(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
図1に示す航空機の各座席9の下部には、救命胴衣ケース10が装備される。
救命胴衣ケース10は、
図2(b)に示す救命胴衣8を内部に収容する。
救命胴衣8は、緊急時にのみケース10から取り出して使用されることが想定される。緊急時に破損して使えないことを避けるため、救命胴衣8は、緊急時以外は広げられず、畳んだ状態でケース10内に収容される。
【0022】
図2(a)に示す救命胴衣ケース10により、救命胴衣8を破損から保護する必要がある。
救命胴衣ケース10は、折り畳まれた救命胴衣8に適合するサイズに形成される。救命胴衣8を収容した救命胴衣ケース10は、救命胴衣8の形態に倣って略直方体の形態となる。
図3に示す救命胴衣ケース10の開口12から、救命胴衣8が出し入れされる。
【0023】
救命胴衣ケース10は、
図2(a)に示すように、略直方体の一側面を残して救命胴衣8を包囲する本体11と、残された一側面に位置する蓋20とを備える。本体11および蓋20は一体に形成される。
救命胴衣ケース10は、航空機の進行方向である前方に蓋20を向けて、座席9の座面91の裏側に設置される。
本明細書において、救命胴衣ケースに関する「前」は、蓋20の側であるものとする。また、救命胴衣ケースに関する「後」は、蓋20とは反対側であるものとする。航空機の進行方向とは逆を向く一部の座席に装備される救命胴衣ケースを除いて、救命胴衣ケース10の「後」および「前」は、航空機の進行方向の「後」および「前」と一致する。
【0024】
救命胴衣ケース10には、それ自身で形状を保持するのに足りる硬さのハード素材M1と、ハード素材M1よりも柔軟で軽量なソフト素材M2とが用いられる。
ソフト素材M2は救命胴衣ケース10の全面領域に亘って用いられ、ハード素材M1は救命胴衣ケース10の一部の領域に用いられる。ハード素材M1が用いられる領域を
図6にハッチングで示す。
ハード素材M1は、合成樹脂から形成された板材である。板材の厚みは、例えば0.5mm〜2mm程度である。
ソフト素材M2は、布、不織布、皮革、合成皮革などである。
ハード素材M1およびソフト素材M2のいずれも、種々の用途に使用可能な入手性の良い市販品である。
【0025】
ハード素材M1には、航空機の内装材として使用されるアクリル系や塩化ビニル系などの難燃性の樹脂を好ましく用いることができる。その他に、アロマティック・タイプ・ポリアミド、ポリカーボネートなども好適に用いることができる。ハード素材M1に採用できる商品名としては、ポリ塩化ビニルを用いた「ボルタロン」(ボルタロン社)、アクリル変成ポリ塩化ビニルを用いた「カイデックス」(積水成型工業社)、塩化ビニル樹脂を用いた「カイダック」(住友ベークライト社)、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂を用いた「ウルテム」(サビック社)を例示できる。
上記に挙げた樹脂の他、アルミニウムおよびアルミニウム合金、マグネシウム合金などの軽量金属や、FRPおよびCFRPなどの繊維強化樹脂もハード素材M1に用いることができる。
【0026】
ソフト素材M2は、難燃性の樹脂のコーティングや、難燃性繊維を織り込むなどの難燃加工を施すことが好ましい。
ソフト素材M2は、必要な大きさにカットされ、縫い代がケース10の内側に表れるように縫い合わせられる。ハード素材M1は、ソフト素材M2の裏面(内面)に積層されて一体化される。
【0027】
本体11は、座面91の裏側に対向する上部111と、上部111に対向する下部112(
図5)と、進行方向の左右に位置する左部113および右部114と、進行方向後側に位置する後部115(
図5)とを有する。
本体11には、
図3に示すように、救命胴衣8を引き出すための引出紐15が設けられる。引出紐15には、布テープなどを用いることができる。引出紐15の一端部である固定端部15Aは、本体11の上部111の内面に縫い付けられて固定される。固定端部15Aは、上部111の左右方向の中央部かつ前端部付近に位置する。
固定端部15Aに連続し、ケース10内で引出紐15が引き出される引出向き(後方から前方へと向かう方向)へと延出方向が転換された引出紐15は、下部112の内面と、下部112内面に設けられたガイド部14との間に、ケース10内の奥から手前へと通され、ケース10の外部まで延出する。ガイド部14は、例えばソフト素材M2をカットしたものの左右両端を下部112に縫合することで形成される。ガイド部14は、固定端部15Aに対向するように、下部112の左右方向の中央部かつ前端部付近に位置する。
なお、上記とは逆に、固定端部15Aが下部112に固定されるとともに、ガイド部14が上部111に設けられていてもよい。
救命胴衣ケース10が引出紐15を備えるので、引出紐を備えていない救命胴衣8を収容する場合でも、引出紐15により救命胴衣8を救命胴衣ケース10からスムーズに取り出せる。
【0028】
引出紐15には、引出紐15を引き易いようにループ状の引出端部15Bが形成される。引出端部15Bの近くには、後述するタグ装着部25を通すための貫通孔150が形成される。
【0029】
救命胴衣ケース10を座面91の裏側に取り付けるために、本体11の上部111の前端部付近における左右両端には、取付用突起16が設けられる。
また、本体11の後部115には、上下で一対の取付用突起18,18(
図5も参照)が左右両端に設けられる。
【0030】
救命胴衣ケース10の開口12を開閉する蓋20は、
図2および
図3に示すように、開口12の周縁部13よりも後方の部分から内側に折り込まれる4つの折込片21,22,23,24により形成される。折込片21〜24は、四方からそれぞれ内側に折り込まれることにより、矩形状の蓋20を構成する。
【0031】
折込片21〜24が前方に向けて展開されると、
図3に示すように、救命胴衣ケース10の前端に開口12が現れる。折込片21〜24は、互いに繋がっており、隣り合う折込片の間には、折込代27(
図4)が設けられる。折込代27において、隣り合う折込片が重ね合わせられる。
折込片21〜24は、周縁部13から本体11の前方稜線11Fまでの筒状の領域を分け合う。折込片21〜24が展開されることで形成される開口12の周縁部13は、折込片21〜24と共通の領域を占める。
上述のハード素材M1は、周縁部13から本体11の前方稜線11Fを若干超えた位置までの領域に用いられる。前方稜線11Fを超えた位置にあるハード素材M1の端縁E1を
図3に示す。
ハード素材M1は、必要な大きさにカットされ、ソフト素材M2の裏面に接着剤で貼り合わせられるか、縫い付けられる。ハード素材M1には、折込片21〜24を折り込むための折り目が付けられる。
【0032】
本実施形態において、ハード素材M1とソフト素材M2との積層体は可撓性を有する。そのため、救命胴衣ケース10に、上下の高さ、左右方向の幅、前後の奥行がジャストフィットの救命胴衣8よりも幅または奥行が小さく、高さが大きい救命胴衣を収容する際に周縁部13が撓み、開口12から収容することができる。
【0033】
上方から折り込まれる上折込片21は、折り込まれたときに開口12の高さ方向の半分程度を覆う。
上折込片21、および下方から折り込まれる下折込片22は、互いに重なり合うサイズで足りるが、本実施形態では、上折込片21の折り目21Lを超える位置まで下折込片22を延在させる。折り目21Lを超える重ね片22Aは、L字状に折り曲げ可能とされており、本体11の上部111に重ねられる。重ね片22Aは、上部111に面ファスナなどで係止することもできる。
左方から折り込まれる左折込片23には、折り込まれたときにケース10の左右方向中心に向けて延出する連結帯231が縫い付けられる。右方から折り込まれる右折込片24にも、折り込まれたときにケース10の左右方向中心に向けて延出する連結帯241が縫い付けられる。
【0034】
上折込片21と、下折込片22と、左折込片23と、右折込片24は、
図2に示すように互いに重なり合わされることで、開口12を閉じる。上折込片21と下折込片22とが重ね合わせられたときに、左右に残される隙間は、左折込片23および右折込片24によって塞がれる。
ここで、ハード素材M1が用いられる各折込片21〜24は、所定位置に折り込まれ、弛むことなくその形状を保持する。これによって折込片21〜24が重ね合わされた状態に維持されるので、折込片21〜24の互いの間に隙間が生じない。折込片21〜24の合わせ目の近くを押しても、筆記具や工具などの異物を挿入可能な隙間は表れない。このように開口12が全体的に塞がれることにより、救命胴衣ケース10の内部は密閉される。
【0035】
折込片21〜24を前方に展開すると、
図4に示すように、救命胴衣ケース10を折り畳むことができる。
図4では引出紐15および取付用突起16,18の図示を省略している。
救命胴衣ケース10は、折り畳まれると平坦な袋状となる。このため、救命胴衣ケース10をストックしておくのに大きなスペースを必要とせず、また、コンパクトに運搬できるので便利である。
本実施形態の救命胴衣ケース10は、左右に設けられた縫い代10Sに沿って折り畳まれるが、縫い代10Sの位置は任意であり、縫い代10Sと、折り畳むときの折り目の位置とは必ずしも一致しない。
【0036】
救命胴衣ケース10の内部に救命胴衣8を入れるときは、
図3に示すように、引出紐15の引出端部15B側を救命胴衣ケース10の外部に延出させる。このとき、ケース10内の奥側では引出紐15をあまり弛ませず、引出紐15の方向転換部15Cを、固定端部15Aおよびガイド部14と、後部115との中間の位置までに留めておく。
そして、ケース10内に救命胴衣8を入れると、引出紐15の方向転換部15Cが救命胴衣8により押されることで、引出紐15がケース10内の奥側へと引き込まれる。このとき、ガイド部14により引出紐15が左右方向の中央で、前後方向に沿って案内されながら引き込まれるので、引出紐15は救命胴衣8の外周から外れることなく、救命胴衣8の外周とケース10の内面との間にセットされる。
また、救命胴衣ケース10内から救命胴衣8を引き出すときも、ガイド部14により引出紐15が前後方向に沿って案内されるので、救命胴衣ケース10内から救命胴衣8を確実に引き出すことができる。
【0037】
次に、セキュリティタグ30およびタグ装着部25の構成について説明する。
救命胴衣ケース10は、連結帯231、連結帯241、上折込片21、および下折込片22が重なり合うケース10の幅方向中心に、セキュリティタグ30が装着されるタグ装着部25を備える。
タグ装着部25は、樹脂や金属から形成される汎用パーツであり、上折込片21に設けられる。タグ装着部25は、上折込片21に形成された貫通孔に裏側から挿入され、上折込片21の裏面に固定される。上折込片21から前方に突出するタグ装着部25は、下折込片22、連結帯231,241の各々に形成された貫通孔に通された状態で、折込片21〜24よりも前方に突出する。タグ装着部25の先端部には、セキュリティタグ30を通すための挿通孔250(
図3)が形成される。
【0038】
セキュリティタグ30は、外れる前はU字状のフック部31と、フック部31を係止するロック部32とを備える。フック部31の一端はロック部32に連続する。フック部31をタグ装着部25の挿通孔250に通した後、フック部31の他端をロック部32の穴に嵌め込むと、タグ装着部25にセキュリティタグ30が装着される。
フック部31は、所定以上の大きさの力で引っ張られると一角31A(
図3)が切れるように構成される。フック部31の一角31Aが切れ、セキュリティタグ30がタグ装着部25から外れると、蓋20を開けることが可能となる。
なお、所定以上の大きさの力でセキュリティタグ30が引っ張られると、フック部31の他端がロック部32の穴から抜けることで、タグ装着部25から外れるタイプもある。
【0039】
折込片21〜24は、タグ装着部25の先端部にセキュリティタグ30が装着されると、タグ装着部25の位置で互いに係止される。
ここで、タグ装着部25は、本体11の上部111に近い位置に設けられることが好ましい。
そうすると、タグ装着部25に装着されたセキュリティタグ30により、下折込片22が上端近くで係止されるので、ケース10の高さ方向の中央や下方の位置で下折込片22が係止される場合よりも下折込片22が上折込片21に対して浮くのを抑えることができる。
【0040】
タグ装着部25およびセキュリティタグ30は、上記のように折込片21〜24を係止するほか、引出紐15を係止する役割も有する。引出紐15の貫通孔150に通されたタグ装着部25の先端部に、セキュリティタグ30が装着される。
【0041】
タグ装着部25にセキュリティタグ30が装着されることにより、折込片21〜24が互いに係止されるため、セキュリティタグ30をタグ装着部25から外さない限りは蓋20を開けることができない。折込片21〜24の合わせ目を無理に広げようとすれば、セキュリティタグ30が外れてしまうのである。
したがって、セキュリティタグ30は、蓋20が開けられたか否かを示す。セキュリティタグ30がタグ装着部25から外されていれば、蓋20が閉じていたとしても、蓋20が一旦開けられたことを示し、タグ装着部25にセキュリティタグ30が装着されていれば蓋20が開けられていないことを示す。セキュリティタグ30の状態に基づいて、蓋20が開けられて救命胴衣8にアクセス可能となったかどうかを把握することができる。救命胴衣8にアクセス可能となることで、救命胴衣8が破損あるいは盗難されるおそれがあるため、セキュリティタグ30が救命胴衣8にアクセス可能となったことを示していれば、救命胴衣8は交換あるいは補充される。
【0042】
救命胴衣ケース10は、
図5に示すように、座面91の裏側に設けられた棒6,7に取り付けられる。
棒6は、座面91の前側に設置され、棒7は、座面91の後側に設置される。いずれの棒6,7も座面91の左右方向に延出する。
救命胴衣ケース10は、上部111の取付用突起16の孔に通される結束バンド17によって棒6に取り付けられる。
また、救命胴衣ケース10は、後部115の上端および下端の取付用突起18,18の孔に通される結束バンド19によって棒7に取り付けられる。
取付用突起16および取付用突起18により、救命胴衣ケース10は、前方に位置する蓋20側が下方に、後部115側が上方に位置するように、水平方向に対して傾けて装着される。
取付用突起16および取付用突起18は、棒6,7に限らず、座面91の裏側に設けられた種々の部材に取り付けることができる。
【0043】
救命胴衣ケース10は、座面91の前側に、開口12が上を向くように起立した状態で取り付けられる場合もある。その場合は、座面91の前側に位置し、フロアに置いた荷物が移動するのを止める棒と、座面91の裏側に設けられた棒とに、救命胴衣ケース10を結束または装着することができる。なお、救命胴衣ケース10を支持する部材は、棒に限られず、適宜な部材に救命胴衣ケース10を取り付けることができる。
座席9または座席9周辺に救命胴衣ケース10を設置するときの救命胴衣ケース10の姿勢や、支持部材の位置に応じて、救命胴衣ケース10の適宜な位置に、取付用の部材を設けることができる。
【0044】
以上で説明した構成の救命胴衣ケース10は、
図2に示すようにセキュリティタグ30が装着された状態で座席9に装備される。座席9の前側には、救命胴衣ケース10の蓋20が臨む。
このとき、蓋20は、重ね合わせられた折込片21〜24により隙間なく封がされている。このため、筆記具や工具などの異物がケース10内に挿入されることを阻止することができるので、異物の挿入により救命胴衣8が破損することを防止できる。
また、セキュリティタグ30がタグ装着部25から外れていれば、蓋20が開封されたものと判断できる。したがって、飛行前の点検時に、セキュリティタグ30が外れたケース10内に収容された救命胴衣8を交換したり、盗難された救命胴衣8を補充することができる。
【0045】
緊急時、座席9に腰掛けた乗客は上体をかがめ、自席に装備された救命胴衣ケース10の引出紐15の引出端部15Bを把持して前方に引っ張る。すると、引出紐15がタグ装着部25から外れるのに伴ってセキュリティタグ30のフック部31の一角が切れる。このためセキュリティタグ30がタグ装着部25から外れると、引出紐15に追従する救命胴衣8によって蓋20が内側から押し開けられ、救命胴衣8がケース10外に取り出される。
つまり、蓋20を開き、その後、救命胴衣8を取り出すといった2つの操作を要することなく、引出紐15を引くだけの1アクションにより、救命胴衣8を容易にかつ迅速に取り出すことができる。
ここで、救命胴衣ケース10が水平方向に対して傾けて配置されているために、救命胴衣8がケース10の前方(開口12側)へと移動することも、救命胴衣8の容易かつ迅速な取り出しに寄与する。
【0046】
さて、本実施形態の救命胴衣ケース10は、上述のように開口12を隙間なく密閉するためにハード素材M1を用いる。
救命胴衣8が取り出されるケース10の蓋20は、救命胴衣8を取り出すために緊急時には開封が予定されるものである。また、蓋20は、救命胴衣8をスムーズに取り出すために、座席9の前側に位置する。したがって、ケース10内部の救命胴衣8にアクセスしようとしたとき、先ずは、蓋20を触り、開けることを試みる。その蓋20による閉塞が不十分で、周縁部13の隅などに隙間が存在するとすれば、その隙間から内部の救命胴衣8への容易なアクセスを許すこととなるから、蓋20により開口12を隙間なく封止することが重要である。
【0047】
そのために、ハード素材M1を蓋20に用いる。ハード素材M1は自身の硬さにより、折り込まれた折込片21〜24の形状を一定に保持するので、折込片21〜24の互いの間には、異物の挿入を許す隙間が生じない。
それに加えて、各折込片21〜24がタグ装着部25およびセキュリティタグ30によって上端近くで係止されるために、下折込片22が上折込片21に対して浮くのが防止される。
これにより。蓋20をより確実に塞ぐことができる。
【0048】
しかも、下折込片22の上端部が本体11の上部111まで延在するので、不正なアクセスが試みられ易いケース10の前面に、下折込片22と上折込片21との合わせ目が存在しない。このため、折込片21〜24の合わせ目がこじ開けられるリスクが減る。
また、本実施形態では、折込片21〜24が相互に繋がっており、隣り合う折込片の間に折込代27(
図4)が存在する。そのため、隣り合う折込片の合わせ目から無理に異物を挿入しようとしても、異物の先端が折込代27に突き当たり、それ以上奥まで挿入することができない。
例えば、左折込片23と下折込片22との間にある折込代27により、左折込片23と下折込片22の合わせ目L1からの異物の挿入が阻止されるのである。左折込片23と下折込片22との間の合わせ目L2についても同様である。
したがって、隣り合う折込片の合わせ目から異物が無理に挿入されたとしても、救命胴衣8の破損を免れることができる。
【0049】
以上のように、救命胴衣8への不正アクセスを予防する上で重要な蓋20にハード素材M1を用いることにより、救命胴衣8を破損から保護することができる。
一方、ハード素材M1は、ソフト素材M2に比べると単位面積あたりの重量が大である。そこで、ハード素材M1は、ケース10の開口12を隙間なく閉じるために必要最小限の領域への使用に留め、蓋20よりも大きい残りの領域には軽量なソフト素材M2を用いることにより、救命胴衣ケース10の軽量化を図る。
救命胴衣ケース10の大半の部分がソフト素材M2で形成されることにより、例えば数十g〜150g程度の軽量な救命胴衣ケース10を実現できる。
【0050】
また、布、合成皮革等のソフト素材M2と、板材であるハード素材M1とを用いることにより、本体11や蓋20に射出成形された部材を用いる場合と比べて、成形型の費用を削減できる。救命胴衣ケース10は、数万個以上のオーダーでは大量生産されないので、成形型のコストを掛けることなく、必要な大きさにカットしたものを縫製や接着によって成形することにより、製造コストを抑えることができる。
しかも、本実施形態でハード素材M1に用いる板材は、射出成形で成形可能な肉厚よりも薄い板厚のものを選ぶことができる。開口12を隙間なく封止するのに必要な硬さを実現するために最小限の厚みの板材を選ぶことにより、救命胴衣ケース10の重量をより低減することができる。
【0051】
ソフト素材M2は、針などの鋭利な物を刺そうとしても容易には突き刺すことのできないように、芯材が積層されることが好ましい。
あるいは、ソフト素材M2が、アラミド繊維などの強靭な繊維により緻密に形成されることも好ましい。
【0052】
図6に示す第1実施形態の変形例では、ソフト素材M2の裏面に芯材28が積層される。
芯材28としては、布、合成皮革、樹脂のフィルムなどを用いることができる。
芯材28は、本体11のほぼ全体に亘り設けられる。芯材28は、必要な大きさにカットしたものの端縁同士を突き当てて筒状とし、本体11の内側でソフト素材M2に貼り合わせられる。
ここで、芯材28の端縁は、ソフト素材M2の縫い代10Sを互いの間に挟んで突き当てられる。そうすると、芯材28の端縁間の隙間が縫い代10Sで塞がれる。縫い代10Sは、縫い線の両側に開かれ、ソフト素材M2の生地本体に重ねられるので、縫い代10Sで鋭利な物の先端を受け止め、それよりも奥へと突き刺されるのを阻止することができる。
【0053】
〔第2実施形態〕
次に、
図7および
図8を参照し、本発明の第2実施形態に係る救命胴衣ケース40について説明する。
第2実施形態以降では、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
救命胴衣ケース40は、開口42を有する本体41と、開口42を開閉する蓋50とを備える。
本体41は、開口42を取り囲む矩形状の枠体である周縁部43と、周縁部43に連なり、救命胴衣8を収容する収容部44とを備える。
蓋50は、開口42を覆う矩形状のカバー部51と、カバー部51の四辺から立ち上がり、周縁部43の外周に嵌まる壁部52とを備える。
【0054】
本体41の周縁部43は、射出成形により形成される。蓋50の全体も、射出成形により形成される。本実施形態では、射出成形された部材をハード素材M1として用いる。
一方、本体41の収容部44は、ソフト素材M2により形成される。ソフト素材M2は、第1実施形態のソフト素材M2と同様のものを用いることができる。
【0055】
周縁部43には、蓋50を回動自在に支持する蓋支持部431,431と、蓋50の壁部52が突き当てられるストッパ432,432と、セキュリティタグ30(
図8(a))が装着されるタグ装着部55とが設けられる。
蓋支持部431,431は、周縁部43の下辺に、ストッパ432,432およびタグ装着部55は周縁部43の上辺に位置しているが、それらの位置は逆でもよい。
【0056】
ストッパ432,432は、座面91の裏側に救命胴衣ケース40を取り付けるための取付用突起も兼ねる。ストッパ432と、収容部44の後端に設けられた取付用突起18,18を利用して、救命胴衣ケース40が座席9に装備される。このとき、第1実施形態と同様に、救命胴衣ケース40の前端が下側、救命胴衣ケース40の後端が上側に位置するように、救命胴衣ケース40を傾けて設置すれば、蓋50が開けられたときに救命胴衣8が滑り落ちる。
【0057】
タグ装着部55は、周縁部43から上方に起立するプレート551と、プレート551から前方に向けて突出する突起552とを有する。突起552には、セキュリティタグ30を通すための孔が形成される。
【0058】
蓋50の壁部52には、タグ装着部55に対向するプレート521と、蓋支持部431,431の各々の軸に係合する係合部522,522とが設けられる。
プレート521には、タグ装着部55の突起552が通される孔が形成される。プレート521には、救命胴衣8を取り出すときに引っ張られる紐56が設けられる。
【0059】
図8(a)に示すように、蓋50を周縁部43の外周に嵌め、タグ装着部55にセキュリティタグ30を装着することで蓋50を本体41に係止する。
このとき、蓋50の壁部52と周縁部43とは、僅かなクリアランスを介して対向する。このため、壁部52と周縁部43との間に異物を挿入可能な隙間が生じることなく、救命胴衣ケース40は密閉される。
【0060】
紐56を前方に引っ張ると、セキュリティタグ30がタグ装着部55から外れるとともに、蓋50が開くので、救命胴衣8を取り出すことができる。
本実施形態によれば、開口42の密閉に関わる蓋50および周縁部43にハード素材M1を用いることで救命胴衣8を保護しつつ、残りの広い領域にはソフト素材M2を用いることで軽量化を図ることができる。
【0061】
タグ装着部55および蓋50のプレート521は、
図8(b)に示すように構成することもできる。
図8(b)では、周縁部43から立ち上がるタグ装着部55が、蓋50の壁部52に水平に形成されたプレート521の孔に通されることにより、蓋50が本体41に係止される。
【0062】
〔第3実施形態〕
次に、
図9および
図10を参照し、本発明の第3実施形態について説明する。
救命胴衣ケース60は、袋状に形成される本体61と、本体61のすぼめられた開口62を覆う蓋67とを備える。
本体61は、上述のソフト素材M2により形成されており、開口62の周縁部63には畳み紐64が通される。
畳み紐64は、周縁部63に所定間隔で設けられた孔に、表面から裏面へ、裏面から表面へと交互に通される。畳み紐64を引っ張ると、周縁部63が蛇腹状に折り畳まれ、開口62がすぼまって閉じるようになっている。
【0063】
本体61には、
図9(b)に示すように、救命胴衣8を引き出すための引出紐65が設けられる。引出紐65の構成は、第1実施形態の引出紐15とほぼ同様であるため、説明を省略する。引出紐65は、本体61に隠れる部分も含めて太い実線で図示している。
本体61の外部に延出する引出紐65の端部には、セキュリティタグ68を介して持ち手66が設けられる。
【0064】
蓋67は、ハード素材M1により形成される。ハード素材M1としては、樹脂の板材が用いられる。蓋67は、周縁部63のヒダが並ぶ方向の一端側に固定され、周縁部63の他端側でセキュリティタグ68により係止される。
セキュリティタグ68は、樹脂製のパーツである。セキュリティタグ68は、蓋67の表側に位置し、畳み紐64を係止する。持ち手66を引くと、畳み紐64が切れてセキュリティタグ68から外れる。このことによって、セキュリティタグ68は救命胴衣ケース60が開けられたか否かを示す。
【0065】
救命胴衣ケース60は、座面91の裏側に、開口62を前方に向けて取り付けられる。
図9(a)および(b)に示すように救命胴衣8を収容した状態では、開口62が畳み紐64により閉じられるとともに蓋67により覆われている。したがって、周縁部63のヒダの間に隙間が生じていても、その隙間は蓋67に覆われるために救命胴衣ケース60の外部には露出しないので、救命胴衣ケース60は密閉される。
【0066】
緊急時、
図10(a)に示すように持ち手66を引くと、畳み紐64が切れてセキュリティタグ68から外れる。畳み紐64が切れると、蓋67が開き、
図10(b)に示すように周縁部63が緩むので、開口62から救命胴衣8を取り出すことができる。
【0067】
本実施形態によれば、蓋67にハード素材M1を用いることで救命胴衣8を保護しつつ、残りの広い領域にはソフト素材M2を用いることで軽量化を図ることができる。
【0068】
図11に示す本発明の第1変形例では、第1実施形態と同様に、複数の折込片821,822から蓋82が構成される。
図11(c)の展開図に示すように、救命胴衣ケース80は、本体81と、蓋82とを備える。本体81は、端部81Aが接着代81Bに接着されると、
図11(b)に示すように、筒状をなす。
折込片821,822は、本体81から延在し、互いに重なるように折り込まれる。折込片821,822は本体81の両端に設けられるが、一端側の折込片821,822を蓋82として用いる。折込片821,822の円弧状の端縁820(
図11(a)の右側参照)が、救命胴衣ケース80の開口82Aの周縁部83をなしており、折込片821,822が折り込まれることで開口82Aが閉じられる(
図11(b)の左側参照)。
このとき、本体81の上面81Uおよび下面81Dは、
図11(b)に示すように側面視で円弧状に、逆向きに反っている。上面81Uおよび下面81Dは、救命胴衣ケース80の左右方向の中央部で最も離間する。一方、折込片821,822は、
図11(a)に示すように平面視で円弧状に反っている。
【0069】
折込片821,822には、ハード素材M1が用いられる。その他の領域にはソフト素材M2が用いられる。
折込片821,822が折り込まれると、ハード素材M1の硬さに基づいて形状を保持するために、開口82Aが隙間なく封止される。
本変形例によれば、上記各実施形態と同様に、蓋82にハード素材M1を用いることで救命胴衣8を保護しつつ、残りの領域にはソフト素材M2を用いることで軽量化を図ることができる。
【0070】
図12に示す
参考例では、第2実施形態と同様に、救命胴衣ケースの本体の周縁部と、蓋とにハード素材M1が用いられる。
図12(a)に示す救命胴衣ケース70は、開口72を有する本体71と、蓋75とを備える。
本体71は、ソフト素材M2により袋状または箱状に形成される。本体71の矩形状の開口72を形成する周縁部73には、樹脂成形された矩形状の枠体74が設けられる。本
参考例では、樹脂成形された部材をハード素材M1として用いる。
ここで、樹脂製の枠体74に代えて、針金などで形成した金属製の枠体を用いることもできる。
枠体74には、セキュリティタグ30を装着するためのタグ装着部741が設けられる。枠体74が周縁部73に組み付けられると、タグ装着部741が周縁部73よりも前方に突出する。タグ装着部741は、蓋75に形成された孔75Aに通される。蓋75から突出するタグ装着部741の先端にセキュリティタグ30が装着される。
【0071】
蓋75は、開口72を覆う矩形状のカバー部751と、カバー部751の四辺から立ち上がる壁部752とを備える。壁部752には、樹脂成形された矩形状の枠体76が設けられる。この枠体76もハード素材M1として用いる。また、枠体76に代えて、金属製の枠体を用いることもできる。
蓋75は、周縁部73の一辺に、当て布77により取り付けられる。当て布77は周縁部73および蓋75に縫い付けられる。
【0072】
本
参考例では、ハード素材M1である枠体74により周縁部73の形状が保持されるとともに、同じくハード素材M1である枠体76により蓋75の外周の形状が保持される。このため、蓋75を周縁部73の外周に嵌めると、蓋75と周縁部73との間には隙間が生じない。
したがって、本
参考例によっても、ハード素材M1を用いることで救命胴衣8を保護しつつ、残りの領域にはソフト素材M2を用いることで軽量化を図ることができる。
【0073】
次に、
図13および
図14を参照し、本発明の第3変形例に係る救命胴衣ケース120について説明する。
救命胴衣ケース120は、蓋125を除いて、第1実施形態の救命胴衣ケース10とほぼ同様に構成される。
救命胴衣ケース120は、
図13に示すように、救命胴衣8を包囲する本体121と、本体121に一体に形成される蓋125とを備える。
【0074】
本体121は、布、不織布、皮革、合成皮革などのソフト素材M2により、マチ121Aのある袋状に形成される。マチ121Aを展開すると、
図14(b)に示すように、本体121を含めて救命胴衣ケース120の全体が平坦に折り畳まれる。このため、救命胴衣ケース120のストックおよび運搬に便利である。
本体121には、引出紐15と、取付用突起16および取付用突起18が設けられる。
【0075】
本体121の一端側に開口12(
図14(b))が位置する。開口12を形成する周縁部13には、ハード素材M1から形成されたベルト123が縫い付けられる。ベルト123は、折り畳まれた状態の本体121の幅よりも長く、本体121の幅方向両側の端縁を超えて延出する。
ベルト123の一端部には、タグ装着部25が設けられる。ベルト123の他端部には、タグ装着部25が通される貫通孔123Aが形成される。
【0076】
本変形例では、救命胴衣ケース120の開口12を以下のようにして容易に封止することができる。
ベルト123の両端側を持ち、
図14(a)に示すように、ベルト123を芯として本体121の周縁部13近傍を折りながら巻き込んでいくと、開口12が閉じられる。このとき開口12よりも後方から折り込まれる本体121の領域122(
図4(b))には、ソフト素材M2と一体にハード素材M1が用いられる。ハード素材M1には、折り目が付けられることが好ましい。
領域122にはハード素材M1が用いられるため、領域122の折り込み部分には、異物の挿入を許す隙間が形成されない。
【0077】
さらに、
図13に示すように、ベルト123の一端側を他端側へ、ベルト123の他端側と一端側へと折り曲げる。このとき、本体121のマチ121Aの部分もベルト123に追従し、領域122の一部が巻き込まれた部分の上に折り重ねられる。
そして、貫通孔123Aにタグ装着部25を通すことにより、ベルト123の両端を結合する。これにより、領域122が巻き込まれた状態に保持される。さらに、引出紐15に形成された貫通孔150にタグ装着部25を通してから、タグ装着部25にセキュリティタグ30を装着する。
【0078】
本変形例では、開口12よりも後方から、幾重かに亘り巻き込むように折り込まれる本体121の領域122と、領域122に重ねられるベルト123が蓋125(
図13)を構成する。これらのベルト123および折り込まれた領域122の奥に、開口13が隙間なく、こじ開けることも困難な状態で封止される。領域122は巻き込まれた上で、側方から(マチ121A側から)も折り込まれる。しかも、セキュリティタグ30を外し、ベルト123の結合を解かない限り、領域122を展開して開口12にアクセスすることができない。
以上より、救命胴衣ケース120によっても、救命胴衣8に外部からアクセスされることを予防できる。
【0079】
また、ハード素材M1の使用は蓋125に留まるので、救命胴衣ケース120の軽量化を実現できる。
ハード素材M1には、第1実施形態で例示したものと同様のものを用いることができる。
ベルト123に用いるハード素材M1と、本体121に用いるハード素材M1とは、同じでも相違していてもよい。
【0080】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。