の例としては、SiやSnなどの金属、あるいはTiO、Ti
2O
3、TiO
2、もしくはSiO
2、SiO、SnO
2などの金属酸化物、Li
4/3Ti
5/3O
4もしくはLi
7MnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Li、または炭素粉末、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどの炭素材料などが好ましく挙げられる。このうち、リチウムと合金化する元素を用いることにより、従来の炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量および優れた出力特性の電池を得ることが可能となる。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。
【0129】
上記負極活物質のうち、炭素材料、ならびに/またはSi、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を含むことが好ましく、炭素材料、Si、またはSnの元素を含むことがより好ましく、炭素材料を用いることが特に好ましい。
【0130】
前記炭素材料としては、リチウム対比放電電位が低い炭素質粒子が好ましく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、天然黒鉛と人造黒鉛とのブレンド、天然黒鉛に非晶質炭素をコートした材料、ソフトカーボン、ハードカーボン等を使用し得る。炭素質粒子の形状は、特に制限されず、塊状、球状、繊維状等のいずれの形状であってもよいが、鱗片状ではないことが好ましく、球状、塊状であることが好ましい。鱗片状でないものは、性能および耐久性の観点から好ましい。
【0131】
また、炭素質粒子は、その表面を非晶質炭素で被覆したものが好ましい。その際、非晶質炭素は、炭素質粒子の全表面を被覆していることがより好ましいが、一部の表面のみの被覆であってもよい。炭素質粒子の表面が非晶質炭素で被覆されていることにより、電池の充放電時に、黒鉛と電解液とが反応することを防止できる。黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を被覆する方法としては、特に制限はない。例えば、非晶質炭素を溶媒に溶解、または分散させた混合溶液に核となる炭素質粒子(粉末)を分散・混合した後、溶媒を除去する湿式方式が挙げられる。他にも、炭素質粒子と非晶質炭素を固体同士で混合し、その混合物に力学エネルギーを加え非晶質炭素を被覆する乾式方式、CVD法などの気相法等が挙げられる。炭素質粒子が非晶質炭素で被覆されていることは、レーザー分光法などの方法により確認することができる。
【0132】
負極活物質のBET比表面積は、0.8〜1.5m
2/gであることが好ましい。比表面積が前記範囲にあれば、非水電解質二次電池のサイクル特性が向上しうる。また、負極活物質のタップ密度は、0.9〜1.2g/cm
3であることが好ましい。タップ密度が上記範囲であると、エネルギー密度の観点から好ましい。
【0133】
以上のことから、負極活物質としては、非晶質炭素層で表面が被覆され、且つ、鱗片状ではない黒鉛材料からなり、該負極活物質のBET比表面積が、0.8〜1.5m
2/gの範囲にあり、かつ、タップ密度が、0.9〜1.2g/cm
3の範囲にあるのが望ましい。これは、上記した正極活物質を用いた非水電解液二次電池では、負極活物質として、Liイオンの黒鉛層状構造内への拡散性を向上し、さらに、サイクル寿命を向上するため、BET比表面積や材料物性を制御することが望ましいためである。
【0134】
負極活物質の平均粒径は、特に制限されないが、負極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、1〜100μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。
【0135】
(導電助剤)
負極に用いられうる導電助剤は、正極に用いられうる導電助剤と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0136】
(バインダ)
負極に用いられうるバインダは、正極に用いられうるバインダと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0137】
[電解質層]
電解質層は、正極と負極との間の空間的な隔壁(スペーサ)として機能する。また、これと併せて、充放電時における正負極間でのリチウムイオンの移動媒体である電解質を保持する機能をも有する。電解質層を構成する電解質に特に制限はなく、液体電解質、ならびに高分子ゲル電解質および高分子固体電解質などのポリマー電解質が適宜用いられうる。本実施形態では、液体電解質が好ましい。
【0138】
液体電解質は、有機溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。Li塩を溶解する観点から好適な有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、含フッ素環状カーボネート(フルオロエチレンカーボネート(FEC)等)、含フッ素鎖状カーボネート、含フッ素鎖状エーテルおよび含フッ素鎖状エステルの少なくとも一種が挙げられる。
【0139】
また、リチウム塩としては、少なくともLiPF
6を使用することが好ましい。これ以外に、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)
2、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiSO
3CF
3などを用いることができる。リチウム塩濃度としては、0.1〜5mol/Lが好ましく、0.1〜2mol/Lがより好ましい。
【0140】
さらに、液体電解質の場合は、添加剤として、有機スルホン系化合物、有機ジスルホン系化合物、ビニレンカーボネート誘導体、エチレンカーボネート誘導体、エステル誘導体、2価フェノール誘導体、テルフェニル誘導体、ホスフェート誘導体およびフルオロリン酸リチウム誘導体の少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの添加剤を含むことで、負極活物質の表面に被膜(SEI)を形成し、サイクル寿命を向上することができる点で、優れている。このうち、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムなどのフルオロリン酸リチウム誘導体がより好ましい。液体電解質(電解液)に添加する化合物(添加剤)は、有機スルホン系化合物(スルトン誘導体、環状スルホン酸エステル)としては、1,3−プロパンスルトン(飽和スルトン)、1,3−プロペンスルトン(不飽和スルトン)など、有機ジスルホン系化合物(ジスルトン誘導体、環状ジスルホン酸エステル)としては、メタンジスルホン酸メチレンなど、ビニレンカーボネート誘導体としては、ビニレンカーボネート(VC)など、エチレンカーボネート誘導体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)など、エステル誘導体としては、4−ビフェニリルアセテート、4−ビフェニリルベンゾエート、4−ビフェニリルベンジルカルボキシレートあるいは2−ビフェニリルプロピオネートなど、2価フェノール誘導体としては、1,4−ジフェノキシベンゼンあるいは1,3−ジフェノキシベンゼンなど、エチレングリコール誘導体としては、1,2−ジフェノキシエタン、1−(4−ビフェニリルオキシ)−2−フェノキシエタンあるいは1−(2−ビフェニリルオキシ)−2−フェノキシエタンなど、テルフェニル誘導体としては、o−テルフェニル、m−テルフェニル、p−テルフェニル、2−メチル−o−テルフェニルあるいは2,2−ジメチル−o−テルフェニルなど、ホスフェート誘導体としては、トリフェニルホスフェートなど、フルオロリン酸リチウム誘導体としては、モノフロオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムなどが挙げられる。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではない。これらの添加剤の使用は、性能および寿命特性の観点から好ましい。添加剤は、電解液中に0.1〜5質量%で含まれることが好ましく、より好ましくは、0.5〜3.5質量%である。
【0141】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない高分子固体電解質に分類される。
【0142】
ゲル電解質は、リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体などが挙げられる。かようなマトリックスポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0143】
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンやポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素、ガラス繊維などからなる微多孔膜が挙げられる。
【0144】
高分子固体電解質は、上記のマトリックスポリマーにリチウム塩が溶解してなる構成を有し、有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が高分子固体電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0145】
高分子ゲル電解質や高分子固体電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発揮しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合などの重合処理を施せばよい。なお、上記電解質は、電極の活物質層中に含まれていてもよい。
【0146】
[集電板(タブ)]
リチウムイオン二次電池においては、電池外部に電流を取り出す目的で、集電体に電気的に接続された集電板(タブ)が外装材であるラミネートフィルムの外部に取り出されている。
【0147】
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板(正極タブ)と負極集電板(負極タブ)とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0148】
[シール部]
シール部は、直列積層型電池に特有の部材であり、電解質層の漏れを防止する機能を有する。このほかにも、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止することもできる。
【0149】
シール部の構成材料としては、特に制限されないが、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリイミド等が用いられうる。これらのうち、耐蝕性、耐薬品性、製膜性、経済性などの観点からは、ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。
【0150】
[正極端子リードおよび負極端子リード]
負極および正極端子リードの材料は、公知の積層型二次電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0151】
[外装材;ラミネートフィルム]
外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができる。そのほか、
図1に示すようなラミネートフィルム22を外装材として用いて、発電要素17をパックしてもよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。このようなラミネートフィルムを用いることにより、外装材の開封、容量回復材の添加、外装材の再封止を容易に行うことができる。
【0152】
[非水電解質二次電池の製造方法]
非水電解質二次電池の製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造されうる。具体的には、(1)電極の作製、(2)単電池層の作製、(3)発電要素の作製、および(4)積層型電池の製造を含む。以下、非水電解質二次電池の製造方法について一例を挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【0153】
(1)電極(正極および負極)の作製
電極(正極または負極)は、例えば、活物質スラリー(正極活物質スラリーまたは負極活物質スラリー)を調製し、当該活物質スラリーを集電体上に塗布、乾燥し、次いでプレスすることにより作製されうる。前記活物質スラリーは、上述した活物質(正極活物質または負極活物質)、および溶媒を含む。また、導電助剤、バインダをさらに含んでいてもよい。正極活物質スラリーは、上記特定の組成および構造の正極活物質を必須に含むため、本実施形態は正極も提供する。
【0154】
前記溶媒としては、特に制限されず、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、シクロヘキサン、ヘキサン、水等が用いられうる。
【0155】
活物質スラリーの集電体への塗布方法としては、特に制限されず、スクリーン印刷法、スプレーコート法、静電スプレーコート法、インクジェット法、ドクターブレード法等が挙げられる。
【0156】
集電体の表面に形成された塗膜の乾燥方法としては、特に制限されず、塗膜中の溶媒の少なくとも一部が除去されればよい。当該乾燥方法としては、加熱が挙げられる。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、適用する活物質スラリーに含有される溶媒の揮発速度、活物質スラリーの塗布量等に応じて適宜設定されうる。なお、溶媒は一部が残存していてもよい。残存した溶媒は、後述のプレス工程等で除去されうる。
【0157】
プレス手段としては、特に限定されず、例えば、カレンダーロール、平板プレス等が用いられうる。
【0158】
(2)単電池層の作製
単電池層は、(1)で作製した電極(正極および負極)を、電解質層を介して積層させることにより作製されうる。
【0159】
(3)発電要素の作製
発電要素は、単電池層の出力および容量、電池として必要とする出力および容量等を適宜考慮し、前記単電池層を積層して作製されうる。
【0160】
(4)積層型電池の製造
電池の構成としては、角形、ペーパー型、積層型、円筒型、コイン型等、種々の形状を採用することができる。また構成部品の集電体や絶縁板等は特に限定されるものではなく、上記の形状に応じて選定すればよい。しかし、本実施形態では積層型電池が好ましい。積層型電池は、上記で得られた発電要素の集電体にリードを接合し、これらの正極リードまたは負極リードを、正極タブまたは負極タブに接合する。そして、正極タブおよび負極タブが電池外部に露出するように、発電要素をラミネートシート中に入れ、注液機により電解液を注液してから真空に封止することにより積層型電池が製造されうる。
【0161】
(5)活性化処理など
さらに、本実施形態では、上記により得られた積層型電池の性能及び耐久性を高める観点から、さらに、以下の条件で初充電処理、ガス除去処理及び活性化処理を行うのが望ましい(実施例1参照)。この場合には、ガス除去処理ができるように、上記(4)の積層型電池の製造において、封止する際に、矩形形状にラミネートシート(外装材)の3辺を熱圧着により完全に封止(本封止)し、残る1辺は、熱圧着で仮封止しておく。残る1辺は、例えば、クリップ留め等により開閉自在にしてもよいが、量産化(生産効率)の観点からは、熱圧着で仮封止するのがよい。この場合には、圧着する温度、圧力を調整するだけでよい為である。熱圧着で仮封止した場合には、軽く力を加えることで開封でき、ガス抜き後、再度、熱圧着で仮封止してもよいし、最後的には熱圧着で完全に封止(本封止)すればよい。
【0162】
(初充電処理)
電池のエージング処理は、以下のように実施するのが望ましい。25℃にて、定電流充電法で0.05C、4時間の充電(SOC約20%)を行う。次いで、25℃にて0.1Cレートで4.45Vまで充電した後、充電を止め、その状態(SOC約70%)で約2日間(48時間)保持する。
【0163】
(最初(1回目)のガス除去処理)
次に、最初(1回目)のガス除去処理として、以下の処理を行う。まず、熱圧着で仮封止した1辺を開封し、10±3hPaで5分間ガス除去を行った後、再度、熱圧着を行って仮封止を行う。さらに、ローラーで加圧(面圧0.5±0.1MPa)整形し電極とセパレータとを十分に密着させる。
【0164】
(活性化処理)
次に、活性化処理法として、以下の電気化学前処理法を行う。
【0165】
まず、25℃にて、定電流充電法で0.1Cで電圧が4.45Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを2回行う。同様に、25℃にて、定電流充電法で0.1Cで4.55Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回、0.1Cで4.65Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回行う。更に、25℃にて、定電流充電法で、0.1Cで4.75Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回行えばよい。
【0166】
なお、ここでは、活性化処理法として、定電流充電法を用い、電圧を終止条件とした場合の電気化学前処理法を例として記載しているが、充電方式は定電流定電圧充電法を用いても構わない。また、終止条件は電圧以外にも電荷量や時間を用いても構わない。
【0167】
(最後(2回目)のガス除去処理)
次に、最初(1回目)のガス除去処理として、以下の処理を行う。まず、熱圧着で仮封止した一辺を開封し、10±3hPaで5分間ガス除去を行った後、再度、熱圧着を行って本封止を行う。さらに、ローラーで加圧(面圧0.5±0.1MPa)整形し電極とセパレータとを十分に密着させる。
【0168】
本実施形態では、上記した初充電処理、ガス除去処理及び活性化処理を行うことにより、得られた電池の性能及び耐久性を高めることができる。
【実施例】
【0169】
以下、本実施形態を実施例を通して具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例には限定されない。
【0170】
以下の実施例1〜5は、固溶体活物質が同一組成でAl
2O
3量違いとした。
【0171】
[実施例1]
(固溶体活物質C1の調製)
1.硫酸マンガン・1水和物(分子量223.06g/mol)20.84g、
硫酸ニッケル・6水和物(分子量262.85g/mol)14.04g、
硫酸コバルト・7水和物(分子量281.10g/mol)15.02g、
を純水200gに加え、攪拌溶解し、混合溶液を調製した。
【0172】
2.次に、この混合溶液にアンモニア水をpH7になるまで滴下して、さらにNa
2CO
3溶液を滴下して、複合炭酸塩を沈殿させた(Na
2CO
3溶液を滴下している間、アンモニア水でpH7を保持する)。
【0173】
3.その後、沈殿物を吸引濾過し、さらに、十分に水洗した後、乾燥オーブンにて120℃、5時間乾燥した。
【0174】
4.乾燥した粉末を乳鉢で粉砕した後、500℃、5時間仮焼成を行った。
【0175】
5.仮焼成した粉末に、水酸化リチウム・1水和物(分子量41.96g/mol)10.08gを混合し、30分間粉砕混合した。
【0176】
6.この粉末を500℃で2時間仮焼成した後、900℃で12時間焼成して固溶体活物質C1を得た。
【0177】
こうして得られた固溶体活物質C1の組成は以下の通りであった。
【0178】
【数3】
【0179】
この組成式を組成式(1)に当てはめると、e=0、a+b+c+d+e=1.5、d=0.1、a+b+c+e=1.40、z;原子価を満足する酸素数となり、組成式(1)の要件を満足する。
【0180】
(正極活物質C1の調製;固溶体活物質C1表面へのAl
2O
3コーティング)
1.上記「固溶体活物質C1の調製」で得た固溶体活物質C1 10.0g、硝酸アルミニウム・9水和物(分子量375.13g/mol)0.37gを純水100gに加え、攪拌混合し、混合溶液を調製した。
【0181】
2.次に、この混合溶液を攪拌しながら5%−アンモニア水をpH7〜8になるまで徐々に滴下し、固溶体活物質C1の粒子表面に水酸化アルミニウムを沈殿させた。さらに、5時間攪拌混合を続けた。
【0182】
3.その後、沈殿物を吸引濾過し、さらに、十分に水洗した後、乾燥オーブンにて100℃、1時間乾燥した。
【0183】
4.乾燥した粉末を乳鉢で粉砕した後、450℃、5時間焼成を行って、正極活物質C1を得た。
【0184】
こうして得られた正極活物質C1は、上記「固溶体活物質C1の調製」で得た固溶体活物質C1の粒子表面に、正極活物質C1全量に対して0.5質量%のAl
2O
3をコーティングした粉末であった。得られた正極活物質C1の平均粒径は8μmであった。なお、他の実施例2〜19及び比較例1で得られた正極活物質C2〜20の平均粒径も実施例と同じ平均粒径であった。
【0185】
(形態観察・表面分析)
・X線回折測定は、PANalytical社製XPertPRO MPDで行った。
【0186】
得られた正極活物質C1は、X線回折により、結晶構造および結晶性の評価をした。X線源にはCu−Kα線を用い、測定条件は管電圧40KV、管電流20mA、走査速度2°/分、発散スリット幅0.5°、受光スリット幅0.15°で行った(
図8(a)〜(d)参照)。
【0187】
・HAADF−STEM測定は、日立ハイテクノロジーズ製 型式:HD−2700
・TEM−EDX測定は、日立ハイテクノロジーズ製 型式:H−8100+EDX(EDAX社製Genesis4000)
・SEM−EDX測定は、CarlZeiss製ULTRAplus+EDX(Bruker製QUANTAXFlash5010)
で行った。
【0188】
(構造解析)
・XPS測定は、アルバック・ファイ製 Quantum2000
で行った。
【0189】
(集電箔の片面に活物質層を形成した正極C1の作製)
(正極用スラリーの組成)
正極用スラリーは下記組成とした。
【0190】
正極活物質:上記で得られた正極活物質C1 9.2重量部
導電助剤: 燐片状黒鉛 0.2重量部
アセチレンブラック 0.2重量部
バインダ: ポリフッ化ビニリデン(PVDF) 0.4重量部
溶媒: N−メチル−2−ピロリドン(NMP) 8.2重量部。
【0191】
(正極用スラリーの製造)
上記組成の正極用スラリーを次のように調製した。まず、50mlのディスポカップに、溶媒(NMP)にバインダを溶解した20%バインダ溶液2.0重量部に溶媒(NMP)4.0重量部を加え、攪拌脱泡機(自転公転ミキサー:あわとり錬太郎AR−100)で1分間攪拌してバインダ希釈溶液を作製した。次に、このバインダ希釈液に、導電助剤0.4重量部と正極活物質C1 9.2重量部と、溶媒(NMP)2.6重量部を加え、攪拌脱泡機で3分間攪拌し正極用スラリー(固形分濃度55重量%)とした。
【0192】
(正極用スラリーの塗布・乾燥)
20μm厚のアルミニウム集電箔の片面に、上記正極用スラリーを自動塗工装置(テスター産業製ドクターブレード:PI−1210自動塗工装置)により塗布した。続いて、この正極用スラリーを塗布した集電箔を、ホットプレートにて乾燥(100℃〜110℃、乾燥時間30分)を行い、正極活物質層に残留するNMP量を0.02重量%以下とするシート状正極を形成した。
【0193】
(正極のプレス)
上記シート状正極を、ローラープレスをかけて圧縮成形し、切断して、片面の正極活物質層の重量約11.0mg/cm
2、密度2.65g/cm
3の正極C1を作製した。
【0194】
(正極の乾燥)
次に、この正極C1を用い真空乾燥炉にて乾燥処理を行った。乾燥炉内部に正極C1を設置した後、室温(25℃)にて減圧(100mmHg(1.33×10
4Pa))し乾燥炉内の空気を除去した。続いて、窒素ガスを流通(100cm
3/分)しながら、10℃/分で120℃まで昇温し、120℃で再度減圧して炉内の窒素を排気したまま12時間保持した後、室温まで降温した。こうして正極表面の水分を除去した正極C1を得た。
【0195】
(集電箔の片面に活物質層を形成した負極A1の作製)
(負極用スラリーの組成)
負極用スラリーは下記組成とした。
【0196】
負極活物質:天然グラファイト 9.4重量部
導電助剤: アセチレンブラック 0.1重量部
バインダ: ポリフッ化ビニリデン(PVDF) 0.5重量部
溶媒: N−メチル−2−ピロリドン(NMP) 10.0重量部。
【0197】
(負極用スラリーの製造)
上記組成の負極用スラリーを次のように調製した。まず、溶媒(NMP)にバインダを溶解した20%バインダ溶液2.5重量部に(NMP)5重量部を加えて、攪拌脱泡機1分間攪拌してバインダ希釈溶液を作製した。このバインダ希釈液に、導電助剤0.1重量部と負極活物質粉末9.4重量部と、溶媒(NMP)3.0重量部加え、攪拌脱泡機で3分間攪拌し負極用スラリー(固形分濃度50重量%)とした。
【0198】
なお、負極活物質の天然グラファイ粉末の形状はSEMにより鱗片状でないことを確認した。比表面積は1.05m
2/g(測定装置:日本ベル製BELSORP−miniII)、タップ密度は1.1g/cm
3(測定装置:日本ルフト製タップ密度測定装置)であった。得られた負極活物質の平均粒径は24μmであった。
【0199】
(負極用スラリーの塗布・乾燥)
10μm厚の電解銅集電箔の片面に、上記負極用スラリーを自動塗工装置により塗布した。続いて、この負極スラリーを塗布した集電箔を、ホットプレートにて乾燥(100℃〜110℃、乾燥時間30分)を行い、負極活物質層に残留するNMP量を0.02重量%以下とするシート状負極を形成した。
【0200】
(負極のプレス)
得られたシート状負極を、ローラープレスをかけて圧縮成形し、切断して、片面の負極活物質層の重量約9.50mg/cm
2、密度1.45g/cm
3の負極A1を作製した。負極A1の表面を観察したところ、クラックの発生は見られなかった。
【0201】
(電極の乾燥)
次に、上記手順で作製した負極A1を用い真空乾燥炉にて乾燥処理を行った。乾燥炉内部に負極A1を設置した後、室温(25℃)にて減圧(100mmHg(1.33×10
4Pa))し乾燥炉内の空気を除去した。続いて、窒素ガスを流通(100cm
3/分)しながら、10℃/分で135℃まで昇温し、135℃で再度減圧して炉内の窒素を排気したまま12時間保持した後、室温まで降温した。こうして負極表面の水分を除去した負極A1を得た。
【0202】
[電池の作製]
上記で得られた正極C1は、活物質層面積;縦2.5cm×横2.0cmになるように切り出し、これら2枚を集電体同士が向き合うようにして、未塗工面(アルミニウム集電箔のスラリーを塗工していない面)を合わせて集電箔部分をスポット溶接した。これにより、外周部をスポット溶接により一体化された2枚重ねの集電箔の両面に活物質層を有する正極を形成した。その後、さらに集電箔部分にアルミニウムの正極タブ(正極集電板)を溶接して正極C11を形成した。即ち、正極C11は、集電箔の両面に活物質層が形成された構成である。上記で得られた負極A1は、活物質層面積;縦2.7cm×横2.2cmになるように切り出し、その後、さらに集電箔部分に電解銅の負極タブを溶接して負極A11を形成した。即ち、負極A11は、集電箔の片面に活物質層が形成された構成である。
【0203】
これらタブを溶接した負極A11と、正極C11との間に多孔質ポリプロピレン製セパレータ(S)(縦3.0cm×横2.5cm、厚さ25μm、空孔率55%)を挟んで5層からなる積層型の発電素子を作製した。積層型の発電素子の構成は、負極(片面)/セパレータ/正極(両面)/セパレータ/負極(片面)の構成、即ち、A11−(S)−C11−(S)−A11の順に積層された構成とした。次いで、アルミラミネートフィルム製(縦3.5cm×横3.5cm)で両側を挟み込み、3辺を熱圧着封止して上記発電素子を収納した。この発電素子に、電解液0.4cm
3/セル(上記5層構成の場合、2セル構成となり、1セル当たりの注液量0.4cm
3)を注入した後、残りの1辺を熱圧着で仮封止し、ラミネート型電池を作製した。電解液を電極細孔内に十分に浸透させるため、面圧0.5Mpaで加圧しながら、25℃にて24時間保持した。
【0204】
ここで、上記電解液には以下のものを用いた。まず、エチレンカーボネート(EC)30体積%とジエチルカーボネート(DEC)70体積%の混合溶媒に、1.0モル/リットルのLiPF
6(電解質)を溶解した。その後、添加剤として作用するフルオロリン酸リチウムとして、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO
2F
2)を1.8重量%、メタンジスルフォン酸1.5重量%を溶解し電解液を得た。
【0205】
その後、上記発電素子を評価セル取り付け冶具にセットし、正極リードと負極リードを発電素子の各タブ端部に取り付け、試験を行った。
【0206】
[電池特性の評価]
実施例1で作製したラミネート型電池を、以下の条件で初充電処理及び活性化処理を行い、性能を評価した。
【0207】
[初充電処理]
電池のエージング処理は、以下のように実施した。25℃にて、定電流充電法で0.05C、4時間の充電(SOC約20%)を行った。次いで、25℃にて0.1Cレートで4.45Vまで充電した後、充電を止め、その状態(SOC約70%)で約2日間(48時間)保持した。
【0208】
[ガス除去処理1]
熱圧着で仮封止した一辺を開封し、10±3hPaで5分間ガス除去を行った後、再度、熱圧着を行い仮封止を行った。さらに、ローラーで加圧(面圧0.5±0.1MPa)整形し電極とセパレータとを十分に密着させた。
【0209】
[活性化処理]
25℃にて、定電流充電法で0.1Cで電圧が4.45Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを2回行った。同様に、25℃にて、定電流充電法で0.1Cで4.55Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回、0.1Cで4.65Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回行った。更に、25℃にて、定電流充電法で、0.1Cで4.75Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回行った。
【0210】
[ガス除去処理2]
熱圧着で仮封止した一辺を開封し、10±3hPaで5分間ガス除去を行った後、再度、熱圧着を行い本封止を行った。さらに、ローラーで加圧(面圧0.5±0.1MPa)整形し電極とセパレータとを十分に密着させた。
【0211】
[性能評価]
電池の評価は、充電は、0.1Cレートにて最高電圧が4.5Vとなるまで充電した後、約1時間〜1.5時間保持する定電流定電圧充電法とし、放電は、電池の最低電圧が2.0Vとなるまで0.1Cレートで放電する定電流放電法で行った。いずれも、室温下で行った。このときの0.1Cレートでの放電容量を「0.1C放電容量(mAh/g)」として他の実施例、比較例と比較した。結果を表1に示す。
【0212】
[寿命評価]
電池の寿命試験は、上記1.0Cレートでの充放電を、25℃で200サイクルを繰り返した。電池の評価は、充電は、0.1Cレートにて最高電圧が4.5Vとなるまで充電した後、約1時間〜1.5時間保持する定電流定電圧充電法とし、放電は、電池の最低電圧が2.0Vとなるまで0.1Cレートで放電する定電流放電法で行った。いずれも、室温下で行った。
【0213】
1サイクル目の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の割合を「容量維持率(%)」として他の実施例、比較例と比較した。結果を表1に示す。
【0214】
[実施例2〜5]
実施例2〜5では、実施例1に準じて、実施例1で得られた固溶体活物質C1に、1質量%、2質量%、5質量%、10質量%のAl
2O
3をそれぞれコーティングした正極活物質C2、C3、C4、C5を用いて実施例2〜5の正極C2〜C5をそれぞれ作製した。その後も実施例1に準じて、実施例2〜5のラミネート型電池をそれぞれ作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0215】
ここで、アルミナのコート量(実施例1の0.5(質量%)を実施例2〜5で1、2、5、10(質量%)に変更)は、実施例1の硝酸アルミニウム・9水和物の仕込み量を、2倍、4倍、10倍、20倍に変更しだけで、その他の条件は実施例1と同じとした。
【0216】
以下の実施例6〜7は、実施例2と同じAl
2O
3量1質量%で、固溶体活物質の組成違いとした。
【0217】
[実施例6]
実施例6では、以下の調製で得られた固溶体活物質C6を用いた以外、その他の条件は実施例2と同じとして、固溶体活物質C6に、1質量%Al
2O
3をコーティングした正極活物質C6を用いて実施例6の正極C6を作製した。その後も実施例2に準じて、実施例6のラミネート型電池を作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0218】
(固溶体活物質C6の調製)
1.所定量の硫酸マンガン・1水和物(分子量223.06g/mol)、硫酸ニッケル・6水和物(分子量262.85g/mol)、硫酸コバルト・7水和物(分子量281.10g/mol)、を純水200gに加え、攪拌溶解し、混合溶液を調製した。
【0219】
2.次に、この混合溶液にアンモニア水をpH7になるまで滴下して、さらにNa
2CO
3溶液を滴下して、複合炭酸塩を沈殿させた(Na
2CO
3溶液を滴下している間、アンモニア水でpH7を保持する)。
【0220】
3.その後、沈殿物を吸引濾過し、さらに、十分に水洗した後、乾燥オーブンにて120℃、5時間乾燥した。
【0221】
4.乾燥した粉末を乳鉢で粉砕した後、500℃、5時間仮焼成を行った。
【0222】
5.仮焼成した粉末に、所定量の水酸化リチウム・1水和物(分子量41.96g/mol)を混合し、30分間粉砕混合した。
【0223】
6.この粉末を500℃で2時間仮焼成した後、900℃で12時間焼成して固溶体活物質C6を得た。
【0224】
こうして得られた固溶体活物質C6の組成は以下の通りであった。
【0225】
【数4】
【0226】
この組成式を組成式(1)に当てはめると、e=0、a+b+c+d+e=1.5、d=0.25、a+b+c+e=1.25、z;原子価を満足する酸素数となり、組成式(1)の要件を満足する。
【0227】
[実施例7]
実施例7では、以下の調製で得られた固溶体活物質C7を用いた以外、その他の条件は実施例2と同じとして、固溶体活物質C7に、1質量%Al
2O
3をそれぞれコーティングした正極活物質C7を用いて実施例7の正極C7を作製した。その後も実施例2に準じて、実施例7のラミネート型電池を作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0228】
(固溶体活物質C7の調製)
1.所定量の硫酸マンガン・1水和物(分子量223.06g/mol)、硫酸ニッケル・6水和物(分子量262.85g/mol)、硫酸コバルト・7水和物(分子量281.10g/mol)、を純水200gに加え、攪拌溶解し、混合溶液を調製した。
【0229】
2.次に、この混合溶液にアンモニア水をpH7になるまで滴下して、さらにNa
2CO
3溶液を滴下して、複合炭酸塩を沈殿させた(Na
2CO
3溶液を滴下している間、アンモニア水でpH7を保持する)。
【0230】
3.その後、沈殿物を吸引濾過し、さらに、十分に水洗した後、乾燥オーブンにて120℃、5時間乾燥した。
【0231】
4.乾燥した粉末を乳鉢で粉砕した後、500℃、5時間仮焼成を行った。
【0232】
5.仮焼成した粉末に、所定量の水酸化リチウム・1水和物(分子量41.96g/mol)を混合し、30分間粉砕混合した。
【0233】
6.この粉末を500℃で2時間仮焼成した後、900℃で12時間焼成して固溶体活物質C7を得た。
【0234】
こうして得られた固溶体活物質C7の組成は以下の通りであった。
【0235】
【数5】
【0236】
この組成式を組成式(1)に当てはめると、e=0、a+b+c+d+e=1.5、d=0.35、a+b+c+e=1.15、z;原子価を満足する酸素数となり、組成式(1)の要件を満足する。
【0237】
以下の実施例8〜11は、固溶体活物質が同一組成(Coがない系)でAl
2O
3量違いとした。
【0238】
[実施例8]
実施例8では、以下の調製で得られた固溶体活物質C8を用いた以外、その他の条件は実施例1と同じとして、固溶体活物質C8に、0.5質量%Al
2O
3をそれぞれコーティングした正極活物質C8を用いて実施例8の正極C8を作製した。その後も実施例1に準じて、実施例8のラミネート型電池を作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0239】
(固溶体活物質C8の調製)
1.所定量の硫酸マンガン・1水和物(分子量223.06g/mol)、硫酸ニッケル・6水和物(分子量262.85g/mol)、硫酸コバルト・7水和物(分子量281.10g/mol)、を純水200gに加え、攪拌溶解し、混合溶液を調製した。
【0240】
2.次に、この混合溶液にアンモニア水をpH7になるまで滴下して、さらにNa
2CO
3溶液を滴下して、複合炭酸塩を沈殿させた(Na
2CO
3溶液を滴下している間、アンモニア水でpH7を保持する)。
【0241】
3.その後、沈殿物を吸引濾過し、さらに、十分に水洗した後、乾燥オーブンにて120℃、5時間乾燥した。
【0242】
4.乾燥した粉末を乳鉢で粉砕した後、500℃、5時間仮焼成を行った。
【0243】
5.仮焼成した粉末に、所定量の水酸化リチウム・1水和物(分子量41.96g/mol)を混合し、30分間粉砕混合した。
【0244】
6.この粉末を500℃で2時間仮焼成した後、900℃で12時間焼成して固溶体活物質C8を得た。
【0245】
こうして得られた固溶体活物質C8の組成は以下の通りであった。
【0246】
【数6】
【0247】
この組成式を組成式(1)に当てはめると、e=0、a+b+c+d+e=1.5、d=0.10、a+b+c+e=1.40、z;原子価を満足する酸素数となり、組成式(1)の要件を満足する。
【0248】
[実施例9〜11]
実施例9〜11では、実施例8に準じて、実施例8で得られた固溶体活物質C8に、1質量%、2質量%、5質量%のAl
2O
3をそれぞれコーティングした正極活物質C9、C10、C11を用いて実施例9〜11の正極C9〜C11をそれぞれ作製した。その後も実施例8に準じて、実施例9〜11のラミネート型電池をそれぞれ作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0249】
ここで、アルミナのコート量(実施例8の0.5(質量%)を実施例9〜11で1、2、5(質量%)に変更)は、実施例8の硝酸アルミニウム・9水和物の仕込み量を、2倍、4倍、10倍に変更しだけで、その他の条件は実施例8と同じとした。
【0250】
以下の実施例12〜13は、実施例8と同じAl
2O
3量1質量%で、固溶体活物質(Coがない系)の組成違いとした。
【0251】
[実施例12]
実施例12では、以下の調製で得られた固溶体活物質C12を用いた以外、その他の条件は実施例8と同じとして、固溶体活物質C12に、1質量%Al
2O
3をコーティングした正極活物質C12を用いて実施例12の正極C12を作製した。その後も実施例8に準じて、実施例12のラミネート型電池を作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0252】
(固溶体活物質C12の調製)
1.所定量の硫酸マンガン・1水和物(分子量223.06g/mol)、硫酸ニッケル・6水和物(分子量262.85g/mol)、硫酸コバルト・7水和物(分子量281.10g/mol)、を純水200gに加え、攪拌溶解し、混合溶液を調製した。
【0253】
2.次に、この混合溶液にアンモニア水をpH7になるまで滴下して、さらにNa
2CO
3溶液を滴下して、複合炭酸塩を沈殿させた(Na
2CO
3溶液を滴下している間、アンモニア水でpH7を保持する)。
【0254】
3.その後、沈殿物を吸引濾過し、さらに、十分に水洗した後、乾燥オーブンにて120℃、5時間乾燥した。
【0255】
4.乾燥した粉末を乳鉢で粉砕した後、500℃、5時間仮焼成を行った。
【0256】
5.仮焼成した粉末に、所定量の水酸化リチウム・1水和物(分子量41.96g/mol)を混合し、30分間粉砕混合した。
【0257】
6.この粉末を500℃で2時間仮焼成した後、900℃で12時間焼成して固溶体活物質C12を得た。
【0258】
こうして得られた固溶体活物質C12の組成は以下の通りであった。
【0259】
【数7】
【0260】
この組成式を組成式(1)に当てはめると、e=0、a+b+c+d+e=1.5、d=0.25、a+b+c+e=1.25、z;原子価を満足する酸素数となり、組成式(1)の要件を満足する。
【0261】
[実施例13]
実施例13では、以下の調製で得られた固溶体活物質C13を用いた以外、その他の条件は実施例8と同じとして、固溶体活物質C13に、1質量%Al
2O
3をコーティングした正極活物質C13を用いて実施例13の正極C13を作製した。その後も実施例8に準じて、実施例13のラミネート型電池を作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0262】
(固溶体活物質C13の調製)
1.所定量の硫酸マンガン・1水和物(分子量223.06g/mol)、硫酸ニッケル・6水和物(分子量262.85g/mol)、硫酸コバルト・7水和物(分子量281.10g/mol)、を純水200gに加え、攪拌溶解し、混合溶液を調製した。
【0263】
2.次に、この混合溶液にアンモニア水をpH7になるまで滴下して、さらにNa
2CO
3溶液を滴下して、複合炭酸塩を沈殿させた(Na
2CO
3溶液を滴下している間、アンモニア水でpH7を保持する)。
【0264】
3.その後、沈殿物を吸引濾過し、さらに、十分に水洗した後、乾燥オーブンにて120℃、5時間乾燥した。
【0265】
4.乾燥した粉末を乳鉢で粉砕した後、500℃、5時間仮焼成を行った。
【0266】
5.仮焼成した粉末に、所定量の水酸化リチウム・1水和物(分子量41.96g/mol)を混合し、30分間粉砕混合した。
【0267】
6.この粉末を500℃で2時間仮焼成した後、900℃で12時間焼成して固溶体活物質C13を得た。
【0268】
こうして得られた固溶体活物質C13の組成は以下の通りであった。
【0269】
【数8】
【0270】
この組成式を組成式(1)に当てはめると、e=0、a+b+c+d+e=1.5、d=0.25、a+b+c+e=1.25、z;原子価を満足する酸素数となり、組成式(1)の要件を満足する。
【0271】
以下の実施例14〜17は、固溶体活物質(XとしてTi含有)が同一組成でAl
2O
3量違いとした。
【0272】
[実施例14]
実施例14では、以下の調製で得られた固溶体活物質C14を用いた以外、その他の条件は実施例1と同じとして、固溶体活物質C14に、0.5質量%Al
2O
3をコーティングした正極活物質C14を用いて実施例14の正極C14を作製した。その後も実施例1に準じて、実施例14のラミネート型電池を作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0273】
(チタンクエン酸錯体水溶液の調製)
1.無水クエン酸(分子量192.12g/mol)60g(0.3mol)をアセトン400mlに加え、60℃に加温し溶解した。
【0274】
2.次いで、チタンテトライソプロポキシド(分子量284.22g/mol)56g(0.2mol)を加え、沈殿を形成させた。
【0275】
3.沈殿を含む上記2.の液を吸引濾過し沈殿物(薄黄色)を得た。
【0276】
4.沈殿物にH
2O(200ml)を加え、50〜60℃に加温し溶解した。
【0277】
5.上記4.で得られた溶液を1日以上静置して不溶物を沈降させた後、濾過し不溶物を除去し、チタンクエン酸水溶液を得た。Ti濃度は、TiO
2(分子量79.87g/mol)として5.0質量%であった。
【0278】
(固溶体活物質C14の調製)
1.上記チタンクエン酸錯体水溶液(TiO
2として5.0質量%)7.99gに、
酢酸マンガン・4水和物(分子量245.09g/mol)15.93g、
酢酸ニッケル・4水和物(分子量248.84g/mol)6.22g、
酢酸リチウム・2水和物(分子量102.02g/mol)15.31gを順に加えて、混合物を得た。
【0279】
2.上記1.で得られた混合物を、200℃〜300℃に加熱し溶融溶解し、溶融溶解液(スラリー)を得た。
【0280】
3.スプレードライ装置を用い、上記2.で得られた溶融溶解液(スラリー)を加熱噴霧(200℃〜300℃)し乾燥し、乾燥粉末を得た。
【0281】
4.上記3.で得られた乾燥粉末を400℃で4時間仮焼成した後、900℃で12時間焼成し、固溶体活物質C14を得た。
【0282】
こうして得られた固溶体活物質C14の組成は以下の通りであった。
【0283】
【数9】
【0284】
この組成式を組成式(1)に当てはめると、e=0.05、a+b+c+d+e=1.5、d=0.25、a+b+c+e=1.25、z;原子価を満足する酸素数となり、組成式(1)の要件を満足する。
【0285】
[実施例15〜17]
実施例15〜17では、実施例14に準じて、実施例14で得られた固溶体活物質C14に、1質量%、2質量%、5質量%のAl
2O
3をそれぞれコーティングした正極活物質C15、C16、C17を用いて実施例15〜17の正極C15〜C17を作製した。その後も実施例14に準じて、実施例15〜17のラミネート型電池をそれぞれ作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0286】
ここで、アルミナのコート量(実施例14の0.5(質量%)を実施例15〜17で1、2、5(質量%)に変更)は、実施例1の硝酸アルミニウム・9水和物の仕込み量を、2倍、4倍、10倍に変更しだけで、その他の条件は実施例14と同じとした。
【0287】
以下の実施例17〜18は、実施例14と同じAl
2O
3量1質量%で、固溶体活物質の組成違いとした。即ち、実施例13〜16で使用するTiクエン酸錯体溶液の代りに、Zrクエン酸錯体溶液を使用するが、調製法は基本的に同じである。
【0288】
[実施例18]
実施例18では、以下の調製で得られた固溶体活物質C18を用いた以外、その他の条件は実施例15と同じとして、固溶体活物質C18に、1質量%Al
2O
3をコーティングした正極活物質C18を用いて実施例18の正極C18を作製した。その後も実施例15に準じて、実施例18のラミネート型電池を作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0289】
(ジルコニウムクエン酸錯体水溶液の調製)
1.無水クエン酸(分子量192.12g/mol)60g(0.3mol)をアセトン400mlに加え、60℃に加温し溶解した。
【0290】
2.次いで、ジルコニウムテトライソプロポキシド(分子量387.67g/mol)77.53g(0.2mol)を加え、沈殿を形成させた。
【0291】
3.沈殿を含む上記2.の液を吸引濾過し、沈殿物(薄黄色)を得た。
【0292】
4.沈殿物にH
2O(200ml)を加え、50〜60℃に加温し溶解した。
【0293】
5.上記4.で得られた溶液を1日以上静置して不溶物を沈降させた後、濾過し不溶物を除去し、ジルコニウムクエン酸錯体水溶液を得た。Zr濃度は、ZrO
2として5.0重量%であった。
【0294】
(固溶体活物質C18の調製)
1.上記ジルコニウムクエン酸錯体水溶液(ZrO
2として5.0質量%)7.99gに、
酢酸マンガン・4水和物(分子量245.09g/mol)15.93g、
酢酸ニッケル・4水和物(分子量248.84g/mol)6.22g、
酢酸リチウム・2水和物(分子量102.02g/mol)15.31gを順に加えて、混合物を得た。
【0295】
2.上記1.で得られた混合物を、200℃〜300℃に加熱し溶融溶解し、溶融溶解液(スラリー)を得た。
【0296】
3.スプレードライ装置を用い、上記2.で得られた溶融溶解液(スラリー)を加熱噴霧(200℃〜300℃)し乾燥し、乾燥粉末を得た。
【0297】
4.上記3.で得られた乾燥粉末を400℃で4時間仮焼成した後、900℃で12時間焼成し、固溶体活物質C18を得た。
【0298】
こうして得られた固溶体活物質C18の組成は以下の通りであった。
【0299】
【数10】
【0300】
この組成式を組成式(1)に当てはめると、e=0.05、a+b+c+d+e=1.5、d=0.25、a+b+c+e=1.25、z;原子価を満足する酸素数となり、組成式(1)の要件を満足する。
【0301】
[実施例19]
実施例19では、実施例18と同様にしてジルコニウムクエン酸錯体水溶液を得た。その後、以下の調製で得られた固溶体活物質C19を用いた以外、その他の条件は実施例15と同じとして、固溶体活物質C19に、1質量%Al
2O
3をコーティングした正極活物質C19を用いて実施例19の正極C19を作製した。その後も実施例15に準じて、実施例19のラミネート型電池を作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0302】
(固溶体活物質C19の調製)
1.上記ジルコニウムクエン酸錯体水溶液(ZrO
2として5.0質量%)15.98gに、
酢酸マンガン・4水和物(分子量245.09g/mol)14.96g、
酢酸ニッケル・4水和物(分子量248.84g/mol)6.22g、
酢酸リチウム・2水和物(分子量102.02g/mol)15.31gを順に加えて、混合物を得た。
【0303】
2.上記1.で得られた混合物を、200℃〜300℃に加熱し溶融溶解し、溶融溶解液(スラリー)を得た。
【0304】
3.スプレードライ装置を用い、上記2.で得られた溶融溶解液(スラリー)を加熱噴霧(200℃〜300℃)し乾燥し、乾燥粉末を得た。
【0305】
4.上記3.で得られた乾燥粉末を400℃で4時間仮焼成した後、900℃で12時間焼成し、固溶体活物質C19を得た。
【0306】
こうして得られた固溶体活物質C19の組成は以下の通りであった。
【0307】
【数11】
【0308】
この組成式を組成式(1)に当てはめると、e=0.10、a+b+c+d+e=1.5、d=0.25、a+b+c+e=1.25、z;原子価を満足する酸素数となり、組成式(1)の要件を満足する。
【0309】
[比較例1]
比較例1では、実施例1に準じて、固溶体活物質C1にAl
2O
3をコーティングしない正極活物質C20(=固溶体活物質C1)を用いて比較例1の正極C20を作製した。その後も実施例1に準じて、比較例1のラミネート型電池を作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0310】
[比較例2]
比較例2では、実施例1に準じて、固溶体活物質C1表面へのアルミナコート処理後の焼成温度を、450℃から600℃に変更した以外、その他の条件は実施例1と同じとして、固溶体活物質C1に、0.5質量%Al
2O
3をそれぞれコーティングした正極活物質C21を用いて比較例2の正極C21を作製した。その後も実施例1に準じて、比較例2のラミネート型電池を作製し、電池特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0311】
【表1】
【0312】
表1の「Al
2O
3/wt%」は、正極活物質中のアルミナの含有量(単位:wt%)である。
【0313】
表1の「Al元素侵入深さ/nm」は、アルミナ層を含めない固溶体活物質表面からの深さ(単位:nm)である。
【0314】
表1の「(003)Δθ/°」は、正極活物質のX線回折において層状岩塩構造ピークである(003)のピークシフト幅(Δθ)(単位;°(度))である。ピークシフト幅(Δθ)の数値がプラスの場合には高角度側へのシフト幅を表し、マイナスの場合には低角度側へのシフト幅を表す。0.00°は、ピークシフト幅(Δθ)がゼロ(ピークシフトしていない)を表す。また、表1の「(101)Δθ/°」、「(104)Δθ/°」についても、上記「(003)Δθ/°」と同様である。
【0315】
表1に示すように、固溶体活物質の表面をアルミナで被覆し、固溶体活物質とアルミナの界面にAlを含む領域(層)が存在する実施例1〜19では、容量維持率に優れた電池特性(本発明の効果参照)を示すことが確認できた。
【0316】
一方、固溶体活物質の表面をアルミナで被覆されていない比較例1では、容量維持率が実施例1〜19に比して大幅に低く、固溶体正極活物質からのMn等の遷移金属の溶出防止効果が十分に得られていないことが確認できた。同様に、固溶体活物質の表面をアルミナで被覆さているが、固溶体活物質とアルミナ層の界面の該固溶体活物質側にAl元素が存在しない比較例2でも、容量維持率が実施例1〜19に比して大幅に低く、固溶体正極活物質からのMn等の遷移金属の溶出防止効果が十分に得られていないことが確認できた。
【0317】
次に実施例1〜19について見てみると、アルミナ含有量(活物質としては働かない)を10質量%まで高めた実施例5では、電池特性のなかでも、0.1C放電容量が他の実施例(アルミナ含有量0.5〜5質量%)に比して低くなることが確認できた。これは、活物質としては働かないアルミナ含有量が相対的に大きくなり、容量が低下したものと言える。
【0318】
実施例1〜4、6〜7で見ると、固溶体活物質に0.5質量%アルミナをコート(被覆)した実施例1よりも、1〜5質量%アルミナをコートした実施例2〜4、6〜7の方が、0.1C放電容量及び容量維持率の双方に優れた電池特性を示すことがわかる。尚、実施例5についても上記した通りである。見方を変えれば、電池の正極活物質のXRD測定で層状岩塩構造ピーク(003)(101)(104)にシフトが観察されない実施例1よりも、シフトが観察された実施例2〜4、6〜7の方が0.1C放電容量及び容量維持率の双方に優れた電池特性を示すことがわかる。
【0319】
実施例8〜13で見た場合にも、固溶体活物質に、0.5質量%アルミナをコートした実施例8よりも、1〜5質量%アルミナをコートした実施例9〜13の方が、0.1C放電容量及び容量維持率の双方に優れた電池特性を示すことがわかる。見方を変えれば、電池の正極活物質のXRD測定で層状岩塩構造ピーク(003)(101)(104)にシフトが観察されない実施例8よりも、シフトが観測された実施例9〜13の方が0.1C放電容量及び容量維持率の双方に優れた電池特性を示すことがわかる。
【0320】
固溶体にTiを含む実施例14〜17で見ると、固溶体活物質に0.5〜1質量%アルミナをコートした実施例14〜15よりも、2〜5質量%アルミナをコートした実施例16〜17の方が0.1C放電容量及び容量維持率に優れた電池特性を示すことがわかる。見方を変えれば、正極活物質のXRD測定で層状岩塩構造ピーク(003)(101)(104)にシフトが観察されない実施例14〜15よりも、シフトが観測された実施例16〜17の方が0.1C放電容量及び容量維持率に優れた電池特性を示すことがわかる。
【0321】
固溶体活物質にZrを含む実施例18〜19で見ると、共に固溶体活物質に1.0質量%アルミナをコートしており、電池の正極活物質のX線回折(XRD)測定において、層状岩塩構造ピーク(003)(101)(104)にシフトは観察されない。そのため、直接的な比較は難しいが、固溶体活物質にTiを含み、2〜3質量%アルミナをコートし、層状岩塩構造のピークシフトが観測された実施例16〜17の方が、0.1C放電容量及び容量維持率の双方に優れた電池特性を示している。このことから、固溶体活物質にZrを含み、2〜3質量%アルミナをコートしたものでは、層状岩塩構造のピークシフトを有することが容易に予測される。その結果、実施例18〜19よりも、0.1C放電容量及び容量維持率の双方に優れた電池特性を示すことが予測できる。
【0322】
また、実施例6、7では、固溶体活物質の[Li]組成を0.25、0.35として実施例1〜4の0.10よりも高めている。固溶体活物質に1.0質量%のアルミナをコートした実施例2、6、7で比較した場合、固溶体活物質の[Li]組成を高めた方が、電池特性、中でも0.1C放電容量をより一層向上できることがわかる。
【0323】
このことは、実施例12、13でも、固溶体活物質の[Li]組成を0.25、0.35として実施例8〜11の0.10よりも高めている。固溶体活物質に1.0質量%のアルミナをコートした実施例9、12、13で比較した場合、固溶体活物質の[Li]組成を高めた方が、電池特性、中でも0.1C放電容量をより一層向上できることがわかる。