(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
映像表示装置(以下、「ディスプレイ」という)は製品毎に固有の色域を持っており、その色域はsRGBやNTSCなど規格化された入力映像信号(以下、「ソース」という)の持つ色域と必ずしも一致しておらず、各色の色相及び彩度がずれており、且つ、彩度の限界にも相違があるために、ディスプレイの映像表現力に問題があった。
【0003】
この問題を、図面を用いて、詳細に説明する。
図1は、XYZ表色系xy色度図であり、ディスプレイ色域(GMT
D:Display gamut)とソース色域(GMT
S:Source gamut)の各一例を示すものである。ここに、ソース色域は、sRGBやNTSCなど規格化された色域であることが一般的であり、本発明では、sRGBを基準に説明する。
【0004】
このように、一般に、ディスプレイ色域とソース色域(sRGB)とでは、白(無彩色)の位置を合致させることが可能であるが、有彩色の位置については、色域にずれがあるため合致しない。
図1を例とした場合、彩度が大きくなるほどディスプレイ色域がソース色域(sRGB)よりも長波長側(色相環における角度が小さい方向)となるようにズレている。その結果、ディスプレイ色域の青(B
D)及び緑(G
D)は夫々ソース色域外に存し、ソース色域の青(B
S)及び緑(G
S)は夫々ディスプレイ色域外に存することとなる。また、ディスプレイ色域の赤(R
D)は、ソース色域外に存するが、ソース色域の赤(R
S)はディスプレイ色域の内側に存することとなる。ここで、ディスプレイはディスプレイ色域内の色しか表現する事ができず、ディスプレイ色域外の色を表現する事は不可能であるので、G
SやB
Sの位置に対応した色調の色を表現することはできない。そして、ソース色域(sRGB)内に分布する入力映像信号をそのままディスプレイパネルの制御に用いれば、例えば、本来R
Sの位置に対応した色調の色はR
Dの位置に対応した色調の色として表示されることになる。
【0005】
この問題を解決する手段として、ソース色域(sRGB)内に分布する入力映像信号の色度座標をマッピングすることにより、線形拡張もしくは色域圧縮したり、両色域の積集合GMT
D∩GMT
Sに当たる領域において、ディスプレイパネルに表示される色の色調を入力映像信号の持つ本来の色調に一致させることが、考えられる。かかるマッピングの手法としては、sRGBやNTSCなどの規格値に対するルックアップテーブル(LUT)を用意し、ソース色域内に分布する入力映像信号に対してLUT変換することが考えらえる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の色調調整方法を実施した具合的形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各形態は、色域調整演算回路を実現する際、回路とパラメータ(もしくはソフトウェア)が担当する部分を明確化し回路規模を抑制する手法も、併せて提案するものである。なお、以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
(前提)
【0016】
各実施形態を説明する前提として、最初に、色マッピングの方法について説明する。
図2は、一般的な空間変換を用いた色マッピングフローチャートである。
【0017】
図2に示されるように、sRGBの様に入力映像信号に対してγ=2.2のγ補正(γ変換:y=x
1/γ)が施されている場合、映像表示装置の信号変換回路は、
図2に示されるように、最初に、当該入力映像信号に対して下記式1に示す逆ガンマ変換を実行するすることにより、光学的にリニアな信号に変換する(S100)。
【数1】
【0018】
その後、信号変換回路は、下記式(2)に示すように、ソース色域の持つ行列(M
S)とディスプレイ色域の持つ行列(M
D)に基づいて逆ガンマ変換後のデータを行列演算し、ソース色域に空間変換する(S101)。
【数2】
【0019】
最後に、行列演算後の入力映像信号に対して下記式2に示すガンマ変換を実行することにより、RGB値を得る(S102)。
【数3】
【0020】
以上関数をまとめると、下記式4のように表せる。
【数4】
【0021】
すなわち、f
2()における変換行列を導出することで、ソース色域で定義されている入力映像信号をディスプレイパネル色域内における色度座標変換することが可能であり、入力映像色調とディスプレイ表示色調を一致させることが可能となる。なお、ディスプレイ行列(M
D)は三原色R,G,B色度座標およびXYZ表色系の白色値より容易に求めることができ、規格化された色域では規格で定義されている。また、R
2x,G
2x,B
2xを1で正規化し0から1で表現したときにf
2()によって得られるR
2x,G
2x,B
2xのいずれかが負の値となるということは、ディスプレイ色域では表現不可能な色度座標にマッピングされたことを示している。
(実施形態1)
【0022】
本発明の第1の実施形態は、上述した色マッピングにおけるf
2()の変換行列を、ソース色域における変換対象色の彩度(白色地からの距離:S)に応じて動的に切り替えることで、上述した彩度の低い領域ではソース色域での色調との差異が少なくなるディスプレイ色域の色調へ変換し、彩度の高い領域に近づくに連れて徐々に、ディスプレイ色域の外縁形状に合わせた調整をすることでディスプレイ色域のダイナミック・レンジをフルに生かすという目的を達成するものである。
【0023】
図3は、本第1実施形態による映像表示装置に内蔵された色域調整回路1を示すブロック図であり、
図4は、
図3におけるデータ変換部31の構成を示すブロック図である。なお、従来の液像表示装置の色域調整回路1は、
図3に示すデータ変換部31かもしくはLUTを用いた変換回路のみから、色域調整回路1が構成されていた。本第1実施形態による映像表示装置は、上述した色域調整回路1の他、当該色域調整回路1から出力された映像信号に基づいて映像を表示する表示パネル(図示略)を、備えている
【0024】
図3に示すように、色域調整回路1は、入力映像信号(R
1x,G
1x,B
1x)が夫々入力されるデータ変換部31及び彩度算出部32,当該彩度算出部32の出力(彩度:S)及び複数の入力パラメータ(閾値(PL),開始変換行列(M
START),行列補間ステップ(M
STEP))が入力されるとともに、その出力端子がデータ変換部31に接続された行列生成部33から、構成されている。なお、上述した各入力(閾値(PL),開始変換行列(M
START),行列補間ステップ(M
STEP))は、予め装置外において算出されて、図示せぬメモリに記憶されている。かかるメモリは、パラメータ算出部35に内蔵されていてもよい。
【0025】
図4に示すように、データ変換部31は、入力映像信号(R
1x,G
1x,B
1x)が入力されるガンマ逆変換部2,ガンマ逆変換部2の出力に接続された行列演算部3及び、行列演算部3に接続されたガンマ変換部4から、構成されている。ガンマ逆変換部2は、映像表示に対する入力映像信号を構成する各原色の輝度信号(R,G,B)に対して、
図2のS100に相当するガンマ逆変換(y=x
n)を施す回路ブロックである。また、行列演算回路としての行列演算部3は、ガンマ逆変換部2によってガンマ逆変換された各原色の輝度信号(R
1x,G
1x,B
1x)に対して、本実施形態独自の行列演算を施す回路ブロックであり、データ変換部31における行列演算部3では、後述した行列生成部33が生成した行列を用いたマトリクス演算が実行される。また、ガンマ変換部4は、行列演算部3によって行列演算の施された映像信号(R
2x,G
2x,B
2x)に対して、
図2のS102に相当するガンマ変換(y=x
1/n)を施す回路である。
【0026】
図3に戻り、彩度算出回路としての彩度算出部32は、入力映像信号(R
1x,G
1x,B
1x)に基づいて彩度(S)を算出する。具体的に、彩度算出部32は、各原色に対応した3つの入力映像信号(R
1x,G
1x,B
1x)の輝度のうち最大値を決定するmax演算部321,同じく3つの入力映像信号(R
1x,G
1x,B
1x)の輝度のうち最小値を決定するmin演算部322,上記最小値の上記最大値に対する比率を算出する比率算出部323,及び比率算出部323によって算出された比率を1から減算して彩度(S)を算出するゲート回路324から、構成されている。このような構成により、彩度算出部32は、各画素毎に、彩度(S)を算出して行列生成部33に入力する。
【0027】
行列生成回路としての行列生成部33は、彩度算出部32から入力された彩度(S)と閾値(PL)とを比較して(S−PL)の値を出力する彩度比較部331,算出された(S−PL)の値と開始変換行列(M
START)及び行列補間ステップ(M
STEP)とに基づいて変換行列の線形補間演算(M
START+(S−PL)・M
STEP)を実行する線形補間演算部332,及び、算出された(S−PL)の極性が負であれば開始変換行列(M
START)を変換行列としてデータ変換部31にセットし、(S−PL)の極性が正であれば線形補間演算部332が算出した線形補間変換行列(M’=M
START+(S−PL)・M
STEP)を変換行列としてデータ変換部31にセットする。このような構成により、行列生成部33は、各画素毎に、変換行列をデータ変換部31にセットする。なお、M
STARTは、上述した、ディスプレイパネルに表示される色の色調を入力映像信号の持つ本来の色調に一致させるための空間変換行列である。なお、開始変換行列(M
START)及び行列補間ステップ(M
STEP)の算出については、後述する。
【0028】
データ変換部31は、各画素毎に、入力映像信号(R
1x,G
1x,B
1x)に対して行列生成部33がセットした行列(M
START又はM’)に基づく行列演算を実行して、映像信号(R
2x,G
2x,B
2x)を出力する。
【0029】
図3及び
図4に示した各回路ブロックの機能相互間の相関をフローチャートの形で示すと、
図5のフローチャート(色域調整フローチャート)に示す通りとなる。
図5では、各ステップに
図3及び
図4の各回路ブロックの参照番号を付して、その説明を省略する。
【0030】
次に、上述したように実行された本実施形態1による作用を説明する。
図6は、本実施形態1におよる色域調整の概念図を示す。当該概念図では、緑色を例にして図示を行っている。上述したように、ディスプレイ色域における緑色(以下、「ディスプレイ緑色(G
D)という)とソース色域における緑色(以下、「ソース緑色(G
S)という)とでは、色度座標にズレがある。そこで、ディスプレイパネルに表示される色の色調を入力映像信号の持つ本来の色調に一致させるため、ソース行列から下記式(5)に示す変換行列(M)を生成し、これを開始変換行列(M
START)と定義する。
【数5】
【0031】
彩度(S)は入力映像信号(R
1x,G
1x,B
1x)に基づいて、下記式6に示す算出式から求められる。
【数6】
【0032】
xy色度図では、白色(W)を原点に、色域最外周色に向けて彩度(S)が増す。但し、ソース色域の彩度が高い領域には、ディスプレイ色域では表現できない色度座標が存在するため、閾値(PL)を堺に、ディスプレイ色域の最大彩度に向かって徐々に色度座標を調整する。このとき、彩度(S)が閾値(PL)以下の場合には上記開始変換行列(M
START)を用い、最大彩度時にはディスプレイ緑色(G
D)に一致せるため式5におけるM
SをM
Dとすることと等価であるため、変換行列(M)は下記式7のように単位行列となり、これを最終変換行列(M
END)と定義する。
【数7】
【0033】
彩度(S)が閾値(PL)よりも大きい場合、下記式8に従って、開始変換行列(M
START)を基準に最終変換行列(M
END)までを線形補間することで、多数の線形補間変換行列(M’=M
START+(S−PL)・M
STEP)を得る。
【数8】
但し、100%とは、彩度(S)の最大値である。
【0034】
ここで、線形補間の際にM
STEPを求めるために除算が必要であるが、製品化の際には、出荷以前にディスプレイ色域及びソース色域が決定されるので、出荷前にM
STEPを算出することが可能である。そこで、回路化する際にM
STEPを入力パラメータとしてプリセットすることで、除算回路を不要とし、よって、回路規模縮小と処理時間短縮とが可能となる。
【0035】
図7に示すように、M
STARTからM
ENDまでを線形補間した場合、各線形補間変換行列(M’)に基づいて夫々原色緑色(G)に対して行列演算を実行した場合における変換後の色度座標は、補助線G
S-G
Dの軌跡を辿る。すなわち、彩度(S)が定閾値(PL)以上最大値未満であれば、彩度(S)が大きいほど、xy色度図上における白色(W)を原点としてG
D方向に色相を回転させ、最大彩度の場合にはディスプレイ色域最大彩度G
Dに一致するように、変換行列を切り替えて設定する。なお、色相回転率は、補間率SEED=S-PLで決定されている。このため別途色相(Hue)を算出し色相回転率を算出する必要はなく、SEEDが大きくなるにつれて、算出される線形補間変換行列(M’)が次々と切り替わり、徐々に変換後の色相が推移するため、色相飛びが発生しない。そして、彩度(S)は閾値(PL)との分岐条件比較及び補間率算出にのみに使用されるが、分岐条件比較には高い計算精度が要求されない。また、ディスプレイ色域とソース色域に過大なズレを持っていない限り、補間率も高精度な値を必要としない。したがって、彩度算出用除算器は低精度回路を使用しても構わない。
【0036】
なお、行列演算をする際にディスプレイ色域外の結果を算出する可能性があるが、このような場合には、計算結果が0以下の要素のみ0にクリップすることで、ディスプレイ色域最外周にクリッピングすることができる。また、閾値(PL)を調整することでこのようなケースが発生しないように調整することも可能である。
【0037】
以上、説明したように、本実施形態1によれば、回路規模の大きなLUTを必要とせずに、回路資源が少なく簡素な回路構成で、十分な効果を発揮することができる。
【0038】
また、彩度(S)が閾値(PL)よりも低い場合にはディスプレイパネルに表示される色の色調を入力映像信号の持つ本来の色調に一致させることができ、高い場合にはディスプレイパネルの持つ最大の色域まで使用することが可能となるが、その間において色相飛びは発生しない。また、調整パラメータは閾値(PL)のみであり、製品の色度座標マッピング調整も比較的容易に可能である。
【0039】
また、
図8に示すようにディスプレイ色域がソース色域よりも狭く、ソース色域の持つ彩度ベクトル(W-G
STD)上で色座標マッピング可能な数が少ない場合には、色域圧縮を行うことで、色相を維持したまま彩度階調性が向上する。逆に、ディスプレイ色域がソース色域を十分に包括している場合には、色域線形拡張することで、色相を重視した彩度階調を得ることができる。このように、スケーリングした色域をソース色域とすることで、色相再現性を向上させることが可能となる。
【0040】
スケーリングした色度座標を得ることは、xy色度図を用いて直交座標系のベクトル計算により色度座標を求めることで、容易に行える。また、スケーリング量はRGB原色それぞれで調整可能であり、スケーリング処理はパラメータ算出時に計算され開始変換行列(M
START)の要素に組み込まれるため特別な回路を要さない。
【0041】
その他、上記説明ではディスプレイ色域の外縁まで利用するように終了変換行列(M
END)を設定したが、変換後のRGB原色の色度座標がディスプレイ色域内の任意の座標になるように終了変換行列(M
END)が設定されても良い。
(実施形態2)
【0042】
図1に示すように、ディスプレイ色域とソース色域とでRGB原色及びCMY補色の色度座標が一致することはなく、一致することは非常に稀である。また、RGBCMYそれぞれにおける両色域間の座標ズレ量が異なっていることが一般的であるから、xy色度図で示される色域は相似の関係にない。従って色域全体について唯一の開始変換行列(M
START)及び唯一の終了変換行列(M
END)を適用して行列変換を施すのだとすると、RGBCMYいずれかのズレ条件が要因で、調整可能な範囲が狭くなってしまう。そこで、本第2実施形態においては、色相に従ってソース領域を6分割することによって6個の領域を定義し、それぞれの領域毎に、夫々、上記入力パラメータ(閾値(PL),開始変換行列(M
START),終了変換行列(M
END))を独自に定義することで、より広色域かつ自由度の高い色域調整法を提供するものである。
【0043】
図9は本第2実施形態の映像表示装置に内蔵された色域調整回路の構成を示すブロック図である。
【0044】
図9に示すように、本第2実施形態では、上述した第1実施形態と比較して、各原色毎に閾値(PL)が用意され(PL
[R],PL
[G],PL
[B])、各原色及び補色毎に開始変換行列(M
START)及び行列補間ステップ(M
STEP)が予め算出されてセットされている点、入力映像信号(R
1x,G
1x,B
1x)より色相範囲(Hue_Area)を算出する色相範囲判定部34が備えられている点、当該色相範囲判定部34によって算出された色相範囲(Hue_Area)に対応した3種類の入力パラメータ(閾値(PL),開始変換行列(M
START),行列補間ステップ(M
STEP))を選択して行列生成部33に入力するパラメータ算出部35が備えられている点のみが異なる。
図9におけるデータ変換部31,彩度算出部32及び行列生成部33の機能は上述した第1実施形態のものと同じであるので、
図4と同じ番号を付して、その説明を省略する。
【0045】
次に、本実施形態における色相に従ったソース色域の分割について説明する。
図11Aは色相範囲を示す極座標系であり、同
図Bは一次元座標系である。本第2実施形態では、次の表1に示すように、赤(R)を0°とした60°づつの6個の領域(以下、「色相範囲」という)に、ソース色域を分割するものである。
【表1】
【0046】
本第2実施形態では、色相範囲について、それぞれ、開始変換行列(M
START)及び終了変換行列(M
END)を設定し、実施形態1と同様に行列補間ステップ(M
STEP)を算出する。しかしながら、以下の事情により、開始変換行列(M
START)及び終了変換行列(M
END)をソース色域(GMT
S)及びディスプレイ色域(GMT
D)から直接算出するのではなく、夫々ソース色域(GMT
S)及びディスプレイ色域(GMT
D)に対応した二つの仮想色域(開始色域(GMT
START),終了色域(GMT
END))を作成し、これら二つの仮想色域(開始色域(GMT
START),終了色域(GMT
END))に基づいて算出する。
【0047】
図12は、黄色相範囲(Hue_Y)の開始色域(GMT
START)及び終了色域(GMT
END)の設定例を示している。
図12に示すように、xy色度図において、各色域(ソース色域(GMT
S),ディスプレイ色域(GMT
D))は、夫々、原色(R,G,B)を三つの頂点とした三角形で形成されるが、ディスプレイ色域(GMT
D)とソース色域(GMT
S)とで夫々形成される三角形は、相似の関係にない。すなわち、無彩色である白色(W)を原点とした時、各色域の三角形の頂点が示す方向ベクトル(彩度ベクトル)同士の間にズレがある。原色である緑色に着目した場合、WからG
Dへ向かうベクトルとWからG
Sへ向かうベクトルとで、方向ベクトルが相互に異なっている。ディスプレイパネルに表示される色の色調を入力映像信号の持つ本来の色調に一致させるためには、ディスプレイ色域におけるWからG
Dへ向かう線上の色を変換した後の色調を、WからG
Sへ向かうベクトルに一致させる必要がある。さらに、変換後における最大彩度の色度座標をWからG
Sへ向かうベクトルとは異なる位置(G
D)に設定する場合には、最小彩度(W)から最大彩度に向けて、彩度が大きくなるにつれて、WからG
Sへ向かうベクトルに沿ってマッピングし、途中から、最大彩度色度座標(G
D)に向けて方向転換する必要がある。このベクトル変化点が、上記第1実施形態における閾値(PL)である。
【0048】
次に補色である黄色(Y)・シアン色(C)・マゼンタ(M)に着目する。上記第1実施形態の場合は、上記説明と同じように、WからY
Dへ向かうベクトルとWからY
Sへ向かうベクトルとで方向ベクトルが相互に異なるため、閾値(PL)より大きい彩度(S)では方向転換が行われる。しかし、前記表のように色相に応じて各色域を6分割した場合、ソース色域の持つWからY
Sへ向かうベクトルとディスプレイ色域(GMT
D)の外縁への方向ベクトルとを、完全に一致させることが可能となる。
つまり、色相角度0°から60°毎に色域を分割することは、各原色(R,G,B)及び各補色(C,M,Y)を堺に色域を分割することを意味する。色度図において、各補色(C,M,Y)は、三角形の頂点である各原色(R,G,B)と白色(W)を結んだ線を延長し三角形の辺と交差する点に位置する。また、三角形の頂点と三角形の内側に存在する点を結ぶ線を延長すると必ず三角形の辺と交差する。このことからWからY
Sへ向かうベクトルがディスプレイ色域(GMT
D)の外縁と交差する点を調整後のディスプレイ黄色(Y’
D)とすることで、ソース色域(GMT
S)の持つWからY
Sへ向かうベクトルとディスプレイ黄色(Y’
D)への方向ベクトルとを、完全に一致させることができるのである。これは黄色彩度ベクトルの一致を示す。
【0049】
次に、当該黄色相範囲(Hue_Y)用の開始変換行列(M
START[Y])及び終了変換行列(M
END[Y])を求めるために仮想色域である開始色域(GMT
START[Y])と終了色域(GMT
END[Y])を作成する。調整後の黄色をY’
Dと定めたため、開始色域(GMT
START[Y])と終了色域(GMT
END[Y])の形成する三角形は点Y’
Dを通過しなければならない。また、WからY
Sへ向かうベクトルは変更してはならないため、終了色域(GMT
END[Y])における青色は、ソース色域(GMT
S)の青色であるB
Sを共有する。色相角120°である緑色については、上述した第1実施形態と同様に、開始色域(GMT
START[Y])及び終了色域(GMT
END[Y])は夫々点G
S及び点G
Dを使用する。最後に、赤色については、線分G
D-R
Dを超えてディスプレイ色域(GMT
D)の外に調整することは不可能であるため、終了色域(GMT
END[Y])ではディスプレイ赤色(R
D)を取り、開始色域(GMT
START[Y])では線分G
S-Y’
Dと線分B
S-R
Sとが交差する点R
CROSSを取る。この結果、R
CROSSはディスプレイ色域(GMT
D)の外となるが、当該色相範囲外の色であるため問題にならない。
以上のようにして作製された二つの仮想色域(開始色域(GMT
START[Y]),終了色域(GMT
END[Y]))に基づいて、本第1実施形態と同様に開始変換号列(M
START[Y])及び最終変換行列(M
END[Y])を算出し、これらに基づいて行列補間ステップ(M
STEP[Y])を算出するのである。
【0050】
赤色相範囲(Hue_R)の開始色域(GMT
START[R])及び終了色域(GMT
END[R])を作成する場合には同様の考え方で作成するが、このとき調整後の黄色Y’
Dを必ず通過するように作成する。その他の色相範囲においても同様の考え方で作成する。
上記のように作成した6つの開始色域(GMT
START)及び終了色域(GMT
END)からそれぞれ開始変換行列(M
START)及び最終変換行列(M
END)を生成し行列補間ステップ(M
STEP)を算出して入力パラメータとする。
【0051】
閾値(PL)は、各原色(R,G,B)の色相角を中心とした隣合う2つの分割領域で共有して、定義する。また、各補色(C,M,Y)は、開始色域(GMT
START)と終了色域(GMT
END)とで同じ色度座標を使用するため、閾値は不要である。したがって、下記表2に示すように、Hue_YとHue_Gに1つの閾値(PL
[G]),Hue_CとHue_Bに1つの閾値(PL
[B]),Hue_MとHue_Rに1つの閾値(PL
[R])と、計3つの閾値(PL)を定義する。
【表2】
【0052】
本第2実施形態では、このように各色相範囲(Hue_Area)ごとに予め算出しておいた3種類の入力パラメータ(閾値(PL),開始変換行列(M
START),行列補間ステップ(M
STEP))を、図示せぬメモリに格納して保持している。かかるメモリは、パラメータ算出部35に内蔵されていてもよい。
【0053】
次に、色相範囲判定部34による各画素毎の色相範囲の決定について説明する。一般的な色相(H)の算出方法は下記式(9)に示されるとおりである。
【数9】
【0054】
このように、色相(H)の具体値を算出する色相角度算出回路には除算回路が必須になるので回路規模と処理時間が莫大になるが、本第2実施形態の色相範囲判定部4は、下記式(10)のように条件分岐と減算のみを行って、画素毎の入力映像信号(R
1x,G
1x,B
1x)がどの色相範囲に属するかを決定し、決定した色相範囲をパラメータ算出部35に通知する。このように、色相範囲判定部4は除算回路を有していないので、回路規模が小さく済み、処理時間も短い。
【数10】
【0055】
パラメータ算出部35は、色相範囲判定部34から通知された色相範囲に対応した3種類の入力パラメータ(閾値(PL),開始変換行列(M
START),行列補間ステップ(M
STEP))を選択して、行列生成部33に入力する。
【0056】
行列生成部33は、彩度算出部32から入力された彩度(S)と閾値(PL)とを比較してSEED(=S−PL)を算出し(彩度比較部331)、さらに線形補間変換行列(M’=M
START+SEED・M
STEP)を算出し、SEEDの極性が負であれば開始変換行列(M
START)を変換行列としてデータ変換部31にセットし、SEEDの極性が正であれば線形補間変換行列(M’=M
START+SEED・M
STEP)を変換行列としてデータ変換部31にセットする。
【0057】
データ変換部31は、各画素毎に、入力映像信号(R
1x,G
1x,B
1x)に対して行列生成部33がセットした行列(M
START又はM’)に基づく行列演算を実行して、映像信号(R
2x,G
2x,B
2x)を出力する。
【0058】
図4及び
図9に示した各回路ブロックの機能相互間の相関をフローチャートの形で示すと、
図10のフローチャート(色域調整フローチャート)に示す通りとなる。
図10では、各ステップに
図4及び
図9の各回路ブロックの参照番号を付して、その説明を省略する。
【0059】
本第2実施形態によると、以上に説明したように色域を6分割することで、
図13に示すように、ディスプレイ色域(GMT
D)内の全域を使用した色域調整が可能となる。また、各色相範囲用に開始変換行列(M
START)及び行列補間ステップ(M
STEP)を算出する際にC’
D, Y’
D, M’
Dを使用することで、変換後における補色の彩度ベクトルをソース色域における補色の彩度ベクトルと一致させることが可能となる。すなわち、入力映像の持つ色相と一致させることができる。また、隣接する色相範囲で、同じ補色色度座標(C’
D, Y’
D, M’
D)を用いて夫々開始変換行列(M
START)及び行列補間ステップ(M
STEP)を算出するとともに、同じ閾値(PL)を使用しているため、色相範囲境界で色飛びが発生しない。
【0060】
また、本第2実施形態において、予めセットする入力パラメータ(開始色域(GMT
START),終了色域(GMT
END),閾値(PL))を調整することにより、回路構成を変更することなく、様々なマッピングが可能になる。たとえば、
図14に示すように、変換後の色調を両色域の積集合GMT
D∩GMT
Sに当たる領域内のみでマッピングすることにより、忠実な色再現を優先させても良いし、
図15に示すように、ディスプレイ色域内におけるソース色域と相似形状の領域内でマッピングしても良い。