特許第6289053号(P6289053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289053
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ソフォロリピッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/44 20060101AFI20180226BHJP
   C12R 1/72 20060101ALN20180226BHJP
【FI】
   C12P19/44
   C12P19/44
   C12R1:72
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-241740(P2013-241740)
(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公開番号】特開2015-100290(P2015-100290A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】四方 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−045195(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/050413(WO,A1)
【文献】 特開昭56−092786(JP,A)
【文献】 特開平08−325287(JP,A)
【文献】 特開2009−225727(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/146920(WO,A1)
【文献】 特開2011−188798(JP,A)
【文献】 特開2004−254595(JP,A)
【文献】 特開2009−296908(JP,A)
【文献】 特開昭53−052690(JP,A)
【文献】 特開2013−188141(JP,A)
【文献】 Biotechnology and Bioengineering (2002) Vol.77,pp.489-494
【文献】 Appl. Microbiol. Biotechnol. (2007) Vol.76, pp.23-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソフォロリピッドを生産する能力を有するカンジダ属に属する微生物を好気的条件下、炭素源として糖及び油脂類を含有する培養液中で培養し、ソフォロリピッドを得る工程を含むソフォロリピッドの製造方法であって、
前記培養液中のソフォロリピッドを生産する能力を有するカンジダ属に属する微生物の濃度が波長660nmにおける吸光度として100〜300であり、培養液に供給される酸素の供給速度が0.1〜0.5mol/L/hrであり、且つ培養液中の30℃における溶存酸素濃度が0.5〜10ppmである、製造方法。
【請求項2】
培養液に酸素濃度が21%超90%以下の空気を通気させる請求項1記載のソフォロリピッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフォロリピッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母等の微生物が生産する両親媒性物質はバイオサーファクタント(生物界面活性剤)と呼ばれ、環境適合性と機能性を兼ね備えた材料として、食品、化粧品、ライフサイエンス、環境・エネルギー分野等での応用が研究されている。
なかでもソフォロリピッドは、比較的安価な基質から得られるため、現在産業利用されている代表的なバイオサーファクタントの一つである。
【0003】
ソフォロリピッドの製造方法として、例えば、カンジダ属酵母を植物油と遊離脂肪酸を混合した液体培地で培養し、ソフォロリピッドを発酵生産する方法(特許文献1)、カンジダ属酵母を植物油、脂肪酸等の代わりに6〜30個の炭素原子の鎖長をもつ2−アルカノールを含有する培地で培養し、非環状のソフォロリピッドを製造する方法(特許文献2)が知られている。また、ジアセチルラクトン型のソフォロリピッドを得るために、培養液への酸素供給量を制限して微生物を培養する方法(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−45195号公報
【特許文献2】特開平8−325287号公報
【特許文献3】国際公開第2010/050413号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術の方法では、基質である炭素源(糖、油脂、脂肪酸誘導体等)からソフォロリピッドへの変換速度(発酵速度)が遅く、工業生産に適した生産性の向上が大きな課題と考えられた。
したがって、本発明は、変換速度が速く、効率よく基質からソフォロリピッドを製造することのできる方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが検討した結果、炭素源基質からソフォロリピッドへの変換速度を速めるには、発酵に用いられる微生物の数を増やし、酸素供給量を増加させることが有効と考えられた。しかし、酸素供給量が増え、培養液中の溶存酸素濃度が高まるとかえって微生物のソフォロリピッドの生産性に影響を及ぼすことが懸念された。そこで更に鋭意検討したところ、一定数の微生物に対し供給される酸素の供給速度を特定の範囲に制御することで、培養液中の溶存酸素濃度を制御することにより、変換速度が速まり、極めて効率よく基質からソフォロリピッドを製造できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、ソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物を好気的条件下、炭素源を含有する培養液中で培養し、ソフォロリピッドを得る工程を含むソフォロリピッドの製造方法であって、
前記培養液中のソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物の濃度が波長660nmにおける吸光度として100〜300であり、且つ培養液に供給される酸素の供給速度が0.1〜0.5mol/L/hrである、製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基質からソフォロリピッドへの変換速度を高めることができるので、ソフォロリピッドを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のソフォロリピッドの製造方法は、ソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物を好気的条件下、炭素源を含有する培養液中で培養し、ソフォロリピッドを得る工程を含むものであり、前記培養液中のソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物の濃度が波長660nmにおける吸光度として100〜300であり、且つ培養液に供給される酸素の供給速度が0.1〜0.5mol/L/hrである。
【0010】
ソフォロリピッドは、ソフォロースとヒドロキシ脂肪酸とからなる糖脂質である。ソフォロースは、グルコースがβ−1,2結合した二糖類であり、ヒドロキシ脂肪酸は、ω位、或いはω−1位にヒドロキシ基を有する脂肪酸である。ヒドロキシ脂肪酸の脂肪酸部分は、特に限定されないが、炭素数6〜30の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましい。また、ソフォロースは、ヒドロキシ基が一部アセチル化したものも含む。
ソフォロリピッドは、ヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型と分子内のソフォロースと結合したラクトン型に大別され、一般的に発酵生産では酸型とラクトン型の混合物として得られることが知られている。
【0011】
本発明で用いられるソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物は、基質からソフォロリピッドを生成し、菌体外に産出する能力を有する微生物であればよく、例えば、カンジダ属(Candida)に属する微生物が挙げられる。
カンジダ属に属する微生物としては、Candida bombicolaCandida bogoriensisCandida magnoliaeCandida gropengiesseriCandida apicola等が挙げられる。なかでも、ソフォロリピッド生産性の点から、Candida bombicolaが好ましい。
【0012】
ソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物は、該微生物が資化し得る炭素源を含むものであれば、従来公知の培地を用いて培養することができる。例えば、YM培地等の市販の液体培地を用いることができる。また、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要な栄養源等を培地の成分として適宜用いることができる。
炭素源としては、例えば、糖(グルコース、アラビノース、キシロース、マンノース、フラクトース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、イノシット、グリセリン、可溶性澱粉、廃糖蜜、転化糖等)、油脂類(大豆油、ナタネ油、サフラワー油、米油、コーン油、パーム油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、ハトムギ油、小麦胚芽油、シソ油、アマニ油、エゴマ油、サチャインチ油、クルミ油、キウイ種子油、サルビア種子油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、ボラージ油、パームオレイン、パームステアリン、やし油、パーム核油、カカオ脂、サル脂、シア脂、藻油等の植物性油脂;魚油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂;又はそれらのエステル交換油、水素添加油もしくは分別油;カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、リンデル酸、ツズ酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、エルカ酸、ソルビン酸、リノール酸、リノエライジン酸、γ−リノレン酸、リノレン酸、アラキドン酸等の脂肪酸又はそのエステル等)が挙げられる。また、酢酸等の資化しうる有機酸、エタノール等のアルコール類等を用いてもよい。
窒素源としては、例えば、アンモニア、無機・有機アンモニウム塩、尿素、コーングルテンミール、大豆粉、酵母エキス、肉エキス、魚肉エキス、ポリペプトン、ペプトン、各種アミノ酸、ソイビーンミール等が挙げられる。
【0013】
培養液中の初発の炭素源の含有量は、微生物の増殖の点から、1〜30%(w/v)、更に5〜20%(w/v)が好ましい。また、窒素源の含有量は1〜10%(w/v)が好ましい。また、培養様式によって、培養液中の濃度が前記範囲となるように培養期間中に連続的又は断続的に添加してもよい。
【0014】
培養方法は、好気的条件下であればよく、通気攪拌培養、振盪培養等の一般的な方法を適用することができる。
培養温度は、使用する微生物の増殖に悪影響を与えない範囲であれば特に制限されないが、通常、20〜33℃が好ましく、28〜30℃がより好ましい。このとき培養液の初発pH(30℃)は2〜7が好ましく、3〜6がより好ましい。
【0015】
培養液のpHを調整する緩衝剤としては、例えば、炭酸、酢酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸等の有機酸塩、リン酸、塩酸、硫酸等の無機塩、水酸化ナトリウム等の水酸化物、アンモニア又はアンモニア水等が挙げられ、これらを単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
ソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物を用いてソフォロリピッドを生産する場合、一般的には、先ず前培養を行って菌体を活性化させ、次いで、これを本培養の培養液に接種して培養を行い、ソフォロリピッドを生産することが好ましい。前培養及び本培養の期間は、適宜設定できるがそれぞれ10〜100時間が好ましく、20〜60時間がより好ましい。
本発明においては、ソフォロリピッドを生産する際、培養液中のソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物の濃度は、波長660nmにおける吸光度として100〜300である。該濃度(OD660)は、ソフォロリピッドの生産性、液物性の点から、120以上が好ましく、また、200以下、更に160以下が好ましい。また、該濃度(OD660)は、100〜200がより好ましく、さらに好ましくは120〜160である。
【0017】
また、ソフォロリピッドを生産する際、培養液に供給される酸素の供給速度は0.1〜0.5mol/L/hrである。
酸素供給速度は、培養系において空気中の酸素が液相の微生物に移動する速度として次式で示される。
【0018】
【数1】
【0019】
dC/dt:酸素供給速度(mol/L/hr)
*:培養液中の飽和溶存酸素濃度(mol/L)
C:培養液中の溶存酸素濃度(mol/L)
kLa:酸素物質移動容量係数(hr-1
酸素供給速度の算出方法の詳細は実施例に記載した。
斯かる酸素供給速度は、ソフォロリピッドの生産性の点から、0.1mol/L/hr以上であるが、更に0.15mol/L/hr以上であるのが好ましく、また、ソフォロリピッドの変換効率の点から、0.5mol/L/hr以下であり、更に0.3mol/L/hr以下であるのが好ましい。また、酸素供給速度は、0.1〜0.3mol/L/hr、更に0.15〜0.3mol/L/hrであるのが好ましい。
【0020】
酸素供給速度は、通気酸素濃度、通気速度(通気量)、撹拌回転数、圧力等によって調整することができる。
本発明において、通気酸素濃度は、供給される空気中の酸素濃度であり、酸素供給速度の点から、21%(体積比率、以下同じ)より高い濃度とするのが好ましく、更に30%以上、より好ましくは40%以上とするのが好ましい。上限としてはソフォロリピッドの変換効率の点から、90%、より好ましくは85%とするのが好ましい。なお、通気酸素濃度は培養挙動に合わせて変化させることが好ましい。
また、通気速度(通気量)は、泡量の点から0.2〜1vvmが好ましく、撹拌回転数は、撹拌翼径が0.5m以下では200〜1000r/minが好ましく、撹拌翼径が0.5m以上では50〜200r/minが好ましい。圧力は常圧から微加圧の条件が好ましく、加圧条件としては0〜0.1MPaの範囲が好ましい。
【0021】
このような酸素の供給により、培養液中の溶存酸素濃度は制御される。
ソフォロリピッドを生産する際、培養液(30℃)中の溶存酸素濃度は、0.5ppm以上、更に1ppm以上であるのが好ましく、より好ましくは2ppm以上である。また、ソフォロリピッドの変換効率の点から、10ppm以下、更に7ppm以下、より好ましくは3.5ppm以下であるのが好ましい。また、溶存酸素濃度は、0.5〜10ppm、更に1〜7ppmが好ましく、より好ましくは2〜3.5ppmである。
【0022】
このような培養により、培養液中にソフォロリピッドが蓄積するので、培養終了後、適当な分離・精製手段により培養液からソフォロリピッドを採取することができる。
例えば、酢酸エチル等を用いた溶剤抽出後、分別沈殿、液液分配、カラムクロマトグラフ及び高速液体クロマトグラフ等を単独或いは組み合わせて用いることによりソフォロリピッドを取得することができる。
【0023】
本発明によれば、0.004〜0.01mol/L/hr、好ましくは0.005〜0.009、より好ましくは0.006〜0.008の変換速度で基質からソフォロリピッドを製造することができる。なお、変換速度とは、培養液1Lに含まれるソフォロリピッド生産量を発酵1時間あたりの量で示した値である。
ソフォロリピッド生産量の測定方法は実施例に記載した。
【0024】
本発明により得られるソフォロリピッドは、界面活性剤、化粧品基材、各種中間体の原料等としての利用が期待される。
【0025】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の製造方法を開示する。
【0026】
<1>ソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物を好気的条件下、炭素源を含有する培養液中で培養し、ソフォロリピッドを得る工程を含むソフォロリピッドの製造方法であって、
前記培養液中のソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物の濃度が波長660nmにおける吸光度として100〜300であり、且つ培養液に供給される酸素の供給速度が0.1〜0.5mol/L/hrである、製造方法。
【0027】
<2>ソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物が、好ましくはカンジダ属(Candida)に属する微生物であり、より好ましくはCandida bombicolaCandida bogoriensisCandida magnoliaeCandida gropengiesseri、又はCandida apicolaであり、更に好ましくはCandida bombicolaである<1>に記載のソフォロリピッドの製造方法。
<3>炭素源が、好ましくは糖と油脂類、より好ましくはグルコースと脂肪酸又はその塩である<1>又は<2>に記載のソフォロリピッドの製造方法。
<4>培養液中のソフォロリピッドを生産する能力を有する微生物の濃度が波長660nmにおける吸光度として、好ましくは120以上であり、また、好ましくは200以下、より好ましくは160以下であり、また、好ましくは100〜200、より好ましくは120〜160である<1>〜<3>のいずれか1に記載のソフォロリピッドの製造方法。
<5>培養液に供給される酸素の供給速度が、好ましくは0.15mol/L/hr以上であり、また、好ましくは0.3mol/L/hr以下であり、また、好ましくは0.1〜0.3mol/L/hr、より好ましくは0.15〜0.3mol/L/hrである<1>〜<4>のいずれか1に記載のソフォロリピッドの製造方法。
<6>培養液に酸素濃度が好ましくは21%超、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上であり、また、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下であり、また、好ましくは20%超90%以下、より好ましくは30%以上90%以下、更に好ましくは40%以上85%以下である空気を通気させる<1>〜<5>のいずれか1に記載のソフォロリピッドの製造方法。
<7>培養時の通気速度(通気量)が好ましくは0.2〜1vvmであり、撹拌回転数が、撹拌翼径0.5m以下では好ましくは200〜1000r/min、撹拌翼径0.5m以上では好ましくは50〜200r/minであり、加圧条件が好ましくは0〜0.1MPaである<1>〜<6>のいずれか1に記載のソフォロリピッドの製造方法。
<8>培養時の温度が、好ましくは20〜33℃、より好ましくは28〜30℃であり、培養液の初発pH(30℃)が、好ましくは2〜7、より好ましくは3〜6である<1>〜<7>のいずれか1に記載のソフォロリピッドの製造方法。
<9>培養液中の30℃における溶存酸素濃度が、好ましくは0.5ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは2ppm以上であり、また、好ましくは10ppm以下、より好ましくは7ppm以下、更に好ましくは3.5ppm以下であり、また、好ましくは0.5〜10ppm、より好ましくは1〜7ppm、更に好ましくは2〜3.5ppmである<1>〜<8>のいずれか1に記載のソフォロリピッドの製造方法。
<10>ソフォロリピッドを、好ましくは0.004〜0.01mol/L/hr、より好ましくは0.005〜0.009、更に好ましくは0.006〜0.008の変換速度で得る<1>〜<9>のいずれか1に記載のソフォロリピッドの製造方法。
【実施例】
【0028】
以下の実施例及び比較例において、酸素濃度の「%」は空気中の体積比率を示し、それ以外の「%」は「%(w/v))」を意味する。
【0029】
〔菌体濃度の測定〕
培養液を200倍に希釈し1cm角の石英ガラス製セルに注入し、分光光度計UV―1800(島津製作所製)を用いて、660nmの吸光度を測定し、希釈率からOD660を算出した。
【0030】
〔酸素供給速度の算出〕
酸素供給速度は以下の式により算出した。
【0031】
【数1】
【0032】
(式中、C*は培養液中の飽和溶存酸素濃度、Cは培養液中の溶存酸素濃度である。kLaは酸素物質移動容量係数である。)
培養液中の飽和溶存酸素濃度と溶存酸素濃度は溶存酸素濃度センサー(エイブル製)を用いて測定を行った。
酸素物質移動容量係数(kLa)は、ガッシングアウト法により算出した。具体的には、培養液に窒素を通気し溶存酸素濃度を0ppmにした後に、窒素に換えて空気を通気し、その溶存酸素濃度変化からkLaの算出を行った。
【0033】
〔ソフォロリピッドの分析〕
培養液2mLをサンプリングし、ヘキサン1mLで2回洗浄した後、酢酸エチル1mLで2回抽出し回収を行った。その後、溶媒を留去し、酢酸エチル画分の回収を行った。回収した酢酸エチル画分0.01gに対して、内部標準としてドデカンとメタノール1mL、濃塩酸0.03mLを添加し、100℃温浴バスにて2時間メタノール交換を行った。冷却後、飽和食塩水1mL、ヘキサン1.5mLを添加し混合を行い、静置後にヘキサン相を回収した。得られたヘキサン相の溶媒を留去し、シリル化剤TMSI−Hを0.2mL添加し70℃で20分シリル化を行った後、水1.5mL、ヘキサン1.5mLを添加し混合を行い、静置後にヘキサン相を回収し、GC分析に供した。
【0034】
〔GC分析条件〕
カラム:DB−1−HT/14m×250μm×0.1μm
カラム条件:流量0.7ml/分 60℃1分→10℃/分→300℃10分
インジェクション:スプリット50:1/280℃
検出:FID 280℃ H2:30ml/分、Air:400ml/分
【0035】
〔培養方法〕
1.プレート培養
Candida bombicola NBRC10243株を用いた。
グルコース1%、酵母エキス1%、トリプトン1%、寒天1.5%を含む寒天培地のシャーレに種菌を1白金耳植菌し、温度30℃で2日間培養を行った。
【0036】
2.前培養
グルコース1%、酵母エキス1%、トリプトン1%を含む培養液100mLを坂口フラスコに入れ、121℃、20分高温で滅菌を行った。冷却後、プレートから1白金耳、植菌を行い、温度30℃、撹拌回転数120r/minの条件にて2日間撹拌培養を行った。
【0037】
3.本培養
パルミチン酸エチル10%、グルコース10%、酵母エキス8%、尿素1.2%を含む培養液をpH5.0に調整し、1.2Lにメスアップした。培養液を全容2Lのジャーファーメンターにて滅菌後に、前培養液24mL植菌し、温度30℃、撹拌回転数(撹拌翼径0.5m以下)600r/min、通気速度(通気量)0.6L/分(0.5vvm)の条件にて撹拌培養を行った。
【0038】
実施例1
培養開始から24時間後、通気酸素濃度を21〜85%に高め、更に36時間撹拌培養を行った。この時の菌体濃度(OD660nm)は150、培養液中の溶存酸素濃度は3ppm、酸素供給速度は0.172mol/L/hrであった。
培養後、GC分析よりソフォロリピッド変換速度を求めたところ0.0070mol/L/hrであった。
【0039】
実施例2
通気酸素濃度を40%に高めた以外は実施例1と同様に培養を行った。菌体濃度(OD660nm)は154、培養液中の溶存酸素濃度は4ppm、酸素供給速度は0.213mol/L/hrであった。
培養後、GC分析よりソフォロリピッド変換速度を求めたところ0.0070mol/L/hrであった。
【0040】
実施例3
通気酸素濃度を50%に高めた以外は実施例1と同様に培養を行った。菌体濃度(OD660nm)は153、培養液中の溶存酸素濃度は9ppm、酸素供給速度は0.266mol/L/hrであった。
培養後、GC分析よりソフォロリピッド変換速度を求めたところ0.0066mol/L/hrであった。
【0041】
比較例1
本培養の培養液の組成を酵母エキス8%から酵母エキス2%に変更し、全培養期間を通じて通気酸素濃度を21%のままとした以外は実施例1と同様に培養を行った。
培養開始から48時間後の菌体濃度(OD660nm)は30、培養液中の溶存酸素濃度は4ppm、酸素供給速度は0.043mol/L/hrであった。
培養後、GC分析よりソフォロリピッド変換速度を求めたところ0.0016mol/L/hrであった。
【0042】
比較例2
本培養の培養液の組成を酵母エキス8%から酵母エキス4%に変更し、全培養期間を通じて通気酸素濃度を21%のままとした以外は実施例1と同様に培養を行った。
培養開始から48時間後の菌体濃度(OD660nm)は100、培養液中の溶存酸素濃度は0ppm、酸素供給速度は0.043mol/L/hrであった。
培養後、GC分析よりソフォロリピッド変換速度を求めたところ0.0029mol/L/hrであった。
【0043】
比較例3
全培養期間を通じて通気酸素濃度を21%のままとした以外は実施例1と同様に培養を行った。培養開始から48時間後の菌体濃度(OD660nm)は120、培養液中の溶存酸素濃度は0ppm、酸素供給速度は0.043mol/L/hrであった。
培養後、GC分析よりソフォロリピッド変換速度を求めたところ0.0026mol/L/hrであった。
【0044】
比較例4
本培養の撹拌回転数を600r/minから800r/minにした以外は実施例1と同様に培養を行った。
培養開始から24時間後、通気酸素濃度を95%に高め、更に36時間撹拌培養を行った。この時の菌体濃度(OD660nm)は145、培養液中の溶存酸素濃度は25ppm、酸素供給速度は0.597mol/L/hrであった。
培養後、GC分析よりソフォロリピッド変換速度を求めたところ0.0011mol/L/hrであった。
各実施例及び比較例の条件と結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、比較例1では菌数が少なく、比較例2、3では酸素供給速度が小さく溶存酸素濃度が低くなり、比較例4では酸素供給速度が大きく溶存酸素濃度が高くなり、これらの条件ではソフォロリピッドを効率良く得ることができなかった。これに対し、実施例に示す様に、高菌体濃度下、酸素供給速度を特定の範囲に制御し、培養液中の溶存酸素濃度を制御する条件でのみ、基質からソフォロリピッドへの変換速度が速くなり、ソフォロリピッドを効率良く得ることを達成した。