(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の組成物は、基材に塗布し光硬化して得られる塗膜の伸び特性が小さくなるという問題がある。これは、エーテル骨格部位で分子鎖が切れやすいために塗膜が脆く伸度が得られないためである。この組成物の硬化物は、強度を得るために高分子化すると、柔軟性(可とう性)や伸び特性が不十分になるという問題がある。
また、特許文献2に記載の組成物は、エーテル骨格を有する組成物よりも分子鎖の強度は向上するものの、硬化物として伸度が十分ではなかった。特許文献1および2に記載のビニルエーテル組成物は、いずれも光酸発生剤由来の残存酸と熱とにより、得られる硬化物が茶褐色に着色するという欠点がある。
さらに、特許文献3に記載の光硬化性組成物は、その主鎖中にポリプロピレングリコール骨格を有するが、エーテル骨格の繰り返し構造が含む炭素数が3個以下であるため、この組成物をコーティング膜に用いた際に、柔軟性(可とう性)や伸び特性が不十分になるという問題がある。
【0010】
本発明者は、特許文献4に記載の特定のウレタン骨格とビニルエーテル基とを有する化合物を特定の光重合開始剤を用いて硬化することで得られる組成物が、優れた伸び特性を示すことを見出している。
本発明者は、さらに優れた伸び特性と柔軟性とを示す光硬化性の樹脂組成物を得るために検討を進めたところ、特許文献4に記載の特定のウレタン骨格とビニルエーテル基とを有する化合物と、チオール化合物と、光ラジカル発生剤とを含むビニルエーテル系樹脂組成物から得られる光硬化組成物が、特許文献4に記載の組成物と比べより一層優れた伸び特性と柔軟性とを示すことを見出した。さらに、本発明者は、このビニルエーテル系樹脂組成物から得られる光硬化組成物は、コーティング膜に用いることで、より一層優れた伸び特性と柔軟性とを共に示すことを見出し、本発明を完成することができた。
【0011】
本発明の課題は、優れた伸び特性と柔軟性とを有する光硬化組成物を得ることができるビニルエーテル系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を達成するため鋭意研究した結果、以下のビニルエーテル系樹脂組成物を光硬化させることで、優れた伸び特性と柔軟性とを同時に有する光硬化組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の態様を包含する。
【0013】
[1]下記式(1)、式(2)および式(3)で示される化合物からなる群から選択される一種以上の化合物と、チオール化合物と、光ラジカル発生剤とを含むビニルエーテル系樹脂組成物である。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
【化3】
[式(1)、式(2)および式(3)中、−X
1−、−X
2−、−X
3−、−X
4−、−X
5−、−X
6−は、それぞれ独立に、−C
4H
8−、−C
2H
4−、−C
2H
4OC
2H
4−、−C
2H
4OC
2H
4OC
2H
4−、−C
3H
6−、−C
3H
6OC
3H
6−、−C
3H
6OC
3H
6OC
3H
6−または式(4)で示す置換基、のいずれかを表す。式(1)、式(2)および式(3)中、−Z−は、式(5)で示す置換基を表す。また、式(1)、式(2)および式(3)中、k、l、m、nは、それぞれ正の整数を表す。式(3)中、−R−は、炭素数4〜50の直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基および環状炭化水素基からなる群より選択される少なくとも一つの炭化水素基を表す。−R−は、構成する原子にヘテロ原子を含んでもよい。]
【0017】
【化4】
【0018】
【化5】
【0019】
[2]前記式(1)、式(2)および式(3)中、−X
1−、−X
2−、−X
3−、−X
4−、−X
5−、−X
6−は、それぞれ独立に、−C
4H
8−、−C
2H
4OC
2H
4−、−C
2H
4OC
2H
4OC
2H
4−、−C
3H
6OC
3H
6−、−C
3H
6OC
3H
6OC
3H
6−または前記式(4)で示す置換基、のいずれかである[1]に記載のビニルエーテル系樹脂組成物である。
【0020】
[3]前記チオール化合物が、1分子中に4個以下のチオール基を有する化合物である[1]または[2]に記載のビニルエーテル系樹脂組成物である。
【0021】
[4]前記チオール化合物が、
トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、
トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、
ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、
テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、
ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、
ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、
1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、
1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、
トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、
トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)
からなる群から選択される一種以上の化合物である[1]または[2]に記載のビニルエーテル系樹脂組成物である。
【0022】
[5][1]から[4]のいずれか一つに記載のビニルエーテル系樹脂組成物から得られる光硬化組成物である。
【0023】
[6][5]に記載の光硬化組成物を含む粘接着剤である。
【0024】
[7][5]に記載の光硬化組成物を含むコーティング膜である。
【0025】
[8][5]に記載の光硬化組成物を含む3Dプリンタ用組成物である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、優れた伸び特性と柔軟性を有する光硬化組成物を得ることができるビニルエーテル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物を詳細に説明する。なお、本明細書において、ビニルエーテル系樹脂組成物を、単に樹脂組成物と称することがある。また、本発明の樹脂組成物に光を照射して得られる硬化物を、単に光硬化組成物と称することがある。
【0028】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、下記式(1)、式(2)および式(3)で示される化合物からなる群から選択される一種以上の化合物と、チオール化合物と、光ラジカル発生剤とを含むビニルエーテル系樹脂組成物である。
【0032】
【化8】
[式(1)、式(2)および式(3)中、−X
1−、−X
2−、−X
3−、−X
4−、−X
5−、−X
6−は、それぞれ独立に、−C
4H
8−、−C
2H
4−、−C
2H
4OC
2H
4−、−C
2H
4OC
2H
4OC
2H
4−、−C
3H
6−、−C
3H
6OC
3H
6−、−C
3H
6OC
3H
6OC
3H
6−または式(4)で示す置換基、のいずれかを表す。式(1)、式(2)および式(3)中、−Z−は、式(5)で示す置換基を表す。また、式(1)、式(2)および式(3)中、k、l、m、nはそれぞれ正の整数を表す。式(3)中、−R−は、炭素数4〜50の直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基および環状炭化水素基からなる群より選択される少なくとも一つの炭化水素基を表す。−R−は、構成する原子にヘテロ原子を含んでもよい。]
【0035】
式(1)、式(2)および式(3)で示される化合物は、いずれも両末端にビニルエーテル基を有する化合物である。これらの化合物を、ビニルエーテル基を持つ化合物と称することがある。
式(1)、式(2)および式(3)で示される化合物の構造に含まれることがある式(4)で表される置換基は、シクロヘキシル骨格由来である。
また、式(1)、式(2)および式(3)で示される化合物の構造中、式(5)で表される置換基は、イソホロン由来である。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、式(1)、式(2)および式(3)で示される化合物からなる群から選択される一種以上の化合物と、チオール化合物と、光ラジカル発生剤とを含む。そのため、本発明の樹脂組成物に光を照射すると、光ラジカル発生剤からラジカルが生成し、次いでビニルエーテル基を持つ化合物とチオール化合物とがエンチオール反応することで、光硬化組成物が得られる。本発明者は、この光硬化組成物が優れた伸び特性と柔軟性とを同時に有することを見出した。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、式(1)、式(2)および式(3)で示される化合物からなる群から選択される一種以上のビニルエーテル基を持つ化合物を含む。前記ビニルエーテル基を持つ化合物は、いずれもウレタン骨格を有する。本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物は、ウレタン骨格を有するため、たとえばコーティング膜に用いた際に柔軟性を示す。
【0038】
前記ビニルエーテル基を持つ化合物は、ビニロキシ基とウレタン結合(−NHCOO−)との間に、−C
4H
8−、−C
2H
4OC
2H
4−、−C
2H
4OC
2H
4OC
2H
4−、−C
3H
6OC
3H
6−、−C
3H
6OC
3H
6OC
3H
6−または前記式(4)で示す置換基など炭素数4個以上を有する骨格であることが、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物の柔軟性がより一層優れるため好ましい。式(1)、式(2)および式(3)で示される構造式において、前記ビニロキシ基とウレタン結合(−NHCOO−)との間は、それぞれ−X
1−、−X
2−、−X
3−、−X
4−、−X
5−、−X
6−のいずれかで示される。前記ビニルエーテル基を持つ化合物がビニロキシ基とウレタン結合との間に炭素数が4個以上を有する骨格を持つ場合、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物のヤング率は低くなり、したがって柔軟性がより一層優れる。さらに前記結合部位の炭素数が4個以上を有する骨格を持つ場合、この結合部位の分子運動性が向上するため、エンチオール反応の反応性も良好となる。
【0039】
前記ビニルエーテル基を持つ化合物は、その主鎖中の繰り返し構造に炭素数が4個以上であるエステル骨格または炭素数が4個以上であるエーテル骨格を有する。式(1)、式(2)および式(3)の主鎖中の繰り返し構造は、それぞれの構造式における括弧内の構造で示される。
前記ビニルエーテル基を持つ化合物の主鎖中の繰り返し構造に、炭素数が4個以上であるエステル骨格または炭素数が4個以上であるエーテル骨格を有するため、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物のヤング率は低くなる。したがって、本発明の樹脂組成物により得られる光硬化組成物は、優れた伸び特性と柔軟性とを同時に有する。
【0040】
式(1)で示されるビニルエーテル基を持つ化合物は、その主鎖中の繰り返し構造に炭素数が6個であるエステル骨格を有する。
【0041】
式(2)で示されるビニルエーテル基を持つ化合物は、その主鎖中の繰り返し構造に炭素数が4個であるエーテル骨格を有する。
【0042】
式(3)で示される前記ビニルエーテル基を持つ化合物は、その主鎖中の繰り返し構造中に炭素数が4個〜50個であるエーテル骨格を有する。
【0043】
なお、式(3)中、−R−は、炭素数4〜50の直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基および環状炭化水素基からなる群より選択される少なくとも一つの炭化水素基を表す。
このような−R−は、たとえば、炭素数4の直鎖状炭化水素基[−CH
2CH
2CH
2CH
2−]、炭素数4の分岐鎖状炭化水素基[−CH
2CH(CH
3)CH
2−]、炭素数6の分岐鎖状炭化水素基[−CH
2CH
2CH(CH
3)CH
2CH
2−]、炭素数6の環状炭化水素基[−C
6H
10−;シクロヘキシル基]等が例示できる。
式(3)で示される前記ビニルエーテル基を持つ化合物中の−R−で示される炭化水素基において、一つの化合物分子中に互いに異なる構造の−R−の炭化水素基を有してもよい。
【0044】
前記ビニルエーテル基を持つ化合物の重量平均分子量が300〜50,000の範囲であれば、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物は、分子量が大きいため実用に供する強度を有し、かつ揮発性が小さく臭気が抑えられるため好ましい。
【0045】
前記ビニルエーテル基を持つ化合物の構造式において、式(1)中の主鎖中の繰り返し構造単位の数を示すk、lは、それぞれ独立に1〜200が好ましく、製造の容易さの観点より1〜50がより好ましい。
また、式(2)中の繰り返し構造単位の数を示すmは、1〜700が好ましく、製造の容易さの観点より1〜100がより好ましい。
さらに、式(3)中の繰り返し構造単位の数を示すnは、1〜700が好ましく、製造の容易さの観点より1〜100がより好ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、式(1)、式(2)および式(3)で示される化合物を二種以上含んでもよい。本発明の樹脂組成物は、たとえば、式(1)で示されるビニルエーテル基を持つ化合物と式(3)で示されるビニルエーテル基を持つ化合物とを両方含んでもよい。また、このような樹脂組成物であれば、式(1)で示される化合物が示すより優れた柔軟性と、式(3)で示される化合物が示す耐久性とをいずれも示すため好ましい。
【0047】
なお式(1)および式(2)で示されるビニルエーテル基を持つ化合物は、それぞれ日本カーバイド工業株式会社製 商品名 クロスマーU001およびU002として入手することができる。
【0048】
本発明の樹脂組成物は、チオール化合物を含む。
本発明に用いることができる前記チオール化合物は、その分子中にチオール基を一つ以上もついわゆる一官能以上の化合物であり、たとえば、
メチルチオール、エチルチオール、1−プロピルチオール、イソプロピルチオール、1−ブチルチオール、イソブチルチオール、tert−ブチルチオール、1−ペンチルチオール、イソペンチルチオール、3−ペンチルチオール、1−ヘキシルチオール、シクロヘキシルチオール、4−メチル−2−ペンチルチオール、1−ヘプチルチオール、1−オクチルチオール、イソオクチルチオール、2−エチルヘキシルチオール、1−ノニルチオール、イソノニルチオール、1−デシルチオール、1−ドデシルチオール、1−ミリスチルチオール、セチルチオール、1−ステアリルチオール、イソステアリルチオール、2−オクチルデシルチオール、2−オクチルドデシルチオール、2−ヘキシルデシルチオール、ベヘニルチオール、β-メルカプトプロピオン酸、メチル-3-メルカプトプロピオネート、2-エチルヘキシル-3-メルカプトプロピオネート、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート、ステアリル-3-メルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)
等を例示することができる。
なお、樹脂組成物の保存安定性および光硬化組成物の臭気の観点から、本発明に特に好適に用いることができるチオール化合物は、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオントリメチロールプロパンが挙げられる。
本発明の樹脂組成物において、これらのチオール化合物は、二種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明に好適に用いることができるチオール化合物は、チオール化合物1分子中に1個以上のチオール基を有する。前記チオール化合物は、1分子中に1個〜4個のチオール基を有することが好ましい。前記チオール化合物が、1分子中に1個以上のチオール基を有するため、本発明の樹脂組成物が含む前記チオール化合物と前記ビニルエーテル基を持つ化合物とがエンチオール反応することで、光硬化組成物が得られる。前記チオール化合物は、分子中にチオール基を有しているため、通常のカチオン重合性組成物よりも光硬化組成物の分子運動性が高くなる。そのため、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物のヤング率は低くなり、したがって優れた伸び特性と柔軟性とを有する。本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物は、優れた伸び特性と、柔軟性とを同時に有する。
また、前記チオール化合物が、チオール化合物1分子中に4個以下のチオール基を有する場合、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物の架橋間の分子量が大きくなり、架橋密度が小さくなる。そのため、前記光硬化組成物のヤング率は0.2MPa以下となり、優れた伸び特性と柔軟性と耐衝撃性とを共に示す。したがって本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物が従来の樹脂組成物より優れた伸びと柔軟性と耐衝撃性とを有することにより、光硬化後に得られる光硬化組成物は、成型や曲げ加工をおこなうことが可能である。さらに前記樹脂組成物から得られる光硬化組成物は、ヤング率が小さいため、衝撃に対する吸収剤としても利用することができる。
【0050】
本発明に好適に用いることができるチオール化合物において、1分子中に4個以下のチオール基を有する化合物は、たとえばトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)等が挙げられる。
【0051】
また本発明の樹脂組成物は、チオール化合物を含むため、チオール化合物の硫黄原子の分極効果により、たとえば金属やガラス等の基材密着性が優れる。
【0052】
本発明に好適に用いることができる前記チオール化合物のチオール基当量は、前記ビニルエーテル基を持つ化合物のビニルエーテル基1当量に対し、0.4〜1.2であれば、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物がより優れた柔軟性を示しかつ臭気が低減できるため好ましい。
前記式(1)、式(2)または式(3)で示されるビニルエーテル基を持つ化合物は、いずれも1分子あたり2個のビニルエーテル基を有する。
たとえば、式(1)で示されるビニルエーテル基を持つ化合物と、1分子中に4個のチオール基を有するチオール化合物であるペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)とを等モル含む樹脂組成物のチオール基当量は2である。
【0053】
本発明の樹脂組成物は、光ラジカル発生剤を含む。
本発明の樹脂組成物が光ラジカル発生剤を含むため、樹脂組成物に波長200nm〜500nmの光を照射することでラジカルを発生し、ラジカル種がチオールから水素原子を引き抜いてチイルラジカルが生成し、そのチイルラジカルが二重結合へ付加するため硬化が進行する。
【0054】
本発明の樹脂組成物で、光ラジカル発生剤の含有量は、前記ビニルエーテル基を持つ化合物100質量部あたり0.05質量部〜5質量部の範囲が好ましく、さらに0.1質量部〜3質量部の範囲がより好ましい。本発明の樹脂組成物中の光ラジカル発生剤の含有量が0.05質量部以上であると、光硬化が十分にすすみ、硬化の不良が起きないため好ましい。また、前記光ラジカル発生剤の含有量が5質量部以下であると、重合が制御され、架橋密度が高くならず、より優れた柔軟性を保つことができるため好ましい。さらに光ラジカル発生剤の量が5質量部以下であると、光ラジカル発生剤が光を吸収することによる樹脂組成物の硬化の不良が抑制できるため好ましい。
なお、光ラジカル発生剤が含まれていない場合でも、光及び熱の条件によりチオール化合物からチイルラジカルを発生するが、樹脂組成物を硬化させる能力がきわめて低く、光硬化組成物は実質的に得られない。
【0055】
本発明に好適に用いることができる光ラジカル発生剤は、たとえば
ベンゾイン誘導体類、ベンジルケタール類、α―ヒドロキシアセトフェノン類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキサイド類等が挙げられる。具体的には1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュアー184;BASFジャパン社製)、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー(ONE;ランバルティ社製)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(イルガキュアー2959;BASFジャパン社製)、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(イルガキュアー127;BASFジャパン社製)、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(イルガキュアー651;BASFジャパン社製)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(ダロキュア1173;BASFジャパン社製)、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン(イルガキュアー907;BASFジャパン社製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0056】
本発明の樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲で、前記ビニルエーテル基を持つ化合物以外のビニルモノマーをさらに含んでもよい。このようなビニルモノマーとしては、ビニルエーテル系、アクリル系、アクリルアミド系が挙げられる。
ビニルエーテル系のモノマーは、たとえばジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルが挙げられる。
アクリル系のモノマーは、たとえばエトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングルコールアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジエチレングルコールジアクリレート、トリエチエレングルコールジアクリレート、トリプロピレングルコールジアクリレートが挙げられる。アクリルアミド系のモノマーとしてはアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド及びアクリロイルモルフォリンが挙げられる。
なおこれらのビニルモノマーは、二種以上を併用してもよい。
【0057】
本発明の樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲で、重合禁止剤を含んでも良い。本発明の樹脂組成物が含むことができる重合禁止剤はたとえば
メチルヒドロキノン、t-ブチルヒドロキノン、4-メトキシナフトール、1,4-ベンゾキノン、メトキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、N-ニトロソフェニルヒドロシキルアミンアルミニウム塩、1,4-ナフトキノン、4−ヒドロキシTEMPO等が挙げられる。
【0058】
本発明の樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲で、各種樹脂、レベリング剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、増感剤、着色剤等を含むことができる。
【0059】
本発明の樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲で、樹脂組成物の粘度を調整するための希釈剤を含むことができる。このような希釈剤は、通常光硬化性樹脂の粘度調整に用いられる各種の有機溶剤に加え、ビニルモノマーを用いることができる。希釈剤として特に好ましく用いることができるビニルモノマーは、各種のビニルエーテルモノマーである。
希釈剤は、具体的には、有機溶剤としては、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン等が挙げられる。また、ビニルモノマーとしては、エトキシジエチレングリコールジアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、アクリロイルモルフォリン、ジエチレングリコールジアクリレートビニルーテルモノマー、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。
【0060】
本発明の別の態様は光硬化組成物である。
本発明の光硬化組成物は、本発明の樹脂組成物にたとえば波長200nm〜500nmの範囲を含む光を照射することで得ることができる。
【0061】
本発明の光硬化組成物は、YI値が3以下であり、着色がほとんどない。YI値は、大きいほど光硬化組成物の黄色味が強いことを示す。したがって、YI値の大きい組成物は、顔料等の着色剤を入れても着色性が悪い。ここでYI値は、光硬化組成物の色相 X、YおよびZ値から、下記式を用いて算出できる。
YI値=[100(1.28X−1.06Z)]/Y
通常、光照射により硬化させて得られるカチオン重合系ビニルエーテル組成物は、組成物中に光酸発生剤を含むため、硬化反応時に残存する光酸発生剤由来の酸と熱とによりアルコール脱離が起こり、ポリエンが生成するため、得られる硬化物が茶褐色に着色するという欠点がある。本発明の光硬化組成物は、ビニルエーテルとチオールとのラジカル付加反応であり、この反応は酸を含まずに進行するため、光硬化組成物内にポリエンの生成が起こらず、無色透明である。したがって、本発明の光硬化組成物は、たとえば各種光学用途製品に用いることができる。
【0062】
本発明の樹脂組成物は、透光性が高く、高い反応性を示すため、たとえば1000μm厚以上で塗布した後に光を照射しても硬化する。従来知られている光硬化組成物は、組成物中の未反応の光重合開始剤が光を吸収するため、たとえば1000μm以上の厚さに組成物を塗布した場合、塗布した膜の深部まで硬化することが困難であった。
また、従来のエンチオール反応による光硬化組成物は、アクリル化合物が広く用いられている。本発明の樹脂組成物は、アクリル化合物と比較して高い反応性を示すビニルエーテル化合物を含む。反応性が比較的小さいアクリル化合物のエンチオール反応は、進行が遅いため、厚膜で塗布した後に光硬化させても反応が進行しにくく、したがって実質的に1000μm厚以上の厚さに塗布することは困難であった。本発明の樹脂組成物を用いると、特定の構造をもつビニルエーテル基を持つ化合物を含むため、透光性が高く、高い反応性を示し、したがって用いる光ラジカル発生剤が微量でも反応が進行し光硬化組成物を得ることができる。さらに、本発明の光硬化組成物は、従来知られている光硬化組成物では得られなかった、厚膜のコーティング、厚膜の粘接着剤等に利用することができる。
【0063】
本発明の樹脂組成物は、極性の高いエーテル基およびチオール基を含むため、各種着色剤と相溶性がよい。したがって、本発明の光硬化組成物は優れた着色性を示す。
【0064】
本発明の光硬化組成物は、100℃以上の熱が加わっても変色が小さく、耐変色性が優れる。したがって、本発明の光硬化組成物は、各種コーティング用途およびインキ用途に好適に用いることができる。本発明者は、本発明の光硬化組成物がビニルエーテルとチオールとのラジカル付加反応で得られることで、カチオン開始剤由来の酸を含まず、着色の要因であるポリエンが生成しないことから、優れた耐変色性を示すと考えている。
なお、光硬化組成物の耐変色性(耐黄変性)は、光硬化組成物の加熱前後のYI値の差で評価することができる。光硬化組成物のYI値の差が小さければ、耐変色性が優れることを示す。
【0065】
本発明の別の態様は、光硬化組成物を含む粘接着剤である。
本発明の粘接着剤の形態は、本発明の樹脂組成物を被着体上に塗布後、被着物を積層し、光照射して硬化させて使用するものと、本発明の樹脂組成物を被着体上に塗布後、光を照射した後、被着物を積層させて硬化させるものとがある。
本発明の粘接着剤は、極性の高いエーテル基とチオール基とを有するため、たとえば金属やガラス等の基材密着性(粘接着性)が優れる。
【0066】
本発明の別の態様は、光硬化組成物を含むコーティング膜である。
本発明のコーティング膜は、たとえば本発明の樹脂組成物をコーティング対象物に塗布後、光照射することで得ることができる。
本発明のコーティング膜は、優れた伸び特性と柔軟性とを示す。
本発明のコーティング膜は、極性の高いエーテル基とチオール基とを有するため、たとえば金属やガラス等のコーティング対象物との密着性が優れる。
【0067】
本発明のコーティング膜の厚さの範囲は、1〜3000μmが好ましい。本発明のコーティング膜は、厚さが1μm以上であれば、強度が大きくなるため好ましい。また厚さが3000μm以下であれば、より優れた伸び特性と柔軟性とを十分に示す。
前述したとおり、本発明の樹脂組成物は、反応性が優れるため、たとえば1000μm以上の厚さの、厚膜のコーティング膜を容易に得ることができる。
【0068】
本発明の別の態様は、光硬化組成物を含む3Dプリンタ用組成物である。
本発明の樹脂組成物は、通常液状であり、光を照射することで硬化し、固体(光硬化組成物)となる。
3Dプリンタは、たとえば3DCADおよび3DCGデータなどの3次元データを元に、所望の形状に立体物(3次元のオブジェクト)を造形できる装置である。本発明の3Dプリンタ用組成物は、たとえば以下に示す積層造形法に用いることができる。所望の形状の立体物の積層造形において、3Dプリンタを用いて前記3Dプリンタ用組成物を吐出した後、吐出後の前記3Dプリンタ用組成物の液面に光を照射して、所望のパターンの断面を有する硬化物を形成し、次いで、この硬化物の上に前記3Dプリンタ用組成物を1層分供給し、光を照射して、硬化物をさらに形成し、以後、この操作を繰り返すことによって、複数の硬化物が積層し一体化する。このように積層造形することにより、所望の形状の立体物を得ることができる。
【0069】
本発明の光硬化組成物は、ビニルエーテル樹脂組成物が含むチオール化合物のチオール基の官能基数を制御することで、光硬化組成物の硬度の制御が容易である。さらに本発明の光硬化組成物は、ヤング率が0.2MPa以下と優れた柔軟性を示す。さらに本発明の光硬化組成物は、エンチオール硬化反応で得られるため、従来のビニルエーテルのカチオン硬化反応で懸念となる湿度による硬化反応の阻害や、ラジカル硬化反応で懸念となる酸素による硬化反応の阻害も少ない。そのため、本発明の光硬化組成物は、3Dプリンタ用組成物に好適に用いる事ができる。
【0070】
本発明の3Dプリンタ用組成物を用いて造形できる立体物(光硬化組成物)は、従来の光硬化組成物では作製が困難であるヤング率が0.2MPa以下という特段に優れた性質を示し、優れた伸び特性と柔軟性とを有する。さらに、耐変色性が優れ、また無色透明であるため、本発明の3Dプリンタ用組成物は、たとえばレンズ等の各種光学用途の立体物の造形に用いることができる。
【0071】
本発明の光硬化組成物は、優れた柔軟性、変形回復性、屈曲性、耐衝撃性、光学特性を有するため、上記に記載した用途以外にも、たとえば電子材料等にも用いることができる
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
【0073】
[製造例:式(3)で示されるビニルエーテル基を有する化合物の製造方法]
温度計、攪拌機および還流冷却管を備えた反応容器内に、プラクセルCD205PL(ダイセル化学工業株式会社製:ポリカーボネートジオール)100質量部、イソホロンジイソシアネート92質量部、ジブチルスズジラウレート0.03質量部を入れ、攪拌下で前記反応容器の内容物温度を60℃に昇温させ2時間反応させた。その後、ジブチルスズジラウレート0.21質量部、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)46質量部を投入し、さらに2時間反応させた。反応終了は赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm
−1のピークが消失したことにより確認した。以上により、透明液体である式(3)で示されるビニルエーテル基を有する化合物238質量部を得た。
【0074】
【化11】
[製造例3で製造した式(3)で示す化合物で、−X
5−、−X
6−は、−C
4H
8−である。式(3)中、−Z−は、式(5)で示すイソホロン由来の置換基を表す。また、式(3)中、nは正の整数を表す。式(3)中、−R−は、炭素数6の分岐鎖状炭化水素基[−CH
2CH
2CH(CH
3)CH
2CH
2−]および炭素数6の環状炭化水素基[−C
6H
10−;シクロヘキシル基]のいずれかの炭化水素基を表す。]
【0075】
【化12】
【0076】
(実施例1)
ビニルエーテル基を有する化合物(日本カーバイド工業株式会社製 商品名 クロスマーU001:式(1)で示す化合物の構造式で、−X
1−、−X
2−は、−C
4H
8−である)と、光ラジカル発生剤(BASFジャパン株式会社製 商品名 イルガキュア184)を表1に示す割合で褐色サンプル瓶に量りとり、60℃、20分間加熱した後に5分間スパチュラで撹拌した。その後、ビニルエーテル基を有する化合物と光ラジカル発生剤とを配合した褐色サンプル瓶に、チオール化合物であるペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(昭和電工株式会社製 商品名 カレンズMTPE、1分子中にチオール基を4個含む)を量りとり、60℃、20分間加熱した後に5分間スパチュラで撹拌混合することで、本発明の樹脂組成物を得た。
【0077】
(実施例2〜10)
表1に示した組成にした以外は、実施例1と同様の手順で本発明の樹脂組成物を得た。
なお、表1中の式(2)で示すビニルエーテル基を有する化合物は、日本カーバイド工業株式会社製 商品名 クロスマーU002である。この化合物の式(2)で示す化合物の構造式中の−X
1−、−X
2−は、−C
4H
8−である。
表1中のチオール化合物において、「カレンズMTNR」は、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンであり、これは、1分子中にチオール基を3個含む。また、「カレンズMTBD」は、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタンであり、これは1分子中にチオール基を2個含む。
【0078】
(実施例11)
表1に示した組成にした以外は、実施例1と同様の手順で本発明の樹脂組成物を得た。実施例11の樹脂組成物は、実施例1と同様の手順で組成物を調製した後、次いで顔料であるシアン:ピグメントブルー 15:4[クラリアント社製、製品名 Hostaperm Blue BT-617-D]を量りとり、60℃、20分間加熱した後に5分間スパチュラで撹拌混合することで得た。
【0079】
(比較例1〜5)
表1に示した組成にした以外は、実施例1と同様の手順で組成物を得た。
比較例1および比較例2は、いずれもカチオン重合により得られる組成物である。
比較例1および比較例2の組成物が含むカチオン開始剤は、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(サンアプロ社製 商品名 CPI−210S)である。
さらに、表1中の比較例2の組成物が含むビニルエーテル基を有する化合物(A)は、国際公開第2011/021363号パンフレットに記載の実施例2に用いられたウレタンビニルエーテルオリゴマーである。このウレタンビニルエーテルオリゴマーは、2官能で数平均分子量400のポリプロピレングリコールとイソホロンジイソシアネートとジブチル錫ジラウレートとを反応させてウレタンプレポリマーを合成し、次いでこのウレタンプレポリマーとヒドロキシブチルビニルエーテルとを反応させて得ることができる。
【0080】
(比較例6)
表1に示した組成にした以外は、実施例1と同様の手順で組成物を得た。比較例6の組成物は、実施例1と同様の手順で組成物を調製し、次いで顔料であるシアン:ピグメントブルー 15:4[クラリアント社製、製品名 Hostaperm Blue BT-617-D]を量りとり、60℃、20分間加熱した後に5分間スパチュラで撹拌混合することで得た。
【0081】
(強度、最大伸度およびヤング率の測定)
各実施例および各比較例の樹脂組成物を、テフロン(登録商標)型(幅4mm、長さ30mm、厚さ2mm)に流し込み、照射強度160Wの高圧水銀ランプを用いて、照射量500mJ/cm
2の条件で硬化させた後、テフロン(登録商標)型から取り出し、幅4mm、長さ30mm、厚さ2mmの棒状の試験片(光硬化組成物)を用意した。
各実施例および各比較例の試験片のヤング率は、JIS K7161に記載の方法に基づき、チャック間のつかみ間隔を20mmとし、引張速度10mm/minの条件にて伸度(%)とヤング率(MPa)とを測定した。各試験の測定値は、試験片を3個用いてそれぞれ測定を行い、その平均とした。
なお、伸度(%)は、数値が大きいほど伸び特性が優れていることを表し、またヤング率(MPa)は、数値が小さいほど柔軟性が優れていることを表す。
【0082】
各実施例および各比較例の試験片の伸張性は、最大伸度(%)の大きさにより以下の基準で判定した。
5:1000以上
4:500〜1000
3:100〜500
2:50〜100
1:50未満
【0083】
各実施例および各比較例の試験片の柔軟性は、ヤング率(MPa)の大きさにより以下の基準で判定した。
5:0.05以下
4:0.05〜0.1
3:0.1〜0.2
2:0.2〜1.0
1:1.0より大きい
【0084】
(耐変色性)
各実施例および各比較例の試験片の耐変色性は、以下のように評価した。
耐変色性の試験片は、各実施例および各比較例の樹脂組成物をガラス基材に厚さ30μmとなるように塗布後、照射量が500mJ/cm
2となるように光を照射して作製した。
耐変色性は、ASTM E313に記載の方法に基づき、各実施例および各比較例の試験片を100℃で20分間加熱し、加熱前後のYI値をそれぞれ測定し、その差を比較することで求めた。YI値の差は、数値が小さいほど色の変化が小さく、耐変色性に優れていることを表す。なお、YI値は、日本電色工業株式会社製色差計SE6000を用いて求めた。
【0085】
各実施例および各比較例の試験片の耐変色性は、以下の基準で判定した。
5:0.5未満
4:0.5〜3.0
3:3.0〜10
2:10〜30
1:30より大きい
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示したとおり、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物は、いずれも最大伸度が100%以上かつヤング率が0.2MPa以下である。したがって本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物は、いずれも優れた伸び特性と柔軟性とを有することが確認できた。
一方、主鎖中の繰り返し構造中に炭素数が3個以下のエーテル骨格を有するビニルエーテル化合物を含む比較例3〜5の光硬化組成物は、いずれも伸度が100%以上であるものの、ヤング率が0.2MPaを超える値であり、柔軟性が劣ることが確認できた。本発明者は、従来の組成物は、ビニルエーテル基を持つ化合物の構造中に炭素数が3個以下のプロピレン骨格を含むことから、硬化組成物のヤング率が高くなるため柔軟性が劣ると考えている。
さらに、エンチオール反応で得られた樹脂組成物ではない比較例1および比較例2の硬化組成物は、ヤング率が0.2MPaを大きく超える。本発明者は、従来のビニルエーテル硬化組成物がチオール骨格を含んでおらず、硬化組成物の分子の動きがエンチオール硬化系よりも制限されるためにヤング率が高くなるためと考えている。
【0088】
表1に示したとおり、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物は、加熱前後のYI値の差がいずれも0.5以下である。したがって本発明の光硬化組成物は、優れた耐変色性を示す。
また、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物は、目視で確認したところ、いずれも無色透明であった。
一方、主鎖中の繰り返し構造に炭素数が3個以下のエーテル骨格を有するビニルエーテル系化合物を含む比較例1および比較例2の光硬化組成物のYI値は、いずれも大きな値を示した。いずれの光硬化組成物も、硬化後に茶褐色に着色していることが目視で確認できた。
さらに、エンチオール反応で得られた組成物ではない比較例1および比較例2の光硬化組成物のYI値の差は、30以上であり、耐変色性が著しく悪いことを確認した。本発明者は、比較例1および比較例2の硬化組成物のYI値の差が大きい理由は、カチオン重合系ビニルエーテル組成物から得られたもので、これらはいずれも硬化時の光酸発生剤由来の残存酸と熱によるアルコール脱離に伴いポリエンが生成し着色したためと考えている。
【0089】
なお、実施例11の樹脂組成物に光を照射したところ、硬化性を示すとともに、光硬化組成物が顔料により良好に着色することを確認した。
一方、エンチオール反応による組成物ではない比較例6の組成物に光を照射したところ、硬化するが茶褐色となり、したがって着色性が劣ることを確認した。本発明者は、比較例6の光硬化組成物がカチオン重合系ビニルエーテル組成物であり、硬化時に光酸発生剤由来の残存酸と熱によりアルコール脱離が起こり、ポリエンが生成することで着色するため、着色性が劣ると考えている。
【0090】
さらに、表1に示したとおり、実施例1〜11の樹脂組成物から得られた光硬化組成物は、樹脂組成物が含むチオール化合物が1分子中に1個〜4個のチオール基を有するため、エンチオール反応が十分すすみ、かつ架橋密度が小さくなり、より優れた伸び特性と柔軟性とを共に示す。
【0091】
以上のとおり、本発明の樹脂組成物から得られる光硬化組成物が、優れた伸び特性と柔軟性とを共に示すことがわかった。